特許異議申立
2024-700052
燃料電池
- 審判番号
- 2024-700052
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-173956
- 登録番号
- 7314231
- 請求日
- 2024年01月24日
- 審決日
- 2024年10月28日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】シーリーズ インテレクチュアル プロパティ カンパニー リミティド
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】鶴田 準一
- 【権利者代理人】南山 知広
- 【権利者代理人】渡辺 陽一
- 【権利者代理人】中村 和広
- 【異議申立人】西内 大生
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 篠原 功一
- 審判官 山本 章裕
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7314231号発明「燃料電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7314231号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-16〕について訂正することを認める。
特許第7314231号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7314231号の請求項1ないし16に係る特許についての出願は、2017年3月8日(優先権主張 2016年3月9日、英国)を国際出願日とする特願2018-547333号の一部を令和3年10月25日に新たな特許出願としたものであって、令和5年7月14日にその特許権が設定登録され、令和5年7月25日に特許掲載公報が発行された。
その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年1月24日 :特許異議申立人西内大生(以下、「申立人」という。)による請求項1ないし16に係る特許に対する特許異議の申立て
令和6年4月25日付け:取消理由通知
令和6年7月29日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和6年9月17日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年7月29日付けの訂正請求の趣旨は、特許第7314231号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-16に訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の記載「前記電解質層は、前記固体酸化物型燃料電池の前記ガスケットと活性領域との間の領域を覆って、」を、「前記電解質層は、前記固体酸化物型燃料電池の前記ガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全てを覆って、」に訂正する。(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2-16も同様に訂正する。)
2 訂正要件についての判断
(1)一群の請求項について
訂正事項1に係る本件訂正前の請求項1ないし16について、請求項2ないし16は請求項1を直接又は間接的に引用しているから、本件訂正前の請求項1ないし16に対応する本件訂正の請求項〔1-16〕は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「ガスケットと活性領域との間の領域を覆」う「電解質層」について、「ガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全てを覆」うと限定するものである。
よって、訂正事項1は、請求項1について、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
明細書の段落【0022】には「第1に、電解質層は、下にある基材を覆うだけでなく、実質的に全てのSOFC表面を覆って、その結果、ガスケットが直接この電解質層の上に、典型的にはSOFCの電気化学的に活性な領域の周囲に配置されるようにすることができると考えられる。あるいはガスケットは、支持金属基材上に直接取り付けられてもよく、電解質層は、SOFCの電気化学的活性領域、ならびにガスケットに近接するが必ずしもガスケットの下ではない領域を覆ってもよい。」と記載され、段落【0055】には「電解質層15は、上記基材の実質的に全てを覆い、約1mmの幅を有するSOFCの周辺部の被覆されていない基材の狭い領域を残す。」と記載されている。
そうすると、願書に添付した明細書には、電解質層が実質的に全てのSOFC表面を覆うこと、SOFCの電気化学的活性領域、ならびにガスケットに近接する領域を覆うこと、基材の実質的な全てを覆うことが記載されているといえ、電解質層がガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全てを覆うことも記載されているものと認められる。
この点に関し、申立人は令和6年9月17日提出の意見書において、「そこで、本件明細書の段落【0055】を見ると、・・・これは電解質層と金属基材全体との関係を記載したものであって、電解質層とガスケットと活性領域の間の領域との関係を記載したものではなく、本件明細書のその他の記載をみても電解質層がガスケットと活性領域の間の領域をどのように覆えば、『実質的に全て』を覆ったことになるのか不明という他ない。よって、本件訂正は願書に添付した明細書、特許請求の範又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない」(第1頁下から5行ないし第2頁第6行)と主張している。
しかしながら、本件請求項1の「前記金属基材に隣接する電解質層」、「前記電解質層の少なくとも一部は、前記ガスケットに近接した領域中の前記金属基材上に配置されている」との記載を考慮すれば、本件請求項1の「電解質層」が覆う「ガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全て」とは「金属基材上の、ガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全て」を意味していると当業者は理解し得るものと認められる。
そして上で検討したように、明細書の段落【0022】、【0055】の記載より、願書に添付した明細書には電解質層がガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全てを覆うことは記載されている。
よって、申立人の意見は採用できない。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)独立特許要件について
訂正事項1は、上記「(2)ア」に示したとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするところ、本件においては、訂正前の請求項1ないし16について特許異議の申立てがされているから、対応する訂正後の請求項1ないし16に係る発明について、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項及び第7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-16〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし16に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明16」という。)は、その訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された次の事項により特定されるものである。なお、下線は、訂正箇所を示す。
「【請求項1】
金属基材と、
前記金属基材に隣接する電解質層と、
少なくとも1つのガスケットとを含む、
金属で支持された固体酸化物型燃料電池であって、
前記ガスケットを通して、流体が、前記金属で支持された固体酸化物型燃料電池に及び/又は前記燃料電池から供給され、
前記電解質層は、前記固体酸化物型燃料電池の前記ガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全てを覆って、前記金属基材の腐食を防止する非多孔質の保護被膜を提供し、
前記電解質層の少なくとも一部は、前記ガスケットに近接した領域中の前記金属基材上に配置されている、燃料電池。
【請求項2】
前記電解質層の少なくとも一部は、前記ガスケットから2mm以下の領域中の前記金属基材上に配置されている、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記電解質層の少なくとも一部は、前記ガスケットから1mm以下の領域中の前記金属基材上に配置されている、請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記電解質層は、前記金属基材の空気側を被覆しており、前記固体酸化物型燃料電池のガスケットと電気化学的活性領域との間の領域を覆っている、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記電解質層が前記固体酸化物型燃料電池の電気化学的活性層と前記金属基材との間に位置するように、前記電解質層は前記固体酸化物型燃料電池の前記金属基材の表面全体上に位置する、請求項4に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記電解質層が、前記固体酸化物型燃料電池の電気化学的活性層のカソードとアノードとの間の電解質層を形成するのに使用されるものと同じ電解質層である、請求項4に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記電解質層が、第一の電解質層と第二の電解質層とを含み、前記第一の電解質層は、前記固体酸化物型燃料電池の電気化学的活性層と前記金属基材との間に位置するように、前記固体酸化物型燃料電池の前記金属基材の表面全体上に位置する電解質層を含み;前記第二の電解質層は、前記固体酸化物型燃料電池の電気化学的活性層のカソードとアノードとの間の電解質層を形成するのに使用されるものと同じ電解質層を含み;そして、前記第二の電解質層は、前記カソードと前記アノードとの間から伸びて前記第一の電解質層を覆う、請求項4に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記電解質層が、2μm超の厚さを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項9】
前記電解質層が、5μm超の厚さを有する、請求項8に記載の燃料電池。
【請求項10】
前記ガスケットは、前記金属基材に直接取り付けられており、前記電解質層は、前記固体酸化物型燃料電池の電気化学的活性領域、及び前記ガスケットに近接した領域を覆う、請求項1に記載の燃料電池。
【請求項11】
前記電解質層が酸化セリウムガドリニウムを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項12】
前記酸化セリウムガドリニウムがコバルトをさらに含む、請求項11に記載の燃料電池。
【請求項13】
前記ガスケットが、第I族元素、第VII族元素、ケイ素、硫黄、又はこれらの組み合わせから選択される少なくとも一つの元素を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の燃料電池。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の燃料電池を2つ以上含む、燃料スタック。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項に記載の燃料電池の製造方法であって、
i)前記金属基材を提供する工程と、
ii)前記基材に前記電解質層を含む保護性の非多孔質被膜を適用する工程と、
iii)前記基材に隣接した前記燃料電池にガスケットを適用する工程とを含み、
前記保護性の非多孔質層は、ガスケットに近接した領域の少なくとも一部に適用される、方法。
【請求項16】
工程ii)における被膜は、前記固体酸化物型燃料電池のカソード層とアノード層との間に主要な電解質層を形成するのと同じ被膜として適用される、請求項15に記載の方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
令和6年4月25日付けの取消理由通知に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。
1)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
●理由1(新規性)について
・請求項1、4、6、10、13-16について引用文献1
請求項1、4、6、8-10、13-16について引用文献2
●理由2(進歩性)について
・請求項2、3、8、9、11、12について引用文献1
請求項2、3、11、12について引用文献2
<引 用 文 献 等 一 覧>
引用文献1:特開2015-207509号公報(甲第1号証)
引用文献2:国際公開第2015/136295号(甲第3号証)(日本語ファミリー:特表2017-508254号公報)
2 当審の判断
(1)取消理由1(新規性)について
ア 引用文献に記載された発明
(ア)引用文献1について
引用文献1の【0030】-【0044】の記載(摘記省略)、および、図3から、電解質22は長手方向(矢印A方向)および長手方向と直交する方向(矢印B方向)においてアノード電極24より大きく形成されることが読み取れること、また、図4から、電解質22は長手方向と直交する方向(矢印B方向)で金属支持体30と直接接して覆う領域を有することが読み取れることに基づけば、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「固体酸化物形燃料電池12は、セリア系材料の酸化物イオン導電体で構成される電解質22を有し、電解質22の一方の面には、アノード電極24が設けられるとともに、電解質22の他方の面には、カソード電極26が設けられ、電解質・電極接合体(MEA)28が構成され、
カソード電極26は、アノード電極24よりも小さな平面寸法に設定され、アノード電極24は、電解質22よりも小さな平面寸法に設定され(【0030】、【0032】)、
電解質・電極接合体28は、金属支持体30に接合され、金属支持体30は、ステンレス鋼材(SUS)の薄板で構成され、発電領域(中央部分)には、多数のアノード流通孔32が形成され(【0033】)、
金属支持体30は、長方形状を有し、その長手方向(矢印A方向)一端縁部には、燃料ガス供給連通孔34aと、燃料ガス供給連通孔34aの外方を周回して、酸化剤ガス(空気)排出連通孔36bが設けられ(【0031】、【0034】)、
金属支持体30の長手方向他端縁部には、燃料ガス排出連通孔34bと、燃料ガス排出連通孔34bの外方を周回して、酸化剤ガス(空気)供給連通孔36aが設けられ(【0031】、【0035】)、
金属支持体30には、電解質・電極接合体28とは反対の面側に、通路部材38が溶接等により固定され、通路部材38は、金属支持体30と略同一形状を有し(【0036】)、
通路部材38の金属支持体30との接合面38aには、燃料ガス通路40が形成され、燃料ガス通路40の入口側と燃料ガス供給連通孔34aとは、入口連結通路42aにより連通し、燃料ガス通路40の出口側と燃料ガス排出連通孔34bとは、出口連結通路42bにより連通し(【0037】)、
金属支持体30の電解質・電極接合体28側には、酸化剤ガス(空気)供給連通孔36aと酸化剤ガス(空気)排出連通孔36bとを連通して酸化剤ガス(空気)通路44が形成され(【0031】、【0038】)、
燃料電池12は、燃料ガス通路40と酸化剤ガス(空気)通路44とが表裏に個別に設けられる発電反応部46と、発電反応部46の外方を周回する枠形状の周縁部48とを備え(【0031】、【0040】)、
燃料ガス供給連通孔34aを囲繞してリング状シール部材56aが配設されるとともに、燃料ガス排出連通孔34bを囲繞してリング状シール部材56bが配設され、リング状シール部材56a、56bは、セラミック板にガラスペーストが塗布された非圧縮性シール部材で構成され(【0043】)、
周縁部48には、この周縁部48と略同一形状を有するシール部材58が配置され、シール部材58は、マイカやサーミキュライトで構成され、シール部材58は、酸化剤ガス供給連通孔36a及び酸化剤ガス排出連通孔36bと酸化剤ガス(空気)通路44とを連通させ(【0031】、【0044】)、
電解質22は長手方向(矢印A方向)および長手方向と直交する方向(矢印B方向)においてアノード電極24より大きく形成され、電解質22は長手方向と直交する方向(矢印B方向)で金属支持体30と直接接して覆う領域を有する(図3、図4)、
固体酸化物形燃料電池12。」
(イ)引用文献2について
引用文献2の第34頁第18-第35頁22行(日本語ファミリー:特表2017-508254号公報の【0150】-【0155】)の記載、および、図12、図13から、引用文献2に記載の燃料電池スタック構成においては、ガスケット440配置方向において電解質130はガスケット440とアノード120との間の金属基板非多孔質領域110Bで金属基板110を直接覆って設けられ、酸化剤流路160はカソード140と金属インターコネクトプレート150との間で画定されることが読み取れることから、引用文献2には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
「中温固体酸化物燃料電池スタック30が備える活性な燃料電池スタック繰り返し層90は、1つの燃料電池91を備え、燃料電池91は、金属基板110上に載置され、金属基板非多孔質領域110Bにより囲まれた金属基板多孔質領域110Aを覆う、アノード120、電解質130およびカソード140を備え(第34頁第21行、第34頁第29-34行、第35頁第4-10行、日本語ファミリーの【0150】、【0152】、【0153】)、
燃料電池スタック繰り返し層90は電気絶縁ガスシールガスケット430、440を備え(第35頁第12-13行、日本語ファミリーの【0154】)、
金属基板110は、電気絶縁ガスケット430、440により隣接する金属インターコネクトプレート150との直接電気的接触が防止され、酸化剤流路160は、金属基板110と金属インターコネクトプレート150との間で画定され、開放マニホールド化された酸化剤導入口170から内部マニホールド化された酸化剤排出口180まで通り(第35頁第15-22行、日本語ファミリーの【0155】)、
ガスケット440配置方向において電解質130はガスケット440とアノード120との間の金属基板非多孔質領域110Bで金属基板110を直接覆って設けられ(図12、図13)、
酸化剤流路160はカソード140と金属インターコネクトプレート150との間で画定される(図12、図13)
活性な燃料電池スタック繰り返し層90。」
イ 対比及び判断
(ア)引用発明1との対比及び判断
a 本件発明1について
本件発明1と引用発明1とを対比する。
(a)引用発明1の「金属支持体30」は、本件発明1の「金属基材」に相当する。
(b)引用発明1は、「電解質22は長手方向と直交する方向(矢印B方向)で金属支持体30と直接接して覆う領域を有する」ものであるから、引用発明1の「電解質22」は、金属支持体30に隣接する部分を有しているといえ、本件発明1の「前記金属基材に隣接する電解質層」に相当する。
(c)引用発明1の「リング状シール部材56a、56b」、「シール部材58」は、本件発明1の「少なくとも1つのガスケット」に相当する。
(d)引用発明1の「固体酸化物形燃料電池12」は、金属支持体30、電解質22、リング状シール部材56a、56b、シール部材58を含むものである。また、引用発明1の「固体酸化物形燃料電池12」は、「電解質・電極接合体28は、金属支持体30に接合され」るものであるから、金属で支持されたものである。
してみると、引用発明1の「固体酸化物形燃料電池12」は、金属支持体30、電解質22、リング状シール部材56a、56b、シール部材58を含む、金属で支持されたものであり、上記(a)ないし(c)の対比を考慮すれば、本件発明1の「金属基材と、前記金属基材に隣接する電解質層と、少なくとも1つのガスケットとを含む、金属で支持された固体酸化物型燃料電池」に相当する。
(e)引用発明1は、「燃料ガス供給連通孔34aを囲繞してリング状シール部材56aが配設されるとともに、燃料ガス排出連通孔34bを囲繞してリング状シール部材56bが配設」されるものであるから、リング状シール部材56aを通して燃料ガスが固体酸化物形燃料電池に供給され、リング状シール部材56bを通して燃料ガスが固体酸化物形燃料電池から供給されるといえ、このことは、本件発明1の「前記ガスケットを通して、流体が、前記金属で支持された固体酸化物型燃料電池に及び/又は前記燃料電池から供給され」ることに相当する。
(f)引用発明1は、「金属支持体30は、長方形状を有し、その長手方向(矢印A方向)一端縁部には、燃料ガス供給連通孔34a」が設けられ、「金属支持体30の長手方向他端縁部には、燃料ガス排出連通孔34b」が設けられ、「燃料ガス供給連通孔34aを囲繞してリング状シール部材56aが配設されるとともに、燃料ガス排出連通孔34bを囲繞してリング状シール部材56bが配設され」るものであるから、引用発明1の金属支持体30は、リング状シール部材56a、56bが配置される領域を有する。
また、引用発明1は、「電解質22の一方の面には、アノード電極24が設けられるとともに、電解質22の他方の面には、カソード電極26が設けられ、電解質・電極接合体(MEA)28が構成され、」「電解質・電極接合体28は、金属支持体30に接合され」るものであるから、引用発明1の金属支持体30は、カソード電極26、電解質22、アノード電極24が積層された領域を有する。
そして、引用発明1は、「電解質22は長手方向(矢印A方向)および長手方向と直交する方向(矢印B方向)においてアノード電極24より大きく形成され、電解質22は長手方向と直交する方向(矢印B方向)で金属支持体30と直接接して覆う領域を有する」ものであるから、引用発明1の「電解質22」は、リング状シール部材56a、56bが配置される長手方向(矢印A方向)においても、「電解質22が金属支持体30と直接接して覆う領域」を有すると認められ、当該「長手方向(矢印A方向)において電解質22が金属支持体30と直接接して覆う領域」に対応する金属支持体30の領域は、金属支持体30の「リング状シール部材56a、56bが配置される領域」と「カソード電極26、電解質22、アノード電極24が積層された領域」との間の領域に含まれることは明らかである。
ここで、本件明細書段落【0013】の記載によれば、本件発明1において「活性領域」とは、「電気化学的に活性な材料(電解質、アノード、及びカソードを含む)で被覆されたSOFCの部分」であるから、引用発明1の金属支持体30の「カソード電極26、電解質22、アノード電極24が積層された領域」が本件発明1の「活性領域」に相当し、引用発明1の「長手方向(矢印A方向)において電解質22が金属支持体30と直接接して覆う領域」に対応する金属支持体30の領域は、本件発明1の「ガスケットと活性領域との間の領域」に含まれる。
以上のことより、引用発明1が「長手方向(矢印A方向)において電解質22が金属支持体30と直接接して覆う領域」を有することは、本件発明1の「前記電解質層は、前記固体酸化物型燃料電池の前記ガスケットと活性領域との間の領域」「を覆って」いることに含まれる。
ただし、電解質層が、本件発明1は「ガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全てを覆って」いるのに対し、引用発明1は当該領域の実質的に全てを覆うとは特定されていない点で相違する。
また、引用発明1の「長手方向(矢印A方向)において電解質22が金属支持体30と直接接して覆う領域」は、電解質22が金属支持体30を被覆することにより金属支持体30の腐食を一定程度防止する効果を奏すると認められるから、当該領域の「電解質22」は金属支持体30の腐食を防止する保護被膜を提供するといえる。
ここで、本件明細書段落【0020】の記載によれば、本件発明1において「非多孔質」とは「反応ガスが電解質層を通って一方の側から他方の側へ浸透して下側の層に達することを防ぐという意味」であるから、引用発明1の「電解質22」も本件発明1でいう「非多孔質」であるといえる。
してみると、引用発明1が「長手方向(矢印A方向)において電解質22が金属支持体30と直接接して覆う領域」を有することは、本件発明1の「前記金属基材の腐食を防止する非多孔質の保護被膜を提供」することに相当する。
(g)上記(f)で検討したように、引用発明1の「長手方向(矢印A方向)において電解質22が金属支持体30と直接接して覆う領域」に対応する金属支持体30の領域は、金属支持体30の「リング状シール部材56a、56bが配置される領域」と「カソード電極26、電解質22、アノード電極24が積層された領域」との間の領域に含まれるから、当該領域の金属支持体30を覆う「電解質22」は、「カソード電極26、電解質22、アノード電極24が積層された領域」より「リング状シール部材56a、56bが配置される領域」に近接した領域の金属支持体30上に配置されているといえ、このことは、本件発明1の「前記電解質層の少なくとも一部は、前記ガスケットに近接した領域中の前記金属基材上に配置されている」ことに相当する。
(h)上記(a)ないし(g)によれば、本件発明1と引用発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「金属基材と、
前記金属基材に隣接する電解質層と、
少なくとも1つのガスケットとを含む、
金属で支持された固体酸化物型燃料電池であって、
前記ガスケットを通して、流体が、前記金属で支持された固体酸化物型燃料電池に及び/又は前記燃料電池から供給され、
前記電解質層は、前記固体酸化物型燃料電池の前記ガスケットと活性領域との間の領域を覆って、前記金属基材の腐食を防止する非多孔質の保護被膜を提供し、
前記電解質層の少なくとも一部は、前記ガスケットに近接した領域中の前記金属基材上に配置されている、燃料電池。」
〈相違点1〉
電解質層が、本件発明1は「ガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全てを覆って」いるのに対し、引用発明1は当該領域の実質的に全てを覆うとは特定されていない点。
(i)相違点1について検討する。
引用文献1には、引用発明1の「リング状シール部材56a、56bが配置される領域」や「シール部材58」が配置される領域(ガスケット)と「カソード電極26、電解質22、アノード電極24が積層された領域」(活性領域)との間の金属支持体30の領域の実質的に全てを電解質22で覆うことは記載も示唆もされておらず、図3、4では連通孔34a、34b、36a、36bが設けられシール部材56a、56b、58が配置される位置を含む金属支持体30の周辺部分は電解質22で覆われていないことを考慮すれば、相違点1が実質的な相違であることは明らかであり、本件発明1は、引用発明1ではない。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
b 本件発明4、6、10、13ないし16について
本件発明4、6、10、13ないし16は、本件発明1を引用し、さらに電解質層の構成を特定、ガスケットの構成を特定したもの、あるいは、本件発明1を引用した燃料スタック、本件発明1を引用した燃料電池の製造方法であるから、本件発明4、6、10、13ないし16はいずれも、少なくとも上記「a(h)」に示した相違点1に係る構成において引用発明1と相違する。
そして、上記「a(i)」で検討したように相違点1が実質的な相違であることは明らかであり、本件発明4、6、10、13ないし16は、引用発明1ではない。
したがって、請求項4、6、10、13ないし16に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
(イ)引用発明2との対比及び判断
a 本件発明1について
本件発明1と引用発明2とを対比する。
(a)引用発明2の「金属基板110」は本件発明1の「金属基材」に相当する。
(b)引用発明2の「電解質130」は、「ガスケット440とアノード120との間の金属基板非多孔質領域110Bで金属基板110を直接覆って設けられ」るから、「電解質130」は、金属基板10に隣接する部分を有しているといえ、本件発明1の「前記金属基材に隣接する電解質層」に相当する。
(c)引用発明2の「電気絶縁ガスシールガスケット430、440」は、本件発明1の「少なくとも1つのガスケット」に相当する。
(d)引用発明2の「中温固体酸化物燃料電池スタック30が備える活性な燃料電池スタック繰り返し層90」は、金属基板110、電解質130、電気絶縁ガスシールガスケット430、440を含むものである。また、引用発明2の「活性な燃料電池スタック繰り返し層90」は、「1つの燃料電池91を備え、燃料電池91は、金属基板110上に載置され」るものであるから、金属で支持されたものである。
してみると、引用発明2の「中温固体酸化物燃料電池スタック30が備える活性な燃料電池スタック繰り返し層90」は、金属基板110、電解質130、電気絶縁ガスシールガスケット430、440を含む、金属で支持されたものであり、上記(a)ないし(c)の対比を考慮すれば、本件発明1の「金属基材と、前記金属基材に隣接する電解質層と、少なくとも1つのガスケットとを含む、金属で支持された固体酸化物型燃料電池」に相当する。
(e)引用発明2は、「金属基板110は、電気絶縁ガスケット430、440により隣接する金属インターコネクトプレート150との直接電気的接触が防止され、酸化剤流路160は、金属基板110と金属インターコネクトプレート150との間で画定され、開放マニホールド化された酸化剤導入口170から内部マニホールド化された酸化剤排出口180まで通」るものであるから、電気絶縁ガスケット430、440を通して酸化剤が活性な燃料電池スタック繰り返し層90に及び/又は燃料電池スタック繰り返し層90から供給されるといえ、このことは、本件発明1の「前記ガスケットを通して、流体が、前記金属で支持された固体酸化物型燃料電池に及び/又は前記燃料電池から供給され」ることに相当する。
(f)引用発明2は、「金属基板非多孔質領域110Bにより囲まれた金属基板多孔質領域110Aを覆う、アノード120、電解質130およびカソード140を備え」、「ガスケット440配置方向において電解質130はガスケット440とアノード120との間の金属基板非多孔質領域110Bで金属基板110を直接覆って設けられ」るものであるから、引用発明2の電解質130は、「ガスケット440」と「アノード120、電解質130およびカソード140で覆われる金属基板多孔質領域110A」との間の金属基板非多孔質領域110Bで金属基板110を覆っているといえる。
ここで、本件明細書段落【0013】の記載によれば、本件発明1において「活性領域」とは、「電気化学的に活性な材料(電解質、アノード、及びカソードを含む)で被覆されたSOFCの部分」であるから、引用発明2の「アノード120、電解質130およびカソード140」で覆われる「金属基板多孔質領域110A」は、本件発明1の「活性領域」に相当する。
以上のことより、引用発明2は、本件発明1と「前記電解質層は、前記固体酸化物型燃料電池の前記ガスケットと活性領域との間の領域」「を覆って」いる点で一致する。
ただし、電解質層が、本件発明1は「ガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全てを覆って」いるのに対し、引用発明2は当該領域の実質的に全てを覆うとは特定されていない点で相違する。
また、引用発明2は、「電解質130はガスケット440とアノード120との間の金属基板非多孔質領域110Bで金属基板110を直接覆って設けられ」るものであり、電解質130が金属基板110を被覆することにより金属基板110の腐食を一定程度防止する効果を奏すると認められるから、「電解質130」は、金属基板110の腐食を防止する保護被膜を提供するといえる。
ここで、本件明細書段落【0020】の記載によれば、本件発明1において「非多孔質」とは、「反応ガスが電解質層を通って一方の側から他方の側へ浸透して下側の層に達することを防ぐという意味」であるから、引用発明2の「電解質130」も本件発明1でいう「非多孔質」であるといえる。
してみると、引用発明2の「電解質130はガスケット440とアノード120との間の金属基板非多孔質領域110Bで金属基板110を直接覆って設けられ」ることは、本件発明1の「前記金属基材の腐食を防止する非多孔質の保護被膜を提供」することに相当する。
(g)引用発明2の「電解質130はガスケット440とアノード120との間の金属基板非多孔質領域110Bで金属基板110を直接覆って設けられ」ることは、電解質130の一部がアノード120に覆われる金属基板多孔質領域110Aよりガスケット440に近接した領域の金属基板110上に配置されているといえ、本件発明1の「前記電解質層の少なくとも一部は、前記ガスケットに近接した領域中の前記金属基材上に配置されている」ことに相当する。
(h)上記(a)ないし(g)によれば、本件発明1と引用発明2とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「金属基材と、
前記金属基材に隣接する電解質層と、
少なくとも1つのガスケットとを含む、
金属で支持された固体酸化物型燃料電池であって、
前記ガスケットを通して、流体が、前記金属で支持された固体酸化物型燃料電池に及び/又は前記燃料電池から供給され、
前記電解質層は、前記固体酸化物型燃料電池の前記ガスケットと活性領域との間の領域を覆って、前記金属基材の腐食を防止する非多孔質の保護被膜を提供し、
前記電解質層の少なくとも一部は、前記ガスケットに近接した領域中の前記金属基材上に配置されている、燃料電池。」
〈相違点2〉
電解質層が、本件発明1は「ガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全てを覆って」いるのに対し、引用発明2は当該領域の実質的に全てを覆うとは特定されていない点。
(i)相違点2について検討する。
引用文献2には、引用発明2の、ガスケット440と、「アノード120、電解質130およびカソード140」で覆われる「金属基板多孔質領域110A」(活性領域)と、の間の「金属基板非多孔質領域110B」の実質的に全てを、電解質130で覆うことは記載も示唆もされておらず、図12、13では酸化剤排出口180が設けられガスケット440が配置される位置を含む金属基板110の端部が電解質130で覆われていないことを考慮すれば、相違点2が実質的な相違であることは明らかであり、本件発明1は、引用発明2ではない。
したがって、請求項1に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
b 本件発明4、6、8ないし10、13ないし16について
本件発明4、6、8ないし10、13ないし16は本件発明1を引用し、さらに電解質層の構成を特定、ガスケットの構成を特定したもの、あるいは、本件発明1を引用した燃料スタック、本件発明1を引用した燃料電池の製造方法であるから、本件発明4、6、8ないし10、13ないし16はいずれも、少なくとも上記「a(h)」に示した相違点2に係る構成において引用発明2と相違する。
そして、上記「a(i)」で検討したように相違点2が実質的な相違であることは明らかであり、本件発明4、6、8ないし10、13ないし16は、引用発明2ではない。
したがって、請求項4、6、8ないし10、13ないし16に係る発明は特許法第29条第1項第3号に該当せず、請求項4、6、8ないし10、13ないし16に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえない。
(2)取消理由2(進歩性)について
ア 対比及び判断
(ア)引用発明1との対比及び判断
a 本件発明2、3、8、9、11、12と引用発明1とを対比する。
本件発明2、3、8、9、11、12は本件発明1を引用し、さらに電解質層の構成を特定したものであるから、本件発明2、3、8、9、11、12はいずれも、少なくとも上記「(1)イ(ア)a(h)」に示した相違点1に係る構成において引用発明1と相違する。
b 相違点1に係る構成について検討する。
出願時の技術常識を参酌しても、引用発明1の「リング状シール部材56a、56bが配置される領域」や「シール部材58」が配置される領域(ガスケット)と「カソード電極26、電解質22、アノード電極24が積層された領域」(活性領域)との間の金属支持体30の領域の実質的に全てを電解質22で覆う理由があるものとは認められない。
よって、相違点1に係る構成は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
そして、本件明細書段落【0016】に「本発明の発明者は、電解質層がSOFC上の固定具(例えばガスケット)とSOFCの活性領域との間の領域の少なくとも一部を電解質で覆うように、電解質層を延ばすことによって、基材の腐食を大幅に軽減することができることを認識した。」と記載され、同【0023】に「典型的には、電解質層は基材とガスケットとの間に配置される。本発明者らは、反応ガス及び腐食性流体がこの領域に接触することがより困難であるにもかかわらず、ガスケットが基材と直接接触している場合、ガスケットの真下で腐食が起こり得ることを見出した。」と記載され、同【0024】に「典型的には電解質層は、ガスケットに近接した領域において基材上に配置され、最も典型的には、基材とガスケットとの間にも配置される。最も典型的には、電解質層がガスケットと基材との間に連続層を形成し、またガスケット及びSOFCの活性表面に近接した領域を覆う。」と記載され、同【0055】に「電解質層15は、上記基材の実質的に全てを覆い、約1mmの幅を有するSOFCの周辺部の被覆されていない基材の狭い領域を残す。電解質層はまたガスケットの下にも延びている(図9a参照)。また、ガスケット3a、3bに近接した領域17a、17b、17cも示されており、ここで、電解質層15の被膜を含むことが特に望ましい。これらは典型的には、その上にガスケットからの不純物が浸出され堆積された領域である。」と記載されるように、本件発明1は、電解質層でガスケットと活性領域との間の金属基材の領域の実質的に全てを覆うことで、ガスケットからの不純物が浸出され腐食が起こり得る領域を電解質層で覆い腐食を軽減する効果を奏するものである。
c この点に関連して、申立人は令和6年9月17日提出の意見書(第5頁第17行ないし第6頁第11行)において、「ここで、引用発明1の課題であるガスシール性及び集電性の向上を図るために、電解質22を第2荷重付与部66の形状に合わせてリング状シール部材56a及びリング状シール部材56bの下の燃料ガス供給連通孔34a及び燃料ガス排出連通孔34bまで延長することは当業者が容易に想到できることにすぎない。そして、その結果、電解質22は第2荷重付与部66に対応する発電反応部46を被覆することになり、燃料ガスや酸化剤ガスが流れない周縁部は被覆されないものの、訂正された本件発明1と同様、電解質層がガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全てを覆うこととなる。」と主張するとともに、「以下の図は引用文献1の図3において、・・・金属支持体30上において電解質・電極接合体28はリング状シール部材56a、56bと近接していることから、本件発明1は引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。」と主張している。
しかしながら、引用文献1に記載された第2荷重付与部66は、燃料ガス通路40と酸化剤ガス通路44とが表裏に個別に設けられる発電反応部46に第2荷重W2を付与し集電部分同士の密着性を高めて集電性を向上させるものであり(段落【0040】、【0046】、【0060】参照)、電解質22を第2荷重負荷部66の形状に合わせることで直ちにガスシール性及び集電性が向上するものとは認められず、電解質22を第2荷重付与部66の形状に合わせてリング状シール部材56a及びリング状シール部材56bの下の燃料ガス供給連通孔34a及び燃料ガス排出連通孔34bまで延長することは、当業者が容易に想到できることとは認められない。
また、引用文献1の図3より、金属支持体30上において電解質・電極接合体28はリング状シール部材56a、56bと近接していることが読み取れるとしても、電解質・電極接合体28はリング状シール部材56a、56bと近接しているのみで、電解質がリング状シール部材(ガスケット)と電極接合体(活性領域)との間の領域の実質的に全てを覆っているとまではいえない。
よって、申立人の意見は採用できない。
d また、申立人は令和6年9月17日提出の意見書(第8頁第6ないし15行)において、「実際、甲第7号証(特開2004-348978号公報)に記載の固体酸化物型燃料電池では酸化剤ガスを含む排ガスによるアノード電極の酸化を防止するために、アノード電極の外周部に電解質層を塗布して酸素の侵入を阻止しており(甲第7号証の請求項1、【0010】、【0011】、【0016】)、また甲第8号証(特開2009-187847号公報)に記載の固体酸化物型燃料電池では製造工程で金属支持体が酸化されることを防止するために、保護層として酸化物電解質が使用されており(甲第8号証の請求項1、請求項6、【0006】~【0009】)、電解質層を腐食や酸化を防止するコーティング層として用いることが周知技術となっており、この周知技術を用いることは、当業者が容易に想到できたことにすぎない。」と主張している。
しかしながら、電解質層でガスケットと活性領域との間の金属基材の領域の実質的に全てを覆うことで、ガスケットからの不純物が浸出され腐食が起こり得る領域を電解質層で覆い腐食を軽減することは、甲第7および8号証のいずれにも記載も示唆もされていないから、甲第7および8号証の記載を考慮しても、相違点1に係る構成は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、申立人の意見は採用できない。
e したがって、請求項1を引用する請求項2、3、8、9、11、12に係る発明は、甲第7および8号証の記載事項を参酌しても、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項2、3、8、9、11、12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(イ)引用発明2との対比及び判断
a 本件発明2、3、11、12と引用発明2とを対比する。
本件発明2、3、11、12は、本件発明1を引用し、さらに電解質層の構成を特定したものであるから、本件発明2、3、11、12はいずれも、少なくとも上記「(1)イ(イ)a(h)」に示した相違点2に係る構成において、引用発明2と相違する。
b 相違点2に係る構成について検討する。
出願時の技術常識を参酌しても、引用発明2の「ガスケット440とアノード120との間の金属基板非多孔質領域110B」の実質的に全てを「電解質130」で覆う理由があるものとは認められない。
よって、相違点2に係る構成は、引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
そして、上記「(ア)b」で検討したように、本件発明1は、電解質層でガスケットと活性領域との間の金属基材の領域の実質的に全てを覆うことで、ガスケットからの不純物が浸出され腐食が起こり得る領域を容易に電解質層で覆い腐食を軽減する効果を奏するものである。
c また、上記「(ア)d」で検討したように、電解質層でガスケットと活性領域との間の金属基材の領域の実質的に全てを覆うことで、ガスケットからの不純物が浸出され腐食が起こり得る領域を電解質層で覆い腐食を軽減することは、甲第7および8号証のいずれにも記載も示唆もされていないから、甲第7および8号証の記載を考慮しても、相違点2に係る構成は、引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえず、申立人の意見は採用できない。
d したがって、請求項1を引用する請求項2、3、11、12に係る発明は、甲第7および8号証の記載事項を参酌しても、引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項2、3、11、12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立人の主張
申立人は特許異議申立書において、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について概略次のように主張している。
(1)理由1(新規性)
請求項1-6、11、13-16に係る発明は下記の甲第2号証に記載された発明と同一であるから、請求項1-6、11、13-16に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)理由2(進歩性)
請求項1、4-6、10、13-16に係る発明は下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、請求項1-6、8、9、11-16に係る発明は下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、請求項1、4-6、8-10、13-16に係る発明は下記の甲第3号証に記載された発明及び甲第4ないし6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし6、8ないし16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証:特開2015-207509号公報
甲第2号証:特表2014-504778号公報
甲第3号証:国際公開第2015/136295号
甲第4号証:化学便覧応用編、改訂3版、丸善株式会社、昭和55年3月15日、第1563頁
甲第5号証:固体酸化物形燃料電池(SOFC)の開発と展望、株式会社シーエムシー出版、2010年11月25日、第215ないし221頁
甲第6号証:燃料電池材料、日刊工業新聞社、2007年1月31日、第220ないし226頁
(3)理由3(明確性要件)
本件請求項1ないし16に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
「本件特許発明1の発明特定事項の一つに『前記電解質層の少なくとも一部は、前記ガスケットに近接した領域中の前記金属基材上に配置』が規定されており、このうち『ガスケットに近接した領域』を当業者が明確に理解できるかどうかが問題となる。・・・ここで、本件明細書の段落[0022]を見ると、確かに『近接する』という用語がガスケットから十分に近く、ガスケットからの不純物がその上に堆積され得るガスケットを囲む領域を意味することが記載されているものの、・・・ガスケットからの不純物が『堆積され得る』領域が単に不純物が『堆積され得る』可能性のある領域を意味するのであれば、・・・ガスケットと活性領域の間の全領域に不純物が『堆積され得る』可能性があり、『ガスケットに近接した領域』とはガスケットと活性領域の間の全領域ということなる。しかしながら、・・・全領域を『近接』という言葉で規定するのは当業者に誤解を与えることとなり、不明確であることは明らかである。また、ガスケットからの不純物が『堆積され得る』領域が単なる可能性の領域ではなく、一定の蓋然性をもってガスケットからの不純物が『堆積され得る』領域を意味するとするならば、・・・ガスケットや金属基材の材料・形状・位置関係、燃料電池及びスタックの構造やこれを流れるガスの流路や温度分布、運転条件や耐用年数等の様々な要因を加味してガスケットからの不純物が『堆積され得る』領域を事前に正確に予測することは極めて困難であるから、燃料電池を製造するにあたり当業者が事前にガスケットからの不純物が『堆積され得る』蓋然性が高い領域を予測して、本件特許の技術的範囲を回避することは事実上不可能である。よって、本件特許発明1は明確性要件に違反している。」(特許異議申立書第79頁第14行ないし第81頁第1行)
2 当審の判断
(1)理由1(新規性)について
ア 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の【0031】-【0036】の記載、および、図4から、単位電池430は、同じ大きさの金属支持体434、燃料極435及び電解質436をこの順で積層すると共に電解質436等より小さい空気極437を電解質436上に形成したものであり、金属支持体434、燃料極435、電解質436のみが積層された部分にマニホールド432が形成され、ガスケット型密封材410がマニホールド432を取り囲むように電解質436上に配置されることが読み取れることから、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
「金属支持体型固体酸化物燃料電池スタックは、金属支持体434と上記金属支持体上に形成された燃料極435、電解質436及び空気極437とを含む上記固体酸化物燃料電池の単位電池430と、上記固体酸化物燃料電池の単位電池430の空気極437と燃料極435を電気的に連結する少なくとも一つの分離板400と、を含み(【0031】)、
空気極437と燃料極435に燃料又は空気の供給及び排出のためのマニホールド402、432を含み(【0033】)、
上記固体酸化物燃料電池430と分離板400の間に形成されるガスケット型密封材410、450を含み(【0034】、【0036】)、
単位電池430は、同じ大きさの金属支持体434、燃料極435及び電解質436をこの順で積層すると共に電解質436等より小さい空気極437を電解質436上に形成したものであり、金属支持体434、燃料極435、電解質436のみが積層された部分にマニホールド432が形成され、ガスケット型密封材410がマニホールド432を取り囲むように電解質436上に配置される(図4)
金属支持体型固体酸化物燃料電池スタック。」
イ 対比及び判断
(ア)本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
a 甲2発明の「金属支持体434」は、本件発明1の「金属基材」に相当する。
b 甲2発明は、「同じ大きさの金属支持体434、燃料極435及び電解質436をこの順で積層する」ものであるから、甲2発明の「電解質436」は、燃料極435を介して金属支持体434上に形成されている。
ここで、本件明細書段落【0019】の記載によれば、本件発明1の「前記金属基材に隣接する電解質層」は、「前記金属基材と電解質層との間に追加の層を組み込んだ」構成を含むものであるから、甲2発明の「電解質436」は、本件発明1の「前記金属基材に隣接する電解質層」に相当する。
c 甲2発明の「ガスケット型密封材410」は、本件発明1の「少なくとも1つのガスケット」に相当する。
d 甲2発明の「金属支持体型固体酸化物燃料電池スタック」は、金属支持体434、電解質436、ガスケット型密封材410を含むものであるから、本件発明1の「金属基材と、前記金属基材に隣接する電解質層と、少なくとも1つのガスケットとを含む、金属で支持された固体酸化物型燃料電池」に相当する。
e 甲2発明は、「空気極437と燃料極435に燃料又は空気の供給及び排出のためのマニホールド402、432を含み」「ガスケット型密封材410がマニホールド432を取り囲むように電解質436上に配置される」ものであるから、ガスケット型密封材410を通して燃料又は空気が空気極437と燃料極435に供給及び排出されるといえ、このことは、本件発明1の「前記ガスケットを通して、流体が、前記金属で支持された固体酸化物型燃料電池に及び/又は前記燃料電池から供給され」ることに相当する。
f 甲2発明は、「金属支持体434と上記金属支持体上に形成された燃料極435、電解質436及び空気極437とを含む上記固体酸化物燃料電池の単位電池430」を含み、「単位電池430は、同じ大きさの金属支持体434、燃料極435及び電解質436をこの順で積層すると共に電解質436等より小さい空気極437を電解質436上に形成したものであり、金属支持体434、燃料極435、電解質436のみが積層された部分にマニホールド432が形成され、ガスケット型密封材410がマニホールド432を取り囲むように電解質436上に配置される」ものであるから、甲2発明の電解質436は、ガスケット型密封材410と「金属支持体434、燃料極435及び電解質436をこの順で積層すると共に電解質436等より小さい空気極437を電解質436上に形成された」部分との間においても、燃料極435を介して金属支持体434全てを覆っている。
ここで、本件明細書段落【0013】の記載によれば、本件発明1において「活性領域」とは、「電気化学的に活性な材料(電解質、アノード、及びカソードを含む)で被覆されたSOFCの部分」であるから、甲2発明の「金属支持体434、燃料極435及び電解質436をこの順で積層すると共に電解質436等より小さい空気極437を電解質436上に形成された」部分は、本件発明1の「活性領域」に相当する。
以上のことより、甲2発明は、本件発明1の「前記電解質層は、前記固体酸化物型燃料電池の前記ガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全てを覆って」いることに相当する構成を有する。
g 本件発明1の「電解質層は、」「前記金属基材の腐食を防止する非多孔質の保護被膜を提供し、前記電解質層の少なくとも一部は、前記ガスケットに近接した領域中の前記金属基材上に配置されている」のに対して、甲2発明は、「同じ大きさの金属支持体434、燃料極435及び電解質436をこの順で積層する」ものであり、電解質436は燃料極435上に配置されている点で相違する。
h 上記aないしgによれば、本件発明1と甲2発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
「金属基材と、
前記金属基材に隣接する電解質層と、
少なくとも1つのガスケットとを含む、
金属で支持された固体酸化物型燃料電池であって、
前記ガスケットを通して、流体が、前記金属で支持された固体酸化物型燃料電池に及び/又は前記燃料電池から供給され、
前記電解質層は、前記固体酸化物型燃料電池の前記ガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全てを覆っている、燃料電池。」
〈相違点3〉
本件発明1の「電解質層は、」「前記金属基材の腐食を防止する非多孔質の保護被膜を提供し、前記電解質層の少なくとも一部は、前記ガスケットに近接した領域中の前記金属基材上に配置されている」のに対して、甲2発明は、「同じ大きさの金属支持体434、燃料極435及び電解質436をこの順で積層する」ものであり、電解質436は燃料極435上に配置されている点。
i 相違点3について検討する。
甲第2号証には、金属支持体434上に電解質436を配置することは記載も示唆もされておらず、相違点3が実質的な相違点であることは明らかであり、本件発明1は、甲2発明ではない。
したがって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
(イ)本件発明2ないし6、11、13ないし16について
本件発明2ないし6、11、13ないし16は本件発明1を引用し、さらに電解質層の構成を特定、ガスケットの構成を特定したもの、あるいは、本件発明1を引用した燃料スタック、本件発明1を引用した燃料電池の製造方法であるから、本件発明2ないし6、11、13ないし16はいずれも、少なくとも上記「(ア)h」に示した相違点3に係る構成において甲2発明と相違する。
そして、上記「(ア)i」で検討したように相違点3が実質的な相違点であることは明らかであり、本件発明2ないし6、11、13ないし16は、甲2発明ではない。
したがって、請求項2ないし6、11、13ないし16に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
(2)理由2(進歩性)について
ア 甲第1号証に記載された発明との対比及び判断
甲第1号証は、上記取消理由通知にて引用した引用文献1であるから、甲第1号証には引用発明1と同一の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
してみると、本件発明1と甲1発明とは、「第4」の「2(1)イ(ア)a(h)」で検討したとおりの一致点および相違点1を有する。
そして、「第4」の「2(2)ア(ア)」で検討したとおり、相違点1に係る構成は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって、請求項1および請求項1を引用する請求項4ないし6、10、13ないし16に係る発明は、甲第7および8号証の記載事項を参酌しても、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1、4ないし6、10、13ないし16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
イ 甲第2号証に開催された発明との対比及び判断
本件発明1と甲2発明とは、「(1)イ(ア)h」で検討した一致点および相違点3を有する。
相違点3に係る構成について検討する。
出願時の技術常識を参酌しても、甲2発明の燃料極435上に配置される電解質436が金属支持体434上にも配置されるように、燃料極435を小さくする、あるいは、電解質層436および金属支持体434を大きくする理由があるものとは認められない。
よって、相違点3に係る構成は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって、請求項1および請求項1を引用する請求項2ないし6、8、9、11ないし16に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、請求項1ないし6、8、9、11ないし16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
ウ 甲第3号証に記載された発明との対比及び判断
甲第3号証は、上記取消理由通知にて引用した引用文献2であるから、甲第3号証には引用発明2と同一の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
してみると、本件発明1と甲3発明とは、「第4」の「2(1)イ(イ)a(h)」で検討したとおりの一致点および相違点2を有する。
相違点2に係る構成について検討する。
甲第4号証には、金属・合金の表面が、金属または非金属により遮蔽され、その間にすきまがあるとき、その部分が腐食をうけるというすきま腐食に関する記載があり、これは塩素イオン等の陰イオン存在下で起こり、ガスケット等とのすきまでも生じるものであると記載されており、すきま腐食は周知な技術事項であり、甲第5号証(第218頁第3行~第219頁第11行、第220頁下から2行目~第221頁第5行)には、外部要因(不純物)による劣化や異種材料間の反応・拡散による劣化が挙げられており、シール材に含まれるNa、K等のアルカリ金属やBa、Ca、Sr等のアルカリ土類金属が含まれていると、合金インターコネクトのクロム成分が反応を起こしやすいことが記載されており、甲第6号証(第224頁第10行~第225頁第7行)には、フェライト系合金を用いた場合、シール材中に含まれるアルカリ成分がフェライト系合金の異常酸化及び異常浸食の原因となることが記載されているものの、上記甲第4ないし6号証のいずれにも、ガスケットと活性領域との間の金属基板を実質的に全て電解質で覆うことには記載も示唆もされていない。
そして、出願時の技術常識を参酌しても、甲第3号証においてガスケット440と「アノード120、電解質130およびカソード140で覆われる金属基板多孔質領域110A」(活性領域)との間の金属基板非多孔質領域110Bの実質的に全てを電解質130で覆う理由があるものとは認められない。
よって、相違点2に係る構成は、甲第3号証に記載された発明および甲第4ないし6号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえない。
そして、上記「第4」の「2(2)ア(ア)b」で検討したように、本件発明1は、電解質層でガスケットと活性領域との間の金属基材の領域の実質的に全てを覆うことで、ガスケットからの不純物が浸出され腐食が起こり得る領域を容易に電解質層で覆い腐食を軽減する効果を奏するものである。
また、上記「第4」の「2(2)ア(ア)d」で検討したように、甲第7および8号証にはいずれにも、電解質層でガスケットと活性領域との間の金属基材の領域の実質的に全てを覆うことで、ガスケットからの不純物が浸出され腐食が起こり得る金属基材の領域を電解質層で覆い腐食を軽減することは記載も示唆もされていないから、相違点2に係る構成は、甲第3号証に記載された発明および甲第4ないし6号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得たものとはいない。
したがって、請求項1および請求項1を引用する請求項4ないし6、8ないし10、13ないし16に係る発明は甲第3号証に記載された発明および甲第4ないし6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、請求項1、4ないし6、8ないし10、13ないし16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
(3)理由3(明確性要件)について
本件訂正により本件発明1は「前記電解質層は、前記固体酸化物型燃料電池の前記ガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全てを覆」った構成を有するものとなった。そして、上記「第2」の「2(2)イ」で検討したように、本件発明1の上記構成は「電解質」が「金属基材上の、ガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全て」を覆うことを意味しているものと認められる。
してみると、電解質層の少なくとも一部が金属基材上に配置されている「ガスケットに近接した領域」とは、少なくとも「金属基材上の、ガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全て」に含まれる領域を意味すると当業者は理解し得る。
そして、本件発明1の「前記電解質層の少なくとも一部は、前記ガスケットに近接した領域中の前記金属基材上に配置されている」との記載が、第三者に不測の不利益を与えるほどに明確でないとはいえない。
よって、申立人の意見は採用できない。
(4)令和6年9月17日提出の意見書における明確性に係る主張について
申立人は令和6年9月17日提出の意見書において、「ここで、前記『(1)訂正要件違反(新規事項追加)』で説明したとおり、本件明細書には電解質層がガスケットと活性領域の間の領域をどのように覆えば『実質的に全て』を覆うことになるのか記載がないところ、訂正された本件発明1において電解質層がガスケットの下の金属基材を覆っているのか覆っていないのか不明である。というのも、仮に訂正された本件発明1において電解質層がガスケットの下の金属基材も覆っているとすると、本件発明1には『電解質層の少なくとも一部は、前記ガスケットに近接した領域中の前記金属基材上に配置されている』との構成が記載されており、電解質層がガスケットの下の金属基材を覆っていながら、電解質層の少なくとも一部がガスケットに近接した領域中の金属基材上に配置されているとする両発明特定事項同士の技術的関連が理解できないものとなっている。また、本件発明10において「ガスケットは、前記金属基材に直接取り付けられており」と規定されているものの、電解質層が金属基板を覆っているため、ガスケットを金属基板に直接取り付けることができず、本件発明10が技術的意味をなさないものとなってしまうし、さらには本件発明2の『電解質層の少なくとも一部は、前記ガスケットから2mm以下の領域中の前記金属基材上に配置されている』や本件発明3の『電解質層の少なくとも一部は、前記ガスケットから1mm以下の領域中の前記金属基材上に配置されている』の技術的意味も不明となってしまうことは明らかである。また、仮に訂正された本件発明1において電解質層がガスケットの下の金属基板を覆っていないとすると、本件発明2との関係で電解質層がガスケットから2mmを超える領域に配置されている構成も本件発明1は含むことになるが、電解質層がガスケットからどの程度の距離の領域に配置された場合に『実質的に全てを覆って』を充足することになるのか、本件明細書の記載を参酌しても不明と言わざるを得ない。」(第3頁第13行ないし第4頁第8行)と主張している。
しかしながら、本件発明1は「前記電解質層は、前記固体酸化物型燃料電池の前記ガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全てを覆」った構成を有するものであるところ、上記「第2」の「2(2)イ」で検討したように、本件発明1の上記構成は、「電解質層」が「金属基材上の、ガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全て」を覆うことを意味しているものと認められる。
してみると、本件発明1は、電解質層がガスケットの下の金属基材を覆っているかどうかに関わらず金属基材上のガスケットと活性領域との間の領域の実質的に全てを覆う構成であることは明確である。
よって、申立人の意見は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された異議申立理由によっては、請求項1ないし16に係る特許を取り消すことはできない。さらに、ほかに請求項1ないし16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700052