2024-015109
可搬型溶接ロボットの制御方法、溶接制御装置、可搬型溶接ロボット及び溶接システム
- 審判番号
- 2024-015109
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-106327外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2024年09月20日
- 審決日
- 2025年12月18日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社神戸製鋼所
- 【請求人代理人】弁理士法人栄光事務所
- 分類
- P18 .121-Z (B23K) / P18 .56 -Z (B23K) / P18 .575-Z (B23K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 13項目
第1 手続の経緯
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本件出願は、令和2年6月19日の出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
(拒絶査定、以下「原査定」という。)
なお、本件出願に対し、令和4年11月4日、同月8日、同月28日、同年12月7日、令和5年1月19日、同月24日、同年2月20日、令和6年4月17日、及び、同年12月9日に、それぞれ匿名の者から刊行物等提出書の提出(計9通)があった(特許法施行規則第13条の2)。
第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年9月20日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項8
本件補正は、特許請求の範囲の全文を補正の対象とするものであって、本件補正により、特許請求の範囲の請求項8の記載は、次のとおり補正がされた。(下線は、補正箇所である。)
「 【請求項8】角部を有するワークに対してガイドレールを設置し、前記ガイドレール上を移動して前記ワークをアーク溶接する可搬型溶接ロボットを制御するための溶接制御装置であって、前記ワーク上のトーチ位置を判定するトーチ位置判定部と、開先形状情報を算出する開先条件算出部と、続きを表示(全13行)前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するトーチ角度算出部と、前記トーチ位置における前記トーチ角度以外の他の溶接条件を算出する溶接条件算出部と、を有し、前記トーチ位置判定部は、前記ワーク上のトーチ位置を判定し、前記開先条件算出部は、少なくともタッチセンシングを用いたセンシング手段に基づいて前記開先形状情報を算出し、前記溶接条件算出部は、前記開先形状情報に基づいて、前記トーチ位置における前記他の溶接条件を算出し、前記トーチ角度算出部は、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出し、算出された前記トーチ角度に基づき、前記トーチ角度を制御し、前記トーチ位置において、前記トーチ角度の制御を行うとともに、前記他の溶接条件の制御を行うことを特徴とする溶接制御装置。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の請求項8
本件補正前の(すなわち、令和6年3月13日提出の手続補正書により補正がされた)特許請求の範囲の請求項8の記載は、次のとおりである。
「 【請求項8】角部を有するワークに対してガイドレールを設置し、前記ガイドレール上を移動して前記ワークをアーク溶接する可搬型溶接ロボットを制御するための溶接制御装置であって、前記ワーク上のトーチ位置を判定するトーチ位置判定部と、開先形状情報を算出する開先条件算出部と、続きを表示(全13行)前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出するトーチ角度算出部と、前記トーチ位置における前記トーチ角度以外の他の溶接条件を算出する溶接条件算出部と、を有し、前記トーチ位置判定部は、前記ワーク上のトーチ位置を判定し、前記開先条件算出部は、タッチセンシング、レーザーセンシング、視覚センシングのうち、少なくとも一つのセンシング手段に基づいて前記開先形状情報を算出し、前記溶接条件算出部は、前記開先形状情報に基づいて、前記トーチ位置における前記他の溶接条件を算出し、前記トーチ角度算出部は、前記トーチ位置におけるトーチ角度を算出し、算出された前記トーチ角度に基づき、前記トーチ角度を制御し、前記トーチ位置において、前記トーチ角度の制御を行うとともに、前記他の溶接条件の制御を行うことを特徴とする溶接制御装置。」
2 本件補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項8に記載された発明を特定するために必要な事項である「センシング手段」について、「タッチセンシング」、「レーザーセンシング」、「視覚センシング」のうち、「少なくとも一つ」のものであったのを、「少なくともタッチセンシングを用いた」ものに限定するものであって、補正前の請求項8に記載された発明と補正後の請求項8に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項8に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、すなわち、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
(1)本件補正発明の認定
本件補正発明は、上記1(1)の請求項8に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(2)引用文献1に記載された発明の認定
ア 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された、本件出願前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平6-155027号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は当審で付した。以下同様。)
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、ビル建設などで建築材料として使用される角鋼管同士を、建設現場で自動的に突き合わせ溶接する角鋼管の自動溶接装置に関するものである。」
「【0009】【実施例】以下に図面を参照して本発明の実施例について説明する。図1は本発明の一実施例である自動溶接装置の側面図、図2はその正面図である。また図3は被溶接物である角鋼管を突き合わせて仮止めした状態を示す斜視図、図4は角鋼管に自動溶接装置のためのレールを取り付けた状態を示す平面図である。ここでは図3に示すように、ビル建設素材として使用される角鋼管10と角鋼管12を溶接部14において互いに突き合わせて溶接する場合について説明する。この角鋼管の溶接線には、平面部を溶接する場合の直線部と、角部を溶接する場合の曲線部とがある。【0010】溶接を行う前に、まず角鋼管10と角鋼管12を互いに突き合わせ、エレクションピース16で両者を仮止め固定する。このエレクションピース16は図示しないボルトで固定されるものである。その後、図4に示すように角鋼管10にL字型の移動用レール18を固定する。この移動用レール18は、角鋼管10の互いに対向する面を固定手段20で挟み、ボルト22で両側から抑え付けることによって固定される。尚、このL字型レールは一つの角鋼管の4分の1周分に当たり、角鋼管の全周を溶接するには、かかるL字型レール及び台車の取り外し及び溶接動作を4回行う必要があるが、一方で広い範囲の寸法の角鋼管に適用できるという利点がある。【0011】図1及び図2に示すように、レール18上には溶接台車30及び走行台車34が設けられている。溶接台車30及び走行台車34はいずれもレール18の上下から一組につき4個のベアリング32で支持され、これがもう一方の側、すなわち図1の奥行き方向にもう一組設けられ、合計8個のベアリングで支持されている。また、走行台車34と溶接台車30はジョイント36によって互いに連結されている。レール18上にはラック38が設けられており、走行台車34の駆動可能な歯車40がこのラック38と噛合している。したがって、歯車40を駆動することにより、走行台車34及びこれに連結された溶接台車30を同一速度でレールに沿って移動することができる。【0012】溶接台車30の下部には、先端から溶接ワイヤ44を送給する溶接トーチ42が設けられている。この溶接トーチ42はガスメタルアーク溶接用の溶接トーチで、溶接台車30によるレール18に沿った移動(これをx方向とする)の他、図1に示すように開先深さ方向(y方向)及び開先幅方向(z方向)にも移動できる。したがって、この溶接トーチ42の先端部は、被溶接物の任意の位置へ移動させることができる。y方向とz方向が含まれる平面は、前記ベアリング32と、その奥行き方向にあるもう一組のベアリングを結ぶ線の中点に垂直になるよう設定されている。このようにすることによってレールの円弧部を台車が走行するとき、トーチ先端がほぼ円弧状に移動することができる。さらに、溶接トーチ自体を揺動させて先端部にいわゆるウィービング動作を行わせることもできる。溶接条件は、溶接台車30の走行速度と溶接ワイヤ44の送給速度によって決定され溶接電圧はこれらの値に対し適正なアーク状態を維持する値に選ばれる。【0013】図5は、溶接台車30の内部に設けられた制御手段の構成を示すブロック図であり、この制御動作はCPU50を中心として行われる。CPU50の右側には4系統の制御ブロックが設けられ、これらはそれぞれx方向,z方向,y方向の移動、及び溶接トーチの回転(ウィービング動作)に対応している。x方向の移動の制御を例にとると、CPU50の命令に基づいてサーボコントローラ52がレール上の溶接台車の位置及び速度を示す信号を発生し、この信号はサーボアンプ54を経て走行台車を駆動する駆動台車のモータ56へ送られる。モータはこの信号に基づいて回転し、レール上の所定の位置へ所定速度で溶接台車を移動させる。かかる動作とともに、この溶接台車の位置を検出してこの位置情報をエンコーダ58からサーボコントローラ54へ戻し、サーボ動作によって溶接台車をより正確な位置へと移動させる。CPU50は更に、後述する記憶装置60、ワイヤ送給装置62、溶接電源64などの制御も行う。【0014】図1又は図2の溶接台車30は、図4のL字型のレール18に沿って移動しながら、角鋼管10と12の突き合わせ面内の溶接線の曲線部と直線部とを連続的に溶接する。このように連続的に溶接すると、曲線部でビード継ぎを行う必要がないので、グラインダによる手入れなどは不要であり、溶接作業の能率を高めることができる。また自動的に溶接ができれば熟練した作業者も必要としない。しかし自動溶接を行う場合に、溶接線の直線部と曲線部における溶接条件、すなわち溶接台車の走行速度とワイヤ送給速度を全く同一にすると、場所によってビード厚みに差が生じる。これは角鋼管10の曲率及び溶接台車の移動軌跡の曲率が場所によって異なるからである。このようにビード厚みが場所によって異なると溶接ビートを適正に盛りあげることができないので、ビード厚みが一定となるよう上記溶接条件を制御しなければならない。尚、本実施例では多層盛り溶接を前提としており、一つの箇所を溶接する場合でも一回のパスでの一層分のビード厚みは薄く、これを複数層にわたって重ねることにより所定の厚さとする。」
【0015】次に、図6(A)~(C)を参照しながら、角鋼管の溶接線の直線部と曲線部における溶接速度(即ち溶接ワイヤ先端の移動速度)又はワイヤ送給速度の制御について説明する。ここでの制御は、基本的に「溶着速度(又はワイヤ送給速度)÷溶接速度」(即ち開先断面の各パスの溶着面積)の関数としての制御である。ここで図6(A)は、角鋼管の溶接線の直線部において溶接トーチの一回の通過(パス)で積層される一パス分の溶接ビードを図1のz方向から見た拡大図であり、図6(B)は角鋼管の溶接線の曲線部における図6(A)と同様の図である。図6(C)は、角鋼管10と12の間の開先を図1のx方向から見た拡大図である。これらの図でrs (mm)は一回のパスで積層される溶接ビードの内側の曲率半径、re (mm)は外側の曲率半径である。したがって(re-rs)は、一パス分の厚みとなる。尚、直線部の曲率半径は無限大だが、図6(A)では便宜上rs,reを図6(B)、(C)に対応させて示してある。また、図6(C)においてS(r)はrの位置における開先の幅である。したがって開先の形状と各パスでの溶接ビード形状が分かっていればこのS(r)を求めることができる。
【0016】ここで直線部におけるワイヤの溶着速度をvm(mm3/sec )、溶接速度をvt(mm/sec)とすると、図6(A)及び(C)の幾何学的関係から、
【数1】
[図:0001432709000001.jpg]
という式が導かれる。この(1)式から、直線部において溶着速度vm 及び溶接速度vtをある値に決めたときのre、すなわち溶接ビードの厚さを求めることができる。次に曲線部において、ワイヤの溶着速度をvm’(mm3/sec )、ワイヤ先端の位置をrp(mm)、溶接台車の角速度をωp(rad/sec )とすると、図6(B)及び(C)の幾何学的関係から、
【数2】
[図:0001432709000002.jpg]
という式が導かれる。この(2)式のreに(1)式で求めたreを代入して右辺を計算することによりvm’/rp・ωp、すなわち「溶着速度÷溶接速度」を求めることができる。この値は当該角鋼管の溶接線の曲線部の曲率半径がrpである位置における溶着速度(ワイヤ送給速度と比例する)と溶接速度(即ち溶接ワイヤ先端部移動速度)の比であり、これが分かると角鋼管の溶接線の曲線部において溶接ワイヤの先端部の速度又はワイヤ送給速度をどのようにすればよいかが分かる。レールの直線部では溶接台車走行速度と溶接速度は等しいが、曲線部では溶接台車がz方向に垂直な平面内で回転するので(2)式で求まったワイヤ先端移動速度(即ち溶接速度)rp・ωpに対し溶接台車の走行速度を速くする必要がある。実際にCPU50が指示するのは台車の移動速度v(mm/sec)なのでvを求める手続きが必要である。
【0017】それには(2)式で求めたrp・ωpから走行台車(溶接台車)の速度(即ち溶接速度)を求めるために、
【数3】
[図:0001432709000003.jpg]
という式で求めればよい。ここでvは走行台車の速度(mm/sec)、ρはレール上台車速度管理位置の移動軌跡の曲率半径(mm)、yはレール上台車速度管理位置(溶接台車のx方向の二組のベアリングを結ぶ線の中点)からワイヤ先端までの距離(mm)でy方向移動モータのエンコーダ値から求まる。」
「【0020】(3)式でρ及びreはそれぞれレールの曲率及び角鋼管の溶接線の曲率から定まるので溶接作業を行う前に予め測定し、また、S(r)及びvt,vm,vm’,(rp -re )は開先形状に対し適正値を予め定めておき、図5の記憶装置60の内部に記憶しておく。これらの値は、角鋼管の寸法にもよるが、一般的にはレール上のx方向について10ミリごとに区切って測定し、記憶装置60に予め記憶させておく。そして溶接作業を行うときにCPU50の制御のもとで角鋼管の溶接線のそれぞれの位置において対応する値を読み出し、上記(1),(2),(3)式から補正された溶接台車の速度を計算して走行台車の速度を、さらに必要に応じてワイヤ送給速度制御する。このような制御を行うことによって、直線部と曲線部からなる角鋼管の溶接線を連続して溶接する場合であっても溶接ビードの厚みを一定に保つことができ、自動的に積層溶接を行うことが可能になる。【0021】ところで、レールの曲率中心と角鋼管の曲率中心とは、必ずしも一致しない。図8(A)~(C)はこの様子を示したもので、同図(A)はレール18の曲率中心Oと角鋼管10の曲率中心O’が一致する場合、同図(B)は角鋼管10の曲率中心O’が内側にある場合、同図(C)はレール18の曲率中心Oが内側にある場合である。このような場合でも前記の計算手続きはそのまま用いることができるが、直線部から曲線部へ移行する瞬間のトーチ狙い角、すなわち、図8(B)及び(C)における角Δφが大き過ぎると、補正した値は不正確となり、ビード厚みを一定に保つことができなくなる。このトーチ狙い角は直線部と曲線部の境界部分において最大となり、曲線部の中央付近で最小(理想的にはゼロ)となる。このため実用的な許容範囲として|Δφ|の最大値を20°以下とすることが望ましい。」
「【図1】[図:0001432709000004.jpg]」
「【図6】[図:0001432709000005.jpg]」
「【図8】[図:0001432709000006.jpg]」
イ 引用文献1に記載されているといえる事項
上記アから、引用文献1には、次の事項が記載されているといえる。
(ア)引用文献1の【0001】の記載から、引用文献1には、ビル建設などで建築材料として使用される角鋼管同士を、建設現場で自動的に突き合わせ溶接する角鋼管の自動溶接装置に関する発明が記載されている。
当該突き合わせ溶接は、【0009】~【0011】の記載から、角鋼管10と角鋼管12とを溶接部14において互いに突き合わせて溶接するものであって、溶接を行う前に、角鋼管10にL字型の移動用レール18を固定し、レール18上にジョイント36によって連結された溶接台車30及び走行台車34を設けることで、走行台車34の歯車40の駆動により、走行台車34及び溶接台車30を同一速度でレール18に沿って移動することができるものである。そして、【0009】の記載から、角鋼管10、12は平面部と角部とを有するといえる。
また、【0012】、【0014】の記載から、当該溶接台車30の下部には、先端から溶接ワイヤ44を送給するガスメタルアーク溶接用の溶接トーチ42が設けられ、当該溶接トーチ42は、溶接台車30によるレール18に沿ったx方向の移動の他、開先深さ方向であるy方向及び開先幅方向であるz方向にも移動することで、溶接トーチ42の先端部を被溶接物の任意の位置へ移動させることを可能とするものであり、さらに、溶接台車30の走行速度と溶接ワイヤ44の送給速度とを溶接条件として、適正なアーク状態を維持する溶接電圧値が選ばれるものである。
そして、【0013】の記載から、当該自動溶接装置における溶接台車30の内部に設けられた制御手段としてCPU50は、走行台車34及び溶接台車30並びに溶接トーチ42のいずれかに関して、x方向、z方向、y方向の移動やワイヤ送給装置62、溶接電源64などを制御するものであって、x方向の移動の制御では、溶接台車30をレール18上の所定の位置へ所定速度で移動させるものである。
以上を踏まえると、引用文献1には、角部を有する角鋼管10、12のうち角鋼管10に対してレール18を設置し、レール18上を移動して角鋼管10、12をガスメタルアーク溶接する、走行台車34及び溶接台車30並びに溶接トーチ42を制御するためのCPU50を備えた自動溶接装置についての発明が記載されているといえる。
(イ)引用文献1の【0009】、【0012】、【0013】及び【0020】の記載から、x方向の移動の制御については、角鋼管10に固定されたレール18上を溶接台車30が移動する時に、溶接台車30の位置をエンコーダ58により検出して、溶接台車30をより正確な位置へと移動させているのであるから、自動溶接装置は、CPU50により、溶接台車30のx方向位置を検出しているといえる。そして、上記(ア)に示した、溶接台車30の下部には溶接トーチ42が設けられること、【0012】の「溶接トーチ42の先端部は、被溶接物の任意の位置へ移動させることができる」との記載、【0012】~【0013】のx方向、z方向、y方向の移動の制御に関する記載、及び図5の図示内容を併せてみれば、CPU50は、溶接トーチ42の先端部の、x方向、y方向及びz方向の各方向について、エンコーダ58により位置を検出するものといえる。
以上を踏まえると、自動溶接装置のCPU50は、溶接台車30のx方向の位置、溶接トーチ42のy方向、z方向の位置をエンコーダ58により検出することにより、溶接台車30に設けられた溶接トーチ42をより正確な位置へと移動させる制御をするものであるから、角鋼管10、12上の、溶接トーチ42の位置を検出する機能(以下「トーチ位置検出機能」という。)を有しているといえる。
(ウ)引用文献1の【0015】、【0020】の記載から、rの位置における開先の幅S(r)は、開先の形状と各パスでの溶接ビート形状から求めることができるものであり、当該S(r)については、直線部での溶着速度(又はワイヤ送給速度)vm(mm3/sec )、溶接速度vt(mm/sec)、曲線部での溶着速度vm’ 、ワイヤ先端の位置rp(mm)とビートの外側の曲率半径reとの差(rp-re)とともに、開先形状に対して適正値を予め定めるものであるから、開先形状に基づくrの位置における開先の幅S(r)を算出する機能(以下「開先幅算出機能」という。)を有しているといえる。また、【0020】の記載から、当該開先の幅S(r)等の適正値を記憶装置60に予め記憶させておくにあたり、レール上のx方向について10ミリごとに区切って測定しておき、溶接作業を行うときにCPU50の制御のもので角鋼管10、12の溶接線のそれぞれの位置において対応する値を読み出し、開先の幅S(r)の適正値に基づいて、補正された溶接台車30の速度を計算して走行台車34の速度を制御するものであり、段落【0016】~【0017】の記載されるように、走行台車34(溶接台車30)の速度=溶接速度=溶接ワイヤ先端部移動速度であるといえるから、CPU50は、開先形状に基づく開先の幅S(r)に基づいて、溶接トーチ42の位置における溶接速度すなわち溶接台車30の速度を計算する機能(以下「溶接速度計算機能」という。)を有しているといえる。
ウ 引用文献1に記載された発明
上記ア及びイから、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「 角部を有する角鋼管10、12のうち角鋼管10に対してレール18を設置し、前記レール18上を移動して前記角鋼管10、12をガスメタルアーク溶接する、走行台車34及び溶接台車30並びに溶接トーチ42を制御するための自動溶接装置であって、前記角鋼管10、12上の溶接トーチ42の位置を検出するトーチ位置検出機能と、開先の幅S(r)を算出する開先幅算出機能と、前記溶接トーチ42の位置における溶接台車の速度を計算する溶接速度計算機能と、を有し、前記溶接トーチ位置検出機能は、前記角鋼管10、12上の溶接トーチ42の位置を検出し、前記開先幅算出機能は、開先形状に基づいて開先の幅S(r)を算出し、前記溶接速度計算機能は、前記開先の幅S(r)に基づいて、前記溶接トーチ42の位置における前記溶接台車30の速度を計算し、前記溶接トーチ42の位置において、溶接台車30の速度の制御を行う自動溶接装置。」
(3)引用文献2に記載された技術的事項の認定
ア 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された、本件出願前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開昭61-49775号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
(ア)1ページ左下欄5~11行
「溶接台車を、円形トラックリングに沿い円形軌跡を描かせて所定の速度で走行させ、溶接台車に装備されているトーチの異径パイプ側先端を、異径パイプ外周に沿った軌跡を描かせ、且つトーチ軸線を異径パイプ外周に対し直角に保持しながら前記異径パイプを溶接することを特徴とする異径パイプの溶接方法。」
(イ)1ページ左下欄14~16行
「本発明は、異径断面のパイプを円形軌道上を走行する溶接台車を用いて溶接する方法に関するものである。」
(ウ)2ページ左上欄7~18行
「第1図及び第2図は本発明の一実施例で、図中1は円形トラックリング、2は円形トラックリング1の外周を走行し得るようにした溶接台車、3は溶接台車2に装備されたトーチである。該トーチ3は支点4を中心として前後に回動するためのトーチ角回転機構、トーチ3を所定位置に昇降させるトーチ上下機構を備え、前記溶接台車2は台車走行機構を備えている。而して、溶接台車2の円形軌跡をトーチ3先端で所定速度の長円形軌跡に変換すると共にトーチ3先端が溶接される異径パイプ5の外周に対し垂直になるよう制御し得るようになっている。」
(エ)2ページ右上欄13行~右下欄6行
「すなわち、溶接台車2が走行するに従い、基準となる水平線l1から支点4及び円形トラックリング1の中心を通る直線l2までの溶接台車2の円軌道上の回転角度θ、支点4から異径パイプ5外周までの距離、トーチ3先端の異径パイプ5外周に対する周方向速度は変化するが、溶接を何等支障なく行うためには、トーチ3が異径パイプ5の外周に対し常時直角を保持すると共にトーチ3先端と異径パイプ5外周との間隔を一定に保ち、しかもトーチ3先端が異径パイプ5に対し一定の速度で周方向へ移動する必要がある。そこで溶接台車2が円形トラックリング1に沿い走行を開始したら、台車回転角検出器6により回転角度θが連続的に検出され、その検知信号は演算装置7に送られ、該装置7で所定の演算が行われてトーチ角回転制御回路9、トーチ上下制御回路10、台車速度制御回路11に夫々指令信号が出力される。トーチ角回転制御回路9では、トーチ3が異径パイプ5の外周に対して直角を保持するよう制御が行われ、トーチ上下制御回路10では、トーチ3の先端と異径パイプ5外周との間隔が一定になるよう制御が行われ、台車速度制御回路11ではトーチ3先端の異径パイプ5周方向に対する移動速度が所定値になるよう制御が行われる。このように、溶接台車2の円軌道上の回転角度に応じて夫々の位置でトーチ3先端が長円軌跡を描き、且つ異径パイプ5に対して垂直になるようにし、しかもトーチ3先端の速度についても円/長円の変換制御を行ない、異径パイプ5上で所定の速度になるように演算制御を行っているため、異径パイプの溶接に円形トラックリング1の適用が可能になる。」
(オ)第1図
「[図:0001432709000007.jpg]」
(カ)第2図
「[図:0001432709000008.jpg]」
イ 引用文献2に記載されているといえる事項
引用文献2の上記ア(ア)~(カ)から、次の技術が記載されているといえる。
(ア)引用文献2には、異形パイプ5に対して異形パイプ5の断面形状の異なる円形トラックリング1を設けて、円形トラックリング1に沿い円形軌道で走行する溶接台車2に装備されているトーチ3により長円形の異形パイプ5を溶接する、演算装置7を含む装置に関する技術が記載されているといえる。
(イ)上記(ア)の装置では、溶接台車2が円形トラックリング1に沿い走行を開始したら、台車回転角検出器6によりトーチ3の回転角度θが連続的に検出され、トーチ角回転制御回路9により溶接台車2の円軌道上のトーチ3の回転角度θに応じて夫々の位置でトーチ3先端が異径パイプ5に対して垂直になるように制御し、台車速度制御回路11によりトーチ3先端の速度が異径パイプ5上で所定の速度になるように制御する技術が記載されているといえる。
ウ 引用文献2に記載された技術的事項
上記ア及びイから、引用文献2には、溶接台車を用いた溶接に関する、次の技術的事項(以下「引用文献2記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「異形パイプ5に対して異形パイプ5の断面形状の異なる円形トラックリング1を設け、円形トラックリング1に沿って移動して異径パイプ5を溶接する、トーチ3を装備した溶接台車2を制御する、演算装置7を含む装置であって、演算装置7は、トーチ3の位置におけるトーチ3の回転角度θを検出する台車回転角検出器6から角度信号を入力する機能と、トーチ3の位置における異径パイプ5の外周に対して直角になる指令信号を算出し、トーチ角回転制御回路9に出力する機能と、トーチの位置におけるトーチ3先端の異径パイプ5周方向に対する移動速度が所定値になる指令信号を算出し、台車速度制御回路11に出力する機能と、を有し、前記台車回転角検出器6は、前記トーチ3の位置におけるトーチ3の回転角度θを検出し、前記トーチ角回転制御回路9は、算出された前記トーチ3の回転角度θに応じて、前記トーチ3先端が溶接される異径パイプ5の外周に対し垂直になるよう制御するとともに、前記台車速度制御回路11は、前記トーチ3の位置において、トーチ3先端の異径パイプ5周方向に対する移動速度の制御を行うこと。」
(4)周知技術1の認定
以下のア~ウの周知例文献A~Cは、本審決にて新たに認定する周知技術1(下記エ)を例示する文献である。
ア 周知例文献Aに記載された事項
本件出願前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった、特開2016-10810号公報(以下「周知例文献A」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「【技術分野】【0001】本発明は、自動溶接装置に関し、特に、船体やタンク等の構造物に使用されるロンジの突合せ溶接に適した自動溶接装置に関する。」
「【0017】また、離散した複数の計測位置における開先実形状の計測結果と溶接条件データベースとから、溶接線に沿って連続した溶接条件を設定するようにしたことにより、溶接士が開先実形状を見ながら溶接条件を補正する必要がなく、溶接士の作業負担を低減することができるとともに、溶接士の技量による溶接品質のバラツキを抑制することができ、溶接品質を向上させることができる。」
「【0049】まず、図3(b)に示したように、溶接線に沿って開先実形状を計測したい計測位置S1~S5を複数設定する。計測位置S1~S5のそれぞれについて、図3(a)に示したように、溶接トーチ36を各計測位置S1~S5に沿って昇降させながら、例えば、図中の矢印で示した順序で移動させ、計測点P1~P6においてワイヤ36aを母材表面41cに接触させて接触時に通電させる。かかるタッチセンシングにより各計測位置S1~S5における開先実形状を計測することができる。このタッチセンシングを各計測位置S1~S5において繰り返すことにより、溶接線に沿った複数箇所において開先実形状を計測することができる。」
「図3(a)[図:0001432709000009.jpg]」
イ 周知例文献Bに記載された事項
本件出願前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった、特開2000-79473号公報(以下「周知例文献B」という。)には、図面とともに、次の記載がある。
「【0002】【従来の技術】パイプの円周方向のシームを自動で溶接する溶接機の構成の例を図5に示す。・・・。」
「【0004】溶接ヘッド24は、電源装置23と送電ケーブル28で接続され、パイプ外周に巻き付けられたガイドレール29上に、円周方向に移動可能に装着される。溶接ヘッド24には、溶接トーチ27に対して溶接ワイヤを供給するワイヤ供給部26が搭載されている。【0005】図6に、制御装置22、電源装置23、溶接ヘッド24、パイプ25間の電気的な接続関係を示す。図から分かるように、電源装置23からは、送電ケーブル28を介して、溶接ヘッド24のワイヤ31とパイプ25との間にパルス溶接電圧が印加されるようになっている。これにより、ワイヤ31とパイプ25表面との間にアークが発生する。ワイヤ31は一定速度で送られ、アークにより溶かされて溶着金属となり、パイプ開先30内で固まり、母材を構成する。」
「【0015】従来の方法では、NC装置から電源装置へ電流指令を与え、電源装置がこれから溶接ワイヤー供給モータの速度を決定していたが、本手段においては、NC装置から直接、サーボモータの回転速度を制御する回転速度制御装置へ速度指令を与えている。これにより、全自動溶接のための溶接パラメータに、溶接ワイヤの送り速度、送り量を加えることができ、これまで以上に緻密で高精度な溶接が可能になる。たとえば、溶接ワイヤーの送り速度をNC装置側で正確に決定できるようになることにより、溶接ワイヤーの送り速度と開先の大きさに合わせたX軸方向送り速度を決定することができる。」
「【0029】また、本実施の形態においては、サーボモータ5にパルスジェネレータ6が付属されており、これにより、サーボモータ5の回転数、すなわち溶接ワイヤーの供給量を正確に把握することができる。よって、これを利用して、溶接ワイヤーをタッチセンサとして使用することにより、狭幅深開先形状の測定を行うことができる。溶接ワイヤーをタッチセンサとして使用した狭幅深開先形状の測定方法については、平成9年特許願第365997号に詳細に説明されているので、ここでは図2に基づいて、簡単に説明する。」
「図2[図:0001432709000010.jpg]」
「図5[図:0001432709000011.jpg]」
ウ 周知例文献Cに記載された事項
本件出願前に頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった、特開2020-62675号公報(以下「周知例文献C」という。)には、次の記載がある。
「【0020】[現場溶接装置の構成]まず、図1~図4を参照して現場溶接装置の構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る現場溶接方法及び現場溶接装置を概略的に示す斜視図である。図1に示される現場溶接装置1は、構造物2(例えば、柱)の施工現場において、溶接対象物Wに対する溶接を行うための装置である。本実施形態において、溶接対象物Wは、構造物2としての柱の一部を構成する複数の柱材3を有する。柱材3は、例えば角形(例えば四角形)の鋼管であり、複数(例えば4つ)の隅角部を有する。柱材3の各隅角部は、尖った形状を呈していてもよいが、本実施形態においては丸みを帯びた形状を呈している。複数の柱材3は、上下方向に重ねられ、互いに溶接されることによって柱を構成する。・・・。【0021】図1では、柱材3として、下段に配置される柱材3Aと、上段に配置される柱材3Bとが示されている。柱材3Aは、更に下段に配置される柱材3及び基礎構造物等を介して支持地盤(不図示)等に支持されている。柱材3A,3Bは、互いの中心軸線を一致させるように配置される(以下では、柱材3A,3Bの中心軸線を合わせて「軸線Ax0」という。)。柱材3A,3Bの端面3a同士は、互いに同じ寸法形状を有しており、軸線Ax0まわりの全周に亘って互いに対向している。互いに対向する柱材3A,3Bの端面3aによって、溶接のための開先Gが形成される。現場溶接装置1は、この端面3a同士が対向する箇所(以下では、「溶接対象箇所Wa」という。)を溶接する。」
「【0023】現場溶接装置1は、レール10と、複数(例えば2台)のロボット20と、複数(ロボット20と同数であって、ここでは2つ)のロボット設置用ブロック30と、台車40と、を備える。・・・。」
「【0030】図3に示されるように、各ロボット20は、例えば、汎用の垂直多関節型の6軸ロボットであって、先端部21(アーム先端部)と、台座部22と、台座部22に対する先端部21の位置及び姿勢を変更する多関節アーム部23と、先端部21に設けられたツール24と、ロボットコントローラ25とを有する。」
「【0034】ツール24としては、センサ用ツール24Aと、溶接ツール24Bとが挙げられる。センサ用ツール24Aは、センサ用ロボット20Aの先端部21に設けられている。センサ用ツール24Aは、開先Gの情報を取得する開先センサ24aと、開先センサ24aを先端部21に装着する装着部24bとを含む。開先センサ24aは、接触式のセンサ(例えばタッチセンサ)であってもよいが、本実施形態においては、非接触式で開先Gの位置情報を取得可能なセンサ(例えばレーザーセンサ)である。開先センサ24aには、スリット(不図示)が設けられていてもよい。」
「【0050】作業工程は、図7(a)に示される第1工程と、図7(b)に示される第2工程とを含む。第1工程においては、図1及び図7(a)に示されるように、レール10上で走行を停止した状態のセンサ用ロボット20Aが溶接対象物Wに対する動作を行うことにより、溶接対象箇所Waの開先Gの情報を取得する。なお、図7(a)においては、溶接ロボット20Bの図示を省略している。センサ用ロボット20Aは、はじめに、柱材3Aの一の隅角部に対向する位置において停止し、この位置から動作経路R1に亘って先端部21のセンサ用ツール24Aを動かして溶接対象箇所Waのうちの一部(ここでは、半分)の開先Gの情報を取得する。具体的には、センサ用ロボット20Aは、図8(a)に示されるように、柱材3A,3Bの内側面3cに設けられた裏当金物6、及び、柱材3A,3Bの各端面3aによって形成される開先Gの情報を取得する。これにより、1つの第1工程が完了する。その後、センサ用ロボット20Aは、レール10上において、軸線Ax0まわりに180°走行した位置に移動する。」
「図7[図:0001432709000012.jpg]図8[図:0001432709000013.jpg]」
エ 周知技術1
上記ア~ウから、次の技術的事項は、本件出願前において周知例文献A~Cに例示された周知技術(以下「周知技術1」という。)であったことが把握できる。
「開先を溶接するにあたり、タッチセンシングを用いたセンシング手段に基づいて開先形状情報を算出すること。」
(5)本件補正発明と引用発明1との対比
ア 本件補正発明と引用発明1との対比による相当関係
本件補正発明と引用発明1とを対比すると、以下のことがいえる。
(ア)引用発明1における「角鋼管10、12」は、溶接の対象物であるから、本件補正発明における「ワーク」に相当し、また、引用発明1における「レール18」及び「ガスメタルアーク溶接」は、本件補正発明における「ガイドレール」及び「アーク溶接」のそれぞれに相当する。
(イ)引用発明1における「走行台車34及び溶接台車30並びに溶接トーチ42」は、角鋼管10にL字型の移動用レール18を固定し当該レール18上に設けられる(段落【0010】~【0011】)から「可搬型」であるといえ、また、制御動作がCPU50を中心として行われる(段落【0013】)ものであるから、本件補正発明における「可搬型溶接ロボット」に相当する。また、引用発明1における「自動溶接装置」は、本件補正発明における「溶接制御装置」に相当する。
(ウ)引用発明1における「溶接トーチ42の位置」は、本件補正発明における「トーチ位置」に相当する。また、引用発明1における「前記角鋼管10、12上の溶接トーチ42の位置を検出する」ことは、溶接台車の位置を検出してこの位置情報をエンコーダ58からサーボコントローラ54へ戻し、サーボ動作によって溶接台車をより正確な位置へと移動させる(段落【0013】)等により、溶接トーチ42の先端部を角鋼管10、12上の任意の位置へ移動させる(段落【0012】)ものであり、正確な位置であるかを判定する機能を内在するといえるから、本件補正発明における「前記ワーク上のトーチ位置を判定する」ことに相当する。したがって、引用発明1における「トーチ位置検出機能」は、本件補正発明における「トーチ位置判定部」に相当する。
(エ)引用発明1における「開先の幅S(r)」は、rの位置における開先の幅であって、開先の形状等に基づいて求められる(段落【0015】、【0020】)から、本件補正発明における「開先形状情報」に相当する。
(オ)引用発明1における「開先幅算出機能」は、「開先形状情報」(開先の幅S(r))を算出するにあたり、開先の形状等に基づいて求める(段落【0015】、【0020】)ものであって、当該開先の形状は何らかの手段により取得されるといえることから、引用発明1における「開先幅算出機能」と本件補正発明の「開先条件算出部」とは、「所定の手段に基づいて前記開先形状情報を算出する」「開先条件算出部」である点の限りで一致する。
(カ)引用発明1における「溶接台車の速度」は、溶接条件の1つ(段落【0012】)であって、溶接トーチ42の角度に関する条件とは異なるから、本件補正発明における「トーチ角度以外の他の溶接条件」に相当し、また、引用発明1における「溶接台車30の速度を計算する」ことは、「開先形状情報」(開先の幅S(r))を含む(1)~(3)式(【数1】~【数3】)に基づいて、溶接台車30の速度を求める(段落【0017】)ことから、本件補正発明における「他の溶接条件を算出する」ことに相当する。したがって、引用発明1における「溶接速度計算機能」は、本件補正発明における「溶接条件算出部」に相当する。
イ 一致点
上記アから、本件補正発明と引用発明1とは、次の点で一致する。
「 角部を有するワークに対してガイドレールを設置し、前記ガイドレール上を移動して前記ワークをアーク溶接する可搬型溶接ロボットを制御するための溶接制御装置であって、前記ワーク上のトーチ位置を判定するトーチ位置判定部と、開先形状情報を算出する開先条件算出部と、前記トーチ位置におけるトーチ角度以外の他の溶接条件を算出する溶接条件算出部と、を有し、前記トーチ位置判定部は、前記ワーク上のトーチ位置を判定し、前記開先条件算出部は、所定の手段に基づいて前記開先形状情報を算出し、前記溶接条件算出部は、前記開先形状情報に基づいて、前記トーチ位置における前記他の溶接条件を算出し、前記トーチ位置において、前記他の溶接条件の制御を行う溶接制御装置。」
ウ 相違点
他方、本件補正発明と引用発明1とは、次の相違点1~2で相違する。
(ア)相違点1
トーチ角度の制御及び溶接条件の制御に関し、本件補正発明は、トーチ位置におけるトーチ角度を算出するトーチ角度算出部を有し、トーチ角度算出部は、トーチ位置におけるトーチ角度を算出し、算出されたトーチ角度に基づき、トーチ角度を制御し、トーチ位置において、トーチ角度の制御を行うとともに、他の溶接条件の制御を行うのに対し、引用発明1は、かかるトーチ角度算出部を有さず、また、算出されたトーチ角度に基づいてトーチ角度を制御することを行っておらず、トーチ位置における溶接台車の速度の制御は、トーチ角度の制御とともに行っていない点。
(イ)相違点2
所定の手段に基づいて開先形状情報を算出することに関し、本件補正発明においては、少なくともタッチセンシングを用いたセンシング手段に基づくのに対し、引用発明1においては、開先形状に基づくものの、当該開先形状の取得が少なくともタッチセンシングを用いているのか、不明である点。
(6)相違点についての判断
ア 相違点1について
上記相違点1について検討する。
引用文献2には、上記(3)ウに示した引用文献2記載の技術的事項が記載されている。
引用発明1と引用文献2記載の技術的事項とは、いずれも、ガイドレール上を移動しながら自動で溶接を行う点で技術分野が関連し、また、機能・作用が共通する。
そして、引用文献1には、直線部から曲線部へ移行する瞬間のトーチ狙い角、すなわち、図8(B)及び(C)における角Δφの実用的な許容範囲として|Δφ|の最大値を、20°以下とすることが望ましい(段落【0021】)ことが記載されるが、引用発明1においては、施工条件によっては当然にそれに収まらない場合も想定され得るから、トーチ角度をその範囲に収めるように制御する動機があるといえる。その場合において、引用発明1に、前記(3)ウに示した引用文献2記載の技術的事項を適用して、上記相違点1に係る本件補正発明のように、トーチ位置におけるトーチ角度を算出するトーチ角度算出部を設け、算出されたトーチ角度に基づき、トーチ位置において、溶接台車30の速度の制御を行うとともに、トーチ角度の制御を行うようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
イ 相違点2について
上記相違点2について検討する。
引用発明1と上記(4)エの周知技術1である「開先を溶接するにあたり、少なくともタッチセンシングを用いたセンシング手段に基づいて開先形状情報を算出すること。」とは、開先を溶接する技術である点で技術分野が関連し、開先形状情報を算出して、開先を溶接する点で機能・作用が共通する。また、引用発明1においても開先の形状を取得する必要があることから、引用発明1において、開先の形状を取得するために、周知技術1を採用し、相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 審判請求書での主張について
(ア)請求人の主張の概要
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請求人は、審判請求書において、概略、次の点を主張する。
原査定において「開先が形成された溶接部について、センシング手段に基づいて開先形状情報を算出し、当該開先形状情報に基づいて、溶接条件を算出(設定)することは、引用文献4(当審注:後述の第3の2の引用文献4、段落0007、段落0012)又引用文献5(当審注:後述の第3の2の引用文献5、請求項1、第2ページ右上欄)に記載されているように、周知の技術である。」と認定したことに対して、引用文献4の開先測定装置20は、レーザ光源14及び撮像装置15を用いて開先形状を測定することが開示されているのみであり、「タッチセンシングを用いたセンシング手段に基づいて開先形状情報を算出する」ことについては開示も示唆も全くなく、及び、引用文献5においては、被溶接母材1の開先部2に対して線状光束3を照射装置4によって照射し、撮像装置5により開先内の照射線像を撮像し、開先断面の形状を撮像する光切断法が記載されているものの「タッチセンシングを用いたセンシング手段に基づいて開先形状情報を算出する」ことについては開示も示唆も全くない。(審判請求書7ページ下から1行目~8ページ13行)。
(イ)上記(ア)の主張に対する当審の判断
しかしながら、当審は、次のとおり、上記(ア)の主張には首肯できない。
本件補正前の請求項8に係る発明(上記1(2))では、センシング手段に基づいて開先形状情報を算出することに関し、タッチセンシング、レーザーセンシング、視覚センシングのうち、少なくとも一つのセンシング手段に基づくことが特定されるように、本件補正発明8にて特定されるセンシング手段よりも上位概念のものであった。
そして、第3の4で後述するとおり、上記引用文献4~5は、センシング手段に基づいて開先形状情報を算出することに関し、このような上位概念のセンシング手段に対して周知例として示されたものである。
他方、本件補正発明は、センシング手段に基づいて開先形状情報を算出することに関し、センシング手段を、少なくともタッチセンシングを用いたものに限定しているものの、タッチセンシングを用いたセンシング手段に基づいて開先形状情報を算出することは、前記(4)に示したとおり、周知例文献A~Cに例示される周知技術1であるといえ、引用発明1の「開先形状情報」を算出するための開先の形状を取得する手段として、当該周知技術1を適用することは、上記(6)イのとおり、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、上記(ア)の主張は採用できない。
(7)本件補正の適否(独立特許要件)の小括
したがって、本件補正発明は、引用発明1、引用文献2記載の技術的事項、及び周知例文献A~Cに例示される上記周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
上記2のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。
第3 本件発明について
1 本件発明8
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本件出願の請求項1~11に係る発明は、令和6年3月13日提出の手続補正書により補正がされた特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項8に係る発明(以下「本件発明8」という。)は、前記第2[理由]1(2)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、本件発明8に対する拒絶の理由は、概略、次のとおりである。
理由(特許法第29条第2項:進歩性)
本件発明8は、本件出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術的事項、及び、引用文献4~5に例示される周知技術に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
<引用文献>
3 引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術的事項、及び、周知技術2
(1)引用発明1、及び引用文献2記載の技術的事項の認定
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献のうち、引用文献1に記載された発明(引用発明1)、及び、引用文献2に記載された技術的事項(引用文献2記載の技術的事項)は、前記第2の[理由]3(2)ウ及び同(3)ウにそれぞれ示したとおりである。
(2)周知技術2の認定
ア 引用文献4に記載された事項
「【0007】【作用】本発明によれば、開先測定装置で開先の形状を測定して蓄積されたデータにより、開先形状の合否判定を行い、その後、開先形状に応じた溶接条件により開先を倣いながら溶接装置で溶接を行い、さらに、開先形状に応じて開先を倣いながら超音波探傷装置で溶接欠陥の位置を測定し評価する。この場合、溶接装置及び超音波探傷装置における開先倣いには、走査装置が利用できる。【0008】【実施例】図1は本発明の実施例を示す全体構成図である。図において、1は鋼管、2は鋼管1の開先、3は鋼管1に設置されたレール、4はレール3上を鋼管1の円周方向に走行しかつ管軸方向に走行(スライド)する走査装置である。また、20は開先2の形状を測定してそのデータを作成し、かつ測定した開先形状の合否判定を行う開先測定装置、30は2つの鋼管を溶接する溶接装置、40は溶接部に生じた欠陥の位置を測定する超音波探傷装置であって、これらの各装置又は装置を構成する一部は走査装置4に取付けられる。50は開先測定装置20で得られた開先形状データが記憶されたメモリカードである。」
「【0012】図5は図1の溶接装置30の一例を示す構成図である。溶接装置30はデータ記憶装置31、溶接制御装置32、実際に溶接を行う溶接トーチ33、溶接トーチ33が取付けられた走査装置34から構成される。開先形状データが記憶されたメモリカード50がデータ記憶装置31に入力されると、溶接制御装置32が走査装置34を介して溶接トーチ33の位置、高さを開先形状に応じて制御し、また溶接電流、溶接電圧を開先形状に応じて制御しながら、溶接トーチ33を鋼管1の円周方向に走行して、開先2の部分を溶接する。【0013】図6は光切断法を利用した開先測定装置の一例を示す構成図である。開先測定装置20はレーザ光源14、撮像装置15、開先形状推定装置23、合否判定装置22、データ記憶装置21から構成される。なお、16はレーザ光源14から照射されたレーザである。レーザ光源14と撮像装置15により得た情報から開先形状推定装置23で開先2の形状を推定し、推定された開先形状は合否判定装置22に入る。合否判定装置22には予め合格とする開先形状の許容範囲や、溶接条件の制御範囲を記憶させておき、推定された開先形状とこれらの記憶していたデータとを比較することにより合否を判定する。開先形状が定められた許容範囲に合致しない場合は、再度開先を合わせる作業を行う。開先測定装置20で測定された開先形状のデータは、データ記憶装置21に記憶され、メモリカード50を使って外部に取り出すこともできるようにしている。なお、この実施例では、データ記憶装置21を開先測定装置20を構成する装置としたが、開先測定装置20とは別の構成としてもよい。」
「図1[図:0001432709000014.jpg]」
「図6[図:0001432709000015.jpg]」
イ 引用文献5に記載された事項
(ア)特許請求の範囲
「 溶接線方向に対してほぼ直角な線状光束を開先に照射する光学装置と、照射線像を特定の角度から撮像する撮像装置と、撮像された像を記憶する記憶装置と、記憶された画像データのうち必要なデータの座標を抽出する座標抽出装置と、抽出された座標値に対して開先形状および位置を推定する推定装置と、推定結果から溶接条件を算出する演算装置と、該演算結果に基づく溶接条件に応じて作動する制御装置とから成る自動溶接装置。」
(イ)1ページ左下欄15~16行
「 本発明は、自動溶接装置における光学式非接触型の開先倣い装置に関する。」
(ウ)1ページ右下欄18行~2ページ左上欄5行
「第1図は自動制御装置の基本構成を示し、被溶接母材(1)の開先部(2)に対して溶接線に対し直角に線状光束(3)を照射装置(4)によって照射し、開先部(2)および照射装置(4)に対し適切な角度から撮像装置(5)により開先内の照射線像を撮像する。かかる開先断面の形状を撮像する方法は光切断法と称さるものである。次に撮像された画像を記憶装置(6)に転送する。」
(エ)第2ページ右上欄第8~12行
「そして画像を検出した位置をトーチが通過する間、信号を遅延装置(10)により遅延させ、その後電力制御装置(11)にて台車の速度、電流および電圧調整による入熱エネルギ、ワイヤの送り速度を制御しつつ溶接を行なう。」
(オ)第1図
「[図:0001432709000016.jpg]」
ウ 周知技術2
上記ア~イから、引用文献4には開先測定装置20が、引用文献5には光学式非接触型の開先倣い装置がそれぞれ記載されていること、そのほか、例えば、上記第2[理由]2(4)ア~ウにおける周知例文献A~Cのそれぞれの記載事項からみて、次の技術的事項は、本件出願前において周知技術(以下「周知技術2」という。)であったと把握できる。
「開先を溶接するにあたり、タッチセンシング、レーザーセンシング、視覚センシングのうち、少なくとも一つのセンシング手段に基づいて開先形状情報を算出すること。」
4 対比
本件発明8は、前記第2の[理由]1で検討した本件補正発明の少なくともタッチセンシングを用いたと限定されたセンシング手段に対して、当該タッチセンシングに、レーザーセンシング、視覚センシングの選択肢が加わったものに相当するといえる。
してみると、本件発明8と引用発明1とは、上記第2[理由]2(5)イと同様の点で一致し、上記第2[理由]2(5)ウ(ア)に示した相違点1と同様の点(以下「相違点3」という。)で相違するとともに、次の相違点4で相違する。
・相違点4
所定の手段に基づいて開先形状情報を算出することに関し、本件発明8においては、タッチセンシング、レーザーセンシング、視覚センシングのうち、少なくとも一つのセンシング手段に基づいているのに対し、引用発明1においては、開先形状に基づくものの、当該開先形状の取得が当該センシング手段に基づいているのか、不明である点。
5 判断
上記相違点3~4について検討する。
(1)相違点3
相違点3についてみると、上記第2[理由]2(6)アに記載した理由と同様に、引用発明1に引用文献2記載の技術的事項を適用して、上記相違点3に係る本件発明8のように構成することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(2)相違点4
上記相違点4について検討する。
引用発明1と上記3(2)の周知技術2である「開先を溶接するにあたり、タッチセンシング、レーザーセンシング、視覚センシングのうち、少なくとも一つのセンシング手段に基づいて開先形状情報を算出すること。」とは、開先を溶接する技術である点で技術分野が関連し、開先形状情報を算出して、開先を溶接する点で機能・作用が共通する。また、引用発明1においても開先の形状を取得する必要があることから、引用発明1において、開先の形状を取得するために周知技術2を採用し、相違点4に係る本件発明8の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
6 本件発明8についてのまとめ
したがって、本件発明8は、引用発明1、引用文献2記載の技術的事項、及び、周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本件発明8は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-015109