特許拒絶査定不服審判
2024-013559
コンクリート構造物補強用繊維シート
- 審判番号
- 2024-013559
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-542973外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2024年08月22日
- 審決日
- 2026年03月02日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】デンカ株式会社
- 【請求人代理人】アクシス国際弁理士法人
- 分類
- P18 .121-Z (E04G)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-542973「コンクリート構造物補強用繊維シート」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 3月 4日国際公開、WO2021/039858〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)8月26日を国際出願日とする日本語特許出願であって(優先権主張 令和元年8月27日(以下「優先日」という。))、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
令和 5年 9月15日付け:拒絶理由通知書
同年11月 9日 :意見書、手続補正書の提出
同年12月15日付け:拒絶理由通知(最後)
令和 6年 2月27日 :意見書の提出
同年 5月22日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
同月30日 :原査定の謄本の送達
同年 8月22日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和6年8月22日に提出された手続補正書による補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年8月22日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、令和5年11月9日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項10における
(補正前)
「【請求項10】
フィラメントを組み合わせた目付量が500g/m2~1000g/m2かつ目開きが1~25mmである多軸メッシュシート(A)に、マトリックス樹脂(B)を含浸させるステップと、
含浸させた前記マトリックス樹脂(B)を、加熱処理及び/又は活性エネルギー線照射処理によって硬化及び/又は非流動化させることで、前記多軸メッシュシート(A)と前記マトリックス樹脂(B)とを一体成型し、繊維シートを得るステップと
を含むコンクリート構造物補強用繊維シートの製造方法。」を、
審判請求時に提出された手続補正書(令和6年8月22日提出)の特許請求の範囲の請求項1における
(補正後)
「【請求項1】
フィラメントを組み合わせた目付量が500g/m2~1000g/m2かつ目開きが1~25mmである多軸メッシュシート(A)に、マトリックス樹脂(B)を含浸させるステップと、
含浸させた前記マトリックス樹脂(B)を、加熱処理及び/又は活性エネルギー線照射処理によって硬化及び/又は非流動化させることで、前記多軸メッシュシート(A)と前記マトリックス樹脂(B)とを一体成型し、繊維シートを得るステップと
を含み、
前記多軸メッシュシート(A)が、少なくとも二軸以上のガラス繊維シートであり、前記ガラス繊維シートが、少なくともZrO2を12質量%以上、及びR2O(RはLi、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種)を10質量%以上含有する、コンクリート構造物補強用繊維シートの製造方法。」にする補正を含むものである(下線は、補正箇所を明示するために当審にて付した。)。
2 補正の適否
2-1 補正の目的及び新規事項について
本件補正は、本件補正前の請求項10に記載した発明を特定するために必要な事項である「多軸メッシュシート(A)」が「少なくとも二軸以上のガラス繊維シートであり、前記ガラス繊維シートが、少なくともZrO2を12質量%以上、及びR2O(RはLi、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種)を10質量%以上含有する」ことを限定する補正を含むものである。
そして、補正後の請求項1に係る発明は、補正前の請求項10に係る発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正のうち本件補正前の特許請求の範囲の請求項10(本件補正後の特許請求の範囲の請求項1)についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。
また、本件補正の補正事項は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の【請求項5】及び段落【0039】~【0041】の記載に基づくものであり、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術事項を導入するものではないから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
2-2 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明1」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否かについて、以下に検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明1は、次のとおりのものであると認める。
「【請求項1】
フィラメントを組み合わせた目付量が500g/m2~1000g/m2かつ目開きが1~25mmである多軸メッシュシート(A)に、マトリックス樹脂(B)を含浸させるステップと、
含浸させた前記マトリックス樹脂(B)を、加熱処理及び/又は活性エネルギー線照射処理によって硬化及び/又は非流動化させることで、前記多軸メッシュシート(A)と前記マトリックス樹脂(B)とを一体成型し、繊維シートを得るステップと
を含み、
前記多軸メッシュシート(A)が、少なくとも二軸以上のガラス繊維シートであり、前記ガラス繊維シートが、少なくともZrO2を12質量%以上、及びR2O(RはLi、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種)を10質量%以上含有する、コンクリート構造物補強用繊維シートの製造方法。」
(2)引用文献1の記載事項、引用発明
ア 記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用され、本願の優先日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2009-162033号公報(平成21年7月23日公開)(以下「引用文献1」という。)には、「繊維シート接着工法」(発明の名称)に関し、次の事項が記載されている。なお、下線は当審にて付した。以下同じ。
「【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート製のトンネル・高架道路・橋梁や、地下鉄構内・PC造・RC造・SRC造の建築物などのコンクリート構造物の表面に補強用の繊維シートを接着して被覆することでコンクリート構造物からのコンクリート片の剥落を防止する繊維シート接着工法に関するものである。」
「【0028】
(繊維シート)
先ず、本実施の形態の繊維シート接着工法に用いる繊維シートについて説明する。図1は、この繊維シートの部材断面を模式的に表した構成説明図である。図1に示すように、繊維シートである透明シート1は、樹脂繊維を補強繊維2とし、後述の基材樹脂3を補強繊維2に含浸させて硬化させ、厚さが0.5mm程度のフィルム状に成形した常温で可撓性を有する透明又は半透のFRPシートであり、従来の繊維シート(プリプレグシートなど)が貼着後に熱やエネルギー線によってラジカルを発生させて熱硬化や光硬化させるのに対して既に貼着する前に硬化している点で相違する。また、透明シート1が汚れたり、傷ついたりするのを保護するために、透明シート1の両面に、保護フィルム1a,1bが設けられている。この保護フィルム1a,1bは、ポリエステル樹脂からなる厚さ20~60μm程度の透明なフィルムであり、適度な柔軟性などを考慮すると、ポリエチレン・テレフタテレート樹脂からなるフィルムであることが好ましい。
【0029】
<補強繊維>
図2は、図1の繊維シートの複合モノフィラメントの製法を示す説明図である。繊維シート1の補強繊維2(図1参照)は、融点の比較的高いマルチフィラメントの束を芯繊維21とし、その周りを低融点のオレフィン系樹脂22で鞘状に被覆して1本の連続長繊維とした複合モノフィラメント20からなり、図2に示すように、芯繊維21の周りを低融点のオレフィン系樹脂22で被覆した複数本の複合マルチフィラメント23未延伸糸(繊維)を、マルチフィラメントの融点以下の高温下で圧力をかけてマルチフィラメントよりも融点の低い低融点のオレフィン系樹脂22を溶融させて延伸することで製造されている。
【0030】
この芯繊維21となるマルチフィラメントとしては、鞘成分の低融点のオレフィン系樹脂22より融点が20℃程度高いものであればよく、例えば、ビニロン繊維のごとく明瞭な融点を有しないもの、超高分子量ポリエチレン繊維の如く溶融しても極めて高粘度のもの、あるいは芳香族ポリアミド繊維、ポリベンツオキサゾール繊維のような液晶高分子繊維などの熱融着し難い有機繊維、あるいは炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維などの無機繊維などが挙げられる。マルチフィラメントの構成は、単繊維径が概ね0.5~50μm、フィラメントが10~500本程度のものであって、トータル繊度は、概ね100~5000dtexが好ましく、100dtex未満であると、メッシュ状体として、目的とする物性が得られ難くなり、5000dtexを超えると柔軟性や追随性が損なわれる虞がある。よって、500~3000dtex程度が好ましい。
・・・
【0033】
図3は、図1の繊維シートの補強繊維の平面形状の一例として挙げる3軸メッシュ状体を示す平面図である。図3に示すように、本実施の形態に係る補強繊維2は、前記の複合モノフィラメント20を等間隔に配列したものを繊維方向が全て異方向で等角交差するよう3層に積層し、その交点で鞘成分である低融点のオレフィン系樹脂成分を溶融して複合モノフィラメント同士を熱融着し、3軸メッシュ状体2aに成形されている。このように、補強繊維2の形状を3軸メッシュ状体2aに成形したのは、透明シート1(図1参照)に作用する力がどの方向に働くかは予め分からないため、補強繊維の強軸方向である繊維方向を全て違う方向として等角3方向にすればあらゆる方向に働く力に対応し得るからである。また、3軸メッシュ状体2aの開口は、補修後の外部からの視認性を考慮すると光の透過率が30%以上のものであることが好ましい。
【0034】
この補強繊維2からなる3軸メッシュ状体2aは、基材樹脂3(図1参照)との濡れ性を向上させて接着強度を向上させるために、その補強繊維2の表面が改質されている。この表面改質は、少なくとも濡れ指数が34mN/m以上となるように改質されており、より好ましくは、56mN/m以上となるようにする。濡れ指数56mN/m以上とすると、半年程度の保管でも濡れ指数34mN/m以上を保持できるので、保管管理にゆとりが持て、透明シート1の可使用期間を長くすることができる。
【0035】
この表面改質処理の方法としては、コロナ放電処理やプラズマ処理などの乾式表面改質処理が簡単な施設で高速連続処理が行える点で好ましく、他の方法としては、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理、電子線照射処理、スルホン化などの親水性官能基付与処理などの表面処理方法が挙げられる。
【0036】
<基材樹脂>
基材樹脂3は、(図1参照)補強繊維2との接着性が良好で、即ち、前記のように濡れ指数が所定の範囲内であり、常温で可撓性を有する樹脂であり、且つ、施工中や施工後にコンクリート構造物のひび割れの進展状況などの下地の劣化状況を目視で確認することができるように、所定の透明性を有するように調整された透明又は半透明の樹脂である。本実施の形態では、基材樹脂3は、アクリル樹脂又はビニルエステル樹脂を主剤樹脂とする組成物からなるが、耐候性、耐光性、透明性、柔軟性、防汚性の観点からアクリル樹脂を主剤樹脂とすることが好ましい。このアクリル樹脂とは、アクリル基又はメタクリル基を有する重合性モノマーの重合により形成される重合体を主成分とする樹脂を指す。
また、アクリル樹脂自体も耐光性は有しているが、紫外線に対する耐久性を更に高くし、直射日光に長期間晒されてもあまり経年劣化しないように、紫外線吸収剤などを基材樹脂3に所望の透明性が得られる範囲内で含有させてもよい。その他、基材樹脂3には、必要に応じて防カビ剤、抗菌剤、難燃剤等を添加することもできる。
【0037】
また、下地の劣化状況を目視で確認する観点から基材樹脂も所定の透明性を確保していることが望ましく、そのため、基材樹脂3は、ヘイズ値(濁度)が20%以下で、全光線透過率が80%以上となるように調整されている。なお、このヘイズ値と全光線透過率は、厚さ0.5mmの透明シート1の成形品を、JIS-K7361およびJIS-K7136に従って測定した値である。
なお、前述の補強繊維2に含浸させる際の基材樹脂3の溶液粘度としては、100~50000cPであることが好ましく、800~1000cPであればより好ましい。」
イ 認定事項
上記アの【0028】には「繊維シートである透明シート1は、樹脂繊維を補強繊維2とし、基材樹脂3を補強繊維2に含浸させて硬化させ」ていることから、「繊維シートである透明シート1」をステップに応じて製造する方法が記載されていると認められる(以下「認定事項」という。)。
ウ 引用発明
上記ア及びイより、引用文献1には次の事項が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。
「樹脂繊維を補強繊維2とし、基材樹脂3を補強繊維2に含浸させて硬化させる繊維シートである透明シート1をステップに応じて製造する方法であって(【0028】、認定事項)、
繊維シートは、コンクリート構造物からのコンクリート片の剥落を防止する繊維シート接着工法の補強用の繊維シートであり【0001】)、
従来の繊維シート(プリプレグシートなど)が貼着後に熱やエネルギー線によってラジカルを発生させて熱硬化や光硬化させるのに対して既に貼着する前に硬化しており、厚さが0.5mm程度のフィルム状に成形した常温で可撓性を有する透明又は半透のFRPシートであって(【0028】)、
繊維シート1の補強繊維2は、マルチフィラメントの束を芯繊維21とし、その周りを低融点のオレフィン系樹脂22で鞘状に被覆して1本の連続長繊維とした複合モノフィラメント20からなり、芯繊維21となるマルチフィラメントとしては、ガラス繊維が挙げられ(【0029】、【0030】)、
繊維シートの補強繊維の平面形状は、繊維方向が全て異方向で等角交差するよう3層に積層し、その交点で鞘成分である低融点のオレフィン系樹脂成分を溶融して複合モノフィラメント同士を熱融着した3軸メッシュ状体2aであって、3軸メッシュ状体2aの開口は、補修後の外部からの視認性を考慮すると光の透過率が30%以上のものであることが好ましく(【0033】)、
基材樹脂3は、補強繊維2との接着性が良好で、常温で可撓性を有する所定の透明性を有するように調整された透明又は半透明の樹脂であって(【0036】)、
下地の劣化状況を目視で確認する観点から基材樹脂も所定の透明性を確保していることが望ましく、そのため、基材樹脂3は、ヘイズ値(濁度)が20%以下で、全光線透過率が80%以上となるように調整されている(【0037】)
繊維シートである透明シート1を製造する方法(【0028】)。
(3)引用文献2の記載事項、引用文献2記載の技術事項
ア 記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用され、本願の優先日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2000-199208号公報(平成12年7月18日公開)(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、橋梁における版状コンクリート構造体の補強方法に関し、より詳しくは強化繊維からなる二方向織りの繊維シートを用いて、版状コンクリート構造体の下面から作業を行う補強方法に関する。」
「【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の版状コンクリートの補強方法について詳細に説明する。
〔繊維シート〕
本発明における繊維シートは、1種または2種以上の強化繊維をバスケット織りによって縦と横の二方向に織りあげたものである。
前記繊維シートに使用する強化繊維としては、アラミド繊維等の有機繊維、炭素繊維、ガラス繊維等のほか、従来公知の種々の化学繊維等が挙げられる。これらは、単独で用いるほか、二種以上を混合して用いることもできる。
【0016】
前記繊維シートの耐力は、たて糸方向およびよこ糸方向ともに35~90トン重/mの範囲であるのが好ましい。耐力が前記範囲を下回ると補強効果が小さく、逆に前記範囲を超えるとシートの目付け量(繊維の量)が多くなりすぎて樹脂の含浸が困難になる。前記繊維シートの耐力は、前記範囲の中でも45~80トン重/mであるのが好ましく、45~60トン重/mであるのがより好ましい。
また、前記繊維シートの目付け量は、400~1300g/m2であるのが好ましく、より好ましくは550~1100g/m2、さらに好ましくは650~900g/m2である。本発明における目付け量の測定は、JIS L 1096「一般織物試験方法」の「6.4 単位面積当たりの質量」に記載の方法に従って測定したものであって、単位面積当たりの絶乾重量で表したものである。
【0017】
なお、縦方向と横方向との二方向の補強を行うための繊維シートとしては、強化繊維をバスケット織りしたもののほかに、一方向に引き揃えた強化繊維シート2枚を縦横に直交するように重ねた上で両者を補助糸で粗く結束した、たて・よこ糸挿入ラッシェル経編み(以下、「二重ラッシェル」という)が挙げられる。しかしながら、後述するように、二重ラッシェルの繊維シートはバスケット織りのものに比べて版状コンクリート構造体に対する接着力が低かったり、補強効果が低いため、本発明の用途には不十分である。」
イ 引用文献2記載の技術事項
上記アより、引用文献2には次の事項が記載されていると認められる(以下「引用文献2記載の技術事項」という。)。
「版状コンクリート構造体の下面から作業を行う補強方法に用いる強化繊維からなる二方向織りの繊維シートにおいて(【0001】)、
繊維シートは、1種または2種以上の強化繊維をバスケット織りによって縦と横の二方向に織りあげたものであって、強化繊維としては、ガラス繊維が挙げられ(【0016】)、
繊維シートの耐力は、たて糸方向およびよこ糸方向ともに35~90トン重/mの範囲であるのが好ましく、耐力が前記範囲を下回ると補強効果が小さく、逆に前記範囲を超えるとシートの目付け量(繊維の量)が多くなりすぎて樹脂の含浸が困難になり、繊維シートの目付け量は、650~900g/m2であること(【0016】)。」
(4)引用文献3の記載事項、引用文献3記載の技術事項
ア 記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用され、本願の優先日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2010-216144号公報(平成22年9月30日公開)(以下「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコンクリート等の構造物の補強を図るときに特に曲面に用いて好適な繊維強化プラスチックシートに関する。」
「【0025】
強化繊維プラスチックシートの経糸は、長さ方向に引き揃えてある糸条よりなり、例えば炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、PBO(ポリフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの高強度繊維が経糸として使用される。またこの経糸は、2種類以上のハイブリッドにしたものであっても良い。特に軽量で現場施工性に優れ、しかも、決して錆びることのない、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、PBO(ポリフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維等の高強度、高弾性率な経糸が好ましく、中でも、比強度、比弾性率の高い炭素繊維が好適である。
【0026】
また、緯糸は形状を保持できればよく、ガラス繊維や有機繊維を用いることができる。有機繊維はアラミド繊維、ポリエステル繊維などを用いることが出来るがこれに制限するものではない。」
「【0037】
また、強化繊維布帛の目付は、100~1,000g/m2であるのが好ましい、目付が1,000g/m2を超えると曲面に沿わせることが難しくなるだけでなく、厚みが大きくなる傾向にあるため、図6に示すとおり、端部の重ね合わせ継ぎ手部7で段差が大きくなり、応力集中により破壊の起点となりやすい。一方、100g/m2未満であると、十分な補強効果を得るためには、繊維強化プラスチック板を多く積層することが必要になる。すると、繊維強化プラスチック板の積層作業に手間がかかって作業性が悪くなる。」
イ 引用文献3記載の技術事項
上記アより、引用文献3には次の事項が記載されていると認められる(以下「引用文献3記載の技術事項」という。)。
「コンクリート等の構造物の補強を図るときに特に曲面に用いて好適な繊維強化プラスチックシートにおいて(【0001】)、
強化繊維プラスチックシートの経糸は、ガラス繊維が使用され、緯糸は、ガラス繊維を用いることができ(【0025】、【0026】)、
強化繊維布帛の目付は、100~1,000g/m2であるのが好ましい、目付が1,000g/m2を超えると曲面に沿わせることが難しくなるだけでなく、厚みが大きくなる傾向にあり、100g/m2未満であると、十分な補強効果を得るためには、繊維強化プラスチック板を多く積層することが必要になり、繊維強化プラスチック板の積層作業に手間がかかって作業性が悪くなること(【0037】)。」
(5)引用文献4の記載事項、引用文献4記載の技術事項
ア 記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献7として引用され、本願の優先日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2018-53601号公報(平成30年4月5日公開)(以下「引用文献4」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0007】
本開示は、コンクリート構造体の補強後においても構造体表面の経時観察ができ、且つ、短時間で簡易に施工することが可能なコンクリート剥落防止用多層シートを提供する。」
「【0080】
本開示の別の実施態様のコンクリート剥落防止用多層シートは、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、第1の(メタ)アクリル系感圧接着剤層上の補強基材と、補強基材上の第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層と、を備え、補強基材が約4mm以上の開口長及び約40%以上の開口領域を有し、開口領域に相当する部分が透明性を有する。
【0081】
この実施態様におけるコンクリート剥落防止用多層シートは、補強基材の開口長が約4.0mm以上、約4.5mm以上又は約5.0mm以上であり、約100mm以下、約50mm以下又は約20mm以下であってもよく、開口領域が約40%以上、約45%以上又は約50%以上であり、約90%以下、約85%以下又は約80%以下であってもよく、図10に例示されるように部分的に透明である限り、第1及び第2の(メタ)アクリル系感圧接着剤層及び補強基材としては、上述と同一の構成を採用することができる。部分的に透明な多層シートは、(メタ)アクリル系感圧接着剤が補強基材の所定の大きさの開口部内に侵入していればよく、必ずしもマルチフィラメントの繊維間に侵入しなくてもよいため、補強基材の屈折率、厚さ及び坪量は上記の範囲外であってもよく、目止め剤及び集束剤を含むガラス繊維なども使用することができる。」
イ 引用文献4記載の技術事項
上記アより、引用文献4には次の事項が記載されていると認められる(以下「引用文献4記載の技術事項」という。)。
「コンクリート等の構造物の補強を図るときに特に曲面に用いて好適な繊維強化プラスチックシートにおいて(【0001】)、
コンクリート剥落防止用多層シートは、補強基材が約4mm以上の開口長及び約40%以上の開口領域を有し、開口領域に相当する部分が透明性を有し(【0080】)、
補強基材の開口長が約4.0mm以上、約20mm以下であって、開口領域が約40%以上あり、補強基材としては、目止め剤及び集束剤を含むガラス繊維なども使用することができること(【0081】)。」
(6)引用文献5の記載事項、引用文献5記載の技術事項
ア 記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用され(ただし、本件補正前の請求項10に対しては引用されていない。)、本願の優先日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2002-302877号公報(平成14年10月18日公開)(以下「引用文献5」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、セメント製品や建物の外壁等に使用されるセメントモルタルやコンクリートに埋設しても外観品位を低下させることなく、長期間に亘って十分な補強効果が得られるメッシュ織物を提供することを目的とする。」
「【0009】
【発明の実施の形態】
図1(a)及び(b)に示すように、本発明のメッシュ織物10は、600tex以上の番手を有するガラスロービング12に前記ガラスロービング12の1/5~1/40の番手を有する繊維束13をからませたたて糸と、よこ糸11をからなり、樹脂が含浸してなるため、セメント製品や建物の外壁等の外観品位に優れ、クラックを防止する十分な補強効果が得られる。すなわち、メッシュ織物10の最厚部14と最薄部15の厚さの差が0.55mm以下となり、メッシュ織物をセメント製品の表面付近に埋設しても、セメント製品の表面にメッシュ状の模様が浮き出ず、外観品位を低下させることがなく、また、ガラスロービングの番手が600texより小さくなるとメッシュ織物の引張強度が400(N/25mm)以下となり、クラックを防止するための補強効果が得られず、繊維束の番手がガラスロービングの番手の1/5より大きくなるとガラスロービングがねじれて、厚みが大きくなり引張強度が低下し、ガラスロービングの番手の1/40より小さくなると絡み織りができにくく、繊維束がガラス繊維の場合には、細すぎて紡糸することが困難になるからである。
【0010】
繊維束の種類は、特に限定されないが、ガラス繊維束、アラミド繊維束、カーボン繊維束、ビニロン繊維束、ポリエステル繊維束および綿糸等が適している。
【0011】
よこ糸に使用される繊維束の番手は特に限定されるものではないが、たて糸に使用されるガラスロービングと同じ番手のガラスロービングを使用すれば、メッシュ織物のたて方向とよこ方向の引張強度が同等となり、補強時に異方性がなくなるので更に好適である。
【0012】
また、本発明のメッシュ織物は、ガラスロービングがZrO2を14質量%以上含有する耐アルカリ性ガラス繊維からなるため、これをセメントモルタルに混入してもセメント中のアルカリ性物質によって繊維が浸食されにくい。従って、アルカリ性物質によるガラス繊維の引張強度の低下が防止でき、長期間に亘ってセメントモルタルやコンクリートのクラック防止効果を維持することができる。
【0013】
本発明において使用可能な耐アルカリ性ガラス繊維の具体的組成は、質量%でSiO2 54~65%、ZrO2 14~25%、Li2O 0~5%、Na2O 10~17%、K2O 0~8%、RO(但し、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す) 0~10%、TiO2 0~7%、Al2O3 0~2%であり、より好ましくは、質量%で、SiO2 57~64%、ZrO2 18~24%、Li2O 0.5~3%、Na2O 11~15%、K2O 1~5%、RO(但し、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す) 0.2~8%、TiO2 0.5~5%、Al2O3 0~1%である。」
イ 引用文献5記載の技術事項
上記アより、引用文献5には次の事項が記載されていると認められる(以下「引用文献5記載の技術事項」という。)。
「建物の外壁等に使用されるセメントモルタルやコンクリートに埋設しても外観品位を低下させることなく、長期間に亘って十分な補強効果が得られるメッシュ織物において(【0007】)、
メッシュ織物は、ガラスロービングがZrO2を14質量%以上含有する耐アルカリ性ガラス繊維からなり、セメントモルタルに混入してもセメント中のアルカリ性物質によって繊維が浸食されにくく、アルカリ性物質によるガラス繊維の引張強度の低下が防止でき、長期間に亘ってセメントモルタルやコンクリートのクラック防止効果を維持することができ(【0012】)、
耐アルカリ性ガラス繊維の具体的組成は、質量%でSiO2 54~65%、ZrO2 14~25%、Li2O 0~5%、Na2O 10~17%、K2O 0~8%、RO(但し、Rは、Mg、Ca、Sr、Ba、Znを表す) 0~10%、TiO2 0~7%、Al2O3 0~2%であること(【0013】)。」
(7)引用文献6の記載事項、引用文献6記載の技術事項
ア 記載事項
当審において新たに引用され、本願の優先日前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2008-214175号公報(平成20年9月18日公開)(以下「引用文献6」という。)には、次の事項が記載されている。
「【0020】
上記条件で耐アルカリ性に優れたガラス組成を検証した結果、フッ素を含まない以下の組成範囲であることが判明した。
SiO2:46.0mass%以上58.5mass%以下
ZrO2:14.0mass%以上23.0mass%以下
Al2O3:0.6mass%以上1.5mass%以下
B2O3 :4.0mass%以上10.0mass%以下
R2O :14.0 mass%以上18.0mass%以下
RO : 3.0mass%以上8.5mass%以下
不可避混合物:0.3mass%以下
但しR2OはNa2O、K2O、Li2Oのいずれか、ROはCaO、MgO、BaOのいずれかとする。
【0021】
ここで、SiO2とZrO2はガラスの主構造酸化物であり、前者は46.0mass%以上58.5mass%以下の範囲とする。後者(ZrO2)は含有量が高い程耐アルカリ性は増大するが、多くなるとガラス粘度の増大に加え液相温度も上昇する。したがって、ZrO2は14.0mass%以上23.0mass%以下とする。
・・・
【0024】
R2O(アルカリ金属酸化物)及びRO(アルカリ土塁金属酸化物)はいずれもガラス粘度を低下させる成分で添加することが好ましいが、多量に添加すると、前者の場合は耐アルカリ性が低下し、且つ失透が生じやすくなり、後者の場合は液相温度が上昇するので、R2Oは3.0mass%以上18.0mass%以下とし、ROは3.0mass%以上8.5mass%以下とする。」
「【発明の効果】
【0027】
本発明に係るガラス短繊維は耐アルカリ性に優れるためコンクリート、モルタル又はセメント中に分散させる補強材として好適である。また、アスベストに代わる補強材としても有効である。
また、ガラス短繊維の生産に伴って有害なフッ素化合物が発生することがない。」
イ 引用文献6記載の技術事項
上記アより、引用文献6には次の事項(以下「引用文献6記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「ガラス短繊維は耐アルカリ性に優れるためコンクリート、モルタル又はセメント中に分散させる補強材であって(【0027】)、
耐アルカリ性に優れたガラス組成は、
SiO2:46.0mass%以上58.5mass%以下
ZrO2:14.0mass%以上23.0mass%以下
Al2O3:0.6mass%以上1.5mass%以下
B2O3 :4.0mass%以上10.0mass%以下
R2O :14.0 mass%以上18.0mass%以下
RO : 3.0mass%以上8.5mass%以下
不可避混合物:0.3mass%以下
但しR2OはNa2O、K2O、Li2Oのいずれか、ROはCaO、MgO、BaOのいずれかとし(【0020】)、
ZrO2は含有量が高い程耐アルカリ性は増大するが、多くなるとガラス粘度の増大に加え液相温度も上昇するため、14.0mass%以上23.0mass%以下とし(【0021】)、
R2O(アルカリ金属酸化物)はガラス粘度を低下させる成分で添加することが好ましいが、多量に添加すると、耐アルカリ性が低下し、且つ失透が生じやすくなるので、R2Oは3.0mass%以上18.0mass%以下とすること(【0024】)。」
(8)周知技術
ア 周知技術1
上記(3)イ及び(4)イを総合すると、
「コンクリート用補強シートにおいて、目付量を増加させると補強効果が向上するが、施工性が低下すること。」は本願の優先日前に周知(以下「周知技術1」という。)であると認められる。
イ 周知技術2
上記(6)イ及び(7)イを総合すると、
「コンクリートの補強用に用いられる耐アルカリ性ガラス繊維の具体的組成として、少なくともZrO2を12質量%以上、及びR2O(RはLi、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種)を10質量%以上含有するものを用いること。」は本願の優先日前に周知(以下「周知技術2」という。)であると認められる。
(9)対比
ア 引用発明について
本件補正発明1と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明は「繊維シート1の補強繊維の平面形状は、繊維方向が全て異方向で等角交差するよう3層に積層し、その交点で鞘成分である低融点のオレフィン系樹脂成分を溶融して複合モノフィラメント同士を熱融着した3軸メッシュ状体2aであ」るから、所定の目開き及び目付量があることは明らかである。
また、引用発明は、「樹脂繊維を補強繊維2とし、基材樹脂3を補強繊維2に含浸させて硬化させる繊維シートである透明シート1をステップに応じて製造する方法」の発明であるから、「基材樹脂3を補強繊維2に含浸させ」るステップ、及び、これを「硬化させ」て「透明シート1」を得るステップを有しているといえる。
そうすると、引用発明の「複合モノフィラメント」、「3軸メッシュ状体2」、「基材樹脂3を」「含浸させ」ることは、それぞれ本件補正発明1の「フィラメント」、「多軸メッシュシート(A)」、「マトリックス樹脂(B)を含浸させる」ことに相当する。
よって、引用発明と本件補正発明1の「フィラメントを組み合わせた目付量が500g/m2~1000g/m2かつ目開きが1~25mmである多軸メッシュシート(A)に、マトリックス樹脂(B)を含浸させるステップ」とは、「フィラメントを組み合わせた所定の目付量かつ所定の目開きである多軸メッシュシート(A)に、マトリックス樹脂(B)を含浸させるステップ」を有する点で共通する。
(イ)引用発明は、「繊維シートである透明シート1は、樹脂繊維を補強繊維2とし、基材樹脂3を補強繊維2に含浸させて硬化させ」ており「従来の繊維シート(プリプレグシートなど)が貼着後に熱やエネルギー線によってラジカルを発生させて熱硬化や光硬化させるのに対して既に貼着する前に硬化して」いることから、少なくとも「繊維シートである透明シート1」は「既に貼着する前に硬化し」ていることは明らかである。
そうすると、引用発明と本件補正発明1の「含浸させた前記マトリックス樹脂(B)を、加熱処理及び/又は活性エネルギー線照射処理によって硬化及び/又は非流動化させることで、前記多軸メッシュシート(A)と前記マトリックス樹脂(B)とを一体成型し、繊維シートを得るステップ」とは、「含浸させた前記マトリックス樹脂(B)を、硬化及び/又は非流動化させることで、前記多軸メッシュシート(A)と前記マトリックス樹脂(B)とを一体成型し、繊維シートを得るステップ」を有する点で共通する。
(ウ)引用発明の「芯繊維21となるマルチフィラメント」が「ガラス繊維」である「3軸メッシュ状体2a」は、本件補正発明1の「少なくとも二軸以上のガラス繊維シート」に相当する。
よって、引用発明と本件補正発明1の「前記多軸メッシュシート(A)が、少なくとも二軸以上のガラス繊維シートであり、前記ガラス繊維シートが、少なくともZrO2を12質量%以上、及びR2O(RはLi、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種)を10質量%以上含有する」こととは、「前記多軸メッシュシート(A)が、少なくとも二軸以上のガラス繊維シートである」点で共通する。
(エ)引用発明の「繊維シート」は「コンクリート構造物からのコンクリート片の剥落を防止する繊維シート接着工法の補強用の繊維シート」であるから、上記(ア)の検討をふまえると、引用発明の「繊維シートである透明シート1を製造する方法」は、本件補正発明1の「コンクリート構造物補強用繊維シートの製造方法」に相当する。
上記(ア)~(エ)によれば、本件補正発明1と引用発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。
<一致点>
「フィラメントを組み合わせた所定の目付量かつ所定の目開きである多軸メッシュシート(A)に、マトリックス樹脂(B)を含浸させるステップと、
含浸させた前記マトリックス樹脂(B)を、硬化及び/又は非流動化させることで、前記多軸メッシュシート(A)と前記マトリックス樹脂(B)とを一体成型し、繊維シートを得るステップと
を含み、
前記多軸メッシュシート(A)が、少なくとも二軸以上のガラス繊維シートである、コンクリート構造物補強用繊維シートの製造方法。」
<相違点1>
「多軸メッシュシート(A)」に関して、
本件補正発明1では、「目付量が500g/m2~1000g/m2かつ目開きが1~25mmである」のに対して、
引用発明では、目付量及び目開きが明らかではない点。
<相違点2>
「前記多軸メッシュシート(A)と前記マトリックス樹脂(B)とを一体成型」するにあたり、
本件補正発明1では、「含浸させた前記マトリックス樹脂(B)を、加熱処理及び/又は活性エネルギー線照射処理によって硬化及び/又は非流動化させ」ているのに対して、
引用発明では、「基材樹脂3を補強繊維2に含浸させて硬化させ」る方法は明らかではない点。
<相違点3>
「ガラス繊維シート」に関して、
本件補正発明1では、「少なくともZrO2を12質量%以上、及びR2O(RはLi、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種)を10質量%以上含有する」のに対して、
引用発明では、ガラス繊維の組成が明らかではない点。
(10)当審の判断
ア 相違点1について
上記相違点1について検討すると、上記(8)アのとおり、「コンクリート用補強シートにおいて、目付量を増加させると補強効果が向上するが、施工性が低下すること。」は、本願の優先日前に周知技術である。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0035】及び【0036】に、
「【0035】
<多軸メッシュシート(A)>
多軸メッシュシート(A)の目付量は、500~1000g/m2であり、500~800g/m2であることが好ましい。目付量が500g/m2未満であると、コンクリート構造物の補強方法に必要な引張耐荷重性能が発揮できない。また目付量が1000g/m2を超えると、マトリックス樹脂(B)の含浸が阻害され、コンクリート構造物下地の視認性が低下する。
【0036】
多軸メッシュシート(A)の目開きは、1~25mmであることが好ましく、2~10mmの目開きであることがより好ましい。当該範囲内の目開きのメッシュシートを使用することで、コンクリート構造物との優れた付着性が得られ、FRP引張強度の向上、ひいては延焼性抑制等の効果を有する。」と記載されているが、視認性については、引用発明が「下地の劣化状況を目視で確認する観点から基材樹脂も所定の透明性を確保していることが望まし」いものであることから、引用発明も考慮すべきものであり、その余のことは、隙間のある構造体に付着や含浸させる製造過程において、当然考えられる制約事項程度であるから、基材樹脂等との関係において、最適な範囲に設計することは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎず、適宜設定する程度のものであり、また、具体的な数値範囲として、目付量を650~900g/m2とすることは上記(3)イに、目開きを約4.0mm以上、約20mm以下とすることは(5)イに、それぞれ記載されているから、本件補正発明1における「目付量が500g/m2~1000g/m2かつ目開きが1~25mm」は、格別設定が困難な数値範囲ではない。また、その数値範囲とすることによる格別顕著な効果も認められない。
イ 相違点2について
上記相違点2について検討すると、引用発明は、「繊維シートである透明シート1は、樹脂繊維を補強繊維2とし、基材樹脂3を補強繊維2に含浸させて硬化させ、厚さが0.5mm程度のフィルム状に成形した常温で可撓性を有する透明又は半透のFRPシートであって、従来の繊維シート(プリプレグシートなど)が貼着後に熱やエネルギー線によってラジカルを発生させて熱硬化や光硬化させるのに対して既に貼着する前に硬化して」いるものである。
そして、「従来の繊維シート(プリプレグシートなど)が貼着後に熱やエネルギー線によってラジカルを発生させて熱硬化や光硬化させる」ものの、引用発明では「既に貼着する前に硬化して」いることから、「繊維シートである透明シート1」を硬化させる時期が異なるだけで「熱やエネルギー線によってラジカルを発生させて熱硬化や光硬化させ」ているといえ、上記相違点2は実質的な相違点ではない。
また、上記相違点2が実質的な相違点であるとしても、少なくとも、従来の繊維シートに用いていた熱硬化や光硬化を引用発明に採用することで上記相違点2に係る発明の構成とすることに格別の困難性はなく当業者が容易になし得たことである。
ウ 相違点3について
上記相違点3について検討すると、上記(8)イのとおり、「コンクリートの補強用に用いられる耐アルカリ性ガラス繊維の具体的組成として、少なくともZrO2を12質量%以上、及びR2O(RはLi、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種)を10質量%以上含有するものを用いること。」は、本願の優先日前に周知技術である。
そして、引用発明は「コンクリート構造物からのコンクリート片の剥落を防止する繊維シート接着工法の補強用の繊維シート」であって、繊維シートをコンクリートに用いる場合は、耐アルカリ性を有する必要があることは技術常識であるから、引用発明の「ガラス繊維」として、上記周知技術2のガラス繊維の組成を採用して、上記相違点3に係る発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。
また、本件補正発明1の奏する効果は、引用発明の奏する効果、上記周知技術1及び2の奏する効果から、当業者が予測することができる程度のものである。
したがって、本件補正発明1は、引用発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(11)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和6年8月22日提出の審判請求書の「4.本願発明が特許されるべき理由」において、次の点について主に主張をする。
ア 審判請求人の主張について
(ア)主張1
「一方主引例である引用文献1が記載する透明シート1は、基材樹脂3を補強繊維2に含浸させて硬化させて得られるとは書かれているが(段落0028)、その硬化方法についての明示はされていない。当該段落には「従来の繊維シート」の熱硬化や光硬化についての示唆はあるものの、それはあくまで従来技術の説明であって引用文献1に係る発明の説明では無いと考えられる。」(以下「主張1」という。)
(イ)主張2
「さらに引用文献1の段落0030には、補強繊維2の芯繊維21の材料としてガラス繊維の例示はあるものの、そのガラス繊維の組成や目開きについては示唆されていない。
また周知技術としての引用文献4の段落0012~0013には、耐アルカリ性ガラス繊維の組成としてZrO2が14~25%または18~24%、Li2Oが0~5%または0.5~3%、Na2Oが10~17%または11~15%、K2Oが0~8%または1~5%とすることは記載されている。
しかしながら、引用文献4にはガラス繊維の目間隔が10mm以上、繊維へ樹脂の付着率が10~30質量%であることは記載されているものの、その目付量については示唆していない。」(以下「主張2」という。)
(ウ)主張3
「さらに引用文献1~7のいずれにおいても、本願明細書表5に示すそれぞれの補強性能の両立を示唆してはいないし、製造方法の特徴を開示してもいない。
当業者であっても、所定の目付量も製造工程もガラス繊維の組成も開示していない引用文献1の記載からでは、周知技術を参酌したとしてもなお、容易に本願発明に想到する論理づけはできないと考える。」(以下「主張3」という。)
イ 審判請求人の主張の検討
(ア)主張1について
上記(10)イで検討したとおり、「従来の繊維シート(プリプレグシートなど)が貼着後に熱やエネルギー線によってラジカルを発生させて熱硬化や光硬化させる」ものの、引用発明では「既に貼着する前に硬化して」いることから、「繊維シートである透明シート1」を硬化させる時期が異なるだけで「熱やエネルギー線によってラジカルを発生させて熱硬化や光硬化させ」ているといえ、上記相違点2は実質的な相違点ではない。
また、上記相違点2が実質的な相違点であるとしても、少なくとも、従来の繊維シートに用いていた熱硬化や光硬化を引用発明に採用することで上記相違点2に係る発明の構成とすることに格別の困難性はなく当業者が容易になし得たことであるから、上記請求人の主張は上記(10)の判断を左右するものではない。
(イ)主張2について
上記(10)アで検討したとおり、引用発明の「補強用の繊維シート」において、補強効果、施工性及び視認性を考慮して、繊維シート1の3軸メッシュ状体2の目付量及び目開きを最適化することは、当業者における通常の創作能力の発揮に過ぎず、また、上記(10)ウで検討したとおり、引用発明は「コンクリート構造物からのコンクリート片の剥落を防止する繊維シート接着工法の補強用の繊維シート」であって、コンクリートに用いる場合は、耐アルカリ性を有する必要があることは技術常識であり、引用発明の「ガラス繊維」として、上記周知技術2のガラス繊維の組成を採用することは当業者が容易になし得たことであるから、上記請求人の主張は上記(10)の判断を左右するものではない。
(ウ)主張3について
上記(10)ア~ウで検討したとおり、所定の目付量及び目開き、熱硬化や光硬化を用いた製造工程、ガラス繊維の組成について、上記相違点1~3については、それぞれ当業者が容易に想到し得たものである。
そして、これらの相違点に係る構成を全て有する本件補正発明1により奏される作用効果は、各相違点に係る構成により奏される作用効果を寄せ集めた程度のものであって、これを超えるような相乗効果が奏されるものとは認められない。
よって、本件補正発明1は、引用発明、上記周知技術1及び2から当業者が容易に発明できたものであるから、上記請求人の主張は上記(10)の判断を左右するものではない。
(エ)まとめ
上記(ア)~(ウ)より、審判請求人のいずれの主張によっても上記(10)の判断を左右するものではない。
3 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項10に係る発明は、令和6年11月9日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項10に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項10に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項10】
フィラメントを組み合わせた目付量が500g/m2~1000g/m2かつ目開きが1~25mmである多軸メッシュシート(A)に、マトリックス樹脂(B)を含浸させるステップと、
含浸させた前記マトリックス樹脂(B)を、加熱処理及び/又は活性エネルギー線照射処理によって硬化及び/又は非流動化させることで、前記多軸メッシュシート(A)と前記マトリックス樹脂(B)とを一体成型し、繊維シートを得るステップと
を含むコンクリート構造物補強用繊維シートの製造方法。」
2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の本願発明に対する拒絶の理由の概略は、以下のとおりである。
(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
・請求項 10
・引用文献 1~3及び7
<引用文献等一覧>
1.特開2009-162033号公報
2.特開2000-199208号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2010-216144号公報(周知技術を示す文献)
7.特開2018-53601号公報(周知技術を示す文献)
3 引用文献1の記載事項、引用発明、引用文献2~4の記載事項、引用文献2~4記載の技術事項、
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2009-162033号公報(上記第2〔理由〕2 2-2(2)の引用文献1)の記載事項及び引用発明の認定については、上記「第2〔理由〕2 2-2(2)引用文献1の記載事項、引用発明」に、引用文献2として引用された特開2000-199208号公報(上記第2〔理由〕2 2-2(3)の引用文献2)の記載事項及び引用文献2記載の技術事項については、上記「第2〔理由〕2 2-2(3)引用文献2の記載事項、引用文献2記載の技術事項」、引用文献3として引用された特開2010-216144号公報(上記第2〔理由〕2 2-2(4)の引用文献3)の記載事項及び引用文献3記載の技術事項については、上記「第2〔理由〕2 2-2(4)引用文献3の記載事項、引用文献3記載の技術事項」、引用文献7として引用された特開2018-53601号公報(上記第2〔理由〕2 2-2(5)の引用文献4)の記載事項及び引用文献4記載の技術事項については、上記「第2〔理由〕2 2-2(5)引用文献4の記載事項、引用文献4記載の技術事項」に記載したとおりである。
4 対比・当審の判断
本願発明(上記「第2 1(補正前)」)は、本件補正発明1(上記「第2 1(補正後)」)から上記「第2 2 2-1」において検討したとおり、「多軸メッシュシート(A)」が「少なくとも二軸以上のガラス繊維シートであり、前記ガラス繊維シートが、少なくともZrO2を12質量%以上、及びR2O(RはLi、Na及びKからなる群から選択される少なくとも1種)を10質量%以上含有する」ことを削除したものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに相違点3に対応する限定を付加したものである本件補正発明1が引用発明、上記周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから、上記相違点3に対応する限定が削除された本願発明は引用発明及び上記周知技術1に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-013559