特許異議申立
2023-701387
汚染水処理方法
- 審判番号
- 2023-701387
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-214999
- 登録番号
- 7300242
- 請求日
- 2023年12月27日
- 審決日
- 2024年05月14日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】大成建設株式会社
- 【権利者代理人】山田 泰之
- 【権利者代理人】中村 理弘
- 【異議申立人】出川 栄一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 金 公彦
- 審判官 増山 淳子
- 分類
- P1651.113-Y (C02F) / P1651.121-Y (C02F) / P1651.537-Y (C02F) / P1651.55 -Y (C02F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7300242号発明「汚染水処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7300242号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7300242号の請求項1~5に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成29年11月7日の出願であって、令和5年6月21日にその特許権の設定登録がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行され、その後、同年12月27日に、請求項1~5に係る特許について、特許異議申立人 出川 栄一郎(以下、「申立人」という。)により、甲第1~11号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされ、令和6年2月6日に、申立人により参考資料1-1~1-3、2-1~2-3、3及び証拠説明書(訂正)を添付して上申書が提出され、同年同月22日に、申立人により証拠説明書、上申書及び証拠説明書(訂正)を添付して手続補正書が提出され、同年同月27日に、申立人により証拠説明書、上申書、参考資料1-1~1-3、2-1~2-3、3及び証拠説明書(訂正)を添付して手続補正書が提出され、同年3月14日に、申立人より上申書が提出されたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~5に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、請求項1~5に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】
1,4-ジオキサンと、他の有機化合物として1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方を含む汚染水を、
曝気処理(生物処理を除く)により、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方を30wt%以上取り除く前処理工程、
1,4-ジオキサンの1,4-ジオキサン分解菌による生分解処理工程、
をこの順で行うことを特徴とする汚染水処理方法。
【請求項2】
前記前処理工程と前記生分解処理工程とを、異なる処理槽で行うことを特徴とする請求項1に記載の汚染水処理方法。
【請求項3】
前記生分解処理工程が、フェッドバッチプロセスであることを特徴とする請求項1または2に記載の汚染水処理方法。
【請求項4】
前記1,4-ジオキサン分解菌が、thmC遺伝子を有する菌であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の汚染水処理方法。
【請求項5】
前記1,4-ジオキサン分解菌が、受託番号NITE BP-02032として寄託されたN23株であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の汚染水処理方法。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について
本件発明1~5は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(29ページ下から6行~39ページ4行)。
2 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
本件発明1~5における「曝気処理(生物処理を除く)」の意味が不明確である。
すなわち、通常の汚染水、汚染された地下水には、既に多種多様な微生物が存在しており、通常の汚染水中に含まれる有機物の浄化のためにエアースパージングを行った場合には、地下水中の溶存酸素レベルが上昇して、好気性の生物学的プロセスが刺激されることになり、前記エアースパージング後に1,4-ジオキサンが好気性の生物学的プロセスによって分解処理されるものである。
具体的には、本件特許の出願日前から既に開発・実施されていたエアースパージング工法の対象としている汚染水には、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソラン等も含まれていたから、エアースパージングを行うことでVOC等をはく離、揮発させた後に、更に当該エアースパージングによって地下水中の溶存酸素が増加したことにより、好気性生物によって難分解性の1,4-ジオキサン等が分解されることは内在的に生じていたのであるが、このようなエアースパージング工法が本件発明1~5における「曝気処理(生物処理を除く)」の要件を満たすか否かが明らかでないから、本件発明1~5は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である。
このため、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号所定の規定を満たさない(39ページ5行~50ページ2行)。
3 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
本件発明1~5においては、「前処理工程」で取り除く「他の有機化合物」が1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソランに限定されているにもかかわらず、「汚染水」に、1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソラン以外の「他の有機化合物」が大量に含まれるものも包含するから、「前処理工程」後に、1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソラン以外の「他の有機化合物」が多く残存するものを包含するものである。
そして、本件特許明細書の段落【0017】(下記第4の2(2)イ)には、環状エーテル化合物や微生物が炭素源として利用しやすい有機化合物(エチレングリコール、ジエチレングリコール等)が含まれる場合には、1,4-ジオキサンの処理がほとんど進行しないことが記載されているのであるから、本件発明1~5は、「前処理工程」後に、1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソラン以外の「他の有機化合物」が多く残存し、1,4-ジオキサンの処理がほとんど進行しないものを包含するのであり、課題を解決できないものを包含するから、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
このため、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号所定の規定を満たさない(50ページ3行~55ページ14行)。
4 特許法第17条の2第3項所定の規定違反(新規事項)について
令和4年6月2日の手続補正による特許請求の範囲の補正(以下、「本件補正」という。)は、新規事項を追加するものである。
すなわち、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の段落【0015】~【0017】の記載を総合した場合に、単に環状エーテル化合物の一部である1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランに限定して、これらを30wt%以上取り除けば、「汚染水」を効率的に処理することができる、との技術的事項を導き出すことはできない。
また、当初明細書等の段落【0033】の実施例の記載は、水道水にジオキサン及びジオキソランのみを加えた実験系であり、それ以外の「他の有機化合物」が含まれていないから、前記段落【0033】に基づいて補正する場合、特許請求の範囲の請求項1を、「1,4-ジオキサンと、他の有機化合物として1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方」からなる「汚染水」と補正するべきであるのに、「1,4-ジオキサンと、他の有機化合物として1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方を含む汚染水」と補正して、1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソラン以外の「他の有機化合物」の存在を許容しているから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない。
このため、本件補正は特許法第17条の2第3項所定の規定に違反してされたものであるから、本件特許は、特許法第17条の2第3項所定の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである(55ページ15行~58ページ18行)。
(3) 証拠方法
甲第1号証:矢吹 芳教ら,「流動担体に付着した微生物による最終処分場排出水中の1,4-ジオキサン処理に及ぼす易分解性有機物濃度の影響」,第28回廃棄物資源循環学会研究発表会 講演原稿2017,p.411-412
甲第2号証:特開昭49-87606号公報
甲第3号証:米国特許第4026956号明細書
甲第4号証:平成4年3月・日本水環境学会「平成3年度環境庁委託業務水質環境基準検討調査(項目追加情報整備調査)報告書,p.57-65
甲第5号証:Christopher J. Portier et al., "TOXICOLOGICAL PROFILE FOR 1,4-DIOXANE", Agency for Toxic Substances and Disease Registry, 2012年, p.i~x,xii~xv, 153~157
甲第6号証:国際公開第2016/181802号
甲第7号証:Ariel Grostern et al, "Glyoxylate Metabolism Is a Key Feature of the Metabolic Degradation of 1,4-Dioxane by Pseudonocardia dioxanivorans Strain CB1190", Applied and Environmental Microbiology, 2012年, Vol.78, No.9, p.3298-3308
甲第8号証:Christopher M. Sales et al, "Oxidation of the Cyclic Ethers 1,4-Dioxane and Tetrahydrofuran by a Monooxygenase in Two Pseudonocardia Species", Applied and Environmental Microbiology, 2013年, Vol.79, No.24, p.7702-7708
甲第9号証:小澤 一喜ら,「水平井戸を用いたエアースパージング工法の開発」,鹿島技術研究所年報,第51号,2003年9月30日,p.143-148
甲第10号証:小林 弘明ら,「水平井戸を用いたバイオスパージング工法の浄化特定について」,鹿島技術研究所年報,第52号,2004年9月30日,p.199-206
甲第11号証:Macro M. Odah et al, "ART In-Well Technology Proves Effective in Treating 1,4-Dioxane Contamination", REMEDIATION Summer, 2005年, p.51-64
参考資料1-1:第28回 廃棄物資源循環学会 研究発表会のホームページ(https://jsmcwm/or.jp/taikai2017/)
参考資料1-2:第28回 廃棄物資源循環学会研究発表会 参加案内(https://jsmcwm.or.jp/taikai2017/files/2017/08/Notice_170831.pdf)
参考資料1-3:第28回 廃棄物資源循環学会研究発表会 講演原稿(ダウンロード用)(https://jsmcwm.or.jp/taikai2017/download/)
参考資料2-1:環境基準等の設定に関する資料集のホームページ(https://www.nies.go.jp/eqsbasis)
参考資料2-2:環境基準等の設定に関する資料集のホームページ 1,1,1-トリクロロエタン(https://www.nies.go.jp/eqsbasis/water.html#lv2_2)
参考資料2-3:水質汚濁に係る環境基準のホームページ(https://www.env.go.jp/kijun/mizu.html)
参考資料3:Toxic Substances Portal Toxicological Profile for 1,4 Dioxaneのホームページ(https://wwwn.cdc.gov/TSP/ToxProfiles/ToxProfiles.aspx?id=955&tid=199)
なお、参考資料1-1~1-3、2-1~2-3及び3は、令和6年2月6日に提出された上申書に添付されたものである。
第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性、進歩性欠如)について
(1) 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、以下の(ア)~(カ)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。)。なお、参考資料1-1~1-3より、甲第1号証は遅くとも本件特許の出願日前の2017年9月には公知となったものとして判断する。
(ア) 「1.はじめに
廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令が改正(平成25年6月に施行)され、廃棄物最終処分場の放流水、周縁地下水および浸透水に1,4-ジオキサン等の新たな化学物質に係る基準が追加された。・・・基準値を超過する処分場が確認された場合には、封じ込めや汚染源の除去等の処置を行うか、排水処理施設で環境中に放出される前に排出濃度を低減させる必要がある。
1,4-ジオキサンは、水にも有機溶剤にも可溶で、微生物による分解を受けにくく2)、活性汚泥法のような通常の生物処理では分解が困難であるとされ3)、UVとO3やH2O2を組み合わせた促進酸化、あるいはフェントン型反応などの物理化学的な手法4),5),6)が処理方法の主流とされてきた。しかし、これらの物理化学的処理は施設の導入や維持にかかるコストが高いという大きなデメリットがある。一方、最近になって、1,4-ジオキサンの分解が可能な数種の微生物が存在すること7),8),9)や、多数の微生物が混在する廃棄物最終処分場内の水処理施設の活性汚泥中で1,4-ジオキサンが90%程度分解されていること10)が報告され、微生物による低コスト処理の可能性が広がりつつある。
微生物による1,4-ジオキサン処理を安定的に行うためには、まず、リンや窒素などの栄養塩、水温、共存有機物濃度等の影響を明らかにする必要がある。これまでに演者らは、流動担体に付着集積させた廃棄物最終処分場内の曝気槽の中に生息する微生物について、1,4-ジオキサン分解に対する水温依存性およびリン添加の影響を明らかにした11),12)。本調査研究は、1,4-ジオキサン含有水に含まれる有機物、特に易分解性有機物濃度が微生物による1,4-ジオキサン除去に与える影響を明らかにすることを目的とし実施した。」(411ページ6行~22行)
(イ) 「2.材料と方法
(1)1,4-ジオキサン除去実験に用いた微生物群集
1,4-ジオキサン含有水が流入するY処分場内の処理施設の曝気槽に、外径15mm,長さ15mm、比表面積1,000m2/m3、比重0.98のポリエチレン性の白色チューブ状流動担体を浸漬し、約45日後に回収した。同様に、1,4-ジオキサンを含有するZ処分場内の排出水の調整池の出口付近に同じ流動担体を約45日間浸漬後に回収した。それぞれの微生物群集が付着した流動担体を1,4-ジオキサン除去実験に用いた。白色の流動担体は浸漬後に付着物により茶褐色~黒色となった。
(2)易分解性有機物濃度の1,4-ジオキサン除去率への影響
易分解性有機物(=曝気処理により分解する有機物)の濃度が微生物の1,4-ジオキサン分解活性に与える影響を明らかにするため、YおよびZ処分場から回収した流動担体を用いて、1,4-ジオキサン分解実験を行った。実験に供した試水は有機物含有量が異なるY処分場(BOD4.6mg/L)とZ処分場(同20mg/L)から採取したものを用いた。この試水に1,4-ジオキサンを添加し1.0~1.8mg/Lとし、試験用の原水とした。実験は、500mLのガラス瓶に1,4-ジオキサン濃度を調整した原水300mLを入れ、これに微生物の付着した担体を10%(v/v)添加し、シリコ栓でフタをした通気条件で行った。本実験の試験区をTable1に示した。対照区(試験区A)として、微生物を付着させていない担体を添加した。また、Z処分場の易分解性有機物を低下させるため、前処理として7日間の曝気を行った後に1,4-ジオキサン濃度を調整した原水を入れた試験区DおよびFを設定した。この実験は3連で行い、25℃、暗所の条件下で2日間実施し、実験開始前および実験終了後の試水を採取し、水質分析に供した。」(411ページ23行~最終行)
(ウ) 「
[図:0001411352000001.jpg]
」(411ページ)
(エ) 「3.結果及び考察
実験に用いた排出水のBOD、CODおよびDOCをTable2に示した。Z処分場の排出水はY処分場と比較して、有機物濃度が高かった。前処理を実施したZ処分場の排出水のBODは20mg/Lから1.2mg/Lへ低下した。
・・・
前処理を実施した試験区DおよびFの1,4-ジオキサン除去率は、それぞれ42.8%および12.5%であり、前処理をしていない試験区と比較して、それぞれ3.2倍及び1.5倍に増加した。特に、Y処分場の微生物を用いた試験区Dの除去率が同じ微生物を用いて有機物の少ないY処分場の排出水を用いた試験区Bの除去率に近い値となった。
・・・
今回の実験結果から、前処理により易分解性有機物濃度が低下することで、微生物による1,4-ジオキサン分解が促進されることが示唆された。この要因としては、易分解性有機物を分解する微生物の活性が低下し、逆に1,4-ジオキサンを分解する微生物の活性が高まったと考えられるため、今後は微生物叢の解析も実施する予定である。」(412ページ9行~最終行)
(オ) 「
[図:0001411352000002.jpg]
」(412ページ)
(カ) 「
[図:0001411352000003.jpg]
」(412ページ)
イ 前記ア(ア)の記載によれば、甲第1号証には、1,4-ジオキサン含有水に含まれる有機物、特に易分解性有機物濃度が微生物による1,4-ジオキサン除去に与える影響を明らかにすることを目的として実施した調査研究が記載されている。
すなわち、前記ア(イ)、(ウ)の記載によれば、前記調査研究は、1,4-ジオキサン含有水が流入するY処分場内の処理施設の曝気槽に、外径15mm,長さ15mm、比表面積1,000m2/m3、比重0.98のポリエチレン性の白色チューブ状流動担体を浸漬し、約45日後に回収し、同様に、1,4-ジオキサンを含有するZ処分場内の排出水の調整池の出口付近に同じ流動担体を約45日間浸漬後に回収し、それぞれの微生物群集が付着した流動担体を1,4-ジオキサン除去実験に用いたものである。
そして、前記調査研究は、易分解性有機物(=曝気処理により分解する有機物)の濃度が微生物の1,4-ジオキサン分解活性に与える影響を明らかにするため、YおよびZ処分場から回収した流動担体を用いて、1,4-ジオキサン分解実験を行ったものであり、実験に供した試水は有機物含有量が異なるY処分場(BOD4.6mg/L)とZ処分場(同20mg/L)から採取したものを用い、この試水に1,4-ジオキサンを添加し1.0~1.8mg/Lとし、試験用の原水としたものであり、実験は、500mLのガラス瓶に1,4-ジオキサン濃度を調整した原水300mLを入れ、これに微生物の付着した担体を10%(v/v)添加し、シリコ栓でフタをした通気条件で行ったものであり、また、Z処分場の易分解性有機物を低下させるため、前処理として7日間の曝気を行った後に1,4-ジオキサン濃度を調整した原水を入れた試験区D及びFを設定し、この実験は3連で行い、25℃、暗所の条件下で2日間実施し、実験開始前及び実験終了後の試水を採取し、水質分析に供したものである。
その結果、前記ア(エ)~(カ)の記載によれば、Z処分場の排出水は、Y処分場と比較して有機物濃度が高く、前処理を実施したZ処分場の排出水のBODは20mg/Lから1.2mg/Lへ低下したものであり、前処理を実施した試験区D及びFの1,4-ジオキサン除去率は、それぞれ42.8%および12.5%であり、前処理をしていない試験区と比較して、それぞれ3.2倍及び1.5倍に増加したものであり、今回の実験結果から、前処理により易分解性有機物濃度が低下することで、微生物による1,4-ジオキサン分解が促進されることが示唆されたのであり、この要因としては、易分解性有機物を分解する微生物の活性が低下し、逆に1,4-ジオキサンを分解する微生物の活性が高まったと考えられるものである。
ウ 前記イによれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「1,4-ジオキサン含有水に含まれる有機物、特に易分解性有機物濃度が微生物による1,4-ジオキサン除去に与える影響を明らかにすることを目的として実施した調査研究であって、
前記調査研究は、1,4-ジオキサン含有水が流入するY処分場内の処理施設の曝気槽に、外径15mm,長さ15mm、比表面積1,000m2/m3、比重0.98のポリエチレン性の白色チューブ状流動担体を浸漬し、約45日後に回収し、同様に、1,4-ジオキサンを含有するZ処分場内の排出水の調整池の出口付近に同じ流動担体を約45日間浸漬後に回収し、それぞれの微生物群集が付着した流動担体を1,4-ジオキサン除去実験に用いたものであり、
前記調査研究は、易分解性有機物(=曝気処理により分解する有機物)の濃度が微生物の1,4-ジオキサン分解活性に与える影響を明らかにするため、YおよびZ処分場から回収した流動担体を用いて、1,4-ジオキサン分解実験を行ったものであり、実験に供した試水は有機物含有量が異なるY処分場(BOD4.6mg/L)とZ処分場(同20mg/L)から採取したものを用い、この試水に1,4-ジオキサンを添加し1.0~1.8mg/Lとし、試験用の原水としたものであり、実験は、500mLのガラス瓶に1,4-ジオキサン濃度を調整した原水300mLを入れ、これに微生物の付着した担体を10%(v/v)添加し、シリコ栓でフタをした通気条件で行ったものであり、また、Z処分場の易分解性有機物を低下させるため、前処理として7日間の曝気を行った後に1,4-ジオキサン濃度を調整した原水を入れた試験区D及びFを設定し、この実験は3連で行い、25℃、暗所の条件下で2日間実施し、実験開始前及び実験終了後の試水を採取し、水質分析に供したものであり、
その結果、Z処分場の排出水は、Y処分場と比較して有機物濃度が高く、前処理を実施したZ処分場の排出水のBODは20mg/Lから1.2mg/Lへ低下したものであり、前処理を実施した試験区D及びFの1,4-ジオキサン除去率は、それぞれ42.8%および12.5%であり、前処理をしていない試験区と比較して、それぞれ3.2倍及び1.5倍に増加したものであり、今回の実験結果から、前処理により易分解性有機物濃度が低下することで、微生物による1,4-ジオキサン分解が促進されることが示唆されたのであり、この要因としては、易分解性有機物を分解する微生物の活性が低下し、逆に1,4-ジオキサンを分解する微生物の活性が高まったと考えられるものである、調査研究。」(以下、「甲1発明」という。)
なお、甲第6号証の摘記は省略する。
(2) 対比・判断
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「試験区D及びF」における「試験用の原水」は、「実験に供した試水」として「Z処分場(BOD20mg/L)」から採取したものを用い、この「試水」に「1,4-ジオキサン」を添加して「試験用の原水」としたものであり、更に、甲1発明において「Z処分場(BOD20mg/L)」から採取した「試水」に含まれる「易分解性有機物」は、本件発明1における「他の有機化合物」に相当するから、前記「試験用の原水」は、本件発明1における「1,4-ジオキサンと、他の有機化合物」「を含む汚染水」に相当する。
また、甲1発明における前記「試験区D及びF」における「前処理」は、「Z処分場の易分解性有機物を低下させるため」、「7日間の曝気を行った」ものであるから、本件発明1における「曝気処理」による「前処理工程」に相当し、甲1発明における前記「試験区D及びF」において、「500mLのガラス瓶に1,4-ジオキサン濃度を調整した原水300mLを入れ、これに微生物の付着した担体を10%(v/v)添加し、シリコ栓でフタをした通気条件で行った」「実験」は、「微生物」により1,4-ジオキサンを「分解」するものといえるから、本件発明における「1,4-ジオキサンの1,4-ジオキサン分解菌による生分解処理工程」に相当する。
そして、甲1発明において前記「前処理」及び「実験」を行う「調査研究」は、本件発明1において「前処理工程」及び「生分解処理工程」をこの順で行う「汚染水処理方法」に相当する。
イ 前記アによれば、本件発明1と甲1発明とは、
「1,4-ジオキサンと、他の有機化合物を含む汚染水を、
曝気処理による前処理工程、
1,4-ジオキサンの1,4-ジオキサン分解菌による生分解処理工程、
をこの順で行う、汚染水処理方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:「汚染水」が、本件発明1においては「他の有機化合物として1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方を含む」ものであるのに対して、甲1発明においては「他の有機化合物として1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方を含む」ものであるか否かが明らかでない点。
・相違点2:「曝気処理」が、本件発明1においては「(生物処理を除く)」ものであるのに対して、甲1発明においては「(生物処理を除く)」ものであるか否かが明らかでない点。
・相違点3:「前処理工程」が、本件発明1においては「1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方を30wt%以上取り除く」ものであるのに対して、甲1発明においては「1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方を30wt%以上取り除く」ものであるか否かが明らかでない点。
ウ 事案に鑑み、始めに、前記イの相違点2が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、甲1発明においては、その結果から、7日間の曝気を行う「前処理」により「易分解性有機物濃度」が低下することで、微生物による「1,4-ジオキサン」分解が促進されるものであり、この要因として、「易分解性有機物」濃度を分解する微生物の活性が低下し、逆に「1,4-ジオキサン」を分解する微生物の活性が高まったと考えられるものである。
エ ここで、甲1発明において用いられる微生物についてみると、甲1発明は、「1,4-ジオキサン」含有水が流入する「Y処分場」内の処理施設の曝気槽にポリエチレン性の白色チューブ状流動担体を浸漬し、約45日後に回収し、同様に、「1,4-ジオキサン」を含有する「Z処分場」内の排出水の調整池の出口付近に同じ流動担体を約45日間浸漬後に回収し、それぞれの微生物群集が付着した流動担体を「1,4-ジオキサン除去実験」に用いたものであるから、甲1発明において用いられる微生物は、「Y処分場」内や「Z処分場」内の排出水にもともと含まれる微生物と解される。
このことと、前記ウによれば、甲1発明は、「試験区D及びF」における「試水」である「Z処分場」から採取した「試水」が、もともと、「1,4-ジオキサン」を分解する微生物と共に、「易分解性有機物」を分解する微生物を含むことを前提としたものであって、前記「前処理」により「易分解性有機物」濃度が低下することで、「易分解性有機物」を分解する微生物の活性が低下することにより、「1,4-ジオキサン」を分解する微生物の活性が高まるものと解するのが妥当である。
そして、もともと「易分解性有機物」を分解する微生物を含む「試水」を7日間にわたって曝気する「前処理」が生物処理でないとは考え難いので、甲1発明における「前処理」は、「(生物処理を除く)」との本件発明1の発明特定事項を有するものとはいえない。
してみれば、前記相違点2は実質的な相違点であるから、前記イのそのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではない。
更に、本件発明2~5について検討しても事情は同じである。
オ 前記相違点2が実質的な相違点であることは前記エに記載したとおりであるから、そこから進んで、前記相違点2の容易想到性について検討すると、「試験区D及びF」における「試水」がもともと「1,4-ジオキサン」を分解する微生物と共に「易分解性有機物」を分解する微生物を含むことを前提とした甲1発明において、前記「試水」を7日間曝気して「前処理」するに際し、当該「前処理」を生物処理でない(すなわち「生物処理を除く」)ものとすることはもとより想定されないから、摘記を省略した甲第6号証に記載された事項にかかわらず、甲1発明を、前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、当業者が容易になし得ることではない。
したがって、前記イのそのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明及び甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、本件発明2~5について検討しても事情は同じである。
(3) 申立人の主張について
ア 前記相違点2についての申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
(ア) 甲第1号証の記載(前記(1)ア(イ))によれば、甲第1号証においては、「Z処分場」から採取した排出水に対して、「前処理」として7日間の曝気を行った後に、1,4-ジオキサン濃度を調整した原水を入れ、これに微生物が付着した担体を添加するという流れで実験を行ったことがわかる。
また、甲第1号証(前記(1)ア(エ))には、「前処理」を実施した「Z処分場」の排出水のBODが20mg/Lから1.2mg/Lに低下したことが記載されており、BODは、好気性微生物が水中の有機物を分解するのに必要な酸素量等として定義され、試料水と好気性微生物とを混合して調製した直後の溶存酸素量から20℃で5日間培養した後の溶存酸素量を引いて、1リットルあたりの酸素消費量を導き出し、この値等が用いられることが多いから、「前処理」の前の「試水」と「前処理」の後の「試水」とのそれぞれにおいて、好気性微生物を所定の条件で培養し、有機物を分解させたときの酸素消費量の値(BODの値)が20mg/Lから1.2mg/Lに低下したことが記載されているといえる。
この点に対して、特許権者は、令和3年10月26日に提出した意見書において、「また、引用文献4は、・・・前処理は生物学的処理です。」と主張しており、前記引用文献4は甲第1号証に該当するが、7日間の曝気による「前処理」とBODにおいて好気性微生物を培養することとは別の処理であるから、特許権者の前記主張が誤りであることは明白である(12ページ12行~13ページ下から5行)。
(イ) 甲第1号証では、7日間の曝気を行うことで「試水」(「Z処分場」の排出水)のBODを20mg/Lから1.2mg/Lにする「前処理」が行われている。
これに対して、本件特許明細書の段落【0033】の記載(下記2(2)ウ)からみれば、本件特許明細書には、24時間の曝気を行う前処理により、ジオキソランを約35%除去できたことが記載されている。
そうすると、甲第1号証で24時間を超える7日間の曝気を行うことで、排出水に含まれる1,3-ジオキソランは少なくとも35%以上除去されているといえるから、本件発明1と甲1発明とは、「曝気処理(生物処理を除く)により、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方を30wt%以上取り除く前処理工程」を有する点で共通する(30ページ下から4行~32ページ1行)。
イ 以下、前記ア(ア)及び(イ)の主張について検討すると、前記ア(ア)及び(イ)の主張は、総じて、甲1発明における「前処理」が「曝気処理(生物処理を除く)」を満たすこと、すなわち生物処理でないことを前提としたものといえるものの、甲1発明における「前処理」が「曝気処理(生物処理を除く)」を満たすものであることを示す客観的な根拠に基づくものではなく、採用することができない。
しかも、前記「前処理」が生物処理でないとは考え難いことは前記(2)エに記載したとおりであるから、前記主張は前提において誤っている。
そして、特許権者が令和3年10月26日に提出した意見書における主張の適否や、甲第1号証における「前処理」により1,3-ジオキソランが35%以上除去されているか否かにかかわらず、前記相違点2が実質的な相違点であり、かつ容易想到でないことに変わりはないから、前記ア(ア)及び(イ)の主張はいずれも採用できない。
(4) 小括
したがって、甲第1号証が、本件特許の出願日前の2017年9月に公知となったものであるとしても、本件発明1~5は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないので、前記第3の1の特許異議の申立て理由は理由がない。
2 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1) 明確性要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるので、以下、この観点に立って検討する。
(2) 本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、以下のア~ウの記載がある。
ア 「【0001】
本発明は、1,4-ジオキサンと他の有機化合物を含む汚染水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4-ジオキサンは、下記式(1)で表される環状エーテルである。1,4-ジオキサンは、水や有機溶媒との相溶性に優れており、主に有機合成の反応溶剤として使用されている。
・・・
【0003】
2010年度の日本国における1,4-ジオキサンの製造・輸入量は、約4500t/年であり、約300t/年が環境中へ放出されたと推測される。・・・1,4-ジオキサンは急性毒性及び慢性毒性を有する上、発がん性も指摘されていることから、1,4-ジオキサンによる水環境の汚染は、人や動植物に悪影響を及ぼすことが懸念されている。そのため、日本国では、水道水質基準(0.05mg/L以下)、環境基準(0.05mg/L以下)及び排水基準(0.5mg/L以下)により、1,4-ジオキサンの規制がなされている。
【0004】
・・・
ここで、1,4-ジオキサンは、促進酸化法においてのみ、処理の有効性が確認されている。しかし、促進酸化法はイニシャルコスト及びランニングコストが高いことから普及に至っていない。また、非特許文献2には、1,4-ジオキサン以外の有機物が存在すると、促進酸化法による1,4-ジオキサンの処理効率が低下することが報告されている。
【0005】
低コストかつ安定的に1,4-ジオキサン等の環状エーテル化合物を含む水を処理する方法が求められており、非特許文献3では、1,4-ジオキサン分解菌による1,4-ジオキサン処理が提案されている。
・・・
【0007】
1,4-ジオキサンを生分解処理する場合、菌の前準備が簡便であるため、特定の基質を添加する必要がない資化菌を活用することが好ましく、誘導の必要がない構成型1,4-ジオキサン分解菌を用いることがさらに好ましい。しかし、構成型1,4-ジオキサン分解菌は、誘導型1,4-ジオキサン分解菌と比較して1,4-ジオキサン最大比分解速度が低いという問題点があった。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
1,4-ジオキサンと他の有機化合物を含む汚染水を効率的に処理することのできる汚染水処理方法を提供することを課題とする。」
イ 「【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
1.1,4-ジオキサンと他の有機化合物を含む汚染水を、
主として他の有機化合物の濃度を低くする前処理工程、
1,4-ジオキサンの1,4-ジオキサン分解菌による生分解処理工程、
をこの順で行うことを特徴とする汚染水処理方法。
・・・
【発明の効果】
【0012】
本発明の汚染水処理方法は、予め1,4-ジオキサン以外の他の有機化合物の濃度を低くする前処理を行った後に、1,4-ジオキサン分解菌による1,4-ジオキサンの生分解処理を行うことにより、1,4-ジオキサンの生分解処理を効率的に行うことができ、処理時間を短くすることができる。前処理工程と生分解処理工程とを異なる処理槽で行う、また、生分解処理工程をフェッドバッチプロセスで行うことにより、より効率的に処理を行うことができる。
・・・
【0014】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明は、1,4-ジオキサンと他の有機化合物を含む汚染水を、主として他の有機化合物の濃度を低くする前処理工程、1,4-ジオキサンの1,4-ジオキサン分解菌(以下、単に分解菌ということもある)による生分解処理工程、をこの順で行う汚染水処理方法に関する。
本発明の処理方法は、前処理工程、生分解処理工程をこの順で行えばよく、前処理工程と生分解処理工程との間にpH調整工程、温度調整工程、栄養塩添加工程等の別の工程を行うことができる。
【0015】
「汚染水」
本発明は、1,4-ジオキサンと他の有機化合物を含む汚染水を処理するものである。汚染水が含む他の有機化合物としては特に制限されないが、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン等の環状エーテル化合物や、エチレングリコール、ジエチレングリコール、アセトン、メタノール、エタノール等の他の微生物(以下、雑菌という)が炭素源として利用しやすい有機化合物が、本発明の汚染水処理方法により効率的に1,4-ジオキサンを処理することができるため好ましい。なお、1,4-ジオキサンを含む汚染水は、環状エーテル化合物、エチレングリコールを含む場合が多い。
【0016】
「前処理工程」
前処理工程は、汚染水中に含まれる有機化合物のうち、主として1,4-ジオキサン以外の他の有機化合物の濃度を低くするものである。
前処理工程の方法としては特に制限されず、含まれる有機化合物の種類に応じて、曝気処理、活性汚泥処理、オゾン処理等を、単独で、または組み合わせて行うことができる。これらの中で低コストであることから、曝気処理が好ましい。前処理工程では、1,4-ジオキサン以外の他の有機化合物を、30wt%以上取り除くことが好ましく、40wt%以上取り除くことがより好ましく、50wt%以上取り除くことがさらに好ましく、60wt%以上取り除くことが最も好ましい。
【0017】
「生分解処理工程」
生分解処理工程は、前処理工程を終えて移送される一次処理水中に含まれる1,4-ジオキサンを、1,4-ジオキサン分解菌により生分解処理するものである。
ここで、環状エーテル化合物の存在下で1,4-ジオキサンの生分解処理を行うと、環状エーテル化合物が優先的に生分解され、環状エーテル化合物の濃度が低くなった後に、1,4-ジオキサンの生分解が進行するため、1,4-ジオキサンの生分解処理に時間がかかる。また、雑菌が炭素源として利用しやすい有機化合物の存在下で1,4-ジオキサンの生分解処理を行うと、雑菌が優先的に増殖して分解菌の菌体濃度が高まらないため、1,4-ジオキサンの処理がほとんど進行しない。
それに対し、本発明の一次処理水は、1,4-ジオキサン以外の他の有機化合物の濃度が低いため、生分解処理工程において1,4-ジオキサンを効率的に生分解処理することができる。」
ウ 「【0033】
「実験3」
水道水にジオキサン及びジオキソランを、それぞれ30mg/L、110mg/L添加し、模擬汚染水を作成した。この模擬汚染水1Lを2L容のガラス瓶に入れ、毎分1Lにて24時間、曝気を行う前処理を行った(水温:25℃)。表2に前処理前後でのジオキサンとジオキソランの濃度を示す。24時間の曝気処理により、ジオキサンは、ほとんど濃度変化はなかったが、ジオキソランは約35%除去できた。
【0034】
【表2】
[図:0001411352000004.jpg]
【0035】
1L容量のガラス瓶に、曝気処理を行っていない模擬汚染水、および、前処理後の一次処理水をそれぞれ760mL添加し、栄養塩類を加えた後、pHを7.3に調整した。栄養塩類の組成は、無機塩培地に準じて作成した。その後、N23株の植菌液を40mL加え(菌体濃度:200mg/L)、毎分1Lの速度で曝気を行いながら生分解処理を行った(水温:25℃)。4時間ごとにサンプリングを行い、廃水中の環状エーテル化合物の濃度をHS-GC/MSにて測定した。図3、4に模擬汚染水、一次処理水の生分解処理結果を示す。
【0036】
各廃水においてN23株による環状エーテル化合物の分解が確認できたが、前処理後の一次処理水を用いた実験系では、20時間後には1,4-ジオキサン及び1,3-ジオキソランが完全に分解できた。それに対し、前処理を行っていない模擬汚染水を用いた実験系では、環状エーテル化合物の分解には26時間要した。このことから、1,4-ジオキサン以外の他の有機化合物の濃度を低くする前処理を行うことにより、ジオキサンの生分解処理を効率的に行えることが確かめられた。」
(3) 明確性要件についての判断
ア 以下、本件発明1における「曝気処理(生物処理を除く)」の意味について検討すると、本件特許明細書の段落【0016】(前記(2)イ)の記載によれば、本件発明1における「前処理工程」の方法としては、曝気処理、活性汚泥処理、オゾン処理等を、単独で、または組み合わせて行うことができるものである。
ここで、前記曝気処理が、曝気を伴うものの、事実上微生物によって処理が進行する活性汚泥処理とは別に記載されていることからみれば、「曝気処理(生物処理を除く)」とは、事実上微生物によって処理が進行するものが除かれて、微生物による処理が事実上進行することなく、単に曝気のみによって処理が進行する曝気処理を意味すると解するのが妥当である。
イ これについて、本件特許明細書の段落【0033】の「実験3」(前記(2)ウ)の記載をみれば、前記「実験3」においては、水道水にジオキサン及びジオキソランをそれぞれ30mg/L、110mg/L添加し、模擬汚染水を作成し、毎分1Lにて24時間、曝気を行う「前処理工程」を行っており、通常、水道水には事実上微生物によって処理が進行するほどの微生物は存在しないから、「前処理工程」として、微生物による処理が事実上進行することなく、単に曝気のみによって処理が進行する曝気処理が行われているといえるので、前記アの事項は、前記「実験3」の記載からも裏付けられるものである。
ウ してみれば、本件発明1における「曝気処理(生物処理を除く)」の意味が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないのであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は明確性要件に適合するといえる。
更に、本件発明2~5について検討しても事情は同じである。
(4) 申立人の主張について
以下、前記第3の2の申立人の主張について検討すると、本件発明1における、「曝気処理(生物処理を除く)」は、事実上微生物によって処理が進行するものが除かれて、微生物による処理が事実上進行することなく、単に曝気のみによって処理が進行する曝気処理を意味すると解するのが妥当であることは、前記(3)アに記載したとおりである。
そうすると、エアースパージング工法において、通常の汚染水中に含まれる有機物の浄化のためにエアースパージングを行った場合に、微生物による処理が事実上進行するか否かによって「曝気処理(生物処理を除く)」の要件を満たすか否かを判断することができるから、本件発明1が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないので、前記第3の2の申立人の主張は採用できない。
(5) 小括
したがって、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号所定の規定に適合するから、前記第3の2の特許異議の申立て理由は理由がない。
3 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1) サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2) サポート要件の一般的な判断
ア 本件特許明細書の段落【0001】、【0003】、【0005】、【0007】、【0010】(前記2(2)ア)の記載によれば、本件発明は、1,4-ジオキサンと他の有機化合物を含む汚染水の処理方法に関するものであって、1,4-ジオキサンは急性毒性及び慢性毒性を有する上、発がん性も指摘されていることから、1,4-ジオキサンによる水環境の汚染は、人や動植物に悪影響を及ぼすことが懸念されており、そのため、日本国では、水道水質基準(0.05mg/L以下)、環境基準(0.05mg/L以下)及び排水基準(0.5mg/L以下)により、1,4-ジオキサンの規制がなされているものである。
このため、低コストかつ安定的に1,4-ジオキサン等の環状エーテル化合物を含む水を処理する方法が求められており、従来、1,4-ジオキサン分解菌による1,4-ジオキサン処理が提案されており、1,4-ジオキサンを生分解処理する場合、菌の前準備が簡便であるため、特定の基質を添加する必要がない資化菌を活用することが好ましく、誘導の必要がない構成型1,4-ジオキサン分解菌を用いることがさらに好ましいのであるが、構成型1,4-ジオキサン分解菌は、誘導型1,4-ジオキサン分解菌と比較して1,4-ジオキサン最大比分解速度が低いという問題点があったことから、本件発明は、1,4-ジオキサンと他の有機化合物を含む汚染水を効率的に処理することのできる汚染水処理方法を提供することを課題とするものである。
そこで、本件特許明細書の段落【0011】、【0012】、【0015】、【0016】(前記2(2)イ)の記載によれば、本件発明は、1,4-ジオキサンと他の有機化合物を含む汚染水を、主として他の有機化合物の濃度を低くする前処理工程、1,4-ジオキサンの1,4-ジオキサン分解菌による生分解処理工程、をこの順で行う「汚染水処理方法」とするものであり、前記「汚染水処理方法」は、予め1,4-ジオキサン以外の他の有機化合物の濃度を低くする前処理を行った後に、1,4-ジオキサン分解菌による1,4-ジオキサンの生分解処理を行うことにより、1,4-ジオキサンの生分解処理を効率的に行うことができ、処理時間を短くすることができるものであり、他の有機化合物としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン等の環状エーテル化合物等が挙げられ、前処理の方法としては、曝気処理、活性汚泥処理、オゾン処理等を、単独で、または組み合わせて行うことができ、前処理工程では、1,4-ジオキサン以外の他の有機化合物を、30wt%以上取り除くことが好ましいものである。
イ 前記アによれば、本件発明は、1,4-ジオキサンと、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン等の環状エーテル化合物といった他の有機化合物を含む汚染水を効率的に処理することのできる汚染水処理方法を提供することを課題(以下、「本件課題」という。)とするものであって、予め1,4-ジオキサン以外の前記他の有機化合物の濃度を低くする曝気処理等の前処理を行って、前記他の有機化合物を好ましくは30wt%以上取り除いた後に、1,4-ジオキサン分解菌による1,4-ジオキサンの生分解処理を行うことにより、1,4-ジオキサンの生分解処理を効率的に行い、処理時間を短くすることで、本件課題を解決するものといえる。
そして、本件発明1の「1,4-ジオキサンと、他の有機化合物として1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方を含む汚染水を、曝気処理(生物処理を除く)により、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方を30wt%以上取り除く前処理工程、1,4-ジオキサンの1,4-ジオキサン分解菌による生分解処理工程、をこの順で行う」、との発明特定事項は、1,4-ジオキサンと、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン等の環状エーテル化合物といった他の有機化合物を含む汚染水に、予め1,4-ジオキサン以外の前記他の有機化合物の濃度を低くする曝気処理等の前処理を行って、前記他の有機化合物を好ましくは30wt%以上取り除いた後に、1,4-ジオキサン分解菌による1,4-ジオキサンの生分解処理を行うものといえる。
ウ 前記イによれば、本件発明1は、その発明特定事項により、1,4-ジオキサンの生分解処理を効率的に行い、処理時間を短くすることで、本件課題を解決できるものといえるから、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえるのであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件に適合するといえる。
更に、本件発明2~5について検討しても事情は同じである。
(3) 申立人の主張について
以下、前記第3の3の申立人の主張について検討すると、本件発明1において、1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソラン以外の「他の有機化合物」が大量に含まれる「汚染水」において、「曝気処理(生物処理を除く)により、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方」が「30wt%以上」、すなわちその後の「生分解処理工程」において1,4-ジオキサンの生分解処理が進行する程度にまで取り除かれたとき、「1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方」のみが取り除かれ、これ以外の「他の有機化合物」が取り除かれることなく、1,4-ジオキサンの生分解処理がほとんど進行しないほどに大量に含まれた状態を維持することは、技術常識からみて考え難いし、このことを裏付ける証拠もないから、1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソラン以外の「他の有機化合物」もまた、前記「曝気処理(生物処理を除く)」により、その後の「生分解処理工程」において1,4-ジオキサンの生分解処理が進行する程度にまで取り除かれると解するのが合理的である。
してみれば、本件発明1は、「前処理工程」後に、1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソラン以外の「他の有機化合物」が多く残存し、1,4-ジオキサンの処理がほとんど進行しないものを包含するものとはいえないから、本件特許明細書の段落【0017】(前記2(2)イ)に、環状エーテル化合物や微生物が炭素源として利用しやすい有機化合物(エチレングリコール、ジエチレングリコール等)が含まれる場合には、1,4-ジオキサンの処理がほとんど進行しないことが記載されているとしても、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることに変わりはない。
そうすると、本件発明1が課題を解決できないものを包含するとはいえないので、前記第3の3の申立人の主張は採用できない。
(4) 小括
したがって、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合するから、前記第3の3の特許異議の申立て理由は理由がない。
4 特許法第17条の2第3項所定の規定違反(新規事項)について
(1) 新規事項の判断手法
補正が、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるか否かにより、その補正が新規事項を追加する補正であるか否かを判断する。
補正が当初明細書等に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである場合は、その補正は、新規事項を追加する補正でない。
他方、補正が新たな技術的事項を導入するものである場合は、その補正は新規事項を追加する補正である。
(2) 新規事項の一般的な判断
ア 本件補正は、拒絶査定不服審判請求と同時にされたものであって、特許請求の範囲を、
「【請求項1】
1,4-ジオキサンと、他の有機化合物として1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方を含む汚染水を、
曝気処理により、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方を30wt%以上取り除く前処理工程、
1,4-ジオキサンの1,4-ジオキサン分解菌による生分解処理工程、
をこの順で行うことを特徴とする汚染水処理方法。
【請求項2】
前記前処理工程と前記生分解処理工程とを、異なる処理槽で行うことを特徴とする請求項1に記載の汚染水処理方法。
【請求項3】
前記生分解処理工程が、フェッドバッチプロセスであることを特徴とする請求項1または2に記載の汚染水処理方法。
【請求項4】
前記1,4-ジオキサン分解菌が、thmC遺伝子を有する菌であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の汚染水処理方法。
【請求項5】
前記1,4-ジオキサン分解菌が、受託番号NITE BP-02032として寄託されたN23株であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の汚染水処理方法。」
と補正するものである(当審注:下線は補正箇所である。)。
イ 前記アによれば、本件補正は、「前処理工程」を、「曝気処理により、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方を30wt%以上取り除く前処理工程」とする補正を含むものである。
ここで、当初明細書等の段落【0015】~【0017】には、以下の記載がある。
「【0015】
「汚染水」
本発明は、1,4-ジオキサンと他の有機化合物を含む汚染水を処理するものである。汚染水が含む他の有機化合物としては特に制限されないが、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン等の環状エーテル化合物や、エチレングリコール、ジエチレングリコール、アセトン、メタノール、エタノール等の他の微生物(以下、雑菌という)が炭素源として利用しやすい有機化合物が、本発明の汚染水処理方法により効率的に1,4-ジオキサンを処理することができるため好ましい。なお、1,4-ジオキサンを含む汚染水は、環状エーテル化合物、エチレングリコールを含む場合が多い。
【0016】
「前処理工程」
前処理工程は、汚染水中に含まれる有機化合物のうち、主として1,4-ジオキサン以外の他の有機化合物の濃度を低くするものである。
前処理工程の方法としては特に制限されず、含まれる有機化合物の種類に応じて、曝気処理、活性汚泥処理、オゾン処理等を、単独で、または組み合わせて行うことができる。これらの中で低コストであることから、曝気処理が好ましい。前処理工程では、1,4-ジオキサン以外の他の有機化合物を、30wt%以上取り除くことが好ましく、40wt%以上取り除くことがより好ましく、50wt%以上取り除くことがさらに好ましく、60wt%以上取り除くことが最も好ましい。
【0017】
「生分解処理工程」
生分解処理工程は、前処理工程を終えて移送される一次処理水中に含まれる1,4-ジオキサンを、1,4-ジオキサン分解菌により生分解処理するものである。
ここで、環状エーテル化合物の存在下で1,4-ジオキサンの生分解処理を行うと、環状エーテル化合物が優先的に生分解され、環状エーテル化合物の濃度が低くなった後に、1,4-ジオキサンの生分解が進行するため、1,4-ジオキサンの生分解処理に時間がかかる。また、雑菌が炭素源として利用しやすい有機化合物の存在下で1,4-ジオキサンの生分解処理を行うと、雑菌が優先的に増殖して分解菌の菌体濃度が高まらないため、1,4-ジオキサンの処理がほとんど進行しない。
それに対し、本発明の一次処理水は、1,4-ジオキサン以外の他の有機化合物の濃度が低いため、生分解処理工程において1,4-ジオキサンを効率的に生分解処理することができる。」
前記記載によれば、当初明細書等には、「汚染水」に含まれる「他の有機化合物」として「1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン」が記載されているし(段落【0015】)、1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソラン以外の「他の有機化合物」が含まれる「汚染水」において、「曝気処理(生物処理を除く)により、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方」が「30wt%以上」、すなわちその後の「生分解処理工程」において1,4-ジオキサンの生分解処理が進行する程度にまで取り除かれたとき、1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソラン以外の「他の有機化合物」もまた、前記「曝気処理(生物処理を除く)」により、その後の「生分解処理工程」において1,4-ジオキサンの生分解処理が進行する程度にまで取り除かれると解するのが合理的であることは、前記3(3)に記載したとおりである。
そして、当初明細書等には、1,4-ジオキサン以外の「他の有機化合物」の濃度が低いと、「生分解処理工程」において1,4-ジオキサンを効率的に生分解処理することができることが記載されているのであるから(段落【0017】)、当初明細書等の記載から、「曝気処理により、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソランのいずれか、または両方を30wt%以上取り除く」ことで、1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソラン以外の「他の有機化合物」も取り除かれて、1,4-ジオキサンを含む「汚染水」を効率的に処理することができる、との技術的事項を導き出すことができるといえるので、本件補正が、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえるから、新規事項を導入するものとはいえない。
(3) 申立人の主張について
以下、前記第3の4の申立人の主張について検討すると、本件補正が当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものとはいえないことは、前記(2)イに記載したとおりである。
また、当初明細書等の段落【0033】の実施例の記載が、水道水にジオキサン及びジオキソランのみを加えた実験系であり、それ以外の「他の有機化合物」が含まれていないとしても、本件補正を、前記段落【0033】に基づいた補正とする必要はないから、本件発明1において1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソラン以外の「他の有機化合物」の存在を許容しているとしても、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえるので、前記第3の4の申立人の主張は採用できない。
(4) 小括
したがって、令和4年6月2日の手続補正による特許請求の範囲の補正は特許法第17条の2第3項所定の規定に適合するから、前記第3の4の特許異議の申立て理由は理由がない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人の特許異議申立書に記載した特許異議の申立て理由によっては、本件発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-701387