特許異議申立
2023-701359
ウェーハの加工方法
- 審判番号
- 2023-701359
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-094225外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7301472
- 請求日
- 2023年12月22日
- 審決日
- 2024年12月05日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.121-YAA(B24B) / P1651.537-YAA(B24B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7301472号発明「ウェーハの加工方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7301472号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
特許第7301472号の請求項1、2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7301472号(以下「本件特許」という。)の請求項1、2に係る特許についての出願は、令和元年5月20日に出願され、令和5年6月23日にその特許権の設定登録がされ、令和5年7月3日に特許掲載公報が発行された。
そして、本件特許について、令和5年12月22日に特許異議申立人 飯田 進(以下「申立人」という。)により請求項1、2に係る特許について特許異議の申立てがされ、当審は、令和6年4月10日付けで取消理由を通知(以下、この通知を「取消理由通知」という。)した。
その後、特許権者 株式会社ディスコ(以下「特許権者」という。)は、その指定期間内である令和6年6月11日に意見書(以下「特許権者意見書」という。)及び訂正請求書(以下、この訂正請求書に係る訂正を「本件訂正」という。)を提出した。そして、申立人は令和6年7月19日に意見書(以下「申立人意見書」という。)を提出した。
その後、当審は、令和6年9月19日付けで取消理由(決定の予告)を通知(以下、この取消理由を「決定の予告」という。)し、特許権者は、その指定期間内である令和6年11月6日に意見書を提出した。
第2 訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである(なお、下線部は訂正事項について特許権者が付したものである。)。
(1)訂正事項
A[請求項1、2に係る訂正]
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「該研磨工程では、デュロメータ タイプDによって測定された硬度が30以上65未満である研磨パッドで該ウェーハを研磨する」と記載されているのを、「該研磨工程では、デュロメータ タイプDによって測定された硬度が30以上65未満である研磨パッドで、シリコンウェーハ、GaNウェーハ又はSiCウェーハである該ウェーハを、該ウェーハに付与される圧力が250gf/cm2以上300gf/cm2以下となるように研磨する」と訂正する(請求項1を引用する請求項2も同様に訂正する。)。
B[明細書に係る訂正]
イ 訂正事項2
本件明細書の段落【0009】に「該研磨工程では、デュロメータ タイプDによって測定された硬度が30以上65未満である研磨パッドで該ウェーハを研磨する」と記載されているのを、「該研磨工程では、デュロメータ タイプDによって測定された硬度が30以上65未満である研磨パッドで、シリコンウェーハ、GaNウェーハ又はSiCウェーハである該ウェーハを、該ウェーハに付与される圧力が250gf/cm2以上300gf/cm2以下となるように研磨する」と訂正する。
ウ 訂正事項3
本件明細書の段落【0070】に「250g/cm3以上300g/cm3以下」と記載されているのを、「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」と訂正する。
(2)一群の請求項についての説明
本件訂正前の請求項2は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1、2に対応する本件訂正後の請求項〔1、2〕は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
A[一群の請求項〔1、2〕に係る訂正]
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1に係る「ウェーハ」を「シリコンウェーハ、GaNウェーハ又はSiCウェーハ」に限定するとともに、「ウェーハ」に付与される圧力が「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件明細書等の段落【0013】には「ウェーハ11は、例えばシリコン等の材料によって円盤状に形成され、表面11a及び裏面11bを備える」、段落【0014】には「なお、ウェーハ11の材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えばウェーハ11は、シリコン以外の半導体(GaAs、InP、GaN、SiC等)、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等の材料によって形成されていてもよい。」、段落【0069】には「なお、ウェーハとしては、裏面側に凹凸(研削痕)が形成されたシリコンウェーハを用いた。」、及び段落【0070】には「また、研磨パッドの下降速度は、研磨パッドによってウェーハの裏面側に付与される圧力が250g/cm3以上300g/cm3以下となるように調整した。」(当審注:段落【0070】の数値範囲が「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」の誤記であることについては下記(3)を参照。)と記載されている(下線部は、当審で付した。以下同様。)。
これらの記載から、本件明細書等には、「ウェーハ」として、シリコンウェーハ、GaNウェーハ又はSiCウェーハが選択できること、研磨する際に研磨パッドによってウェーハに付与される圧力が「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」であることが記載されているといえるから、訂正事項1は本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
B[明細書に係る訂正]
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る請求項1についての訂正に伴い、本件明細書等の段落【0009】の記載を、本件訂正後の請求項1の記載と整合させるための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、本件明細書等の段落【0009】の記載を、請求項1の記載と整合させるための訂正であるところ、訂正事項1についての判断と同様に、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3について、本件明細書等の段落【0070】に「また、研磨パッドの下降速度は、研磨パッドによってウェーハの裏面側に付与される圧力が250g/cm3以上300g/cm3以下となるように調整した。」と記載され、当該「250g/cm3以上300g/cm3以下」との数値範囲は「圧力」を表す数値範囲であるところ、「圧力」を表す単位として「g/cm3」は存在せず、当該「g/cm3」の単位が「g」と「cm」で構成されていることに鑑みれば、圧力を表す単位である「gf/cm2」の誤りであることは明らかである。そうすると、訂正事項3は、当該段落【0070】の「250g/cm3以上300g/cm3以下」との誤った単位を含む記載を正しい単位の記載に訂正するもの、すなわち誤記の訂正を目的とするものである。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。
イ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないこと
訂正事項3は、圧力の単位についての誤記を訂正するものであるところ、本件当初明細書等の段落【0070】に記載された事項の範囲内の訂正であることは明らかであり、また、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
したがって、訂正事項3は特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。
(4)明細書に係る訂正と関係する請求項についての説明
明細書に係る訂正である訂正事項2、3は、本件訂正後の請求項1、2に関連する訂正である。
したがって、訂正事項2、3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に規定する明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行うものである。
3 独立特許要件
本件訂正前の全ての請求項(請求項1、2)について特許異議の申立てがされているから、訂正事項1、3について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 本件訂正についての申立人の主張
申立人は、申立人意見書において、訂正事項1の根拠とされる本件明細書等の段落【0070】の記載における「ウェーハ」は、本件明細書等の段落【0069】に記載されているとおり、「シリコンウェーハ」であって、他のウェーハであるGaNウェーハ、SiCウェーハではないから、ウェーハとして、「シリコンウェーハ、GaNウェーハ又はSiCウェーハ」が選択される根拠とならないし、訂正事項1により追加された、研磨工程でウェーハに付与される圧力を「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」とすることは、評価を行うための条件の一部に過ぎず、チャックテーブルの回転数(ウェーハの回転数)、砥粒などを意図的に除外するものであり、本件明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項ではなく、評価を行うための条件から恣意的に条件を選択して導き出した技術的事項であるから、新たな技術的事項を導入するものである旨を主張している。
しかしながら、本件明細書等の段落【0014】には「なお、ウェーハ11の材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えばウェーハ11は、シリコン以外の半導体(GaAs、InP、GaN、SiC等)、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等の材料によって形成されていてもよい。」と記載されているから、本件明細書等には、研磨される対象として、シリコンウェーハだけでなく、GaNウェーハ又はSiCウェーハが選択され得ることは記載されており、上記で申立人が主張している段落【0070】の記載における「ウェーハ」が「シリコンウェーハ」に限られるという理由はない。
また、本件訂正後の請求項1の「該ウェーハを、該ウェーハに付与される圧力が250gf/cm2以上300gf/cm2以下となるように研磨する」との記載は、研磨する際のウェーハに付与される圧力を特定しているのみであって、チャックテーブルの回転数やウェーハの回転数、砥粒の有無などの、研磨時のその他の条件を意図的に除外するような記載であると認めることはできない。
したがって、本件訂正についての申立人の主張は採用できない。
5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号~第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたから、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、請求項1、2に係る発明を、それぞれ「本件発明1」などという。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
第1面及び第2面を備えるウェーハをチャックテーブルの保持面で保持して加工するウェーハの加工方法であって、
該第1面側が該保持面に対向し該第2面側が上方に露出するように、該ウェーハを該チャックテーブルによって保持する保持工程と、
該ウェーハの該第2面側を研削砥石で研削する研削工程と、
該ウェーハの該第2面側を研磨して、該研削工程で該ウェーハの該第2面側に形成された研削痕を除去する研磨工程と、を備え、
該研磨工程では、デュロメータ タイプDによって測定された硬度が30以上65未満である研磨パッドで、シリコンウェーハ、GaNウェーハ又はSiCウェーハである該ウェーハを、該ウェーハに付与される圧力が250gf/cm2以上300gf/cm2以下となるように研磨することを特徴とするウェーハの加工方法。
【請求項2】
該研磨工程では、デュロメータ タイプDによって測定された硬度が44以上50以下である該研磨パッドで該ウェーハを研磨することを特徴とする請求項1に記載のウェーハの加工方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件特許に対して、当審が令和6年4月10日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
取消理由1:(進歩性欠如):本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(下記3の甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証~甲第3号証に記載の周知の技術的事項)に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
取消理由2:(サポート要件)本件訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 決定の予告の概要
本件特許に対して、当審が令和6年9月19日付けで特許権者に通知した決定の予告による取消理由の要旨は、次のとおりである。
取消理由3:(進歩性欠如):本件訂正後の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(下記3の甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証~甲第3号証に記載の周知の技術的事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正後の請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
なお、決定の予告において、本件訂正により、上記1の取消理由2(サポート要件)は解消した旨の判断を示した。
3 証拠方法
甲第1号証:特開2010-118424号公報
甲第2号証:特開2015-100895号公報
甲第3号証:特開2015-193060号公報
甲第4号証:国際公開第2012/165016号
(以下「甲1」などという。)
第5 取消理由3(進歩性欠如)についての検討
1 本件発明1について
(1)甲4について
ア 甲4の記載
甲4には、次の事項が記載されている。
「[0001] 本発明は、CMP研磨液及び半導体基板の研磨方法に関し、特に、半導体基板の主面の加工に好適なCMP研磨液及び半導体基板の研磨方法に関する。」
「[0003] このようなシステム全体での高性能化の手法が種々検討されており、例えば、LSI(Large-scale Integrated Circuit:大規模集積回路)チップを縦方向(高さ方向)に高密度に積層する三次元実装技術もその一つである(例えば、下記非特許文献2参照)。三次元実装技術の中でも特に、TSV(Through-silicon Via:シリコン貫通ビア)と呼ばれる、LSIチップを貫通した配線(貫通電極)を介して、上下に配置されたLSIチップを接続する技術が注目されている。
[0004] TSVを形成する手法は多数提案されており、配線工程においてTSVを形成する手法、又は前工程完了後に基板表面からTSVを形成する手法が検討されている。例えば、TSV構造を有する半導体基板は、以下のようにして製造される。まず、表面(一方の主面)のみに開口した中空部が形成された半導体基板(例えばシリコン基板)の当該表面上に、TSVを絶縁するための絶縁層(例えばシリコン酸化膜(二酸化ケイ素膜))を中空部の形状に沿って形成する。次に、TSV材料である導電部材(例えば銅層等の導電体層)を中空部内に配置する。続いて、半導体基板を裏面(他方の主面)側からグラインダーを用いて研削して、絶縁層が露出する寸前まで半導体基板を薄層化した後、グラインダーによって半導体基板の裏面に発生した研削傷(研削痕)を研磨により解消する。この場合、半導体基板を裏面側から研磨して半導体基板の裏面側の表層部を除去することにより、半導体基板の裏面側に絶縁層が現れる。そして、半導体基板を裏面側から更に研磨して絶縁層を除去することにより、半導体基板の裏面側に導電部材が露出してTSVが形成される。このようにTSVを得るためには、研削傷を解消するための研磨において、被研磨面に露出した半導体基板の裏面側の表層部や絶縁層を研磨除去する必要がある。」
「[0008] しかしながら、このような半導体基板製造用の研磨液は、シリコン等の半導体基板の構成材料を主な研磨対象としているため、当該研磨液を用いた場合における絶縁層の研磨速度は非常に低い。そのため、このような半導体基板製造用の研磨液を用いて、導電部材を被覆している絶縁層を研磨したとしても、絶縁層が残存してしまい導電部材が露出し難い。この場合、導電部材を露出させるためには、絶縁層研磨用の研磨液を用いて絶縁層を研磨する工程や、ウエットエッチング、ドライエッチング等の手法により絶縁層を除去する工程が別途必要であり、貫通電極を得るための工程が煩雑化してしまう。」
「[0022] また、本発明に係る半導体基板の研磨方法は、一方の主面から他方の主面にかけて貫通する貫通孔が形成された基板本体と、貫通孔内に配置された貫通電極と、を備える半導体基板の基板本体を、前記CMP研磨液を用いて前記一方の主面側又は前記他方の主面側から研磨する研磨工程を備えていてもよい。このような研磨方法では、半導体基板、絶縁層及び導電部材を優れた研磨速度で研磨することが可能なCMP研磨液を用いることにより、半導体基板、絶縁層及び貫通電極が被研磨面に露出した状態を良好に保持しつつ、貫通電極の長さを調整することができる。これにより、第1の貫通電極と、第2の貫通電極となるべき導電部材とが半導体基板内に形成されている場合において、第1の貫通電極の長さを調整しつつ第2の貫通電極を形成することもできる。」
「[0024] 本発明に係る半導体基板の研磨方法では、研磨工程において、ショアD硬度が30~90である研磨布(研磨パッド)を用いて基板本体を研磨することが好ましい。この場合、被研磨面に露出した貫通電極が過度に研磨されることを抑制することが可能であり、当該被研磨面における半導体基板と貫通電極との段差(高低差)を容易に低減することができる。」
「[0063] 本実施形態に係る半導体基板の研磨方法の第2態様は、
(1)前記研磨方法の第1態様の準備工程と同様に半導体基板を準備する準備工程と、
(2)準備工程の後、導電部材が露出するように前記他方の主面側から基板本体を研削することにより、前記一方の主面から前記他方の主面にかけて貫通する貫通孔が形成された基板本体と、貫通孔内に配置された貫通電極と、を備える半導体基板を得る研削工程と、
(3)研削工程の後、前記CMP研磨液を用いて基板本体、絶縁層及び貫通電極を前記一方の主面側又は前記他方の主面側から研磨する研磨工程と、を備える。研磨方法の第2態様では、研削工程において、導電部材を前記他方の主面側に露出させて貫通電極を形成し、研磨工程において、前記他方の主面に露出した半導体基板、絶縁層及び貫通電極を研磨することにより、研削工程において前記他方の主面に発生した研削傷を解消する。
[0064] 半導体基板の研磨方法の第2態様では、準備工程において、第1態様と同様に半導体基板100を準備する。次に、研削工程において、中空部3a及び中空部3b内の導電部材7が露出するまでグラインダーによって基板本体1を裏面1b側から研削して基板本体1を薄層化し、半導体基板500(図3(c)参照)と同様にTSV7a,7bを有する半導体基板を得る。得られた半導体基板は、第2態様における研磨工程の研磨対象であり、表面1aから裏面1bにかけて貫通する貫通孔13a,13bが形成された基板本体1と、貫通孔13a,13b内に配置されたTSV7a,7bとを備えている。
[0065] 研磨工程では、第1態様の研磨工程と同様に、前記CMP研磨液を用いて基板本体1を裏面1b側から研磨する。これにより、研削工程において裏面1bに発生した研削傷を解消することができる。
[0066] 本実施形態に係る半導体基板の研磨方法における研磨工程では、研磨定盤の研磨布上にCMP研磨液を供給しながら、基板本体1の裏面1bを研磨布に押圧した状態で、研磨定盤と基板本体1を相対的に動かして基板本体1を裏面1b側から研磨することが好ましい。このような研磨方法を用いた場合に、前記CMP研磨液の研磨特性を顕著に向上させることができる。
[0067] 研磨工程において用いられる研磨装置としては、回転数が変更可能なモータ等に接続されていると共に研磨布を貼り付けることができる研磨定盤と、研磨される基板を保持できるホルダーとを有する一般的な研磨装置を使用できる。研磨布としては、特に制限はなく、一般的な不織布、発泡ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂等を使用できる。
[0068] 研磨定盤の回転速度は、基板が飛び出さないように200rpm(200min-1)以下の低回転が好ましい。基板の研磨布への押し付け圧力(研磨圧力)は、70~350hPa(7~35kPa)が好ましい。研磨している間、研磨布には研磨液をポンプ等で連続的に供給することが好ましい。この供給量に制限はないが、研磨布の表面が常に研磨液で覆われていることが好ましい。
[0069] 研磨工程は、裏面1bに研削傷を有する粗ウエハである基板本体1を裏面1b側から粗研磨する粗研磨工程と、粗研磨工程の後に、基板本体1を裏面1b側から精密研磨する精密研磨工程とを有していてもよい。例えば、前記研磨方法の第1態様では、粗研磨工程として前記第1研磨工程を行った後、精密研磨工程として前記第2研磨工程を行うことができる。
[0070] 前記精密研磨工程では、所定のショアD硬度を有する研磨布を用いて基板本体1を裏面1b側から研磨することが好ましい。研磨布のショアD硬度の下限は、30以上が好ましく、40以上がより好ましい。ショアD硬度が30以上であると、研磨時にTSV部分に研磨布が過剰に入り込んでしまいTSVが被研磨面から大きくへこんだ状態(いわゆるディッシングが大きい状態)となることを充分に抑制することができる。これにより、上下に積層されたLSIチップを更に良好に接続することができる。また、研磨布のショアD硬度の上限は、90以下が好ましく、80以下がより好ましい。ショアD硬度が90以下であると、研磨に起因する傷などの欠陥を抑制できる。
[0071] ショアD硬度は、硬質ゴムなどの硬度を測定する時によく使用されるものであり、JIS K 6253に対応する基準である。ショアD硬度は、ショアD硬度計で測定した値であり、ショアD硬度の測定には、例えば、高分子計器株式会社製「アスカーゴム硬度計D型」を使用することができる。ショアD硬度の測定値には、一般的に±1程度の測定誤差が生じるため、同一の測定を5回行った平均値とする。また、ショアD硬度の上限は、その定義から100となる。」
「[0089][半導体基板の研磨1]
配合直後(配合後30分以内をいう。以下同じ。)の実施例1~10及び比較例1~7のCMP研磨液を研磨定盤の研磨布上に供給しながら、半導体基板(研磨ウエハ)の被研磨面を研磨布に押圧した状態で、半導体基板に対して研磨定盤を相対的に回転させることにより、半導体基板の被研磨面を研磨した。研磨条件の詳細は以下の通りである。
[0090](研磨条件1)
研磨ウエハ:300mmシリコンウエハ、300mmシリコンウエハ上にシリコン酸化膜(膜厚1μm)が成膜されたウエハ、300mmシリコンウエハ上に銅膜(膜厚1.4μm)が成膜されたウエハ、300mmシリコンウエハ上に窒化タンタル膜(膜厚0.25μm)が成膜されたウエハ
研磨機:F-REX (荏原製作所製、製品名)
研磨定盤回転数:123min-1
ホルダー回転数:117min-1
研磨圧力:21kPa
研磨液供給量:250ml/分
研磨布:IC1000 (ニッタ・ハース製)
研磨時間:5分(300mmシリコンウエハ)、30秒(シリコン酸化膜が成膜されたウエハ、銅膜が成膜されたウエハ、窒化タンタルが成膜されたウエハ)
・・・
[0095] 実施例1~10のCMP研磨液では、シリコンウエハの研磨速度がいずれも800nm/分以上であり、例えば、研削後の研削痕の解消に供するに充分な研磨速度が得られることが分かる。また、シリコン酸化膜の研磨速度がいずれも250nm/分以上であり、例えば、シリコン酸化膜で被覆された電極を露出させるに充分な研磨速度が得られることが分かる。」
「[0110](研磨条件2)
研磨ウエハ:TSV形成済みシリコンウエハPT-007(フィルテック社製)をサポート板に固定し、裏面研削にておよそ60μmまで薄層化した後に、2cm角にダイシングしたシリコンウエハ
研磨装置:ナノファクター製FACT-200型
研磨布:IC1000 (ニッタ・ハース製)(ショアD硬度:59)
研磨定盤回転数:80rpm
ホルダー回転数:駆動装置無し(自由回転)
研磨圧力:33.83kPa
研磨液供給量:16ml/分
研磨時間:50分
・・・
[0112] 図6は、研磨後の被研磨面に存在するTSVの形状を接触式段差計にて測定した結果である。直径40μmのTSVは、およそ0.08μmほど半導体基板の主面から突き出した形状であり、半導体基板とTSVの高低差が小さいことが確認された。」
イ 甲4から理解できる事項
(ア)甲4の段落[0066]~[0067]には、「本実施形態に係る半導体基板の研磨方法における研磨工程では、研磨定盤の研磨布上にCMP研磨液を供給しながら、基板本体1の裏面1bを研磨布に押圧した状態で、研磨定盤と基板本体1を相対的に動かして基板本体1を裏面1b側から研磨することが好ましい。」及び「研磨工程において用いられる研磨装置としては、回転数が変更可能なモータ等に接続されていると共に研磨布を貼り付けることができる研磨定盤と、研磨される基板を保持できるホルダーとを有する一般的な研磨装置を使用できる。」と記載されているから、甲4には、基板本体1を裏面1b側から研磨するように、基板本体1をホルダーの保持面上に保持する保持工程が開示されているといえる。
(イ)甲4の段落[0004]には、「次に、TSV材料である導電部材(例えば銅層等の導電体層)を中空部内に配置する。続いて、半導体基板を裏面(他方の主面)側からグラインダーを用いて研削して、絶縁層が露出する寸前まで半導体基板を薄層化した後、グラインダーによって半導体基板の裏面に発生した研削傷(研削痕)を研磨により解消する。・・・このようにTSVを得るためには、研削傷を解消するための研磨において、被研磨面に露出した半導体基板の裏面側の表層部や絶縁層を研磨除去する必要がある。」と記載されているから、研磨工程では、研削工程で基板本体1の裏面1b側に形成された研削痕を除去していることが理解できる。
(ウ)甲4の段落[0089]、[0090]には、実施例1~10を行うための研磨条件1として、シリコンウエハ、シリコンウエハ上にシリコン酸化膜が成膜されたウエハ、シリコンウエハ上に銅膜が成膜されたウエハ、又はシリコンウエハ上に窒化タンタル膜が成膜されたウエハを、研磨機:F-REX及び研磨布:IC1000を用いて、21kPaの研磨圧力で研磨することが記載されている。
そして、甲4の段落[0095]には、実施例1~10により、研削後の研削痕の解消に供するに充分な研磨速度が得られる、又はシリコン酸化膜で被覆された電極を露出させるに充分な研磨速度が得られると記載されている。
すなわち、シリコンウエハ、シリコンウエハ上にシリコン酸化膜が成膜されたウエハ、シリコンウエハ上に銅膜が成膜されたウエハ、又はシリコンウエハ上に窒化タンタル膜が成膜されたウエハを、研磨機:F-REX及び研磨布:IC1000を用いて、21kPaの研磨圧力で研磨することで、充分な研磨速度が得られることが理解できる。
(エ)甲4の段落[0110]には、研磨条件2として、TSV形成済みシリコンウエハを、研磨装置:ナノファクター製FACT-200型及び研磨布:IC1000を用いて、33.83kPaの研磨圧力で研磨することが記載されている。
そして、甲4の段落[0112]には、半導体基板とTSVの高低差が小さいことが確認されたと記載されている。
すなわち、TSV形成済みシリコンウエハを、研磨装置:ナノファクター製FACT-200型及び研磨布:IC1000を用いて、33.83kPaの研磨圧力で研磨することで、半導体基板とTSVの高低差を小さくできることが理解できる。
ウ 甲4発明
上記ア~イから、甲4には、以下の発明(以下「甲4発明」という。)が開示されていると認められる。
<甲4発明>
「表面1a及び裏面1bを備える基板本体1をホルダーの保持面で保持して加工する基板本体1の加工方法であって、
該基板本体1を裏面1b側から研磨するように、該基板本体1を該ホルダーによって保持する保持工程と、
該基板本体1の該裏面1b側をグラインダーで研削する研削工程と、
該基板本体1の該裏面1b側を研磨して、該研削工程で該基板本体1の該裏面1b側に形成された研削痕を除去する研磨工程と、を備え、
該研磨工程では、ショアD硬度が30以上90以下である研磨布で、シリコンウエハである該基板本体1を、研磨圧力21kPa又は33.83kPaで研磨する基板本体1の加工方法。」
(2)甲4発明と本件発明1との対比
甲4発明を、本件発明1と対比する。
甲4発明の「表面1a」は、本件発明1の「第1面」に相当し、以下同様に、「裏面1b」は「第2面」に、「基板本体1」は「ウェーハ」に、「グラインダー」は「研削砥石」に、それぞれ相当する。
また、甲4発明の「該基板本体1を裏面1b側から研磨するように」との構成は、基板本体1の表面1aが保持面に保持され、裏面1bが露出した状態で研磨を行うことを意味するから、本件発明1の「該第1面側が該保持面に対向し該第2面側が上方に露出するように」との構成と、「該第1面側が該保持面に対向し該第2面側が露出するように」との点で共通する。
また、甲4発明の「ホルダー」と本件発明1の「チャックテーブル」とは、ウェーハを保持する「ホルダー」である点で共通する。
また、甲4発明の「ショアD硬度が30以上90以下である研磨布」と本件発明1の「デュロメータ タイプDによって測定された硬度が30以上65未満である研磨パッド」とは、「デュロメータ タイプDによって測定された硬度が所定硬度である研磨パッド」である点で共通する。
また、甲4発明の「シリコンウエハである該基板本体1を研磨圧力21kPa又は33.83kPaで研磨する」ことと、本件発明1の「シリコンウェーハ、GaNウェーハ又はSiCウェーハである該ウェーハを、該ウェーハに付与される圧力が250gf/cm2以上300gf/cm2以下となるように研磨する」こととは、「シリコンウェーハ、GaNウェーハ又はSiCウェーハである該ウェーハを、該ウェーハに付与される圧力が所定圧力となるように研磨する」ことである点で共通している。
以上から、本件発明1と甲4発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。
<一致点>
「第1面及び第2面を備えるウェーハをホルダーの保持面で保持して加工するウェーハの加工方法であって、
該第1面側が該保持面に対向し該第2面側が露出するように、該ウェーハを該ホルダーによって保持する保持工程と、
該ウェーハの該第2面側を研削砥石で研削する研削工程と、
該ウェーハの該第2面側を研磨して、該研削工程で該ウェーハの該第2面側に形成された研削痕を除去する研磨工程と、を備え、
該研磨工程では、デュロメータ タイプDによって測定された硬度が所定硬度である研磨パッドで、シリコンウェーハ、GaNウェーハ又はSiCウェーハである該ウェーハを、該ウェーハに付与される圧力が所定圧力となるように研磨するウェーハの加工方法。」
<相違点1>
第2面側(裏面側)が露出するようにウェーハを保持するホルダーが、本件発明1は、第2面側が「上方に」露出するように保持する「チャックテーブル」であるのに対し、甲4発明は、第2面側が上方に露出するように保持するチャックテーブルであるか不明な点。
<相違点2>
研磨パッドのデュロメータ タイプDによって測定された硬度(ショアD硬度)が、本件発明1は、「30以上65未満」であるのに対し、甲4発明は、「30以上90以下」である点。
<相違点3>
研磨工程でウェーハに付与される圧力が、本件発明1では、「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」であるのに対し、甲4発明では、21kPa又は33.83kPaである点。
(3)判断
ア 事案に鑑みて、相違点3について検討する。
上記(1)イ(ウ)、(エ)のとおり、甲4の記載から、シリコンウエハ、シリコンウエハ上にシリコン酸化膜が成膜されたウエハ、シリコンウエハ上に銅膜が成膜されたウエハ、又はシリコンウエハ上に窒化タンタル膜が成膜されたウエハを、研磨機:F-REX及び研磨布:IC1000を用いて、21kPa(略214gf/cm2)の研磨圧力で研磨することで、充分な研磨速度が得られること、及びTSV形成済みシリコンウエハを、研磨装置:ナノファクター製FACT-200型及び研磨布:IC1000を用いて、33.83kPa(略345gf/cm2)の研磨圧力で研磨することで、半導体基板とTSVの高低差を小さくできることは、理解できる。
しかしながら、甲4には、研磨圧力を本件発明1の「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」の範囲内に限ることは記載されていない。
そして、甲4においては、上記(1)イ(ウ)のとおり、研磨時にウェーハに付与される圧力を21kPa(略214gf/cm2)とすることで充分な研磨速度を得られる一方で、甲4には研磨時の圧力と研磨速度との関係について記載されていないところ、例えば圧力を21kPa以上とすること、すなわち研磨圧力の範囲の下限を本件発明1の250gf/cm2とすることについて、研磨速度がさらに高められるというような動機付けは見当たらない。
同様に、甲4において、上記(1)イ(エ)のとおり、研磨時にウェーハに付与される圧力を33.83kPa(略345gf/cm2)とすることで半導体基板とTSVの高低差を充分に小さくできる一方で、甲4には研磨時の圧力と当該半導体基板とTSVの高低差との関係について記載されていないところ、例えば圧力を33.83kPa以下とすること、すなわち研磨圧力の範囲の上限を本件発明1の300gf/cm2とすることについて、当該高低差をさらに小さくできるというような、動機付けも見当たらない。
よって、甲4には、研磨圧力を本件発明1の「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」の範囲内に限ることが記載されていないだけでなく、その動機付けも見いだすことができない。
さらに、甲4の段落[0068]には、「基板の研磨布への押し付け圧力(研磨圧力)は、70~350hPa(7~35kPa)が好ましい。」との記載はあるものの、そのことによる作用効果についての記載はなく、研磨圧力として、当該「70~350hPa(7~35kPa)」(略71gf/cm2~356gf/cm2)の範囲内における、限定された「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」の範囲内の値を採用する動機付けも見当たらない。
また、甲1~3のいずれにも、「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」の範囲内の圧力でウェーハを研磨することは記載されていない(研磨圧力について、甲1には具体的な数値の記載がなく、甲2の段落【0096】に「55kPa」(略561gf/cm2)及び段落【0107】に「45kPa」(略459gf/cm2)の記載、甲3の段落【0083】に「220hPa」(略224gf/cm2)の記載はあるものの、いずれも「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」の範囲内の研磨圧力ではない。)。
したがって、甲4発明及び甲1~3に記載の技術的事項に基づいて、研磨圧力を「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」の範囲内の圧力とし、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たということはできない。
イ 申立人意見書における、本件発明1の進歩性についての申立人の意見
(ア)意見の概要
甲4に開示された範囲は本件発明1に規定された範囲をカバーするものであり、研磨条件として採用された値(214gf/cm2及び345gf/cm2)も本件発明1の範囲を上下に同程度外れているにすぎないことからみて、本件発明1の圧力の範囲は、当業者が研磨圧力として通常設定する範囲のものであり、本件発明1において規定された研磨圧力の範囲「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」は、格別顕著な効果を奏するものではなく、当業者が普通に設定する研磨圧力である。
(イ)検討
ウェーハの研磨を、本件発明1の「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」の範囲内の圧力で行うことは甲1~4のいずれにも記載されておらず、甲1~4に基づいて、研磨圧力として当該範囲内の圧力が通常設定するものであるということはできない。
また、仮にウェーハの研磨を当該範囲内の圧力で行うことが知られていたとしても、甲4発明において、21kPa(略214gf/cm2)で研磨するのは充分な研磨速度を得るためであり、33.83kPa(略345gf/cm2)で研磨するのは半導体基板とTSVの高低差を小さくするためであるところ、甲4には、これらの圧力を変更しても、充分な研磨速度を得られる、又は半導体基板とTSVの高低差を小さくできることの記載及び示唆はないから、甲4発明において、21kPa及び33.83kPaとの研磨圧力をあえて変更して、「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」の範囲内の圧力とすることが容易になし得たとはいえない。
よって、上記申立人の主張は採用できない。
(4)本件発明1についてのむすび
以上から、相違点1~2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明及び甲1~3に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
2 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に請求項2に記載の発明特定事項を付加して限定したものであるところ、本件発明2と甲4発明とを対比すると、少なくとも、上記1(2)に示した相違点1~3では相違すると認められる。
したがって、上記1(3)で示したのと同様の理由により、本件発明2は、甲4発明及び甲1~3に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たということはできない。
3 取消理由3についてのむすび
よって、請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできず、取消理由3により取り消すことはできない。
第6 取消理由2(サポート要件)についての検討
1 取消理由2の概要
取消理由2の概要は概ね以下のとおりである。
「請求項1には、例えば本件特許の発明の詳細な説明に記載された実験及び実験結果についての条件のような、研磨の際の条件は記載されていない。そして、ウェーハの研磨量が、研磨パッドの硬度だけではなく、ウェーハの材質、研磨パッドの材質、研磨パッド及びチャックテーブルの回転数、研磨パッドの押圧力、砥粒の有無や材質、研磨液の選択などの他の因子によって影響を受けることは技術常識であるから、請求項1に係る発明は、当業者が、出願時の技術常識に照らしても発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。
また、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0061】の記載によれば、研磨パッドのウェーハの凹凸内部への入り込みやすさが、上記課題を解決するための要因であるところ、この入り込みやすさは、研磨パッドの押圧力やウェーハの材質、ウェーハと研磨パッドの間の砥粒の有無や粒径などの他の因子にも影響を受けるものであるから、上記課題の解決は研磨パッドの硬度のみに影響を受けるものとはいえず、研磨パッドの硬度のみが特定されている請求項1に係る発明は上記課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。」
2 取消理由2についての検討
取消理由2について、特許権者は、特許権者意見書において、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0061】の記載によれば、研磨パッドのウェーハの凹凸内部への入り込みやすさが、本件発明の課題を解決するための要因であるところ、ある部材を他の部材に押し付けて接触させる際、一方の部材が他の部材に形成された凹凸にどの程度入り込むかは、両部材の物性と、両部材をどの程度の力で接触させるかにより決定されるため、研磨パッドをウェーハに接触させた際に研磨パッドがウェーハの凹凸にどの程度入り込むかについては、結局のところ、どのような研磨パッドをどの程度の力でどのようなウェーハに押し付けるかという要素が支配的に寄与することになる旨を説明した。
そして、本件訂正後の請求項1においては、「デュロメータ タイプDによって測定された硬度が30以上65未満である研磨パッド」との記載により研磨パッドの硬度が特定され、「シリコンウェーハ、GaNウェーハ又はSiCウェーハである該ウェーハ」との記載によりウェーハの物性(なお、ウェーハの当該物性に関連して、同意見書には、デュロメータ タイプDによって測定された硬度が30以上65未満である研磨パッドの硬度はモース硬度に換算すると略5であること、シリコンウェーハのモース硬度が7であること、GaNウェーハ及びSiCウェーハの硬度はシリコンウェーハの硬度より高いことも説明されている。)が特定され、さらに「該ウェーハに付与される圧力が250gf/cm2以上300gf/cm2以下となるように研磨する」との記載により研磨時に研磨パッドをウェーハに押し付ける圧力が特定されているところ、研磨パッドの硬度、ウェーハの物性(硬度)及び研磨時に研磨パッドをウェーハに押し付ける圧力により、研磨時に研磨パッドがウェーハの凹凸にどの程度入り込むかについて制御できることが理解できるから、本件明細書等の段落【0061】の「ここで、研磨加工による凹凸19の除去について本発明者が鋭意研究に努めた結果、研磨パッド88の硬度が高くなると、凹凸19の除去に必要なウェーハ11の研磨量が小さくなることが確認された。この現象は、研磨パッド88の凹凸19内部への入り込みやすさが、研磨パッド88の硬度に依存していることに起因すると推察される。」との記載を参酌すれば、研磨パッドの硬度、ウェーハの物性(硬度)及び研磨時に研磨パッドをウェーハに押し付ける圧力が特定されている本件訂正後の請求項1に係る発明により、凹凸の除去に必要なウェーハの研磨量を小さくするとの課題は解決できるものと認めて差し支えない。
よって、請求項1及び請求項1を引用する請求項2に係る特許は、取消理由2により取り消すことはできない。
3 取消理由2についての申立人の主張
申立人は、申立人意見書において、研磨パッドとウェーハの間に存在する砥粒の硬度や粒径は研磨(研磨パッドのウェーハの凹凸への入り込みやすさ)に影響することは明らかである旨を主張している。
しかしながら、本件明細書等の段落【0061】には、研磨パッドの硬度との関連で、研磨パッドの凹凸内部への入り込みやすさが説明されていることから、研磨パッドのウェーハに対する変形によって凹凸内部へ入り込みやすさが説明されていると理解できることや、砥粒がなくても研磨が行えることは技術常識であることなどを考慮すれば、本件発明1に、砥粒の有無や砥粒の硬度、粒径について特定されていないことをもって、ただちに凹凸の除去に必要なウェーハの研磨量を小さくするとの課題を解決できないとはいえない。
また、本件発明1に、研磨パッド及びチャックテーブルの回転数、研磨液の選択等のその他の要因が特定されていないことについても、同様である。
第7 取消理由通知及び決定の予告において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
本件特許に対して、取消理由通知及び決定の予告において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
申立理由:(進歩性欠如):本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(上記第4の3の甲1に記載された発明及び甲2、3に記載の周知の技術的事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 申立理由についての検討
(1)甲1発明
甲1の段落【0002】~【0004】、【0008】、【0009】、【0018】~【0021】、【0031】~【0042】及び図1~3等から、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「表面及び裏面を備えるウェーハ1を、負圧チャック式のチャックテーブル30の保持面で保持して加工するウェーハ1の加工方法であって、
該表面側が該保持面に対向し該裏面側が上方に露出するように、該ウェーハ1を該負圧チャック式のチャックテーブル30によって保持する保持工程と、
該ウェーハ1の該裏面側を研削ユニット40A、40Bに取り付けられる砥石45で研削する研削工程と、
該ウェーハの該裏面側を研磨して、研削加工面の機械的ダメージ層を除去する研磨工程と、を備え、
該研磨工程では、ウェーハ1に応じた研磨パッドで、シリコンウェーハである該ウェーハを研磨するウェーハの加工方法。」
(2)対比
本件発明1と、甲1発明とを対比すると、甲1発明の「表面」は本件発明の「第1面」に相当し、以下同様に、「裏面」は「第2面」に、「ウェーハ1」は「ウェーハ」に、「負圧チャック式のチャックテーブル30」は「チャックテーブル」に、「研削ユニット40A、40Bに取り付けられる砥石45」は「研削砥石」に、「研削加工面の機械的ダメージ層」は「該研削工程で該ウェーハの該第2面側に形成された研削痕」に、「シリコンウェーハ」は「シリコンウェーハ、GaNウェーハ又はSiCウェーハ」に、それぞれ相当する。
以上から、本件発明1と、甲1発明とは、下記相違点4、5で相違し、その余の点で一致する。
<相違点4>
研磨パッドのデュロメータ タイプDによって測定された硬度(ショアD硬度)が、本件発明1は、「30以上65未満」であるのに対し、甲1発明では、研磨パッドはウェーハ1に応じたものとされ、その硬度は不明な点。
<相違点5>
研磨工程でウェーハに付与される圧力が、本件発明1では、「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」であるのに対し、甲1発明では、不明な点。
(3)判断
事案に鑑みて、相違点5について検討する。
相違点5は、実質的に上記第5の1(2)で示した相違点3と同様の相違点である。
そして、上記第5の1(3)アで検討したとおり、甲1~3のいずれにも、「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」の範囲内の圧力でウェーハを研磨することは記載されていない。甲1発明は、ウェーハの裏面を研削した後に研削加工面を研磨して機械的ダメージ層を除去するものではあるものの、甲1には、そのための技術としてウェーハを搬送する吸着パッドの材質を工夫してワークを健全な状態のまま搬送先に搬送する手段が記載されているのみであるから、甲1発明について、研磨工程でウェーハに付与される圧力を「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」とすることの動機付けを見いだすことができないことは、甲4発明と同様である。
したがって、上記第5の1(3)と同様の理由により、甲1発明及び甲2、3に記載の技術的事項に基づいて、研磨圧力を「250gf/cm2以上300gf/cm2以下」の範囲内の圧力とし、相違点5に係る本件発明1の構成とすることが容易になし得たということはできない。
よって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2は、甲1発明及び甲2、3に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たということはできず、請求項1及び請求項1を引用する請求項2に係る特許は、申立理由により取り消すことはできない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知及び決定の予告に記載した取消理由並びに特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701359