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特許異議申立

2023-701328

柑橘風味飲料および柑橘風味飲料の製造方法

審判番号
2023-701328
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-208260
登録番号
7295327
請求日
2023年12月18日
審決日
2025年02月13日
公報発行日
2025年06月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】アサヒビール株式会社
  • 【権利者代理人】速水 進治
  • 【異議申立人】副島 朋子
審判長/審判官
  • 審判長 柴田 昌弘
  • 審判官 松本 陶子
  • 審判官 加藤 友也
分類
P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7295327号発明「柑橘風味飲料および柑橘風味飲料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7295327号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3、6-12〕、〔4-5〕、13、14について訂正することを認める。 特許第7295327号の請求項1-14に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7295327号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、令和4年12月26日を出願日とする出願であって、令和5年6月12日にその特許権の設定登録(請求項の数14)がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月18日に特許異議申立人 副島 朋子(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、令和6年2月16日付けで取消理由が通知され、同年4月18日に特許権者 アサヒビール株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年5月1日に特許権者から手続補正書が提出され、同年6月24日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)が通知され、同年7月26日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年10月28日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年12月20日に特許権者から訂正請求がされるとともに意見書が提出されものである。 なお、令和6年5月1日に提出された手続補正書により補正された同年4月18日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 また、既に特許異議申立人に意見書の提出の機会が与えられており、下記第2 1のとおり、令和6年12月20日にされた訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、下記第6~8のとおり、提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体は判断し、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された特別の事情があるときといえるから、特許異議申立人に再度の意見書の提出の機会を与えていない。 第2 本件訂正について 1 訂正の内容 令和6年12月20日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。 (1)訂正事項1 訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「柑橘風味飲料。」と記載されているのを「柑橘風味飲料(ただし、ロタンドンを0.1ppb以上含む飲料を除く)。」に訂正する。 併せて、請求項1の記載を直接引用する請求項6~12も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 訂正前の特許請求の範囲の請求項2に「柑橘風味飲料。」と記載されているのを「柑橘風味飲料(ただし、ウイスキーを含むアルコール入りハイボール飲料を除く)。」に訂正する。 併せて、請求項2の記載を直接引用する請求項3、6、7、9~12も同様に訂正する。 (3)訂正事項3 訂正前の特許請求の範囲の請求項4に「さらにエチルオクタノエートを含む、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。」と記載されているのを「トリアセチン、およびエチルオクタノエートを含み、前記トリアセチンの含有量が0.5ppb~1000ppbである、柑橘風味飲料。」に訂正する。 併せて、請求項4の記載を直接引用する請求項5も同様に訂正する。 (4)訂正事項4 訂正前の特許請求の範囲の請求項13に「柑橘風味飲料の製造方法。」と記載されているのを「柑橘風味飲料の製造方法(ただし、ロタンドンを0.1ppb以上含む飲料の製造方法を除く)。」に訂正する。 (5)訂正事項5 訂正前の特許請求の範囲の請求項14に「柑橘風味飲料の製造方法。」と記載されているのを「柑橘風味飲料の製造方法(ただし、ウイスキーを含むアルコール入りハイボール飲料の製造方法を除く)。」に訂正する。 (6)一群の請求項について 訂正前の請求項1~12について、請求項3~12は、それぞれ請求項1又は2を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項1~12に対応する訂正後の請求項1~12は、特許法第120条の5第4項に規定するところの一群の請求項である。 そして、訂正後の請求項4、5については、訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とする求めがある。 2 訂正の目的、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)請求項1についての訂正について 訂正事項1による請求項1についての訂正は、「柑橘風味飲料」から「ロタンドンを0.1ppb以上含む飲料」を除外するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)請求項2についての訂正について 訂正事項2による請求項2についての訂正は、「柑橘風味飲料」から「ウイスキーを含むアルコール入りハイボール飲料」を除外するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)請求項3についての訂正について 訂正事項2による請求項3についての訂正は、請求項2についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2による請求項3についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)請求項4についての訂正について 訂正事項3による請求項4についての訂正は、訂正前の請求項4が請求項1、2のいずれかを引用していたのを、請求項1、2を引用しないものとし、さらに、請求項1を引用するものについて、請求項1の記載を引用しない独立形式に書き下したものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 そして、訂正事項3による請求項4についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)請求項5についての訂正について 訂正事項3による請求項5についての訂正は、請求項4についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 そして、訂正事項3による請求項5についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (6)請求項6、7、9~12についての訂正について 訂正事項1及び2による請求項6、7、9~12についての訂正は、請求項1及び2についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1及び2による請求項6、7、9~12についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (7)請求項8についての訂正について 訂正事項1による請求項8についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1による請求項8についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (8)請求項13についての訂正について 訂正事項4による請求項13についての訂正は、「柑橘風味飲料の製造方法」から「ロタンドンを0.1ppb以上含む飲料の製造方法」を除外するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項4による請求項13についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (9)請求項14についての訂正について 訂正事項5による請求項14についての訂正は、「柑橘風味飲料の製造方法」から「ウイスキーを含むアルコール入りハイボール飲料の製造方法」を除外するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項5による請求項14についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 むすび 以上のとおり、訂正事項1~5による請求項1~14についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1又は4号に掲げる事項を目的とするものである。 そして、訂正事項1~5による請求項1~14についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 なお、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1~14に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3、6-12〕、〔4-5〕、13、14について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1~14に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 トリアセチンを含み、前記トリアセチンの含有量が0.5ppb~1000ppbである、柑橘風味飲料(ただし、ロタンドンを0.1ppb以上含む飲料を除く)。 【請求項2】 トリアセチンを含み、アルコール濃度が5体積/体積%以上である、柑橘風味飲料(ただし、ウイスキーを含むアルコール入りハイボール飲料を除く)。 【請求項3】 前記トリアセチンの含有量が0.5ppb~1000ppbである、請求項2に記載の柑橘風味飲料。 【請求項4】 トリアセチン、およびエチルオクタノエートを含み、前記トリアセチンの含有量が0.5ppb~1000ppbである、柑橘風味飲料。 【請求項5】 前記エチルオクタノエートの含有量が10ppb~1000ppbである、請求項4に記載の柑橘風味飲料。 【請求項6】 柑橘果汁を含有する、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。 【請求項7】 レモン風味飲料である、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。 【請求項8】 アルコール濃度が0.4体積/体積%以上である、請求項1に記載の柑橘風味飲料。 【請求項9】 炭酸ガスを含有する、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。 【請求項10】 エキス分が0.2~10質量/体積%である、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。 【請求項11】 クエン酸酸度が0.20~0.90g/100mlである、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。 【請求項12】 容器詰め飲料である、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。 【請求項13】 トリアセチンを添加し、前記トリアセチンの含有量が0.5ppb~1000ppbとなるように飲料を調製する工程を含む、柑橘風味飲料の製造方法(ただし、ロタンドンを0.1ppb以上含む飲料の製造方法を除く)。 【請求項14】 トリアセチンを添加して飲料を調製する工程を含み、 前記飲料のアルコール濃度が5体積/体積%以上である、柑橘風味飲料の製造方法(ただし、ウイスキーを含むアルコール入りハイボール飲料を除く)。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和5年12月18日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項1、4~7及び9~13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、4~7及び9~13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第3号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1、7、9及び13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件特許の請求項1~14に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をするとができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 証拠方法 甲第1号証:特開2017-212932号 甲第2号証:George A. Burdock、"FENAROLI'S HANDBOOK OF Flavor Ingredients sixth edition"、CRC Press発行、2010年、表紙、目次、序文、p.1、1926-1927、2035、2131 甲第3号証:特開2021-94024号公報 甲第4号証:「大人気のウイスキーハイボール缶を20種類飲み比べてみた」インターネットウェブサイト、2019年10月25日掲載(2019年12月3日更新)、URL:https://www.ienomistyle.com/trend/20191025-3402 甲第5号証:特開2021-78408号公報 甲第6号証:大塚 謙一、壱岐 勇、山下 勉「ウイスキーのタイプと成分」、醗酵工学会誌、第57巻、第1号、p.20-30、1979年1月25日発行 以下、順に「甲1」のようにいう。 なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。 第5 取消理由(決定の予告)の概要 令和6年10月28日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。 ・取消理由2(明確性要件)について 本件特許の請求項2~3、6~12及び14に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件特許発明2は、「トリアセチンを含み、アルコール濃度が5体積/体積%以上である、柑橘風味飲料。」から「ウイスキー由来のアルコール濃度が5体積/体積%以上である飲料」を除くものであるが、当該「ウイスキー由来のアルコール濃度が5体積/体積%以上である飲料」としてどのような飲料が含まれるのかが不明である。 具体的には、「ウイスキー由来のアルコール濃度が5体積/体積%以上である飲料」とは、(1)アルコール濃度が5体積/体積%以上であって、ウイスキー由来の飲料を特定するものなのか、または、(2)ウイスキー由来のアルコール濃度が、5体積/体積%以上である飲料(少なくともウイスキーによるアルコールが5体積/体積%のアルコール濃度である飲料)を特定するものなのか、明確でない。 本件特許発明14の記載についても、同様の取消理由が存する。 したがって、本件特許発明2及び14に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。 また、本件特許の請求項2の記載を直接引用して特定する本件特許発明3、6~7及び9~12についても同様であり、本件特許発明3、6~7及び9~12に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。 よって、本件特許発明2~3、6~12及び14は明確であるとはいえない。 第6 取消理由(決定の予告)についての当審の判断 1 明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで、検討する。 2 明確性要件の判断 取消理由(決定の予告)の取消理由2は、令和6年4月18日にされた訂正請求により訂正された本件特許の請求項2において、「ウイスキー由来のアルコール濃度が5体積/体積%以上である飲料」という記載が、(1)アルコール濃度が5体積/体積%以上であって、ウイスキー由来の飲料を特定するものなのか、(2)ウイスキー由来のアルコール濃度が、5体積/体積%以上である飲料(少なくともウイスキーによるアルコールが5体積/体積%のアルコール濃度である飲料)を特定するものなのかが不明確であることに起因するものであるところ、令和6年12月20日にされた本件訂正により、本件特許の請求項2において、上記記載が「ウイスキーを含むアルコール入りハイボール飲料」に訂正された。また、本件特許の請求項14についても同様の訂正がなされた。 そして、本件特許の請求項2~3、6~12及び14の記載は、上記第3のとおりであり、本件特許の請求項2~3、6~12及び14の記載には、それら自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。 したがって、本件特許発明2~3、6~12及び14に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 3 取消理由(決定の予告)についての当審の判断のむすび よって、本件特許の請求項2~3、6~12及び14に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当しないので、取消理由(決定の予告)の取消理由2によっては取り消すことはできない。 第7 取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由について 1 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について (1)甲1に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項 甲1には、「酒らしい味わいが増強された飲料」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 1,2,3-トリアセトキシプロパン含有量が7~1300ppmであり、pHが2~5であり、アルコール含有量が2.8v/v%以下である容器詰飲料。 【請求項2】 アルコール含有量が2v/v%以下である、請求項1に記載の飲料。 【請求項3】 苦味物質を含有する、請求項1または2に記載の飲料。 【請求項4】 ナリンジン、クワシン、アブシンチンおよびその混合物からなる群より選択される苦味物質を含有する、請求項1~3のいずれかに記載の飲料。 【請求項5】 スクラロース、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、ステビアおよびその混合物からなる群より選ばれる高甘味度甘味料を含有する、請求項1~4のいずれかに記載の飲料。 【請求項6】 炭酸ガスを含有する炭酸飲料である、請求項1~5のいずれかに記載の飲料。 【請求項7】 チューハイテイスト飲料、サワーテイスト飲料またはビールテイスト飲料である、請求項1~6のいずれかに記載の飲料。 【請求項8】 飲料の1,2,3-トリアセトキシプロパン含有量を7~1300ppmに調整することを含む、pHが2~5であり、アルコール含有量が2.8v/v%以下である容器詰飲料への酒感付与方法。」 ・「【0015】 1,2,3-トリアセトキシプロパン(トリアセチン) 本発明の飲料は、7~1300ppmの1,2,3-トリアセトキシプロパンを含有する。1,2,3-トリアセトキシプロパンとは、下式に示すグリセリンと酢酸のトリエステルであり、トリアセチン(Triacetin)とも呼ばれる。日本を始め欧米など多くの国で食品添加物としての使用が認められている。本発明において1,2,3-トリアセトキシプロパンは、化学合成によって製造したものを使用してもよいし、天然物由来の1,2,3-トリアセトキシプロパンを使用してもよい。1,2,3-トリアセトキシプロパンは、ニシキギの種子などに含まれていることが知られている。」 ・「【0052】 実験3:炭酸飲料における酒感向上 ノンアルコールの炭酸飲料における1,2,3-トリアセトキシプロパン添加の効果を調べた。具体的には、100ppmの1,2,3-トリアセトキシプロパンを配合し、実験1と同様にして容器詰飲料を製造した(アルコール含有量:0v/v%、炭酸ガス圧:2.0kgf/cm2)。ただし、飲料のpHについては、酸味料を調整して約3.2と約3.6の2水準を作成し、また、1ml/Lのレモンフレーバーまたはブドウフレーバーを配合した飲料サンプルも製造した。 【0053】 実験1と同様にして飲料サンプルを官能評価した結果を下表に示す。表から明らかなように、炭酸飲料であっても本発明の効果が発揮されることが明らかになった。また、飲料にフレーバーを添加した場合や飲料のpHを変えた場合でも、本発明によって飲料に酒感を付与することができた。特に、炭酸飲料となると、アルコールを含有していないにも関わらず、チューハイテイストの酒感が増した。同様に、アルコールを含有し、アルコール含有量が2.8v/v%以下であっても、同様に、チューハイテイストの酒感が増す、と考える。 【0054】 【表3】 [図:0001423451000001.jpg] 」 イ 甲1に記載された発明 甲1に記載された事項を、特に実施例3-1-3に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1発明」「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明> 「100ppmの1,2,3-トリアセトキシプロパンを含有した、レモンフレーバーを配合したノンアルコールの炭酸飲料。」 <甲1製法発明> 「甲1発明の製造方法。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明における「1,2,3-トリアセトキシプロパン」は、本件特許発明1における「トリアセチン」であり、甲1発明における「レモンフレーバーを配合した」「炭酸飲料」は、本件特許発明1における「柑橘風味飲料」に相当する。 そうすると、両者は以下の一致点及び相違点を有する。 <一致点> 「トリアセチンを含む、柑橘風味飲料」 <相違点1-1> 本件特許発明1では、「トリアセチンの含有量が0.5ppb~1000ppbである」と特定されているのに対し、甲1発明ではそのようには特定されていない点 イ 判断 上記相違点1-1について検討する。 甲1発明のトリアセチン濃度は、甲1の【0052】によると、100ppm(=100000ppb)であるから、相違点1-1は実質的な相違点である。 また、甲2には、トリアセチンの用途食品カテゴリーとしてノンアルコール飲料が記載されており、その際のトリアセチン濃度を0.11~0.28ppm(=110~280ppb)とすることが記載されているものの、甲1には、アルコール含有量が低い飲料に対して酒らしい風味を付与することを課題として、飲料中のトリアセチン濃度を7~1300ppmとすることが記載されているから、甲1発明において、トリアセチンの含有量を0.5ppb~1000ppbにまで低める動機付けはあるとはいえない。 また、他の証拠にも、甲1発明において、トリアセチンの含有量を0.5ppb~1000ppbとする記載や示唆はない。 したがって、甲1発明において、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 よって、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件特許発明6~7、9~12について 本件特許発明6~7、9~12は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)本件特許発明4について ア 対比 本件特許発明4と甲1発明を対比すると、上記(2)と同様なことがいえるから、両者は以下の一致点及び相違点を有する。 <一致点> 「トリアセチンを含む、柑橘風味飲料」 <相違点2-1> 本件特許発明4では、「トリアセチンの含有量が0.5ppb~1000ppbである」と特定されているのに対し、甲1発明ではそのようには特定されていない点 <相違点3-1> 本件特許発明4では、「エチルオクタノエートを含」むことが特定されているのに対し、甲1発明ではそのようには特定されていない点 イ 判断 事案に鑑みて、相違点2-1について検討する。 相違点2-1は、上記相違点1-1と同旨であるから、上記(2)イと同様に判断される。 したがって、甲1発明において、甲1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点2-1に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 よって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明4は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件特許発明5について 本件特許発明5は、請求項4の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明4の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明4と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (6)本件特許発明13について 本件特許発明13と甲1製法発明を対比すると、上記(2)と同様なことがいえるから、本件特許発明13は甲1製法発明であるとはいえないし、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 申立理由2(甲3に基づく新規性・進歩性)について (1)甲3に記載された事項等 ア 甲3に記載された事項 甲3には、「炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤、香料組成物及び炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【0048】 本発明の炭酸感増強剤は、上記有効成分を溶媒に溶解させて調製する。 炭酸感増強剤の調製に使用する溶媒は、特に限定されるものではないが、水、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール、グリセリン、プロピレングリコールなどの多価アルコールの他、トリアセチン、トリエチルシトレート、食用油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどを、単独又は混合して使用することができる。」 ・「【0062】 炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品を提供するためには、炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品を製造する工程において、飲食品の種類にもよるが、総じて飲食品中のロタンドンが0.1ppt~10ppm、好ましくは1ppt~5ppm、より好ましくは1ppt~1ppm、さらに好ましくは5ppt~100ppbになるように炭酸感増強剤又は炭酸感増強用の香料組成物を添加する。 【0063】 添加量が0.1ppt未満では炭酸感増強効果が発揮できず、一方、10ppmを超えると異味の発生により飲食品本来の香味特徴が損なわれる恐れがあるからである。」 ・「【0065】 得られたロタンドンをトリアセチンで希釈することにより、10質量%のロタンドン溶液を作成した。 得られた10質量%のロタンドン溶液を95(v/v)%エタノール水溶液で希釈することで、ロタンドンの濃度が0.1ppb~1質量%である炭酸感増強剤を作成した。」 ・「【0081】 〔試験例4〕(アルコール入りハイボール飲料) 市販のアルコール入りハイボール飲料(原材料:ウイスキー、レモンスピリッツ、食物繊維、酸味料)に、ロタンドンを添加しない飲料を対照サンプル(以下「無添加品」という)とし、上記製造例1で製造したロタンドンを表4に記載の濃度になるように添加することで、評価サンプルであるアルコール入りハイボール飲料を作成し、表4(1)の評価基準で、熟練したパネリスト4名にて官能評価を行った。なお、表4(3)の香味の改善効果は、4名のパネリストの平均点で示した。 【0082】 〔実施例3〕 ロタンドンを添加することにより、アルコール入りハイボール飲料の飲みごたえ、刺激、発泡感が増加して、アルコール入りハイボール飲料の炭酸感が増強できた。 また、炭酸感増強効果が発揮されるアルコール入りハイボール飲料中のロタンドンの濃度は0.001ppb~1000ppb、好ましくは0.001ppb~500ppb、さらに好ましくは0.001ppb~100ppbである。 【0083】 【表4】 [図:0001423451000002.jpg] 【0084】 〔試験例5〕(レモン風味炭酸飲料) 市販のレモン風味炭酸飲料に、ロタンドンを添加しない飲料を対照サンプル(以下「無添加品」という)とし、上記製造例1で製造したロタンドンを表5に記載の濃度になるように添加することで、評価サンプルであるレモン風味炭酸飲料を作成し、表5(1)の評価基準で、熟練したパネリスト4名にて官能評価を行った。なお、表5(3)の香味の改善効果は、4名のパネリストの平均点で示した。 【0085】 〔実施例4〕 ロタンドンを添加することにより、レモン風味炭酸飲料の飲みごたえ、刺激、発泡感が増加して、レモン風味炭酸飲料の炭酸感が増強できた。 また、炭酸感増強効果が発揮されるレモン風味炭酸飲料中のロタンドンの濃度は0.0001ppb~1000ppb、好ましくは0.001ppb~1000ppb、より好ましくは0.001ppb~500ppb、さらに好ましくは0.001ppb~100ppbである。 【0086】 【表5】 [図:0001423451000003.jpg] 【0087】 〔試験例6〕(オレンジ風味炭酸飲料) 市販のオレンジ風味炭酸飲料に、ロタンドンを添加しない飲料を対照サンプル(以下「無添加品」という)とし、上記製造例1で製造したロタンドンを表6に記載の濃度になるように添加することで、評価サンプルであるオレンジ風味ノンアルコール飲料を作成し、表6(1)の評価基準で、熟練したパネリスト4名にて官能評価を行った。なお、表6(3)の香味の改善効果は、4名のパネリストの平均点で示した。 【0088】 〔実施例5〕 ロタンドンを添加することにより、オレンジ風味炭酸飲料の飲みごたえ、刺激、発泡感が増加して、オレンジ風味炭酸飲料の炭酸感が増強できた。 また、炭酸感増強効果が発揮されるオレンジ風味炭酸飲料中のロタンドンの濃度は0.001ppb~1000ppb、好ましくは0.001ppbから100ppb、さらに好ましくは0.001ppb~10ppbである。 【0089】 【表6】 [図:0001423451000004.jpg] 」 イ 甲3に記載された発明 甲3に記載された事項を、特に試験例4~6に関して整理すると、甲3には次の発明(以下、順に「甲3発明」「甲3製法発明」という。)が記載されていると認める。 <甲3発明> 「飲料中のロタンドン濃度が0.1、1、10、100ppbであるアルコール入りハイボール飲料、レモン風味炭酸飲料又はオレンジ風味炭酸飲料。」 <甲3製法発明> 「甲3発明の製造方法。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲3発明を対比する。 甲3の【0065】より、甲3発明における「アルコール入りハイボール飲料、レモン風味炭酸飲料又はオレンジ風味炭酸飲料」は、ロタンドンの9倍質量のトリアセチンを含有するから、トリアセチン含有量を計算すると0.9、9、90、900ppbであり、本件特許発明1における「トリアセチンを含み、前記トリアセチンの含有量が0.5ppb~1000ppbである、柑橘風味飲料」との特定事項を満たす。 そうすると、両者は以下の一致点及び相違点を有する。 <一致点> 「トリアセチンを含み、前記トリアセチンの含有量が0.5ppb~1000ppbである、柑橘風味飲料」 <相違点1-3> 本件特許発明1では、「(ただし、ロタンドンを0.1ppb以上含む飲料を除く)。」と特定されているのに対し、甲3発明ではそのようには特定されていない点 イ 判断 上記相違点1-3について検討する。 甲3発明は、ロタンドン濃度が0.1、1、10、100ppbである飲料であるから、相違点1-3は実質的な相違点である。 また、甲3は、ロタンドンを添加することで炭酸飲料の飲みごたえ、刺激、発泡感を増加させられることを確認した文献であり(【0082】、【0085】、【0088】)、ロタンドンの炭酸感増強効果を得るためには、飲料中のロタンドン濃度を0.1ppb以上とすることが好ましいことが記載されているから(【0062】、【0063】)、当業者であれば、甲3発明において、ロタンドンを0.1ppb以上含む飲料を除く動機付けはあるとはいえない。 また、他の証拠にも、甲3発明において、ロタンドンを0.1ppb以上含む飲料を除く動機付けとなる記載はない。 したがって、甲3発明において、甲3及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 よって、本件特許発明1は甲3発明であるとはいえないし、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 異議申立人の主張について 特許異議申立人は、令和6年7月26日に提出された意見書において、 「今回の訂正により、請求項1に「(ただし、ロタンドンを0.1ppb以上含む飲料を除く)」なる事項が追加された。しかし、この訂正は本件特許発明1の新規性を確保するためだけの限定であり、進歩性に寄与しない。 まず、特許権者も意見書で述べているとおり、甲3発明の解決課題は「飲料の炭酸感を増強すること」である。そのために、甲3発明では飲料のロタンドン濃度を所定量以上とする構成を採用し、炭酸感を増強する作用効果を得ている。 一方、本件特許発明の解決課題は「柑橘果皮を想起させる飲みごたえを向上できる柑橘風味飲料に関する技術を提供する」ことである。そのために、本件特許発明1では、トリアセチンを含み、前記トリアセチンの含有量が0.5ppb~1000ppbである構成を採用し、これにより、柑橘果皮を想起させる飲みごたえを向上できる作用効果が得られる、とされている。 ここで、ロタンドンによる「炭酸感を増強する」効果と、トリアセチンによる「柑橘果皮を想起させる飲みごたえを向上できる」効果とは、互いに独立したものである。両者が互いに干渉する等の技術常識は存在しない。したがって、所定量のトリアセチンを含む甲3発明の飲料も、「柑橘果皮を想起させる飲みごたえを向上できる」効果を有しているといえる。請求項1において括弧書きでロタンドンを除いているが、ロタンドンを積極的に除くことの技術的意義が不明であり、それによる格別の効果があるわけでもない。」(上記意見書の第2頁第4行~第21行) と主張している。 しかしながら、上記イで述べたとおり、甲3発明において、ロタンドンを0.1ppb以上含む飲料を除く動機付けはあるとはいえないし、仮に、甲3発明において、ロタンドンを0.1ppb以上含む飲料を除く構成を採用できたとしても、本件特許発明の「柑橘果皮を想起させる飲みごたえを向上できる柑橘風味飲料に関する技術を提供する」という効果については、甲3及び他の証拠に記載も示唆もされたものではなく、当業者が予測し得ないものであるから、「所定量のトリアセチンを含む甲3発明の飲料も、「柑橘果皮を想起させる飲みごたえを向上できる」効果を有しているといえる」との主張は、本件特許を参照した上での主張に過ぎない。 さらに、ロタンドンを積極的に除くことは、上記第2 2(1)のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに過ぎず、特許権者が新たな効果を主張するものでもない。 したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (3)本件特許発明2について ア 対比 本件特許発明2と甲3発明を対比すると、両者は以下の一致点及び相違点を有する。 <一致点> 「トリアセチンを含む、柑橘風味飲料。」 <相違点2-3> 本件特許発明2は、「アルコール濃度が5体積/体積%以上であ」り、かつ「ただし、ウイスキーを含むアルコール入りハイボール飲料を除く」と特定されているのに対して、甲3発明は、そのようには特定されていない点。 イ 判断 上記相違点2-3について検討する。 甲3発明は、「アルコール入りハイボール飲料、レモン風味炭酸飲料又はオレンジ風味炭酸飲料」であり、そのうちの「アルコール入りハイボール飲料」は原材料にウイスキーを含むものであるから、本件特許発明2においてただし書きで除かれたものである。 また、「レモン風味炭酸飲料又はオレンジ風味炭酸飲料」は、甲3においてアルコール度数の記載は無く、また、甲3発明において、アルコール濃度を5体積/体積%以上とする動機付けがあるとはいえない。そして、他の証拠にも、甲3発明において、レモン風味炭酸飲料又はオレンジ風味炭酸飲料のアルコール濃度を5体積/体積%以上とする動機付けとなる記載はない。 したがって、甲3発明において、甲3及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点2-3に係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 よって、本件特許発明2は甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件特許発明3及び6~12について 本件特許発明6~12は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、本件特許発明7、9は、甲3発明であるとはいえないし、本件特許発明6~12は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 また、本件特許発明は、請求項2の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明2と同様に、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (5)本件特許発明4について ア 対比 本件特許発明4と甲3発明を対比すると、上記(2)と同様なことがいえるから、両者は以下の一致点及び相違点を有する。 <一致点> 「トリアセチンを含み、前記トリアセチンの含有量が0.5ppb~1000ppbである、柑橘風味飲料」 <相違点3-3> 本件特許発明4では、「エチルオクタノエートを含」むことが特定されているのに対し、甲3発明ではそのようには特定されていない点 イ 判断 上記相違点3-3について検討する。 甲3においてエチルオクタノエートを含ませることの記載は無く、また、甲3発明において、エチルオクタノエートを含ませる動機付けがあるとはいえない。そして、他の証拠にも、甲3発明において、エチルオクタノエートを含ませる動機付けとなる記載はない。 したがって、甲3発明において、甲3及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点3-3に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 よって、本件特許発明4は甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)本件特許発明5について 本件特許発明5は、請求項4の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明4の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明4と同様に、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (7)本件特許発明13について 本件特許発明13と甲3製法発明を対比すると、上記(2)と同様なことがいえるから、本件特許発明13は甲3製法発明であるとはいえないし、甲3製法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (8)本件特許発明14について 本件特許発明14と甲3製法発明を対比すると、上記(2)と同様なことがいえるから、本件特許発明14は甲3製法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第8 特許異議申立人の主張について 1 特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は、令和6年7月26日に提出された意見書において、以下の主張をしている。 (1)サポート要件について ア 乙第1号証において追加実験データが示されたが、これにより、「アルコール」として「ウイスキー」を用いた場合には、評点が低く、本件特許発明の上記課題を解決できないこと、すなわち、「アルコール」の中には、上記課題を解決できるものとできないものがあることが示された。そして、本件特許の明細書において、上記課題を解決できることが実験データで示されているのは、実施例の「醸造用アルコール」のみであり、また、ウイスキーを除く「全ての」アルコールが上記課題を解決できるというような技術常識は存在しないから、請求項2、請求項8、及び請求項14、並びに、請求項2を引用する請求項3,6,7,9-12に係る発明は、課題を解決できない発明を包含しており、本件特許の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていない(上記意見書の第3及び4頁)。 イ 本件特許発明では、トリアセチン濃度について、1ppb、50ppb、500ppbの3点で効果を確認しているにすぎず、トリアセチン濃度について、実施例で確認されていない範囲まで作用効果が発揮されるとはいえず、上記課題を解決できるとはいえない。また、本件特許発明では、トリアセチンの含有量が具体的に特定されていない(請求項2、4、5、14)か、実施例で確認された範囲を超えている(請求項1,13等)。したがって、請求項1~14に係る発明は、課題を解決できない発明を包含しており、本件特許の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていない(上記意見書の第4頁)。 (2)明確性要件について 請求項2に「トリアセチンを含み、アルコール濃度が5体積/体積%以上である、・・・」との記載があるが、この「アルコール濃度」が、「全アルコール濃度」を意味するのか、「ウイスキー由来を除いたアルコールの濃度」を意味するのか、明確でないから、請求項2及び請求項14、並びに、請求項2を引用する請求項3、6、7、9~12に係る発明は明確でなく、本件特許の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たしていない(上記意見書の第4及び5頁)。 2 当審の判断 (1)サポート要件について 特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりであり、また、当業者が明細書の発明の詳細な説明の【0008】~【0015】、【0042】~【0044】及び【実施例】の記載をみれば、「トリアセチンを含み、前記トリアセチンの含有量が0.5ppb~1000ppbである、柑橘風味飲料」とするか、「トリアセチンを含み、アルコール濃度が5体積/体積%以上である、柑橘風味飲料」及びその製造方法とすることで、柑橘風味の爽快感を有する柑橘風味飲料を得る(【0005】、【0006】)という本件特許発明の課題を解決できると認識できる。 また、特許異議申立人の上記主張は、上記課題を解決できないとするアルコールの種類やトリアセチン濃度などの証拠を挙げるものではない。 よって、特許異議申立人の上記1(1)の主張は採用できない。 (2)明確性要件について 本件訂正後の請求項2の記載自体は明確であり、また、「アルコール濃度」が「全アルコール濃度」を意味することは理解できるし、発明の詳細な説明の記載とも整合するから、明確性要件違反に該当しないことは明らかである。請求項14についても同様である。 したがって、特許異議申立人の上記1(2)の主張は採用できない。 第9 結語 上記第6~8のとおり、本件特許の請求項1~14に係る特許は、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-701328

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