特許異議申立
2022-701083
柑橘類果実様飲料、柑橘類果実様飲料用濃縮物、及びこれらの製造方法
- 審判番号
- 2022-701083
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-001173
- 登録番号
- 7063626
- 請求日
- 2022年11月07日
- 審決日
- 2023年12月28日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】アサヒビール株式会社
- 【権利者代理人】堅田 健史
- 【異議申立人】副島 朋子
- 【異議申立人】田中 亜実
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 淺野 美奈
- 分類
- P1651.113-ZDA(C12G) / P1651.121-ZDA(C12G) / P1651.537-ZDA(C12G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第3項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7063626号発明「柑橘類果実様飲料、柑橘類果実様飲料用濃縮物、及びこれらの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7063626号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし6〕、〔7ないし12〕及び13について訂正することを認める。
特許第7063626号の請求項1ないし5及び7ないし11に係る特許を取り消す。
特許第7063626号の請求項6、12及び13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7063626号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、平成30年1月9日に出願されたものであって、令和4年4月25日にその特許権の設定登録(請求項の数13)がされ、同年5月9日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年11月7日に特許異議申立人 副島 朋子(以下、「特許異議申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし13)がされ、同年同月9日に特許異議申立人 田中 亜実(以下、「特許異議申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし13)がされ、令和5年1月30日付けで取消理由が通知され、同年4月3日に特許権者 アサヒビール株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年6月6日付け(受付日:同年同月7日)で特許権者から手続補正書(方式)が提出され、同年同月12日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年7月19日に特許異議申立人Aから意見書が提出され、特許異議申立人Bから何ら応答がなく、同年9月7日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、それに対して、特許権者から何ら応答がなかったものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和5年6月6日付け(受付日:同年同月7日)で提出された手続補正書(方式)により補正された同年4月3日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、訂正要件についての判断の便宜上、当審において本件訂正における訂正事項を請求項ごとに整理して認定し直した。また、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「レモン果汁と、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を含んでなり、
前記酢酸ゲラニルの含有量が、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下であり、及び/又は
前記酢酸ネリルの含有量が、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下であり」と記載されているものを、「レモン果汁と、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を添加含有してなり、
前記添加した前記酢酸ゲラニルの含有量が、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下であり、及び/又は
前記添加した前記酢酸ネリルの含有量が、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下であり」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6に「レモン果汁と、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を含有させ、
前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下とし、
前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下とし」と記載されているものを、「レモン果汁と、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を添加含有させ、
前記添加した前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下とし、
前記添加した前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下とし」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7に「レモン果汁と、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を含んでなる柑橘類果実様飲料の濃度を、濃度換算として1.0倍超過200倍以下としたものであり、
前記酢酸ゲラニルの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下であり、及び/又は
前記酢酸ネリルの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下であり」と記載されているものを、「レモン果汁と、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を添加含有してなる柑橘類果実様飲料の濃度を、濃度換算として1.0倍超過200倍以下としたものであり、
前記添加した前記酢酸ゲラニルの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下であり、及び/又は
前記添加した前記酢酸ネリルの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下であり」に訂正する。
併せて、請求項7を直接又は間接的に引用する他の請求項も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項13に「柑橘類果実様飲料に、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルとを含有させ、
前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下とし、
前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下とし、
前記酢酸ゲラニルと前記酢酸ネリルとの含有量を」と記載されているものを、「柑橘類果実様飲料に、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を添加含有させ、
前記添加した前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下とし、
前記添加した前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下とし、
前記添加した前記酢酸ゲラニルと前記添加した前記酢酸ネリルとの含有量を」に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「レモン果汁」、「酢酸ゲラニル」及び「酢酸ネリル」が「添加含有」されるものであることを特定して、発明の内容を明確にするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2ないし5についての訂正について
訂正事項1による請求項2ないし5についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項2ないし5についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項6についての訂正について
訂正事項1による請求項6についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項2による請求項6についての訂正は、「レモン果汁」、「酢酸ゲラニル」及び「酢酸ネリル」の含有が「添加」によりされるものであることを特定して、発明の内容を明確にするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び2による請求項6についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)請求項7についての訂正について
訂正事項3による請求項7についての訂正は、「レモン果汁」、「酢酸ゲラニル」及び「酢酸ネリル」が「添加含有」されるものであることを特定して、発明の内容を明確にするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項3による請求項7についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(5)請求項8ないし12についての訂正について
訂正事項3による請求項8ないし12についての訂正は、請求項7についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項3による請求項8ないし12についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(6)請求項13についての訂正について
訂正事項4による請求項13についての訂正は、「レモン果汁」、「酢酸ゲラニル」及び「酢酸ネリル」の含有が「添加」によりされるものであることを特定して、発明の内容を明確にするものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、訂正事項4による請求項13についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし4による請求項1ないし13についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1及び3号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1ないし4による請求項1ないし13についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし6は一群の請求項に該当するものであり、訂正事項1による請求項1ないし6についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
訂正事項2による請求項6についての訂正は、請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第3項の規定に適合する。
訂正前の請求項7ないし12は一群の請求項に該当するものであり、訂正事項3による請求項7ないし12についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
訂正事項4による請求項13についての訂正は、請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第3項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし13に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし6〕、〔7ないし12〕及び13について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
柑橘類果実様アルコール飲料であって、
レモン果汁と、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を添加含有してなり、
前記添加した前記酢酸ゲラニルの含有量が、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下であり、及び/又は
前記添加した前記酢酸ネリルの含有量が、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下であり、
前記柑橘類果実様アルコール飲料のpH値が2.1以上7未満である、柑橘類果実様アルコール飲料。
【請求項2】
前記酢酸ゲラニルと前記酢酸ネリルとの含有量が、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.1ppm以上10.0ppm以下である、請求項1に記載の柑橘類果実様アルコール飲料。
【請求項3】
リモネンを更に含んでなり、
前記酢酸ゲラニルの含有量を「X」とし、
前記酢酸ネリルの含有量を「Y」とし、
前記リモネンの含有量を「Z」とした場合に、
(X+Y)/Zの値が0.014以上1.5以下である、請求項1又は2に記載の柑橘類果実様アルコール飲料。
【請求項4】
前記柑橘類果実様アルコール飲料の酸度が0.03以上7.0以下であり、又は、
前記柑橘類果実様アルコール飲料の糖度が0.2以上40以下である、請求項1~3の何れか一項に記載の柑橘類果実様アルコール飲料。
【請求項5】
前記レモン果汁の含有量が、0.1%以上20%以下である、請求項1~4の何れか一項に記載の柑橘類果実様アルコール飲料。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載された柑橘類果実様アルコール飲料を製造する方法であって、
レモン果汁と、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を添加含有させ、
前記添加した前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下とし、
前記添加した前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下とし、
前記柑橘類果実様アルコール飲料のpH値を2.1以上7未満とすることを含んでなる、柑橘類果実様アルコール飲料の製造方法。
【請求項7】
柑橘類果実様アルコール飲料用濃縮物であって、
レモン果汁と、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を添加含有してなる柑橘類果実様飲料の濃度を、濃度換算として1.0倍超過200倍以下としたものであり、
前記添加した前記酢酸ゲラニルの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下であり、及び/又は
前記添加した前記酢酸ネリルの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下であり、
前記柑橘類果実様飲料のpH値が2.1以上7未満である、柑橘類果実様アルコール飲料用濃縮物。
【請求項8】
前記酢酸ゲラニルと前記酢酸ネリルとの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.1ppm以上10.0ppm以下である、請求項7に記載の柑橘類果実様アルコール飲料用濃縮物。
【請求項9】
リモネンを更に含んでなり、
前記酢酸ゲラニルの含有量を「X」とし、
前記酢酸ネリルの含有量を「Y」とし、
前記リモネンの含有量を「Z」とした場合に、
(X+Y)/Zの値が0.014以上1.5以下である、請求項7又は8に記載の柑橘類果実様アルコール飲料用濃縮物。
【請求項10】
前記柑橘類果実様飲料の酸度が0.03以上7.0以下であり、又は、
前記柑橘類果実様飲料の糖度が0.2以上40以下である、請求項7~9の何れか一項に記載の柑橘類果実様アルコール飲料用濃縮物。
【請求項11】
前記レモン果汁の含有量が、0.1%以上20%以下である、請求項7~10の何れか一項に記載の柑橘類果実様アルコール飲料用濃縮物。
【請求項12】
柑橘類果実様アルコール飲料用濃縮物を製造する方法であって、
請求項7~11の何れか一項に記載された柑橘類果実様飲料を用意し、
前記柑橘類果実様飲料の濃度を、濃度換算として1.0倍超過200倍以下とすることを含んでなる、柑橘類果実様アルコール飲料用濃縮物の製造方法。
【請求項13】
柑橘類果実様香気成分由来の劣化物による劣化臭又は劣化味を低減し又は消滅させる方法であって、
柑橘類果実様飲料に、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を添加含有させ、
前記添加した前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下とし、
前記添加した前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下とし、
前記添加した前記酢酸ゲラニルと前記添加した前記酢酸ネリルとの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.1ppm以上10.0ppm以下とすることを含んでなる、劣化臭又は劣化味を低減し又は消滅させる方法。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年11月7日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由A1(甲第A1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし6及び13は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし13は、甲第A1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由A2(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・明細書の【0034】の記載は特許請求の範囲の記載と整合しない。
そのため、特許請求の範囲における「酢酸ゲラニル」、「酢酸ネリル」、「リモネン」の意義が不明確となり、結果として各請求項に係る発明が不明確となっている。
(3)申立理由A3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 本件特許発明では、酢酸ゲラニル等の含有量を規定している。例えば、下記の如くである。
(i)「前記酢酸ゲラニルの含有量が、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下」(請求項1、6、7、13)
(ii)「前記酢酸ネリルの含有量が、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下」(請求項1、6、7、13)
(iii)「前記酢酸ゲラニルと前記酢酸ネリルとの含有量が、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.1ppm以上10.0ppm以下」(請求項2、8、13)
(iv)「前記酢酸ゲラニルの含有量を「X」とし、
前記酢酸ネリルの含有量を「Y」とし、
前記リモネンの含有量を「Z」とした場合に、
(X+Y)/Zの値が0.014以上1.5以下」(請求項3、9)
しかし、(i)~(iv)の数値は、実施例2~4、7~9、11~13、15~17、22、23の数値に基づいていない。明細書の他の記載にも(i)~(iv)の数値の根拠は見当たらず、(i)~(iv)の事項は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
イ 本件特許発明が奏する作用効果は、「酸性領域、長期間の保存又は酸素存在下等の外因的要因又は経時的要因によってもなお、柑橘類果実様香味及び風味を強く呈し、かつ、長期間維持促進させ、柑橘類果実様香味及び風味が劣化又は減少することなく、そして、柑橘類由来の新鮮感、爽快感、及び清涼感を長期間発揮及び維持することができ、さらにまた、劣化物が発生する場合には劣化物による劣化臭味をマスキングすることができる」ことである(段落【0013】)。
しかし、以下のとおり、本件特許の実施例には、作用効果を奏しないものが含まれている。
(ア)比較例Aは作用効果を奏していない。
(イ)実施例15ないし17は実施例14との対比において作用効果を奏していない。
(ウ)実施例15ないし17は実施例11ないし13との対比において作用効果を奏していない。
したがって、本件特許発明は作用効果を奏しない発明を含み、課題解決のための必須構成を欠いているので、本件特許の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていない。
(4)証拠方法
甲第A1号証:特開2000-350571号公報
甲第A2号証:GIANNA ALLEGRONE, FLAVIO BELLIARDO, AND PAOLO CABELLA, "Comparison of Volatile Concentrations in Hand-Squeezed Juices of Four Different Lemon Varieties", J. Agric. Food Chem. 2006, 54, 5, 1844-1848
甲第A3号証:VERSARI ANDREA, NATALI NADIA, RUSSO MARIA TERESA, AND ANTONELLI ANDREA, "Analysis of Some Italian Lemon Liquors (Limoncello)", J. Agric. Food Chem. 2003, 51, 17, 4978-4983
甲第A4号証:P. DUGO, M. RUSSO, L. MONDELLO, G. DUGO, S. POSTORINO, and A. CARNACINI, "CHEMICAL AND PHYSICO-CHEMICAL PARAMETERS AND COMPOSITION OF THE AROMATIC FRACTION OF LIMONCELLO",Ital.J.Food Sci.,No.3, Vol.12,2000,343-351
甲第A5号証:Kristina L.Penniston,Stephen Y.Nakada, Ross P.Holmes, and Dean G.Assimos, "Quantitative Assessment of Citric Acid in Lemon Juice,Lime Juice,and Commercially-Available Fruit Juice Products",JOURNAL OF ENDOUROLOGY,Volume 22,Number 3,March 2008: 567-570
甲第A6号証:「化学大辞典」共立出版株式会社、昭和37年6月25日発行、表紙、第21-22頁、奥付
証拠の表記は、特許異議申立書Aの記載におおむね従った。以下、順に「甲A1」のようにいう。
2 特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年11月9日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由B1(甲第B1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1ないし13は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)証拠方法
甲第B1号証:M.L.Crupi、外4名、「A comprehensive study on the chemical composition and aromatic characteristics of lemon liquor」、Food Chemistry、2007年、105、p.771-783
甲第B2号証:P.Dugo、外5名、「CHEMICAL AND PHYSICO-CHEMICAL PARAMETERS AND COMPOSITION OF THE AROMATIC FRACTION OF LIMONCELLO」、Ital.J.Food Sci.、2000年、n.3、vol.12、p.343-351
甲第B3号証:Mohamed A.Ferhat、外2名、「Comparison of different isolation methods of essential oil from Citrus fruits:cold pressing,hydrodistillation and microwave‘dry’distillation」、Flavour Fragr.J.、2007年、22、p.494-504
甲第B4号証:Gianna Allegrone、外2名、「Comparison of Volatile Concentrations in Hand-Squeezed Juices of Four Different Lemon Varieties」、Journal of Agricultural and Food Chemistry、2006年、54、p.1844-1848
甲第B5号証:長谷川香料株式会社、「香料の科学」、株式会社講談社、2014年6月10日、p.62-63
甲第B6号証:Arielle J.Johnson、外3名、「Volatile and sensory profiling of cocktail bitters」、Food Chemistry、2015年、179、p.343-354
甲第B7号証:Fang Yuan、外4名、「Aroma Stability of Lemon-Flavored Hard Iced Tea Assessed by Chirality and Aroma Extract Dilution Analysis」、Journal of Agricultural and Food Chemistry、2016年、64、p.5717-5723
甲第B8号証:“リモンチェッロのおいしい飲み方、カクテルレシピ【飲みやすさ重視】”、[online]、2017年11月27日、[検索年月日:2022年10月31日]、インターネット<URL:https://www.green-alaska.com/entry/2017/11/27/231620>
証拠の表記は、特許異議申立書Bの記載におおむね従った。
第5 取消理由(決定の予告)の概要
令和5年9月7日付けで通知された取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。なお、摘記に際し、空白行は省略した。
「結論
特許第7063626号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし6〕、〔7ないし12〕及び13について訂正することを認める。
特許第7063626号の請求項1ないし5及び7ないし11に係る特許を取り消す。
特許第7063626号の請求項6、12及び13に係る特許を維持する。
理 由
・・・(略)・・・
第6 当審の判断
当審は、依然として、取消理由2(明確性要件)により本件特許の請求項1ないし5及び7ないし11に係る特許は取り消すべきものと判断する。
1 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
2 明確性要件の判断
本件特許の請求項1の記載は、上記第3のとおりであり、本件特許発明1において、「レモン果汁」と「酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル」を「添加含有」する「柑橘類果実様飲料」であることが特定されている。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0034】には「本発明にあっては、柑橘類果実様飲料に、柑橘類果実様香料成分として、酢酸ゲラニル、酢酸ネリル、リモネン、シトラール等の各香料成分を別途添加する場合には、柑橘類の搾汁に含有されるこれら成分の含有量は包含しないものとして扱う。」と記載されている。
したがって、本件特許発明1は、「レモン果汁」をその発明特定事項としていることから、本件特許発明1は、「レモン果汁」とは別途添加された「酢酸ゲラニル」の含有量が「前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下」であり、同じく別途添加された「酢酸ネリル」の含有量が「前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下」ということになる。
ところで、本件特許の発明の詳細な説明の【0065】及び【0068】の【表1】によると、「酢酸ゲラニル」及び「酢酸ネリル」が添加されない比較例Aが「酢酸ゲラニル」及び「酢酸ネリル」を含有していることから、「レモン果汁」には、「酢酸ゲラニル」及び「酢酸ネリル」が含まれているといえる。
そうすると、第三者が、ある「柑橘類果実用アルコール飲料」が本件特許発明1の範囲に含まれるかどうかを判断する際に、「柑橘類果実用アルコール飲料」中の「酢酸ゲラニル」及び「酢酸ネリル」の総含有量ではなく、別途添加された「酢酸ゲラニル」及び「酢酸ネリル」の含有量を測定する必要があるが、その方法が請求項1の記載及び発明の詳細な説明からは明らかでないし、当業者の出願時における技術常識であるともいえない。
よって、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。
したがって、本件特許発明1は明確であるとはいえない。
本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定する「柑橘類果実用アルコール飲料」の発明であるから、本件特許発明1と同様に明確であるとはいえない。
本件特許発明7は、請求項1と同様の「レモン果汁と、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を添加含有して」及び「前記添加した前記酢酸ゲラニルの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下であり、及び/又は
前記添加した前記酢酸ネリルの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下であり」という記載により特定される「柑橘類果実用アルコール飲料用濃縮物」の発明であるから、本件特許発明1と同様に明確であるとはいえない。
本件特許発明8ないし11は、請求項7を直接又は間接的に引用して特定する「柑橘類果実用アルコール飲料用濃縮物」の発明であるから、本件特許発明7と同様に明確であるとはいえない。
3 特許権者の主張について
特許権者は、令和5年4月3日に提出された意見書において、次のとおり主張する。
「取消理由2のご認定の概要は、本件特許発明において、レモン果汁由来の酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、別途添加された酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルとを区別する必要があるが、その区別方法が不明であり、本件特許発明が不明確となる、というものです。
しかしながら、上記『〔1〕前提:本件特許発明』において、既に、ご説明致しました通り、取消理由2は、本件特許発明の内容を明らかに誤って認識されたことに基づくものです。
本件特許発明は、『柑橘類果実様アルコール飲料であって、
レモン果汁と、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を添加含有してなり、
前記添加した前記酢酸ゲラニルの含有量が、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下であり、及び/又は
前記添加した前記酢酸ネリルの含有量が、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下であり、
前記柑橘類果実様アルコール飲料のpH値が2.1以上7未満である、柑橘類果実様アルコール飲料。』です。
取消理由2でご認定された技術的事項「前記レモン果汁に含まれる酢酸ゲラニルと、前記酢酸ゲラニルとの総含有量が、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下であり、及び/又は
前記レモン果汁に含まれる酢酸ネリルと、前記酢酸ネリルのとの総含有量が、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下である」を採用した発明では決してありません。
つまり、そもそも、本件特許発明にあっては、出願当初より、『特定含有量の酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルを添加含有してなる、柑橘類果実様アルコール飲料』を意図してなるものであり、構成成分である「レモン果汁」に含まれる酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル及びその含有量は意図しておりません。
従って、本件特許発明の内容は明確であり、御認定のような不明確なものとはなっておりません。
よって、本件特許発明は、明確なものであり、そもそも、本件特許は取消理由2に該当するものではありません。」(上記意見書第24ページ第11行ないし第25ページ第6行)
そこで、上記主張について検討する。
仮に、本件特許発明1が、「特定含有量の酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルを添加含有してなる、柑橘類果実様アルコール飲料を意図してなるものであり、構成成分である「レモン果汁」に含まれる酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル及びその含有量は意図して」いないとしても、本件特許発明1は「柑橘類果実様アルコール飲料」という物の発明であり、本件特許発明6若しくは12のような製造方法の発明又は本件特許発明13のような方法の発明ではないから、上記2のとおり、第三者が、ある「柑橘類果実様アルコール飲料」が本件特許発明1の範囲に含まれるかどうかを判断するためには、その「柑橘類果実様アルコール飲料」中の別途添加された「酢酸ゲラニル」及び「酢酸ネリル」の含有量(「酢酸ゲラニル」及び「酢酸ネリル」の「総含有量」ではない。)を知る必要がある。
そして、その方法が請求項1の記載及び発明の詳細な説明から明らかでなく、当業者の出願時における技術常識であるともいえない以上、請求人の意図にかかわらず、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である、といわざるを得ない。
したがって、上記主張は採用できない。
4 むすび
したがって、本件特許の請求項1ないし5及び7ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
第7 結語
・・・(略)・・・」
第6 当審の判断
1 取消理由(決定の予告)について
上記取消理由(決定の予告)に対して、特許権者は何ら応答せず、再度検討しても、当該取消理由(決定の予告)は妥当なものと認められるので、本件特許の請求項1ないし5及び7ないし11に係る特許は、この取消理由(決定の予告)によって取り消すべきものである。
2 取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書A及びBに記載した申立て理由について
取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書A及びBに記載した申立て理由は、申立理由A1(甲A1に基づく新規性・進歩性)、申立理由A2(明確性要件)、申立理由A3(サポート要件)及び申立理由B1(甲B1に基づく進歩性)である。
これらのうち、本件特許の請求項6、12及び13に係る特許に対する理由について、以下、順に検討する。
(1)申立理由A1(甲A1に基づく新規性・進歩性)について
ア 甲A1に記載された発明
甲A1の【0003】の「発明が解決しようとする課題」に関する記載及び【0039】ないし【0042】に記載された「レモンアルコール飲料」に関する記載を整理すると、甲A1には次の発明(以下、順に「甲A1製造方法発明」及び「甲A1方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲A1製造方法発明>
「レモン果汁原液70リットル、アルコール含有レモン香味液35リットル、67v/v%アルコール51リットル、果糖ぶどう糖液糖17kg、クエン酸0.40kg、仕込み水(炭酸水)必要量配合された合計1000リットルのBrix4.7、pH3.2、アルコール(v/v%)8.2のレモンアルコール飲料の製造方法。」
<甲A1方法発明>
「レモン果汁原液70リットル、アルコール含有レモン香味液35リットル、67v/v%アルコール51リットル、果糖ぶどう糖液糖17kg、クエン酸0.40kg、仕込み水(炭酸水)必要量配合された合計1000リットルのBrix4.7、pH3.2、アルコール(v/v%)8.2のレモンアルコール飲料に新鮮な柑橘類香味を付与する方法。」
イ 対比・判断
(ア)本件特許発明6について
a 対比
本件特許発明6と甲A1製造方法発明を対比する。
甲A2ないしA4に記載された事項を考慮すると、甲A1製造方法発明における「レモンアルコール飲料」は、レモン果汁原液とアルコール含有レモン香味液に、レモン果汁に含有される成分として、0.0959~0.193ppmの酢酸ゲラニル及び0.133~0.261ppmの酢酸ネリルを含有しているといえる。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「柑橘類果実様アルコール飲料を製造する方法であって、
レモン果汁と、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を含有させ、
前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下とし、
前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下とし、
前記柑橘類果実様アルコール飲料のpH値を2.1以上7未満とすることを含んでなる、柑橘類果実様アルコール飲料の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A1-1>
本件特許発明6においては、「酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル」が「添加含有させ」られていることが特定されているのに対し、甲A1製造方法発明においては、「酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル」が含有されているとはいえるものの、レモン果汁に含有されているものとは別に、「添加」により「含有させ」られているとは特定されていない点。
b 判断
両者の間には、相違点A1-1があることから、本件特許発明6は甲A1製造方法発明であるとはいえない。
そこで、相違点A1-1について検討する。
甲A1製造方法発明において、レモン果汁由来成分とは別に、「酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルを添加含有させる」ことの動機付けとなる記載は甲A1にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲A1製造方法発明において、相違点A1-1に係る本件特許発明6の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明6の奏する「シトラールの代替柑橘類香料成分として、或いは、少量のシトラールとの併用香料成分として、特定含有量の酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルを採用することにより、酸性領域、長期間の保存又は酸素存在下等の外因的要因又は経時的要因によってもなお、柑橘類果実様香味及び風味を強く呈し、かつ、長期間維持促進させ、柑橘類果実様香味及び風味が劣化又は減少することなく、そして、柑橘類由来の新鮮感、爽快感、及び清涼感を長期間発揮及び維持することができ、さらにまた、劣化物が発生する場合には劣化物による劣化臭味をマスキングすることができる、柑橘類果実様飲料の製造方法を提案することができる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0013】)という効果は、甲A1製造方法発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明6の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著なものである。
c まとめ
したがって、本件特許発明6は甲A1製造方法発明であるとはいえないし、甲A1製造方法発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(イ)本件特許発明12について
本件特許発明12は、本件特許発明6における「柑橘類果実用アルコール飲料」を濃度換算として1.0倍超過200倍以下の濃度とした「柑橘類果実用アルコール飲料用濃縮物」としたものに相当する。
これを踏まえて、本件特許発明12と甲A1製造方法発明を対比する。
両者の間には、少なくとも相違点A1-1と同様の相違点A1-2がある。
そこで、相違点A1-2について検討するに、相違点A1-2についての判断は相違点A1-1と同じである。すなわち、甲A1製造方法発明において、相違点A1-2に係る本件特許発明12の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明12の奏する「シトラールの代替柑橘類香料成分として、或いは、少量のシトラールとの併用香料成分として、特定含有量の酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルを採用することにより、酸性領域、長期間の保存又は酸素存在下等の外因的要因又は経時的要因によってもなお、柑橘類果実様香味及び風味を強く呈し、かつ、長期間維持促進させ、柑橘類果実様香味及び風味が劣化又は減少することなく、そして、柑橘類由来の新鮮感、爽快感、及び清涼感を長期間発揮及び維持することができ、さらにまた、劣化物が発生する場合には劣化物による劣化臭味をマスキングすることができる、柑橘類果実様飲料用濃縮物の製造方法を提案することができる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0013】)という効果は、甲A1製造方法発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明12の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、本件特許発明12は甲A1製造方法発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)本件特許発明13について
a 対比
本件特許発明13と甲A1方法発明を対比する。
上記(ア)aと同様のことがいえる。
また、甲A1方法発明における「新鮮な柑橘類香味を付与する方法」は本件特許発明13における「劣化臭又は劣化味を低減し又は消滅させる方法」と「香味を改善する方法」であるという限りにおいて一致する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「柑橘類果実様飲料に、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を含有させ、
前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下とし、
前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下とし、
前記酢酸ゲラニルと前記酢酸ネリルとの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.1ppm以上10.0ppm以下とすることを含んでなる、香味を改善する方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点A1-3>
本件特許発明13においては、「酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル」が「添加含有させ」られていることが特定されているのに対し、甲A1方法発明においては、「酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル」が含有されているとはいえるものの、レモン果汁に含有されているものとは別に、「添加」により「含有させ」られているとは特定されていない点。
<相違点A1-4>
「香味を改善する方法」に関して、本件特許発明13においては、「劣化臭又は劣化味を低減し又は消滅させる方法」と特定されているのに対し、甲A1方法発明においては、「新鮮な柑橘類香味を付与する方法」と特定されている点。
b 判断
両者の間には、相違点A1-3及びA1-4があることから、本件特許発明13は甲A1方法発明であるとはいえない。
そこで、相違点A1-3について検討する。
相違点A1-3は相違点A1-1と実質的に同じであるから、その判断も同じである。すなわち、甲A1方法発明において、相違点A1-3に係る本件特許発明13の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明13の奏する「シトラールの代替柑橘類香料成分として、或いは、少量のシトラールとの併用香料成分として、特定含有量の酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルを採用することにより、酸性領域、長期間の保存又は酸素存在下等の外因的要因又は経時的要因によってもなお、柑橘類果実様香味及び風味を強く呈し、かつ、長期間維持促進させ、柑橘類果実様香味及び風味が劣化又は減少することなく、そして、柑橘類由来の新鮮感、爽快感、及び清涼感を長期間発揮及び維持することができ、さらにまた、劣化物が発生する場合には劣化物による劣化臭味をマスキングすることができる、方法を提案することができる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0013】)という効果は、甲A1方法発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明13の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著なものである。
c まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明13は甲A1方法発明であるとはいえないし、甲A1方法発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 申立理由A1についてのまとめ
したがって、本件特許発明6及び13は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明6、12及び13は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項6、12及び13に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A1によっては取り消すことはできない。
(2)申立理由A2(明確性要件)について
ア 明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
イ 明確性要件の判断
本件特許の請求項6、12及び13の記載は、上記第3のとおりであり、それら自体に不明確な記載はなく、また、本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の記載とも整合している。
したがって、本件特許発明6、12及び13に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
ウ 特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aの申立理由A2における主張について検討するに、次のとおり採用できない。
本件訂正により、本件特許の請求項1ないし13の記載は、上記第3のとおりとなり、本件特許発明6、12及び13における「酢酸ゲラニル」及び「酢酸ネリル」は「添加含有」されたものであることが明らかとなり、それらの意義は明確となった。
また、本件特許発明6、12及び13が直接又は間接的に引用する本件特許の請求項3及び9の「リモネン」に関する記載は訂正されていないものの、本件特許発明6、12及び13において、「リモネン」は単に含有されていればいいというだけであるから、その意義は明確である。
したがって、特許異議申立人Aの申立理由A2における主張は採用できない。
エ 申立理由A2についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項6、12及び13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A2によっては取り消すことはできない。
(3)申立理由A3(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
イ 特許請求の範囲の記載
特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
ウ サポート要件の判断
発明の詳細な説明の【0008】によると、本件特許発明6の解決しようとする課題は「外因的要因又は経時的要因、例えば、酸性領域、長期間の保存及び酸素存在下においてもなお、柑橘類果実様香味及び風味を強く呈し、長期間維持し、柑橘類果実様香味及び風味を促進させ、柑橘類果実様香味及び風味が劣化又は減少されることなく、長期間維持される、シトラール以外の柑橘類果実様風味及び香味成分を含有した、柑橘類果実様飲料の製造方法」を提供することであり、本件特許発明12の解決しようとする課題は「外因的要因又は経時的要因、例えば、酸性領域、長期間の保存及び酸素存在下においてもなお、柑橘類果実様香味及び風味を強く呈し、長期間維持し、柑橘類果実様香味及び風味を促進させ、柑橘類果実様香味及び風味が劣化又は減少されることなく、長期間維持される、シトラール以外の柑橘類果実様風味及び香味成分を含有した、柑橘類果実様飲料用濃縮物の製造方法」を提供することであり、本件特許発明13の解決しようとする課題は「柑橘類果実様香料成分(例えば、シトラール等)から発生した劣化物による劣化臭味を消臭又は消味することができる方法」を提供することである(以下、総称して「発明の課題」という。)。
他方、発明の詳細な説明の【0012】には、本件特許発明6、12及び13に対応する記載がある。
また、発明の詳細な説明の【0011】には「本願発明者等は、今般、シトラール代替成分又は少量のシトラールとの併用成分として、酸性領域、長期保存期間、又は酸素存在状況下であってもなお、柑橘類果実様香味及び風味が強く呈され、或いは劣化又は減少することなく長期間維持され、さらにまた、劣化物が発生する場合には劣化臭味をマスキングできる物質として、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルが優れた化合物であることを見出した。」と記載され、同【0025】には「酢酸ゲラニル、酢酸ネリル、又はこれらの混合物を含有することにより、柑橘類果実様香味及び風味を強く呈することが可能となり、又は、劣化又は減少することなく長期間維持され、柑橘類果実由来の新鮮感、爽快感、及び清涼感が長期間維持され、さらにまた、劣化物が発生する場合には劣化物による劣化臭味をマスキングすることを可能とする。特に、本発明にあっては、強い柑橘類果実様香味及び風味を呈するシトラールを使用せず、或いは、極めて微量で含有されるシトラールとの併用であっても、極めて強い柑橘類果実香味及び風味を長期間維持し、かつ、とりわけ、劣化物(例えば、シトラール由来のもの)による劣化臭味を劣化生成物のオフフレーバーを有意にマスキングすることができる。」と記載され、同【0026】には「酢酸ゲラニルの含有量(X)は、柑橘類果実様飲料の全質量に対して、下限値が0.02ppm以上であり、・・・(略)・・・上限値が2.0ppm以下であり、・・・(略)・・・また、酢酸ネリルの含有量(Y)は、柑橘類果実様飲料の全質量に対して、下限値が0.08ppm以上であり、・・・(略)・・・上限値が8.0ppm以下であり、・・・(略)・・・酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルの含有量が上記範囲内にあることにより、極めて強い柑橘類果実(レモン果実)香味及び風味を長期間呈することが可能となり、又は、劣化又は減少することなく長期間維持され、柑橘類果実由来の新鮮感、爽快感、及び清涼感が長期間維持され、さらにまた、劣化物が発生する場合には劣化物による劣化臭味をマスキングすることを可能とする。」と記載され、同【0027】には「柑橘類果実様飲料のpHは、下限値が2.1以上、好ましくは2.4以上、上限値が、7.0未満、好ましくは、3.5以下である。pHをこの範囲にすることにより、飲料の飲みやすさ、清涼感を付与すると共に、飲料に対して長期間の保存安定性、防黴性又は防菌性を付与することが可能となる。」と記載され、【0034】には「柑橘類の搾汁には、酢酸ゲラニル、酢酸ネリル、リモネン、シトラール等を含有してなるものであるが、本発明にあっては、柑橘類果実様飲料に、柑橘類果実様香料成分として、酢酸ゲラニル、酢酸ネリル、リモネン、シトラール等の各香料成分を別途添加する場合には、柑橘類の搾汁に含有されるこれら成分の含有量は包含しないものとして扱う。」と記載されている(なお、発明の詳細な説明の記載の摘記の際に、改行及び文頭の空白は省略した。)。
さらに、発明の詳細な説明の【0059】ないし【0082】において、「柑橘類果実様飲料であって、レモン果汁と、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を添加含有してなり、前記添加した前記酢酸ゲラニルの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下であり、及び/又は前記添加した前記酢酸ネリルの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下であり、前記柑橘類果実様飲料のpH値が2.1以上7未満である、柑橘類果実様飲料」の条件を満足する柑橘類果実様飲料は、上記条件を満足しない柑橘類果実様飲料と比べて、レモン感らしさ、レモン爽快感、劣化臭味の有無及び総合評価の点で優れていることを確認している。
そうすると、当業者は、「柑橘類果実様飲料であって、レモン果汁と、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を添加含有してなり、前記添加した前記酢酸ゲラニルの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下であり、及び/又は前記添加した前記酢酸ネリルの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下であり、前記柑橘類果実様飲料のpH値が2.1以上7未満である、柑橘類果実様飲料の製造方法」、「レモン果汁と、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を添加含有してなり、前記添加した前記酢酸ゲラニルの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下であり、及び/又は前記添加した前記酢酸ネリルの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下であり、前記柑橘類果実様飲料のpH値が2.1以上7未満である、柑橘類果実様飲料の濃縮物の製造方法」及び「柑橘類果実様飲料に、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を添加含有させ、前記添加した前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下とし、前記添加した前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下とする、方法」は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明6は発明の課題を解決できると認識できる上記「柑橘類果実様飲料の製造方法」をさらに限定したものであり、本件特許発明12は発明の課題を解決できると認識できる上記「柑橘類果実様飲料の濃縮物の製造方法」をさらに限定したものであり、本件特許発明13は発明の課題を解決できると認識できる上記「方法」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明6、12及び13は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明6、12及び13に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
エ 特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aの申立理由A3における主張について検討するに、次のとおりいずれも採用できない。
(ア)申立理由A3のアについて
本件特許の請求項6、12及び13に記載された酢酸ゲラニルの含有量の規定、酢酸ネリルの含有量の規定並びに酢酸ゲラニル及び酢酸ネリルの混合物の含有量の規定については、発明の詳細な説明の【0026】に記載されており、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルが添加含有された実施例も同【0059】ないし【0082】に記載されている。
したがって、本件特許の請求項6、7及び13に記載された酢酸ゲラニルの含有量の規定、酢酸ネリルの含有量の規定並びに酢酸ゲラニル及び酢酸ネリルの混合物の含有量の規定が、発明の詳細な説明に記載されたものではない旨の特許異議申立人Aの主張は採用できない。
(イ)申立理由A3のイについて
発明の詳細な説明の【0059】ないし【0082】に記載された実施例のうち、本件特許発明6、12及び13の実施例である実施例2ないし4は対照例である実施例1よりは、作用効果を奏するものであり、同じく実施例7ないし9は対照例である実施例6よりは、作用効果を奏するものであり、同じく実施例11ないし13は対照例である実施例10よりは作用効果を奏するものであり、同じく実施例15ないし17は対照例である実施例14よりは作用効果を奏するものである。
比較例Aは本件特許発明6、12及び13の実施例ではないので、比較例Aが効果を奏するかどうかは関係がない。
実施例15ないし17が実施例14や実施例11ないし13と対比して作用効果を奏しないとしても、実施例15ないし17は対照例である実施例14よりは作用効果を奏するものである。
したがって、本件特許の実施例には、作用効果を奏しないものが含まれているとはいえず、本件特許の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていない旨の特許異議申立人Aの主張は採用できない。
オ 申立理由A3についてのまとめ
したがって、本件特許の請求項6、12及び13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A3によっては取り消すことはできない。
(4)申立理由B1(甲B1に基づく進歩性)について
ア 甲B1に記載された発明
甲B1の第771ページのAbstract、第772ページ右欄第5ないし27行、第774ページ右欄第19ないし23行、第777ページ、第778ページの記載を整理すると、甲B1には次の発明(以下、「甲B1製造方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲B1製造方法発明>
「レモンチェッロであって、酢酸ゲラニル及び酢酸ネリルを含んでなり、前記酢酸ゲラニルの含有量が、レモンチェッロの全質量に対して、1.7ppm以上12.4ppm以下であり、前記酢酸ネリルの含有量が、レモンチェッロの全質量に対して、2.0ppm以上11.0ppm以下である、レモンチェッロの製造方法。」
イ 対比・判断
(ア)本件特許発明6について
a 対比
本件特許発明6と甲B1製造方法発明を対比する。
甲B1製造方法発明における「レモンチェッロ」は本件特許発明6における「柑橘類果実様アルコール飲料」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「柑橘類果実様アルコール飲料を製造する方法であって、
酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を含有させ、
前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下とし、
前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下とすることを含んでなる、柑橘類果実様アルコール飲料の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点B1-1>
本件特許発明6においては、「レモン果汁」と「を含有させ」ることが特定されているのに対し、甲B1製造方法発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点B1-2>
本件特許発明6においては、「酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル」が「添加含有させ」られていることが特定されているのに対し、甲B1製造方法発明においては、「酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル」が含有されているとはいえるものの、「添加」により「含有させ」られているとは特定されていない点。
<相違点B1-3>
本件特許発明6においては、「pH値を2.1以上7未満とすることを含んでなる」と特定されているのに対し、甲B1製造方法発明においては、そのようには特定されていない点。
b 判断
事案に鑑み、相違点B1-2について検討する。
甲B1には、「地域の食料品店で購入した」「商業的起源の16種のレモン酒」について、分析した結果、酢酸ネリル及び酢酸ゲラニル等の揮発性画分が含まれることが示されるのみで、甲B1製造方法発明において、「酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル」をレモン等由来の成分以外に別途「添加含有させる」ことの動機付けとなる記載は甲B1にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲B1製造方法発明において、相違点B1-2に係る本件特許発明6の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明6の奏する効果(上記(1)イ(ア)b参照。)は、甲B1製造方法発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明6の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著なものである。
c まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明6は甲B1製造方法発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(イ)本件特許発明12について
本件特許発明12は、本件特許発明6における「柑橘類果実用アルコール飲料」を濃度換算として1.0倍超過200倍以下の濃度とした「柑橘類果実用アルコール飲料用濃縮物」としたものに相当する。
これを踏まえて、本件特許発明12と甲B1製造方法発明を対比する。
両者の間には、少なくとも相違点B1-1ないしB1-3と同様の相違点B1-4ないしB1-6がある。
そして、相違点B1-5についての判断は相違点B1-2と同じである。すなわち、甲B1製造方法発明において、相違点B1-5に係る本件特許発明12の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
また、本件特許発明12の奏する効果(上記(1)イ(イ)参照。)は、甲B1製造方法発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明12の構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、本件特許発明12は甲B1製造方法発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)本件特許発明13について
甲B1には、「地域の食料品店で購入した」「商業的起源の16種のレモン酒」について、分析した結果、酢酸ネリル及び酢酸ゲラニル等の揮発性画分が含まれることが示されるのみで、「柑橘類果実様香気成分由来の劣化物による劣化臭又は劣化味を低減し又は消滅させる方法」について何ら記載も示唆もない。
そうすると、甲B1に記載された事項からは、本件特許発明13と対比・判断することができる発明を認定することはできない。
したがって、本件特許発明13は甲B1に記載された発明並びに甲B1及び他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 申立理由B1についてのまとめ
したがって、本件特許発明6、12及び13は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項6、12及び13に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由B1によっては取り消すことはできない。
3 特許異議申立人Aの令和5年7月19日に提出された意見書における主張について
(1)特許異議申立人Aの令和5年7月19日に提出された意見書における主張の概要
特許異議申立人Aの令和5年7月19日に提出された意見書における主張の概要は次のとおりである。
ア 明確性要件違反
(ア)本件特許の請求項1、6、7及び13において「添加含有(する)」という文言が新たに導入されたが、その意味を理解することができないので、本件特許の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たしていない(上記意見書第2ページ)。
(イ)本件特許の請求項3及び9における「前記酢酸ゲラニルの含有量」が添加した酢酸ゲラニルの含有量を指すのか明確でないし、同じく「前記酢酸ネリルの含有量」が、添加した酢酸ネリルの含有量を指すのか明確でないので、本件特許の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たしていない(上記意見書第2及び3ページ)。
イ サポート要件違反
(ア)訂正後の請求項1、6、7及び13において、酢酸ゲラニルの含有量と酢酸ネリルの含有量が、いずれも「添加された」ものの含有量であることが特定されたが、レモン果汁由来の酢酸ゲラニル等の含有量は依然として不明であり、本件特許の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていない(上記意見書第3及び4ページ)。
(イ)請求項3及び9における「リモネン」と「リモネンの含有量」なる文言については、何ら訂正されていない。したがって、添加したリモネンに限定していない請求項3、9並びにこれらの請求項を引用する請求項4、5及び10ないし12に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されていないので、本件特許の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていない(上記意見書第4及び5ページ)。
(2)上記主張についての判断
そこで、上記主張について検討するに、次のとおりいずれも採用できない。
ア 上記(1)ア(ア)について
本件特許の請求項1、6、7及び13において「添加含有(する)」という文言が、「添加して含有させた」の意味であることは当業者に明らかである。
したがって、この点で、明確性要件を満たしていないとはいえず、特許異議申立人Aの上記(1)ア(ア)の主張は採用できない。
イ 上記(1)ア(イ)について
本件特許の請求項3が請求項1を直接又は間接的に引用するものであること及び本件特許の請求項9が請求項7を直接又は間接的に引用するものであることから、本件特許の請求項3及び9における「前記酢酸ゲラニルの含有量」及び「前記酢酸ネリルの含有量」が、本件特許の請求項1及び7と同様に、「添加した」「酢酸ゲラニルの含有量」及び「添加した」「酢酸ネリルの含有量」を指すことは、当業者に明らかである。
したがって、この点で、明確性要件を満たしていないとはいえず、特許異議申立人Aの上記(1)ア(イ)の主張は採用できない。
ウ 上記(1)イ(ア)について
サポート要件の判断は、上記2(3)ウのとおりであり、レモン果汁由来の酢酸ゲラニル等の含有量がどの程度であるかは、サポート要件の判断とは関係がない。
したがって、この点で、サポート要件を満たしていないとはいえず、特許異議申立人Aの上記(1)イ(ア)の主張は採用できない。
エ 上記(1)イ(イ)について
サポート要件の判断は、上記2(3)ウのとおりであり、リモネンの含有が添加によるかどうかは、サポート要件の判断とは関係がない。
したがって、この点で、サポート要件を満たしていないとはいえず、特許異議申立人Aの上記(1)イ(イ)の主張は採用できない。
第7 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし5及び7ないし11に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
また、本件特許の請求項6、12及び13に係る特許は、取消理由(決定の予告)並びに特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項6、12及び13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701083