特許異議申立
2025-700234
金属部材の防食方法
- 審判番号
- 2025-700234
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-091035
- 登録番号
- 7544190
- 請求日
- 2025年02月26日
- 審決日
- 2025年06月06日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】栗田工業株式会社
- 【権利者代理人】重野 剛
- 【異議申立人】伊藤 賢一
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 粟野 正明
- 審判官 阿川 寛樹
- 分類
- P1651.113-Y (C23F) / P1651.121-Y (C23F) / P1651.536-Y (C23F) / P1651.537-Y (C23F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7544190号発明「金属部材の防食方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7544190号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許第7544190号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願(特願2023-91035号。以下「本願」という。)は、令和 5年 6月 1日の出願であって、令和 6年 8月26日にその特許権の設定登録がされ、同年 9月 3日に特許掲載公報が発行され、その後、令和 7年 2月26日に、その請求項1~7(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である伊藤 賢一(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本願の請求項1~7に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明7」といい、総称して、「本件特許発明」という。また、本願の願書に添付した明細書を「本件特許明細書」という。
「【請求項1】
冷却水と蒸気とが交互に接する金属部材の防食方法であって、
冷却水にリン化合物及び/又は亜鉛化合物を添加し、蒸気に防食皮膜形成物質を添加することを特徴とする金属部材の防食方法。
【請求項2】
前記金属部材が鋼製の反応釜または成形機であることを特徴とする請求項1に記載の金属部材の防食方法。
【請求項3】
前記リン化合物が、ヘキサメタリン酸、トリポリリン酸、オルソリン酸、ホスホノブタントリカルボン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)、及びアミノトリメチルホスホン酸の少なくとも1種である請求項1に記載の金属部材の防食方法。
【請求項4】
前記防食皮膜形成物質がアノーディックインヒビターであることを特徴とする請求項1に記載の金属部材の防食方法。
【請求項5】
前記防食皮膜形成物質が、下記の式で表されるポリアミンであることを特徴とする請求項1に記載の金属部材の防食方法。
R1-[NH-(CH2)m]n-NH2 …(1)
(式中、R1は炭素数10~22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1~8の整数であり、nは1~7の整数である。nが2以上の場合、複数のNH-(CH2)mは同一でも異なっていてもよい。)
【請求項6】
前記冷却水にさらにスケール防止剤として(メタ)アクリル酸系ポリマーを添加することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の金属部材の防食方法。
【請求項7】
前記スケール防止剤の添加量Aと前記防食皮膜形成物質の添加量Bとの比A/Bが6以下となるようにすることを特徴とする請求項6に記載の金属部材の防食方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、甲第1号証~甲第3号証(以下「甲1」等という。)を提出し(下記5参照。)、以下の理由により、本件特許の請求項1~7に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1(新規性)
本件特許発明1~3、6は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(進歩性)
本件特許発明1~6は、甲1に記載された発明、及び甲2の記載事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、また、本件特許発明7は、甲1に記載された発明、甲2、甲3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許発明1~7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1~7について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合するものとはいえないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 申立理由4(サポート要件)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件特許発明1~7について、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合するものとはいえないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
5 証拠方法
甲1:特開2007-17056号公報
甲2:立花秀一 他1名、「解説 水・蒸気サイクルにおける皮膜性防食剤の世界的動向」、火力原子力発電、Vol.73、No.793(2022年11月)、第883~890頁
甲2の2:火力原子力発電、Vol.73、No.793の表紙
甲3:特開昭61-204097号公報
第4 当合議体の判断
以下に述べるとおり、当合議体は、上記第3のいずれの申立理由によっても、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことができないと判断する。
1 申立理由1(新規性)、及び申立理由2(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
本願の出願前に公知となった甲1(発明の名称:反応器の熱交換装置の腐食抑制方法)の【請求項1】~【請求項4】、【0008】、【0009】、【0014】~【0042】の記載を総合勘案し、特に、請求項1~3を引用する請求項4に記載された「反応器の熱交換装置の腐食抑制方法」の記載を前提として、〔腐食試験2〕に係る実施例No.2に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「熱交換媒体として水を用いて温度制御を行う反応器の熱交換装置の腐食抑制方法であって、
上記熱交換装置は、通水のために炭素鋼鋼管が装着されたものであり、
上記温度制御が加熱操作と冷却操作を交互に行う温度制御であり、
上記加熱操作がアルカリ金属水酸化物を添加してpH10~12.5に調整した100℃未満の熱水を常圧下で反応器の熱交換装置に通水して行うものであって、上記アルカリ金属水酸化物として水酸化ナトリウムを添加するのに加えて、有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、マレイン酸系重合体(共重合体を含む)、アクリル酸系重合体(共重合体を含む)からなる群から選択される一種以上を含有する以下の組成物Aを熱水に添加し通水して行うものであり、
上記冷却操作が腐食抑制剤を添加した冷却水を通水して行うものであって、上記腐食抑制剤が、有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、マレイン酸系重合体(共重合体を含む)、アクリル酸系重合体(共重合体を含む)からなる群から選択される一種以上を含有する以下の組成物Aである、
反応器の熱交換装置の腐食抑制方法。
<組成物A>
1-ヒドロキシエチリデン-1、1-ジホスホン酸:5質量%
2-ホスホノブタン-1、2、4-トリカルボン酸:5質量%
アクリル酸-2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体:10質量%
トリルトリアゾール:2質量%
水酸化ナトリウム:8質量%
水:75質量%」(以下「甲1発明」という。)
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「反応器の熱交換装置」に「通水のために」「装着され」た「炭素鋼鋼管」は、本件特許発明1の「金属部材」に相当し、そのような「炭素鋼鋼管」が「装着された」甲1発明の「熱交換装置の腐食抑制方法」は、本件特許発明1の「金属部材の防食方法」に相当する。
(イ)甲1発明の「冷却操作」において「通水」される「冷却水」は、「腐食抑制剤」として、「1-ヒドロキシエチリデン-1、1-ジホスホン酸:5質量%」及び「2-ホスホノブタン-1、2、4-トリカルボン酸:5質量%」のリン化合物を含有する「組成物A」を含有するものであるから、本件特許発明1の「リン化合物及び/又は亜鉛化合物を添加し」た「冷却水」に相当する。
(ウ)甲1発明の「加熱操作」において「通水」される「アルカリ金属水酸化物を添加してpH10~12.5に調整した100℃未満の熱水」は、「上記アルカリ金属水酸化物として水酸化ナトリウムを添加するのに加えて」、上記「組成物A」を含有するものであるところ、甲1【0024】の「本発明において加熱操作に用いる水にアルカリ金属水酸化物を添加して、当該水のpHを10.0~12.5(20℃)の範囲になるように維持することにより、鉄表面に鉄水酸化物の保護皮膜が形成して腐食を抑制すると推定される。」との記載によれば、上記「熱水」に添加される「アルカリ金属水酸化物として」の「水酸化ナトリウム」は、本件特許発明1の「防食皮膜形成物質」に相当する。
(エ)甲1発明の「熱水」と、本件特許発明1の「蒸気」とは、加熱操作に用いられる熱交換媒体である限りにおいて一致する。
この点、申立人は、特許異議申立書の第15頁第7~17行において、本件明細書の【0003】、【0052】の記載から、「本件特許発明では、蒸気を冷却水と混合して用いていることは明白である。一方、甲1発明には、水の加熱方法として、水に加熱スチームを直接注入して加熱する方法・・・(中略)・・・が記載されているが、スチームは蒸気に他ならないから、蒸気により加熱する方法において本件特許発明と差異はない。そうすると、甲1発明は、本件特許発明1と同一の技術分野である。」と主張しているが、加熱スチームを直接注入された「熱水」自体は、加熱された液体であって、これを気体である「蒸気」と同一視することができないことは、明らかであるから、このような主張は採用しない。
(オ)上記(ア)、(エ)を踏まえると、甲1発明において、「冷却水」を「通水」することによる「冷却操作」と、「熱水」を「通水」することによる「加熱操作」を「交互に行」って「温度制御を行う反応器の熱交換装置」の「腐食抑制方法」は、本件特許発明1の「冷却水と蒸気とが交互に接する金属部材の防食方法」とは、冷却水と加熱操作に用いられる熱交換媒体とが交互に接する金属部材の防食方法である限りにおいて一致する。
(カ)そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「冷却水と加熱操作に用いられる熱交換媒体とが交互に接する金属部材の防食方法であって、
冷却水にリン化合物及び/又は亜鉛化合物を添加し、上記熱交換媒体に防食皮膜形成物質を添加する金属部材の防食方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点>
加熱操作に用いられる熱交換媒体が、本件特許発明1では、蒸気であるのに対して、甲1発明では、熱水である点。
イ 相違点についての検討
上記相違点について検討する。
(ア)上記ア(エ)において検討したとおり、加熱された液体である「熱水」と、気体である「蒸気」とを同一視することができないことは、明らかであるから、上記相違点は、実質的な相違点である。
(イ)次に上記相違点の容易想到性について検討する。
a 甲1には、加熱操作に用いられる「熱水」に関して、「アルカリ金属水酸化物の添加方法は、特に限定されないが、通常、アルカリ金属水酸化物の水溶液、例えば10~50%水酸化ナトリウム水溶液を薬品注入用ポンプや電磁弁等の薬注装置を作動させて一定量を水に投入する方法、タイマーやシーケンサー等からの制御用信号に薬注装置を連動させて10~50%水酸化ナトリウム水溶液の一定量を自動的に水に添加する方法、pH調節装置により一定のpHとなるように自動的に10~50%水酸化ナトリウム水溶液を添加する方法等があり、いずれを用いてもよい。」(【0023】)、「本発明において加熱操作に用いる水にアルカリ金属水酸化物を添加して、当該水のpHを10.0~12.5(20℃)の範囲になるように維持することにより、鉄表面に鉄水酸化物の保護皮膜が形成して腐食を抑制すると推定される。」(【0024】)と記載されており、これらの記載からすれば、甲1発明においては、水酸化ナトリウムを水に添加する際のみならず、加熱操作中においても、pHを所定の範囲に維持するために熱水が液体の状態を保持している必要があるものと認められる。
b そうすると、甲1の記載によれば、甲1発明において、加熱操作中においても液体の状態を保持している必要がある「熱水」を、気体である「蒸気」に変更する動機付けがあるとはいえない。
c そして、甲2には、高温の水や蒸気と接触する金属材料における腐食を抑制するために、オレイルプロピレンジアミン(OLDA)等の揮発性の皮膜性アミン等の皮膜性防食剤を使用すること(第883頁左欄第2~7行、同頁右欄第1行~第884頁左欄第4行)が記載されているものの、この記載があっても、甲1発明において、加熱操作中においても液体の状態を保持している必要がある「熱水」を、気体である「蒸気」に変更する動機付けがあるとはいえないのは同様である。
d したがって、甲1発明において、上記相違点に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
ウ 小括
よって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件特許発明1によって奏される効果について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明、及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)本件特許発明2~7について
本件特許発明2~7は、本件特許発明1に係る特定事項をすべて備えたものであるから、上記(2)ウのとおり、本件特許発明1が甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明、及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、同様に、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明、及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、本件特許発明7については、甲3の記載事項を考慮しても同様である。
(4)申立理由1及び申立理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1~3、6は、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるとはいえないから、申立理由1によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件特許発明1~7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由2によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由3(実施可能要件)について
(1)上記第2のとおり、本件特許発明1は、「冷却水と蒸気とが交互に接する金属部材の防食方法であって、冷却水にリン化合物及び/又は亜鉛化合物を添加し、蒸気に防食皮膜形成物質を添加することを特徴とする金属部材の防食方法」であり、方法の発明である。
(2)ここで、方法の発明について、発明の詳細な説明の記載が、その発明を実施できる程度に明確かつ十分なものであるというためには、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用できるものでなければならないと解するのが相当である。
(3)そこで、本件特許の発明の詳細な説明の記載について検討するに、本件特許明細書の【0020】~【0050】には、「金属部材としては、蒸気と冷却水とが交互に接触する鋼製部材が好適であり、反応釜や加熱・冷却型成形機などが例示される」こと(【0021】)、「蒸気の温度は150~200℃程度が好適であり、冷却水の温度は10~40℃程度が好適である」こと(【0021】)、「冷却水に添加されるリン化合物としては、リン酸又はリン酸塩が好適であ」ること(【0022】)、「冷却水に添加される亜鉛塩は、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、リンゴ酸亜鉛、クエン酸亜鉛等が好適であ」ること(【0025】)、「防食皮膜形成物質は、蒸気に直接添加されることが好ましいが、ボイラ用水等に添加されてもよ」く(【0027】)、「ポリアミンが好適である」こと(【0028】)がそれぞれ記載され、また、「開放循環冷却水系の炭素鋼製の熱交換器や配管の腐食を抑制するため」に、リン化合物や亜鉛塩等を単独で又は併用して冷却水に添加する場合があること(【0002】)も記載されている。
そして、本件特許明細書には、上記のような蒸気と冷却水を用いることによって、「蒸気と冷却水とが交互に接する金属部材に対しても優れた防食効果が得られる」こと(【0018】、【0019】)が記載されており、また、実際にそのような防食効果が得られることについては、実施例(【0051】~【0064】)において示されている。
(4)そうすると、上記(3)のとおりの発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度な試行錯誤を要することなく、本件特許発明1に係る「金属部材の防食方法」を使用することは、十分可能であるといえる。
(5)この点、申立人は、特許異議申立書の第25頁第2行~第26頁第2行において、本件特許発明の実施例の腐食防止試験では、試験水1:冷却水を用いた後に、試験水2を用いた試験を行うことが記載されているものの、試験水2は、試験水1を1/5に希釈した試験水を用いたものであって、試験温度である80℃においては液体であって蒸気ではないから、発明の詳細な説明に記載された実施例は、蒸気と冷却水とが交互に接する反応釜や成形機などの金属部材の防食方法を説明したものではなく、また、発明の詳細な説明には、他に、蒸気と冷却水とが交互に接する反応釜や成形機などの金属部材の防食方法における実施例などの具体的な方法は示されていないと主張している。
(6)しかしながら、本件特許明細書の【0003】の「蒸気と冷却水とが交互に接する反応釜のような金属部材の防食のために、上記のような腐食防止剤を冷却水に添加した場合、冷却水が蒸気により希釈され、防食剤濃度が低下するため、金属の腐食を十分に抑制することができない。」との記載を考慮すれば、(試験水1と)「同様の薬剤を用いて各成分濃度を1/5とするように希釈した試験水(温度80℃)」である「試験水2:蒸気系」(【0052】)を用いて、「試験片をビーカー1から取り出し、80℃に設定した恒温槽中に設置した試験水2のビーカー2に試験片を移し替え、マグネチックスターラーにより250rpmで5時間攪拌」(【0055】)する手順によって行われた実験は、冷却水が蒸気によって希釈された状態を模擬したものと評価できるから、蒸気と冷却水とが交互に接する反応釜や成形機などの金属部材の防食方法を説明したものと認められる。
したがって、上記(5)の申立人の主張は、根拠を欠くものと言わざるを得ず、採用しない。
(7)上記(3)の各記載に加えて、本件特許明細書の【0040】、【0061】~【0064】のスケール防止剤に係る各記載を参照すれば、本件特許発明2~7に係る「金属部材の防食方法」についても、発明の詳細な説明の記載に基づいて、過度な試行錯誤を要することなく、使用することは、十分可能であるといえる。
(8)申立理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明1~7について、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるから、申立理由3によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由4(サポート要件)について
(1)本件特許明細書の【0009】の記載からすれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、蒸気と冷却水とが交互に接する金属部材を十分に防食することができる金属部材の防食方法を提供することにあると認められる。
(2)そして、本件特許明細書の【0020】~【0060】の記載によれば、冷却水と蒸気とが交互に接する金属部材の防食方法において、冷却水にリン化合物及び/又は亜鉛化合物を添加し、蒸気に防食皮膜形成物質を添加するによって上記の課題が解決できることを当業者であれば理解できるといえる。
(3)一方、本件特許発明1~7は、冷却水と蒸気とが交互に接する金属部材の防食方法において、冷却水にリン化合物及び/又は亜鉛化合物を添加し、蒸気に防食皮膜形成物質を添加することを特定事項として含むものであるから、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものである。
(4)この点、申立人は、特許異議申立書の第26頁第3~13行において、上記2(5)に記載したのと同旨の主張をしているが、上記2(6)において検討したのと同様であるから、このような主張は採用しない。
(5)申立理由4についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件特許発明1~7について、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由4によっては、同発明に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700234