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特許異議申立

2024-700286

水系の金属防食処理方法

審判番号
2024-700286
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-170203
登録番号
7363875
請求日
2024年03月29日
審決日
2025年03月28日
公報発行日
2025年08月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】栗田工業株式会社
  • 【権利者代理人】渡邊 薫
  • 【異議申立人】伊藤 賢一
  • 【異議申立人】松山 徳子
審判長/審判官
  • 審判長 井上 猛
  • 審判官 土屋 知久
  • 審判官 相澤 啓祐
分類
P1651.113-YAA(C23F) / P1651.121-YAA(C23F) / P1651.536-YAA(C23F) / P1651.537-YAA(C23F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第115条第2項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第113条第2号、特許法第113条第4号
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7363875号発明「水系の金属防食処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7363875号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。 特許第7363875号の請求項1~7に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件の特許第7363875号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願(特願2021-170203号。以下、「本願」という。)は、令和 3年10月18日を出願日とする出願であって、令和 5年10月10日にその特許権の設定登録がされ、同年10月18日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、令和 6年 3月29日に、その請求項1~7(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である伊藤 賢一(以下、「申立人1」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 4月15日に、その請求項1~7(全請求項)に係る特許について、特許異議申立人である松山 徳子(以下、「申立人2」という。)により特許異議の申立てがされた。 本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。 令和 6年 3月29日提出 特許異議申立書(申立人1) 同年 4月15日提出 特許異議申立書(申立人2) 同年 8月30日付け 取消理由通知書 同年10月25日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者) 同年11月 8日付け 手続補正指令書(方式) 同年12月 9日提出 手続補正書(方式)(特許権者) 令和 7年 2月 7日付け 訂正請求があった旨の通知書 同年 3月10日提出 意見書(申立人1) なお、申立人2からの意見書の提出はなかった。 第2 本件訂正請求について 1 請求の趣旨及び訂正の内容 令和 6年10月25日に提出され、同年12月 9日に提出された手続補正書により補正された訂正請求書によって特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の請求の趣旨は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求めるものである。 そして、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当合議体が下線を付した。 (1)訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「(B)以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」と記載されているのを、「(B)以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」に訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~7についても、同様に訂正する。 (2)訂正事項2 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)÷0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」と記載されているのを、「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」に訂正する。 請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~7についても、同様に訂正する。 (3)訂正事項3 本件訂正前の明細書の【0091】に「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)÷0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」と記載されているのを、「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」に訂正する。 2 訂正の適否についての当審の判断 (1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無 ア 訂正事項1 (ア)訂正の目的 訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載の「(B)以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」を、「(B)以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」に訂正し、上記「カルボキシル基含有量」の数値範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 (イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否 訂正事項1に係る訂正は、上記(ア)で述べたとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 (ウ)新規事項追加の有無 訂正事項1に係る訂正は、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0093】【表1】に記載の「実施例1-2(サンプル5)」のカルボキシル基含有量(mmol/g)である「12.7」を根拠とするものであるから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 イ 訂正事項2、3 (ア)訂正の目的 a(a)訂正事項2、3に係る訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び本件明細書の段落【0091】にそれぞれ記載の「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)÷0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」(以下、「算出式」という。)を、「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」に訂正するものである。 (b)ここで、訂正事項2、3に係る訂正は、令和 6年 8月30日付け取消理由通知書において、「(3)ここで、上記算出式の右辺の単位に着目すると、右辺の単位は、(((mL)÷(mol/L))÷(g))=(((mL)÷(mmol/mL))÷(g))=((mL)2/(mmol×g))となり、左辺の単位の(mmol/g)と一致しないことが分かる。」「(4)そうすると、請求項1及び発明の詳細な説明に記載の、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量の算出式が誤っており、正しいカルボキシル基含有量を得ることができないといえる。」(「第4の1 取消理由1」参照)と指摘されたことを受けて、上記算出式における左辺と右辺の単位を一致させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。 b(a)また、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1には「(B)以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」と記載されていたから、上記算出式の左辺の単位である(mmol/g)は正しく、右辺の単位の(((mL)÷(mol/L))÷(g))=(((mL)÷(mmol/mL))÷(g))=((mL)2/(mmol×g))が誤りであることは明らかである。 (b)そこで、「(B)以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量」の技術的意義について改めて検討すると、本件明細書の【0091】には、「<試験1:マレイン酸系重合体(サンプル1~5)中のカルボキシル基含有量の滴定分析>」の「<手法>」として、「滴定分析にはTitrando (Metorom)を用いた。マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、Titrandoにセットし、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定した。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこからマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出した。算出式は以下のとおりである。」と記載されている。 (c)上記(b)の記載は、要するに、分析対象の水溶液(ポリマー1gが溶解)中にカルボキシル基が何mol存在するのかを算出するために、NaOH水溶液(濃度:0.5mol/L)を用いて、ポリマー1g中のカルボキシル基とNaOHとを1:1のモル比で中和させ、中和に要したNaOH量からカルボキシル基含有量を算出することを開示している。そして、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば、ポリマー、すなわちマレイン酸系重合体1g中のカルボキシル基含有量(mmol/g)を中和させるために使ったNaOHのモル数は、NaOH水溶液量A(mL)×NaOH水溶液モル濃度0.5(mol/L)=0.5A(mmoL)で求めることができるが、このようなモル数の計算式は化学分野の当業者にとって自明なものである。 (d)そうすると、上記算出式の右辺について、本件訂正前の「(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)÷0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」との記載が誤りで、本件訂正後の「(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」との記載が正しいことが、本件明細書若しくは特許請求の範囲の記載又は当業者の技術常識から明らかで、当業者であればそのことに気づいて本件訂正後の趣旨に理解するのが当然であるといえるから、訂正事項2、3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものにも該当する。 (e)申立人1は、令和 7年 3月10日提出の意見書において、訂正事項2、3に係る訂正は、誤記の訂正を目的とするものには該当しない旨(第21頁下から3行~第24頁第4行)主張しているが、上記のとおりであり、採用できない。 (イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否 a 訂正事項2、3に係る訂正は、上記(ア)で述べたとおり、明瞭でない記載の釈明及び誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、上記(ア)bで検討したとおり、本件訂正前の式の記載が誤りで、本件訂正後の式の記載が正しいことが、本件明細書若しくは特許請求の範囲の記載又は当業者の技術常識から明らかであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 b 申立人1は、令和 7年 3月10日提出の意見書において、訂正事項2、3に係る訂正は、特許請求の範囲を変更するものである旨(第24頁第15行~下から4行)主張しているが、上記のとおりであり、採用できない。 (ウ)新規事項追加の有無 a 訂正事項2、3に係る訂正は、上記(ア)で述べたとおり、明瞭でない記載の釈明及び誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。 b 上記aのうち、前者の目的については、上記(ア)bで検討したとおり、本件訂正前の式の記載が誤りで、本件訂正後の式の記載が正しいことが、本件明細書若しくは特許請求の範囲の記載又は当業者の技術常識から明らかであるから、訂正事項2、3に係る訂正は、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。 c また、上記aのうち、後者の目的については、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の【0091】には、本件明細書の【0091】の記載と同じ記載があるところ、当初明細書等の記載についても、上記(ア)bで検討したのと同様の理由により、「(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)÷0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」との記載が誤りで、「(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」との記載が正しいことが、当初明細書等の記載又は当業者の技術常識から明らかであるから、訂正事項2、3に係る訂正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである。 d 以上によれば、訂正事項2、3に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 (2)独立特許要件について 本件は、本件訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~3について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 (3)一群の請求項について 本件訂正前の請求項1~7について、本件訂正前の請求項2~7は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1、2による請求項1の訂正に連動して訂正されるものである。 したがって、本件訂正前の請求項1~7は一群の請求項である。 そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項〔1~7〕についてするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。 また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1~7〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。 (4)明細書の訂正に関係する請求項 訂正事項3に係る訂正は、本件訂正前の請求項1に対応する明細書の段落【0091】を訂正するものであり、本件訂正前の請求項2~7は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正事項3と関係する請求項は、本件訂正前の請求項1~7である。 そうすると、本件訂正請求は、上記(3)で述べたとおり、訂正事項3と関係する請求項の全てを請求の対象としているから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。 3 本件訂正請求についてのむすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号から第3号までに掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。なお、以下において、請求項1~7に係る発明をそれぞれ「本件発明1」~「本件発明7」といい、総称して「本件発明」ということがある。 「【請求項1】 水系に、下記の成分(A)及び成分(B)を質量使用割合1:9~7:3で存在させる、水系の金属防食処理方法。 (A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体とのモル比率が97:3~70:30である、(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体、及び、 (B)以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体 <マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量の滴定分析> マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する。算出式は以下のとおりである。 マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g) 【請求項2】 前記成分(A)におけるスルホン酸単量体が、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である、請求項1に記載の水系の金属防食処理方法。 【請求項3】 前記成分(A)における共重合体の重量平均分子量は、1,000~1,000,000である、請求項1又は2に記載の水系の金属防食処理方法。 【請求項4】 前記成分(B)におけるマレイン酸系重合体の重量平均分子量が、500~5,000である、請求項1~3の何れか1項に記載の水系の金属防食処理方法。 【請求項5】 前記成分(B)におけるマレイン酸系重合体が、マレイン酸単量体とイソブチレン単量体との共重合体、及び/又は、ポリマレイン酸である、請求項1~4の何れか1項に記載の水系の金属防食処理方法。 【請求項6】 水系に、さらに防食剤を存在させる、請求項1~5の何れか1項に記載の水系の金属防食処理方法。 【請求項7】 前記水系のカルシウム硬度が、300mg/L as CaCO3以下である、請求項1~6の何れか1項に記載の水系の金属防食処理方法。」 第4 申立理由及び取消理由の概要 1 申立理由の概要 1-1 申立人1は、証拠方法として、下記(10)の甲第1号証~甲第19号証を提出し、以下の理由により、本件訂正前の請求項1~7に係る特許を取り消すべきである旨主張している。 (1)申立理由1-1-1(新規性;取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1~3、5、7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由1-1-2(新規性;取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1~5、7に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由1-1-3(新規性;取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1~7に係る発明は、甲第5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)申立理由1-2-1(進歩性;取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1~3、5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~5、7、10~17号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件訂正前の請求項7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~5、7、9~17号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、それぞれ特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (5)申立理由1-2-2(進歩性;取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1~3、5、7、10~17号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件訂正前の請求項7に係る発明は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1~3、5、7、9~17号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、それぞれ特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (6)申立理由1-2-3(進歩性;取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1~5に係る発明は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1~4、7、10~17号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件訂正前の請求項6、7に係る発明は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1~4、7、9~17号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、それぞれ特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (7)申立理由1-3-1(実施可能要件及び明確性要件;取消理由として採用) 本件訂正前の請求項1及び発明の詳細な説明に記載の、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を計算する式が誤っており、正しいカルボキシル基含有量を得ることができない。 よって、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の請求項1~7に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであり、また、本件訂正前の請求項1~7の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (8)申立理由1-3-2(実施可能要件及び明確性要件;取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1及び発明の詳細な説明に記載の、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を測定する方法が不明確であり、カルボキシル基含有量を正しく得ることができない。 よって、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の請求項1~7に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであり、また、本件訂正前の請求項1~7の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (9)申立理由1-3-3(実施可能要件及び明確性要件;取消理由として不採用) 本件訂正前の請求項1~7の記載及び発明の詳細な説明において、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を11.5mmol/g以上とするためのマレイン酸系重合体の原料組成や製造方法などの具体的手段が何ら示されていないため、本件訂正前の請求項1~7に係る発明のマレイン酸系重合体を継続して安定的に得ることができない。 よって、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の請求項1~7に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであり、また、本件訂正前の請求項1~7の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、特許法第36条第6項第2号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (10)証拠方法 甲第1号証:特開2004-68080号公報 甲第2号証:特許第2964154号公報 甲第3号証:社団法人日本化学会、改訂5版化学便覧基礎編II、丸善株式会社、平成16年 2月20日、748、754頁 甲第4号証:特開2004-68065号公報 甲第5号証:特開2017-2351号公報 甲第6号証:Angelique N. Hess et al., “Physical and chemical characteristics of poly(maleic acid), a synthetic organic colloid analog”, Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects, 1996年, Volume 107, p.141,143-145 甲第7号証:高木行雄、外1名、“テロメリゼーション”、有機合成化学、社団法人有機合成化学協会、1961年、第19巻、第3号、172-187頁 甲第8号証:上垣外正己、外1名、“ラジカル重合”、ネットワークポリマー、合成樹脂工業協会、2009年、第30巻、第5号、234-249頁 甲第9号証:米国特許第9290850号及び訳文 甲第10号証:村井達生、“滴定とその基本的な原理-高校化学での扱いを中心に-”、化学と教育、公益社団法人日本化学会、2015年、第63巻、第5号、242-245頁 甲第11号証:BELCLENE 200 MATERIAL SAFETY DATA SHEET, BWA Water Additives US LLC, 2011年1月14日 甲第12号証:MAXINOL PM 200 Data Sheet, Aquapharm Chemicals Pvt. Limited, 2011年4月1日 甲第13号証:SperSal(R)35 Material Safety Data Sheet(当審注:(R)は、Rを○で囲った「登録商標マーク」である。), AQUATROLS CORPORATION OF AMERICA, 2011年12月28日 甲第14号証:IR-HPMA Safety Data Sheet, Shandong IRO Water Treatment Co.,Ltd, 2016年3月12日 甲第15号証:OPTIDOSETM 4210(当審注:TMは、「商標マーク」である。), ROHM and HAAS, 2008年 甲第16号証:Klin Rodrigues et al., “Can Hydrophobic Modifications to Polymers Achieve Better Carbonate Scale Control?”, the Analyst, Akzo Nobel Surface Chemistry LLC, 2019, Volume 26, Number 1, p.35-36,40,42-49及び訳文 甲第17号証:特公昭53-20475号公報 甲第18号証:甲第8号証の発行者(合成樹脂工業協会)が記載された書類 甲第19号証:甲第7号証の発行者(社団法人有機合成化学協会)が記載された書類 1-2 申立人2は、以下の理由により、本件訂正前の請求項1~7に係る特許を取り消すべきである旨主張している。 (1)申立理由2-1(サポート要件;取消理由として採用) 発明の詳細な説明において本件訂正前の請求項1~7に係る発明の課題を解決できるものとして開示されているマレイン酸系重合体は、「滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」であるから、上記課題を解決できるものとして認識し得ない「滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が11.5~12.7mmol/g末満のマレイン酸系重合体」を含む本件訂正前の請求項1~7に係る発明が、発明の詳細な説明において上記課題を解決できるものとして開示されている範囲を超えるものであることは明らかである。 よって、本件訂正前の請求項1~7の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2-2(サポート要件;取消理由として不採用) 発明の詳細な説明において本件訂正前の請求項1~7に係る発明の課題を解決できるものとして開示されている「水系の金属防食処理方法」は、カルシウム硬度が100~500mg/L as CaCO3)である水系の金属防食処理方法であるから、カルシウム硬度が特定されていない水系を処理対象として含む、本件訂正前の請求項1~7に係る発明は、上記課題を解決できるものとして認識し得ない範囲を含み、発明の詳細な説明において上記課題を解決できるものとして開示されている範囲を超えるものである。 よって、本件訂正前の請求項1~7の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由2-3(実施可能要件;取消理由として一部採用) サポート要件に関し、上記(1)、(2)で指摘した点を踏まえると、本件訂正前の請求項1~7に係る発明の水系の金属防食処理方法を実施するため、当業者は、水系の水質条件に応じた好適なマレイン酸系重合体を模索するための過度な試行錯誤を行う必要があると認められるから、対象となる水系の水質条件についての特定がなく、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が、実施例5-1、5-2に示されるような範囲に特定されていない場合の発明を含むものとなっている本件訂正前の請求項1~7に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすとはいえない。 よって、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の請求項1~7に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 2 取消理由の概要 当合議体は、上記1の各申立理由のうち、申立理由1-3-1及び申立理由2-1並びに申立理由2-3の一部を採用し、令和 6年 8月30日付けで以下の取消理由1~3を通知した。 (1)取消理由1(実施可能要件及び明確性要件:申立理由1-3-1を採用) 上記1の1-1(7)の申立理由1-3-1(実施可能要件及び明確性要件)と同旨 (2)取消理由2(サポート要件:申立理由2-1を採用) 上記1の1-2(1)の申立理由2-1(サポート要件)と同旨 (3)取消理由3(実施可能要件:申立理由2-3の一部を採用) 本件訂正前の請求項1~7に係る発明は、「水系に、下記の成分(A)及び成分(B)を質量使用割合1:9~7:3で存在させる、水系の金属防食処理方法。」という特定事項を含む方法の発明であり、上記「成分(B)」は、「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」であるが、上記カルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であっても、11.5mmol/g近傍であるマレイン酸系重合体を用いた場合に、水系の金属を防食できないと認められるから、発明の詳細な説明は、本件訂正前の請求項1~7に係る発明である「水系の金属防食処理方法」を使用できるように、すなわち実施できるように記載されているとはいえない。 よって、本件訂正前の本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の請求項1~7に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないものであるから、同請求項に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 第5 当合議体の判断 以下に述べるとおり、申立人1による特許異議申立書に記載された申立理由1-1-1~1-3-3及び申立人2による特許異議申立書に記載された申立理由2-1~2-3並びに取消理由通知書に記載した取消理由1~3によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 1 申立理由1-1-1(新規性)、申立理由1-2-1(進歩性) (1)甲1、2の記載事項及び甲1に記載された発明 ア 甲1の記載事項 甲1には、「水系の金属腐食抑制方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)190nmにおける吸光係数が0.09~0.2(dm3/mg・cm)である水溶性マレイン酸重合体と、(B)(メタ)アクリル酸及びその水溶性塩の1種以上を40~90重量%と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体を10~60重量%含む水溶性共重合体を同時に使用することを特徴とする水系の金属腐食抑制方法。 【請求項2】 モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体が、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アクリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-メタクロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-アクリロキシ-1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、3-メタクロキシ-1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、1,3-ブタジエンのスルホン化物、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンのスルホン化物から選択される1種以上である請求項1又は2記載の水系の金属腐食抑制方法。 【請求項3】 (A)と(B)を90:10~30:70(重量比)で用いる請求項1~3のいずれか記載の水系の金属腐食抑制方法。」 (イ)「【0016】 本発明のマレイン酸重合体は芳香族系溶剤中で重合して得られるもので、公知の方法、例えば特許2964154号公報に準じて行われる。具体的には、芳香族系溶媒に対して、2~10重量%の無水マレイン酸を入れて加熱・溶解し、重合開始剤を無水マレイン酸に対して5~12重量%添加して、通常100~200℃の温度で重合を行なう。重合終了後に芳香族系溶媒をデカンテーションや減圧蒸留等で分離除去し固形状あるいは粉体状のマレイン酸重合体として得る、あるいは、重合終了後に水および水酸化ナトリウム等を加えて加水分解を行い、水溶性マレイン酸重合体として得ることができる。無水マレイン酸に対する重合開始剤の比率や芳香族系溶媒に対する無水マレイン酸の重量比が、これらの範囲を外れると、所定の吸光度を有するマレイン酸重合体を得ることができない。 【0017】 本発明に使用される芳香族系溶媒としては、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、キシレン異性体の混合物、エチルベンゼン、トルエン、キュメン、トリメチルベンゼンの各異性体、テトラメチルベンゼンの各異性体等が使用できるが、好ましくはo-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、キシレン異性体の混合物である。 【0018】 重合開始剤は、特に限定されるものではなく、通常のジtert-ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルヒドロパーオキシド等が使用できる。 【0019】 本発明のマレイン酸重合体の重量平均分子量は300~800であり、好ましくは400~700である。重量平均分子量が300未満では、本発明の効果が得られないことがある。一方、重量平均分子量が800を越えると、本発明の効果が得られないことがあるだけでなく、重合体自身がカルシウム塩として析出しやすくなり本発明の効果が得られないことがある。 【0020】 重量平均分子量の測定は、例えばゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーを用いて分子量既知の標準物質を対照にして測定され、市販の分子量計算用コンピュータソフトウェア、例えば、日立製作所(株)製の「D-2520型GPCデータ処理システム」(商品名)を用いて重量平均分子量が計算される。 【0021】 また、本発明のマレイン酸重合体には、市販の製品、例えばグレイトレイクス社の「Belclene200LA」〔商品名、190nmにおける吸光係数が0.09~0.2(dm3/mg・cm)〕を使用することもできる。」 (ウ)「【0043】 【実施例】 以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 【0044】 (水溶性マレイン酸重合体:A-1の調製) ガラス還流管、窒素通気管、攪拌器付きの4ッ口セパラブルフラスコに無水マレイン酸10gとo-キシレン90gを入れ、140℃に昇温して攪拌溶解した。窒素ガス通気下で140℃を維持しながら、ジ-tert-ブチルパーオキシド0.3gをキシレン10gに溶解した開始剤溶液を15分かけて滴下した。滴下終了後、窒素ガス通気下で140℃を90分間維持した。フラスコ底部にポリマーが沈澱したならば、デカンテーションにより上澄み液を取り除いた後、水100mlを加え、透明なポリマー溶液を得た。ポリマー溶液をロータリーエバポレーターに入れ、減圧下50℃で加熱してキシレンを留去して、マレイン酸重合体の30重量%水溶液:55gを得た。共重合体A-1の重量平均分子量は約400であった。 【0045】 以下、同様にして表1に記載の配合割合で各マレイン酸重合体を合成した。 【0046】 【表1】 [図:0001425730000001.jpg] 【0047】 (水溶性アクリル酸系共重合体) ・B-1:4ッ口セパラブルフラスコに水80g入れ、80℃に加熱した。窒素ガス通気し攪拌下、80℃を維持しながら、アクリル酸45gと2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の40重量%水溶液12.5gの混合液と、水25gに過硫酸ナトリウム2gを溶解した液をそれぞれ180分かけて滴下した。滴下終了後、窒素ガス通気下で80℃を60分間維持した。冷却後、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(共重合比90:10重量%)の共重合体(重量平均分子量約20,000)の30重量%水溶液164gを得た。 ・B-2:アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(共重合比70:30重量%)の共重合体(重量平均分子量約15,000)の30重量%水溶液。 ・B-3:アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(共重合比50:50重量%)の共重合体(重量平均分子量約6,000)の30重量%水溶液。 ・B-4:アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(共重合比40:60重量%)の共重合体(重量平均分子量約5,000)の30重量%水溶液。 ・B-5:アクリル酸と3-アクリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム(共重合比50:50重量%)の共重合体(重量平均分子量約5,000)の30重量%水溶液。 ・B-6:アクリル酸と3-アクリロキシ-1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸ナトリウム(共重合比50:50重量%)の共重合体(重量平均分子量約5,000)の30重量%水溶液。 ・B-7:アクリル酸と3-アクリロキシ-1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸ナトリウム(共重合比50:50重量%)の共重合体(重量平均分子量約5,000)の30重量%水溶液。 ・B-8(比較例):アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(共重合比30:70重量%)の共重合体(重量平均分子量は約12,000)の30重量%水溶液。 ・B-9(比較例):アクリル酸重合体(重量平均分子量約2,000) ・B-10(比較例):2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸重合体(重量平均分子量約10,000) (その他) C-1:硝酸亜鉛 C-2:1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸 (腐食抑制試験1) JIS K0100-1990 工業用水腐食試験方法(回転法)に従って、寸法50×30×1mm、表面積0.316dm2の低炭素鋼(JIS G 3141SPCC-SB)試験片をアセトンで脱脂し、乾燥して重量を測定した。次に純水に水溶性マレイン酸重合体A-1及び水溶性アクリル酸系共重合体B-1を各々有効分として10(mg/L)になるように添加し、更にpH:8.3、Mアルカリ度:150ppm、カルシウム硬度:150ppm、塩化物イオン:106ppm、リツナー指数:5.9に調整して試験液とした。JIS K0100-1990工業用水腐食試験方法(回転法)に従って、該試験液500mLを還流冷却管、攪拌器付きフラスコに入れて40℃の恒温槽にて保温し、試験片を該試験方法に規定する腐食試験装置のモーター回転軸の保持器に取り付けて、40℃の試験液の入ったフラスコ中に浸漬し、線速度0.3m/secで3日間、連続で試験片を回転させた。3日後に試験片を取り出し、表面に付着した腐食性生成物やスケール付着物を流水下、ブラシで除去し、乾燥させて試験片の重量を測定し、次式で腐食速度(mdd)を計算した。 腐食速度(mdd) =(試験片の重量減:mg)/〔(試験片表面積:dm2)×(試験日数:日)〕 同様にして、水溶性マレイン酸重合体A-1~7及び水溶性アクリル酸系共重合体B-1~10の組み合わせで腐食試験を行った。結果を表2に示す。 【0048】 【表2】 [図:0001425730000002.jpg] 【0049】 本発明の方法は、マレイン酸重合体単独またはアクリル酸系共重合体単独使用した場合と比較して、金属の腐食防止効果が著しく改善された。さらに亜鉛-マレイン酸重合体、亜鉛-アクリル酸系共重合体と比較しても金属の腐食抑制効果が高いことがわかる。」 イ 甲1に記載された発明 上記ア(ウ)に摘記した甲1の【0048】【表2】に記載の実施例5(【0046】【表1】に記載の水溶性マレイン酸重合体A-2及び【0047】に記載の水溶性アクリル酸系共重合体B-1の組合せ)に着目し、上記ア(ア)に摘記した特許請求の範囲の記載に倣って整理すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。 「(A)190nmにおける吸光係数が0.12(dm3/mg・cm)である水溶性マレイン酸重合体と、(B)(メタ)アクリル酸であるアクリル酸を90重量%と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を10重量%含む水溶性共重合体を、50:50(重量比)で同時に使用する水系の金属腐食抑制方法。」(以下、「甲1発明」という。) ウ 甲2の記載事項 甲2には、「無水マレイン酸の重合法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 (ア)「(課題を解決するための手段、発明の効果) 本発明者は今、驚くべきことに、オルトキシレンまたは置換オルトキシレン中の無水マレイン酸の溶液を使用しかつ低い水準で開始剤を用いて重合を行なうと、良好な収量の生成物が得られ、これは狭い分子量分布を有しかつ公知のポリカルボン酸スケール抑制剤と比較して優れたスケール抑制剤としての活性を示すことを見い出した。該生成物は、所望により単離することができかつ加水分解して対応する新規ポリカルボン酸またはその水溶性塩を与えることができるところの新規の無水ポリカルボン酸を含むものである。該新規材料は驚くべきことにスケール抑制剤として高い活性を有する。 従って、本発明は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)による450ないし800の重量平均分子量および1.0ないし1.15の多分散度を有する無水ポリマレイン酸を提供するものである。 多分散度は比Mw/Mn(式中、Mwは重量平均分子量を表わしかつMnは数平均分子量を表わす。)を表わす。 本発明の無水ポリマレイン酸は、無水マレイン酸の10重量%より多くはない量の過酸化物開始剤を使用して、主として式I [図:0001425730000003.jpg] (式中、R1,R2,R3およびRは各々独立して水素原子、炭素原子数1ないし4のアルキル基またはカルボキシル基を表わし、R5およびR6は各々独立して水素原子またはメチル基を表わすか、またはR5およびR6は一緒になってメチレン基またはエチレン基を表わす。)で表わされるo-キシレンの溶媒中で無水マレイン酸を重合し、この際無水マレイン酸の溶媒との重量比は1:3より大きくしないことにより、最も好ましくは1:4より大きくしないことにより、製造することができる。 過酸化物開始剤の量は、無水マレイン酸に基づいて、1ないし10重量%、好ましくは4ないし8重量%でありうる。開始剤は公知の過酸化物開始剤より選択することができる。例えば、ジベンゾイルペルオキシド、第三ブチルペルベンゾエート、ジクミルペルオキシド、第三ブチルヒドロペルオキシドまたは、好ましくはジ第三ブチルペルオキシドがある。 無水マレイン酸と溶媒の重量比は、1:3ないし1:9、好ましくは1:3ないし1:6そして特に1:4ないし1:6でありうる。この重量比は、最終比が1:3より大きくならないように無水マレイン酸を反応の間に加えることを条件として、重合反応の開始にて、より高く、例えば1:2と同程度にしてよい。 重合は、回分式でまたは連続的に行なうことができるが、100ないし200℃の温度で、好ましくは溶媒の還流温度またはその近くで行なうことができる。実際の還流温度は通常120ないし160℃、例えば120ないし146℃の範囲内である。反応時間は反応温度および使用する開始剤の性質に従って変更することができる。還流するo-キシレン中のジ第三ブチルペルオキシドを使用して重合を行なう場合、反応時間は普通2ないし5時間である。 溶媒は好ましくは少なくとも90重量%の一種またはそれ以上の式Iの化合物、より好ましくは95重量%より多い、最も好ましくな少なくとも97重量%の該化合物を含む。溶媒は少量の他のキシレン異性体およびエチルベンゼンを含むことができる。 以上記載したところの重合は結果として、単離可能な新規無水ポリカルボン酸を、通常他の無水ポリカルボン酸との混合で含む無水ポリマレイン酸生成物を生じる。従って、本発明はまた、式II [図:0001425730000004.jpg] (式中、R1,R2,R3,R4,R5およびR6は上記に定義したのを表わし、xは1,2または3を表わしそしてyは1,2または3を表わし、但しxおよびyはともに1を表わさない。)で表わされる無水ポリカルボン酸を提供する。 式IIの酸無水物は通常、重合プロセスの結果として、式III [図:0001425730000005.jpg] (式中、R1,R2,R3,R4,R5およびR6は上記に定義したのを表わし、aおよびbは各々0または1を表わしかつa+bの合計は1または2である。)で表わされる無水ポリカルボン酸との新規混合物の形態で得られる。重合生成物はまた少量の式Iの未反応化合物を含むものでもよい。 混合物は一般に少なくとも50%の式IIの酸無水物を含む。もしより可溶な成分を除去する手順を用いて重合生成物を仕上げるならば、混合物中の式IIの酸無水物の百分率量は増大する。」(第3頁第6欄第35行~第5頁第9欄第20行) (イ)「(実施例) 本発明を以下の実施例により説明する。百分率は特に記述しない限り重量百分率を表わし、分子量値MwおよびMnはGPCにより得たものである。実施例において言及する速原子衝撃質量分析法(Fast atom bombardment mass spectrometry)(FAB-MS)の結果は、無水ポリマレイン酸生成物について熱水中の溶解により酸形態に変換した後に得たものである。実施例において言及するガスクロマトグラフィー-質量分析法の結果は、無水ポリマレイン酸のトリメチルシリルエステルより得たものである。 実施例1: 無水マレイン酸50gおよびo-キシレン290gを還流するまで加熱しそしてジ第三ブチルペルオキシド3gを1回の添加で15分かけて加えた。反応を3.5時間続行しそしてポリマーを溶液より分離することができた。反応混合物を室温にまで冷却しそして液をデカントして出す。ポリマー44gを得た(無水マレイン酸に基いて、88%の収率)。更なる精製は必要でなかった。得られたポリマーはMw=550そしてMn=520を有し、Mw/Mn=1.058を与えた。GPC分析は4成分を示した。FAB-MSにより主生成物はR1ないしR6が各々Hを表わし、x=1そしてy=2であるところの式IIの化合物([M+H]+=455)およびR1ないしR6が各々Hを表わし、x=1そしてy=3であるところの式IIの化合物([M+H]+=571)であると同定された。 トリメチルシリルエステルのガスクロマトグラフィー-質量分析法により、残りの生成物はR1ないしR6が各々Hを表わし、a=0,b=1であるところの式IIIの化合物(M+=366)およびR1ないしR6が各々Hを表わし、a=0そしてb=1であるところの式IIIの化合物(M+=626)であると同定された。」(第6頁第12欄第27行~第7頁第13欄第8行) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明における「(B)(メタ)アクリル酸であるアクリル酸を90重量%と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を10重量%含む水溶性共重合体」と本件発明1における「成分(A)」「(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体とのモル比率が97:3~70:30である、(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」とは、「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」である限りにおいて共通する。 (イ)甲1発明における「(A)190nmにおける吸光係数が0.12(dm3/mg・cm)である水溶性マレイン酸重合体」と本件発明1における「成分(B)」「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」「<マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量の滴定分析>」「マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する。算出式は以下のとおりである。」「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」とは、「マレイン酸系重合体」である限りにおいて共通する。 (ウ)a 上記(ア)、(イ)を踏まえると、「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」である点で、甲1発明における「(B)」は本件発明1における「成分(A)」に相当し、「マレイン酸系重合体」である点で、甲1発明における「(A)」は本件発明1における「成分(B)」に相当する。 b また、「防食」とは、腐食を抑制することであることは、技術常識に照らして明らかである。 c したがって、甲1発明における「(A)」「水溶性マレイン酸重合体と、(B)(メタ)アクリル酸であるアクリル酸」「と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を」「含む水溶性共重合体を、50:50(重量比)で同時に使用する水系の金属腐食抑制方法。」は、本件発明1における「水系に、」「成分(A)」「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」「及び成分(B)」「マレイン酸系重合体」「を質量使用割合1:9~7:3で存在させる、水系の金属防食処理方法。」に相当する。 (エ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「水系に、下記の成分(A)及び成分(B)を質量使用割合1:9~7:3で存在させる、水系の金属防食処理方法。(A)(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体、及び、(B)マレイン酸系重合体」である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1-1> 本件発明1における「成分(A)」は、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との「モル比率が97:3~70:30」である共重合体であるのに対し、甲1発明における「(B)」は、(メタ)アクリル酸であるアクリル酸を「90重量%」と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を「10重量%」含む水溶性共重合体である点。 <相違点1-2> 本件発明1における「成分(B)」の「マレイン酸系重合体」は、「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上」であり、当該滴定分析が「マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する。算出式は以下のとおりである。」「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」というものであるのに対し、甲1発明の「(A)」の「水溶性マレイン酸重合体」は、上記「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上」であるのか不明である点。 イ 相違点についての判断 (ア)事案に鑑み、上記相違点1-2について検討する。 (イ)a 申立人1は、特許異議申立書において、「甲1発明の明細書には,「本発明のマレイン酸重合体は芳香族系溶剤中で重合して得られるもので,公知の方法,例えば特許2964154号公報に準じて行われる。」(明細書第0016欄)ことが記載されている。ここで,特許2964154号公報は,甲第2号証(以下,甲2発明とする。)として採用したものである。」(第54頁第11~15行)と述べた上で、「ここで,甲2発明の実施例1の化合物は,o-キシレン/無水マレイン酸比=6,DTBP(ジ第三ブチルペルオキシド)添加量(wt%対無水マレイン酸)=6%,である。一方,甲1発明の実施例の表1の化合物A-2は,o-キシレン/無水マレイン酸比=6,DTBP(ジ第三ブチルペルオキシド)添加量(wt%対無水マレイン酸)=6%であり,甲2発明の実施例1と同じ原料組成と製造方法であるから,甲1発明の化合物A-2も,甲2発明の実施例1と同じo-キシレン1分子に対して3ないし4分子の無水マレイン酸が付加重合した無水マレイン酸重合体であることは明白である。」(第55頁下から4行~第56頁第4行)と主張している。 b そこで、上記aの主張について検討すると、甲1の【0046】【表1】に記載の重合体A-2(以下、「甲1重合体」という。)と甲2の実施例1に記載のポリマー(以下、「甲2ポリマー」という。)とは、無水マレイン酸とo-キシレンとを、重合開始剤であるジ-tert-ブチルパーオキシド(ジ第三ブチルペルオキシド)の存在下で重合させて得られるものである点では共通している。 c しかしながら、上記(1)ア(ウ)と上記(1)ウ(イ)の記載内容を比較すると明らかなように、甲1重合体と甲2ポリマーとの間には、原料組成、製造方法及び重量平均分子量について以下の違いが存在する。 (a)o-キシレン/無水マレイン酸比について、甲1重合体は6であるのに対し、甲2ポリマーは5.8(=290g/50g)である。 (b)重合反応時間について、甲1重合体は90分であるのに対し、甲2ポリマーは3.5時間である。なお、上記(1)ア(ウ)に記載されているのは、重合体A-1の重合反応時間であるため、甲1重合体(重合体A-2)の重合反応時間は90分でない可能性があるが、3.5時間であると解する根拠も見いだせない。 (c)重量平均分子量について、甲1重合体は510であるのに対し、甲2ポリマーは550である。なお、甲2ポリマーは、上記(1)ウ(イ)に摘記したとおり、「主生成物は」「x=1そしてy=2であるところの式IIの化合物」「および」「x=1そしてy=3であるところの式IIの化合物」であっても、「残りの生成物は」「a=0,b=1であるところの式IIIの化合物(M+=366)および」「a=0そしてb=1であるところの式IIIの化合物(M+=626)」であるため、その全てが「o-キシレン1分子に対して3ないし4分子の無水マレイン酸が付加重合した無水マレイン酸重合体である」とはいえない。 d そうすると、甲1重合体と甲2ポリマーとは、原料、製造方法及び生成物のいずれにおいても違いが存在するから、「甲1発明の実施例の表1の化合物A-2は,」「甲2発明の実施例1と同じ原料組成と製造方法である」とはいえないし、「甲1発明の化合物A-2も,甲2発明の実施例1と同じo-キシレン1分子に対して3ないし4分子の無水マレイン酸が付加重合した無水マレイン酸重合体であることは明白である」ともいえない。 e 申立人1は、特許異議申立書において、上記aの主張を前提として、甲1発明の水溶性マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であることを証明しようとしているが、上記b~dで検討したとおり、上記aの主張を採用することはできないから、申立人1の上記証明は前提において誤っており、妥当であると認めることはできない。 f したがって、上記相違点1-2は、実質的な相違点であるといえる。 g よって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。 (ウ)a 次に、上記相違点1-2の容易想到性について検討すると、甲1に、上記相違点1-2に係る「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量」を「12.7mmol/g以上」とすることは記載も示唆もされていないから、甲1発明において、上記相違点1-2に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。 b そして、甲2~5、7、9~17に記載された事項を考慮しても、上記aの判断に変わりはない。 c したがって、甲1発明において、上記相違点1-2に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 d よって、上記相違点1-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~5、7、9~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (エ)a なお、申立人1は、令和 7年 3月10日提出の意見書において、上記(1)ア(イ)に摘記した甲1の【0021】に「本発明のマレイン酸重合体には、市販の製品、例えばグレイトレイクス社の「Belclene200LA」〔商品名、190nmにおける吸光係数が0.09~0.2(dm3/mg・cm)〕を使用することもできる。」と記載されていることに基づき、「訂正された請求項1記載の方法に基づき実施した,甲第1号証記載のマレイン酸系重合体BELCLENE200LAのカルボキシル基合有量の測定結果(参考資料1)ならびに異議申立書の記載より,甲第1号証は訂正請求項1との相違点が存在しなかったから,訂正請求項1ならびに請求項2~7は,甲第1号証の記載発明と参考資料1により進歩性を有さず,特許法29条第2項により,本件特許発明は取り消されるべきです(特許法113条第2号)。」(第2頁第2~7行)と主張している。 b しかしながら、申立人1は、特許異議申立書において、申立理由1-1-1、1-2-1に関し、甲1に記載の「Belclene200LA」について何ら言及しておらず、甲1に記載の「Belclene200LA」と参考資料1に基づく上記aの主張は、実質的に新たな申立理由を主張するものであると認められるから、特許異議申立書の要旨を変更するものであり、採用することはできない(特許法第115条第2項)。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2~5、7、9~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2、3、5、7について 本件発明2、3、5、7は、本件発明1の特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明及び甲2~5、7、9~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2、3、5、7も同様に、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明及び甲2~5、7、9~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)申立理由1-1-1(新規性)、申立理由1-2-1(進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、本件発明1~3、5、7は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-1-1によっては、本件特許の請求項1~3、5、7に係る特許を取り消すことはできない。 また、本件発明1~3、5、7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-2-1によっては、本件特許の請求項1~3、5、7に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由1-1-2(新規性)、申立理由1-2-2(進歩性) (1)甲4の記載事項及び甲4に記載された発明 ア 甲4の記載事項 甲4には、「水系の金属腐食抑制方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表し、以下同様である。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)無水マレイン酸、マレイン酸及びその水溶性塩の1種以上を70~90重量%(無水マレイン酸換算)と、非イオン性モノエチレン系不飽和単量体を10~30重量%含む水溶性共重合体と、(B)(メタ)アクリル酸及びその水溶性塩の1種以上を40~90重量%と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体を10~60重量%含む水溶性共重合体を同時に用いることを特徴とする水系の金属腐食抑制方法。 【請求項2】 非イオン性モノエチレン系不飽和単量体が、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、イソブチレン、1-ペンテン、スチレン、メチルスチレン、酢酸ビニルから選択される1種以上である請求項1記載の水系の金属腐食抑制方法。 【請求項3】 モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体が、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アクリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-メタクロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-アクリロキシ-1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、3-メタクロキシ-1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、1,3-ブタジエンのスルホン化物、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンのスルホン化物から選択される1種以上である請求項1又は2記載の水系の金属腐食抑制方法。 【請求項4】 (A)と(B)を90:10~30:70(重量比)で用いる請求項1~3のいずれか記載の水系の金属腐食抑制方法。」 (イ)「【0026】 (A)水溶性マレイン酸系共重合体の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、無水マレイン酸と非イオン性モノエチレン系不飽和単量体をキシレン、トルエン、エチルベンゼン、メチルエチルケトン等の溶剤に溶解して50~200℃に加熱下、ジ-tert-ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルヒドロパーオキシド等の重合開始剤を添加して重合させることにより得ることができ、重合反応終了後に溶剤を分離、除去し、水を加えてマレイン酸重合体水溶液の形態として使用するのが一般的である。また、溶剤を使用しない塊状重合法、水と溶剤を混合した乳化重合法、水を溶媒とした水溶液重合法等によっても製造することもできる。」 (ウ)「【0045】 【実施例】 以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 【0046】 (水溶性マレイン酸系共重合体:A-1の調製) ガラス還流管、窒素通気管、攪拌器付きの4ッ口セパラブルフラスコに無水マレイン酸36gとスチレン4gとキシレン90mlを入れ、140℃に昇温して攪拌溶解した。窒素ガス通気下で140℃を維持しながら、ジ-tert-ブチルパーオキシド2gをキシレン50mlに溶解した開始剤溶液を110分かけて滴下した。滴下終了後、窒素ガス通気下で140℃を90分間維持した。フラスコ底部にポリマーが沈澱したならば、デカンテーションにより上澄み液を取り除いた後、水120mlと48%水酸化ナトリウム65gを加え、透明なポリマー溶液を得た。ポリマー溶液をロータリーエバポレーターに入れ、減圧下50℃で加熱してキシレンを留去して、マレイン酸-スチレン(共重合比90:10重量%)共重合体ナトリウム塩の30%水溶液209gを得た。共重合体:A-1の重量平均分子量は約800であった。 ・・・ 【0055】 (水溶性アクリル酸系共重合体:B-1の調製) 4ッ口セパラブルフラスコに水80g入れ、80℃に加熱した。窒素ガス通気し攪拌下、80℃を維持しながら、アクリル酸45gと2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウムの40%水溶液12.5gの混合液と、水25gに過硫酸ナトリウム2gを溶解した液をそれぞれ180分かけて滴下した。滴下終了後、窒素ガス通気下で80℃を60分間維持した。冷却後、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(共重合比90:10重量%)の30%共重合体水溶液164gを得た。水溶性アクリル酸系共重合体:B-1の重量平均分子量は約20,000であった。 ・・・ 【0057】 (水溶性アクリル酸系共重合体:B-3の調製) 水50g、アクリル酸25gと2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の40%水溶液62.5gの混合液とした以外は、水溶性アクリル酸系共重合体:B-1と同様の方法により合成して、アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(共重合比50:50重量%)の30%共重合体水溶液164gを得た。水溶性アクリル酸系共重合体:B-3の重量平均分子量は約6,000であった。 ・・・ 【0063】 [その他] C-1:ポリマレイン酸「ノンポールPMA-50W」(重量平均分子量約1,500)(日本油脂(株)製) C-2:アクリル酸重合体(重量平均分子量約2,000) C-3:2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸重合体(重量平均分子量約10,000) C-4:マレイン酸-スチレンスルホン酸共重合体(重量比80:20、重量平均分子量約3,000) C-5:アクリル酸-ビニルスルホン酸共重合体(重量比30:70、重量平均分子量約10,000) C-6:1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸 C-7:硝酸亜鉛 (腐食抑制試験1) JIS K0100-1990 工業用水腐食試験方法(回転法)に従って、寸法50×30×1mm、表面積0.316dm2の低炭素鋼(JIS G 3141SPCC)試験片をアセトンで脱脂し、乾燥して重量を測定した。次に純水に水溶性マレイン酸系共重合体A-1及び水溶性アクリル酸系共重合体B-1を各々有効分として10(mg/L)になるように添加し、更にpH8.3、Mアルカリ度150ppm、カルシウム硬度150ppm、塩化物イオン106ppm、硫酸イオン50ppm、リツナー指数6.17に調整して試験液とした。該試験液500mLを還流冷却管、攪拌器付きフラスコに入れて40℃の恒温槽にて保温し、試験片を該試験方法に規定する腐食試験装置のモーター回転軸の保持器に取り付けて、40℃の試験液の入ったフラスコ中に浸漬し、線速度0.3m/secで3日間、連続で試験片を回転させた。3日後に試験片を取り出し、表面に付着した腐食性生成物やスケール付着物を流水下、ブラシで除去し、乾燥させて試験片の重量を測定し、次式で腐食速度(mdd)を計算した。 腐食速度(mdd) =(試験片の重量減:mg)/〔(試験片表面積:dm2)×試験日数(日)〕 同様にして、表1記載の水溶性マレイン酸系共重合体A-1~8及び水溶性アクリル酸系共重合体B-1~7を組み合わせて腐食試験を行った。結果を表1、表2に示す。 【0064】 【表1】 [図:0001425730000006.jpg] 【0065】 【表2】 [図:0001425730000007.jpg] 【0066】 本発明のマレイン酸系共重合体とアクリル酸系共重合体を用いた方法は、マレイン酸共重合体またはアクリル酸共重合体をそれぞれ単独で使用した場合と比較して、腐食抑制効果が著しく改善されることがわかる。」 イ 甲4に記載された発明 上記ア(ウ)に摘記した甲4の【0064】【表1】に記載の実施例1(【0046】に記載の水溶性マレイン酸系共重合体A-1及び【0057】に記載の水溶性アクリル酸系共重合体B-3の組合せ)に着目し、上記ア(ア)に摘記した特許請求の範囲の記載に倣って整理すると、甲4には、次の発明が記載されていると認められる。 「(A)マレイン酸を90重量%(無水マレイン酸換算)と、非イオン性モノエチレン系不飽和単量体であるスチレンを10重量%含む水溶性共重合体と、(B)(メタ)アクリル酸であるアクリル酸を50重量%と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を50重量%含む水溶性共重合体を、50:50(重量比)で同時に用いる水系の金属腐食抑制方法。」(以下、「甲4発明」という。) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲4発明とを対比する。 (ア)甲4発明における「(B)(メタ)アクリル酸であるアクリル酸を50重量%と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を50重量%含む水溶性共重合体」と本件発明1における「成分(A)」「(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体とのモル比率が97:3~70:30である、(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」とは、「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」である限りにおいて共通する。 (イ)本件明細書に「本実施形態に用いる成分(B)マレイン酸系重合体は、マレイン酸を主要な構成単位として含む重合体であることが好適であり、当該成分(B)マレイン酸系重合体は、ホモポリマー又はコポリマーのいずれでもよい。・・・また、コポリマーとして特に限定されないが、マレイン酸系単量体とこれと共重合可能なその他単量体との共重合体等が挙げられる。」(【0037】)及び「成分(B)マレイン酸系重合体における前記共重合可能な単量体(以下、「成分(B)の共重合可能な単量体」ともいう)として、特に限定されないが、例えば、・・・スチレン等の芳香族不飽和単量体・・・等が挙げられ、これらからなる群から選ばれる1種又は1種以上を用いることができる。」(【0040】)と記載されていることを踏まえると、甲4発明における「(A)マレイン酸を90重量%(無水マレイン酸換算)と、非イオン性モノエチレン系不飽和単量体であるスチレンを10重量%含む水溶性共重合体」と本件発明1における「成分(B)」「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」「<マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量の滴定分析>」「マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する。算出式は以下のとおりである。」「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」とは、「マレイン酸系重合体」である限りにおいて共通する。 (ウ)a 上記(ア)、(イ)を踏まえると、「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」である点で、甲4発明における「(B)」は本件発明1における「成分(A)」に相当し、「マレイン酸系重合体」である点で、甲4発明における「(A)」は本件発明1における「成分(B)」に相当する。 b また、「防食」とは、腐食を抑制することであることは、技術常識に照らして明らかである。 c したがって、甲4発明における「(A)マレイン酸」「と、非イオン性モノエチレン系不飽和単量体であるスチレンを」「含む水溶性共重合体と、(B)(メタ)アクリル酸であるアクリル酸」「と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を」「含む水溶性共重合体を、50:50(重量比)で同時に用いる水系の金属腐食抑制方法。」は、本件発明1における「水系に、」「成分(A)」「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」「及び成分(B)」「マレイン酸系重合体」「を質量使用割合1:9~7:3で存在させる、水系の金属防食処理方法。」に相当する。 (エ)そうすると、本件発明1と甲4発明とは、「水系に、下記の成分(A)及び成分(B)を質量使用割合1:9~7:3で存在させる、水系の金属防食処理方法。(A)(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体、及び、(B)マレイン酸系重合体」である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点4-1> 本件発明1における「成分(A)」は、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との「モル比率が97:3~70:30」である共重合体であるのに対し、甲4発明における「(B)」は、(メタ)アクリル酸であるアクリル酸を「50重量%」と、モノエチレン性不飽和スルホン酸単量体である2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を「50重量%」含む水溶性共重合体である点。 <相違点4-2> 本件発明1における「成分(B)」の「マレイン酸系重合体」は、「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上」であり、当該滴定分析が「マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する。算出式は以下のとおりである。」「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」というものであるのに対し、甲4発明の「(A)」の「水溶性マレイン酸重合体」は、上記「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上」であるのか不明である点。 イ 相違点についての判断 (ア)事案に鑑み、上記相違点4-2について検討する。 (イ)a 申立人1は、特許異議申立書において、「甲4発明の実施例におけるマレイン酸共重合体A-1~A-8の製造方法において,過酸化物開始剤としてジ-tert-ブチルパーオキシド(DTBP)が用いられ,溶媒としてo-キシレンが用いられており,単量体に対するo-キシレンの比は,(90+50)/40=3.5であり,単量体に対するDTBPの比率は,2/40×100=5%であるから,甲1発明や甲2発明の実施例のマレイン酸重合体の製造方法と変わらない。そうすると,甲1発明と同様に,o-キシレンの1分子に対して複数個のマレイン酸ならびに非イオン性モノエチレン系不飽和単量体が付加重合したマレイン酸共重合体が得られる。」(第71頁第5~12行)と主張している。 b そこで、上記aの主張について検討すると、甲4の【0046】に記載の水溶性マレイン酸系共重合体A-1(以下、「甲4重合体」という。)と甲1重合体と甲2ポリマーとは、無水マレイン酸(ただし、甲4重合体においてはスチレンを含む。)とo-キシレンとを、重合開始剤であるジ-tert-ブチルパーオキシド(ジ第三ブチルペルオキシド)の存在下で重合させて得られるものである点では共通している。 c しかしながら、上記(1)ア(ウ)と上記1(1)ア(ウ)及び上記1(1)ウ(イ)の記載内容を比較すると明らかなように、甲4重合体と甲1重合体及び甲2ポリマーとの間には、原料組成、製造方法及び重量平均分子量について以下の違いが存在する。 (a)単量体に対するo-キシレンの比について、甲4重合体は(90+50)(ml)×0.8802(g/cm3)(20℃)/(36+4)(g)≒3.08であるのに対し、甲1重合体は6であり、甲2ポリマーは290/50=5.8である(なお、o-キシレンの20℃における比重(密度)については、厚生労働省のウェブページ「職場のあんぜんサイト」内のキシレンの製品安全データシート(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0016.html)に記載の値(「9.物理的及び化学的性質」参照)を採用した。)。また、単量体に対するDTBPの比率について、甲4重合体は2/(36+4)×100=5%であるのに対し、甲1重合体は6%であり、甲2ポリマーは3/50×100=6%である。 (b)重合について、甲4重合体は重合開始剤を110分かけて滴下し、滴下終了後、90分間維持しているのに対し、甲1重合体は重合開始剤を15分かけて滴下し、滴下終了後、90分間維持しており、甲2ポリマーは重合開始剤を15分かけて加え、反応を3.5時間続行している。 (c)重量平均分子量について、甲4重合体は約800であるのに対し、甲1重合体は510であり、甲2ポリマーは550である。なお、上記1(2)イ(イ)c(c)で述べたとおり、甲2ポリマーは、その全てが「o-キシレン1分子に対して3ないし4分子の無水マレイン酸が付加重合した無水マレイン酸重合体である」とはいえない。 d そうすると、甲4重合体と甲1重合体及び甲2ポリマーとは、原料、製造方法及び生成物のいずれにおいても違いが存在するから、「甲4発明の実施例におけるマレイン酸共重合体A-1~A-8の製造方法」は「甲1発明や甲2発明の実施例のマレイン酸重合体の製造方法と変わらない」とはいえないし、「甲1発明と同様に,o-キシレンの1分子に対して複数個のマレイン酸ならびに非イオン性モノエチレン系不飽和単量体が付加重合したマレイン酸共重合体が得られる」ともいえない。 e 申立人1は、特許異議申立書において、上記aの主張を前提として、甲4発明の水溶性マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であることを計算しようとしているが、上記b~dで検討したとおり、上記aの主張を採用することはできないから、申立人1の上記計算は前提において誤っており、妥当であると認めることはできない。 f したがって、上記相違点4-2は、実質的な相違点であるといえる。 g よって、本件発明1は、甲4発明であるとはいえない。 (ウ)a 次に、上記相違点4-2の容易想到性について検討すると、甲4に、上記相違点4-2に係る「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量」を「12.7mmol/g以上」とすることは記載も示唆もされていないから、甲4発明において、上記相違点4-2に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。 b そして、甲1~3、5、7、9~17に記載された事項を考慮しても、上記aの判断に変わりはない。 c したがって、甲4発明において、上記相違点4-2に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 d よって、上記相違点4-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明及び甲1~3、5、7、9~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲4に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲4に記載された発明及び甲1~3、5、7、9~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2~5、7について 本件発明2~5、7は、本件発明1の特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲4に記載された発明であるとはいえず、甲4に記載された発明及び甲1~3、5、7、9~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2~5、7も同様に、甲4に記載された発明であるとはいえないし、甲4に記載された発明及び甲1~3、5、7、9~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)申立理由1-1-2(新規性)、申立理由1-2-2(進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、本件発明1~5、7は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-1-2によっては、本件特許の請求項1~5、7に係る特許を取り消すことはできない。 また、本件発明1~5、7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-2-2によっては、本件特許の請求項1~5、7に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由1-1-3(新規性)、申立理由1-2-3(進歩性) (1)甲5の記載事項及び甲5に記載された発明 ア 甲5の記載事項 甲5には、「孔食抑制剤組成物及び孔食抑制方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 (ア)「【特許請求の範囲】 ・・・ 【請求項4】 開放循環式冷却水システムの循環水中における防食被膜形成成分の添加量に対する分散剤成分の添加量の重量比が0.4~0.8になるように防食被膜形成成分と分散剤成分を開放循環式冷却水システムに添加することにより、水と接触する炭素鋼製熱交換器材質の孔食を抑制する孔食抑制方法であって、該防食被膜形成成分は、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体及び亜鉛イオンを放出する化合物を含み、更にリン酸、重合リン酸、有機ホスホン酸、ホスホノカルボン酸、ホスフィノポリカルボン酸並びにそれらの水溶性塩から選択されるリン系化合物の1種以上を含んでもよく、該分散剤成分はモノエチレン性不飽和カルボン酸とモノエチレン性不飽和スルホン酸の共重合体を含み、該開放循環式冷却水システムの循環水中の亜鉛の添加濃度がZn換算で0.5~2mg/Lの範囲であり、該循環水中のカルシウム硬度が100mgCaCO3/L未満のときリン系化合物の添加濃度はPO4換算で1~3mg/Lの範囲であり、該循環水中のカルシウム硬度が100mgCaCO3/Lを超え300mgCaCO3/L未満のときリン系化合物の添加濃度はPO4換算で0~3mg/Lの範囲であり、該循環水中のカルシウム硬度が300mgCaCO3/Lを超えるときリン系化合物の添加濃度はPO4換算で0~2mg/Lの範囲であることを特徴とする孔食抑制方法。」 (イ)「【0040】 本発明で用いるマレイン酸系重合体及びイタコン酸系重合体は公知の方法により製造できる。すなわち、マレイン酸系モノマーまたはイタコン酸系モノマーを水溶液中、またはキシレン、トルエン、イソプロピルアルコールなどの有機溶媒中で、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、過硫酸塩、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどの重合開始剤の存在下において、必要に応じて重合調整剤を加えて加熱することにより製造される。マレイン酸系重合体の製造方法は、例えば芳香族系溶媒に対して、2~10重量%の無水マレイン酸を入れて加熱・溶解し、重合開始剤を無水マレイン酸に対して5~12重量%添加して、100~200℃の温度で重合する方法(特許2964154号公報)が開示されている。イタコン酸系重合体の製造方法は、例えば、水溶性塩基で中和したイタコン酸水溶液に開始剤を添加して80~120℃の温度に維持する方法(特開平5-86129号公報)が開示されている。 【0041】 これらの重合体の製造に用いる溶媒がトルエンやキシレンなどの非水系の有機溶媒の場合、マレイン酸の替わりに無水マレイン酸やマレイン酸エステル類、イタコン酸の替わりにイタコン酸エステル類や無水イタコン酸などの有機溶媒に溶解可能なモノマーを使用し、過酸化ベンゾイル、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどの有機溶媒に溶解可能な重合開始剤を用いる。無水物やエステルを含む重合体を製造後、有機溶媒をデカンテーションや蒸発により除去して、水を加えて加熱しながらエステルや無水物を加水分解して目的とする水溶性のマレイン酸系重合体やイタコン酸系重合体を得ることができる。しかしながら、非水系溶媒中における重合では有機溶媒の除去工程や加水分解工程が必要であるため、操作が煩雑なだけでなく、これらの工程で使用される加熱用のエネルギーコストや溶媒の費用が大きく、経済的でない。また、有害な有機溶媒が大気中や排水や土壌などに放出された場合の、環境や人体への影響も無視できない。このため、本発明で用いるマレイン酸系重合体とイタコン酸系重合体の製造方法では、有機溶媒を用いない水系重合法で製造することが好ましい。溶媒として主に水を使用した水系重合法の場合、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸などの水に溶解可能なモノマーを使用し、過酸化水素、過硫酸塩、水溶性アゾ系触媒などの水に溶解可能な重合開始剤を用いて製造される。 【0042】 本発明で用いるマレイン酸系重合体とイタコン酸系重合体の好ましい製造方法は、同一反応容器においてマレイン酸系重合体とイタコン酸系重合体を連続して製造する方法である。即ち、マレイン酸系重合体を製造後、同一反応容器においてマレイン酸系重合体が入ったままの状態でイタコン酸系重合体の製造を行って2種の重合体の混合物を直接製造してもよく、イタコン酸系重合体を製造後、同一反応容器においてイタコン酸系重合体が入ったままの状態でマレイン酸系重合体の製造を行って2種の重合体の混合物を直接製造してもよいが、より好ましい製造方法は、マレイン酸系重合体を製造後、同一反応容器においてマレイン酸系重合体が入ったままの状態でイタコン酸系重合体の製造を行って2種の重合体の混合物を直接製造する方法である。」 (ウ)「【実施例】 【0076】 以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。また、特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。 【0077】 (試験装置) 本発明の孔食抑制剤組成物及び孔食抑制方法の孔食抑制効果を評価するために用いた試験装置ならびに試験方法は、ボイラ・熱交換器用炭素鋼鋼管STB340SC(JIS G3461:2012)を熱交換器に設置可能とした以外はJIS G0593-2002『水処理剤の腐食及びスケール防止評価試験方法』のオンサイト試験法に準拠した。試験装置の概略を図1に示す。 熱交換器7のHE-1、HE-4、HE-5、HE-6は、JIS G0593-2002に準拠した二重管式熱交換器であり、内管に外径12.7mm、長さ510mmのステンレス鋼管SUS304(JIS G3459)製の伝熱管を設置し、管内にカートリッジヒーターを挿入して加熱し、管外に冷却水を通水した。 また、HE-2とHE-3は、試験用伝熱管として外径19.0mm、長さ600mmの冷間仕上げ継目無管の熱交換器用炭素鋼鋼管STB340SC(JIS G3461)を設置し、STB340SCの管内に冷却水を通水し、管外を電気ヒーターブロックにより加熱した。 【0078】 水槽2及び配管を含む系全体の水容量は62Lとし、水槽2の水温は35℃になるように水温制御装置9で制御した。試験用伝熱管評価部の線流速0.3m/sに相当する流量210L/hとなるように流量調整バルブ5で制御しながら循環ポンプ3で通水し、熱交換器7の熱流束は40~70kW/m2とした。冷却塔1は冷却能力1.8冷却トンの誘引通風向流接触型のものを使用した。冷却塔入口・出口の循環水の温度差は15℃であった。循環水の電気伝導率を電気伝導率測定セル4で連続的に測定し、電気伝導率の入力信号より電気伝導率制御装置11を用いて所定の濃縮度に相当する電気伝導率になるようにブローダウンポンプ10を制御した。 【0079】 (製造例1) 同一反応容器によるマレイン酸重合体とイタコン酸重合体の製造例 ガラス還流管、窒素通気管、滴下ロート、攪拌器付きの500mLの4つ口フラスコに無水マレイン酸18.3重量部(マレイン酸換算21.6重量部)、硫酸第一鉄7水和物0.012重量部、水31.0重量部を加え、これに48%水酸化カリウム水溶液を11.9重量部加えた。この液を90℃に加熱して液温を90~95℃に維持しながら、35%過酸化水素7.3重量部と過硫酸ナトリウム0.25重量部を水1.0重量部に溶解した1回目の重合開始剤溶液を50分間かけて滴下した。滴下終了後、反応液にイタコン酸18.4重量部、硫酸第一鉄7水和物0.012重量部を一括で加えた。イタコン酸の添加により温度が低下したため、反応液を90℃に再加熱して液温を90~95℃に維持しながら、1回目の重合開始剤溶液添加終了から6分後に35%過酸化水素11.0重量部と過硫酸ナトリウム0.4重量部を水1.5重量部に溶解した2回目の重合開始剤溶液を50分間かけて滴下した。2回目の重合開始剤溶液滴下終了後、硫酸第一鉄7水和物0.012重量部を加え、更に90℃で2時間加熱した後、全体で100重量部になるように水を追加投入して重量平均分子量1100のマレイン酸重合体21.6重量%とイタコン酸重合体18.4重量%を含む水溶液を得た。尚、全反応工程中、撹拌しながら窒素を連続的に通気した。高速液体クロマトグラフ法により反応液の残留モノマーを測定した結果、マレイン酸の反応率は85%、イタコン酸の反応率は98%であった。 ・・・ 【0093】 1.実施例1~13及び比較例1~4 (孔食抑制剤組成物の低温安定性試験) 表1に示す配合の孔食抑制剤組成物No.a1~a16がそれぞれ入ったガラス瓶を-20℃に設定した冷凍庫に1昼夜放置して凍結させた後、これらのガラス瓶を0℃に設定した恒温器に移して解凍させ、更に-5℃に設定した恒温器に1週間放置した。この操作を3回繰り返して沈殿・分離、結晶析出の有無を調べた。結果を表1に示す。 【0094】 (孔食抑制効果の評価試験) 前記の試験装置を用いて表1に示す配合の孔食抑制剤組成物No.a1~a16の孔食抑制効果の評価を試験した。図1に示す試験装置の補給水12として四日市市水を使用した。このときの四日市市水の水質はpH:7、電気伝導率:10mS/m、Ca硬度:35mg-CaCO3/L、Mg硬 度:7mg-CaCO3/L、Mアルカリ度:35mg-CaCO3/L、 塩化物イオン:7mg/L、硫酸イオン:7mg/L、シリカ:11mg/Lであった。 初期処理として水槽2に四日市市水を張り、被試験用組成物200mg/Lとヘキサメタリン酸ソーダ(平均縮合度40)を12.5mg/L添加して、常温で48時間循環した。アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体〔共重合比(重量)60:40、平均分子量10,000〕を40mg/L添加後、熱負荷を開始し、熱負荷開始3日後に規定濃縮度に達したので、直ちにブローダウンを開始して濃縮度を約4.3倍、循環水中のCa硬度が150mg-CaCO3/Lになるように電気伝導率を自動的に制御した。ブローダウン開始と同時にブローダウン量に対して45mg/Lの被試験用組成物を水処理剤注入装置13により添加した。循環水中の亜鉛の添加濃度はZn換算で1.7mg/L、リン系化合物の添加濃度はPO4換算で1.0mg/Lであった。試験期間は1ヶ月間とした。試験終了後、HE-2とHE-3のSTB340SC製試験用伝熱管を取り外して縦割り後、管内の孔食深さをマイクロゲージにより測定し、孔食深さの最大値を求めた。実施例1~13及び比較例1~3の被試験用組成物として孔食抑制剤組成物No.a1~a16を使用した。また、比較例4は被試験用組成物無添加の例である。結果を表1に示す。 【0095】 表1における用語、記号、略号の定義は次の通りである。 (1)アクリル酸-AMPS共重合体:アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体〔共重合比(重量)60:40、平均分子量10,000〕 (2)成分比:各組成物中に配合された分散剤成分と防食被膜形成成分の重量比であって、(分散剤成分/防食被膜形成成分)比 (3)MAL:マレイン酸系重合体。ただし、組成物No.a14ではマレイン酸を示す。 (4)ITA:イタコン酸系重合体。ただし、組成物No.a14ではイタコン酸を示す。 (5)MAL:ITA重量比:各組成物中に含有されるマレイン酸系重合体対イタコン酸系重合体の重量比を示す。ただし、組成物No.a14では、マレイン酸とイタコン酸の共重合体中のマレイン酸対イタコン酸の重量比を示す。 (6)混合方法: (6-1)同一容器;同一反応容器においてマレイン酸系重合体とイタコン酸系重合体を連続して製造して2種の重合体の混合物を得た。 (6-2)別個混合;個別に製造したマレイン酸系重合体とイタコン酸系重合体を混合して2種の重合体の混合物を得た。 (6-3)(MAL+ITA共重合体);マレイン酸とイタコン酸の共重合体 (7)重合順序: (7-1)MAL⇒ITA;同一反応容器において、マレイン酸系重合体を製造後、連続してイタコン酸系重合体を製造した。 (7-2)ITA⇒MAL;同一反応容器において、イタコン酸系重合体を製造後、連続してマレイン酸系重合体を製造した。 (8)重合開始剤添加間隔:1回目の重合開始剤添加終了時から2回目の重合開始剤添加開始までの時間 (9)ポリマレイン酸A:BELCLENE200LA(商品名、BWA社製) 【0096】 【表1】 [図:0001425730000008.jpg] 【0097】 実施例1~11は混合方法が同一容器の例であり、実施例12、13は混合方法が別個混合の例である。実施例1~6は重合開始剤間隔を変化させた例であり、実施例7は重合順序をITA⇒MALに変えた例であり、実施例8~11はMAL:ITA重量比を変化させた例である。 また、比較例1はマレイン酸系重合体とイタコン酸系重合体の混合物の替りにマレイン酸とイタコン酸の共重合体を使用した例である。本発明の防食被膜形成成分のマレイン酸系重合体ではマレイン酸の構成比率が70~100重量%の範囲であり、イタコン酸系重合体ではイタコン酸の構成比率が70~100重量%の範囲であるが、比較例1に使用されたマレイン酸とイタコン酸の共重合体中のマレイン酸とイタコン酸の構成比率は56重量%と46重量%であり、本発明の防食被膜形成成分のマレイン酸系重合体とイタコン酸系重合体のいずれにも該当せず、比較例1は本発明の実施例ではない。 また、本発明の防食被膜形成成分はマレイン酸系重合体とイタコン酸系重合体の両方を含むが、比較例2、3はマレイン酸系重合体又はイタコン酸系重合体の片方のみを含む例である。 【0098】 表1に示された孔食抑制剤組成物の低温安定性と孔食抑制効果試験の結果により、本発明の孔食抑制剤組成物の優れた低温安定性と本発明の孔食抑制方法の優れた孔食抑制効果が明らかになった。」 (エ)「【図1】 [図:0001425730000009.jpg] 」 イ 甲5に記載された発明 上記ア(ウ)に摘記した甲5の【0096】【表1】に記載の実施例1(孔食抑制剤組成物No.a1であり、【0079】に記載の製造例1の重合体及び【0095】に記載のアクリル酸-AMPS共重合体の組合せ。循環水の水質については、【0094】参照。)に着目し、上記ア(ア)に摘記した特許請求の範囲の記載に倣って整理すると、甲5には、次の発明が記載されていると認められる。 「開放循環式冷却水システムの循環水中における防食被膜形成成分の添加量に対する分散剤成分の添加量の重量比が0.52になるように防食被膜形成成分と分散剤成分を開放循環式冷却水システムに添加することにより、水と接触する炭素鋼製熱交換器材質の孔食を抑制する孔食抑制方法であって、該防食被膜形成成分は、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体(重量比54:46)及び亜鉛イオンを放出する化合物である酸化亜鉛を含み、更にリン酸を含み、該分散剤成分はモノエチレン性不飽和カルボン酸とモノエチレン性不飽和スルホン酸の共重合体であるアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体〔共重合比(重量)60:40、平均分子量10,000〕を含み、該開放循環式冷却水システムの循環水中の亜鉛の添加濃度がZn換算で1.7mg/Lであり、該循環水中のカルシウム硬度が150mgCaCO3/Lであり、リン系化合物の添加濃度はPO4換算で1.0mg/Lである孔食抑制方法。」(以下、「甲5発明」という。) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲5発明とを対比する。 (ア)甲5発明における「モノエチレン性不飽和カルボン酸とモノエチレン性不飽和スルホン酸の共重合体であるアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体〔共重合比(重量)60:40、平均分子量10,000〕」と本件発明1における「成分(A)」「(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体とのモル比率が97:3~70:30である、(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」とは、「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」である限りにおいて共通する。 (イ)甲5発明における「マレイン酸系重合体」と本件発明1における「成分(B)」「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」「<マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量の滴定分析>」「マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する。算出式は以下のとおりである。」「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」とは、「マレイン酸系重合体」である限りにおいて共通する。 (ウ)a 上記(ア)、(イ)を踏まえると、「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」である点で、甲5発明における「モノエチレン性不飽和カルボン酸とモノエチレン性不飽和スルホン酸の共重合体であるアクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体〔共重合比(重量)60:40、平均分子量10,000〕」は本件発明1における「成分(A)」「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」に相当し、「マレイン酸系重合体」である点で、甲5発明における「マレイン酸系重合体」は本件発明1における「成分(B)」「マレイン酸系重合体」に相当する。 b ここで、上記ア(ウ)に摘記した甲5の【0096】【表1】によれば、孔食抑制剤組成物No.a1の配合(重量%)は「水:残部、製造例1の重合体:20(固形分として8.0%)、リン酸:2.3、アクリル酸-AMPS共重合体:7.3、ベンゾトリアゾール:1.2、酸化亜鉛:4.8(Znとして3.8%)、72%硫酸:pH1.7の調整量」であるから、上記孔食抑制剤組成物No.a1において、「分散剤成分」に含まれる「アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体」の含有量は7.3重量%であり、「防食被膜形成成分」に含まれる「マレイン酸系重合体」の含有量は8.0×(54/(54+46))=4.32重量%であると認められる。そうすると、上記孔食抑制剤組成物No.a1中の「アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体」と「マレイン酸系重合体」の重量比は、7.3:4.32≒6.28:3.72と計算される。 c また、「防食」とは、腐食を抑制することであり、「孔食」とは、腐食の一種であることは、技術常識に照らして明らかである。そして、甲5発明における「炭素鋼製熱交換器材質」は、本件発明1における「金属」に相当するから、甲5発明における「水と接触する炭素鋼製熱交換器材質の孔食を抑制する孔食抑制方法」は、本件発明1における「水系の金属防食処理方法」に相当する。 d したがって、甲5発明における「開放循環式冷却水システムの循環水中における防食被膜形成成分の添加量に対する分散剤成分の添加量の重量比が0.52になるように防食被膜形成成分と分散剤成分を開放循環式冷却水システムに添加することにより、水と接触する炭素鋼製熱交換器材質の孔食を抑制する孔食抑制方法」は、本件発明1における「水系に、」「成分(A)」「(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体」「及び成分(B)」「マレイン酸系重合体」「を質量使用割合1:9~7:3で存在させる、水系の金属防食処理方法」に相当する。 (エ)そうすると、本件発明1と甲5発明とは、「水系に、下記の成分(A)及び成分(B)を質量使用割合1:9~7:3で存在させる、水系の金属防食処理方法。(A)(メタ)アクリル酸単量体と、スルホン酸単量体との共重合体、及び、(B)マレイン酸系重合体」である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点5-1> 本件発明1における「成分(A)」は、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との「モル比率が97:3~70:30」である共重合体であるのに対し、甲5発明における「アクリル酸と2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸の共重合体」は、「共重合比(重量)60:40」の共重合体である点。 <相違点5-2> 本件発明1における「成分(B)」の「マレイン酸系重合体」は、「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上」であり、当該滴定分析が「マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する。算出式は以下のとおりである。」「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」というものであるのに対し、甲5発明の「マレイン酸系重合体」は、上記「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上」であるのか不明である点。 イ 相違点についての判断 (ア)事案に鑑み、上記相違点5-2について検討する。 (イ)a 申立人1は、特許異議申立書において、「甲5発明の明細書の第0040欄には,マレイン酸系重合体の製造方法として,芳香族系溶媒に対して,2~10重量%の無水マレイン酸を入れて加熱・溶解し,重合開始剤を無水マレイン酸に対して5~12重量%添加して,100~200℃の温度で重合する方法(特許2964154号公報)が開示されている(明細書第0040欄)。ここで,特許2964154号公報は,甲2発明の出願の登録番号であり同じ特許出願である。また,甲5発明の明細書には,「該重合体におけるマレイン酸の構成比率は70~100重量%の範囲であるが,好ましくは80~100重量%の範囲である。本発明のマレイン酸系重合体は,マレイン酸ホモ重合体,あるいはマレイン酸と共重合可能なその他モノマーを30重量%未満の割合で含むマレイン酸共重合体であってもよい。」(明細書第0030欄から第0031欄)と記載されている。また,甲5発明の明細書には,「本発明で用いるマレイン酸系重合体の分子量は,通常は300~5000,好ましくは400~3000である。」(明細書第0037欄)と記載されているから,甲5発明のマレイン酸共重合体は,甲4発明のマレイン酸共重合体と差異がない。」(第76頁第6~19行)と主張している。 b そこで、上記aの主張について検討すると、上記(1)ア(イ)に摘記した甲5の【0040】には確かに甲2(特許2964154号公報)が記載されているものの、続く【0041】には「本発明で用いるマレイン酸系重合体とイタコン酸系重合体の製造方法では、有機溶媒を用いない水系重合法で製造することが好ましい。溶媒として主に水を使用した水系重合法の場合、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸などの水に溶解可能なモノマーを使用し、過酸化水素、過硫酸塩、水溶性アゾ系触媒などの水に溶解可能な重合開始剤を用いて製造される。」と記載されており、上記(1)ア(ウ)に摘記したとおり、甲5発明における製造例1のマレイン酸重合体も、「35%過酸化水素7.3重量部と過硫酸ナトリウム0.25重量部を水1.0重量部に溶解した1回目の重合開始剤溶液」を用いることにより、有機溶媒を用いない水系重合法で製造している。 c そうすると、甲5発明における製造例1のマレイン酸重合体の水系重合法が、上記1(1)ウ(ア)に摘記した、甲2に記載の「o-キシレンの溶媒中で無水マレイン酸を重合」する方法とも、上記2(1)ア(ウ)に摘記した、溶媒としてキシレンを用いる甲4発明における水溶性マレイン酸系共重合体の重合法とも異なることは明らかであるから、「甲5発明のマレイン酸共重合体は,甲4発明のマレイン酸共重合体と差異がない。」とはいえない。 d 申立人1は、特許異議申立書において、上記aの主張を前提として、甲5発明のマレイン酸重合体中のカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であることを主張しようとしているが、上記b、cで検討したとおり、上記aの主張を採用することはできないから、申立人1の上記主張は前提において誤っており、妥当であると認めることはできない。 e したがって、上記相違点5-2は、実質的な相違点であるといえる。 f よって、本件発明1は、甲5発明であるとはいえない。 (ウ)a 次に、上記相違点5-2の容易想到性について検討すると、甲5に、上記相違点5-2に係る「以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量」を「12.7mmol/g以上」とすることは記載も示唆もされていないから、甲5発明において、上記相違点5-2に係る特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。 b そして、甲1~4、7、9~17に記載された事項を考慮しても、上記aの判断に変わりはない。 c したがって、甲5発明において、上記相違点5-2に係る特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 d よって、上記相違点5-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明及び甲1~4、7、9~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲5に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲5に記載された発明及び甲1~4、7、9~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2~7について 本件発明2~7は、本件発明1の特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲5に記載された発明であるとはいえず、甲5に記載された発明及び甲1~4、7、9~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2~7も同様に、甲5に記載された発明であるとはいえないし、甲5に記載された発明及び甲1~4、7、9~17に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)申立理由1-1-3(新規性)、申立理由1-2-3(進歩性)についてのまとめ 以上のとおり、本件発明1~7は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-1-3によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 また、本件発明1~7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1-2-3によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 4 申立理由1-3-1(実施可能要件及び明確性要件)、取消理由1(実施可能要件及び明確性要件) 上記第3に示したとおり、本件訂正後の請求項1には、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量の算出式について、「マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)×0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g)」と記載されており、本件訂正によって正しい算出式となった。 また、本件明細書の【0091】についても同様である。 よって、申立理由1-3-1及び取消理由1によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 5 申立理由1-3-2(実施可能要件及び明確性要件) (1)上記第3に示したとおり、本件訂正後の請求項1には、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量の滴定分析について、「マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定する。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する。」と記載されている(本件明細書の【0091】にも同様の記載がある。)。 (2)a 申立人1は、特許異議申立書において、「本件特許発明の特許請求の範囲や明細書には,本件特許発明1の滴定分析における滴定曲線が示されておらず,滴定曲線における変曲点がそれぞれ何に由来するものかも示されておらず,「塩酸の中和点までに滴下したNaOH量」と「マレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量」をどのようにして求めるかが記載されていないから,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができない。さらには,本件特許発明1の滴定分析で求めたマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が,正しい値を示すかどうか検証がされていない。」(第87頁下から9行~下から2行)と主張している。 b そこで、上記aの主張について検討すると、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に本件発明1の滴定分析における滴定曲線が記載されていないことはそのとおりである。 しかしながら、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出するに当たり、たとえ滴定曲線が記載されていなくとも、請求項1及び本件明細書の【0091】の記載に接した当業者であれば、2つの変曲点が存在する滴定曲線を思い浮かべることができ、1つ目の変曲点が塩酸の中和点であり、2つ目の変曲点がマレイン酸系ポリマーの中和点であることを踏まえ、「塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこから、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出する」ことができると容易に理解することができる。 c したがって、上記aの主張を採用することはできない。 (3)a また、申立人1は、特許異議申立書において、「さらには,本件発明のマレイン酸系重合体の製造時に,重亜硫酸,亜硫酸水素ナトリウム,過硫酸,次亜リン酸,亜リン酸等の酸性の触媒成分,あるいは不飽和スルホン酸単量体などの酸性の単量体が含まれているとき,本件発明の滴定方法では,これらの成分を中和するためにも水酸化ナトリウムが消費されるが,これに要した滴定量を補正することができないから、正確なカルボン酸含有量を求めることはできない。」(第87頁下から1行~第88頁第5行)とも主張している。 b そこで、上記aの主張について検討すると、滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出するに当たり、塩酸及びマレイン酸系ポリマー以外の中和にも水酸化ナトリウムが消費される場合に、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を正確に算出できなくなることは明らかであるから、当業者であれば、そのような事態を避けるために、滴定分析の前に分析対象のマレイン酸系重合体を精製すると解するのが自然である。 c したがって、上記aの主張を採用することはできない。 (4)よって、申立理由1-3-2によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 6 申立理由1-3-3(実施可能要件及び明確性要件) (1)上記第3に示したとおり、本件訂正後の請求項1には、「(B)以下の滴定分析によるマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」と記載されている。 (2)a 申立人1は、特許異議申立書において、「本件特許発明の特許請求の範囲や明細書には,カルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上であるマレイン酸系重合体を製造したり,安定的に継続して入手したりする具体的な手段が開示されていない。」(第89頁下から13行~下から11行)と主張している。 b そこで、上記aの主張について検討すると、「成分(B)マレイン酸系重合体」の重合方法については、本件明細書の【0038】に「前記成分(B)マレイン酸系重合体は、特に限定されず、有機溶媒系重合方法又は水系重合法による重合体の何れでもよく、当該重合方法は、適宜、公知の技術を採用して行うことができ、市販品を用いてもよい。当該重合体中のカルボキシル基含有量が、例えば11.5mmol/g以上等と所定以上の高さになるように重合することができる方法を適宜採用することができる。」と記載されるのみであり、具体的な重合条件が記載されていないことはそのとおりである。 しかしながら、「カルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」が目的の成分であることが分かっている以上、自身で重合する場合でも、技術常識に照らして、当該マレイン酸系重合体を得るために多少の試行錯誤は必要であるとしても、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤をする必要があるとは認められない。 また、本件明細書の【0038】には、上記のとおり、市販品を用いてもよいことが記載されているところ、本件明細書の【0093】【表1】には、市販品として、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が13.4mmol/gのサンプル4と12.7mmol/gのサンプル5が記載されており、同【0092】には、上記サンプル4、5のメーカーも記載されているため、これらのメーカーに依頼すれば、カルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体を安定的に継続して入手することができるといえる。 c したがって、上記aの主張を採用することはできない。 (3)よって、申立理由1-3-3によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 7 申立理由2-1(サポート要件)、取消理由2(サポート要件) (1)本件明細書の記載 本件明細書には、以下の記載がある。 ア 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 水系の水質と防食効果の関係性についてはよく知られており、炭酸カルシウムが析出しやすい水質においては、比較的良好な防食効果が得られることが知られていた。一方で、硬度の低い水質は、炭酸カルシウムの析出が起こりにくいため、水自身の防食効果が減少する。そのような硬度の低い水質に対してリン化合物の良好な防食効果を利用できない非リンの防食剤を使用すると、水と接触する金属部材に対する防食効果が不十分となることが、本発明者らの研究により従来技術の問題点として見出された。 【0007】 そこで、本発明者らは、高硬度水質だけでなく低硬度水質においても良好な防食効果を発揮できるという、低硬度水質にまでも防食効果がより強化され、さらに防食用のリン化合物の使用を大幅に低減できる又は非リン系でもよい防食処理の技術を検討することした。 【0008】 本発明は、富栄養化の原因物質となるリン化合物を金属防食剤として利用しなくとも良好な防食効果を発揮することができるとともに、高硬度水質だけでなく低硬度水質においても良好な防食効果を発揮することのできる、水系の金属防食処理の技術を提供することを主な目的とする。」 イ 「【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者らは、当初、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量に着目した。しかしながら、水系に添加する薬剤に含まれる重合体中のカルボキシル基含有量が高いと、水中のカルシウムイオンと結合し不溶化物を形成しやすく、実際に、後記〔実施例〕にて示したように、重合体中のカルボキシル基含有量が高いマレイン酸系重合体の単独使用では、低硬度水質の水であっても不溶化物を形成しやすく、良好な防食効果が得られなかった。一方で、本発明者らは、共重合体の使用による防食効果について鋭意検討していたが、(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体の単独使用では、防食効果が非常に良くなかった。 【0010】 しかしながら、本発明者らは、鋭意検討した結果、良好な防食効果が得られていない2成分の組み合わせ、つまり、成分(A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体と、成分(B)マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が所定以上に高いマレイン酸系重合体とを併用しつつかつこれら成分(A)及び成分(B)の質量使用割合を所定の範囲内にすることで、水系中の不溶化物の形成がより良好に抑制でき、さらに各単独使用よりも非常に良好な防食効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下のとおりである。」 ウ 「【0036】 1-2.成分(B)マレイン酸系重合体 本発明に用いる成分(B)マレイン酸系重合体は、当該重合体中のカルボキシル基含有量が所定以上であることが、前記成分(A)及び前記成分(B)の併用効果によるより良好な防食効果発揮の観点から、好適であり、当該所定の含有量は、所定以上、例えば11.5mmol/g以上が好適である。」 エ 「【0044】 <成分(B)マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量> 成分(B)マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量は、ホモポリマー又はコポリマーに関わらず、また、単量体由来に関わらず、当該重合体中のカルボキシル基の合計の含有量である。当該重合体中のカルボキシル基含有量は、好適な下限値として、好ましくは11.5mmol/g以上、より好ましくは11.7mmol/g以上、さらに好ましくは12mmol/g以上、より好ましくは12.5mmol/g以上、より好ましくは13mmol/g以上であり、また、好適な上限値として、特に限定されず、理論上17.2mmol/gとなり、製造可能な範囲内で設定することができ、例えば、17、16、又は15mmol/g以下等にすることができる。前記成分(B)マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量は、後記〔実施例〕における<試験1:マレイン酸系重合体(サンプル1~5)中のカルボキシル基含有量の滴定分析>に従って、求めることができる。 本実施形態であれば、前記成分(A)共重合体と併用することで、前記成分(B)マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を所定以上の高さにしても水系での前記成分(B)のゲル化をより良好に抑制できるとともにより良好に分散できるので、前記成分(B)における重合体中のカルボキシル基含有量の高含有化によって向上した防食効果を、より良好に発揮させることができる。」 オ 「【実施例】 【0090】 以下の実施例及び比較例等を挙げて、本発明の実施形態等について説明をする。なお、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。 【0091】 <試験1:マレイン酸系重合体(サンプル1~5)中のカルボキシル基含有量の滴定分析> <手法> 滴定分析にはTitrando (Metorom)を用いた。マレイン酸系重合体1gを20mLの純水に溶解し、塩酸を用いてpHを2以下まで下げたのち、Titrandoにセットし、0.5mol/LのNaOHを用いて滴定した。塩酸の中和点までに滴下したNaOH量とマレイン酸系ポリマーの中和点までに滴下したNaOH量との差から、マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH量を算出し、そこからマレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量を算出した。算出式は以下のとおりである。 マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量(mmol/g)=(マレイン酸系ポリマーの中和に要したNaOH水溶液(0.5mol/L)量(mL)÷0.5(mol/L))÷使用したマレイン酸系重合体1(g) 【0092】 サンプル1~5は、市販品を使用し、サンプル1:イソバンKPS-3(無水マレイン酸:クラレ製)、サンプル2:ベルクレン288(イタルマッチ製)、サンプル3:ベルクレン272(イタルマッチ製)、サンプル4:クレストガード559(クレストウォーター製)、サンプル5:HPMA-S 常州市東納化工有限公司(Changzhou Dongna Chemical Co., Ltd.)製であった。サンプル1~3、5は有機溶媒系による重合、サンプル4は水系による重合であった。また、マレイン酸系重合体の原料として無水マレイン酸が一般的に用いられており、例えばサンプル1の原料として無水マレイン酸が使用されている。 【0093】 【表1】 [図:0001425730000010.jpg] 【0094】 <結果> 滴定分析を実施したマレイン酸系重合体(サンプル1~5)とそのカルボキシル基含有量について表1に示す。サンプル4~5は他のマレイン酸系ポリマーよりカルボキシル基含有量が多いことが共通している。サンプル3とサンプル4から、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量11.5mmol/g以上のマレイン酸系重合体を、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が所定以上に高いマレイン酸系重合体と設定した。 <ポリマーの重量平均分子量のGPC分析> 各ポリマーの重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)法により測定することができ、GPC法による標準ポリアクリル酸換算の値である。 ・・・ 【0103】 <試験4> <手法> (メタ)アクリル酸とスルホン酸からなる共重合体の分散能力により、マレイン酸系重合体のゲル化の抑制効果ができないか確認するため耐ゲル化能評価試験を行った。(メタ)アクリル酸とスルホン酸からなる共重合体としてAA/AMPS-1(モル比率80:20)を、マレイン酸系重合体としてサンプル4を用いた。 500mL容ネジ口瓶に、超純水、各ポリマー溶液、カルシウム硬度溶液を都度攪拌しながら添加し、総量500mLとした。各ポリマー溶液、カルシウム硬度溶液が所定の濃度となるように、超純水は総量500mLとなるように添加した。NaOHやH2SO4等でpH8.5となるように調整を行い、ネジ口瓶のふたを締め、90℃で1時間静置した。1時間経過後、分光光度計にて、λ=380nm、50mmセルで濁度を測定した。ポリマーの着色が吸光度に影響する場合があるため、カルシウム硬度無添加の条件の吸光度も同時に測定し、それぞれの値からこれを差し引いた。吸光度の補正値が小さいほど、ゲル化が生じておらず、良好であることを示す。 【0104】 <結果> 試験条件及び吸光度の測定結果を表4に示した。重合体中のカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上のマレイン酸系重合体としてサンプル4のみを添加した条件3及び4の場合にはゲル化が生じた。これに対し、AA/AMPS-1とサンプル4を併用すると、ゲル化は起こらなかった。このことから、重合体中のカルボキシル基含有量が高いマレイン酸系ポリマーとAA/AMPS-1ポリマーとの併用により、水中のカルシウムイオンと重合体中のカルボキシル基含有量が高いマレイン酸系ポリマーとのゲル化を抑制可能であることが示された。 また、カルシウム硬度0mg/L as CaCO3のときの実施例4-1及び実施例4-2を、数日間放置しても濁りがなく透明であったので、(メタ)アクリル酸とスルホン酸からなる共重合体と、重合体中のカルボキシル基含有量が高いマレイン酸系重合体とは、一液型薬剤及び多液型薬剤(薬剤キット)の何れにも適用できることが示された。 【0105】 【表4】 [図:0001425730000011.jpg] 【0106】 <試験5> <手法> (メタ)アクリル酸とスルホン酸との共重合体及びマレイン酸系重合体の併用効果において、最適マレイン酸系重合体の特徴を確認するために、腐食試験を実施した。(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体(第一薬剤)として試験2のAA/AMPS-1を、マレイン酸系重合体(第二薬剤)として表1中のサンプル1~5の各ポリマーを用いた。防食効果評価のための運転条件は、水温30℃、試験期間3日間、回転数150rpmである。使用した原水の水質条件は、カルシウム硬度 100mg/L as CaCO3、酸消費量(pH4.8) 100mg/L as CaCO3、マグネシウム硬度 50mg/L、シリカ 20mg/L、塩化物イオン濃度 150mg/L、硫酸イオン濃度 150mg/L、pH 8.2、AA/AMPS-1 6mg/L、マレイン酸系重合体 6mg/Lである。試験に使用した材料は、SPCC製のテストピース(30mm×50mm×1mm)である。1Lの試験水に対し、1枚のテストピースを浸漬し、上記運転条件にて、スターラーで撹拌した。試験結果の評価は、テストピースの試験前後における重量差から腐食減量を求め、以下の式に基づき腐食速度(mdd)を算出して行った。 腐食速度(mdd)=腐食減量(mg)/テストピースの表面積(dm2)/試験期間(day) 【0107】 <結果> 腐食試験に用いた薬剤の添加濃度及び腐食速度の測定結果を表5に示す。カルボキシル基高含有のマレイン酸系重合体としてサンプル4及びサンプル5を用いた場合に、良好な防食効果が確認できた。表1のカルボキシル基含有量と比較すると、サンプル4とサンプル5の重合体中のカルボキシル基含有量が最も高いことから、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が11.5mmol/g以上のマレイン酸系重合体は、良好な防食効果に寄与していると考えられた。 【0108】 【表5】 [図:0001425730000012.jpg] 」 (2)本件発明の課題 上記(1)アに摘記した本件明細書の【0008】の記載からすると、本件発明が解決しようとする課題は、「富栄養化の原因物質となるリン化合物を金属防食剤として利用しなくとも良好な防食効果を発揮することができるとともに、高硬度水質だけでなく低硬度水質においても良好な防食効果を発揮することのできる、水系の金属防食処理の技術を提供すること」にあると認められる。 (3)検討 ア 上記(2)の課題を解決するための手段として、上記(1)イに摘記した本件明細書の【0010】には、「成分(A)(メタ)アクリル酸単量体とスルホン酸単量体との共重合体と、成分(B)マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が所定以上に高いマレイン酸系重合体とを併用しつつかつこれら成分(A)及び成分(B)の質量使用割合を所定の範囲内にすることで、水系中の不溶化物の形成がより良好に抑制でき、さらに各単独使用よりも非常に良好な防食効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。」と記載されている。 イ ここで、上記アの「成分(B)マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が所定以上に高いマレイン酸系重合体」における「所定以上に高い」について、上記(1)ウ、エの摘記事項には、例示として「11.5mmol/g以上」が記載されている。 ウ そして、上記(1)オの摘記事項によると、本件明細書の【0091】~【0094】の試験例1には、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が11.4mmol/g以下のサンプル1~3は比較例である一方、マレイン酸系重合体中のカルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上のサンプル4、5は実施例であることが記載されており、同【0106】~【0108】の試験例5には、「カルボキシル基高含有のマレイン酸系重合体としてサンプル4及びサンプル5を用いた場合に、良好な防食効果が確認できた」ことが記載されている。 エ そうすると、「成分(B)」が「カルボキシル基含有量が12.7mmol/g以上であるマレイン酸系重合体」である本件訂正後の本件発明は、上記(2)の課題が解決できることを当業者が認識できるものであると認められる。 オ よって、申立理由2-1、取消理由2によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 8 申立理由2-2(サポート要件) (1)上記第3に示したとおり、本件訂正後の請求項1には、「水系に、下記の成分(A)及び成分(B)を質量使用割合1:9~7:3で存在させる、水系の金属防食処理方法。」と記載されるのみであり、本件発明1において、水系のカルシウム硬度は特定されていない。 (2)a 申立人2は、特許異議申立書において、「(エ)そうすると、本件発明1~7に関し、発明の詳細な説明において本件発明の課題を解決できるものとして開示されている「水系の金属防食処理方法」は、カルシウム硬度が100~500mg/L(as CaCO3)である水系の金属防食処理方法である。よって、カルシウム硬度が特定されていない水系を処理対象として含む、本件発明1~7は、本件発明の課題を解決できるものとして認識し得ない範囲を含み、発明の詳細な説明において本件発明の課題を解決できるものとして開示されている範囲を超えるものである。」(第27頁下から4行~第28頁第3行)と主張している。 b そこで、上記aの主張について検討すると、上記7(1)アに摘記したとおり、本件明細書の【0006】には、「水系の水質と防食効果の関係性についてはよく知られており、炭酸カルシウムが析出しやすい水質においては、比較的良好な防食効果が得られることが知られていた。」と記載されており、水系のカルシウム硬度が高くても防食効果の面で特段の問題は生じないと解されるから、本件発明は、カルシウム硬度が500mg/L(as CaCO3)超の水系においても、上記7(2)の課題が解決できることを当業者が認識できるものであると認められる。 c また、上記7(1)オに摘記したとおり、本件明細書の【0103】~【0105】の試験4には、「成分(B)」として本件発明のマレイン酸系重合体を用いた実施例4-1、4-2は、カルシウム硬度が0mg/L(as CaCO3)の水系でもゲル化しないことが記載されている。 そうすると、本件発明は、成分(A)及び成分(B)の併用効果により、従来技術と比較して相対的に良好な防食効果を発揮するものであると解されるから、カルシウム硬度が100mg/L(as CaCO3)未満の水系においても、上記7(2)の課題が解決できることを当業者が認識できるものであると認められる。 d したがって、上記aの主張を採用することはできない。 (3)よって、申立理由2-2によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 9 申立理由2-3(実施可能要件)、取消理由3(実施可能要件) (1)申立理由2-3は、実質的に申立理由2-1、2-2の主張を条文を変更して繰り返すものであると認められる。 (2)そして、申立理由2-1、2-2によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできないことは、上記7(3)、8(3)のとおりである。 (3)よって、申立理由2-3、取消理由3によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 10 令和 7年 3月10日提出の意見書における主張 申立人1は、令和 7年 3月10日提出の意見書において、「参考資料1の分析・試験報告書の追試験結果より,訂正された請求項1及び訂正された明細書に記載されたマレイン酸系重合体中のカルボキシル基合有量を測定する方法では,塩酸の中和点は存在せず,正しいカルボキシル基合有量を求めることができないから,特許法第36条第4項第1号及び同第6項により,本件特許発明は取り消されるべきです(特許法113条第4号)。」(第2頁第8~12行)と主張している。 しかしながら、上記主張は、実質的に新たな申立理由を主張するものであると認められるから、特許異議申立書の要旨を変更するものであり、採用することはできない(特許法第115条第2項)。 第6 むすび 以上のとおり、申立人1による特許異議申立書に記載された申立理由1-1-1~1-3-3及び申立人2による特許異議申立書に記載された申立理由2-1~2-3並びに取消理由通知書に記載した取消理由1~3のいずれによっても、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700286

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