特許異議申立
2023-700495
シルク性能衣服及び製品、並びにこれらを製造する方法
- 審判番号
- 2023-700495
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-113298
- 登録番号
- 7171840
- 請求日
- 2023年05月15日
- 審決日
- 2024年03月26日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エボルブド バイ ネイチャー, インコーポレイテッド
- 【権利者代理人】伊東 忠重
- 【権利者代理人】伊東 忠彦
- 【権利者代理人】廣田 浩一
- 【権利者代理人】流 良広
- 【権利者代理人】松田 奈緒子
- 【異議申立人】三原 舞緒
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 西本 浩司
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1652.113-YAA(D06M) / P1652.121-YAA(D06M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7171840号発明「シルク性能衣服及び製品、並びにこれらを製造する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7171840号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕、〔9~18〕について訂正することを認める。
特許第7171840号の請求項1~3、5~12、15~17に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7171840号(以下「本件特許」という。)の請求項1~18に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)7月14日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2015年7月14日、2015年10月22日、2016年2月21日、2016年6月1日、2015年12月2日、いずれもアメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特願2018-501372号の一部を、令和3年7月8日に特願2021-113298号として出願されたものであり、令和4年11月7日に特許権の設定登録がされ、同年同月15日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 5月15日 :特許異議申立人 三原舞緒(以下「申立人」という。)による請求項1~3、5~12、15~17に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 9月13日付け:取消理由通知
同年12月15日 :特許権者による訂正請求書、意見書の提出
令和6年 2月28日 :申立人による意見書の差出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」といい、本件訂正の請求を「本件訂正請求」という。)の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記コーティングが、5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片と、酸性剤と、並びに、抗微生物剤、抗真菌剤、柔軟剤、撥水剤、撥油剤、染料、難燃剤、生地軟化剤、pH調整剤、抗クロッキング剤、抗ピリング剤、抗フェルティング剤、及びこれらの組合せからなる群から選択される化学剤と、
を含むことを特徴とする物品。」
と記載されているのを、
「前記コーティングが、5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片と、酸性剤と、柔軟剤からなる化学剤と、
を含むことを特徴とする物品。」
に訂正する。
また、請求項1の記載を引用する請求項2~8も同様に訂正をする。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項9に
「5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片と、酸性剤と、並びに、抗微生物剤、抗真菌剤、柔軟剤、撥水剤、撥油剤、染料、難燃剤、生地軟化剤、pH調整剤、抗クロッキング剤、抗ピリング剤、抗フェルティング剤、及びこれらの組合せからなる群から選択される化学剤と、を含む絹フィブロイン溶液で前記材料の表面をコーティングすること」
と記載されているのを、
「5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片と、酸性剤と、柔軟剤からなる化学剤と、を含む絹フィブロイン溶液で前記材料の表面をコーティングすること」
に訂正する。
また、請求項9の記載を引用する請求項10~18も同様に訂正をする。
(3)一群の請求項
本件訂正前の請求項2~8、及び、請求項10~18は、それぞれ、訂正事項1に係る本件訂正前の請求項1、訂正事項2に係る請求項9を直接又は間接的に引用しているところ、本件訂正前の請求項1~8、及び、請求項9~18は、それぞれ一群の請求項であり、訂正事項の訂正は、当該一群の請求項〔1~8〕、〔9~18〕に対して請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項のうち、請求項1についての訂正は、「抗微生物剤、抗真菌剤、柔軟剤、撥水剤、撥油剤、染料、難燃剤、生地軟化剤、pH調整剤、抗クロッキング剤、抗ピリング剤、抗フェルティング剤、及びこれらの組合せからなる群から選択される化学剤」であったところ、訂正後には「柔軟剤からなる化学剤」とするものであって、「化学剤」をより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項のうち、請求項2~8についての訂正は、訂正後の請求項1に記載された「柔軟剤からなる化学剤」の記載を引用することにより、訂正後の請求項2~8に係る発明をより狭い範囲に限定するものであることから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「抗微生物剤、抗真菌剤、柔軟剤、撥水剤、撥油剤、染料、難燃剤、生地軟化剤、pH調整剤、抗クロッキング剤、抗ピリング剤、抗フェルティング剤、及びこれらの組合せからなる群から選択される化学剤」について、「抗微生物剤、抗真菌剤、柔軟剤、撥水剤、撥油剤、染料、難燃剤、生地軟化剤、pH調整剤、抗クロッキング剤、抗ピリング剤、抗フェルティング剤、及びこれらの組合せからなる群から選択される」との事項を、「柔軟剤からなる」との事項に訂正するものであり、上記「化学剤」の選択肢を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、訂正事項1は、選択肢を減らすものであるから、新規事項を追加するものではないのも明らかである。
してみれば、訂正事項1に関し、化学剤について「柔軟剤からなる化学剤」とすることは、特許明細書等に記載された事項の範囲内のものであり、新規事項を追加するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、発明特定事項をより限定するものであり、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項のうち、請求項9についての訂正は、「抗微生物剤、抗真菌剤、柔軟剤、撥水剤、撥油剤、染料、難燃剤、生地軟化剤、pH調整剤、抗クロッキング剤、抗ピリング剤、抗フェルティング剤、及びこれらの組合せからなる群から選択される化学剤」であったところ、訂正後には「柔軟剤からなる化学剤」とするものであって、「化学剤」をより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項のうち、請求項10~18についての訂正は、訂正後の請求項9に記載された「柔軟剤からなる化学剤」の記載を引用することにより、訂正後の請求項10~18に係る発明をより狭い範囲に限定するものであることから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無
訂正事項2は、訂正前の請求項9の「抗微生物剤、抗真菌剤、柔軟剤、撥水剤、撥油剤、染料、難燃剤、生地軟化剤、pH調整剤、抗クロッキング剤、抗ピリング剤、抗フェルティング剤、及びこれらの組合せからなる群から選択される化学剤」について、「抗微生物剤、抗真菌剤、柔軟剤、撥水剤、撥油剤、染料、難燃剤、生地軟化剤、pH調整剤、抗クロッキング剤、抗ピリング剤、抗フェルティング剤、及びこれらの組合せからなる群から選択される」との事項を、「柔軟剤からなる」との事項に訂正するものであり、上記「化学剤」の選択肢を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
そして、訂正事項2は、選択肢を減らすものであるから、新規事項を追加するものではないのも明らかである。
してみれば、訂正事項2に関し、化学剤について「柔軟剤からなる化学剤」とすることは、特許明細書等に記載された事項の範囲内のものであり、新規事項を追加するものではない。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、発明特定事項をより限定するものであり、カテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、同法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とする訂正事項1により訂正される請求項4、及び、訂正事項2により訂正される請求項13、14及び18については、特許異議の申立てがされていない請求項であることから同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項に規定される独立特許要件が課されるが、訂正後の請求項4、13、14及び18について、特許要件の適否について見直すべき新たな事項は存在せず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとする理由は見当たらない。
よって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕、〔9~18〕について、訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で説示したように本件訂正請求は認められるから、本件訂正後の請求項1~3、5~12、15~17に係る発明(以下「本件発明1」等といい、また「本件発明」ということもある。)は、特許請求の範囲の請求項1~3、5~12、15~17に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
材料とコーティングを含む物品であって、
前記材料が、繊維、糸、紡績糸、又は革を含み、
前記コーティングが、5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片と、酸性剤と、柔軟剤からなる化学剤と、
を含むことを特徴とする物品。
【請求項2】
前記絹のタンパク質又はその断片が、低分子量絹フィブロイン、中分子量絹フィブロイン、高分子量絹フィブロイン、又はこれらの組合せを含む請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記絹ベースのタンパク質又はその断片が、5kDa~10kDa、6kDa~16kDa、17kDa~38kDa、39kDa~80kDa、60kDa~100kDa、及び80kDa~144kDaからなる群から選択される平均の重量平均分子量範囲を有する請求項1に記載の物品。」
「【請求項5】
前記材料が、生地(fabric)、テキスタイル(textile)、織布材料(woven material)、不織布材料(non-woven material)、ニット材料、クローシェ材料、天然の革、合成の革、又はこれらの組合せを含む請求項1から4のいずれかに記載の物品。
【請求項6】
前記材料が、ポリエステル、ポリアミド、ポリアラミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリウレタンとポリエチレングリコールとの混合物、超高分子量ポリエチレン、ナイロン、ポリエステル-ポリウレタンコポリマー、スパンデックス、綿、アルパカフリース、アルパカウール、ラマフリース、ラマウール、カシミア、ヒツジフリース、ヒツジウール、なめし革、セーム革(chamois leather)、パテント革、バケッタ革(vachetta leather)、ヌバック革(nubuck leather)、ローハイド革(rawhide leather)、スプリット革(split leather)、フルグレイン革(full-grain leather)、トップグレイン革(top-grain leather)、コレクトグレイン革(corrected-grain leather)、通気性の擬革(poromeric imitation leather)、ビニル及び/又はポリアミドフェルト繊維、ポリウレタン合成皮革(polyurethane synthetic leather)、ポリ塩化ビニル合成皮革(polyvinyl chloride synthetic leather)、ポリエチレン皮革(polyethylene leather)、ポリプロピレン皮革(polypropylene leather)、酢酸ビニルコポリマー合成皮革(vinyl acetate copolymer synthetic leather)、ポリアミド合成皮革(polyamide synthetic leather)、ポリエステル合成皮革(polyester synthetic leather)、及びマイクロファイバーの1つ以上を含む請求項1から5のいずれかに記載の物品。
【請求項7】
前記コーティングが、前記繊維、前記糸、又は前記紡績糸レベルで適用される請求項1から6のいずれかに記載の物品。
【請求項8】
前記コーティングが、生地、織布材料(woven material)、不織布材料(non-woven material)、ニット材料、クローシェ材料、天然の革、又は合成の革レベルで適用される請求項1から6のいずれかに記載の物品。
【請求項9】
絹ベースのタンパク質又はその断片を含む組成物で材料をコーティングして、絹フィブロインコーティングされた材料を提供する方法であって、
前記方法は、
5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片と、5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片と、酸性剤と、柔軟剤からなる化学剤と、を含む絹フィブロイン溶液で前記材料の表面をコーティングすることと、
前記絹フィブロイン溶液でコーティングされた前記材料の前記表面を乾燥し、前記絹フィブロインコーティングされた材料を提供することと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記絹フィブロイン溶液が、低分子量絹フィブロイン、中分子量絹フィブロイン、高分子量絹フィブロイン、及びこれらの組合せの1つ以上の濃度を含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記絹フィブロイン溶液が、5kDa~10kDa、6kDa~16kDa、17kDa~38kDa、39kDa~80kDa、60kDa~100kDa、及び80kDa~144kDaからなる群から選択される平均の重量平均分子量範囲を有する絹ベースのタンパク質又はその断片を含む請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記材料の前記表面を乾燥することが、絹フィブロインコーティング性能を実質的に変化させることなく、前記材料の前記表面を加熱することを含む請求項9から11のいずれかに記載の方法。」
「【請求項15】
前記材料が、繊維、糸、紡績糸、生地(fabric)、テキスタイル(textile)、織布材料(woven material)、不織布材料(non-woven material)、ニット材料、クローシェ材料、天然の革、及び合成の革の1つ以上を含む請求項9から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記材料が、ポリエステル、ポリアミド、ポリアラミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリウレタンとポリエチレングリコールとの混合物、超高分子量ポリエチレン、ナイロン、ポリエステル-ポリウレタンコポリマー、スパンデックス、綿、アルパカフリース、アルパカウール、ラマフリース、ラマウール、カシミア、ヒツジフリース、ヒツジウール、なめし革、セーム革(chamois leather)、パテント革、バケッタ革(vachetta leather)、ヌバック革(nubuck leather)、ローハイド革(rawhide leather)、スプリット革(split leather)、フルグレイン革(full-grain leather)、トップグレイン革(top-grain leather)、コレクトグレイン革(corrected-grain leather)、通気性の擬革(poromeric imitation leather)、ビニル及び/又はポリアミドフェルト繊維、ポリウレタン合成皮革(polyurethane synthetic leather)、ポリ塩化ビニル合成皮革(polyvinyl chloride synthetic leather)、ポリエチレン皮革(polyethylene leather)、ポリプロピレン皮革(polypropylene leather)、酢酸ビニルコポリマー合成皮革(vinyl acetate copolymer synthetic leather)、ポリアミド合成皮革(polyamide synthetic leather)、ポリエステル合成皮革(polyester synthetic leather)、及びマイクロファイバーの1つ以上を含む請求項9から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記化学剤が、材料の第1の選択された性質、第2の選択された性質、又は第3の選択された性質の1つ以上を改善するように選択され、
前記第1の選択された性質が、抗微生物性、撥水性、撥油性、難燃性、着色性、生地軟化性、耐しみ性(stain repellant property)、pH調整性、抗クロッキング性、抗ピリング性、及び抗フェルティング性のうちの1つ以上を含み、
前記第2の選択された性質が、湿潤時間、吸収率、広がり速度(spreading speed)、累積一方向輸送(accumulative one-way transport)、及び総合水分マネジメント能力(overall moisture management capability)のうちの1つ以上を含み、
前記第3の選択された性質が、生地風合い、生地の伸長、及びドレープ性のうちの1つ以上を含む請求項9から16のいずれかに記載の方法。」
第4 取消理由について
1 取消理由の概要
取消理由通知で通知した取消理由の要旨は次のとおりである。
取消理由1-1(甲第1号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1~3、5~12及び15~17に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その発明に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
取消理由1-2(甲第2-1号証に基づく新規性)
本件特許の請求項1~3、5~8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2-1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その発明に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
取消理由2-1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~3、5~12及び15~17に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
取消理由2-2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1~3、5~8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
<引用文献等一覧>
甲第1号証:特表2013-512773号公報
甲第2号証:特表2016-531943号公報
甲第2-1号証:国際公開第2015/048805号
甲第3号証:「シルクポリペプチドC16の分子量の計算結果」と題する文書
甲第4号証:「シルクポリペプチドC32の分子量の計算結果」と題する文書
甲第5号証:「シルクポリペプチドC6の分子量の計算結果」と題する文書
以下、「甲第1号証」を「甲1」という。他の甲各号証についても、同様である。
2 申立理由についての判断
(1)証拠の記載事項等
ア 甲1に記載された発明
甲1の、特に、【0176】の実施例IIIに着目すると、甲1には以下の発明(以下、それぞれ「甲1物発明」、「甲1方法発明」という。)が記載されている。
<甲1物発明>
「単一のアラミド繊維を2wt%/volのスパイダーシルクポリペプチドC16と塩化銅又は塩化コバルトとを含有するギ酸中で室温(25℃)で5秒間インキュベートし、溶液槽から取り出し、溶媒を蒸発させた後、塩化コバルト又は塩化銅がスパイダーシルクポリペプチドC16でコーティングされたアラミド繊維の周りに色のついた膜を形成したもの。」
<甲1方法発明>
「単一のアラミド繊維を2wt%/volのスパイダーシルクポリペプチドC16と塩化銅又は塩化コバルトとを含有するギ酸中で室温(25℃)で5秒間インキュベートし、溶液槽から取り出し、溶媒を蒸発させた後、塩化コバルト又は塩化銅がスパイダーシルクポリペプチドC16でコーティングされたアラミド繊維の周りに色のついた膜を形成する方法。」
イ 甲2-1に記載された発明
甲2-1の、特に、CLAIMS1、13及び17並びに明細書第14頁第11行~同第15頁第7行(甲2の【特許請求の範囲】【請求項1】、【請求項13】及び【請求項17】並びに段落【0019】参照)の記載に着目すると、甲2-1には以下の発明(以下、「甲2-1物発明」という。)が記載されている。なお、当審は、甲2の上述した箇所の記載を甲2-1の日本語訳として採用した。
<甲2-1物発明>
「セリシンを実質的に欠いている純粋な絹フィブロインベースのタンパク質断片を含む組成物であって、
約17kDa~約38kDaの範囲の平均の重量平均分子量を有し、
約1.5~約3.0の範囲の多分散性を有し、
実質的に均一であり、
0ppm~約500ppmの無機残渣を含み、
0ppm~約500ppmの有機残渣を含み、
治療剤、成長因子、酸化防止剤、タンパク質、ビタミン、炭水化物、ポリマー、核酸、塩、酸、塩基、生体分子、グリコサミノグリカン、多糖、細胞外マトリックス分子、金属、金属イオン、金属酸化物、合成分子、ポリ酸無水物、細胞、脂肪酸、香料、鉱物、植物、植物抽出物、保存剤及び精油からなる群から選択される1つ又は複数の分子を更に含み、
グリコール酸、乳酸、酒石酸及びクエン酸からなる群から選択されるαヒドロキシ酸を更に含む組成物が使用された繊維。」
<甲2-1方法発明>
「セリシンを実質的に欠いている純粋な絹フィブロインベースのタンパク質断片で絹フィブロインコーティングされた繊維を提供する方法であって、
前記方法は、
5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片(約17kDa~約38kDaの範囲の平均の重量平均分子量を有し、約1.5~約3.0の範囲の多分散性を有」する「セリシンを実質的に欠いている純粋な絹フィブロインベースのタンパク質断片)と、酸性剤(グリコール酸、乳酸、酒石酸及びクエン酸からなる群から選択されるαヒドロキシ酸)と、並びに、柔軟剤からなる化学剤(治療剤、成長因子、酸化防止剤、タンパク質、ビタミン、炭水化物、ポリマー、核酸、塩、酸、塩基、生体分子、グリコサミノグリカン、多糖、細胞外マトリックス分子、金属、金属イオン、金属酸化物、合成分子、ポリ酸無水物、細胞、脂肪酸、香料、鉱物、植物、植物抽出物、保存剤及び精油からなる群から選択される1つ又は複数の分子」のうち少なくとも「ビタミン」)と、を含む絹フィブロイン溶液で前記材料の表面をコーティングすること(繊維)と、
前記絹フィブロイン溶液でコーティングされた前記材料(繊維)の前記表面を乾燥し、前記絹フィブロインコーティングされた材料を提供することと、を含む方法。」
ウ 甲3~甲5に記載された事項
甲3~甲5には、ウエブサイトExPASy(https//www,expasy,org)が提供する「Compute pI/Mw tool」を使用したシルクポリペプチドC16、C32、C6の理論的分子量の計算結果が示されている。
(2)甲1に記載された発明に基づく新規性、進歩性について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1物発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲1物発明の「単一のアラミド繊維」は、本件発明1の「材料」に相当し、アラミド繊維は「繊維」であるから、甲1物発明は、本件発明1の「材料が、繊維、糸、紡績糸、又は革を含み」を満足している。
また、甲1物発明の「色のついた膜」は、本件発明1の「コーティング」に相当する。更に、甲1物発明の「ギ酸」は、本件発明1の「酸性剤」に相当する。加えて、甲1物発明の「スパイダーシルクペプチドC16」は、甲3の記載及びタンパク質単体は単分散に近いとの当業者の技術常識から、本件発明1の「5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片」を満足している。
コーティングにおける甲1物発明の「塩化銅又は塩化コバルト」と、本件発明1の「柔軟剤からなる化学剤とは、「化学剤」の限りにおいて一致する。
以上を総合すると、本件発明1と甲1物発明との一致点及び相違点は、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「材料とコーティングを含む物品であって、
前記材料が、繊維、糸、紡績糸、又は革を含み、
前記コーティングが、5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片と、酸性剤と、化学剤と、
を含む物品。」
<相違点1>
「化学剤」に関して、本件発明1では「柔軟剤」であるのに対し、甲1物発明では「色のついた膜を形成」する「塩化銅又は塩化コバルト」である点。
(イ)判断
上記相違点1について検討する。
甲1の他の実施例を参照しても、また、甲2-1及び甲3を参照しても、甲1物発明における「色のついた膜を形成」する「塩化銅又は塩化コバルト」を「柔軟剤」として用いる点や、コーティングに「柔軟剤」を含有することについては、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1物発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明1は甲1物発明ではなく、本件発明1は甲1物発明及び甲2-1、甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2、3、5~8について
本件発明2、3、5~8は、本件発明1の発明特定事項に、さらに限定を加えるものであるところ、本件発明1は甲1物発明ではなく、また、甲1物発明及び甲2-1、甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、3、5~8は甲1物発明ではなく、また、本件発明2、3、5~8は甲1物発明及び甲2-1、甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明9について
(ア)対比
本件発明9と甲1方法発明とを対比する。
甲1方法発明の「単一のアラミド繊維」は、本件発明9の「材料」に相当する。
また、甲1方法発明の「色のついた膜」は、本件発明9の「コーティング」に相当する。
更に、スパイダーシルクポリペプチドC16は絹フィブロンといえるから、甲1方法発明の「2wt%/volのスパイダーシルクポリペプチドC16と塩化銅又は塩化コバルトとを含有するギ酸」は、本件発明9の「絹フィブロン溶液」に相当する。そして、当該絹フィブロン溶液における甲1方法発明の「ギ酸」は、本件発明9の「酸性剤」に相当するとともに、甲1方法発明の「スパイダーシルクペプチドC16」は、甲3の記載及びタンパク質単体は単分散に近いとの当業者の技術常識から、本件発明9の「5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片」を満足していることから「組成物」に相当する。
甲1方法発明の「溶液槽から取り出し、溶媒を蒸発させ」る工程は、本件発明9の「前記絹フィブロイン溶液でコーティングされた前記材料の前記表面を乾燥」する工程に相当する。
甲1方法発明の「塩化銅又は塩化コバルト」と、本件発明9の「柔軟剤からなる化学剤」とは、「化学剤」の限りにおいて一致する。
以上を総合すると、本件発明9と甲1方法発明との一致点及び相違点は、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「絹ベースのタンパク質又はその断片を含む組成物で材料をコーティングして、絹フィブロインコーティングされた材料を提供する方法であって、
前記方法は、
5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片と、酸性剤と、化学剤と、を含む絹フィブロイン溶液で前記材料の表面をコーティングすることと、
前記絹フィブロイン溶液でコーティングされた前記材料の前記表面を乾燥し、前記絹フィブロインコーティングされた材料を提供することと、を含むことを特徴とする方法。」
<相違点2>
「化学剤」に関して、本件発明9では「柔軟剤」であるのに対し、甲1方法発明では「色のついた膜を形成」する「塩化銅又は塩化コバルト」である点。
(イ)判断
上記相違点2について検討する。
甲1の他の実施例を参照しても、また、甲2-1及び甲3を参照しても、甲1方法発明における「色のついた膜を形成」する「塩化銅又は塩化コバルト」を「柔軟剤」として用いる点や、コーティングに「柔軟剤」を含有することについては、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1方法発明において、相違点2に係る本件発明9の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明9は甲1方法発明ではなく、本件発明9は甲1方法発明及び甲2-1、甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明10~12、15~17について
本件発明10~12、15~17は、本件発明9の発明特定事項に、さらに限定を加えるものであるところ、本件発明9は甲1物発明ではなく、また、甲1方法発明及び甲2-1、甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明10~12、15~17は甲1方法発明ではなく、また、本件発明10~12、15~17は甲1方法発明及び甲2-1、甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)甲2-1物発明に基づく新規性、進歩性について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2-1物発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
甲2-1物発明の「セリシンを実質的に欠いている純粋な絹フィブロインベースのタンパク質断片」は、本件発明1の「コーティング」に相当する。
また、甲2-1物発明の「グリコール酸、乳酸、酒石酸及びクエン酸からなる群から選択されるαヒドロキシ酸」は、本件発明1の「酸性剤」に相当する。
加えて、甲2-1物発明の「約17kDa~約38kDaの範囲の平均の重量平均分子量を有し、約1.5~約3.0の範囲の多分散性を有」する「セリシンを実質的に欠いている純粋な絹フィブロインベースのタンパク質断片」は、本件発明1の「5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片」を満足している。
なお、甲2-1物発明の「繊維」は、「材料」及び「コーティング」を構成しているといえる。
甲2-1物発明の「組成物」における甲2-1物発明の「治療剤、成長因子、酸化防止剤、タンパク質、ビタミン、炭水化物、ポリマー、核酸、塩、酸、塩基、生体分子、グリコサミノグリカン、多糖、細胞外マトリックス分子、金属、金属イオン、金属酸化物、合成分子、ポリ酸無水物、細胞、脂肪酸、香料、鉱物、植物、植物抽出物、保存剤及び精油からなる群から選択される1つ又は複数の分子」のうち少なくとも「ビタミン」と、本件発明1の「柔軟剤からなる化学剤」とは、「化学剤」の限りにおいて一致する。
以上を総合すると、本件発明1と甲2-1物発明との一致点及び相違点は、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「材料とコーティングを含む物品であって、
前記材料が、繊維、糸、紡績糸、又は革を含み、
前記コーティングが、5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片と、酸性剤と、化学剤と、
を含む物品。」
<相違点3>
「化学剤」に関して、本件発明1では「柔軟剤」であるのに対し、甲2-1物発明では少なくとも「ビタミン」である点。
(イ)判断
上記相違点3について検討する。
甲2-1の他の実施例を参照しても、また、甲1、甲3を参照しても、甲2-1物発明における「ビタミン」を「柔軟剤」として用いる点や、コーティングに「柔軟剤」を含有することについては、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2-1物発明において、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明1は甲2-1物発明ではなく、本件発明1は甲2-1物発明及び甲1、甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2、3、5~8について
本件発明2、3、5~8は、本件発明1の発明特定事項に、さらに限定を加えるものであるところ、本件発明1は甲2-1物発明ではなく、また、甲2-1物発明及び甲1、甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2、3、5~8は甲2-1物発明ではなく、また、本件発明2、3、5~8は甲2-1物発明及び甲1、甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立人の主張に対して
申立人は令和6年2月28日差出の意見書において、以下の主張をしている。
ア 申立人の主張
「化学剤が柔軟剤からなる」点について、甲1には、シルクポリペプチドコーティングが化学剤としてオイル(甲1の【請求項23】及び【0149】)を、また、甲2-1には、組成物またはフィルムが化学剤として精油(甲2の【請求項13】、【請求項30】)を、さらに含み得ることを開示しており、更に、オイルは一種の柔軟剤である旨、主張している。
イ 上記主張について
確かに、甲1にはオイルが、また、甲2-1には精油が、それぞれ開示されているものの、該オイル及び精油が柔軟剤としての機能を有していること、また、柔軟剤としての具体的な物質について、甲1、甲2-1には記載も示唆もされていない。
よって、上記主張は採用できない。
(5)小括
上記(2)、(3)で述べたとおり、本件訂正により、本件発明1~3、5~12及び15~17と甲第1号証に記載された発明とは同一ではなくなり、また、本件特許の請求項1~3、5~8に係る発明と甲第2号証に記載された発明とは同一ではなくなったため、上記取消理由1-1、1-2については、解消した。
また、本件訂正により、本件特許の請求項1~3、5~12及び15~17に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなくなり、また、本件特許の請求項1~3、5~8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではなくなったため、上記取消理由2-1、2-2については、解消した。
第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由
(1)甲2-1方法発明に基づく進歩性について
本件発明9~12及び15~17は、甲第2号証に記載された発明、甲1号証記載の技術事項及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)進歩性に係る申立理由についての判断
ア 本件発明9について
(ア)対比
本件発明9と甲2-1方法発明とを対比する。
甲2-1方法発明の「セリシンを実質的に欠いている純粋な絹フィブロインベースのタンパク質断片」は、本件発明9の「絹ベースのタンパク質又はその断片を含む組成物」に相当する。
また、甲2-1方法発明の「組成物」における「治療剤、成長因子、酸化防止剤、タンパク質、ビタミン、炭水化物、ポリマー、核酸、塩、酸、塩基、生体分子、グリコサミノグリカン、多糖、細胞外マトリックス分子、金属、金属イオン、金属酸化物、合成分子、ポリ酸無水物、細胞、脂肪酸、香料、鉱物、植物、植物抽出物、保存剤及び精油からなる群から選択される1つ又は複数の分子」のうち少なくとも「ビタミン」は、本件発明9の「化学剤」に相当し、更に、甲2-1方法発明の「グリコール酸、乳酸、酒石酸及びクエン酸からなる群から選択されるαヒドロキシ酸」は、本件発明9の「酸性剤」に相当する。
加えて、甲2-1方法発明の「約17kDa~約38kDaの範囲の平均の重量平均分子量を有し、約1.5~約3.0の範囲の多分散性を有」する「セリシンを実質的に欠いている純粋な絹フィブロインベースのタンパク質断片」は、本件発明9の「5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片」を満足している。
なお、甲2-1方法発明の「繊維」は、「材料」及び「コーティング」を構成しているといえる。
甲2-1方法発明の「組成物」における「治療剤、成長因子、酸化防止剤、タンパク質、ビタミン、炭水化物、ポリマー、核酸、塩、酸、塩基、生体分子、グリコサミノグリカン、多糖、細胞外マトリックス分子、金属、金属イオン、金属酸化物、合成分子、ポリ酸無水物、細胞、脂肪酸、香料、鉱物、植物、植物抽出物、保存剤及び精油からなる群から選択される1つ又は複数の分子」のうち少なくとも「ビタミン」と、本件発明9の「柔軟剤からなる化学剤」とは、「化学剤」の限りにおいて一致する。
以上を総合すると、本件発明9と甲2-1方法発明との一致点及び相違点は、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「絹ベースのタンパク質又はその断片を含む組成物で材料をコーティングして、絹フィブロインコーティングされた材料を提供する方法であって、
前記方法は、
5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片と、5kDa~144kDaの重量平均分子量範囲、及び1.0~5.0の多分散性の範囲を有する絹のタンパク質又はその断片と、酸性剤と、化学剤で前記材料の表面をコーティングすることと、を含む方法。」
<相違点4>
「化学剤」に関して、本件発明9では「柔軟剤」であるのに対し、甲2-1方法発明では少なくとも「ビタミン」である点。
<相違点5>
本件発明9では、「絹フィブロイン溶液で材料の表面をコーティング」し「前記絹フィブロイン溶液でコーティングされた前記材料の前記表面を乾燥し、前記絹フィブロインコーティングされた材料を提供する」のに対し、甲2-1方法発明では、その点について明らかでない点。
(イ)判断
事案に鑑み、上記相違点4について検討する。
甲2-1の他の実施例を参照しても、また、甲1、甲3を参照しても、甲2-1方法発明における「ビタミン」を「柔軟剤」として用いる点や、コーティングに「柔軟剤」を含有することについては、記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2-1方法発明において、相違点4に係る本件発明9の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明9は、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明9は甲2-1方法発明及び甲1、甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明10~12、15~17について
本件発明10~12、15~17は、本件発明9の発明特定事項に、さらに限定を加えるものであるところ、本件発明9は甲2-1方法発明及び甲1、甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明10~12、15~17は甲2-1方法発明及び甲1、甲3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~3、5~12、15~17に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1~3、5~12、15~17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり、決定する。
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2023-700495