特許異議申立
2023-701270
炭素含有量が規定されたフィラーワイヤを準備して溶接鋼ブランクを製造する方法、関連する溶接ブランク、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品並びに関連する部品を用いて溶接部品を製造する方法
- 審判番号
- 2023-701270
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-052923
- 登録番号
- 7286833
- 請求日
- 2023年12月04日
- 審決日
- 2024年12月13日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アルセロールミタル
- 【権利者代理人】弁理士法人川口國際特許事務所
- 【異議申立人】足立 幸子
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 相澤 啓祐
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.113-YAA(C22C) / P1651.121-YAA(C22C) / P1651.537-YAA(C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7286833号発明「炭素含有量が規定されたフィラーワイヤを準備して溶接鋼ブランクを製造する方法、関連する溶接ブランク、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品並びに関連する部品を用いて溶接部品を製造する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7286833号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕、15について訂正することを認める。
特許第7286833号の請求項1~24に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7286833号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~24に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2018年(平成30年)11月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2017年(平成29年)11月24日 国際事務局(IB))を国際出願日とする特願2020-528247号の一部を令和 4年 3月29日に新たな特許出願(特願2022-52923号)としたものであって、令和 5年 5月26日にその特許権の設定登録がされ、同年 6月 5日に特許掲載公報が発行されたものである。
本件は、その後、同年12月 4日に特許異議申立人である足立 幸子(以下、「申立人」という。)により請求項1~24(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件であり、その後の経緯は以下のとおりである。
令和 6年 3月29日付け 取消理由通知書
同年 6月27日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 7月23日付け 手続補正指令書(方式)
同年 8月 5日提出 手続補正書(方式)(特許権者)
なお、令和 6年 6月27日に提出され、同年 8月 5日提出の手続補正書(方式)によって補正された訂正請求書により特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の第2の1(1)~(4)に示すとおり、軽微なものであるから、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された「特別の事情があるとき」に該当し、申立人に意見書を提出する機会を与えないこととした。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正請求の請求の趣旨は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~15について訂正することを求めるものであり、本件訂正の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「3676.9Si」と記載されているのを、「3676.9xSi」に訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~14についても、同様に訂正する。
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項12に「請求項1」と記載されているのを、「請求項11」に訂正する。
請求項12を直接又は間接的に引用する請求項13、14についても、同様に訂正する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項15に「3676.9Si」と記載されているのを、「3676.9xSi」に訂正する。
(4)訂正事項4
本件訂正前の明細書の段落【0026】及び【0033】にそれぞれに「3676.9Si」と記載されているのを、「3676.9xSi」に訂正する。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
ア 訂正事項1、3、4
(ア)訂正の目的
訂正事項1、3、4に係る訂正は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、15並びに本件明細書(本願の願書に添付した明細書)の段落【0026】及び【0033】にそれぞれ記載の「3676.9Si」を、式FA中の他の項と同様に「3676.9xSi」に変更するものであって、特許請求の範囲の請求項16及び明細書の段落【0103】の記載に照らして、訂正前の「3676.9Si」との記載が誤りで訂正後の「3676.9xSi」との記載が正しいことが、本件訂正前の明細書若しくは特許請求の範囲の記載又は当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の技術常識から明らかで、当業者であればそのことに気づいて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるといえるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項1、3、4に係る訂正は、上記(ア)で述べたとおり、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(ウ)新規事項追加の有無
本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「出願当初明細書等」という。)における「3676.9Si」についても、上記(ア)で述べたのと同様の理由により、「3676.9Si」との記載が誤りで訂正後の「3676.9xSi」との記載が正しいことが、出願当初明細書等の記載又は当業者の技術常識から明らかであるから、訂正事項1、3、4に係る訂正は、出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
イ 訂正事項2
(ア)訂正の目的
訂正事項2に係る訂正は、請求項1を引用する本件訂正前の請求項12に記載の「前記保護ガス」が何を指し示すのか不明であるとの不明瞭な状態を解消するために、請求項12において引用する請求項を、請求項1から、「保護ガス」の記載がある請求項11に変更するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
(イ)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正事項2に係る訂正は、上記(ア)で述べたとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、請求項12において引用する請求項を、請求項1から、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項11に変更するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(ウ)新規事項追加の有無
本件明細書の【0028】には、「溶接が、保護ガス、特にヘリウム及び/又はアルゴンを使用して実施される。」と記載されているから、訂正事項2に係る訂正は、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(2)独立特許要件について
本件は、本件訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~4について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~14について、本件訂正前の請求項2~14は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1による請求項1の訂正に連動して訂正されるものである。
また、本件訂正前の請求項12~14について、本件訂正前の請求項13、14は、それぞれ請求項1~12を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項2による請求項12の訂正にも連動して訂正されるものである。
したがって、本件訂正前の請求項1~14は一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項〔1~14〕と単一の請求項15についてするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1~14〕、15を訂正単位とする訂正を請求するものである。
(4)明細書の訂正に関係する請求項
訂正事項4に係る訂正は、本件訂正前の請求項1に対応する明細書の段落【0026】と、本件訂正前の請求項15に対応する明細書の段落【0033】とをそれぞれ訂正するものであり、本件訂正前の請求項2~14は、それぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正事項4と関係する請求項は、本件訂正前の請求項1~15である。
そうすると、本件訂正請求は、上記(3)で述べたとおり、訂正事項4と関係する請求項の全てを請求の対象としているから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。
3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕、15について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1~24に係る発明は、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1~24に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
なお、以下において、請求項1~24に係る発明をそれぞれ「本件発明1」~「本件発明24」という。
「【請求項1】
溶接鋼ブランク(1)の製造方法であって、以下の連続工程:
- 2枚のプレコート板(2)を準備する工程であって、鋼基材(3)を含む各プレコート板(2)が、その主面(4)の少なくとも1つにプレコーティング(5)を有し、前記プレコーティング(5)が、少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層(9)、並びに任意で前記金属間合金層(9)の上に延伸する金属合金層(11)を含み、前記金属合金層(11)が、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層であり、前記基材(3)が、プレス硬化性鋼でできており、且つ0.8mm~5mmの間の厚さを有し、前記プレコート板(2)の少なくとも1枚について、前記基材(3)の鋼が、重量で
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である工程、
- フィラーワイヤ(20)を使用して前記プレコート板(2)を突合せ溶接して、前記プレコート板(2)間の接合部に溶接継手(22)を形成する工程であって、突合せ溶接時に前記プレコーティング(5)が、各プレコート板(2)の少なくとも1つの主面(4)の全体を被覆している工程
を含み、
- 前記フィラーワイヤ(20)が、0.01wt%~0.45wt%の間(基準C1)の炭素含有量を有すること、
- 前記フィラーワイヤ(20)の組成及び溶接プールに添加される前記フィラーワイヤ(20)の割合を、得られた前記溶接継手(22)が、以下の特徴:
(a)前記溶接継手(22)の焼入れ係数FTWJが、
【数1】
[図:0001421342000001.jpg]
(基準C2)であり、
式中、
- FTBMが、前記2枚のプレコート板(2)の前記鋼基材(3)のうち、最も硬化性の低い鋼基材(3)の前記焼入れ係数であり、
- 前記焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、次の式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi2-1532xC2-5xMn2-127xSi2-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は前記溶接継手(22)であり、FTBMの場合は最も硬化性の低い基材であることと、
(b)前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが0.15wt%以上の場合、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000(基準C3)、ここで、前記溶接継手(22)の前記軟化係数FAWJが、前記溶接継手(22)のアルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9xSi-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMn
を使用して計算されることと
を有するように選択することを特徴とする、
製造方法。
【請求項2】
前記溶接継手(22)の重量パーセントでの炭素含有量CWJが、1.25xCBM(most hardenable)-CWJ≧0(基準C4)であり、式中、CBMが、前記2枚のプレコート板(2)の前記基材(3)のうち最も硬化性の高い(most hardenable)基材(3)の、重量パーセントでの炭素含有量である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶接継手(22)のニッケル含有量NiWJが、2.0wt%~11.0wt%の間(基準C5)である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
準備工程で準備される前記プレコート板(2)が、それらの主面(4)の両方にプレコーティング(5)を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
突合せ溶接時に、前記プレコーティング(5)が、前記プレコート板(2)の少なくとも1枚の両方の主面(4)に完全に残っている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
突合せ溶接の前に、前記溶接継手(22)に少なくとも部分的に組み込まれることが意図されている、前記プレコート板(2)の少なくとも1枚の溶接端部(14)を、ブラッシング、機械加工、面取り、べべリング及び/又は前記プレコーティング(5)の少なくとも一部の除去のうち、少なくとも1つの処理工程を使用して作製することをさらに含み、もって、前記作製が、前記プレコーティング(5)が、前記2枚のプレコート板(2)各々の少なくとも1つの主面(4)に完全に残るように実施される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶接工程が、レーザービームを使用して実施される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記プレコート板(2)の少なくとも1枚について、前記基材(3)の鋼が、重量で
0.15%≦C≦0.25%
0.8%≦Mn≦1.8%
0.1%≦Si≦0.35%
0.01%≦Cr≦0.5%
Ti≦0.1%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.005%
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記プレコート板(2)の1枚について、前記基材(3)の鋼が、重量で
0.040%≦C≦0.100%
0.80%≦Mn≦2.00%
Si≦0.30%
S≦0.005%
P≦0.030%
0.010%≦Al≦0.070%
0.015%≦Nb≦0.100%
Ti≦0.080%
N≦0.009%
Cu≦0.100%
Ni≦0.100%
Cr≦0.100%
Mo≦0.100%
Ca≦0.006%、
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記プレコート板(2)の1枚について、前記基材(3)の鋼が、重量で
0.24%≦C≦0.38%
0.40%≦Mn≦3%
0.10%≦Si≦0.70%
0.015%≦Al≦0.070%
0%≦Cr≦2%
0.25%≦Ni≦2%
0.015%≦Ti≦0.10%
0%≦Nb≦0.060%
0.0005%≦B≦0.0040%
0.003%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.005%
0.0001%≦P≦0.025%
を含み、
ここで、前記チタン及び窒素の含有量が、
Ti/N>3.42
の関係を満たし、
前記炭素、マンガン、クロム及びシリコンの含有量が、
【数2】
[図:0001421342000002.jpg]
の関係を満たし、
鋼が、任意選択的に
0.05%≦Mo≦0.65%
0.001%≦W≦0.30%%
0.0005%≦Ca≦0.005%
のうち1つ以上の元素を含み、
残部が、鉄及び生産から生じる不可避の不純物である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記溶接が、保護ガスを使用して実施される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記保護ガスが、ヘリウム及び/又はアルゴンである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
溶接され、その後熱間プレス成形及び冷却された鋼部品を製造する方法であって、以下の連続工程:
- 溶接鋼ブランク(1)を得るために、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法を実行する工程と、
- 前記プレコート板(2)の前記基材(3)に、完全なオーステナイト組織を得るように、前記溶接鋼ブランク(1)を加熱する工程と、
- 前記溶接鋼ブランク(1)をプレス工具内で熱間プレス成形して、鋼部品を得る工程と、
- 前記プレス工具内で前記鋼部品を冷却する工程と
を含み、
熱間プレス成形及び冷却の後、前記溶接継手全体の最大硬度変動ΔHV(WJ)が、前記溶接継手の平均硬度HVmean(WJ)の20%以下である、方法。
【請求項14】
前記冷却工程中、冷却速度が、前記プレコート板(2)の前記基材(3)の中で、最も硬化性の高いもののベイナイト又はマルテンサイト冷却速度以上である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
溶接鋼ブランク(1)であって、2枚のプレコート板(2)を含み、鋼基材(3)を含む各プレコート板(2)が、その主面(4)の少なくとも1つにプレコーティング(5)を有し、前記プレコーティング(5)が、少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層(9)、並びに任意で前記金属間合金層(9)の上に延伸する金属合金層(11)を含み、前記金属合金層(11)が、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層であり、前記基材(3)が、プレス硬化性鋼でできており、且つ0.8mm~5mmの間の厚さを有し、
前記プレコート板(2)の少なくとも1枚について、前記基材(3)の鋼が、重量で
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物であり、並びに
前記プレコート板(2)が、溶接継手(22)によって接合されており、前記溶接継手(22)が、
(a)前記溶接継手(22)の焼入れ係数FTWJが、
【数3】
[図:0001421342000003.jpg]
(基準C2)であり、
式中
- FTBMが、2枚の前記プレコート板(2)の前記鋼基材(3)のうち、硬化性が最も低い鋼基材(3)の焼入れ係数であり、
- 前記焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi2-1532xC2-5xMn2-127xSi2-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は前記溶接継手(22)であり、FTBMの場合は硬化性が最も低い基材であること、及び
(b)前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%以上の場合、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000(基準C3)となり、式中、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、アルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、前記溶接継手(22)中の、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9xSi-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMnを使用して計算されること、
並びに、前記溶接継手(22)が、熱間プレス成形及び冷却の後、前記溶接継手(22)全体の最大硬度変動ΔHV(WJ)が、前記溶接継手(22)の平均硬度HVmean(WJ)の20%以下であることを特徴とし、
前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、重量パーセントで、1.25xCBM(most hardenable)-CWJ≧0(基準C4)であり、式中、CBMが、前記2枚のプレコート板(2)の前記鋼基材(3)のうち、最も硬化性の高い鋼基材(3)の、重量パーセントでの炭素含有量である、及び/又は
前記溶接継手(22)のニッケル含有量NiWJが、2.0wt%~11.0wt%の間である(基準C5)、溶接鋼ブランク(1)。
【請求項16】
溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品であって、第1の被覆鋼部品部分及び第2の被覆鋼部品部分を含み、鋼基材(3)を含む各被覆鋼部品部分が、少なくとも鉄及びアルミニウムを含むコーティングをその主面の少なくとも1つに有し、前記基材(3)が、プレス硬化性鋼でできており、且つ0.8mm~5mmの間の厚さを有し、
前記第1及び第2の被覆鋼部品部分のうち、少なくとも1つの前記基材(3)の鋼が、重量で
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物であり、並びに
前記第1及び第2の被覆鋼部品部分が、溶接継手(22)によって接合されており、前記溶接継手(22)が、
(a)前記溶接継手(22)の焼入れ係数FTWJが、
【数4】
[図:0001421342000004.jpg]
(基準C2)であり、
式中、
- FTBMが、前記第1及び第2の被覆鋼部品部分の前記鋼基材(3)のうち、最も硬化性の低い鋼基材(3)の前記焼入れ係数であり、
- 前記焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi2-1532xC2-5xMn2-127xSi2-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は前記溶接継手(22)であり、FTBMの場合は硬化性が最も低い基材であること、及び
(b)前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%以上の場合は、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000であり(基準C3)、式中、前記溶接継手(22)の前記軟化係数FAWJが、前記溶接継手(22)のアルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9xSi-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMn
を使用して計算され、
並びに、前記溶接継手(22)全体の最大硬度変動ΔHV(WJ)が、前記溶接継手(22)の平均硬度HVmean(WJ)の20%以下である、
溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品。
【請求項17】
前記第1及び第2被覆鋼部品部分の熱影響部の硬度低下が、そこに隣接する母材と比較して8%以下である、請求項16に記載の溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品。
【請求項18】
前記溶接継手(22)での平均硬度HVmean(WJ)が、600HV以下である、請求項16及び17のいずれか一項に記載の溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品。
【請求項19】
前記溶接継手(22)の重量パーセントでの炭素含有量CWJが、1.25xCBM-CWJ≧0(基準C4)であり、式中、CBMが、前記第1及び第2被覆鋼部品部分の前記鋼基材(3)のうち、最も硬化性の高い鋼基材(3)の重量パーセントでの炭素含有量である、請求項16~18のいずれか一項に記載の溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品。
【請求項20】
前記溶接継手(22)のニッケル含有量NiWJが、2.0wt%~11.0wt%の間である(基準C5)、請求項16~19のいずれか一項に記載の溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品。
【請求項21】
前記第1及び第2被覆鋼部品部分のうち、1つの前記基材(3)の鋼が、重量で
0.15%≦C≦0.25%
0.8%≦Mn≦1.8%
0.1%≦Si≦0.35%
0.01%≦Cr≦0.5%
Ti≦0.1%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.005%
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である、請求項16~20のいずれか一項に記載の溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品。
【請求項22】
前記第1及び第2の被覆鋼部品部分のうち、1つの前記基材(3)の鋼が、重量で
0.040%≦C≦0.100%
0.80%≦Mn≦2.00%
Si≦0.30%
S≦0.005%
P≦0.030%
0.010%≦Al≦0.070%
0.015%≦Nb≦0.100%
Ti≦0.080%
N≦0.009%
Cu≦0.100%
Ni≦0.100%
Cr≦0.100%
Mo≦0.100%
Ca≦0.006%、
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である、請求項16~21のいずれか一項に記載の、溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品。
【請求項23】
前記第1及び第2の被覆鋼部品部分のうち、1つの前記基材(3)の鋼が、重量で、
0.24%≦C≦0.38%
0.40%≦Mn≦3%
0.10%≦Si≦0.70%
0.015%≦Al≦0.070%
0%≦Cr≦2%
0.25%≦Ni≦2%
0.015%≦Ti≦0.10%
0%≦Nb≦0.060%
0.0005%≦B≦0.0040%
0.003%≦N≦0.010%
0.0001%≦S≦0.005%
0.0001%≦P≦0.025%
を含み、
ここで、前記チタン及び窒素の含有量が
Ti/N>3.42
の関係を満たし、
前記炭素、マンガン、クロム及びシリコンの含有量が、
【数5】
[図:0001421342000005.jpg]
の関係を満たし、
前記鋼が、任意選択的に
0.05%≦Mo≦0.65%
0.001%≦W≦0.30%%
0.0005%≦Ca≦0.005%
のうち1つ以上の元素を含み、
残部が、鉄及び生産から必然的に生じる不純物である、請求項16~21のいずれか一項に記載の、溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品。
【請求項24】
自動車用の侵入防止部品又はエネルギー吸収部品を製造するための、請求項16~23のいずれか一項に記載の、溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品の使用。」
第4 申立理由及び取消理由の概要
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に公知となった以下の(9)に示す甲第1号証~甲第13号証(以下、「甲1」~甲13」という。)を提出し、以下の申立理由1~8により、本件訂正前の請求項1~24に係る特許を取り消すべきである旨主張している。
(1)申立理由1(新規性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~5、7~9、11~22、24に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(新規性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2、4~14、16~19、21~24に係る発明は、甲5に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(新規性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1、2、4~14、16~19、21~24に係る発明は、甲6に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(進歩性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~24に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、又は甲1に記載された発明に甲2~4に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(進歩性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~24に係る発明は、甲5に記載された発明に基いて、又は甲5に記載された発明に甲1~4、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)申立理由6(進歩性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~24に係る発明は、甲6に記載された発明に基いて、又は甲6に記載された発明に甲1~5、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(7)申立理由7(進歩性、取消理由として不採用)
本件訂正前の請求項1~12、15~24に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて、又は甲2に記載された発明に甲1、3、4、11、12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(8)申立理由8(明確性要件、取消理由として採用)
本件訂正前の請求項12には、「前記保護ガスが、ヘリウム及び/又はアルゴンである、請求項1に記載の方法。」と記載されており、当該請求項12は請求項1を引用するところ、請求項1には、「保護ガス」という記載がないため、当該請求項12の記載において、「前記保護ガス」が何を指し示すのか不明である。
よって、本件訂正前の請求項12及びこれを直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項13、14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(9)証拠方法
ア 甲1:特表2017-521263号公報
イ 甲2:国際公開第2016/080488号
ウ 甲3:Arcelor Mittal Flat Carbon Latin America - Brazil ROLLED PRODUCTS CATALOGUE | 2015 EDITION
エ 甲4:特表2017-525849号公報
オ 甲5:Hyeon-Jeong Shin et al., MIcrostructure and Tenslle Propertles In LBW hybrld welded of Al-Sl coated Boron steel wlth varlous composltion Flller wlre after Hot Stamplng, IJST2013,PT7-2, 2013
カ 甲5の1:甲5は、2013年11月27-29日に大阪大学で開催されたIJST2013において、シン・ヒョンジョンによリ公開されたことの説明書
キ 甲6:Shin Hyeon Jeong, Improvement of mechanical properties of laser welded with 1.75wt% Ni Filler wire of Al-Si coated boron steel for automotive, 2015年2月, 釜山大学校大学院
ク 甲6の1:甲6は、遅くとも2015年10月12日に韓国国会図書館で公開されたことの説明書
ケ 甲7:特表2017-525849号公報
コ 甲8:R.W.Richards et al., Metallurgy of continuous hot dip aluminizing, International Materials Reviews, 1994.07.18, p.191-212
サ 甲9:Hyeon-Jeong Shin et al., Microstructure and Tensile Properties in Laser Joints of Al-Si coated Boron Steel with 0.07C-1.16Mn-1.75Ni filler wire after Hot-stamping Heat Treatment, 2013
シ 甲9の1:甲9は、遅くとも2013年5月に大韓溶接・接合学会で公開されたことの説明書
ス 甲10:Min-Seok Kwon et al., Development of the New Technology for TWB and Hot Stamping Hybrid process, 2013.08.25-28
セ 甲10の1:甲10は、遅くとも2013年の末までにTUBEHYDRO2013で公開されたことの説明書
ソ 甲11:特開2000-38640号公報
タ 甲12:国際公開第2017/006159号
チ 甲12の1:特表2018-527457号公報
ツ 甲13:特表2009-534529号公報
2 取消理由の概要
当審は、上記1の各申立理由のうち、申立理由8を採用し、令和 6年 3月29日付けで以下の取消理由1を通知した。
(1)取消理由1(明確性要件)
本件訂正前の請求項12には、「前記保護ガスが、ヘリウム及び/又はアルゴンである、請求項1に記載の方法。」と記載されており、当該請求項12は請求項1を引用するところ、請求項1には、「保護ガス」という記載がないため、当該請求項12の記載において、「前記保護ガス」が何を指し示すのか不明である。
よって、本件訂正前の請求項12及びこれを直接又は間接的に引用する本件訂正前の請求項13、14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
以下に述べるとおり、特許異議申立書に記載された申立理由1~8及び取消理由通知書に記載した取消理由1によっては、本件特許の請求項1~24に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1(新規性)、申立理由4(進歩性)
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
甲1には、「2つのブランクを接合する方法、ブランク、及び得られた製品」(発明の名称)に関して、次の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表し、以下同様である。
(ア)「【請求項1】
第1のブランクと第2のブランクを接合する方法であって、前記第1のブランク及び前記第2のブランクが、アルミニウム又はアルミニウム合金の層を含むコーティングを有する鋼基材を備え、前記方法が、
前記第2のブランクに接合される前記第1のブランクの第1の部分を選択し、且つ前記第1の部分に接合される前記第2のブランクの第2の部分を選択すること、
前記第1の部分を前記第2の部分に溶接することであって、
溶接が、レーザビーム及びアーク溶接トーチを使用することを含み、
前記アーク溶接トーチがワイヤ電極を備え、
前記ワイヤ電極が、ガンマジェニック元素を含む鋼合金、任意選択的にガンマジェニック元素を含むステンレス鋼合金から製作される、溶接すること、及び
溶接方向で前記レーザビーム及び前記アーク溶接トーチの両方を変位させることであって、
前記溶接部における前記ブランクの前記第1の部分及び前記第2の部分が、溶接の間に溶解され、
前記溶接方向で、前記アーク溶接トーチが、前記レーザビームの前方に位置決めされる、変位させることを含む方法。
【請求項2】
前記ワイヤ電極が、重量パーセントで、0%~0.3%の炭素、0%~1.3%のシリコン、0.5%~7%のマンガン、5~22%のクロム、6%~20%のニッケル、0%~0.4%のモリブデン、0%~0.7%のニオブ、並びに残部の鉄及び不可避的不純物の組成を含む、請求項1に記載の方法。
・・・
【請求項5】
前記第1及び第2のブランクが突合せ接合されており、前記第1の部分が前記第1のブランクのエッジであり、前記第2の部分が前記第2のブランクのエッジである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記鋼基材が、ボロン合金硬化性鋼である、請求項1に記載の方法。
・・・
【請求項8】
製品を形成するための方法であって、
請求項1から7のいずれか一項に記載の第1及び第2のブランクを接合する方法を含む、ブランクを形成すること、
前記ブランクを加熱すること、及び
前記加熱されたブランクを熱変形させ、焼き入れすること
を含む、方法。」
(イ)「【0005】
これらのブランクは、「エッジ対エッジ」で溶接(「突合せ接合(butt-joining)」)され得る。このような、いわゆるテーラードブランクは、ホットスタンピングされ、その後自動車部品を形成するために製造されるように設計されている。テーラード溶接されたブランクは、ドア、Bピラー、ビーム、床、バンパーなどの構造部品に用いられ得る。
【0006】
同様に「パッチワーク」ブランクが知られている。「パッチワーク」ブランクでは、幾つかのブランクが必ずしも「エッジ対エッジ」で溶接されるわけではないが、ブランク同士の部分的又は全体的な重なりが用いられ得る。
【0007】
自動車産業で使用される鋼の一例は、22MnB5鋼である。加熱及び形成工程中の脱炭及び酸化スケール形成を避けるため、22MnB5は、アルミニウム-シリコンコーティングが施される。Arcelor Mittal社から市販されているUsibor(登録商標)1500P及びDuctibor(登録商標)500Pは、テーラードブランク及びパッチワークブランクに用いられる鋼の例である。
【0008】
パッチワークブランク及びテーラードブランクは、他の産業でも使用され得、有用であり得る。
【0009】
Usibor(登録商標)1500Pは、フェライト-パーライト相で提供される。その機械的特性はこの構造に関連する。加熱、ホットスタンピング、及びその後の急速冷却(焼き入れ)の後、マルテンサイト微細構造が得られる。その結果、最大強度及び降伏強度が顕著に増加する。
【0010】
Usibor(登録商標)1500Pの組成は、重量パーセントで以下に要約される(残りは鉄(Fe)及び不可避的不純物である)。
【0011】
[図:0001421342000006.jpg]
【0012】
前述したように、Usibor1500Pには、侵食及び酸化損傷を防止するため、アルミニウム-シリコン(AlSi)コーティングが施される。しかしながら、このコーティングには、その溶接挙動に関して重大な影響があった。任意の追加手段がない状態でUsibor1500Pブランクを溶接しようとすると、コーティングのアルミニウムが溶接領域に流入する場合があり、これにより、得られた部品の機械的特性の重大な低下が引き起こされ、溶接部において割れ目の可能性が増大し得る。」
(ウ)「【発明を実施するための形態】
【0041】
図1a及び図1bは、第1のブランクAを第2のブランクBに接合する方法の第1の実施例を概略的に示す。第1のブランクの第1の部分又は領域A1は、第2のブランクの第2の部分又は領域B2に接合される。この実施例では、2つのブランクは、突合せ接合、すなわち、エッジ間溶接(edge-to-edge welding)される。
【0042】
この実施例では、ブランクAとBの両方が、例えばUsibor1500P(登録商標)などのコーティングされた鋼であってもよい。両方のブランクが、上部にコーティング2が設けられる鋼基材1を備える。適用されるコーティングは、アルミニウム-シリコン(Al87Si10Fe3)である。コーティングを適用する処理によって生じたコーティングは、金属合金層4及び金属間層3を有する。
【0043】
図1bは、ハイブリッドレーザ溶接の実施例に従って接合する方法をさらに示す。概略的に示されているのは、レーザビームを出射するレーザヘッド21を有するレーザ溶接機20である。さらに概略的に示されているのは、アーク溶接トーチ30である。アーク溶接トーチは、電極ワイヤ32を備えてもよく、矢印によって概略的に示されているように、ノズル31からシールドガスが排出されてもよい。
【0044】
ハイブリッド処理では、アーク溶接トーチとレーザビームが協働して溶接を形成する。アーク溶接トーチでは、電極ワイヤと部分の間に結果として電気アークが生成され得る。このアークは、電極ワイヤ、並びにブランクの部分を溶解する。「フィラーワイヤ」と呼ばれることもある電極ワイヤが溶解するにつれて、ブランク間の任意の間隔が充填され、溶接が生成され得る。他方で、レーザビームが集中して高エネルギー密度を有するスポットが生成される。レーザビームが第1及び第2の部分に衝突するとき、このスポットは気化温度まで加熱される場合があり、それにより、金属蒸気の漏れに起因して、溶接部分で蒸気空洞が生成される。このような蒸気空洞は、キーホールと呼ばれる場合があり、溶接部分の厚み全体に沿って、深い溶接効果を可能にすることができる。
【0045】
この場合、溶接前に鋼基材のコーティングを除去する必要がないので、製造が単純化され、迅速化されることがわかる。これにより、大幅なコスト削減がもたらされ得る。同時に、適切な組成の電極ワイヤ又はフィラーワイヤによって、Usiborの標準的な熱処理の後、且つホットスタンピングなどの熱変形処理の後に優れた機械的特性が得られることが保証され得る。
【0046】
Usiborブランクの標準的な処理は、例えば、母材鋼を(特に)オーステナイト化(austenisation)するための炉内で、得られたブランクを加熱することである。次いで、ブランクは、例えばバンパービーム又はピラーを形成するためにホットスタンピングされ得る。熱変形後の急速冷却の間、満足の行く機械的特性をもたらすマルテンサイトを得ることができる。標準的な処理は、本明細書で提案された接合方法によって、どのようにも影響を受けない。特に、溶接部の中に供給される電極ワイヤのエレメントのおかげで、アルミニウムが存在するにも関わらず、溶接領域においてマルテンサイト組織も得ることができる。
【0047】
図2aでは、溶接シームCに沿って第2のブランクBに接合されるべき第1のブランクAが概略的に示されており、アーク溶接トーチ30が、溶接方向に従ってレーザビーム20の前方に位置決めされている。
【0048】
図2bは、図2aの側面図を概略的に示す。溶接トーチ30は、第1の部分に垂直な面に対して、10°から35°、任意選択的に14°から30°の角度を有してもよいが、レーザビーム20は、0°から15°、任意選択的に4°から10°の角度を有してもよい。
【0049】
これまで本明細書で示されたすべての実施例では、平板ブランクの形状のブランクが共に接合されている。本明細書で開示された方法の実施例は、異なる形状のブランクにも適用され得ることは明らかである。
【0050】
ブランクのハイブリッド溶接の概念実証のための初期試験の後、発明者らは、充填材料、溶接方向に対する溶接アーチとレーザビームの位置、ワイヤ供給評価、溶接速度、及びレーザパワーに関して溶接処理を最適化するため、広範な試験を行った。
【0051】
これらの試験では、1.4mmの厚さの2つの平坦なUsibor1500(登録商標)板が突合せ接合され、その結果が、2つの平坦な22MnB5のコーティングされていないボロン鋼板と比較された。
【0052】
両方のハイブリッドレーザ溶接形態、すなわち、レーザビームの前方に位置決めされた溶接アーチと、溶接方向に関連して溶接アーチの前方に位置決めされたレーザビームとが試験された。
【0053】
4つの異なる充填材が試験されたが、そのうちの2つは炭素鋼充填材であり、そのうちの2つはガンマジェニック元素(gammagenic element)を含むオーステナイト安定化充填材(austenite stabilizing fillers)である。これらの充填材の特性及び組成は、重量パーセントで以下に要約される(残りは鉄(Fe)及び不可避的不純物である)。
【0054】
[図:0001421342000007.jpg]
【0055】
充填材の試料C及びDのようなオーステナイト安定化ステンレス鋼充填材(austenite stabilizing stainless steel filler)を使用することにより、マルテンサイトがフェライトの代わりに形成されるため、フェライトの形成を避けることができることが発見された。それにより、優れた溶接接合強度を得ることができる。
【0056】
図3aは、920℃の温度におけるアルミニウム含有量と関連して、コーティングされていないボロン鋼ブランク22MnB5のにおけるオーステナイト相及びフェライト相を表す。フェライトとオーステナイトの形成の割合は、アルミニウムの量に左右される。フェライト相は、少なくとも1%の質量のアルミニウム含有量で最初に生じる。
【0057】
図3bは、920℃の温度における22MnB5とオーステナイト安定化ステンレス鋼充填材OK Autorod16.95(ESAB(登録商標)より市販)との混合(50/50)のアルミニウム含有量に関して、オーステナイト相及びフェライト相の一部を表す。OK Autorod16.95の組成は、重量パーセントで、0.08%のC、0.9%のSi、7%のMn、18,7%のCr、8.1%のNi、0.2%のMo、0.1%のCu、0.04%のN、並びに残りのFe及び不可避的不純物である。ここでフェライト相は、少なくとも3%の質量のアルミニウム含有量でのみ生じる。したがって、これらのオーステナイト安定化ステンレス充填材料を添加することにより、フェライト相を確立するのに必要なアルミニウムの質量含有率が増加する。言い換えると、充填材のおかげで、機械的特性をさらに維持しながらも、すなわち、オーステナイトの存在をさらに確保しながらも、より多くのアルミニウムが溶接領域に存在することを可能にすることができる。
【0058】
図4a及び図4bは、1.4mmの厚さの2つの平坦なUsibor1500(登録商標)板の溶接ラインにおいて、ニッケル、アルミニウム、シリコン、クロム、及びマンガンの分配及び含有量を示す。両方の実施例において、オーステナイト安定化ステンレス充填材が使用された。水平軸は、ミリメートル単位で溶接ラインの深さを示し、数値0は、溶接ラインの上面に対応し、1.9ミリメートルは、溶接ラインの底面に対応する。垂直軸は、溶接の中央における元素の含有量を重量パーセントで示す。
【0059】
具体的には、図4aは、レーザビームがアーク溶接トーチの前方にあるように位置決めされた、レーザビームとアーク溶接トーチを用いるハイブリッドレーザ溶接の場合において、2つの平坦な板の溶接ラインの深さに沿った上述の元素の分配及び含有量を示す。この実施例では、オーステナイト安定化ステンレス充填材、具体的には、オーステナイト安定化ステンレス充填材の試料C(表1を参照)が使用された。
【0060】
具体的には、図4bは、アーク溶接トーチがレーザビームの前方にあるように位置決めされた、レーザビームとアーク溶接トーチを用いるハイブリッドレーザ溶接の場合において、2つの平坦な板の溶接ラインの深さに沿った上述の元素の分配及び含有量を示す。この実施例では、オーステナイト安定化ステンレス充填材、具体的には、オーステナイト安定化ステンレス充填材の試料D(表1を参照)が使用された。
【0061】
発明者らは、幾度かの試験(レーザビームがアーチ溶接トーチの前方にある場合と、アーチ溶接トーチがレーザビームの前方にある場合との両方で、ハイブリッドレーザ溶接において種々の充填材が使用された)の後、アーチ溶接トーチがレーザビームの前方に位置決めされた場合に比べて、レーザビームがアーチ溶接トーチに前方に位置決めされた場合、溶接の深さに沿ったアルミニウムの含有量及び分配が異なることを発見した。
【0062】
溶接方向でアーク溶接トーチの前方にレーザビームが位置決めされる場合、オーステナイト安定化ステンレス充填材は、溶接の底部に達しない。オーステナイトを形成する代わりにフェライトを形成するため、ホットスタンピングなどの熱変形処理の後、アルミニウムは、溶接部において機械的特性の劣化を招く恐れがある。
【0063】
溶接方向でアーク溶接トーチがレーザビームの前方に位置決めされる場合、充填材の中のオーステナイト安定化元素は溶接の底部に達する。したがって、ホットスタンピングなどの熱変形処理の後に、アルミニウムは、溶接部において機械的特性の劣化を招くことはない。ハイブリッドレーザ溶接を使用することにより、オーステナイト安定化元素のより優れた分配が達成される。アーク溶接トーチは、溶接方向でレーザビームの前方に位置決めされ、炭素鋼充填材又はオーステナイト安定化充填材が使用される。図3bで示されているように、オーステナイト安定化充填材を使用することにより、フェライト相が開始する際にアルミニウムの質量含有率が増大する。したがって、溶接領域でのアルミニウムの影響が最小限となり、優れた機械的特性を有する溶接接合が得られる。
【0064】
レーザビームの前方に位置決めされたアーチ溶接トーチを用いるハイブリッドレーザ溶接を使用することにより、溶接される2つのブランクの間に間隔があるときに溶接品質が向上することがさらに発見された。レーザビームの前方に溶接トーチを位置決めした結果の全体的な溶け込みのため、2つのブランクの間で最大約0.7mmの間隔が溶接され得る。他方で、レーザビームがアーチ溶接トーチの前方に位置決めされるとき、ブランク間の最大間隔は約0.2mmである。レーザビームの前方にアーク溶接トーチを設けることにより、溶接の製造可能性が向上し、ブランクの製造上の許容誤差が減少し得る。
【0065】
幾つかの強度試験が実行され、2つの平坦なコーティングされていないボロン鋼板22MnB5と、突合せ接合された1.4mmの厚さの2つの平坦なUsibor1500P(登録商標)板とが比較された。充填材及びハイブリッドレーザ構成の影響がさらに試験された。以下の表は、これらの試験の結果を要約する。
【0066】
[図:0001421342000008.jpg]
【0067】
溶接アークトーチが溶接方向に従ってレーザビームの前方に位置決めされた状態で、2つのUsibor1500P(登録商標)ブランクをレーザハイブリッド溶接で溶接した場合、優れた機械的特性が得られる。具体的には、オーステナイト安定化材料を含む充填材が使用されるとき、高引張強度が得られる。得られた引張強度は、溶接されていないUsibor製品と溶接されたコーティングされていないボロン製品22MnB5とで比較された。
【0068】
このような優れた機械的特性は、比較的高い溶接速度を用いて得られる場合があり、製造処理を改善し、溶接時間を減少させる。様々な実施例では、5~12m/分の溶接速度が達成され得る。」
(エ)「【図1】
[図:0001421342000009.jpg]
【図2】
[図:0001421342000010.jpg]
【図3】
[図:0001421342000011.jpg]
・・・
【図4b】
[図:0001421342000012.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
上記ア(ウ)に摘記した、図4bに関する実施例に着目し、Usibor(登録商標)1500Pについては上記ア(イ)を参照しつつ、上記ア(ア)に摘記した特許請求の範囲の記載に倣って整理すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「第1のブランクと第2のブランクを突合せ接合する方法であって、1.4mmの厚さの2つの平坦な前記第1のブランク及び前記第2のブランクが、アルミニウム-シリコン(AlSi)コーティングが施される、組成が重量パーセントで、C:0.24%、Si:0.27%、Mn:1.14%、P:0.015%、S:0.001%、Cr:0.17%、Ti:0.036%、B:0.003%、N:0.004%、残りは鉄(Fe)及び不可避的不純物であるUsibor1500P(登録商標)であり、前記コーティングを適用する処理によって生じたコーティングは、金属合金層及び金属間層を有し、前記方法が、
前記第2のブランクに接合される前記第1のブランクの第1の部分として前記第1のブランクのエッジを選択し、且つ前記第1の部分に接合される前記第2のブランクの第2の部分として前記第2のブランクのエッジを選択すること、
前記第1の部分を前記第2の部分に溶接することであって、
溶接が、レーザビーム及びアーク溶接トーチを使用することを含み、
前記アーク溶接トーチがワイヤ電極を備え、
前記ワイヤ電極が、重量パーセントで、C:0.04%、Si:0.7%、Mn:0.7%、Cr:19%、Ni:10%、Mo:0.3%、Nb:0.6%、残りは鉄(Fe)及び不可避的不純物であるオーステナイト安定化ステンレス鋼合金から製作される、溶接すること、及び
溶接方向で前記レーザビーム及び前記アーク溶接トーチの両方を変位させることであって、
前記溶接部における前記ブランクの前記第1の部分及び前記第2の部分が、溶接の間に溶解され、
前記溶接方向で、前記アーク溶接トーチが、前記レーザビームの前方に位置決めされる、変位させること
を含む方法。」(以下、「甲1発明1」という。)
「甲1発明1の方法によって形成されるブランク。」(以下、「甲1発明2」という。)
「甲1発明2のブランクを加熱すること、及び
前記加熱されたブランクを熱変形させ、焼き入れすること
を含む、方法によって形成される製品。」(以下、「甲1発明3」という。)
(2)本件発明1について(新規性、進歩性)
ア 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
(ア)甲1発明1において、「第1のブランクと第2のブランク」をそれぞれ構成する「Usibor1500P(登録商標)」の「アルミニウム-シリコン(AlSi)コーティングが施される」部分の「組成が重量パーセントで、C:0.24%、・・・残りは鉄(Fe)及び不可避的不純物である」ことを踏まえると、上記「アルミニウム-シリコン(AlSi)コーティングが施される」部分が「鋼」であることは明らかである。
そして、上記(1)ア(イ)に摘記した【0005】には、「溶接(「突合せ接合(butt-joining)」)」と記載されているから、甲1発明1における「第1のブランクと第2のブランクを突合せ接合する方法」は、本件発明1における「溶接鋼ブランク(1)の製造方法」に相当する。
(イ)甲1発明1における「アルミニウム-シリコン(AlSi)コーティングが施される」「2つの平坦な前記第1のブランク及び前記第2のブランク」は、本件発明1における「2枚のプレコート板(2)」に相当する。
(ウ)甲1発明1において、「アルミニウム-シリコン(AlSi)コーティングが」「2つの平坦な前記第1のブランク及び前記第2のブランク」のそれぞれの主面の少なくとも1つに「施される」ことは技術常識に照らして明らかであるから、甲1発明1において、「2つの平坦な前記第1のブランク及び前記第2のブランクが、アルミニウム-シリコン(AlSi)コーティングが施される」ことは、本件発明1において、「各プレコート板(2)が、その主面(4)の少なくとも1つにプレコーティング(5)を有」することに相当する。
(エ)甲1発明1において、「前記第1のブランク及び前記第2のブランク」は、「アルミニウム-シリコン(AlSi)コーティングが施される」ものであり、「前記コーティングを適用する処理によって生じたコーティングは、金属合金層及び金属間層を有し」ているから、上記(ア)を踏まえると、「第1のブランクと第2のブランク」のそれぞれにおける「アルミニウム-シリコン(AlSi)コーティングが施される」部分である鋼中のFeと「アルミニウム-シリコン(AlSi)コーティング」中のAlとが上記「金属合金層」に含まれることは、技術常識に照らして明らかである。
そして、上記(1)ア(エ)に摘記した図1bを参照すると、上記「金属間層(3)」が本件発明1における「少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層(9)」に相当し、かつ、上記「金属合金層(4)」が本件発明1における「金属間合金層(9)の上に延伸する」「アルミニウム合金の層」「であ」る「金属合金層(11)」に相当することも、技術常識に照らして明らかである。
(オ)甲1発明1における「Usibor1500P(登録商標)」は、「アルミニウム-シリコン(AlSi)コーティングが施され」たものであり、かつ、上記(1)ア(イ)に摘記した【0009】に記載のとおり、「加熱、ホットスタンピング、及びその後の急速冷却(焼き入れ)の後、マルテンサイト微細構造が得られる」ものであるから、上記(ア)、(イ)を踏まえると、本件発明1における「プレス硬化性鋼でできて」いる「鋼基材(3)を含む」「プレコート板(2)」に相当する。
(カ)甲1発明1における「重量パーセントで、C:0.04%」を含有する「前記ワイヤ電極」は、本件発明1における「0.01wt%~0.45wt%の間(基準C1)の炭素含有量を有する」「フィラーワイヤ(20)」に相当する。
(キ)甲1発明1において、「第1のブランクと第2のブランクを突合せ接合」して「ブランクの前記第1の部分及び前記第2の部分が、」「レーザビーム及び」「ワイヤ電極を備え」る「アーク溶接トーチ」「を使用する」「溶接の間に溶解され」ることによって溶接部を形成することは、本件発明1において、「フィラーワイヤ(20)を使用して前記プレコート板(2)を突合せ溶接して、前記プレコート板(2)間の接合部に溶接継手(22)を形成する」ことに相当する。
(ク)そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「溶接鋼ブランク(1)の製造方法であって、以下の連続工程:
- 2枚のプレコート板(2)を準備する工程であって、鋼基材(3)を含む各プレコート板(2)が、その主面(4)の少なくとも1つにプレコーティング(5)を有し、前記プレコーティング(5)が、少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層(9)、並びに任意で前記金属間合金層(9)の上に延伸する金属合金層(11)を含み、前記金属合金層(11)が、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層であり、前記基材(3)が、プレス硬化性鋼でできている工程、
- フィラーワイヤ(20)を使用して前記プレコート板(2)を突合せ溶接して、前記プレコート板(2)間の接合部に溶接継手(22)を形成する工程
を含み、
- 前記フィラーワイヤ(20)が、0.01wt%~0.45wt%の間(基準C1)の炭素含有量を有する
製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点1-1>
本件発明1における「基材(3)」は、「0.8mm~5mmの間の厚さを有」するのに対し、甲1発明1における「前記第1のブランク及び前記第2のブランク」は、「1.4mmの厚さ」を有するものの、当該厚さは「アルミニウム-シリコン(AlSi)コーティング」の厚さまで含むものであるのか不明であるため、基材自体の厚さは不明である点。
<相違点1-2>
本件発明1では、「前記プレコート板(2)の少なくとも1枚について、前記基材(3)の鋼が、重量で
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である」のに対し、甲1発明1では、「前記第1のブランク及び前記第2のブランク」の「組成が重量パーセントで、C:0.24%、Si:0.27%、Mn:1.14%、P:0.015%、S:0.001%、Cr:0.17%、Ti:0.036%、B:0.003%、N:0.004%、残りは鉄(Fe)及び不可避的不純物であ」り、「前記第1のブランク及び前記第2のブランク」がAl、S、Pを含有するのか不明であったり、Nを含有したりする点。
<相違点1-3>
本件発明1では、「突合せ溶接時に前記プレコーティング(5)が、各プレコート板(2)の少なくとも1つの主面(4)の全体を被覆している」のに対し、甲1発明1では、突合せ接合時にアルミニウム-シリコン(AlSi)コーティングが2つの平坦な第1のブランク及び第2のブランクの「全体」に施されているのか不明である点。
<相違点1-4>
本件発明1では、「フィラーワイヤ(20)の組成及び溶接プールに添加される前記フィラーワイヤ(20)の割合を、得られた前記溶接継手(22)が、」「以下の特徴:
(a)前記溶接継手(22)の焼入れ係数FTWJが、
【数1】
[図:0001421342000013.jpg]
(基準C2)であり、
式中、
- FTBMが、前記2枚のプレコート板(2)の前記鋼基材(3)のうち、最も硬化性の低い鋼基材(3)の前記焼入れ係数であり、
- 前記焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、次の式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi2-1532xC2-5xMn2-127xSi2-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は前記溶接継手(22)であり、FTBMの場合は最も硬化性の低い基材であること」「を有するように選択する」のに対し、甲1発明1では、「溶接部」の組成が不明であるため、「ワイヤ電極」の組成及び溶接プールに添加される「ワイヤ電極」の割合を、得られた「溶接部」が上記特徴を有するように選択したのか不明である点。
<相違点1-5>
本件発明1では、「フィラーワイヤ(20)の組成及び溶接プールに添加される前記フィラーワイヤ(20)の割合を、得られた前記溶接継手(22)が、」「以下の特徴:」「(b)前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが0.15wt%以上の場合、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000(基準C3)、ここで、前記溶接継手(22)の前記軟化係数FAWJが、前記溶接継手(22)のアルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9xSi-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMn
を使用して計算されること」「を有するように選択する」のに対し、甲1発明1では、「溶接部」の組成が不明であるため、「ワイヤ電極」の組成及び溶接プールに添加される「ワイヤ電極」の割合を、得られた「溶接部」が上記特徴を有するように選択したのか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点1-4、1-5についてまとめて検討すると、甲1に、甲1発明1における「溶接部」の組成は記載されておらず、甲1発明1が上記相違点1-4に係る発明特定事項中の「基準C2」及び上記相違点1-5に係る発明特定事項中の「基準C3」を満たすものであるのか不明であるから、上記相違点1-4、1-5はそれぞれ実質的な相違点であるといえる。
(イ)上記(ア)で検討した事項について、申立人は、特許異議申立書の95~99ページにおいて、以下のとおり主張している。
「甲1号証の段落0050~0068には具体例が記載される。
一つの試験では、1.4mmの厚さの2つの平坦なUsibor(登録商標)1500P板が突合せ接合され、充填材として試料Dが用いられる(段落0051~0054、表1)。充填材の試料Dが使用される場合の、2つの平坦な板の溶接ラインの深さに沿った元素の分配及び含有量は図4bに記載される(段落0058~0059)。図4bには、溶接ラインの表面から内部1.9mmの深さまでの各元素の含有量が記載されており、全ての深さにおける含有量を平均すると溶接継手の組成が求まる。そこで、図4bから、2つの平坦な板の溶接ラインの深さに沿ったNi、Al、Si、Cr及びMnの含有量を求め、その平均値を計算した。結果を以下表1に示す。
・・・
「表1」
[図:0001421342000014.jpg]
また、Cの含有量は、次の手順にしたがって求めた。
溶接継手における元素の含有量は、素地金属と溶接金属との希釈率(D)を用いて下記式よリ求めることができる。
[図:0001421342000015.jpg]
すなわち、素地金属が希釈率「D(0<D<1)」だけの割合で溶接部に含まれる場合、溶接金属は希釈率「1-D」の割合で溶接部に含まれ、希釈率は全ての元素において共通する。したがって、CrやNiなどの元素の希釈率を求める場合、その希釈率はCにも同じ値で適用でき、これにより溶接部におけるC含有量を求めることができる。
甲1号証の充填材の試料Dが使用された具体例について、素地金属と溶接金属、そして溶接部におけるCr含有量をもって希釈率を求めると、53.5%が得られる。同様にNiに対しては49.8%の希釈率が得られる。これらの値は、かなり類似した値であって、両方の元素に実質的に同じ希釈率が適用されたことが分かる。よって、Crの希釈率とNiの希釈率の平均値を溶接部の希釈率(D=51.65%)とし得る。この希釈率の値を用いて、充填材の試料Dが使用された具体例について、溶接部のC含有量(CWJ)を求めると、0.14%と計算される。
上記求めた各元素の含有量からFTWJを計算すると、538.09であった。段落0011に記載される、Usibor(登録商標)1500P板の各元素の含有量からFTBMを計算すると、532.36であった。その結果、下記式を満たす。
[図:0001421342000016.jpg]
以上のとおり、甲1発明は本件発明1の条件(a)を満たし、相違点F1-1に係る構成は相違点ではない。」
「上記説明した通り、1.4mmの厚さの2つの平坦なUsibor(登録商標)1500P板が突合せ接合され、充填材として試料Dが用いられた試験において、Cの含有量は、0.14質量%である。
以上のとおり、甲1発明も本件発明1の条件(b)を満たし、相違点F1-2に係る構成は相違点ではない。」
(ウ)そこで、上記主張について検討すると、甲1発明1において、Usibor1500P(登録商標)に含まれるMnの含有量は1.14%であり、ワイヤ電極(充填材の試料D)に含まれるMnの含有量は0.7%であるから、上記(イ)の希釈率の考え方に基づけば、溶接部のMnの含有量は0.7%から1.14%までの間となるはずである。
しかしながら、上記(イ)の表1によれば、溶接部のMnの平均含有量は1.36%であるから、都合良くCrの希釈率とNiの希釈率だけを取り上げてこれらの平均値を溶接部の希釈率とすることは適当でないし、そもそも希釈率の考え方の妥当性に疑問が残るといわざるを得ない。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。
(エ)次に、上記相違点1-4、1-5の容易想到性について検討すると、甲1に、上記「基準C2」及び上記「基準C3」を満たすことは記載も示唆もされていないから、甲1発明1において、上記相違点1-4、1-5に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとする動機付けがあるとはいえない。
(オ)そして、甲2~4に記載された発明並びに特許異議申立書に記載された周知技術及び技術常識を考慮しても、上記(エ)の判断に変わりはない。
(カ)したがって、甲1発明1において、上記相違点1-4、1-5に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(キ)よって、上記相違点1-1~1-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1に基いて、又は甲1発明1に甲2~4に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて、又は甲1に記載された発明に甲2~4に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2~5、7~9、11~14について(新規性)
本件発明2~5、7~9、11~14は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明であるとはいえない以上、本件発明2~5、7~9、11~14も同様に、甲1に記載された発明であるとはいえない。
(4)本件発明2~14について(進歩性)
本件発明2~14は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明に基いて、又は甲1に記載された発明に甲2~4に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2~14も同様に、甲1に記載された発明に基いて、又は甲1に記載された発明に甲2~4に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件発明15について(新規性、進歩性)
ア 対比
本件発明15と甲1発明2とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。なお、甲1発明2における「ブランク」は、本件発明15における「溶接鋼ブランク(1)」に相当する。
<相違点1-4’>
本件発明15では、「溶接鋼ブランク(1)」の「溶接継手(22)が、
(a)前記溶接継手(22)の焼入れ係数FTWJが、
【数3】
[図:0001421342000017.jpg]
(基準C2)であり、
式中
- FTBMが、2枚の前記プレコート板(2)の前記鋼基材(3)のうち、硬化性が最も低い鋼基材(3)の焼入れ係数であり、
- 前記焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi2-1532xC2-5xMn2-127xSi2-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は前記溶接継手(22)であり、FTBMの場合は硬化性が最も低い基材であること」「を特徴とし」ているのに対し、甲1発明2では、「溶接部」の組成が不明であるため、ブランクの「溶接部」が上記特徴を有するのか不明である点。
<相違点1-5’>
本件発明15では、「溶接鋼ブランク(1)」の「溶接継手(22)が、」「(b)前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%以上の場合、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000(基準C3)となり、式中、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、アルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、前記溶接継手(22)中の、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9xSi-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMnを使用して計算されること」「を特徴とし」ているのに対し、甲1発明2では、「溶接部」の組成が不明であるため、ブランクの「溶接部」が上記特徴を有するのか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)上記相違点1-4’、1-5’についてまとめて検討すると、上記相違点1-4’、1-5’はそれぞれ上記(2)ア(ク)に示した相違点1-4、1-5と実質的に同じである。
(イ)そうすると、上記(2)イ(ア)~(ウ)で検討したのと同様の理由により、上記相違点1-4’、1-5’はそれぞれ実質的な相違点であるといえる。
(ウ)また、上記(2)イ(エ)、(オ)で検討したのと同様の理由により、甲1発明2において、上記相違点1-4’、1-5’に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとする動機付けがあるとはいえないし、甲2~4に記載された発明並びに特許異議申立書に記載された周知技術及び技術常識を考慮しても、この判断に変わりはない。
(エ)したがって、甲1発明2において、上記相違点1-4’、1-5’に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(オ)よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明15は、甲1発明2に基いて、又は甲1発明2に甲2~4に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明15は、甲1に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明15は、甲1に記載された発明に基いて、又は甲1に記載された発明に甲2~4に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件発明16について(新規性、進歩性)
ア 対比
本件発明16と甲1発明3とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。なお、甲1発明3における「甲1発明2のブランクを加熱すること、及び前記加熱されたブランクを熱変形させ、焼き入れすることを含む、方法によって形成される製品」は、本件発明16における「溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品」に相当する。
<相違点1-4’’>
本件発明16では、「溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品」の「溶接継手(22)が、
(a)前記溶接継手(22)の焼入れ係数FTWJが、
【数4】
[図:0001421342000018.jpg]
(基準C2)であり、
式中、
- FTBMが、前記第1及び第2の被覆鋼部品部分の前記鋼基材(3)のうち、最も硬化性の低い鋼基材(3)の前記焼入れ係数であり、
- 前記焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi2-1532xC2-5xMn2-127xSi2-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は前記溶接継手(22)であり、FTBMの場合は硬化性が最も低い基材であること」を特徴としているのに対し、甲1発明3では、「溶接部」の組成が不明であるため、製品の「溶接部」が上記特徴を有するのか不明である点。
<相違点1-5’’>
本件発明16では、「溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品」の「溶接継手(22)が、」「(b)前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%以上の場合は、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000であり(基準C3)、式中、前記溶接継手(22)の前記軟化係数FAWJが、前記溶接継手(22)のアルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9xSi-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMn
を使用して計算され」ることを特徴としているのに対し、甲1発明3では、「溶接部」の組成が不明であるため、製品の「溶接部」が上記特徴を有するのか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)上記相違点1-4’’、1-5’’についてまとめて検討すると、上記相違点1-4’’、1-5’’はそれぞれ上記(2)ア(ク)に示した相違点1-4、1-5と実質的に同じである。
(イ)そうすると、上記(2)イ(ア)~(ウ)で検討したのと同様の理由により、上記相違点1-4’’、1-5’’はそれぞれ実質的な相違点であるといえる。
(ウ)また、上記(2)イ(エ)、(オ)で検討したのと同様の理由により、甲1発明3において、上記相違点1-4’’、1-5’’に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとする動機付けがあるとはいえないし、甲2~4に記載された発明並びに特許異議申立書に記載された周知技術及び技術常識を考慮しても、この判断に変わりはない。
(エ)したがって、甲1発明3において、上記相違点1-4’’、1-5’’に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(オ)よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明16は、甲1発明3に基いて、又は甲1発明3に甲2~4に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明16は、甲1に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明16は、甲1に記載された発明に基いて、又は甲1に記載された発明に甲2~4に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)本件発明17~22、24について(新規性)
本件発明17~22、24は、本件発明16の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(6)ウのとおり、本件発明16が、甲1に記載された発明であるとはいえない以上、本件発明17~22、24も同様に、甲1に記載された発明であるとはいえない。
(8)本件発明17~24について(進歩性)
本件発明17~24は、本件発明16の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(6)ウのとおり、本件発明16が、甲1に記載された発明に基いて、又は甲1に記載された発明に甲2~4に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明17~24も同様に、甲1に記載された発明に基いて、又は甲1に記載された発明に甲2~4に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(9)申立理由1、4についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~5、7~9、11~22、24は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1によっては、本件特許の請求項1~5、7~9、11~22、24に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明1~24は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由4によっては、本件特許の請求項1~24に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由2(新規性)、申立理由5(進歩性)
(1)甲5の記載事項及び甲5に記載された発明
ア 甲5の記載事項
甲5には、「MIcrostructure and TensIle PropertIes In LBW hybrId welded of Al-SI coated Boron steel wIth varIous composItIon FIller wIre after Hot StampIng」(翻訳:ホットスタンピング後のさまざまな組成のフィラーワイヤを用いたアルミニウム-シリコン被覆ホウ素鋼のLBWハイブリッド溶接における微細構造と引張特性)(ポスターのタイトル)に関して、以下の記載がある。なお、翻訳文は、申立人によるものを必要に応じて当審で一部修正したものであり、以下同様である。
(ア)「
[図:0001421342000019.jpg]
」(1.Introduction & Objectives)
(翻訳:
[図:0001421342000020.jpg]
)
(イ)「
[図:0001421342000021.jpg]
・・・
[図:0001421342000022.jpg]
」(1.Introduction & ObjectivesのProblem)
(翻訳:
[図:0001421342000023.jpg]
・・・
[図:0001421342000024.jpg]
)
(ウ)「
[図:0001421342000025.jpg]
」(1.Introduction & ObjectivesのSolution)
(翻訳:
[図:0001421342000026.jpg]
)
(エ)「
[図:0001421342000027.jpg]
」(2.Experimental Procedures)
(翻訳:
[図:0001421342000028.jpg]
)
(オ)「
[図:0001421342000029.jpg]
」(3.2 Cross section of the bead and Microstructure and phase transformation in fusion zone)
(カ)「
[図:0001421342000030.jpg]
[図:0001421342000031.jpg]
」(3.3 Ferrite fraction and Hardness of the welds)
(翻訳:
[図:0001421342000032.jpg]
)
(キ)「
[図:0001421342000033.jpg]
」(4.Conclusion)
イ 甲5に記載された発明
上記ア(ア)に摘記した「TWB」は「Tailor Welded Blank」の略であり、「テーラードブランク」を意味することは技術常識に照らして明らかである。この点を踏まえ、上記ア(オ)~(キ)に摘記したA Filler #2に着目し、B-Steel及びA Filler wireの化学組成並びに熱処理条件については上記ア(エ)を参照しつつ、上記ア(ア)~(ウ)に摘記した事項も踏まえて整理すると、甲5には、次の発明が記載されていると認められる。
「1.2mmの厚さを有し、wt%で、C:0.2285%、Si:0.2383%、Mn:1.1890%、B:0.0023%を含む化学組成のアルミニウム-シリコン被覆ホウ素鋼であるB-Steel2枚を、wt%で、C:0.07%、Si:0.70%、Mn:1.16%、P:0.010%、S:0.012%、Ni:1.75%を含む化学組成のフィラーワイヤであるA Filler wireを用いてレーザービーム溶接し、融合ゾーンを有するテーラードブランクを形成する方法。」(以下、「甲5発明1」という。)
「甲5発明1の方法によって形成されるテーラードブランク。」(以下、「甲5発明2」という。)
「甲5発明2のテーラードブランクを、加熱温度:950℃、保持時間:5分、冷却方法:850℃での焼き入れ、の熱処理条件でホットスタンピングすることによって形成される自動車部品。」(以下、「甲5発明3」という。)
(2)本件発明1について(新規性、進歩性)
ア 対比
本件発明1と甲5発明1とを対比する。
(ア)甲5発明1における「B-Steel2枚を」「レーザービーム溶接し、融合ゾーンを有するテーラードブランクを形成する方法」は、本件発明1における「溶接鋼ブランク(1)の製造方法」に相当する。
(イ)甲5発明1における「2枚」の「アルミニウム-シリコン被覆ホウ素鋼であるB-Steel」は、本件発明1における「2枚のプレコート板(2)」に相当する。
(ウ)甲5発明1において、「2枚」の「アルミニウム-シリコン被覆ホウ素鋼であるB-Steel」のそれぞれの主面の少なくとも1つに「アルミニウム-シリコン被覆」が存在することは技術常識に照らして明らかであるから、甲5発明1において、「2枚」の「B-Steel」が「アルミニウム-シリコン被覆」を有することは、本件発明1において、「各プレコート板(2)が、その主面(4)の少なくとも1つにプレコーティング(5)を有」することに相当する。
(エ)甲5発明1における「アルミニウム-シリコン被覆」には、本件発明1における「アルミニウム合金の層」「であ」る「金属合金層(11)」が含まれる点で、両者は共通する。
(オ)上記(1)ア(ウ)によれば、「アルミニウム-シリコン被覆ホウ素鋼」はレーザー溶接後にホットスタンピングに供されるものであるから、甲5発明1における「アルミニウム-シリコン被覆ホウ素鋼であるB-Steel」は、本件発明1における「プレス硬化性鋼でできて」いる「鋼基材(3)を含む」「プレコート板(2)」に相当する。
(カ)甲5発明1における「wt%で、C:0.07%」「を含む」「フィラーワイヤであるA Filler wire」は、本件発明1における「0.01wt%~0.45wt%の間(基準C1)の炭素含有量を有する」「フィラーワイヤ(20)」に相当する。
(キ)上記(1)ア(ウ)の右図によれば、甲5発明1の「レーザービーム溶接」が突合せ溶接であることは明らかであるから、甲5発明1において、「B-Steel2枚を」「フィラーワイヤであるA Filler wireを用いてレーザービーム溶接し、融合ゾーンを有するテーラードブランクを形成する」ことは、本件発明1において、「フィラーワイヤ(20)を使用して前記プレコート板(2)を突合せ溶接して、前記プレコート板(2)間の接合部に溶接継手(22)を形成する」ことに相当する。
(ク)そうすると、本件発明1と甲5発明1とは、
「溶接鋼ブランク(1)の製造方法であって、以下の連続工程:
- 2枚のプレコート板(2)を準備する工程であって、鋼基材(3)を含む各プレコート板(2)が、その主面(4)の少なくとも1つにプレコーティング(5)を有し、前記プレコーティング(5)が、任意で金属合金層(11)を含み、前記金属合金層(11)が、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層であり、前記基材(3)が、プレス硬化性鋼でできている工程、
- フィラーワイヤ(20)を使用して前記プレコート板(2)を突合せ溶接して、前記プレコート板(2)間の接合部に溶接継手(22)を形成する工程
を含み、
- 前記フィラーワイヤ(20)が、0.01wt%~0.45wt%の間(基準C1)の炭素含有量を有する
製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点5-1>
本件発明1における「プレコーティング(5)」は「少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層(9)」「を含み」、「任意で」含まれる「金属合金層(11)」は「前記金属間合金層(9)の上に延伸する」ものであるのに対し、甲5発明1における「B-Steel」は「アルミニウム-シリコン被覆ホウ素鋼である」ものの、当該「アルミニウム-シリコン被覆」に「少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層」が含まれるのか不明である点。
<相違点5-2>
本件発明1における「基材(3)」は、「0.8mm~5mmの間の厚さを有」するのに対し、甲5発明1における「B-Steel」は、「1.2mmの厚さを有」するものの、当該厚さが「アルミニウム-シリコン被覆」の厚さまで含むものであるのか不明であるため、基材自体の厚さは不明である点。
<相違点5-3>
本件発明1では、「前記プレコート板(2)の少なくとも1枚について、前記基材(3)の鋼が、重量で
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である」のに対し、甲5発明1では、「2枚」の「B-Steel」の「化学組成」が「wt%で、C:0.2285%、Si:0.2383%、Mn:1.1890%、B:0.0023%を含む」ものであり、上記(1)ア(エ)に摘記した表によれば、当該「化学組成」がCr、Ti、Alを含有するのか不明であったり、S、Pを含有しなかったり、「残部が、鉄及び生産から生じる不純物である」のか不明であったりする点。
<相違点5-4>
本件発明1では、「突合せ溶接時に前記プレコーティング(5)が、各プレコート板(2)の少なくとも1つの主面(4)の全体を被覆している」のに対し、甲5発明1では、レーザービーム溶接時にアルミニウム-シリコン被覆が2枚のB-Steelの「全体」に存在しているのか不明である点。
<相違点5-5>
本件発明1では、「フィラーワイヤ(20)の組成及び溶接プールに添加される前記フィラーワイヤ(20)の割合を、得られた前記溶接継手(22)が、」「以下の特徴:
(a)前記溶接継手(22)の焼入れ係数FTWJが、
【数1】
[図:0001421342000034.jpg]
(基準C2)であり、
式中、
- FTBMが、前記2枚のプレコート板(2)の前記鋼基材(3)のうち、最も硬化性の低い鋼基材(3)の前記焼入れ係数であり、
- 前記焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、次の式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi2-1532xC2-5xMn2-127xSi2-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は前記溶接継手(22)であり、FTBMの場合は最も硬化性の低い基材であること」「を有するように選択する」のに対し、甲5発明1では、「融合ゾーン」の化学組成が不明であるため、「フィラーワイヤであるA Filler wire」の化学組成及び溶接プールに添加される「フィラーワイヤであるA Filler wire」の割合を、得られた「融合ゾーン」が上記特徴を有するように選択したのか不明である点。
<相違点5-6>
本件発明1では、「フィラーワイヤ(20)の組成及び溶接プールに添加される前記フィラーワイヤ(20)の割合を、得られた前記溶接継手(22)が、」「以下の特徴:」「(b)前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが0.15wt%以上の場合、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000(基準C3)、ここで、前記溶接継手(22)の前記軟化係数FAWJが、前記溶接継手(22)のアルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9xSi-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMn
を使用して計算されること」「を有するように選択する」のに対し、甲5発明1では、「融合ゾーン」の化学組成が不明であるため、「フィラーワイヤであるA Filler wire」の化学組成及び溶接プールに添加される「フィラーワイヤであるA Filler wire」の割合を、得られた「融合ゾーン」が上記特徴を有するように選択したのか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点5-5、5-6についてまとめて検討すると、上記(1)ア(オ)に摘記したとおり、甲5には、甲5発明1の「融合ゾーン」におけるe点及びf点での化学組成は記載されているが、当該「融合ゾーン」全体の平均化学組成は記載されておらず、甲5発明1が上記相違点5-5に係る発明特定事項中の「基準C2」及び上記相違点5-6に係る発明特定事項中の「基準C3」を満たすものであるのか不明であるから、上記相違点5-5、5-6はそれぞれ実質的な相違点であるといえる。
(イ)上記(ア)で検討した事項について、申立人は、特許異議申立書の131~132ページにおいて、以下のとおり主張している。
「Aフィラー#2の溶接部(WJ)は、eとfの化学組成が測定されており、eとfの平均値から、溶接部(WJ)の化学組成を求めると、wt%で、0.67%のAl、0.395%のSi、0.205%のC、1.24%のMn、0.185%のCr、0.405%のNi、残りがFeである。この数値から、FTWJ及びFTBMを求めると以下の通リである。FTBMは、Bスチールの化学組成から求めた結果であり、上記した甲第10号証の記載から、Cr:0.1833wt%として求めた。
FTWJ=490.33
FTBM=518.41
上記の結果より、本件発明1のFTWJ-0.9FTBM≧0(基準C2)を満たす。
以上のとおり、甲5発明は本件発明1の条件(a)を満たし、相違点F1-1に係る構成は相違点ではない。」
「上記(イ)で述べた通り、甲第5号証の記載から、Aフィラー#2の溶接部(WJ)は、eとfの化学組成が測定されており、eとfの平均値から、溶接部(WJ)の化学組成を求めると、wt%で、0.67%のAl、0.395%のSi、0.205%のC、1.24%のMn、0.185%のCr、0.405%のNi、残りがFeである。この数値から、CWJは0.205wt%であり、FAWJを求めると以下の通りである。
FAWJ=10307.73
上記の結果より、本件発明1のFAWJ>5000(基準C3)を満たす。
以上のとおり、甲5発明は本件発明1の条件(b)を満たし、相違点F1-2に係る構成は相違点ではない。」
(ウ)そこで、上記主張について検討すると、甲5発明1の「融合ゾーン」におけるe点及びf点以外での化学組成は不明であるから、当該「融合ゾーン」全体の平均化学組成は不明であるというほかなく、申立人の上記主張を採用することはできない。
(エ)次に、上記相違点5-5、5-6の容易想到性について検討すると、甲5に、上記「基準C2」及び上記「基準C3」を満たすことは記載も示唆もされていないから、甲5発明1において、上記相違点5-5、5-6に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとする動機付けがあるとはいえない。
(オ)そして、甲1~4、7~12に記載された発明並びに特許異議申立書に記載された周知技術及び技術常識を考慮しても、上記(エ)の判断に変わりはない。
(カ)したがって、甲5発明1において、上記相違点5-5、5-6に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(キ)よって、上記相違点5-1~5-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明1に基いて、又は甲5発明1に甲1~4、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲5に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲5に記載された発明に基いて、又は甲5に記載された発明に甲1~4、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2、4~14について(新規性)
本件発明2、4~14は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲5に記載された発明であるとはいえない以上、本件発明2、4~14も同様に、甲5に記載された発明であるとはいえない。
(4)本件発明2~14について(進歩性)
本件発明2~14は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲5に記載された発明に基いて、又は甲5に記載された発明に甲1~4、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2~14も同様に、甲5に記載された発明に基いて、又は甲5に記載された発明に甲1~4、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件発明15について(新規性、進歩性)
ア 対比
本件発明15と甲5発明2とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。なお、甲5発明2における「テーラードブランク」は、本件発明15における「溶接鋼ブランク(1)」に相当する。
<相違点5-5’>
本件発明15では、「溶接鋼ブランク(1)」の「溶接継手(22)が、
(a)前記溶接継手(22)の焼入れ係数FTWJが、
【数3】
[図:0001421342000035.jpg]
(基準C2)であり、
式中
- FTBMが、2枚の前記プレコート板(2)の前記鋼基材(3)のうち、硬化性が最も低い鋼基材(3)の焼入れ係数であり、
- 前記焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi2-1532xC2-5xMn2-127xSi2-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は前記溶接継手(22)であり、FTBMの場合は硬化性が最も低い基材であること」「を特徴とし」ているのに対し、甲5発明2では、「融合ゾーン」の化学組成が不明であるため、テーラードブランクの「融合ゾーン」が上記特徴を有するのか不明である点。
<相違点5-6’>
本件発明15では、「溶接鋼ブランク(1)」の「溶接継手(22)が、」「(b)前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%以上の場合、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000(基準C3)となり、式中、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、アルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、前記溶接継手(22)中の、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9xSi-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMnを使用して計算されること」「を特徴とし」ているのに対し、甲5発明2では、「融合ゾーン」の化学組成が不明であるため、テーラードブランクの「融合ゾーン」が上記特徴を有するのか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)上記相違点5-5’、5-6’についてまとめて検討すると、上記相違点5-5’、5-6’はそれぞれ上記(2)ア(ク)に示した相違点5-5、5-6と実質的に同じである。
(イ)そうすると、上記(2)イ(ア)~(ウ)で検討したのと同様の理由により、上記相違点5-5’、5-6’はそれぞれ実質的な相違点であるといえる。
(ウ)また、上記(2)イ(エ)、(オ)で検討したのと同様の理由により、甲5発明2において、上記相違点5-5’、5-6’に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとする動機付けがあるとはいえないし、甲1~4、7~12に記載された発明並びに特許異議申立書に記載された周知技術及び技術常識を考慮しても、この判断に変わりはない。
(エ)したがって、甲5発明2において、上記相違点5-5’、5-6’に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(オ)よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明15は、甲5発明2に基いて、又は甲5発明2に甲1~4、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明15は、甲5に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明15は、甲5に記載された発明に基いて、又は甲5に記載された発明に甲1~4、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件発明16について(新規性、進歩性)
ア 対比
本件発明16と甲5発明3とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。なお、甲5発明3における「甲5発明2のテーラードブランクを、加熱温度:950℃、保持時間:5分、冷却方法:850℃での焼き入れ、の熱処理条件でホットスタンピングすることによって形成される自動車部品」は、本件発明16における「溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品」に相当する。
<相違点5-5’’>
本件発明16では、「溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品」の「溶接継手(22)が、
(a)前記溶接継手(22)の焼入れ係数FTWJが、
【数4】
[図:0001421342000036.jpg]
(基準C2)であり、
式中、
- FTBMが、前記第1及び第2の被覆鋼部品部分の前記鋼基材(3)のうち、最も硬化性の低い鋼基材(3)の前記焼入れ係数であり、
- 前記焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi2-1532xC2-5xMn2-127xSi2-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は前記溶接継手(22)であり、FTBMの場合は硬化性が最も低い基材であること」を特徴としているのに対し、甲5発明3では、「融合ゾーン」の化学組成が不明であるため、自動車部品の「融合ゾーン」が上記特徴を有するのか不明である点。
<相違点5-6’’>
本件発明16では、「溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品」の「溶接継手(22)が、」「(b)前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%以上の場合は、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000であり(基準C3)、式中、前記溶接継手(22)の前記軟化係数FAWJが、前記溶接継手(22)のアルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9xSi-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMn
を使用して計算され」ることを特徴としているのに対し、甲5発明3では、「融合ゾーン」の化学組成が不明であるため、自動車部品の「融合ゾーン」が上記特徴を有するのか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)上記相違点5-5’’、5-6’’についてまとめて検討すると、上記相違点5-5’’、5-6’’はそれぞれ上記(2)ア(ク)に示した相違点5-5、5-6と実質的に同じである。
(イ)そうすると、上記(2)イ(ア)~(ウ)で検討したのと同様の理由により、上記相違点5-5’’、5-6’’はそれぞれ実質的な相違点であるといえる。
(ウ)また、上記(2)イ(エ)、(オ)で検討したのと同様の理由により、甲5発明3において、上記相違点5-5’’、5-6’’に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとする動機付けがあるとはいえないし、甲1~4、7~12に記載された発明並びに特許異議申立書に記載された周知技術及び技術常識を考慮しても、この判断に変わりはない。
(エ)したがって、甲5発明3において、上記相違点5-5’’、5-6’’に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(オ)よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明16は、甲5発明3に基いて、又は甲5発明3に甲1~4、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明16は、甲5に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明16は、甲5に記載された発明に基いて、又は甲5に記載された発明に甲1~4、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)本件発明17~19、21~24について(新規性)
本件発明17~19、21~24は、本件発明16の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(6)ウのとおり、本件発明16が、甲5に記載された発明であるとはいえない以上、本件発明17~19、21~24も同様に、甲5に記載された発明であるとはいえない。
(8)本件発明17~24について(進歩性)
本件発明17~24は、本件発明16の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(6)ウのとおり、本件発明16が、甲5に記載された発明に基いて、又は甲5に記載された発明に甲1~4、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明17~24も同様に、甲5に記載された発明に基いて、又は甲5に記載された発明に甲1~4、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(9)申立理由2、5についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、2、4~14、16~19、21~24は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由2によっては、本件特許の請求項1、2、4~14、16~19、21~24に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明1~24は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由5によっては、本件特許の請求項1~24に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(新規性)、申立理由6(進歩性)
(1)甲6の記載事項及び甲6に記載された発明
ア 甲6の記載事項
甲6には、「
[図:0001421342000037.jpg]
」(翻訳:
[図:0001421342000038.jpg]
)(学位論文のタイトル)に関して、以下の記載がある。
(ア)「
[図:0001421342000039.jpg]
」(p.1
[図:0001421342000040.jpg]
)
(翻訳:
[図:0001421342000041.jpg]
(第1章 序論))
(イ)「
[図:0001421342000042.jpg]
」(p.2
[図:0001421342000043.jpg]
)
(翻訳:
[図:0001421342000044.jpg]
(第1章 序論))
(ウ)「
[図:0001421342000045.jpg]
」(p.16
[図:0001421342000046.jpg]
)
(翻訳:
[図:0001421342000047.jpg]
(2.2.2 Al-Si溶融めっき鋼板の製造方法))
(エ)「
[図:0001421342000048.jpg]
・・・
[図:0001421342000049.jpg]
」(p.26~27
[図:0001421342000050.jpg]
)
(翻訳:
[図:0001421342000051.jpg]
[図:0001421342000052.jpg]
・・・
(3.1 使用材料))
(オ)「
[図:0001421342000053.jpg]
・・・
[図:0001421342000054.jpg]
[図:0001421342000055.jpg]
[図:0001421342000056.jpg]
[図:0001421342000057.jpg]
」(p.28~30
[図:0001421342000058.jpg]
)
(翻訳:
[図:0001421342000059.jpg]
・・・
[図:0001421342000060.jpg]
(3.2 溶接装置と溶接条件及びホットスタンピング処理条件))
(カ)「
[図:0001421342000061.jpg]
」(p.62
[図:0001421342000062.jpg]
)
(翻訳:
[図:0001421342000063.jpg]
(4.3 レーザ溶接時におけるフィラーワイヤ適用溶接部の微細組織))
(キ)「
[図:0001421342000064.jpg]
[図:0001421342000065.jpg]
・・・
[図:0001421342000066.jpg]
[図:0001421342000067.jpg]
」(p.62~65
[図:0001421342000068.jpg]
)
(翻訳:
[図:0001421342000069.jpg]
[図:0001421342000070.jpg]
・・・
(4.3.1 レーザ溶接時におけるフィラーワイヤ適用ホットスタンピング処理前の溶接部の微細組織))
(ク)「
[図:0001421342000071.jpg]
・・・
[図:0001421342000072.jpg]
・・・
[図:0001421342000073.jpg]
」(p.67~69
[図:0001421342000074.jpg]
)
(翻訳:
[図:0001421342000075.jpg]
・・・
[図:0001421342000076.jpg]
[図:0001421342000077.jpg]
・・・」(4.3.2 レーザ溶接時におけるフィラーワイヤ適用ホットスタンピング処理後の溶接部の微細組織))
(ケ)「
[図:0001421342000078.jpg]
・・・
[図:0001421342000079.jpg]
[図:0001421342000080.jpg]
・・・
[図:0001421342000081.jpg]
[図:0001421342000082.jpg]
」(p.70~76
[図:0001421342000083.jpg]
)
(翻訳:
[図:0001421342000084.jpg]
・・・
[図:0001421342000085.jpg]
・・・
(4.3.2.1 フィラーワイヤ適用溶融部内部の微細組織))
(コ)「
[図:0001421342000086.jpg]
」(p.89
[図:0001421342000087.jpg]
)
(翻訳:
[図:0001421342000088.jpg]
(第5章 結論))
イ 甲6に記載された発明
上記ア(ク)、(ケ)に摘記したBタイプに着目し、上記ア(ア)、(ウ)~(キ)、(コ)に摘記した事項を踏まえて整理すると、甲6には、次の発明が記載されていると認められる。
「厚さ1.2mmのボロン鋼の化学組成が、wt.%で、C:0.23%、Si:0.24%、Mn:1.19%、Cr:0.18%、Nb:0.003%、Ti:0.04%、B:0.002%を含むものであり、両表面にAl-10wt.%Siでめっきが施されているボロン鋼板と同種の突合せレーザ溶接を、最大出力4kWのNd:YAGレーザ溶接装置を使用し、1.75wt%Niが添加されたフィラーワイヤを適用して行うことで、溶融部を有する溶接材を製造する方法。」(以下、「甲6発明1」という。)
「甲6発明1の方法によって製造される溶接材。」(以下、「甲6発明2」という。)
「甲6発明2の溶接材を、約950℃の電気炉で約5分間保持した後、850℃で金型冷却を行うホットスタンピング処理によって製造される部品。」(以下、「甲6発明3」という。)
(2)本件発明1について(新規性、進歩性)
ア 対比
本件発明1と甲6発明1とを対比する。
(ア)甲6発明1の「溶接材」は、「ボロン鋼板と同種の突合せレーザ溶接を」「行うことで」「製造」されたものであるから、甲6発明1における「溶接材を製造する方法」は、本件発明1における「溶接鋼ブランク(1)の製造方法」に相当する。
(イ)上記(1)ア(オ)に摘記した図3.2を踏まえると、甲6発明1における「両表面にAl-10wt.%Siでめっきが施されているボロン鋼板と同種(の両表面にAl-10wt.%Siでめっきが施されているボロン鋼板)」は、本件発明1における「2枚のプレコート板(2)」に相当する。
(ウ)甲6発明1におけるボロン鋼板の「両表面」は、本件発明1における「プレコート板(2)」「の主面(4)の少なくとも1つ」に相当するから、甲6発明1において、「ボロン鋼板と同種(のボロン鋼板)」の「両表面にAl-10wt.%Siでめっきが施されている」ことは、本件発明1において、「各プレコート板(2)が、その主面(4)の少なくとも1つにプレコーティング(5)を有」することに相当する。
(エ)上記(1)ア(ウ)によれば、甲6発明1における「アルミニウム-シリコン被覆」は、鉄鋼表面のFeとAl(Si)との合金層と、その合金層の上のAl(Si)付着めっきとを有するものであるから、本件発明1における「少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層(9)、並びに任意で前記金属間合金層(9)の上に延伸する」「アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層であ」る「金属合金層(11)を含」む「プレコーティング(5)」に相当する。
(オ)上記(1)ア(エ)によれば、甲6発明1における「両表面にAl-10wt.%Siでめっきが施されているボロン鋼板」は、「ホットスタンピング処理時の焼入れ性を向上させるために、ボロンを約20ppm添加し」ているものであるから、本件発明1における「プレス硬化性鋼でできて」いる「鋼基材(3)を含む」「プレコート板(2)」に相当する。
(カ)甲6発明1において、「両表面にAl-10wt.%Siでめっきが施されているボロン鋼板と同種の突合せレーザ溶接を、」「1.75wt%Niが添加されたフィラーワイヤを適用して行うことで、溶融部を有する溶接材を製造する」ことは、本件発明1において、「フィラーワイヤ(20)を使用して前記プレコート板(2)を突合せ溶接して、前記プレコート板(2)間の接合部に溶接継手(22)を形成する」ことに相当する。
(キ)そうすると、本件発明1と甲6発明1とは、
「溶接鋼ブランク(1)の製造方法であって、以下の連続工程:
- 2枚のプレコート板(2)を準備する工程であって、鋼基材(3)を含む各プレコート板(2)が、その主面(4)の少なくとも1つにプレコーティング(5)を有し、前記プレコーティング(5)が、少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層(9)、並びに任意で前記金属間合金層(9)の上に延伸する金属合金層(11)を含み、前記金属合金層(11)が、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層であり、前記基材(3)が、プレス硬化性鋼でできている工程、
- フィラーワイヤ(20)を使用して前記プレコート板(2)を突合せ溶接して、前記プレコート板(2)間の接合部に溶接継手(22)を形成する工程
を含む、
製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点6-1>
本件発明1における「基材(3)」は、「0.8mm~5mmの間の厚さを有」するのに対し、甲6発明1における「ボロン鋼(板)」は、「厚さ1.2mm」であるものの、当該厚さが「Al-10wt.%Si」「めっき」の厚さまで含むものであるのか不明であるため、基材自体の厚さは不明である点。
<相違点6-2>
本件発明1では、「前記プレコート板(2)の少なくとも1枚について、前記基材(3)の鋼が、重量で
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である」のに対し、甲6発明1では、「2枚」の「ボロン鋼の化学組成が、wt.%で、C:0.23%、Si:0.24%、Mn:1.19%、Cr:0.18%、Nb:0.003%、Ti:0.04%、B:0.002%を含むものであり」、上記(1)ア(エ)に摘記した表によれば、当該「化学組成」がAl、S、Pを含有するのか不明であったり、Nbを含有したり、「残部が、鉄及び生産から生じる不純物である」のか不明であったりする点。
<相違点6-3>
本件発明1では、「突合せ溶接時に前記プレコーティング(5)が、各プレコート板(2)の少なくとも1つの主面(4)の全体を被覆している」のに対し、甲6発明1では、突合せレーザ溶接時にAl-10wt.%Siめっきがボロン鋼板と同種(のボロン鋼板)の両表面の「全体」に存在しているのか不明である点。
<相違点6-4>
本件発明1では、「フィラーワイヤ(20)が、0.01wt%~0.45wt%の間(基準C1)の炭素含有量を有する」のに対し、甲6発明1では、「フィラーワイヤ」に「1.75wt%Niが添加され」ているものの、C(炭素)の含有量は不明である点。
<相違点6-5>
本件発明1では、「フィラーワイヤ(20)の組成及び溶接プールに添加される前記フィラーワイヤ(20)の割合を、得られた前記溶接継手(22)が、」「以下の特徴:
(a)前記溶接継手(22)の焼入れ係数FTWJが、
【数1】
[図:0001421342000089.jpg]
(基準C2)であり、
式中、
- FTBMが、前記2枚のプレコート板(2)の前記鋼基材(3)のうち、最も硬化性の低い鋼基材(3)の前記焼入れ係数であり、
- 前記焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、次の式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi2-1532xC2-5xMn2-127xSi2-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は前記溶接継手(22)であり、FTBMの場合は最も硬化性の低い基材であること」「を有するように選択する」のに対し、甲6発明1では、「溶融部」の化学組成が不明であるため、「フィラーワイヤ」の化学組成及び溶接プールに添加される「フィラーワイヤ」の割合を、得られた「溶融部」が上記特徴を有するように選択したのか不明である点。
<相違点6-6>
本件発明1では、「フィラーワイヤ(20)の組成及び溶接プールに添加される前記フィラーワイヤ(20)の割合を、得られた前記溶接継手(22)が、」「以下の特徴:」「(b)前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが0.15wt%以上の場合、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000(基準C3)、ここで、前記溶接継手(22)の前記軟化係数FAWJが、前記溶接継手(22)のアルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9xSi-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMn
を使用して計算されること」「を有するように選択する」のに対し、甲6発明1では、「溶融部」の化学組成が不明であるため、「フィラーワイヤ」の化学組成及び溶接プールに添加される「フィラーワイヤ」の割合を、得られた「溶融部」が上記特徴を有するように選択したのか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点6-5、6-6についてまとめて検討すると、上記(1)ア(キ)に摘記したとおり、甲6には、甲6発明1の「溶融部」における領域FA1及び領域FA2での化学組成は記載されているが、当該「溶融部」全体の平均化学組成は記載されておらず、甲6発明1が上記相違点6-5に係る発明特定事項中の「基準C2」及び上記相違点6-6に係る発明特定事項中の「基準C3」を満たすものであるのか不明であるから、上記相違点6-5、6-6はそれぞれ実質的な相違点であるといえる。
(イ)上記(ア)で検討した事項について、申立人は、特許異議申立書の162~164ページにおいて、以下のとおり主張している。
「Bスチールについて、甲第6号証の26頁には、以下の通り記載される。表3.1は27頁に記載される。この数値からFTBMを計算すると520.18となる。」
「溶接部の組成について、甲第6号証の71頁には、以下の通り記載される。表4.8は76頁に記載される。この数値から、FTWJを計算すると508.91となる。なお、領域FH3、FH4の数値を平均してFTWJを計算した。」
「上記の計算結果をFTWJ-0.9FTBMに当てはめると、40.738となり、FTWJ-0.9FTBM≧0(基準C2)を満たす。
以上のとおり、甲6発明は本件発明1の条件(a)を満たし、相違点F1-1に係る構成は相違点ではない。」
「上記(イ)で述べた通り、甲第6号証には、溶接部の組成が表4.8に記載される。この数値から、炭素含有量CWJは0.22wt%であり、FTWJを計算すると10545.36となる。なお、領域FH3、FH4の数値を平均してFTWJを計算した。すなわち、溶接部の炭素含有量CWJが0.15wt%以上であり、FAWJ>5000(基準C3)を満たす。
以上のとおり、甲6発明は本件発明1の条件(b)を満たし、相違点F1-2に係る構成は相違点ではない。」
(ウ)そこで、上記主張について検討すると、上記(1)ア(ケ)に摘記したとおり、領域FH3及び領域FH4はそれぞれホットスタンピング処理後の融合ゾーンにおける領域であり、上記(ア)で述べたとおり、領域FA1及び領域FA2がそれぞれホットスタンピング処理前の融合ゾーンにおける領域であるから、本件発明1についての主張としては、前提において誤っているといわざるを得ない。
この点をおくとしても、甲6発明1のホットスタンピング処理前の融合ゾーンにおける領域FA1及び領域FA2以外の領域での化学組成並びに甲6発明3のホットスタンピング処理後の融合ゾーンにおける領域FH3及び領域FH4以外の領域での化学組成はそれぞれ不明であるから、「融合ゾーン」全体の平均化学組成はいずれについても不明であるというほかなく、申立人の上記主張を採用することはできない。
(エ)次に、上記相違点6-5、6-6の容易想到性について検討すると、甲6に、上記「基準C2」及び上記「基準C3」を満たすことは記載も示唆もされていないから、甲6発明1において、上記相違点6-5、6-6に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとする動機付けがあるとはいえない。
(オ)そして、甲1~5、7~12に記載された発明並びに特許異議申立書に記載された周知技術及び技術常識を考慮しても、上記(エ)の判断に変わりはない。
(カ)したがって、甲6発明1において、上記相違点6-5、6-6に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(キ)よって、上記相違点6-1~6-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6発明1に基いて、又は甲6発明1に甲1~5、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲6に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲6に記載された発明に基いて、又は甲6に記載された発明に甲1~5、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2、4~14について(新規性)
本件発明2、4~14は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲6に記載された発明であるとはいえない以上、本件発明2、4~14も同様に、甲6に記載された発明であるとはいえない。
(4)本件発明2~14について(進歩性)
本件発明2~14は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲6に記載された発明に基いて、又は甲6に記載された発明に甲1~5、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2~14も同様に、甲6に記載された発明に基いて、又は甲6に記載された発明に甲1~5、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件発明15について(新規性、進歩性)
ア 対比
本件発明15と甲6発明2とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。なお、甲6発明2における「溶接材」は、本件発明15における「溶接鋼ブランク(1)」に相当する。
<相違点6-5’>
本件発明15では、「溶接鋼ブランク(1)」の「溶接継手(22)が、
(a)前記溶接継手(22)の焼入れ係数FTWJが、
【数3】
[図:0001421342000090.jpg]
(基準C2)であり、
式中
- FTBMが、2枚の前記プレコート板(2)の前記鋼基材(3)のうち、硬化性が最も低い鋼基材(3)の焼入れ係数であり、
- 前記焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi2-1532xC2-5xMn2-127xSi2-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は前記溶接継手(22)であり、FTBMの場合は硬化性が最も低い基材であること」「を特徴とし」ているのに対し、甲6発明2では、「溶融部」の化学組成が不明であるため、溶接材の「溶融部」が上記特徴を有するのか不明である点。
<相違点6-6’>
本件発明15では、「溶接鋼ブランク(1)」の「溶接継手(22)が、」「(b)前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%以上の場合、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000(基準C3)となり、式中、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、アルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、前記溶接継手(22)中の、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9xSi-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMnを使用して計算されること」「を特徴とし」ているのに対し、甲6発明2では、「溶融部」の化学組成が不明であるため、溶接材の「溶融部」が上記特徴を有するのか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)上記相違点6-5’、6-6’についてまとめて検討すると、上記相違点6-5’、6-6’はそれぞれ上記(2)ア(キ)に示した相違点6-5、6-6と実質的に同じである。
(イ)そうすると、上記(2)イ(ア)~(ウ)で検討したのと同様の理由により、上記相違点6-5’、6-6’はそれぞれ実質的な相違点であるといえる。
(ウ)また、上記(2)イ(エ)、(オ)で検討したのと同様の理由により、甲6発明2において、上記相違点6-5’、6-6’に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとする動機付けがあるとはいえないし、甲1~5、7~12に記載された発明並びに特許異議申立書に記載された周知技術及び技術常識を考慮しても、この判断に変わりはない。
(エ)したがって、甲6発明2において、上記相違点6-5’、6-6’に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(オ)よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明15は、甲6発明2に基いて、又は甲6発明2に甲1~5、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明15は、甲6に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明15は、甲6に記載された発明に基いて、又は甲6に記載された発明に甲1~5、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件発明16について(新規性、進歩性)
ア 対比
本件発明16と甲6発明3とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。なお、甲6発明3における「甲6発明2の溶接材を、約950℃の電気炉で約5分間保持した後、850℃で金型冷却を行うホットスタンピング処理によって製造される部品」は、本件発明16における「溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品」に相当する。
<相違点6-5’’>
本件発明16では、「溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品」の「溶接継手(22)が、
(a)前記溶接継手(22)の焼入れ係数FTWJが、
【数4】
[図:0001421342000091.jpg]
(基準C2)であり、
式中、
- FTBMが、前記第1及び第2の被覆鋼部品部分の前記鋼基材(3)のうち、最も硬化性の低い鋼基材(3)の前記焼入れ係数であり、
- 前記焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi2-1532xC2-5xMn2-127xSi2-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は前記溶接継手(22)であり、FTBMの場合は硬化性が最も低い基材であること」を特徴としているのに対し、甲6発明3では、「溶融部」の化学組成が不明であるため、部品の「溶融部」が上記特徴を有するのか不明である点。
<相違点6-6’’>
本件発明16では、「溶接、熱間プレス成形及び冷却された鋼部品」の「溶接継手(22)が、」「(b)前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%以上の場合は、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000であり(基準C3)、式中、前記溶接継手(22)の前記軟化係数FAWJが、前記溶接継手(22)のアルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9xSi-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMn
を使用して計算され」ることを特徴としているのに対し、甲6発明3では、「溶融部」の化学組成が不明であるため、部品の「溶融部」が上記特徴を有するのか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)上記相違点6-5’’、6-6’’についてまとめて検討すると、上記相違点6-5’’、6-6’’はそれぞれ上記(2)ア(キ)に示した相違点6-5、6-6と実質的に同じである。
(イ)そうすると、上記(2)イ(ア)~(ウ)で検討したのと同様の理由により、上記相違点6-5’’、6-6’’はそれぞれ実質的な相違点であるといえる。
(ウ)また、上記(2)イ(エ)、(オ)で検討したのと同様の理由により、甲6発明3において、上記相違点6-5’’、6-6’’に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとする動機付けがあるとはいえないし、甲1~5、7~12に記載された発明並びに特許異議申立書に記載された周知技術及び技術常識を考慮しても、この判断に変わりはない。
(エ)したがって、甲6発明3において、上記相違点6-5’’、6-6’’に係る発明特定事項をそれぞれ備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(オ)よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明16は、甲6発明3に基いて、又は甲6発明3に甲1~5、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明16は、甲6に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明16は、甲6に記載された発明に基いて、又は甲6に記載された発明に甲1~5、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)本件発明17~19、21~24について(新規性)
本件発明17~19、21~24は、本件発明16の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(6)ウのとおり、本件発明16が、甲6に記載された発明であるとはいえない以上、本件発明17~19、21~24も同様に、甲6に記載された発明であるとはいえない。
(8)本件発明17~24について(進歩性)
本件発明17~24は、本件発明16の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(6)ウのとおり、本件発明16が、甲6に記載された発明に基いて、又は甲6に記載された発明に甲1~5、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明17~24も同様に、甲6に記載された発明に基いて、又は甲6に記載された発明に甲1~5、7~12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(9)申立理由3、6についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、2、4~14、16~19、21~24は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由3によっては、本件特許の請求項1、2、4~14、16~19、21~24に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件発明1~24は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由6によっては、本件特許の請求項1~24に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由7(進歩性)
(1)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
ア 甲2の記載事項
甲2には、「レーザー溶接継手、自動車部品、レーザー溶接継手の製造方法および自動車部品の製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(ア)【請求項1】
複数の鋼板の間に設けられた溶接金属を有するレーザー溶接継手であって、
前記溶接金属の化学組成が、質量%で、
C:0.05~0.30%、
Si:0.005~3.0%、
Al:0.005~1.0%、
Mn:0.5~6.0%、
P:0超~0.04%、
S:0超~0.01%、
N:0超~0.01%、
O:0超~0.01%、
Cu:0~1.0%、
Nb+Ti+V:0~0.2%、
Ca+REM:0~0.01%、
B:0~0.01%、
Cr:0~5.0%、
Ni:0~10.0%、
Mo:0~1.0%、及び
残部:Feおよび不純物
を含むとともに、
0.3≦Si+200×S-2.7×C≦3.0を満たし、
前記溶接金属の平均硬さがビッカース硬さで350~540であり、
前記溶接金属では、直径2μm~50μmのポロシティの分布密度が5.0個/mm2以下であり、
前記溶接金属では、直径3μm以上の酸化物系介在物の分布密度が0.1~8.0個/mm2である
ことを特徴とするレーザー溶接継手。
・・・
【請求項6】
前記複数の鋼板のうちの少なくとも1つがめっき鋼板である
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のレーザー溶接継手。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のレーザー溶接継手を有する
ことを特徴とする自動車部品。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載のレーザー溶接継手の製造方法であって、
複数の鋼板を、絶対湿度が5~25g/m3以下の雰囲気下で8m/min以下の溶接速度でレーザー溶接することにより、前記複数の鋼板同士を接合する溶接金属を形成するレーザー溶接工程と、
溶接後の前記複数の鋼板を10~100℃の温度域で下記の(3)式で規定される時間保持する保持工程と、
を備え、
前記溶接金属の化学組成が、質量%で、
C:0.05~0.30%、
Si:0.005~3.0%、
Al:0.005~1.0%、
Mn:0.5~6.0%、
P:0超~0.04%、
S:0超~0.01%、
N:0超~0.01%、
O:0超~0.01%、
Cu:0~1.0%、
Nb+Ti+V:0~0.2%、
Ca+REM:0~0.01%、
B:0~0.01%、
Cr:0~5.0%、
Ni:0~10.0%、
Mo:0~1.0%、及び
残部:Feおよび不純物
を含むとともに、
0.3≦Si+200×S-2.7×C≦3.0
を満たす
ことを特徴とするレーザー溶接継手の製造方法。
t≧7000×C-400 (3)式
ただし、(3)式においてtは単位を分とする時間を示す。
・・・
【請求項11】
前記複数の鋼板のうちの少なくとも1つがめっき鋼板である
ことを特徴とする請求項8~10のいずれか一項に記載のレーザー溶接継手の製造方法。
【請求項12】
請求項1~6のいずれか一項に記載のレーザー溶接継手にプレス成形を施す
ことを特徴とする自動車部品の製造方法。
【請求項13】
請求項8~11のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されたレーザー溶接継手にプレス成形を施す
ことを特徴とする自動車部品の製造方法。
(イ)「【0017】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、プレス成形時に溶接金属において発生する割れを抑制することが可能なレーザー溶接継手、自動車部品、該レーザー溶接継手の製造方法および該自動車部品の製造方法を提供することを目的とする。」
(ウ)「【0027】
以下、本発明の一実施形態に係るレーザー溶接継手(以下、単に溶接継手という。)およびその製造方法について説明する。なお、以下の化学組成の説明において、特に規定しない場合には、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
【0028】
本実施形態に係る溶接継手は、たとえば、テーラードブランク材であり、複数(たとえば、2枚)の鋼板と、該複数の鋼板の接合部に形成される溶接金属とを有する。複数の鋼板は、レーザーを用いて突き合わせ溶接される。また、本実施形態に係る溶接継手にプレス成形を施すことによって、自動車部品が得られる。
尚、各鋼板の板厚は、0.5mm~4.0mmであればよい。自動車部品として用いられる場合には、0.6mm~2.5mmであればよい。以下、溶接継手の各構成要素について詳細に説明する。」
(エ)「【0060】
8.鋼板の表面処理
本実施形態に係る溶接継手においては、上述の構成を有する鋼板の表面にめっき処理を施してもよい。溶接継手の素材としてめっき鋼板を用いることによって、溶接金属の拡散性水素量を低減できる。この理由は、溶接熱により蒸発しためっき成分が気体状態で溶融金属部をシールドし、その結果、溶融金属周囲の空間に存在する水分の溶融金属中への侵入を抑制するためと推定される。従って、溶接継手を構成する複数の鋼板のうちの少なくとも一つをめっき鋼板とすることが好ましく、全てをめっき鋼板とすることがより好ましい。めっきの種類は特に限定されず、溶融めっき、合金化溶融めっきおよび電気めっき等の種々のめっきを用いることができる。また、めっきの厚さも特に限定されない。めっき材料としては、たとえば、Zn、Ni、Al、FeおよびSnを用いることができる。また、合金めっきを用いてもよい。具体的には、Zn-Sn、Zn-Al-Mg、またはZn-Al-Mg-Si等の組成を有する合金めっきを用いてもよい。なお、溶接継手の素材鋼板としてめっき鋼板を用いる場合には、めっき材料の元素が不純物として溶接金属の化学組成に含まれることがある。」
(オ)「【実施例】
【0071】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
まず、下記の表1に示す化学組成および引張強度を有し、幅25mmおよび長さ250mmの鋼板A~Zを、それぞれ複数枚用意した。なお、鋼板Iについては、3種類の板厚(1.0mm、1.2mmおよび1.6mm)の鋼板を用意し、他の鋼板の板厚は1.2mmとした。鋼板Fは、冷延鋼板に合金化溶融亜鉛めっきを施しためっき鋼板(GA)であり、鋼板Jは、冷延鋼板に溶融亜鉛めっきを施しためっき鋼板(GI)であり、他の鋼板は、冷延鋼板(CR)である。
【0073】
【表1】
[図:0001421342000092.jpg]
【0074】
次に、鋼板A~Zから適宜2枚の鋼板を選択し、YAGレーザーを用いて突き合わせ溶接し、中央部に直線状の溶接線を有する幅50mmおよび長さ250mmの溶接継手1~57を作製した。次いで、溶接継手1~57に熱処理(30℃で所定時間保持)を施した。
【0075】
下記の表2、表3に、下記の項目を示す。
(a)「鋼板の組合せ」
(b)「板厚(mm)」
(c)「溶接金属の化学組成(質量%)」
(d)「鋼板のMs」
(e)「指標α」・・・Si+200S-2.7Cで示される溶融池流動性指標
【0076】
【表2】
[図:0001421342000093.jpg]
・・・
【0078】
下記の表4、表5に、下記の項目を示す。
(f)「溶接速度(m/min)」
(g)「絶対湿度(g/m3)」・・・溶接雰囲気の絶対湿度
(h)「保持時間(min)」・・・溶接終了後かつプレス成形前における、30℃での溶接継手の保持時間
(i)「規定保持時間(min)」・・・t=7000×C-400で求められる時間
(j)「溶接金属の酸素量(質量%)」・・・溶接終了後の酸素量
尚、本実施例においては溶接ワイヤーやインサートメタルを使用していないため、溶接金属の化学組成は、酸素を除き、鋼板の平均組成とほぼ同一であった。
【0079】
【表4】
[図:0001421342000094.jpg]
・・・
【0081】
その後、各溶接継手1~57について、後述するドローベンド試験を行い、溶接金属における割れの発生の有無を調査した。下記の表6、表7に、下記の項目について示す。
(k)「HVWM(HV)」・・・溶接金属の平均硬さ
(l)「ポロシティ分布密度(個/mm2)」・・・溶接金属中の直径2μm以上50μm以下のポロシティの分布密度
(m)「介在物分布密度(個/mm2)」・・・溶接金属中の直径3μm以上の酸化物系介在物の分布密度
(n)「CH(mass ppm)」・・・溶接金属中の拡散性水素量CH
(o)「(5)式の右辺値」・・・3.57-0.0066×HVWMの値
(p)「マルテンサイトの結晶構造」・・・溶接金属中のマルテンサイトの結晶構造
(q)「割れの有無」・・・保持時間経過時に行ったドローベンド試験による割れの有無
なお、全ての溶接継手1~57において、主たる金属組織は、マルテンサイトであった。表6、表7において、マルテンサイトの結晶構造をbccと示している溶接継手については、溶接金属の主たる金属組織がbcc構造のマルテンサイト組織であったことを意味し、bctと示している溶接継手は、溶接金属の主たる金属組織がbct構造のマルテンサイト組織であったことを意味する。
また、マルテンサイトの結晶構造は、X線回折法によって特定した。具体的には、X線回折法により{100}面のa軸とc軸の格子定数を測定し、軸比c/aから立方晶(bcc)か正方晶(bct)かを判断した。c/a値が1.007以下の場合をマルテンサイトの構造がbcc構造であるとした。
【0082】
【表6】
[図:0001421342000095.jpg]
・・・
【0090】
次に、ドローベンド試験について説明する。ドローベンド試験では、まず、上述の溶接継手1~57の両面に潤滑油を塗布した。そして、各溶接継手1~57に、図3に示すパンチ101と、ダイス102と、ブランクホルダー103とを備えるプレス試験装置100を用いて、室温にて60mm/minのパンチ速度でプレス成形(ハット成形)を施した。なお、図3に示すように、プレス試験装置100のパンチ101の直径dは100mmとし、パンチ肩半径rpは10mmとし、ダイス肩半径rdは5mmとし、パンチ101とダイス102とのクリアランスcは3mmとした。ブランクホルダー103によるプレス成形時のブランク保持力(BHF)は、プレス成形中に溶接継手の縦壁にかかる引張応力が、接合した2枚の鋼板のうちの強度が低い方の引張強度の0.5倍になるように調整した。成形高さは、60mmに設定した。なお、溶接継手は、溶接線がパンチの上面の略中央を通るようにプレス試験装置に設置した。
【0091】
プレス成形後の溶接継手1~57の溶接金属を目視およびルーペによって観察し、割れの発生の有無を調査した。その結果、表6、表7に示すように、本発明例に係る溶接継手では、プレス成形後に溶接金属において割れが確認されなかった。
・・・
【0108】
以上のように、本発明に係る溶接継手では、引張強度が350MPaを超えるような高強度鋼板を用いたレーザー溶接継手においても、プレス成形時に溶接金属において割れが発生することを防止できた。すなわち、本発明に係る溶接継手によれば、優れた成形性が得られることがわかった。」
(カ)「【図3】
[図:0001421342000096.jpg]
」
イ 甲2に記載された発明
上記ア(オ)に摘記した鋼板F及び継手10に着目し、上記ア(ア)に摘記した特許請求の範囲の記載に倣って整理すると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
「2枚の鋼板の間に設けられた溶接金属を有するレーザー溶接継手であって、
前記2枚の鋼板は、いずれも幅25mmおよび長さ250mm、板厚は1.2mm、かつ、冷延鋼板に合金化溶融亜鉛めっきを施しためっき鋼板(GA)であり、
前記2枚の鋼板の化学組成が、いずれも質量%で、
C:0.10%、
Si:0.32%、
Al:0.01%、
Mn:2.0%、
Ni:0.01%、
Cr:0.3%、
P:0.03%、
S:0.0014%、
N:0.003%、
O:0.003%、
Ti:0.04%、
B:0.001%、及び
残部:Feおよび不純物
であり、
前記溶接金属の化学組成が、質量%で、
C:0.10%、
Si:0.32%、
Al:0.01%、
Mn:2.0%、
Ni:0.01%、
Cr:0.3%、
P:0.03%、
S:0.0014%、
N:0.0025%、
O:0.0025%、
Ti:0.04%、
B:0.001%、及び
残部:Feおよび不純物
を含むとともに、
0.3≦Si+200×S-2.7×C(=0.33)≦3.0を満たし、
前記溶接金属の平均硬さがビッカース硬さで401であり、
前記溶接金属では、直径2μm~50μmのポロシティの分布密度が3.0個/mm2であり、
前記溶接金属では、直径3μm以上の酸化物系介在物の分布密度が0.31個/mm2である
レーザー溶接継手。」(以下、「甲2発明1」という。)
「甲2発明1の製造方法であって、
2枚の鋼板を、絶対湿度が15g/m3の雰囲気下で3m/minの溶接速度でレーザー溶接することにより、前記2枚の鋼板同士を接合する溶接金属を形成するレーザー溶接工程と、
溶接後の前記複数の鋼板を30℃で下記の(3)式で規定される時間を満たす1080分間保持する保持工程と、
を備えるレーザー溶接継手の製造方法。
t≧7000×C-400(=300) (3)式
ただし、(3)式においてtは単位を分とする時間を示す。」(以下、「甲2発明2」という。)
「甲2発明1のレーザー溶接継手にプレス成形を施すことによって製造される自動車部品。」(以下、「甲2発明3」という。)
(2)本件発明1について(進歩性)
ア 対比
本件発明1と甲2発明2とを対比する。
(ア)上記(1)ア(ウ)に摘記した【0028】には、「本実施形態に係る溶接継手は、たとえば、テーラードブランク材であり、複数(たとえば、2枚)の鋼板と、該複数の鋼板の接合部に形成される溶接金属とを有する。複数の鋼板は、レーザーを用いて突き合わせ溶接される。」と記載されているから、甲2発明2における「2枚の鋼板を」「レーザー溶接する」「レーザー溶接継手の製造方法」は、本件発明1における「溶接鋼ブランク(1)の製造方法」に相当する。
(イ)甲2発明2における「冷延鋼板に合金化溶融亜鉛めっきを施しためっき鋼板(GA)であ」る「2枚の鋼板」は、本件発明1における「2枚のプレコート板(2)」に相当する。
(ウ)甲2発明2において、「合金化溶融亜鉛めっき」が「2枚の鋼板」のそれぞれの主面の少なくとも1つに施されることは技術常識に照らして明らかであるから、甲2発明2において、「2枚の鋼板は、いずれも」「冷延鋼板に合金化溶融亜鉛めっきを施しためっき鋼板(GA)であ」ることは、本件発明1において、「各プレコート板(2)が、その主面(4)の少なくとも1つにプレコーティング(5)を有」することに相当する。
(エ)甲2発明2における「冷延鋼板に合金化溶融亜鉛めっきを施しためっき鋼板(GA)」は、本件発明1における「鋼基材(3)を含む」「プレコート板(2)」に相当する。
(オ)甲2発明2において、「いずれも」「冷延鋼板に合金化溶融亜鉛めっきを施しためっき鋼板(GA)であ」る「2枚の鋼板を」「レーザー溶接することにより、前記2枚の鋼板同士を接合する溶接金属を形成する」ことは、本件発明1において、「プレコート板(2)を突合せ溶接して、前記プレコート板(2)間の接合部に溶接継手(22)を形成する」ことに相当する。
(カ)本件発明1における「プレス硬化性鋼」について、本件明細書の【0054】には、「熱処理を意図された鋼、より具体的にはプレス硬化性鋼、例えばマンガンボロン鋼(22MnB5タイプの鋼など)」と記載されている。 一方、上記(1)ア(イ)には、甲2発明2について「本発明は、・・・プレス成形時に溶接金属において発生する割れを抑制することが可能なレーザー溶接継手、自動車部品、該レーザー溶接継手の製造方法および該自動車部品の製造方法を提供することを目的とする。」と記載されており、当該「プレス成形」について上記(1)ア(オ)に摘記した【0090】に「次に、ドローベンド試験について説明する。・・・そして、各溶接継手1~57に、図3に示すパンチ101と、ダイス102と、ブランクホルダー103とを備えるプレス試験装置100を用いて、室温にて60mm/minのパンチ速度でプレス成形(ハット成形)を施した。」と記載されているように、室温で施すものであることが記載されているから、甲2発明2における「2枚の鋼板」は、必ずしも「熱処理を意図された鋼」であるとはいえない。
(キ)そうすると、本件発明1と甲2発明2とは、
「溶接鋼ブランク(1)の製造方法であって、以下の連続工程:
- 2枚のプレコート板(2)を準備する工程であって、鋼基材(3)を含む各プレコート板(2)が、その主面(4)の少なくとも1つにプレコーティング(5)を有する工程、
- 前記プレコート板(2)を突合せ溶接して、前記プレコート板(2)間の接合部に溶接継手(22)を形成する工程
を含む、
製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
<相違点2-1>
本件発明1における「プレコーティング(5)」は、「少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層(9)、並びに任意で前記金属間合金層(9)の上に延伸する金属合金層(11)を含み、前記金属合金層(11)が、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層であ」るのに対し、甲2発明2における「合金化溶融亜鉛めっき」は、技術常識に照らして亜鉛合金又は亜鉛ベース合金である上に、アルミニウムを含むものであるのか不明であるため、「少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層(9)」「を含」むのか不明であり、かつ、「任意で前記金属間合金層(9)の上に延伸する」「アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層であ」る「金属合金層(11)を含」まない点。
<相違点2-2>
本件発明1における「各プレコート板」に含まれる「鋼基材(3)」は、「プレス硬化性鋼でできて」いるのに対し、甲2発明2における「2枚の」「めっき鋼板(GA)」における「合金化溶融亜鉛めっき」が施される「冷延鋼板」は、「プレス硬化性鋼でできて」いるのか不明である点。
<相違点2-3>
本件発明1における「基材(3)」は、「0.8mm~5mmの間の厚さを有」するのに対し、甲2発明2における「2枚の鋼板」は、「いずれも」「板厚は1.2mm」「であ」るものの、当該板厚は「冷延鋼板に」「施した」「合金化溶融亜鉛めっき」の厚さまで含むものであるのか不明であるため、「冷延鋼板」自体の板厚は不明である点。
<相違点2-4>
本件発明1では、「前記プレコート板(2)の少なくとも1枚について、前記基材(3)の鋼が、重量で
0.10%≦C≦0.5%
0.5%≦Mn≦3%
0.1%≦Si≦1%
0.01%≦Cr≦1%
Ti≦0.2%
Al≦0.1%
S≦0.05%
P≦0.1%
B≦0.010%
を含み、残部が、鉄及び生産から生じる不純物である」のに対し、甲2発明2では、「2枚の鋼板の化学組成が、いずれも質量%で、
C:0.10%、
Si:0.32%、
Al:0.01%、
Mn:2.0%、
Ni:0.01%、
Cr:0.3%、
P:0.03%、
S:0.0014%、
N:0.003%、
O:0.003%、
Ti:0.04%、
B:0.001%、及び
残部:Feおよび不純物であり」、「2枚の鋼板の化学組成」がNi、N、Oを含有する点。
<相違点2-5>
本件発明1では、「突合せ溶接時に前記プレコーティング(5)が、各プレコート板(2)の少なくとも1つの主面(4)の全体を被覆している」のに対し、甲2発明2では、「2枚の鋼板同士を接合する溶接金属を形成するレーザー溶接」時に合金化溶融亜鉛めっきが2枚の鋼板の「全体」に施されているのか不明である点。
<相違点2-6>
本件発明1では、「0.01wt%~0.45wt%の間(基準C1)の炭素含有量を有する」「フィラーワイヤ(20)を使用して前記プレコート板(2)を突合せ溶接」するのに対し、甲2発明2では、上記(1)ア(オ)に摘記した【0078】に「尚、本実施例においては溶接ワイヤーやインサートメタルを使用していないため、溶接金属の化学組成は、酸素を除き、鋼板の平均組成とほぼ同一であった。」と記載されているとおり、溶接ワイヤーやインサートメタルを使用していない点。
<相違点2-7>
本件発明1では、「フィラーワイヤ(20)の組成及び溶接プールに添加される前記フィラーワイヤ(20)の割合を、得られた前記溶接継手(22)が、」「以下の特徴:
(a)前記溶接継手(22)の焼入れ係数FTWJが、
【数1】
[図:0001421342000097.jpg]
(基準C2)であり、
式中、
- FTBMが、前記2枚のプレコート板(2)の前記鋼基材(3)のうち、最も硬化性の低い鋼基材(3)の前記焼入れ係数であり、
- 前記焼入れ係数FTWJ及びFTBMが、次の式、FT=128+1553xC+55xMn+267xSi+49xNi+5xCr-79xAl-2xNi2-1532xC2-5xMn2-127xSi2-40xCxNi-4xNixMnを使用して決定され、式中、Al、Cr、Ni、C、Mn及びSiが、焼入れ係数が決定される領域の、それぞれアルミニウム、クロム、ニッケル、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量であり、この領域が、FTWJの場合は前記溶接継手(22)であり、FTBMの場合は最も硬化性の低い基材であること」「を有するように選択する」のに対し、甲2発明2では、「2枚の鋼板の化学組成が、いずれも質量%で、
C:0.10%、
Si:0.32%、
Al:0.01%、
Mn:2.0%、
Ni:0.01%、
Cr:0.3%、
P:0.03%、
S:0.0014%、
N:0.003%、
O:0.003%、
Ti:0.04%、
B:0.001%、及び
残部:Feおよび不純物
であり、」「溶接金属の化学組成が、質量%で、
C:0.10%、
Si:0.32%、
Al:0.01%、
Mn:2.0%、
Ni:0.01%、
Cr:0.3%、
P:0.03%、
S:0.0014%、
N:0.0025%、
O:0.0025%、
Ti:0.04%、
B:0.001%、及び
残部:Feおよび不純物」であり、FTWJ及びFTBMを計算するといずれも431.5であるため、上記基準C2を満たすものの、相違点2-6で述べたとおり、甲2発明2は溶接ワイヤーやインサートメタルを使用していないものであるため、「溶接ワイヤーやインサートメタル」の化学組成及び溶接プールに添加される「溶接ワイヤーやインサートメタル」の割合を、得られた「溶接金属」が上記特徴を有するように選択したものではない点。
<相違点2-8>
本件発明1では、「フィラーワイヤ(20)の組成及び溶接プールに添加される前記フィラーワイヤ(20)の割合を、得られた前記溶接継手(22)が、」「以下の特徴:」「(b)前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが、0.15wt%より厳密に少ないこと、又は前記溶接継手(22)の炭素含有量CWJが0.15wt%以上の場合、前記溶接継手(22)の軟化係数FAWJが、FAWJ>5000(基準C3)、ここで、前記溶接継手(22)の前記軟化係数FAWJが、前記溶接継手(22)のアルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン、炭素、マンガン及びシリコンの、重量パーセント表示の平均含有量の関数として、式:
FA=10291+4384.1xMo+3676.9xSi-522.64xAl-2221.2xCr-118.11xNi-1565.1xC-246.67xMn
を使用して計算されること」「を有するように選択する」のに対し、甲2発明2では、「溶接金属の化学組成が、質量%で、C:0.10%」を含有するものであるため、上記基準C3を満たすものの、相違点2-6で述べたとおり、甲2発明2は溶接ワイヤーやインサートメタルを使用していないものであるため、「溶接ワイヤーやインサートメタル」の化学組成及び溶接プールに添加される「溶接ワイヤーやインサートメタル」の割合を、得られた「溶接金属」が上記特徴を有するように選択したものではない点。
イ 相違点についての判断
(ア)事案に鑑み、上記相違点2-1の容易想到性について検討すると、上記(1)ア(エ)には、「めっき材料としては、たとえば、Zn、Ni、Al、FeおよびSnを用いることができる。また、合金めっきを用いてもよい。具体的には、Zn-Sn、Zn-Al-Mg、またはZn-Al-Mg-Si等の組成を有する合金めっきを用いてもよい。」と記載されている。
(イ)そこで、甲2発明2の「合金化溶融亜鉛めっき」のめっき材料として、上記「Zn-Al-Mg、またはZn-Al-Mg」を用いれば、甲2発明2の「冷延鋼板」上に「少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層」が形成される蓋然性は高いといえる。しかしながら、「任意で前記金属間合金層」「の上に延伸する金属合金層」が「アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層」とならないことは明らかである。
(ウ)また、上記(ア)によれば、甲2発明2において、「合金化溶融亜鉛めっき」に代えて、Al又はAl合金のめっきを用いる動機付けがないとはいえない。しかしながら、上記2(1)ア(イ)には、Al-Siコーティングを有する鋼板同士がレーザービーム溶接される際に、アルミニウムが融合ゾーンで希釈される旨が記載されているから、仮に甲2発明2において、「合金化溶融亜鉛めっき」に代えて、Al又はAl合金のめっきを用いる場合にも、レーザー溶接時にめっき中のアルミニウムが融合ゾーンで希釈され、「溶接金属」の化学組成が変化する蓋然性は極めて高い。この場合、仮にめっき変更前の甲2発明2が上記相違点2-7に係る発明特定事項中の「基準C2」及び上記相違点2-8に係る発明特定事項中の「基準C3」を満たすものであったとしても、めっき変更後の甲2発明2が依然として上記「基準C2」及び上記「基準C3」を満たすものであるのか不明であるから、上記ア(キ)において、上記相違点2-7、2-8についてそれぞれ「甲2発明2では、・・・上記基準C2を満たすものの、・・・」「甲2発明2では、・・・上記基準C3を満たすものの、・・・」と述べた点も新たに相違することとなるが、甲2に、上記「基準C2」及び上記「基準C3」を満たすことは記載も示唆もされていない。
(エ)そうすると、甲2発明2において、「合金化溶融亜鉛めっき」に代えて、Al又はAl合金のめっきを用いることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(オ)そして、甲1、3、4、11、12に記載された発明並びに特許異議申立書に記載された周知技術及び技術常識を考慮しても、上記(エ)の判断に変わりはない。
(カ)したがって、甲2発明2において、上記相違点2-1に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(キ)よって、上記相違点2-2~2-8について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明2に基いて、又は甲2発明2に甲1、3、4、11、12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲2に記載された発明に基いて、又は甲2に記載された発明に甲1、3、4、11、12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2~12について(進歩性)
本件発明2~12は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲2に記載された発明に基いて、又は甲2に記載された発明に甲1、3、4、11、12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2~12も同様に、甲2に記載された発明に基いて、又は甲2に記載された発明に甲1、3、4、11、12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件発明15について(進歩性)
ア 対比
本件発明15と甲2発明1とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。なお、甲2発明1における「レーザー溶接継手」は、本件発明15における「溶接鋼ブランク(1)」に相当する。
<相違点2-1’>
本件発明15における「プレコーティング(5)」は、「少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層(9)、並びに任意で前記金属間合金層(9)の上に延伸する金属合金層(11)を含み、前記金属合金層(11)が、アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層であ」るのに対し、甲2発明1における「合金化溶融亜鉛めっき」は、技術常識に照らして亜鉛合金又は亜鉛ベース合金である上に、アルミニウムを含むものであるのか不明であるため、「少なくとも鉄及びアルミニウムを含む金属間合金層(9)」「を含」むのか不明であり、かつ、「任意で前記金属間合金層(9)の上に延伸する」「アルミニウムの層、アルミニウム合金の層又はアルミニウムベース合金の層であ」る「金属合金層(11)を含」まない点。
イ 相違点についての判断
(ア)上記相違点2-1’について検討すると、上記相違点2-1’は上記(2)ア(キ)に示した相違点2-1と実質的に同じである。
(イ)そうすると、上記(2)イ(ア)~(オ)で検討したのと同様の理由により、甲2発明1において、「合金化溶融亜鉛めっき」に代えて、Al又はAl合金のめっきを用いることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえないし、甲1、3、4、11、12に記載された発明並びに特許異議申立書に記載された周知技術及び技術常識を考慮しても、この判断に変わりはない。
(ウ)したがって、甲2発明1において、上記相違点2-1’に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(エ)よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明15は、甲2発明1に基いて、又は甲2発明1に甲1、3、4、11、12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明15は、甲2に記載された発明に基いて、又は甲2に記載された発明に甲1、3、4、11、12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件発明16について(進歩性)
ア 対比
本件発明16と甲2発明3とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。なお、甲2発明3における「自動車部品」は、本件発明16における「鋼部品」に相当する。
<相違点2-1’’>
本件発明16における「コーティング」は、「少なくとも鉄及びアルミニウムを含む」のに対し、甲2発明3における「合金化溶融亜鉛めっき」は、技術常識に照らして亜鉛合金又は亜鉛ベース合金である上に、アルミニウムを含むものであるのか不明であるため、「少なくとも鉄及びアルミニウムを含む」のか不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)上記相違点2-1’’について検討すると、上記相違点2-1’’は上記(2)ア(キ)に示した相違点2-1と実質的に同じである。
(イ)そうすると、上記(2)イ(ア)~(オ)で検討したのと同様の理由により、甲2発明3において、「合金化溶融亜鉛めっき」に代えて、Al又はAl合金のめっきを用いることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえないし、甲1、3、4、11、12に記載された発明並びに特許異議申立書に記載された周知技術及び技術常識を考慮しても、この判断に変わりはない。
(ウ)したがって、甲2発明3において、上記相違点2-1’’に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
(エ)よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明16は、甲2発明3に基いて、又は甲2発明3に甲1、3、4、11、12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上のとおり、本件発明16は、甲2に記載された発明に基いて、又は甲2に記載された発明に甲1、3、4、11、12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件発明17~24について(進歩性)
本件発明17~24は、本件発明16の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(5)ウのとおり、本件発明16が、甲2に記載された発明に基いて、又は甲2に記載された発明に甲1、3、4、11、12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明17~24も同様に、甲2に記載された発明に基いて、又は甲2に記載された発明に甲1、3、4、11、12に記載の発明若しくは周知技術又は技術常識を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)申立理由7についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~12、15~24は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由7によっては、本件特許の請求項1~12、15~24に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由8(明確性要件)及び取消理由1(明確性要件)
上記第3に示したとおり、本件訂正後の請求項12には、「前記保護ガスが、ヘリウム及び/又はアルゴンである、請求項11に記載の方法。」と記載されており、本件訂正により、請求項12に記載の「前記保護ガス」が、請求項11に記載の「保護ガス」を指し示すことが明確となった。
よって、請求項12及びこれを直接又は間接的に引用する請求項13、14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、申立理由8及び取消理由1によっては、本件特許の請求項12~14に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載された申立理由1~8及び令和 6年 3月29日付けの取消理由通知書に記載した取消理由1のいずれによっても、本件特許の請求項1~24に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~24に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701270