特許異議申立
2023-701263
ポリウレタンフォーム用発泡性組成物
- 審判番号
- 2023-701263
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-034016
- 登録番号
- 7289203
- 請求日
- 2023年11月30日
- 審決日
- 2025年06月27日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】旭有機材株式会社
- 【権利者代理人】中島 三千雄
- 【権利者代理人】中島 正博
- 【異議申立人】渋谷 都
- 【異議申立人】大塚 博明
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 近野 光知
- 審判官 小出 直也
- 分類
- P1651.121-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7289203号発明「ポリウレタンフォーム用発泡性組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7289203号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
特許第7289203号の請求項1-6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7289203号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成31年2月27日を出願日とする特許出願(特願2019-34016号)であって、令和5年6月1日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年6月9日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年11月30日に特許異議申立人 渋谷 都(以下「申立人A」という。)により、また、同年12月6日に特許異議申立人 大塚 博明(以下「申立人B」という。)により、それぞれ、本件特許の請求項1~6に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和6年 2月29日付け: 取消理由通知
同年 4月25日 : 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 5月30日付け: 訂正請求があった旨の通知(申立人A、B
宛)
同年 6月28日 : 意見書の提出(申立人A)
同年 7月 2日 : 意見書の提出(申立人B)
同年11月 7日付け: 取消理由通知(決定の予告)
令和7年 1月 8日 : 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年 1月20日付け: 訂正請求があった旨の通知(申立人A、B
宛)
同年 2月19日 : 意見書の提出(申立人A)
同年 4月24日付け: 訂正拒絶理由通知
同年 5月28日 : 意見書及び訂正請求書を補正する手続補正
書の提出
なお、令和7年1月20日付けの、訂正請求があった旨の通知に対して、申立人Bから意見書の提出はなかった。
また、令和6年4月25日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正請求書の補正について
令和7年5月28に提出された、訂正請求書を補正する手続補正書による補正は、「訂正事項1」のうち「特許請求の範囲の請求項1に、「疎水性ポリエステルポリオールを少なくとも含有し、」とあるのを、「芳香族ポリエステルポリオールを少なくとも含有し、」に訂正し、」の部分を削除し、訂正事項2~5についての記載を削除し、訂正請求書の項目「(3)訂正の理由」及び添付した「特許請求の範囲」を、訂正事項1~5の訂正に合わせて補正するものである。
上記訂正請求書の補正は、訂正事項1の一部を削除し、訂正事項2~5の全部を削除するものであって、訂正請求書の要旨を変更するものではないから、上記補正を認める。
2 訂正の内容
令和7年5月28日に提出された手続補正書によって補正された、令和7年1月8日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「ビニル重合性化合物不含の発泡性組成物にして、」とあるのを、「ビニル重合性化合物不含の吹付発泡用発泡性組成物にして、」に訂正すると共に、また特許請求の範囲の請求項1に、「炭素数が4以上の有機カルボン酸の金属塩と、」とあるのを、「炭素数が4以上の有機カルボン酸のビスマス塩と、」に訂正し、更に特許請求の範囲の請求項1に、「1-メチルイミダゾール以外のイミダゾール系触媒とを少なくとも含有すると共に、」とあるのを、「1-メチルイミダゾール以外のイミダゾール系触媒とを少なくとも含有するが、スズベースの金属触媒は不含であると共に、」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する。)
3 一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は、それぞれ、請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
4 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1の「発泡性組成物」を「吹付発泡用発泡性組成物」とし、その用途を限定するとともに、「炭素数4以上の有機カルボン酸の金属塩」の「金属」を「ビスマス」に限定し、かつ、「スズベースの金属触媒は不含である」ことを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
そして、訂正事項1による訂正のうち、発泡性組成物の用途を「吹付発泡用」とした点は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0047】における「-発泡体の作製-・・・なお、この吹付発泡において・・・」との記載に基づくものである。
また、訂正事項1による訂正のうち、「炭素数4以上の有機カルボン酸の金属塩」の「金属」を「ビスマス」に限定した点は、本件明細書の【0019】に「そのような有機カルボン酸の金属塩としては、具体的には、・・・オクチル酸ビスマス・・・等を挙げることが出来」との記載、及び実施例5において「オクチル酸ビスマス」が、実施例6において「ネオデカン酸ビスマス」が用いられていることに基づくものである。
訂正事項1による訂正のうち、「スズベースの金属触媒は不含である」との限定をした部分は、本件明細書において、スズベースの金属触媒が必須であると解すべき事情はなく、上記の訂正を行うことによって、新たな技術的事項が導入されるとはいえない。
したがって、訂正事項1による訂正は、新規事項を追加するものではない。
5 本件訂正後の独立特許要件について
特許異議の申立ては、訂正前の請求項1~6に対してされているので、当該請求項における訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
6 まとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、順に「本件発明1」~「本件発明6」のようにいう。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリオールを含む組成物Aとポリイソシアネートを含む組成物Bとから構成され、かかるポリオールとポリイソシアネートとの反応と共に、発泡剤による発泡にて、ポリウレタンフォームを与える、ビニル重合性化合物不含の吹付発泡用発泡性組成物にして、
前記組成物Aが、前記ポリオールとして、疎水性ポリエステルポリオールを少なくとも含有し、且つ触媒として、炭素数が4以上の有機カルボン酸のビスマス塩と、1-メチルイミダゾール以外のイミダゾール系触媒とを少なくとも含有するが、スズベースの金属触媒は不含であると共に、かかる組成物Aの水分率が、3%以下であり、更に、前記発泡剤として、ハイドロフルオロオレフィン及びハイドロクロロフルオロオレフィンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の有機発泡剤を、少なくとも含んでいることを特徴とするポリウレタンフォーム用発泡性組成物。
【請求項2】
前記組成物Aが、更に、非イオン性界面活性剤を含有していることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタンフォーム用発泡性組成物。
【請求項3】
前記疎水性ポリエステルポリオールが、その100g当りの水溶解度が100g以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリウレタンフォーム用発泡性組成物。
【請求項4】
前記疎水性ポリエステルポリオールが、芳香族ポリエステルポリオールであることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のポリウレタンフォーム用発泡性組成物。
【請求項5】
前記ポリオールとして、前記疎水性ポリエステルポリオールと共に、疎水性ポリエーテルポリオールが用いられて、前記組成物Aに含有せしめられることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のポリウレタンフォーム用発泡性組成物。
【請求項6】
前記疎水性ポリエステルポリオールと前記疎水性ポリエーテルポリオールとが、質量比にて、55:45~95:5の割合において用いられることを特徴とする請求項5に記載のポリウレタンフォーム用発泡性組成物。」
第4 特許異議申立理由の概要、証拠方法、取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
(1)申立人Aによる特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
申立理由1:(新規性欠如)本件発明1~5は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(なお、申立書3頁「理由の要点」には、「本件発明1~6は、甲第1号証に記載の発明と同一である」と記載されているが、申立書43頁の本件発明6についての具体的な理由には新規性欠如について何の説明もないため、申立理由1は、本件発明1~5に対してされたものと解した。)
申立理由2:(進歩性欠如)本件発明1~6は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
申立理由3:(新規性欠如)本件発明1~5は、甲第2号証に記載された発明であるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(なお、申立書5頁「理由の要点」には、「本件発明1~6は、甲第2号証に記載の発明と同一である」と記載されているが、申立書49頁の本件発明6についての具体的な理由には新規性欠如について何の説明もないため、申立理由3は、本件発明1~5に対してされたものと解した。)
申立理由4:(進歩性欠如)本件発明1~6は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
申立理由5:(新規性欠如)本件発明1~5は、甲第3号証に記載された発明であるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(なお、申立書7頁「理由の要点」には、「本件発明1~6は、甲第3号証に記載の発明と同一である」と記載されているが、申立書56頁の本件発明6についての具体的な理由には新規性欠如について何の説明もないため、申立理由5は、本件発明1~5に対してされたものと解した。)
申立理由6:(進歩性欠如)本件発明1~6は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
申立理由7:(明確性要件違反)本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(以下、申立人Aが主張する申立理由1~7を、「申立理由1A」~「申立理由7A」のようにいう。)
(2)申立人Bによる特許異議申立理由の概要
申立理由1:(新規性欠如)本件発明1~4は、甲第1号証に記載された発明であるから、本件特許の請求項1~4についての特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
申立理由2:(進歩性欠如)本件発明1~6は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~6についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(以下、申立人Bが主張する申立理由1、2を、「申立理由1B」、「申立理由2B」のようにいう。)
2 証拠方法
(1)申立人Aが申立書に添付した証拠方法
甲第1号証:特開2018-65937号公報
甲第2号証:特開2018-178096号公報
甲第3号証:特表2016-514177号公報
甲第4号証:今井嘉夫著、ポリウレタンフォーム、(株)高分子刊行会、第1版第1刷、1987年5月20日、79~81頁、表紙、奥付
甲第5号証:特開2021-116317号公報
甲第6号証:特表2011-500892号公報
甲第7号証:特開昭60-60124号公報
甲第8号証:「VOLANOL470X Polyol」の製品説明、インターネット<URL:https://www.dow.com/en-us/pdp.voranol-470x-polyol.55529z.html#overview>
甲第9号証:吉村 壽次編、化学辞典 第2版、2009年12月16日発行、1462頁、表紙、奥付
(以下、それぞれ「甲1A」~「甲9A」のようにいう。)
(2)申立人Bが申立書に添付した証拠方法
甲第1号証:特開2018-30975号公報
甲第2号証:WANNATE PM-200の技術データシート、Wanhua Chemical Group Co.,LTD、2020年11月3日
甲第3号証:特開2017-43777号公報
甲第4号証:特願2016-165958号の令和3年3月30日付けの手続補正書
甲第5号証:マキシモールRLK-087の製品安全データシート、川崎化成工業株式会社、2016年6月29日
甲第6号証:消防法令抜粋1(消防法上の危険物の定義、試験方法など)、2023年11月13日(印刷日)、総務省消防庁、インターネット
(URL:https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento227_09_sankou1-4-1.pdf)
甲第7号証:DABCO K-15の安全データシート、エアープロダクツジャパン株式会社、2010年11月18日
甲第8号証:ネオスタンU-600の製品安全データシート、日東化成株式会社、2013年3月26日
甲第9号証:特開2018-197301号公報
甲第10号証:特開2018-70707号公報
甲第11号証:特開2019-14840号公報
甲第12号証:TEDA&TOYOCAT(製品カタログ)、東ソー株式会社、2012年3月及びその抄訳
甲第13号証:特開2018-65937号公報
甲第14号証:特願2016-165958号の令和3年8月30日付けの手続補正書
甲第15号証:総務省消防庁ウェブページ、
(URL:https://www.fdma.go.jp/searchresult.html?q=%E6%B6%88%E9%98%B2%E6%B3%95%E4%BB%A4%E6%8A%9C%E7%B2%8B)
(以下、それぞれ「甲1B」~「甲15B」のようにいう。)
(3)申立人Aが令和6年6月28日提出の意見書に添付した証拠方法
参考資料1:「フォームライトスプレー」、BASF INOACポリウレタン株式会社、2020年8月、1~18頁、表紙、裏面
参考資料2:「改訂4版 熱絶縁性施工ハンドブック(吹付け硬質ウレタンフォーム断熱工事作業)」、一般社団法人日本ウレタン断熱協会、第4刷、令和5年4月1日発行、158~161頁、表紙、奥付
参考資料3:「操作 REACTOR A-25/A-XP1」、Graco社、改訂K12023、1~40頁
参考資料4:「Repair-Parts Reactor A-20」、Graco INC、Revised 8/2008、1~48頁及びその日本語訳
参考資料5:「現場発泡断熱材吹付け硬質ウレタンフォーム 標準施工マニュアル」、監修 日本パフテム株式会社、改訂2011年11月
(以下、それぞれ「参1A」~「参5A」のようにいう。)
(4)申立人Bが令和6年7月2日提出の意見書に添付した証拠方法
甲第16号証:特開2018-070707号公報
(以下、「甲16B」という。)
(5)申立人Aが令和7年2月19日提出の意見書に添付した証拠方法
参考資料6:特表2015-533912号公報
参考資料7:特開2008-303312号公報
参考資料8:特開2015-151538号公報
参考資料9:特表2015-529738号公報
参考資料10:特開2011-220628号公報
参考資料11:特開2003-555424号公報
参考資料12:須貝ら「高温・多湿状態での各種断熱材の寸法の変化および熱抵抗の低下に関する実験的研究」、福岡大学工学集報、第76号(平成18年3月)
参考資料13:田坂ら「断熱材の長期性能評価に関する研究(その7)水分・湿気による熱伝導率変化に関する実験」、日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)、2008年9月、206~209頁
参考資料14:JIS A1486:2014「発泡プラスチック系断熱材の熱抵抗の長期変化 促進試験方法」、439~473頁
(以下、それぞれ「参6A」~「参14A」のようにいう。)
(6)特許権者が令和7年5月28日提出の意見書に添付して提出した証拠方法
参考資料1:「ポリオールの水溶解度の測定方法」のGoogle検索結果、令和7年5月28日検索
参考資料2:国際公開第2006/070503号
参考資料3:日本化学会編、標準 化学用語辞典、丸善株式会社発行、第2版、平成17年3月31日、296頁、表紙、奥付
参考資料4:ウィキペディア フリー百科事典 「ポリウレタン用ポリオール」、インターネット<URL:https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=ポリウレタン用ポリオール&oldid=76964382>
参考資料5:特開2020-139006号公報
(以下、それぞれ「参1C」~「参5C」のようにいう。)
(7)当審が職権調査により発見した証拠方法
参考文献1:特開2006-320883号公報(以下、「参1」という。)
3 取消理由通知(決定の予告)の概要
当審が令和6年11月7日付けで通知した取消理由通知(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
取消理由1:(甲1Aを主引用文献とする進歩性欠如)
本件発明1~6は、甲1Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由3:(甲2Aを主引用文献とする進歩性欠如)
本件発明1~6は、甲2Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由5:(甲3Aを主引用文献とする進歩性欠如)
本件発明1~6は、甲3Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由8:(明確性要件違反)
本件特許の請求項1~6に係る発明についての特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
第5 当審の判断
当審は、本件発明1~6に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由、及び申立人A、Bが特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできないものと判断する。
以下、順に検討する。
1 取消理由1(甲1Aを主引用文献とする進歩性欠如)、申立理由1A(甲1Aによる新規性欠如)、申立理由2A(甲1Aを主引用文献とする進歩性欠如)について
取消理由1、申立理由1A、申立理由2Aは、いずれも甲1Aを主引用文献とするものであるから、まとめて検討する。
(1)甲1Aに記載された発明
甲1Aには、「ポリイソシアネート、ポリオール、三量化触媒、ウレタン触媒、発泡剤、整泡剤、難燃剤、およびカルボン酸を含み、前記ウレタン触媒が3級アミンを含む、難燃性ウレタン樹脂組成物。」が記載されており(請求項1)、その具体例として実施例1が記載されている。
実施例1では、表1の配合に従い、ポリオール化合物、整泡剤、各種触媒、発泡剤及び添加剤を混合してB液を製造し、そこにポリイソシアネート化合物であるA液を加えて発泡体を製造している(【0148】)。よって、実施例1に着目すると、甲1Aには次の発明(以下「甲1A発明」という。)が記載されているといえる。
「p-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名:マキシモールRFK-505)を21.8質量部、ポリアルキレングリコール系整泡剤(東レダウコーニング社製、製品名:SH-193)を1.7質量部、三量化触媒として2-エチルヘキサン酸カリウム0.5質量部及び東ソー社製「TOYOCAT-TRX」を0.7質量部、泡化触媒(東ソー社製、製品名:TOYOCAT-TT)を0.1質量部、ジメチルイミダゾール(東ソー社製、製品名:TOYOCAT DM70)を0.1質量部、乳酸を0.1質量部、発泡剤として水を0.6質量部、HFC-365mfcを5.7質量部、難燃剤として赤リンを9質量部、トリス(β-クロロフェニル)ホスフェートを7質量部含むB液と、ポリイソシアーネートであるMDI(日本ウレタン工業社製、製品名:ミリオネートMR-200)78.2質量部からなるA液を含む、難燃性ウレタン樹脂組成物。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1A発明とを対比する。
甲1A発明の「p-フタル酸ポリエステルポリオール・・・を・・・含むB液」は、本件発明1の「ポリオールを含む組成物A」に相当する。
本件発明1の「ポリイソシアネートを含む組成物B」について、本件明細書の【0031】には「組成物A中のポリオールと反応して、ポリウレタン(樹脂)を生成する、分子中に2つ以上のイソシアネート基(NCO基)を有する有機イソシアネート化合物(ポリイソシアネート)を主体として含むものである。」と記載されており、ポリイソシアネートを主体として含むものであればよく、混合物に限られるものではないから、甲1A発明の「ポリイソシアネートであるMDI・・・からなるA液」は、本件発明1の「ポリイソシアネートを含む組成物B」に相当する。
甲1A発明では、甲1Aの【0148】の記載からみて、B液とA液が混合され、B液中に含まれる発泡剤により難燃性ウレタン樹脂の発泡体が形成されるものと認められるから、このことは本件発明1の「かかるポリオールとポリイソシアネートとの反応と共に、発泡剤による発泡にて、ポリウレタンフォームを与える」ことに相当する。
甲1A発明の組成物には「ビニル重合性化合物」及び「スズベースの金属触媒」に相当するものは含まれていないから、このことは本件発明1の「ビニル重合性化合物不含」、「スズベースの金属触媒は不含である」に相当する。
甲1A発明の「p-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名:マキシモールRFK-505)」は、本件明細書の実施例で用いられている「テレフタル酸系ポリエステルポリオール(川崎化成工業株式会社製RFK-505)(水溶解度:20g/100g-ポリオール)」(【0049】)と同じものと認められるから、本件発明1の「疎水性ポリエステルポリオール」に相当する。
甲1A発明の「ジメチルイミダゾール」は、本件発明1の「1-メチルイミダゾール以外のイミダゾール系触媒」に相当する。
そうすると、両者は、
「ポリオールを含む組成物Aとポリイソシアネートを含む組成物Bとから構成され、かかるポリオールとポリイソシアネートとの反応と共に、発泡剤による発泡にて、ポリウレタンフォームを与える、ビニル重合性化合物不含の発泡性組成物にして、
前記組成物Aが、前記ポリオールとして、疎水性ポリエステルポリオールを少なくとも含有し、且つ触媒として、1-メチルイミダゾール以外のイミダゾール系触媒とを少なくとも含有するが、スズベースの金属触媒は不含である、ポリウレタンフォーム用発泡性組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
(相違点1-1)
組成物Aの水分率が、本件発明1では「3%以下」であるのに対し、甲1A発明ではその値が不明な点
(相違点1-2)
「発泡剤」として、本件発明1では、「ハイドロフルオロオレフィン及びハイドロクロロフルオロオレフィンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の有機発泡剤」を少なくとも含んでいるのに対し、甲1A発明では「HFC-365mfc」(ハイドロフルオロカーボン)を含む点
(相違点1-3)
「発泡性組成物」が、本件発明1では「吹付発泡用発泡性組成物」であるのに対し、甲1A発明ではそのような特定がない点
(相違点1-4)
「触媒」として、本件発明1では「炭素数が4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」を含むのに対し、甲1A発明では「2-エチルヘキサン酸カリウム」を含む点
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点1-4について検討する。
甲1Aには、触媒として用いる「2-エチルヘキサン酸カリウム」に関して、次の記載がある。
「【0042】
3.触媒
本発明の組成物は、触媒として三量化触媒及びウレタン触媒(樹脂化触媒、泡化触媒)を含む。
・・・
【0044】
三量化触媒とし.ては、 トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4-ビス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジアルキルアミノアルキル)ヘキサヒドロ-S-トリアジン等の窒素含有芳香族化合物;
酢酸カリウム、2-エチルヘキサン酸カリウム、オクチル酸カリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩、
トリメチルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、トリフェニルアンモニウム塩等の3級アンモニウム塩;
テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム、テトラフェニルアンモニウム塩等の4級アンモニウム塩等などが挙げられる。」(下線は当審において付した。)
そうすると、甲1A発明の「2-エチルヘキサン酸カリウム」は、甲1Aの【0044】に記載された「カルボン酸アルカリ金属塩」の例であるところ、「ビスマス」はアルカリ金属塩ではないから、甲1Aの上記記載を考慮しても、相違点1-4に係る構成を本件発明1のようにすることが当業者に動機付けられるとはいえない。
そして、甲1Aの【0042】~【0052】には、触媒として「カルボン酸アルカリ金属塩」以外にも各種のものが例示されているものの、有機カルボン酸のビスマス塩については記載がないし、ましてや「炭素数が4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」については何ら記載がないから、甲1A発明の「2-エチルヘキサン酸カリウム」を「炭素数が4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」とし、相違点1-4に係る構成とすることは当業者が容易に想到することではない。
また、甲3Aの【0030】にはポリウレタン製造触媒触媒として「2-エチルヘキサン酸ビスマス」が、甲6Aの請求項11、12にはポリウレタン製造触媒として「ビスマス・・・を含む有機金属化合物」が記載されてはいるものの、ビスマス塩は甲1Aの【0044】に記載された「カルボン酸アルカリ金属塩」ではないことから、甲1A発明における「2-エチルヘキサン酸カリウム」の代替品として当業者が直ちに採用するものではないし、甲3A及び甲6Aの記載から、ウレタン樹脂組成物の触媒としてビスマス塩が周知であるとしても、ビスマス塩は主に樹脂化触媒(甲1Bの【0057】、甲11Bの【0031】)、泡化触媒(甲10Bの【0031】)として用いられるものであるから、甲1Aにおいて「三量化触媒」(【0044】)として用いられる2-エチルヘキサン酸カリウムに代えて用いる動機付けがあるともいえない。
さらに、本件発明1はビスマス塩の中でも特に「炭素数4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」を用いるものであり、炭素数が1~3の有機カルボン酸の塩では濁り性の評価結果、熱伝導率の変化率が劣るものであるところ(本件明細書の比較例1~3)、甲1A及び申立人Aが周知技術として提示する文献には、「炭素数4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」を用いることでそのような効果が得られることについて記載も示唆もなく、周知のウレタン触媒の中から「炭素数4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」を用いることにより、濁りが少なく、中長期に亘る熱伝導率の変化を低く抑えられるということが、当業者が容易に想到することであるとはいえない。
の
さらに、甲4A、甲5A、甲7A、甲8Aには、触媒として「炭素数4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」を用いることは記載も示唆もない。
したがって、相違点1-1~1-3について検討するまでもなく、本件発明1は甲1Aに記載された発明であるとも、また甲1Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 申立人Aの主張について
申立人Aは、令和7年2月19日提出の意見書において、
「ここで、ウレタン樹脂組成物の触媒として、カリウム塩と同様に、ビスマス塩が用いられることは、・・・例えば甲3Aの段落0030の記載、甲6Aの請求項11及び12並びに段落0031の記載、・・・に記載のとおり、周知の技術的事項であり、さらに、ビスマス塩として炭素数が4以上の有機カルボン酸のビスマス塩は、・・・が記載されており、これも、周知のビスマス塩といえる。
してみると、甲1A発明において、周知の触媒である炭素数が4以上の有機カルボン酸のビスマス塩を用いることは、当業者であれば容易に想到し得ることに過ぎない。」(意見書7頁4~15行)
と主張する。
しかし、この主張については、上記イで述べたとおりであるから、採用することはできない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は甲1Aに記載された発明であるとも、また甲1Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(2)本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲1Aに記載された発明であるとも、また甲1Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明2~6についても同様に判断される。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、取消理由1、申立理由1A、2Aによっては、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由2(甲2Aを主引用文献とする進歩性欠如)、申立理由3A(甲2Aによる新規性欠如)、申立理由4A(甲2Aを主引用文献とする進歩性欠如)について
取消理由2、申立理由3A、申立理由4Aは、いずれも甲2Aを主引用文献とするものであるから、まとめて検討する。
(1)甲2Aに記載された発明
甲2Aには、「ポリオール化合物、発泡剤、フィラー、酸化金属微粒子を含み、前記発泡剤がハイドロフルオロオレフィンであり、前記酸化金属微粒子の表面が疎水化処理されていることを特徴とする、ポリオール組成物。」が記載されており、(請求項1)、さらに触媒及び/又は整泡剤を含むこと(請求項2)、そのポリオール組成物をポリイソシアネート化合物と混合してポリウレタンフォームを製造すること(請求項8)も記載されている。
そして、そのポリオール組成物の具体例として、実施例1が記載されている。
請求項8の記載から、甲2Aには、請求項1のポリオール組成物とポリイソシアネート化合物とからなる、ポリウレタンフォームを製造するための組成物が記載されているといえ、実施例1のポリオール組成物と請求項8に着目すると、甲2Aには次の発明(以下「甲2A発明」という。)が記載されているといえる。
「ポリオール化合物としてp-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名:マキシモールRLK-087)を100質量部、整泡剤としてポリアルキレングリコール系整泡剤(東レダウコーニング社製、製品名:SH-193)を6.3質量部、三量化触媒として2-エチルヘキサン酸カリウムを3.7質量部及び東ソー社製TOYOCAT-TRXを11.2質量部、ウレタン触媒として東ソー社製TOYOCAT-TTを3.7質量部及び東ソー社製TOYOCAT-DM70を3.7質量部、発泡剤として水を0.9質量部及びHFO(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン)を44.8質量部、フィラーとしてポリリン酸アンモニウムを44.8質量部、金属微粒子として疎水化処理酸化ケイ素微粒子(疎水性基:ジメチルシリル)を2.8質量部、液体難燃剤としてリン酸エステルを44.8質量部含むポリオール組成物と、ポリイソシアネート化合物とからなる、ポリウレタンフォームを製造するための組成物。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2A発明とを対比する。
甲2A発明の「ポリオール組成物」は本件発明1の「ポリオールを含む組成物A」に相当する。
甲2A発明の「ポリイソシアネート化合物」は、1(2)アで検討したのと同様の理由により、本件発明1の「ポリイソシアネートを含む組成物B」に相当する。
甲2A発明の組成物は、ポリオール組成物のポリオールとポリイソシアネートが反応してポリウレタンを与え、かつ発泡剤による発泡でフォームを形成するものと認められるから、本件発明1の「ポリオールとポリイソシアネートとの反応と共に、発泡剤による発泡にて、ポリウレタンフォームを与える」「発泡性組成物」に相当する。
甲2A発明の組成物にはビニル重合性化合物及びスズベースの金属触媒は含まれていないから、このことは本件発明1の「ビニル重合性化合物不含」、「スズベースの金属触媒は不含である」に相当する。
甲2A発明の「p-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名:マキシモールRLK-087)」は、本件発明1の「ポリエステルポリオール」に相当する。
甲2A発明の発泡剤である「HFO(トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン)」は、本件発明1の「ハイドロクロロフルオロオレフィン」からなる「有機発泡剤」に相当する。
そうすると、両者は
「ポリオールを含む組成物Aとポリイソシアネートを含む組成物Bとから構成され、かかるポリオールとポリイソシアネートとの反応と共に、発泡剤による発泡にて、ポリウレタンフォームを与える、ビニル重合性化合物不含の発泡性組成物にして、
前記組成物Aが、前記ポリオールとして、ポリエステルポリオールを少なくとも含有し、且つ触媒として、スズベースの金属触媒は不含であると共に、更に、前記発泡剤として、ハイドロフルオロオレフィン及びハイドロクロロフルオロオレフィンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の有機発泡剤を、少なくとも含んでいる
ポリウレタンフォーム用発泡性組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
(相違点2-1)
ポリエステルポリオールとして、本件発明1では「疎水性」のものを用いるのに対し、甲2A発明ではそのことが明らかでない点
(相違点2-2)
「触媒」として、本件発明1では「1-メチルイミダゾール以外のイミダゾール系触媒」を含有する」のに対し、甲2A発明ではそのことが明らかでない点
(相違点2-3)
組成物Aの水分率が、本件発明1では「3%以下」であるのに対し、甲2A発明ではそのことが明らかでない点
(相違点2-4)
「発泡性組成物」が、本件発明1では「吹付発泡用発泡性組成物」であるのに対し、甲2A発明ではそのような特定がない点
(相違点2-5)
「触媒」として、本件発明1では「炭素数が4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」を含有するのに対し、甲2A発明では「2-エチルヘキサン酸カリウム」を含有する点
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点2-5について検討する。
甲2Aには、触媒として用いる「2-エチルヘキサン酸カリウム」に関して、次の記載がある。
「【0041】
触媒としては、三量化触媒及びウレタン触媒(樹脂化触媒、泡化触媒)が挙げられる。
・・・
【0042】
三量化触媒としては、 トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4-ビス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジアルキルアミノアルキル)ヘキサヒドロ-S-トリアジン等の窒素含有芳香族化合物;
酢酸カリウム、2-エチルヘキサン酸カリウム、オクチル酸カリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩、
トリメチルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、トリフェニルアンモニウム塩等の3級アンモニウム塩;
テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム、テトラフェニルアンモニウム塩等の4級アンモニウム塩等などが挙げられる。」(下線は当審において付した。)
そうすると、甲2A発明の「2-エチルヘキサン酸カリウム」は、甲2Aの【0042】に記載された「カルボン酸アルカリ金属塩」の例であるところ、「ビスマス」はアルカリ金属塩ではないから、甲2Aの上記記載を考慮しても、相違点2-5に係る構成を本件発明1のようにすることが当業者に動機付けられるとはいえない。
そして、甲2Aの【0041】~【0049】には、触媒として「カルボン酸アルカリ金属塩」以外にも各種のものが例示されているものの、有機カルボン酸のビスマス塩については記載がないし、ましてや「炭素数4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」については何ら記載がないから、甲2A発明の「2-エチルヘキサン酸カリウム」を「炭素数が4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」とし、相違点2-5に係る構成とすることは当業者が容易に想到することではない。
また、甲3Aの【0030】にはポリウレタン製造触媒触媒として「2-エチルヘキサン酸ビスマス」が、甲6Aの請求項11、12にはポリウレタン製造触媒として「ビスマス・・・を含む有機金属化合物」が記載されてはいるものの、上記1(2)イで述べたのと同様の理由により、これらの記載を参酌しても、相違点2-5に係る構成を本件発明1のようにすることは、当業者が容易に想到することではない。
さらに、甲4A、甲5A、甲7A、甲8Aには、触媒として「炭素数4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」を用いることは記載も示唆もない。
したがって、相違点2-1~2-4について検討するまでもなく、本件発明1は甲2Aに記載された発明であるとも、また甲2Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 申立人Aの主張について
申立人Aは、令和7年2月19日提出の意見書において、相違点2-5に関して上記1(2)ウで示したのと同様のことを主張するが、甲2A及び申立人Aが提示する周知技術を示す文献には、「炭素数4以上」の有機カルボン酸のビスマス塩を用いることにより、濁りが少なく、中長期に亘る熱伝導率の変化を低く抑えられるということは記載も示唆もされておらず、上記1(2)イで述べたのと同様の理由により、申立人Aの主張は採用することができない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は甲2Aに記載された発明であるとも、また甲2Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(2)本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲2Aに記載された発明であるとも、また甲2Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明2~6についても同様に判断される。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、取消理由3、申立理由3A、4Aによっては、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。
3 取消理由3(甲3Aを主引用文献とする進歩性欠如)、申立理由5A(甲3Aによる新規性欠如)、申立理由6A(甲3Aを主引用文献とする進歩性欠如)について
取消理由3、申立理由5A、申立理由6Aは、いずれも甲3Aを主引用文献とするものであるから、まとめて検討する。
(1)甲3Aに記載された発明
甲3Aには、「テトラフルオロプロペン、クロロトリフルオロプロペン、及び/又はヘキサフルオロブテンを含む発泡剤;
(b)1種類以上のポリオール;
(c)1種類以上の界面活性剤;
(d)水;並びに
(e)沈殿抵抗性のコバルトベースの金属触媒、沈殿抵抗性の亜鉛ベースの金属触媒、沈殿抵抗性のスズベースの金属触媒、沈殿抵抗性のジルコネートベースの金属触媒、沈殿抵抗性のマンガンベースの金属触媒、沈殿抵抗性のチタンベースの金属触媒、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種類の沈殿抵抗性の金属触媒;
を含む発泡性組成物。」が記載されており(請求項1)、その具体的な例として、実施例2の配合物Bが記載されている(【0069】の【表2】)。
この配合物Bはポリオールプリブレンド(【0068】)であり、【0068】において、イソシアネートのLupranate M20と反応させてゲル化させているところ、甲3Aの【0018】に「本発明はまた、有機ポリイソシアネートをポリオールプレミックス組成物と反応させることを含む、ポリウレタン又はポリイソシアヌレートフォームの製造方法も提供する。」と記載されていることからみて、上記配合物Bは、有機ポリイソシアネートであるLupranate M20と反応させてポリウレタンフォームを製造するために用いられるものと認められる。
そうすると、甲3Aの実施例2の配合物Bと、Lupranate M20とからなる組成物に着目し、【0060】のDABCO T120についての説明を考慮すると、甲3Aには次の発明(以下「甲3A発明」という。)が記載されている。
「Terate 4020を60部、Voranol 470Xを30部、Voranol 360を10部、DC 193を1.5部、TCPPを10部、PHT-4-ジオールを3部、水を2.5部、Toyocat DM 70(アミン触媒)を0.5部、Jeffcat DMDEE(アミン触媒)を3部、Dabco K15(2-エチルヘキサン酸カリウム)を1.5部、Dabco T120(ジブチルスズジラウリルメルカプチド)を1部、1233zd(E)を12部含むポリオールプリブレンドと、Lupranate M20(有機ポリイソシアネート)とからなる、ポリウレタンフォームを製造するための組成物。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3A発明を対比する。
甲3A発明の「ポリオールプリブレンド」は、本件発明1の「ポリオールを含む組成物A」に相当する。
甲3A発明の「Lupranate M20(有機ポリイソシアネート)」は、1(2)アで検討したのと同様の理由により、本件発明1の「ポリイソシアネートを含む組成物B」に相当する。
甲3A発明の「1233zd(E)」は、【0019】の「1233zd(E)・・・を含むヒドロハロオレフィン」との記載、及び【0020】の「好ましいヒドロハロオレフィンとしては、・・・(1233)のようなクロロトリフルオロプロペン」、及び請求項1の「クロロトリフルオロプロペン・・・を含む発泡剤」との記載からみて、「クロロトリフルオロプロペン」であるから、本件発明1の「ハイドロクロロフルオロオレフィン」である「有機発泡剤」に相当する。
甲3A発明のポリオールプリブレンドは、Lupranate M20(有機ポリイソシアネート)と反応してポリウレタンフォームを与えるものであり、フォームの形成が上記1233zd(E)(有機発泡剤)による発泡によるものであることは明らかであるから、甲3A発明の組成物は、本件発明1の「ポリオールとポリイソシアネートとの反応と共に、発泡剤による発泡にて、ポリウレタンフォームを与える」「発泡性組成物」に相当する。
甲3A発明の組成物は、「ビニル重合性化合物」に相当するものを含んでいないから、このことは本件発明1の「ビニル重合性化合物不含」であることに相当する。
甲3A発明の「DABCO T120(ジブチルスズジラウリルメルカプチド)」は、甲3Aの請求項11の記載からみて、本件発明1の「スズベースの金属触媒」に相当する。
そうすると、両者は、
「ポリオールを含む組成物Aとポリイソシアネートを含む組成物Bとから構成され、かかるポリオールとポリイソシアネートとの反応と共に、発泡剤による発泡にて、ポリウレタンフォームを与える、ビニル重合性化合物不含の発泡性組成物にして、
前記組成物Aが、更に、前記発泡剤として、ハイドロフルオロオレフィン及びハイドロクロロフルオロオレフィンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の有機発泡剤を、少なくとも含んでいる
ポリウレタンフォーム用発泡性組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
(相違点3-1)
組成物Aが、本件発明1では、「前記ポリオールとして、疎水性ポリエステルポリオールを少なくとも含有」するのに対し、甲3A発明ではそのことが明らかでない点
(相違点3-2)
触媒として、本件発明1では「1-メチルイミダゾール以外のイミダゾール系触媒」を含有するのに対し、甲3A発明ではそのことが明らかでない点
(相違点3-3)
本件発明1では、「スズベースの金属触媒は不含である」のに対し、甲3A発明ではスズベースの金属触媒である「Dabco T120(ジブチルスズジラウリルメルカプチド)」を含む点
(相違点3-4)
組成物Aの水分率が、本件発明1では「3%以下」であるのに対し、甲3A発明ではそのことが明らかでない点
(相違点3-5)
「発泡性組成物」が、本件発明1では「吹付発泡用発泡性組成物」であるのに対し、甲3A発明ではそのような特定がない点
(相違点3-6)
触媒として、本件発明1では「炭素数が4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」を含有するのに対し、甲3A発明では「Dabco K15(2-エチルヘキサン酸カリウム)」を含有する点
イ 相違点についての判断
事案に鑑み、相違点3-6について検討する。
甲3Aの【0030】には、触媒に関して、「アミン触媒に加えて(又は幾つかの態様においてはこれに代えて)、本発明の触媒系はまた、少なくとも1種類の非アミン触媒も含む。幾つかの態様においては、非アミン触媒は無機又は有機金属化合物である。有用な無機又は有機金属化合物としては、遷移金属、ポスト遷移金属、希土類金属(例えばランタニド)、メタロイド、アルカリ金属、アルカリ土類金属など(しかしながらこれらに限定されない)の任意の金属の有機塩、ルイス酸ハロゲン化物などが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の幾つかの広い形態によれば、金属としては、ビスマス、鉛、スズ、亜鉛、クロム、コバルト、銅、鉄、マンガン、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、チタン、水銀、アンチモン、ウラン、カドミウム、トリウム、アルミニウム、ニッケル、セリウム、モリブデン、バナジウム、ジルコニウム、又はこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。かかる無機又は有機金属触媒の非排他的な例としては、2-エチルヘキサン酸ビスマス、硝酸ビスマス、2-エチルヘキサン酸鉛、安息香酸鉛、ナフテン酸鉛、塩化第二鉄、三塩化アンチモン、グリコール酸アンチモン、カルボン酸のスズ塩、カルボン酸のジアルキルスズ塩、酢酸カリウム、オクタン酸カリウム、2-エチルヘキサン酸カリウム、カルボン酸のカリウム塩、カルボン酸の亜鉛塩、2-エチルヘキサン酸亜鉛、グリシン塩、アルカリ金属カルボン酸塩、N-(2-ヒドロキシ-5-ノニルフェノール)メチル-N-メチルグリシン酸ナトリウム、2-エチルヘキサン酸スズ(II)、ジブチルスズジラウレート、又はここで議論する任意の他の金属触媒(これらの組合せを含む)が挙げられるが、これらに限定されない。」と記載され、「非アミン触媒」として、甲3A発明の「2-エチルヘキサン酸カリウム」だけでなく、「2-エチルヘキサン酸ビスマス」も使用可能なことが記載されている。
しかし、甲3Aに記載された発明は、その請求項1に記載されるように、触媒として
「(e)沈殿抵抗性のコバルトベースの金属触媒、沈殿抵抗性の亜鉛ベースの金属触媒、沈殿抵抗性のスズベースの金属触媒、沈殿抵抗性のジルコネートベースの金属触媒、沈殿抵抗性のマンガンベースの金属触媒、沈殿抵抗性のチタンベースの金属触媒、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種類の沈殿抵抗性の金属触媒」を用いることを特徴とする発明であり、甲3A発明の「2-エチルヘキサン酸カリウム」は、甲3Aにおいて必須の触媒とされる(e)に含まれるものではなく、甲3Aの【0027】に「幾つかの形態においては、触媒系は、非アミン触媒、及び幾つかの態様においては好ましいが場合によってはアミン触媒を含む。」と記載されるように、「幾つかの形態」において含まれる「非アミン触媒」の一種にすぎず、甲3Aの実施例2の表2の「成分A」においては用いられていないように、甲3Aにおける任意の触媒成分にすぎない。
そして、本件発明1はビスマス塩の中でも特に「炭素数4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」を用いるものであり、炭素数が1~3の有機カルボン酸の塩では濁り性の評価結果、熱伝導率の変化率が劣るものであるところ(本件明細書の比較例1~3)、甲3Aには「炭素数4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」を用いることによりそのような効果が得られることについて記載も示唆もなく、【0030】には「2-エチルヘキサン酸カリウム」と同列に使用される非アミン触媒として多数のものが例示されているところ、それらの中から「2-エチルヘキサン酸ビスマス」を用いることにより、濁りが少なく、中長期に亘る熱伝導率の変化を低く抑えられるポリウレタンフォーム用発泡性組成物を得ることが、当業者が容易に想到することであるとはいえない。
また、甲4A~甲8Aには、「炭素数4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」を用いることにより、濁りが少なく、中長期に亘る熱伝導率の変化を低く抑えられるポリウレタンフォーム用発泡性組成物が得られることについては、記載も示唆もないから、これらの記載を考慮しても、相違点3-6に係る構成を本件発明1のようにすることは当業者が容易に想到することではない。
したがって、相違点3-1~3-5について検討するまでもなく、本件発明1は甲3Aに記載された発明であるとも、また甲3Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 申立人Aの主張について
申立人Aは、令和7年2月19日提出の意見書において、相違点3-6に関して上記1(2)ウで示したのと同様のことを主張するが、上記イで述べたとおりであるから、申立人Aの主張は採用することができない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は甲3Aに記載された発明であるとも、また甲3Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(2)本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲3Aに記載された発明であるとも、また甲3Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明2~6についても同様に判断される。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、取消理由5、申立理由5A、6Aによっては、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。
4 取消理由8(明確性要件)、申立理由7Aについて
取消理由8、申立理由7Aは、いずれも明確性要件に関するものであるから、まとめて検討する。
取消理由8の具体的な内容は以下のとおりである。
(1)本件発明1に記載された「沈殿抵抗性のスズベースの金属触媒」がどのようなもので、何をもって「沈殿抵抗性」であるといえるのか、不明確である。
(2)本件発明1には、「前記ポリオールとして、疎水性ポリエステルポリオールを少なくとも含有し」と記載されており、本件明細書の【0016】の記載から「疎水性ポリエステルポリオール」とは「100g当たりの水溶解度が100g以下」であることが理解できる。
しかし、水溶解度は温度によって異なるところ、本件明細書には、「100g当たりの水溶解度」がどの温度で測定されたものを意味するのか記載がなく、その結果、ポリエステルポリオールが「疎水性」であるか否かを明確に特定することができず、不明確である。
なお、申立理由7Aは、上記(2)と同旨である。
上記(1)について検討すると、訂正後の本件発明1には「沈殿抵抗性のスズベースの金属触媒」との記載はないから、(1)で指摘した明確性要件違反の取消理由は、理由がない。
上記(2)について検討すると、水溶解度は特に言及がなければ室温(25℃程度)で測定されることが本件特許の出願時における技術常識であると認められる。このことは、参5Cの【0045】に「発泡剤の溶解度は、何れも、25℃において求められたものである。」と記載され、同段落には、さらに「テレフタル酸系ポリエステルポリオール(川崎化成工業株式会社製RFK-505)」の水溶解度が「20g/100g-ポリオール」であることが記載されており、この値が本件明細書の【0049】に記載された「テレフタル酸系ポリエステルポリオール(川崎化成工業株式会社製RFK-505)」の水溶解度と同じ値となっていることとも整合する。
したがって、(2)で指摘した明確性要件違反の取消理由も、理由がない。
よって、取消理由8、申立理由7Aによっては、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。
5 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった申立理由(申立理由1B、2B)について
(1)甲1Bに記載された発明
甲1Bには、「ポリイソシアネート化合物と反応させてポリウレタン発泡体を得るためのポリオール溶液組成物であって、ポリオール、発泡剤、整泡剤、三量化金属触媒及び樹脂化金属触媒を含有し、樹脂化金属触媒重量部数に対する三量化金属触媒重量部数が2.5以上であることを特徴とするポリオール溶液組成物。」が記載され(請求項1)、その組成物とポリイソシアネート化合物との混合物である発泡性ポリウレタン組成物も記載されている(請求項9)。
そして、その具体例として、実施例1及び比較例2が記載されている。
甲1Bの実施例1(特に【0148】及び【0155】の【表1】)に着目すると、甲1Bには次の発明(以下「甲1B発明1」という。)が記載されているといえる。
「p-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名:マキシモールRLK-087)を36.2重量部、ポリアルキレングリコール整泡剤(東レダウコーニング社製、製品名:SH-193)を1.9重量部、三量化金属触媒(エアープロダクツ社製、製品名:DABCO K-15)を1.7重量部、三量化金属触媒(エアープロダクツ社製、製品名:POLYCAT 46)を0.9重量部、樹脂化金属触媒(日東化成社製、製品名:ネオスタン U-600)を0.2重量部、発泡剤として水を0.2重量部、HFO(ハネウェル社製、製品名:ソルティスLBA)を15.0重量部、難燃剤としてTMCPP(トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート)を12.0重量部、ノーバエクセル140(赤リン)を8.0重量部、Firebrake ZB(ホウ酸亜鉛)を3.0重量部、SH-1250(ウォラストナイト)を3.5重量部含むポリオールプレミックスとポリイソシアネート(PM200)との混合物である、発泡性ポリウレタン組成物。」
また、甲1Bの比較例2に着目すると、甲1Bには次の発明(以下「甲1B発明2」という。)が記載されているといえる。
「p-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名:マキシモールRLK-087)を26.7重量部、ポリアルキレングリコール整泡剤(東レダウコーニング社製、製品名:SH-19)を1.9重量部、三量化アミン触媒(東ソー社製、製品名:TOYOCAT-TRX)を0.7重量部、三量化金属触媒(エアープロダクツ社製、製品名:DABCO K-15)を0.5重量部、樹脂化アミン触媒(東ソー社製、製品名:TOYOCAT-TT)を0.5重量部、TOYOCAT-DM70を1.5重量部、発泡剤として水を0.2重量部、HFO(ハネウェル社製、製品名:ソルティスLBA)を15.0重量部、難燃剤としてTMCPP(トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート)を12.0重量部、ノーバエクセル140(赤リン)を8.0重量部、Firebrake ZB(ホウ酸亜鉛)を3.0重量部、SH-1250(ウォラストナイト)を3.5重量部含むポリオールプレミックスとポリイソシアネート(PM200)との混合物である、発泡性ポリウレタン組成物。」
(2)本件発明1について
ア 甲1B発明1との対比・判断
(ア)甲1B発明1との対比
本件発明1と甲1B発明1とを対比すると、甲1B発明1の「ポリオールプレミックス」は、本件発明1の「ポリオールを含む組成物A」に相当する。
甲1B発明1の「ポリイソシアネート(PM200)」は、1(2)アで検討したのと同様の理由により、また、甲2Bにおいて「PM-200」がジイソシアネート-ジフェニルメタンベースの組成物であることが記載されていることからみて、本件発明1の「ポリイソシアネートを含む組成物B」に相当する。
甲1B発明1の「発泡性ポリウレタン組成物」は、発泡剤を含有し、ポリオールプレミックスとポリイソシアネート(PM200)とが反応する発泡性の組成物であるから、本件発明1の「ポリオールとポリイソシアネートとの反応と共に、発泡剤による発泡にて、ポリウレタンフォームを与える」「発泡性組成物」に相当する。
甲1B発明1の「p-フタル酸ポリエステルポリオール(川崎化成工業社製、製品名:マキシモールRLK-087)」は、本件発明1の「ポリエステルポリオール」に相当する。
甲1B発明1の「HFO(ハネウェル社製、製品名:ソルティスLBA)」は、甲1Bの【0070】の記載からみて、本件発明1の「ハイドロフルオロオレフィン」に相当する。
甲1B発明1には「ビニル重合性化合物」、「スズベースの金属触媒」に相当する化合物は含まれていないから、このことは本件発明1の「ビニル重合性化合物不含」、「スズベースの金属触媒は不含」であることに相当する。
甲1B発明1の「樹脂化金属触媒(日東化成社製、製品名:ネオスタン U-600)」は、甲8Bの「3.組成、成分情報」の記載からみて、「ビスマストリス(2-エチルヘキサノアート)」を55~58%含むものであり、その「ビスマストリス(2-エチルヘキサノアート)」は本件発明1の「炭素数が4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」に相当する。
そうすると、両者は、
「ポリオールを含む組成物Aとポリイソシアネートを含む組成物Bとから構成され、かかるポリオールとポリイソシアネートとの反応と共に、発泡剤による発泡にて、ポリウレタンフォームを与える、ビニル重合性化合物不含の発泡性組成物にして、
前記組成物Aが、前記ポリオールとして、ポリエステルポリオールを少なくとも含有し、且つ触媒として、炭素数が4以上の有機カルボン酸のビスマス塩を少なくとも含有するが、更に、前記発泡剤として、ハイドロフルオロオレフィン及びハイドロクロロフルオロオレフィンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の有機発泡剤を、少なくとも含んでいるポリウレタンフォーム用発泡性組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
(相違点4-1)
本件発明1では、ポリエステルポリオールとして、「疎水性」のものを含有するのに対し、甲1B発明1ではそのことが明らかでない点
(相違点4-2)
「発泡性組成物」が、本件発明1では「吹付発泡用」であるのに対し、甲1B発明1ではそのことが明らかでない点
(相違点4-3)
「触媒」として、本件発明1では「1-メチルイミダゾール以外のイミダゾール系触媒」を含有する」のに対し、甲1B発明1ではそれを含まない点
(相違点4-4)
組成物Aの水分率が、本件発明1では「3%以下」であるのに対し、甲1B発明1ではそのことが明らかでない点
(イ)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点4-3について検討する。
本件明細書の【0007】には、本件発明1が解決しようとする課題が「湿度の高い環境下においても、断熱性能の低下を有利に抑制乃至は阻止して、その優れた断熱性能を長期間に亘って発揮し得るポリウレタンフォームを形成することの出来る、ポリウレタンフォーム用発泡性組成物を提供すること」であると記載されている。
そして、本件明細書には、本件発明1の要件を全て満たす実施例5、6が記載され、【0052】の【表1】によれば、実施例5,6は「1-メチルイミダゾール以外のイミダゾール系触媒」である「1,2-ジメチルイミダゾール」を含むものであり、そのような組成物の初期熱伝導率が0.020(W/m・K)、15日後熱伝導率(25℃、80%RH(相対湿度)の雰囲気下で15日間保管された熱伝導率)が0.023(W/m・K)、熱伝導率の変化率が15.0%であり、上記本件発明1が解決しようとする課題である「湿度の高い環境下においても、断熱性能の低下を有利に抑制乃至は阻止して、その優れた断熱性能を長期間に亘って発揮し得る」ことを解決できることが示されている。
そして、本件明細書の【0022】には、「本発明に従う有機カルボン酸金属塩触媒と共に用いられる、上述の如き触媒の中でも、イミダゾール系触媒が有利に用いられることとなる。」と記載されており、ここでいう「有利に」というのは、上記の本件発明1が解決しようとする課題において「有利」であると解される。
このことは、本件特許の審査において、令和5年4月28日に提出された意見書において示された実験成績証明書の結果(実施例1において、1,2-ジメチルイミダゾールを含まない以外は同様にして製造された組成物は、熱伝導率の変化率が22.7%であり、実施例1の14.3%よりも大きい。)こととも整合する。
一方、甲1Bの【0054】~【0061】には、触媒として多数のものが例示され、そのうち【0061】には、三量化アミン触媒として「1,2-ジメチルイミダゾール」や「1-イソブチル-2-メチルイミダゾール」等が例示されてはいるものの、甲1Bには、「1,2-ジメチルイミダゾール」や「1-イソブチル-2-メチルイミダゾール」を甲1B発明1に配合することによって、「湿度の高い環境下においても、断熱性能の低下を有利に抑制乃至は阻止して、その優れた断熱性能を長期間に亘って発揮し得る」ことは記載も示唆もなく、そのことが本件特許の出願日における技術常識から当業者が予測できるものとも認められない。
また、甲2B~甲15Bには、「1-メチルイミダゾール以外のイミダゾール系触媒」を配合することによって「湿度の高い環境下においても、断熱性能の低下を有利に抑制乃至は阻止して、その優れた断熱性能を長期間に亘って発揮し得る」ことは記載も示唆もなく、これらの記載を考慮しても、相違点4-3に係る構成を本件発明1のようにすることは当業者が容易に想到することではない。
したがって、甲1B発明1において、相違点4-3に係る構成とすることは当業者が容易に想到することではなく、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1Bに記載された発明ではなく、甲1Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ)申立人Bの主張について
申立人Bは、申立書において、相違点4-3に関して特に以下の点を主張する。
「本件特許明細書において、イミダゾール系触媒は、必要に応じて用いられることとなる公知の触媒の一例として挙げられているにすぎず(段落【0021】)、1-メチルイミダゾール以外のイミダゾール系触媒を用いることによって格別顕著な効果が奏されるとは認められない。」(申立書37頁下から2行~38頁2行)
「出願人が意見書で主張する効果は、当該意見書において初めて主張する効果であり、本件特許明細書に記載されておらず、また、本件特許明細書の記載から推論できるものでもないため、本件特許発明の進歩性の判断において参酌すべき理由はない。」(申立書38頁17~20行)
上記主張について検討すると、実験成績証明書により追加した実験は、イミダゾール系触媒(1,2-ジメチルイミダゾール)を用いない比較例に相当するものであって、イミダゾール系触媒を用いた実施例自体は本件明細書に当初から記載されていたものである。そして、当該実験結果は、本件明細書の【0022】の「本発明に従う有機カルボン酸金属塩触媒と共に用いられる、上述の如き触媒の中でも、イミダゾール系触媒が有利に用いられることとなる。」の記載を補助するものであり、本件明細書に当初から記載された事項の範囲内のものといえる。
したがって、申立人Bの主張は採用することはできない。
イ 甲1B発明2と本件発明1との対比・判断
(ア)対比
甲1B発明2は、「樹脂化金属触媒(日東化成社製、製品名:ネオスタン U-600)」を含まないから、甲1B発明2と本件発明1を、上記ア(ア)と同様に対比すると、両者は「ポリオールを含む組成物Aとポリイソシアネートを含む組成物Bとから構成され、かかるポリオールとポリイソシアネートとの反応と共に、発泡剤による発泡にて、ポリウレタンフォームを与える、ビニル重合性化合物不含の発泡性組成物にして、
前記組成物Aが、前記ポリオールとして、ポリエステルポリオールを少なくとも含有し、更に、前記発泡剤として、ハイドロフルオロオレフィン及びハイドロクロロフルオロオレフィンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の有機発泡剤を、少なくとも含んでいるポリウレタンフォーム用発泡性組成物。」
である点において一致し、以下の点で相違する。
(相違点5-1)
本件発明1では、ポリエステルポリオールとして、「疎水性」のものを含有するのに対し、甲1B発明2ではそのことが明らかでない点
(相違点5-2)
「発泡性組成物」が、本件発明1では「吹付発泡用」であるのに対し、甲1B発明2ではそのことが明らかでない点
(相違点5-3)
本件発明1では、触媒として、「炭素数が4以上の有機カルボン酸のビスマス塩」を少なくとも含有するのに対し、甲1B発明2ではそれを含まない点
(相違点5-4)
本件発明1では、触媒として、「1-メチルイミダゾール以外のイミダゾール系触媒」を含有する」のに対し、甲1B発明2ではそのことが明らかでない点
(相違点5-5)
組成物Aの水分率が、本件発明1では「3%以下」であるのに対し、甲1B発明2ではそのことが明らかでない点
(イ)相違点についての検討
事案に鑑み、相違点5-3について検討する。
甲1B発明2は、甲1Bにおいて「比較例2」とされているものであり、甲1Bの請求項1で必須とされる「樹脂化金属触媒」(「ネオスタン U-600」又は「ネオスタン U-830」)を含まない結果、「60℃1w前後での発泡挙動変化」の評価結果が「×」となり、甲1Bの【0020】に記載された効果を得ることができないものである。
このような、比較の対象にすぎない甲1B発明2に基づいて、当業者が改変を試み、相違点5-3に係る構成を採用する動機があるとはいえない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は甲1Bに記載された発明であるとも、また甲1Bに記載された発明(甲1B発明1、甲1B発明2)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲1Bに記載された発明であるとも、また甲1Bに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明2~6についても同様に判断される。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、申立理由1B、2Bによっては、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、申立書に記載した申立理由及び取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由によっては、本件発明1~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-701263