2023-701258
履物及び短靴用月型芯
- 審判番号
- 2023-701258
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-014517外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7289471
- 請求日
- 2023年11月29日
- 審決日
- 2024年06月28日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.121-YAA(A43B) / P1651.537-YAA(A43B) / P1651.55 -YAA(A43B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 16項目
第1 手続等の経緯
特許第7289471号の請求項1~4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和5年2月2日の出願であって、令和5年6月2日にその特許権の設定登録がされたものである。
本件特許について、令和5年6月12日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和5年11月29日に、本件特許に対し、特許異議申立人 藤井正剛(以下「異議申立人」という。)から、特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての、その後の手続等の概要は以下のとおりである。
同年 3月 8日 :意見書(特許権者)の提出及び訂正請求
同年 同月21日 :手続補正書(特許権者、令和6年3月8日付け訂正請求書の補正)の提出
同年 同月29日 :手続補正書(特許権者、令和6年3月8日付け訂正請求書の補正)の提出
同年 4月 5日 :上申書(特許権者、訂正請求書の補正は令和6年3月29日付け手続補正書を選択)の提出
同年 4月12日付け:訂正請求があった旨の通知書(特許法第120条の5第5項)
以下、令和6年3月8日付け訂正請求書(同年同月29日付け手続補正書により補正)に係る訂正を「本件訂正」という。
なお、令和6年4月12日付け通知書(訂正請求があった旨の通知)により、異議申立人に、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、異議申立人からの応答はなかった。
第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
本件訂正の請求は、「特許第7289471号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項4について訂正することを求める。」というものであって、その訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項4に
「突出部は、月型の補強芯とこの月型の補強芯をスポンジ部材を介して覆う覆い部材で形成され、前記月型の補強芯は、月型芯本体上端部中央に月型芯谷部が設けられ、前記月型芯谷部の一方側に第1の月型芯山部が、前記月型芯谷部の一方側に第2の月型芯山部が、それぞれ形成され、前記突出部の芯は、前記スポンジ部材より硬いことを特徴とする請求項3記載の履物。」とあるのを、
「突出部は、月型の補強芯とこの月型の補強芯をスポンジ部材を介して覆う覆い部材で形成され、前記月型の補強芯は、月型芯本体上端部中央に月型芯谷部が設けられ、前記月型芯谷部の一方側に第1の月型芯山部が、前記月型芯谷部の他方側に第2の月型芯山部が、それぞれ形成され、前記突出部の芯は、前記スポンジ部材より硬いことを特徴とする請求項3記載の履物。」に訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の段落0009に
「また、請求項4記載の履物は、請求項3記載の履物において、突出部は、月型の補強芯とこの月型の補強芯をスポンジ部材を介して覆う覆い部材で形成され、前記月型の補強芯は、月型芯本体(足のかかとを覆う)上端部中央に月型芯谷部が設けられ、前記月型芯谷部の一方側に第1の月型芯山部が、前記月型芯谷部の一方側に第2の月型芯山部が、それぞれ形成され、前記突出部の芯は、前記スポンジ部材より硬いものである。」とあるのを、
「また、請求項4記載の履物は、請求項3記載の履物において、突出部は、月型の補強芯とこの月型の補強芯をスポンジ部材を介して覆う覆い部材で形成され、前記月型の補強芯は、月型芯本体(足のかかとを覆う)上端部中央に月型芯谷部が設けられ、前記月型芯谷部の一方側に第1の月型芯山部が、前記月型芯谷部の他方側に第2の月型芯山部が、それぞれ形成され、前記突出部の芯は、前記スポンジ部材より硬いものである。」に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の段落0013に
「また、請求項4記載の履物によれば、上述した請求項3記載の発明の効果に加え、突出部の芯は、月型の補強芯とこの月型の補強芯をスポンジ部材を介して覆う覆い部材で形成されているため、足のかかとにスポンジ部材を介して覆う覆い部材に当接するため、硬い素材に当たらず、痛くなくスムーズに靴ベラなしで履くことができ、月型芯が、月型芯本体上端部中央に月型芯谷部が設けられ、前記月型芯谷部の一方側に第1の月型芯山部が、前記月型芯谷部の一方側に第2の月型芯山部が、それぞれ形成されているため、かかと部を有するであって、前記かかと部のトップラインより上方に突出した突出部を前記かかと部に取り付け、前記突出部は、両側に第1、第2の山部を、前記第1の山部と前記第2の山部との間に谷部を、それぞれ形成し、足のかかとを前記履物内に導く第1の案内部を前記第1の山部の前記履物内側に、前記足のかかとを前記履物内に導く第2の案内部を前記第2の山部の前記履物内側に、それぞれ形成している履物の月型芯に好適である。」とあるのを、
「また、請求項4記載の履物によれば、上述した請求項3記載の発明の効果に加え、突出部の芯は、月型の補強芯とこの月型の補強芯をスポンジ部材を介して覆う覆い部材で形成されているため、足のかかとにスポンジ部材を介して覆う覆い部材に当接するため、硬い素材に当たらず、痛くなくスムーズに靴ベラなしで履くことができ、月型芯が、月型芯本体上端部中央に月型芯谷部が設けられ、前記月型芯谷部の一方側に第1の月型芯山部が、前記月型芯谷部の他方側に第2の月型芯山部が、それぞれ形成されているため、かかと部を有するであって、前記かかと部のトップラインより上方に突出した突出部を前記かかと部に取り付け、前記突出部は、両側に第1、第2の山部を、前記第1の山部と前記第2の山部との間に谷部を、それぞれ形成し、足のかかとを前記履物内に導く第1の案内部を前記第1の山部の前記履物内側に、前記足のかかとを前記履物内に導く第2の案内部を前記第2の山部の前記履物内側に、それぞれ形成している履物の月型芯に好適である。」に訂正する。
2 本件訂正の適否について
(1)訂正の目的、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1による訂正について
(ア)訂正事項1は、本件訂正前の請求項4において、「前記月型芯谷部の一方側に第1の月型芯山部が、前記月型芯谷部の一方側に第2の月型芯山部が、それぞれ形成され、」と記載されていたことで、月型芯谷部に対して、同じ側に第1及び第2の月型芯山部を形成することを意味すると解する余地があり、その場合、第1及び第2の月型芯山部並びに月型芯谷部がどのように形成されるものであるのか不明であったものを、「前記月型芯谷部の一方側に第1の月型芯山部が、前記月型芯谷部の他方側に第2の月型芯山部が、それぞれ形成され、」としたことで、第1及び第2の月型芯山部並びに月型芯谷部の関係を明確にしたものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)また、訂正事項1に係る訂正は、上記(ア)に示したように明瞭でない記載の釈明をしたものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(ウ)さらに、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という)の段落0021の「月型芯40は、月型芯本体401上端部中央に月型芯谷部401Aが設けられ、月型芯谷部401Aの一方側に第1の月型芯山部401Bが、月型芯谷部の他方側に第2の月型芯山部401Cが、それぞれ形成されている」との記載、また、図11~13の記載に鑑みると、訂正事項1は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであって、新規事項を追加するものではない。
したがって、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(エ)加えて、本件においては、本件訂正前の請求項4について特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の請求項4に係る発明に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
イ 訂正事項2による訂正について
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、本件特許明細書等の段落0009の記載を、本件訂正後の請求項4の記載に整合させるものであるから、訂正事項2は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項2は、本件訂正後の請求項4の記載に整合させるものであって、訂正事項1に係る訂正と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
さらに、訂正事項2は、本件特許明細書等の段落0009の記載を、本件訂正後の請求項4の記載にそろえるものであり、上記アで検討したとおり、本件訂正後の請求項4の記載は、新規事項を追加するものでなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであるから、訂正事項2も、新規事項を追加するものでなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
加えて、訂正事項2は本件訂正後の請求項4に係る発明に関する訂正事項といえるところ、上記ア(エ)で検討したように、本件訂正後の請求項4に係る発明に関して、独立特許要件は課されない。
ウ 訂正事項3による訂正について
訂正事項3は、訂正事項1に係る訂正に伴って、本件特許明細書等の段落0013の記載を、本件訂正後の請求項4の記載に整合させるものであるから、訂正事項3は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項3は、本件訂正後の請求項4の記載に整合させるものであって、訂正事項1に係る訂正と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
さらに、訂正事項3は、本件特許明細書等の段落0013の記載を、本件訂正後の請求項4の記載にそろえるものであり、上記アで検討したとおり、本件訂正後の請求項4の記載は、新規事項を追加するものでなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであるから、訂正事項3も、新規事項を追加するものでなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
加えて、訂正事項3は本件訂正後の請求項4に係る発明に関する訂正事項といえるところ、上記ア(エ)で検討したように、本件訂正後の請求項4に係る発明に関して、独立特許要件は課されない。
エ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項4について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正後の請求項1~4に係る発明(以下、請求項順に「本件発明1」、「本件発明2」などといい、また、本件発明1~4を総称して「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】かかと部を有する履物であって、前記かかと部のトップラインより上方に突出した芯を内在した突出部を前記かかと部に取り付け、前記突出部は、両側に第1、第2の山部を、前記第1の山部と前記第2の山部との間に谷部を、それぞれ形成し、足のかかとを前記履物内に導く第1の案内部を前記第1の山部の前記履物内側に、前記足のかかとを前記履物内に導く第2の案内部を前記第2の山部の前記履物内側に、それぞれ形成し、前記第1の案内部と前記第2の案内部は対向し、外方に向かって広がるように傾斜している続きを表示(全25行)ことを特徴とする履物。【請求項2】短靴のかかと部の内側に装着される短靴用月型芯であって、月型芯本体と、この月型芯本体上端部中央に月型芯谷部が設けられ、前記月型芯谷部の一方側に第1の月型芯山部が、前記月型芯谷部の他方側に第2の月型芯山部が、それぞれ形成され、前記第1の月型芯山部は、先端部が前記月型芯本体の外側に傾斜し、前記第2の月型芯山部は、先端部が前記月型芯本体の外側に傾斜し、前記月型芯本体の前記短靴の装着時、前記第1の月型芯山部、前記月型芯谷部及び前記第2の月型芯山部は、前記短靴のかかと部のトップラインより上方に突出することを特徴とする短靴用月型芯。【請求項3】かかと部を有する履物であって、前記かかと部のトップラインより上方に突出した芯を内在した突出部を前記かかと部に取り付け、前記突出部は、両側に第1、第2の山部を、前記第1の山部と前記第2の山部との間に谷部を、それぞれ形成し、足のかかとを前記履物内に導く第1の案内部を前記第1の山部の前記履物内側に、前記足のかかとを前記履物内に導く第2の案内部を前記第2の山部の前記履物内側に、それぞれ形成し、前記第1の山部は上方斜め外方に傾斜し、前記第2の山部は上方斜め外方に傾斜し、前記かかと部の正面視、前記谷部は中央に、右に前記第1の山部、左に前記第2の山部が位置し、前記第1の案内部と前記第2の案内部は対向し、外方に向かって広がるように傾斜していることを特徴とする履物。【請求項4】突出部は、月型の補強芯とこの月型の補強芯をスポンジ部材を介して覆う覆い部材で形成され、前記月型の補強芯は、月型芯本体上端部中央に月型芯谷部が設けられ、前記月型芯谷部の一方側に第1の月型芯山部が、前記月型芯谷部の他方側に第2の月型芯山部が、それぞれ形成され、前記突出部の芯は、前記スポンジ部材より硬いことを特徴とする請求項3記載の履物。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項4に係る特許に対して、当審が令和6年2月19日付けで特許権者に通知した取消理由(以下、「取消理由」等ともいう。)の要旨は、次のとおりである。
この出願は、特許請求の範囲の請求項4の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記
請求項4において、「前記月型の補強芯は、月型芯本体上端部中央に月型芯谷部が設けられ、前記月型芯谷部の一方側に第1の月型芯山部が、前記月型芯谷部の一方側に第2の月型芯山部が、それぞれ形成され、」との記載がなされている(下線は強調のため当審で付した。)。
当該記載は、月型芯谷部の「一方側」に第1の月型芯山部及び第2の月型芯山部を形成すること、すなわち、月型芯谷部に対して同じ側に第1及び第2の月型芯山部を形成することを意味すると解す余地がある。そして、そのように解した場合、第1及び第2の月型芯山部が月型芯谷部に対してどのように形成されるのか、その具体的構成が不明である。
よって、請求項4に係る発明は明確でない。
2 当審の判断
取消理由に対し、本件訂正により、本件訂正前の請求項4の「前記月型の補強芯は、月型芯本体上端部中央に月型芯谷部が設けられ、前記月型芯谷部の一方側に第1の月型芯山部が、前記月型芯谷部の一方側に第2の月型芯山部が、それぞれ形成され、」との記載は、上記訂正事項1(上記第2の1(1)参照)で示されるように、「前記月型の補強芯は、月型芯本体上端部中央に月型芯谷部が設けられ、前記月型芯谷部の一方側に第1の月型芯山部が、前記月型芯谷部の他方側に第2の月型芯山部が、それぞれ形成され、」と訂正されたため、取消理由は解消した。
第5 取消理由通知において採用しなかった異議申立人の申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった異議申立人の申立理由の概要は、次のとおりである。
(1)理由A(進歩性欠如)
ア 本件発明1、3、4は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証~甲第6号証に記載された事項、又は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証~甲第6号証に記載された事項に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、3、4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、本件発明1、3、4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 本件発明2は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第5号証に記載された発明及び甲第1号証~甲第2号証、甲第6号証に記載された事項に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、本件発明2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<証拠方法>
異議申立人が提出した証拠方法(甲第1号証~甲第6号証)は以下のとおりである。なお、以下、証拠番号に従って、「甲1」などという。
(2)理由B(明確性要件違反)
本件の請求項3~4に係る特許は、以下のア、イの点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 請求項3には、第1の山部及び第2の山部について、「前記第1の山部は上方斜め外方に傾斜し、」「前記第2の山部は上方斜め外方に傾斜し、」と記載され、また、第1の案内部及び第2の案内部について、「前記第1の案内部と前記第2の案内部は対向し、外方に向かって広がるように傾斜している」と記載されているところ、第1の山部及び第2の山部と、第1の案内部及び第2の案内部との、それぞれ文言上の表現の異なる傾斜の態様の違いが明らかでなく、発明が不明確である。(特許異議申立書の31頁15行~32頁13行を参照)
イ 請求項3に、「前記第1の案内部と前記第2の案内部は対向し、」という事項が記載されているところ、この事項について文言通りに解釈すると、2つの案内部が互いに向き合っていることになる。そうだとすると、2つの案内部は、平面視円弧を描く踵部のうちでもかなり前方に位置していなければならない。しかし、明細書の発明の詳細な説明や図面に、そのようなことは一切記載されておらず、また、図面から把握できるのは、2つの案内部が、後端の左右両隅(コーナー部分)にあって、それぞれ斜め前方に向いていることである。したがって、上記事項が不明であり、発明が不明確である。(特許異議申立書の32頁14~21行を参照)
以上によれば、本件発明3及び本件発明3を引用する本件発明4は明確でない。
(3)理由C(新規事項追加)
本件特許請求の範囲および明細書になされた以下のアの点に関わる手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「出願当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内を超えてなされたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 本件発明1、3は、「前記第1の案内部と前記第2の案内部は対向」するという事項を特定している。
そして、該事項は、特許権の設定登録前に、拒絶理由通知を受けてした令和5年4月25日付け手続補正書による手続補正において追加されたものであるところ、同日付け意見書の説明によれば、その補正の根拠は、図2、図6、図7、図9、図10の記載であるとされている。
しかし、それらの図には、かかと部の上方部分において左右の案内部を互いに交差する斜め前方に向ける形状があらわれているだけであり、案内部は対向していない。つまり、2つの案内部は互いに向き合っていない。根拠の一つとする図2は、断面図であり、断面を構成する輪郭線を見れば、対向するように思えなくもないものの、面である案内部としては、まったく対向していない。
したがって、請求項1、3について行われた補正は出願当初明細書等に記載された範囲においてされたものではなく、新規事項の追加に該当するものである。(特許異議申立書の33頁5~17行を参照)
2 理由Aについて
(1)各証拠の記載
ア 甲1について
甲1には、図面とともに以下の事項が記載又は示されている。
(ア)「【技術分野】【0001】この発明は、アッパーがかかと部を有する運動靴や短靴などのような履物に関する。【背景技術】【0002】かかと部を有する履物では、かかとを潰さないようにして履かないといけない。これは、かかとを潰してしまうと、歩行時に足が靴の中でぶれて歩きにくくなったり、靴の寿命を縮めたりするからである。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】【0007】この発明は、手を使わずとも履けるようにすることを主な目的とする。【課題を解決するための手段】続きを表示(全11行)【0008】そのための手段は、アッパーの後端にかかと部を有する履物であって、前記かかと部の上端に、上方斜め後方に向けて延びる硬質の突片部が形成された履物である。【0009】この構成では、上から降ろされる足の踵を突片部が履物内に確実に導く。突片部は、上方斜め後方に延びているので、靴を持つときの保持部としても機能するとともに、特徴ある外観をもたらす。【発明の効果】【0010】この発明によれば、突片部は足の踵を履物内に導くので、手や靴ベラを使わずとも正しく履けるようにできる。しかも、突片部は上方斜め後方に向けて延びているので、長くして履きやすさを向上したり、特異で美麗な外観にしたりすることもできる。」
(ウ)「【0013】この発明は、履物11を履くための動作を簡単にするものであり、ここでいう履物11は、図1に示したようにソール12とアッパー13で構成されており、アッパー13が後端にかかと部14を有している。この例においては履物11の一例として短靴11aを示すが、履物11は運動靴など他の形態の履物であってもよい。」
(エ)「【0016】前述のように履く動作の簡略化をはかるため、短靴11aは、かかと部14の上端に上方斜め後方に向けて延びる硬質の突片部16が形成されている。突片部16はアッパー13の一部であり、かかと部14と一体であって、上方斜め後方のみに指向して延びている。」
(オ)「【0019】このような突片部16は、前述のように硬質であり、通常のかかと部の上端部とは異なり、踏んでも容易に潰れたり折れたりしない剛性を有している。このような剛性は、短靴11aのかかと部14に備えられる月型芯17の本体部17aから延設された月型芯延長部17bを突片部16の芯として備えることで得る。【0020】月型芯17は、ケミシートとも称されるホットメルトタイプの合成シートで形成されており、かかと部14の外装材14aと内装材14bの間に挟み込まれる。」
(カ)「【0028】以上のように構成された短靴11aは、アッパー13の履き口15に足31を差し入れる動作をするだけで容易に履くことができる。すなわち、図4に仮想線で示したように足31のつま先33を履き口15に差し入れて踵32を下すと、踵32は突片部16の上端部に当たる。突片部16は硬質であるので、潰れるような変形はなく、踵32を前方に向けてすべらし、足31が靴内に入るのを促す。【0029】突片部16が踵32の滑り台として機能し、踵32がソール12のかかと部分に落ちると、足31は短靴11a内に収まる。踵32が降下するときに、突片部16の傾斜辺部16bは剛性を有さず変形可能であるので、踵32が滑り込む部分を広げる作用をする。このため、踵32はより確実にすんなりと収まることになる。」
(キ)「【図1】[図:0001415301000001.jpg]【図2】[図:0001415301000002.jpg]【図3】[図:0001415301000003.jpg]【図4】[図:0001415301000004.jpg]」
(ク)図1、3の記載によれば、突片部16がかかと部14のトップラインより上方に突出して形成されることは、明らかである。
(ケ)以上の記載によれば、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「かかと部14を有する履物11であって、前記かかと部14のトップラインより上方に突出した月型芯延長部17bを内在した突片部16を前記かかと部14に形成し、前記突片部16は踵32を前記履物11内に導き、前記突片部16は上方斜め後方に向けて延びている履物11。」
イ 甲2について、
甲2には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】【0001】本考案は、靴に関し、詳しくは、靴べらを用いないで靴を履くことができる靴べら機能を備えた靴に関する。」
(イ)「【0007】又、この公報に記載された考案では、足の踵が靴に対して余裕がなく、足が入りきれないときは、踵が靴の上辺を潰すことになり、履きづらいものとなっている。これは、踵部5、とりわけ踵案内部51が軟質の材料で構成されており、踵の押下力に耐えることができないことに起因する。これに対して本考案は、靴の踵部に踵を覆う踵ガイドを内装し、靴ガイドを馬蹄形状で硬質の鋼板で形成するようにして、足の押下力で靴の上辺が潰れないようにしたものである。更に、踵ガイドの上方端部には反り返り部を形成し、靴を履くとき踵を反り返り部に沿って滑らせ、スムースに履くことができるように工夫している。」
(ウ)「【0009】以上に着目して本考案は、靴べらを用いないでスムースに履くことができ、丈夫で靴の上辺が潰れるのを防止し、又、踵ガイドが露出しないようにして見栄えを向上し、更に、履き心地の良い靴を提供することを目的とするものである。【課題を解決するための手段】【0010】続きを表示(全11行)前記目的は、靴底と、この靴底の上方に設けられ、表皮と裏皮とで二重の皮で構成された靴本体とからなる靴において、表皮と裏皮間に、踵を覆うように馬蹄形に成形した金属板製の踵ガイドを内装し、前記靴ガイドの上端には踵を滑らす反り返り部を靴ガイドと一体に形成したことによって達成される。【考案の効果】【0011】本考案の構成によれば、踵を鋼板で構成したので靴べらを用いないでスムースに履くことができ、又、踵ガイドが表に露出しないので見栄えが良く良い。又、踵ガイドを鋼板製で馬蹄形に形成したので上方からの押圧力に対して非常に強くなり、履くとき靴の踵部が潰れることがなくなり、靴の寿命をのばすことができる。更に、裏皮を布張りにすれば肌触りも良好になる。更に又、踵の上縁に反り返り部を形成しているので、踵が反り返り部に沿って円滑に滑り、靴をスムースに履くことができるものである。」
(エ)「【0013】以下、本発明の一実施例を図1乃至図4に基づいて説明する。図1、図2()は、靴全体の斜視図で、1は靴底。2は靴本体で、図4の断面で明らかなように表皮3と裏皮4の張り合わせで構成されている。表皮3は防水のために合成皮で成され、裏皮4は肌触る良いように布張りにされている。布張りは肌触りと踵の滑りが良いように多く採用されている。5は足の甲の上方を覆うアッパーで、その両側にゴム材で制作された伸縮布6を有している。伸縮布6は伸縮性に富んでいるので、足をつま先に入れるとき伸縮布5が伸び、履き易くなる。続きを表示(全14行)7は靴の踵部を示す。【0014】8は、前記靴本体2の表皮3と裏皮4間に内装した踵部7を覆う踵ガイドで、鋼板で馬蹄形に形成し上方からの度を高めるようにしている。そのため、靴ガイド8を踵部7で上方から押さえても潰れることはない。すなわち、上辺を強く押えても踵ガイド8は潰れないので、多少きつい靴でも容易に履くことができる。このときアッパー5の伸縮布6が適度に延びて、靴を履くのを容易にする。【0015】9は、前記靴ガイド8の上端に一体に設けられた反り返り部9で、靴を履くとき踵を滑らせるものである。尚、図4は断面であるが、折り返し部については模擬的に表している。そして、踵は、反り返り部8から踵ガイドに沿って滑り、踵は容易に靴に収まるものである。【0016】又、靴ガイド8は、表皮と裏皮4間に包まれているので、露出せず見栄えが良い。又、踵が靴ガイド8に直に接触しないので踵が痛くなるのを防止すると共に、肌触りが良いものとなっている。裏皮4を布張りにすれば更に肌触りが良くなる。」
(オ)「【図1】[図:0001415301000005.jpg]【図2】[図:0001415301000006.jpg]【図3】 【図4】[図:0001415301000007.jpg]」
(カ)以上の記載によれば、甲2には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲2発明)
「踵部7を有する靴であって、靴本体2の表皮3と裏皮4間に前記踵部7を覆う踵ガイド8を内装し、踵ガイド8の上端に踵を滑らす反り返り部9を一体に形成した靴。」
ウ 甲3について
甲3には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、深靴形式の靴において、靴の脱着を容易に行うことができる靴に関する。」
(イ)「【0008】本発明は、靴の脱着がワンタッチででき、広い履き口が得られ、脱着及び足の挿入がスムーズで緊締の強さの調節が行える靴を提供するものである。」
(ウ)「【0013】請求項5の発明は、請求項1及び2に記載する靴の踵部の高さが靴後端部に向かって下方に傾斜し、足が挿入し易いように踵後部が低くなっていることを特徴とする靴である。」
(エ)「【0021】先ず、脱着を容易にするための広い履き口を成すために前方に切欠き部(1)が形成された甲被(2)と靴底(3)からなる靴本体(4)を通常の靴製造方法により製作した。もちろん、中底、中敷き、および必要に応じて半中底や踵部に衝撃吸収材などを適宜設ける。踵部は、踵の高さが靴後端部に向かって下方に傾斜し、足が挿入し易いように踵後部が低くなっている形状とした。」
(オ)「【図1】[図:0001415301000008.jpg]」
エ 甲4について
甲4には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】【0001】本考案は、サンダル及びスリッパに係り、特に、靴づれ防止を図ったサンダル及びスリッパに関する。」
(イ)「【背景技術】【0002】従来、足の踵の周囲を覆う踵ホルダーを備えたサンダル形履物がある(例えば、特許文献1参照)。【特許文献1】特公平6-77521号公報(図1及び図2参照)【0003】しかしながら、上述の足の踵の周囲を覆う踵ホルダーは、足の外側に位置する外側立設部と、足の内側に位置する内側立設部と、この内側立設部と前記外側立設部とを接続する中間立設部とを備え、前記外側立設部、前記内側立設部及び前記中間立設部は、共に、略同じ高さで足の踵の周囲を覆っているため、特に、歩行中、足が中底から離れ易く、その分、中間立設部と踵が接触し、靴づれを生じるという問題点が生じた。」
(ウ)「【考案が解決しようとする課題】【0004】本考案は、上記の問題点を除去するようにしたサンダル及びスリッパを提供することを目的とする。」
(エ)「【0013】本考案の一実施例のサンダルを図面を参照して説明する。図1~図3において、Sは、足を乗せる中底1bを備えたサンダル本体1と、このサンダル本体1にバンド2を有するサンダルである。サンダル本体1は、地面に接地する本底1aと、この本底1aに接着剤を介して取り付けられ、直接足を乗せる中底1bとを有する。中底1bは、足の踵の周囲を覆い、足の動きを規制する立設部1cを有し、この立設部1cは、中底1bと一体的に形成される。中底1bは、例えば、ウレタン樹脂、塩化ビニール、木等で成形される。【0014】この立設部1cは、足の外側に位置する外側立設部Xと、前記足の内側に位置する内側立設部Yと、この内側立設部Yと外側立設部Xとを接続する中間立設部Zとを備え、中間立設部Zの頂部(中間立設部Zの頂部の高さは、例えば、中底1bから約20mm)は、図1及び図3に示すように、外側立設部X及び内側立設部Yの頂部(外側立設部X及び内側立設部Yの頂部の高さは、例えば、中底1bから約40mm)より低く形成されている。【0015】従って、上述したサンダルSによれば、立設部1cは中底1bと一体的に形成されると共に、足の踵の周囲を覆うため、歩行中、足の踵が立設部1cにより規制され、歩き易く、特に、近時、踵から足首に向けて曲がる現象の足に対して、人間本来の足の形を壊さないように、前記現象の予防を図ることができ、しかも、立設部1cの中間立設部Zの頂部は、立設部1cの外側立設部X及び立設部1cの内側立設部Yの頂部より低く形成されているため、踵が接触する部位が少なくして靴づれをも防ぐことができる。」
(オ)「【図1】[図:0001415301000009.jpg]」
オ 甲5について
甲5には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】【発明の属する技術分野】この出願発明は、靴の着脱を容易にし、しかもカウンターが足の挿入によって変形しないようにしたヒールカウンターに関する。」
(イ)「【0002】【従来の技術】 従来のヒールカウンターは、靴を履くときにカウンターの端部を巻き込み、たとえば、図6に示すようにヒールカウンターの踵部最後端に当接する部分の上端が内側に曲がるため、足当たりが生ずるという問題がある。【0003】【発明が解決しようとする課題】この出願発明は、従来の靴が持つこれらの問題点を解消するとともに、靴を履くときに巻き込まれないようにしたヒールカウンターを提供することを目的とする。【0004】【課題を解決するための手段】この出願発明のヒールカウンターは、足の踵部上方に対応するヒールカウンター中央部分の上縁が下方向に凹状に切り欠かれ、中央部分が低く形成されると共に、低く形成された中央部分の少なくとも上端部が厚く形成されている。」
(ウ)「【0007】なお、図3に示す例では、ヒールカウンター1の外部は、ヒールカウンター中央部3の上縁部2a以外は、踵部アッパー材4で覆われる。また、図5に示す例では、ヒールカウンター中央部3の表面3aは、靴の踵部における外表面となる。」
(エ)「【0012】【実施例】以下、この出願発明を実施例により説明する。実施例1図1に示すような形状をしており、中央部の上縁部の厚みが4mm、中央部の高さ(図1のh)が40mm、最も高い部分(図1のT)の高さが70mmのサーモプラスチックウレタン製のヒールカウンター1を製造した。ついでこのヒールカウンター1の外側に踵部アッパー4を取り付けた。このヒールカウンター1を靴7が底部と甲部アッパーとを有し、踵部ホールドパーツを有しない靴本体部8と、踵ホールドパーツ9とからなる靴7に使用し、靴7を着用したところ、ヒールカウンター1はめくれず履き心地のよいものであった。なお、試作した靴7の側面図を図7に、その縦断面図を図8に示す。」
(オ)「【図1】 【図2】[図:0001415301000010.jpg]【図3】 【図6】[図:0001415301000011.jpg]【図7】 【図8】[図:0001415301000012.jpg]」
(カ)上記図1の記載から、中央部3の上縁部2aの一方側に第1の山部が、前記中央部の上縁部2aの他方側に第2の山部が、それぞれ形成されている点が看取される。
(キ)以上の記載によれば、甲5には以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲5発明)
「靴の踵部アッパー4の内側に装着されるヒールカウンター1であって、ヒールカウンター1と、このヒールカウンター1上縁部2の中央部3に上縁が下方向に凹状に切り欠かれ低く形成された中央部の上縁部2aが設けられ、前記中央部の上縁部2aの一方側に第1の山部が、前記中央部の上縁部2aの他方側に第2の山部が、それぞれ形成され、前記ヒールカウンター1の前記靴の装着時、ヒールカウンター1の中央部3の上縁部2a以外は、靴の踵部アッパー4で覆われるヒールカウンター1。」
カ 甲6について
甲6には、以下の事項が記載されている。
(ア)「2.実用新案登録請求の範囲(1)胛被の下部に靴底が設けられ、この胛被の踵部にカウンターが取り付けられている靴において、このカウンターの上縁部に反り返し部を設け、また少なくともカウンターの上縁部近傍と胛被とを貼着させたことを特徴とする靴。」(明細書1頁4~9行)
(イ)「〔考案が解決しようとする課題〕ところで、従来の靴は、前述したように縫着部の縫い穴から靴内へ水が侵入して靴の防水性が低下するのを防止する目的で、これらの胛被とカウンターとの縫着は行わないで、このカウンターを胛被と裏布との間に遊動自在に介在させ、かつこのカウンターの高さも使用時に誤って踵でカウンターの上縁部を踏み折るのを防止する目的で、ほぼ使用者の踵の下部までに設計されているため、踵が靴の踵部から抜け易く、従って歩行時に踵部の足抜けおよび足浮きが起きる恐れがあった。そこで、この課題を解消すべく単純にカウンターの高さを高くしようとすると、前述したように使用時に誤って使用者が踵でカウンターの上縁部を踏み折る危険性が増大し、このため安易にこの高さを高くできなかった。また、このカウンターの上縁部は、このように使用者の踵の下部にフィットするように若干内側に萎めて形成されているため、この靴を履く時に踵部が萎められたカウンターの上縁部に当接して障害となって履き難くかった。本考案は、このような従来技術を背景になされたもので、カウンターの高さに関係なく靴の使用時に誤ってカウンターの上縁部を踏み折る恐れを少なくでき、これにより支障なくカウンターの高さを高くして歩行時の足抜けおよび足浮きを防止でき、かつ靴を履く時に足裏がカウンターの上縁部に当接しないでスムーズに履くことができる靴を提供するものである。」(明細書2頁20行~4頁8行)
(ウ)「〔作用〕本考案の靴は、この靴内に足を通して靴を履く時に、カウンターの上縁部に反り返し部が形成されているため、使用者の踵裏がカウンターの上縁部に当接しないでスムーズに靴を履くことができる。」(明細書4頁16行~5頁1行)
(エ)「次に、本考案の靴の特徴は、第2図および第3図に示すようにこのカウンター30の上縁部31に反り返し部32を設け、また少なくともカウンター30の上縁部近傍33と胛被10とを接着剤50を介して貼着させた点である。この反り返し部32は、靴底を履く時に胛被10の内面に被装される裏布60がカウンター30の上縁部31に当接しないでスムーズに履けるようにするための靴底の外側へ反り返った挿入ガイド部である。」(明細書7頁13行~8頁2行)
(オ)「(第2図)[図:0001415301000013.jpg](第3図)[図:0001415301000014.jpg]」
(2)当審の判断
ア 本件発明1について
(ア-1)本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1と甲1発明とをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲1発明の「かかと部14」は本件発明1の「かかと部」に相当し、以下同様に、「履物11」は「履物」に、「月型芯延長部17b」は「芯」に、「突片部16」は「突出部」に、「形成し」は「取り付け」に、「踵32」は「足のかかと」に、それぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「かかと部を有する履物であって、前記かかと部のトップラインより上方に突出した芯を内在した突出部を前記かかと部に取り付けた履物。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
本件発明1は、「前記突出部は、両側に第1、第2の山部を、前記第1の山部と前記第2の山部との間に谷部を、それぞれ形成し、足のかかとを前記履物内に導く第1の案内部を前記第1の山部の前記履物内側に、前記足のかかとを前記履物内に導く第2の案内部を前記第2の山部の前記履物内側に、それぞれ形成し、前記第1の案内部と前記第2の案内部は対向し、外方に向かって広がるように傾斜している」のに対して、
甲1発明は、前記突片部16が、踵32を前記履物11内に導き、また、上方斜め後方に向けて延びているものであるものの、「両側に第1、第2の山部を、前記第1の山部と前記第2の山部との間に谷部を、それぞれ形成し、足のかかとを前記履物内に導く第1の案内部を前記第1の山部の前記履物内側に、前記足のかかとを前記履物内に導く第2の案内部を前記第2の山部の前記履物内側に、それぞれ形成し、前記第1の案内部と前記第2の案内部は対向し、外方に向かって広がるように傾斜している」ものではない点。
(ア-2)判断
以下、相違点1について検討する。
a 甲1に開示される履物は、「手を使わずとも履けるようにすること」を課題としたもの(上記(1)ア(ア)の段落0007参照)であるところ、「アッパーの後端にかかと部を有する履物であって、前記かかと部の上端に、上方斜め後方に向けて延びる硬質の突片部が形成」されることで、上記課題を解決したものである。つまり、「突片部16」が「上方斜め後方に向けて延びている」という事項は、上記課題を解決するための必須の事項であると理解できる。
そうすると、甲1発明において、突片部16について、上記課題を解決するための構造である「上方斜め後方に向けて延びる構造」をやめて、谷部を形成し、谷部の両側に第1、第2の山部を形成して、上記相違点1に係る構成とするような改変は行わない。
すなわち、甲1発明において、突片部16の構造において、「上方斜め後方に向けて延びる構造」に代えて、本件発明1の上記相違点1に係る構成とする動機はない。
b また、甲3~4には、上記(1)ウ~エで示したとおり、履物において、履物のかかと部の高さを低くする技術が開示されているものの、履物のかかと部に取り付けて足のかかとを導く突出部において、谷部を形成し、谷部の両側に第1、第2の山部を形成する技術について、何ら開示されていない。
また、甲5には、上記(1)オで示したとおり、足のかかとの上方に対応する中央部分の上縁が下方向に凹状に切り欠かれ、中央部分が低く形成されたヒールカウンターの技術が開示されているものの、履物のかかと部に取り付けて足のかかとを導く突出部において、谷部を形成し、谷部の両側に第1、第2の山部を形成する技術について、何ら開示されていない(例えば、上記(1)オの図7~8を参照)。
さらに、上記(1)カに示される甲6においても、履物のかかと部に取り付けて足のかかとを導く突出部において、谷部を形成し、谷部の両側に第1、第2の山部を形成する技術について、記載も示唆もされておらず、また、該技術が単なる設計事項であるともいえない。
そうすると、甲1発明において、仮に、甲3~6に記載された技術を採用し得たとしても、本件発明1の上記相違点1に係る構成には至らない。
c したがって、甲1発明において、前記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者であっても容易になし得たことではない。
d 異議申立人の主張に対して
異議申立人は、特許異議申立書において、本件発明1と、甲1発明又は甲2発明との相違点について、「相違点1:突出部(突片部16/反り返り部9を有する部分)について、本件特許発明1は「両側に第1、第2の山部を、第1の山部と第2の山部との間に谷部を、それぞれ形成している」が、甲1発明と甲2発明はその谷部に相当する部分を有しない形状である点。
相違点3:案内部について、本件特許発明1は「第1の案内部と第2の案内部が対向し、外方に向かって広がるように傾斜している」のに対して、甲1発明と甲2発明は、上記相違点2により、案内部に第1、第2の区別がないため対向しているのか定かでないものの、それらに対応する部分が外方に向かって広がるように傾斜していることでは共通している点。(特許異議申立書の24頁24行~25頁13行)」と、3つの相違点があると主張し、それぞれの相違点について容易である旨主張している(特許異議申立書の24頁23行~26頁26行)。
しかしながら、異議申立人が主張するこれら3つの相違点は、すべて、「突出部」の構成に関わる事項であるところ、本件発明1は、突出部のこれら相違点に関わる3つの事項が相互に作用した全体構成によって、足のかかとが履物内にスムーズに導かれ、履物のかかと部を潰さないようにして靴ベラなしで履物を履くことができるようにしたものであり(本件特許明細書の段落0010、0018を参照)、まとめて1つの相違点として判断されるべきものである。
そして、上記a~cで検討したように、甲1発明において、まとめて1つにした相違点(上記(ア-1)の[相違点1]を参照)に係る本件発明1の構成とすることは、当業者であっても容易になし得たことではない。
また、後述の(イー2)a~cで検討するように、甲2発明において、まとめて1つにした相違点(後述の(イ-1)の[相違点2]を参照)に係る本件発明1の構成とすることは、当業者であっても容易になし得たことではない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。
e 以上によれば、本件発明1は、当業者であっても、甲1発明及び甲3~6に記載の技術に基いて容易に発明することができたものではない。
(イ-1)本件発明1と甲2発明の対比
本件発明1と甲2発明とをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲2発明の「踵部7」は本件発明1の「かかと部」に相当し、同様に、「靴」は「履物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、
「かかと部を有する履物。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点2]
本件発明1は、「前記かかと部のトップラインより上方に突出した芯を内在した突出部を前記かかと部に取り付け、」「前記突出部は、両側に第1、第2の山部を、前記第1の山部と前記第2の山部との間に谷部を、それぞれ形成し、足のかかとを前記履物内に導く第1の案内部を前記第1の山部の前記履物内側に、前記足のかかとを前記履物内に導く第2の案内部を前記第2の山部の前記履物内側に、それぞれ形成し、前記第1の案内部と前記第2の案内部は対向し、外方に向かって広がるように傾斜している」のに対して、
甲2発明は、突出部を有しない点。
(イ-2)判断
以下、相違点2について検討する。
a 甲2の段落0007の記載によれば、踵ガイド8は、踵部7に内装されるものであるから、踵ガイド8は踵部7のトップラインより上方に突出するものでないことは明らかである。そして、甲2に開示される靴には、踵部7のトップラインより上方に突出した芯を内在した突出部が存在しないことは、明らかである。
b そして、突出部を有しない甲2発明において、突出部を設けたことを前提とし、更に、その突出部について、本件発明1の上記相違点2に係る「前記突出部は、両側に第1、第2の山部を、前記第1の山部と前記第2の山部との間に谷部を、それぞれ形成し、足のかかとを前記履物内に導く第1の案内部を前記第1の山部の前記履物内側に、前記足のかかとを前記履物内に導く第2の案内部を前記第2の山部の前記履物内側に、それぞれ形成し、前記第1の案内部と前記第2の案内部は対向し、外方に向かって広がるように傾斜している」構成とする理由はないところ、上記(ア-2)bで検討したように、甲3~6には、上記構成とする技術は何ら開示されておらず、また、該技術が単なる設計事項であるともいえない。
そうすると、甲2発明において、仮に、甲3~6に記載された技術を採用し得たとしても、本件発明1の上記相違点2に係る構成には至らない。
c したがって、甲2発明において、前記相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者であっても容易になし得たことではない。
d 異議申立人の主張に対して
異議申立人は、特許異議申立書において、甲2には、「かかと部のトップラインより上方に突出した芯を内在した突出部を前記かかと部に取り付け」る点が開示されている旨主張する(特許異議申立書の16頁8行~18頁18行)。
しかし、上記aで検討したように、甲2には、上記点は開示されていない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。
e 以上によれば、本件発明1は、当業者であっても、甲2発明及び甲3~6に記載の技術に基いて容易に発明することができたものではない。
イ 本件発明2について
(ア)本件発明2と甲5発明の対比
本件発明2と甲5発明とをその機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲5発明の「靴」は本件発明2の「短靴」に相当し、以下同様に、「踵部アッパー4」は「かかと部」に、「ヒールカウンター1」は「短靴用月型芯」又は「月型芯本体」に、「ヒールカウンター1上縁部2の中央部3」は「月型芯本体上端部中央」に、「中央部の上縁部2a」は「月型芯谷部」に、「第1の山部」は「第1の月型芯山部」に、「第2の山部」は「第2の月型芯山部」に、それぞれ相当する。
そうすると、本件発明2と甲5発明とは、
「短靴のかかと部の内側に装着される短靴用月型芯であって、月型芯本体と、この月型芯本体上端部中央に月型芯谷部が設けられ、前記月型芯谷部の一方側に第1の月型芯山部が、前記月型芯谷部の他方側に第2の月型芯山部が、それぞれ形成された、短靴用月型芯。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点3]
本件発明2は、「前記第1の月型芯山部は、先端部が前記月型芯本体の外側に傾斜し、前記第2の月型芯山部は、先端部が前記月型芯本体の外側に傾斜し、前記月型芯本体の前記短靴の装着時、前記第1の月型芯山部、前記月型芯谷部及び前記第2の月型芯山部は、前記短靴のかかと部のトップラインより上方に突出する」のに対して、
甲5発明は、第1の山部及び第2の山部の先端部がヒールカウンター1の外側に傾斜したものでなく、また、前記ヒールカウンター1の前記靴の装着時、ヒールカウンター1の中央部3の上縁部2a以外は、靴の踵部アッパー4で覆われる点。
(イ)判断
以下、相違点3について検討する。
a 甲5発明は、「ヒールカウンター1の中央部3の上縁部2a以外は、靴の踵部アッパー4で覆われるもの」(上記(1)オ(ウ)を参照)であり、すなわち、ヒールカウンター1の、「中央部3の上縁部2a」以外である第1の山部及び第2の山部は、踵部アッパー4で覆われたものであるといえる。そして、そのことは、甲5の図7、8の記載にも裏付けられているといえる。
そして、甲5に示されるヒールカウンターは、甲5の段落0003(上記(1)オ(イ)を参照)に記載されるように、「靴を履くときに巻き込まれないようにしたヒールカウンターを提供すること」を課題としたものであり、第1の山部及び第2の山部は踵部アッパー4で覆われることを前提としたヒールカウンターであるところ、そのようなヒールカウンターの第1の山部及び第2の山部について、前提に反して、踵部アッパー4のトップラインより上方に突出するように構成する理由はない。
そうすると、甲5発明において、本件発明2の相違点3に係る構成とする動機はない。
b また、甲1又は甲2には、靴ベラなどを用いないでスムーズに足のかかとを履物内に導くために、月型芯について、中央部の高さを高くし、中央部の先端部が外側に傾斜した技術が開示されているところ、甲5発明に、甲1又は甲2に開示される技術を採用し得たとしても、ヒールカウンターの中央部分を高くする構成が導かれ、本件発明2の上記相違点3に係る構成を導くことはできない。そもそも、甲5発明は、上記課題を解決するために、ヒールカウンター1上縁部2の中央部3に上縁が下方向に凹状に切り欠かれ低く形成された中央部の上縁部2aを設けた構成としたものであるから、甲5発明において、そのような構成を変えるような、甲1又は甲2に開示される技術を適用する動機はない。
c また、甲6には、カウンターについて、カウンターの上縁部に反り返し部を設ける技術が開示されているところ、少なくとも、「月型芯本体の短靴の装着時、第1の月型芯山部、月型芯谷部及び第2の月型芯山部は、短靴のかかと部のトップラインより上方に突出する」事項について、何ら記載も示唆もされていない。
そうすると、甲5発明において、仮に、甲6に記載された技術を採用し得たとしても、本件発明2の上記相違点3に係る構成には至らない。
d したがって、甲5発明において、前記相違点3に係る本件発明2の構成とすることは、当業者であっても容易になし得たことではない。
e 異議申立人の主張に対して
異議申立人は、特許異議申立書において、第1の月型芯山部、月型芯谷部及び第2の月型芯山部は、短靴のかかと部のトップラインより上方に突出する構成は、足のかかとをガイドして入りやすくするという目的のもとにおいては至極当然である旨主張している(特許異議申立書の28頁18~22行)。
しかし、上記aで検討したように、甲5発明において、そのように構成することは、前提に反することであり、また、月型芯を、かかと部のトップラインより上方に突出させずに足のかかとをガイドして入りやすくしたものが一般的である(例えば、甲2、甲6を参照)ことに鑑みると、異議申立人の上記主張は採用できない。
f 以上によれば、本件発明2は、当業者であっても、甲5発明及び甲1~2、6に記載の技術に基いて容易に発明することができたものではない。
ウ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1で特定される事項をすべて含み、更に、「前記第1の山部は上方斜め外方に傾斜し、前記第2の山部は上方斜め外方に傾斜し、前記かかと部の正面視、前記谷部は中央に、右に前記第1の山部、左に前記第2の山部が位置し、」という事項を含むものである。
そして、本件発明3と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記ア(ア-1)で示した相違点1で相違する。
そして上記ア(ア-2)で検討したとおり、甲1発明において、相違点1に係る構成は、容易に想到し得たものでない。
以上によれば、本件発明3は、当業者であっても、甲1発明及び甲3~6に記載の技術に基いて容易に発明することができたものではない。
また、本件発明3と甲2発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記ア(イ-1)で示した相違点2で相違する。
そして上記ア(イ-2)で検討したとおり、甲2発明において、相違点2に係る構成は、容易に想到し得たものでない。
以上によれば、本件発明3は、当業者であっても、甲2発明及び甲3~6に記載の技術に基いて容易に発明することができたものではない。
エ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明3を引用するものである。
そして、本件発明4と、甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも、上記ア(ア-1)で示した、相違点1で相違する。
そして上記ア(ア-2)で検討したとおり、甲1発明において、相違点1に係る構成は、容易に想到し得たものでない。
以上によれば、本件発明4は、当業者であっても、甲1発明及び甲3~6に記載の技術に基いて容易に発明することができたものではない。
また、本件発明4と甲2発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記ア(イ-1)で示した相違点2で相違する。
そして上記ア(イ-2)で検討したとおり、甲2発明において、相違点2に係る構成は、容易に想到し得たものでない。
以上によれば、本件発明4は、当業者であっても、甲2発明及び甲3~6に記載の技術に基いて容易に発明することができたものではない。
3 理由Bについて
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)請求項3に、第1の山部及び第2の山部について、「前記第1の山部は上方斜め外方に傾斜し、前記第2の山部は上方斜め外方に傾斜し、」という事項が記載されているところ、この事項により、第1の山部及び第2の山部は、それぞれ、上方斜め外方に傾斜していることが普通に理解できる。そして、本件特許明細書等の発明の詳細な説明や図面の記載を見ても、該理解と矛盾する記載はない。
また、請求項3に、第1の案内部及び第2の案内部について、「前記第1の案内部と前記第2の案内部は対向し、外方に向かって広がるように傾斜している」という事項が記載されているところ、この事項により、第1の案内部及び第2の案内部について、第1の案内部と第2の案内部は対向していること、すなわち、第1の案内部と第2の案内部が向き合うように構成されていることが、そして、それぞれ、外方に向かって広がるように傾斜していることが普通に理解できる。そして、本件特許明細書等の発明の詳細な説明や図面の記載を見ても、該理解と矛盾する記載はない。
そして、第1の山部及び第2の山部と、第1の案内部及び第2の案内部とについて、後者は前者の一部(前者の履物内側部分)であるところ、後者が前者に含まれるものであったとしても両者はそれぞれ異なる範囲を示すものであるから、それぞれ異なる表現で構成を特定したとしても、何ら矛盾はなく、また、本件特許明細書等の発明の詳細な説明や図面の記載全体を見れば、第1の山部及び第2の山部と、第1の案内部及び第2の案内部との、それぞれの構造が分からなくなるほどのものではなく、上記事項の理解を妨げることにはならない。
したがって、請求項3の記載及び請求項3を引用する請求項4記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)また、請求項3に「前記第1の案内部と前記第2の案内部は対向し、」という事項が記載されているところ、この事項により、第1の案内部及び第2の案内部について、第1の案内部と第2の案内部は対向していること、すなわち、第1の案内部と第2の案内部が向き合うように構成されていることが、普通に理解できる。そして、本件特許明細書等の図面(例えば、図2、6、7を参照)の記載を見ても、該理解と矛盾する記載はない。
したがって、請求項3の記載及び請求項3を引用する請求項4の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(4)以上によれば、本件特許の請求項3~4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号により取り消すことができない。
4 理由Cについて
(1)当初明細書等の段落0017の「突出部4は、両側に第1、第2の山部41、42を、第1の山部41と第2の山部42との間に谷部43を、それぞれ形成している。また、突出部4は、足のかかと5を履物S内に導く第1の案内部(靴カウンター裏材)44を第1の山部11の履物内側Xに、足のかかと5を履物S内に導く第2の案内部(カ靴ウンター裏材(当審注:原文ママ))45を第2の山部42の履物内側Xに、それぞれ形成している。」との記載や図2、6、7の記載から、足のかかとが、第1の案内部44と第2の案内部45に、挟まれるようにして、履物内に導かれることが理解できるから、第1の案内部44と第2の案内部45は、向かい合っているといえ、すなわち、対向しているといえる。
したがって、本件発明1、3の「前記第1の案内部と前記第2の案内部は対向」するという事項に係る補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものと認められる。
(2)異議申立人は、第1の案内部と第2の案内部について、面である案内部としては全く対向していない旨主張している(上記1(3)を参照)ところ、当初明細書等に記載された図6、7を見れば、両者は、面として見ても対向しているといえるから、異議申立人の上記主張は採用できない。
(3)以上によれば、令和5年4月25日付け手続補正書による手続補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許に係る出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、特許法第17条の2第3項に違反するものではない。
よって、本件特許は、同法第113条第1号に該当するものではなく、取り消されるべきものではない。
第6 まとめ
以上のとおりであるから、本件請求項1~4に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701258