特許異議申立
2023-701254
空気入りタイヤ
- 審判番号
- 2023-701254
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-174606外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7283331
- 請求日
- 2023年11月29日
- 審決日
- 2024年02月29日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】横浜ゴム株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【異議申立人】多田 和雄
- 分類
- P1652.113-Y (B60C) / P1652.121-Y (B60C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7283331号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7283331号の請求項1、2、4ないし7、9、10及び15に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7283331号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし15に係る特許についての出願は、
令和 1年 9月25日を出願日とする特許出願であって、
令和 5年 5月22日にその特許権の設定登録(請求項の数 15)がされ、
令和 5年 5月30日に特許掲載公報が発行され、
その後、当該特許に対し、
令和 5年11月29日に 多田 和雄(以下、「特許異議申立人」という。)により、請求項1、2、4ないし7、9、10及び15に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明について
本件特許の請求項1ないし15に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
【請求項1】
タイヤ周方向に延在する複数の主溝と、隣り合う前記主溝に区画されて成る陸部とを備える空気入りタイヤであって、
前記陸部が、タイヤ周方向に連続するリブであり、セミクローズド構造を有するラグ溝を備え、
前記陸部を区画する前記主溝のうちの少なくとも一方の主溝が、長尺部と短尺部とを交互に接続して成るジグザグ形状を有し、
前記長尺部の周方向長さLg2が、前記ジグザグ形状の波長λ2に対して0.70≦Lg2/λ2≦0.90の関係を有し、且つ、
前記ジグザグ形状の振幅A2が、タイヤ接地幅TWに対して0.03≦A2/TW≦0.05の関係を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
1つの前記陸部を区画する前記主溝の双方が、前記長尺部と前記短尺部とを接続して成る前記ジグザグ形状を有する請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ジグザグ形状を有する前記主溝が、タイヤ周方向視にて、シースルーレス構造を有する請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ラグ溝が、前記陸部の前記エッジ部において前記主溝に対して凹となる位置に開口する請求項1~3のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ラグ溝のタイヤ幅方向への延在長さが、前記陸部の最大接地幅に対して20[%]以上60[%]以下の範囲にある請求項1~4のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ラグ溝が、前記陸部の左右のエッジ部に配置されると共にタイヤ周方向に千鳥状に配置される請求項1~5のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
タイヤ周方向視における隣り合う前記ラグ溝のオーバーラップ量Wrが、前記陸部の最大接地幅Wb3に対して0≦Wr/Wb3≦0.30の関係を有する請求項6に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
隣り合う前記ラグ溝のタイヤ周方向の距離D3が、前記ジグザグ形状の波長λ2に対して0.20≦D3/λ2≦0.50の関係を有する請求項6または7に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
タイヤ周方向に対する前記ラグ溝の傾斜方向が、前記主溝の前記ジグザグ形状の前記長尺部の傾斜方向に対して逆方向である請求項6~8のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記ラグ溝の最大溝深さが、前記主溝の最大溝深さに対して70[%]以上100[%]以下の範囲にある請求項6~9のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記陸部を区画する前記主溝のうちのタイヤ赤道面側の主溝が、前記長尺部と前記短尺部とを交互に接続して成る前記ジグザグ形状を有し、且つ、
タイヤ接地端側の主溝が、略同一長さの直線部を接続して成るジグザグ形状を有すると共に、前記タイヤ接地端側の前記主溝の前記直線部の周方向長さLg1が、前記ジグザグ形状の波長λ1に対して0.30≦Lg1/λ1≦0.70の関係を有する請求項1~10のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
前記タイヤ接地端側の前記主溝の波長λ1と、前記タイヤ赤道面側の前記主溝の波長λ2とが、1.50≦λ2/λ1≦2.00の関係を有する請求項11に記載の空気入りタイヤ。
【請求項13】
車両のドライブ軸に装着される重荷重用タイヤである請求項1~12のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項14】
タイヤ周方向に延在する複数の主溝と、隣り合う前記主溝に区画されて成る陸部とを備える空気入りタイヤであって、
前記陸部が、タイヤ周方向に連続するリブであり、セミクローズド構造を有するラグ溝を備え、
前記陸部を区画する前記主溝のうちの少なくとも一方の主溝が、長尺部と短尺部とを交互に接続して成るジグザグ形状を有し、
前記長尺部の周方向長さLg2が、前記ジグザグ形状の波長λ2に対して0.70≦Lg2/λ2≦0.90の関係を有し、且つ、
前記ジグザグ形状を有する前記主溝が、タイヤ周方向視にて、シースルーレス構造を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項15】
タイヤ周方向に延在する複数の主溝と、隣り合う前記主溝に区画されて成る陸部とを備える空気入りタイヤであって、
前記陸部が、タイヤ周方向に連続するリブであり、セミクローズド構造を有するラグ溝を備え、
前記陸部を区画する前記主溝のうちの少なくとも一方の主溝が、長尺部と短尺部とを交互に接続して成るジグザグ形状を有し、
前記長尺部の周方向長さLg2が、前記ジグザグ形状の波長λ2に対して0.70≦Lg2/λ2≦0.90の関係を有し、且つ、
前記ラグ溝のタイヤ幅方向への延在長さが、前記陸部の最大接地幅に対して20[%]以上60[%]以下の範囲にあることを特徴とする空気入りタイヤ。
第3 特許異議申立書に記載した異議申立理由について
令和 5年11月29日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1、2、4ないし7、9、10及び15は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2、4ないし7、9、10及び15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許発明1、2、4ないし7、9、10及び15は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2、4ないし7、9、10及び15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第3号証に基づく進歩性)
本件特許発明1、2、4ないし7、9、10及び15は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2、4ないし7、9、10及び15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(甲第4号証に基づく進歩性)
本件特許発明1、2、4ないし7、9、10及び15は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2、4ないし7、9、10及び15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 証拠方法
甲第1号証:特開2014-101039号公報
甲第2号証:特開2015-20663号公報
甲第3号証:特開2017-95044号公報
甲第4号証:特開2018-127220号公報
証拠の表記は特許異議申立書の記載におおむね従った。
以下、順に「甲1」等という。
第4 当審の判断
1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲1の記載事項等
ア 甲1の記載事項
甲1には空気入りタイヤに関し次の事項が記載されている。
「【請求項1】
トレッド部に、タイヤ赤道のタイヤ軸方向両側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝が設けられることにより、前記一対のセンター主溝間にタイヤ周方向に連続してのびる1本のセンターリブが形成され、
しかも、前記センターリブには、サイプ幅が1.5mm以下でタイヤ軸方向にのびるサイピングがタイヤ周方向に複数本隔設されている空気入りタイヤであって、
前記センターリブのタイヤ軸方向の最大幅は、トレッド接地幅の15~19%であり、
前記センターリブには、少なくとも一方のセンター主溝からタイヤ赤道側にのびかつ前記センター主溝よりも深さが小さい凹部がタイヤ周方向に隔設され、
前記凹部の深さは、前記センター主溝の溝深さの60~80%であり、
前記センターリブの踏面の平面展開図に、前記センター主溝のタイヤ軸方向内側の溝縁を該センター主溝の溝底中心線に沿って延長した延長線を加えることにより、前記各凹部のセンター主溝側が閉じられた仮想センターリブ踏面を設定したときに、前記延長線で閉じられた各凹部の面積の合計が、前記サイピングを無視した前記仮想センターリブ踏面の面積の5~9%であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記センター主溝は、タイヤ周方向に対して一方側に傾斜する長辺部と、該長辺部と逆向きに傾斜しかつタイヤ周方向の長さが前記長辺部よりも小さい短辺部とが交互に配されたジグザグ状である請求項1記載の空気入りタイヤ。」
「【0028】
長辺部8aの角度α1が小さい場合、タイヤ軸方向のエッジ成分が低下するおそれがある。長辺部8aの角度α1が大きい場合、センター主溝3Aの排水抵抗や排雪抵抗が大きくなり、排水性能及び雪路性能が悪化するおそれがある。このため、長辺部8aの角度α1は、好ましくは5°以上、より好ましくは7°以上であり、好ましくは20°以下、より好ましくは18°以下である。
【0029】
特に限定されるものではないが、短辺部8bのタイヤ周方向に対する角度α2は、好ましくは30°以上、より好ましくは35°以上であり、好ましくは60°以下、より好ましくは55°以下である。短辺部8bの角度α2が大きい場合、センター主溝3Aの排水抵抗が大きくなるおそれがある。短辺部8bの角度α2が小さい場合、雪柱せん断力が小さくなるおそれがある。」
「【0032】
センターリブ5及び各ブロック6、7のタイヤ軸方向の剛性をバランスよく確保するため、センター主溝3Aとタイヤ赤道Cとの間のタイヤ軸方向距離L1は、トレッド接地幅TWの5~13%が望ましい。・・・(後略)・・・」
「【0044】
凹部15の深さD6は、センター主溝3Aの溝深さD1の60~80%である。凹部15の深さD6が、センター主溝3Aの溝深さD1の80%を超える場合、センターリブ5の剛性が低下する。凹部15の深さD6が、センター主溝3Aの溝深さD1の60%未満の場合、排水性能や雪柱せん断力を十分に高めることができない。このため、凹部15の深さD6は、センター主溝3Aの溝深さD1の好ましくは62%以上であり、好ましくは78%以下である。」
「【0050】
本実施形態の凹部15は、タイヤ赤道Cの両側において、タイヤ周方向に交互に位置ずれして配される。これにより、センターリブ5のタイヤ軸方向の剛性がタイヤ周方向に均等化される。
【0051】
凹部15の最もタイヤ赤道側の点15kと延長線10eとのタイヤ軸方向の長さL4が小さい場合、排水性能を高めることができない。凹部15のタイヤ軸周方向の長さL4が大きい場合、センターリブ5の踏面の表面積が小さくなり、センターリブ5の剛性が悪化する。このため、凹部15のタイヤ軸周方向の長さL4は、センターリブ5のタイヤ軸方向の最大幅Wcの好ましくは13%以上、より好ましくは15%以上であり、好ましくは21%以下、より好ましくは19%以下である。
【0052】
凹部15の壁面16aと対向する壁面16bは、タイヤ軸方向に沿ってのびる。このような壁面16bは、氷路での制動力や駆動力を高める。
【0053】
サイピング17は、凹部15の隔設ピッチP1内に、少なくとも4本設けられるのが望ましい。これにより、サイピング17による駆動・制動力の向上効果が高められる。しかしながら、サイピング17の本数が増加する場合、センターリブ5の剛性が小さくなり、かえって氷路性能が悪化するおそれがある。このため、サイピング17は、凹部15の隔設ピッチP1内に、より好ましくは5本以上であり、好ましくは8本以下、より好ましくは7本以下である。なお、凹部15の隔設ピッチP1が大きい場合、排水性能、雪路性能を高めることができないおそれがある。隔設ピッチP1が小さい場合、センターリブ5の剛性が小さくなり、氷路性能を高めることができないおそれがある。このため、隔設ピッチP1は、トレッド接地幅TWの好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上であり、また好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下である。」
「【図1】
[図:0001407886000001.jpg]
」
「【図2】
[図:0001407886000002.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
上記アより、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「トレッド部に、タイヤ赤道のタイヤ軸方向両側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝が設けられることにより、前記一対のセンター主溝間にタイヤ周方向に連続してのびる1本のセンターリブが形成され、
前記センターリブには、サイプ幅が1.5mm以下でタイヤ軸方向にのびるサイピングがタイヤ周方向に複数本隔設されている空気入りタイヤであって、
前記センターリブのタイヤ軸方向の最大幅は、トレッド接地幅の15~19%であり、
前記センターリブには、少なくとも一方のセンター主溝からタイヤ赤道側にのびかつ前記センター主溝よりも深さが小さい凹部がタイヤ周方向に隔設され、
前記凹部の深さは、前記センター主溝の溝深さの60~80%であり、
前記センターリブの踏面の平面展開図に、前記センター主溝のタイヤ軸方向内側の溝縁を該センター主溝の溝底中心線に沿って延長した延長線を加えることにより、前記各凹部のセンター主溝側が閉じられた仮想センターリブ踏面を設定したときに、前記延長線で閉じられた各凹部の面積の合計が、前記サイピングを無視した前記仮想センターリブ踏面の面積の5~9%であり、
前記センター主溝は、タイヤ周方向に対して一方側に傾斜する長辺部と、該長辺部と逆向きに傾斜しかつタイヤ周方向の長さが前記長辺部よりも小さい短辺部とが交互に配されたジグザグ状であり、
長辺部の角度α1が5°以上20°以下であり、
短辺部のタイヤ周方向に対する角度α2が30°以上60°以下である、空気入りタイヤ。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「トレッド部に」「設けられ」た「タイヤ赤道のタイヤ軸方向両側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のセンター主溝」は、本件特許発明1における「タイヤ周方向に延在する複数の主溝」に相当する。
甲1発明における「前記一対のセンター主溝間にタイヤ周方向に連続してのびる一本のセンターリブ」は、本件特許発明1における「隣り合う前記主溝に区分されて成る」「タイヤ周方向に連続するリブであ」る「陸部」に相当する。
甲1発明における「少なくとも一方のセンター主溝からタイヤ赤道側にのびかつ前記センター主溝よりも深さが小さい」「タイヤ周方向」の「センターリブに」「隔設され」た「凹部」は、本件特許発明1における「陸部」に「備え」られた「セミクローズド構造を有するラグ溝」に相当する。
甲1発明における「センター主溝は、タイヤ周方向に対して一方側に傾斜する長辺部と、該長辺部と逆向きに傾斜しかつタイヤ周方向の長さが前記長辺部よりも小さい短辺部とが交互の配されたジグザグ状であ」る構成は、本件特許発明1における「前記陸部を区分する前記主溝のうち少なくとも一方の主溝が、長尺部と短尺部とを交互に接続して成るジグザグ形状を有」する構成に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「タイヤ周方向に延在する複数の主溝と、隣り合う前記主溝に区分されて成る陸部とを備える空気入りタイヤであって、前記陸部が、タイヤ周方向に連続するリブであり、セミクローズド構造を有するラグ溝を備え、前記陸部を区画する前記主溝のうちの少なくとも一方の主溝が、長尺部と短尺部とを交互に接続して成るジグザグ形を有する、空気入りタイヤ。」
<相違点1-1>
本件特許発明1は、「前記長尺部の周方向長さLg2が、前記ジグザグ形状の波長λ2に対して0.70≦Lg2/λ2≦0.90の関係を有し」との特定を有するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1は、「前記ジグザグ形状の振幅A2が、タイヤ接地幅TWに対して0.03≦A2/TW≦0.05の関係を有する」との特定を有するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
相違点1-1について検討する。
甲1には、長尺部の周方向長さLgのジグザグ形状の波長λ2に対する比である、Lg2/λ2についての記載はない。よって、相違点1-1は実質的な相違点である。
特許異議申立人は特許異議申立書(第30頁第9~27行)において、甲1【0028】には長辺部の角度α1の好適範囲(5°以上20°以下)が記載され、甲1【0029】には短辺部の角度α2の好適範囲(30°以上60°以下)が記載されており、センター主溝の振幅をA2とすると、長辺部周方向長さLg2の範囲はA2/tan20°~A2/tan5°=A2×(2.75~11.43)、短辺部周方向長さの範囲はA2/tan60°~A2/tan30°=A2×(0.58~1.73)、上記から、長辺部周方向長さLg2と短辺部周方向長さを足しあわせた波長λ2はA2×(3.33~13.16)、Lg2/λ2は0.61~0.95になる旨説明している。
なお、特許異議申立人の上記説明において、Lg2、λ2は角度α1、α2の関数であるから、Lg2の最小値をλ2の最大値で除した値及びLg2の最大値をλ2の最小値で除した値が、直ちにLg2/λ2の最小値及び最大値になるのではないが、Lg2/λ2の最大値はα1=5°かつα2=60°のとき、Lg2/λ2=tan-15°/tan-15°+tan-160°=0.952、Lg2/λ2の最小値はα1=20°かつα2=30°のとき、Lg2/λ2=tan-120°/tan-120°+tan-130°=0.61となる。したがって、甲1には、0.61≦Lg2/λ2≦0.95が開示されているといえる。
しかしながら、甲1及び他の全ての証拠をみても、甲1発明において、Lg2/λ2の数値範囲を、0.61≦Lg2/λ2≦0.95から、さらに、0.70≦Lg2/λ2≦0.90に特定する動機となる記載はない。
そして、本件特許発明1は優れたスノートラック性能及び耐偏摩耗性という顕著な効果を有するものであり、相違点1-1に係る0.70≦Lg2/λ2≦0.90の数値範囲とすることにより奏される効果は本件特許明細書の【図10】従来例と実施例との対比において検証されているとおりである。
よって、相違点1-2については検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2、4ないし7、9及び10について
本件特許発明2、4ないし7,9及び10は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2、4ないし7、9及び10は、甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明15について
本件特許発明15と甲1発明とを対比すると、上記アと同様の対応関係を有する。
そうすると、本件特許発明15と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「タイヤ周方向に延在する複数の主溝と、隣り合う前記主溝に区画されて成る陸部とを備え、前記陸部が、タイヤ周方向に連続するリブであり、セミクローズド構造を有するラグ溝を備え、前記陸部を区画する前記主溝のうちの少なくとも一方の主溝が、長尺部と短尺部とを交互に接続して成るジグザグ形状を有する、空気入りタイヤ。」
<相違点1-3>
本件特許発明15は、「長尺部の周方向長さLg2が、前記ジグザグ形状の波長λ2に対して0.70≦Lg2/λ2≦0.90の関係を有し」との特定を有するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
<相違点1-4>
本件特許発明15は、「前記ラグ溝のタイヤ幅方向への延在長さが、前記陸部の最大接地幅に対して20[%]以上60[%]以下の範囲にある」との特定を有するのに対して、甲1発明はそのような特定がない点。
相違点1-3は、上記アの相違点1-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、相違点1-4については検討するまでもなく、本件特許発明15は甲1発明ではなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由1のまとめ
したがって、本件特許発明1、2、4ないし7、9、10及び15は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、特許法第113条第2号に該当しないので、本件特許の請求項1、2、4ないし7、9、10及び15に係る特許は申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
(1)甲2の記載事項等
ア 甲2の記載事項
甲2には空気入りタイヤに関し次の事項が記載されている。
「【請求項1】
トレッド部に、タイヤ赤道の両側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のクラウン主溝と、
前記クラウン主溝の外側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝とを具えることにより、
前記クラウン主溝と前記ショルダー主溝との間にミドル陸部が区分された空気入りタイヤであって、
前記ミドル陸部は、前記クラウン主溝と前記ショルダー主溝との間をタイヤ軸方向にのびるミドル横溝がタイヤ周方向に隔設されることにより、複数個のミドルブロックに区分され、
前記各ミドルブロックは、前記ショルダー主溝からタイヤ軸方向内側にのび、かつ、前記クラウン主溝に至ることなく終端する外側ミドルスロットが設けられることを特徴とする空気入りタイヤ。」
「【請求項6】
前記クラウン主溝は、ジグザグ状に屈曲しながらタイヤ周方向に連続してのび、
前記クラウン主溝の溝中心線は、タイヤ軸方向内側に突出する内側頂点と、タイヤ軸方向外側に突出する外側頂点とを具え、
前記ミドルブロックは、前記外側頂点からタイヤ軸方向外側にのび、かつ、前記ショルダー主溝に至ることなく終端する内側ミドルスロットを具える請求項1乃至5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。」
「【0028】
図3には、図1のクラウン主溝3及びクラウン陸部5の部分拡大図が示される。クラウン主溝3は、タイヤ周方向に対して一方側に傾斜(図において、右上がりに傾斜)する短辺部3Aと、タイヤ周方向に対して他方側に傾斜し(図において、左上がりに傾斜)、かつ、短辺部3Aよりもタイヤ周方向の長さが大きい長辺部3Bとを含んでいる。これらの短辺部3A及び長辺部3Bが、タイヤ周方向に交互に配置され、ジグザグ状に屈曲しながらタイヤ周方向に連続してのびている。また、クラウン主溝3の溝中心線3Lは、タイヤ軸方向内側に突出する内側頂点P1と、タイヤ軸方向外側に突出する外側頂点P2とが設けられている。」
「【0030】
図1に示されるように、クラウン主溝3の溝幅W1は、トレッド接地端2t、2t間のタイヤ軸方向距離であるトレッド幅TWの2%~5%程度が望ましい。また、クラウン主溝3の溝深さD1(図2に示す)は、トレッド幅TWの5%~10%程度が望ましい。図3に示されるように、短辺部3Aのタイヤ周方向の長さL1aは、長辺部3Bのタイヤ周方向の長さL1bの20%~30%程度が望ましい。なお、各長さL1a、L1bは、内側頂点P1及び外側頂点P2間の距離である。」
「【0039】
図1に示されるように、クラウン陸部5は、一対のクラウン主溝3、3の間で、タイヤ周方向に連続するリブ体として形成される。・・・(後略)・・・」
「【0040】
図3に示されるように、クラウン陸部5には、内側頂点P1からタイヤ軸方向内側にのび、かつ、タイヤ赤道Cに至ることなく終端するクラウンスロット26が設けられる。本実施形態のクラウンスロット26は、長辺部3Bの溝縁側に形成されている。このようなクラウンスロット26は、クラウン陸部5の剛性を損ねずに、雪を強固に押し固めることができ、雪上性能を向上しうる。また、クラウンスロット26は、路面の水膜を、クラウン主溝3側に案内することができるため、排水性能を向上しうる。
【0041】
図2に示されるように、クラウンスロット26の溝深さD6は、クラウン主溝3の溝深さD1の20%~70%が望ましい。なお、クラウンスロット26の溝深さD6は、クラウン主溝3の溝深さD1の20%未満であると、雪を十分に押し固めることができないおそれがある。逆に、クラウンスロット26の溝深さD6は、クラウン主溝3の溝深さD1の70%を超えると、クラウン陸部5の剛性を十分に維持することができず、耐偏摩耗性能及び旋回時の横グリップが低下するおそれがある。このような観点より、クラウンスロット26の溝深さD6は、より好ましくは、クラウン主溝3の溝深さD1の30%以上であり、より好ましくは60%以下である。」
「【0043】
一対のクラウン主溝3、3のうち、一方のクラウン主溝3aに設けられるクラウンスロット26と、他方のクラウン主溝3bに設けられるクラウンスロット26とは、タイヤ周方向で互いに位置ずれして配置されるのが望ましい。これにより、クラウンスロット26、26は、クラウン陸部5において、タイヤ周方向に万遍なく形成されるため、雪上性能を向上しうる。」
「【図1】
[図:0001407886000003.jpg]
」
「【図3】
[図:0001407886000004.jpg]
」
イ 甲2に記載された発明
上記アより、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「トレッド部に、タイヤ赤道の両側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のクラウン主溝と、
前記クラウン主溝の外側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のショルダー主溝とを具えることにより、
前記一対のクラウン主溝の間に、タイヤ周方向に連続するリブ体として形成されるクラウン陸部を備え、
前記クラウン主溝と前記ショルダー主溝との間にミドル陸部が区分された空気入りタイヤであって、
前記ミドル陸部は、前記クラウン主溝と前記ショルダー主溝との間をタイヤ軸方向にのびるミドル横溝がタイヤ周方向に隔設されることにより、複数個のミドルブロックに区分され、
前記各ミドルブロックは、前記ショルダー主溝からタイヤ軸方向内側にのび、かつ、前記クラウン主溝に至ることなく終端する外側ミドルスロットが設けられ、
前記クラウン主溝は、ジグザグ状に屈曲しながらタイヤ周方向に連続してのび、タイヤ周方向に対して一方側に傾斜する短辺部と、タイヤ周方向に対して他方側に傾斜し、かつ、短辺部よりもタイヤ周方向の長さが大きい長辺部を含み、短辺部のタイヤ周方向の長さL1aは、長辺部のタイヤ周方向の長さL1bの20~30%程度であり、
前記クラウン主溝の溝中心線は、タイヤ軸方向内側に突出する内側頂点と、タイヤ軸方向外側に突出する外側頂点とを具え、
前記ミドルブロックは、前記外側頂点からタイヤ軸方向外側にのび、かつ、前記ショルダー主溝に至ることなく終端する内側ミドルスロットを具え、
前記クラウン陸部には、内側頂点からタイヤ軸方向内側にのび、かつ、タイヤ赤道Cに至ることなく終端するクラウンスロットが、クラウン主溝の長辺部の溝縁側に形成される、空気入りタイヤ。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明における「トレッド部に」形成された「タイヤ赤道の両側をタイヤ周方向に連続してのびる一対のクラウン主溝」は、本件特許発明1における「タイヤ周方向に延在する複数の主溝」に相当する。
甲2発明における「前記一対のクラウン主溝の間に、タイヤ周方向に連続するリブ体として形成されるクラウン陸部」は、本件特許発明1における「隣り合う前記主溝に区画されて成」り「タイヤ周方向に連続するリブであ」る「陸部」に相当する。
甲2発明における「クラウン主溝」が、「ジグザグ状に屈伸しながらタイヤ周方向に連続してのび、タイヤ周方向に対して一方側に傾斜する短辺部と、タイヤ周方向に対して他方側に傾斜し、かつ、短辺部よりもタイヤ周方向の長さが大きい長辺部を含」む構成は、本件特許発明1における「前記陸部を区画する前記主溝のうちの少なくとも一方の主溝が、長尺部と短尺部とを交互に接続して成るジグザル形状を有」する構成に相当する。
甲2発明における「クラウン陸部に」「形成され」、「クラウン主溝の溝中心線」の「タイヤ軸方向内側に突出する内側頂点」「からタイヤ軸方向内側にのび、かつ、タイヤ赤道Cに至ることなく終端する」「クラウン主溝の長辺部の溝縁側に形成され」た「クラウンスロット」は、本件特許発明1における「陸部」に「備え」られた「セミクローズド構造を有するラグ溝」に相当する。
甲2発明の「短辺部のタイヤ周方向の長さL1a」と「長辺部のタイヤ周方向の長さL1b」を足しあわせた長さは、本件特許発明1における「ジグザグ形状の波長λ2」に相当し、甲2発明の「長辺部のタイヤ周方向の長さL1b」は、本件特許発明1における「長尺部の周方向長さLg2」に相当するから、甲2発明における「短辺部のタイヤ周方向の長さL1aは、長辺部のタイヤ周方向の長さL1bの20~30%程度」である構成は、本件特許発明1のLg2/λ2に換算すると約0.77~0.83であり、よって、本件特許発明1の「長尺部の周方向長さLg2が、前記ジグザグ形状の波長λ2に対して0.70≦Lg2/λ2≦0.90の関係を有し」との特定事項を満たす。
そうすると、本件特許発明1と甲2発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「タイヤ周方向に延在する複数の主溝と、隣り合う前記主溝に区分されて成る陸部とを備える空気入りタイヤであって、前記陸部が、タイヤ周方向に連続するリブであり、セミクローズド構造を有するラグ溝を備え、前記陸部を区画する前記主溝のうちの少なくとも一方の主溝が、長尺部と短尺部とを交互に接続して成るジグザグ形を有し、長尺部の周方向長さLg2が、前記ジグザグ形状の波長λ2に対して0.70≦Lg2/λ2≦0.90の関係を有する、空気入りタイヤ。」
<相違点2-1>
本件特許発明1は、「前記ジグザグ形状の振幅A2が、タイヤ接地幅TWに対して0.03≦A2/TW≦0.05の関係を有する」との特定を有するのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。
相違点2-1について検討する。
甲2には、ジグザグ形状の振幅A2について何ら記載されておらず不明である。よって相違点2-1は実質的な相違点である。
相違点2-1に関し、特許異議申立人は特許異議申立書(第30頁下から2行~第31頁第14行)において、甲1の【0053】に、センター主溝の隔設ピッチP1はトレッド幅TWの10%以上30%以下が好ましいことが記載されていること、隔設ピッチP1はジグザグ形状の波長λ2に相当するから、すなわちλ2=(0.1~0.3)×TWであることを説明している。
さらに、上記1(2)アの相違点1-1における特許異議申立人の主張と併せて、センター主溝の振幅A2とλ2とは、λ2=A2×(3.33~13.16)であったから、λ2=(0.1~0.3)×TW=A2×(3.33~13.16)の関係が導かれ、すなわち、甲1には、A2/TW=(0.1~0.3)/(3.33~13.16)=0.0076~0.09の構成が記載されていると説明している。
しかしながら、甲2発明において、ジグザグ形状の振幅A2とタイヤ接地幅TWとの関係を調整する動機となる記載は、甲2及び他の全ての証拠をみても存在しない。
特許異議申立人が主張する甲1のA2/TW=0.0076~0.09は、甲1において、センター主溝の長辺と短辺がタイヤ周方向となす角度のそれぞれの好適な範囲について記載された箇所と、センター主溝のジグザグ形状のピッチとタイヤ接地幅との好適な比率について記載された箇所とをそれぞれ抽出し、ジグザグ形状の振幅A2とタイヤ接地幅TWの数値範囲に当て嵌めたものであり、甲1に、センター主溝のジグザグ形状の振幅A2とタイヤ接地幅TWの関係を調整することについて記載があるというものではない。
また、仮に、甲2発明に、甲1のA2/TW=0.0076~0.09を採用したとしても、甲1のA2/TW=0.0076~0.09は、相違点2-1に係る0.03≦A2/TW≦0.05に対しては、上限及び下限共に満たさないものである。甲1のA2/TW=0.0076~0.09から、さらに、A2/TW=0.03~0.05に限定する動機となる記載は、甲1、甲2及び他のいずれの証拠にもない。
そして、本件特許発明1は優れたスノートラック性能及び耐偏摩耗性という顕著な効果を有するものであり、相違点2-1に係る0.03≦A2/TW≦0.05の数値範囲とすることにより奏される効果は本件特許明細書の【図10】従来例と実施例との対比により検証されているとおりである。
よって、本件特許発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2、4ないし7、9及び10について
本件特許発明2、4ないし7、9及び10は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2、4ないし7、9及び10は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明15について
本件特許発明15と甲2発明とを対比すると、上記アと同様の対応関係を有する。
そうすると、本件特許発明15と甲2発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「タイヤ周方向に延在する複数の主溝と、隣り合う前記主溝に区画されて成る陸部とを備え、前記陸部が、タイヤ周方向に連続するリブであり、セミクローズド構造を有するラグ溝を備え、前記陸部を区画する前記主溝のうちの少なくとも一方の主溝が、長尺部と短尺部とを交互に接続して成るジグザグ形状を有し、前記長尺部の周方向長さLg2が、前記ジグザグ形状の波長λ2に対して0.70≦Lg2/λ2≦0.90の関係を有する空気入りタイヤ。」
<相違点2-2>
本件特許発明15は、「前記ラグ溝のタイヤ幅方向への延在長さが、前記陸部の最大接地幅に対して20[%]以上60[%]以下の範囲にある」との特定を有するのに対して、甲2発明はそのような特定がない点。
相違点2-2について検討する。
甲2にはラグ溝のタイヤ幅方向への延在長さと、陸部の最大接地幅との関係は何ら記載されておらず、相違点2-2は実質的な相違点である。
特許異議申立人は、特許異議申立書(第34頁第1~13行)において、甲1の【0051】に、凹部(ラグ溝に相当)のタイヤ周方向の長さL4が、センターリブ(センター陸部に相当)のタイヤ周方向の最大幅Wcの13%以上21%以下であること、すなわち、ラグ溝のタイヤ幅方向への延在長さが、前記陸部の最大接地幅に対して13[%]以上21[%]以下の範囲にあることが記載されている旨説明している。
しかしながら、甲1、甲2及び他の全ての証拠をみても、甲2発明において、相違点2-2に係るラグ溝のタイヤ幅方向への延在長さを、前記陸部の最大接地幅に対して20[%]以上60[%]以下の範囲に調整する動機となる記載はない。
また、仮に、甲2発明に、甲1の13[%]以上21[%]以下を採用したとしても、甲1の13[%]以上21[%]以下は、相違点2-2に係る20[%]以上60[%]とは、20~21[%]の僅かな範囲で重複しているに過ぎず、甲1の13[%]以上21[%]以下を、さらに、相違点2-2に係る20[%]以上60[%]へ変更する動機となる記載は、甲1、甲2及び他のいずれの証拠にもない。
よって、本件特許発明15は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由2のまとめ
したがって、本件特許発明1、2、4ないし7、9、10及び15は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、特許法第113条第2号に該当しないので、本件特許の請求項1、2、4ないし7、9、10及び15に係る特許は申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(甲3に基づく進歩性)について
(1)甲3の記載事項等
ア 甲3の記載事項
甲3には空気入りタイヤに関し次の事項が記載されている。
「【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記トレッド部を構成するトレッドゴムのJIS硬度が40~60の範囲にあり、前記トレッド部に形成される溝及びサイプに基づくスノートラクションインデックスが180以上であり、かつ回転方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部のセンター領域に一対の周方向溝の相互間に位置してタイヤ周方向に連なるリブが区画され、該リブに一端が該リブ内で閉塞して他端が前記周方向溝のいずれか一方に開口する複数本の閉止溝が形成され、各閉止溝はその閉止端が踏み込み側を向くようにタイヤ軸方向に対して傾斜し、各閉止溝の踏み込み側の溝壁が蹴り出し側の溝壁よりもタイヤ軸方向外側へ突き出し、各閉止溝の踏み込み側の溝壁のタイヤ軸方向に対する角度θ1と蹴り出し側の溝壁のタイヤ軸方向に対する角度θ2との差が0°≦θ1-θ2≦5°の範囲にあることを特徴とする空気入りタイヤ。」
「【請求項6】
前記閉止溝のタイヤ軸方向の長さWgが前記リブのタイヤ軸方向の幅Wrの40%~80%の範囲にあることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。」
「【0013】
閉止溝のタイヤ軸方向の長さWgはリブのタイヤ軸方向の幅Wrの40%~80%の範囲にあることが好ましい。これにより、閉止溝に基づく雪柱せん断力を十分に確保し、雪上性能を効果的に改善することができる。」
「【0023】
図2に示すように、トレッド部1には、タイヤ赤道CLの両側でタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延在する一対の周方向主溝11と、各周方向主溝11のタイヤ幅方向外側でタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延在する一対の周方向主溝12と、これら周方向主溝11と周方向主溝12との間でタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延在する一対の周方向補助溝13とが形成されている。周方向主溝11,12は、溝幅が7mm~14mmの範囲にあり、溝深さが8.0mm~12.0mmの範囲にある溝である。一方、周方向補助溝13は、周方向主溝11,12よりも狭く、かつ溝幅が3mm~7mmの範囲にあり、溝深さが7.0mm~11.0mmの範囲にある溝である。」
「【0034】
上記空気入りタイヤにおいて、図5及び図6に示すように、閉止溝21はその閉止端に向かって徐々に深くなる構造を有することが望ましい。つまり、閉止溝21の開口端側の位置での溝深さD1よりも閉止端側の位置での溝深さD2を相対的に大きくするのが良い。これにより、閉止溝21の閉止端側の体積が相対的に大きくなり、雪を閉止溝21の閉止端側へ誘導する効果が高くなるので、雪柱せん断力を効果的に増大させることができる。なお、閉止溝21の溝深さDは7mm~14mmの範囲にあると良い。」
「【図2】
[図:0001407886000005.jpg]
」
イ 甲3に記載された発明
上記アより、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。
<甲3発明>
「タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2,2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えるスノートラクションインデックスが180以上であり、かつ回転方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部1のセンター領域に一対の周方向主溝11の相互間に位置してタイヤ周方向に連なるセンターリブ20が区画され、
トレッド部1には、タイヤ赤道CLの両側でタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延在する一対の周方向主溝11と、各周方向主溝11のタイヤ幅方向外側でタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延在する一対の周方向主溝12と、これら周方向主溝11と周方向主溝12との間でタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延在する一対の周方向補助溝13とが形成され、
センターリブ20には、一端がセンターリブ20内で閉塞して他端が周方向主溝11のいずれか一方に開口する複数本の閉止溝21と、タイヤ軸方向に延びる複数本のサイプ23が形成され、複数本の閉止溝21はタイヤ軸方向の一方側に開口するものとタイヤ軸方向の他方側に開口するものとを含み、それらがタイヤ周方向に沿って交互に配置されており、各閉止溝21はその閉止端が回転方向R側を向くようにタイヤ軸方向に対して傾斜し、各閉止溝21の踏み込み側の溝壁21Aは蹴り出し側の溝壁21Bよりもタイヤ軸方向外側へ突出し、各閉止溝21の踏み込み側の溝壁21Aのタイヤ軸方向に対する角度θ1と蹴り出し側の溝壁21Bのタイヤ軸方向に対する角度θ2との差は0°≦θ1-θ2≦5°の範囲に設定されており、
前記閉止溝21のタイヤ軸方向の長さWgが前記リブのタイヤ軸方向の幅Wrの40%~80%の範囲にある、空気入りタイヤ。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明における「トレッド部1のセンター領域に」配置された「一対の周方向主溝11」は本件特許発明1における「タイヤ周方向に延在する複数の主溝」に相当する。
甲3発明における「一対の周方向主溝11の相互間に位置してタイヤ周方向に連なる」ように「区画され」た「センターリブ20」は、本件特許発明1における「隣り合う前記主溝に区画されて成」り「タイヤ周方向に連続するリブ」である「陸部」に相当する。
甲3発明における「タイヤ赤道CLの両側でタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延在する一対の周方向主溝11」は、本件特許発明1における「陸部を区分する前記主溝のうちすくなくとも一方の」「ジグザグ形状を有」する「主溝」に相当する。
甲3発明における「一端がセンターリブ20内で閉塞して他端が周方向主溝11のいずれか一方に開口する複数本の閉止溝21」は、本件特許発明1における「セミクローズド構造を有するラグ溝」に相当する。
甲3発明における「周方向主溝11」のジグザグ形状は、甲3の【図2】をみると、長尺部と短尺部とが交互に接続して成る形状を有しているから、甲3発明の「主方向主溝11」は、本件特許発明1の「少なくとも一方の主溝が、長尺部と短尺部とを交互に接続して成る」ジグザグ形状を有するとの特定を満たす。
そうすると、本件特許発明1と甲3発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「タイヤ周方向に延在する複数の主溝と、隣り合う前記主溝に区画されて成る陸部とを備える空気入りタイヤであって、前記陸部が、タイヤ周方向に連続するリブであり、セミクローズド構造を有するラグ溝を備え、前記陸部を区画する前記主溝のうち少なくとも一方の主溝が、長尺部と短尺部とを交互に接続して成るジグザグ形状を有する、空気入りタイヤ。」
<相違点3-1>
本件特許発明1は「前記長尺部の周方向長さLg2が、前記ジグザグ形状の波長λ2に対して0.70≦Lg2/λ2≦0.90の関係を有」するとの特定を有するのに対し、甲3発明はそのような特定がない点。
<相違点3-2>
本件特許発明1は「前記ジグザグ形状の振幅A2が、タイヤ接地幅TWに対して0.03≦A2/TW≦0.05の関係を有する」との特定を有するのに対し、甲3発明はそのような特定がない点。
相違点3-1について検討する。
甲3及び他の全ての証拠をみても、甲3発明において、長尺部の周方向長さLg2を、ジグザグ形状の波長λ2に対して0.70≦Lg2/λ2≦0.90の関係を満たすように調整する動機となる記載はない。
特許異議申立人は特許異議申立書(第45頁第24行~第46頁第3行)において、甲1には0.61≦Lg2/λ2≦0.95が記載されており、甲3発明において甲1の0.61≦Lg2/λ2≦0.95を適用するに際し阻害する事項はなく、かつ、甲1と甲3は解決すべき課題が共通しているから、組合せの積極的かつ明確な動機付けが存在する旨主張している。
しかしながら、甲1、甲3及び他の全ての証拠をみても、甲3発明において、長尺部の周方向長さLg2を、ジグザグ形状の波長λ2に対して調整する動機となる記載はない。
また、仮に、甲1の0.61≦Lg2/λ2≦0.95を甲3発明に採用したとしても、甲1の0.61≦Lg2/λ2≦0.95は、相違点3-2に係る0.70≦Lg2/λ2≦0.90の数値範囲の上限及び下限共に超えており、0.61≦Lg2/λ2≦0.95から、さらに、0.70≦Lg2/λ2≦0.90に限定する動機となる記載は、甲1、甲3及び他のいずれの証拠にもない。
そして、本件特許発明1は優れたスノートラック性能及び耐偏摩耗性という顕著な効果を有するものであり、相違点3-2に係る0.70≦Lg2/λ2≦0.90の数値範囲とすることにより奏される効果は本件特許明細書の【図10】従来例と実施例との対比により検証されているとおりである。
よって、相違点3-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2、4ないし7、9及び10について
本件特許発明2、4ないし7、9及び10は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2、4ないし7、9及び10は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明15について
本件特許発明15と甲3発明とを対比すると、上記アと同様の対応関係を有する。
甲3発明における「前記閉止溝21のタイヤ軸方向の長さWgが前記リブのタイヤ軸方向の幅Wrの40%~80%の範囲にある」構成は、本件特許発明15における「前記ラグ溝のタイヤ幅方向への延在長さが、前記陸部の最大接地幅に対して20[%]以上の範囲にある」構成に相当する。
そうすると、本件特許発明15と甲3発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「タイヤ周方向に延在する複数の主溝と、隣り合う前記主溝に区画されて成る陸部とを備え、前記陸部が、タイヤ周方向に連続するリブであり、セミクローズド構造を有するラグ溝を備え、前記陸部を区画する前記主溝のうちの少なくとも一方の主溝が、長尺部と短尺部とを交互に接続して成るジグザグ形状を有し、前記ラグ溝のタイヤ幅方向への延在長さが、前記陸部の最大接地幅に対して20[%]以上の範囲にある、空気入りタイヤ。」
<相違点3-3>
本件特許発明15は「前記長尺部の周方向長さLg2が、前記ジグザグ形状の波長λ2に対して0.70≦Lg2/λ2≦0.90の関係を有」するとの特定を有するのに対し、甲3発明はそのような特定がない点。
<相違点3-4>
本件特許発明15は、ラグ溝のタイヤ幅方向への延在長さが、前記陸部の最大接地幅に対して「60[%]以下の範囲である」との特定を有するのに対し、甲3発明はそのような特定がない点。
相違点3-3は、上記アの相違点3-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、相違点3-4については検討するまでもなく、本件特許発明15は、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由3のまとめ
したがって、本件特許発明1、2、4ないし7、9、10及び15は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、特許法第113条第2号に該当しないので、本件特許の請求項1、2、4ないし7、9、10及び15に係る特許は申立理由3によっては取り消すことはできない。
4 申立理由4(甲4に基づく進歩性)について
(1)甲4の記載事項等
ア 甲4の記載事項
甲4には空気入りタイヤに関し次の事項が記載されている。
「【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記トレッド部を構成するトレッドゴムのJIS硬度が40~60の範囲にあり、前記トレッド部に形成される溝及びサイプに基づくスノートラクションインデックスが180以上であり、かつ回転方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部のセンター領域に一対の周方向溝の相互間に位置してタイヤ周方向に連なるリブが区画され、該リブに一端が該リブ内で閉塞して他端が前記周方向溝のいずれか一方に開口する複数本の閉止溝が形成され、各閉止溝はその閉止端が踏み込み側を向くようにタイヤ軸方向に対して傾斜し、各閉止溝の踏み込み側の溝壁が少なくとも前記リブの踏面において蹴り出し側の溝壁よりもタイヤ軸方向外側へ突き出し、各閉止溝の踏み込み側の溝壁のタイヤ軸方向に対する角度θ1と蹴り出し側の溝壁のタイヤ軸方向に対する角度θ2との差が0°≦θ1-θ2≦5°の範囲にあることを特徴とする空気入りタイヤ。」
「【請求項5】
前記閉止溝のタイヤ軸方向の長さWgが前記リブのタイヤ軸方向の幅Wrの40%~80%の範囲にあることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記閉止溝の溝深さDが7mm~14mmの範囲にあることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。」
「【0013】
閉止溝のタイヤ軸方向の長さWgはリブのタイヤ軸方向の幅Wrの40%~80%の範囲にあることが好ましい。これにより、閉止溝に基づく雪柱せん断力を十分に確保し、雪上性能を効果的に改善することができる。」
「【0023】
図2に示すように、トレッド部1には、タイヤ赤道CLの両側でタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延在する一対の周方向主溝11と、各周方向主溝11のタイヤ幅方向外側でタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延在する一対の周方向主溝12と、これら周方向主溝11と周方向主溝12との間でタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延在する一対の周方向補助溝13とが形成されている。周方向主溝11,12は、溝幅が7mm~14mmの範囲にあり、溝深さが8.0mm~12.0mmの範囲にある溝である。一方、周方向補助溝13は、周方向主溝11,12よりも狭く、かつ溝幅が3mm~7mmの範囲にあり、溝深さが7.0mm~11.0mmの範囲にある溝である。」
「【図2】
[図:0001407886000006.jpg]
」
イ 甲4に記載された発明
上記アより、甲4には次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。
<甲4発明>
「タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備え、スノートラクションインデックスが180以上であり、かつ回転方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部1のセンター領域に一対の周方向主溝11の相互間に位置してタイヤ周方向に連なるセンターリブ20が区画され、
トレッド部1には、タイヤ赤道CLの両側でタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延在する一対の周方向主溝11と、各周方向主溝11のタイヤ幅方向外側でタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延在する一対の周方向主溝12と、これら周方向主溝11と周方向主溝12との間でタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延在する一対の周方向補助溝13とが形成され、
センターリブ20には、一端がセンターリブ20内で閉塞して他端が周方向主溝11のいずれか一方に開口する複数本の閉止溝21と、タイヤ軸方向に延びる複数本のサイプ23が形成されている。複数本の閉止溝21はタイヤ軸方向の一方側に開口するものとタイヤ軸方向の他方側に開口するものとを含み、それらがタイヤ周方向に沿って交互に配置されており、
各閉止溝21はその閉止端21が踏み込み側を向くようにタイヤ軸方向に対して傾斜し、各閉止溝の踏み込み側の溝壁が少なくとも前記リブの踏面において蹴り出し側の溝壁よりもタイヤ軸方向外側へ突き出し、各閉止溝の踏み込み側の溝壁のタイヤ軸方向に対する角度θ1と蹴り出し側の溝壁のタイヤ軸方向に対する角度θ2との差が0°≦θ1-θ2≦5°の範囲にあり、
前記閉止溝21のタイヤ軸方向の長さWgが前記リブのタイヤ軸方向の幅Wrの40%~80%の範囲にある、空気入りタイヤ。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明における「トレッド部1のセンター領域に」配置された「一対の周方向主溝11」は本件特許発明1における「タイヤ周方向に延在する複数の主溝」に相当する。
甲4発明における「一対の周方向主溝11の相互間に位置してタイヤ周方向に連なる」ように「区画され」た「センターリブ20」は、本件特許発明1における「隣り合う前記主溝に区画されて成」り「タイヤ周方向に連続するリブ」である「陸部」に相当する。
甲4発明における「タイヤ赤道CLの両側でタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延在する一対の周方向主溝11」は、本件特許発明1における「陸部を区分する前記主溝のうちすくなくとも一方の」「ジグザグ形状を有」する「主溝」に相当する。
甲4発明における「一端がセンターリブ20内で閉塞して他端が周方向主溝11のいずれか一方に開口する複数本の閉止溝21」は、本件特許発明1における「セミクローズド構造を有するラグ溝」に相当する。
甲4発明における「周方向主溝11」のジグザグ形状は、甲4の【図2】をみると、長尺部と短尺部とが交互に接続して成る形状を有しているから、甲4発明の「主方向主溝11」は、本件特許発明1の「少なくとも一方の主溝が、長尺部と短尺部とを交互に接続して成る」ジグザグ形状を有するとの特定を満たす。
そうすると、本件特許発明1と甲4発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「タイヤ周方向に延在する複数の主溝と、隣り合う前記主溝に区画されて成る陸部とを備える空気入りタイヤであって、前記陸部が、タイヤ周方向に連続するリブであり、セミクローズド構造を有するラグ溝を備え、前記陸部を区画する前記主溝のうち少なくとも一方の主溝が、長尺部と短尺部とを交互に接続して成るジグザグ形状を有する、空気入りタイヤ。」
<相違点4-1>
本件特許発明1は「前記長尺部の周方向長さLg2が、前記ジグザグ形状の波長λ2に対して0.70≦Lg2/λ2≦0.90の関係を有」するとの特定を有するのに対し、甲4発明はそのような特定がない点。
<相違点4-2>
本件特許発明1は「前記ジグザグ形状の振幅A2が、タイヤ接地幅TWに対して0.03≦A2/TW≦0.05の関係を有する」との特定を有するのに対し、甲4発明はそのような特定がない点。
相違点4-1について検討する。
甲4及び他の全ての証拠をみても、甲4発明において、長尺部の周方向長さLg2を、ジグザグ形状の波長λ2に対して0.70≦Lg2/λ2≦0.90の関係を満たすように調整する動機となる記載はない。
特許異議申立人は特許異議申立書(第53頁第19~26行)において、甲1には0.61≦Lg2/λ2≦0.95が記載されており、甲4発明において甲1の0.61≦Lg2/λ2≦0.95を適用するに際し阻害する事項はなく、かつ、甲1と甲4は解決すべき課題が共通しているから、組合せの積極的かつ明確な動機付けが存在する旨主張している。
しかしながら、甲1、甲4及び他の全ての証拠をみても、甲4発明において、長尺部の周方向長さLg2を、ジグザグ形状の波長λ2に対して調整する動機となる記載はない。
また、仮に、甲1の0.61≦Lg2/λ2≦0.95を甲4発明に採用したとしても、甲1の0.61≦Lg2/λ2≦0.95は、相違点4-2に係る0.70≦Lg2/λ2≦0.90の数値範囲の上限及び下限共に超えており、0.61≦Lg2/λ2≦0.95から、さらに、0.70≦Lg2/λ2≦0.90に限定する動機となる記載は、甲1、甲4及び他のいずれの証拠にもない。
そして、本件特許発明1は優れたスノートラック性能及び耐偏摩耗性という顕著な効果を有するものであり、相違点4-2に係る0.70≦Lg2/λ2≦0.90の数値範囲とすることにより奏される効果は本件特許明細書の【図10】従来例と実施例との対比により検証されているとおりである。
よって、相違点4-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2、4ないし7、9及び10について
本件特許発明2、4ないし7、9及び10は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2、4ないし7、9及び10は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明15について
本件特許発明15と甲4発明とを対比すると、上記アと同様の対応関係を有する。
甲4発明における「前記閉止溝21のタイヤ軸方向の長さWgが前記リブのタイヤ軸方向の幅Wrの40%~80%の範囲にある構成は、本件特許発明15における「前記ラグ溝のタイヤ幅方向への延在長さが、前記陸部の最大接地幅に対して20[%]以上の範囲にある」構成に相当する。
そうすると、本件特許発明15と甲4発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「タイヤ周方向に延在する複数の主溝と、隣り合う前記主溝に区画されて成る陸部とを備え、前記陸部が、タイヤ周方向に連続するリブであり、セミクローズド構造を有するラグ溝を備え、前記陸部を区画する前記主溝のうちの少なくとも一方の主溝が、長尺部と短尺部とを交互に接続して成るジグザグ形状を有し、前記ラグ溝のタイヤ幅方向への延在長さが、前記陸部の最大接地幅に対して20[%]以上の範囲にある、空気入りタイヤ。」
<相違点4-3>
本件特許発明15は「前記長尺部の周方向長さLg2が、前記ジグザグ形状の波長λ2に対して0.70≦Lg2/λ2≦0.90の関係を有」するとの特定を有するのに対し、甲4発明はそのような特定がない点。
<相違点4-4>
本件特許発明15は、ラグ溝のタイヤ幅方向への延在長さが、前記陸部の最大接地幅に対して「60[%]以下の範囲である」との特定を有するのに対し、甲4発明はそのような特定がない点。
相違点4-3は、上記アの相違点4-1と同旨であり、同様に判断される。
よって、相違点4-4については検討するまでもなく、本件特許発明15は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由4のまとめ
したがって、本件特許発明1、2、4ないし7、9、10及び15は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、特許法第113条第2号に該当しないので、本件特許の請求項1、2、4ないし7、9、10及び15に係る特許は申立理由4によっては取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1、2、4ないし7、9、10及び15に係る特許は特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2、4ないし7、9、10及び15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701254