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特許異議申立

2023-700614

空気入りタイヤ

審判番号
2023-700614
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-179155
登録番号
7188344
請求日
2023年06月09日
審決日
2024年01月11日
公報発行日
2024年04月26日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】横浜ゴム株式会社
  • 【権利者代理人】清流国際弁理士法人
  • 【異議申立人】竹口 美穂
審判長/審判官
  • 審判長 磯貝 香苗
  • 審判官 天野 宏樹
  • 審判官 植前 充司
分類
P1651.537-YAA(B60C) / P1651.121-YAA(B60C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7188344号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7188344号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 特許第7188344号の請求項1~4に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7188344号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和元年9月30日を出願日とする特許出願であって、令和4年12月5日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月13日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その特許に対して、令和5年6月9日に特許異議申立人竹口美穂(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がなされた。 以降の手続の経緯は以下のとおりである。 令和5年 8月24日付け:取消理由通知 同年10月18日 :意見書及び訂正請求書の提出(特許権者) 同年11月24日 :意見書の提出(申立人) 第2 訂正請求について 1.訂正の内容 令和5年10月18日に提出された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、「特許第7188344号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める。」というものであり、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。 なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。 ・訂正事項 特許請求の範囲の請求項1に 「前記ジエン系ゴムが、ポリオルガノシロキサン構造、アミノシラン基、ポリシロキサン構造から選ばれる少なくとも1つを有する変性基を有する共役ジエン系ゴムを70質量%以上含有する」と記載されているのを、 「前記ジエン系ゴムが、ポリオルガノシロキサン構造、ポリシロキサン構造から選ばれる少なくとも1つを有する変性基を有する共役ジエン系ゴムを70質量%以上含有する」に訂正する。 請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。 なお、上記訂正事項に係る訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正後の請求項1~4は上記訂正事項によって直接又は連動して訂正される。よって、本件訂正は一群の請求項1~4について請求されたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 上記訂正事項は、本件訂正前の請求項1に記載されていた共役ジエン系ゴムの変性基の選択肢のうち「アミノシラン基」を削除することにより、特許請求の範囲を減縮するものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、上記訂正事項は、請求項に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。さらに、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4も同様に訂正される。 よって、上記訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (2)独立特許要件について 本件においては、訂正前のすべての請求項1~4に対して特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項1~4に係る上記訂正事項については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 3.訂正請求についてのまとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 よって、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 第3 本件発明について 上記第2のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「[請求項1] 層間でコード方向を交差させた複数のベルト層を有し、該ベルト層のタイヤ径方向外側に、ポリエチレンテレフタレート繊維コードをタイヤ周方向に螺旋状に巻回されてなるベルトカバー層を有し、そのタイヤ径方向外側にアンダートレッドおよびキャップトレッドを有する空気入りタイヤであって、 前記アンダートレッドの厚みが1.5mm以上、前記アンダートレッドのゴム硬度Huとキャップトレッドのゴム硬度Hcとの比Hu/Hcが0.9以下であり、 前記キャップトレッドが、ジエン系ゴム100質量部にシリカ50~150質量部を配合したゴム組成物で構成されてなり、前記ジエン系ゴムが、ポリオルガノシロキサン構造、ポリシロキサン構造から選ばれる少なくとも1つを有する変性基を有する共役ジエン系ゴムを70質量%以上含有することを特徴とする空気入りタイヤ。 [請求項2] 前記変性基を有する共役ジエン系ゴムが、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の前記活性末端と下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンとが結合してなり、前記活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖が、重合体ブロックAと、前記重合体ブロックAと一続きに形成された重合体ブロックBとを有し、前記重合体ブロックAが、イソプレン単位80~95質量%および芳香族ビニル単位5~20質量%を含み、重量平均分子量が500~15,000であり、前記重合体ブロックBが、1,3-ブタジエン単位および芳香族ビニル単位を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。 [化1] [図:0001409124000001.jpg] (式(1)中、R1~R8は、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。X1およびX4は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~5のアルコキシ基、および、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基からなる群より選ばれるいずれかの基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。X2は、炭素数1~5のアルコキシ基、またはエポキシ基を含有する炭素数4~12の基であり、複数あるX2は互いに同一であっても相違していてもよい。X3は、2~20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基であり、X3が複数あるときは、それらは互いに同一であっても相違していてもよい。mは3~200の整数、nは0~200の整数、kは0~200の整数である。) [請求項3] 前記キャップトレッドを構成するゴム組成物が、前記シリカの配合量に対し、炭素数7~20のアルキルを有するアルキルトリエトキシシランを0.1~20質量部配合してなることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。 [請求項4] 前記シリカのCTAB吸着比表面積が180~230m2/gであることを特徴とする請求項1,2または3に記載の空気入りタイヤ。」 第4 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1~4に係る特許に対して令和5年8月24日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 (サポート要件違反)本件特許の請求項1~4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・本件明細書[0084]に「変性SBR-2:アミノシラン基を有する共役ジエン系ゴム、旭化成社製F3420」と記載されているが、甲4の[0073]及び甲5の[0047]によれば、「旭化成社製F3420」はグリシジルアミン基で末端が変性されたSBRとされていることからみて、本件特許の明細書[0084]に記載された変性SBR-2は「アミノシラン基を有する」ものであるかどうかが不明であり、当該変性SBR-2を用いた例は、キャップトレッドのゴム成分として「アミノシラン基を有する変性基を有する共役ジエン系ゴム」を用いた場合における効果発現を裏付けるものということができない。 そして、SBRの変性基が「アミノシラン基を有する」ものである場合に、「ポリオルガノシロキサン構造」又は「ポリシロキサン構造」を有するものである場合と同様のシリカとの親和性を有し、同様に発明の課題を解決できると認識できるような技術常識が本件特許出願時に存在したともいえない。 したがって、本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないし、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。 本件特許の請求項1に係る発明を直接又は間接的に引用して特定する本件特許の請求項2~4に係る発明についても同様である。 第5 取消理由通知に記載した取消理由(サポート要件違反)についての判断 1.サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 2.本件発明の課題について 本件発明の課題は、本件明細書の[0005]等の記載から見て「操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性を従来レベル以上に改良した空気入りタイヤを提供すること」にあるものと認められる。 3.本件発明1について 本件発明1は上記第3「本件発明について」に記載した特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項により特定される「空気入りタイヤ」の発明である。 4.本件明細書の記載について 本件明細書には、上記課題を解決する手段に関し、以下のような事項が記載されている。 「[0006] 上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、層間でコード方向を交差させた複数のベルト層を有し、該ベルト層のタイヤ径方向外側に、ポリエチレンテレフタレート繊維コードをタイヤ周方向に螺旋状に巻回されてなるベルトカバー層を有し、そのタイヤ径方向外側にアンダートレッドおよびキャップトレッドを有する空気入りタイヤであって、前記アンダートレッドの厚みが1.5mm以上、前記アンダートレッドのゴム硬度Huとキャップトレッドのゴム硬度Hcとの比Hu/Hcが0.9以下であり、前記キャップトレッドが、ジエン系ゴム100質量部にシリカ50~150質量部を配合したゴム組成物で構成されてなり、前記ジエン系ゴムが、ポリオルガノシロキサン構造、アミノシラン基、ポリシロキサン構造から選ばれる少なくとも1つを有する変性基を有する共役ジエン系ゴムを70質量%以上含有することを特徴とする。 [発明の効果] [0007] 本発明の空気入りタイヤは、ポリエチレンテレフタレート繊維コードをタイヤ周方向に巻回したベルトカバー層を有し、アンダートレッドの厚みを1.5mm以上、アンダートレッドとキャップトレッドのゴム硬度の比Hu/Hcを0.9以下にし、キャップトレッドを構成するゴム組成物が、共役ジエン系ゴムを70質量%以上含むジエン系ゴムにシリカを配合するようにしたので、操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性を従来レベル以上に向上することができる。」 「[0009] 前記キャップトレッドを構成するゴム組成物が、前記シリカの配合量に対し、炭素数7~20のアルキルを有するアルキルトリエトキシシランを0.1~20質量部配合することにより、低転がり抵抗性およびウェットグリップ性能をより優れたものにすることができる。また前記シリカのCTAB吸着比表面積を180~230m2/gにすることにより、ウェットグリップ性能および低転がり抵抗性をより優れたものにすることができる。」 「[0014] 更に、ベルト層8の外周側には、高速耐久性の向上とロードノイズの低減を目的として、ベルトカバー層9が設けられている。ベルトカバー層9は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルトカバー層9において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定される。ベルトカバー層9は、少なくとも1本の有機繊維コードを引き揃えてコートゴムで被覆したストリップ材をタイヤ周方向に螺旋状に巻回して構成するとよく、特にジョイントレス構造とすることが望ましい。 [0015] 本発明では、ベルトカバー層9を構成する有機繊維コードとして、ポリエチレンテレフタレート繊維コード(以下、「PET繊維コード」ということがある。)が使用される。このようにベルトカバー層9を構成する有機繊維コードとして、PET繊維コードを用いることで、空気入りタイヤの耐久性を良好に維持しながら、ロードノイズを効果的に低減することができる。ベルトカバー層9は、PET繊維コードが、コートゴムによって被覆されている。」 「[0020] ベルト層8およびベルトカバー層9のタイヤ径方向外側、またはベルトカバー層9のタイヤ径方向外側に配置されるアンダートレッド10bの厚みは1.5mm以上、好ましくは1.7~2.5mmである。アンダートレッド10bの厚みを1.5mm以上にすることにより、ノードノイズを低減することができる。また、トレッド部の発熱を抑制し、高速耐久性を維持、向上することができる。アンダートレッド10bの厚みは、代表的にはタイヤ幅方向中央部に相当する部分のアンダートレッドの厚さである。なお、タイヤ幅方向中央部に周方向溝が配置されているとき、中央部に近い陸部に相当するアンダートレッド部分の厚さをアンダートレッドの厚さにすることができる。 [0021] アンダートレッド10bのゴム硬度Huは、キャップトレッド10aのゴム硬度Hcとの比Hu/Hcが0.9以下であり、好ましくは0.5~0.9、より好ましくは0.7~0.9である。アンダートレッド10bとキャップトレッド10aのゴム硬度の比Hu/Hcを0.9以下にすることにより、操縦安定性を改良するためキャップトレッド10aのゴム硬度Hcを高くしたことに伴いノードノイズが大きくなったときでも、アンダートレッド10bのゴム硬度の比Huを十分に小さくしノードノイズの悪化を抑制することができる。加えて、PET繊維コードをベルトカバー層9に用いることにより、ノードノイズをより低減することができる。これにより、空気入りタイヤの操縦安定性および低ノードノイズ性を高いレベルで兼備することができる。アンダートレッド10bのゴム硬度Huおよびキャップトレッド10aのゴム硬度Hcは、JIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度20℃で測定するゴムの硬さをいう。」 「[0022] キャップトレッド10aを構成するゴム組成物、すなわちキャップトレッド用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部にシリカ50~150質量部を配合するものである。シリカを50~150質量部配合することにより、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能を改良することができる。シリカの配合量は、好ましくは70~130質量部、より好ましくは80~120質量部であるとよい。シリカを50質量部以上配合することにより、操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能を改良することができる。またシリカを150質量部以下配合することにより、ノードノイズの悪化を抑制することができる。」 「[0030] キャップトレッド用ゴム組成物を構成するジエン系ゴムは、ポリオルガノシロキサン構造、アミノ基、ヒドロキシル基、ヒドロカルビル基から選ばれる少なくとも1つを有する変性基を有する共役ジエン系ゴムを70質量%以上含有する。このような変性基を有する共役ジエン系ゴムを含有することにより、シリカとの親和性を向上させ、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性をより優れたものにすることができる。変性基を有する共役ジエン系ゴムの含有量は70質量%以上、好ましくは75~100質量%、より好ましくは80~95質量%であるとよい。」 「[0035] 変性基を有する共役ジエン系ゴムは、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の活性末端と下記一般式(1)で示されるポリオルガノシロキサンとが結合してなり、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖が、重合体ブロックAと、この重合体ブロックAと一続きに形成された重合体ブロックBとを有し、重合体ブロックAが、イソプレン単位80~95質量%および芳香族ビニル単位5~20質量%を含み、重量平均分子量が500~15,000であり、重合体ブロックBが、1,3-ブタジエン単位および芳香族ビニル単位を含むとよい。 [化2] [図:0001409124000002.jpg] (式(1)中、R1~R8は、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数6~12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。X1およびX4は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~5のアルコキシ基、および、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基からなる群より選ばれるいずれかの基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。X2は、炭素数1~5のアルコキシ基、またはエポキシ基を含有する炭素数4~12の基であり、複数あるX2は互いに同一であっても相違していてもよい。X3は、2~20のアルキレングリコールの繰返し単位を含有する基であり、X3が複数あるときは、それらは互いに同一であっても相違していてもよい。mは3~200の整数、nは0~200の整数、kは0~200の整数である。)」 「[0061] 上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、mは3~200の整数であり、好ましくは20~150の整数、より好ましくは30~120の整数である。mが3以上の整数であるため、変性基を有する共役ジエン系ゴムはシリカとの親和性が高く、その結果、本発明のゴム組成物から得られるタイヤは優れた低発熱性を示す。また、mが200以下の整数であるため、ポリオルガノシロキサン自体の製造が容易になると共に、本発明のゴム組成物の粘度は低くなる。 [0062] 上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、nは0~200の整数であり、好ましくは0~150の整数、より好ましくは0~120の整数である。また、上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、kは0~200の整数であり、好ましくは0~150の整数、より好ましくは0~130の整数である。 [0063] 上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンにおいて、m、n、およびkの合計数は、3~400であることが好ましく、20~300であることがより好ましく、30~250であることが特に好ましい。」 「[0071] 本発明においては、ジエン系ゴム中の変性基を有する共役ジエン系ゴムの含有量は、30質量%以上であり、40~80質量%であることが好ましく、50~70質量%であることがより好ましい。 ジエン系ゴム中の変性基を有する共役ジエン系ゴムの含有量が30質量%に満たないと、ウェット性能および低転がり抵抗性ならびに操縦安定性が不十分となる。 なお、「ジエン系ゴム中の変性基を有する共役ジエン系ゴムの含有量」とは、ジエン系ゴム全体に対する変性基を有する共役ジエン系ゴムの含有量(質量%)を指す。」 「[実施例] [0074] 表3に記載されたゴム組成物の共通組成を有し、表1~2に記載の原材料を配合した16種類のキャップトレッド用ゴム組成物(実施例1~8、標準例、比較例1~7)を調製するにあたり、硫黄、および加硫促進剤を除く成分を1.7Lのバンバリーミキサーで5分間混練し、145℃に達したとき放出し冷却しマスターバッチとした。得られたマスターバッチに、硫黄、および加硫促進剤を加えて70℃のオープンロールで混練することにより、17種類のタイヤ用ゴム組成物を得た。また表3に記載の各添加剤の配合量は、表1~2に記載のゴム成分100質量部に対する質量部として表されている。 [0075] 得られたキャップトレッド用ゴム組成物を用いてキャップトレッドを構成し、表1~2に示すように、アンダートレッドの厚み(表中、「UTの厚み」と記す。)、アンダートレッドのゴム硬度(表中、「UTのゴム硬度 Hu」と記す。)、キャップトレッドとアンダートレッドのゴム硬度の比Hu/Hc(-)およびベルトカバーの繊維コードの種類を満たす空気入りタイヤ(サイズ195/65R15)を加硫成形した。得られた空気入りタイヤを用いて以下の方法により、操縦安定性、ウェットグリップ性能、ロードノイズ、高速耐久性および低転がり抵抗性を評価した。 [0076] 操縦安定性 空気入りタイヤを、リムサイズ15×6Jのホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとして試験車両に装着し、乾燥路面においてテストドライバーによる操縦安定性能の官能評価を行った。評価結果は、標準例を基準(5点)とする5点法にて示した。この評価点が大きいほど操縦安定性が優れていることを意味する。」 「[0081] [表1] [図:0001409124000003.jpg] 」 「[0082] [表2] [図:0001409124000004.jpg] 」 「[0083] なお、表1~2において使用した原材料の種類を下記に示す。 ・未変性SBR:日本ゼオン社製1502 ・変性SBR-1:変性基を有する共役ジエン系ゴム、以下の製造方法により調製した。 変性SBR-1の製造方法 窒素置換された100mLアンプル瓶に、シクロヘキサン(35g)、およびテトラメチルエチレンジアミン(1.4mmol)を添加し、さらに、n-ブチルリチウム(4.3mmol)を添加した。次いで、イソプレン(21.6g)、およびスチレン(3.1g)をゆっくりと添加し、50℃のアンプル瓶内で120分反応させることにより、活性末端を有する重合体ブロックAを得た。この重合体ブロックAは、重量平均分子量が8700、分子量分布(Mw/Mn)が1.10、芳香族ビニル単位含有量が12.6質量%、イソプレン単位含有量が87.4質量%、および1,4-結合含有量が58.0質量%であった。 次に、撹拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン(4000g)、1,3-ブタジエン(474.0g)、およびスチレン(126.0g)を仕込んだ後、上記にて得られた活性末端を有する重合体ブロックAを全量加え、50℃で重合を開始した。重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、次いで、後述する式(1)で表されるポリオルガノシロキサンAを、エポキシ基の含有量が1.42mmol(使用したn-ブチルリチウムの0.33倍モルに相当)となるように、20質量%濃度のキシレン溶液の状態で添加し、30分間反応させた。その後、重合停止剤として、使用したn-ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加して、特定共役ジエン系ゴムを含有する溶液を得た。この溶液に、老化防止剤(イルガノックス1520、BASF社製)を少量添加し、伸展油としてフッコールエラミック30(新日本石油(株)製)を特定共役ジエン系ゴム100質量部に対して25質量部添加した後、スチームストリッピング法により固形状のゴムを回収した。得られた固形状のゴムをロールにより脱水し、乾燥機中で乾燥を行い、変性基を有する共役ジエン系ゴムである変性SBR-1を得た。 なお、上述したポリオルガノシロキサンAは、上記式(1)中、X1、X4、R1~R3およびR5~R8はメチル基である。また、mは80、nは0、kは120である。さらに、X2は下記式(4)で表される基である(ここで、*は結合位置を表す)。 [化6] [図:0001409124000005.jpg] 得られた変性SBR-1は、重量平均分子量が640,000、分子量分布(Mw/Mn)が1.65、3分岐以上のカップリング率が12.5質量%、芳香族ビニル単位含有量が42.6質量%、ビニル結合含有量が29.5質量%、および、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が58であった。」 「[0084] ・変性SBR-2:アミノシラン基を有する共役ジエン系ゴム、旭化成社製F3420 ・変性SBR-3:ポリシロキサンを有する共役ジエン系ゴム、日本ゼオン社製NS612 ・NR:天然ゴム、STR ・シリカ-1:Evonik社製ZEOSIL 1165MP、CTAB吸着比表面積が160m2/g ・シリカ-2:Evonik社製200MP、CTAB吸着比表面積が200m2/g ・カップリング剤:シランカップリング剤、Evonik社製Si69 ・カーボンブラック:CABOT社製ISAF ・アルキルシラン:オクチオルトリエトキシシラン、信越シリコーン社製KBE-3083 ・プロセスオイル:昭和シェル石油社製エキストラクト 4号S ・ベルトカバー層に使用したナイロン繊維コード:旭化成社製レオナ、構造は1100dtex/2。 ・ベルトカバー層に使用したPET繊維コード:100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率が4.5[cN/(tex・%)]、タイヤ内におけるコード張力が1.8[cN/dtex]のポリエチレンテレフタレート繊維コード、構造は1100dtex/2。」 「[0087] 表1~2から明らかなように実施例1~7の空気入りタイヤは、操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性が、標準例および比較例に対し優れていることが確認された。 [0088] 比較例1の空気入りタイヤは、ベルトカバー層をナイロン繊維コードで構成したので、ロードノイズおよび高速耐久性が劣る。 比較例2の空気入りタイヤは、アンダートレッドのゴム硬度Huを硬くし、アンダートレッドとキャップトレッドのゴム硬度の比Hu/Hcが0.9を超える、ロードノイズおよび高速耐久性が劣る。また操縦安定性が十分でない。 比較例3の空気入りタイヤは、キャップトレッド用ゴム組成物のシリカを50質量部未満にしたので、キャップトレッドのゴム硬度が低くなり、操縦安定性、およびウェットグリップ性能が劣る。 比較例4の空気入りタイヤは、比較例3のキャップトレッド用ゴム組成物のオイル量を少なくして、キャップトレッドのゴム硬度を回復させ、操縦安定性が若干回復したが、ウェット性能が劣る。 比較例5の空気入りタイヤは、キャップトレッド用ゴム組成物のシリカが150質量部を超えるので、キャップトレッドのゴム硬度が高くなり、低転がり抵抗性、低ロードノイズ性および高速耐久性が劣る。また操縦安定性が十分でない。 比較例6の空気入りタイヤは、比較例5のキャップトレッド用ゴム組成物のオイル量を増やして、キャップトレッドのゴム硬度を回復させロードノイズを若干改良したが、低転がり抵抗性および高速耐久性が劣る。また操縦安定性が十分でない。 比較例7の空気入りタイヤは、アンダートレッドの厚みが1.5mm未満であるので、低転がり抵抗性、低ロードノイズ性および高速耐久性が劣る。また操縦安定性が十分でない。 比較例8の空気入りタイヤは、キャップトレッド用ゴム組成物において、ジエン系ゴム中の変性SBR-1(変性基を有する共役ジエン系ゴム)が70質量%未満であるので、 ウェット性能が劣る。」 5.サポート要件の判断 (1)課題解決手段について 本件明細書の[0007]には、「本発明の空気入りタイヤは、ポリエチレンテレフタレート繊維コードをタイヤ周方向に巻回したベルトカバー層を有し、アンダートレッドの厚みを1.5mm以上、アンダートレッドとキャップトレッドのゴム硬度の比Hu/Hcを0.9以下にし、キャップトレッドを構成するゴム組成物が、共役ジエン系ゴムを70質量%以上含むジエン系ゴムにシリカを配合するようにしたので、操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性を従来レベル以上に向上することができる」ことが記載され、個別の構成要件について、[0015]には「ベルトカバー層9を構成する有機繊維コードとして、PET繊維コードを用いることで、空気入りタイヤの耐久性を良好に維持しながら、ロードノイズを効果的に低減することができる」こと、[0020]にはアンダートレッド10bの厚みを1.5mm以上にすることにより、ノードノイズ(当審注:「ロードノイズ」の誤記と認める。以下同じ。)を低減することができる。また、トレッド部の発熱を抑制し、高速耐久性を維持、向上することができる」ことが記載され、[0021]には「アンダートレッド10bとキャップトレッド10aのゴム硬度の比Hu/Hcを0.9以下にすることにより、操縦安定性を改良するためキャップトレッド10aのゴム硬度Hcを高くしたことに伴いノードノイズが大きくなったときでも、アンダートレッド10bのゴム硬度の比Huを十分に小さくしノードノイズの悪化を抑制することができる。加えて、PET繊維コードをベルトカバー層9に用いることにより、ノードノイズをより低減することができる。これにより、空気入りタイヤの操縦安定性および低ノードノイズ性を高いレベルで兼備することができる」ことが記載され、[0022]に「シリカを50~150質量部配合することにより、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能を改良することができる。・・・シリカを50質量部以上配合することにより、操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能を改良することができる。またシリカを150質量部以下配合することにより、ノードノイズの悪化を抑制することができる」こと、[0030]に「変性基を有する共役ジエン系ゴムを含有することにより、シリカとの親和性を向上させ、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性をより優れたものにすることができる」こと、[0071]に「ジエン系ゴム中の変性基を有する共役ジエン系ゴムの含有量が30質量%に満たないと、ウェット性能および低転がり抵抗性ならびに操縦安定性が不十分となる」こと等が記載されているから、本件発明1の各構成要件が課題解決に寄与する機序について一般的な説明が記載されている。 また、本件明細書の[0074]~[0088]にはキャップトレッド用ゴム組成物の成分組成、ゴム硬度、アンダートレッドの厚み、ゴムコード比、ベルトカバーの繊維コードの種類を変えた実施例及び比較例の空気入りタイヤを製造し、操縦安定性、ウェットグリップ性能、ロードノイズ、高速耐久性、低転がり抵抗性を評価したことが記載されており、特に変性基を有する共役ジエン系ゴムに関していえば、[0083]に「変性SBR-1」としてポリオルガノシロキサン構造を有する共役ジエン系ゴムが記載され、[0084]に「変性SBR-3:ポリシロキサンを有する共役ジエン系ゴム、日本ゼオン社製NS612」が記載され、[0081]の[表1]及び[0082]の[表2]等の記載からは、「変性SBR-1」又は[変性SBR-3]をキャップトレッドのゴム成分として用い、かつ本件発明1の他の構成要件も満たしている実施例1~5及び7が、未変性SBRを用いた標準例と比較して操縦安定性が同等であり、ウェット性能、ロードノイズ、高速耐久性及び低転がり性は高評価であったことが記載されている。 (2)課題を解決できるといえる範囲 そこで、これら本件明細書の記載、実施例による裏付け及び本件特許の出願時における技術常識を参酌すると、当業者は、 「層間でコード方向を交差させた複数のベルト層を有し、該ベルト層のタイヤ径方向外側に、ポリエチレンテレフタレート繊維コードをタイヤ周方向に螺旋状に巻回されてなるベルトカバー層を有し、そのタイヤ径方向外側にアンダートレッドおよびキャップトレッドを有する空気入りタイヤであって、 前記アンダートレッドの厚みが1.5mm以上、前記アンダートレッドのゴム硬度Huとキャップトレッドのゴム硬度Hcとの比Hu/Hcが0.9以下であり、 前記キャップトレッドが、ジエン系ゴム100質量部にシリカ50~150質量部を配合したゴム組成物で構成されてなり、前記ジエン系ゴムが、ポリオルガノシロキサン構造、ポリシロキサン構造から選ばれる少なくとも1つを有する変性基を有する共役ジエン系ゴムを70質量%以上含有することを特徴とする空気入りタイヤ。」 との特定事項を満たすことにより、本件発明の課題を解決できると認識する。 (3)本件発明1についての判断 本件発明1は、上記(2)の当業者が本件発明の課題を解決できると認識する特定事項を全て発明特定事項として有する。そうすると、本件発明1は、上記発明の課題を解決できるといえる範囲のものとなったから、サポート要件に適合するものということができる。 (4)申立人の主張について 申立人は、令和5年11月24日に提出した意見書において、「上記取消理由は解消しているようにみえる。一方で、・・・変性SBR-1についても、変性SBR-2同様、誤記がある可能性がある。また、・・・変性SBR-3についても、変性SBR-2同様、誤記がある可能性がある」と主張しているが、誤記である疑いを抱くに足る具体的な証拠はない。また、本件明細書の[0083]に記載された変性SBR-1の製造方法の記載からみて、変性SBR-1はスチレン-イソプレン共重合からなるブロックAにスチレン-ブタジエン共重合体が共重合したブロック共重合体(共役ジエン系ゴム)の末端にポリオルガノシロキサンAを反応させて得られたものであるから、ポリオルガノシロキサン構造を有する変性基を有する共役ジエン系ゴムといえるものである。 よって、申立人の主張を採用することはできない。 (5)本件発明1についてのまとめ よって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明において、当業者が上記課題を解決し得ると認識できるものであるから、発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。 (6)本件発明2~4について 本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4についても、本件発明1と同様の理由により、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。 (7)取消理由(サポート要件違反)についてのまとめ したがって、本件発明1~4は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、同法第36条第6項に規定する要件を満たすものであるから、本件請求項1~4に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではなく、取消理由(サポート要件違反)は解消している。 第6 取消理由で採用しなかった申立理由についての当審の判断 当審は、以下に述べるように、申立理由にはいずれも理由がないと判断する。 1.申立理由の概要 申立人は、令和5年6月9日に提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において、概略、以下の特許異議申立理由によって、本件特許の請求項1~4に係る発明の特許は取り消すべきものである旨を主張している。 (1)申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性欠如) 本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)申立理由2(サポート要件違反) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合しておらず、請求項1~4に係る発明についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・以下のアないしオの点で、請求項1に係る発明のような広範な範囲についてまで、本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できるとはいえないことから、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものを超えて特許を請求するものである。請求項2~4に係る発明についても同様である。 ア 請求項1に記載された「アミノシラン基」は、「グリシジルアミン基」の誤記である蓋然性が高く、仮に誤記でなかったとしても、「アミノシラン基を有する」との記載からは、SBRとアミノシランとの間に他の原子が介在するのかどうか、介在する場合に本件特許発明の課題を解決できるのか、について認識することはできない。 イ 請求項1に係る発明におけるキャップトレッドは、「・・・ポリシロキサン構造・・・を有する共役ジエン系ゴム」を含むゴム組成物で構成されてなるものである。ポリシロキサンとは、シロキサン(-O-Si-)が複数繋がってポリマーとなったもの((-O-Si-)n)を意味するが、いくつ繋がっているのか(nがいくつなのか)について一切記載されていないことから、例えば、nが10でも10000でも、どのような値であっても本件特許発明の課題を解決できると認識できるとはいえない。 ウ 請求項1に係る発明におけるキャップトレッドは、「ポリオルガノシロキサン構造・・・を有する共役ジエン系ゴム」を含むゴム組成物を包含するものであるが、実施例として効果が示されているのは、式(1)中、X1、X4、R1~R3およびR5~R8がメチル基、mが80、nが0、kが120、X2が式(4)で表される基のポリオルガノシロキサンのみである。ポリオルガノシロキサンの構造によりゴム組成物の物性が影響を受けることは当業者の技術常識であるから、他のポリオルガノシロキサン構造を有する共役ジエン系ゴムの場合も同様に、操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性を従来レベル以上に改良するという課題を解決できると認識することはできない。 エ 請求項1に係る発明における空気入りタイヤは、アンダートレッドおよびキャップトレッドを有し、かつ該アンダートレッドのゴム硬度Huとキャップトレッドのゴム硬度Hcとの比Hu/Hcが0.9以下であるものである。しかしながら、[表2]に示されている実施例1~7は、Hu/Hcが0.77のみのタイヤにすぎない。アンダートレッドのゴム硬度HuやキャップトレッドHcのゴム硬度によりタイヤの性能が影響を受けることは当業者の技術常識であるから、Hu/Hcが0.77以外のHu/Hcが0.9以下の全範囲でも同様に、操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性を従来レベル以上に改良するという課題を解決できると認識することはできない。 オ 請求項1に係る発明における空気入りタイヤは、層間でコード方向を交差させた複数のベルト層を有し、該ベルト層のタイヤ径方向外側に、ポリエチレンテレフタレート繊維コードをタイヤ周方向に螺旋状に巻回されてなるベルトカバー層を有するものである。しかしながら、[0084]に「・ベルトカバー層に使用したPET繊維コード:100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率が4.5[cN/(tex・%)]、タイヤ内におけるコード張力が1.8[cN/dtex]のポリエチレンテレフタレート繊維コード、構造は1100dtex/2。」と記載されているとおり、[表2]で示されている実施例1~7は、1種類のPET繊維コードを用いたタイヤのみである。ベルト層に用いるコードの種類や特性によりタイヤの性能が影響を受けること、及び、低ロードノイズ性や高速耐久性の改良には、一定以上のコード弾性率が必要であり、低弾性率のPET繊維コードを用いても低ロードノイズ性、高速耐久性を改良するという課題を解決できないことは当業者の技術常識であるから、上記の1種類のPET繊維コード以外のポリエチレンテレフタレート繊維コードを用いた場合でも同様に、操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性を従来レベル以上に改良するという課題を解決できると認識することはできない。 (3)証拠方法 甲第1号証:特開2008-213635号公報 甲第2-1号証:特開2009-73204号公報 甲第2-2号証:特開2007-196753号公報 甲第2-3号証:特開2011-218982号公報 甲第3-1号証:特開2018-2902号公報 甲第3-2号証:特開2016-47889号公報 甲第3-3号証:国際公開第2012/073837号 甲第3-4号証:特開2013-227400号公報 甲第3-5号証:特開2019-151808号公報 甲第4号証:特開2020-111653号公報 甲第5号証:特開2021-165326号公報 甲第6号証:特開2008-80880号公報 甲第7号証:特開2009-132201号公報 (以下、順に「甲1」~「甲7」のようにいう。まとめて「甲号証」ということがある。) 2.申立理由1(甲1に基づく進歩性欠如)について (1)甲1に記載された事項 甲1には以下の事項が記載されている。 (1-1) 「[請求項1] トレッド部をキャップトレッド層とアンダートレッド層との2層構造にすると共に、前記キャップトレッド層の表面に少なくとも3本のタイヤ周方向に延びる主溝を形成した空気入りタイヤにおいて、 車両への装着方向を指定すると共に、前記アンダートレッド層を、車両外側の端部からタイヤ幅方向内側に最外側の主溝を超えた領域まで延びる外側ゴム層と車両内側の端部からタイヤ幅方向外側に最内側の主溝を超えた領域まで延びる内側ゴム層との少なくとも2列のタイヤ周方向に配列するゴム層で構成し、前記外側ゴム層のJIS-硬度(Aタイプ)Hoを65~80、100%モジュラスMoを4MPa以上にし、前記内側ゴム層のJIS-硬度(Aタイプ)Hiを50~70、100%モジュラスMiを2~4MPaにし、かつ両ゴム層の硬度差(Ho-Hi)を5以上、100%モジュラス差(Mo-Mi)を2MPa以上にした空気入りタイヤ。 ・・・ [請求項3] 前記アンダートレッド層の厚さを0.5~5.0mmにした請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。」 (1-2) 「[発明が解決しようとする課題] [0004] 本発明の目的は、かかる従来の問題点を解消するもので、操縦安定性を向上させながら、乗心地性を向上させるようにした空気入りタイヤを提供することにある。」 (1-3) 「[発明の効果] [0007] 本発明によれば、トレッド部をキャップトレッド層とアンダートレッド層との2層構造にした空気入りタイヤにおいて、車両への装着方向を指定した上で、アンダートレッド層を車両に対して最外側と最内側との特定領域に配置された少なくとも2列の互いに物性の異なる外側ゴム層と内側ゴム層とで構成し、これら外側ゴム層と内側ゴム層とのJIS-硬度(Aタイプ)及び100%モジュラスをそれぞれ特定すると共に、両ゴム層間の硬度差及びモジュラス差を特定したので、高速旋回走行時には荷重負担の多い車両外側における高硬度高モジュラスの外側ゴム層が支えることによって操縦安定性が向上すると共に、直進走行時には低硬度低モジュラスの内側ゴム層がクッション作用を発揮して乗心地性を向上することができる。 [0008] 特に近年は、ネガティブキャンバーに設定されている高性能タイプの車両が殆どであり、直進走行時には車両内側のトレッド部に対する荷重負担が多くなっていることから、車両内側に配置された低硬度低モジュラスの内側ゴム層により乗心地性を向上することができる。」 (1-4) 「[0010] 本発明の空気入りタイヤ1は、図1に例示するように、トレッド部2からサイドウォール部3、3を経て左右のビード部4、4のビードコア5、5に至るカーカス層6と、トレッド部2におけるカーカス層6の外周側に配置されたベルト層7とを備えている。 [0011] トレッド部2はキャップトレッド層2Aとアンダートレッド層2Bとの2層からなり、キャップトレッド層2Aの表面には少なくとも3本(図では4本)のタイヤ周方向に延びる主溝8が形成されている。本発明の空気入りタイヤ1は、車両への装着方向が指定されており、図1に示すように、図の右側が車両の内側に、図の左側が車両の外側になるようにそれぞれ装着される。」 (1-5) 「[0012] アンダートレッド層2Bは、図2に示すように、車両外側の端部2Xからタイヤ幅方向内側に最外側の主溝8(8o)を超えた2xに至る領域まで延びる外側ゴム層2S(2So)と車両内側の端部2Yからタイヤ幅方向外側に最内側の主溝8(8i)を超えた2yに至る領域まで延びる内側ゴム層2S(2Si)との少なくとも2列のタイヤ周方向に配列するゴム層2So、2Siで構成されている。 [0013] そして、外側ゴム層2SoのJIS-硬度(Aタイプ)Hoを65~80、好ましくは70~75、100%モジュラスMoを4MPa以上、好ましくは7MPa以下にし、内側ゴム層2SiのJIS-硬度(Aタイプ)Hiを50~70、好ましくは55~65、100%モジュラスMiを2~4MPa、好ましくは2.5~3.5MPaにすると共に、両ゴム層2So、2Siの硬度差(Ho-Hi)を5以上、好ましくは15以下、100%モジュラス差(Mo-Mi)を2MPa以上、好ましくは3.5MPa以下にしている。なお、本発明におけるJIS-硬度(Aタイプ)の値は、それぞれ20℃における値を示す。 [0014] これにより、高速旋回走行時には荷重負担の多い車両外側における高硬度高モジュラスの外側ゴム層2Soが支えることによって操縦安定性が向上すると共に、直進走行時には低硬度低モジュラスの内側ゴム層2Siがクッション作用を発揮して乗心地性を向上することができる。」 (1-6) 「[0025] 本発明の空気入りタイヤ1では、高レベルでの操縦安定性を確保する観点から、キャップトレッド層2Aを構成するゴム組成物のJIS-硬度(Aタイプ)を60~75、好ましくは70~75に設定するとよい。」 (1-7) 「[実施例] [0029] タイヤサイズを255/35ZR20、タイヤ構造を図1として、アンダートレッド層を単一のゴム層で構成した従来タイヤ(従来例)と、アンダートレッド層を2列の外側ゴム層2So及び内側ゴム層2Siで構成すると共に、これら2列のゴム層2So、2Siの物性値(JIS-硬度(Aタイプ)、100%モジュラス)及びこれらゴム層2So、2Siの配置(境界2x、2yの位置)を表1のように異ならせた本発明タイヤ(実施例1~4)及び比較タイヤ(比較例1~6)とをそれぞれ作製した。なお、各タイヤにおいて、アンダートレッド層の厚さを1mm、キャップトレッド層の20℃におけるJIS-硬度(Aタイプ)を72とした。 [0030] これら11種類のタイヤについて、以下の方法により操縦安定性及び乗心地性を評価し、その結果を従来タイヤを3点とする5点評価により、表1に併記した。数値が大きいほど優れていることを示す。なお、評価点の右側に「+」を付したタイヤは「評価点よりやや優れていた」ことを示し、「-」を付したタイヤは「評価点よりやや劣っていた」ことを示している。 [0031] 〔操縦安定性及び乗心地性の評価〕 各タイヤに空気圧220kPaを充填すると共に、車両(排気量2.5L、ネガティブキャンバー角-:-2.7°)の前後車輪に装着して、平坦路面と凹凸路面とからなる1周3kmのテストコースを平均速度150km/hにて10周走行させ、熟練したテストドライバーにより、操縦安定性及び乗心地性の官能評価を行った。」 (1-8) 「[0032] [表1] [図:0001409124000006.jpg] *)20℃における値」 (1-9) 「[図1] [図:0001409124000007.jpg] [図2] [図:0001409124000008.jpg] [図3] [図:0001409124000009.jpg] 」 (2)甲1に記載された発明 甲1の請求項1(摘記1-1)には、「トレッド部をキャップトレッド層とアンダートレッド層との2層構造にすると共に、前記キャップトレッド層の表面に少なくとも3本のタイヤ周方向に延びる主溝を形成した空気入りタイヤにおいて、 車両への装着方向を指定すると共に、前記アンダートレッド層を、車両外側の端部からタイヤ幅方向内側に最外側の主溝を超えた領域まで延びる外側ゴム層と車両内側の端部からタイヤ幅方向外側に最内側の主溝を超えた領域まで延びる内側ゴム層との少なくとも2列のタイヤ周方向に配列するゴム層で構成し、前記外側ゴム層のJIS-硬度(Aタイプ)Hoを65~80、100%モジュラスMoを4MPa以上にし、前記内側ゴム層のJIS-硬度(Aタイプ)Hiを50~70、100%モジュラスMiを2~4MPaにし、かつ両ゴム層の硬度差(Ho-Hi)を5以上、100%モジュラス差(Mo-Mi)を2MPa以上にした空気入りタイヤ。」が記載されている。 また、[0010]~[0011](摘記1-4)及び[0012]~[0014](摘記1-5)には、それぞれ図1及び図2(摘記1-9)に基づいて空気入りタイヤ1の構成が説明されており、トレッド部2からサイドウォール部3、3を経て左右のビード部4、4のビードコア5、5に至るカーカス層6と、トレッド部2におけるカーカス層6の外周側に配置されたベルト層7とを備えており、トレッド部2はキャップトレッド層2Aとアンダートレッド層2Bとの2層からなり、キャップトレッド層2Aの表面には、図では4本のタイヤ周方向に延びる主溝8が形成されており、アンダートレッド層2Bは、車両外側の端部2Xからタイヤ幅方向内側に最外側の主溝8(8o)を超えた2xに至る領域まで延びる外側ゴム層2S(2So)と車両内側の端部2Yからタイヤ幅方向外側に最内側の主溝8(8i)を超えた2yに至る領域まで延びる内側ゴム層2S(2Si)とで構成されること等が記載されている。 さらに、[0029]~[0031](摘記1-7)には、実施例及び比較例について、「タイヤ構造を図1として、アンダートレッド層を単一のゴム層で構成した従来タイヤ(従来例)と、アンダートレッド層を2列の外側ゴム層2So及び内側ゴム層2Siで構成すると共に、これら2列のゴム層2So、2Siの物性値(JIS-硬度(Aタイプ)、100%モジュラス)及びこれらゴム層2So、2Siの配置(境界2x、2yの位置)を表1のように異ならせた本発明タイヤ(実施例1~4)及び比較タイヤ(比較例1~6)とをそれぞれ作製した。なお、各タイヤにおいて、アンダートレッド層の厚さを1mm、キャップトレッド層の20℃におけるJIS-硬度(Aタイプ)を72とした」こと、及び「操縦安定性及び乗心地性の官能評価を行った」ことが記載されており、[0032]の[表1](摘記1-8)及び図3(摘記1-9)を参照すると、実施例1における外側ゴム層2So及び内側ゴム層2Siの配置は図3(a)であり、外側ゴム層2Soは車両外側の端部からタイヤ幅方向内側に最外側主溝8oを超えた2xに至る領域まで延びており、内側ゴム層2Siは車両内側の端部からタイヤ幅方向外側に最内側主溝8iを超えた2yに至る領域まで延びており、それら2x及び2yの境界はトレッド展開幅の概ね中心において接しており、外側ゴム層2So及び内側ゴム層2SiのJIS-硬度(Aタイプ、20℃)はそれぞれ75及び55であり、外側ゴム層2So及び内側ゴム層2Siの100%モジュラス(MPa)はそれぞれ5.0及び2.5であることが読み取れる。 そうすると、甲1には、実施例1に基づいて、以下の発明が記載されているものと認められる。 「ベルト層7を有し、ベルト層7の外周側にトレッド部2を有し、トレッド部2をキャップトレッド層2Aとアンダートレッド層2Bとの2層構造にすると共に、前記キャップトレッド層2Aの表面に4本のタイヤ周方向に延びる主溝8を形成した空気入りタイヤ1において、 アンダートレッド層2Bの厚さを1mmとし、キャップトレッド層2Aの20℃におけるJIS-硬度(Aタイプ)を72とし、 車両への装着方向を指定すると共に、前記アンダートレッド層2Bを、車両外側の端部からタイヤ幅方向内側に最外側の主溝8oを超えた領域まで延びる外側ゴム層2Soと車両内側の端部からタイヤ幅方向外側に最内側の主溝8iを超えた領域まで延びる内側ゴム層2Siとの2列のタイヤ周方向に配列するゴム層で構成し、前記外側ゴム層2SoのJIS-硬度(Aタイプ)Hoを75、100%モジュラスMoを5.0MPaにし、前記内側ゴム層2SiのJIS-硬度(Aタイプ)Hiを55、100%モジュラスMiを2.5MPaにし、かつ両ゴム層の硬度差(Ho-Hi)を20、100%モジュラス差(Mo-Mi)を2.5MPaにした空気入りタイヤ。」(以下、「甲1発明」という。) (3)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明との対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「ベルト層7」、「外周側」、「キャップトレッド層2A」、「アンダートレッド層2B」、「空気入りタイヤ1」、「アンダートレッド層2Bの厚さ」、「キャップトレッド層2Aの20℃におけるJIS-硬度(Aタイプ)」は、それぞれ本件発明1における「ベルト層」、「タイヤ径方向外側」、「キャップトレッド」、「アンダートレッド」、「空気入りタイヤ」、「アンダートレッドの厚み」、「キャップトレッドのゴム硬度Hc」に相当する。そうすると、両者は、 「ベルト層を有し、該ベルト層のタイヤ径方向外側に、アンダートレッドおよびキャップトレッドを有する空気入りタイヤ。」の点で一致し、 相違点1: 本件発明1は、「層間でコード方向を交差させた複数のベルト層を有する」との特定を有するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点 相違点2: 本件発明1は「ベルト層のタイヤ径方向外側に、ポリエチレンテレフタレート繊維コードをタイヤ周方向に螺旋状に巻回されてなるベルトカバー層を有」するとの特定を有するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点 相違点3: 本件発明1は、「アンダートレッドの厚みが1.5mm以上」との特定を有するのに対し、甲1発明は1mmである点 相違点4: 本件発明1は、「アンダートレッドのゴム硬度Huとキャップトレッドのゴム硬度Hcとの比Hu/Hcが0.9以下」との特定を有するのに対し、甲1発明は「キャップトレッド層2Aの20℃におけるJIS-硬度(Aタイプ)を72」とし、かつ、「前記アンダートレッド層2Bを、車両外側の端部からタイヤ幅方向内側に最外側の主溝8oを超えた領域まで延びる外側ゴム層2Soと車両内側の端部からタイヤ幅方向外側に最内側の主溝8iを超えた領域まで延びる内側ゴム層2Siとの2列のタイヤ周方向に配列するゴム層で構成し、前記外側ゴム層2SoのJIS-硬度(Aタイプ)Hoを75、100%モジュラスMoを5.0MPaにし、前記内側ゴム層2SiのJIS-硬度(Aタイプ)Hiを55、100%モジュラスMiを2.5MPaにし、かつ両ゴム層の硬度差(Ho-Hi)を20、100%モジュラス差(Mo-Mi)を2.5MPaにした」ものである点 相違点5: 本件発明1は、「キャップトレッドが、ジエン系ゴム100質量部にシリカ50~150質量部を配合したゴム組成物で構成されてなり、前記ジエン系ゴムが、ポリオルガノシロキサン構造、ポリシロキサン構造から選ばれる少なくとも1つを有する変性基を有する共役ジエン系ゴムを70質量%以上含有する」との特定を有するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点 で相違する。 そこで、上記相違点について検討する。 イ 相違点4について 事案に鑑み、相違点4について検討する。 甲1発明は、本件発明1の「アンダートレッド」に対応する「アンダートレッド層2B」を「外側ゴム層2So」及び「内側ゴム層2Si」の2列配列で構成している。 そして、甲1発明の「キャップトレッド層2A」の硬度は72、「外側ゴム層2So」の「硬度Ho」は75、「内側ゴム層2Si」の「硬度Hi」は55であるから、内側ゴム層2Siの硬度/キャップトレッド層2Aの硬度=55/72=0.76、外側ゴム層2Soの硬度/キャップトレッド層2Aの硬度=75/72=1.04となる。 そうすると、本件発明1の「アンダートレッドのゴム硬度Huとキャップトレッドのゴム硬度Hcとの比Hu/Hcが0.9以下」の特定事項を、甲1発明の外側ゴム層2Soは満たさない。よって、相違点4は実質的な相違点である。 そして、甲1の請求項1(摘記1-1)には、「外側ゴム層のJIS-硬度(Aタイプ)Hoを65~80」にすることが記載されているから、甲1発明の外側ゴム層2Soの硬度Hoとして甲1に記載される最小値65を選択したとしても、外側ゴム層2Soの硬度Ho/キャップトレッド層2Aの硬度=65/72>0.9であり、相違点4に係る発明特定事項を満たすことはできない。 加えて、甲1の[0014](摘記1-5)の「高速旋回走行時には荷重負担の多い車両外側における高硬度高モジュラスの外側ゴム層2Soが支えることによって操縦安定性が向上する」との記載から、甲1発明において、外側ゴム層2Soの硬度Hoを65よりも更に低下させることについては阻害要因が存在するといえる。 また、仮に、甲1発明におけるキャップトレッド層2Aの硬度、外側ゴム層2Soの硬度Ho及び内側ゴム層2Siの硬度Hiの全てを変更することを検討したとしても、甲1にはアンダートレッド層2Bの硬度とキャップトレッド層2Aの硬度とを関連付け、その比を調整する技術思想の開示はない。そして、甲1において、キャップトレッド層2Aの硬度、外側ゴム層2Soの硬度Ho、内側ゴム層2Siの硬度Hiが、相違点4に係る発明特定事項を満たすように設定された例は、1例も開示されていない。 したがって、甲1にキャップトレッド層2Aの硬度、外側ゴム層2Soの硬度Ho及び内側ゴム層2Siの硬度Hiの選択幅がそれぞれ記載されていたとしても、甲1発明において、相違点4に係るアンダートレッドのゴム硬度Huとキャップトレッドのゴム硬度Hcとの比Hu/Hcを0.9以下とすることは、当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。 さらに、申立人が引用した他の全ての証拠を検討しても、甲1発明において相違点4の特定事項を採用する動機付けとなる記載はない。 よって、相違点4について、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 本件発明1の効果について 本件発明1は上記相違点4に係る構成要件を有し、さらに相違点1~3及び5に係る構成要件を有することにより、上記第5の「5.サポート要件の判断」において検討したとおり「操縦安定性、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性を従来レベル以上に向上することができる」という効果を発揮するものであり、当該効果は甲1及び甲2~7から当業者が予測し得ないものである。 エ 申立人の主張について 申立人は申立書第40頁において、甲1の[0013]、[0025]及び[実施例]の記載を引用し、実施例1のタイヤは「アンダートレッド層の内側ゴム層の硬度/キャップトレッド層の硬度=55/72=0.76で、アンダートレッドのゴム硬度Huとキャップトレッドのゴム硬度Hcとの比Hu/Hcが0.9以下と重複する範囲である」と主張し、Hu/Hcの構成は相違点とはしていない。 しかし、上記(3)及び(4)において検討したとおり、実施例1に基づく甲1発明においては、アンダートレッド層2Bを外側ゴム層2Soと内側ゴム層2Siとの2列のゴム層で構成し、前記外側ゴム層2SoのJIS-硬度(Aタイプ)Hoを75、100%モジュラスMoを5.0MPaにし、前記内側ゴム層2SiのJIS-硬度(Aタイプ)Hiを55、100%モジュラスMiを2.5MPaにし、かつ両ゴム層の硬度差(Ho-Hi)を20、100%モジュラス差(Mo-Mi)を2.5MPaにしているから、申立人による対比は、少なくとも甲1発明の外側ゴム層2Soの硬度Hoに基づく硬度比の検討を欠く点で妥当ではなく、上記(3)に記載したとおり実質的な相違点である相違点4が存在するものと認められる。また、本件明細書の記載を参酌しても、本件発明1における「アンダートレッドのゴム硬度Hc」が、アンダートレッド層の部分的な硬度であってよいと解釈しなければならない特別な事情も存在しない。 よって、申立人の主張は採用できない。 オ 本件発明1についてのまとめ 以上のことから、相違点4は実質的な相違点であり、また、甲1及び甲2~甲7に基づいて当業者が容易に想到し得たこととは認められない。そして、本件発明1は甲1及び甲2~甲7から当業者が予測し得ない顕著な効果を発揮するものである。 よって、相違点1~3及び5について検討するまでもなく、本件発明1は甲1及び甲2~甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明2~4について 本件発明2~4は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に判断される。 (5)申立理由1(甲1に基づく進歩性欠如)のまとめ 以上まとめると、本件発明1~4は、いずれも甲1に記載された発明及び甲1~甲7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 よって、申立理由1(甲1に基づく進歩性欠如)により本件請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 3.申立理由2(サポート要件違反)について 上記1.「申立理由の概要」の(2)に記載した申立理由2(サポート要件違反)のうち、アが取消理由において採用した理由に相当するから、イ~オについて検討する。 (1)イ及びウについて 上記第5の5.「サポート要件の判断」において検討したとおり、本件明細書の[0030]には、「変性基を有する共役ジエン系ゴムを含有することにより、シリカとの親和性を向上させ、低転がり抵抗性、ウェットグリップ性能、低ロードノイズ性および高速耐久性をより優れたものにすることができる」ことが記載され、さらに、実施例に関して、[0083]には変性SBR-1」としてポリオルガノシロキサン構造を有する共役ジエン系ゴムが記載され、[0084]には「変性SBR-3:ポリシロキサンを有する共役ジエン系ゴム、日本ゼオン社製NS612」が記載され、[0081]の[表1]及び[0082]の[表2]等の記載からは、「変性SBR-1」又は[変性SBR-3]をキャップトレッドのゴム成分として用い、かつ本件発明1の他の構成要件も満たしている実施例1~5及び7が、未変性SBRを用いた標準例と比較して操縦安定性が同等であり、ウェット性能、ロードノイズ、高速耐久性及び低転がり性は高評価であったことが記載されている。 これらの記載に基づいて、当業者は変性基としてケイ素原子を含むポリオルガノシロキサン構造又はポリシロキサン構造を有する基が共役ジエン系ゴムに導入されていることにより、シリカとの親和性が実際に向上することを理解することができ、また、本件特許の出願時の技術常識も参酌することにより、ケイ素原子を含むシロキサン(-O-Si-)の構造ないしオルガノシロキサンの構造が導入されていれば、その繰り返しの数に応じてシリカとの相応の親和性がもたらされ、発明の課題解決に寄与するものと理解することができる。 (2)エ及びオについて また、本件明細書の[0021]には、「アンダートレッド10bとキャップトレッド10aのゴム硬度の比Hu/Hcを0.9以下にすることにより、操縦安定性を改良するためキャップトレッド10aのゴム硬度Hcを高くしたことに伴いノードノイズが大きくなったときでも、アンダートレッド10bのゴム硬度の比Huを十分に小さくしノードノイズの悪化を抑制することができる。加えて、PET繊維コードをベルトカバー層9に用いることにより、ノードノイズをより低減することができる。これにより、空気入りタイヤの操縦安定性および低ノードノイズ性を高いレベルで兼備することができる」ことが記載され、さらに、実施例に関して、[0081]の[表1]及び[0082]の[表2]には、ゴム硬度比Hu/Hcが0.77に揃えられ、PET繊維コード(構造は1100dtex/2)をベルトカバー層に用いた標準例と実施例1~7が記載され、本件発明1の構成を満たす実施例1~7は標準例と同等の操縦安定性を保ったままロードノイズを低減することができること、ゴム硬度比Hu/Hcが0.77であり繊維の構造がも共通(1100dtex/2)するが素材がナイロンであるナイロン繊維コードをベルトカバー層に用いた比較例1ではロードノイズ及び高速耐久性が標準例より悪化したこと、及びPET繊維コードをベルトカバー層に用いているがゴム硬度比Hu/Hcが0.92である比較例2は、キャップトレッドのゴム硬度が不足し操縦安定性が標準例より劣り、ロードノイズを低減することもできなかったことが記載されている。これらの記載及び本件特許の出願時の技術常識を参酌することにより、当業者はゴム硬度比Hu/Hcが0.9以下であればキャップトレッドのゴム硬度を高くすることによる操縦安定性改良とアンダートレッドゴム硬度を低くすることによるロードノイズの悪化抑制とのバランスがとれること、及びPET繊維コードをベルトカバー層に用いることによりPET繊維の持つ特性相応のロードノイズ低減効果等が得られ、他の素材よりロードノイズ低減が可能であることを理解することができるから、本件発明1におけるゴム硬度比Hu/Hcが0.9以下であるとの発明特定事項及びPET繊維コードを用いた所定のベルトカバー層を有するとの発明特定事項を備えることにより、発明の課題解決に寄与するものと理解することができる。 (3)小括 そうすると、当業者は本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識を参酌することにより、本件発明1の範囲で実施例と同様の作用機序により本件発明の課題を解決し得ると認識することができるといえる。本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4についても同様である。 (4)申立理由2(サポート要件違反)のまとめ 以上まとめると、本件発明1~4は、いずれも本件明細書の発明の詳細な説明において、当業者が発明の課題を解決し得ると認識できるものであるから、発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、同法第36条第6項に規定する要件を満たすものである。 よって、取消理由において採用しなかった申立理由2(サポート要件違反)のイ~オのいずれの理由によっても本件請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 第7 むすび 以上のとおり、本件特許の請求項1~4に係る特許は、上記取消理由及び特許異議申立理由によって取り消すことはできない。また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700614

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