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特許異議申立

2023-701216

慢性炎症性脱髄性多発神経炎の治療における使用のための免疫グロブリン製品

審判番号
2023-701216
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-556864
登録番号
7275044
請求日
2023年11月17日
審決日
2024年03月25日
公報発行日
2024年04月26日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】ツェー・エス・エル・ベーリング・アクチエンゲゼルシャフト
  • 【権利者代理人】結田 純次
  • 【権利者代理人】竹林 則幸
  • 【異議申立人】杉本 里佳
審判長/審判官
  • 審判長 松波 由美子
  • 審判官 齋藤 恵
  • 審判官 岡山 太一郎
分類
P1651.121-Y (A61K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7275044号発明「慢性炎症性脱髄性多発神経炎の治療における使用のための免疫グロブリン製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7275044号の請求項1ないし22に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7275044号の請求項1~22に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)4月20日(優先権主張外国庁受理 2017年6月21日 欧州特許庁(EP) 2017年4月21日 米国(US) 2017年10月13日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、令和5年5月9日にその特許権の設定登録がされ、令和5年5月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和5年11月17日に特許異議申立人 杉本里佳(以下「申立人」という。)は異議の申立てを行った。 第2 本件発明 特許第7275044号の請求項1~22の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~22に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)の治療における使用のための免疫グロブリン製品であって、1週間当たり0.2g/kg患者体重の固定用量で皮下投与するためのものであり、該治療によって、INCATスコア、R-ODSスコア、平均握力、MRC合計スコア、および電気生理学的パラメータのうちの1つまたはそれ以上が、プラセボ治療に対して、少なくとも20%改善する結果となり、該治療によって、プラセボとの比較で20%を上回る再発率の低下が達成される、前記免疫グロブリン製品。 【請求項2】 免疫グロブリン製品の固定用量は、1~7日の経過にわたって投与されるものである、請求項1に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項3】 免疫グロブリン製品の用量は、1日の経過にわたって投与されるものである、請求項2に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項4】 治療は、少なくとも3ヵ月間行われ、好ましくは、治療は、少なくとも6ヵ月間行われる、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項5】 治療によって、INCATスコア、R-ODSスコア、平均握力、MRC合計スコア、および電気生理学的パラメータのうちの1つまたはそれ以上は、プラセボ治療に対して、少なくとも50%改善する結果となる、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項6】 免疫グロブリン製品は、すぐに使用できる液体製品であり、かつ/または免疫グロブリン製品は、投与前に液体形態に再構成する必要がない、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項7】 免疫グロブリン製品は、最高温度25℃で保存する場合、液体形態で、少なくとも12ヵ月間、好ましくは、少なくとも24ヵ月間の貯蔵安定性を示す、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項8】 患者は、免疫グロブリン製品を自己投与する、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項9】 免疫グロブリン製品は、凍結乾燥製品である、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項10】 免疫グロブリン製品の免疫グロブリン濃度は10~30%である、請求項1~9のいずれか1項に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項11】 免疫グロブリン製品の免疫グロブリン濃度は20%である、請求項10に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項12】 免疫グロブリン製品の免疫グロブリンサブクラス分布は、IgG1が62~74%、IgG2が22~34%、IgG3が2~5%、およびIgG4が1~3%である、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項13】 IgA濃度は、免疫グロブリン100mg当たり50μg以下である、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項14】 IgA濃度は、免疫グロブリン100mg当たり25μg以下である、請求項13に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項15】 免疫グロブリン製品は安定剤を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項16】 安定剤はアミノ酸であり、好ましくは、安定剤はプロリンである、請求項15に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項17】 免疫グロブリン製品は、ヒト血漿またはヒト血漿濃縮物から得られる、請求項1~16のいずれか1項に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項18】 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)の治療における使用のための免疫グロブリン製品であって、週毎の総用量を0.2g/kg患者体重の用量で維持しつつ投与間隔を延長または短縮するよう調整する柔軟な投与レジメンで皮下投与するためのものであり、該治療によって、INCATスコア、R-ODSスコア、平均握力、MRC合計スコア、および電気生理学的パラメータのうちの1つまたはそれ以上が、プラセボ治療に対して、少なくとも20%改善する結果となり、該治療によって、プラセボとの比較で20%を上回る再発率の低下が達成される、前記免疫グロブリン製品。 【請求項19】 免疫グロブリン製品は、隔週投与されるものであり、投与される用量は、週毎の総用量に2を乗じたものである、請求項18に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項20】 免疫グロブリン製品は、3週毎に投与されるものであり、投与される用量は、週毎の総用量に3を乗じたものである、請求項18に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項21】 免疫グロブリン製品は、1週間に2回投与されるものであり、投与される用量は、週毎の総用量を2で除したものである、請求項18に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 【請求項22】 免疫グロブリン製品は、1週間当たり2~7回投与されるものであり、週毎の総用量は維持される、請求項18に記載の使用のための免疫グロブリン製品。」 第3 申立ての理由の概要 申立人は、甲第1号証~甲第8号証(以下、「甲1」などという。)を提出し、請求項1~22についての申立ての理由として特許法第29条第2項(同法第113条第2項)を主張している。特許異議申立書(以下「申立書」という。)の記載によれば、その具体的な理由は、概略以下のとおりである(以下、それぞれ「申立理由1」及び「申立理由2」という。)。 (1)申立理由1 本件発明1~8は、甲1に記載された発明及び甲2~甲7の記載に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、請求項1~8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。 (2)申立理由2 本件発明9~22は、甲1に記載された発明及び甲2~甲8の記載に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、請求項9~22に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。 甲1 Trials,2016,Vol.17,No.1,p.1-15 甲2 Journal of Periferal Nervous System,2016,Vol.21,No.2,p.114-116 甲3 European Journal of Neurology,2013、Vol.20,No.5,p.836-842 甲4 European Journal of Neurology,2014、Vol.21,No.12,p.1465-1470 甲5 Lancet Neurol,2008,Vol.7,p.136-144 甲6 J.Neurol.Neurosurg.Psychiatry,2017,Vol.88,p.832-838 甲7 Arch.Neurol.,1991,Vol.48,p.217-220 甲8 特表2011-515395号公報 第4 申立理由についての判断 1 申立理由1について (1)請求項1について ア 甲1の記載及び甲1に記載された発明 甲1は「慢性炎症性脱髄性多発神経炎維持療法のための免疫グロブリンの皮下投与(PATH試験):無作為化試験のための試験プロトコール」と題する学術論文である。甲1には、以下の記載がある。(甲1は、英語で記載されているので、日本語訳を示す。なお、甲1の参照文献についての数字は省略して記載する。) (甲1ア) 「PATH研究(多発性神経障害およびハイゼントラによる治療)の主な目的は、24週間維持療法における免疫グロブリンの皮下投与(SCIg)IgPro20の2つの異なる用量(0.2g/kg体重または0.4g/kg体重)の有効性を偽薬と比較して検討することである。・・・すべての適格な患者は、3つの期間を経る:Ig依存性の者を選択するためのIVIg依存期間(12週);IVIg再安定化期間(10または13週)、10%のIgPro20製品を用いて行われる;およびSC治療期間(24週、前回の経過観察後1週間で完了する投与が続く)。IVIg再安定化を示す患者は、IgPro20のSCIg維持療法の偽薬に対する有効性を示すために、ランダム化される。」 (Abstract 「Methods/design」の項) (甲1イ) 「背景 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)は、後天性の神経障害であり、自己免疫を介した病因が想定されている。CIDPは進行性、再発寛解性、または単相性の経過をたどり、QOLの低下を伴う著しい活動制限や参加制限をもたらすことがある。 CIDP患者の推定3分の2が長期治療を必要としている。安全性プロファイルの比較では、CIDP患者ではコルチコステロイドや血漿交換よりもIVIgが長期維持療法として望ましい。Igの別の投与経路である皮下Ig(SCIg)は、25年以上にわたって免疫不全症候群の患者にうまく使用されてきた。SCIg輸液は忍容性が高く、効果的であり、多くの患者に好まれている。さらに、この投与経路は患者のコンプライアンス、自律性、QOLを向上させ、コスト削減につながる。SCIgによる治療を受けたCIDP患者においても、同様の嗜好性が示唆されている。 高濃度Ig製剤や、より大量を皮下投与するための特殊なポンプの開発により、炎症性神経障害患者に対するこの投与経路への関心も高まっている。いくつかの症例シリーズ、比較的大規模な前向き観察研究、小規模ランダム化比較試験が、CIDPの治療における週1回のSCIg投与の臨床的有効性と安全性を報告している。1年間の非盲検追跡調査により、SCIgはCIDPの長期維持療法として使用できる可能性が示唆されている。しかし、CIDPにおける週1回のSCIgの有効性、安全性、および忍容性については、十分に管理され、十分な検出力を有するランダム化臨床試験では研究されていない。PATH試験の結果は、CIDP患者の維持管理におけるSCIgの使用に関する知識を深めることが期待される。」 (2ページ左欄「Background」の項) (甲1ウ) 「3群は無作為化される。一つの群は、0.2g/kg体重のIgPro20と、全群で容量を合わせるための偽薬を、一つの群は、0.4g/kg体重のIgPro20を、一つの群は偽薬のみを投与される。IgPro20の用量/容量は、体重を基に計算される。IgPro20または偽薬の週ごとの皮下注入は、特殊な注入ポンプを用いて、1日または2日間連続の2つのセッションで行われる。」 (4ページ左欄「SC treatment period」の項1行~9行) (甲1エ) 「SC治療期については、SCIgおよびIVIgの等活性を仮定した。さらに、CIDPおよびMMNにおけるいくつかの小規模の研究は、0.09~約4g/kg体重の用量のSCIgの有効性を示唆する。それゆえ、本研究では、二通りの用量を試験する:許容可能な効果が想定され、低SCIg用量を有意に上回る低用量、およびIVIgの推奨用量(0.33g/kg体重)と同等の週毎の用量を上回るが、週毎の間隔で点滴するのに許容される容量の範囲である量。」 (10ページ左欄「selected doses」の項4行~13行) (甲1オ) 「本研究において、診断には、EFNS/PNSの最新のガイドラインが使用されるであろう。これらの基準は、神経学会においてCIDPの診断に広く受け入れられている。確立され認められた転帰の測定が、手足の障害(INCATスコア)、筋力(MRCサムスコア)を評価するために用いられ、実際の握力試験も行われる。INCATおよびMRCサムスコアは、他の研究や発表において広く用いられている(INCAT;MRCスコア)。上肢の機能における〇(健常)から1(わずかな兆候)への変化または1から0への変化が、規制機関により全患者において臨床的に有意であると考えられていないため、本研究を通して補正されたINCATスコアが適用される。 握力が腕の障害値と有意に関連することが徐々に見出され、免疫介在性の多発神経炎患者における腕の機能回復の指標として用いられ得ることを意味する。I-RODSは、現在唯一の線形重み付けのされた活動および社会参加の制限の尺度である。I-RODSは非常に広範囲の困難性の項目を捕え、全般的障害総スコアに対しクラス間相関係数0.85で有効であり、反復測定の試験信頼性はクラス間相関係数0.97-0.99で非常に高いことが立証された。CIDPにおけるI-RODS応答性は、近年実証されている。)」 (10ページ「Appropriateness of measurements」の項、左欄1行~右欄27行) (甲1カ) 「終点に到達する患者(すなわち、皮下投与による治療中に再発または離脱する)の割合は、高用量のIgPro20による治療グループでは38%、低用量のIgPro20による治療グループでは52%、偽薬グループでは65%と予測される。」 (6ページ「Statistical analysis,Sample size」の項、左欄35行~38行)。 甲1には、24週間維持療法における免疫グロブリンの皮下投与(SCIg)IgPro20の0.2g/kg体重または0.4g/kg体重の有効性を偽薬と比較して検討することを主な目的とするPATH研究について記載されている(甲1ア)。甲1には、PATH研究の背景として、いくつかの症例シリーズ、比較的大規模な前向き観察研究、小規模ランダム化比較試験が、CIDPの治療における週1回のSCIg投与の臨床的有効性と安全性を報告している旨が示されており、1年間の非盲検追跡調査により、SCIgはCIDPの長期維持療法として使用できる可能性が示唆されていることが記載されている(甲1イ)。 そうすると、甲1の記載から、以下の発明が認定できる(以下「甲1発明」という。)。 (甲1発明) CIDPの治療において、週1回投与して用いるためのSCIg製剤。 イ 本件発明1と甲1発明の対比 甲1発明におけるSCIg製剤は、皮下投与するための免疫グロブリン製剤であるから、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 (一致点) 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)の治療における使用のための免疫グロブリン製品であって、皮下投与するためのものである、免疫グロブリン製品。 (相違点1) 本件発明1は、「1週間当たり0.2g/kg患者体重の固定用量で」皮下投与するためのものであり、「INCATスコア、R-ODSスコア、平均握力、MRC合計スコア、および電気生理学的パラメータのうちの1つまたはそれ以上が、プラセボ治療に対して、少なくとも20%改善する結果となり、該治療によって、プラセボとの比較で20%を上回る再発率の低下が達成される」ことが特定されているのに対し、甲1発明は、これらの点が特定されていない点。 ウ 相違点についての判断 (ア) 本件発明は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0007】に記載のとおり、「少ない固定用量の免疫グロブリンが、慢性炎症性脱髄性多発神経炎の治療において治療的効能を示すという予想外の発見に基づ」き為された発明であり、実施例には、国際的多施設共同、二重盲検、無作為化プラセボ対照第III相試験の結果として、再発の確率が、投与量0.4g/kgの高用量SCIgでは22%、プラセボとの比較で37%であるのに対し、投与量0.2g/kgの低用量SCIgでは35%、およびプラセボ患者では59%であったことが記載され(【0051】、【0065】表2)、本件発明1は、再発率をプラセボとの比較で24%低下させたことが示されている。 他方、甲1は、CIDPの治療における週1回のSCIg投与(甲1イ)0.2g/kg体重または0.4g/kg体重)の有効性を偽薬と比較して検討することを目的とする試験が(甲1ア)、無作為化された3群のうち、一つの群は、0.2g/kg体重のIgPro20と、全群で容量を合わせるための偽薬を、一つの群は、0.4g/kg体重のIgPro20を、一つの群は偽薬のみを投与されること、及び、IgPro20または偽薬の週ごとの皮下注入は、特殊な注入ポンプを用いて、1日または2日間連続の2つのセッションで行われることが記載されている(甲1ウ)。 甲1~甲4においてCIDPの治療効果の指標とされているように、INCATスコア、R-ODSスコア、平均握力、MRC合計スコアは、CIPDの治療において、改善度を評価するために一般的に用いられている指標である(甲1の10頁左欄下から2行~右欄27行、甲2の114頁右欄下から4行~115頁左欄7行、甲3のAbstracts5行~14行、甲4の1468頁表2)。 そして、甲2には、免疫グロブリンの静脈内投与(IVIg)による治療から皮下投与(ScIg)による治療に移行した際に、臨床的転帰において、最小限の変化のみが観察されたことが記載されている(114頁右欄下から4行~115頁左欄7行)。 甲3には、0.31g/kg/週の用量で免疫グロブリンの皮下投与による治療を行ったところ、MRC、握力が改善したことが記載され(836頁アブストラクト、839頁表1)、甲4には、0.33g/kg/週の用量で免疫グロブリンの皮下投与による治療を行ったところ、MRC、握力が改善したことが記載されている(1465頁アブストラクト、1467頁表1)。 甲5には、CIDP患者を対象に、無作為化二重盲検プラセボ対照応答条件付きクロスオーバー試験を実施し、改善が認められた患者に対して、盲検化された24週の延長試験を実施したところ、10%カプリレート-クロマトグラフィー精製免疫グロブリンの静脈内投与(IVIG-C)を3週間ごとに1.0g/kgの用量で継続して受けている患者では、プラセボで治療されている患者に比べて、再発までの時間が長く、再発率はプラセボ治療で45%であるのに対し、IVIG-C治療では13%であったことが記載されている(136頁サマリー、137頁右欄下から4行~末行、141頁左欄下から9行~下から3行)。 甲6には、CIDP患者に対し、0.5g/kg/dayで5日間連続によるIg静脈内投与導入療法の後、維持用量として1.0g/kgのIg静脈内投与を3週間ごとに52週まで実施したところ、28週において奏効率は77.6%であり、38名の奏効者について、維持療法を継続し、52週において、38名中4名(10.5%)に再発が見られたこと、52週の期間中、49名の患者のうち、34名(69.4%)において改善が維持されたことが記載されている(832頁アブストラクト)。 甲7には、隔週の0.4g/kg体重の静脈内投与により、21名のCIDP患者のうち9名において、再発の臨床的症状を呈することなく、静脈内投与されるIgの用量を、隔週に体重当たり平均0.25gにまで徐々に減じることができたことが記載されている(218頁中央欄2行~18行)。 (イ) 甲1~7の上記記載から、免疫グロブリンが、CIDP患者のINCATスコア、R-ODSスコア、平均握力、MRC合計スコアを改善し、再発を抑制する効果を示す薬剤であることが理解できるから、甲1~7の記載に接した当業者にとって、甲1発明を、当該製品を使用した治療によって、INCATスコア、R-ODSスコア、平均握力、MRC合計スコア、および電気生理学的パラメータのうちの1つまたはそれ以上が、プラセボ治療に対して、ある程度改善する結果となり、該治療によって、プラセボとの比較である程度の再発率の低下が達成されるような治療に使用するためのものとすること自体は当業者が治療に際し、考慮すべき事項であるといい得る。 しかしながら、免疫グロブリンの皮下投与による治療による結果に関し、甲1には、皮下投与による治療中に再発または離脱する患者の割合は、高用量のIgPro20による治療グループでは38%、低用量のIgPro20による治療グループでは52%、偽薬グループでは65%と予測される(甲1カ)との記載があり、当該予測によれば、皮下投与による治療中に再発または離脱する患者が、0.4g/kg/週では、プラセボとの比較で30%であるのに対し、0.2g/kg/週ではプラセボとの比較で13%と予測されるにすぎず、甲1の記載からは、再発率の低下率については、その予測値すら明らかでない。 そして、甲2には、免疫グロブリンの静脈内投与(IVIg)による治療から皮下投与(ScIg)による治療に移行した際に、臨床的転帰において、最小限の変化のみが観察されたことが記載されており、かかる記載から、せいぜぜい、静脈内投与による治療効果から、皮下投与の効果が類推し得ることが示され、甲3~7は、いずれも静脈投与について試験した結果であり、これらの証拠には、少ない固定用量で免疫グロブリンを皮下投与することによる効果など示されていないのであるから、甲1~7のいずれにも記載ないし示唆があるとはいえない。 (ウ) 効果 本件発明の構成により奏される効果についてみると、本件明細書【0064】において、0.4g/kg/週の場合には、CIDPを再発するか、または試験から脱落した患者が33%であり、プラセボ群の場合の63%に対して30%の低下で、甲1の記載から予想される皮下投与による治療中に再発または離脱する患者の割合の低下がプラセボとの比較で30%との値と同程度であるのに対し、本件発明1における用量である0.2g/kg/週では、CIDPを再発するか、または試験から脱落した患者が39%であり、プラセボ群の場合の63%に対して24%の低下で、甲1において予想される皮下投与による治療中に再発または離脱する患者の割合の低下がプラセボとの比較で13%との値をはるかに上回り、当業者の予測を超える顕著な効果を奏する。 エ まとめ 本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲7の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)請求項2~8について 請求項2~8は、請求項1を直接又は間接的に引用する形式で、さらに特定を加えて記載されているから、本件発明2~8は、本件発明1をさらに限定した発明である。 そして、上記(1)のとおり、本件発明1が甲1発明及び甲2~甲7の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのであるから、本件発明1をさらに限定した発明である本件発明2~8が甲1発明及び甲2~甲7の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないことは明らかである。 (3)小括 以上のとおり、本件発明1~8は、甲1発明及び甲2~甲7の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1~8に係る特許は、特許法第29条2項の規定に違反してされたものではない。 したがって、申立理由1には理由がない。 2 申立理由2について (1)請求項9について ア 本件発明9と甲1発明の対比 本件発明9と甲1発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 (一致点) 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)の治療における使用のための免疫グロブリン製品であって、皮下投与するためのものである、免疫グロブリン製品。 (相違点1) 本件発明9は、「1週間当たり0.2g/kg患者体重の固定用量で皮下投与するためのもの」皮下投与するためのものであり、「INCATスコア、R-ODSスコア、平均握力、MRC合計スコア、および電気生理学的パラメータのうちの1つまたはそれ以上が、プラセボ治療に対して、少なくとも20%改善する結果となり、該治療によって、プラセボとの比較で20%を上回る再発率の低下が達成される」ことが特定されているのに対し、甲1発明は、これらの点が特定されていない点。 (相違点2) 免疫グロブリン製品は、凍結乾燥製品である、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のための免疫グロブリン製品。 イ 相違点についての判断 上記1(1)ウ(イ)において述べたとおり、免疫グロブリンの皮下投与による治療による結果に関し、甲1には、0.4g/kg/週(高用量)投与での再発率(再発及び離脱)は35%であり、0.2g/kg/週(低用量)投与では52%、プラセボ投与では65%であると予測されるとの記載があるが(6頁左欄の下から2つ目の段落)、その低用量での再発率の低下は、プラセボとの比較で13%にすぎず、免疫グロブリンの皮下投与によって、プラセボとの比較で20%を上回る再発率の低下が達成されるようにすることについては、甲2~7のいずれにも記載も示唆もない。 また、甲8には、IV投与(静脈投与)に使用する製剤を皮下投与のために可溶性ヒアルロニダーゼと組み合わせることが記載され、そのような製剤には、凍結乾燥剤が含まれることが記載されているが(【0115】)、免疫グロブリンの皮下投与製剤を、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)の治療に使用した際に、プラセボとの比較で20%を上回る再発率の低下が達成されるようにすることについては、記載も示唆もない。 また、上記1(1)ウ(ウ)において述べたのと同様に、本件発明9における用量である0.2g/kg/週では、CIDPを再発するか、または試験から脱落した患者が39%であり、プラセボ群の場合の63%に対して24%の低下で、甲1において予想される皮下投与による治療中に再発または離脱する患者の割合の低下がプラセボとの比較で13%との値をはるかに上回り、当業者の予測を超える顕著な効果を奏する。 したがって、本件発明9は、甲1発明及び甲2~8の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)請求項10~22について 請求項10~22は、請求項9を直接又は間接的に引用する形式で、さらに特定を加えて記載されているから、本件発明10~22は、本件発明9をさらに限定した発明である。 そして、上記(1)のとおり、本件発明9が甲1発明及び甲2~甲8の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないのであるから、本件発明9をさらに限定した発明である本件発明10~22が甲1発明及び甲2~甲8の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないことは明らかである。 (3)小括 以上のとおり、本件発明9~22は、甲1発明及び甲2~甲8の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項9~22に係る特許は、特許法第29条2項の規定に違反してされたものではない。 したがって、申立理由2には理由がない。 第6 むすび 以上のとおり、申立理由1及び2は、いずれも理由がなく、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~22に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-701216

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