特許異議申立
2022-700147
米飯用品質保持剤および米飯の品質保持方法
- 審判番号
- 2022-700147
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-041284
- 登録番号
- 6923580
- 請求日
- 2022年02月18日
- 審決日
- 2022年06月16日
- 公報発行日
- 2022年07月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】オリエンタル酵母工業株式会社
- 【権利者代理人】廣田 浩一
- 【権利者代理人】流 良広
- 【権利者代理人】松田 奈緒子
- 【異議申立人】杉本 里佳
- 審判長/審判官
- 審判長 須藤 康洋
- 審判官 大島 祥吾
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.161-Y (A23L) / P1651.121-Y (A23L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条の2、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6923580号発明「米飯用品質保持剤および米飯の品質保持方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6923580号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6923580号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成31年3月7日を出願日とするものであって、令和3年8月2日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年2月18日に特許異議申立人 杉本 里佳(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、設定登録時の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
α-グルコシルトランスフェラーゼおよびグルコアミラーゼを含有し、
生米100gに対して、α-グルコシルトランスフェラーゼ10~900Uおよびグルコアミラーゼ30~500Uで用いられることを特徴とする米飯用品質保持剤。
【請求項2】
更にマルトオリゴ糖およびマルトトリオースの少なくともいずれかを含有するか、またはマルトオリゴ糖およびマルトトリオースの少なくともいずれかと併せて用いられ、
前記マルトオリゴ糖およびマルトトリオースの少なくともいずれかの使用量が、生米100gに対して、0.01~1.0gである請求項1に記載の米飯用品質保持剤。
【請求項3】
更にαアミラーゼおよびプロテアーゼの少なくともいずれかを含有し、その使用量が、生米100gに対して、αアミラーゼは35~350Uであり、プロテアーゼは20~250Uである請求項1または2に記載の米飯用品質保持剤。
【請求項4】
α-グルコシルトランスフェラーゼとグルコアミラーゼの配合比が、5:2~2:5の範囲である請求項1~3のいずれかに記載の米飯用品質保持剤。
【請求項5】
α-グルコシルトランスフェラーゼおよびグルコアミラーゼを炊飯時または炊飯後の米飯類に作用させることを含み、
生米100gに対して、α-グルコシルトランスフェラーゼ10~900Uおよびグルコアミラーゼ30~500Uで用いることを特徴とする米飯の品質保持方法。
【請求項6】
更にマルトオリゴ糖およびマルトトリオースの少なくともいずれかを炊飯時または炊飯後の米飯類に作用させることを含み、
生米100gに対して、マルトオリゴ糖およびマルトトリオースの少なくともいずれかを0.01~1.0gで用いる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
更にαアミラーゼおよびプロテアーゼの少なくともいずれかを炊飯時または炊飯後の米飯類に作用させることを含み、
生米100gに対して、αアミラーゼは35~350U、プロテアーゼは20~250Uで用いる請求項5または6に記載の方法。」
第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年2月18日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく拡大先願)
本件特許の請求項1及び5に係る発明は、本件特許の出願前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特許出願(特願2019-4707号、甲第1号証)の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明、甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術事項に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 証拠方法
甲第1号証:特願2019-4707号(特開2020-110121号公報)
甲第2号証:国際公開第2018/074582号
甲第3号証:国際公開第2012/105532号
甲第4号証:特開2015-156861号公報
甲第5号証:特開2015-181412号公報
なお、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書の記載に従った。
以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 当審の判断
1 申立理由1(甲1に基づく拡大先願)について
(1)甲1の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された事項等
ア 甲1の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された事項
甲1は、「穀類食品の製造方法および品質低下抑制方法、ならびに穀類食品の品質低下抑制剤」に関する特許出願であり、その願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲には、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線については当審において付与したものである。(以下同じ。)
・「【特許請求の範囲】
・・・
【請求項6】
β-アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびマルトテトラオース生成酵素からなる群より選択される1種または2種以上の糖質加水分解酵素と、糖転移酵素とを、穀類食品に添加することを含む、穀類食品の品質低下の抑制方法。
【請求項7】
糖転移酵素が、マルトトリオシル転移酵素、ブランチングエンザイムおよびトランスグルコシダーゼからなる群より選択される1種または2種以上である、請求項6に記載の抑制方法。
【請求項8】
糖質加水分解酵素がβ-アミラーゼである、請求項6または7に記載の抑制方法。
【請求項9】
糖転移酵素がマルトトリオシル転移酵素である、請求項6~8のいずれか1項に記載の抑制方法。
【請求項10】
糖質加水分解酵素と糖転移酵素とを、穀類食品に対し、酵素活性の比(糖質加水分解酵素/糖転移酵素)が0.0000001~100000000となるように添加する、請求項6~9のいずれか1項に記載の抑制方法。
【請求項11】
β-アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびマルトテトラオース生成酵素からなる群より選択される1種または2種以上の糖質加水分解酵素と、糖転移酵素とを含有する、穀類食品の品質低下の抑制剤。
【請求項12】
糖転移酵素が、マルトトリオシル転移酵素、ブランチングエンザイムおよびトランスグルコシダーゼからなる群より選択される1種または2種以上である、請求項11に記載の抑制剤。
【請求項13】
糖質加水分解酵素がβ-アミラーゼである、請求項11または12に記載の抑制剤。
【請求項14】
糖転移酵素がマルトトリオシル転移酵素である、請求項11~13のいずれか1項に記載の抑制剤。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、穀類食品の製造方法および品質低下抑制方法、ならびに穀類食品の品質低下抑制剤に関し、さらに詳しくは、従来よりも低温で保存された場合にも、食感等の品質の低下が抑制された穀類食品の製造方法、および穀類食品の品質の低下を抑制する方法、ならびに穀類食品の品質低下を抑制するための抑制剤に関する。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、従来よりも低温で保存された場合でも、穀類食品の食感等の品質の低下をより良好に抑制し、品質が良好に保持された穀類食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびマルトテトラオース生成酵素からなる群より選択される1種または2種以上の糖質加水分解酵素と、糖転移酵素とを組み合わせて穀類に添加することにより、該穀類の調理、加工食品の食感等品質の低下が良好に抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。」
・「【発明の効果】
【0008】
本発明により、従来よりも低温で保存された場合にも、澱粉の老化が抑制されて、主として澱粉の老化に起因する品質の低下が抑制され、良好な食感等が保持された穀類食品を製造することができる。
また、本発明により、従来よりも低温で保存された場合にも、主として澱粉の老化に起因する穀類食品の品質の低下を良好に抑制することができる。
さらに、本発明により、従来よりも低温で保存された場合にも、澱粉の老化を抑制し、主として澱粉の老化に起因する穀類食品の品質の低下を良好に抑制し得る、穀類食品の品質低下抑制剤を提供することができる。」
・「【0013】
本発明の製造方法において、β-アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびマルトテトラオース生成酵素からなる群より選択される1種または2種以上の糖質加水分解酵素は、穀類食品1gあたりのこれらの酵素活性が、総活性量にして通常0.001ユニット(U)~2000U、好ましくは0.01U~200U、より好ましくは0.1U~20Uとなるように添加される。
なお、β-アミラーゼ活性は、でん粉糖化力測定法により測定することができ、pH=6.0~8.0、40℃で10分間反応させた際に、可溶性澱粉から1分間に1mgのブドウ糖に相当する還元力を生成する酵素量が、1Uと定義される。
また、グルコアミラーゼ活性は、グルコアミラーゼ測定法により測定することができ、pH=5.0、40℃の条件下で、可溶性澱粉から30分間に10mgのブドウ糖に相当する還元力を生成する酵素量が、1Uと定義される。
マルトテトラオース生成酵素活性は、ソモギー・ネルソン法により測定することができ、1分間に1μmolのブドウ糖に相当する還元糖を生成する酵素量が、1Uと定義される。
【0014】
本発明の製造方法において、糖転移酵素は穀類食品1gあたりの酵素活性が、総活性量にして通常0.000001U~1000U、好ましくは0.00001U~100U、より好ましくは0.0001U~10Uとなるように添加される。
糖転移酵素の酵素活性は、それぞれ公知の方法で測定することができ、たとえば、マルトトリオシル転移酵素の酵素活性は、4-α-グルカノトランスフェラーゼ力試験法により測定することができ、pH=6.5、40℃で60分間反応させた際に、マルトテトラオースから1分間に1μmolのブドウ糖を生成する酵素量が、1Uと定義される。
また、ブランチングエンザイムの酵素活性は、アミロースを使用したヨウ素反応法により測定することができ、pH=6.0~7.5、50℃で反応させた際に、1分間にブランク値の660nmにおける吸光度を0.05%低下させる酵素量が、1Uと定義される。
トランスグルコシダーゼの酵素活性は、マルトース分解力法により測定することができ、pH=5.0、40℃で、1分間に2μmolのブドウ糖を生成する酵素量が、1Uと定義される。」
・「【0018】
本発明の製造方法により製造された穀類食品は、穀類食品に含まれる澱粉の老化が抑制され、従来よりも低温(たとえば15℃~17℃程度)で、たとえば24時間~48時間保存された場合でも、食感等の品質が良好に保持される。
ここで、「澱粉の老化」とは、糊化した澱粉が冷却されることにより、澱粉が水を遊離して不溶の状態となる現象をいい、水中に分散したデンプン分子が再び結晶化することにより起こる。その結果、加工、調理された穀類食品の食感の低下、たとえば、咀嚼時の粘りの低下、硬くぼそぼそした食感となる等が認められる。
従って、本発明の製造方法により、澱粉の老化が抑制されるため、澱粉の老化に起因する上記したような食感の低下が良好に抑制される。
本発明の製造方法は、米飯および米飯を用いて製造される食品(寿司、おにぎり等)の製造において、特に好ましく適用される。」
・「【0020】
本発明の抑制方法により、穀類食品を従来よりも低温(たとえば15℃~17℃程度)にて、たとえば24時間~48時間保存した場合にも、穀類食品に含まれる澱粉の老化が抑制され、それに起因する穀類食品の食感等、品質の低下が良好に抑制される。
本発明の抑制方法は、米飯および米飯を用いて製造される食品(寿司、おにぎり等)において、特に好ましく適用される。」
・「【0028】
本発明の抑制剤は、穀類食品に含まれる澱粉の老化を抑制することができ、主として澱粉の老化に起因する穀類食品の食感等の品質の低下を、好適に抑制することができる。特に、本発明の抑制剤を用いることにより、従来よりも低温(たとえば15℃~17℃程度)にて、たとえば24時間~48時間穀類食品を保存した際にも、その品質の低下を良好に抑制することができる。
本発明の抑制剤は、米飯および米飯を用いて調理、加工等される食品(寿司、おにぎり等)の品質の低下を抑制するために、特に好ましく用いることができる。」
・「【実施例】
【0029】
以下、本発明について、実施例によりさらに詳細に説明する。
【0030】
[実施例1~5、比較例1~8]米飯の品質低下抑制剤、およびおにぎりの製造
冷蔵保存した米を洗米(20回とぎ、水を入れ換える操作を5回繰り返す)し、前記米400gに対し水540gを加え(加水率=135%)、20℃で1時間浸漬した後、3.5合炊き炊飯器にて炊飯した。
その際、表1および2に示す酵素製剤を、それぞれ米飯の品質低下抑制剤として添加した。なお、酵素製剤を添加せずに炊飯した米飯を対照とした。
炊飯後、米飯を23℃まで真空冷却し、おにぎり(80g/個)を作製して、通常の手巻き包材にて包装し、15℃で30時間保存した(n=2)。
使用した酵素製剤については、下記の通りである。
(i)β-アミラーゼ;「β-アミラーゼF「アマノ」」(天野エンザイム株式会社製)
(ii)マルトテトラオース生成酵素;「デナベイクEXTRA」(長瀬産業株式会社製)
(iii)グルコアミラーゼ;「酒造用グルコアミラーゼ「アマノ」SD」(天野エンザイム株式会社製)
(iv)マルトトリオシル転移酵素;「グライコトランスフェラーゼ「アマノ」L」(天野エンザイム株式会社製)
(v)ブランチングエンザイム;「ブランチングエンザイムA」(長瀬産業株式会社製)
(vi)トランスグルコシダーゼ;「α-グルコシダーゼL「アマノ」」(天野エンザイム株式会社製)
(vii)グルコースオキシダーゼ;「スミチームPGO」(新日本化学工業株式会社製)
(viii)トランスグルタミナーゼ;「アクティバ TG」(味の素株式会社製)
【0031】
保存したおにぎりを32才~37才のパネラー3名に喫食させ、その際の食感(米飯の老化性、すなわち米のみずみずしさ、やわらかさ、咀嚼中の粘りの低下の程度、および米の粒感)について官能評価させ、また、おにぎりの品質について総合評価を行わせた。評価結果は、下記評価基準に従って点数化させて、3名の平均値を求めた。
<評価基準>
(1)米飯の老化性
米飯の老化を感じない:5点
米飯の老化をほとんど感じない:4点
米飯の老化を少し感じる:3点
米飯の老化を強く感じる:2点
米飯の老化を非常に強く感じる:1点
(2)米の粒感
米の一粒一粒が立っている感じがある:5点
米の粒立ちを強く感じる:4点
米の粒立ちを感じる:3点
米の粒感が弱い:2点
米の粒感がなく、練られた感触がある:1点
(3)総合評価
よい:5点
ややよい:4点
普通:3点
やや悪い:2点
悪い:1点
【0032】
上記の評価結果は、パネラーの平均値にて、表1および2に併せて示した。
【0033】
【表1】
[図:0001386181000001.jpg]
【0034】
【表2】
[図:0001386181000002.jpg]
」
イ 甲1先願発明
甲1の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された事項を、請求項11を引用する請求項14及び請求項6を引用する請求項9について、段落【0013】及び【0014】の記載を参酌して整理すると、甲1の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲には次の発明(以下、「甲1先願抑制剤発明」及び「甲1先願抑制方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1先願抑制剤発明>
「β-アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびマルトテトラオース生成酵素からなる群より選択される1種または2種以上の糖質加水分解酵素と、マルトトリオシル転移酵素である糖転移酵素とを含有する、穀類食品の品質低下の抑制剤であって、糖質加水分解酵素の含有量が、穀類食品1gあたりの酵素活性が0.1U~20Uとなる量であり、マルトトリオシル転移酵素の含有量が、穀類食品1gあたりの酵素活性が、0.0001U~10Uとなる量である、抑制剤。」
<甲1先願抑制方法発明>
「β-アミラーゼ、グルコアミラーゼおよびマルトテトラオース生成酵素からなる群より選択される1種または2種以上の糖質加水分解酵素と、マルトトリオシル転移酵素である糖転移酵素とを、穀類食品に添加することを含む、穀類食品の品質低下の抑制方法であって、グルコアミラーゼが、穀類食品1gあたりの酵素活性が、0.1U~20Uとなるように添加され、マルトトリオシル転移酵素が、穀類食品1gあたりの酵素活性が、0.0001U~10Uとなるように添加される、米飯および米飯を用いて製造される食品に好ましく用いられる穀類食品の品質低下の抑制方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1先願抑制剤発明を対比する。
甲1先願抑制剤発明の「穀類食品の品質低下の抑制剤」は、本件特許発明1における「米飯用品質保持剤」に相当する。
甲1先願抑制剤発明の「マルトトリオシル転移酵素である糖転移酵素」は、本件特許発明1の「α-グルコシルトランスフェラーゼ」と、グルコシダーゼである限りで相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「グルコシダーゼおよびグルコアミラーゼを含有する、
米飯用品質保持剤。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1-1>
グルコシダーゼに関して、本件特許発明1は「α-グルコシトランスフェラーゼ」と特定するとともに、「グルコアミラーゼ」及び「グルコシダーゼ」(α-グルコシルトランスフェラーゼ)の配合量に関して、本件特許発明1においては、「生米100gに対して」「10~900U」及び「30~500U」と特定するのに対し、甲1先願抑制剤発明においては、生米100gに対応させると「10~2000U」及び「0.01~1000U」である点
イ 判断
上記相違点1-1について検討する。
「α-グルコシトランスフェラーゼ」と「マルトトリオシル転移酵素である糖転移酵素」は、その概念として同じでないと解される。
この点について、本件特許明細書において「α-グルコシトランスフェラーゼ」として具体的に用いられているものは「グライコトランスフェラーゼ「アマノ」」である。また、「グライコトランスフェラーゼ「アマノ」」は、「マルトトリオシル転移酵素である糖転移酵素」としても知られているものである。
しかし、これらの事実からは、「グライコトランスフェラーゼ「アマノ」」が「α-グルコシトランスフェラーゼ」と「マルトトリオシル転移酵素である糖転移酵素」の両方の概念に適合することが認められる、すなわち、「α-グルコシトランスフェラーゼ」と「マルトトリオシル転移酵素である糖転移酵素」の概念が一部重複することが認められるにすぎない。
したがって、「α-グルコシトランスフェラーゼ」と「マルトトリオシル転移酵素である糖転移酵素」とは、実質的に相違するものであり、相違点1-1は実質的な相違点である。
仮に、この点で実質的に相違するものではないといえるとしても、甲1先願抑制剤発明における配合量の範囲は、本件特許発明1の範囲を包含しているものの、本件特許発明1の範囲より広いものであるから、いずれにしても相違点1-1は実質的な相違点である。
なお、甲1に具体的に記載されている実施例について検討しても、実施例2としてグルコアミラーゼを100gあたり1380U、本件特許明細書において実施例に利用されているグライコトランスフェラーゼ「アマノ」(「α-グルコシルトランスフェラーゼ」に相当する)を20U配合したものが記載されているが、その配合量は本件特許発明1の数値範囲外である。
そして、本件特許発明1は、相違点1-1に係る構成を有することで「炊飯後の米飯を冷蔵保存した後でも米の粒感を保持しながら、柔らかさにも優れ」たものを提供できるという格別な効果を奏するものであり、相違点1-1は、課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は甲1先願抑制剤発明と同一であるとはいえない。
(3)本件特許発明5について
ア 対比・判断
本件特許発明5と甲1先願抑制方法発明を対比するに、両者は、上記(2)と同様の相違点を有するといえる。そして、当該相違点は、上記で検討のとおり実質的なものである。
イ まとめ
したがって、本件特許発明5は甲1先願抑制方法発明と同一であるとはいえない。
(4)申立理由1のまとめ
したがって、本件特許の請求項1及び5に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1及び5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するものであるとはいえない。申立理由1には理由がない。
2 申立理由2(甲2に基づく進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「米飯の改質剤」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
グルコアミラーゼ及びα-グルコシダーゼを含有する穀類食品改質剤。
・・・
【請求項3】
穀類食品が米飯である請求項1又は2に記載の改質剤。
・・・
【請求項5】
グルコアミラーゼ及びα-グルコシダーゼを穀類に接触させる工程を含む穀類食品の製造方法。
・・・
【請求項10】
穀類が米である請求項5~9のいずれか1項に記載の方法。」
・「発明が解決しようとする課題
[0006] 本発明は、米飯類の老化を抑制し保水性を高めた米飯類を提供し、炊飯時の焦げつき等を防止しほぐれやすく成型性に優れた米飯類を提供することを目的とする。」
・「[0025] 本発明において、グルコアミラーゼの接触(添加)量は、穀類100g(米飯食品の場合、原料生米100g)に対して酵素活性が通常0.1~10000U、好ましくは1~1000U、より好ましくは10~500Uに該当する量である。この範囲であれば穀類食品の老化を抑制し保水性を高め、時間経過後も良好な食感を保持できる。尚、酵素量が極微量の場合は、計量可能な濃度の酵素溶液を調製し、その溶液を希釈して添加すればよい。」
・「[0026] 本発明の方法において、α-グルコシダーゼの接触(添加)量は、穀類100g(米飯食品の場合、原料生米100g)に対して酵素活性が通常10~1000000U、好ましくは100~100000U、より好ましくは1000~100000U、さらに好ましくは1000~10000Uに該当する量である。この範囲であれば穀類食品の老化を抑制し保水性を高め、時間経過後も良好な食感を保持できる。」
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、請求項1を引用する請求項3及び請求項5を引用する請求項10について、段落[0025]及び[0026]の記載を参酌して整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2改質剤発明」及び「甲2製造方法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2改質剤発明>
「グルコアミラーゼおよびα-グルコシダーゼを含有する米飯の改質剤であって、グルコアミラーゼの接触(添加)量が、原料生米100gに対して酵素活性が10~500Uに該当する量であり、α-グルコシダーゼの含有量が、原料生米100gに対して酵素活性が1000~100000Uに該当する量である、改質剤。」
<甲2製造方法発明>
「グルコアミラーゼおよびα-グルコシダーゼを米に接触させる工程を含む改質された米飯食品の製造方法であって、グルコアミラーゼの接触(添加)量が、原料生米100gに対して酵素活性が10~500Uに該当する量であり、α-グルコシダーゼの接触(添加)量が、 原料生米100gに対して酵素活性が1000~100000Uに該当する量である、製造方法。」
(3)甲3及び甲4に記載の事項
ア 甲3には、「マルトトリオシル転移酵素の新規用途」に関して、以下の記載がある。
・「請求の範囲
・・・
[請求項17] マルトトリオシル転移酵素が以下の酵素化学的性質を備える、請求項1~16のいずれか一項に記載の製造方法:
α-1,4グルコシド結合を有する多糖類及びオリゴ糖類に作用し、マルトトリオース単位を糖類に転移させる活性を有する酵素であって、マルトテトラオースを基質として作用させた場合、基質濃度が0.67%(w/v)~70%(w/v)の全範囲において、マルトヘプタオース生成速度とマルトトリオース生成速度の比が9:1~10:0となる。
[請求項18] 前記マルトトリオシル転移酵素が、微生物由来の酵素である、請求項1~17のいずれか一項に記載の製造方法。
[請求項19] 前記マルトトリオシル転移酵素が、ジオバチルス属の微生物由来の酵素である、請求項1~17のいずれか一項に記載の製造方法。
[請求項20] 前記ジオバチルス属の微生物がジオバチルス・エスピー APC9669(受託番号 NITE BP-770)である、請求項19に記載の製造方法。」
・「[0018](2)基質特異性
本酵素は可溶性デンプン、アミロース、アミロペクチン、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースに良好に作用する。これに対して、α-サイクロデキストリン、β-サイクロデキストリン、γ-サイクロデキストリン、マルトトリオース、マルトースには作用しない。」
・「[0020](4)至適温度
本酵素の至適温度は約50℃である。本酵素は約45℃~約55℃において高い活性を示す。至適温度は、後述のマルトトリオシル転移酵素活性測定方法(10mmol/L MES緩衝液(pH6.5)中)による測定で算出された値である。
[0021](5)至適pH
本酵素の至適pHは約7.5である。本酵素はpH約6.5~約8.0において高い活性を示す。至適pHは、例えば、ユニバーサル緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
[0022](6)温度安定性
本酵素は65℃以下で安定した活性を示す。10mmol/L MES緩衝液(pH6.5)中、65℃の条件で30分間処理しても、本酵素は90%以上の活性を維持する。
「0023](7)pH安定性
本酵素はpH5.0~10.0という広いpH域で安定した活性を示す。即ち、処理に供する酵素溶液のpHがこの範囲内にあれば、40℃、30分間の処理後、85%以上の活性を維持する。
[0024](8)等電点
本酵素の等電点は約4.5(アンフォライン含有電気泳動法による)である。」
イ 甲4には、「マルトトリオシル転移酵素及びその製造方法並びに用途」に関して、以下の記載がある。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-1,4グルコシド結合を有する多糖類及びオリゴ糖類に作用し、マルトトリオース単位を糖類に転移させる活性を有する酵素であって、マルトテトラオースを基質として作用させた場合、基質濃度が0.67%(w/v)~70%(w/v)の全範囲において、マルトヘプタオース生成速度とマルトトリオース生成速度の比が9:1~10:0となる、ジオバチルス・エスピー APC9669(受託番号 NITE BP-770)由来のマルトトリオシル転移酵素。」
・「【0015】
(2)基質特異性
本酵素は可溶性デンプン、アミロース、アミロペクチン、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースに良好に作用する。これに対して、α-サイクロデキストリン、β-サイクロデキストリン、γ-サイクロデキストリン、マルトトリオース、マルトースには作用しない。
【0016】
(3)分子量
本酵素の分子量は約83,000(SDS-PAGEによる)である。
【0017】
(4)至適温度
本酵素の至適温度は約50℃である。本酵素は約45℃~約55℃において高い活性を示す。至適温度は、後述のマルトトリオシル転移酵素活性測定方法(10mmol/L MES緩衝液(pH6.5)中)による測定で算出された値である。
【0018】
(5)至適pH
本酵素の至適pHは約7.5である。本酵素はpH約6.5~約8.0において高い活性を示す。至適pHは、例えば、ユニバーサル緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
【0019】
(6)温度安定性
本酵素は65℃以下で安定した活性を示す。10mmol/L MES緩衝液(pH6.5)中、65℃の条件で30分間処理しても、本酵素は90%以上の活性を維持する。
【0020】
(7)pH安定性
本酵素はpH5.0~10.0という広いpH域で安定した活性を示す。即ち、処理に供する酵素溶液のpHがこの範囲内にあれば、40℃、30分間の処理後、85%以上の活性を維持する。
【0021】
(8)等電点
本酵素の等電点は約4.5(アンフォライン含有電気泳動法による)である。」
・「【0067】
(マルトトリオシル転移酵素の用途)
本発明の更なる局面はマルトトリオシル転移酵素(本酵素)の用途として食品の製造・加工方法を提供する。本発明の製造・加工方法ではα-1,4グルコシド結合を有する多糖類及び/又はオリゴ糖類を含む食品又は食品原料に本酵素を作用させ、当該食品の機能性を改善する。食品の例としてはパン、米飯、餅を挙げることができる。食品原料の例としては各種デンプン、アミロース、アミロペクチン、マルトオリゴ糖を含む原料を挙げることが出来る。原料の純度は特に限定されず、他の物質と混在した状態の原料に対して本酵素を作用させることにしてもよい。また、二種以上の原料に対して同時に本酵素を作用させることにしてもよい。」
・「【0084】
4.炊飯
米75gを水洗後、水150mL、またはこの材料にマルトトリオシル転移酵素40uを添加したものを2時間室温に静置して後、定法によりと炊飯して飯米を得た。得られた炊飯米を4℃で7日間保存した。保存前後の糊化度をBAP法で測定した。BAP法による糊化度は、酵素添加区は炊飯直後96.6%、7日後69.5%であった(表6)。それに対して、無添加区は炊飯直後95.3%、7日後59.7%であった。酵素添加区では糊化度の低下が抑制、即ち、デンプンの老化の進行が抑制された。」
・「【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のマルトトリオシル転移酵素は優れた耐熱性を示し、高温下での反応が望まれる用途に好適である。本発明のマルトトリオシル転移酵素を用いれば、雑菌汚染のおそれの少ない高温下で酵素反応を実施することができる。また、デンプン含有食品に作用させた場合、デンプン老化抑制効果が認められる。従って、本発明のマルトトリオシル転移酵素は食品加工等の用途に特に有用である。」
(4)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2改質剤発明を対比するに、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「グルコアミラーゼを含有する、
米飯用品質保持剤。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2-1>
米飯用品質保持剤に関し、本件特許発明1は、さらに「α-グルコシルトランスフェラーゼ」を配合するものであるのに対し、甲2改質剤発明は、「α-グルコシダーゼ」を含有するものである点
<相違点2-2>
「グルコアミラーゼ」及び「α-グルコシルトランスフェラーゼ」の配合量に関して、本件特許発明1は、「生米100gに対して」「10~900U」及び「30~500U」と特定するのに対し、甲2改質剤発明は、「グルコアミラーゼ」の配合量は関して、「原料生米100gに対して、10~500U」である点
イ 判断
上記相違点2-1及び2-2について合わせて検討する。
甲4には、「マルトトリオシル転移酵素」が澱粉の老化を抑制する効果を奏することが記載され、具体的な実施例において、米75gに対してマルトトリオシル転移酵素を40U(米100gあたり53.3U)添加しているものが記載されているが、甲4に記載の「マルトトリオシル転移酵素」が、本件明細書において「α-グルコシトランスフェラーゼ」の一例とされている国際公開第2012/105532号に記載のα-グルコシトランスフェラーゼであるかどうか、特許異議申立人が提示する甲3の記載をみても明らかでない。
仮に、甲4のマルトトリオシル転移酵素がα-グルコシトランスフェラーゼであるといえるとしても、甲2改質剤発明は「米飯類の老化を抑制し保水性を高めた米飯類を提供し、炊飯時の焦げつき等を防止しほぐれやすく成型性に優れた米飯類を提供することを目的」としているものであるから、さらに、「マルトトリオシル転移酵素」を加えることまでは容易といえるかもしれないが、相違点2-2に係る「グルコアミラーゼ」及び「α-グルコシルトランスフェラーゼ」の配合量を相違点2-2に係る範囲とすることで、本件特許発明1は、「炊飯後の米飯を冷蔵保存した後でも米の粒感を保持しながら、柔らかさにも優れる」ものとできるという格別な効果を奏するものであって、具体的な実施例によりその効果が確認されていることから、当業者においても、相違点2-2においての各成分の数値範囲を特定の値とすることまで容易に想到し得たということはできない。
ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲2改質剤発明、甲3及び甲4に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2改質剤発明、甲3及び甲4に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件特許発明5について
ア 対比・判断
本件特許発明5と甲2製造方法発明を対比するに、上記(4)と同様の相違点を有し当該相違点に係る構成が想到容易といえないのは上記(4)で検討のとおりである。
イ まとめ
したがって、本件特許発明5は、甲2製造方法発明、甲3及び甲4に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)本件特許発明6及び7について
本件特許発明6及び7は、いずれも、請求項5を直接又は間接的に引用するものであって、請求項5に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明5と同様に、甲2製造方法発明、甲3及び甲4に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(8)申立理由2のまとめ
したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するものであるとはいえない。申立理由2には理由がない。
第5 むすび
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700147