特許異議申立
2023-701120
物品の製造方法、接着剤組成物および発泡性接着シート
- 審判番号
- 2023-701120
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-013964
- 登録番号
- 7280986
- 請求日
- 2023年10月20日
- 審決日
- 2024年03月12日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】山下 昭彦
- 【権利者代理人】岸本 達人
- 【異議申立人】株式会社 クレス
- 審判長/審判官
- 審判長 亀ヶ谷 明久
- 審判官 塩見 篤史
- 審判官 安積 高靖
- 分類
- P1651.113-Y (C09J) / P1651.121-Y (C09J) / P1651.14 -Y (C09J) / P1651.16 -Y (C09J) / P1651.536-Y (C09J) / P1651.537-Y (C09J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条の2、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7280986号発明「物品の製造方法、接着剤組成物および発泡性接着シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7280986号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7280986号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和4年2月1日の出願であって、令和5年5月16日に特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年同月24日に特許掲載広報が発行された。その後、令和5年10月20日(差出日)に特許異議申立人である株式会社クレス(以下「申立人」という。)により、請求項1~5について特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明と本件明細書等の記載
1 本件特許の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
第一部材および第二部材の間に、熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物を配置する配置工程と、
前記接着剤組成物を加熱して発泡硬化させ、前記第一部材および前記第二部材を接着する接着工程と、
を有する物品の製造方法であって、
前記発泡剤は、熱膨張性マイクロカプセルであり、
前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをAとし、
前記接着剤組成物に対して、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをBとしたとき、A<Bであり、
前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの頂点の時間をT1とし、
前記接着剤組成物から前記発泡剤を除いた組成物に対して、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの頂点の時間をT2としたとき、前記接着工程では、T1<T2となるように、前記接着剤組成物を加熱する、物品の製造方法。
【請求項2】
前記接着工程での加熱温度が、前記発泡剤の最大発泡温度の±20℃の範囲内である、請求項1に記載の物品の製造方法。
【請求項3】
前記配置工程では、前記接着剤組成物を含有する接着層を有する発泡性接着シートを用い、前記第一部材および前記第二部材の間に、前記発泡性接着シートを配置する、請求項1または請求項2に記載の物品の製造方法。
【請求項4】
熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物であって、
前記発泡剤は、熱膨張性マイクロカプセルであり、
前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをCとし、
前記接着剤組成物に対して、前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをDとしたとき、C<Dであり、
前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの頂点の時間をT1とし、
前記接着剤組成物から前記発泡剤を除いた組成物に対して、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの頂点の時間をT2としたとき、T1<T2となるように加熱して用いられる、接着剤組成物。
【請求項5】
接着層を有する発泡性接着シートであって、
前記接着層が、請求項4に記載の接着剤組成物を含有する、発泡性接着シート。」
2 本件特許の願書に添付した明細書及び図面(以下「本件明細書等」という。)には、次の記載がある。
「【0007】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、接着強度を向上させることが可能な物品の製造方法、ならびにそれに用いられる接着剤組成物および発泡性接着シートを提供することを主目的とする。」
「【0011】
本開示における物品の製造方法は、接着強度を向上させることが可能であるという効果を奏する。」
「【0022】
本開示においては、A<Bであることにより、発泡剤の収縮が進行する前に、熱硬化性樹脂の硬化反応を進行させ、熱硬化性樹脂を十分に硬化させることができる。そのため、発泡時の接着層の厚さを維持することができ、接着強度を向上させることができる。
【0023】
一方、A≦Bである場合には、熱硬化性樹脂の硬化反応が進行する前に、発泡剤の収縮が進行してしまう。そのため、発泡時の接着層の厚さを維持することができず、接着強度が低下する可能性がある。」
「【0025】
本開示においては、接着工程では、T1<T2となるように、接着剤組成物を加熱することにより、熱硬化性樹脂の硬化反応が進行する前に、発泡剤の膨張を進行させ、発泡剤を十分に膨張させることができる。そのため、発泡時の接着層の厚さを厚くすることができ、接着強度を向上させることができる。
【0026】
一方、T1≧T2である場合には、発泡剤の膨張が進行する前に、熱硬化性樹脂の硬化反応が進行してしまう。そのため、発泡剤の膨張が阻害され、発泡時の接着層の厚さが薄くなり、接着強度が低下する可能性がある。
【0027】
このように本開示においては、接着剤組成物が、A<Bを満たしており、かつ、接着工程では、T1<T2となるように、接着剤組成物を加熱することにより、接着強度を向上させることができる。したがって、本開示における物品の製造方法により得られる物品の信頼性や耐久性等を向上させることが可能である。」
「【0045】
接着剤組成物においては、A<Bである。中でも、BはAより非常に大きいことが好ましい。傾きBが大きい場合には、熱硬化性樹脂の硬化速度が速くなる。また、傾きAが小さい場合には、発泡剤の収縮速度が遅くなる。そのため、BがAより非常に大きい場合には、発泡剤の収縮が進行する前に、熱硬化性樹脂を十分に硬化させることができ、接着強度を向上させることができる。
【0046】
接着剤組成物においては、例えば、発泡剤である熱膨張性マイクロカプセルのシェルの厚さを調整することにより、傾きAを制御することができる。具体的には、熱膨張性マイクロカプセルのシェルの厚さが厚いと、傾きAが小さくなる傾向にある。一方、熱膨張性マイクロカプセルのシェルの厚さが薄いと、傾きAが大きくなる傾向にある。
【0047】
また、接着剤組成物においては、例えば、接着剤組成物の組成を調整することにより、傾きBを制御することができる。例えば、接着剤組成物が硬化剤をさらに含有する場合には、傾きBが大きくなる傾向にある。また、例えば、接着剤組成物が硬化剤および硬化触媒をさらに含有する場合には、傾きBがより大きくなる傾向にある。また、例えば、接着剤組成物が多官能の熱硬化性樹脂を含有する場合には、傾きBが大きくなる傾向にある。」
「【0120】
接着工程においては、例えば、室温から加熱温度までの昇温時間を調整することにより、発泡剤についての発泡率-時間曲線における、ピークの頂点の時間T1と、接着剤組成物から発泡剤を除いた組成物についてのDSC曲線における、発熱ピークの頂点の時間T2とを制御することができる。具体的には、室温から加熱温度までの昇温時間が短いと、T1がT2よりも短時間側になる傾向にある。一方、室温から加熱温度までの昇温時間が長いと、T1がT2よりも長時間側になる傾向にある。」
「【0159】
接着剤組成物においては、C<Dである。CおよびDの関係については、上記「A.物品の製造方法」に記載した、AおよびBの関係と同様である。
【0160】
また、傾きCを制御する方法は、上記「A.物品の製造方法」に記載した、傾きAを制御する方法と同様である。
【0161】
また、傾きDを制御する方法は、上記「A.物品の製造方法」に記載した、傾きBを制御する方法と同様である。」
「【0174】
[製造例1~3]
まず、下記表1に示す組成の接着剤組成物1~3を準備した。また、表1に記載した各材料の詳細を下記に示す。なお、表1中の単位は「質量部」である。
【0175】
・アクリル樹脂:PMMA-PBuA-PMMA(一部にアクリルアミド基)、Tg:-20℃、120℃、Mw:150,000
・エポキシ樹脂A:ビスフェノールAノボラック型、常温固形、軟化温度:70℃、エポキシ当量:210g/eq、Mw:1300、150℃での溶融粘度:0.5Pa・s
・エポキシ樹脂B:BPAフェノキシ型、常温固形、軟化温度:110℃、エポキシ当量:8000g/eq、Mw:50,000
・硬化剤A:α-(ヒドロキシ(又はジヒドロキシ)フェニルメチル)-ω-ヒドロポリ[ビフェニル-4,4’-ジイルメチレン(ヒドロキシ(又はジヒドロキシ)フェニレンメチレン)]
・硬化触媒:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、平均粒子径:3μm、融点:230℃、反応開始温度145℃~155℃、活性領域155℃~173℃(四国化成工業社製、2PHZ-PW)
・発泡剤:熱膨張性マイクロカプセル、平均粒径10μm~16μm、膨張開始温度123℃~133℃、最大膨張温度168℃~178℃、コア:炭化水素、シェル:熱可塑性高分子
・溶剤:メチルエチルケトン
【0176】
【表1】
[図:0001409145000001.jpg]
【0177】
離型フィルム(PETセパレータ、ニッパ社製、PET50×1-J2、厚さ50μm)を用いた。上記離型フィルムの剥離処理面に、上記接着剤組成物を、塗工後の厚さが45μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布した。その後、オーブンにて100℃で3分間乾燥させて、接着層を形成し、発泡性接着シートを得た。」
「【0182】
【表2】
[図:0001409145000002.jpg]
【0183】
[製造例4]
まず、下記組成の接着剤組成物4を準備した。
【0184】
<接着剤組成物4の組成>
・アクリル樹脂(PMMA-PBuA-PMMA(一部にアクリルアミド基)、Tg:-20℃、120℃、Mw:150,000):40質量部
・エポキシ樹脂C(ビスフェノールA型、常温液状、エポキシ当量:184~194g/eq):45質量部
・エポキシ樹脂D(ジアミノジフェニルメタン型、高粘調液体、エポキシ当量:110~130g/eq):65質量部
・エポキシ樹脂E(シリコーン変性、エポキシ当量:1200g/mol):20質量部
・シランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン):2質量部
・硬化剤B(フェノール・ホルムアルデヒド重縮合物 軟化点80℃、水酸基当量104g/mol):6質量部
・硬化触媒(2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、平均粒子径:3μm、融点:230℃、反応開始温度145℃~155℃、活性領域155℃~173℃(四国化成工業社製、2PHZ-PW)):10質量部
・発泡剤:熱膨張性マイクロカプセル、平均粒径10μm~16μm、膨張開始温度123℃~133℃、最大膨張温度168℃~178℃、コア:炭化水素、シェル:熱可塑性高分子:20質量部
・溶剤(メチルエチルケトン):114質量部
【0185】
基材として、ポリエチレンナフタレート(PENフィルム、東洋紡フィルムソリューション社製、テオネックスQ51、厚さ25μm)を用いた。上記基材の一方の面に、上記製造例1で用いた接着剤組成物1を、塗工後の厚さが45μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布した。その後、オーブンにて100℃で3分間乾燥させて、第一接着層を形成した。
【0186】
次に、第二セパレータとして、離型フィルム(PETセパレータ、ニッパ社製、PET50×1-J2、厚さ50μm)を用い、離型フィルムの離型処理面に、上記接着剤組成物4を、塗工後の厚さが45μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布した。その後、オーブンにて100℃で3分間乾燥させて、第二接着層を形成した。
【0187】
次に、基材および第一接着層を有する積層体の基材側の面に、第二セパレータおよび第二接着層を有する積層体の第二接着層側の面をラミネートした。これにより、第一接着層、基材、第二接着層および第二セパレータがこの順に配置された発泡性接着シートを得た。」
「【0192】
【表3】
[図:0001409145000003.jpg]
【0193】
表2および表3より、A<Bであり、かつ、接着工程では、T1<T2となるように、接着剤組成物を加熱する場合には、接着強度が向上することが確認された。」
第3 申立の理由及び証拠方法
申立人は、請求項1~5に係る発明の特許を取り消すべきであると主張し、その理由として、後記1の申立ての理由を主張し、また、後記2の証拠方法を提出している。
また、申立ての理由3は、主たる刊行物等として甲第2号証、甲第3号証又は甲第4号証を引用するものである。
1 申立ての理由
(1)申立ての理由1(甲第1号証に基づく拡大先願違反)
本件発明1~5は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後に公開がされた下記の特許出願に最初に添付した明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者がその出願前の上記特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないから、本件特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立ての理由2-1(甲第2号証に基づく新規性欠如)
本件発明4、5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号の発明に該当するから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(3)申立ての理由2-2(甲第3号証に基づく新規性欠如)
本件発明4、5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号の発明に該当するから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(4)申立ての理由2-3(甲第4号証に基づく新規性欠如)
本件発明4、5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号の発明に該当するから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(5)申立ての理由3-1(甲第2号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~5は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その出願前日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(6)申立ての理由3-2(甲第3号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~5は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その出願前日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(7)申立ての理由3-3(甲第4号証を主引用例とする進歩性欠如)
本件発明1~5は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、その出願前日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(8)申立ての理由4(発明該当性違反)
本件発明1~5は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないから、特許法第29条第1項柱書の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(9)申立ての理由5(実施可能要件違反)
本件明細書等の記載は、当業者が本件発明1~5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないため、本件発明1~5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(10)申立ての理由6(サポート要件違反)
本件発明1~5は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるため、本件発明1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2 証拠方法
申立人は、次の甲第1号証~甲第5号証を提出した。甲第1号証~甲第5号証を、以下「甲1」~「甲5」ともいう。
甲第1号証:特願2020-138810号(特開2022-34889号)
甲第2号証:特開平5-186625号公報
甲第3号証:特許第6223477号公報
甲第4号証:特許第7294023号公報
甲第5号証:スリーボンド・テクニカルニュース,“反応性接着剤の分析装置を用いた硬化度合い評価方法”,スリーボンドファインケミカル株式会社,平成27年7月1日発行,Vol.86,p.1-8
第4 当審の判断
1 証拠の記載事項
(1) 甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
シート状基材と、該シート状基材の片面または両面に設けられた発泡性接着層とを含む加熱発泡シートであって、
前記発泡性接着層が、前記加熱発泡シートの少なくとも一方の最外層であり、
前記発泡性接着層が、エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂および発泡剤を含み、
前記発泡性接着層の最外表面における算術平均粗さRaが、0.4μm以上である、加熱発泡シート。」
「【請求項9】
前記発泡剤が、熱膨張性マイクロカプセルを含み、
前記熱膨張性マイクロカプセルが、エポキシ樹脂、硬化剤および熱可塑性樹脂の中に分散している、請求項1~8のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。」
「【請求項11】
前記発泡性接着層の発泡開始温度が、前記発泡性接着層の硬化反応における硬化活性温度以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。
【請求項12】
前記発泡性接着層の硬化過程において、前記発泡性接着層の発泡開始温度から前記発泡性接着層の硬化挙動における硬化活性温度までの温度範囲に、前記エポキシ樹脂の粘度が最低となる最低粘度温度がある、請求項1~11のいずれか1項に記載の加熱発泡シート。」
「【請求項15】
第1の被着体および第2の被着体の間に請求項1~13のいずれか1項に記載の加熱発泡シートを配置し、
両被着体の隙間を発泡によって充填することにより、前記第1の被着体および第2の被着体を接着する接着方法。」
「【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、被着体間の隙間を適切に接着することが可能な加熱発泡シートの提供を目的とする。また、本発明は、上記加熱発泡シートを利用した接着方法の提供を目的とする。」
「【0017】
本発明の加熱発泡シートは、加熱によって膨張(発泡)する発泡性接着層20を有するため、初期設計において被着体間の隙間よりも発泡性接着層の厚さを薄くすることが可能である。また、本発明の加熱発泡シートは、最外表面の表面粗さRaが0.4μm以上であることにより、当該表面と物体との接触が点接触となり、摩擦抵抗が減少する。したがって、加熱発泡シートが被着体間の隙間に挿入される等、加熱発泡シートを用いた接着作業中に加熱発泡シートが被着体表面に沿って滑り移動を伴う場合に、加熱発泡シートが被着体と接触する機会が減少し、かつ接触が生じても加熱発泡シートが受ける外力(摩擦抵抗)が減少するため、加熱発泡シート(特に、発泡性接着層)のシワやバラツキの発生を抑制することができ、作業性が向上する。そして、被着体の接着時には、加熱による膨張により、被着体間の隙間を充填する。このとき、発泡の開始とともに接着層の嵩体積が増加するが、発泡がピークを越えると、その嵩体積は減少に転じてしまい、充分な接着力が得られない場合がある。本発明では、硬化剤を使用して、発泡後、嵩体積が増大した適切なタイミングで樹脂を硬化させることにより、高い充填性を確保している。
【0018】
例えば、大小の2本のパイプを嵌合によって接続する場合には、大きい方のパイプの内表面あるいは小さい方のパイプの外表面に本発明の加熱発泡シートを貼り付け、これらのパイプを嵌合し、加熱して発泡性接着層を発泡させてパイプ間の隙間を充填するといった接着方法が可能である。本明細書において、「嵌合」は、一方の被着体が他方の被着体に収容されて接続される形態を広く含む。」
「【0044】
熱膨張性マイクロカプセルを含む発泡性接着層の発泡開始温度は、エポキシ樹脂の軟化点以上であることが好ましい。発泡性接着層の発泡開始温度は、例えば、熱機械分析(TMA)装置により測定した温度と試料の膨張量との関係から、熱膨張性マイクロカプセルの発泡に伴って発泡性接着層の膨張が始まった温度として求めることができる。この発泡開始温度がエポキシ樹脂の軟化点以上であれば、柔らかくなったエポキシ樹脂の中で熱膨張剤を十分に膨張でき、発泡後の発泡性接着層の厚さを均一にすることができる。また、発泡性接着層の発泡開始温度は、発泡性接着層の硬化挙動における硬化活性温度以下であることが好ましい。発泡性接着層の硬化挙動における硬化活性温度は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)装置により測定した温度と硬化反応の発熱エネルギーとの関係から、発熱ピークを示す温度として求めることができる。この発泡開始温度が硬化活性温度以下であれば、発泡前にエポキシ樹脂が硬化することを防止できる。さらに、エポキシ樹脂の軟化点を硬化活性温度以下とすることにより、加熱発泡シートの製造工程に溶融または溶液の塗布工程が含まれる場合に、これらの塗布工程およびそれに伴う乾燥工程中にエポキシ樹脂がゲル化することを防止できる。」
「【0046】
さらに、発泡性接着層の硬化過程において、発泡性接着層の発泡開始温度から発泡性接着層の硬化挙動における硬化活性温度までの温度範囲に、エポキシ樹脂の粘度が最低となる最低粘度温度があることが好ましい。エポキシ樹脂の粘度が最低となる最低粘度温度は、例えば、粘弾性測定装置により測定した温度と樹脂試料の溶融粘度(複素粘度)との関係から、複素粘度曲線のオフピークを示す温度として求めることができる。例えば、図2は、所定の発泡性接着層について、発泡開始温度、最低粘度温度および硬化活性温度の関係を示すグラフである。図2において、温度aは、試料(発泡性接着層)のTMA曲線から求めた発泡開始温度(135℃)であり、温度bは、試料(発泡性接着層中のエポキシ樹脂)の複素粘度曲線から求めた最低粘度温度(192℃)であり、温度cは、同様に用意した試料(発泡性接着層)のDSC曲線から求めた硬化活性温度(210℃)である。最低粘度温度が上記発泡開始温度から上記硬化活性温度までの温度範囲にあることにより、発泡性接着層の発泡開始後、発泡性接着層の硬化が活性化する前の段階で、エポキシ樹脂の粘度が充分に低下しているため、エポキシ樹脂が発泡性接着層の発泡を阻害せず、良好な発泡倍率が得られる。」
「【0054】
<加熱発泡シートを使用した接着方法>
本発明の接着方法は、第1の被着体および第2の被着体の間に上述した加熱発泡シートを配置し、両被着体の隙間を発泡によって充填することにより、第1の被着体および第2の被着体を接着する。」
「【0072】
<<発泡開始温度T1_TMA>>
熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、TMA7100)を使用し、接着シートから取り出した発泡性接着層をアルミセルに入れて、昇温速度50℃/min、温度範囲30℃~300℃および荷重-49mNの条件にて測定し、得られたTMA曲線において膨張挙動が開始した温度を発泡性接着層の発泡開始温度T1とした。
【0073】
<<硬化活性温度T2_DSC>>
示差走査熱量測定装置(日立ハイテクサイエンス社製、DSC7000X)を使用し、接着シートから取り出した発泡性接着層をサンプルとして、昇温速度50℃/minおよび温度範囲0℃~300℃の条件にて測定し、得られたDSC曲線において発熱ピークのトップ温度を硬化活性温度T2とした。」
「【0084】
<評価6>
本項では、発泡剤の種類(発泡開始温度の違い)によるシート特性への影響を評価した。発泡開始温度T1と最低粘度温度Tαの差が小さいと、せん断接着力が低下することが分かった。なお、昇温速度が低下した際に、T1、T2、Tαの関係性が変わることを確認している。
【表8】
[図:0001409145000004.jpg]
」
「
[図:0001409145000005.jpg]
」
(2)甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 軟化点50~100℃の樹脂からなる形状保持材と常温で液状ないし半固形状のエポキシ樹脂とアミンの炭酸塩を必須成分とし、かつ樹脂分全量に対して該アミンの炭酸塩を10~100重量パーセント配合したことを特徴とする加熱発泡性シート組成物。」
「【0002】
【従来の技術】従来から加熱によって発泡硬化する加熱発泡シートとしては種々知られており、硬化成分としてエポキシ樹脂(化合物を包含する)を用いたものも自動車分野等で広く用いられている。従来知られたエポキシ系の加熱発泡性シート組成物としては、エポキシ樹脂と潜在性硬化剤とからなる系に、アゾジカルボンアミド、トルエンスルフォニルヒドラジド等の有機発泡剤や重炭酸ナトリウム等の無機発泡剤、高温膨張型マイクロカプセルのごとき発泡剤を配合したものが主に用いられている。
【0003】しかしながら、これら従来品は硬化剤と発泡剤の両方を配合しているため、加熱により発泡硬化させるに際し、発泡と硬化のバランスをとることが難しいという欠点を有した。即ち、発泡が硬化より速すぎればガス抜けや、マイクロカプセルの収縮がおこり、十分な発泡倍率が得られず、逆に硬化が発泡より速すぎれば、十分に発泡する前に硬化してしまうことになり、十分な発泡倍率が得られないという問題点があった。」
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、発泡と硬化のバランスが良く、加熱することにより短時間で良好に発泡硬化する加熱発泡性シート組成物を提供することにある。」
「【0010】アミンの炭酸塩は、通常はエポキシ樹脂と当量を合わせて配合されるが、発泡剤として使用するため、樹脂分全量に対して発泡倍率に応じて10~100重量パーセント配合される。10重量パーセント未満では発泡剤としての効果がなく、100重量パーセントより多ければ均一な発泡体が得られない。」
「【0012】本発明では、軟化点50~100℃の樹脂からなる形状保持材とエポキシ樹脂及びアミンの炭酸塩を必須成分とするが、必要に応じて、シートの凝集力を上げるゴム等の補強材、シートに粘着性を付与する粘着付与剤、発泡倍率を調整する整泡剤、充填剤、難燃化剤、他の潜在性硬化剤等を配合することができる。特に、補強材としてアラミド繊維や、ガラスファイバー等の短繊維を配合することや、不織布のごときキャリアー材に組成物を含浸しシート化することは、シートの凝集力を著しく高め、硬化物の強度を向上させる上で好ましい。又、硬化前のシートに強い粘着性を持たせた場合、離型紙からの離型性を改善する。又、整泡剤を配合することは、用途に沿った発泡倍率に調整する上で有効である。
【0013】上記組成物のシート化には、既知のいかなる方法でも用いうる。例えば、組成物を軟化点以上に加熱し、液化した状態で配合し、室温に戻しシート化する方法や、溶剤中で配合し、その後溶剤を揮散させ、シート化する方法があげられる。
【0014】このようにして得られた本発明の加熱発泡性シート組成物は、発泡と硬化のバランスが良好なため、加熱後均一に発泡硬化し発泡体を形成する。又、アミンの炭酸塩は、活性化温度が高く保存安定性に優れ、尚且つ、自動車の塗装炉で受ける温度と時間(例えば、カチオン電着塗装で175~185℃×30分、中塗り及び上塗りではいずれも140℃×30分程度)で良好に発泡硬化するため、自動車ボディーパネルのデント付与材、断熱材、制振材として良好に使用できる。又、接着剤の軽量性が要求されるハニカムとパネルの接着等にも良好に使用できる。」
「【0029】結果を表1に示す。
【表1】
[図:0001409145000006.jpg]
」
(3)甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
熱発泡剤と105℃以下の軟化温度を有するエポキシ樹脂を含む接着剤組成物からなる接着層と、
該接着層の上に形成され、熱可塑性樹脂を含むコート層を有する接着シートであって、
前記コート層は、常温でタックを示さず、
前記接着シートを、前記接着層の硬化開始温度以上に加熱することにより、前記コート層の少なくとも一部が、前記接着層とコート層の界面からコート層表面に至る範囲で消失し、前記接着層の硬化開始温度をT2とし、前記コート層のガラス転移温度をT3としたとき
T3<T2
を満足することを特徴とする接着シート。
【請求項2】
前記熱発泡剤の熱発泡温度をT1とし、前記接着層の硬化開始温度をT2とし、前記コート層のガラス転移温度をT3としたとき、T3<T1≦T2の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の接着シート。」
「【請求項10】
前記接着剤組成物に含まれる前記熱発泡剤は、熱膨張性微小球であることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の接着シート。」
「【0005】
上記課題に鑑み、本発明は、タック等に起因する作業性の低下を防止し得る接着シートを提供することを目的とする。本発明では、特に、優れた発泡特性を有する接着剤組成物において、上記タックに起因する問題が生じやすいことに鑑み、十分な発泡性能を維持しながら作業性に優れた接着シートを提供することをさらなる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、接着層の樹脂成分が常温でタックを生じないようにするため、樹脂からなり、常温でタックを示さないが熱により軟化して消失するコート層を積層することによって、作業中の望まない貼り付きやブロッキング現象の発現を防止することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明の接着シートは、熱硬化型樹脂を含む接着剤組成物からなる接着層と、該接着層の上に形成され、樹脂を含むコート層を有する接着シートであって、上記コート層は、常温でタックを示さず、上記接着シートを、前記接着層の硬化開始温度以上に加熱することにより、前記コート層の少なくとも一部が、前記接着層とコート層の界面からコート層表面に至る範囲で消失することを特徴とする。
【0008】
上記接着剤組成物は熱発泡剤と105℃以下の軟化温度を有する熱硬化型樹脂を含有することが好ましい。
また、本発明の接着シートでは、上記熱発泡剤の熱発泡温度をT1とし、上記接着層の硬化開始温度をT2とし、上記コート層のガラス転移温度をT3としたとき、本発明の接着シートは、T3<T1≦T2の関係を満足することが好ましい。」
「【0014】
本発明の接着シートでは、タック等に起因する作業性の低下を防止することができる。特に、優れた発泡性を有する接着剤組成物を用いた場合、本発明の接着シートは有効であり、十分な発泡性能を維持しながら作業性に優れたものとすることができる。
本発明の接着シートは、例えば、空隙充填用途への利用に適しているが、特にこの用途に限定されるものではない。空隙充填用途へ使用する場合の、空隙の大小は、特に限定されず、例えば1mm以下(例えば、数十μmから数百μm程度)の小さな空隙を充填する用途へ使用することもできる。
【0015】
本発明で言う「小さな空隙」としては、例えば、画像表示装置(液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ等)に固定された画像表示部材や、携帯電子機器(携帯電話や携帯情報端末等)に固定された光学部材(カメラやレンズ等)と、筐体(窓部)との間に生ずる隙や、モータやジェネレータに用いられるステータのコイルエンド部において隣接する相の異なるコイル間の間隙、特にその間隙に介装させる絶縁シートとコイルとの間の間隙、ステータコアのスロット溝内の間隙等が挙げられる。」
「【0022】
エポキシ樹脂は、190℃での粘度が、通常0.05Pa・s以上が好ましく、0.1Pa・s以上であることがさらに好ましい。また、通常3.0Pa・s以下が好ましく、1.8Pa・s以下であることがさらに好ましい。粘度が低すぎると熱発泡剤の発泡状態を維持することができず、連泡化や破泡が発生するおそれがある。粘度が高すぎると発泡内圧よりも発泡外圧が高くなるので熱発泡剤が発泡しないおそれがある。ここにおける粘度は、動的粘弾性測定装置(Malvern Instruments社製、Bohlin
C-VOR)を用いて測定した値である。
【0023】
エポキシ樹脂は、エポキシ当量(WPE)が、通常150以上、好ましくは180以上であって、通常1000以下、好ましくは700以下である。WPEが低すぎると架橋点が多く耐熱性の高い硬化物が得られるが靱性が低く脆くなるおそれがある。WPEが高すぎると架橋点が少ないため耐熱性が低下するほか硬化反応の反応性が低下することにより発泡状態を維持することができず、破泡、連泡化が進むおそれがある。「エポキシ当量」とは、エポキシ基1個あたりのエポキシ樹脂の分子量で定義される。ここで「エポキシ基」とは、3員環のエーテルであるオキサシクロプロパン(オキシラン環)を含むものであり、狭義のエポキシ基の他、グリシジル基(グリシジルエーテル基及びグリシジルエステル基を含む。)を含むものである。WPEは、JIS K7236、エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方(2001)に記載されている方法(過塩素酸-臭化テトラエチルアンモニウム法)等により決定される。」
「【0029】
接着層を形成する接着剤組成物に含有させる熱発泡剤は、特に制限されず、例えば公知の熱発泡剤(熱分解型のもの、膨張黒鉛、マイクロカプセル化されたもの等)を適宜選択して用いることができるが、中でもマイクロカプセル化されたもの(以下「熱膨張性微小球」と称する。)を好適に用いることができる。
熱膨張性微小球としては、弾性を有する外殻の内部に発泡剤が封入された構造を有し、全体として熱膨張性(加熱により全体が膨らむ性質)を示す微小球を好適例として挙げることができる。
弾性を有する外殻としては、熱溶融性物質や熱膨張により破壊する物質等、例えば、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルホン等で形成されたものを好適例として挙げることができる。
発泡剤としては、加熱により容易にガス化して膨張する物質、例えばイソブタン、プロパン、ペンタン等の炭化水素を主として挙げることができる。熱膨張性微小球の市販品としては、例えば、商品名「マツモトマイクロスフェアー」シリーズ(松本油脂製薬社製)、アドバンセルEMシリーズ(積水化学工業社製)、エクスパンセル(日本フェライト社製)等を挙げることができる。」
「【0033】
熱発泡剤は、その熱発泡温度(T1)が、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上であって、好ましくは200℃以下、より好ましくは190℃以下であることが望ましい。T1は、熱発泡剤として、熱膨張性微小球を用いる場合は熱膨張温度に相当し、熱分解型発泡剤を用いる場合は熱分解温度に相当する。「熱膨張温度」とは発泡開始温度と同義であり、本実施形態では熱膨張測定装置(TMA)で求められる熱膨張開始温度のことをいい、体積が最大限に膨張する最大熱膨張温度の意味ではない。」
「【0054】
本実施形態では、接着層の組成との関係で、コート層を形成する樹脂を決定することが好ましい。コート層と接着層との親和性を考慮することにより、コート層が軟化した際により接着層内に取り込まれ(浸透し)やすくすることができる。これによりコート層の厚みを容易に設計することができる。例えば、接着層を形成する接着剤組成物に含有させる、重量平均分子量が800未満のエポキシ樹脂として、商品名NC2000L(ノボラック型エポキシ樹脂、日本化薬、エポキシ当量229~244、軟化温度47~57℃)を用いる場合(接触角86.4度)、コート層を形成する樹脂として、ビスフェノールAタイプの商品名PKHH(接触角83.3度)を用いることが望ましい。
【0055】
本発明の一実施形態に係る接着シートは、上述したように、基材上に接着層とコート層を順次形成することで作製してもよい。また上述したように、別途用意した離型フィルム上にコート層と接着層を順次形成した後、これに基材を貼り合わせる(ラミネートする)ことで作製してもよい。さらに、離型フィルムにコート層を形成したものと、基材に接着層を形成したものを貼り合わせる(ラミネートする)ことで作製することもできる。
【0056】
以上のような本発明の接着シートは、例えば、画像表示装置(液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ等)に固定された画像表示部材や、携帯電子機器(携帯電話や携帯情報端末等)に固定された光学部材(カメラやレンズ等)と、筐体(窓部)との間に生ずる隙充填材としての用途のほか、モータやジェネレータに用いられるステータのコイルエンド部において隣接する相の異なるコイル間の間隙や、ステータコアのスロット溝内の間隙等に介装させる用途として、電気・電子業界において広く用いることができる。
特に、モータやジェネレータのステータコアの両端部からコイルを突出させたコイルエンド部において異なるコイルがその巻線束を交差させている箇所で、相間の絶縁性を確保すべく、隣接する相の異なるコイル間に介装させる用途に適している(特開2010-103162号公報、特開2012-170248号公報)。」
「【0071】
[熱発泡温度(T1)]
測定装置として動的粘弾性測定装置(DMA Q800型、TA instruments社製)を使用し、熱膨張性微小球0.5mgを直径6.0mm(内径5.65mm)、深さ4.8mmのアルミカップに入れ、熱膨張性微小球層の上部にアルミ蓋(5.6mm、厚み0.1mm)をのせて試料を準備した。その試料に上から加圧子により0.01Nの力を加えた状態でサンプル高さを測定した。加圧0.01Nの力を加えた状態で、20℃から300℃まで10℃/minの昇温速度で加熱し、加圧子の垂直方向における変位量を測定する。正方向への変位開始温度を熱発泡温度(T1)とした。
【0072】
[接着層の硬化開始温度(T2)]
測定装置として示差走査熱量計(DSC3200、Mac Science社製)を使用した。作製したシート状の接着層樹脂を、常温から300℃まで10℃/分で昇温したときの、定常範囲におけるDSCベースラインと硬化反応時のDSC上昇線の交わる点を硬化開始温度(T2)とした。
【0073】
[コート層のガラス転移温度(T3)]
測定装置として示差走査熱量計(DSC3200、Mac Science社製)を使用した。作製したシート状のコート層樹脂を、常温から300℃まで10℃/分で昇温したときのDSCベースライン変化点をガラス転移点(T3)とした。」
(4)甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂と相溶したアクリル樹脂と、硬化剤と、発泡剤とを含有し、
前記エポキシ樹脂として、軟化温度が50℃以上であり、かつ、エポキシ当量が5000g/eq以下である第一エポキシ樹脂と、軟化温度が前記第一エポキシ樹脂より高く、かつ、重量平均分子量が20,000以上である第二エポキシ樹脂と、を含有し、
前記アクリル樹脂は、重量平均分子量が50,000以上である、接着剤組成物。」
「【請求項10】
発泡性接着シートの接着層に用いられる、請求項1から請求項9までのいずれかの請求項に記載の接着剤組成物。」
「【0001】
本開示は、接着剤組成物および発泡性接着シートに関する。」
「【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、耐ブロッキング性、接着性および耐割れ性が良好な発泡性接着シートを得ることができる接着剤組成物を提供することを主目的とする。」
「【0012】
A.接着剤組成物
本開示における接着剤組成物は、エポキシ樹脂と、上記エポキシ樹脂と相溶したアクリル樹脂と、硬化剤と、発泡剤とを含有し、上記エポキシ樹脂として、軟化温度が50℃以上であり、かつ、エポキシ当量が5000g/eq以下である第一エポキシ樹脂と、軟化温度が上記第一エポキシ樹脂より高く、かつ、重量平均分子量が20,000以上である第二エポキシ樹脂と、を含有し、上記アクリル樹脂は、重量平均分子量が50,000以上である。」
「【0046】
アクリル樹脂は、硬化開始温度で貯蔵弾性率(E’)が1×105Pa以上であってもよい。上述したように、発泡後の硬化時(発泡剤の発泡が終了してから接着剤組成物が硬化するまでの間)に収縮が起きる場合があるが、硬化開始温度におけるE’が大きいことで、収縮を抑えることができ、良好な形状保持性を得ることができる。なお、硬化開始温度は、硬化剤の種類に応じて異なる温度である。また、硬化剤として、二種以上の硬化剤を用いる場合は、主たる硬化反応の開始温度を硬化開始温度とする。」
「【0078】
発泡剤の発泡開始温度は、エポキシ樹脂の軟化温度以上であり、かつ、エポキシ樹脂の硬化反応の活性化温度以下であることが好ましい。なお、エポキシ樹脂の軟化温度は、JIS K 2207に規定される環球式軟化温度試験法を用いて測定できる。発泡剤の発泡開始温度は、例えば、70℃以上であり、100℃以上であってもよい。反応開始温度が低すぎると、反応が早期に開始され、樹脂成分の柔軟性や流動性が低い状態で発泡が生じ、均一な発泡が生じにくい可能性がある。一方、発泡剤の反応開始温度は、例えば、210℃以下である。反応開始温度が高すぎると、樹脂成分が劣化する可能性がある。」
「【0080】
また、発泡剤として、マイクロカプセル型発泡剤を用いてもよい。マイクロカプセル型発泡剤は、炭化水素等の熱膨張剤をコアとし、アクリロニトリルコポリマー等の樹脂をシェルとすることが好ましい。」
「【0112】
また、本開示においては、上述した発泡性接着シートを用いた物品の製造方法を提供することができる。すなわち、第一部材および第二部材の間に、上述した発泡性接着シートを配置する配置工程と、発泡性接着シートを発泡硬化させ、第一部材および第二部材を接着する接着工程とを有する物品の製造方法を提供することができる。例えば、図5に示すように、第一部材20aおよび第二部材20bの間に、上述した発泡性接着シート10を配置する(図5(a)、配置工程)。次に、例えば加熱により、発泡性接着シート10を発泡硬化させる(図5(b)、接着工程)。発泡硬化後の接着シート11により、第一部材20aおよび第二部材20bは接着(接合)される。」
「【0118】
(接着性)
図6に示すように、アルミ片31(長さ100mm×幅25mm×厚さ1.5mm)を2枚用意した。そのうちの1枚のアルミ片31にスペーサー32(カプトンテープ)を所定の間隔を設けて配置した。スペーサーの厚さは、351μm(日東電工社製P-221を5枚重ねた厚さ)または418μm(日東電工社製P-221を6枚重ねた厚さ)とした。スペーサー32の間に、12.5mm×25mmに切り出した発泡性接着シート10を配置し、もう1枚のアルミ片31を配置し、クリップにて固定し、試験片を得た。
【0119】
試験片を熱オーブンに入れ、加熱することで、発泡性接着シート10を硬化させた。加熱条件は、150℃30分または180℃30分とした。加熱後の試験片を、JISK6850に準拠し、テンシロンRTF1350(エーアンドデイ社製)にて、せん断強度(接着強度)を測定した。引張速度は10mm/minとした。また、測定温度は、23℃または200℃とした。
評価基準(23℃)
〇:2.40MPa以上
△:2.10MPa以上、2.40MPa未満
×:2.10MPa未満
評価基準(200℃)
〇:0.28MPa以上
×:0.28MPa未満」
「
[図:0001409145000007.jpg]
」
「【0125】
図7に示すように、実施例1で使用したアクリル樹脂は、例えば熱発泡剤2の発泡開始温度(120℃)で貯蔵弾性率(E’)が1×106Pa以下であった。そのため、発泡開始時において、流動性が向上し、良好な発泡性を得ることができる。また、実施例1で使用したアクリル樹脂は、例えば硬化剤2の硬化開始温度(145℃)で貯蔵弾性率(E’)が1×105Pa以上であった。上述したように、発泡後の硬化時(発泡剤の発泡が終了してから接着剤組成物が硬化するまでの間)に収縮が起きる場合があるため、この際に、接着剤組成物がある程度の粘弾性を有することが好ましい。例えば第一エポキシ樹脂は、軟化温度以上の温度で、ほぼ液体のような状態となってしまう。これに対して、実施例1で使用したアクリル樹脂は、例えば硬化剤2の硬化開始温度(145℃)においても、E’が1×105Pa以上であるため、収縮を抑えることができ、良好な形状保持性を得ることができる。また、実施例1で使用したアクリル樹脂は、0℃以上100℃以下における貯蔵弾性率(E’)の平均値が1×106Pa以上あるため、良好な耐ブロッキング性を得ることができる。」
(5)甲5の記載事項
甲5には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001409145000008.jpg]
[図:0001409145000009.jpg]
」(4-1 DSCによる硬化度合いの評価、4-2 DSCによる硬化条件の予測)
2 証拠に記載された発明
(1)甲1に記載された発明
甲1の請求項1を引用する請求項9を引用する請求項11を引用する請求項12、及び、同請求項12を引用する請求項15の記載からみて、甲1には次の発明(以下「甲1A発明」、「甲1B発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲1A発明)
「シート状基材と、該シート状基材の片面または両面に設けられた発泡性接着層とを含む加熱発泡シートであって、
前記発泡性接着層が、前記加熱発泡シートの少なくとも一方の最外層であり、
前記発泡性接着層が、エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂および発泡剤を含み、
前記発泡性接着層の最外表面における算術平均粗さRaが、0.4μm以上であり、
前記発泡性接着層の発泡開始温度が、前記発泡性接着層の硬化反応における硬化活性温度以下であり、
前記発泡性接着層の硬化過程において、前記発泡性接着層の発泡開始温度から前記発泡性接着層の硬化挙動における硬化活性温度までの温度範囲に、前記エポキシ樹脂の粘度が最低となる最低粘度温度があり、
前記発泡剤が、熱膨張性マイクロカプセルを含み、
前記熱膨張性マイクロカプセルが、エポキシ樹脂、硬化剤および熱可塑性樹脂の中に分散している、
加熱発泡シート」
(甲1B発明)
「甲1A発明の加熱発泡シートを、第1の被着体および第2の被着体の間に配置し、両被着体の隙間を発泡によって充填することにより、前記第1の被着体および第2の被着体を接着する接着方法。」
(2)甲2に記載された発明
甲2の請求項1の記載からみて、甲2には次の発明(以下「甲2A発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲2A発明)
「軟化点50~100℃の樹脂からなる形状保持材と常温で液状ないし半固形状のエポキシ樹脂とアミンの炭酸塩を必須成分とし、かつ樹脂分全量に対して該アミンの炭酸塩を10~100重量パーセント配合したことを特徴とする加熱発泡性シート組成物。」
また、甲2の【0014】には、「本発明の加熱発泡性シート組成物は」、「加熱後均一に発泡硬化し発泡体を形成する」こと、「良好に発泡硬化するため」、「ハニカムとパネルの接着等にも良好に使用できる」ことが記載されている。してみれば、甲2には次の発明(以下「甲2B発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲2B発明)
「甲2A発明の加熱発泡シート組成物を加熱して発泡硬化させることで、ハニカムとパネルの接着に使用する接着方法。」
(3)甲3に記載された発明
甲3の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項10の記載からみて、甲3には次の発明(以下「甲3A発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲3A発明)
「熱発泡剤と105℃以下の軟化温度を有するエポキシ樹脂を含む接着剤組成物からなる接着層と、該接着層の上に形成され、熱可塑性樹脂を含むコート層を有する接着シートであって、
前記コート層は、常温でタックを示さず、
前記接着シートを、前記接着層の硬化開始温度以上に加熱することにより、前記コート層の少なくとも一部が、前記接着層とコート層の界面からコート層表面に至る範囲で消失し、
前記熱発泡剤は、熱膨張性微小級であり、
前記熱発泡剤の熱発泡温度をT1とし、前記接着層の硬化開始温度をT2とし、前記コート層のガラス転移温度をT3としたとき、T3<T1≦T2を満足することを特徴とする接着シート。」
また、甲3の【0056】には、「本発明の接着シートは」、「画像表示装置・・・に固定された画像表示部材や、携帯電子機器・・・に固定された光学部材」と「筐体(窓部)」との間に生じる「隙充填材」としての用途が記載されている。してみれば、甲3には次の発明(以下「甲3B発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲3B発明)
「画像表示装置に固定された画像表示部材や、携帯電子機器に固定された光学部材と筐体(窓部)の間に生じる隙充填材として甲3A発明の接着シートを使用する方法。」
(4)甲4に記載された発明
甲4の請求項1を引用する請求項10の記載からみて、甲4には次の発明(以下「甲4A発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲4A発明)
「エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂と相溶したアクリル樹脂と、硬化剤と、発泡剤とを含有し、前記エポキシ樹脂として、軟化温度が50℃以上であり、かつ、エポキシ当量が5000g/eq以下である第一エポキシ樹脂と、軟化温度が前記第一エポキシ樹脂より高く、かつ、重量平均分子量が20,000以上である第二エポキシ樹脂と、を含有し、前記アクリル樹脂は、重量平均分子量が50,000以上である、発泡性接着シートの接着層に用いられる接着剤組成物。」
また、甲4の【0112】には、「第一部材および第二部材の間に、上述した発泡性接着シートを配置する配置工程と、発泡性接着シートを発泡硬化させ、第一部材および第二部材を接着する接着工程とを有する物品の製造方法」が記載されている。してみれば、甲4には次の発明(以下「甲4B発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲4B発明)
「第一部材および第二部材の間に、甲4A発明の接着剤組成物を接着層に用いた発泡性接着シートを配置する配置工程と、発泡性接着シートを発泡硬化させ、第一部材および第二部材を接着する接着工程とを有する物品の製造方法」
3 申立ての理由1について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1B発明を対比すると、甲1B発明の甲1A発明における「発泡性接着層が、エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂および発泡剤を含み」は、当該発泡性接着層が「エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂および発泡剤」を含む接着剤組成物で構成されているといえることから、本件発明1の「熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物」に相当する。また、甲1A発明における「発泡剤が、熱膨張性マイクロカプセルを含み」は、本件発明1の「発泡剤は、熱膨張性カプセルであり」に相当する。
そして、甲1B発明の「第1の被着体」、「第2の被着体」は、本件発明1の「第一部材」、「第二部材」に相当し、甲1B発明の「甲1A発明の加熱発泡シートを、第1の被着体および第2の被着体の間に配置し」、「両被着体の隙間を発泡によって充填することにより、前記第1の被着体および第2の被着体を接着する」、「接着方法」は、本件発明1の「第一部材および第二部材の間に、熱硬化性樹脂および発泡剤を有する接着剤組成物を配置する配置工程」、「前記接着剤組成物を加熱して発泡硬化させ、前記第一部材および前記第二部材を接着する接着工程」、「物品の製造方法」に相当する。
すると、本件発明1と甲1B発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「第一部材および第二部材の間に、熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物を配置する配置工程と、前記接着剤組成物を加熱して発泡硬化させ、前記第一部材および前記第二部材を接着する接着工程と、を有する物品の製造方法であって、前記発泡剤は、熱膨張性マイクロカプセルである、物品の製造方法。」
<相違点1-1>
本件発明1では、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをAとし、前記接着剤組成物に対して、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをBとしたとき、A<B」であるのに対し、甲1B発明ではそのような特定がなされていない点
<相違点1-2>
本件発明1では、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの頂点の時間をT1とし、前記接着剤組成物から前記発泡剤を除いた組成物に対して、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの頂点の時間をT2としたとき、前記接着工程では、T1<T2となるように、前記接着剤組成物を加熱する」のに対し、甲1B発明ではそのような特定がなされていない点
イ 相違点1-1について検討する。甲1の【0072】、【0073】には、熱機械分析装置及び示差走査熱量測定装置を用いて、実施例の発泡性接着層の発泡開始温度T1および硬化活性温度T2を求めることが記載されている。
ここで、硬化活性温度T2は示差走査熱量測定装置で測定し得られたDSC曲線において発熱ピークのトップ温度から求めている点では、本件発明1の「接着剤組成物に対して、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点」と同様である。しかしながら、甲1の硬化活性温度T2は接着剤組成物全体について求められたものであるのに対し、本件発明1の発熱ピークの頂点は接着剤組成物から発泡剤を除いた組成物に対して測定されたものである点で両者は相違している。この点について、申立人は特許異議申立書の4.I(2)イ)において、「接着剤組成物から発泡剤除いた組成物についてDSC曲線についても、発泡剤を含有している場合の接着剤組成物についてのDSC曲線と実質的に同じ結果になる」と主張しているが、両者のDSC曲線が完全に一致する根拠は何ら示されていない。
さらに、甲1では発泡性接着層の発泡開始温度T1が求められているが、本件発明1の「カメラを搭載した示差走査熱量計」を用いた測定方法とは異なるものであり、さらに、「前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点」に相当する温度は求められていない。この点について、申立人は特許異議申立書の4.I(2)イ)において、「甲1の図2に記載されているTMA曲線は、接着剤全体についてのものであるが、接着剤組成物の発泡率は、発泡剤の発泡率を反映するものであるので、実質的に発泡剤のTMA曲線を表すものであるといえる」と主張しているが、実質的に発泡剤のTMA曲線を表すものであるといえる根拠は何ら示されておらず、さらに、TMA曲線が本件発明1のカメラを搭載した示差走査熱量計で測定したときの発泡率-時間曲線と完全に一致することについては何ら説明がなされていない。
また、甲1の【0046】には、「図2は、所定の発泡性接着層について、発泡開始温度、最低粘度温度および硬化活性温度の関係を示すグラフである。」とし、図2には縦軸をTMAまたはDSCの値とし横軸を温度とするTMA曲線及びDSC曲線が記載されている。しかしながら、図2のグラフが甲1B発明の発泡性接着層の実データであるのか否か不明であり、仮に実データであったとしても、TMA曲線について、上記検討のとおり、本件発明1の「カメラを搭載した示差走査熱量計」を用いた測定方法とは異なるものであり、本件発明1の「カメラを搭載した示差走査熱量計」を用いて測定したとき発泡率-時間曲線と同一のグラフと一致するか不明である。
さらに、甲1には、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをAとし、前記接着剤組成物に対して、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをBとしたとき、A<B」であることについて記載も示唆もない。
この点について、申立人は特許異議申立書の4.I(2)イ)において、甲1の図2に対して申立人の目視により接線C及び接線Dを記入し、それぞれの傾きである傾きA(又はC)、傾きB(又はD)との関係がA<B(又はC<D)と読み取れると主張している。しかしながら、甲1の図2に記載されたグラフと本件発明1との相違については上記検討のとおりであり、仮に申立人の主張のとおり図2のTMA曲線とDSC曲線が本件発明1における発泡率-時間曲線とDSC曲線に相当するとしても、特許異議申立書において申立人により記入された接線C及び接線Dについて、グラフのピークの頂点の位置及びピークの70%の値となる点のいずれも正確に読み取ったものであるか不明であることから、頂点及びピークの70%の値となる点を結んだ接線C及び接線Dについてもそれぞれ正確なものであるか不明である。さらに接線C及び接線Dの傾きがかなり近いものであることから、グラフのピークの頂点及びピークの70%の値となる点の読み取り方によっては傾きA(又はC)と傾きB(又はD)との関係がA<B(又はC<D)の関係とはならない可能性もある。してみれば、甲1の図2より、傾きA(又はC)と傾きB(又はD)との関係がA<B(又はC<D)であることを正確に読み取ることはできない。
よって、申立人の主張は採用できない。
したがって、相違点1-1は実質的な相違点であり、相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1と甲1に記載された発明とは同一ではない。
(2)本件発明2、3について
本件発明2、3は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明2、3も甲1に記載された発明とは同一ではない。
(3)本件発明4について
ア 本件発明4と甲1A発明を対比すると、上記(1)アでの検討のとおり、甲1A発明における「発泡性接着層が、エポキシ樹脂、硬化剤、熱可塑性樹脂および発泡剤を含み」、「発泡剤が、熱膨張性マイクロカプセルを含み」はそれぞれ、本件発明4における「熱可塑性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物」、「発泡剤は、熱膨張性カプセルであり」に相当する。
すると、本件発明4と甲1A発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物であって、前記発泡剤は、熱膨張性マイクロカプセルである、接着剤組成物。」
<相違点1-3>
本件発明4では、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをCとし、
前記接着剤組成物に対して、前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをDとしたとき、C<D」であるのに対し、甲1A発明ではそのような特定がなされていない点。
<相違点1-4>
本件発明4では、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの頂点の時間をT1とし、前記接着剤組成物から前記発泡剤を除いた組成物に対して、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの頂点の時間をT2としたとき、T1<T2となるように加熱して用いられる」のに対し、甲1A発明ではそのような特定がなされていない点
イ 相違点1-3について検討する。上記(1)イでの検討のとおり、甲1では発泡性接着層の発泡開始温度T1が求められているが、本件発明4の「カメラを搭載した示差走査熱量計」を用いた測定方法とは異なるものであり、さらに、「室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点」に相当する温度は求められていない。この点に関する申立人の主張については上記(1)イでの検討の通り採用できるものではなく、また、本件発明4で特定された発泡剤の加熱条件の点についても、甲1の図2の加熱条件が本件発明4の加熱条件と同じであるか不明であり、加熱条件が異なる場合であっても常に同じTMA曲線となるという技術常識もない。
さらに、甲1の図2に示されたTMA曲線およびTSC曲線から目視により傾きC、Dを比較する点についても、上記(1)イでの検討のとおり、両者の関係がC<Dであることを正確に読み取れるとはいえない。
したがって、相違点1-3は実質的な相違点であり、相違点1-4について検討するまでもなく、本件発明4と甲1に記載された発明とは同一ではない。
(4)本件発明5について
本件発明5は、本件発明4を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明5も甲1に記載された発明とは同一ではない。
(5)申立ての理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立ての理由1によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
4 申立ての理由2-1、3-1について
(1)本件発明4について(理由2-1、理由3-1について)
ア 本件発明4と甲2A発明を対比すると、甲2A発明における「軟化点50~100℃の樹脂からなる形状保持材と常温で液状ないし半固形状のエポキシ樹脂」、「加熱発泡性シート組成物」はそれぞれ、本件発明4の「熱硬化性樹脂」、「接着剤組成物」に相当する。また、甲2A発明における「アミンの炭酸塩」について、甲2の【0010】に「アミンの炭酸塩は」、「発泡剤として使用するため」と記載されていることから、本件発明4の「発泡剤」に相当する。
すると、本件発明4と甲2A発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物。」
<相違点2-1>
本件発明4では、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをCとし、
前記接着剤組成物に対して、前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをDとしたとき、C<D」であるのに対し、甲2A発明ではそのような特定がなされていない点。
<相違点2-2>
本件発明4では、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの頂点の時間をT1とし、前記接着剤組成物から前記発泡剤を除いた組成物に対して、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの頂点の時間をT2としたとき、T1<T2となるように加熱して用いられる」のに対し、甲2A発明ではそのような特定がなされていない点
<相違点2-3>
本件発明4では、発泡剤は「熱膨張性マイクロカプセル」であるのに対し、甲2A発明では「アミンの炭酸塩」である点
イ 相違点2-1について検討する。甲2A発明の加熱発泡シート組成物について、甲2の実施例では発泡剤の発泡倍率について測定されているが、「カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線」を求めるための測定は行われていない。また、甲2A発明の加熱発泡シート組成物に対して、「前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線」を求めるための測定も行われていない。すなわち、いずれの曲線についても反応開始から終了までのグラフ全体が示されていないことから、曲線のピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線の傾きを求めることはできない。
よって、相違点2-1は実質的な相違点である。
また、後述のとおり甲3、甲4のいずれの文献にも、発泡剤を特定の条件で加熱した際の発泡率を縦軸とし時間を横軸とした発泡率-時間曲線、および、同じ加熱条件で接着剤組成物を加熱した際の熱流を縦軸とし時間を横軸としたDSC曲線における、それぞれの曲線のピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線の傾きについて記載も示唆もなく、甲2~4のいずれの文献にも両曲線における接線の傾きの関係を特定のものとする動機付けとなる記載や示唆もない。そうすると、当業者といえども、甲2A発明の加熱発泡シート組成物について、前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをCとし、前記接着剤組成物に対して、前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをDとしたとき、CとDの関係を特定のものとすることを着想し、その関係をC<Dに特定することは容易になし得たとはいえない。
してみると、相違点2-2、2-3について検討するまでもなく、本件発明4は、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 申立人は特許異議申立書の4.I(2)(2-1)イ)において、「さらに甲第2号証の段落0003には、段落0002に記載された加熱発泡シートについて、発泡が硬化より遅すぎれば(当審注:「早すぎれば」の誤記)ガス抜けや、マイクロカプセルの収縮がおこり、十分な発泡倍率が得られず(すなわち、発泡が十分に起こった後、その発泡形状を保持する必要があり、発泡形状を保持するためには、発泡が十分に起こった後すぐに熱硬化性樹脂が硬化する必要があり)、逆に硬化が発泡より速すぎれば、十分に発泡する前に硬化してしまう(すなわち、発泡が熱硬化性樹脂の硬化よりも先に起こってピークを迎える必要がある)ことが記載されている。発泡が十分に起こった後に、その発泡形状を保持する必要があり、形状保持する為にはすぐに熱硬化性樹脂が硬化する事が必須であり、そのためには反応ができるだけ早く進行する必要があることから、A<B又はC<Dの関係性についても甲第2号証に実質的に記載されている事項であるといえる。」と主張している。
しかしながら、甲2の【0003】の記載内容は、その後に続く申立人がかっこ書きで追記した「すなわち」以下の記載内容と同義ではなく、両方の記載内容の事象が常に同時に成立するといった、常に言い換えることができる根拠も示されていない。また、同【0003】の記載は加熱により発泡硬化させる際の「発泡」と「硬化」のいずれか一方が速すぎる場合について記載しているにすぎず、本件発明4における傾きC、Dに対応する「発泡」と「硬化」のそれぞれのピーク時からの発泡速度と硬化速度を比較しているものではない。さらに、発泡と硬化の反応速度の関係から、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをCとし、前記接着剤組成物に対して、前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをDとしたとき、C<D」となる関係を導き出すことができる根拠も示されていない。
また、申立人は特許異議申立書の4.I(3)(3-1)イ)において、「しかしながら、本件の段落0174~0202に記載されている実施例の欄には、C<Dの関係と接着強度との関係について、その具体的な結果がなんら開示されてすらおらず、本当にC<Dの関係を満たすことが本件発明の効果を奏する上で重要な要素であるのかどうかがそもそも疑問である。本件発明4ではなく本件発明1において同様に規定されている発泡剤についての発泡率-時間曲線におけるピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線の傾きAと、接着剤組成物についてのDSC曲線における発熱ピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線の傾きBとの関係について記載している段落0174~0193の実施例を参照しても、そこには本件発明の実施例としてわずかに2例の製造例1及び4のみが挙げられているだけであり、段落0182の表1及び図9の各グラフの熱流に関する縦軸の絶対値からも分かるように、比較例としてはエポキシ樹脂を硬化させるために必要な硬化触媒や硬化剤を含有せず、ほとんど硬化しないものが2例挙げられているだけである。このような比較例とその効果を比較したところで、実施例について、従来から存在している十分に硬化して発泡性接着シートとして使用可能な他の発泡性接着シートを用いて物品の製造をする場合との間にどれほどの効果の違いがあるのかが全く理解できず、A<B又はC<Dの関係を満たすことが本件発明の効果にどのように関連しているのかがまったく理解できない。さらに言えば、発泡性の接着剤組成物であって使用に耐えうる程度に硬化させることができる接着剤組成物であればどのようなものでもA<B又はC<Dの関係を満たしているのではないかとも考えられる。」と主張している。
しかしながら、本件明細書等の【0181】、【0191】には実施例及び比較例の接着剤組成物について特定の加熱条件で発泡硬化させて接着強度の評価を行っていることから、比較例についても発泡硬化するものといえる。また、申立人の比較例の接着剤組成物がほとんど硬化していないとの主張には他に具体的な根拠が示されていない。そして、実施例及び比較例の結果からA<BまたはC<Dの関係を満たすことと接着強度との関連が示されていることから、本件発明の効果との関連を理解することができるといえる。
また、申立人は特許異議申立書の4.I(3)(3-1)イ)において、「本件発明4で規定されている傾きD(又は本件発明1で特定されている傾きB)は、接着剤組成物についての硬化度合いを示す指標としては全く意味のないものである。というのも、本来は、接着剤組成物についての示差走査熱量測定により得られる結果の図9のようなグラフにより接着剤組成物の硬化度合いについて議論する場合には、甲第5号証(スリーボンドテクニカルニュースvol.86 平成27年7月1日発行)に記載されているように、発熱ピーク総発熱量(H0)とある時点における残留発熱量(H1)とについて議論すべきものである。C<D(又はA<Bが成り立つ場合であっても、例えば、以下の図に示すような場合には発泡剤が発泡した後に熱硬化性樹脂がなかなか硬化せず、発泡剤の発泡形状を保持できないような場合が考えられるためである。なお、本件発明4(又は本件発明1)に記載されている「DSCにおける発熱ピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線」という記載自体が不明確であるともいえるが、以下の図では前記接線の定義について、本件の発明の詳細な説明の段落0038等に記載されているものを採用し、発熱ピークの頂点と、発熱ピークにおける熱流を100%とした場合の70%の地点を結ぶ直線を前記接線とした場合を想定した。この図によれば、熱量が発熱ピークにおける熱流を100%とした場合の70%の地点であっても、反応率としては50%程しか進んでいないことになる。そのため、接着剤組成物についてのDSCにおける発熱ピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線の傾きD(又はB)を定義することには何の技術的意義はなく、この理由からもC<D(又はA<B)を満たすという点は、各引用発明との実質的な構成上の相違点とはならない。」と主張している。
しかしながら、本件明細書等に記載された接着剤組成物あるいは接着剤組成物から発泡剤を除いた組成物についてのDSC曲線はいずれも申立人が示したDSC曲線のような70%を超えて急激に傾きが変わる結果にはなっておらず、通常の接着剤組成物において申立人が示したようなDSC曲線となる技術常識もない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 以上のとおり、相違点2-2、2-3について検討するまでもなく、本件発明4は、甲2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえない。また、本件発明4は甲2に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
(2)本件発明5について(理由2-1、3-1について)
本件発明5は、本件発明4を引用し、さらに限定するものであるため、本件発明5も、甲2に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、甲2に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
(3)本件発明1について(理由3-1について)
本件発明1と甲2B発明を対比すると、上記(1)アでの検討のとおり、甲2B発明の甲2A発明における「軟化点50~100℃の樹脂からなる形状保持材と常温で液状ないし半固形状のエポキシ樹脂」、「アミンの炭酸塩」、「加熱発泡性シート組成物」はそれぞれ、本件発明1の「熱硬化性樹脂」、「発泡剤」、「接着剤組成物」に相当する。
また、甲2B発明の「ハニカム」、「パネル」は、本件発明1の「第一部材」、「第二部材」に相当し、甲2B発明の「加熱発泡シート組成物を加熱して発泡硬化させることで、ハニカムとパネルの接着に使用する接着方法」は、本件発明1における「前記接着剤組成物を加熱して発泡硬化させ、前記第一部材および前記第二部材を接着する接着工程とを有する物品の製造方法」に相当する。そして、甲2B発明の「加熱発泡シート組成物を加熱して発泡硬化させることで、ハニカムとパネルの接着に使用する接着方法」は、加熱発泡シート組成物を加熱して発泡硬化させる前に、加熱発泡シート組成物をハニカムとパネルの間に配置することは自明であることから、本件発明1の「第一部材および第二部材の間に、熱硬化性樹脂および発泡剤を有する接着剤組成物を配置する配置工程」を含むものといえる。
すると、本件発明1と甲2B発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「第一部材および第二部材の間に、熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物を配置する配置工程と、前記接着剤組成物を加熱して発泡硬化させ、前記第一部材および前記第二部材を接着する接着工程と、を有する物品の製造方法。」
<相違点2-4>
本件発明1では、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをAとし、前記接着剤組成物に対して、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをBとしたとき、A<B」であるのに対し、甲2B発明ではそのような特定がなされていない点
<相違点2-5>
本件発明1では、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの頂点の時間をT1とし、前記接着剤組成物から前記発泡剤を除いた組成物に対して、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの頂点の時間をT2としたとき、前記接着工程では、T1<T2となるように、前記接着剤組成物を加熱する」のに対し、甲2B発明ではそのような特定がなされていない点
<相違点2-6>
本件発明4では、発泡剤は「熱膨張性マイクロカプセル」であるのに対し、甲2B発明では「アミンの炭酸塩」である点
イ 相違点2-4について検討する。上記(1)イでの検討のとおり、甲2では発泡剤の発泡倍率について測定されているが、「カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線」を求めるための測定は行われておらず、「前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線」を求めるための測定も行われていない。すなわち、いずれの曲線についても反応開始から終了までのグラフ全体が示されていないことから、曲線のピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線の傾きを求めることはできない。そして、後述のとおり甲3、甲4のいずれの文献にも発泡剤を特定の条件で加熱した際の発泡率を縦軸とし時間を横軸とした発泡率-時間曲線、および、同じ加熱条件で接着剤組成物を加熱した際の熱流を縦軸とし時間を横軸としたDSC曲線における、それぞれの曲線のピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線の傾きについて記載も示唆もなく、甲2~4のいずれの文献にも両曲線における接線の傾きの関係を特定のものとする動機付けとなる記載や示唆もない。そうすると、当業者といえども、甲2B発明の接着方法において、前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをAとし、前記接着剤組成物に対して、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをBとしたとき、AとBの関係を特定のものとすることを着想し、その関係をA<Bに特定することは容易になし得たとはいえない。
してみると、相違点2-5、2-6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ よって、本件発明4は甲2に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
(4)本件発明2、3について(理由3-1について)
本件発明2、3は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明2、3も、甲2に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない
(5)申立ての理由2-1、3-1についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立ての理由2-1、3-1によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
5 申立ての理由2-2、3-2について
(1)本件発明4について(理由2-2、理由3-2について)
ア 本件発明4と甲3A発明を対比すると、甲3A発明における「105℃以下の軟化温度を有するエポキシ樹脂」、「熱発泡剤は、熱膨張性微小級」、「熱発泡剤と105℃以下の軟化温度を有するエポキシ樹脂を含む接着剤組成物」はそれぞれ、本件発明4の「熱硬化性樹脂」、「発泡剤は、熱膨張性マイクロカプセル」、「熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物」に相当する。
すると、本件発明4と甲3A発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物であって、前記発泡剤は、熱膨張性マイクロカプセルである、接着剤組成物。」
<相違点3-1>
本件発明4では、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをCとし、
前記接着剤組成物に対して、前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをDとしたとき、C<D」であるのに対し、甲3A発明ではそのような特定がなされていない点。
<相違点3-2>
本件発明4では、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの頂点の時間をT1とし、前記接着剤組成物から前記発泡剤を除いた組成物に対して、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの頂点の時間をT2としたとき、T1<T2となるように加熱して用いられる」のに対し、甲3A発明では、そのような特定がなされておらず、「前記熱発泡剤の熱発泡温度をT1とし、前記接着層の硬化開始温度をT2とし、前記コート層のガラス転移温度をT3としたとき、T3<T1≦T2を満足するもの」である点
イ 相違点3-1について検討する。甲3の【0071】には熱発泡温度の測定手法について記載されているが、「カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線」を求めるための測定は行われていない。また、甲3の【0072】には接着層の硬化開始温度の測定手法について記載されているが、「前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線」について硬化開始から硬化終了までのDSC曲線のグラフ全体は示されていない。すなわち、いずれの曲線についても反応開始から終了までのグラフ全体が示されていないことから、曲線のピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線の傾きを求めることはできない。
よって、相違点3-1は実質的な相違点である。
また、前述および後述のとおり甲2、甲4のいずれの文献にも、発泡剤を特定の条件で加熱した際の発泡率を縦軸とし時間を横軸とした発泡率-時間曲線、および、同じ加熱条件で接着剤組成物を加熱した際の熱流を縦軸とし時間を横軸としたDSC曲線における、それぞれの曲線のピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線の傾きについて記載も示唆もなく、甲2~4のいずれの文献にも両曲線における接線の傾きの関係を特定のものとする動機付けとなる記載や示唆もない。そうすると、当業者といえども、甲3A発明の接着剤組成物について、前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをCとし、前記接着剤組成物に対して、前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをDとしたとき、CとDの関係を特定のものとすることを着想し、その関係をC<Dに特定することは容易になし得たとはいえない。
してみると、相違点3-2について検討するまでもなく、本件発明4は、甲3に記載された発明ではなく、甲3に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 申立人は特許異議申立書の4.I(2)(2-2)イ)において、「さらに甲第3号証の段落0022には、(接着剤組成物の)粘度が低すぎると熱発泡剤の発泡状態を維持することができず、連泡化や破泡が発生するおそれがあり(発泡が十分に起こった後すぐに熱硬化性樹脂が硬化する必要があり)、(接着剤組成物の)粘度が高すぎると発泡内圧よりも発泡外圧が高くなるので熱発泡剤が発泡しないおそれがある(発泡が熱硬化性樹脂の硬化よりも先に起こってピークを迎える必要がある)ことが記載されている。ここで、接着剤組成物の粘度は、熱硬化性樹脂による硬化反応とは非常に密接な関係にある。熱硬化性樹脂による硬化反応が起こるとそれにつれて、接着剤組成物の粘度が高くなるからである。そうすると、マイクロカプセルが発泡した後に熱硬化樹脂による効果反応が素早く終了し粘度が高くなれば、マイクロカプセルの発泡形状を良好な状態で保持することができるし、マイクロカプセルの発泡よりも熱硬化樹脂による硬化反応が先行して接着剤組成物の粘度が高くなってしまうと、マイクロカプセルが十分に発泡することができないことはわざわざ明文化して説明するまでもなく自明の事実であると言える。」と主張している。
しかしながら、甲3の【0022】の記載内容は、その後に続く申立人がかっこ書きで追記した「すなわち」以下の記載内容と同義ではなく、両方の記載内容の事象が常に同時に成立するといった、常に言い換えることができる根拠も示されていない。また、同【0022】の記載は粘度が低すぎる場合あるいは高すぎる場合に発泡が適度な状態とならないことを記載しているにすぎず、本件発明4における傾きC、Dに対応する「発泡」と「硬化」のそれぞれのピーク時からの発泡速度と硬化速度を比較しているものではない。さらに、発泡と硬化の反応速度の関係から、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをCとし、前記接着剤組成物に対して、前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをDとしたとき、C<D」となる関係を導き出すことができる根拠も示されていない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 以上のとおり、相違点3-2について検討するまでもなく、本件発明4は、甲3に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえない。また、本件発明4は甲3に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
(2)本件発明5(理由2-2、理由3-2について)
本件発明5は、本件発明4を引用し、さらに限定するものであるため、本件発明5も、甲3に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、甲3に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
(3)本件発明1(理由3-2について)
ア 本件発明1と甲3B発明を対比すると、上記(1)アでの検討のとおり、甲3B発明の甲3A発明における「105℃以下の軟化温度を有するエポキシ樹脂」、「熱発泡剤は、熱膨張性微小級」、「熱発泡剤と105℃以下の軟化温度を有するエポキシ樹脂を含む接着剤組成物」はそれぞれ、本件発明4の「熱硬化性樹脂」、「発泡剤は、熱膨張性マイクロカプセル」、「熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物」に相当する。
また、甲3B発明の「画像表示装置に固定された画像表示部材や、携帯電子機器に固定された光学部材」、「筐体(窓部)」は、本件発明1の「第一部材」、「第二部材」に相当し、甲3B発明の「画像表示装置に固定された画像表示部材や、携帯電子機器に固定された光学部材と筐体(窓部)の間に生じる隙充填材として甲3A発明の接着シートを使用する方法」について、隙充填剤として接着シートを使用していることから、画像表示部材や光学部材と筐体(窓部)の両者の間に接着シートを配置したのちに両者を接着することは自明であり、また、接着シートは熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂と熱発泡剤を含む接着剤組成物からなることから、接着シートを配置したのちに加熱して発泡硬化させ接着することも自明である。してみれば、甲3B発明の「画像表示装置に固定された画像表示部材や、携帯電子機器に固定された光学部材と筐体(窓部)の間に生じる隙充填材として甲3A発明の接着シートを使用する方法」は、本件発明1における「第一部材および第二部材の間に、熱硬化性樹脂および発泡剤を有する接着剤組成物を配置する配置工程と前記接着剤組成物を加熱して発泡硬化させ、前記第一部材および前記第二部材を接着する接着工程とを有する物品の製造方法」に相当するといえる。
すると、本件発明1と甲3B発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「第一部材および第二部材の間に、熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物を配置する配置工程と、前記接着剤組成物を加熱して発泡硬化させ、前記第一部材および前記第二部材を接着する接着工程と、を有する物品の製造方法であって、前記発泡剤は、熱膨張性マイクロカプセルである、物品の製造方法。」
<相違点3-3>
本件発明1では、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをAとし、前記接着剤組成物に対して、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをBとしたとき、A<B」であるのに対し、甲3B発明ではそのような特定がなされていない点
<相違点3-4>
本件発明1では、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの頂点の時間をT1とし、前記接着剤組成物から前記発泡剤を除いた組成物に対して、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの頂点の時間をT2としたとき、前記接着工程では、T1<T2となるように、前記接着剤組成物を加熱する」のに対し、甲3B発明では、そのような特定がなされておらず、「前記熱発泡剤の熱発泡温度をT1とし、前記接着層の硬化開始温度をT2とし、前記コート層のガラス転移温度をT3としたとき、T3<T1≦T2を満足するもの」である点
イ 相違点3-3について検討する。上記(1)イでの検討のとおり、甲3では熱発泡温度の測定手法及び接着層の硬化開始温度の測定手法について記載されているが、「カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線」を求めるための測定は行われておらず、「前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線」について硬化開始から硬化終了までのDSC曲線のグラフ全体は示されていない。すなわち、いずれの曲線についても反応開始から終了までのグラフ全体が示されていないことから、曲線のピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線の傾きを求めることはできない。そして、前述および後述のとおり甲2、甲4のいずれの文献にも、発泡剤を特定の条件で加熱した際の発泡率を縦軸とし時間を横軸とした発泡率-時間曲線、および、同じ加熱条件で接着剤組成物を加熱した際の熱流を縦軸とし時間を横軸としたDSC曲線における、それぞれの曲線のピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線の傾きについて記載も示唆もなく、甲2~4のいずれの文献にも両曲線における接線の傾きの関係を特定のものとする動機付けとなる記載や示唆もない。そうすると、当業者といえども、甲3B発明の接着方法において、前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをAとし、前記接着剤組成物に対して、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをBとしたとき、AとBの関係を特定のものとすることを着想し、その関係をA<Bに特定することは容易になし得たとはいえない。
してみると、相違点3-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ よって、本件発明4は甲3に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
(4)本件発明2、3について(理由3-2について)
本件発明2、3は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明2、3も、甲3に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない
(5)申立ての理由2-2、3-2についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立ての理由2-2、3-2によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
6 申立ての理由2-3、3-3について
(1)本件発明4について(理由2-3、理由3-3について)
ア 本件発明4と甲4A発明を対比すると、甲4A発明における「エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂と相溶したアクリル樹脂」、「発泡剤」、「エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂と相溶したアクリル樹脂と、硬化剤と、発泡剤とを含有し・・・発泡性接着シートの接着層に用いられる接着剤組成物」はそれぞれ、本件発明4の「熱硬化性樹脂」、「発泡剤は、熱膨張性マイクロカプセル」、「熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物」に相当する。
すると、本件発明4と甲4A発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物であって、前記発泡剤は、熱膨張性マイクロカプセルである、接着剤組成物。」
<相違点4-1>
本件発明4では、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをCとし、
前記接着剤組成物に対して、前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをDとしたとき、C<D」であるのに対し、甲4A発明ではそのような特定がなされていない点。
<相違点4-2>
本件発明4では、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの頂点の時間をT1とし、前記接着剤組成物から前記発泡剤を除いた組成物に対して、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの頂点の時間をT2としたとき、T1<T2となるように加熱して用いられる」のに対し、甲4A発明ではそのような特定がなされていない点
イ 相違点4-1について検討する。甲4の【0078】には「発泡剤の発泡開始温度は、エポキシ樹脂の軟化温度以上であり、かつ、エポキシ樹脂の硬化反応の活性化温度以下であることが好ましい」ことが記載されているが、発泡剤の発泡反応及び接着剤組成物の硬化反応の測定について記載されておらず、さらには、「カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線」や「前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線」についても記載も示唆もない。すなわち、いずれの曲線についても反応開始から終了までのグラフ全体が示されていないことから、曲線のピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線の傾きを求めることはできない。
よって、相違点4-1は実質的な相違点である。
また、前述のとおり、甲2、3のいずれの文献にも、発泡剤を特定の条件で加熱した際の発泡率を縦軸とし時間を横軸とした発泡率-時間曲線、および、同じ加熱条件で接着剤組成物を加熱した際の熱流を縦軸とし時間を横軸としたDSC曲線における、それぞれの曲線のピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線の傾きについて記載も示唆もなく、甲2~4のいずれの文献にも両曲線における接線の傾きの関係を特定のものとする動機付けとなる記載や示唆もない。そうすると、当業者といえども、甲4A発明の接着剤組成物について、前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをCとし、前記接着剤組成物に対して、前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをDとしたとき、CとDの関係を特定のものとすることを着想し、その関係をC<Dに特定することは容易になし得たとはいえない。
してみると、相違点4-2について検討するまでもなく、本件発明4は、甲4に記載された発明ではなく、甲4に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 申立人は、特許異議申立書の4.I(2)(2-3)イ)において、「さらに甲第4号証の段落0125には、発泡開始時において、流動性が向上し、良好な発泡性を得ることができる旨、及び発泡後の硬化時(発泡剤の発泡が終了してから接着剤組成物が硬化するまでの間)に収縮が起きる場合があるため、この際に接着剤組成物がある程度の粘弾性を有することにより収縮を抑えることができ、良好な形状保持性を得ることができる旨の記載がある。この記載から甲第4号証に記載された発明は、前述した甲2発明及び甲3発明と同様に、発泡剤であるマイクロカプセルを十分に発泡させた状態で、マイクロカプセルの発泡状態を保持したまま硬化させることを目的の一つとしていることが分かる。甲2発明及び甲3発明の説明の項でも述べた通り、発泡剤であるマイクロカプセルを十分に発泡させた状態で、マイクロカプセルの発泡状態を保持したまま硬化させるためには、発泡が十分に起こった後すぐに熱硬化性樹脂が硬化する必要があり、発泡が熱硬化性樹脂の硬化よりも先に起こってピークを迎える必要があることは、わざわざ明文化して説明するまでもなく自明の事実であると言える。」と主張している。
しかしながら、甲4の【0125】では、発泡開始温度での貯蔵弾性率を特定値以下とし、かつ、硬化開始温度での貯蔵弾性率を特定値以上とすることで、収縮を抑えることができ、良好な形状保持性を得ることができることが説明されており、マイクロカプセルを十分に発泡させた状態で、マイクロカプセルの発泡状態を保持したまま硬化させることを目的とすることまで説明されたものとはいえない。また、甲4の記載から、発泡剤であるマイクロカプセルを十分に発泡させた状態で、マイクロカプセルの発泡状態を保持したまま硬化させるためには、発泡が十分に起こった後すぐに熱硬化性樹脂が硬化する必要があり、発泡が熱硬化性樹脂の硬化よりも先に起こってピークを迎える必要があることまで記載又は示唆されておらず、自明な事項ともいえない。さらに、本件発明4における傾きC、Dに対応する「発泡」と「硬化」のそれぞれのピーク時からの発泡速度と硬化速度を比較しているものでもなく。ましてや、発泡と硬化の反応速度の関係から、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをCとし、前記接着剤組成物に対して、前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをDとしたとき、C<D」となる関係を導き出すことができる根拠も示されていない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 以上のとおり、相違点4-2について検討するまでもなく、本件発明4は、甲4に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえない。また、本件発明4は甲4に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
(2)本件発明5(理由2-3、理由3-3について)
本件発明5は、本件発明4を引用し、さらに限定するものであるため、本件発明5も、甲4に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、甲4に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
(3)本件発明1(理由3-3について)
ア 本件発明1と甲4B発明を対比すると、上記(1)アでの検討のとおり、甲4B発明の甲4A発明における「エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂と相溶したアクリル樹脂」、「発泡剤」、「エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂と相溶したアクリル樹脂と、硬化剤と、発泡剤とを含有し・・・発泡性接着シートの接着層に用いられる接着剤組成物」はそれぞれ、本件発明4の「熱硬化性樹脂」、「発泡剤は、熱膨張性マイクロカプセル」、「熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物」に相当する。
また、甲4B発明の「第一部材および第二部材の間に、甲4A発明の接着剤組成物を接着層に用いた発泡性接着シートを配置する配置工程」、「発泡性接着シートを発泡硬化させ、第一部材および第二部材を接着する接着工程」はそれぞれ、本件発明1の「第一部材および第二部材の間に、熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物を配置する配置工程」、「前記接着剤組成物を加熱して発泡硬化させ、前記第一部材および前記第二部材を接着する接着工程」に相当する。
すると、本件発明1と甲4B発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「第一部材および第二部材の間に、熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物を配置する配置工程と、前記接着剤組成物を加熱して発泡硬化させ、前記第一部材および前記第二部材を接着する接着工程と、を有する物品の製造方法であって、前記発泡剤は、熱膨張性マイクロカプセルである、物品の製造方法。」
<相違点4-3>
本件発明1では、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをAとし、前記接着剤組成物に対して、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをBとしたとき、A<B」であるのに対し、甲4B発明ではそのような特定がなされていない点
<相違点4-4>
本件発明1では、「前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの頂点の時間をT1とし、前記接着剤組成物から前記発泡剤を除いた組成物に対して、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの頂点の時間をT2としたとき、前記接着工程では、T1<T2となるように、前記接着剤組成物を加熱する」のに対し、甲4B発明ではそのような特定がなされていない点
イ 相違点4-3について検討する。
上記(1)イでの検討のとおり、甲4では「発泡剤の発泡開始温度は、エポキシ樹脂の軟化温度以上であり、かつ、エポキシ樹脂の硬化反応の活性化温度以下であることが好ましい」ことが記載されているが、発泡剤の発泡反応及び接着剤組成物の硬化反応の測定について記載されておらず、さらには、「カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、室温から前記発泡剤の最大発泡温度まで5分で昇温し、前記発泡剤の最大発泡温度で保持する加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線」や「前記加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線」についても記載も示唆もない。すなわち、いずれの曲線についても反応開始から終了までのグラフ全体が示されていないことから、曲線のピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線の傾きを求めることはできない。そして、前述のとおり甲2、甲3のいずれの文献にも、発泡剤を特定の条件で加熱した際の発泡率を縦軸とし時間を横軸とした発泡率-時間曲線、および、同じ加熱条件で接着剤組成物を加熱した際の熱流を縦軸とし時間を横軸としたDSC曲線における、それぞれの曲線のピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線の傾きについて記載も示唆もなく、甲2~4のいずれの文献にも両曲線における接線の傾きの関係を特定のものとする動機付けとなる記載や示唆もない。そうすると、当業者といえども、甲4B発明の接着方法において、前記発泡剤に対して、カメラを搭載した示差走査熱量計を用いて、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、前記発泡剤の発泡率を縦軸とした発泡率-時間曲線において、ピークの長時間側の曲線にピークの頂点で引いた接線の傾きをAとし、前記接着剤組成物に対して、前記接着工程での加熱条件で、示差走査熱量測定を行ったときの、時間を横軸、熱流を縦軸としたDSC曲線において、発熱ピークの長時間側の曲線に発熱ピークの頂点で引いた接線の傾きをBとしたとき、AとBの関係を特定のものとすることを着想し、その関係をA<Bに特定することは容易になし得たとはいえない。
してみると、相違点4-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ よって、本件発明1は甲4に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
(4)本件発明2、3について(理由3-3について)
本件発明2、3は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明2、3も、甲4に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない
(5)申立ての理由2-3、3-3についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立ての理由2-3、3-3によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
7 申立ての理由4について
(1)産業上利用することができる発明について
特許法第29条第1項柱書は、「産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明については特許を受けることができる。」と定め、その前提となる「発明」について同法第2第1項が、「この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と定めている。
ここで、本件発明1~5は、上記第2に記載のとおり、「熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物」、及び、「当該接着剤組成物を含有する接着層を有する発泡性接着シート」、並びに、「第一部材および第二部材の間に、熱硬化性樹脂および発泡剤を含有する接着剤組成物を配置する配置工程と、前記接着剤組成物を加熱して発泡硬化させ、前記第一部材および前記第二部材を接着する接着工程と、を有する物品の製造方法」の発泡剤及び接着剤組成物の物性に係るものであり、本件発明1~5で特定された発泡剤及び接着剤組成物の物性を満たす接着剤組成物を用いた「本開示における物品の製造方法は、接着強度を向上させることが可能である」(本件明細書等【0011】)という効果を奏するものである。
したがって、本件発明1~5は、(i)自然法則自体、(ii)単なる発見であって創作でないもの、(iii)自然法則に反するもの、(iv)自然法則を利用していないもの、(v)技術的思想でないもの、(vi)発明の課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能なもの、のいずれにも該当しない自然法則を利用した技術的思想の創作であることから「発明」に該当するとともに、(ア)人間を手術、治療又は診断する方法の発明、(イ)業として利用できない発明、(ウ)実際上、明らかに実施できない発明、のいずれにも該当しないことから、「産業上利用することができる発明」に該当する。
(2)申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の4.IIIにおいて、「前述したように本件の発明の詳細に記載された実施例、比較例及び甲第2号証乃至甲第4号証の記載によれば、従来から知られていた発泡性接着シートは全て図9(a)のようなグラフとなることは当然のことであり、本発明者らはこのグラフからA<B又はC<DかつT1<T2という関係を単に発見しただけであるともいえる。そうすると、本件各発明は特許法第29条第1項柱書に規定される発明に該当しないものであり、特許を受けるべきものではない。もし、そうではない場合、前述した通り実施例の欄には、本件発明の実施例としてわずかに2例の製造例1及び4のみが挙げられているだけであり、しかもこれら製造例1と4とはその組成がほとんど同じものであるから、製造例1及び4において、実施例に記載された加熱条件で加熱した場合に限り、偶然にA<B又はC<DかつT1<T2の関係が成り立っている可能性も考えられる。」と主張している。
しかしながら、本件明細書等には比較例に相当する図9(c)や図10(b)のようなグラフが記載されているように、従来から知られていた発泡性接着性シートの全てが図9(a)のようなグラフとなることが当然であるとはいえず、申立人の主張には他に具体的な根拠が示されていない。そして、本件明細書等の実施例および比較例の比較からA<B又はC<DかつT1<T2の関係を満たす接着剤組成物を用いた物品の製造方法は接着強度を向上させることが可能であることを見いだしたものであり、単なる発見とはいえない。また、実施例の2例が「偶然にA<B又はC<DかつT1<T2の関係が成り立っている可能性も考えられる」との主張について、当該主張によりなぜ発明該当性の要件を満たさないのか具体的に説明されていない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(3)申立ての理由4についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立ての理由4によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
8 申立ての理由5について
(1)申立人の主張
申立人は特許異議申立書の4.IV(1)において、「しかしながら、前述したように、本件各発明の実施例としては、わずかに2例のみが記載されているだけであり、本件の発明の詳細な説明の他の部分をみても、接着剤組成物をどのような組成にすれば硬化触媒及び硬化剤を含む他の場合において、傾きA~Dをどのように制御できるのかについて、たとえ当業者であっても一切理解することができない。」こと、「また、T1<T2の関係を満たすための加熱条件については段落0123及び0124に説明があるが、接着剤組成物の具体例としてはほとんど組成が同じ製造例1及び製造例4の場合しか示されていないので、接着剤組成物の組成が別のものである場合に段落0123及び0124同様の方法でT1<T2の関係を満たすことができるのかどうかが分からない。」こと、「当業者が前述したA<B又はC<Dである点及びT1<T2である点を両方満たすためには単純に接着剤組成物の組成を検討するだけでは足りず、物品の製造方法における加熱条件をも踏まえた条件接着剤組成物の組成の検討が必要となる。」ことから、「当業者が実施しようとする場合には、許容される範囲を大きく超える試行錯誤が求められることとなることはあきらかである。」旨主張している。
(2)当審の判断
本件明細書等の【0046】には「熱膨張性マイクロカプセルのシェルの厚さを調整することにより、傾きAを制御することができる」ことが記載されている。また、同【0047】には「接着剤組成物の組成を調整することにより傾きBを制御することができる」ことが記載され、その例示として「硬化剤」、「硬化触媒」、「多官能の熱硬化性樹脂」を含有する場合に傾きBが大きくなることが記載されている。そして、同【0120】には、接着工程において、「室温から加熱温度までの昇温時間を調整すること」によりT1とT2を制御することができることが記載されている。そして、接着剤組成物の具体例として、当該組成物に含有させる成分として硬化剤及び/又は硬化触媒の有無により、傾きA,Bの関係が異なる実施例及び比較例が記載されている。また、組成が同じ接着剤組成物について室温から180℃までの昇温時間を変更することにより、T1とT2の関係が異なる実施例及び比較例が記載されている。これらの実施例及び比較例の結果から、接着剤組成物における「硬化剤」、「硬化触媒」の含有の有無、「室温から加熱温度までの昇温時間」を調整することによりA<B又はC<DかつT1<T2を満たす接着剤組成物を作製しうることが理解でき、本件明細書等の【0046】、【0047】、【0120】等の記載を参酌すると、接着剤組成物の樹脂成分の組成が異なる場合についても、接着剤組成物中の「硬化剤」、「硬化触媒」、「多官能の熱硬化性樹脂」の含有量や室温から加熱温度までの昇温時間を調整することによって、接着剤組成物の物性をA<B又はC<DかつT1<T2を満たすものとすることができるといえる。
よって、申立人の主張は採用できない。
(3)申立ての理由5についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立ての理由5によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
9 申立ての理由6について
(1)申立人の主張
申立人は特許異議申立書の4.IV(2)において、「前述したように本件の発明の詳細な説明には、実施例としてわずかに2例(しかもほとんど同じ組成の2例)の接着剤組成物についての実験例しか記載されておらず、このわずかな験結果からだけでは、A<B又はC<Dである点及びT1<T2である点を満たす全ての接着剤組成物について、前記接着剤組成物に含有された熱硬化樹脂の硬化反応が進行する前に、前記発泡剤の膨張を進行させ、該発泡剤を十分に膨張させるという2つを達成することで、発泡性接着シートを2つの部材の間で十分に膨張した状態で硬化させて、その結果として接着強度を向上させることができるなどとは到底理解できない。新規性の項でも述べたように、「DSCにおける発熱ピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線」という記載自体が不明確であるため、そもそもA<B(又はC<D)についてその外縁が定義されていないのであるからなおさらである。」ことから、本件発明1~5はサポート要件と満たしていない旨主張している。
(2)当審の判断
本件発明の課題は、「接着強度を向上させることが可能な物品の製造方法、ならびにそれに用いられる接着剤組成物および発泡性接着シートを提供することを主目的とする」(本件明細書等【0007】)ものである。
本件明細書等の【0022】~【0023】には、「A<Bであることにより、発泡剤の収縮が進行する前に、熱硬化性樹脂の硬化反応を進行させ、熱硬化性樹脂を十分に硬化させることができる。そのため、発泡時の接着層の厚さを維持することができ、接着強度を向上させることができる。一方、A≦Bである場合には、熱硬化性樹脂の硬化反応が進行する前に、発泡剤の収縮が進行してしまう。そのため、発泡時の接着層の厚さを維持することができず、接着強度が低下する可能性がある。」ことが記載され、同【0025】~【0026】には、「接着工程では、T1<T2となるように、接着剤組成物を加熱することにより、熱硬化性樹脂の硬化反応が進行する前に、発泡剤の膨張を進行させ、発泡剤を十分に膨張させることができる。そのため、発泡時の接着層の厚さを厚くすることができ、接着強度を向上させることができる。一方、T1≧T2である場合には、発泡剤の膨張が進行する前に、熱硬化性樹脂の硬化反応が進行してしまう。そのため、発泡剤の膨張が阻害され、発泡時の接着層の厚さが薄くなり、接着強度が低下する可能性がある。」ことが記載され、同【0159】には、「CおよびDの関係については、上記「A.物品の製造方法」に記載した、AおよびBの関係と同様である。」ことが記載され、同【0027】には、「接着剤組成物が、A<Bを満たしており、かつ、接着工程では、T1<T2となるように、接着剤組成物を加熱することにより、接着強度を向上させることができる。したがって、本開示における物品の製造方法により得られる物品の信頼性や耐久性等を向上させることが可能である。」ことが記載されている。すると、本件発明の課題を解決する接着剤組成物は、A<B又はC<D、及び、T1<T2の要件を満たすものであることが理解できる。
そして、本件明細書等の【0174】~【0177】、【0184】~【0187】には、A<B又はC<D、及び、T1<T2の要件を満たす接着剤組成物の実施例と当該要件を満たさない比較例が記載されており、A<B又はC<D、及び、T1<T2の要件を満たすことにより接着強度が向上することが確認されたことから、本件発明の課題を解決しうることが読み取れる。
してみれば、A<B又はC<D、及び、T1<T2の要件を満たす接着剤組成物、及び、当該接着剤組成物を含有する接着層を有する発泡性接着シート、並びに、当該発泡性接着性シートを用いた物品の製造方法は、本件発明の課題を解決しうるものといえる。
申立人の主張は、要するに、本件発明1~5には、A<B又はC<D、及び、T1<T2の要件を満たす接着剤組成物に実施例に示された接着剤組成物の組成以外の態様が含まれていることを主張するだけであり、当該態様が課題を解決することができないものであることに関する主張・立証は含まれていない。
また、申立人の「新規性の項でも述べたように、「DSCにおける発熱ピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線」という記載自体が不明確である」との主張について、新規性の項において「なお、本件発明4(又は本件発明1)に記載されている「DSCにおける発熱ピークの長時間側の曲線に頂点で引いた接線」という記載自体が不明確であるともいえる」と記載されているのみであり、不明確である具体的理由が示されていないところ、特許異議申立書における当該記載に続いて主張されている申立人が示したDSC曲線に基づく主張は、上記4(1)ウでの検討のとおり、本件明細書等に記載された接着剤組成物あるいは接着剤組成物から発泡剤を除いた組成物についてのDSC曲線はいずれも申立人が示したDSC曲線のような70%を超えて急激に傾きが変わる結果にはなっておらず、通常の接着剤組成物において申立人が示したようなDSC曲線となる技術常識もないことから、具体的な根拠に基づいた主張とはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(3)申立ての理由6についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立ての理由6によって本件特許を取り消すべきものとすることはできない。
第5 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-701120