特許異議申立
2023-701099
活性エネルギー線硬化型オフセットインキ、これを用いた印刷物、及び印刷物の製造方法
- 審判番号
- 2023-701099
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-080773
- 登録番号
- 7258204
- 請求日
- 2023年10月14日
- 審決日
- 2024年06月06日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】DICグラフィックス株式会社
- 【権利者代理人】大野 孝幸
- 【異議申立人】各務 祐子
- 審判長/審判官
- 審判長 関根 裕
- 審判官 長谷川 真一
- 審判官 門前 浩一
- 分類
- P1652.113-YAA(C09D) / P1652.121-YAA(C09D) / P1652.536-YAA(C09D) / P1652.537-YAA(C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7258204号発明「活性エネルギー線硬化型オフセットインキ、これを用いた印刷物、及び印刷物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7258204号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
特許第7258204号の請求項1、2、5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7258204号の請求項1~9に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、令和4年5月17日に出願され、令和5年4月6日に特許権の設定登録がされ、同年同月14日に特許掲載公報が発行された。その後、令和5年10月14日に特許異議申立人である各務 祐子(以下「申立人」という。)により、請求項1、2、5に係る特許について特許異議の申立てがされ、令和6年1月16日付けで取消理由が通知され、同年2月22日に特許権者から意見書及び訂正の請求(以下この請求による訂正を「本件訂正」という。)が提出され、同年3月14日付けで当審から申立人に訂正請求があった旨の通知がされたものである。なお、当該通知に対して、申立人からの応答はなかった。
第2 本件訂正についての判断
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7258204号の特許請求の範囲を本請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1-9について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正事項
本件訂正は次の訂正事項からなる。下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
請求項1において、
「光重合開始剤と、エチレン性二重結合を有する化合物、及びジメチルジチオカルバミン酸銅錯体である安定剤を含有する活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキであって、」と記載されているのを、
「光重合開始剤と、エチレン性二重結合を有する化合物、及びジメチルジチオカルバミン酸銅錯体である安定剤を含有する活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキであって、
前記光重合開始剤が、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-ピペリジニルフェニル)-1-ブタノン、1-(ビフェニル-4-イル)-2-メチル-2-モルフォリノプロパン-1-オン、1-(4-メトキシフェニル)-2-メチル-2-モルフォリン-4-イル-プロパン-1-オン、ポリエチレングリコール(200)ジ(β-4[4-(2-ジメチルアミノ-2-ベンジル)ブタノニルフェニル]ピペラジンプロピオネートからなる群より選ばれるα-アミノアルキルフェノン化合物であり、」に訂正する。(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~9も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
請求項2において、
「(1)α-アミノアルキルフェノン化合物、及び/又はアシルフォスフィンオキサイド化合物である光重合開始剤(1)と、」と記載されているのを
「(1)前記α-アミノアルキルフェノン化合物である光重合開始剤(1)と、」に訂正する。(請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項5、8、9も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
請求項3において、
「前記α-アミノアルキルフェノン化合物が、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-ピペリジニルフェニル)-1-ブタノン、1-(ビフェニル-4-イル)-2-メチル-2-モルフォリノプロパン-1-オン、1-(4-メトキシフェニル)-2-メチル-2-モルフォリン-4-イル-プロパン-1-オン、ポリエチレングリコール(200)ジ(β-4[4-(2-ジメチルアミノ-2-ベンジル)ブタノニルフェニル]ピペラジンプロピオネートである請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ。」と記載されているのを、
「 前記活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキが、
(1)α-アミノアルキルフェノン化合物、及びアシルフォスフィンオキサイド化合物である光重合開始剤(1)と、
(2)ベンゾフェノン化合物、チオキサントン化合物、及び/又はケトクマリン化合物である光重合開始剤(2)と、
(3)ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体である安定剤と、
(4)エチレン性二重結合を有する化合物
を含有する請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ。」に訂正する。(請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項8、9も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
請求項5において、
「請求項1に記載の」と記載されているのを、「請求項2に記載の」に訂正する。(請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項8、9も同様に訂正する。)
3 訂正要件についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1~9のうち、請求項2~8は、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項であるから、訂正前の請求項1~9は、特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「光重合開始剤」の種類を限定するものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上の拡張・変更の有無
上記アで検討したように、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるから、特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項1の「光重合開始剤」の種類を限定する訂正は、訂正前の請求項3の記載「前記α-アミノアルキルフェノン化合物が、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-ピペリジニルフェニル)-1-ブタノン、1-(ビフェニル-4-イル)-2-メチル-2-モルフォリノプロパン-1-オン、1-(4-メトキシフェニル)-2-メチル-2-モルフォリン-4-イル-プロパン-1-オン、ポリエチレングリコール(200)ジ(β-4[4-(2-ジメチルアミノ-2-ベンジル)ブタノニルフェニル]ピペラジンプロピオネートである」に基づくものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(3)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項2における「光重合開始剤(1)」の選択肢である「アシルフォスフィンオキサイド化合物」を削除して、「光重合開始剤(1)」を、「前記α-アミノアルキルフェノン化合物」に限定するものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上の拡張・変更の有無
上記アで検討したように、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるから、特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項2は、「光重合開始剤(1)」の選択肢を削除するものであるから、新規事項を追加するものでない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(4)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項3における光重合開始剤の特定が訂正事項1により請求項1を特定することになったため重複するため削除し、また、「活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ」を訂正前の請求項2に記載された構成に減縮するとともに、訂正前の請求項2において、「光重合開始剤(1)」について、「α-アミノアルキルフェノン化合物、及び/又はアシルフォスフィンオキサイド化合物」と特定されていたものを、「又は」を削除することにより、「α-アミノアルキルフェノン化合物、及びアシルフォスフィンオキサイド化合物」に限定するものであるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上の拡張・変更の有無
上記アで検討したように、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであるから、特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項3は、「光重合開始剤(1)」について「又は」という択一的な記載の要素を削除するものであるから、新規事項を追加するものでない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(5)訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正前の請求項5において、「前記ベンゾフェノン化合物」に相当する記載のない訂正前の請求項1を引用していたものを、「前記ベンゾフェノン化合物」に相当する記載のある請求項2を引用するように訂正するものであるから、は特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 実質上の拡張・変更の有無
上記アで検討したように、訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的として、請求項の引用関係を訂正しただけのものであるから、特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の追加の有無
上記アで検討したように、訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的として、請求項の引用関係を訂正しただけのものであるから、新規事項を追加するものでない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(6)独立特許要件について
本件訂正前の請求項1、2、5は、特許異議の申立てがされた請求項であるから、これらの請求項に対する訂正事項については、いわゆる独立特許要件は課されない。
本件訂正前の請求項3~4、6~9は、特許異議の申立てがされていない請求項であって、かつ、上記(2)~(4)のとおり、これらの請求項に係る訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を含むものであるので、いわゆる独立特許要件についての検討を要する。
そこで、本件訂正後の請求項3~4、6~9に係る発明が、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討すると、後記第5の2(2)、3(1)で記載するように、本件訂正後の請求項1に係る発明(後記第3の1の「本件発明1」)は、後記甲1、甲6-2、甲7に記載された発明ではなく、後記甲1、甲6-2、甲7に記載された発明並びに後記甲1~甲9及び文献Aの記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではないから新規性、進歩性を有すると認められ、したがって、本件訂正後の請求項1に係る発明の発明特定事項を全て包含する本件訂正後の請求項3~4、6~9に係る発明も、新規性、進歩性を有すると認められる。
また、後記第5の3(2)で記載するように、本件訂正後の請求項1に係る発明(本件発明1)は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえるから、本件訂正後の請求項1に係る発明の発明特定事項を全て包含する本件訂正後の請求項3~4、6~9に係る発明は、サポート要件を満たすと認められる。
さらに、後記第5の3(3)で記載するように、本件明細書には、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているといえるから、委任省令要件を満たしている。
そして、他に、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しないから、訂正後の請求項3~4、6~9に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、本件訂正は、独立特許要件を満たすものである。
4 小括
上記3(1)~(6)において検討した訂正要件についての判断をまとめると、訂正事項1~4の訂正は、いずれも訂正要件を満たすものであるから、本件訂正は適法なものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
第3 本件発明等
1 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたから、本件特許の請求項1~9のうち、特許異議の申立ての対象である本件特許の請求項1、2、5に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明5」ともいう。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 光重合開始剤と、エチレン性二重結合を有する化合物、及びジメチルジチオカルバミン酸銅錯体である安定剤を含有する活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキであって、
前記光重合開始剤が、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-ピペリジニルフェニル)-1-ブタノン、1-(ビフェニル-4-イル)-2-メチル-2-モルフォリノプロパン-1-オン、1-(4-メトキシフェニル)-2-メチル-2-モルフォリン-4-イル-プロパン-1-オン、ポリエチレングリコール(200)ジ(β-4[4-(2-ジメチルアミノ-2-ベンジル)ブタノニルフェニル]ピペラジンプロピオネートからなる群より選ばれるα-アミノアルキルフェノン化合物であり、
前記インキの増粘測定方法によるトルクが20%上昇するまでのゲル化速度が、750秒~1000秒の範囲であることを特徴とする活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ。
但し、前記ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量が、インキ全量の0.04質量%~0.25質量%であり、前記光重合開始剤全量の0.19質量%~1.42質量%であり、且つ前記エチレン性二重結合を有する化合物全量の0.08質量%~0.52質量%の範囲である。
尚、ゲル化速度の測定は、自動硬化時間測定装置を用い、1回の測定に用いる活性エネルギー線硬化型オフセットインキは0.2mlとし、攪拌条件として回転速度を自転300rpm、公転速度120rpmとし、昇温スピードは80℃で5分間安定した事を確認した上で、その後1000秒で250℃となるように昇温する。
また、インキ容器の底と撹拌子の先端のギャップ値は0.1mmに設定する。
【請求項2】 前記活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキが、
(1)前記α-アミノアルキルフェノン化合物である光重合開始剤(1)と、
(2)ベンゾフェノン化合物、チオキサントン化合物、及び/又はケトクマリン化合物である光重合開始剤(2)と、
(3)ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体である安定剤と、
(4)エチレン性二重結合を有する化合物
を含有する請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ。
・・・
【請求項5】 前記ベンゾフェノン化合物が、4,4´-ビス-(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4´-ビス-(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルフィド、4-メチルベンゾフェノンから成る群から選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ。」
2 本件明細書の記載
本件特許明細書には次の記載がある。
「【0004】
本発明の課題は、インキのゲル化を抑制した上で、従来のメタルハライドランプや高圧水銀灯はもとより、オゾンが発生しないオゾンレスメタルハライドランプや、発光ダイオード、UV-LEDランプでも優れた硬化性と密着性を兼備することを特徴とする活性エネルギー線硬化型オフセットインキを提供することにある。更には、該インキを用いた印刷物、及び印刷物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、光重合開始剤と、エチレン性二重結合を有する化合物を含有する活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキであって、
前記インキの増粘測定方法によるインキのゲル化速度が特定の範囲である事で、インキがゲル化し難く優れた硬化性と密着性を兼備する事ができる活性エネルギー線硬化型オフセットインキが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」
「【発明の効果】
【0020】
本発明により、インキのゲル化を抑制した上で、従来のメタルハライドランプや高圧水銀灯はもとより、オゾンが発生しないオゾンレスメタルハライドランプや、発光ダイオード、UV-LEDランプでも優れた硬化性と密着性を兼備することを特徴とする活性エネルギー線硬化型オフセットインキを提供することが出来る。更には、該インキを用いた印刷物、及び印刷物の製造方法を提供することが出来る。」
「【0021】
本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキは、光重合開始剤と、エチレン性二重結合を有する化合物を含有する活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキであって、
前記インキの増粘測定方法によるトルクが20%上昇るまでのゲル化速度が、750秒~1000秒の範囲であることで、目的とする本発明の効果を奏するものである。
【0022】
活性エネルギー線硬化型インキは、常温に保管されることが一般的であるが、保管中にゲル化する場合がある。水銀ランプやメタルハライドランプといった光源の紫外線硬化型インキと比べて、オゾンが発生しないオゾンレスメタルハライドランプを使用し230~420nmの紫外線を発生するような光源や、発光ピーク波長が350~420nmの範囲の紫外線を発生する発光ダイオードUV-LED等の紫外線硬化型インキは更にゲル化しやすい傾向がある。これはUVランプの出力、発光波長が限定され、それを補うために紫外線硬化型インキ中の光重合開始剤を多量に使用しなければいけない事に原因する。
そこで、出来るだけゲル化し難い活性エネルギー線硬化型オフセットインキが望まれまる。
本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキでは、インキを一定の条件で攪拌しながら昇温することで、攪拌開始からトルクが20%上昇するまでの時間(秒数)でゲル化速度とみなし、ゲル化速度が750秒~1000秒の範囲である事を必須とする。ゲル化速度が750秒~1000秒の範囲であれば、ゲル化し難い傾向となり、1000秒を超えるとインキ自体が固化してしまう傾向にある。
尚、本発明ではゲル化速度の測定は、自動硬化時間測定装置「まどか」株式会社サイバー製を用いて測定した。
また、1回の測定に用いる活性エネルギー線硬化型オフセットインキは0.2mlとし、攪拌条件として回転速度を自転300rpm、公転速度120rpmとした。
昇温スピードは80℃で5分間安定した事を確認した上で、その後1000秒で250℃となるように昇温した。
また、インキ容器の底と撹拌子の先端のギャップ値は0.1mmに設定した。」
「【0048】
<安定剤>
本発明の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキは、ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体を含有することが好ましい。当該安定剤を含むことで、光が当たらない状況下で熱や金属イオン、自動酸化等により発生するフリーラジカルを補足することが可能となり、活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキの意図しない重合反応を抑制し、インキの粘度を長期間に渡り適正な範囲に保つこと可能となる。前記ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体はインキ全量に対して0.01~0.3質量%含有することが好ましい。
【0049】
(ジアルキルジチオカルバミン酸銅錯体)
本発明に使用するジアルキルジチオカルバミン酸銅錯体は、例えば、ジメチルジチオカルバミン酸銅、ジエチルジチオカルバミン酸銅、ジブチルジチオカルバミン酸銅等が挙げられる。中でもジメチルジチオカルバミン酸銅が好ましい。
・・・
【0051】
本発明に使用する少なくとも1種の安定剤は、インキ全量に対して0.01~0.30質量%含有することが好ましく、この範囲であれば、本発明の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキの硬化性能を低下させることがないため好ましい。また、当該安定剤は、インキ全量に対して0.03~0.20質量%含有することがさらに好ましい。」
「【実施例】
【0074】
以下、実施例と比較例とにより、本発明を具体的に説明する。
【0075】
[DAP-Aワニスの製法]
ジアリルフタレート樹脂(ダイソーダップA、株式会社大阪ソーダ製)固形分33.33質量%とMIRAMER M600 ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(MIWON社製)66.67質量%を90℃で充分溶解、攪拌させDAPワニスを作製した。
【0076】
[活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキの製造方法]
表1~表4に記載の配合に従って、実施例1~13及び比較例1~12の活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキを3本ロールミルにて練肉することによって、活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキを得た。尚、表中の空欄は、未配合を意味し、表中の数値は質量%である。
【0077】
作製した前記活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキについて、各々ゲル化速度、硬化性、及び密着性について評価した。
【0078】
(評価項目1:ゲル化速度)
ゲル化速度の測定は、自動硬化時間測定装置「まどか」株式会社サイバー製を用い、攪拌開始からトルクが20%上昇するまでの時間(秒数)を測定した。秒数が少ない方がゲル化し易い傾向となる。
1回の測定に用いる活性エネルギー線硬化型オフセットインキは0.2mlとし、攪拌条件として回転速度を自転300rpm、公転速度120rpmとした。
昇温スピードは80℃で5分間安定した事を確認した上で、その後1000秒で250℃となるように昇温した。
また、インキ容器の底と撹拌子の先端のギャップ値は0.1mmに設定した。 評価基準は下記の4段階とした。
(評価基準)
4:840秒以上~1000秒未満
3:810秒以上~840秒未満
2:750秒以上~810秒未満
1:750秒未満
【0079】
(評価項目2:硬化性)
硬化性については基材へのインキの浸透がなく評価し易い王子タック株式会社製OKタック(ポリエチレンテレフタレート製タックフィルム) UVPETトウメイ25FL-Sに、実施例及び比較例のインキ0.125mLを用いて、簡易展色機(RIテスター、豊栄精工株式会社製)を使用して印刷した。この印刷物を水冷式UV-LED(中心発光波長385nm±5nmUV-LEDの出力100%)及びベルトコンベアを搭載したUV照射装置(アイグラフィックス株式会社製)を使用し、印刷物をコンベア上に載せ、コンベアスピード10m/分~35m/分の範囲の速度で、LED直下(照射距離9cm)を通過させ、印刷物に紫外線(UV)照射しインキ皮膜を硬化乾燥させた。
作製した印刷物ベタ部表面を上質紙で擦り、インキが付着しなくなったコンベアスピードで硬化性を、下記の5段階の評価基準に従って評価した。
(評価基準)
5:30m/分以上 35m/分以上未満である。
4:25m/分以上 30m/分以上未満である。
3:20m/分以上 25m/分以上未満である。
2:15m/分以上 20m/分以上未満である。
1:10m/分以上 15m/分以上未満である。
【0080】
(評価項目3:密着性)
下記4種の用紙に、実施例及び比較例のインキ0.125mLを用いて、簡易展色機(RIテスター、豊栄精工株式会社製)を使用して印刷した。この印刷物を水冷式UV-LED(中心発光波長385nm±5nmUV-LEDの出力100%)及びベルトコンベアを搭載したUV照射装置(アイグラフィックス株式会社製)を使用し、印刷物をコンベア上に載せ、コンベアスピード10m/分の速度で、LED直下(照射距離9cm)を通過させ、印刷物に紫外線(UV)照射しインキ皮膜を硬化乾燥させた。
尚、各用紙について各々含水量を次の手順にて測定、算出した。
試験装置は円筒状の金属の上底と下底を試験片用紙で形成された容積内に、水道水100mlを充填して測定する。円筒状の金属(内容積100cm3)の上底(50cm2)、下底(50cm2)に予め質量を測定済みの試験片用紙を置き固定する。水が試験片用紙を通して排出しないよう下敷きにポリエチレンラミネート用紙を使用した。試験装置に水道水100mlを充填後、60秒間静置して上底と下底を試験片用紙に水道水を吸収させる。
次に容積内に充填した水道水を取り除き、試験片用紙に上質紙を当てて余分な水分を取り除き、水を吸収した試験片用紙の質量を計測する。
測定は2回行いその平均値とし、「水を吸収させた後の用紙の質量-水を吸収させる前の用紙の質量」から、単位m2当たりの水道水の質量である含水量(g/m2)を算出し、その用紙の含水量(g/m2)とした。
各用紙と含水量は下記の通りである。
・UFコート(王子製紙製コートボール紙 斤量23.5Kg、含水量93.8g/m2)
・しらおい(日本製紙製上質紙 斤量70.5Kg、含水量167.0g/m2)
・米子OKトップコートプラス(王子製紙製 斤量57.5Kg、含水量104.9g/m2)
・ニューエイジ(王子製紙製マットコート紙 斤量44.5Kg、含水量50.8g/m2)
作製した印刷物ベタ部表面を、ニチバン株式会社製セロファンテープ(CT405AP-18)を用い、インキ硬化被膜の基材に対する剥離試験を行い、下記の3段階の評価基準に従って目視評価した。
(評価基準)
○:全く剥離箇所が見られない。
△:全体の面積の50%未満で剥離が見られる。
×:全体の面積の50%以上で剥離が見られる。
【0081】
表1~4に各活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキの各配合、並びに評価結果を示す。
【0082】
【表1】
[図:0001414195000001.jpg]
【0083】
【表2】
[図:0001414195000002.jpg]
【0084】
【表3】
[図:0001414195000003.jpg]
【0085】
【表4】
[図:0001414195000004.jpg]
【0086】
表中の略語は以下の通り。
・FASTOGEN BLUE FA5375: ピグメントブルー15:3藍顔料(DIC株式会社製)
・Miramer M600: ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(Miwon社製)
・Miramer M3130: エチレンオキサイド変性(3mol)トリメチロールプロパントリアクリレート(Miwon社製)
・Omnirad 907:2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン(IGM Resins B.V.社製)
・Omnirad 379: 2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンゾイル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン(IGM Resins B.V.社製)
・Omnirad TPO-L: エチルフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィネート(IGM Resins B.V.社製)
・Omnirad EMK: 4,4´-ビス-(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン(IGM Resins B.V.社製)
・Omnirad DETX: 2,4-ジエチル-9H-チオキサンテン-9-オン(IGM Resins B.V.社製)
・Omnirad 184: 1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IGM Resins B.V.社製)
・サンセラーTT-CU: ジメチルジチオカルバミン酸銅(三新化学工業株式会社製)
・Q-1301:n-ニトロソフィニルハイドロキシルアミンアルミニュウム塩(富士フィルム和光純薬株式会社)
・アデカスタブ7RD: 4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルフリーラジカル(TMPOL)(株式会社ADEKA製)
・メチルヒドロキノン:椿本化成株式会社製」
第4 特許異議の申立ての理由等の概要及び証拠方法について
1 申立人は、特許異議の申立てにおいて、後記4の甲第1号証~甲第9号証(以下「甲1」~「甲9」ともいう。)を提出し、後記2(1)~(5)の新規性(以下「申立理由1」ともいう。)、進歩性(以下「申立理由2」ともいう。)、サポート要件(以下「申立理由3」ともいう。)、委任省令要件(以下「申立理由4」ともいう。)及び明確性要件(以下「申立理由5」ともいう。)を主張した。
2 特許異議の申立ての理由等の概要
(1)申立理由1(新規性)
本件発明1は、本件特許に係る出願(以下「本件出願」ともいう。)前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、後記4の甲1、甲6-2、甲7のいずれかに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性)
本件発明1は、本件出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、後記4の甲1、甲6-2、甲7のいずれかに記載された発明及び後記4の甲1~甲9に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件)
本件出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものであり、同法第113条第4号に該当するから、本件発明1~2に係る特許は取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(委任省令要件)
本件出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないものであり、同法第113条第4号に該当するから、本件発明1~2、5に係る特許は取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(明確性要件)
本件発明5は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、その発明に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
3 当審が通知した取消理由の概要
令和6年1月16日付けの取消理由通知の概要は次のとおりである。
取消理由1:(明確性要件)本件発明5は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、その発明に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
取消理由2:(新規性)本件発明1~2は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、後記4の甲1、甲6-2のいずれかに記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明1~2に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
取消理由3:(進歩性)本件発明1~2、5に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった後記4の甲1、甲6-2のいずれかに記載された発明及び後記4の甲8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1~2、5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
4 甲号証及び当審が引用した文献について
申立人は、次の甲第1号証~甲第9号証を提出した。甲第1号証~甲第9号証を、以下「甲1」~「甲9」ともいう。
甲第1号証:欧州特許出願公開第2463346号明細書
甲第2-1号証:自動硬化時間測定装置「まどか」を説明するウェブサイト、[online]、西邦産業株式会社、インターネット<URL:http://www.seihosangyo.co.jp/madoka/>
甲第2-2号証:インターネットアーカイブウェイバックマシン(Internet Archive Wayback Machine)による甲2の1のアーカイブ、[online]、2019年5月13日、西邦産業株式会社、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20190513235513/http://www.seihosangyo.co.jp/madoka/>
甲第3-1号証:注目製品を紹介するウェブサイト「イプロスものづくり」、[online]、2021年9月6日、インターネット<URL:https://www.ipros.jp/magazine/20210906/>
甲第3-2号証:各種製品を掲載するウェブサイト「製品ナビ」、[online]、2020年4月20日、インターネット<URL:https://www.incom.co.jp/products/detail.php?company_id=5769&product_id=88253>
甲第4-1号証:電子メール「Kromachem社製品の件」、2020年6月16日
甲第4-2号証:甲4の1に添付の「Florstab グレード一覧.pdf」
甲第5号証:「サンセラー TT-CU」の安全データシート、2022年4月1日
甲第6-1号証:ウェブサイト「SEMANTIC SCHOLAR」の「Chemical and commercial aspects of in-can stabilisers for UV-ink and coatings」、[online]、1999年、インターネット<URL:https://www.semanticscholar.org/paper/chemical-and-commercial-aspects-of-in-can^for-and-Kensbock/01a918d2a2451c9ee31e8128f95262c1c2f0ef6d?utm_source=direct_link>
甲第6-2号証:甲6-1の「【PDF】inis.iaea.org」にリンクされた「E.Kensbock, Kromachem Ltd., CHEMICAL AND COMMERCIAL ASPECTS OF IN-CAN STABILISERS FOR UV-INK AND COATINGS」、[online]、インターネット<URL:https://inis.iaea.org/collection/NCLCollectionStore/_Public/31/016/31016333.pdf>
甲第7号証:特表2020-513431号公報
甲第8号証:国際公開第2021/122574号
甲第9号証:化学物質総合情報提供システムにおけるCAS登録番号137-29-1の化学物質情報、[online]、独立行政法人 製品評価技術基盤機構、インターネット<URL:https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/cmpInfDsp?cid=C005-496-26A&bcPtn=0&shMd=0&txNumSh=MTM3LTI5LTE=<NumTp=1<NumMh=0&txNmSh=<NmTp=<NmMh=1&txNmSh1=<NmTp1=&txNmSh2=<NmTp2=&txNmSh3=<NmTp3=&txMlSh=<MlMh=0<ScDp=0<PgCtSt=100&rbDp=0&txScSML=&txScSML2=<ScTp=1&txUpScFl=null&hdUpScPh=&hdUpHash=&rbScMh=1&txScNyMh=&txMlWtSt=&txMlWtEd=&err=>
また、当審において以下の文献を新たに引用した。
文献A:特表2002-515397号公報
5 甲号証及び文献の記載について
(1)甲1には、次の記載がある。翻訳は、申立人が提出したものを参考に当審が作成した。
ア 「
[図:0001414195000005.jpg]
」
(翻訳)
[0001]本発明は、特に改善された耐スクラッチ性を示す、新規かつ改良されたUV硬化型インキに関する。
イ 「
[図:0001414195000006.jpg]
[図:0001414195000007.jpg]
」
(翻訳)
[0033]本発明によれば、好適な反応性希釈剤は、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、2-フェノキシエチルメタクリレート、C12/C14アルキルメタクリレート、C16/C18アルキルアクリレート、C16/C18アルキルメタクリレート、カプロラクトンアクリレート、環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート、エトキシ化(4)ノニルフェノールアクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、イソデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、メトキシポリエチレングリコール(350)モノメタクリレート、オクチルドデシルアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ステアリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、トリデシルアクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、アルコキシル化ジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、エステルジオールジアクリレート、エトキシ化(10)ビスフェノールaジアクリレート、エトキシ化(2)ビスフェノールaジメタクリレート、エトキシ化(3)ビスフェノールaジアクリレート、エトキシ化(3)ビスフェノールaジメタクリレート、エトキシ化(4)ビスフェノールaジアクリレート、エトキシ化(4)ビスフェノールaジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールaジメタクリレート、エトキシ化(10)ビスフェノールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジメタクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジメタクリレート、ポリエチレングリコール400ジアクリレー卜、ポリエチレングリコールジメタクリレート、プロポキシル化(2)ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エトキシ化(15)トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化(3)トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化(6)トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化(9)トリメチロールプロパントリアクリレー卜、エトキシ化5ペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシル化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシル化(5.5)ペンタエリスリトールトリアクリレート、プロポキシル化(3)グリセリルトリアクリレート、プロポキシル化(3)トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートからなる群から選択することができる。
[0034]本発明によれば、ポリウレタンが以下のものであると特に有利であることが見出されている。反応の溶媒となる反応性希釈剤の存在下で合成される。これにより、印刷インキをワンポット工程で製造できるため、本発明の印刷インキの製造が大幅に簡略化される。反応性希釈剤に添加する前に、ポリウレタンを別途合成し、乾燥および精製する必要はない。
[0035]本発明によれば、驚くべきことに、ポリウレタンの合成を反応性希釈剤中で注意深く制御することができ、その結果、かなりの量の不要な副生成物が生成されないことが見出された。さらに、出発原料のOH/NCO比だけでなく、反応混合物の粘度を調整することによっても、ポリウレタンの重合度(すなわち最終分子量)を制御できることが、驚くべきことに発見された。この目的のため、ポリウレタンの合成は、反応性希釈剤をほとんど含まないか、あるいは全く含まない状態で開始される。反応の過程で、反応性希釈剤の添加量を増加させる。例えば、イソシアネートとポリオール成分との反応開始後、全体の約1/5~1/2、好ましくは1/4~1/3が添加される。最終印刷インキに含まれる反応性希釈剤の景を反応混合物に加える。ポリウレタンの生成が進み、反応混合物の粘度が上昇すると、残りの量の反応性希釈剤が添加される。この希釈剤は減速効果を有し、粘度の上昇を緩和する。
ウ 「
[図:0001414195000008.jpg]
」
(翻訳)
[0043]UV硬化により誘発される重合反応を開始させることができる光重合開始剤は、当業者に周知である。例えば、本発明の目的に有用な光重合開始剤として、ベンゾフェノンおよびその誘導体、アセトフェノンおよびその誘導体、ベンゾインおよびその誘導体、またはチオキサントンおよびその誘導体を挙げることができる。本発明に有用な市販の光重合開始剤は、例えば以下の通りである。例えば、Irgacure 819または重合体ITXまたは重合体EDBのような重合体光重合開始剤である。本発明によれば、UV硬化性印刷インキは、前記光重合開始剤をインキ全体の0.1~20重量%、好ましくは1~10重量%含有する。上述したように、電子ビーム硬化性インキは光重合開始剤の存在を必要としない。
エ 「
[図:0001414195000009.jpg]
」
(翻訳)
[0047]本発明によれば、本発明の印刷インキは、オフセット印刷、スクリーン印刷およびフレキソ印刷に特に適している。
オ 「
[図:0001414195000010.jpg]
」
(翻訳)
[0048]次に、本発明を非限定的な実施例を参照してより詳細に説明する。
実施例1:本発明のバインダーの合成
[0049]室温で、0.3346eq(43.5g)のMDI(メチレンジイソシアネート、130g/eq)および0.4016eq(86.35g)のPPG400(ポリプロピレングリコール400、215g/eq)を、20mgのフェノチアジンおよび30mgのヒドロキノン(比OH/NC0=1.2)とともに反応器に添加した。
[0050]反応混合物を65℃に加熱し、50μ1のアセチルアセトン酸亜鉛を加えた。温度が80℃に達したところで、100gのTMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート)を加えた。反応がさらに進むと、温度は85℃まで上昇し、さらに200gのTMPTAを加えた。
[0051]反応混合物中の遊離イソシアネート基の濃度を制御した。それが0%に達したとき、0.0223eqのp-トルエンスルホニルイソシアネートを添加して、過剰のポリオール成分の遊離ヒドロキシル基と反応させた。反応混合物中の遊離イソシアネート基の濃度が再び0%(すなわちモノイソシアネートが完全に変換された)に達したときに反応は終了したと見なした。
[0052]得られた生成物は、30℃、せん断速度40.000s-1~70.000s-1において、Laray粘度計で測定した粘度が250~300ポアズであった。約600gの不活性ポリウレタン樹脂が得られた。)
カ 「
[図:0001414195000011.jpg]
」
(翻訳)
実施例3:シアン印刷インクの調整
[0055]以下の成分を混合することにより、本発明の印刷インキを調整した:
[図:0001414195000012.jpg]
(2)甲2-1には、次の記載がある。
「
[図:0001414195000013.jpg]
」
(3)甲2-2には、次の記載がある。
「
[図:0001414195000014.jpg]
」
(4)甲3-1には、次の記載がある。
ア 「
[図:0001414195000015.jpg]
」
イ 「
[図:0001414195000016.jpg]
」
(5)甲3-2には、次の記載がある。
「
[図:0001414195000017.jpg]
」
(6)甲4-1には、次の記載がある。
「
[図:0001414195000018.jpg]
」
(7)甲4-2には、次の記載がある。
「
[図:0001414195000019.jpg]
」
(8)甲5には、次の記載がある。
ア 「
[図:0001414195000020.jpg]
」
イ 「
[図:0001414195000021.jpg]
」
(9)甲6-1には、次の記載がある。翻訳は、申立人が提出した抄訳を翻訳文として採用した。
「
[図:0001414195000022.jpg]
」
(翻訳)
[図:0001414195000023.jpg]
(10)甲6-2には、次の記載がある。翻訳は、申立人が提出したものを採用した。
ア 「
[図:0001414195000024.jpg]
」
(翻訳)
[図:0001414195000025.jpg]
イ 「289頁 2.
[図:0001414195000026.jpg]
」
(翻訳)
[図:0001414195000027.jpg]
ウ 「291頁 5.
[図:0001414195000028.jpg]
」
(翻訳)
[図:0001414195000029.jpg]
[図:0001414195000030.jpg]
エ 「292頁 表3
[図:0001414195000031.jpg]
」
(翻訳)
表3:典型的なUVオフセットインキの配合
[図:0001414195000032.jpg]
オ 「293頁9行~14行
[図:0001414195000033.jpg]
」
(翻訳)
[図:0001414195000034.jpg]
(11)甲7には、次の記載がある。
「【0001】
[発明の分野]
[001]本発明は、セキュリティ文書を偽造及び違法複製から保護する分野に関する。本発明は、低エネルギーラジカル硬化性オフセット及び凸版印刷インク並びにセキュリティ文書にセキュリティ特徴を製造するプロセスの分野に関する。」
「【0013】
[013]したがって、低エネルギー硬化性着色オフセット及び凸版印刷インク、並びにセキュリティ文書に高速(即ち、工業用速度)でセキュリティ特徴を印刷するプロセスが依然として必要とされており、前記印刷セキュリティ特徴は、前記インクを280~400nmの放射波長(低エネルギーランプ)で硬化させた後、良好な表面硬化特性及び良好な完全硬化特性を兼ね備えたものである。
【0014】
[発明の概要]
[014]したがって、本発明の一目的は、前述の従来技術の欠陥を克服することである。これは、ラジカル硬化性オフセット又は凸版印刷インクにおいて式(I)の1種又は複数の光開始剤を使用することによって実現され、ここで、前記ラジカル硬化性オフセット又は凸版印刷インクは、40℃及び1000s-1で約2.5~約25Pa・sの範囲の粘度を有し、ラジカル硬化性(メタ)アクリレート化合物;発光材料、磁性材料、IR吸収材料、及びそれらの混合物からなる群から選択される1種又は複数の機械可読材料;並びに1種又は複数の充填剤及び/又は増量剤を含む。」
「【0042】
[042]本明細書に記載の低エネルギーラジカル硬化性オフセット又は凸版印刷インクは、1種又は複数の不活性樹脂(即ち、重合反応に関与しない樹脂)をさらに含むことができる。不活性樹脂を本明細書に記載のラジカル硬化性オフセット又は凸版印刷インクの粘度の調整に使用すると、本明細書に記載のラジカル硬化性オフセット又は凸版印刷インクで調製したインク層のガラス転移温度を低下させることができ、或いは本明細書に記載のラジカル硬化性オフセット又は凸版印刷インクで調製したインク層の付着性を増大させることができる。1種又は複数の不活性樹脂は、炭化水素(例えば、スチレン系炭化水素樹脂など)、アクリル(例えば、アクリルコポリマーなど)、スチレンアリルアルコール、フェノール樹脂、ロジン変性樹脂、ケトン樹脂、アルキド樹脂、及びそれらの混合物からなる群から選択されることが好ましい。本明細書に記載の1種又は複数の不活性樹脂は、存在する場合、本明細書に記載の低エネルギーラジカル硬化性湿式オフセット又は凸版印刷インクの総重量に対する重量%で、約0.1重量%~約10重量%の量、好ましくは約0.5重量%~約2重量%の量で、本明細書に記載の低エネルギー硬化性湿式オフセット又は凸版印刷インク中に存在する。」
「【実施例】
【0068】
[068]次に、本発明を非限定的な例を参照し、より詳細に説明する。以下の実施例は、低エネルギーラジカル硬化性印刷インクの調製及び本発明による光開始剤の使用及び比較データについてより詳細に示している。
・・・
【表1】
[図:0001414195000035.jpg]
【表2】
[図:0001414195000036.jpg]
【表3】
[図:0001414195000037.jpg]
・・・
【0075】
[075]表3のラジカル硬化性黒色蛍光オフセット印刷インクを、前記インクの硬化に対する表1の光開始剤の影響を評価するために調製した。各光開始剤の硬化性能を対圧試験により評価した。
【表5】
[図:0001414195000038.jpg]
(12)甲8には、次の記載がある(記載された内容については、対応する国内出願の特表2023-506825号公報の記載により示す。記載箇所については、括弧内に当該公報の記載箇所を併せて示す。)。
「Table 2A(【0116】【表5】)
[図:0001414195000039.jpg]
」
(13)甲9には、次の記載がある。
「
[図:0001414195000040.jpg]
」
(14)文献Aには、次の記載がある。
「【0170】
[図:0001414195000041.jpg]
」
第5 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由1(明確性)について
本件特許の請求項5には、「前記ベンゾフェノン化合物」と記載されているところ、請求項5が引用する請求項2には、「ベンゾフェノン化合物」が記載されており、「前記」が何を指すかは明らかであるから、請求項5の記載は明確であり、本件発明5が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないとはいえない。
2 取消理由通知に記載した取消理由2及び3(甲1、甲6-2のいずれかを主たる引用例とした新規性、進歩性)について
(1)甲号証に記載された発明
ア 甲1に記載された発明
甲1の段落【0001】には、「本発明は、特に改善された耐スクラッチ性を示す、新規かつ改良されたUV硬化型インキに関する。」と記載され、同段落【0047】には、「本発明の印刷インキは、オフセット印刷、スクリーン印刷およびフレキソ印刷に特に適している。」と記載されている(上記第4の摘記5(1)ア、エを参照)。
また、同段落【0055】には、実施例3として、実施例1のバインダー(TMPTA中の不活性ポリウレタン樹脂)46重量%と、TMPTA13.5重量%と、安定剤(Florstab UV-1,Kromachem製)1重量%と、光重合開始剤(ベンゾフェノンとヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンと2-メチル-1-[(4-メチル)チオフェニル]-2-モルフォリノプロパン)-1-オン)9.5重量%と、充填剤(タルク)と、青色顔料と、アンチタックペースト(二酸化ケイ素とTMPTA)からなる印刷インキが記載されている(上記第4の摘記5(1)カを参照)。
さらに、実施例1のバインダーに関し、同段落【0048】~【0052】には、MDI(メチレンジイソシアネート)とPPG400(ポリプロピレングリコール400)を、フェノチアジン及びヒドロキノンとともに加熱し、温度が80℃に達したところで、100gのTMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート)を加え、さらに温度が85℃に達したところで200gのTMPTAを加えて、約600gの不活性ポリウレタン樹脂が製造される旨記載されている(上記第4の摘記5(1)オを参照)。
そして、不活性ポリウレタン樹脂について、同段落【0034】には、「反応の溶媒となる反応性希釈剤の存在下で合成される。これにより、印刷インキをワンポット工程で製造できるため、本発明の印刷インキの製造が大幅に簡略化される。反応性希釈剤に添加する前に、ポリウレタンを別途合成し、乾燥および精製する必要はない。」と記載され、同段落【0033】には、トリメチロールプロパントリアクリレートは、反応性希釈剤であることが記載されているから(上記第4の摘記5(1)イを参照)、実施例1の約600gの不活性ポリウレタン樹脂には、反応性希釈剤として製造過程で加えたTMPTA(トリメチロールプロパン)は、加えた分量の300gが、そのまま含まれていると認められる。
以上のことから、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲1発明)
「TMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート)を300g含む約600gの不活性ポリウレタン樹脂からなるバインダー(TMPTA中の不活性ポリウレタン樹脂)46重量%と、TMPTA13.5重量%と、安定剤(Florstab UV-1,Kromachem製)1重量%と、光重合開始剤(ベンゾフェノンとヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンと2-メチル-1-[(4-メチル)チオフェニル]-2-モルフォリノプロパン)-1-オン)9.5重量%と、充填剤(タルク)と、青色顔料と、アンチタックペースト(二酸化ケイ素とTMPTA)からなるUV硬化型のオフセット印刷に適したインキ。」
イ 甲6-2に記載された発明
甲6-1には、題名が「Chemical and commercial aspects of in-can stabilisers for UV-ink and coatings」であり、著者がE.Kensbockであって、1999年に発行されたものであることが記載されており、甲6-1のリンク先の甲6-2の著書は、甲6-1と題名及び題名が同一の著書であり、その内容について、甲6-1の抄録の内容と齟齬がないことから(上記第4の摘記5(9)、(10)ア~イを参照)、甲6-2の著書は、甲6-1で示された著書と同一のものと認められる。そうすると、甲6-2が公知になったのは、本件出願前の1999年と認められる。
甲6-2の表3には、典型的なUVオフセットインキの配合として、アクリル化エポキシ化大豆油:6.3%、ヘキサ官能性ウレタンアクリレート:9.6%、ポリエステルアクリレート:37.3%、In-Can Stabiliser(FLOSTAB UV-1 KROMACHEM):1.0%、RAD-WAX62EB:0.5%、Special Black 350:18.5%、炭酸カルシウム:3.5%、ヒュームドシリカ:1.5%、微粉タルク:2.0%、トリアクリレートモノマー:4.0%、RAD-SPERSE:4.0%、エチルジメチルアミノベンゾエート:3.5%、ベンゾフェノン:3.4%、イルガキュア369:2.5%であるものが記載されている(上記第4の摘記5(10)エを参照)。
以上のことから、甲6-2には、次の発明(以下「甲6-2発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲6-2発明)
「UVオフセットインキの配合として、アクリル化エポキシ化大豆油:6.3%、ヘキサ官能性ウレタンアクリレート:9.6%、ポリエステルアクリレート:37.3%、In-Can Stabiliser(FLOSTAB UV-1 KROMACHEM):1.0%、RAD-WAX62EB:0.5%、Special Black 350:18.5%、炭酸カルシウム:3.5%、ヒュームドシリカ:1.5%、微粉タルク:2.0%、トリアクリレートモノマー:4.0%、RAD-SPERSE:4.0%、エチルジメチルアミノベンゾエート:3.5%、ベンゾフェノン:3.4%、イルガキュア369:2.5%からなるUVオフセットインキ。」
(2)対比・判断
ア 甲1を主引用例とした場合
(ア)本件発明1
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「2-メチル-1-[(4-メチル)チオフェニル]-2-モルフォリノプロパン)-1-オン)」は、本件発明1の「光重合開始剤」、「2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン」、「α-アミノアルキルフェノン化合物」のいずれにも相当する。
また、甲1発明の「TMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート)」、「UV硬化型のオフセット印刷に適したインキ」はそれぞれ、本件発明1の「エチレン性二重結合を有する化合物」、「活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ」に相当する。
さらに、甲8の表5には、「Florstab UV-1」が、ジメチルジカルバミン酸銅(II)溶液(5% 1318-59-1+55% 55818-57-0+40% 52408-84-1)であることが記載されており(上記第4の摘記5(12)を参照)、「1318-59-1」のCAS登録番号の化合物は、甲9の記載(上記第4の摘記5(13)を参照)より、「ジメチルジカルバミン酸銅(II)」であるから、甲1発明の「安定剤(Florstab UV-1,Kromachem製)」は、本件発明1の「ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体」を5%含むものと認められる。
加えて、「Florstab UV-1」に含まれる「55818-57-0」、「52408-84-1」の化合物は、それぞれ、CAS登録番号より、「アクリル酸と[2-(クロロメチル)オキシラン・4,4’-イソプロピリデンジフェノール重合物]のエステル」、「α,α’,α’’-プロパン-1,2,3-トリイルトリス{ω-[(1-オキソプロパ-2-エン-1-イル)オキシ}ポリ[オキシ(メチルエタン-1,2-ジイル)]」であることは明らかであるから、本件発明1の「エチレン性二重結合を有する化合物」に相当する。
そして、上記のとおり、「Florstab UV-1」の「ジメチルジカルバミン酸銅(II)」の含有量は5%であるところ、甲1発明において、「Florstab UV-1」は、インク全量に対して1重量%含まれるから、甲1発明における「ジメチルジカルバミン酸銅(II)」のインキ全量に対する含有量は0.05重量%と算出され、本件発明1のジメチルジチオカルバミン酸銅錯体のインキ全量に対する含有量の数値範囲を充足する。
また、本件発明1の「活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ」は、「α-アミノアルキルフェノン化合物」以外の光重合開始剤を含み得るものであるところ、本件発明1の「前記光重合開始剤」に対する「ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体」の含有量の基準としての「前記光重合開始剤」は、「α-アミノアルキルフェノン化合物」とその他の光重合開始剤の全量と解するのが、「α-アミノアルキルフェノン化合物」以外の光重合開始剤を含む本件発明1を引用する本件発明2との関係や技術的観点からも自然であるから、そのように解すると、甲1発明の光重合開始剤の全量は9.5重量%であり、「ジメチルジカルバミン酸銅(II)」の含有量は0.05重量%であるから、光重合開始剤全量に対するジメチルジカルバミン酸銅(II)の含有量は約0.53重量%であり、本件発明1の「光重合開始剤全量」に対するジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量の数値範囲を充足する。
さらに、「エチレン性二重結合を有する化合物」について、甲1発明は、不活性ポリウレタン樹脂からなるバインダーを46重量%含むものであるところ、不活性ポリウレタン樹脂からなるバインダーは、約600gのうち、TMPTAを300g含むものであるから、46重量%のうちの約23重量%がTMPTAである。
加えて、安定剤(Florstab UV-1)1重量%中には95%のエチレン性二重結合を有する化合物が含まれるところ、インキ全量ベースに換算すると0.95重量%となる。
そして、甲1発明は、上記以外にも、TMPTAを13.5重量%含み、アンチタックペースト4重量%中にもTMTPAを含むものであるところ、TMPTAの量については不明であるから、アンチタックペーストに含まれるTMTPAの量を0~4重量%として、甲1発明におけるエチレン性二重結合を有する化合物の全量を計算すると、約37.45%~41.45重量%となる。
そうすると、甲1発明における「エチレン性二重結合を有する化合物の全量」に対する「ジメチルジカルバミン酸銅(II)」の含有量は、約0.12~0.13重量%となるから、本件発明1のエチレン性二重結合を有する化合物全量に対するジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量の数値範囲を充足する。
以上より、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「光重合開始剤と、エチレン性二重結合を有する化合物、及びジメチルジチオカルバミン酸銅錯体である安定剤を含有する活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキであって、前記光重合剤が、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-ピペリジニルフェニル)-1-ブタノン、1-(ビフェニル-4-イル)-2-メチル-2-モルフォリノプロパン-1-オン、1-(4-メトキシフェニル)-2-メチル-2-モルフォリン-4-イル-プロパン-1-オン、ポリエチレングリコール(200)ジ(β-4[4-(2-ジメチルアミノ-2-ベンジル)ブタノニルフェニル]ピペラジンプロピオネートからなる群より選ばれるα-アミノアルキルフェノン化合物であり、前記ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量が、インキ全量の0.04質量%~0.25質量%であり、光重合開始剤全量の0.19質量%~1.42質量%であり、且つ前記エチレン性二重結合を有する化合物全量の0.08質量%~0.52質量%の範囲である活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ。」
<相違点1>
自動硬化時間測定装置を用い、1回の測定に用いる活性エネルギー線硬化型オフセットインキは0.2mlとし、攪拌条件として回転速度を自転300rpm、公転速度120rpmとし、昇温スピードは80℃で5分間安定した事を確認した上で、その後1000秒で250℃となるように昇温し、また、インキ容器の底と撹拌子の先端のギャップ値は0.1mmに設定する測定条件で行うインキの増粘測定方法によるトルクが20%上昇するまでのゲル化速度が、本件発明1は、750秒~1000秒の範囲であるのに対して、甲1発明では、それが特定されていない点。
ここで、上記相違点1について検討すると、本件明細書の段落【0078】には、ゲル化速度の評価基準について、ゲル化速度が750秒未満のものは「1」の評価とされ、750秒以上から1000秒未満のものは「2」~「4」の評価とされることが記載されており、本件明細書の表1~4には、活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキの各配合とゲル化速度の評価が記載されており、ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体を所定量含む実施例1~13のものは、ゲル化速度の評価が「2」~「4」であり、ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体を全く含まない比較例1~12のものは、ゲル化速度の評価が「1」であることが記載されている。
そうすると、活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキでは、ゲル化速度に関しては、ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体を所定量含むことで、ゲル化が起こりにくくなるという傾向は読み取れる。
そして、甲1発明は、インキ全量、光重合開始剤全量、エチレン性二重結合を有する化合物全量に対するジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量は、本件発明1の数値範囲を満たしている。
しかしながら、甲1発明のインキの成分は、光重合開始剤やエチレン性二重結合を有する化合物の種類や含有量を含め、本件明細書の実施例1~13のインキの成分に対して異なっているから、ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体を、特定の量で含有していたとしても、必ずしも、ゲル化速度が750秒以上となるとはいえない。
また、申立人から、甲1発明のインキのゲル化速度が750秒以上であるという測定結果等の具体的な根拠も示されていない。
そうすると、甲1発明のインキの増粘測定方法によるトルクが20%上昇するまでのゲル化速度が750秒~1000秒の範囲であるとはいえず、上記相違点1は、実質的な相違点である。
そして、甲1~甲9及び文献Aには、活性エネルギー線硬化型オフセットインキにおいて、インキの増粘測定方法によるトルクが20%上昇するまでのゲル化速度を750秒~1000秒の範囲とすることについては記載も示唆もされていないから、甲1発明において、ゲル化速度を750秒~1000秒の範囲とすることは当業者といえども容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明並びに甲1~甲9及び文献Aに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
(イ)本件発明2、5について
本件発明2、5は、本件発明1を引用するものであるから、上記(ア)で検討したのと同様の理由により、本件発明2、5は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明並びに甲1~甲9及び文献Aに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
イ 甲6-2を主引用例とした場合
(ア)本件発明1
本件発明1と甲6-2発明を対比すると、甲6-2発明の「イルガキュア369」は、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノンであるから、本件発明1の「光重合開始剤」及び「2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1」に相当する。
さらに、甲6-2発明の「アクリル化エポキシ化大豆油」、「ヘキサ官能性ウレタンアクリレート」、「ポリエステルアクリレート」、「トリアクリレートモノマー」は、本件発明1の「エチレン性二重結合を有する化合物」に相当し、甲6-2発明の「UVオフセットインキ」は、本件発明1の「活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ」に相当する。
加えて、甲6-2発明の「In-Can Stabiliser(FLOSTAB UV-1 KROMACHEM)」は、上記「(2)ア 甲1を主引用例とした場合」に記載したとおりであるから、本件発明1の「ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体」を5%含み、本件発明1の「エチレン性二重結合を有する化合物」に相当する「アクリル酸と[2-(クロロメチル)オキシラン・4,4’-イソプロピリデンジフェノール重合物]のエステル」、「α,α’,α’’-プロパン-1,2,3-トリイルトリス{ω-[(1-オキソプロパ-2-エン-1-イル)オキシ}ポリ[オキシ(メチルエタン-1,2-ジイル)]」を含むものである。
そして、甲6-2発明は、各成分の含有量が「%」で示されているところ、FLOSTAB UV-1のような混合物を1つの成分として扱われていることから、その基準は、「重量%」であることは明らかである。
そうすると、甲6-2発明は、「Florstab UV-1」を1.0重量%含むものであるから、甲6-2発明における「ジメチルジカルバミン酸銅(II)」の含有量は0.05重量%と算出され、本件発明1のジメチルジチオカルバミン酸銅錯体のインキ全量に対する含有量の数値範囲を充足する。
また、本件発明1の「活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ」は、「α-アミノアルキルフェノン化合物」以外の光重合開始剤を含み得るものであるところ、本件発明1の「前記光重合開始剤」に対する「ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体」の含有量の基準としての「前記光重合開始剤」は、「α-アミノアルキルフェノン化合物」とその他の光重合開始剤の全量と解するのが、「α-アミノアルキルフェノン化合物」以外の光重合開始剤を含む本件発明1を引用する本件発明2との関係や技術的観点からも自然であるから、そのように解すると、甲6-2発明は、光重合開始剤として、エチルジメチルアミノベンゾエート:3.5重量%、ベンゾフェノン:3.4重量%、イルガキュア369:2.5重量%を含むものであるから、その全量は9.4重量%であり、「ジメチルジカルバミン酸銅(II)」の含有量は0.05重量%であるから、光重合開始剤全量に対するジメチルジカルバミン酸銅(II)の含有量は約0.53重量%であり、本件発明1の光重合開始剤全量に対するジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量の数値範囲を充足する。
さらに、「エチレン性二重結合を有する化合物」について、甲6-2発明は、「RAD-WAX62EB」を0.5重量%含むものであるところ、「RAD-WAX62EB」は、文献Aの表5より、エポキシアクリレート中に33%のPEワックスを含むものであり(上記第4の摘記5(14)を参照)、「エポキシアクリレート」は、本件発明1の「エチレン性二重結合を有する化合物」に相当するから、RAD-WAX62EB中には67%の「エポキシアクリレート」が含まれ、インキ全量に対して約0.34重量%の「エポキシアクリレート」が含まれる。
加えて、甲6-2発明の「In-Can Stabiliser(FLOSTAB UV-1)」1重量%中には、95%のエチレン性二重結合を有する化合物が含まれるから、インキ全量に対して当該化合物は0.95重量%含まれる。
そして、甲6-2発明は、上記以外のエチレン性二重結合を有する化合物として、アクリル化エポキシ化大豆油:6.3重量%、ヘキサ官能性ウレタンアクリレート:9.6重量%、ポリエステルアクリレート:37.3重量%、トリアクリレートモノマー:4.9重量%含むものであるから、甲6-2発明の「エチレン性二重結合を有する化合物の全量」は、約59.4重量%であり、それに対する「ジメチルジカルバミン酸銅(II)」の含有量は、約0.084重量%となるから、本件発明1のエチレン性二重結合を有する化合物全量に対するジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量の数値範囲を充足する。
以上より、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「光重合開始剤と、エチレン性二重結合を有する化合物、及びジメチルジチオカルバミン酸銅錯体である安定剤を含有する活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキであって、前記光重合剤が、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-ピペリジニルフェニル)-1-ブタノン、1-(ビフェニル-4-イル)-2-メチル-2-モルフォリノプロパン-1-オン、1-(4-メトキシフェニル)-2-メチル-2-モルフォリン-4-イル-プロパン-1-オン、ポリエチレングリコール(200)ジ(β-4[4-(2-ジメチルアミノ-2-ベンジル)ブタノニルフェニル]ピペラジンプロピオネートからなる群より選ばれるα-アミノアルキルフェノン化合物であり、前記ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量が、インキ全量の0.04質量%~0.25質量%であり、光重合開始剤全量の0.19質量%~1.42質量%であり、且つ前記エチレン性二重結合を有する化合物全量の0.08質量%~0.52質量%の範囲である活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ。」
<相違点2>
自動硬化時間測定装置を用い、1回の測定に用いる活性エネルギー線硬化型オフセットインキは0.2mlとし、攪拌条件として回転速度を自転300rpm、公転速度120rpmとし、昇温スピードは80℃で5分間安定した事を確認した上で、その後1000秒で250℃となるように昇温し、また、インキ容器の底と撹拌子の先端のギャップ値は0.1mmに設定する測定条件で行うインキの増粘測定方法によるトルクが20%上昇するまでのゲル化速度が、本件発明1は、750秒~1000秒の範囲であるのに対して、甲6-2発明では、それが特定されていない点。
ここで、上記相違点2について検討すると、本件明細書の段落【0078】には、ゲル化速度の評価基準について、ゲル化速度が750秒未満のものは「1」の評価とされ、750秒以上から1000秒未満のものは「2」~「4」の評価とされることが記載されており、本件明細書の表1~4には、活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキの各配合とゲル化速度の評価が記載されており、ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体を所定量含む実施例1~13のものは、ゲル化速度の評価が「2」~「4」であり、ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体を全く含まない比較例1~12のものは、ゲル化速度の評価が「1」であることが記載されている。
そうすると、活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキでは、ゲル化速度に関しては、ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体を所定量含むことで、ゲル化が起こりにくくなるという傾向は読み取れる。
そして、甲6-2発明は、インキ全量、光重合開始剤全量、エチレン性二重結合を有する化合物全量に対するジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量は、本件発明1の数値範囲を満たしている。
しかしながら、甲6-2発明のインキの成分は、光重合開始剤やエチレン性二重結合を有する化合物の種類や含有量を含め、本件明細書の実施例1~13のインキの成分に対して異なっているから、ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体を、特定の量で含有していたとしても、必ずしも、ゲル化速度が750秒以上となるとはいえない。
また、申立人から、甲6-2発明のインキのゲル化速度が750秒以上であるという測定結果等の具体的な根拠も示されていない。
そうすると、甲6-2発明のインキは、増粘測定方法によるトルクが20%上昇するまでのゲル化速度が750秒~1000秒の範囲であるとはいえず、上記相違点2は、実質的な相違点である。
そして、甲1~甲9及び文献Aには、活性エネルギー線硬化型オフセットインキにおいて、インキの増粘測定方法によるトルクが20%上昇するまでのゲル化速度を750秒~1000秒の範囲とすることについては記載も示唆もされていないから、甲6-2発明において、ゲル化速度を750秒~1000秒の範囲とすることは当業者といえども容易に想到し得たものとはいえない。
よって、本件発明1は、甲6-2に記載された発明ではなく、甲6-2に記載された発明並びに甲1~甲9及び文献Aに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
(イ)本件発明2、5について
本件発明2、5は、本件発明1を引用するものであるから、上記(ア)で検討したのと同様の理由により、本件発明2、5は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明並びに甲1~甲9及び文献Aに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
3 取消理由通知に採用しなかった申立理由1~4(甲7を主たる引用例とした新規性及び進歩性、サポート要件、委任省令要件)について
(1)甲7を主たる引用例とした新規性及び進歩性(上記申立理由1及び2に対応)
ア 甲7に記載された発明
甲7の段落【0075】の【表5】(表3:ラジカル硬化性黒色蛍光オフセット印刷インク)に記載されたラジカル硬化性黒色蛍光オフセット印刷インクと、段落【0070】の【表2】(表1:光開始剤)に記載されたP9の光重合開始剤に着目して整理すると、甲7には、次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲7発明)
「エベクリル(EBECRYL)(登録商標)811(ポリエステルアクリレート、オリゴマー)(Allnex):38.5重量%、エベクリル(登録商標)1606(20~25%のトリメチロールプロパントリアクリレートモノマーで希釈したビスフェノールAエポキシジアクリレート)(Allnex):25.41重量%、エベクリル(登録商標)150(エトキシ化ビスフェノールAジアクリレートオリゴマー)(Allnex):11.55重量%、ミラマー(MIRAMER)M4004(ペンタエリスリトールエトキシ化テトラアクリレートモノマー)(Rahn):3重量%、フロラスタブ(FLORSTAB)UV1(銅(II)ジメチル-ジチオカルバメート、UV安定剤)(Kromatech):1.54重量%、シャムロックワックス(SHAMROCK WAX)S394N1(ポリエチレンワックス)(Shamrock):0.5重量%、フィンタルク(FINNTALC)M03(タルク(ケイ酸Mg)、充填剤)(Grolman):0.5重量%、ベントーネ(BENTONE)34(ベントナイト粘土の有機誘導体、充填剤)(Elementis):0.5重量%、アエロシル(AEROSIL)(登録商標)200(ヒュームドシリカ、増量剤)(Evonik)、ルミルックス(Lumilux)(登録商標)イエローCD382(サリチル酸誘導体、発光顔料)(Honeywell Specialty Materials):3重量%、ルミルックス(登録商標)グリーンC0394(キナゾリノン誘導体、発光顔料)(Honeywell Specialty Materials):3重量%、カーボンブラック(Carbon Black)4A(黒色顔料、IR吸収顔料)(Orion):7重量%、ゲノキュア(Genocure)EHA(2-エチルヘキシル4-ジメチルアミノベンゾエート、共開始剤I)(Rahn):2重量%、オムニポール(OMNIPOL)910(IGM Resins)である光開始剤:3重量%からなるラジカル硬化性黒色蛍光オフセット印刷インク。」
イ 対比・判断
(ア)本件発明1
本件発明1と甲7発明を対比すると、甲7発明の「オムニポール(OMNIPOL)910(IGM Resins)である光開始剤」は、ブタンフェノンのα位にアミノ基が結合した骨格を有しているから、本件発明1の「光重合開始剤」、「α-アミノアルキルフェノン化合物」に相当する。
また、甲7発明の「エベクリル(EBECRYL)(登録商標)811(ポリエステルアクリレート、オリゴマー)(Allnex))、「エベクリル(登録商標)1606(20~25%のトリメチロールプロパントリアクリレートモノマーで希釈したビスフェノールAエポキシジアクリレート)(Allnex)」、「エベクリル(登録商標)150(エトキシ化ビスフェノールAジアクリレートオリゴマー)(Allnex)」、「ミラマー(MIRAMER)M4004(ペンタエリスリトールエトキシ化テトラアクリレートモノマー)(Rahn)」はいずれも、本件発明1の「エチレン性二重結合を有する化合物」に相当する。
さらに、甲7発明の「ラジカル硬化性黒色蛍光オフセット印刷インク」は、本件発明1の「活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ」に相当する。
加えて、甲7発明の「フロラスタブ(FLORSTAB)UV1(銅(II)ジメチル-ジチオカルバメート、UV安定剤)(Kromatech)」(Florstab UV-1)は、上記「2(2)ア 甲1を主引用例とした場合」に記載したとおりであるから、本件発明1の「ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体」を5%含み、本件発明1の「エチレン性二重結合を有する化合物」に相当する「アクリル酸と[2-(クロロメチル)オキシラン・4,4’-イソプロピリデンジフェノール重合物]のエステル」、「α,α’,α’’-プロパン-1,2,3-トリイルトリス{ω-[(1-オキソプロパ-2-エン-1-イル)オキシ}ポリ[オキシ(メチルエタン-1,2-ジイル)]」を含むものである。
そして、上記のとおり、「フロラスタブ(FLORSTAB)」の「ジメチルジカルバミン酸銅(II)」の含有量は5%であるところ、甲7発明において、「フロラスタブ(FLORSTAB)」は、インク全量に対して3重量%含まれるから、甲7発明における「ジメチルジカルバミン酸銅(II)」のインキ全量に対する含有量は0.077重量%と算出され、本件発明1のジメチルジチオカルバミン酸銅錯体のインキ全量に対する含有量の数値範囲を充足する。
さらに、甲7発明の上記した「エチレン性二重結合を有する化合物」である「エベクリル(EBECRYL)811(ポリエステルアクリレート、オリゴマー)」、「エベクリル1606(20~25%のトリメチロールプロパントリアクリレートモノマーで希釈したビスフェノールAエポキシジアクリレート)」、「エベクリル150(エトキシ化ビスフェノールAジアクリレートオリゴマー)」、「ミラマー(MIRAMER)M4004(ペンタエリスリトールエトキシ化テトラアクリレートモノマー)」の含有量の合計は、インク全量に対して、78.46(=38.5+25.41+11.55+3)重量%であり、「フロラスタブ(FLORSTAB)」1.54重量%中のエチレン性二重結合を有する化合物はインク全量に対して約1.46(=1.54×0.95)重量%であるから、甲7発明における「エチレン性二重結合を有する化合物の全量」に対する「ジメチルジカルバミン酸銅(II)」の含有量は、約0.96重量%となるから、本件発明1のエチレン性二重結合を有する化合物全量に対するジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量の数値範囲を充足する。
一方、甲7発明の光重合開始剤全量は3重量%であり、「ジメチルジカルバミン酸銅(II)」の含有量は0.077重量%であるから、光重合開始剤全量に対するジメチルジカルバミン酸銅(II)の含有量は約2.57(=0.077/3×100)重量%となり、本件発明1の「光重合開始剤全量」に対するジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量の数値範囲を満たさない。
以上より、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「α-アミノアルキルフェノン化合物である光重合開始剤と、エチレン性二重結合を有する化合物、及びジメチルジチオカルバミン酸銅錯体である安定剤を含有する活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキであって、前記ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量が、インキ全量の0.04質量%~0.25質量%であり、前記エチレン性二重結合を有する化合物全量の0.08質量%~0.52質量%の範囲である活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ。」
<相違点3>
光重合開始剤が、本件発明1は、「2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-ピペリジニルフェニル)-1-ブタノン、1-(ビフェニル-4-イル)-2-メチル-2-モルフォリノプロパン-1-オン、1-(4-メトキシフェニル)-2-メチル-2-モルフォリン-4-イル-プロパン-1-オン、ポリエチレングリコール(200)ジ(β-4[4-(2-ジメチルアミノ-2-ベンジル)ブタノニルフェニル]ピペラジンプロピオネートからなる群より選ばれるα-アミノアルキルフェノン化合物であ」るのに対して、甲7発明は、これらとは異なるα-アミノアルキルフェノン化合物である点。
<相違点4>
ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の光重合開始剤全量に対する含有量が、本件発明1は、0.19質量%~1.42質量%であるのに対し、甲7発明は、約2.57質量%である点。
<相違点5>
自動硬化時間測定装置を用い、1回の測定に用いる活性エネルギー線硬化型オフセットインキは0.2mlとし、攪拌条件として回転速度を自転300rpm、公転速度120rpmとし、昇温スピードは80℃で5分間安定した事を確認した上で、その後1000秒で250℃となるように昇温し、また、インキ容器の底と撹拌子の先端のギャップ値は0.1mmに設定する測定条件で行うインキの増粘測定方法によるトルクが20%上昇するまでのゲル化速度が、本件発明1は、750秒~1000秒の範囲であるのに対して、甲7発明では、それが特定されていない点。
事案に鑑み、上記相違点4及び5について検討すると、相違点4については、実質的な相違点であることは明らかであるから、甲7発明と本件発明1との間には差異がある。
ここで、甲7発明のジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の光重合開始剤全量に対する含有量(約2.57質量%)を、本件発明1の数値範囲である「0.19質量%~1.42質量%」にするためには、光重合開始剤の含有量をジメチルジチオカルバミン酸銅錯体に対して相対的に増やす必要があるところ、甲1~甲9及び文献Aには、活性エネルギー線硬化型オフセットインキにおいて、インキの増粘測定方法によるトルクが20%上昇するまでのゲル化速度を、750秒~1000秒の範囲とすることと、ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量との関係性については記載も示唆もされていないから、甲7発明において、ゲル化速度を750秒~1000秒の範囲となるように調整しながら、ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の光重合開始剤全量に対する含有量を相対的に増やして、0.19質量%~1.42質量%の範囲内にすることは当業者といえども容易になし得たこととはいえない。
仮に、ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の光重合開始剤全量に対する含有量を0.19質量%~1.42質量%の数値範囲にすることが当業者にとって容易に想到し得たとしても、上記「2(2)ア 甲1を主引用例とした場合」、「2(2)イ 甲6-2を主引用例とした場合」でも検討したように、当該数値範囲内のものが、必ずしも、ゲル化速度が750秒以上になるとは限らないから、ゲル化速度を意識せずに、甲7発明のインクのゲル化速度を750秒以上とすることまでは当業者といえども容易になし得たこととはいえない。
よって、本件発明1は、甲7に記載された発明ではなく、甲7に記載された発明並びに甲1~甲9及び文献Aに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではないから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
(イ)本件発明2、5について
本件発明2、5は、本件発明1を引用するものであるから、上記(ア)で検討したのと同様の理由により、本件発明2、5は、甲7に記載された発明ではなく、甲7に記載された発明並びに甲1~甲9及び文献Aに記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
(2)サポート要件(上記申立理由3に対応)
ア 判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する、いわゆるサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 発明の課題
本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0004】の記載を参酌すると「インキのゲル化を抑制した上で、従来のメタルハライドランプや高圧水銀灯はもとより、オゾンが発生しないオゾンレスメタルハライドランプや、発光ダイオード、UV-LEDランプでも優れた硬化性と密着性を兼備することを特徴とする活性エネルギー線硬化型オフセットインキを提供すること」と認められる。
ウ 判断
本件明細書の段落【0020】には、「本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキは、光重合開始剤と、エチレン性二重結合を有する化合物を含有する活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキであって、前記インキの増粘測定方法によるトルクが20%上昇するまでのゲル化速度が、750秒~1000秒の範囲であることで、目的とする本発明の効果を奏するものである。」と記載されているところ、「インキの増粘測定方法によるトルクが20%上昇するまでのゲル化速度が、750秒~1000秒の範囲」とすることについては、本件発明1に特定されている。
また、同段落【0074】~【0086】には、実施例として、本件発明1において、「光重合開始剤と、エチレン性二重結合を有する化合物、及びジメチルジチオカルバミン酸銅錯体である安定剤を含有する活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキであって、光重合開始剤が、特定のα-アミノアルキルフェノン化合物であり、前記インキの増粘測定方法によるトルクが20%上昇するまでのゲル化速度が、750秒~1000秒の範囲であり、前記ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量が、インキ全量の0.04質量%~0.25質量%であり、前記光重合開始剤全量の0.19質量%~1.42質量%であり、且つ前記エチレン性二重結合を有する化合物全量の0.08質量%~0.52質量%の範囲である」と特定される範囲に含まれる「活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ」が、硬化性、密着性、ゲル化速度について、所望の効果が得られることが記載されている。
また、本件発明1には、特定のα-アミノアルキルフェノン化合物以外の光硬化性樹脂を用いることについては特定されていないが、本件明細書の段落【0022】における「水銀ランプやメタルハライドランプといった光源の紫外線硬化型インキと比べて、オゾンが発生しないオゾンレスメタルハライドランプを使用し230~420nmの紫外線を発生するような光源や、発光ピーク波長が350~420nmの範囲の紫外線を発生する発光ダイオードUV-LED等の紫外線硬化型インキは更にゲル化しやすい傾向がある。これはUVランプの出力、発光波長が限定され、それを補うために紫外線硬化型インキ中の光重合開始剤を多量に使用しなければいけない事に原因する。」との記載からは、硬化性と密着性は、光重合開始剤の種類というよりも、含有量に関係することが読み取れるところ、本件発明1には、「ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量が・・・光重合開始剤全量の0.19質量%~1.42質量%であり」という光重合開始剤の量に関係する発明特定事項が含まれるから、本件発明1が、硬化性と密着性が十分でないものとはいえない。
そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
よって、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものとはいえない。
また、本件発明1を引用する本件発明2、5についても同様のことがいえる。
(3)委任省令要件(上記申立理由4に相当。)
第36条第4項第1号で委任する経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)には、「特許法第36条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定されている。
以下、本件明細書の記載が、上記委任省令要件を満たすか否かを検討する。
本件発明の解決しようとする課題及びその解決手段については、上記(2)で検討したとおりであり、また、本件明細書の段落【0022】における「活性エネルギー線硬化型インキは、常温に保管されることが一般的であるが、保管中にゲル化する場合がある。・・・水銀ランプやメタルハライドランプといった光源の紫外線硬化型インキと比べて、オゾンが発生しないオゾンレスメタルハライドランプを使用し230~420nmの紫外線を発生するような光源や、発光ピーク波長が350~420nmの範囲の紫外線を発生する発光ダイオードUV-LED等の紫外線硬化型インキは更にゲル化しやすい傾向がある。これはUVランプの出力、発光波長が限定され、それを補うために紫外線硬化型インキ中の光重合開始剤を多量に使用しなければいけない事に原因する。そこで、出来るだけゲル化し難い活性エネルギー線硬化型オフセットインキが望まれまる。本発明の活性エネルギー線硬化型オフセットインキでは、インキを一定の条件で攪拌しながら昇温することで、攪拌開始からトルクが20%上昇するまでの時間(秒数)でゲル化速度とみなし、ゲル化速度が750秒~1000秒の範囲である事を必須とする。ゲル化速度が750秒~1000秒の範囲であれば、ゲル化し難い傾向となり、1000秒を超えるとインキ自体が固化してしまう傾向にある。」との記載からは、活性エネルギー線硬化型インキは、保管中にゲル化する場合があるという課題を有しており、少なくとも、ゲル化速度が750秒未満のゲル化しやすいものに対して、ゲル化速度が750秒~1000秒の範囲のものはゲル化しにくく、保管中などにおけるインキのゲル化を抑制できるという技術的意義があることは当業者であれば読み取ることができる。
そうすると、本件明細書には、どのような技術分野において、どのような未解決の課題があり、それをどのようにして解決したかという観点からの記載がなされているといえるから、本件明細書には、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているといえる。
よって、本件特許に係る出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないものとはいえない。
4 申立人の主張
(1)新規性、進歩性について
申立人は、申立書の第56頁、第59頁、第61頁において、「本件明細書には、ゲル化速度が何によって決まるか具体的な説明はないが、実施例の記載をみると、実施例のゲル化速度が所定の範囲を示し、組成が異なる比較例のゲル化速度が750秒未満であることが示されており、インキの組成によってゲル化速度が決まることが分かる。」とし、甲1発明、甲6-2発明、甲7発明は、本件発明1のインキ組成と同一であるから、「前記インキの増粘測定方法によるトルクが20%上昇するまでのゲル化速度が、750秒~1000秒の範囲である」という構成を有する旨主張する。
しかしながら、上記「2(2)ア 甲1を主引用例とした場合」、「2(2)イ 甲6-2を主引用例とした場合」で述べたとおり、甲1発明や甲6-2発明のインキの成分は、含まれる光重合開始剤やエチレン性二重結合を有する化合物の種類や含有量を含め、本件明細書の実施例1~13のインキの成分に対して異なっているから、ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体を、特定の量で含有していたとしても、必ずしも、ゲル化速度が750秒以上となるとはいえず、申立人から、甲1発明、甲6-2発明のインキのゲル化速度が750秒以上であるという測定結果等の具体的な根拠も示されていないから、甲1発明、甲6-2発明のインキが、「増粘測定方法によるトルクが20%上昇するまでのゲル化速度が、750秒~1000秒の範囲である」という構成を有するとはいえない。
また、甲7発明は、上記「3(1)甲7を主たる引用例とした新規性及び進歩性」で述べたとおり、甲7発明は、光重合開始剤の種類や光重合開始剤全量に対するジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量が本件発明1と異なるから、甲7発明は、本件発明1の組成と同一ではない。
以上より、上記申立人の主張は採用できない。
(2)サポート要件について
申立人は、申立書の第66頁~第67頁において、本件明細書の実施例には、光重合開始剤として、特定のα-アミノアルキルフェノン化合物と、特定のアシルフォスフィンオキサイド化合物とを組み合わせたものが記載されており、本件明細書の段落【0023】には、本件発明のインキが、α-アミノアルキルフェノン化合物、及び/又はアシルフォスフィンオキサイド化合物である光重合開始剤(2)と、ベンゾフェノン化合物、チオキサントン化合物、及び/又はケトクマリン化合物である光重合開始剤(2)とを含むことが記載されているが、本件明細書の全体をみても同段落【0023】に記載されたもの以外の光重合開始剤を使用できることは何ら開示がなく、同段落【0023】に記載されたもの以外の光重合開始剤や実施例に記載された以外の光重合開始剤の組み合わせ以外のものが、「インキのゲル化がし難く」「各種紫外線照射装置でも優れた硬化性と密着性を兼備」するという本件発明の課題を解決できるか不明であり、本件発明1~2には、本件明細書の開示の範囲を超える範囲が規定されている旨主張する。
以下、上記申立人の主張について検討する。
確かに、本件発明1には、特定のα-アミノアルキルフェノン化合物以外の光硬化性樹脂を用いることについては特定されておらず、本件発明2には、特定のアシルフォスフィンオキサイド化合物を用いること等については特定されていない。
しかしながら、上記「3(2)サポート要件」でも述べたとおり、本件明細書の段落【0022】における「水銀ランプやメタルハライドランプといった光源の紫外線硬化型インキと比べて、オゾンが発生しないオゾンレスメタルハライドランプを使用し230~420nmの紫外線を発生するような光源や、発光ピーク波長が350~420nmの範囲の紫外線を発生する発光ダイオードUV-LED等の紫外線硬化型インキは更にゲル化しやすい傾向がある。これはUVランプの出力、発光波長が限定され、それを補うために紫外線硬化型インキ中の光重合開始剤を多量に使用しなければいけない事に原因する。」との記載からは、硬化性と密着性は、光重合開始剤の種類というよりも、含有量に関係することが読み取れるところ、本件発明1~2は、「ジメチルジチオカルバミン酸銅錯体の含有量が・・・光重合開始剤全量の0.19質量%~1.42質量%であり」という光重合開始剤の量に関係する発明特定事項を含むものであるから、本件発明1~2が、硬化性と密着性が十分でないものとはいえない。
また、上記「3(2)サポート要件」でも述べたとおり、本件発明1~2は、「インキの増粘測定方法によるトルクが20%上昇するまでのゲル化速度が、750秒~1000秒の範囲」であるという発明特定事項を含むものであるから、本件発明1~2は、「インキのゲル化がし難」いものといえる。
加えて、申立人は、本件明細書の実施例で効果が実証されていない「活性エネルギー線硬化型オフセット印刷インキ」が、発明の課題を解決できない具体的な証拠も示していない。
よって、上記申立人の主張は採用できない。
(3)委任省令要件について
申立人は、申立理由4として、「本件明細書の全体をみても「トルクが20%上昇するまでのゲル化速度が、750秒~1000秒の範囲」とする数値範囲の技術的決定根拠が不明であり、上記特定された「トルクが20%上昇するまでのゲル化速度が、750秒~1000秒の範囲」という数値範囲の臨界的意義が理解できない。そのため、「インキのゲル化がし難く」という本件特許発明の課題と「トルクが20%上昇するまでのゲル化速度が、750秒~1000秒の範囲」とする特定との実質的な関係を理解することができず、発明の解決手段が理解できない。したがって、発明の技術上の意義が不明であり、委任省令要件に違反する。」と主張する。
しかしながら、上記「3(3)委任省令要件」でも述べたとおり、活性エネルギー線硬化型インキは、保管中にゲル化する場合があるという課題を有しており、少なくとも、ゲル化速度が750秒未満のゲル化しやすいものに対して、ゲル化速度が750秒~1000秒の範囲のものはゲル化しにくく、保管中などにおけるインキのゲル化を抑制できるという技術的意義があることは当業者であれば読み取ることができ、本件明細書には、どのような技術分野において、どのような未解決の課題があり、それをどのようにして解決したかという観点からの記載がなされているといえるから、本件明細書は、委任省令要件を満たしているといえる。
よって、上記申立人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、本件訂正後の請求項1、2、5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他にこれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701099