特許異議申立
2024-700815
水性インキ及び積層体
- 審判番号
- 2024-700815
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-065869
- 登録番号
- 7441356
- 請求日
- 2024年08月29日
- 審決日
- 2026年01月20日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】DICグラフィックス株式会社
- 【権利者代理人】粟野 晴夫
- 【権利者代理人】塚中 哲雄
- 【権利者代理人】貴志 浩充
- 【権利者代理人】柿沼 公二
- 【異議申立人】若山 裕郎
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 川村 大輔
- 審判官 宮澤 浩
- 分類
- P1651.16 -ZAA(C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条の2、特許法第113条、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7441356号発明「水性インキ及び積層体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7441356号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7441356号の請求項1~7に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第7441356号の請求項1~7に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2023-65869号、以下「本件出願」という。)は、令和5年4月13日の出願であって、令和6年2月20日にその特許権の設定登録がされ、令和6年2月29日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和6年8月29日に、特許異議申立人 若山 裕郎(以下「特許異議申立人」という。)から、全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和6年11月29日付け:取消理由通知書
令和7年 1月29日 :意見書(特許権者)の提出
令和7年 1月29日 :訂正請求書の提出
令和7年 3月17日 :意見書(特許異議申立人)の提出
令和7年 5月20日付け:取消理由通知書
令和7年 7月14日 :意見書(特許権者)の提出
令和7年 7月14日 :訂正請求書の提出(この訂正請求書による訂正の請求を以下「本件訂正請求」という。)
令和7年10月17日 :意見書(特許異議申立人)の提出
第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第7441356号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める、というものである。
(2)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、当該請求項1に記載の「バインダー樹脂と、アジリジン系硬化剤と、水性溶剤とを含有し、」を、「バインダー樹脂と、アジリジン系硬化剤と、水性溶剤と、アセチレン系界面活性剤とを含有し、」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~7についても同様に訂正する)。
(3)一群の請求項
訂正前の請求項1~7について、請求項2~7は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~7に対応する訂正後の請求項1~7は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の適否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、請求項1に記載された「水性インキ」について、訂正前の請求項1では、「バインダー樹脂と、アジリジン系硬化剤と、水性溶剤とを含有」すると特定していたのに対し、訂正後の請求項1では、これらの成分に加えて更に「アセチレン系界面活性剤」を含有することを特定するものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
請求項1の記載を引用して記載された請求項2~7についても、同様である。
イ 新規事項の有無
訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0042】における「本実施形態の水性インキは、上述したものに加えて、界面活性剤を更に含有することができる。上記界面活性剤としては、アセチレン系界面活性剤、アルコールアルコキシレート系界面活性剤が好ましい。」との記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。
請求項1の記載を引用して記載された請求項2~7についても、同様である。
ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否
上記ア及びイに照らせば、訂正事項1に係る訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。
請求項1の記載を引用して記載された請求項2~7についても、同様である。
(2)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求に係る訂正は認められた。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」~「本件訂正発明7」という。)は、本件訂正請求に係る訂正後の特許請求の範囲の請求1~7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
バインダー樹脂と、アジリジン系硬化剤と、水性溶剤と、アセチレン系界面活性剤とを含有し、
前記バインダー樹脂は、50質量%以上が(メタ)アクリル系樹脂(A)であり、
前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、ガラス転移温度が-10℃以上60℃以下であり、酸価が20mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であり、
前記バインダー樹脂の不揮発分100質量部に対する前記アジリジン系硬化剤の不揮発分の量が、2.0質量部以上11.0質量部以下である、ことを特徴とする、水性インキ。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系樹脂(A)が、スチレンアクリル樹脂である、請求項1に記載の水性インキ。
【請求項3】
顔料を含有しないトップコートニスである、請求項1又は2に記載の水性インキ。
【請求項4】
フレキソ印刷又はグラビア印刷に用いられる、請求項1又は2に記載の水性インキ。
【請求項5】
基材と、前記基材上に設けられたインキ層とを備え、前記インキ層が、請求項1又は2に記載の水性インキの印刷層である、ことを特徴とする、積層体。
【請求項6】
前記基材と前記インキ層との間に、中間インキ層を更に備える、請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
熱収縮フィルムとして用いられる、請求項5に記載の積層体。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 特許異議申立人が提示した証拠方法
甲第1号証:特願2023-1126号(特開2024-97580号公報)(甲1)
(当合議体注:甲1は主引用例である。)
2 取消理由の概要
訂正前の請求項1~7に係る特許に対して、当合議体が令和7年5月20日付け取消理由通知書により通知した取消理由は、概略次のとおりである。
理由1:(拡大先願)本件特許の請求項1~7に係る発明は、本件出願の日前の特許出願であって、本件出願の出願後に出願公開がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者が他の特許出願に係る上記発明をした者と同一ではなく、また、本件特許の出願の時に本件特許の出願人が他の特許出願の出願人と同一でもないので、請求項1~7に係る特許は、特許法29条の2の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当合議体の判断
1 甲1の当初明細書等の記載及び甲1の当初明細書等に記載された発明
(1)甲1の記載
令和7年5月20日付け取消理由通知書で引用された甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付したものであって、甲1に記載された先願発明の認定に用いた箇所を示す。
ア 技術分野
「【0001】
本発明は、水性ニス組成物及び積層体に関する。」
イ 発明が解決しようとする課題
「【0007】
従来の水性ニス組成物を用いて形成されたニス層を有するプラスチックラベルは、ベルトコンベヤー用潤滑剤に対する耐性が充分ではない。
本発明は、ベルトコンベヤー用潤滑剤に対する耐性に優れるニス層が得られる水性ニス組成物、及び前記ニス層を有する積層体を提供することを課題とする。」
ウ 課題を解決するための手段
「【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] 水性バインダー樹脂と、撥水性シリコーン又はパラフィンワックスと、を含有する水性ニス組成物であって、前記水性ニス組成物を、フレキソ印刷によって、印刷対象物に乾燥後の塗工量が1g/m2となるように印刷して形成される乾燥塗膜の表面の水接触角が90°以上である、水性ニス組成物。
[2] 前記撥水性シリコーンの不揮発分の含有量が、前記水性ニス組成物の不揮発分の総質量に対して0.1質量%以上である、[1]に記載の水性ニス組成物。
[3] 前記パラフィンワックスの不揮発分の含有量が、前記水性ニス組成物の不揮発分の総質量に対して3質量%以上である、[1]又は[2]に記載の水性ニス組成物。
[4] 前記乾燥塗膜の表面の水接触角が90°以上110°以下である、[1]に記載の水性ニス組成物。
[5] 前記撥水性シリコーンの不揮発分の含有量が、前記水性ニス組成物の不揮発分の総質量に対して0.1~6質量%である、[4]に記載の水性ニス組成物。
[6] 前記パラフィンワックスの不揮発分の含有量が、前記水性ニス組成物の不揮発分の総質量に対して3~30質量%である、[4]又は[5]に記載の水性ニス組成物。
[7] 硬化剤とともに使用されるための[1]~[6]のいずれかに記載の水性ニス組成物。
[8] 前記水性バインダー樹脂が、ガラス転移温度-20~80℃であるアクリル樹脂エマルジョンを含む、[1]~[7]のいずれかに記載の水性ニス組成物。
[9] 前記水性バインダー樹脂が、重量平均分子量5,000~1,150,000であるアクリル樹脂エマルジョンを含む、[1]~[8]に記載の水性ニス組成物。
[10] 前記パラフィンワックスの融点が、30~130℃である、[1]~[9]のいずれかに記載の水性ニス組成物。
[11] プラスチックフィルムと、前記プラスチックフィルムの一方の面上に、[1]~[10]のいずれかに記載の水性ニス組成物を用いて形成された印刷層と、を有する、積層体。
[12] プラスチックフィルムと、前記プラスチックフィルムの一方の面上に、着色顔料を含む水性インキ組成物を用いて形成された第一の印刷層と、前記第一の印刷層の前記プラスチックフィルムとは反対の面上に、[1]~[10]のいずれかに記載の水性ニス組成物を用いて形成された第二の印刷層と、を有する、積層体。」
エ 発明の効果
「【0009】
本発明によれば、ベルトコンベヤー用潤滑剤に対する耐性に優れるニス層が得られる水性ニス組成物、及び前記ニス層を有する積層体を提供できる。」
オ 水性ニス組成物
「【0012】
[水性ニス組成物]
本発明の一実施形態に係る水性ニス組成物は、以下に示す水性バインダー樹脂(A)と、撥水性シリコーン(B)又はパラフィンワックス(C)と、を含有する。
水性ニス組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、必要に応じて水性バインダー樹脂(A)、撥水性シリコーン(B)、及びパラフィンワックス(C)以外の成分(任意成分)をさらに含有してもよい。例えば、水性ニス組成物は、典型的には、さらに水性媒体(D)を含む。」
カ 水性バインダー樹脂(A)
「【0016】
<水性バインダー樹脂(A)>
水性バインダー樹脂(A)としては、水性アクリル樹脂、水性アクリルウレタン樹脂、水性ウレタン樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ポリアミド樹脂、水性塩酢ビ共重合樹脂、水性セルロース樹脂、水性エポキシ樹脂、水性オレフィン樹脂等が挙げられる。プラスチックフィルムに対する密着性がより向上する観点から、水性アクリル樹脂、水性アクリルウレタン樹脂、水性ウレタン樹脂が好ましく、水性アクリル樹脂、水性アクリルウレタン樹脂がより好ましく、アクリル樹脂エマルジョン、アクリルウレタン樹脂エマルジョンがさらに好ましく、アクリル樹脂エマルジョンが特に好ましい。ニス層を二軸延伸ポリプロピレン(OPP)製のフィルム(以下、「OPPフィルム」ともいう。)上に形成する場合のOPPフィルムに対する密着性に特に優れる観点から、水性バインダー樹脂(A)はアクリル樹脂エマルジョンを含むことが好ましい。
これらの水性バインダー樹脂(A)は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0017】
(水性アクリル樹脂)
水性アクリル樹脂は、(メタ)アクリレート単位を含む樹脂である。
水性アクリル樹脂としては、例えば(メタ)アクリレートの単独重合体、2種以上の(メタ)アクリレートの共重合体、(メタ)アクリレートと(メタ)アクリレート以外の単量体との共重合体が挙げられる。
水性アクリル樹脂を構成する全ての単量体単位の総質量に対する(メタ)アクリレート単位の割合は、10~100質量%が好ましく、20~100質量%がより好ましい。
・・・中略・・・
【0019】
(メタ)アクリレート以外の単量体としては、例えば1,3-ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等の共役ジエン化合物;スチレン、α-メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸;マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジブチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル等の不飽和カルボン酸エステルが挙げられる。
これらの単量体は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
・・・中略・・・
【0021】
水性アクリル樹脂のガラス転移温度は、-20~120℃が好ましく、-10~100℃がより好ましく、-5~70℃がさらに好ましく、0~40℃が特に好ましい。水性アクリル樹脂のガラス転移温度が、上記下限値以上であると、ニス層の耐ブロッキング性が向上し、上記上限値以下であると、プラスチックフィルムに対する密着性が向上する。
特に、アクリルエマルジョン樹脂のガラス転移温度は、-20~120℃が好ましく、-20~100℃がより好ましく、-20~80℃がさらに好ましく、0~80℃が特に好ましく、10~80℃が最も好ましい。
【0022】
水性アクリル樹脂は酸価を有することが好ましく、酸価は1~200mgKOH/gが好ましく、10~150mgKOH/gがより好ましく、15~100mgKOH/gがさらに好ましい。水性アクリル樹脂が酸価を有することで、良好な水溶性が得られる。また、後述の硬化剤(E)を併用する際には硬化剤と架橋することで堅牢なニス層が得られる。」
キ 撥水性シリコーン(B)
「【0041】
<撥水性シリコーン(B)>
撥水性シリコーン(B)は、得られるニス層のベルトコンベヤー用潤滑剤に対する耐性の向上のために用いられる。
撥水性シリコーン(B)は、シロキサン結合を有する化合物である。」
ク パラフィンワックス(C)
「【0048】
<パラフィンワックス(C)>
パラフィンワックス(C)は、得られるニス層のベルトコンベヤー用潤滑剤に対する耐性の向上のために用いられる。」
ケ 水性媒体(D)
「【0054】
(水性媒体(D))
水性媒体(D)としては、例えば水;水と有機溶剤との混合溶剤が挙げられる。
混合溶剤における有機溶剤としては、水に可溶であれば特に制限されないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール等のアルコール系溶剤;アセトン等のケトン系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。」
コ 添加剤
「【0056】
(添加剤)
添加剤としては、例えば、パラフィンワックス(C)以外のワックス(以下、「その他のワックス」ともいう。)、増粘剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、粘弾性調整剤、消泡剤、滑剤、分散剤、安定剤が挙げられる。
これらの添加剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
なお、視認性を考慮すると、水性ニス組成物は顔料等の着色剤を実質的に含まないことが好ましい。
ここで、「実質的に含まない」とは、意図せずして含有するものを除き、積極的に着色剤を配合しないことを意味する。
・・・中略・・・
【0058】
増粘剤は、水性ニス組成物の粘度調整のために用いられる。
増粘剤としては、例えばウレタン系増粘剤、ポリアクリル系増粘剤、ポリアマイド系増粘剤、セルロース系増粘剤、ベントナイト等の粘土鉱物等の増粘剤が挙げられる。これらの中でも、ウレタン系増粘剤がより好ましい。
ウレタン系増粘剤はいわゆる会合型の増粘剤であり、水性媒体(D)中において、ウレタン結合同士が会合することにより、効果的に増粘作用を示す。ウレタン系増粘剤(ウレタン会合型増粘剤)としては、例えば、分子中にウレタン結合とポリエーテル鎖を有し、末端に疎水基を有する化合物が挙げられる。市販品のウレタン系増粘剤としては、サンノプコ株式会社製の製品名「SNシックナー612」、「SNシックナー621N」、「SNシックナー625N」、「SNシックナー627N」、「SNシックナー660T」が挙げられる。
これらの増粘剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0059】
消泡剤は、水性ニス組成物の消泡のために用いられる。
消泡剤としては、シリコーン及び疎水性微粒子の混合物が挙げられる。市販のシリコーン及び疎水性微粒子の混合物としては、BYK社製の製品名「BYK-011」、「BYK-012」、「BYK-014」、「BYK-015」、「BYK-017」、「BYK-018」、「BYK-019」、「BYK-021」、「BYK-022」、「BYK-023」、「BYK-024」、「BYK-025」、「BYK-028」、「BYK-038」、「BYK-039」、「BYK-044」、「BYK-093」、「BYK-094」、「BYK-1610」、「BYK-1611」、「BYK-1615」、「BYK-1617」、「BYK-1640」、「BYK-1650」、「BYK-1710」、「BYK-1711」、「BYK-1719」、「BYK-1723」、「BYK-1724」、「BYK-1730」、「BYK-1740」、「BYK-1770」、「BYK-1780」、「BYK-1781」、「BYK-1785」、「BYK-1786」、「BYK-1798」、サンノプコ社製の製品名「SNデフォーマー121N」、「SNデフォーマー1311」、「SNデフォーマー1312」、「SNデフォーマー1313」、「SNデフォーマー1314」、「SNデフォーマー1315」、「SNデフォーマー1316」、「SNデフォーマー154」、「SNデフォーマー154S」、「SNデフォーマー180」、「SNデフォーマー265」、「SNデフォーマー317」、「SNデフォーマー380」、「SNデフォーマー381」、「SNデフォーマー391」、「SNデフォーマー393」、「SNデフォーマー395」、「SNデフォーマー399」、「SNデフォーマー5016」、「SNデフォーマー5016」、「ノプコDF-122-NS」、「ノプタム3590」、「ノプタム6030PC」、「ノプタム777-F」、「ノプタム8000PC」、「ノプタム8034-F」、「ノプタム8034-LF」などが挙げられる。
これらの消泡剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。」
サ 水性ニス組成物の用途
「【0072】
<水性ニス組成物の用途>
本実施形態の水性ニス組成物は、グラビア印刷又はフレキソ印刷により、プラスチックフィルム等の基材の表面又は基材の表面に形成されたインキ層の表面に印刷する際のニスとして好適である。特に、フレキソ印刷により基材の表面又は基材の表面に形成されたインキ層の表面に印刷する際のニスとして好適である。すなわち、本実施形態の水性ニス組成物は、フレキソ印刷用として好適である。
本実施形態の水性インキ組成物は、後述の硬化剤(E)とともに使用されることが好ましい。」
シ 硬化剤(E)
「【0074】
<硬化剤(E)>
硬化剤(E)は、ニス層のベルトコンベヤー用潤滑剤に対する耐性、及びプラスチックフィルムに対する密着性のさらなる向上のために用いられる。加えて、硬化剤(E)を併用することで、ニス層の耐水性が向上する。
【0075】
硬化剤(E)としては、公知のものを用いることができ、例えばイソシアネート系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤、カルボジイミド系硬化剤、オキサゾリン系硬化剤、エポキシ系硬化剤、アジリジン系硬化剤などが挙げられる。これらの中でも、ニス層の耐擦過性がより向上する観点から、イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤、アジリジン系硬化剤が好ましい。
これらの硬化剤(E)は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
・・・中略・・・
【0081】
アジリジン系硬化剤は、1分子中に2個以上のアジリジン基を含有する化合物である。アジリジン系硬化剤の具体例としては、2,2-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]や4,4’-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタンが挙げられる。市販品のアジリジン系硬化剤としては、株式会社日本触媒製の製品名「ケミタイト」シリーズが挙げられる。
これらのアジリジン系硬化剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。」
ス 積層体
「【0085】
[積層体]
図1、2に、本発明の一実施形態に係る積層体の一例を示す。なお、図1、2における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。
図1の積層体10は、基材であるプラスチックフィルム11と、プラスチックフィルム11の一方の面上に設けられた印刷層(ニス層)12と、を備える。
図2の積層体20は、基材であるプラスチックフィルム21と、プラスチックフィルム21の一方の面上に設けられた第一の印刷層(インキ層)22と、前記第一の印刷層の前記プラスチックフィルムとは反対の面上に設けられた第二の印刷層(ニス層)23と、を備える。
なお、積層体をプラスチックラベルとして包装容器に装着する場合、プラスチックフィルム11、21が印刷層12及び第二の印刷層23よりも外側、すなわち、印刷層12及び第二の印刷層23が内側(包装容器と接する側)となるように装着することが好ましい。また、プラスチックフィルム11、21の表面に、例えばニス組成物や体質顔料等のマット剤を含む組成物を印刷して、他の印刷層を設けてもよい。ここで、プラスチックフィルム11の表面とは、プラスチックフィルム11の印刷層12が設けられる面とは反対の面を意味する。プラスチックフィルム21の表面とは、プラスチックフィルム21の第一の印刷層22が設けられる面とは反対の面を意味する。また、プラスチックフィルム11の印刷層12が設けられる面をプラスチックフィルム11の裏面とし、プラスチックフィルム21の第一の印刷層22が設けられる面をプラスチックフィルム21の裏面とする。
【0086】
<プラスチックフィルム>
プラスチックフィルム11、21の種類は、積層体10、20の種類等に応じて適宜選択することが可能であり、特に限定されないが、例えば、積層体10、20を熱収縮性ラベル(シュリンクラベル)として用いる場合には、プラスチックフィルム11、21は熱収縮性フィルム(シュリンクフィルム)が好ましい。積層体10、20をロールラベルとして用いる場合には、プラスチックフィルム11、21はポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、二軸延伸PPフィルムが好ましい。積層体10、20をストレッチラベルとして用いる場合には、プラスチックフィルム11、21はストレッチフィルムが好ましい。これらの中でも、プラスチックフィルム11、21は、熱収縮性フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、二軸延伸PPフィルムが好ましい。」
セ 用途
「【0098】
<用途>
積層体10、20は、飲料、惣菜や弁当などの食品、化粧品等の日用品等の包装容器に装着されるプラスチックラベルとして用いることができる。特に、積層体10、20を構成するプラスチックフィルム11、21が熱収縮性フィルムである場合、シュリンクラベルとして好適である。」
ソ 実施例
「【0102】
[使用原料]
水性バインダー樹脂(A)として、以下に示す化合物を用いた。
・A-1:アクリル樹脂エマルジョン(重量平均分子量291,000、ガラス転移温度9℃、最低造膜温度<5℃、酸価38mgKOH/g、不揮発分38.5質量%)。
・A-2:アクリル樹脂エマルジョン(重量平均分子量215,000、ガラス転移温度25℃、酸価78mgKOH/g、不揮発分45.5質量%)。
・A-3:アクリル樹脂エマルジョン(重量平均分子量218,000、ガラス転移温度14℃、酸価52mgKOH/g、不揮発分49質量%)。
・A-4:アクリル樹脂エマルジョン(重量平均分子量71,000、ガラス転移温度75℃、酸価82mgKOH/g、不揮発分45質量%)。
・A-5:水性アクリルウレタンエマルジョン樹脂(大成ファインケミカル株式会社製、製品名「WEM-200U」、ガラス転移温度27℃、酸価16mgKOH/g、不揮発分38質量%)。
・A-6:水性ウレタンディスパージョン樹脂(三井化学株式会社性、製品名「WS-5000」、不揮発分30質量%)。
・・・中略・・・
【0104】
パラフィンワックス(C)として、以下に示す化合物を用いた。
・C-1:変性パラフィンワックス(日本蜜蝋社製、製品名「EMUSTAR-0135」、融点60℃、不揮発分40質量%)。
・C-2:変性パラフィンワックス(BYK社製、製品名「AQUACER537」、融点110℃、不揮発分30質量%)。
【0105】
その他のワックス、増粘剤、消泡剤、及び水性媒体(D)として、以下に示す化合物を用いた。
・その他のワックス:ポリエチレンワックス(三井化学株式会社製、商品名「ケミパールW400」、体積平均粒子径4μm、不揮発分40質量%、針入度法による硬度3、環球法による軟化点110℃)。
・増粘剤:ウレタン会合型増粘剤(サンノプコ株式会社製、製品名「SNシックナー612」、不揮発分40質量%)。
・消泡剤:シリコーン及び疎水性微粒子の混合物(BYK社製、製品名「BYK-094」、不揮発分96質量%)。
・D-1:水。
【0106】
硬化剤(E)として、以下に示す化合物を用いた。
・E-1:カルボジイミド系硬化剤(日清紡ケミカル株式会社製、製品名「カルボジライトE-02」、不揮発分40質量%)。
・E-2:オキサゾリン系硬化剤(株式会社日本触媒製、製品名「エポクロスWS-500」、不揮発分39質量%)。
・E-3:エポキシ系硬化剤(ナガセケムテックス製、製品名「デナコールEX-612」、不揮発分99質量%)。
・E-4:アジリジン系硬化剤(日本触媒製、製品名「ケミタイトPZ-33」不揮発分99質量%)。
・E-5:イソシアネート系硬化剤(旭化成製、製品名「デュラネートWT30-100」、不揮発分100質量%)。
・・・中略・・・
【0112】
[実施例1~32、比較例1~7]
<水性ニス組成物の調製>
表1~4に示す配合に従って、水性バインダー樹脂(A)と、撥水性シリコーン(B)と、パラフィンワックス(C)と、任意成分と、を混合し、水性ニス組成物を得た。
また、表中の空欄は、その成分が配合されていないこと(配合量0質量部)を意味する。表中のNVは各成分の総質量に対する不揮発分の含有量を意味する。
水性ニス組成物の不揮発分の総質量に対する、水性ニス組成物中の各成分の含有量を表1~4に示す。
【0113】
実施例18~23については、得られた水性ニス組成物100質量部に対して、表2、3に示す種類と量の硬化剤(E)とを混合して、混合物を調製した。なお、実施例18の場合、水性ニス組成物の不揮発分100質量部に対する硬化剤(E)の不揮発分の割合は5.8質量部である。実施例19の場合、水性ニス組成物の不揮発分100質量部に対する硬化剤(E)の不揮発分の割合は5.7質量部である。実施例20の場合、水性ニス組成物の不揮発分100質量部に対する硬化剤(E)のの不揮発分割合は5.8質量部である。実施例21の場合、水性ニス組成物の不揮発分100質量部に対する硬化剤(E)の不揮発分の割合は5.8質量部である。実施例22の場合、水性ニス組成物の不揮発分100質量部に対する硬化剤(E)の割合は5.9質量部である。実施例23の場合、水性ニス組成物の不揮発分100質量部に対する硬化剤(E)の割合は6.0質量部である。
【0114】
<積層体の作製>
プラスチックフィルムとして、一軸収縮性PETフィルム(東洋紡株式会社製、製品名「東洋紡スペースクリーンS7053」、厚さ40μm)を用いた。
セルボリューム10.0cm3/m2のアニロックスロールを搭載したフレキソハンドプルーファーをアプリケーターとして用い、プラスチックフィルムの第一の面にウレタン系カラーインキ(大日精化工業株式会社製、製品名「ハイドリックFCFシリーズ」)を、乾燥塗膜の塗工量が1.0g/m2となるように塗工した。次いで、ドライヤーの温風で1分間乾燥させて第一の印刷層(インキ層)を形成した。前記アプリケーターを用い、インキ層のプラスチックフィルムとは反対の面に実施例1~32、比較例1~7の水性ニス組成物又は混合物を、乾燥塗膜の塗工量が1.0g/m2となるように塗工した。次いで、ドライヤーの温風で1分間乾燥させて第二の印刷層(ニス層)を形成し、印刷物(積層体)を得た。
・・・中略・・・
【0116】
【表2】
[図:0001436146000001.jpg]
」
(2)甲1に記載された先願発明
上記(1)ソの記載(特に「実施例21」)から、甲1には、下記ア及びイに示す先願発明が記載されていると認められる。
ア 甲1混合物発明
「 水性バインダー樹脂(A)と、パラフィンワックス(C)と、任意成分と、を混合して得られた水性ニス組成物に対して、硬化剤(E)を混合して調製した混合物であって、
水性バインダー樹脂(A)として、「A-1:アクリル樹脂エマルジョン(重量平均分子量291,000、ガラス転移温度9℃、最低造膜温度<5℃、酸価38mgKOH/g、不揮発分38.5質量%)」を71.質量部含有し、
パラフィンワックス(C)として、「C-1:変性パラフィンワックス(日本蜜蝋社製、製品名「EMUSTAR-0135」、融点60℃、不揮発分40質量%)」を10質量部含有し、
その他のワックスとして、「ポリエチレンワックス(三井化学株式会社製、商品名「ケミパールW400」、体積平均粒子径4μm、不揮発分40質量%、針入度法による硬度3、環球法による軟化点110℃)」を2質量部含有し、
消泡剤として、「シリコーン及び疎水性微粒子の混合物(BYK社製、製品名「BYK-094」、不揮発分96質量%)」を0.2質量部含有し、
増粘剤として、「ウレタン会合型増粘剤(サンノプコ株式会社製、製品名「SNシックナー612」、不揮発分40質量%)」を0.5質量部含有し、
水性媒体(D)として、「水」を16.2質量部含有し、
硬化剤(E)として、「E-4:アジリジン系硬化剤(日本触媒製、製品名「ケミタイトPZ-33」不揮発分99質量%)を2.0質量部含有する、
混合物。(【0102】~【0106】、【0112】、【0113】及び【0116】【表2】)」
(当合議体注:括弧内の番号は、先願発明の認定根拠となった箇所(段落)を示すものである。以下、同様。)
イ 甲1積層体発明
「 プラスチックフィルムとして、一軸収縮性PETフィルム(東洋紡株式会社製、製品名「東洋紡スペースクリーンS7053」、厚さ40μm)を用い、セルボリューム10.0cm3/m2のアニロックスロールを搭載したフレキソハンドプルーファーをアプリケーターとして用い、プラスチックフィルムの第一の面にウレタン系カラーインキ(大日精化工業株式会社製、製品名「ハイドリックFCFシリーズ」)を、乾燥塗膜の塗工量が1.0g/m2となるように塗工し、次いで、ドライヤーの温風で1分間乾燥させて第一の印刷層(インキ層)を形成し、前記アプリケーターを用い、インキ層のプラスチックフィルムとは反対の面に甲1混合物発明に係る「混合物」を、乾燥塗膜の塗工量が1.0g/m2となるように塗工し、次いで、ドライヤーの温風で1分間乾燥させて第二の印刷層(ニス層)を形成して得た印刷物(積層体)。(【0102】~【0106】、【0112】~【0114】及び【0116】【表2】)」
2 本件訂正発明1について
(1)対比
本件訂正発明1と甲1混合物発明とを対比する。
ア バインダー樹脂
甲1混合物発明は、「水性バインダー樹脂(A)」として、「A-1:アクリル樹脂エマルジョン(重量平均分子量291,000、ガラス転移温度9℃、最低造膜温度<5℃、酸価38mgKOH/g、不揮発分38.5質量%)」を用いているから、甲1混合物発明の「A-1」中の不揮発分である「アクリル樹脂」(以下「A-1中のアクリル樹脂」という。)は、本件訂正発明1の「バインダー樹脂」に相当する。
また、甲1混合物発明は、「水性バインダー樹脂(A)」として、「A-1中のアクリル樹脂」のみを含んでおり、当該「A-1中のアクリル樹脂」は、「ガラス転移温度」が「9℃」であり、「酸価」が「38mgKOH/g」であるから、本件訂正発明1の「前記バインダー樹脂は、50質量%以上が(メタ)アクリル系樹脂(A)であり、前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、ガラス転移温度が-10℃以上60℃以下であり、酸価が20mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であり」という要件を満たす。
イ アジリジン系硬化剤
甲1混合物発明の「E-4:アジリジン系硬化剤(日本触媒製、製品名「ケミタイトPZ-33」不揮発分99質量%)」は、本件訂正発明1の「アジリジン系硬化剤」に相当する。
また、甲1混合物発明において、「A-1」の不揮発分は、71.1×38.5/100=27.4質量部、「E-4」の不揮発分は、2.0×99/100=1.98質量部であり、「A-1」の不揮発分100質量部に対する「E-4」の不揮発分の量は、1.98×100/27.4=7.23質量部と算出されるから、甲1混合物発明の「E-4」は、本件訂正発明1の「前記バインダー樹脂の不揮発分100質量部に対する前記アジリジン系硬化剤の不揮発分の量が、2.0質量部以上11.0質量部以下である」という要件を満たす。
ウ 水性溶剤
甲1混合物発明の「D-1:水」は、本件訂正発明1の「水性溶剤」に相当する。
エ 水性インキ
甲1混合物発明に係る「混合物」は、上記ア~ウの成分を含むものである。
したがって、当該混合物が、本件訂正発明1の「水性インキ」に相当する。
(2)一致点及び相違点
上記(1)ア~エによれば、本件訂正発明1と甲1混合物発明は、下記アの点で一致し、下記イの点で相違する。
ア 一致点
「バインダー樹脂と、アジリジン系硬化剤と、水性溶剤とを含有し、前記バインダー樹脂は、50質量%以上が(メタ)アクリル系樹脂(A)であり、前記(メタ)アクリル系樹脂(A)は、ガラス転移温度が-10℃以上60℃以下であり、酸価が20mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であり、前記バインダー樹脂の不揮発分100質量部に対する前記アジリジン系硬化剤の不揮発分の量が、2.0質量部以上11.0質量部以下である、水性インキ。」
イ 相違点
本件訂正発明1に係る「水性インキ」は、「アセチレン系界面活性剤」を含有するのに対し、甲1混合物発明に係る「混合物」は、「アセチレン系界面活性剤」を含有するものではない点。
(3)判断
ア 相違点についての検討
甲1混合物発明に係る「混合物」は、「消泡剤」として、シリコーン及び疎水性微粒子の混合物である、「BYK-094」を含有している。
ここで、水性印刷インキに消泡剤として、アセチレン系界面活性剤を用いることは、特開2011-32301号公報(特に【0168】~【0182】参照)、特開2003-26980号公報(特に【0053】~【0063】参照)特開2008-13657号公報(特に【0047】~【0069】参照)及び特開2021-155646号公報(特に【0066】、【0100】~【0137】参照)に例示されるように、本件出願前における周知技術である。そして、後記イで検討するように、本件訂正発明1においてアセチレン系界面活性剤を採用したことによる有利な効果が何ら裏付けられていないことに照らせば、甲1混合物発明において、「消泡剤」として「BYK-094」に加えて又はこれに代えてアセチレン系界面活性剤を用いることは、周知技術の転換又は付加であって、新たな効果を奏するものとはいえないから、課題解決のための具体化手段における微差というほかない。
したがって、上記相違点は実質的な相違点ではない。
イ 特許権者の主張について
(ア)特許権者の主張の概略
特許権者は、令和7年7月14日に提出された意見書(5頁7行~7頁下から4行、表A及び表B)において、概略、所定のバインダー樹脂、アジリジン系硬化剤及び水性溶剤を含む、本件訂正発明1の印刷インキにおいて、アセチレン系界面活性剤を含有することにより、基材との密着性を保持できる、という新たな効果が奏される旨主張している。
(イ)特許権者の主張についての検討
本件明細書の【0042】には、「界面活性剤としては、アセチレン系界面活性剤、アルコールアルコキシレート系界面活性剤が好ましい」ことが記載されているが、この記載が、アセチレン系界面活性剤を用いることによって、他の界面活性剤を用いた場合(「特に好ましい」として同等に列挙されたアルコールアルコキシレート系界面活性剤を用いた場合)に比して基材との密着性等の観点で優れた効果(以下「本件界面活性剤効果」という。)を奏することまで意味しているとは解されない。
また、本件明細書の【0047】には、「水性インキが界面活性剤を含有する場合、水性インキ全量に占める界面活性剤の合計の割合は、0.1質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく」、「0.1質量%以上であれば、基材の濡れ性を高めて、基材との密着性を保持する効果を得ることができ」、「3.0質量%以下であれば、耐摩耗性、耐水摩耗性、及び耐スクラッチ性を良好に保持することができる」ことが記載されているが、この記載は、アセチレン系界面活性剤及びアルコールアルコキシレート系界面活性剤以外のものを含む、任意の界面活性剤の含有量を特定の数値範囲内のものとすることが基材との密着性等の観点で好ましいことを記載するにとどまる。
そして、本件明細書の他の記載を検討しても、本件界面活性剤効果が奏されることをうかがわせる記載はない。
以上によれば、本件界面活性剤効果が奏されることが、本件明細書に記載されている(裏付けられている)とはいえない。
加えて、本件界面活性剤効果が本件出願時における技術常識(周知技術)であるとはいえないことから(当合議体注:仮に本件界面活性剤効果が本件出願時における技術常識(周知技術)であるならば、本件訂正発明1は、甲1混合物発明に周知技術を付加したものにすぎないといえる。)、実施例等による具体的な裏付けがなくても、本件明細書の記載から当業者が、本件特許の出願時の技術常識に基づいて本件界面活性剤効果が奏されることを認識できるともいえない。
したがって、特許権者が、令和7年7月14日に提出された意見書の表Aに基づいて主張する効果は、本件明細書の開示の不足を出願後に実質的に補うものであるから参酌すべきでない。
よって、主張を採用することはできない。
仮に、令和7年7月14日に提出された意見書の表A及び表Bに示される効果を参酌しても、次のとおり、本件界面活性剤効果を認めることはできない。
表Aには、アセチレン系界面活性剤を用いた追加実施例1~22が、本件明細書に記載されている、アルコールアルコキシレート系界面活性剤を用いた実施例1~21と同程度の効果を奏されることが示されているといえるが、アセチレン系界面活性剤を用いた追加実施例1~22が他の界面活性剤を用いた態様に比して優れた効果を奏するものであることが示されているとはいえない。
また、表Bには、甲1混合物発明(甲1の実施例21)において、消泡剤「BYK-094」0.2質量部に加えてアセチレン系界面活性剤「サーフィノール420」を2質量部又は4質量部追加した態様では、表面接触角が甲1混合物発明よりも大きくなることが示されているといえるが、甲1混合物発明において、「消泡剤」である「BYK-094」に代えてアセチレン系界面活性剤を用いた態様において、基材との密着性等が向上することが示されていないから、アセチレン系界面活性剤を含有することによる新たな効果を示しているとはいえない。
なお、特許権者は、同意見書(7頁下から3行~10頁16行及び表B)において、概略、甲1混合物発明に、アセチレン系界面活性剤を含ませるとニス層表面の水接触角が小さくなることから、本件訂正発明1は甲1混合物発明と実質同一ではない旨主張している。
しかしながら、ニス層表面の水接触角は、「基材との密着性」、すなわち基材とニス層の密着性の関係を直接示すものではなく、また、耐ブロッキング性、耐熱性、耐水摩擦性又は耐アルコール性と関係するものであるともいえない。
そうしてみると、特許権者が主張する「水接触角が小さくなること」という事実が、相違点に係る構成が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術の転換又は付加であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるという判断(上記ア)を左右するものではない。
よって、当該主張は採用できない。
ウ 小括
上記ア及びイより、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明と実質的に同一である。
3 本件訂正発明2について
本件訂正発明2と甲1混合物発明とを対比すると、本件訂正発明2は、前記「(メタ)アクリル系樹脂(A)」が、「スチレンアクリル樹脂」であるのに対し、甲1混合物発明は、「A-1」が「アクリル樹脂エマルジョン」であるとしか特定されておらず、「スチレンアクリル樹脂」であるのか否か明らかでない点で相違する。
しかしながら、当該相違点について検討すると、「水性バインダー樹脂(A)」として用いられる「水性アクリル樹脂」について、甲1の当初明細書の【0019】には、「(メタ)アクリレート以外の単量体としては、・・・(中略)・・・、スチレン、α-メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;・・・(中略)・・・が挙げられる。」と記載されており、「スチレンアクリル樹脂」を用いることが示唆されていることからも分かるように、「水性ニス組成物」が含有する「水性バインダー樹脂(A)」として、「スチレンアクリル樹脂」を用いることは、課題解決のための具体化手段の微差にすぎない。
また、本件明細書に記載され、「(メタ)アクリル系樹脂(A)」として、「スチレンアクリル樹脂」である「樹脂H」を用いた「実施例8」の水性インキの評価結果と、「アクリル樹脂」である「樹脂E」を用いた「実施例5」の水性インキの評価結果を対比すると、両者の「5特性」に関する評価結果は、各評価がいずれも最高評価の「5」であり、「水性ニス組成物」が含有する「水性バインダー樹脂(A)」として、「スチレンアクリル樹脂」を用いることにより、新たな効果を奏するものとも認められない。
したがって、上記相違点は、課題解決のための具体化手段における微差にすぎず、新たな効果を奏するものでもないから、実質的な相違点ではない。
よって、本件訂正発明2は、甲1混合物発明と実質的に同一である。
4 本件訂正発明3について
甲1混合物発明が顔料を含有していないことは明らかであり、また、甲1の当初明細書の【0072】には、水性ニス組成物が、グラビア印刷又はフレキソ印刷により、基材の表面に形成されたインキ層の表面に印刷する際のニスとして好適である旨が記載されているから、「トップコートニス」であると認められる。
したがって、甲1混合物発明は、本件訂正発明3の「顔料を含有しないトップコートニスである」という要件を満たす。
したがって、本件訂正発明3は、甲1混合物発明と実質的に同一である。
5 本件訂正発明4について
甲1の当初明細書の【0072】には、水性ニス組成物が、グラビア印刷又はフレキソ印刷により、基材の表面に形成されたインキ層の表面に印刷する際のニスとして好適である旨が記載されているから、甲1混合物発明は、本件訂正発明4の「フレキソ印刷又はグラビア印刷に用いられる」という要件を満たす。
したがって、本件訂正発明4は、甲1混合物発明と実質的に同一である。
6 本件訂正発明5について
甲1積層体発明の「プラスチックフィルム」、「第二の印刷層(ニス層)」及び「印刷物(積層体)」は、それぞれ本件訂正発明5の「基材」、「インキ層」及び「積層体」に相当するから、甲1積層体発明の「印刷物(積層体)」は、本件訂正発明5の「基材と、前記基材上に設けられたインキ層とを備え、前記インキ層が、請求項1又は2に記載の水性インキの印刷層である」という要件を満たす。
したがって、本件訂正発明5は、甲1積層体発明と実質的に同一である。
7 本件訂正発明6について
甲1積層体発明の「第一の印刷層(インキ層)」は、本件訂正発明6の「中間インキ層」に相当する。
また、甲1積層体発明の「印刷物(積層体)」は、本件訂正発明6の「前記基材と前記インキ層との間に、中間インキ層を更に備える」という要件を満たす。
したがって、本件訂正発明6は、甲1積層体発明と実質的に同一である。
8 本件訂正発明7について
甲1積層体発明の「印刷物(積層体)」は、「プラスチックフィルム」として、一軸収縮性PETフィルムを用いており、当該「一軸収縮性PETフィルム」は、「熱収縮フィルム」であると認められるから、甲1積層体発明の「印刷物(積層体)」も「熱収縮フィルム」として用いられるものと認められる。
したがって、甲1積層体発明の「印刷物(積層体)」は、本件訂正発明7の「熱収縮フィルムとして用いられる」という要件を満たすから、本件訂正発明7は、甲1積層体発明と同一である。
9 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~7は、甲1に記載された上記先願発明と同一である。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1~7に係る発明は、甲1に記載された発明と実質的に同一である。
そうすると、請求項1~7に係る特許は、特許法29条の2の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許の請求項1~7に係る発明は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700815