特許異議申立
2023-701069
膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体及びその製造方法
- 審判番号
- 2023-701069
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-093830
- 登録番号
- 7256148
- 請求日
- 2023年10月05日
- 審決日
- 2024年07月11日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱製紙株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人たかはし国際特許事務所
- 【異議申立人】村上 洋子
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 三崎 仁
- 分類
- P1652.113-YAA(B01D) / P1652.121-YAA(B01D) / P1652.537-YAA(B01D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7256148号発明「膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7256148号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲の、訂正後の請求項1について訂正することを認める。
特許第7256148号の請求項1に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7256148号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、令和2年5月29日を出願日とする特許出願であって、令和5年4月3日に特許権の設定登録がされ、同年同月11日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1に係る特許に対し、令和5年10月5日に特許異議申立人である村上洋子(以下、「申立人」という)により、特許異議の申立てがされた。
本件特許異議申立事件における以降の手続の経緯は、次のとおりである。
令和6年 2月 5日付け:取消理由通知(審尋を含む)
同年 4月 2日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
なお、令和6年4月2日の訂正の請求に対して、申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を設けたが、指定期間内に意見書は提出されなかった。
第2 訂正の適否についての判断
令和6年4月2日に特許権者より請求された訂正は適法になされたものと判断する。
以下、その理由につき詳述する。
1 訂正の内容
令和6年4月2日に提出された訂正請求書における訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)の趣旨は、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを求めるものであり、その内容は、次の訂正事項からなる(下線部は訂正箇所を示す。)。
訂正事項
特許請求の範囲の請求項1の「主体繊維の繊維径が25μm以下であり」を「主体繊維の繊維径が2~25μmであり、主体繊維の繊維長が5~20mmであり、バインダー繊維の繊維径が2~25μmであり、バインダー繊維の繊維長が3~20mmであり」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項は、訂正前の請求項1に対して、願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0020】の「主体繊維の繊維径は、・・・2~25μmが好ましく」との記載から、訂正後の請求項1に係る発明における主体繊維の繊維径を2~25μmに限定し、【0021】の「主体繊維の繊維長は・・・好ましくは5~20mmであり」との記載から、訂正後の請求項1に係る発明における主体繊維の繊維長を5~20mmに限定し、【0025】の「バインダー繊維の繊維径は2~25μmが好ましく」との記載から、訂正後の請求項1に係る発明におけるバインダー繊維の繊維径を2~25μmに限定し、【0026】の「バインダー繊維の繊維長は、好ましくは3~20mmであり」との記載から、訂正後の請求項1に係る発明のバインダー繊維の繊維長を3~20mmに限定するものであり、これらにより新たな技術的事項が導入されるものとはいえない。
そうすると、訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載
上記第2のとおり本件訂正請求は適法になされたものであるから、本件特許の異議申立の対象である特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
主体繊維及びバインダー繊維を含有してなる不織布である膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体において、主体繊維の繊維径が2~25μmであり、主体繊維の繊維長が5~20mmであり、バインダー繊維の繊維径が2~25μmであり、バインダー繊維の繊維長が3~20mmであり、膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体におけるCD強度測定時の最大荷重点の伸び率が8.0%以上であり、8.0%伸び時の荷重が1600N/m以上であり、主体繊維が延伸ポリエステル繊維であり、バインダー繊維が未延伸ポリエステル繊維であることを特徴とする膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体。」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立理由について 1 特許異議申立の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:特開2012-130890号公報
甲第2号証:特開2011-5455号公報
甲第3号証:日本繊維機械学会 基礎繊維工学編集委員会編、「基礎繊維工学[III] ―布の構造と性質―」、昭和49年、、第302頁
甲第4号証:水野淳、「不織布及び合成皮革」、昭和45年、株式会社地人書館発行、第9頁
(以下、甲第1号証~甲第4号証を、それぞれ「甲1」~「甲4」という。)
(1)申立理由1(甲1を主たる証拠とした進歩性欠如)
設定登録時の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲3に記載された技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(甲2を主たる証拠とした進歩性欠如)
設定登録時の請求項1に係る発明は、甲2に記載された発明及び甲3に記載された技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
主体繊維及びバインダー繊維の繊維径及び繊維長は、繊維の分散性により地合に影響を与え、本件発明の「半透膜の原料である塗布液が裏抜けしにくい」、「分離膜をコルゲート加工する際に、切れや割れの発生を抑制できる」という課題解決に対して影響を及ぼすものである。繊維長が20mmを超えるような繊維からなる現実的な不織布としては乾式不織布があるが、甲4によれば、乾式不織布は湿式法不織布よりも繊維の分散性に劣り、裏抜けが生じやすい。
そうすると、繊維長20mmを超えるような繊維を含む、例えば乾式不織布からなる膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体が、本件発明の課題を解決できるとはできない。
2 取消理由の概要
当審が特許権者に通知した、令和6年2月5日付けの取消理由の概要は、次のものである。
(1)取消理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性、進歩性欠如)
設定登録時の請求項1に係る発明は、甲1に記載された発明である、又は、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(サポート要件違反)
本件発明は、「半透膜の原料である塗布液が裏抜けしにくく、平膜型モジュールの一定の容積あたりの処理能力を高める手段として分離膜をコルゲート加工する際に、切れや割れの発生を抑制することができる膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体」「を提供すること」を課題としている。
ここで、実施例、【0020】、【0021】、【0025】、【0026】、及び、比較例の記載を合わせ考えると、繊維径が2μm以上で繊維長が5~20mmの主体繊維、繊維径が2~25μmで繊維長が2~20mmのバインダー繊維を用いる場合については、本件発明の課題を解決できるといえるが、それ以外の場合には、本件発明の課題が解決されない場合があることが示されているといえる。
そうすると、主体繊維及びバインダー繊維の繊維径及び繊維長がこの範囲に限定されていない本件発明は、課題を解決しないものを包含しているものである。
よって、請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第5 当審の判断
1 各甲号証、乙号証について
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下、同様。)。
ア 「【請求項1】
その表面上に分離機能を有する膜を形成させる分離膜支持体であって、親水性を有する不織布からなることを特徴とする分離膜支持体。」
イ「【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布からなる、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜および逆浸透膜等の分離膜を支持するための分離膜支持体とその製造方法、分離膜シートならびに膜分離エレメントに関するものである。」
ウ 「【0005】
また、分離膜が高圧下で使用されることが多い逆浸透膜等の半透膜の場合は、支持体には分離膜の耐久性向上のために高い機械的強度が要求され、また、膜分離活性汚泥法に適用される下廃水処理用の分離膜においても、使用中に砂のような無機物や汚泥、その他の固形物が激しく衝突したり、活性汚泥への酸素の供給や目詰まり防止のために行うエアレーション操作による気泡が膜面に激しく衝突したりするので、支持体はそのような衝撃にも十分に耐えられる高い機械的強度を備えていることが重要であった。」
エ 「【0071】
(7)不織布の引張強力(N/5cm)と引張伸度(%)
JIS L 1913(2010年版)の6.3.1に基づいて、5cm×30cmの不織布サンプルについて、つかみ間隔が20cmで、引張速度10cm/minの条件で、縦方向および横方向それぞれ5点について強力と伸度を測定し、破断したときの強力と伸度を読み取り、少数点以下第一位を四捨五入した値を縦方向と横方向の引張強力と引張伸度とし、縦方向と横方向の平均値の小数点以下第一位を四捨五入した値を、それぞれ不織布の引張強力と引張伸度とした。
・・・
【0073】
(9)不織布の5%伸長時応力(N/5cm)
JIS L 1913(2010年版)の6.3.1に基づいて測定した。5cm×30cmの不織布サンプルについて、つかみ間隔20cm、引張速度10cm/minの条件で、縦方向および横方向それぞれ5点の測定を実施した。得られた強伸度曲線から5%伸長時の強力を読み取り、少数点以下第一位を四捨五入した値を縦方向と横方向の5%伸長時応力とし、縦方向と横方向の平均値の小数点以下第一位を四捨五入した値を不織布の5%伸張時応力とした。
・・・
【0091】
[実施例5]
(混合繊維ウエブ)
いずれもポリエチレンテレフタレートからなり、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンを繊維に対し0.2質量%の付着率であらかじめ付着させた、繊維径10μm、繊維長38mmの延伸繊維20質量%と、繊維径17μm、繊維長64mmの延伸繊維30質量%と、繊維径22μm、繊維長38mmの未延伸繊維50質量%を混綿し、カード機で混合繊維ウエブを作製した。
【0092】
(短繊維不織布)
上記混合繊維ウエブを、連続して一対のフラットロール間に通し、ロール表面温度180℃、線圧1176N/cmで全面熱圧着し、目付110g/m2の短繊維不織布を得て、これを分離膜支持体とした。
【0093】
(分離膜形成)
上記分離膜支持体に実施例1と同様にして分離膜を形成して分離膜シートとした。
【0094】
実施例1~5のいずれも、製膜性は良好であり、膜透水係数は50×10-9(m/s)/Pa以上であった。」
オ 「【表2】
[図:0001415285000001.jpg]
」
(2)甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
熱可塑性連続フィラメントから構成された長繊維不織布であって、部分的熱圧着により形成された高密度部分と、部分的熱圧着されていない低密度部分を含み、該高密度部分の繊維密度が0.6~1.0であって、該低密度部分の繊維密度が0.1~0.5であることを特徴とする分離膜支持体。
・・・
【請求項8】
請求項7に記載の分離膜を含むことを特徴とする膜分離エレメント。
【請求項9】
膜分離エレメントが、膜分離活性汚泥法に適用される下廃水処理用であることを特徴とする請求項8に記載の膜分離エレメント。」
イ 「【0067】
(7)長繊維不織布の引張強力(N/5cm)と引張伸度(%)
JIS L 1906(2000年版)の5.3.1に基づいて、5cm×30cmの長繊維不織布サンプルについて、つかみ間隔が20cmで、引張速度10cm/minの条件で、縦方向および横方向それぞれ5点について強力と伸度を測定し、破断したときの強力と伸度を読み取り、少数点以下第一位を四捨五入した値を縦方向と横方向の引張強力と引張伸度とし、縦方向と横方向の平均値の小数点以下第一位を四捨五入した値を、それぞれ不織布の引張強力と引張伸度とした。
【0068】
・・・
(9)長繊維不織布の5%伸長時応力(N/5cm)
JIS L 1906(2000年版)の5.3.1に基づいて、5cm×30cmの長繊維不織布サンプルについて、つかみ間隔20cm、引張速度10cm/minの条件で、縦方向および横方向それぞれ5点の測定を実施し、得られた強伸度曲線から5%伸長時の強力を読み取り、少数点以下第一位を四捨五入した値を縦方向と横方向の5%伸長時応力とし、縦方向と横方向の平均値の小数点以下第一位を四捨五入した値を不織布の5%伸張時応力とした。」
ウ「【0080】
(比較例2)
繊維径が17μmで、繊維長が64mmの延伸糸30質量%と、繊維径が10μmで、繊維長が38mmの延伸糸20質量%と、繊維径が22μmで、繊維長が38mmの未延伸糸50質量%を混綿し、カード機で混合繊維ウエブを作製した。作製した混合繊維ウエブを、連続して一対のフラットロール間に通し、ロール表面温度180℃、線圧120kg/cmで全面熱圧着し、目付170g/m2の短繊維不織布を製造し、分離膜支持体を得た。」
エ 「
[図:0001415285000002.jpg]
」
(3)甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001415285000003.jpg]
」(第302頁1~9行及びその右下の第1・13図)
(4)甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001415285000004.jpg]
」(第9頁8行~下から4行)
(5)乙第1~3号証について
特許権者は、令和6年4月2日に、意見書とともに、下記の乙第1号証から乙第3号証を提出しているが、これらは審尋の内容に対するものであり、取消理由に対するものではない。
乙第1号証:植松市太郎ら、「高分子の物性に及ぼす結晶性の影響」、高分子、1961年、第10巻、第3号、第285~288頁
乙第2号証:鞠谷雄士、「紡糸・延伸」、繊維学会誌、2003年、第59巻、第8号、第252~258頁
乙第3号証:油林恒夫ら、「ポリエチレンテレフタレート繊維の示差熱解析-微細組織と融解挙動」、工業化学雑誌、1966年、第69巻、第9号、第1798~1802頁
2 取消理由1及び申立理由1について
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1には、上記1(1)イによれば、「精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜および逆浸透膜等の分離膜を支持するための分離膜支持体」として使用される「不織布」が記載されており、同ウによれば、分離膜は「膜分離活性汚泥法」に用いられることが記載されており、同エによれば、実施例5として、ポリエチレンフタレートからなる、繊維径10μm、繊維長38mmの延伸繊維、繊維径17μm、繊維長64mmの延伸繊維、繊維径22μm、繊維長38mmの未延伸繊維から混合繊維ウエブを作製し、この混合繊維ウエブから短繊維不織布を得ることが記載され、同オの【表2】によれば、その横方向の引張伸度は29%、横方向の5%伸張時応力は166N/5cmであることが記載されている。
そこで、実施例5に注目して甲1の記載を整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径10μm、繊維長38mmの延伸繊維と、繊維径17μm、繊維長64mmの延伸繊維と、繊維径22μm、繊維長38mmの未延伸繊維から作製された混合繊維ウエブから得られた短繊維不織布である、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜および逆浸透膜等の分離膜を支持するための分離膜支持体であって、膜分離活性汚泥法に用いられ、横方向の引張伸度が29%、横方向の5%伸張時応力が166N/5cmである分離膜支持体。」
(2)本件発明について
ア 甲1発明との対比
(ア)本件明細書の【0018】の、「この温度を上げる工程において、主体繊維は軟化又は溶融せず、主体繊維として、半透膜用支持体の骨格を形成する」との記載によれば、主体繊維とは、軟化又は溶融せず、半透膜用支持体の骨格を形成するものであるといえる。
そして、甲1発明の分離膜支持体は、本件発明と同様に、延伸ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)繊維と未延伸ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)繊維とからなるものであるところ、本件発明と甲1発明で、繊維を構成する材料が同じであれば、その繊維が果たしている作用も同じであるといえるから、甲1発明の「ポリエチレンテレフタレートからなる」「延伸繊維」は、本件明細書の【0018】における「主体繊維」としての性質を発揮しているといえる。そうすると、甲1発明における「ポリエチレンテレフタレートからなる」「延伸繊維」は、本件発明の「延伸ポリエステル繊維」である「主体繊維」に相当する。
そして、甲1発明の2種の延伸繊維の繊維径である「繊維径10μm」、「繊維径17μm」は、本件発明の主体繊維の「繊維径が2~25μm」に相当する。
(イ)上記の(ア)で述べたのと同様の理由により、本件発明の「未延伸ポリエステル繊維」に一致する甲1発明の「ポリエチレンテレフタレートからなる」「未延伸繊維」は、本件発明と同じバインダーの性質を発揮しているといえるから、甲1発明における「ポリエチレンテレフタレートからなる」「未延伸繊維」は、本件発明の「未延伸ポリエステル繊維である」「バインダー繊維」に相当する。
そして、甲1発明の未延伸繊維の繊維径である「繊維径22μm」は、本件発明のバインダー繊維の「繊維径が2~25μm」に相当する。
(ウ)そうすると、甲1発明の「ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径10μm、繊維長38mmの延伸繊維と、繊維径17μm、繊維長64mmの延伸繊維と、繊維径22μm、繊維長38mmの未延伸繊維から作製された混合繊維ウエブから得られた短繊維不織布」は、本件発明の「主体繊維及びバインダー繊維を含有してなる不織布」であって、「主体繊維の繊維径が2~25μmであり」、「バインダー繊維の繊維径が2~25μmであり」、「主体繊維が延伸ポリエステル繊維であり、バインダー繊維が未延伸ポリエステル繊維である」に相当する。
(エ)甲1発明の「精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜および逆浸透膜等の分離膜」は、本件発明の「半透膜」に相当する。
(オ)甲1発明の「膜分離活性汚泥法」に用いられる「分離膜支持体」は、本件発明の「膜分離活性汚泥処理用」「膜用支持体」に相当する。
(カ)そうすると、本件発明と甲1発明は
「主体繊維及びバインダー繊維を含有してなる不織布である膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体において、主体繊維の繊維径が2~25μmであり、バインダー繊維の繊維径が2~25μmであり、主体繊維が延伸ポリエステル繊維であり、バインダー繊維が未延伸ポリエステル繊維である膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
主体繊維の繊維長及びバインダー繊維の繊維長が、本件発明では、前者が「5~20mm」、後者が「3~20mm」であるのに対し、甲1発明では、前者が「38mm」及び「64mm」、後者が「38mm」である点。
<相違点2>
支持体が、本件発明では、「CD強度測定時の最大荷重点の伸び率が8.0%以上であり、8.0%伸び時の荷重が1600N/m以上である」のに対し、甲1発明では、「横方向の引張伸度が29%、横方向の5%伸張時応力が166N/5cm」である点。
イ 相違点について
相違点1について検討する。
甲1は、【0010】によれば、「分離膜を支持する際の優れた製膜性および高い機械的強度を有し、さらには分離膜の性能向上に寄与する分離膜支持体とその製造方法を提供すること」を目的としており、【0011】によれば、「親水性を有する不織布」を用いることで上記課題を解決するものであり、その課題解決手段は、本件発明と関連するものではない。
また、甲1には、本件発明の主体繊維に相当する延伸繊維の繊維長又はバインダー繊維に相当する未延伸繊維の繊維長により、不織布の性能に影響があることや、繊維長を調整することについては何ら記載がない。
そして、一般に、不織布等は、それを構成する繊維の繊維長が長い方が強度が高くなることが知られている。
そうすると、甲1発明において、延伸及び未延伸ポリエステル繊維の繊維長を短くすることは、甲1発明の目的の一つである、高い機械的強度を損なうおそれがあるといえるから、甲1発明において、主体繊維の繊維長を5~20mmとし、バインダー繊維の繊維長を3~20mmとする動機付けはない。
さらに、本件発明では、本件明細書の【0026】で、「バインダー繊維の繊維長」が「20mmを超える場合には、繊維分散性が低下しやすく、半透膜支持体の地合が不均一となりやすく、半透膜の製膜性を損なう場合がある」とされているとおり、バインダー繊維の繊維長を20mm以下とすることで半透膜の製膜性が良好な支持体を得るという効果があることが理解できるところ、この点は、甲1記載の発明から予測できる効果とはいえない。
また、上記1(3)によれば、甲3には不織布が最大荷重点で破断することが記載されているが、この点は、上記相違点1に係る本件発明の構成に関係するものではない。
してみれば、甲1発明において、主体繊維の繊維長を5~20mmとし、バインダー繊維の繊維長を3~20mmとすることは、当業者が容易に想到しうることではない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲3記載の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから、取消理由1及び申立理由1には理由がない。
3 申立理由2について
(1)甲2に記載された発明
甲2には、上記1(2)アによれば、「不織布」である「分離膜支持体」であって、「膜分離活性汚泥法に適用される」ものが記載されている。
また、同ウによれば、比較例2として、繊維径が17μmで、繊維長が64mmの延伸糸と、繊維径が10μmで、繊維長が38mmの延伸糸と、繊維径が22μmで、繊維長が38mmの未延伸糸から混合繊維ウエブを作製し、この混合繊維ウエブから短繊維不織布を得ることが記載され、同エの【表1】によれば、その横方向の引張伸度は29%、横方向の5%伸張時応力は166N/5cmであることが記載されており、繊維の樹脂種はPET、すなわち、ポリエチレンテレフタレートであることが記載されている。
そこで、比較例2に注目して甲2の記載を整理すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポリエチレンテレフタレートからなる、繊維径が17μmで、繊維長が64mmの延伸糸と、繊維径が10μmで、繊維長が38mmの延伸糸と、繊維径が22μmで、繊維長が38mmの未延伸糸から作製された混合繊維ウエブから得られた短繊維不織布である、膜分離活性汚泥法に用いられ、横方向の引張伸度が29%、横方向の5%伸張時応力が166N/5cmである分離膜支持体。」
(2)本件発明について
ア 甲2発明との対比
甲2発明は、甲1発明と同じ「ポリエチレンテレフタレートからなる」「延伸糸」(延伸繊維)及び「ポリエチレンテレフタレートからなる」「未延伸糸」(未延伸繊維)からなる分離膜支持体に関し、甲1発明と同様に主体繊維とバインダー繊維の繊維径は本件発明の範囲内である発明であるから、上記2(2)アの記載を踏まえると、本件発明と甲2発明は、
「主体繊維及びバインダー繊維を含有してなる不織布である膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体において、主体繊維の繊維径が2~25μmであり、バインダー繊維の繊維径が2~25μmであり、主体繊維が延伸ポリエステル繊維であり、バインダー繊維が未延伸ポリエステル繊維である膜分離活性汚泥処理用半透膜用支持体」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3>
主体繊維及びバインダー繊維の繊維長が、本件発明では、前者が「5~20mm」、後者が「3~20mm」であるのに対し、甲2発明では、前者が「38mm」及び「64mm」、後者が「38mm」である点。
<相違点4>
支持体が、本件発明では、「CD強度測定時の最大荷重点の伸び率が8.0%以上であり、8.0%伸び時の荷重が1600N/m以上である」のに対し、甲2発明では、「横方向の引張伸度が29%、横方向の5%伸張時応力が166N/5cm」である点。
イ 相違点について
相違点3について検討する。
甲2は、【0009】によれば、「分離膜を支持する際に優れた製膜性および高い機械的強度を有する分離膜支持体とその製造方法」「を提供すること」を目的としており、【0021】によれば、膜欠点などの原因が短繊維不織布の毛羽立ちが一因であり、「長繊維」不織布を用いることで上記課題を解決するものである。
そうすると、甲2発明では、長繊維不織布を用いることが課題解決手段であるため、甲2発明において、用いる主体繊維の繊維長を38mm及び64mmから、さらに短くして、5~20mmとし、バインダー繊維の繊維長を38mmから、さらに短くして、3~20mmとする動機付けはない。
また、上記1(3)によれば、甲3には不織布が最大荷重点で破断することが記載されているが、この点は、上記相違点3に係る本件発明の構成に関係するものではない。
してみれば、甲2発明において、主体繊維の繊維長を5~20mmとし、バインダー繊維の繊維長を3~20mmとすることは、当業者が容易に想到しうることではない。
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明は、甲2発明に基づいて、又は、甲2発明及び甲3記載の技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)小括
以上のとおりであるから、申立理由2には理由がない。
4 取消理由2及び申立理由3について
本件訂正によって、本件発明は、「主体繊維の繊維径が2~25μmであり、主体繊維の繊維長が5~20mmであり、バインダー繊維の繊維径が2~25μmであり、バインダー繊維の繊維長が3~20mmであ」るものになり、本件発明の課題を解決する範囲のものとなった。
したがって、取消理由2及び申立理由3は、理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由、及び、取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701069