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特許異議申立

2023-700079

アルカリ水電解隔膜用基材及びアルカリ水電解隔膜

審判番号
2023-700079
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-211967
登録番号
7110316
請求日
2023年01月26日
審決日
2024年02月02日
公報発行日
2024年05月31日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】三菱製紙株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人たかはし国際特許事務所
  • 【権利者】東洋紡エムシー株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人たかはし国際特許事務所
  • 【異議申立人】家田 亘久
審判長/審判官
  • 審判長 粟野 正明
  • 審判官 相澤 啓祐
  • 審判官 土屋 知久
分類
P1651.121-YAA(C25B) / P1651.537-YAA(C25B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7110316号発明「アルカリ水電解隔膜用基材及びアルカリ水電解隔膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7110316号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 特許第7110316号の請求項1~4に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7110316号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願(特願2020-211967号。以下、「本願」という。)は、令和 2年12月22日の出願であって、令和 4年 7月22日にその特許権の設定登録がされ、同年 8月 1日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、その請求項1~4(全請求項)に係る特許に対し、令和 5年1月26日差出で特許異議申立人である家田 亘久(以下、「申立人」という。)によって特許異議の申立てがされ、その後の経緯は次のとおりである。 令和 5年 5月19日付け 取消理由通知 同年 7月20日 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 同年 9月25日付け 訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項) なお、上記訂正請求があった旨の通知に対し、申立人からの応答はなかった。 第2 本件訂正請求について 1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容 令和 5年 7月20日提出の訂正請求書によって特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。また、本件訂正請求に係る訂正を以下、「本件訂正」という。)は、特許第7110316号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所には、当審が下線を付した。 (1) 訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「異型断面を有するポリフェニレンサルファイド繊維を含有する不織布からなり、」と記載されているのを、「異型断面を有するポリフェニレンサルファイド繊維を含有する不織布からなり、該異型断面が三角形状、Y型形状、ドックボーン形状又は三つ葉形状であり、」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~4についても同様に訂正する。)。 2 訂正の適否についての当審の判断 (1) 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無 ア 訂正事項1について (ア) 訂正の目的の適否について 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に「異型断面を有するポリフェニレンサルファイド繊維」と記載されており、「異型断面」の具体的な形状が特定されていなかったものについて、「該異型断面が三角形状、Y型形状、ドックボーン形状又は三つ葉形状であ」ると限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。 (イ) 特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無について 訂正事項1による訂正は、上述のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当するとはいえない。 また、本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0023】には、「ここで、「異型断面」とは、繊維の長さ方向に垂直に切断した場合の断面形状が円形断面形状以外のものであり、特に限定はないが、例えば、三角形状、Y型形状、扁平形状、ドックボーン形状、三つ葉形状等の断面を言う。」と記載されているから、訂正事項1による訂正は、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである(なお、下線は当審が付した。以下同様。)。 したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (2) 一群の請求項について 本件訂正前の請求項1~4について、訂正前の請求項2~4はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1~4は一群の請求項である。 そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。 また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1~4〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。 (3) 独立特許要件について 本件は、訂正前の全請求項について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 3 本件訂正請求についてのむすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2の3のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明は、その訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、以下において、本件特許の請求項1~4に係る発明をそれぞれ「本件発明1」等といい、総称して「本件発明」ということがある。 「【請求項1】 異型断面を有するポリフェニレンサルファイド繊維を含有する不織布からなり、該異型断面が三角形状、Y型形状、ドックボーン形状又は三つ葉形状であり、目付を厚さで割って求められる密度が0.30g/cm3以上0.80g/cm3以下であり、縦方向と横方向の引張伸度がいずれも10%以上35%以下であり、ポリフェニレンサルファイド繊維の全体に対する、異型断面を有するポリフェニレンサルファイド繊維の含有量が10質量%以上であることを特徴とするアルカリ水電解隔膜用基材。 【請求項2】 前記不織布が、延伸ポリフェニレンサルファイド繊維、及び、未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維を含有する請求項1に記載のアルカリ水電解隔膜用基材。 【請求項3】 単層構造の不織布、又は、多層構造の不織布からなる請求項1又は請求項2に記載のアルカリ水電解隔膜用基材。 【請求項4】 請求項1ないし請求項3のいずれかの請求項に記載のアルカリ水電解隔膜用基材と、高分子樹脂の多孔質膜とを有するアルカリ水電解隔膜。」 第4 申立理由の概要 申立人は、証拠方法として、本願の出願日前に公知となった後述の甲第1~3号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲3」という。)を提出し、以下の申立理由1~2により、本件特許の請求項1~4に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。なお、本第4及び第5において、本件請求項1~4とは、本件訂正前の請求項1~4を意味する(「本件発明1~4」についても同様である。)。 1 申立理由1(進歩性、取消理由に条件付採用) 本件請求項1~4に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立理由2(サポート要件) 本件特許は、次の理由により特許請求の範囲の記載が不備であり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法第113号第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (1) 本件請求項1に記載の「縦方向と横方向の引張伸度がいずれも10%以上35%以下」は、ガス遮断性を備えるアルカリ水電解隔膜を提供するという課題を解決するための手段であるが、縦方向の引張伸度が36%である比較例7はガス遮断性に問題がない一方、上記引張伸度の範囲を満たす比較例5はガス遮断性に問題があるから、上記引張伸度の範囲を満たすことによっては上記課題を解決できるとはいえず、本件発明1~4は発明の課題を解決するための手段が反映されていない。(不採用) (2) 比較例1及び5は、70質量%の未延伸PPS繊維を含み、カレンダー加工されたアルカリ水電解隔膜用基材であって、未延伸PPS繊維はカレンダー加工によって断面形状が扁平となると推測されるから、本件発明1は比較例1及び5を包含するものであり、本件発明1~4は発明の課題を解決することができない発明を含むものである。(取消理由に条件付採用) 3 証拠方法 甲1:特開2016-89197号公報 甲2:特開2015-117407号公報 甲3:特開2018-197398号公報 第5 取消理由の概要 1 取消理由1(明確性要件) 本件請求項1の「異型断面を有するポリフェニレンサルファイド繊維」という記載の「異型断面」について、本件明細書の【0023】に「繊維の長さ方向に垂直に切断した場合の断面形状が円形断面形状以外のもの」と記載されているが、「円形断面形状」に真円以外の円形(楕円等)が含まれるのかが不明であるから、「異形断面」がどのような形状であればよいのかが明確でない。 なお、取消理由1は、職権によって発見した取消理由である。 2 取消理由2(進歩性) 取消理由2は、上記第4の1の申立理由1と同旨のものである。ただし、本件請求項1の「異形断面」とは真円以外の断面であるとの解釈を前提としている。 3 取消理由3(サポート要件) 取消理由3は、上記第4の2の申立理由2(2)と同旨のものである。ただし、本件請求項1の「異形断面」とは真円以外の断面であるとの解釈を前提としている。 第6 当審の判断 以下に述べるとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 1 取消理由1(明確性要件)について 上記第2の1(1)で述べたとおり、本件訂正により、「異型断面」が「三角形状、Y型形状、ドックボーン形状又は三つ葉形状であ」ることが明確になった。 したがって、明確性要件についての取消理由1は解消された。 2 取消理由2(進歩性)について (1) 甲1の記載 甲1には、「アルカリ水電気分解隔膜用基材」(発明の名称)に関して、次の記載がある。(なお、「・・・」は記載の省略を示す。以下同様。) ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、アルカリ水電気分解隔膜用基材に関する。」 イ 「【0004】 電気分解を行うための電解槽は、隔膜を介して陽極室と陰極室に仕切られ、陽極室では酸素が生成され、陰極室では水素が生成される。隔膜には、この酸素ガスと水素ガスを遮断して混合しないように、ガス遮断性が求められる。また、水の電気分解において電子を運ぶ媒体はイオンであり、電気分解を効率よく行うためには、隔膜に高いイオン透過性も求められる。」 ウ 「【0008】 ・・・ 本発明は、このような従来のアルカリ水電気分解用隔膜の有する課題に鑑みてなされたものであって、ガス遮断性と高いイオン透過性を備えたアルカリ水電気分解隔膜用基材を提供することを目的とする。」 エ 「【0012】 《熱可塑性繊維》 本発明で用いる熱可塑性繊維としては、例えば・・・ポリフェニレンサルファイド・・・の熱可塑性樹脂で構成される繊維を挙げることができる。・・・なかでも耐薬品性能の点から好ましい熱可塑性繊維は、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド等で構成される繊維であり、なかでもアルカリ水に対する耐性が優れる素材で構成される繊維が好ましく、特にポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトン等フェニレンスルフィド単位を有する重合体で構成される繊維が好ましい。繊維がフェニレンサルファイド単位を有する樹脂で構成される場合、高温、高濃度のアルカリ溶液に対しても優れた耐性を示すことで装置の高効率化が可能であり、水の電気分解時に陽極から発生する活性酸素についても化学的な安定性を示す。かかる観点で最も好ましいのはポリフェニレンサルファイド繊維である。」 「【0015】 《基材》 本発明の基材は、上記繊度及び捲縮数を有する熱可塑性繊維で構成されるものであるが、その形態としては、例えば、織布、不織布、ネット、メッシュ等のシート状物が挙げられる。ガス遮断性とイオン透過性を両立するためには、シート状物が緻密かつ均一な空隙形状を有することが好ましい。この観点から本発明の基材としては不織布が特に適している。」 「【0019】 上記本発明で好ましく用いられる不織布は、目付が15~100g/m2、通気度が5~200cc/cm2/秒であることが好ましい。目付が低いほど通気度は高く、目付が高いほど通気度は低くなるが、同じ目付であっても不織布の加熱・加圧工程により通気度は大きく変化し、不織布の性質が大きく異なるため、目付及び通気度のどちらも上記範囲であることが好ましい。 【0020】 目付が15g/m2以上の不織布は単位面積当たりの繊維量が十分であり、粗大孔の発生が抑制されるためガス遮断性に特に優れ、有機高分子樹脂層を形成する場合に樹脂抜けの問題発生も抑制される。一方、目付が100g/m2以下である不織布はイオン透過性にも優れる。そこで、不織布の目付は15~100g/m2であることがより好ましい。」 「【0023】 本発明において、熱可塑性繊維で構成される基材は、バインダー成分を含むことが好ましい。融点の異なる熱可塑性繊維を用いる場合、融点の低い側の繊維がバインダー成分としての機能を果たす。また、同じ熱可塑性繊維であっても延伸部分と未延伸部分を有する場合、未延伸部分がバインダー成分としての機能を果たす。このとき融点の高い側の繊維と、同じ熱可塑性繊維である場合の延伸糸部分は、基材において骨材の機能を果たす。 【0024】 本発明で用いられる熱可塑性繊維の製造方法は、上記の熱可塑性樹脂をその融点以上の温度で溶融し、紡糸口金から紡出することにより、繊維状とする方法が好ましい。紡出された繊維をそのまま巻取ることで、大部分が非晶構造の未延伸繊維が得られる。未延伸繊維は、熱を加えることで繊維同士を接着させるバインダーとして機能する。一方、このような未延伸の繊維は熱による寸法安定性が乏しいので、紡出に続いて熱延伸して配向させ、繊維の強力と熱寸法安定性を向上させた延伸繊維とする。本発明においては延伸糸と未延伸糸を併用し、延伸繊維に未延伸繊維を融着させることで強度を向上させることができる。」 「【0026】 本発明で用いる熱可塑性繊維としては、耐熱性と耐アルカリ性の点からポリフェニレンサルファイド繊維が特に好ましく、紡出されたポリフェニレンサルファイド繊維をそのまま巻取ることで得られる未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維と、紡出に続いて熱延伸して配向させることで得られる延伸糸を併用することが特に好ましい。 【0027】 ポリフェニレンサルファイド繊維の一部に未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維を含み、未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維と延伸ポリフェニレンサルファイド繊維とが融着して不織布を構成することがポリフェニレンサルファイドの耐熱性および耐アルカリ性を最大限に活用できるため好ましい。ポリフェニレンサルファイド繊維の一部に未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維を用いて加熱することで、不織布を構成する未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維と延伸ポリフェニレンサルファイド繊維とを強固に接着させることが可能となり、不織布の引張破断強度を向上できるので好ましい。 【0028】 さらにまた、融着部分は一般的には2本の平滑ロールによって不織布を加熱・加圧させることにより形成される。本発明のように、未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維等の熱可塑性繊維が融着して不織布を構成している場合、ポリフェニレンサルファイド繊維等の熱可塑性繊維の一部が隣接する繊維に融着するが、構成する繊維が適度な捲縮数を有しているため、適度な通気性を付与することができる。通気性の程度は、溶融の程度や融着時の圧力を大きくして、未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維等の未延伸熱可塑性繊維の面積(圧力をかける方向からみた投影面積)を大きくすることで通気度を下げることができる。また、未延伸熱可塑性繊維の面積(圧力をかける方向からみた投影面積)を比較的小さくすることで、通気度を上げることができる。このように、加熱・加圧条件を調整することによっても、基材の通気度をある程度制御することが可能である。基材が適度な通気性を有すれば、基材に高分子樹脂層を形成する場合、当該高分子樹脂が繊維間に適度に噛み込むことができ、それにより隔膜の強度をより好ましい範囲にすることが可能となる。」 「【0030】 本発明で好ましく用いられる、基材を構成するシート状物の厚みは、特に限定するものではないが、25~200μmであることが好ましい。基材の厚みが25μm以上であれば、芯材として十分な強度を発揮することができ、200μm以下であれば、電解槽に設置する際、ガスケットでアルカリ水電解用隔膜を好適に挟み込むことができ、アルカリ水電解用隔膜の厚み方向部分からの液漏れを防ぐことができる。より好ましくは、基材を構成するシート状物の厚みは50~150mmの範囲である。」 「【0032】 本発明においては上記のように水分を乾燥除去した後にカレンダー装置で加熱・加圧処理を行なう。加圧・加熱条件を適正化して融着部分の状態を制御することで不織布強度およびガス遮断性を高くすることが出来る。一方で繊維間の空隙を適度に残すことによってイオンの透過性が良好となり、また有機高分子樹脂層を形成する場合に樹脂が噛み込み易くなる。 【0033】 カレンダー装置でのロール間の圧力については100~8000N/cmの線圧範囲が好ましく採用できる。100~8000N/cmの線圧を採用することで、未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維が十分に融着して不織布の強力を発現することが可能となる。」 オ 「【0039】 《有機高分子樹脂》 本発明において、上記アルカリ水電気分解隔膜用基材はさらに、有機高分子樹脂層を備えることが好ましい。 有機高分子樹脂としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、・・・等を挙げることができる。これらは単独で使用しても、2種類以上を同時に使用してもよい。 有機高分子樹脂層は、基材の両面に形成してもよいし、基材のいずれか一方の面に配置してもよいが、ガス遮断性をより高めるためには、基材の両面に有機高分子樹脂層を形成するのが好ましい。いずれか一方の有機高分子樹脂層が損傷した場合においても、片方の有機高分子樹脂層でガス遮断性を確保することができるからである。」 「【0043】 本実施形態における高分子樹脂層の形成方法は、下記の(1)~(4)の工程をこの順で備える。 (1)有機高分子樹脂と、有機高分子樹脂の溶媒とを含有する溶液を調製する工程 (2)上記溶液を基材に塗工し、基材上に塗膜を形成する工程 (3)上記塗膜の基材とは反対側の表面を、水分を含む気体に晒し、水分を塗膜の厚み方向の中間の位置まで浸透させる工程 (4)基材の塗膜を、有機高分子樹脂の非溶媒を含む凝固浴に浸漬させ、微多孔膜を形成する工程」 カ 「【実施例】 ・・・ 【0056】 [目付] JIS L 1913(2010年)6.2に準じて、25cm×25cmの試験片を3枚採取し、標準状態(20℃、65%相対湿度)におけるそれぞれの質量(g)を量り、1m2当たりの質量(g/m2)で表した。」 「【0058】 [基材中の融着有無] 日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡S-3500Nを用いて、試験片を倍率300倍で観察したとき、1画面中に表示できる試験片の面積に相当する0.14mm2内に存在する繊維のうち、隣り合う繊維との境界線が消えて不明確である部分があれば「融着有」、なければ「融着無」とした。なお、観察したのは加熱加圧処理で金属ロールに接触していた面とする。」 「【0062】 [隔膜としての評価] 気密性と電気抵抗の結果より、隔膜を以下の表1に示す基準により総合判定した。 【0063】 【表1】 [図:0001410192000001.jpg] 」 キ 「【0064】 [実施例1] 延伸ポリフェニレンサルファイド繊維として、メルトフローレート値が165g/10分の粉粒体状のペレットを溶融紡糸して巻き取り、未延伸糸を得た後、この未延伸糸を温度95℃の温水浴中を通過させて延伸し、捲縮を施して単繊維繊度1.0dtex(直径10μm)、カット長6mm、捲縮数6山/25mmの原綿を得た。また、紡糸、巻き取り後、温水浴を通過させて延伸する工程は行わず、捲縮を施した未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維として、単繊維繊度3.0dtex(直径17μm)、カット長6mm、捲縮数6山/25mmのものを得た。 【0065】 延伸ポリフェニレンサルファイド繊維と未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維とを、重量比で、延伸ポリフェニレンサルファイド繊維対未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維=60対40となるように水に分散させて抄紙分散液とし、底に140メッシュの手漉き抄紙網を設置した大きさ25cm×25cm、高さ40cmの小型抄紙機(熊谷理機工業社製)に仕上がりの目付が40g/m2となるように投入し、さらに水を追加して抄紙分散液の総量を20リットルとし、攪拌器で十分に攪拌した。次に、小型抄紙機の水を抜き、抄紙網に残った湿紙を濾紙に転写した。上記湿紙を濾紙ごとロータリー式乾燥機(熊谷理機工業製ROTARY DRYER DR―200)に投入し、温度100℃、工程通過速度0.5m/min、工程長1.25m(処理時間2.5min)にて乾燥する処理を1回行って、ポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布を得た。 【0066】 スチールロールとペーパーロールとからなる油圧式3本ロールカレンダー加工機(由利ロール製、型式IH式H3RCM)を使用して、スチールロール温度200℃、線圧490N/cm、ロール回転速度5m/分で上記ポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布を加熱・加圧し、片面圧着不織布を得た後、裏返して加熱・加圧し、両面圧着不織布を得た。この両面圧着不織布の通気度は51cc/cm2/秒であった。 ・・・ 【0069】 このようにして得られた基材に対し、高分子樹脂層を以下の方法で形成した。 ポリフェニルスルホン(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社の商品名“レーデル”)25重量%、ポリエチレンオキサイド(Mw(重量平均分子量)100000(SIGMA-ALDRICH社製)10重量%、N-メチル-2-ピロリドン(和光純薬工業株式会社製)65重量%をそれぞれ用い、十分攪拌し塗工液として得た。 【0070】 この塗工液中に高分子樹脂層を形成した基材を通し、厚さ300μmとなるよう塗工した。塗工後、純水とN-メチル-2-ピロリドンを50対50の比率で含む50℃の凝固浴中に基材を塗膜とともに30分間浸漬し、ポリフェニルスルホンを凝固させた後、純水で十分洗浄することにより、微多孔膜を得た。作製された隔膜の気密性を測定した結果、100kPaであり、電気抵抗を確認した結果、3.5Ω・cm2であり、隔膜として非常に良好な性能を示した。」 「【0106】 【表2】 [図:0001410192000002.jpg] 【0107】 【表3】 [図:0001410192000003.jpg] 」 (2) 甲1に記載された発明 ア 上記(1)エには、アルカリ水電気分解隔膜用基材について、「同じ熱可塑性繊維」の「延伸部分と未延伸部分を有する場合、未延伸部分がバインダー成分としての機能を果た」し(段落【0023】)、「未延伸繊維は、熱を加えることで繊維同士を接着させ」(段落【0024】)、「ポリフェニレンサルファイド繊維の一部に未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維を含み、未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維と延伸ポリフェニレンサルファイド繊維とが融着して不織布を構成」すること(段落【0027】)、「融着部分は一般的には2本の平滑ロールによって不織布を加熱・加圧させることにより形成され」、「未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維等の熱可塑性繊維が融着して不織布を構成している場合、ポリフェニレンサルファイド繊維等の熱可塑性繊維の一部が隣接する繊維に融着する」(段落【0028】)ことが記載されている。 イ そうすると、上記(1)ウ~キに関連した摘記事項によれば、特に実施例1に関連して甲1には次の発明が記載されている。 「単繊維繊度1.0dtex(直径10μm)、カット長6mm、捲縮数6山/25mmの延伸ポリフェニレンサルファイド繊維と単繊維繊度3.0dtex(直径17μm)、カット長6mm、捲縮数6山/25mmの未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維を、重量比で、延伸ポリフェニレンサルファイド繊維対未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維=60対40であって、仕上がりの目付が40g/m2となるように製造したポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布を、スチールロールとペーパーロールとからなる油圧式3本ロールカレンダー加工機を使用して、スチールロール温度200℃、線圧490N/cm、ロール回転速度5m/分で片面ずつ加熱・加圧した両面圧着不織布であって、ロールによって加熱・加圧されることで両面圧着不織布に含有される未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維と延伸ポリサルファイド繊維とは融着しているアルカリ水電気分解隔膜用基材。」(甲1発明) (3) 甲2の記載 甲2には、「アルカリ水電解用隔膜及びその製造方法並びにアルカリ水電解装置」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は上記従来技術に鑑みてされたものであり、その目的は、アルカリ水電解装置の更なる高性能化及び低コスト化を図るために、ガスバリア性、低い電気抵抗、化学的強度、物理的強度、及び製造性を備えた隔膜を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 アルカリ水電解装置の隔膜には、(1)ガスバリア性、(2)電解効率、(3)化学的強度、(4)物理的強度、(5)製造性の各特性が要求される。上記(1)ガスバリア性は、隔膜を通じてイオンのみを通し、生成したガスの通過や拡散がないことであり、高純度の水素と酸素を回収する上で重要である。ガスバリア性は、隔膜表面の親水性に影響を受ける。上記(2)電解効率とは隔膜が適用されるアルカリ水電解装置の電解効率であって、隔膜表面の親水性と隔膜の電気抵抗に影響を受ける。親水性は、隔膜表面に付着した気泡による電解効率の低下を防止する。隔膜の低い電気抵抗(つまり、高いイオン電導性)は、アルカリ水電解装置の電解効率を向上させ、水素及び酸素の生産性を高めるために重要である。」 「【0008】 さらに、物理的強度及び製造性に関する要求を満たすために、引張強度や剛性に優れた有機繊維不織布又は有機繊維織布を隔膜の強化層とすることにより、高分子多孔膜のみでは不十分な物理的強度と製造性を補償し、隔膜の要求特性を備えることとした。」 「【0036】 布層は、ポリプロピレン(PP)とポリフェニレンサルファイド(PPS)から選択される有機繊維不織布又は有機繊維織布で形成されている。ポリプロピレンは、物理的強度が高く、絶縁性、耐熱性及び耐アルカリ性を有している。ポリフェニレンサルファイドは、物理的強度が高く、耐熱性及び耐アルカリ性を有している。上記特性を有するポリプロピレン不織布及び織布、並びに、ポリフェニレンサルファイド不織布及び織布は、アルカリ水電解装置の隔膜に要求される物理的強度と化学的強度を十分に備えており、隔膜材料として好適である。また、このような有機繊維不織布又は有機繊維織布を用いることにより、後述するように隔膜の製造性を付与することができる。 【0037】 次に示す表1は、サンプル番号S1~S6までの各有機繊維不織布の特性(材料及び密度)と、隔膜材料としての評価結果を示している。サンプル番号S1~S6の各有機繊維不織布上に親水性ポリエーテルスルホンから成る高分子多孔膜層を形成したもの作製し、その電解効率と成膜状況に基づいてサンプル番号S1~S6の各不織布を評価した。 【0038】 【表1】 [図:0001410192000004.jpg] 【0039】 サンプルS2では、著しく低い電解効率が表れ、また、有機繊維不織布から高分子多孔膜層が剥離するという現象が生じた。上記評価結果によれば、隔膜の布層を形成する有機繊維不織布は0.1~0.7g/cm3の密度を有するものが好適であり、0.3~0.6g/cm3の密度を有するものが特に望ましい。密度が0.1g/cm3に満たない有機繊維不織布を使用した隔膜は良好なガスバリア性が得られず、また、密度が0.7g/cm3を超える有機繊維不織布を使用した隔膜は電解効率の不足や成膜不良が生じることがある。」 (4) 甲3の記載 甲3には、「アルカリ水電解用隔膜、アルカリ水電解装置、水素の製造方法及びアルカリ水電解用隔膜の製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 「【0059】 (多孔性支持体) 本実施形態のアルカリ水電解用隔膜は、多孔性支持体をさらに含むことが好ましい。好ましくは高分子多孔膜が多孔性支持体を内在した構造であり、より好ましくは、多孔性支持体の両面に高分子多孔膜を積層した構造である。また、多孔性支持体の両面に、対称に高分子多孔膜を積層した構造であってもよい。 【0060】 多孔性支持体を含むことにより、隔膜の強度を一層向上することができる。例えば、機械的なストレスによる、隔膜の切れや破れや伸び等といった不具合を防止できる。また、多孔性支持体の両面に多孔膜が積層されている構造では、多孔性支持体の片面に傷や穴(ピンホール等)が生じた場合でも、多孔性支持体の他方に積層された多孔膜によりガス遮断性を担保することができる。多孔性支持体の両面に、対称に多孔膜が積層される構造では、膜のカール等を効果的に防止でき、運搬時や膜設置時等における取り扱い性が一層向上する。 【0061】 多孔性支持体の材質は、・・・ポリフェニレンサルファイドを含むことが好ましい。ポリフェニレンサルファイドを用いることで、高温、高濃度のアルカリ溶液に対しても優れた耐性を示し、また、水の電気分解時に陽極から発生する活性酸素に対しても化学的に優れた安定性を示す。」 「【0064】 多孔性支持体が、不織布及びこの不織布に内在する織布を含む複合布であれば、平滑な基材のため、多孔性支持体の上に高分子多孔膜を斑なく積層しやすい。さらに、多孔性支持体が十分な開口度を有するため、隔膜のイオン透過性をより高いレベルで維持できる傾向にある。また、機械的強度が高いため、隔膜の破断や寸法の変化を一層効果的に抑制できる傾向にあり、すなわち、機械的強度及び寸法安定性の観点から好ましい。またさらに、アンカー効果によって高分子多孔膜から多孔性支持体が剥離することも効果的に抑制できる。不織布は、その作製時に繊維の方向がMD方向又はTD方向に配向するため、一方向の引張破断強度、引張破断伸度、引き裂き強度が不十分となることがある。このような場合、不織布の中に織布を内在させることで、MD方向、TD方向共に引張破断強度、引張破断伸度、引き裂き強度を増加させることができ、芯材として、十分な強度を有することができる。また不織布に内在させるものは、織布でなくても、例えば、MD方向、TD方向の一方に繊維が配向している不織布を、その配向の方向が直交するように重ね、それを不織布に内在させるものでもよい。なお、本明細書において、特に断りがない限り、MD(Machine Direction)方向とは製膜時の流れ方向であり、TD(Transverse Direction)方向とはMD方向と直交する方向である。」 「【0067】 本実施形態のアルカリ水電解用隔膜の取り扱い性を示す指標の1つとして、多孔性支持体の引張破断伸度が挙げられる。多孔性支持体の引張破断伸度は、JIS K 7161に準じた方法で測定することができる。多孔性支持体の引張破断伸度が高ければ、隔膜の可撓性が一層向上し一層優れた柔軟性を付与でき、隔膜を電解槽に設置する際や運搬時等に切れたり、ひびが入る不具合を一層抑制でき、さらには取り扱い性も一層向上する傾向いある。多孔性支持体の引張破断伸度は、特に限定されないが、取り扱い性の観点から、5%以上60%以下であることが好ましく、10%以上50%以下であることがより好ましい。引張破断伸度が5%以上であれば、運搬時や電解槽への設置時における隔膜の破損を一層効果的に抑制できる傾向にあり、60%以下であれば、容易に変形せず、芯材としての形状を維持し易くなる傾向にある。さらに、引張破断伸度が10%以上であれば、長期に高温条件下で電解運転した後でも十分な可撓性を維持し易く、50%以下であれば、長期に高温条件下に曝された場合であっても容易に変形せず、より高い寸法安定性を維持できる。なお、ここで多孔性支持体の引張破断伸度は、MD方向、TD方向それぞれにおける其々の引張破断伸度である。」 (5) 本件発明1と甲1発明の対比・判断 ア 対比 (ア) 甲1発明の「ポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布を、スチールロールとペーパーロールとからなる油圧式3本ロールカレンダー加工機を使用して、スチールロール温度200℃、線圧490N/cm、ロール回転速度5m/分で片面ずつ加熱・加圧し」、「ロールによって加熱・加圧されることで未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維と延伸ポリサルファイド繊維とは融着して」いる「両面圧着不織布」は、本件発明1の「ポリフェニレンサルファイド繊維を含有する不織布」に相当する。 (イ) 甲1発明の「アルカリ水電気分解隔膜用基材」は、本件発明1の「アルカリ水電解隔膜用基材」に相当する。 (ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点において一致するとともに、以下の相違点において相違する。 <一致点> 「ポリフェニレンサルファイド繊維を含有する不織布からなるアルカリ水電解隔膜用基材。」である点。 <相違点1> 本件発明1では、アルカリ水電解隔膜用基材が「目付を厚さで割って求められる密度が0.30g/cm3以上0.80g/cm3以下」であるのに対して、甲1発明では、アルカリ水電気分解隔膜用基材が「仕上がりの目付が40g/m2となるように製造」されたものである点。 <相違点2> 本件発明1では、アルカリ水電解隔膜用基材における「縦方向と横方向の引張伸度がいずれも10%以上35%以下」であるのに対して、甲1発明では、アルカリ水電気分解隔膜用基材における縦方向と横方向の引張伸度が不明である点。 <相違点3> 本件発明1では、ポリフェニレンサルファイド繊維が「三角形状、Y型形状、ドックボーン形状又は三つ葉形状であ」る「異型断面を有」し、「ポリフェニレンサルファイド繊維の全体に対する、異型断面を有するポリフェニレンサルファイド繊維の含有量が10質量%以上」であるのに対し、甲1発明では、ポリフェニレンサルファイド繊維湿式不織布を片面ずつ加熱・加圧したものであるものの、その断面形状が不明である点。 イ 判断 (ア) 相違点についての判断 事案に鑑み、まずは、相違点3について検討する。 a 甲1発明の「ロールによって加熱・加圧されることで両面圧着不織布に含有される未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維と延伸ポリサルファイド繊維とは融着して」いる点における、「融着して」いる「未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維」の形状について検討する。 b 上記(2)アに記載のとおり、甲1発明において、未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維は、加熱・加圧されることで繊維同士を接着するものであり、「未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維と延伸ポリサルファイド繊維とは融着して」いるとは、「未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維」が溶融して繊維同士を接着させることを意味するものであり、熱可塑性繊維である「未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維」が溶融する場合には、溶融する前の形状を完全に保つことはなく、ある程度変形するものであって、「未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維」が繊維同士を接着させることによれば、「未延伸のポリフェニレンサルファイド繊維」の変形を伴うことは明らかである。そして、繊維が一旦溶融して固化する場合に、固化後の形状が真円になることは考えられない。 c さらに、上記(1)エには、「融着部分は一般的には2本の平滑ロールによって不織布を加熱・加圧させることにより形成され」、「溶融の程度や融着時の圧力を大きくして、未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維等の未延伸熱可塑性繊維の面積(圧力をかける方向からみた投影面積)を大きく」(【0028】)なることも記載されており、当該記載によれば、「2本の平滑ロールによって不織布を加熱・加圧させること」で「未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維」の「圧力をかける方向からみた投影面積」が「大きく」なるのであるから、「未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維」は「加熱・加圧」によって、圧力がかかる面と垂直方向の繊維断面形状が溶融する前の形状と比較して扁平になるような変形が生じるものと解される。 d そうすると、甲1発明の「ロールによって加熱・加圧されることで」「融着して」いる「未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維」は、溶融前の形状から変形するとともに、圧着によって圧力がかかる面と垂直方向の繊維断面形状が溶融前の形状と比較して扁平形状となっているものであると認められる。 e しかしながら、甲1発明の未延伸ポリフェニレンサルファイド繊維は、繊維の長さ方向に垂直に切断した場合の断面が扁平形状となっているとしても、本件発明1のように、「三角形状、Y型形状、ドックボーン形状又は三つ葉形状」になっているとまでは認められない。 したがって、上記相違点3は、実質的な相違点である。 f そこで、相違点3の容易想到性について検討すると、ポリフェニレンサルファイド繊維を繊維の長さ方向に垂直に切断した場合の断面形状については甲1に何ら記載されておらず、当該断面形状を所定のものとすることについては甲1に記載も示唆もされていないから、甲1発明において、当該断面形状を「三角形状、Y型形状、ドックボーン形状又は三つ葉形状」とすることが動機付けられるとはいえない。 g また、甲2、3にも、甲1発明において、上記断面形状を「三角形状、Y型形状、ドックボーン形状又は三つ葉形状」とすることを動機付ける記載は見当たらない。 h よって、甲1発明において、上記断面形状を「三角形状、Y型形状、ドックボーン形状又は三つ葉形状」とすることは、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 i 以上のとおりであるから、相違点1、2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6) 本件発明2~4について 本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。 上記(5)iで述べたとおり、本件発明1は、甲1発明及び甲2、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明2~4についても、甲1発明及び甲2、3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (7) まとめ したがって、進歩性についての取消理由2は解消された。 3 取消理由3(サポート要件)について 取消理由3は、本件訂正前の請求項1の「異形断面」とは真円以外の断面であるとの解釈を前提として通知したものであったが、上記第2の1(1)で述べたとおり、本件訂正により、「異型断面」が「三角形状、Y型形状、ドックボーン形状又は三つ葉形状であ」ると限定されたため、本件発明1は比較例1及び5を包含するものでなくなった。 したがって、サポート要件についての取消理由3は解消された。 4 採用されなかった申立理由について (1) 申立理由2(1)(サポート要件)について a 本件明細書の記載 本件明細書には、「アルカリ水電解隔膜用基材及びアルカリ水電解隔膜」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 (a) 「【発明が解決しようとする課題】 【0013】 本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、機械的強度等が高い材質からなるアルカリ水電解隔膜用基材を提供するとともに、該アルカリ水電解隔膜用基材を用いることによって、低導電抵抗、ガス遮断性等を併せ備えたアルカリ水電解隔膜を提供することである。」 (b) 「【0018】 本発明のアルカリ水電解隔膜用基材は、特に機械的強度が高いため、アルカリ水電解隔膜を電解槽に設置する際、隔膜の破れ等を好適に抑えることができる。 また、本発明の基材を用いるアルカリ水電解隔膜は、導電抵抗が低く(すなわち、イオン透過性が高く)、かつ、ガス遮断性にも優れている。 また、アルカリ性電解液に対する耐アルカリ性や、電解時の耐熱性等にも優れている。」 (c) 「【0023】 「<PPS繊維の異型断面> 本発明におけるPPS繊維は、異型断面を有することが必須である。 ここで、「異型断面」とは、繊維の長さ方向に垂直に切断した場合の断面形状が円形断面形状以外のものであり、特に限定はないが、例えば、三角形状、Y型形状、扁平形状、ドックボーン形状、三つ葉形状等の断面を言う。 ・・・」 (d) 「【0048】 <アルカリ水電解隔膜用基材の目付> 本発明のアルカリ水電解隔膜用基材の目付は、特に限定しないが、好ましくは20~150g/m2であり、より好ましくは30~100g/m2である。目付が小さ過ぎる場合は、アルカリ水電解隔膜用基材の機械的強度が低くなる場合がある。目付が大き過ぎる場合は、導電抵抗が高くなる場合や電解槽に設置する際、アルカリ水電解隔膜の厚み方向部分から液漏れが生じる場合がある。 【0049】 本発明のアルカリ水電解隔膜用基材の厚さは、特に限定はないが、好ましくは30~300μmであり、より好ましくは40~250μmであり、特に好ましくは60~180μmである。厚さが小さ過ぎる場合は、アルカリ水電解隔膜用基材の機械的強度が低くなる場合がある。厚さが大き過ぎる場合は、導電抵抗が高くなる場合や電解槽に設置する際、アルカリ水電解隔膜の厚み方向部分から液漏れが生じる場合がある。」 【0050】 <アルカリ水電解隔膜用基材の密度> 本発明のアルカリ水電解隔膜用基材の密度は、0.30~0.80g/cm3であ・・・る。 「密度」は、単位を一致させて、「目付」を「厚さ」で割ることによって求められる。 【0051】 該密度が0.30g/cm3未満では、アルカリ水電解隔膜基材の機械的強度が低くなる。 一方、該密度が0.80g/cm3を超えると、アルカリ水電解隔膜用基材が密になることで、導電抵抗が高くなる(イオン透過性が低くなる)。また、アルカリ水電解隔膜の基材内部への投錨性が下がるため、アルカリ水電解隔膜において、後述する多孔質膜がアルカリ水電解隔膜用基材から剥離する。 ・・・。」 (e) 「【0056】 <アルカリ水電解隔膜用基材の引張伸度> 本発明のアルカリ水電解隔膜用基材において、縦方向と横方向の引張伸度は、いずれも10%以上35%以下であり、好ましくは15%以上32%以下であり、より好ましくは18%以上32%以下であり、特に好ましくは20%以上30%以下である。 【0057】 縦方向と横方向の引張伸度が10%未満では、アルカリ水電解隔膜を電解槽に設置する際に破れが生じる。 一方、該引張伸度が35%を超えると、アルカリ水電解隔膜の膜成分に破損が生じ、ガス遮断性が低くなる。 また、該引張伸度の(より、又は、特に)好ましい範囲が上記範囲より小さ過ぎる場合や大き過ぎる場合には、上記したのと同様のことが起こる場合がある。」 (f) 「【実施例】 ・・・ 【0073】 <PPS繊維1(延伸PPS繊維、異形断面)> PPSポリマー(株式会社クレハ製:フォートロンKPS)を紡糸温度300℃、単孔吐出量0.32g/分の条件で、三つ葉形状のノズル孔より紡出した。次いで、20℃、100m/分の冷却風を紡出糸の側面片側から吹き付けて非対称冷却を行った。その後、紡糸速度1170m/分で引き取り、未延伸PPS繊維を得た。 得られた未延伸PPS繊維は、繊維断面が三つ葉形状を有し、繊度が2.7dtex、結晶化エンタルピーが26.0J/gであった。 【0074】 得られた未延伸PPS繊維を、90℃の延伸ローラー間で2.1倍に延伸した。次いで、延伸ローラーと同速の210℃の熱処理ローラーに通して熱処理を行った。さらに、油剤を付与し、175℃で熱処理を行った後、カットした。 得られた延伸PPS繊維「PPS繊維1」(異型断面、無捲縮)は、断面が三つ葉形状を有し、繊度が1.3dtex、円換算直径が11μm、繊維長が5mmであった。 ・・・ 【0076】 <PPS繊維3(延伸PPS繊維、異形断面)> PPS繊維1と同様の方法を用い、延伸後のカット長を変更することで、延伸PPS繊維「PPS繊維3」(異型断面、無捲縮)を作製した。 得られたPPS繊維3は、断面が三つ葉形状であり、繊度が1.3dtex、円換算直径が11μm、繊維長が20mmであった。 【0077】 <PPS繊維4(延伸PPS繊維、円形断面)> PPSポリマー(株式会社クレハ製:フォートロンKPS)を紡糸温度305℃、単孔吐出量0.24g/分の条件で、円形のノズル孔より紡出した。次いで、20℃、80m/分の冷却風を紡出糸の側面片側から吹き付けて非対称冷却を行った。その後、紡糸速度1100m/分で引き取り、未延伸PPS繊維を得た。 得られた未延伸PPS繊維は、繊維断面が円形を有し、繊度が2.2dtexであった。 【0078】 得られた未延伸PPS繊維を90℃の延伸ローラー間で2.0倍に延伸した。次いで、延伸ローラーと同速の210℃の熱処理ローラーに通して熱処理を行った。さらに、油剤を付与し、175℃で熱処理を行った後、カットした。 得られた延伸PPS繊維「PPS繊維4」(円形断面、無捲縮)は、断面が円形形状を有し、繊度が1.1dtex、直径が10μm、繊維長が10mmであった。 ・・・ 【0080】 <PPS繊維6(未延伸PPS繊維、異形断面)> PPS繊維1と同様の方法を用いて未延伸PPS繊維を作製し、次いでカットした。 得られた未延伸PPS繊維「PPS繊維6」は、断面が三つ葉形状であり、繊度が2.6dtex、円換算直径が16μm、繊維長が5mmであった。 【0081】 <PPS繊維7(未延伸PPS繊維、異形断面)> PPS繊維6と同様の方法を用い、カット長を変更することで、未延伸PPS繊維「PPS繊維7」(異形断面、無捲縮)を作製した。PPS繊維7は、断面が三つ葉形状であり、繊度が2.6dtex、円換算直径が16μm、繊維長が10mmであった。 【0082】 <PPS繊維8(未延伸PPS繊維、円形断面)> PPSポリマー(株式会社クレハ製:フォートロンKPS)を紡糸温度305℃、単孔吐出量0.24g/分の条件で、円形のノズル孔より紡出した。次いで、20℃、80m/分の冷却風を紡出糸の側面片側から吹き付けて非対称冷却を行った。次いで、紡糸速度1380m/分で引き取った後、カットした。 得られた未延伸PPS繊維「PPS繊維8」は、断面が円形形状であり、繊度が1.7dtex、直径が13μm、繊維長が10mm、結晶化エンタルピーが24.4J/gであった。 【0083】 <実施例1~11、比較例1~8> 表1記載の繊維配合にて、分散濃度0.2質量%で1分間、繊維を水に分散した。次いで、単層の場合は傾斜ワイヤー抄紙機を用い、2層の場合は傾斜/円網複合式抄紙機を用いて、湿紙を形成させた。次いで、表面温度160℃のヤンキードライヤーにて熱圧乾燥し、表1に示す目付を目標にしたアルカリ水電解隔膜用基材を得た。傾斜/円網複合式抄紙機を用いた場合は、円網側で第一層、傾斜ワイヤー側で第二層の湿紙を形成させた。 【0084】 【表1】 [図:0001410192000005.jpg] 【0085】 (熱カレンダー処理) 実施例2、4、6、7、9及び11、並びに、比較例1、5、7及び8では、アルカリ水電解隔膜用基材に、表2記載の熱カレンダー条件で、熱カレンダー処理を施した。 【0086】 【表2】 [図:0001410192000006.jpg] 【0087】 (アルカリ水電解隔膜の成膜) ポリスルホン(高分子樹脂、ソルベイスペシャリティポリマーズ社製、ユーデル(登録商標)P)17質量%、及び、ポリエチレングリコール(重量平均分子量Mw100,000、シグマアルドリッジジャパン合同会社製)5質量%を、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(純正化学株式会社製)78質量%に、70℃の温度で撹拌溶解し、成膜溶液を得た。 【0088】 前記実施例及び比較例で作製したアルカリ水電解隔膜用基材に、アルカリ水電解隔膜の乾燥前の総膜厚が300μmとなるように成膜溶液を塗工した。塗工後直ちに、40℃に調温した凝固浴(純水)に、塗工基材が水面に対し垂直になるように浸漬させ、高分子樹脂を相分離させた。その後、純水で十分に洗浄することで有機溶媒を除去して、アルカリ水電解隔膜用基材と高分子樹脂の多孔質膜とを有するアルカリ水電解隔膜を得た。 【0089】 実施例及び比較例において、アルカリ水電解隔膜用基材の、目付、厚さ、密度の測定、縦方向と横方向の引張伸度の測定、並びに、アルカリ水電解隔膜用基材の破裂強度、及び、アルカリ水電解隔膜の評価(導電抵抗、ガス遮断性)を行い、結果を以下の表3に示した。 【0090】 (目付) JIS P 8124:2011に準拠して、アルカリ水電解隔膜用基材を100mm×100mmにカットして試験片とし、電子分析天秤(株式会社島津製作所製)を用いて20枚測定した各値の相加平均値を目付[g/cm2]とした。 【0091】 (厚さ) JIS P 8118:2014に準拠して、目付測定時に採取した試験片から1枚ずつマイクロメータ(株式会社ミツトヨ製)を用いて、20枚測定した各値の相加平均値を厚さ[μm]とした。 【0092】 (密度) 上記「目付」を上記「厚さ」で割り、単位を調整することによって、密度[g/cm3]とした。 【0093】 (引張伸度) 縦方向(MD)の引張伸度測定用試験片として、縦方向を長辺として50mm×200mmの短冊状にカットしたアルカリ水電解隔膜用基材を準備した。また、横方向(CD)の引張伸度測定用試験片として、横方向を長辺として50mm×200mmの短冊状にカットしたアルカリ水電解隔膜用基材を準備した。 JIS P 8113:2006に準拠して、定速緊張形引張試験機「シングルコラム型材料試験機、型番:STB-1225S」(株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて、チャック間距離100mmに設定し、チャックの移動速度を100mm/分として、定速で引張試験用試験片を引張り、引張試験用試験片が破断した際の伸度を測定して、引張伸度[%]とした。 ・・・ 【0095】 (電解装置) アルカリ水電解装置は、アルカリ水電解隔膜、陽極及び陰極を備えたもので、アルカリ水電解隔膜を介して、陽極を備えた陽極室と、陰極を備えた陰極室に仕切り、両電極から発生した酸素ガス及び水素ガスがアルカリ水電解隔膜に遮断されて混合しないように構成した。 【0096】 (アルカリ水電解隔膜の性能試験) 前記実施例及び比較例で作製したアルカリ水電解隔膜用基材と、前記のように作製した多孔質膜とを有するアルカリ水電解隔膜を使用して、電解セル及び電解装置を作製した。 電解装置に供給する電解液は、濃度25質量%の水酸化カリウム水溶液を使用し、液温は80℃にした。陽極は純ニッケルメッシュ、陰極には水素発生用活性陰極を使用した。電解セルの電解面積は1dm2とし、電解装置から電解セルへ0.4A/cm2のセル電流が流れるために必要な電解電圧、発生した酸素中の水素濃度、及び、発生した水素中の酸素濃度を計測した。 ・・・ 【0099】 (ガス遮断性) 上記のアルカリ水電解隔膜の性能試験において、発生した水素中の酸素濃度から酸素ガス混入量[モル%]を算出し、アルカリ水電解隔膜のガス遮断性の指標とし、以下の評価基準で評価した。 【0100】 評価基準 「A」:0.3%未満 「B」:0.3%以上、0.4%未満 「C」:0.4%以上、0.5%未満 「D」:0.5%以上 【0101】 【表3】 [図:0001410192000007.jpg] 【0102】 異型断面を有するPPS繊維を含有する不織布からなり、密度が0.30g/cm3以上0.80g/cm3以下であり、縦方向と横方向の引張伸度がいずれも10%以上35%以下である、実施例1~11のアルカリ水電解隔膜用基材は、破裂強度が高く、導電抵抗が低く、ガス遮断性に優れていることが分かった。 【0103】 これに対し、比較例1~5のアルカリ水電解隔膜用基材は、異型断面を有するPPS繊維を含有しない不織布からなるため、比較例2~5のアルカリ水電解隔膜用基材では、破裂強度が低く、また、比較例1のアルカリ水電解隔膜における導電抵抗は高く、比較例5のアルカリ水電解隔膜におけるガス遮断性は低いことが分かった。 【0104】 また、異型断面を有するPPS繊維を含有する不織布からなるものの、密度が0.30g/cm3未満である比較例6のアルカリ水電解隔膜用基材は、破裂強度が低いことが分かった。 また、アルカリ水電解隔膜用基材が、異型断面を有するPPS繊維を含有する不織布からなるものの、縦方向の引張伸度が35%を超える比較例7、及び、密度が0.80g/cm3超であり、縦方向と横方向の引張伸度がいずれも10%未満である比較例8のアルカリ水電解隔膜は、いずれも導電抵抗が高いことが分かった。」 b 判断 (a) 本件発明が解決しようとする課題は、上記a(a)の摘記事項によると、「機械的強度等が高い材質からなるアルカリ水電解隔膜用基材を提供するとともに、該アルカリ水電解隔膜用基材を用いることによって、低導電抵抗、ガス遮断性等を併せ備えたアルカリ水電解隔膜を提供すること」であると認められる(以下、単に「課題」という。)。 (b) 一方、上記a(c)~(f)の摘記事項によると、上記課題を解決するためには、アルカリ水電解隔膜用基材において、 ・PPS繊維が異型断面を有すること ・密度が0.30~0.80g/cm3であること ・縦方向と横方向の引張伸度が、いずれも10%以上35%以下であること が必要であると認められる。 (c) そこで、本件発明1について検討すると、本件発明1は上記(b)に列記した事項を全て備えているから、少なくとも本件発明1の発明特定事項を全て満たしていれば、上記課題が解決できることを当業者が認識できるといえる。 (d) そうすると、本件発明が、上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえない。 (e) 一方、申立人は、比較例5、7に関する記載を根拠として、本件発明がサポート要件を充足しないことについて縷々主張しているが、上記比較例5はPPS繊維が円形断面を有する点で、また、上記比較例7は縦方向の引張伸度が36%である点で本件発明の発明特定事項を備えておらず、本件発明に包含されないものであるから、本件発明がサポート要件を充足しているか否かとは無関係である。したがって、上記主張は採用しない。 (f) よって、本件発明1及び本件発明2~4は上記課題を解決できるものであるから、申立人の主張する申立理由2(1)を採用することはできない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700079

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