特許異議申立
2021-700922
分離膜構造体
- 審判番号
- 2021-700922
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-031495
- 登録番号
- 6847285
- 請求日
- 2021年09月24日
- 審決日
- 2023年06月20日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本碍子株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
- 【異議申立人】関 博志
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.113-YAA(B01D) / P1651.121-YAA(B01D) / P1651.537-YAA(B01D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6847285号発明「分離膜構造体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6847285号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
特許第6847285号の請求項1に係る特許を維持する。
特許第6847285号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第6847285号(以下、「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)1月28日(優先権主張 平成27年1月30日)を国際出願日とする特願2016-572156号の一部を令和2年2月27日に新たな出願としたものであって、令和3年3月4日に特許権の設定登録がされ、同年3月24日に特許掲載公報が発行された。
その後、その全請求項に係る特許に対し、令和3年9月24日に特許異議申立人である関 博志(以下、「申立人」という)により、特許異議の申立てがされた。
本件特許異議申立事件における以降の手続の経緯は、次のとおりである。 令和4年 1月31日付け:取消理由通知
同年 3月31日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者) 同年 6月 8日 :意見書の提出(特許異議申立人) 同年 8月30日付け:訂正拒絶理由通知
同年12月 6日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和5年 1月26日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者) 同年 3月 8日 :意見書の提出(特許異議申立人)
第2 訂正の適否についての判断
令和5年1月26日に特許権者より請求された訂正(以下「本件訂正」といい、この訂正の請求を「本件訂正請求」という。)は適法になされたものと判断する。
以下、その理由につき詳述する。
1 訂正の内容
本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1~2を訂正の単位として訂正することを求めるものであって、その訂正の内容(訂正事項)は、次のとおりである(下線は訂正箇所)。
なお、本件訂正請求がされたので、令和4年3月31日にされた訂正の請求(以下、「先の訂正請求」という。)は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記多孔質支持体上に形成され、0.32nm以上かつ0.44nm以下の平均細孔径を有する分離膜と、を備え、前記分離膜は、金属カチオンを含有し」と記載されているのを、「前記多孔質支持体上に形成され、0.32nm以上かつ0.44nm以下の平均細孔径を有する分離膜(ただし、CHA型ゼオライト膜を除く)と、を備え、前記分離膜は、金属カチオンを含有し、前記分離膜に添加される前記金属カチオンはSr、Mg、Li、Ba、Ca、Cu、Feから選択される少なくとも一種であり、」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に対して、分離膜から「CHA型ゼオライト膜を除く」こと、分離膜に添加される前記金属カチオンは「Sr、Mg、Li、Ba、Ca、Cu、Feから選択される少なくとも一種」であることを特定するものである。
ア 分離膜から「CHA型ゼオライト膜を除く」訂正について
上記訂正は、訂正前の請求項1の「分離膜」から「CHA型ゼオライト膜」である場合を除く、いわゆる除くクレームである。
したがって、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 金属カチオンを特定する訂正について
「前記分離膜に添加される前記金属カチオンはSr、Mg、Li、Ba、Ca、Cu、Feから選択される少なくとも一種であり」との訂正は、訂正前の請求項2の「金属カチオンは、Sr、Mg、Li、Ba、Ca、Cu、Feから選択される少なくとも1種である」という、金属カチオンの種類に関する記載に基づいて、金属カチオンが「Sr、Mg、Li、Ba、Ca、Cu、Feから選択される少なくとも一種」であるとの記載を追加することにより、訂正後の請求項1に係る発明における「金属カチオン」の種類を限定するものであり、また、これにより新たな技術的事項が導入されるものとはいえない。
したがって、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものである。
そうすると、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)独立特許要件について
本件特許の訂正前の請求項1~2の全ての請求項について特許異議の申立てがされたものであるから、訂正事項1~2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
第3 本件特許請求の範囲の記載(本件発明1)
上記第2のとおり本件訂正請求は適法になされたものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(下線は訂正箇所)。
「【請求項1】
少なくともメタンと窒素を含有する混合ガス中の窒素を選択的に透過させる分離膜構造体であって、
多孔質支持体と、
前記多孔質支持体上に形成され、0.32nm以上かつ0.44nm以下の平均細孔径を有する分離膜(ただし、CHA型ゼオライト膜を除く。)と、
を備え、
前記分離膜は、金属カチオンを含有し、
前記分離膜に添加される前記金属カチオンは、Sr、Mg、Li、Ba、Ca、Cu、Feから選択される少なくとも1種であり、
前記分離膜の細孔径の標準偏差を前記平均細孔径で割った変動係数は、0.4以下である、
分離膜構造体。」
第4 取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立理由について
1 特許異議申立の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証 特開2013-226533号公報
甲第2号証 特開2013-226534号公報
甲第3号証 国際公開第2013/125660号
甲第4号証 Ch.BAERLOCHER et al., ATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES,
2001, Fifth Revised Edition, ELSEVIER, p.102-103
(1)申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3項に該当する、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1、2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3項に該当する、又は、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
設定登録時の請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3項に該当する、又は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項及び第2項の規定に違反してされたものである。
2 取消理由の概要
当審が特許権者に通知した、令和4年12月6日付けの取消理由(決定の予告)は、先の訂正請求による訂正は認められないとした上で通知したものであって、その概要は、次のものである。
(1)取消理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性、進歩性欠如)
設定登録時の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性、進歩性欠如)
設定登録時の請求項1に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲第2号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(3)取消理由3(甲第3号証を主たる証拠とする新規性、進歩性欠如)
設定登録時の請求項1に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲第3号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(4)取消理由4(サポート要件違反)
本件明細書の発明の詳細な説明において、窒素吸着性金属カチオンとして具体的に開示されており、発明の詳細な説明の記載に基づいて当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるのは、金属カチオンとしてSr、Mg、Li、Ba、Ca、Cu、Feが含有される場合のみであるところ、設定登録時の請求項1に係る発明は、分離膜にSr、Mg、Li、Ba、Ca、Cu、Feを含まない形態を含んでいる。そうすると、当該発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識しうる範囲のものであるということはできないし、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
よって、設定登録時の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 当審の判断
事案に鑑み、特許異議申立理由及び取消理由をまとめて検討する。
(1)甲第1号証の記載内容及び甲第1号証記載の発明
ア 甲第1号証の記載内容
甲第1号証には、下記の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
(ア)「【請求項1】
複数の成分からなる気体混合物から、透過性の高い成分を透過して分離するために用いるゼオライト膜複合体であって、Alを除く2価以上の金属よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含有するCHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを含むゼオライト膜が、無機多孔質支持体上に形成されてなることを特徴とするゼオライト膜複合体。
【請求項2】
2価以上の金属が、Mg、Fe、Ga、La、Cr、Zr、SnおよびTiである、請求項1に記載のゼオライト膜複合体。」
(イ)「【0004】
具体的な混合ガスの膜分離の例としては、火力発電所や石油化学工業などから排出されるガスの分離で二酸化炭素と窒素、二酸化炭素とメタン、水素と炭化水素、水素と酸素、水素と二酸化炭素、窒素と酸素、パラフィンとオレフィンの分離などがある。用い得るガス分離用ゼオライト膜としては、A型膜、FAU膜、MFI膜、SAPO-34膜、DDR膜などのゼオライト膜が知られている。
【0005】
A型ゼオライト膜は、水分の影響を受けやすく、結晶間隙のない膜にすることが難しく、分離性能は高くない。FAU膜はゼオライトの細孔が0.6~0.8nmであり、気体分子2個分がゼオライト細孔内に入りうる大きさである。この膜は、ゼオライト細孔への吸着特性を持つ分子と持たない分子の分離、例えば二酸化炭素と窒素の分離に向いている。しかし、吸着性のない分子は分離しにくく、適用範囲が狭い。MFI膜の細孔径は0.55nmであり、気体分子の分離には細孔がやや大きく分離性能も高くない。
【0006】
また、天然ガスの精製プラントや、生ごみなどをメタン発酵させてバイオガスを発生させるプラントでは、二酸化炭素とメタンの分離が望まれているが、これらを良好に分離するゼオライト膜としてはゼオライトの分子ふるい機能を利用した、DDR(特許文献1)、SAPO-34(非特許文献1)、SSZ-13(非特許文献2)が性能のよい膜として知られている。
…
【0009】
しかしながら、DDR(特許文献1)は、分離性能は良好であるが、ゼオライトの構造が二次元であるために、二酸化炭素のパーミエンス(Permeance、「透過度」ともいう)が低い。また、三次元構造であるCHA型のアルミノホスフェートであるSAPO-34(非特許文献1)は、分離性能やパーミエンスが良好だが、水存在下での性能が悪化する。」
(ウ)「【0024】
本発明において、ゼオライト膜は、Alを除く2価以上の金属よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含有する。2価以上の金属としては、例えば、Mg、Fe、Ga、La、Cr、Zr、Sn、Ti等が挙げられる。…
【0025】
これら金属元素は、イオン交換もしくは酸化物としてゼオライトに含有されている、またはゼオライトの骨格の一部に置換されているものと考えられる。
…
【0027】
これら金属元素を含有させることにより、細孔内に金属元素が存在する場合は、その存在位置や金属原子のサイズに応じてゼオライト膜の有効細孔サイズが変化すると考えられる。金属元素の含有量が増加すると、細孔サイズの変化も大きくなるが、この細孔サイズは分離する成分の分子サイズによって好適な値が決まる。そのため、分離する成分によって好適な金属元素の含有量が異なる。」
(エ)「【0040】
(CHA型ゼオライト)
…CHA型ゼオライトは0.38×0.38nmの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。」
(オ)「【0148】
本発明において、分離対象となる気体混合物としては、上記のとおり、常温常圧で気体である気体混合物、気化させることにより気体混合物となり得るものであれば特に限定されない。
分離対象物として望ましい気体混合物としては、例えば、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ノルマルブタン、イソブタン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、六フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素、水などから選ばれる少なくとも1種の成分を含むものが挙げられる。前記ガスを含む気体混合物の成分のうち、パーミエンスの高い成分は、ゼオライト膜複合体を透過し分離され、パーミエンスの低い成分は供給ガス側に濃縮される。
【0149】
さらに気体混合物としては、上記成分の少なくとも2種の成分を含むものがより好ましい。この場合、2種の成分としては、パーミエンスの高い成分とパーミエンスの低い成分の組合せが好ましい。」
(カ)「【0170】
分離係数は、1:1のモル比で2つの成分を混合した場合には、通常、理想分離係数と同程度となる。」
(キ)「【0191】
(調製例1)
無機多孔質支持体上にCHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを直接水熱合成することにより無機多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
…
【0201】
(実施例1)
調製例1で得られた膜複合体を40mmにカットし、水35gに硝酸鉄(III)9水和物14.1gを溶かした約0.9Mの硝酸鉄水溶液が入ったテフロン(登録商標)製内筒(100ml)に入れた。オートクレーブを密閉し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後にゼオライト膜複合体を水溶液から取り出し、洗浄後、100℃で4時間以上乾燥させた。
【0202】
XPSにより測定した、ゼオライト膜表面のFe/Alモル比は0.17であった。」
【0203】
硝酸鉄水溶液で処理した上記のCHA型ゼオライト膜複合体を用いて、単成分ガス透過試験を行った。評価したガスは二酸化炭素、メタン、水素、窒素、ヘリウムである。
…
【0207】
このようにして得られた50℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表1に、140℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表2に示した。
【0208】
(例1:透過試験例)
調製例1で得られた膜複合体を40mmにカットし、硝酸鉄水溶液で処理せずに用いた以外は実施例1と同様に、単成分ガス透過試験を行った。得られた50℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表1に、140℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表2に示した。
【0209】
表1と2の結果のとおり、硝酸鉄水溶液の処理により、CO2/CH4、H2/CH4、CO2/N2の各分離係数の十分な上昇が確認できた。
【0210】
【表1】
[図:0001401588000001.jpg]
」
(ク)「【0227】
(調製例3)
無機多孔質支持体上にCHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを直接水熱合成することにより無機多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
…
【0238】
(実施例6)
調製例3で得られた膜複合体を40mmにカットし、水31.2gに硝酸マグネシウム6水和物8.9gを溶かした約1Mの硝酸マグネシウム水溶液が入ったテフロン(登録商標)製内筒(100ml)に入れた。オートクレーブを密閉し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後にゼオライト膜複合体を水溶液から取り出し、洗浄後、100℃で4時間以上乾燥させた。
【0239】
その後、実施例1と同様に、単成分ガス透過試験を行った。得られた50℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表5に、140℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表6に示した。
…
【0249】
【表5】
[図:0001401588000002.jpg]
」
イ 甲第1号証に記載された発明
上記ア(キ)の実施例1(表1)に着目して整理すると、甲第1号証には、
「無機多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体であって、
無機多孔質支持体と、
前記無機多孔質支持体上に形成されるCHA型ゼオライト膜と、
を備え、
前記CHA型ゼオライト膜は、Feを含有し、
50℃における単成分ガスのパーミエンス[mol/(m2・sec・Pa)]について、N2が4.14×10-8であり、CH4が1.98×10-9である、
無機多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体。」
の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。
また、同(ク)の実施例6(表5)に着目して整理すると、甲第1号証には、
「無機多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体であって、
無機多孔質支持体と、
前記無機多孔質支持体上に形成されるCHA型ゼオライト膜と、
を備え、
前記CHA型ゼオライト膜は、Mgを含有し、
50℃における単成分ガスのパーミエンス[mol/(m2・sec・Pa)]について、N2が1.74×10-8であり、CH4が1.05×10-9である、
無機多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体。」
の発明(以下、「甲1発明2」という。)も記載されていると認められる。
(2)甲第2号証の記載内容及び甲第2号証記載の発明
ア 甲第2号証の記載内容
甲第2号証には、下記の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
複数の気体成分からなる気体混合物から、透過性の高い気体成分を透過して分離するために用いるゼオライト膜複合体であって、CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを含み、ゼオライト膜表面のAlに対する1価金属元素のモル比(1価金属/Alモル比)が0.3以上であるゼオライト膜が、無機多孔質支持体上に形成されてなることを特徴とするゼオライト膜複合体。
【請求項2】
1価金属が、Li、NaおよびKよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属である、請求項1に記載のゼオライト膜複合体。」
(イ)「【0004】
具体的な混合ガスの膜分離の例としては、火力発電所や石油化学工業などから排出されるガスの分離で二酸化炭素と窒素、二酸化炭素とメタン、水素と炭化水素、水素と酸素、水素と二酸化炭素、窒素と酸素、パラフィンとオレフィンの分離などがある。用い得るガス分離用ゼオライト膜としては、A型膜、FAU膜、MFI膜、SAPO-34膜、DDR膜などのゼオライト膜が知られている。
【0005】
A型ゼオライト膜は、水分の影響を受けやすく、結晶間隙のない膜にすることが難しく、分離性能は高くない。FAU膜はゼオライトの細孔が0.6~0.8nmであり、気体分子2個分がゼオライト細孔内に入りうる大きさである。この膜は、ゼオライト細孔への吸着特性を持つ分子と持たない分子の分離、例えば二酸化炭素と窒素の分離に向いている。しかし、吸着性のない分子は分離しにくく、適用範囲が狭い。MFI膜の細孔径は0.55nmであり、気体分子の分離には細孔がやや大きく分離性能も高くない。
【0006】
また、天然ガスの精製プラントや、生ごみなどをメタン発酵させてバイオガスを発生させるプラントでは、二酸化炭素とメタンの分離が望まれているが、これらを良好に分離するゼオライト膜としてはゼオライトの分子ふるい機能を利用した、DDR(特許文献1)、SAPO-34(非特許文献1)、SSZ-13(非特許文献2)が性能のよい膜として知られている。
…
【0009】
しかしながら、DDR(特許文献1)は、分離性能は良好であるが、ゼオライトの構造が二次元であるために、二酸化炭素のパーミエンス(Permeance、「透過度」ともいう)が低い。また、三次元構造であるCHA型のアルミノホスフェートであるSAPO-34(非特許文献1)は、分離性能やパーミエンスが良好だが、水存在下での性能が悪化する。」
(ウ)「【0025】
…ゼオライト膜表面のAlに対する1価金属元素のモル比が高いほど、透過性の低い気体成分の透過度を低下させる傾向があり、分離性能が向上する傾向がある。よって、求める分離性能によって、ゼオライト膜表面のAlに対する1価金属元素のモル比を調整すればよい。」
【0026】
通常、結晶化後に焼成し構造規定剤を除去した状態のゼオライト膜では、1価の金属元素は一部のAlのカウンターカチオンとして存在し、他のAlのカウンターカチオンとしてはプロトンが存在している。…
…
【0028】
また、1価金属としては、例えば、Li、Na、K、Rb及びCsよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が挙げられる。これらの中で、Li、Na及びKよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属が好ましく、Naがより好ましい。
【0029】
ゼオライト膜表面の1価金属/Alモル比は、後述するように、例えばゼオライト膜表面に1価金属を含有(担持)させることにより高くすることができる。
」
(エ)「【0035】
(CHA型ゼオライト)
…CHA型ゼオライトは0.38×0.38nmの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。」
(オ)「【0144】
本発明において、分離対象となる気体混合物としては、上記のとおり、常温常圧で気体である気体混合物、気化させることにより気体混合物となり得るものであれば特に限定されない。
分離対象物として望ましい気体混合物としては、例えば、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ノルマルブタン、イソブタン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、六フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素、水などから選ばれる少なくとも1種の成分を含むものが挙げられる。前記ガスを含む気体混合物の成分のうち、パーミエンスの高い成分は、ゼオライト膜複合体を透過し分離され、パーミエンスの低い成分は供給ガス側に濃縮される。
【0145】
さらに気体混合物としては、上記成分の少なくとも2種の成分を含むものがより好ましい。この場合、2種の成分としては、パーミエンスの高い成分とパーミエンスの低い成分の組合せが好ましい。」
(カ)「【0170】
分離係数は、1:1のモル比で2つの成分を混合した場合には、通常、理想分離係数と同程度となる。」
(キ)「【0190】
(調製例1)
無機多孔質支持体上にCHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを直接水熱合成することにより無機多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
…
【0199】
(実施例1)
調製例1で得られた膜複合体を40mmにカットし、水35gに硝酸ナトリウム2.96gを溶かした1Mの硝酸ナトリウム水溶液が入ったテフロン(登録商標)製内筒(100ml)に入れた。オートクレーブを密閉し、100℃で1時間、静置状態、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に支持体-ゼオライト膜複合体を水溶液から取り出し、洗浄後、100℃で4時間以上乾燥させた。
【0200】
XPSにより測定したゼオライト膜表面のNa/Alモル比は1.05、K/Alモル比は0であり、(Na+K)/Alモル比は1.05であった。
【0201】
硝酸ナトリウム水溶液で処理した上記のCHA型ゼオライト膜複合体を用いて、単成分ガス透過試験を行った。評価したガスは二酸化炭素、メタン、水素、窒素、ヘリウムである。
…
【0205】
このようにして得られた50℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表1に、140℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表2に示した。
…
【0212】
(例1:透過試験例)
調製例1で得られた膜複合体を40mmにカットし、硝酸ナトリウム水溶液で処理せずに用いた以外は実施例1と同様に、単成分ガス透過試験を行った。得られた50℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表1に、140℃における各ガスのパーミエンスと分離係数を表2に示した
…
【0224】
【表1】
[図:0001401588000003.jpg]
」
イ 甲第2号証に記載された発明
上記ア(キ)の実施例1(表1)に着目して整理すると、甲第2号証には、
「無機多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体であって、
無機多孔質支持体と、
前記無機多孔質支持体上に形成されるCHA型ゼオライト膜と、
を備え、
前記CHA型ゼオライト膜は、Naを含有し、
50℃における単成分ガスのパーミエンス[mol/(m2・sec・Pa)]について、N2が1.58×10-8であり、CH4が4.69×10-10である、
無機多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体。」
の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
(3)甲第3号証の記載内容及び甲第3号証に記載された発明
ア 甲第3号証の記載内容
甲第3号証には、下記の事項が記載されている。
(ア)「[請求項1] 複数の成分からなる気体混合物または液体混合物から、透過性の高い成分を透過して分離するために用いるゼオライト膜複合体であって、ゼオライト膜が、CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを含み、…無機多孔質支持体上に形成されてなる、ゼオライト膜複合体。」
(イ)「[0004] 具体的な混合ガスの膜分離の例としては、火力発電所や石油化学工業などから排出されるガスの分離で、二酸化炭素と窒素、二酸化炭素とメタン、水素と炭化水素、水素と酸素、水素と二酸化炭素、窒素と酸素、パラフィンとオレフィンの分離などがある。用い得るガス分離用ゼオライト膜としては、A型膜、FAU膜、MFI膜、SAPO-34膜、DDR膜などのゼオライト膜が知られている。
[0005] A型ゼオライト膜は、水分の影響を受けやすく、結晶間隙のない膜にすることが難しく、分離性能は高くない。FAU膜はゼオライトの細孔が0.6~0.8nmであり、気体分子2個分がゼオライト細孔内に入りうる大きさである。この膜は、ゼオライト細孔への吸着特性を持つ分子と持たない分子の分離、例えば二酸化炭素と窒素の分離に向いている。しかし、吸着性のない分子は分離しにくく、適用範囲が狭い。MFI膜の細孔径は0.55nmであり、気体分子の分離には細孔がやや大きく分離性能も高くない。
[0006] また、天然ガスの精製プラントや、生ごみなどをメタン発酵させてバイオガスを発生させるプラントでは、二酸化炭素とメタンの分離が望まれているが、これらを良好に分離するゼオライト膜としてはゼオライトの分子ふるい機能を利用した、DDR(特許文献1)、SAPO-34(非特許文献1)、SSZ-13(非特許文献2)が性能のよい膜として知られている。
…
[0010] しかしながら、気体混合物の分離について、DDR(特許文献1)は、分離性能は良好であるが、ゼオライトの構造が二次元であるために、二酸化炭素のパーミエンス(Permeance、「透過度」ともいう)が低い。また、三次元構造であるCHA型のアルミノホスフェートであるSAPO-34(非特許文献1)は、分離性能やパーミエンスが良好だが、水存在下での性能が悪化する。化学プラントでは、混合ガスに水分が含まれる場合が多く、SAPO-34は実用には耐えない場合がある。」
(ウ)「[0033] (CHA型ゼオライト)
…CHA型ゼオライトは0.38×0.38nmの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。」
(エ)「[0080] アルカリ源として用いるアルカリの種類は特に限定されず、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物を用いることができる。
[0081] 金属水酸化物の金属種は、通常Na、K、Li、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr、Ba等が挙げられ、好ましくはNa、Kであり、より好ましくはKである。また、金属水酸化物の金属種は2種類以上を併用してもよく、具体的には、NaとK、あるいはLiとKを併用するのが好ましい。
…
[0094] CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライト膜を形成する際、アルカリ金属の中でカリウム(K)が含まれる場合がより緻密で結晶性の高い膜を生成させるという点で好ましい。」
(オ)「[0139] 本発明において、望ましい気体混合物としては、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ノルマルブタン、イソブタン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、六フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素、水などから選ばれる少なくとも1種の成分を含むものが挙げられる。前記ガスを含む気体混合物の成分のうち、パーミエンスの高い気体成分は、ゼオライト膜複合体を透過し分離され、パーミエンスの低い気体成分は供給ガス側に濃縮される。
[0140] さらに気体混合物としては、上記成分の少なくとも2種の成分を含むものがより好ましい。この場合、2種の成分としては、パーミエンスの高い成分とパーミエンスの低い成分の組合せが好ましい。」
(カ)「[0203] [実施例1]
無機多孔質支持体上にCHA型アルミノ珪酸塩のゼオライトを直接水熱合成することにより無機多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体を作製した。
水熱合成用の反応混合物は次のとおり調製した。
[0204] …この反応混合物の組成(モル比)は、SiO2/Al2O3/NaOH/KOH/H2O/TMADAOH=1/0.02/0.15/0.1/100/0.04、SiO2/Al2O3=50である。
…
[0206] 種結晶を付着させた支持体を、上記水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、160℃で48時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後にゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で4時間以上乾燥させた。
この膜複合体を、空気中、電気炉で、500℃、5時間焼成した。
…
[0211] 上記で作製したCHA型ゼオライト膜複合体を用いて、図1に示した装置を用いて単成分ガス透過試験を行った。…評価したガスは二酸化炭素、メタン、水素、窒素、ヘリウムである。…
[0212] このようにして得られた各ガスのパーミエンスを表1に示す。…
[0213]
[表1]
[図:0001401588000004.jpg]
」
イ 甲第3号証に記載された発明
上記ア(カ)の実施例1(表1)に着目して整理すると、甲第3号証には、
「無機多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体であって、
無機多孔質支持体と、
前記無機多孔質支持体上に形成されるCHA型ゼオライト膜と、
を備え、
前記CHA型ゼオライト膜が、SiO2/Al2O3/NaOH/KOH/H2O/TMADAOH=1/0.02/0.15/0.1/100/0.04、SiO2/Al2O3=50(モル比)の組成を有する反応混合物から形成され、
50℃における単成分ガスのパーミエンス[mol/(m2・sec・Pa)]について、N2が1.29×10-7であり、CH4が2.22×10-8である、
無機多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体。」
の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
(4)取消理由1及び申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とした場合の新規性、進歩性欠如)について
甲第1号証を主たる証拠とした取消理由1及び異議申立理由1は、設定登録時の請求項1、2に係る特許を対象とするものであるところ、本件訂正によって請求項2は削除されたため、本件発明1に係る特許について、以下検討する。
ア 本件発明1について
(ア)甲1発明1との対比
本件発明1と甲1発明1を対比すると、甲1発明1の「無機多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体」、「無機多孔質支持体」、「CHA型ゼオライト膜」及び「Fe」は、本件発明1の「分離膜構造体」、「多孔質支持体」、「分離膜」及び「金属カチオンを含有し、・・・金属カチオンは、Sr、Mg、Li、Ba、Ca、Cu、Fe、Mnから選択される少なくとも1種であり」に相当する。
そうすると、両者は、
「分離膜構造体であって、多孔質支持体と、前記多孔質支持体上に形成され、」「分離膜と、を備え、前記分離膜は、金属カチオンを含有し」「金属カチオンはSr、Mg、Li、Ba、Ca、Cu、Fe、Mnから選択される少なくとも1種であり」「分離膜構造体。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、分離膜が「分離膜(ただし、CHA型ゼオライト膜を除く。)」とされているのに対し、甲1発明1はCHA型ゼオライト膜を用いている点。
<相違点2>
本件発明1は、「少なくともメタンと窒素を含有する混合ガス中の窒素を選択的に透過させる」ことが特定されるのに対し、甲1発明1には、そのような特定がない点。
<相違点3>
本件発明1は、「0.32nm以上かつ0.44nm以下の平均細孔径を有する分離膜」を有し、且つ「前記分離膜の細孔径の標準偏差を前記平均細孔径で割った変動係数は、0.4以下である」ことが特定されるのに対し、甲1発明1では、ゼオライト膜の平均細孔径及び変動係数が上記数値範囲を満たすのか明らかでない点。
(イ)相違点の検討
相違点1について検討する。
甲第1号証では、請求項1にCHA型のゼオライトを分離膜として用いることが記載されているとおり、CHA型のゼオライトを用いることが前提となっている。また、A型、FAU型、MFI型、SAPO-34、DDR型のゼオライトについては分離性能、パーミエンス、水存在下での性能が良くないことも記載されている(上記(1)ア(イ)参照)。そうすると、甲1発明1では、他に多数あるゼオライトの中からCHA型のゼオライトを積極的に用いているといえる。
したがって、甲1発明1において、CHA型ゼオライト以外を用いることに動機付けはないため、甲第4号証の記載を参酌しても、「分離膜(ただし、CHA型ゼオライト膜を除く。)と、を備え」るものとすることは、当業者が容易に想到しえたものとはいえない。
(ウ)小括
したがって、相違点2、3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1ではないし、甲第1発明1及び甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
甲1発明2についても事情は同じである。
イ 取消理由1及び申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、甲第1号証を主たる証拠とする取消理由1及び異議申立理由1には理由がない。
(5)取消理由2及び申立理由2(甲第2号証を主たる証拠とする新規性、進歩性欠如)について
取消理由2は設定登録時の請求項1に係る発明を対象とし、申立理由2は、設定登録時の請求項1、2に係る特許を対象とするものであるところ、本件訂正によって請求項2は削除されたため、本件発明1に係る特許について、以下検討する。
ア 本件発明1について
(ア)甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「無機多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体」、「無機多孔質支持体」、「CHA型ゼオライト膜」及び「Na」は、本件発明1の「分離膜構造体」、「多孔質支持体」、「分離膜」及び「金属カチオンを含有し」に相当する。
そうすると、両者は、
「分離膜構造体であって、多孔質支持体と、前記多孔質支持体上に形成され、」「分離膜と、を備え、前記分離膜は、金属カチオンを含有し」「分離膜構造体。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4>
本件発明1は、分離膜が「分離膜(ただし、CHA型ゼオライト膜を除く。)」とされているのに対し、甲2発明はCHA型ゼオライト膜を用いている点。
<相違点5>
本件発明1は、「少なくともメタンと窒素を含有する混合ガス中の窒素を選択的に透過させる」ことが特定されるのに対し、甲2発明は、そのような特定がない点。
<相違点6>
本件発明1は、「0.32nm以上かつ0.44nm以下の平均細孔径を有する分離膜」を有し、且つ「前記分離膜の細孔径の標準偏差を前記平均細孔径で割った変動係数は、0.4以下である」ことが特定されるのに対し、甲2発明は、CHA型ゼオライト膜の平均細孔径及び変動係数が上記数値範囲を満たすのか明らかでない点。
<相違点7>
本件発明1の「金属カチオン」は、「Sr、Mg、Li、Ba、Ca、Cu、Feから選択される少なくとも1種」であるのに対し、甲2発明は、「Na」である点。
(イ)相違点の検討
相違点4について検討する。
甲第2号証では、請求項1にCHA型のゼオライトを分離膜として用いることが記載されているとおり、CHA型のゼオライトを用いることが前提となっている。また、A型、FAU型、MFI型、SAPO-34、DDR型のゼオライトについては分離性能、パーミエンス、水存在下での性能が良くないことも記載されている(上記(2)ア(イ)参照)。そうすると、甲2発明では、他に多数あるゼオライトの中からCHA型のゼオライトを選択し、積極的に用いているといえる。
したがって、甲2発明において、CHA型ゼオライト以外を用いることに動機付けはないため、「分離膜(ただし、CHA型ゼオライト膜を除く。)と、を備え」るものとすることは、当業者が容易に想到しえたものとはいえない。
(ウ)小括
したがって、相違点5~7について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明ではないし、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 取消理由2及び申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、甲第2号証を主たる証拠とした取消理由2及び申立理由2には理由がない。
(6)取消理由3及び申立理由3(甲第3号証を主たる証拠とする新規性、進歩性欠如)について
ア 本件発明について
(ア)甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明を対比すると、甲3発明の「無機多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体」、「無機多孔質支持体」及び「CHA型ゼオライト膜」は、本件発明1の「分離膜構造体」、「多孔質支持体」及び「分離膜」に相当する。
そうすると、両者は、
「分離膜構造体であって、多孔質支持体と、前記多孔質支持体上に形成され、」「分離膜と、を備え、」「分離膜構造体。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点8>
本件発明1は、分離膜が「分離膜(ただし、CHA型ゼオライト膜を除く。)」とされているのに対し、甲3発明はCHA型ゼオライト膜を用いている点。
<相違点9>
本件発明1は、「少なくともメタンと窒素を含有する混合ガス中の窒素を選択的に透過させる」ことが特定されるのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。
<相違点10>
本件発明1は、「前記分離膜は、金属カチオンを含有し、前記分離膜に添加される前記金属カチオンは、Sr、Mg、Li、Ba、Ca、Cu、Feから選択される少なくとも1種」であることが特定されるのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。
<相違点11>
本件発明1は、「0.32nm以上かつ0.44nm以下の平均細孔径を有する分離膜」を有し、且つ「前記分離膜の細孔径の標準偏差を前記平均細孔径で割った変動係数は、0.4以下である」ことが特定されるのに対し、甲3発明は、CHA型ゼオライト膜の平均細孔径及び変動係数が上記数値範囲を満たすのか明らかでない点。
(イ)相違点の検討
相違点8について検討する。
甲第3号証では、請求項1にCHA型のゼオライトを分離膜として用いることが記載されているとおり、CHA型のゼオライトを用いることが前提となっている。また、A型、FAU型、MFI型、SAPO-34、DDR型のゼオライトについては分離性能、パーミエンス、水存在下での性能が良くないことも記載されている(上記(3)ア(イ)参照)。そうすると、甲3発明では、他に多数あるゼオライトの中からCHA型のゼオライトを選択し、積極的に用いているといえる。
したがって、甲3発明において、CHA型ゼオライト以外を用いることに動機付けはないため、「分離膜(ただし、CHA型ゼオライト膜を除く。)と、を備え」るものとすることは、当業者が容易に想到しえたものとはいえない。
(ウ)小括
したがって、相違点9~11について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明ではないし、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 取消理由3及び申立理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、甲第3号証を主たる証拠とした取消理由3及び申立理由3には理由がない。
(7)取消理由4(サポート要件違反)について
本件訂正請求によって、設定登録時の請求項1に係る発明の「金属カチオンを含有し」は、「金属カチオンを含有し、前記分離膜に添加される前記金属カチオンは、Sr、Mg、Li、Ba、Cu、Feから選択される少なくとも1種である」に訂正された。
上記訂正により、分離膜が含有する金属カチオンは、本件明細書に窒素吸着性金属カチオンとして具体的に開示され、発明の詳細な説明の記載に基づいて当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる、Sr、Mg、Li、Ba、Cu、Feであることが特定された。
したがって、取消理由通知で指摘した点について、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。
以上のとおりであるから、取消理由4には理由がない。
(8)特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人は、本件特許明細書の【0120】の表1を参照し、DDR、AFX、HEUなどCHA型以外のゼオライトを用いた場合にも、その窒素分離性能、窒素透過速度の評価はCHA型を用いた場合と同程度となっており、CHA型以外のゼオライトを用いることによって優れた効果があるとは認められず、してみれば、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証記載の発明においても、CHA型以外のゼオライトを用いてみることは当業者が容易に想到しうるものである旨主張している。
しかし、上記(4)~(6)で検討したとおり、甲第1~3号証記載の発明において、分離膜としてCHA型ゼオライト以外のものを用いる動機付けはないため、上記主張を採用することはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1に係る発明は、特許異議申立書に記載された申立理由、及び、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。また、他に当該請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2に係る発明は、上記第2のとおり、訂正により削除された。これにより、請求項2に係る特許に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論の通り決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2021-700922