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特許異議申立

2023-701021

炭酸塩の晶析方法及び、炭酸塩の精製方法

審判番号
2023-701021
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2021-509547
登録番号
7247322
請求日
2023年09月25日
審決日
2025年01月08日
公報発行日
2025年05月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】JX金属サーキュラーソリューションズ株式会社
  • 【権利者代理人】アクシス国際弁理士法人
  • 【異議申立人】中川 賢治
審判長/審判官
  • 審判長 宮澤 尚之
  • 審判官 小野 久子
  • 審判官 金 公彦
分類
P1651.113-YAA(B01D) / P1651.121-YAA(B01D) / P1651.537-YAA(B01D) / P1651.851-YAA(B01D) / P1651.857-YAA(B01D)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7247322号発明「炭酸塩の晶析方法及び、炭酸塩の精製方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7247322号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第7247322号の請求項2-6に係る特許を維持する。 特許第7247322号の請求項1に係る特許についての特許異議の申し立を却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7247322号の請求項1~5に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」という。)についての出願は、2020年(令和2年)3月25日(優先権主張 平成31年3月27日)を国際出願日とする出願であって、令和5年3月17日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行された。 その後、本件特許1~5に対して、令和5年9月25日に特許異議申立人 中川 賢治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 本件特許異議申立事件における以降の手続の経緯は、次のとおりである。 令和5年12月25日付け:取消理由通知 令和6年 3月 6日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者) 同年 5月 1日 :意見書の提出(申立人) 同年 6月 4日付け:訂正拒絶理由通知 同年 同月25日 :応対記録 同年 9月17日付け:取消理由通知(決定の予告) 同年10月16日 :応対記録 同年11月12日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者) なお、令和6年6月4日付け訂正拒絶理由通知に対して、特許権者から意見書の提出はなかった。 また、令和6年11月12日提出の訂正請求書により訂正された特許請求の範囲は、すでに申立人に意見書の提出の機会が与えられた令和6年3月6日提出の訂正請求書により訂正された特許請求の範囲と対応する請求項が異なるものの、実質的な内容に変更はない。 したがって、申立人に改めて意見を聴くまでもないことが明らかであり、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された「特別の事情」があると認められるから、申立人に、再度、意見書を提出する機会を与えないこととした。 第2 本件訂正請求による訂正の適否 1 訂正の内容 令和6年11月12日に提出された訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、本件訂正前の一群の請求項を構成する請求項1~5を訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである(下線は訂正箇所)。 なお、本件訂正請求がされたので、令和6年3月6日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取下げられたものとみなす。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に、「前記種結晶を、前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量の35質量%以上になる量で、前記水溶液中に存在させる、請求項1に記載の炭酸塩の晶析方法。」と記載されているのを、「金属イオンと炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンとを含む水溶液を、該水溶液中への種結晶の存在下で加熱し、炭酸塩を晶析させ、前記金属イオンがリチウムイオンであり、前記種結晶及び前記炭酸塩が炭酸リチウムであり、前記種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内とし、前記種結晶を、前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量の35質量%以上になる量で、前記水溶液中に存在させる、炭酸塩の晶析方法。」に訂正する(請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項4及び5も同様に訂正する。)。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に、「晶析により得られた前記炭酸塩の平均粒径D50が、前記種結晶の平均粒径D50に対して90%~110%の範囲内である、請求項1又は2に記載の炭酸塩の晶析方法。」と記載されているのを、「金属イオンと炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンとを含む水溶液を、該水溶液中への種結晶の存在下で加熱し、炭酸塩を晶析させ、前記金属イオンがリチウムイオンであり、前記種結晶及び前記炭酸塩が炭酸リチウムであり、前記種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内とし、晶析により得られた前記炭酸塩の平均粒径D50が、前記種結晶の平均粒径D50に対して90%~110%の範囲内である、炭酸塩の晶析方法。」に訂正する(請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項4及び5も同様に訂正する。)。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「前記種結晶として、請求項1~3のいずれか一項に記載の炭酸塩の晶析方法で晶析させた炭酸塩を用いる、請求項1~3のいずれか一項に記載の炭酸塩の晶析方法。」と記載されているのを、「前記種結晶として、請求項2又は3に記載の炭酸塩の晶析方法で晶析させた炭酸塩を用いる、請求項2又は3に記載の炭酸塩の晶析方法。」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5も同様に訂正する)。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれか一項に記載の炭酸塩の晶析方法を用いる、炭酸塩の精製方法。」と記載されているのを、「請求項2~4のいずれか一項に記載の炭酸塩の晶析方法を用いる、炭酸塩の精製方法。」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に、「金属イオンと炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンとを含む水溶液を、該水溶液中への種結晶の存在下で加熱し、炭酸塩を晶析させ、前記金属イオンがリチウムイオンであり、前記種結晶及び前記炭酸塩が炭酸リチウムであり、前記種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内とし、晶析により得られた前記炭酸塩の平均粒径D50が、前記種結晶の平均粒径D50に対して90%~110%の範囲内であり、前記種結晶を、前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量の35質量%以上になる量で、前記水溶液中に存在させる、炭酸塩の晶析方法。」を追加する。 2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項2の記載において、訂正前の請求項1の記載を引用するものであったものを、その引用関係を解消して独立形式に改めるものであるから、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項3の記載において、訂正前の請求項1又は2の記載を引用するものであったものを、訂正前の請求項1の記載のみを引用する形式とした上で、その引用関係を解消して独立形式に改めるものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)訂正事項4、5について 訂正事項4、5は、訂正事項1による請求項1の削除に伴って、それぞれ、本件訂正前の請求項4、5における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (6)訂正事項6について 訂正事項6は、訂正前の請求項3の記載において、訂正前の請求項1又は2の記載を引用するものであったものを、訂正前の請求項2の記載のみを引用する形式とした上で、その引用関係を解消して独立形式に改めるものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (7)独立特許要件について 本件特許の訂正前の請求項1~5の全ての請求項について特許異議の申立てがされたものであるから、訂正事項1~6に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 第3 本件特許請求の範囲の記載 上記第2のとおり本件訂正請求は適法になされたものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項2~6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明2」~「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 金属イオンと炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンとを含む水溶液を、該水溶液中への種結晶の存在下で加熱し、炭酸塩を晶析させ、 前記金属イオンがリチウムイオンであり、前記種結晶及び前記炭酸塩が炭酸リチウムであり、 前記種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内とし、 前記種結晶を、前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量の35質量%以上になる量で、前記水溶液中に存在させる、炭酸塩の晶析方法。 【請求項3】 金属イオンと炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンとを含む水溶液を、該水溶液中への種結晶の存在下で加熱し、炭酸塩を晶析させ、 前記金属イオンがリチウムイオンであり、前記種結晶及び前記炭酸塩が炭酸リチウムであり、 前記種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内とし、 晶析により得られた前記炭酸塩の平均粒径D50が、前記種結晶の平均粒径D50に対して90%~110%の範囲内である、炭酸塩の晶析方法。 【請求項4】 前記種結晶として、請求項2又は3に記載の炭酸塩の晶析方法で晶析させた炭酸塩を用いる、請求項2又は3に記載の炭酸塩の晶析方法。 【請求項5】 請求項2~4のいずれか一項に記載の炭酸塩の晶析方法を用いる、炭酸塩の精製方法。 【請求項6】 金属イオンと炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンとを含む水溶液を、該水溶液中への種結晶の存在下で加熱し、炭酸塩を晶析させ、 前記金属イオンがリチウムイオンであり、前記種結晶及び前記炭酸塩が炭酸リチウムであり、 前記種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内とし、 晶析により得られた前記炭酸塩の平均粒径D50が、前記種結晶の平均粒径D50に対して90%~110%の範囲内であり、 前記種結晶を、前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量の35質量%以上になる量で、前記水溶液中に存在させる、炭酸塩の晶析方法。」 第4 取消理由について 1 取消理由(決定の予告)の概要 令和6年9月17日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 ここで引用した刊行物は、申立人の提出した次の甲第1号証、及び甲第3号証(以下、それぞれ「甲1」などという。以下同様。)である。 甲1:中国特許出願公開第103318927号明細書 甲3:特許第6336285号公報 (1)設定登録時の請求項1に係る発明、及び当該請求項1の記載を引用する請求項5に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)設定登録時の請求項1に係る発明、及び当該請求項1の記載を引用する請求項5に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)設定登録時の請求項1の記載を引用する請求項4に係る発明は、甲1に記載された発明、及び周知技術(甲3)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 2 取消理由(決定の予告)についての当審の判断 設定登録時の請求項1は、上記第2に記載したとおり、本件訂正により削除された。 また、設定登録時の請求項4に係る発明は、請求項1~3の記載を引用するものであったところ、同訂正により、取消理由(決定の予告)を通知していない請求項2又は3を引用するものとなった。 さらに、設定登録時の請求項5に係る発明は、請求項1~4を引用するものであったところ、同訂正により、取消理由(決定の予告)を通知していない請求項2又は3、及び請求項2又は3を引用する請求項4を引用するものとなった。 したがって、当該取消理由による理由はない。 第5 取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許異議申立理由の概要 申立人が主張する特許異議申立理由のうち、前記第4の取消理由において採用しなかった特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。 ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。 甲1:中国特許出願公開第103318927号明細書 甲2:ソ連国特許発明第1824377号明細書 甲3:特許第6336285号公報 甲4:特開2012-92004号公報 (1)申立理由1(進歩性欠如) 設定登録時の請求項1~5に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2~4に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)申立理由2(サポート要件違反) 設定登録時の請求項1~5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 各甲号証の記載事項について (1)甲1の記載事項 甲1には、「塩湖かん水中の炭酸リチウムの結晶化を加速する方法」(発明の名称の当審訳)に関して、次の事項が記載されている。なお、甲1の記載事項は中国語であるが、ここでは当審の訳文で示す。また、下線は当審が付した(以下、同様である。)。 ア「 1.塩湖かん水中の炭酸リチウムの結晶化を加速する方法であって、下記工程を含む: 塩湖かん水中のLi+含有量が2.8g/Lを超えるまで濃縮した後、濃縮塩湖かん水に超音波振動棒を挿入して超音波振動を行い、炭酸リチウムの結晶化を加速する。 2.請求項1に記載の方法であって、その特徴は以下のとおりである:超音波振動時、塩湖かん水中にLi2CO3の種結晶を添加する。」(請求の範囲 請求項1、2) イ「[0007] 本発明のさらなる改良として、Li2CO3種結晶の添加量は塩湖のかん水質量の0.5‰~2.0‰であり、好ましくは1.2‰~2.0‰である;Li2CO3種結晶の粒径は200~300メッシュである。 ・・・ [0010] 本発明の効果は以下の通りである: 本発明の方法は塩湖かん水中のLi2CO3の結晶化方法において、超音波振動を導入することを特徴とし、Li2CO3の核生成に追加のエネルギーを提供し、Li2CO3の結晶化に必要な核生成の仕事量を減少させることで、Li2CO3の結晶化効率が向上する、及び操作が簡単であるという優れた効果を有する。Li2CO3鉱石の種結晶を加えることにより、Li2CO3の結晶化効率をさらに向上させることができ、製品に新たな不純物が導入されることを回避し、種結晶の輸送難度を低下させ、特に遠く離れた採掘地域に適する。本発明の方法は経済的で環境に優しく、環境を汚染しない。」 ウ「[0012] 以下の実施例で用いるかん水池の大きさは、40m×50m×2.6mであり、長さ約2mの超音波振動棒を10m間隔で、合計20本挿入した。リチウム富化かん水の組成を以下の表に示す。 リチウム富化かん水組成表(g/L) [図:0001422390000001.jpg] [0013] 実施例1 リチウムイオンと炭酸イオンを高濃度で含む塩湖かん水を原料とし、これを濃縮してLi+濃度2.0g/Lのリチウム富化かん水を得、かん水池内の前記リチウム富化かん水の深さを約2.0メートルに制御する;かん水温度を50℃に保ち、かん水池内のLi+の濃度が3.5g/Lに達した時、総出力20kW及び周波数50kHzの超音波振動を1時間行い、前記超音波振動中に、粒子サイズ200メッシュの種結晶を噴射方式で均一に振りかけ、7日間経過した後、添加された種結晶の総質量は、元のかん水池のかん水の質量の0.5‰であり、かん水池内のかん水をポンプで汲み上げ、炭酸リチウム品位が61%の炭酸リチウム鉱石22トン(乾燥重量)を得る。」 (2)甲2の記載事項 甲2には、「リチウム含有溶液からリチウムを抽出する方法」(発明の名称の当審訳)に関して、次の事項が記載されている。なお、甲2の記載事項はロシア語であるが、ここでは当審の訳文で示す。 ア「本発明は、化学工業、すなわちリチウム化合物の製造方法に関し、冶金工業、特にリチウム含有添加剤を製造するためのアルミニウムの電解製造に使用することができる。 本発明の目的は、溶液からのリチウム抽出度を高め、最終生成物の粒度組成の均一性を高めることである。 この目的は、加熱時に炭酸ナトリウム溶液で処理し、沈殿物を分離することを含む、主に塩化物であるリチウム含有溶液からリチウムを抽出する公知の方法において、新規なことは、炭酸ナトリウム溶液による処理が2段階で行われ、第1段階において、初期溶液中のリチウム含有量の30~60%の量の種結晶がリチウム含有溶液に追加的に添加され、炭酸リチウム沈殿物を分離した後、炭酸ナトリウム溶液による第2段階の処理が5~12時間行われることである。 第2段階で分離された沈殿物は種結晶として使用される。」(第1欄第19行~第2欄第19行) イ「炭酸ナトリウム溶液による第2段階では、他の塩、主にNaClの存在により、リチウム含有溶液の過飽和が確実となることで、炭酸リチウムが結晶化し、溶液中のLi2CO3は2~3g/Lの濃度で平衡状態となる。」(第3欄第7~13行) ウ「リチウム含有初期溶液として、塩化リチウム廃棄物を水に溶解した30%塩化リチウム溶液を用いた。これは、Khimvolokno製造協会からの廃棄物で、88.0~88.4%の塩化リチウム及び不純物(鉄、ナトリウム、カルシウムなど)を含有する。 40m3の容量を有する反応器中で、8m3の上記塩化リチウム溶液と、24m3の27%の炭酸ナトリウム溶液とを混合した。2~3m3の種結晶をパルプの形態で添加した。これは、種結晶の乾燥重量に基づいて、初期溶液中のリチウム含有量の30~60%である。 このプロセスは、機械的に撹拌しながら70~85℃の温度範囲で2~3時間加熱することによって行われた。4~5時間静置した後、得られた炭酸リチウムの沈殿物をデカンテーションとろ過によって母液から分離した。沈殿物を110~130℃の温度で乾燥させた。 次に、炭酸ナトリウム溶液による処理の第2段階を実施し、10g/LのNa2CO3を含む母液と、27%の炭酸ナトリウム溶液を、母液1m3あたり0.012m3の割合で混合した。この処理は、撹拌しながら70~85℃の温度で5~12時間行った。 8時間静置した後、沈殿物をデカンテーションによって分離した。2~3g/LのLi2CO3を含む母液を廃水に排出した。また、沈殿物は、炭酸ナトリウム溶液による第1段階の処理での種結晶として使用した。」(第3欄第43行~第4欄第18行) (3)甲3の記載事項 甲3には、「晶析装置」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。 ア「【0003】 従来の晶析装置としては、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。この従来の晶析装置は、図5に示すように、溶液から溶質を析出させるための晶析槽20と、この晶析槽20で析出した固形物粒子を沈降分離するための沈殿槽30を備えており、この目的の異なった2種類の水槽(晶析槽と沈殿槽)は移送配管40および返送配管41を介して連結されている。」 イ「【0007】 このような従来の晶析装置では、投入された溶液の種類などに応じて、晶析槽20内に反応剤等の薬剤の添加が行われ、その晶析槽20内の固形物懸濁液が移送配管40を介して沈殿槽30へ移送される。その沈殿槽30で沈降分離させて得られた上澄み液は、後処理や再利用のための次工程へ移送されるか、あるいは、系外へ排出される。また、沈降分離によって沈殿したスラリー状の固形物懸濁液は、沈殿槽30から引き抜かれ、その一部は、種晶として、返送配管41を介して常に晶析槽20へ戻されて晶析反応に再利用され、残りは、必要に応じて、 分岐管42を介して脱水工程等の次工程に送られて固形物の脱水ケーキとして回収されるのが一般的である。」 ウ「【図5】 [図:0001422390000002.jpg] 」 (4)甲4の記載事項 甲4には、「炭酸リチウムの精製方法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。 ア「【請求項1】 粗製炭酸リチウムを純水に溶解し、水溶液中の不溶物を濾過し、その濾液を炭酸リチウムが析出する温度以上まで加熱して炭酸リチウムを再結晶させ、該炭酸リチウムを温水で洗浄することを特徴とする炭酸リチウムの精製方法。」 イ「【0009】 本発明は、不純物含有量が多い粗製炭酸リチウムを原料として用いて炭酸リチウムを高純度で得る精製方法を提供する。」 ウ「【0022】 (実施例1)1回液を繰り返した場合:(炭酸リチウムの回収率20%) 粗製炭酸リチウム25gを純水2Lに溶解させ、30分攪拌した。不溶物をろ過した後、濾液を95℃まで加熱し、炭酸リチウムを再結晶させ、60分攪拌した。再結晶させた炭酸リチウムは95℃の温水200mlでケーキ洗浄を行った。」 3 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由についての判断 (1)申立理由1(進歩性欠如)について ア 甲1に記載された発明 甲1には、前記2(1)ア、イによれば、「炭酸リチウムの結晶化を加速する方法」であって、「塩湖かん水中にLi2CO3の種結晶を添加する」ことが記載されている(請求の範囲 請求項1、2、[0010])。 そして、前記2(1)ウによれば、前記「炭酸リチウムの結晶化を加速する方法」に関して、実施例1には、「リチウムイオンと炭酸イオンを高濃度で含む塩湖かん水を原料とし、これを濃縮」して「Li+濃度2.0g/Lのリチウム富化かん水を得」、前記「リチウム富化かん水」の「かん水温度を50℃に保ち、かん水池内のLi+の濃度が3.5g/Lに達した時、総出力20kW及び周波数50kHzの超音波振動を1時間行い、前記超音波振動中に、粒子サイズ200メッシュの種結晶を」「振りかけ、7日間経過した後、添加された種結晶の総質量は、元のかん水池のかん水の質量の0.5‰であり、かん水池内のかん水をポンプで汲み上げ」、「炭酸リチウム鉱石」「を得る」こと([0013])が記載されている。 これらの記載を、「炭酸リチウムの結晶化を加速する方法」に注目して整理すると、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 甲1発明 「リチウムイオンと炭酸イオンとを高濃度で含む塩湖かん水を原料とし、これを濃縮して、Li+濃度2.0g/Lのリチウム富化かん水を得、前記リチウム富化かん水の温度を50℃に保ち、かん水池内のLi+の濃度が3.5g/Lに達した時、総出力20kW及び周波数50kHzの超音波振動を1時間行い、前記超音波振動中に、粒子サイズ200メッシュの炭酸リチウムの種結晶を振りかけ、7日間経過した後、添加された種結晶の総質量は、元のかん水池のかん水質量の0.5‰であり、かん水池内のかん水をポンプで汲み上げ、炭酸リチウム鉱石を得る、炭酸リチウムの結晶化を加速する方法。」 イ 本件発明2について (ア)本件発明2と甲1発明との対比 a 本件発明2と甲1発明とを対比すると、両者の対応関係は、次のとおりに解することができる。 (a)甲1発明の「Li+濃度2.0g/Lのリチウム富化かん水」は、リチウムイオンと炭酸イオンとを高濃度で含む塩湖かん水を濃縮して得られたものであるから、本件発明2の「金属イオンと炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンとを含む水溶液」、及び「前記金属イオンがリチウムイオンであ」ることに相当する。 (b)甲1発明の「前記リチウム富化かん水の温度を50℃に保ち」、「粒子サイズ200メッシュの炭酸リチウムの種結晶を振りかけ」、「炭酸リチウム鉱石が得られる、炭酸リチウムの結晶化を加速する方法」は、上記aの対応関係、及び「200メッシュ」が74μmに相当することを踏まえると、本件発明2の「該水溶液中への種結晶の存在下で加熱し、炭酸塩を晶析させ」、「前記種結晶及び前記炭酸塩が炭酸リチウムであり、前記種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内と」する、「炭酸塩の晶析方法」に相当する。 b 上記aの対応関係に照らすと、本件発明2と甲1発明とは、 「金属イオンと炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンとを含む水溶液を、該水溶液中への種結晶の存在下で加熱し、炭酸塩を晶析させ、 前記金属イオンがリチウムイオンであり、前記種結晶及び前記炭酸塩が炭酸リチウムであり、 前記種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内とする、 炭酸塩の晶析方法。」 で一致し、次の点で相違している。 <相違点1> 種結晶の添加量について、本件発明2では、「前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量の35質量%以上になる量」であるのに対して、甲1発明では、「元のかん水池のかん水質量の0.5‰であ」る点。 (イ)相違点についての検討 a まず、上記相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。 本件特許明細書の【0017】には、「種結晶の添加量は、水溶液中の金属イオンがすべて炭酸塩として晶析したと仮定した場合の、その炭酸塩の晶析量の35質量%以上とすることが好ましい。」と記載されているから、本件発明2の「前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量」とは、「水溶液中の金属イオンがすべて炭酸塩として晶析したと仮定した場合の、その炭酸塩の晶析量」であると認識できる。 b ここで、甲1発明のリチウム富化かん水のLi+濃度は、「2.0g/L」であるから、上記aの認識に基づいて、このLi+イオンがすべて炭酸塩として晶析したと仮定した場合の、炭酸塩の晶析量を算出すると、約21.294g/L(=2.0g/L×73.891(Li2CO3の分子量)÷6.94(Liの原子量))であり、この35質量%は、約7.453g/Lである。 一方、甲1発明における種結晶の添加量は、元のかん水池のかん水質量の0.5‰、すなわち、かん水の比重を約1とすると、約0.5g/Lである。 c そうすると、甲1発明の「元のかん水池のかん水質量の0.5‰」(約0.5g/L)は、本件発明2の「前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量の35質量%以上になる量」(約7.543g/L以上)を充足しないことは明らかであるから、相違点1は、実質的な相違点である。 d 次に、相違点1に係る本件発明2の特定事項の容易想到性について検討する。 甲1には、上記2(1)イの[0007]によれば、「本発明のさらなる改良として、Li2CO3種結晶の添加量は塩湖のかん水質量の0.5‰~2.0‰であり、好ましくは1.2‰~2.0‰である」こと、すなわち、さらなる改良として、種結晶の添加量を2.0‰(約2.0g/L)とすることは記載されているものの、上記bで検討した、本件発明2の「前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量の35質量%以上になる量」に相当する、約7.453g/L以上とすることについては記載も示唆もされていない。 e また、甲2には、上記2(2)ア~ウによれば、炭酸リチウムの製造方法に関し、リチウム含有溶液を炭酸ナトリウム溶液で処理し、母液から炭酸リチウムの沈殿を分離することを含む、リチウム含有溶液からリチウムを抽出する方法において、炭酸ナトリウム溶液による2段階の処理が行われること、第1段階の処理では、塩化リチウム廃棄物を水に溶解した30%塩化リチウム溶液に、種結晶の乾燥重量に基づいて、初期溶液中のリチウム含有量の30~60%の量の種結晶が添加されること、及び、このプロセスは、機械的に撹拌しながら70~85℃の温度範囲で2~3時間加熱することによって行われること、さらに、第1段階の処理により得られた炭酸リチウム沈殿物を分離した後、炭酸ナトリウム溶液による第2段階の処理が70~85℃の温度で5~12時間行われ、さらなる炭酸リチウム沈殿物を分離したことが記載されている。 f これに対して、甲1発明に係る晶析方法は、上記アに記載したとおりのものであるから、上記eの甲2に記載された方法とは、炭酸リチウムを生成するための反応系が異なっており、それに応じたプロセス及び反応条件も異なるものである。 そして、このような異なる反応系を用い、それに応じたプロセス及び反応条件も異なる方法に対して、求められる種結晶の量が同じであるとの証拠はないし、そのような技術常識が存在するとも認められない。 そうすると、甲2の記載に接した当業者が、甲2に記載された種結晶の量を、甲1発明の方法に適用することを動機付けられるとはいえない。 また、甲3には、種結晶をどのような量で添加するかについて記載も示唆もなく、甲4には、種結晶の添加すらも記載されていない。 g 以上のとおりであるから、甲2~4の記載を参酌しても、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明2の構成とすることは、当業者にとって容易想到な事項とはいえない。 よって、本件発明2は、甲1発明び甲2~4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)申立人の主張について a 申立人の主張の概要 申立人は、特許異議申立書及び令和6年5月1日提出の意見書(以下、「申立人意見書」という。)において、概略、以下のとおり主張している。 (a)主張1 上記相違点1について、甲2には、リチウムを含有する初期溶液から種結晶を用いて炭酸リチウムを晶析させる際に、初期溶液中のリチウム含有量の30~60%の量の種結晶を添加することが開示されており、本件発明2の種結晶添加量と重複する条件について開示されている。 そして、甲1と甲2とは、技術内容が同一しており、甲1と甲2とを組み合わせることに阻害要因はないから、本件発明2は、甲1~2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書第8頁第17~28行、申立人意見書第4頁第25~34行)。 (b)主張2 令和4年9月22日付けの拒絶理由通知において、「前記種結晶を、前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量の35質量%以上になる量で、前記水溶液中に存在させる」ことが特定された本件特許の出願当初の請求項3について、引用文献1に記載の発明から容易になし得たものである、と拒絶理由が通知されている。この拒絶理由通知に対して、令和4年11月24日付けで提出された意見書及び手続補正書においては、「前記金属イオンがリチウムイオンであり、前記種結晶及び前記炭酸塩が炭酸リチウムであり、前記種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内とする」、という構成を追加することで進歩性を主張しているのみであり、「前記種結晶を、前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量の35質量%以上になる量で、前記水溶液中に存在させる」とした構成についての進歩性については何ら主張していない。 ここで、「前記金属イオンがリチウムイオンであり、前記種結晶及び前記炭酸塩が炭酸リチウムであり、前記種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内とする」という構成については、令和5年12月25日付けの取消理由通知で進歩性の欠如が指摘されている。 すると、本件発明2については、令和4年9月22日付けの拒絶理由通知の引用文献1及び上記取消理由通知の甲1、甲3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(申立人意見書第5頁第1~17行)。 b 申立人の主張の検討 (a)主張1についての検討 上記(イ)fで検討したとおり、甲1発明に係る晶析方法と、甲2に記載された方法とは、炭酸リチウムを生成するための反応系が異なり、そのプロセス及び反応条件も異なるものであるから、甲1と甲2の技術内容が同一しているとはいえない。 (b)主張2についての検討 申立人は、令和4年9月22日付けの拒絶理由通知の引用文献1、取消理由通知の甲1、甲3という証拠を挙げているが、これらのうちいずれを主たる証拠とし、本件発明2に対してどのような相違点があり、どのような理由によって、どの証拠の記載事項を組み合わせるのか、といった具体的な理由を示していない。 c 小括 よって、申立人の主張はいずれも採用できない。 ウ 本件発明3について (ア)本件発明3と甲1発明との対比 本件発明3と甲1発明とを対比すると、両者は、上記イ(ア)bの点で一致し、次の点で相違している。 <相違点2> 本件発明3では、「晶析により得られた前記炭酸塩の平均粒径D50が、前記種結晶の平均粒径D50に対して90%~110%の範囲内である」のに対して、甲1発明では、晶析により得られた前記炭酸塩の平均粒径D50が不明である点。 (イ)相違点についての検討 a まず、上記相違点2が実質的な相違点であるか否かについて検討する。 本件特許明細書の【0019】には、「ここで述べる晶析により得られる粉状等の炭酸塩の平均粒径D50は、上記の種結晶の平均粒径D50に対して、好ましくは90%~110%、より好ましくは95%~105%の範囲内になる。炭酸塩の平均粒径D50がこのように比較的小さくなるのは、脱炭酸反応時に析出した炭酸塩どうしが、攪拌等により衝突することによるものと考えられる。」、及び【0021】には、「炭酸ガスを脱離させるに際しては、水溶液を、所定の撹拌機等を用いて攪拌することができる。このときの攪拌条件は、撹拌速度は速く、剪断力の大きい翼形状とすることが好ましい。これにより、先に述べたような粒径の小さい炭酸塩を得ることができる。」と記載されているから、上記相違点2に係る「晶析により得られた前記炭酸塩の平均粒径D50が、前記種結晶の平均粒径D50に対して90%~110%の範囲内である」ことは、脱炭酸反応時に析出した炭酸塩どうしが、所定の撹拌機等を用いた攪拌等により衝突することによるものであると認識できる。 b 一方、甲1には、晶析により得られた前記炭酸塩の平均粒径D50が記載も示唆もされていない。そして、甲1発明の「総出力20kW及び周波数50kHzの超音波振動を1時間行い、前記超音波振動中に、粒子サイズ200メッシュの炭酸リチウムの種結晶を振りかけ」るという超音波振動条件により得られる炭酸塩の平均粒径D50が、「前記種結晶の平均粒径D50に対して90%~110%の範囲内」となっていることを示す証拠はないし、そのような技術常識が存在するとも認められない。 したがって、相違点2は実質的な相違点である。 c 次に、相違点2に係る本件発明3の特定事項の容易想到性について検討する。 甲2には、上記2(2)ア~ウに摘記した「リチウム含有溶液からリチウムを抽出する方法」について、種結晶を添加することが記載されているが、当該種結晶の粒径が記載されておらず、得られた炭酸塩の平均粒径D50が、「前記種結晶の平均粒径D50に対して90%~110%の範囲内」であることが記載も示唆もされていない。また、上記2(2)ウに記載した機械的撹拌条件により得られる炭酸塩の平均粒径D50が、「前記種結晶の平均粒径D50に対して90%~110%の範囲内」となっていることを示す証拠はないし、そのような技術常識が存在するとも認められない。 また、甲3には、種結晶、及び晶析により得られた炭酸塩の粒径について記載も示唆もなく、甲4には、種結晶の添加すらも記載されていない。 d 以上のとおりであるから、甲2~4の記載を参酌しても、甲1発明において、相違点2に係る本件発明3の発明特定事項とすることは、当業者にとって容易想到の事項であるとはいえない。 よって、本件発明3は、甲1発明び甲2~4に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (ウ)申立人の主張について a 申立人の主張の概要 申立人は、特許異議申立書及び申立人意見書において、概略、以下のとおり主張している。 (a)主張3 上記相違点2について、本件特許明細書の【0019】の記載のとおり、、攪拌等の衝突により、「晶析により得られた前記炭酸塩の平均粒径D50が、前記種結晶の平均粒径D50に対して90%~110%の範囲内」となる。 ここで、甲1では、超音波振動を付与しながら炭酸リチウムを晶析させていることから、甲1においても、析出した炭酸塩どうしが、攪拌等により衝突することになり、上記相違点2の構成を満足しているといえる。 また、甲2においても、「このプロセスは、機械的に撹拌しながら70~85℃の温度範囲で2~3時間加熱することによって行われた。」と記載されており、析出した炭酸塩どうしが、攪拌等により衝突することになり、上記相違点2の構成を満足しているといえる。 したがって、本件発明3は、甲1、2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書第8頁第29行~第9頁第10行、申立人意見書第5頁第18行~第6頁第2行)。 (b)主張4 令和4年9月22日付けで起案された拒絶理由通知において、「晶析により得られた前記炭酸塩の平均粒径D50が、前記種結晶の平均粒径D50に対して90%~110%の範囲内である」ことが特定された本件特許の出願当初の請求項4について、引用文献1に記載の発明から容易になし得たものである、と拒絶理由が通知されている。この拒絶理由通知に対して令和4年11月24日付けで提出された意見書及び手続補正書においては、「前記金属イオンがリチウムイオンであり、前記種結晶及び前記炭酸塩が炭酸リチウムであり、前記種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内とする、」とする構成を追加することで進歩性を主張しているのみであり、「晶析により得られた前記炭酸塩の平均粒径D50が、前記種結晶の平均粒径D50に対して90%~110%の範囲内である」とした構成についての進歩性については何ら主張していない。 ここで、「前記金属イオンがリチウムイオンであり、前記種結晶及び前記炭酸塩が炭酸リチウムであり、前記種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内とする、」とした構成については、令和5年12月25日付けの取消理由通知で進歩性の欠如が指摘されている。 すると、本件発明3については、令和4年9月22日付けで起案された拒絶理由通知の引用文献1および上記取消理由通知の甲1、甲3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(申立人意見書第6頁第3~19行)。 b 申立人の主張の検討 (a)主張3についての検討 上記(イ)b、cで検討したとおり、甲1発明の超音波振動条件、及び甲2に記載された機械的攪拌条件により得られる炭酸塩の平均粒径D50が、「前記種結晶の平均粒径D50に対して90%~110%の範囲内」となっていることを示す証拠はない。 また、申立人は、「析出した炭酸塩どうしが、攪拌等により衝突することになり、上記相違点2の構成を満足している」との主張について、具体的証拠を示して立証しているわけでもなく、そのような技術常識が存在するとも認められない。 (b)主張4についての検討 申立人は、令和4年9月22日付けの拒絶理由通知の引用文献1、取消理由通知の甲1、甲3という証拠を挙げているが、これらのうちいずれを主たる証拠とし、本件発明3に対してどのような相違点があり、どのような理由によって、どの証拠の記載事項を組み合わせるのか、といった具体的な理由を示していない。 c 小括 よって、申立人の主張はいずれも採用できない。 エ 本件発明4、5について 本件発明4、5は、本件発明2又は3の特定事項を全て含むものであるから、上記イ、ウに示した理由と同様の理由により、甲1発明及び甲2~4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 オ 本件発明6について 上記第2の2(6)のとおり、本件発明6は、訂正前の請求項3の記載において、訂正前の請求項2の記載のみを引用する形式とした上で、その引用関係を解消して独立形式に改めたものである。 よって、本件発明6は、本件発明2、3の発明特定事項を全て含むものであるから、上記イ、ウに示した理由と同様の理由により、甲1発明及び甲2~4に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 カ 申立理由1についてのまとめ 以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。 (2)申立理由2(サポート要件違反)について ア サポート要件適合性の判断 (ア)サポート要件の判断手法 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。 以下、この観点に立って検討する。 (イ)本件特許明細書の記載事項 本件特許明細書には以下の事項が記載されている。 a「【技術分野】 【0001】 この明細書は、炭酸塩の晶析方法及び、炭酸塩の精製方法に関する技術を開示するものである。 【背景技術】 【0002】 水溶液中の化合物を得る方法としては、晶析させて得ることが一般的である。たとえば、リチウムイオン二次電池廃棄物からの有価金属の回収において、炭酸塩として固体を得ようとした場合、所定の金属イオンと、炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンとを含む水溶液から、当該金属の炭酸塩を晶析させて得ることが一般的であり、具体的には、水溶液を所定の温度に加熱して濃縮し、場合によっては乾固させる。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 上述した炭酸塩の晶析では、加熱濃縮により析出した炭酸塩の多くが、晶析装置の内面等に塊状で固着し、粉状のものとして得ることができないという問題がある。この問題は、特に晶析装置が大型化すると顕在化する。晶析装置の内部で固着した炭酸塩は、そこからの引き剥がし及び、その後の粉砕や洗浄等といった作業が必要になり、工数及びコストの増大を招く。 【0004】 この明細書では、晶析装置の内部への炭酸塩の固着を抑制することができる炭酸塩の晶析方法及び、炭酸塩の精製方法を開示する。」 b「【0010】(水溶液) 水溶液は、晶析対象の炭酸塩を構成する金属の金属イオンと、炭酸イオン及び炭酸水素イオンのうちの少なくとも一種とを含むものであれば、特に限定されず、該水溶液として種々のものを適用することができる。 このような水溶液の具体例としては、炭酸リチウム等の炭酸塩の精製に供する水溶液等がある。炭酸リチウムの精製の具体的な手順の一例については後述する。 ・・・ 【0015】 (晶析方法) 上記の水溶液から炭酸塩を晶析させるに当っては、水溶液を加熱して炭酸ガスを脱離させるとともに濃縮するが、この実施形態では、その際に水溶液に種結晶を存在させる。これにより、水溶液中の種結晶が核となって、炭酸塩の成長が促進される。その結果として、大型の晶析装置であっても、晶析装置の内部への炭酸塩の固着が抑制されて、粉状の炭酸塩が得られる。 言い換えれば、水溶液に種結晶が存在しない場合、特に大型の晶析装置を用いると、加熱濃縮により析出した炭酸塩が、甚だしくは塊状で、晶析装置の内面や内部の熱交換器、攪拌羽根等に固着する。この場合、晶析装置の内部に付着した炭酸塩を引き剥がしたり、その後に粉砕し、さらに洗浄したりする等という作業が必要になって、工数及びコストが増大する。この実施形態では、このような工数及びコストの増大を防止することができる。また、粉状の炭酸塩はハンドリングが容易であるという利点もある。 ・・・ 【0017】 種結晶の添加量は、水溶液中の金属イオンがすべて炭酸塩として晶析したと仮定した場合の、その炭酸塩の晶析量の35質量%以上とすることが好ましい。これはすなわち、この炭酸塩の晶析量の35質量%未満とした場合は、種結晶が少ないことに起因して、種結晶の作用が十分ではなくなって、晶析装置の内部への炭酸塩の固着が予期したほどに抑制されないことが懸念されるからである。但し、種結晶の好ましい下限量は、反応系や、晶析時の攪拌の強度その他の条件により変化することがあると考えられる。一方、種結晶が多すぎると、系内のパルプ濃度上昇に伴う撹拌不足により、晶析装置内部への炭酸塩の固着が生じるおそれがある。この観点から、種結晶の添加量は、水溶液中の前記金属イオンが炭酸塩として晶析する量の40質量%~70質量%とすることがより一層好ましい。 【0018】 種結晶の平均粒径D50は、好ましくは60μm~90μm、より好ましくは70μm~80μmとすることが好適である。種結晶の平均粒径D50が小さすぎると、添加時に浮き上がり、種結晶として機能しない可能性がある。一方、種結晶の平均粒径D50が大きすぎると、固着の原因となること、新たな核生成を抑制出来ないことの懸念がある。種結晶の平均粒径D50は、JIS Z8825に従うレーザー回折・散乱法により測定することができる粒度分布で、体積基準の累積分布が50%となる粒径を意味する。後述の炭酸塩の平均粒径D50についても、これと同様にして測定することができる。なお、種結晶の平均粒径D50の上述した範囲は、後述するように前回に実施した同様の晶析方法で得られた炭酸塩を種結晶として繰り返し用いることを想定した場合の粒度分布に基づくものとすることができる。この場合、種結晶の粒径は、前回の晶析時の攪拌状態等の条件により変化し得る。 ・・・ 【0021】 炭酸ガスを脱離させるに際しては、水溶液を、所定の撹拌機等を用いて攪拌することができる。このときの攪拌条件は、撹拌速度は速く、剪断力の大きい翼形状とすることが好ましい。これにより、先に述べたような粒径の小さい炭酸塩を得ることができる。 なおこの際には、水溶液を50℃~90℃の温度に加熱することができる。水溶液の加熱温度が50℃未満では、炭酸が有効に脱離しないことが懸念される。一方、当該加熱温度が90℃を超えると、沸騰による不具合が生じる可能性があるので、90℃を上限とすることができる。但し、沸騰によっても問題が生じないこともあるので、装置の耐熱温度等に応じて、さらに温度を高くすることもできる。また、晶析装置の内部への炭酸塩の固着を抑制するには、温度が高いほうが好ましい。このような観点より、リチウム溶解液の加熱温度は、70℃~80℃とすることが好ましい。 これにより、体積比で3倍程度に加熱濃縮することもでき、蒸発乾固するまで加熱濃縮してもよい。」 c「【実施例】 【0028】 次に、この明細書で開示する炭酸塩の晶析方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、それに限定されることを意図するものではない。 【0029】 図2に示す各工程を行い、粗炭酸リチウムを精製し、精製炭酸リチウムを得た。精製前後の炭酸リチウムの不純物品位を表1に示す。ここで記載していない不純物については、精製前の段階から10質量ppm未満であった。 【0030】 【表1】 [図:0001422390000003.jpg] 【0031】 脱炭酸(晶析)時に、表2に示すように、種結晶の添加の有無及び、種結晶の添加量が異なる条件の試験を行い、それらの条件の変更による、晶析装置内部への炭酸リチウムの固着の程度の変化を確認した。その結果を、精製炭酸Li回収量として表2に示す。 なお、ここで用いた種結晶は、粉状の炭酸リチウムであり、粗炭酸リチウムを溶解させた液体である炭酸溶解液の量(L)に対する量として、0~0.02(kg-dry/L)の範囲内で添加した。種結晶の平均粒径D50は、70~80μm、典型的には75μmとした。また加熱温度は、60~90℃の範囲とした。 【0032】 【表2】 [図:0001422390000004.jpg] 【0033】 表2に示すところから、種結晶を添加することにより、精製炭酸Li回収量が増大することが解かり、これによって、晶析装置内部への炭酸リチウムの固着が有効に抑制されていることが推測される。 【0034】 現に種結晶を添加した試験では、晶析装置の内面等への炭酸リチウムの付着が有意に減少していること、また得られた炭酸リチウムのほぼ全てが粉状であったことを目視にて確認できた。特に、加熱温度を60℃、90℃といったように50℃以上とした場合は、炭酸リチウムの固着が顕著に抑制されていた。なお、種結晶として添加した炭酸リチウムも、析出した炭酸リチウムとともに回収可能であり、ロスは生じなかった。なおここで得られた炭酸リチウムの平均粒径D50は、75μm程度であった。 一方、種結晶を添加しなかった試験では、析出した炭酸リチウムは粉状のものとしては得られず、晶析装置の内面に塊状で強固に固着しており、人力で何とか引き剥がすことができたが、その後も粉砕及び洗浄を行う必要があったことから、工数が増えてコストが嵩むこととなった。」 d「【図2】 [図:0001422390000005.jpg] 」 (ウ)本件発明の課題について 上記(イ)aの【0002】~【0004】の記載によれば、本件発明の課題は、所定の金属イオンと、炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンとを含む水溶液から、当該金属の炭酸塩を晶析させて得る際に、前記水溶液の加熱濃縮により析出した炭酸塩の多くが、晶析装置の内面等に塊状で固着し、粉状のものとして得ることができないという問題に鑑みて、晶析装置の内部への炭酸塩の固着を抑制すること(以下、「本件課題」という。)であると認められる。 (エ)発明の詳細な説明の記載について a まず、実施例に係る具体例に目を向けると、上記(イ)cの【0029】~【0034】によれば、発明の詳細な説明の実施例には、粗炭酸リチウムを溶解させた炭酸溶解液の脱炭酸(晶析)時に、前記炭酸溶解液の量(L)に対する量として、0.002~0.02(kg-dry/L)の範囲内で、平均粒径D50が70~80μm、典型的には75μmの種結晶を添加した試験では、種結晶を添加しなかった試験と比べて、晶析装置の内面等への炭酸リチウムの付着が有意に減少したことが記載されており、当該種結晶を添加した実施例の晶析方法は、本件課題を解決できると認識できる。 b 次に、発明の詳細な説明の発明を実施するための形態を見てみると、上記(イ)bの【0015】、【0018】によれば、晶析対象の炭酸塩を構成する金属の金属イオンと、炭酸イオン及び炭酸水素イオンのうちの少なくとも一種とを含む水溶液を加熱濃縮する際に、当該水溶液に種結晶を存在させること、及び当該種結晶の平均粒径D50を60μm~90μmの範囲内とすると、水溶液中の種結晶が核となって、炭酸塩の成長が促進されることにより、晶析装置の内部への炭酸塩の固着が抑制されることが理解できる。 c そうすると、炭酸塩の晶析方法において、上記水溶液を加熱濃縮する際に、種結晶を存在させること、及び、当該種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内とすることで、上記実施例と同様に、本件課題を解決できると認識できる。 (オ)特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討 a 本件発明2は、上記第3に示したとおり、「金属イオンと炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンとを含む水溶液を、該水溶液中への種結晶の存在下で加熱し、炭酸塩を晶析させ」ること、及び「前記種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内と」することが特定された発明であって、上記(エ)cで検討した晶析方法であるから、上記(ウ)に示した本件課題を解決できると認識できる。 そして、このことを上記(ア)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項2の記載はサポート要件に適合する。 また、本件発明2に係る請求項2の記載を引用する本件発明4、5について検討しても事情は同じである。 b さらに、本件発明3、6も、上記第3に示したとおり、「金属イオンと炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンとを含む水溶液を、該水溶液中への種結晶の存在下で加熱し、炭酸塩を晶析させ」ること、及び「前記種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内と」することが特定された発明であるから、上記aと同様に、本件特許請求の範囲の請求項3、6の記載もサポート要件に適合する。 イ 申立人の主張について (ア)申立人の主張の概要 申立人は、特許異議申立書及び申立人意見書において、概略、以下のとおり主張している。 a 主張5 本件特許明細書の実施例の【0031】には、「60~90℃の範囲」と記載されており、具体的な温度条件は記載されていない。また、【0034】には「特に、加熱温度を60℃、90℃といったように50℃以上とした場合は、炭酸リチウムの固着が顕著に抑制されていた。」と記載されているが、50℃未満の実験結果は具体的に記載されておらず、加熱温度が50℃未満であっても、本発明の効果を得ることができるのかが不明である。 そして、設定登録時の請求項1~5には加熱温度について具体的に記載されておらず、実施例において具体的に効果が確認されていない範囲を含んでいる。 したがって、設定登録時の請求項1~5に係る発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書第10頁第1行~第11頁第4行)。 b 主張6 (a)本件特許明細書の実施例には、種結晶添加量が300kg以上のデータしか記載されておらず、種結晶が300kg未満であっても、本発明の効果を得ることができるのかが不明である。 そして、設定登録時の請求項1~5には種結晶の添加量について具体的に記載されておらず、実施例において具体的に効果が確認されていない範囲を含んでいる。 したがって、設定登録時の請求項1~5に係る発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書第10頁第1行~第11頁第4行)。 (b)本件特許明細書の【0032】の表2には、精製炭酸Li回収量として、「種結晶分込み」と「種結晶分差引」とが記載されている。 ここで、本件発明2の「前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量」との記載は、「種結晶分込み」の量か、「種結晶分差引」の量かが不明である。このため、どちらを「前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量」として種結晶の存在量を上述のように規定した際に、本件特許明細書の【0017】に記載された効果が得られるか否かは表2の記載からは確認することができない。 また、表2において、「種結晶添加量」と「種結晶分差引」との数値に比例関係等の一定の関係は認められず、種結晶添加時点では「種結晶分差引」の精製炭酸Li回収量は予測できないことから、水溶液中の種結晶量を「種結晶分差引」の精製炭酸Li回収量を基準として制御されていないことになる。すると、添加量と晶析する量の関係を明示して、比率をコントロールできることを説明しておらず、本件特許明細書には、晶出させる前の段階で、「前記種結晶を、前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量の35質量%以上になる量で、前記水溶液中に存在させる」手段について開示されていない。 このように、本件発明2においては、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄に記載されていない範囲を含んでいる。 したがって、本件発明2、4~6は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしていない(特許異議申立書第10頁第19行~第11頁第4行、申立人意見書第3頁第10~32行、第4頁第17~23行)。 c 主張7 本件発明3においては、「晶析により得られた前記炭酸塩の平均粒径D50が、前記種結晶の平均粒径D50に対して90%~110%の範囲内である」と、種結晶と晶析した炭酸塩との平均粒径の比を規定している。 ここで、本件特許明細書の【0019】には、「炭酸塩の平均粒径D50が、種結晶の平均粒径に対して90%未満である場合は、炭酸塩の粒径が小さいことによって洗浄が行い難くなることが考えられ、また110%より大きい場合は、結晶中に巻き込まれる不純物量が多くなり、不純物除去を目的とした洗浄効果が薄くなる可能性がある。」と記載されている。 しかしながら、本件特許明細書の実施例においては、晶析により得られた炭酸塩の平均粒径D50と種結晶の平均粒径D50との関係について記載されておらず、洗浄性についても評価されていない。 このように、本件発明3においては、本件特許明細書の発明の詳細な説明の欄に記載されていない範囲を含んでいる。 したがって、本件発明3~6は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものである(申立人意見書4頁第1~23行)。 (イ)申立人の主張の検討 a 主張5についての検討 上記ア(イ)bの【0021】には、「水溶液の加熱温度が50℃未満では、炭酸が有効に脱離しないことが懸念される。」と記載されているが、加熱温度が50℃未満では、炭酸塩の固着が抑制できないとは記載されていない。 また、同【0021】には、「水溶液を50℃~90℃の温度に加熱することができる。・・・また、晶析装置の内部への炭酸塩の固着を抑制するには、温度が高いほうが好ましい。このような観点より、リチウム溶解液の加熱温度は、70℃~80℃とすることが好ましい。」、及び上記ア(イ)cの【0034】には、「特に、加熱温度を60℃、90℃といったように50℃以上とした場合は、炭酸リチウムの固着が顕著に抑制されていた。」と記載されているものの、加熱温度が50℃以上というのは、あくまでも好ましい範囲にすぎない。 そして、上記ア(オ)で検討したとおり、本件発明2、3、6は、「金属イオンと炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンとを含む水溶液を、該水溶液中への種結晶の存在下で加熱し、炭酸塩を晶析させ」ること、及び「前記種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内と」することが特定された発明であって、晶析装置の内部への炭酸塩の固着が抑制された晶析方法であるから、加熱温度が50℃未満であっても、当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。 そして、申立人は、具体的証拠を示して、加熱温度50℃未満において、本件課題を解決し得ないことを立証しているわけでもなく、加熱温度を50℃以上に限定しなければ本件課題が解決できないとする技術常識が存在するとも認められない。 b 主張6(a)についての検討 上記ア(エ)bで検討したとおり、発明の詳細な説明の記載によれば、上記水溶液に、炭酸塩の成長の核となる種結晶が存在すれば、晶析装置の内部への炭酸塩の固着が抑制されると認識できるから、種結晶が存在しない場合に比べると、種結晶が少量でも存在すれば、本件課題が解決する方向に向かうことは明らかであるため、種結晶の添加量が300kg未満では、本件課題が解決できない範囲を含むということはできない。 そして、上記ア(オ)で検討したとおり、本件発明2、3、6は、「金属イオンと炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンとを含む水溶液を、該水溶液中への種結晶の存在下で加熱し、炭酸塩を晶析させ」ること、及び「前記種結晶の平均粒径D50を、60μm~90μmの範囲内と」することが特定された発明であって、晶析装置の内部への炭酸塩の固着が抑制された晶析方法であるから、種結晶の添加量が300kg未満であっても、当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。 さらに、申立人は、具体的証拠を示して、種結晶の添加量300kg未満において、本件課題を解決し得ないことを立証しているわけでもなく、種結晶の添加量を300kg以上に限定しなければ本件課題が解決できないとする技術常識が存在するとも認められない。 c 主張6(b)についての検討 上記主張6(b)は、本件発明2の「前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量」が、本件特許明細書の【0032】の表2の「種結晶分込み」の量か、「種結晶分差引」の量かが不明であることを前提としていると認められる。 そこで、本件発明2の「前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量」がどのような量であるかについて検討すると、上記ア(イ)bの【0017】には、「種結晶の添加量は、水溶液中の金属イオンがすべて炭酸塩として晶析したと仮定した場合の、その炭酸塩の晶析量の35質量%以上とすることが好ましい。」と記載されているから、本件発明2の「前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量」とは、「水溶液中の金属イオンがすべて炭酸塩として晶析したと仮定した場合の、その炭酸塩の晶析量」であると認識できる。 そうすると、本件発明2の「前記水溶液中の前記金属イオンが前記炭酸塩として晶析する量」は、上記「種結晶分込み」の量、及び「種結晶分差引」の量のいずれにも該当しないから、上記主張6(b)はその前提に誤りがある。 c 主張7についての検討 上記主張7は、洗浄効果を高めることが本件課題に含まれるとの理解を前提としていると認められる。 しかし、上記ア(ウ)のとおり、本件課題は、「晶析装置の内部への炭酸塩の固着を抑制すること」であり、洗浄効果を高めることは本件課題に含まれていないから、上記主張7はその前提に誤りがある。 (ウ)小括 よって、申立人の主張はいずれも採用できない。 ウ 申立理由2についてのまとめ 以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。 第7 むすび 以上の検討のとおり、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由によっては、本件特許の請求項2~6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項2~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、請求項1は、前記第2のとおり、訂正により削除された。これにより、この請求項に係る本件特許1に対する特許異議の申立てについては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-701021

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