特許異議申立
2023-701050
ショベル
- 審判番号
- 2023-701050
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-224940
- 登録番号
- 7250671
- 請求日
- 2023年10月02日
- 審決日
- 2025年10月06日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】住友建機株式会社
- 【権利者代理人】伊東 忠重
- 【権利者代理人】伊東 忠彦
- 【異議申立人】佐藤 公美
- 【異議申立人】高橋 詔男
- 審判長/審判官
- 審判長 居島 一仁
- 審判官 立澤 正樹
- 審判官 土屋 真理子
- 分類
- P1651.113-ZB (E02F) / P1651.121-ZB (E02F) / P1651.537-ZB (E02F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第120条の5第9項、特許法第36条、特許法第120条の5第2項、特許法第113条、特許法第44条第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第44条、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7250671号発明「ショベル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7250671号の請求項1~8に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 出願分割の経緯の概略
特許第7250671号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和元年12月12日にされた特許法第44条第1項の規定による特許出願であって、平成25年3月6日に出願した特願2013-44534号を最先の出願とする、いわゆる第3世代の分割出願であるところ、出願分割の経緯は、次のとおりである。なお、括弧内は当該出願の提出日を示す。
最先の出願 :特願2013- 44534号
(平成25年 3月 6日)
第1世代出願:特願2017-150739号
(平成29年 8月 3日)
第2世代出願:特願2018-191259号
(平成30年10月 9日)
本件 :特願2019-224940号
(令和元年12月12日)
2 特許権の設定登録、及び、その後の特許異議の申し立ての経緯の概略
本件特許について、令和5年3月24日にその特許権の設定登録がされ、同年4月3日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の特許異議の申立ての経緯は次のとおりである。
令和5年10月 2日 :特許異議申立人 佐藤公美(以下、「申立人A」という。)による請求項1~8に係る特許に対する特許異議の申立て
同月 3日 :特許異議申立人 高橋詔男(以下、「申立人
B」という。)による請求項1~8に係る特
許に対する特許異議の申立て
令和6年 1月15日付け:取消理由通知書
同年 3月18日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 5月31日付け:訂正拒絶理由通知書
同年 7月 8日 :特許権者による意見書及び手続補正書(方
式)の提出
同月19日付け:手続補正指令書(方式)
同月29日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出
(添付書類:訂正請求書、訂正明細書、訂正特
許請求の範囲)
同年 8月22日付け:手続補正指令書(方式)
同年 9月 4日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出
(添付書類:訂正請求書、訂正明細書)
令和7年 1月20日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年 3月25日 :特許権者による意見書及び訂正請求書(以
下、「本件訂正請求書」という。)の提出
同年 6月30日付け:訂正拒絶理由通知書
同年 8月 4日受付:特許権者による意見書及び手続補正書(方
式)の提出(添付書類:訂正請求書、訂正明
細書、訂正特許請求の範囲)
なお、令和7年3月25日に訂正の請求がされたので、令和6年3月18日にされた先の訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、令和6年7月29日提出の手続補正書(方式)は、令和6年7月8日提出の手続補正書について、補正対象の書類が添付されていない旨を通知した令和6年7月19日付け手続補正指令書(方式)に対応するように補正したものである。また、令和6年9月4日提出の手続補正書(方式)は、令和6年7月29日提出の手続補正書(方式)による補正について、訂正請求書中で明細書の訂正を求め、添付書類として訂正明細書も提出されているが、「6 請求の趣旨」の欄に明細書についての記載がないことに対して、正確に記載する必要がある旨、を命じた令和6年8月22日付け手続補正指令書(方式)に対応するように補正したものである。
第2 訂正の適否
1 令和7年3月25日提出の訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正の内容は以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「下部走行体と、該下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、該上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントを含んで構成されるショベルであって、前記ショベルに搭載され、前記ショベルの周辺の所定範囲内の障害物を検知する検知手段と、前記ショベルに搭載され、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する判定手段と、を有し、油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合、及び、前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合の何れの場合であっても、前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する、ショベル。」と記載されているのを、「下部走行体と、該下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、該上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントを含んで構成されるショベルであって、前記ショベルに搭載され、前記ショベルの周辺の所定範囲内の障害物を検知する検知手段と、前記ショベルに搭載され、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する判定手段と、を有し、エンジンが始動しているか否かにかかわらず、電源がオンであれば、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定できるように構成されている前記判定手段は、油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合、及び、前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合の何れの場合であっても、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する、ショベル。」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1乃至4の何れかに記載のショベル。」と記載されているのを、「請求項1又は2に記載のショベル。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1乃至5の何れかに記載のショベル。」と記載されているのを、「請求項1、2、又は5に記載のショベル。」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1乃至6の何れかに記載のショベル。」と記載されているのを、「請求項1、2、5、又は6に記載のショベル。」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1乃至7の何れかに記載のショベル。」と記載されているのを、「請求項1、2、5、6、又は7に記載のショベル。」に訂正する。
(8)訂正事項8
願書に添付した明細書の段落【0015】に記載された「図1に示したエンジン3は、上部旋回体63内部のいずれかの箇所に設置される。また、キースイッチ4は、キャビン64内のオペレーター(操作者)の操作可能な位置に設置される。キースイッチ4の選択位置はスタート、オン、オフの三つであり、選択位置がスタートである場合に、周知の始動回路に基づいて、コントローラ5に始動信号が出力される。」を「図1に示したエンジン3は、上部旋回体63内部のいずれかの箇所に設置される。また、キースイッチ4は、キャビン64内のオペレーター(操作者)の操作可能な位置に設置される。キースイッチ4の選択位置はスタート、オン、オフの三つであり、選択位置がスタートである場合に、周知の始動回路に基づいて、コントローラ5にて始動信号が出力される。」に訂正する。
(9)訂正の単位について
訂正前の請求項1~8について、請求項2~8はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~8に対応する訂正後の請求項1~8は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正拒絶理由通知書の概要
令和7年6月30日付け訂正拒絶理由通知書の概要は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合するものではないから、訂正事項1に係る訂正は認められない。
(2)訂正事項8に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書各号に掲げるいずれの目的とするものではなく、また、同条9項で準用する同法126条5項及び6項に適合するものではないから、訂正事項8に係る訂正は認められない。
3 令和7年8月4日提出の手続補正書による手続補正について
(1)令和7年8月4日提出の手続補正書による手続補正の内容について
令和7年8月4日提出の手続補正書による手続補正は、令和7年3月25日提出の訂正請求書、訂正特許請求の範囲、及び、訂正明細書の全文を、当該手続補正書に添付した訂正請求書、訂正特許請求の範囲、及び、訂正明細書ととおり補正するものである。
そして、訂正事項1及び8について、手続補正の内容を確認したところ、次のとおりである。
ア 訂正事項1について
手続補正前及び後の訂正請求書の7(2)アにおける訂正事項1の内容及び訂正特許請求の範囲について、手続補正により補正された箇所はない。
イ 訂正事項8について
手続補正前及び後の令和7年3月25日提出の訂正請求書の訂正事項8によって、訂正しようとする、願書に添付した明細書の段落【0015】の訂正後の内容は次のとおりである。
(ア)手続補正前
「図1に示したエンジン3は、上部旋回体63内部のいずれかの箇所に設置される。また、キースイッチ4は、キャビン64内のオペレーター(操作者)の操作可能な位置に設置される。キースイッチ4の選択位置はスタート、オン、オフの三つであり、選択位置がスタートである場合に、周知の始動回路に基づいて、コントローラ5にて始動信号が出力される。」(以下、「訂正後8構成」という。下線は訂正箇所を示す。)
(イ)手続補正後
「図1に示したエンジン3は、上部旋回体63内部のいずれかの箇所に設置される。また、キースイッチ4は、キャビン64内のオペレーター(操作者)の操作可能な位置に設置される。キースイッチ4の選択位置はスタート、オン、オフの三つである。」(以下、「補正後8構成」という。下線は補正箇所、すなわち、「訂正後8構成」からの変更箇所を示す。)
(2)手続補正の適否についての当審の判断
ア 判断の基準
訂正拒絶理由通知に対する補正の適否の判断は次のとおりである。
訂正拒絶理由通知に対しては、訂正事項の削除、軽微な瑕疵の補正等、訂正請求書の要旨を変更しないものであれば補正することができる。しかし、新たな訂正事項を加えることや、訂正事項を変更することは、訂正の要旨を変更するものである(審判便覧67-05.3の4.(3)イ参照。)。
イ 訂正事項8について
手続補正前後の訂正事項8による訂正の内容は、上記(1)イに示したとおりであり、訂正事項8に関する手続補正により願書に添付した明細書の段落【0015】の「選択位置がスタートである場合に、周知の始動回路に基づいて、コントローラ5に始動信号が出力される。」とある構成を削除して、実質的に訂正請求時の訂正事項の内容を変更するものであって、訂正事項の削除、軽微な瑕疵の補正ではない。
そうしてみると、訂正事項8に関する手続補正は、訂正請求書の要旨を変更するものである。
ウ 令和7年8月4日提出の意見書による特許権者の主張について
令和7年8月4日提出の意見書において、特許権者は、「(2)訂正拒絶理由について」の欄を設け、意見を述べている。
しかし、「(2)訂正拒絶理由について」の欄に記載されているのは、訂正拒絶理由通知において指摘した「1 訂正事項8について」への反論であり、手続補正が認められるべき理由については、何らの主張もない。
よって、特許権者の主張は、上記イの判断を左右するものではない。
(4)小括
以上のとおりであるから、令和7年8月4日提出の手続補正書(方式)による手続補正は、訂正請求書の要旨を変更するものであり、特許法120条の5第9項で準用する同法131条の2第1項の規定により認めることはできない。
4 訂正についての当審の判断
(1)訂正の内容について
上記3のとおり、令和7年8月4日提出の手続補正書(方式)による手続補正は、訂正請求書の要旨を変更するものであるから、認めることはできない。
そうしてみると、本件訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、上記1のとおりである。
(2)訂正事項8についての判断
事案に鑑み、まず、訂正事項8について検討する。
ア 訂正の目的について
訂正事項8に係る訂正の目的について、特許権者は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである旨主張する(令和7年3月25日提出の訂正請求書7(3)イ(ク)a参照)ので、まず、訂正事項8に係る訂正が明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するかについて検討する。
(ア)「明瞭でない記載の釈明」とは、設定登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面中の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっている記載等、明細書、特許請求の範囲又は図面に生じている記載上の不備を訂正し、その本来の意を明らかにすることをいう。
(イ)上記(ア)の判断基準に基づいて訂正事項8について検討する。
a 段落【0015】の「キースイッチ4の選択位置はスタート、オン、オフの三つであり、選択位置がスタートである場合に、周知の始動回路に基づいて、コントローラ5に始動信号が出力される」が、「それ自体意味の不明瞭な記載」であるか
段落【0015】の記載は、発明を実施するための形態のうちの実施例1をなすものであり、図1に示したエンジン3及びキースイッチ4を説明している。そして、段落【0015】の「また、キースイッチ4は、キャビン64内のオペレーター(操作者)の操作可能な位置に設置される。キースイッチ4の選択位置はスタート、オン、オフの三つであり、選択位置がスタートである場合に、周知の始動回路に基づいて、コントローラ5に始動信号が出力される。」との記載から、コントローラ5に始動信号を出力することに関与するのはキースイッチ4であり、コントローラ5は、段落【0015】に記載のとおり「始動信号が出力される」対象であると理解できる。
よって、「コントローラ5に始動信号が出力される。」との記載は明瞭であり、それ自体意味の不明瞭な記載ではない。
b 他の記載との関係で不合理が生じているために不明瞭となっている記載であるか
(a)段落【0017】には、「本実施例1のショベルの始動許可装置1においては、上述したキースイッチ4の選択位置がスタートとされ、かつ、以下に述べる実施例1の許可条件が成立した場合に、始動手段5bがエンジン3に対して始動指令を出力する。」と記載されている。
該記載において「キースイッチ4の選択位置がスタートとされ」るか否かという、エンジン3始動の成否を、実施例1の許可条件とともに判断するための信号が段落【0015】の「始動信号」であり、コントローラ5はキースイッチ4から受け取ったこの信号を実施例1の許可条件とともに判断し、成立の場合に「始動手段5b」が「エンジン3に対して」出力するのが段落【0017】の「始動指令」であると理解できる。
よって、段落【0015】の始動信号と段落【0017】の始動指令は、出力先が異なる別の信号(指令)であると理解でき、記載は整合している。
(b)段落【0021】には、「コントローラ5の始動手段5bは、キースイッチ4の選択位置がスタートであって、本実施例1の判定手段5cによる許可条件を満たす場合に、エンジン3を始動する始動信号をエンジン3に対して出力する。」との記載されている。
この記載においても、上記aと同様、「キースイッチ4の選択位置がスタート」であるとのエンジン3始動の成否の条件を判断するための信号が段落【0015】の「始動信号」であり、この信号をコントローラ5が受け取った上で、所定の許可条件を場合に、「コントローラ5の始動手段5b」が「エンジン3に対して」段落【0021】の「エンジン3を始動する始動信号」を出力していると理解できる。
よって、段落【0015】の始動信号と段落【0021】の始動信号は、出力先が異なる別の信号であると理解でき、記載は整合している。
(c)段落【0025】及び【0026】は、段落【0023】の「以下に本実施例1のショベルの始動許可装置1の制御内容について図4に示すフローチャートを用いて詳細に説明する。」から続く記載であり、段落【0025】には「ステップS4において、コントローラ5の許可手段5dはエンジン3の始動を許可する。この許可に基づいて、コントローラ5の始動手段5bは、エンジン3に対して始動信号を出力し、エンジン3が始動される。」と記載され、【0026】は、「この不許可に基づいて、コントローラ5の始動手段5bは、ステップS1において、キースイッチ4の選択位置がオペレーターによりスタートとされた条件でも、始動信号をエンジン3に対して出力しない。」と記載される。
そして、ステップS4は、ステップS1(キースイッチの選択位置スタートであるか否か)においてキースイッチの選択位置がスタートであるか否かが判定され、その判定結果が「Yes」の場合にステップS2(人検知)に進んで「コントローラ5の人検知手段5aは、三つのカメラ2からの入力画像を上述した所定の画像処理を行って、所定範囲CL、CR、CBのいずれかに位置する人を検出」(段落【0024】)し、その後、ステップS3において、コントローラ5の判定手段5cが、人検知手段5aにより人が検出されて「人有り?」の状態であるか否かを判定」(段落【0024】)し、このステップS3の判定手段5cの判断を受けて行われるものである。
そうすると、段落【0025】、【0026】についても、段落【0015】の始動信号、すなわち、「キースイッチ4の選択位置がスタート」であるとのエンジン3始動の成否を判断するための信号はコントローラ5が受け取るものであり、「キースイッチ4の選択位置がスタート」であるとともに所定の許可条件が成立した際に「コントローラ5の始動手段5b」が「エンジン3に対して」出力する/しない信号が段落【0025】、【0026】の「始動信号」であると理解できる。
よって、段落【0015】の始動信号と段落【0025】、【0026】の始動信号は、出力先が異なる別の信号(指令)であると理解でき、記載は整合している。
(d)上記(イ)において説示したように、段落【0015】は、「キースイッチ4の選択位置がスタート」であるとのエンジン3始動の成否を判断するための信号であって始動回路に基づいて「コントローラ5」に出力されるものである。そして、上記a~cに詳述したように、段落【0017】の「始動指令」、段落【0021】の「エンジン3を始動する始動信号」、段落【0025】、【0026】の「始動信号」は、いずれも、「キースイッチ4の選択位置がスタート」であるとともに所定の許可条件が成立した際に「コントローラ5の始動手段5b」が「エンジン3に対して」出力するものであって、同じ内容の信号を指すものであるとともに、「キースイッチ4の選択位置がスタート」であることを示す段落【0015】の「始動信号」とは異なるものである。
そして、段落【0015】に記載の、「キースイッチ4」の「選択位置がスタートである」ことを示す信号と、段落【0021】、【0025】等に記載された「キースイッチ4の選択位置がスタート」であるとともに所定の許可条件が成立した際に「コントローラ5の始動手段5b」が「エンジン3に対して」出力するエンジン3を始動する信号とが、「始動信号」という同じ言葉によって表現されているとしても、異なる状況出力される、出力先が異なる信号であることは明らかであり、明細書、特許請求の範囲又は図面中の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっているとはいえない。
c 以上のとおりであるから、本件明細書の訂正前の段落【0015】の「キースイッチ4の選択位置はスタート、オン、オフの三つであり、選択位置がスタートである場合に、周知の始動回路に基づいて、コントローラ5に始動信号が出力される。」は、それ自体が明瞭な記載であり、また、明細書、特許請求の範囲又は図面中の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっているものでもないから、明細書に記載上の不備が生じているものではない。
(ウ)特許権者の主張について
a 主張の概要
(a)令和7年3月25日付け意見書における特許権者の主張
特許権者は、令和7年3月25日付け意見書において、以下の意見を述べる。なお、訂正請求書においては、訂正事項8に係る訂正が、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであることについて、特段の説明はない。
また、段落【0015】に関連して、「しかしながら、段落[0015]の記載「図1に示したエンジン3は、上部旋回体63内部のいずれかの箇所に設置される。また、キースイッチ4は、キャビン64内のオペレーター(操作者)の操作可能な位置に設置される。キースイッチ4の選択位置はスタート、オン、オフの三つであり、選択位置がスタートである場合に、周知の始動回路に基づいて、コントローラ5に始動信号が出力される。」では、「始動信号」を出力する主体が不明となっています。
また、段落[0021]では「始動信号」が「エンジン3を始動する始動信号」であることが明記され、且つ、段落[0021]、段落[0025]、及び段落[0026]では、「始動信号」を出力する主体が「コントローラ5」であることが明記されている一方で、段落[0015]においてのみ「コントローラ5」が「始動信号」を受けるとも解釈できるようになっています。
すなわち、段落[0015]の記載を字義通り解釈してしまうと、本件の明細書は、詳細不明の主体から「始動信号」を受け取った「コントローラ5」が「始動信号」を「エンジン3」に出力する構成を記載していることになってしまいます。
なお、明細書において60箇所以上に出てくる「始動」は、一貫して「エンジン3」の「始動」を意味する言葉として用いられており、「コントローラ5」の始動を意味する言葉ではないことは明らかであると考えます。
したがって、段落[0015]の記載は、「始動信号」を出力する主体が不明である点、及び、「始動信号」が「コントローラ5」を始動させるための信号であるか「エンジン3」を始動させるための信号であるかが不明であるという点で、「設定登録時の明細書等中のそれ自体意味の不明瞭な記載」及び「設定登録時の明細書等中の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっている記載」であり(審判便覧38-03参照)、段落[0015]の記載「コントローラ5に始動信号が出力される。」を「コントローラ5にて始動信号が出力される。」に訂正して「始動信号」を出力する主体が「コントローラ5」であることを明確にすることは、明細書等に生じている記載上の不備を訂正し、その本来の意を明らかにすることとなるため、「明瞭でない記載の釈明」を目的としていることは明らかであると考えます。」と主張している(意見書3頁下18行~4頁23行)。
(b)令和7年8月4日付け意見書における特許権者の主張
特許権者は、令和7年8月4日提出の意見書において、段落【0015】に関連して、下記の点を主張している。
「しかしながら、段落【0015】の「始動信号」は、コントローラ5を始動する信号であるか否か(コントローラ5以外のものを始動する信号であるか)が不明瞭となっており、それ自体が 不明瞭な記載であると考えます。
また、段落【0015】の「始動信号」を「コントローラ5を始動する信号」であると解釈した場合、段落【0016】及び段落【0021】の記載との関係で不合理が生じると考えます 。段落【0016】は、キースイッチ4の選択位置がスタートになる前にコントローラ5が既に始動していることを開示しているためです。また、段落【0021】は、「始動信号」が「エンジ ン3を始動する」信号であることを開示しているためです 。」(以下、「主張1」という。)
「この点(段落【0015】の記載が不明瞭となっている点)は、取消理由通知書において、審判合議体殿により、段落【0015】の「始動信号」がコントローラ5を始動する信号であると 解釈されていることからも明らかであると考えます。具体的には、審判合議体殿は、令和7年1 月20日起案の取消理由通知書において『(前略)・・・【0015】の記載では、「キースイッチ4」が「スタートである場合に、・・・コントローラ5に始動信号が出力される」のであるから、コントローラ5が動作可能となるのは「キースイッチ4」が「スタートである場合」であって、』とご指摘され、段落【0015】の「始動信号」がコントローラ5を始動する信号であると解釈されています。
そのため、今回の訂正拒絶理由通知における審判合議体殿による『段落【0015】に記載の、「キースイッチ4」の「選択位置がスタートである」ことを示す信号と、段落【0021】、【0025】等に記載された「キースイッチ4の選択位置がスタート」であるとともに所定の許可条件が成立した際に「コントローラ5の始動手段5b」が「エンジン3に対して」出力するエンジン3を始動する信号とが、「始動信号」という同じ言葉によって表現されているとしても、異なる状況出力される、出力先が異なる信号である』は、一つの解釈(解釈A)としてはあり得るかもしれませんが、審判合議体殿が令和7年1月20日起案の取消理由通知書でなされた上述の解釈(解釈B)を完全に排除できるものではなく、解釈Bを生じさせている以上、解釈Aとすべきであることが「明らか」であるとまではいえないと考えます。」(以下、「主張2」という。)
「そのため、段落【0015】の記載が『明細書、特許請求の範囲又は図面中の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっているとはいえない。』とのご指摘は適切でなく、明瞭でない記載の釈明を目的として段落【0015】の記載を訂正することは、適法であると考えます。」(以下、「主張3」という。)(上記「主張1」~「主張3」については、意見書2頁11行~3頁下2行)
b 主張の検討
(a)令和7年3月25日付け意見書における特許権者の主張について
段落【0015】の記載の記載「コントローラ5に始動信号が出力される。」が明細書、特許請求の範囲又は図面中の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっているものでないことは、上記(イ)において説示したとおりであり、上記特許権者の主張は上記(イ)の判断を左右するものではなく採用できない。
(b)令和7年8月4日付け意見書における特許権者の主張について
(b-1)(主張2)について
特許権者が主張する(主張2)の取消理由通知書に対応する箇所(令和7年1月20日付け取消理由通知書(決定の予告)の「第2 4(2)イ(エ)」は、特許権者が令和7年3月25日提出の訂正請求書と同日付で提出した意見書で、『キースイッチが「オン」の場合や「オフ」の場合でもコントローラ5が動作可能である』という主張事項について見解を示したが、(主張2)にある「【0015】の「始動信号」がコントローラ5を始動する信号である」との見解を示すものではなく、指摘された記載以外に示した点からみて、上記(イ)に示したとおりの「始動信号」を把握していることは明らかである。
よって、特許権者の上記(主張2)を採用することはできない。
(b-2)(主張1)、(主張3)について
上記(イ)で示したとおり、段落【0015】の記載は不明瞭とはいえない。
よって、特許権者の上記(主張1)、(主張3)を採用することはできない。
(エ)特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、請求項間の引用関係の解消のいずれかに該当するかについて
訂正前における明細書段落【0015】の「コントローラ5に始動信号が出力される。」を訂正後の「コントローラ5にて始動信号が出力される。」に訂正する訂正が、特許請求の範囲の減縮(特許法120条の5第2項ただし書1号)、誤記の訂正(同2号)、請求項間の引用関係の解消(同4号)のいずれにも該当しないことは明らかである。
(オ)小括
以上のとおりであるから、訂正事項8に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き各号所定のいずれの目的にも該当しない。
イ 新規事項の有無について
(ア)上記アにおいて検討したように、段落【0015】の「キースイッチ4の選択位置はスタート、オン、オフの三つであり、選択位置がスタートである場合に、周知の始動回路に基づいて、コントローラ5に始動信号が出力される。」との記載における「選択位置がスタートである場合に、周知の始動回路に基づいて、コントローラ5に」「出力される」始動信号は、段落【0021】、【0025】等において、「キースイッチ4の選択位置がスタートであって、本実施例1の判定手段5cによる許可条件を満たす場合」に出力される「コントローラ5の始動手段5bがエンジン3に対し出力するエンジン3を始動する」始動信号とは異なるものであり、「選択位置がスタートである」場合に「コントローラにて始動信号が出力される」ことは、本件明細書等には記載も示唆もされていない。
よって、段落【0015】の「キースイッチ4の選択位置はスタート、オン、オフの三つであり、選択位置がスタートである場合に、周知の始動回路に基づいて、コントローラ5にて始動信号が出力される。」を「キースイッチ4の選択位置はスタート、オン、オフの三つであり、選択位置がスタートである場合に、周知の始動回路に基づいて、コントローラ5にて始動信号が出力される。」とする訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
(イ)小括
したがって、訂正事項8に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正ではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合するものではない。
(3)訂正事項1についての判断
ア 新規事項の有無について
(ア)本件明細書等の記載から把握できる記載事項
a 本件明細書等の段落【0012】、【0015】~【0016】から、キースイッチの選択位置と判定手段を構成するコントローラとの関係について、以下の事項が記載されているものといえる。
「キースイッチの選択位置は、スタート、オン、オフの三つであり、選択位置がスタートである場合、周知の始動回路に基づいて、判断手段5cを構成するコントローラ5に始動信号が出力され、また、キースイッチに選択位置がスタートを経由してオンの場合には、エンジンの駆動が継続され、また、キースイッチの選択位置がスタートを経由してオンの場合には、エンジンの駆動が継続され、オフを経由してオンの場合は、エンジンを停止したままショベル内の電源がオンされる」こと(以下、「記載事項1」という。)
b 本件明細書等の段落【0022】、【0025】から、キースイッチの選択位置とコントローラを構成する判定手段及び始動手段との関係について、以下の事項が記載されているものといえる。
「コントローラ5の判定手段5cは、キースイッチ4の選択位置がスタートである場合に、人検知手段5aが人を検知するか否かを判定し、この判定手段5cが否定と判定する場合にエンジン3の始動手段5bによる始動を許可し、この許可に基づいて、コントローラ5の始動手段5bは、エンジン3に対して始動信号を出力し、エンジン3が始動される」こと(以下、「記載事項2」という。)
c 本件明細書等の段落【0036】~【0037】、【0042】から、キースイッチの選択位置とコントローラの判定手段及び始動手段との関係について、以下の事項が記載されているものといえる。
「コントローラ5の判定手段5cは、キースイッチ4の選択位置がスタートである場合に、人検知手段5aが人を検知するか否かを判定し、この判定手段5cが否定と判定する場合であって、かつ、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」である場合にエンジン3の始動手段5bによる始動を許可し、この許可に基づいて、コントローラ5の始動手段5bは、エンジン3に対して始動信号を出力し、エンジン3が始動される」こと(以下、「記載事項3」という。)
(イ)判断
a 上記記載事項2によれば、コントローラ5の判定手段5cは、キースイッチ4の選択位置がスタートである場合に、人検知手段5aが人を検知するか否かを判定し、この判定手段5cが否定と判定する場合にエンジン3の始動信号5bによる始動を許可するものであるから、コントローラ5の判定手段5cは、少なくとも「キースイッチ4の選択位置がスタートである」場合、「人検知手段5aが人を検知するか否かを判定できる」よう構成されていることを理解することができる。
b また、上記記載事項3によれば、コントローラ5の判定手段5cは、キースイッチ4の選択位置がスタートである場合に、人検知手段5aが人を検知するか否かを判定し、かつ、油圧ロックレバー6が油圧ロック状態である場合に、エンジンの始動を許可し、油圧ロックレバー6が油圧ロック状態でない場合に、エンジンの始動を不許可とするものであるから、コントローラ5の判定手段5cは、少なくとも「キースイッチ4の選択位置がスタートである」場合、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」、油圧ロックレバー6が「油圧ロック解除状態」の双方において、「人検知手段5aが人を検知するか否かを判定できる」よう構成されていることを理解することができる。
c 訂正事項1における「前記エンジンが始動しているか否かにかかわらず、電源がオンであれば、人検知手段が人を検知しているか否かを判定できるように構成されている前記判定手段」に関し、「エンジンが始動しているか否かにかかわらず、電源がオンであれば、人検知手段が人を検知しているか否かを判定できるように構成されている」ということについて、以下検討する。
d 「人検知手段」について、本件明細書等には、記載事項2、3のほか【0021】~【0024】、図4、図7に記載がある。これらには、キースイッチがスタートのときに人検知手段が人を検知することが記載されていると解することができるが、「電源がオン」のときに人を検知するかを読み取ることはできない。
e 一方、記載事項1によると、電源がオンになる場合は、キースイッチがスタートを経由してオンの場合と、オフを経由してオンの場合の2通りがあるものの、このことを参酌しても、キースイッチがスタートを経由して電源がオンになったときに人を検知するかについて記載がないし、また、キースイッチがオフを経由してオンになったときに人を検知するかについても記載がない。
f そうしてみると、電源がオンのときに、人検知手段が人を検知していることについて、本件明細書等には記載されておらず、また、本件明細書等から自明な事項ともいえない。
g よって、請求項1の記載を「エンジンが始動しているか否かにかかわらず、電源がオンであれば、前記人検知手段が人を検知しているか否かを判定できるように構成されている判定手段」と訂正する訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正ではない。
(ウ)特許権者の主張について
a 主張の概要
(a)令和7年3月25日付け意見書における特許権者の主張
特許権者は、令和7年3月25日付け訂正請求書において、
『段落【0012】 には、「コントローラ5は、一時記憶領域としてRAMを利用しながら対応する処理をCPUに実行させることで、人検知手段5a、始動手段5b、判定手段5c、許可手段5dを構成する。」との記載がなされ、段落【0016】には、「なお、キースイッチ4の選択位置がオフの場合は、エンジン3を停止する停止指令をコントローラ5がエンジン3に出力するとともに、ショベル60内の電源をオフとする。」との記載がなされていることから、すなわち、明細書には、エンジンが始動しているか否かにかかわらず、少なくとも電源をオフとするまでは(電源がオンであれば)、判定手段5cを構成するコントローラ5が動作可能(判定手段5cが各種判定を行うことが可能)であるとの記載がなされている』(訂正請求書5頁23行~6頁9行)
と主張している(以下、主張1という。)。
また、訂正請求書と同日に提出された意見書において、
『また、段落[0016]には「なお、キースイッチ4の選択位置がオフの場合は、エンジン3を停止する停止指令をコントローラ5がエンジン3に出力するとともに、ショベル60内の電源を オフとする。また、キースイッチ4の選択位置がオンの場合は、スタートを経由している場合は、エンジン3の駆動が継続され、オフを経由している場合は、エンジン3は停止したままショベル6 0内の電源はオンとされる。」との記載があるためです。
すなわち、段落[0016]には、キースイッチ4の選択位置がオフであってもコントローラ5が既に始動している点(停止指令をエンジン3に対して出力できる状態となっている点)が記載さ れており、反対に、「オフ」から「スタート」を経由せずに「オン」とした場合に、既に始動しているコントローラ5を停止させるといった記載もないためです。
・・・
また、「撮像により取得した入力画像をコントローラ5に対して出力する」カメラ2は、「キース イッチ4の選択位置」にかかわらず、常にコントローラ5に接続されており(段落[0020]参 照)、ショベル60に搭載されたコントローラ5及びカメラ2は何れも 、少なくとも ショベル60内の電源がオンとされたときに電源の供給を受けることができるため、「判定手段」は、電源がオンであれば、「人検知手段5aが人を検知するか否かを判定」できるものであると考えます。
すなわち、図4及び図7に示すように、「キースイッチ4の選択位置」が「スタート」となった後で「判定手段」が「人検知手段が人を検知しているか否かを判定」することは、ソフトウェア的 に変更可能に設定される順番であり、「キースイッチ4の選択位置」が「スタート」となった後でコントローラ5に電源が供給されて判定手段5cが起動することを意味するものではなく、「キースイッチ4の選択位置」が「スタート」以外(例えば「オン」)になった後でコントローラ5への 電源供給が中止されて判定手段5cが停止することを意味するものでもありません。
言い換えれば、人検知手段による人がいるかいないかの判定は、「キースイッチ4の選択位置」とは無関係に継続的に実行されており、図4及び図7に示す例は、「キースイッチ4の選択位置」 が「スタート」となった後でその判定結果を利用することを開示するのみであり、「キースイッチ4の選択位置」が「スタート」となるまで人検知手段による人がいるかいないかの判定が禁止されることを意味するものではありません。』(意見書5頁25行~7頁25行)
と主張している(以下、主張2という。)。
(b)令和7年8月4日付け意見書における特許権者の主張
特許権者は、令和7年8月4日付け意見書で、訂正事項1の新規事項の有無の判断について、『すなわち、審判合議体殿は、「キースイッチがスタートのとき」が「電源がオンのとき」ではないと認定されていると考えます。』、『以上により、「電源がオンであれば、前記人検知手段が人を検知しているか否かを判定できるように構成されている前記判定手段」は本件明細書等に実質的に開示されていると考えます。』と主張している。
b 主張の検討
(a)令和7年3月25日付け意見書における特許権者の主張について
上記主張1及び主張2について検討する。
(a-1)主張1について
段落【0012】の「コントローラ5は、一時記憶領域としてRAMを利用しながら対応する処理をCPUに実行させることで、人検知手段5a、始動手段5b、判定手段5c、許可手段5dを構成する。」との記載から、「判定手段5c」は、「ショベル」の「有」する「始動許可装置1」が「含んで構成される」「エンジン3をキースイッチ4の選択位置(スタート、オン、オフ)に基づいて制御するコントローラ5」の一部であって、「コントローラ5」が「一時記憶領域としてRAMを利用しながら対応する処理をCPUに実行させることで」「構成する」手段であることが理解できる。
しかし、段落【0016】の記載は、単に、キースイッチが「オフ」の場合、エンジンは停止し、電源はオフとなることを明らかにしているだけであり、電源がオンのときに人検知手段や判定手段がどのような挙動を示すのか明らかではない。
よって、特許権者の主張1を採用することはできない。
(a-2)主張2について
上記(a-1)と同様に、段落【0016】の記載は、単に、キースイッチが「オフ」の場合、エンジンは停止し、電源はオフとなることを明らかにしているだけであり、キースイッチ4の選択位置がオフであってもコントローラ5が既に始動している点(停止指令をエンジン3に対して出力できる状態となっている点)を明らかにする記載ではない。
また、段落【0020】の記載において、「カメラ2」は「撮像により取得した入力画像をコントローラ5に対して出力する」ために「コントローラ5」に接続されていることは理解できるが、そのことから、「キースイッチ4の選択位置」が「スタート」となった後で「判定手段」が「人検知手段が人を検知しているか否かを判定」することは、ソフトウェア的に変更可能に設定される順番であり、人検知手段による人がいるかいないかの判定は、「キースイッチ4の選択位置」とは無関係に継続的に実行されるものであることを開示しているとは認められない。
よって、特許権者の主張2を採用することはできない。
(b)令和7年8月4日付け意見書における特許権者の主張について
上記(イ)に示したとおり、本件明細書には、
電源がオンになる場合は、キースイッチがスタートを経由してオンの場合と、オフを経由してオンの場合の2通りがあるものの、このことを参酌しても、キースイッチがスタートを経由して電源がオンになったときに人を検知するかについて記載がないし、また、キースイッチがオフを経由してオンになったときに人を検知するかについても記載がなく、電源がオンのときに、人検知手段が人を検知していることについて、本件明細書等には記載されておらず、また、本件明細書等から自明な事項ともいえないのであり、上記aの主張のように、「キースイッチがスタートのとき」が「電源がオンのとき」ではないと認定しているものではない。
そして、訂正事項1の新規事項の有無の判断については、上記(イ)で示したとおりであり、特許権者の上記主張を採用することはできない。
(エ)小括
前記(ア)~(ウ)のとおり、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正ではない。
よって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合するものではない。
(4)訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求により特許権者が求めている訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合するものではない。
また、訂正事項8に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き各号所定のいずれの目的に該当するものではなく、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正ではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合するものではない。
以上のとおりであるから、一群の請求項である請求項〔1-8〕について訂正を認めない。
第3 本件発明、及び、本件明細書等の記載
1 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められないから、本件特許の請求項1~8の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明8」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
下部走行体と、該下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、該上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントを含んで構成されるショベルであって、
前記ショベルに搭載され、前記ショベルの周辺の所定範囲内の障害物を検知する検知手段と、
前記ショベルに搭載され、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する判定手段と、を有し、
油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合、及び、前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合の何れの場合であっても、前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する、
ショベル。
【請求項2】
掘削用、旋回用、及び前後進用の油圧アクチュエータを更に有する、
請求項1記載のショベル。
【請求項3】 前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知していると判定した場合、掘削、旋回、及び前後進の動作を禁止する、
請求項1又は2に記載のショベル。
【請求項4】
前記判定手段は、電源オンの後に、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する、
請求項1乃至3の何れかに記載のショベル。
【請求項5】
前記ショベルの周辺の所定範囲は、前記ショベルの左側の所定範囲、前記ショベルの右側の所定範囲、及び前記ショベルの後側の所定範囲を含む、
請求項1乃至4の何れかに記載のショベル。
【請求項6】
前記検知手段の検知範囲の左側の境界と右側の境界との間の角度は、180度未満である、
請求項1乃至5の何れかに記載のショベル。
【請求項7】
前記検知手段は、前記上部旋回体におけるエンジンフードの側方に配置されている、
請求項1乃至6の何れかに記載のショベル。
【請求項8】
前記検知手段は、ステレオカメラ、レーザレーダ、単眼カメラの何れかである 、
請求項1乃至7の何れかに記載のショベル。」
2 本件明細書等の記載
本件特許の明細書(以下「本件明細書」といい、特許請求の範囲、図面とあわせて「本件明細書等」という。)には、以下の記載がある。
(1)本件明細書の記載
ア 技術分野
「【0001】
本発明は、安全性を確保するショベルに関する。」
イ 背景技術及び発明が解決しようとする課題
「【背景技術】
【0002】
ショベル等の建設機械として例えば特許文献1に記載のものがある。この技術においては、作業中の建設機械と周囲の作業員等の障害物との接触を防止するため、障害物との距離や建設機械の切削や旋回などの動作に対応させて危険である場合に警報を行うことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-198519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述した特許文献1に記載の従来技術においては、建設機械の作業が行われていない状態のような、操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない状態における建設機械の周辺の作業員の安全を確保する技術については開示されていない。
【0005】
本発明においては、操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない状態であっても、より確実に周辺の作業員の安全を確保することができるショベルを提供することを目的とする。」
ウ 課題を解決するための手段
「【0006】
本発明の実施形態に係るショベルは、下部走行体と、該下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、該上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントを含んで構成されるショベルであって、前記ショベルに搭載され、前記ショベルの周辺の所定範囲内の障害物を検知する検知手段と、前記ショベルに搭載され、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する判定手段と、を有し、油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合、及び、前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合の何れの場合であっても、前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する。」
エ 発明の効果
「【0007】
上述の手段により、より確実に周辺の作業員の安全を確保することができるショベルを提供することができる。」
オ 発明を実施するための形態
(ア)実施例1
「【0010】
本実施例1のショベルは、始動許可装置1を有し、図1に示すように、カメラ2と、エンジン3をキースイッチ4の選択位置(スタート、オン、オフ)に基づいて制御するコントローラ5とを含んで構成される。
【0011】
コントローラ5は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、NVRAM(Non-Volatile Random Access Memory)及びこれらを相互に接続するデータバスと入出力インターフェース等を備えたコンピュータである。
【0012】
本実施例1のコントローラ5は、例えば、本発明の始動許可方法を実行するプログラムをROMやNVRAMに記憶している。コントローラ5は、一時記憶領域としてRAMを利用しながら対応する処理をCPUに実行させることで、人検知手段5a、始動手段5b、判定手段5c、許可手段5dを構成する。
【0013】
本実施例1のショベルの始動許可装置1は、図2に示すように、ショベル60(建設機械)に適用される。ショベル60は、クローラ式の下部走行体61の上に、旋回機構62を介して、上部旋回体63を旋回軸PVの周りで旋回自在に搭載している。
【0014】
また、上部旋回体63は、その前方左側部にキャビン(運転室)64を備え、その前方中央部に掘削アタッチメントE(ブーム、アーム、バケット)を備えている。さらに、上部旋回体63は、その左側面、右側面及び後面にそれぞれ対応する上述したカメラ2(カメラ2L、カメラ2R、カメラ2B)を備えている。
【0015】
図1に示したエンジン3は、上部旋回体63内部のいずれかの箇所に設置される。また、キースイッチ4は、キャビン64内のオペレーター(操作者)の操作可能な位置に設置される。キースイッチ4の選択位置はスタート、オン、オフの三つであり、選択位置がスタートである場合に、周知の始動回路に基づいて、コントローラ5に始動信号が出力される。
【0016】
なお、キースイッチ4の選択位置がオフの場合は、エンジン3を停止する停止指令をコントローラ5がエンジン3に出力するとともに、ショベル60内の電源をオフとする。また、キースイッチ4の選択位置がオンの場合は、スタートを経由している場合は、エンジン3の駆動が継続され、オフを経由している場合は、エンジン3は停止したままショベル60内の電源はオンとされる。なお、本実施例1のキースイッチ4は一例であり、上述した三つの選択位置の他に選択位置(例えば、エンジン3のグロープラグ予熱位置やアクセサリ電源位置等)を備えるものであってもよい。
【0017】
本実施例1のショベルの始動許可装置1においては、上述したキースイッチ4の選択位置がスタートとされ、かつ、以下に述べる実施例1の許可条件が成立した場合に、始動手段5bがエンジン3に対して始動指令を出力する。エンジン3はこの始動指令に基づいて始動されて、エンジン3の駆動軸に連結された図示しない油圧ポンプが駆動される。
【0018】
この図示しない油圧ポンプは、ショベル60が含む周知の油圧回路においてパイロット圧を生成している。キャビン64内の運転室に備えられる複数の操作レバー(操作部)がオペレーターにより操作されると、対応する複数の切削用、旋回用、前後進用の油圧アクチュエータのそれぞれにパイロット圧が送り込まれて動作される。つまり、ショベル60における掘削、旋回、前後進の動作が適宜、オペレーターにより選択される。
【0019】
カメラ2は、図1に示したように、ショベル60の周囲を映し出す入力画像を取得するための装置である。ここで、カメラ2は単眼タイプであり、例えばCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を備える。実施例1におけるカメラ2は、図3に示すオペレーターの死角となりやすい所定範囲CL、CR、CBをそれぞれ撮像する。
【0020】
カメラ2Lは左側面の一点鎖線で示す扇形状の所定範囲CLを撮像し、カメラ2Rは右側面の一点鎖線で示す扇形状の所定範囲CRを撮像し、カメラ2Bは後面の一点鎖線で示す扇形状の所定範囲CBを撮像する。なお、カメラ2の設置箇所は上述した三箇所に限られるものではなく、オペレーターの死角となる範囲をカバーできるものであればよい。例えばカメラ2は、上部旋回体63の右側面及び後面のみ、又は前面と右側面、後面と左側面の全てに取り付けられていてもよい。カメラ2は、撮像により取得した入力画像をコントローラ5に対して出力する。
【0021】
コントローラ5の人検知手段5aは、三つのカメラ2からの入力画像について、周知の画像処理により例えばオプティカルフローを求めて、ショベル60周辺の所定範囲CL、CR、CB内の人を検知する。コントローラ5の始動手段5bは、キースイッチ4の選択位置がスタートであって、本実施例1の判定手段5cによる許可条件を満たす場合に、エンジン3を始動する始動信号をエンジン3に対して出力する。
【0022】
本実施例1の許可条件は以下の通りである。つまり、コントローラ5の判定手段5cは、キースイッチ4の選択位置がスタートである場合に、人検知手段5aが人を検知するか否かを判定し、この判定手段5cが否定と判定する場合にエンジン3の始動手段5bによる始動を許可する。
【0023】
以下に本実施例1のショベルの始動許可装置1の制御内容について図4に示すフローチャートを用いて詳細に説明する。ステップS1に示すように、コントローラ5の判定手段5cは、キースイッチ4の選択位置がスタートであるか否かを判定し、肯定であればステップS2にすすみ、否定であればENDにすすむ。
【0024】
ステップS2において、コントローラ5の人検知手段5aは、三つのカメラ2からの入力画像を上述した所定の画像処理を行って、所定範囲CL、CR、CBのいずれかに位置する人を検出する。つづいて、ステップS3において、コントローラ5の判定手段5cは、人検知手段5aにより人が検出されて「人有り?」の状態であるか否かを判定する。
【0025】
ステップS3において、判定手段5cにより否定と判定される場合、つまり、所定範囲CL、CR、CBに人がいない場合には、ステップS4にすすむ。ステップS4において、コントローラ5の許可手段5dはエンジン3の始動を許可する。この許可に基づいて、コントローラ5の始動手段5bは、エンジン3に対して始動信号を出力し、エンジン3が始動される。
【0026】
ステップS3において、判定手段5cにより肯定と判定される場合、すなわち、所定範囲CL、CR、CBに人がいる場合には、ステップS5にすすんで、コントローラ5の許可手段5dは、エンジン3の始動を不許可とする。この不許可に基づいて、コントローラ5の始動手段5bは、ステップS1において、キースイッチ4の選択位置がオペレーターによりスタートとされた条件でも、始動信号 をエンジン3に対して出力しない。図4に示したフローチャートはコントローラ5の制御周期毎に繰り返し実行されて、本発明のショベルの始動許可方法が実行される。
【0027】
上述した本実施例1に示したショベルの始動許可装置1は、ショベル60の周辺の所定範囲CL、CR、CBにおいて人が存在する場合には、キースイッチ4の選択位置がオペレーターによりスタートとされた条件でも、エンジン3の始動を不許可とすることができる。
【0028】
つまり本実施例1は、キースイッチ4の選択位置がスタートであって人がショベル60の周辺に存在する条件を、エンジン3の始動の不許可条件とすることができる。これとともに本実施例1は、キースイッチ4の選択位置がスタートであって人がショベル60の周辺に存在しない条件を、エンジン3の始動の許可条件とすることができる。
【0029】
本実施例1は、この不許可条件と許可条件の切り分けにより、ショベル60に人が存在する場合にはエンジン3の始動を禁止して、人特に作業者の安全を確保することができる。特にオペレーターがキャビン64に乗り込む前の周囲の目視確認と乗り込んだ後の警笛による警報を失念した場合でも、本実施例1によれば安全を確保できる。これとともに、本実施例1は、ショベル60の周辺に人が存在しない場合には、キースイッチ4の選択位置がスタートであることに基づいて速やかにエンジン3の始動を行うことができる。」
(イ)実施例2
「【0030】
上述した実施例1の許可条件については、オペレーターの実際の操作手順に併せて適宜変更することが可能である。以下それについての本実施例2のショベルの始動許可装置11について述べる。既述した実施例1で示したショベルの始動許可装置1と共通する構成については同一の符号を付し、以下、相違点を主に説明する。
【0031】
通常、ショベル60等の建設機械のエンジン3の始動の前には、オペレーターはキャビン64に乗り込む前に周囲を目視確認し、キャビン64に乗り込んだ後、警笛を鳴らして周囲に人がいる場合には退避を促してからエンジン3を始動させる。
【0032】
ここで図5に示すように、キャビン64内の座席Sの左方には通常、油圧ロックレバー6が設置されている。この油圧ロックレバー6を手前側に引き図5中「L」で示す位置まで移動させると「油圧ロック状態」が選択される。「油圧ロック状態」においては、ショベル60内の油圧回路内に設けられたシャット弁が、キャビン64内の操作レバーと油圧アクチュエータとの間の油圧回路を遮断する。つまり、操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない。
【0033】
油圧ロックレバー6を前方側に倒して図5中「U」で示す位置まで移動させると「油圧ロック解除状態」が選択される。「油圧ロック解除状態」においては、シャット弁はキャビン64内の操作レバーと油圧アクチュエータとの間の油圧回路を連通させる。つまり、操作レバーをオペレーターが操作した場合に対応する油圧アクチュエータは動作される。
【0034】
ここでオペレーターがキャビン64に乗り込むときには、図5に示す油圧ロックレバー6は位置「L」に位置している。オペレーター自身がキャビン64に乗り込み、座席Sに座ったときに、油圧ロックレバー6を位置「L」そのままとして「油圧ロック状態」を保持した後、キースイッチ4の選択位置を操作して、適宜エンジン3の始動を行う。始動を行った後は、油圧ロックレバー6を位置「U」とし「油圧ロック解除状態」として、操作レバーによる油圧アクチュエータの動作を可能とする。
【0035】
そこで本実施例2のショベルの始動許可装置11では、図5に示すように、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」か「油圧ロック解除状態」のいずれであるかを、例えばポテンショメータなどの位置検出スイッチを用いてコントローラ5に入力する構成とする。
【0036】
コントローラ5の許可手段5dは、実施例1で述べたものと同様の所定範囲CL、CR、CBに人がおらず、キースイッチ4の選択位置がスタートとされ、かつ、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」である許可条件にて、エンジン3の始動を許可する。
【0037】
つまり本実施例2のショベルの始動許可装置11が含むコントローラ5の制御内容は、図7に示すように、図4に示したフローチャートに比べて、ステップS6が追加される。ステップS3にて、判定手段5cにより所定範囲CL、CR、CBに人がいないと判定され、かつ、ステップS6において、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」である場合に、ステップS4にすすんで、許可手段5dにより、エンジン3の始動が許可される。
【0038】
ステップS3において、判定手段5cにより、所定範囲CL、CR、CBに人がいないと判定され、ステップS6にて、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」でないと判定される場合には、ステップS5にすすむ。ステップS5において、許可手段5dが、エンジン3の始動を不許可とする。
【0039】
なお、本実施例2においても、ステップS3において、所定範囲CL、CR、CBに人がいると判定手段5cにより判定される場合には、ステップS5にすすんで、許可手段5dにより、エンジン3の始動は不許可とされる。図7に示したフローチャートもコントローラ5の制御周期毎に繰り返し実行され、本発明のショベルの始動許可方法が実行される。
【0040】
上述した本実施例2に示したショベルの始動許可装置11においても、建設機械であるショベル60の周辺の所定範囲CL、CR、CBにおいて、人が存在する場合には、キースイッチ4の選択位置がオペレーターによりスタートとされた条件でも、エンジン3の始動を不許可とすることができる。
【0041】
さらに本実施例2は、キースイッチ4の選択位置がスタートであって人がショベル60の周辺に存在する場合、又は、人がショベル60に存在せずかつ油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」でない場合の双方を、エンジン3の始動の不許可条件とする。また、本実施例2は、キースイッチ4の選択位置がスタートであって人がショベル60の周辺に存在せず、かつ、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」である場合を、エンジン3の始動の許可条件とする。
【0042】
本実施例2は、この不許可条件と許可条件の切り分けにより、ショベル60の周辺に人が存在する場合にはエンジン3の始動を禁止して、人特に作業者の安全を確保することができる。これとともに、本実施例2は、ショベル60の周辺に人が存在しない場合には、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」であることを追加条件として、キースイッチ4の選択位置がスタートであることに基づいて速やかにエンジン3の始動を行うことができる。
【0043】
本実施例2では特に、万一オペレーターが操作レバーに触れた状態で、キースイッチ4の選択位置をスタートとした場合でも、意図しないショベル60の掘削、旋回、前後進の動作を禁止できる。加えて、本実施例2ではエンジン3の始動直後の、ショベル60の掘削、旋回、前後進の急激な動作を禁止できる。これにより本実施例2では、周囲の人の安全を確保できる。
【0044】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができる。
【0045】
例えば上述した実施例では、所定範囲の入力画像から人検知手段5aが人を検知するにあたり画像処理を用いることを例示したが人を検知する手法はこれに限られない。つまり、パターンマッチングによる手法や、ステレオカメラを用いた立体物検出の手法を用いることも可能である。また、アクティブ型の赤外線センサやパッシブ型の赤外線センサ(例えば焦電型赤外線センサ)を用いてもよく、レーザレーダや超音波センサを用いてもよい。」
カ 産業上の利用可能性
「【0046】
本発明のショベルの始動許可装置、ショベルの始動許可方法は、ショベルの周辺の所定範囲に人が検知される場合には、エンジンの始動を不許可とすることで、特に作業員の安全を確実に確保することができる。このため、種々の建設機械に適用して好適なものである。」
(2)図面の記載
図1~7は以下のとおり。
【図1】
「
[図:0001429965000001.jpg]
」
【図2】
「
[図:0001429965000002.jpg]
」
【図3】
「
[図:0001429965000003.jpg]
」
【図4】
「
[図:0001429965000004.jpg]
」
【図5】
「
[図:0001429965000005.jpg]
」
【図6】
「
[図:0001429965000006.jpg]
」
【図7】
「
[図:0001429965000007.jpg]
」
第4 証拠一覧、特許異議申立理由の要旨、及び取消理由通知<決定の予告>に記載した取消理由の要旨
1 証拠一覧
(1)申立人Aにより申立書とともに提出された証拠
甲第1号証:特開2014-173258号公報
甲第2号証:特開平6-18661号公報
甲第3号証:特開2006-257724号公報
(以下、甲第1号証を「甲A1」などという。)
(2)申立人Bにより申立書とともに提出された証拠
甲第1号証:特開2011-17258号公報
甲第2号証:特開2010-198519号公報
甲第3号証:特開平10-72851号公報
甲第4号証:特開平8-121205号公報
甲第5号証:特開平5-93431号公報
甲第6号証:特開2012-13800号公報
甲第7号証:特開平10-49799号公報
甲第8号証:特開2012-144157号公報
甲第9号証:実願昭63-51427号(実開平1-156256号)の願書に添付した実用新案登録の範囲、明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム
甲第10号証:特開2010-204821号公報
(以下、甲第1号証を「甲B1」などという。)
2 特許異議申立理由の概要
(1)申立人A
ア 申立理由1(特許法36条6項1号)(同法113条4号)
・請求項1~8
本件発明1~8は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるから、本件発明1~8と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが、実質的に対応しているとはいえず、特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号に規定するサポート要件を満たしていない。
イ 申立理由2(特許法36条6項2号)(同法113条4号)
・請求項1~8
本件発明1~8は、技術的意味を当業者が理解することができず、さらに、出願時の技術常識を考慮すると発明特定事項が不足していることが明らかであるから、特許法36条6項2号に規定する明確性要件を満たしていない。
ウ 申立理由3(特許法44条1項、特許法29条1項3号、2項)(同法113条2号)
・請求項1~8
請求項1~8に係る発明は、原出願(特願2013-44534号:甲第1号証)の当初明細書等に記載された発明の一部を新たな特許出願としたものということができず、本件特許の出願日は実際に分割出願を行った日となる。
そうすると、本件特許1~8に係る発明は、いずれも本件特許に実際の出願前に頒布された甲1発明と同一、ないし当該発明から当業者が容易に発明することができたものであって、特許法29条1項3号、同条2項の規定により特許を受けることができない。
エ 申立理由4(特許法29条1項3号、2項)(同法113条2号)
・請求項1~8
請求項1~6に係る発明は、甲2発明と同一、ないしは当該発明から当業者が容易に発明することができたのであって、特許法29条1項3号、同条2項の規定により特許を受けることができない。
請求項7、8に係る発明は、甲2発明及び甲3発明から、当業者が容易に創作することができたのであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(2)申立人B
・請求項1、2、4、5
請求項1、2、4、5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1、2、4、5に係る特許は、特許法29条1項3号の規定に違反しており、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
・請求項1~8
請求項1~8に係る発明は、甲第1号証に記載された甲1発明又は甲第2号証に記載された甲2発明に基づいて、又は、甲第1号証若しくは甲第2号証に甲第1号証乃至甲第10号証に記載された周知技術を適用することにより、当業者が容易に発明することができたものであって、特許法29条2項の規定に違反しており、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 取消理由通知<決定の予告>に記載した取消理由の要旨
請求項1~8に係る特許について、当審において令和7年1月20日付けで特許権者に通知した取消理由通知<決定の予告>の要旨は、次のとおりである。
理由1.(サポート要件)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~8の記載は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないから、請求項に係る特許は取り消されるべきものである。
理由2.(新規性)
本件発明1、2、4~8は、甲A1発明であり、また、本件発明1、2、4は、甲B1発明であり、特許法29条1項の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
理由3.(進歩性)
本件発明1、2、4~8は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、本件発明1、2、4、8は、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであって、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明3は、甲A1発明及び周知技術1(甲A2、甲B2)に基づいて、本件発明1~8は、甲B9発明、甲B4技術事項、周知技術1(甲A2、甲B2)及び周知技術2(甲A2、甲B2)に基づいて、本件発明7は、甲B1発明及び周知技術3(引用文献1)に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
引用した刊行物
甲A1(申立人Aが提出した甲第1号証):特開2014-173258号公報
甲B9(申立人Bが提出した甲第9号証):実願昭63-51427号(実開平1-156256号)のマイクロフィルム
甲B4(申立人Bが提出した甲第4号証):特開平8-121205号公報
甲A2(申立人Aが提出した甲第2号証):特開平6-18661号公報
甲B2(申立人Bが提出した甲第2号証):特開2010-198519号公報
甲B1(申立人Bが提出した甲第1号証):特開2011-17258号公報
引用文献1(当審において追加した文献):特開2008-8188号公報
第5 当審の判断
1 理由1.(サポート要件)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題
本件発明は、より確実に周辺の作業員の安全を確保することができるショベルを提供することを目的とする。(段落【0005】)
(3)発明の詳細な説明に記載された課題解決手段について
発明の詳細な説明には、実施例2として「油圧ロックレバー6」が設置された「ショベル」におけるエンジン始動許可装置に関し、以下の事項が示されている。
油圧ロックレバー6が設置されており、油圧ロックレバー6の位置によって「油圧ロック状態」と「油圧ロック解除状態」が選択され、「油圧ロック状態」においては、ショベル60内の油圧回路内に設けられたシャット弁が、キャビン64内の操作レバーと油圧アクチュエータとの間の油圧回路を遮断することとなり、操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しないが、「油圧ロック解除状態」においては、シャット弁はキャビン64内の操作レバーと油圧アクチュエータとの間の油圧回路を連通させることとなり、操作レバーをオペレーターが操作した場合に対応する油圧アクチュエータは動作される「ショベル」において(段落【0032】~【0034】)、
油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」か「油圧ロック解除状態」のいずれであるかがコントローラ5に入力され(段落【0035】)、
キースイッチ4の選択位置がスタートとされ、許可条件が成立した場合にエンジン3が始動されるものであり(段落【0017】、【0030】)、
ショベルの始動許可装置11のコントローラ5の許可手段5dは、キースイッチ4の選択位置がスタートであって、人検知手段5aがショベルの周辺の所定範囲CL、CR、CBに位置する人を検出しているか否かを判定手段5cが判定し、否定と判定される場合(ショベル60の周辺に人が存在しない場合)、かつ、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」である場合である許可条件にて、エンジン3の始動を許可する(段落【0024】、【0025】、【0035】~【0037】、【0041】)ことにより、
ショベル60の周辺に人が存在する場合にはエンジン3の始動を禁止して、人特に作業者の安全を確保することができるとともに、ショベル60の周辺に人が存在しない場合には、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」であることを追加条件として、キースイッチ4の選択位置がスタートであることに基づいて速やかにエンジン3の始動を行うことができる(段落【0042】)ようにしたものであること。
そうすると、発明の詳細な説明に記載された課題解決手段は、
コントローラ5の許可手段5dが、
キースイッチ4の選択位置がスタートとされ、
人検知手段5aの検出結果による人の有無の判定、及び、油圧ロック状態か油圧ロック解除状態かの判定が、「否定(ショベル60の周辺に人が存在しない)」、かつ、「油圧ロック状態」である場合に、
エンジン3の始動を許可する、
ことであり、これにより、「より確実に周辺の作業員の安全を確保する」ものとなっているものと理解できる。
この解釈は、「本発明のショベルの始動許可装置、ショベルの始動許可方法は、ショベルの周辺の所定範囲に人が検知される場合には、エンジンの始動を不許可とすることで、特に作業員の安全を確実に確保することができる。・・・」(段落【0046】)との記載、「・・・本実施例2は、ショベル60の周辺に人が存在しない場合には、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」であることを追加条件として、キースイッチ4の選択位置がスタートであることに基づいて速やかにエンジン3の始動を行うことができる。」(段落【0042】)との記載とも整合する。
(4)サポート要件の判断
以下、本件発明に課題解決手段が反映され、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかについて、検討する。
ア 本件発明1
(ア)「油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合、及び、前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合の何れの場合であっても、前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」ことについて
a 本件の課題は「より確実に周辺の作業員の安全を確保することができるショベルを提供する」ことであるところ、安全を確保するためには、単に所定の場所にある「障害物を検知する」こと等により安全が確保できない状態を察知し把握するのみでは足りず、ショベルの危険な動きを抑制する制御や作業員への危険状態の報知等、安全を確保するための具体的な対応が必要である。
b そして、発明の詳細な説明をみると、発明の詳細な説明に記載された課題解決手段(上記(3))においては、「キースイッチ4の選択位置がスタート」とされ、「ショベルの周辺の人の有無」及び「油圧ロック状態/油圧ロック解除状態」という2つの条件について「否定」及び「油圧ロック状態」という所定の許可条件を充足したときに「エンジンの始動を許可」するものであり、すなわち、2つの条件のいずれか一方の条件を満たさない場合には「エンジンの始動」が「不許可」となってショベルの危険な動きが抑制されることにより当該課題が解決されていると認められる。なお、本件明細書等において記載される上記「具体的な対応」は、「キースイッチ4の選択位置がスタート」とされ、所定の許可条件を充足したときに「エンジンの始動を許可」する(所定の許可条件を充足したとき以外はエンジンの始動を不許可とする)ことのみである。
c 一方、本件発明1の上記摘記した記載をみると(なお、油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合及び前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合は、ここでは、本件明細書段落【0032】及び【0033】を参酌して、油圧ロック状態及び油圧ロック解除状態に対応するものとして検討する。)、本件発明1は、「油圧ロック状態」と「油圧ロック解除状態」のいずれの場合であっても「前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」ことを特定するものであるが、以下の点で発明の詳細な説明に記載された課題解決手段が反映されておらず、当該発明の課題を解決できると認識できない。
(a)第一に、本件発明1には、「エンジンの始動を許可」する(所定の許可条件を充足したとき以外はエンジンの始動を不許可とする)「許可条件」について、反映されていない。
発明の詳細な説明に記載された課題解決手段は、上記bにおいて指摘したように、「ショベルの周辺の人の有無」及び「油圧ロック状態/油圧ロック解除状態」という2つの条件について「否定」及び「油圧ロック状態」という所定の許可条件を充足したときに「エンジンの始動を許可」し、2つの条件のいずれか一方の条件を満たさない場合には「エンジンの始動」を「不許可」とするものである。
すなわち、本件明細書等の図7(上記「第3 2(2)参照。)に示されるように、ステップ6の「油圧ロック状態?」において「油圧ロック状態」か「油圧ロック解除状態」が判別され、「油圧ロック状態」肯定(Yes)の場合はエンジン始動許可、「油圧ロック解除状態」否定(No)の場合はエンジン始動不許可となることが、その前段(ステップ3)で行われる人の検知の判定とあわせて許可条件として判定され、「エンジンの始動を許可」するための所定の許可条件(「否定」及び「油圧ロック状態」)を充足するかの判定がされるものである。
それに対し、本件発明1は、本件明細書等の図7における前段(ステップ3)の人の検知の判定が「油圧ロック状態」でも「油圧ロック解除状態」でも行われることを特定するに留まるものであって、「油圧ロック状態」であるか「油圧ロック解除状態」であるかの判定すらしておらず、そのため、「油圧ロック状態」であるか「油圧ロック解除状態」であるかによってエンジン始動の許可/不許可を判定する条件として特定されるものとなっていない。
そして、本件発明1は、「油圧ロック状態/油圧ロック解除状態」が判定されるものではないため、「ショベルの周辺の人の有無」及び「油圧ロック状態/油圧ロック解除状態」という2つの条件について「否定」及び「油圧ロック状態」という所定の許可条件を特定できる構成が反映されておらず、それによってショベルの危険な動きを抑制する等の安全を確保するための具体的な対応をとることができるものではないから、「より確実に周辺の作業員の安全を確保することができるショベルを提供する」との課題を解決できると認識できない。
(b)第二に、本件発明1は、ショベルの危険な動きを抑制する制御等、安全を確保するための具体的な対応についての構成を欠く。発明の詳細な説明に記載された課題解決手段は、上記bにおいて指摘したように、「キースイッチ4の選択位置がスタート」とされ、所定の許可条件を充足したときのみに「エンジンの始動を許可」する(所定の許可条件を充足したとき以外はエンジンの始動を不許可とする)ということであるが、本件発明1は、エンジンの始動の許可/不許可の判断を離れて、油圧ロック状態/油圧ロック解除状態に関する状態がどのような場合に人を検知しているか否かの判定を行うかを並列して特定するのみである。そして、上記aにおいて指摘したように、周辺の作業員の安全を確保するためには、単に安全が確保できない状態を察知し把握するのみでは足りず、ショベルの危険な動きを抑制する制御等、安全を確保するための具体的な対応が必要であるから、本件発明1は「より確実に周辺の作業員の安全を確保する」との発明の課題を解決できると認識できるものではない。
(c)以上検討したように、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された課題解決手段における、許可条件として必要な「油圧ロック状態/油圧ロック解除状態」の判定について反映されておらず、また、発明の詳細な説明に記載された課題解決手段における「周辺の作業員の安全を確保する」という課題の解決に必要な具体的対応について反映されていないため、課題を解決できるものではない。
イ 本件発明3について
(ア)本件発明3の「前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知していると判定した場合、掘削、旋回、及び前後進の動作を禁止する」ことは、発明の詳細な説明に記載も示唆もされていない。
(イ)本件の発明の詳細な説明には、
「【0043】
本実施例2では特に、万一オペレーターが操作レバーに触れた状態で、キースイッチ4の選択位置をスタートとした場合でも、意図しないショベル60の掘削、旋回、前後進の動作を禁止できる。加えて、本実施例2ではエンジン3の始動直後の、ショベル60の掘削、旋回、前後進の急激な動作を禁止できる。これにより本実施例2では、周囲の人の安全を確保できる。」と記載されている。
(ウ)しかし、上記記載においては、「エンジン3の始動直後」の、「ショベル60の掘削、旋回、前後進」を禁止するものであって、本件発明1を引用する本件発明3のように「エンジン3の始動直後」に限らず禁止するものではない。また、「実施例2」において「掘削、旋回、及び前後進の動作を禁止する」のは、図7に示された始動許可装置11が含むコントローラ5の制御内容及び技術常識からすれば「油圧ロックレバー6」が「油圧ロック状態」であることの作用であると認められるから、「前記判定手段は、前記人検知手段が人を検知していると判定した」場合、この「判定」がエンジンの始動に関与するものではあるものの、この「判定」によって「掘削、旋回、及び前後進の動作を禁止する」ことが発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(エ)さらに、本件明細書等において「判定手段」による「前記検知手段が前記障害物を検知している」か否かの「判定」の結果は、「エンジン始動の許可条件」として使用されることのみが記載されるものであり、それ以外のことは記載されていないから、「前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知していると判定した場合、掘削、旋回、及び前後進の動作を禁止する」ことが記載ないし示唆されているとはいえない。
ウ 本件発明4について
(ア)本件発明4には、「前記判定手段は、電源オンの後に、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」と記載されている。
(イ)しかし、キースイッチ4の選択位置がオフを経由してオンとされた状態には、ショベル60内の電源はオンとされるところ(段落【0016】)、発明の詳細な説明に記載された課題解決手段において、「前記判定手段」が「前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」のは、「キースイッチ4の選択位置」が「スタート」とされたときであって、キースイッチ4の選択位置がオフを経由してオンとされて電源がオンとなった状態において「前記判定手段は、電源オンの後に、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」ことは、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、また、それによって発明の課題が解決される前提となるものでもないから、本件発明4の上記構成は、それにより、発明の課題を解決できると認識できるものではない。
エ 本件発明2、5~8について
本件発明2、5~8についても、上記ア~ウに示した本件発明1、3、4の構成を有するから、同様の取消理由を有する。
(5)サポート要件についての小括
本件発明1~8に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 理由2.(新規性)、及び、理由3.(進歩性)について
(1)分割の適否
ア 原出願の記載
(ア)原出願の当初明細書等の記載
本件特許の原出願である特願2018-191259号(以下「原出願」という。)の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」といい、特許請求の範囲、図面とあわせて「当初明細書等」という。)には、段落【0006】を除いて本件明細書と同様の内容が記載され、当初明細書等の図1~7には、本件特許の図1~7と同様の図が示されている。
当初明細書等の特許請求の範囲及び当初明細書の段落【0006】は以下のとおりである。
「【請求項1】
下部走行体と、該下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、該上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントを含んで構成されるショベルであって、
前記上部旋回体に備えられ、前記ショベルの周辺の所定範囲内の障害物を検知する検知手段と、
油圧アクチュエータが動かされる前に、前記検知手段が障害物を検知したか否かを所定の制御周期毎に判定するコントローラと、を有する、
ショベル。
【請求項2】
前記コントローラは、前記検知手段が障害物を検知した場合、操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータを動作させない、
請求項1記載のショベル。
【請求項3】 前記コントローラは、前記検知手段の出力に基づいて前記所定範囲内に人有りの状態であるか否かを判定する、
請求項1又は2に記載のショベル。
【請求項4】
前記コントローラは、前記油圧アクチュエータと該油圧アクチュエータを操作する操作部との間が油圧ロック状態であるか否かに応じて、エンジンを始動させるか否かを決める、
請求項1乃至3の何れかに記載のショベル。
【請求項5】
前記検知手段は、前記上部旋回体に設けられるステレオカメラに基づいて障害物を検知し、
前記ステレオカメラは、前記上部旋回体に2つ以上設けられる、
請求項1乃至4の何れかに記載のショベル。
【請求項6】
前記ステレオカメラは、前記上部旋回体の上面より上に設けられる、
請求項5に記載のショベル。
【請求項7】
前記ショベルの周囲への警笛を備える、
請求項1乃至6のいずれかに記載のショベル。」
「【0006】 本発明の実施形態に係るショベルは、下部走行体と、該下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、該上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントを含んで構成されるショベルであって、前記上部旋回体に備えられ、前記ショベルの周辺の所定範囲内の障害物を検知する検知手段と、油圧アクチュエータが動かされる前に、前記検知手段が障害物を検知したか否かを所定の制御周期毎に判定するコントローラと、を有する。」
(イ)原出願の分割直前の明細書等の記載
原出願の令和元年12月12日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書段落【0006】の記載(以下、令和元年12月12日付け手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面を「分割直前明細書等」という。)は以下のとおりである。なお、図面の補正はされていない。
「【請求項1】
下部走行体と、該下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、該上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントを含んで構成されるショベルであって、
前記上部旋回体に備えられ、前記ショベルの周辺の所定範囲内の障害物を検知する検知手段と、
全ての油圧アクチュエータが動作していない状態で、前記検知手段が障害物を検知したか否かを判定するコントローラと、を有する、
ショベル。
【請求項2】
前記検知手段が障害物を検知した場合、操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない、
請求項1記載のショベル。
【請求項3】
前記コントローラは、前記検知手段の出力に基づいて前記所定範囲内に人有りの状態であるか否かを判定する、
請求項1又は2に記載のショベル。
【請求項4】
前記コントローラは、前記油圧アクチュエータと該油圧アクチュエータを操作する操作部との間の油圧回路が遮断されているか否かに応じて、エンジンの始動の許否を判定する、
請求項1乃至3の何れかに記載のショベル。
【請求項5】
前記検知手段は、前記上部旋回体に設けられるステレオカメラに基づいて障害物を検知し、
前記ステレオカメラは、前記上部旋回体に2つ以上設けられる、
請求項1乃至4の何れかに記載のショベル。
【請求項6】
前記ステレオカメラは、前記上部旋回体の上面に設けられる、
請求項5に記載のショベル。
【請求項7】
前記ショベルの周囲への警笛を備える、
請求項1乃至6のいずれかに記載のショベル。」
「【0006】
本発明の実施形態に係るショベルは、下部走行体と、該下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、該上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントを含んで構成されるショベルであって、前記上部旋回体に備えられ、前記ショベルの周辺の所定範囲内の障害物を検知する検知手段と、全ての油圧アクチュエータが動作していない状態で、前記検知手段が障害物を検知したか否かを判定するコントローラと、を有する。」
イ 分割の適法性について
上記アより、本件発明1~8について、原出願の当初明細書等及び分割直前明細書等と対比すると、上記第3の1において、本件明細書との関係でサポート要件違反を検討したことと同様のことがいえる。
すなわち、本件発明1~8は、「油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合」及び「前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合」と、エンジン始動の許可条件との関係が特定されないため、エンジン始動制御に関わらず、これらの「場合」において、「前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」ものをも含む範囲に拡張されたものとなった。
しかし、上記のような例を含む、エンジン始動の許可条件との関係が特定されない「油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合」及び「前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合」の「判定」については、原出願の当初明細書等及び分割直前明細書等に記載も示唆もされておらず、当該事項が技術常識であるともいえない。
したがって、本件発明1~8は、原出願の一部を新たな特許出願としたものではなく、本件特許出願は原出願の時にしたものとみなすことができない。
以上のとおりであるから、本件特許の出願日は、現実の出願日である令和元年12月12日である。
(2)引用文献について
ア 申立人Aにより提出された甲第1号証
上記(1)において検討したとおり、本件特許の出願日は、現実の出願日である令和元年12月12日であり、本件特許の分割出願に係る最先の出願の公開公報である特開2014-173258号公報(申立人Aにより提出された甲第1号証、以下「甲A1」という。)は、令和元年12月12日において公知の刊行物である。
(ア)記載事項
甲A1には、本件明細書の実施例1、実施例2と略同内容が記載され、また、本件図面の図1~7と同じ図が示されている。
そして、図2及び図3からは、カメラ2L及びカメラ2Rが、上部旋回体63におけるエンジンフードの側方に配置されることが看取される。
また、図3からは、カメラ2L、2R、2Bが撮像する上部旋回体63の左側面、右側面及び後面の所定範囲CL、CR、CBの扇形の中心角が180度未満であることが看取される。
さらに、図7からは、S3の「人有り?」のステップの後、「人有り?」の結果がNoの場合にS6の「油圧ロック状態?」のステップに進み、「油圧ロック状態?」の結果がYesの場合にS4の「エンジン始動許可」のステップに進むことが理解できる。
(イ)甲A1発明
上記(ア)より、甲A1には、次の発明(以下、「甲A1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲A1発明>
「下部走行体61と、該下部走行体61の上に旋回自在に搭載される上部旋回体63と、該上部旋回体63の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントEと、
それぞれが油圧ポンプからのパイロット圧を油圧回路が送り込むことで動作する切削用、旋回用、及び前後進用の油圧アクチュエータを含み、
上部旋回体63は、その左側面、右側面及び後面に中心角が180度未満である扇形状の所定範囲(CL、CR、CB)を撮像するカメラ2(カメラ2L、カメラ2R、カメラ2B)を備え、
カメラ2L及びカメラ2Rが、上部旋回体63におけるエンジンフードの側方に配置され、
建設機械(ショベル)の始動許可装置11は、カメラ2と、エンジン3をキースイッチ4の選択位置(スタート、オン、オフ)に基づいて制御するコントローラ5とを含んで構成され、コントローラ5は人検知手段5a、始動手段5b、判定手段5c、許可手段5dを構成し、人検知手段5aは、カメラ2からの入力画像に画像処理を行い、前記ショベル60の周辺の所定範囲内の人を検知し、判定手段5cは、人検知手段5aが人を検知するか否かを判定し、
始動許可装置11が含むコントローラ5の制御内容は、
キースイッチ4の選択位置がスタートであるか否かの判定において肯定と判定された後において、
判定手段5cにより所定範囲CL、CR、CBに人がいるか否かが判定され、
判定手段5cにより否定と判定されると、その後、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」であるか否かが判定され、
油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」であると判定される場合には、許可手段5dにより、エンジン3の始動が許可され、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」でないと判定される場合にはエンジン3の始動を不許可とするものであり、
「油圧ロック状態」においては、ショベル60内の油圧回路内に設けられたシャット弁が、キャビン64内の操作レバーと油圧アクチュエータとの間の油圧回路を遮断するので、操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない状態となり、「油圧ロック解除状態」においては、シャット弁はキャビン64内の操作レバーと油圧アクチュエータとの間の油圧回路を連通させるので、操作レバーをオペレーターが操作した場合に対応する油圧アクチュエータは動作される状態となり、
人を検知する手法は、ステレオカメラを用いた立体物検出の手法、レーザレーダ、又は単眼タイプのカメラを用いることも可能である、
ショベル。」
イ 申立人Bにより提出された甲第9号証
(ア)記載事項
実願昭63-51427号(実開平1-156256号)のマイクロフィルム(申立人Bにより提出された甲第9号証、以下「甲B9」という。)には、次の記載がある。(下線は当審において付した。以下同様。)
a 2頁2行~6行
「従来の技術
第3図は、建設機械のうち、油圧ショベルの側面図である。図において、1は下部走行体、2は上部旋回体、3は上部旋回体2の運転室、4は運転室3内に設けられた警報器である。」
b 5頁2行~15行
「第1図は、この考案にかかる安全装置7を装備した油圧ショベルの平面視図である。図において、8は上部旋回体、9,10は上部旋回体8の左側部に取付けたそれぞれ障害物センサ、11,12は右側部に取付けた障害物センサ、14は運転室13内に設けた警報器、15,16は上部旋回体8外周部に設けたそれぞれ警報器、17はエンジン、イ,ロ,ハ,ニは障害物センサ9,10,11,12のそれぞれ信号範囲(検出信号範囲のこと)、Rは上部旋回体8の後端旋回半径である。第2図は、この考案にかかる安全装置7の警報装置18用電気回路図である。図において、19はキースイッチ、20は電源、21はコントローラ部である。」
c 5頁19行~7頁5行
「また、エンジン17のキースイッチ19を投入したときに警報装置18の電気回路を通電可能とするとともに、障害物センサ9,10,11,12の検出信号範囲イ,ロ,ハ,ニ内に障害物が存在するとき上部旋回体8および運転室13内の、すべて警報器15,16,14より警報を発生可能に設定して、構成した。
次に、この考案にかかる安全装置7の作動機能について述べる。エンジン17のキースイッチ19を投入したときに警報装置18の電気回路を通電可能としたので、油圧ショベルが旋回作業を行っているときでなく、キースイッチ19を投入している間には警報装置18の作動が可能である。キースイッチ19を投入した状態のときに、障害物センサ9,~,12の信号範囲イ,~,ニ内に人,動物などの障害物が立入ると、障害物センサ9,~,12のうちいずれかがその障害物を検知する。検知した障害物センサからの検出信号がコントローラ部21に出力する。そこで上記検出信号に基づき、コントローラ部21に接続されている警報器14,15,16はすべて警報を発生する。それにより、運転室13内の運転者は警報器14の警報により障害物の信号範囲内立入を認知し、また立入った人,動物などは警報器15,16の警報により信号範囲内からの立退きを促がされる。」
d 8頁4行~11行
「したがって、この考案にかかる安全装置では、エンジンのキースイッチを投入状態にしておくと、障害物が障害物センサの信号範囲内に立入ったときに、運転者は運転室内の警報器の警報により障害物立入を認知し、また立入った人,動物などは上部旋回体外周部に設けた警報器の警報により退出を促がされる。上記のようにして、建設機械の安全機能が向上する。」
e 第1図、第3図は以下のとおり。
第1図
「
[図:0001429965000008.jpg]
」
第3図
「
[図:0001429965000009.jpg]
」
(イ)図面から看取できる事項
a 上記(ア)eの第1図及び第3図より、油圧ショベルは上部旋回体8の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントを含むことが看取できる。
b 上記(ア)bの記載を踏まえると、上記(ア)eの第1図より、障害物センサ9,10の信号範囲イ,ロは油圧ショベルの左側の所定範囲であり、障害物センサ11,12の信号範囲ハ,ニは油圧ショベルの右側の所定範囲であることが看取できる。
c 上記(ア)bの記載を踏まえると、上記(ア)eの第1図より、障害物センサ9,~,12の信号範囲イ,~,ニのそれぞれの信号範囲の左側の境界と右側の境界との間の角度は、180度未満であることが看取できる。
d 上記(ア)eの第3図より、油圧ショベルの上部旋回体がエンジンフードを有することが看取でき、さらに上記(ア)eの第1図より、エンジン17の側方に障害物センサ10,12が配置されていることが看取できる。
(ウ)甲B9に記載された発明
上記(ア)及び(イ)より、甲B9には、次の発明(以下「甲B9発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲B9発明>
「下部走行体1と、(2頁2行~6行)
上部旋回体8と、障害物センサ9,~,12と、コントローラ部21と、(5頁2行~15行)
上部旋回体8の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントと、(上記イ(ア))
を含んで構成される油圧ショベルであって、(5頁2行~15行)
キースイッチ19を投入した状態のときに、障害物センサ9,~,12の信号範囲イ,~,ニ内に人などの障害物が立入ると、障害物センサ9,~,12のうちいずれかがその障害物を検知し、検知した障害物センサからの検出信号がコントローラ部21に出力し、そこで上記検出信号に基づき、コントローラ部21に接続されている警報器14,15,16はすべて警報を発生し、(5頁19行~7頁5行)
エンジン17のキースイッチ19を投入したときに警報装置18の電気回路を通電可能としたので、油圧ショベルが旋回作業を行っているときでなく、キースイッチ19を投入している間には警報装置18の作動が可能であり、(5頁19行~7頁5行)
エンジンのキースイッチを投入状態にしておくと、障害物が障害物センサの信号範囲内に立入ったときに、運転者は運転室内の警報器の警報により障害物立入を認知し、立入った人は上部旋回体外周部に設けた警報器の警報により退出を促がされ、建設機械の安全機能が向上するものであり、(8頁4行~11行)
障害物センサ9,10の検出範囲イ,ロは油圧ショベルの左側の所定範囲であり、障害物センサ11,12の検出範囲ハ,ニは油圧ショベルの右側の所定範囲であり、(上記(イ)b)
障害物センサ9,~,12の信号範囲イ,~,ニのそれぞれの信号範囲の左側の境界と右側の境界との間の角度は、180度未満であり、(上記(イ)c)
油圧ショベルの上部旋回体がエンジンフードを有し、エンジン17の側方に障害物センサ10,12が配置されている、(上記(イ)d)
油圧ショベル。」
ウ 申立人Bにより提出された甲第4号証
(ア)記載事項
特開平8-121205号公報(申立人Bにより提出された甲第4号証、以下「甲B4」という。)には、次の記載がある。
a 「【0003】一方、オペレータが降車するときには、オペレータが乗降時に誤って操作具に触れたり、オペレータ以外の者が操作具を悪戯したりしたときに、作業部等の作動部が不意に動き出さないよう配慮する必要がある。そこで従来、各作動部を作動せしめる油圧アクチュエータへの圧油供給を、操作具操作に関係無くロックするためのセーフティロックレバー等のロック操作具を設け、降車するときにはロック状態に操作するようにしていた。」
b 「【0008】
【実施例】次に、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図面において、1は油圧ショベルであって、該油圧ショベル1には、クローラ式の下部走行体2、下部走行体2の上方に旋回自在に支持される上部旋回体3、上部旋回体3の前部に取付けられるブーム4、ブーム4の先端部に取り付けられるアーム5、アーム5の先端部に取付けられるバケット6等の各種の油圧作動部が設けられており、さらに、前記各油圧作動部を作動せしめる油圧アクチュエータとして、左右の走行モータ7L、7R、旋回モータ8、ブームシリンダ9、アームシリンダ10、バケットシリンダ11等の複数の油圧アクチュエータが設けられている。そしてこれらの油圧アクチュエータは、上部旋回体3に搭載されるエンジンEの動力に基づく圧油供給で油圧作動せしめられるが、これらの基本的構成は何れも従来通りである。
【0009】12は前記上部旋回体3に設けられるキャブであって、該キャブ12内には、左右の走行レバー13L、13R、左右のコントロールレバー14L、14R(実施例においては、左側のコントロールレバー14Lがブーム4用およびバケット6用の操作具に構成されており、右側のコントロールレバー14Rがアーム5用および旋回用の操作具に構成されている。)等の各種油圧用操作具の他に、運転席15、モニタパネル16等の運転装置が配設されているが、さらに運転席15の乗降口側の側部には、後述するセーフティロックバルブ17をロック状態-非ロック状態に切換えるためのセーフティロックレバー18が、また前記右側コントロールレバー14Rの頭部には、エンジン回転数を切換えるためのローアイドルスイッチ(本発明の回転数切換え操作具に相当する。)39が設けられているが、このローアイドルスイッチ39は、オペレータが押し操作する毎に後述の制御部40に切換え信号を出力する自動復帰型のスイッチを用いて構成されている。
【0010】一方、前記複数の油圧アクチュエータへの圧油供給について、図3に示す油圧回路図に基づいて説明する。ここで、19、19aは油圧ポンプ、20はパイロットポンプ、21は油タンク、また22、23、24、25、26、27はそれぞれ左走行用、右走行用、ブーム用、バケット用、アーム用、旋回用のパイロットバルブ、さらに28、29、30、31、32、33はそれぞれ左走行用、右走行用、ブーム用、バケット用、アーム用、旋回用のコントロールバルブである。そして、前記油圧用操作具(走行レバー13L、13R、コントロールレバー14L、14R)を操作して対応するパイロットバルブ22~27を開成側に切換えることで、パイロットポンプ20からのパイロット圧油がパイロットバルブ22~27を経由してコントロールバルブ28~33のパイロットポートに供給され、該パイロット圧油が供給されたコントロールバルブ28~33が圧油供給側に切換わることで油圧アクチュエータ(左右の走行モータ7L、7R、ブームシリンダ9、バケットシリンダ11、アームシリンダ10、旋回モータ8)の油圧作動が行われるように構成されている。
【0011】さらに、前記パイロットポンプ20からパイロットバルブ22~27に至るパイロット油路には、前記セーフティロックバルブ17が設けられている。このセーフティロックバルブ17には、パイロットポンプ20に接続されるインポート17a、油タンク21に接続されるリターンポート17b、各パイロットバルブ22~27へのパイロット油路に分流する油路に接続されるパイロットバルブ側ポート17cが形成されている。そして、前記セーフティロックレバー18を非ロック位置としたとき、セーフティロックバルブ17は、インポート17aからパイロットバルブ側ポート17cに通じる弁路が開き、かつリターンポート17bが閉じる非ロック状態となり、これによってパイロットポンプ20からのパイロット圧油がパイロットバルブ22~27側に流れて、前記油圧用操作具の操作に基づく油圧アクチュエータの油圧作動が行われるようになっている。
【0012】一方、セーフティロックレバー18をロック位置としたとき、セーフティロックバルブ17は、パイロットバルブ側ポート17cからリターンポート17bに通じる弁路が開くと共にインポート17aが閉じるロック状態となり、これによってパイロットポンプ20からのパイロット圧油が遮断されて、パイロットバルブ22~27側にパイロット圧油が流れないようになっており、而してこのロック状態のときには、油圧用操作具を操作してパイロットバルブ22~27を開いても、パイロット圧油はセーフティロックバルブ17によって遮断されてコントロールバルブ28~33のパイロットポートに供給されず中立状態を維持するようになっている。」
c 「【0015】前記制御部40は、マイクロコンピュータを用いて構成されるものであるが、該制御部40には、エンジン始動するためのスタータスイッチ(始動スイッチ、メインスイッチ)41、前記ローアイドルスイッチ39、ロック検知スイッチ34、パイロットポンプ20からセーフティロックバルブ17に至るパイロット油路に設けられるパイロット圧検知手段42等の各種スイッチ手段、検知手段からの信号が入力されるようになっており、そして制御部40では、これら入力した信号に基づいて、前記ガバナアクチュエータ36、モニタパネル16のエンジン回転数表示部16a等に制御指令を出力するようになっている。尚、図4中、43はバッテリ、44はヒューズである。」
d 「【0018】前記始動時制御においては、まず始動時フラグF1が「0」であるか否かの判断がなされる。そして、始動時フラグF1が「0」のときには始動時であるとみなされ、スタータスイッチ41が始動操作されているか否かが判断される。ここで、スタータスイッチ41が始動操作されていると判断される場合には、次いで、ロック検知スイッチ34からロック検知信号が出力されているか、つまりセーフティロックレバー18がロック位置であるか否かが判断さ
れる。そして、ロック位置であると判断された場合には、制御部40からエンジンEを始動せしめるよう制御指令が出力される。一方、ロック位置でないと判断された場合には、エンジン始動制御は出力されず、メインルーチンに復帰する。」
e 「【0025】叙述のごとく構成された本発明の実施例において、オペレータがエンジンEを駆動させたままの状態で降車するような場合には、セーフティロックレバー18をロック位置にせしめれば、セーフティロックバルブ17がロック状態となってパイロット圧油を遮断し、これによって油圧用操作具を操作しても油圧アクチュエータは作動しないことになって安全性が計れるが、この場合に、前記セーフティロックレバー18をロック位置にすることに基づいて、エ
ンジンEの回転数が自動的にアイドリング時回転数まで低下することになる。
【0026】一方、オペレータが乗車して作業を再開すべくセーフティロックレバー18を非ロック位置に切換えると共に、ローアイドルスイッチ39を押し操作すれば、エンジン回転数は作業時回転数となって通常の圧油作動を行うことができる。また、このようにオペレータが乗車していてセーフティロックレバー18が非ロック位置となっている状態で、ローアイドルスイッチ39を押し操作すれば、エンジン回転数をアイドリング時回転数から作業時回転数に、または作業時回転数からアイドリング時回転数に切換えることができる。
【0027】この結果、オペレータが頻繁に乗降しながら作業を行うような場合に、従来のように降車する毎にいちいちセーフティロックレバー18とローアイドルスイッチ39との両操作具を操作する必要がなくなって、セーフティロックレバー18をロック位置とする操作だけでエンジンも自動的にアイドリング状態となり、操作性が改善されて作業性の向上が計れる。しかもこのものは、油圧式建設機械として必需品であるセーフティロックレバー18を有効に利用してエンジン回転数をアイドリング状態とするものであるから、構造が複雑化してしまうようなことがない。」
(イ)甲B4に記載された技術事項
上記(ア)より、甲B4には次の技術事項(以下「甲B4技術事項」という。)が記載されていると認められる。
<甲B4技術事項>
「油圧ショベル1において、各油圧作動部を作動せしめる油圧アクチュエータとして、左右の走行モータ7L、7R、旋回モータ8、ブームシリンダ9、アームシリンダ10、バケットシリンダ11等の複数の油圧アクチュエータが設けられており、(【0008】)
作業部等の作動部が不意に動き出さないように、操作具操作に関係無くロックするためのセーフティロックレバーを設け、(【0003】)
セーフティロックレバー18は、セーフティロックバルブ17をロック状態-非ロック状態に切換えるためのものであり、(【0009】)
セーフティロックレバー18を非ロック位置としたとき、セーフティロックバルブ17は、非ロック状態となり、これによってパイロットポンプ20からのパイロット圧油がパイロットバルブ22~27側に流れて、前記油圧用操作具の操作に基づく油圧アクチュエータの油圧作動が行われ、(【0011】)
一方、セーフティロックレバー18をロック位置としたとき、セーフティロックバルブ17は、ロック状態となり、油圧用操作具を操作してパイロットバルブ22~27を開いても、パイロット圧油はセーフティロックバルブ17によって遮断されてコントロールバルブ28~33のパイロットポートに供給されず中立状態を維持し、(【0012】)
エンジン始動するためのスタータスイッチ41が始動操作されていると判断される場合には、次いで、ロック検知スイッチ34からロック検知信号が出力されているか、つまりセーフティロックレバー18がロック位置であるか否かが判断され、ロック位置であると判断された場合には、制御部40からエンジンEを始動せしめるよう制御指令が出力され、一方、ロック位置でないと判断された場合には、エンジン始動制御は出力されず、(【0018】)
オペレータがエンジンEを駆動させたままの状態で降車するような場合には、セーフティロックレバー18をロック位置にせしめれば、セーフティロックバルブ17がロック状態となってパイロット圧油を遮断し、これによって油圧用操作具を操作しても油圧アクチュエータは作動しないことになって安全性が計れ、(【0025】)
一方、オペレータが乗車して作業を再開すべくセーフティロックレバー18を非ロック位置に切換えると通常の圧油作動を行うことができること。(【0026】)」
エ 申立人Aにより提出された甲第2号証
(ア)記載事項
特開平6-18661号公報(申立人Aにより提出された甲第2号証、以下「甲A2」という。)には、次の記載がある。
a 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、周囲の外部作業者が旋回台やフロント装置に接触するのを回避する手段を備えた全旋回型バックホウに関するものである。」
b 「【0009】バックホウの周囲で作業を行う外部作業者は、本機に装備された前記超音波センサーS1~S4からの捜査用超音波信号を受信すると返信用超音波信号を送信する送受信器19を携帯している。この送受信器19からの返信用超音波信号は、第1の超音波センサーS1からの捜査用超音波信号(周波数f1、周期T1)に対しては、異なった周波数f5で同一の周期T1の返信用超音波信号を送信し、又、第2の超音波センサーS2からの捜査用超音波信号(周波数f2、周期T2)に対しては、異なった周波数f6で同一の周期T2の返信用超音波信号を送信し、第3の超音波センサーS3からの捜査用超音波信号(周波数f3、周期T3)に対しては、異なった周波数f7で同一の周期T3の返信用超音波信号を送信し、又、第4の超音波センサーS4からの捜査用超音波信号(周波数f4、周期T4)に対しては、異なった周波数f8で同一の周期T4の返信用超音波信号を送信するよう構成されている。図3に示すように、前記超音波センサーS1~S4は侵入検知機構20に接続されている。この侵入検知装置20は、捜査用超音波信号の発信時間と返信用超音波信号の受信時間とに基づいて各超音波センサーS1~S4から送受信器16までの各距離を演算する演算回路21、演算した距離が侵入阻止エリアA1~A4に含まれるかどうかを判別する判別回路22を備えており、いずれかのエリアに侵入があることが検知されると警報機構25が作動するとともに、作業停止機構23が作動するように構成されている。この作業停止機構23は、図5に示すように、前記パイロット操作弁PV1ないしパイロット操作弁PV4にパイロット圧を供給する油路中に設けた電磁式のアンロード弁24をアンロード作動させることでパイロット操作弁PV1およびパイロット操作弁PV2へのパイロット圧を遮断して、旋回作動(又はスイング作動)およびフロント装置4の作動を不能にするように構成されている。」
c 図2は以下のとおり。
【図2】
「
[図:0001429965000010.jpg]
」
(イ)図面から看取できる事項
上記(ア)bの記載を踏まえると、上記(ア)cの図2より、前記超音波センサーS3により、バックホウの後方の侵入阻止エリアA3の侵入検知を行うことが看取できる。
オ 申立人Bにより提出された甲第2号証
(ア)記載事項
特開2010-198519号公報(申立人Bにより提出された甲第2号証、以下「甲B2」という。)には、次の記載がある。
a 「【0020】
本発明を用いた作業機械用周辺監視装置の例を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0021】
作業機械の一例である油圧ショベルの概観を図1に示す。油圧ショベルは、垂直方向にそれぞれ回動するブーム1a,アーム1b及びバケット1cからなる多関節型のフロント作業機1Aと、上部旋回体1d及び下部走行体1eからなる車体1Bとで構成される。上部旋回体1dには、運転室1fが備えられている。フロント作業機1Aのブーム1aの基端は上部旋回体1dの前部に支持されている。ブーム1a,アーム1b,バケット1c,上部旋回体1d及び下部走行体1eはそれぞれブームシリンダ3a,アームシリンダ3b,バケットシリンダ3c,旋回モータ3d(図1には図示しない)及び左右の走行モータ3e,3f(図示しない)の各アクチュエータによりそれぞれ駆動される。また、ブーム1a,アーム1b,バケット1c,上部旋回体1dは、それぞれの回動角を検出する角度検出器8a,8b,8c,8dを備える。更に、機械の後方にカメラ13aを設置して後方シーンを撮影し、ミリ波レーダ(距離センサ)14aを設置して機械後方から障害物までの距離を計測する。また、機械の右側方にカメラ13bを設置して右側方シーンを撮影し、距離センサ14b(図示しない)を設置して機械右側方から障害物までの距離を計測する。」
b 「【0023】
ある時間1701において、カメラ13aはシーンを撮影し、機械が掘削を開始1702すると障害物検知手段600が撮影したシーンを用いて画像処理1706を行い、掘削作業中1703の障害物の有無を検知する。一方、ミリ波レーダ14aは、機械の作業中は常時センシング1712を行っている。そこで、掘削作業中1703は、画像処理した結果1706である障害物有無と障害物の種別(人物か人物以外)、及び、ミリ波レーダ14aの障害物の距離データを統合(フュージョン)して、障害物有無と種別と障害物までの距離データの結果を出力1707する。運転員は、この結果をモニタや音声で確認し、操作変更時(後進や旋回等)に変更方向の周囲の危険度を確認しながら機械の操作を行う。
【0024】
いま、右側方の動作位置範囲内に人物が存在してフロント作業機を右旋回1704(フロント作業機1Aの信号1708、及び、カメラ画像を用いたオプティカルフロー1709で確認)した場合、人物と接触する可能性が高いので、接触を回避する制御1710としてフロント作業機を停止して、人物の安全を確保することを行う。また、右側方の動作位置範囲内に物体が存在した場合、接触を回避する制御1710としてフロント作業機1Aをゆっくり操作する。この時、接触回避制御の後は、カメラ13aの撮影シーンを用いた障害物検知手段600も停止させ、掘削開始時に再開してもよい。
【0025】
一方、後方の移動動範囲内に人物が存在して下部走行体が後進1705した場合、人物と接触する可能性が高いので、接触を回避する制御1711として下部走行体の移動を停止して、人物の安全を確保することを行う。」
c 「【0037】
図7は障害物検知手段600の内部の例を示す説明図である。画像入力部200はカメラ13aの撮影シーンを入力し、背景画像作成部210が基準となる背景画像(直前画像やnフレーム前の入力画像や自動生成した正常な画像等)を作成する。振動補正部220は、背景画像作成部210の背景画像と画像入力部200の画像を比較して、大部分の画面で画素毎の差分が閾値以上になる場合を振動発生ありとして、オプティカルフロー処理等で移動量を算出して補正する。振動補正部220で画像間のずれを補正した後、画素毎の差分画像作成部230が画素毎の差分画像を作成する。変化領域抽出部240は、画素毎の差分画像作成部230で作成した差分画像を所定の閾値(7~15程度)未満を0とし、それ以上の場合を1以上にする2値化処理を行って障害物の変化領域を抽出する。変化領域を抽出したか否かの判定250は、変化領域抽出部240が1以上になった領域のうち面積が所定の閾値(カメラの近くは大きく、遠方は小さく50~200程度)以上ある塊を抽出して障害物の領域とし、抽出されない場合は障害物の領域無しとして障害物無し260とする。
【0038】
一方、変化領域を抽出したか否かの判定250が障害物の領域を抽出した場合、特徴算出部270は障害物の特徴として、縦横比、また、抽出領域を頭部,胴体部,下部に3分割してそれぞれの輪郭形状等を算出する。人物の特徴か否かの判定280は、特徴算出部270が算出した特徴量の縦横比が縦長であり、抽出領域の頭部は扇型の輪郭で、胴体部のうち肩部は斜め輪郭で胴体部は縦輪郭で、下部に逆V字の輪郭や縦輪郭等の特徴を用いて、これらの特徴が複数存在する場合は人物とし、これら特徴が1個以下しか存在しない場合を人物以外と判定する。人物の特徴か否かの判定280で人物特徴が複数ありと判定した場合、人物あり300と決定し、人物特徴が1個以下しか存在しない場合は、人物以外の障害物あり290と決定する。」
カ 申立人Bにより提出された甲第1号証
(ア)記載事項
特開2011-17258号公報(申立人Bにより提出された甲第1号証、以下「甲B1」という。)には、次の記載がある。
a 「【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る建設車両の一例としての油圧ショベル1は、履帯を駆動して走行する走行体2と、油圧ショベル1の本体(車両本体)であって走行体2に旋回自在に結合している旋回体3と、旋回体3の前部の略中央に設けられたフロント作業装置7とを有する。」
b 「【0020】
図2に示すエンジン14はディーゼルエンジンであり、可変容量型油圧ポンプ15を駆動する。この可変容量型油圧ポンプ15は、前出の走行体2の駆動源である不図示の左走行モータ(油圧モータ)および右走行モータ(油圧モータ)と、旋回体3の駆動源である不図示の旋回モータ(油圧モータ)と、ブーム8を駆動するブームシリンダ11(油圧シリンダ)と、アーム9を駆動するアームシリンダ12(油圧シリンダ)と、バケット10を駆動するバケットシリンダ13(油圧シリンダ)とを駆動するための圧油を吐出するメインポンプである。」
c 「【0030】
パイロットポンプから左走行操作レバー装置16、右走行操作レバー装置17、旋回・アーム操作レバー装置18およびブーム・バケット操作レバー装置19Dのそれぞれに圧油を導くパイロット管路の始端部には、パイロットポンプから左走行操作レバー装置16への圧油、パイロットポンプから右走行操作レバー装置17への圧油、パイロットポンプから旋回・アーム操作レバー装置18への圧油、および、ブーム・バケット操作レバー装置19Dへの圧油をまとめて遮断する不図示のロックバルブが設けられている。このロックバルブ20は、運転室4内に設けられたゲートロックレバー21の姿勢に連動して、圧油を遮断する弁位置と、連通させる弁位置とに切り換わる。」
d 「【0036】
前出の左走行操作レバー装置16において、パイロット圧生成部16bには、ペダル付操作レバー16aの前方向への傾倒操作により生成されたパイロット圧をパイロット圧信号(電気信号)に変換して出力するパイロット圧センサ61A(圧力センサ)と、ペダル付操作レバー16aの後方向への傾倒操作により生成されたパイロット圧をパイロット圧信号に変換して出力するパイロット圧センサ61Bとが設けられている。これと同様に、右走行操作レバー装置17において、パイロット圧生成部17bには、ペダル付操作レバー17aの前方向の傾倒操作により生成されたパイロット圧をパイロット圧信号に変換して出力するパイロット圧センサ62Aと、ペダル付操作レバー71aの後方向への傾倒操作により生成されたパイロット圧をパイロット圧信号に変換して出力するパイロット圧センサ62Bとが設けられている。パイロット圧センサ61A,61B,62A,62Bのそれぞれから出力されたパイロット圧信号はいずれもコントローラ50に入力されるようになっている。
【0037】
また、旋回・アーム操作レバー装置18において、パイロット圧生成部18bには、操作レバー18aの前方向への傾倒操作により生成されたパイロット圧をパイロット圧信号に変換して出力するパイロット圧センサ63Aと、操作レバー18aの後方向への傾倒操作により生成されたパイロット圧をパイロット圧信号に変換して出力するパイロット圧センサ63Bと、操作レバー18aの左方向への傾倒操作により生成されたパイロット圧をパイロット圧信号に変換して出力するパイロット圧センサ63Cと、操作レバー18aの右方向への傾倒操作により生成されたパイロット圧をパイロット圧信号に変換して出力するパイロット圧センサ63Dとが設けられている。これらのパイロット圧センサ63A~63Dのそれぞれから出力されたパイロット圧信号はいずれもコントローラ50に入力されるようになっている。
【0038】
これと同様に、ブーム・バケット操作レバー装置19Dにおいて、パイロット圧生成部19bには、操作レバー19aの前方向への傾倒操作により生成されたパイロット圧をパイロット圧信号に変換して出力するパイロット圧センサ64Aと、操作レバー19aの後方向への傾倒操作により生成されたパイロット圧をパイロット圧信号に変換して出力するパイロット圧センサ64Bと、操作レバー19aの左方向への傾倒操作により生成されたパイロット圧をパイロット圧信号に変換して出力するパイロット圧センサ64Cと、操作レバー19aの右方向への傾倒操作により生成されたパイロット圧をパイロット圧信号に変換して出力するパイロット圧センサ64Dとが設けられている。これらのパイロット圧センサ64A~64Dのそれぞれから出力されたパイロット圧信号はいずれもコントローラ50に入力されるようになっている。
【0039】
前出のゲートロックレバー21にはロック検知スイッチ65が付設されている。このロック検知スイッチ65は、ゲートロックレバー21がパイロットポンプから操作レバー装置16~19への圧油を遮断する姿勢になったこと、すなわち作動状態になったこと連動して、ロック検知信号(電気信号)を出力するようになっている。ロック検知信号もコントローラ50に入力されるようになっている。」
e 「【0042】
図3,4に示すように、旋回体3内にはエンジン14が格納され設置されている。エンジン14の上方には、旋回体3に対して固定された板状の台部70が設けられている。排気後処理装置31は、旋回体3の上面を形成している上板部6aの下方で、その上板部6aに近接して位置するとともに、台部70の上方に位置する。台部70には2つの取付部材71,72が起立してネジ止めされている。取付部材71には円弧状の凹部71aが形成されていて、取付部材72にも同様の凹部が形成されている。排気後処理装置31の円筒状のケース31cはそれらの凹部71a等の両方に嵌め込まれた状態で、不図示の締結具により台部70に固定されている。エンジン14および排気後処理装置31の後方には、カウンタウェイト5が位置している。
【0043】
排気後処理装置31の下流側からは、排気管30の終端部30aが導出されている。この排気管30の終端部30aは、上板部6aを上方向に貫通して延びていて、後方向に開口した排気口30bを有する。
【0044】
排気口30bの排気方向の下流側(後方)に位置する旋回体3の部分、すなわちカウンタウェイト5の上面を形成している板部5aには、物体の存在を感知する物体感知手段としての感知センサ80がネジ止めにより取り付けられている。この感知センサ80の感知領域は排気口30bの後方で排気口30b近傍の所定領域を含む。この所定領域とは、排気フィルタ31aの再生時に排気口30bから吐き出される熱気が、枯葉等の可燃物の発火点よりも低い温度に冷却されていない領域として設定されたものである。
【0045】
さらに、感知センサ80とは別の感知センサ81が、台部70にネジ止めにより取り付けられている。この感知センサ81の感知領域は、台部70と排気後処理装置31との間に形成された隙間73を含む。上板部6aは旋回体3に対して開閉可能に設けられていて、上板部6aを開けることによって排気後処理装置31等の機械室6内のエンジン14周辺の機器(不図示)に対するメンテナンスが可能になる。隙間73には、機械室6内にエンジン14の吸気を取り込むために設けた開口部(不図示)や、排気管30が挿通されている上板部6aの貫通孔から、枯葉等の可燃物から成るゴミが入り、隙間73に留まるおそれがある。
【0046】
感知センサ80,81はいずれも、物体を感知したときに感知信号を出力するようになっている。これらの感知信号はコントローラ50に入力されるようになっている。」
f 「【0048】
自動再生モードに係る処理ついて図2,図5および図6を用いて説明する。
【0049】
図5に示す処理を行う際、はじめに、コントローラ50は作業一時中断状態判定手段53として機能する。この作業一時中断状態判定手段53としてのコントローラ50は、パイロット圧センサ61A,61B,62A,62B,63A~63D,64A~64Dのそれぞれから出力されたパイロット圧信号を全て入力し、それらのパイロット圧信号に示されたパイロット圧が全て最低値(タンク圧)であるか、すなわち、全ての操作レバー16a~19aの中立状態が検知された状態かを判定する(図5中のステップS1)。これにより、油圧ショベル1の作業が一時的に中断されているかどうかが判定されることになる。
【0050】
油圧ショベル1の作業が一時中断された状態と判定した場合(ステップS1でYES)、コントローラ50は、作業一時中断状態判定手段53と並行して自動再生モードで再生制御手段56として機能する状態に移行する(ステップS2)。その後、全ての操作レバー16a~19aの中立状態が継続している限り、すなわち、油圧ショベル1の作業が一時的に中断されている状態が継続している限り(ステップS3でYES)、コントローラ50は自動再生モードで再生制御手段56として機能する状態を継続する(ステップS3の繰り返し)。
【0051】
コントローラ50は自動再生モードで再生制御手段56として機能する状態に移行した後、操作レバー16a~19aの1つでも操作されると(ステップS3でNO)、すなわち、油圧ショベル1の作業が再開されると、自動再生モードで再生制御手段56として機能する状態を解除し(ステップS4)、ルーチンをステップS1に戻す。
【0052】
自動再生モードでは、図5に示した処理と並行して、図6に示す処理が行われる。
【0053】
図6に示す処理を行う際、はじめに、コントローラ50は目詰まり判定手段52として機能する。この目詰まり判定手段52としてのコントローラ50は、差圧センサ67からの差圧信号に示された差圧、すなわち、排気フィルタ31aの下流側に対する上流側の圧力の高さを示す差圧が、所定値よりも大きいかどうかを判定する(ステップS11)。所定値は、再生制御の必要な目詰まりが生じたときの差圧の値として設定されている。
【0054】
その差圧の値が所定値よりも大きい場合、すなわち、排気フィルタ31aが目詰まりしている場合(ステップS11でYES)、コントローラ50は物体感知判定手段51として機能する。この物体感知判定手段51は、感知センサ80,81のいずれからの感知信号も入力していないかどうか、すなわち感知センサ80,81が物体を感知していない非感知状態であるかどうかを判定する(ステップS12)。
【0055】
感知センサ80,81がいずれも非感知状態であると判定したとき(ステップS12でYES)、コントローラ50は再生制御手段56として機能し、再生制御を開始する(ステップS13)。
【0056】
コントローラ50は再生制御手段56としての機能中、物体感知判定手段51としても並行して機能している。これによって再生制御を行いながら、感知センサ80,81がいずれも非感知状態を継続しているどうかを判定する(ステップS14)。また、再生制御手段56としてのコントローラ50は、再生制御の開始から所定時間が経過したかどうかを判定する(ステップS15)。これによりステップS14,S15は、感知センサ80,81がいずれも非感知状態を継続していれば、所定時間が経過するまでの間繰り返される(ステップS14でYES→ステップS15でNO→ステップS14→・・・)。なお、所定時間は、排気フィルタ31aの目詰まりが解消されるのに十分な時間として設定されている。
【0057】
次に、コントローラ50は、所定時間が経過すると、再生制御を終了し(ステップS16)、ステップS11からのルーチンに戻る。」
g 「【0060】
手動再生モードに係る処理について図2,図7および図8を用いて説明する。
【0061】
図7に示す処理を行う際、はじめに、コントローラ50は非作業状態判定手段54として機能する。このとき、コントローラ50は前述の作業一時中断状態判定手段53と併行して非作業状態判定手段54としての機能する。非作業状態判定手段54としてのコントローラ50は、ロック検知スイッチ65から出力されたロック検知信号を入力したかどうか、すなわちゲートロックレバー21が作動状態になっているかどうかを判定する。(図7中のステップS21)。さらに非作業状態判定手段54としてのコントローラ50は、ECダイヤル装置22から出力された回転数指令信号が、予め設定された回転数よりも低くい範囲の低回転数を示している低回転数指令状態であるかどうかを判定する(同じくステップS21)。これらの判定によって、エンジン14は動作しているものの、左走行操作レバー装置16、右走行操作レバー装置17、旋回・アーム操作レバー装置18およびブーム・バケット操作レバー装置19のいずれを操作しても油圧ショベル1が動作しない非作業状態かどうかが判定されることになる。
【0062】
油圧ショベル1が非作業状態にあると判定した場合(ステップS21でYES)、コントローラ50は非作業状態判定手段54と並行して手動再生モードで再生制御手段56として機能する状態に移行する(ステップS22)。その後、油圧ショベル1の非作業状態が継続している限り(ステップS23でYES)、コントローラ50は手動再生モードで再生制御手段56として機能する状態を継続する(ステップS23の繰り返し)。
【0063】
コントローラ50は手動再生モードで再生制御手段56として機能する状態に移行した後、ロック検知スイッチ65からのロック検知信号が途絶えるか、ECダイヤル装置22からの回転数指令信号が低回転数指令状態でなくなるかすると、すなわち油圧ショベル1が非作業状態でなくなると(ステップS23でNO)、手動再生モードで再生制御手段56として機能する状態を解除し(ステップS24)、ルーチンをステップS1に戻す。
【0064】
手段再生モードでは(当審注:「手段再生モード」は「手動再生モード」の誤記と認める。)、図7に示した処理と並行して、図8に示す処理が行われる。
【0065】
図8に示す処理を行う際、はじめに、コントローラ50は再生指令判定手段55として機能する。この再生指令判定手段55としてのコントローラ50は、再生指令装置66から出力された再生指令信号を入力したかどうか、すなわち再生開始が指令されたかどうかを判定する(ステップS31)。
【0066】
再生開始が指令されたと判定した場合(ステップS31でYES)、コントローラ50は物体感知判定手段51として機能する。この物体感知判定手段51は、感知センサ80,81のいずれからの感知信号も入力していないかどうか、すなわち感知センサ80,81が物体を感知していない非感知状態であるかどうかを判定する(ステップS32)。
【0067】
感知センサ80,81がいずれも非感知状態であると判定したとき(ステップS32でYES)、コントローラ50は再生制御手段56として機能し、再生制御を開始する(ステップS33)。
【0068】
コントローラ50は再生制御手段56としての機能中、物体感知判定手段51としても並行して機能している。これによって再生制御を行いながら、感知センサ80,81がいずれも非感知状態を継続しているどうかを判定する(ステップS34)。また、再生制御手段56としてのコントローラ50は、再生制御の開始から所定時間が経過したかどうかを判定する(ステップS35)。これによりステップS34,S35は、感知センサ80,81がいずれも非感知状態を継続していれば、所定時間が経過するまでの間繰り返される(ステップS34でYES→ステップS35でNO→ステップS34→・・・)。なお、所定時間は、自動再生モードの説明でも述べたように、排気フィルタ31aの目詰まりが解消されるのに十分な時間として設定されている。
【0069】
次に、コントローラ50は、所定時間が経過すると、再生制御を終了する(ステップS36)。」
h 図1は以下のとおり。
【図1】
「
[図:0001429965000011.jpg]
」
(イ)甲B1に記載された発明
上記(ア)より、甲B1には、次の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲B1発明>
「履帯を駆動して走行する走行体2と、油圧ショベル1の本体であって走行体2に旋回自在に結合している旋回体3と、旋回体3の前部の略中央に設けられたフロント作業装置7とを有する油圧ショベル1であって、(【0017】)
走行体2の駆動源である左走行モータ(油圧モータ)および右走行モータ(油圧モータ)と、旋回体3の駆動源である旋回モータ(油圧モータ)と、ブーム8を駆動するブームシリンダ11(油圧シリンダ)と、アーム9を駆動するアームシリンダ12(油圧シリンダ)と、バケット10を駆動するバケットシリンダ13(油圧シリンダ)とを備え、(【0020】)
パイロットポンプから左走行操作レバー装置16への圧油、パイロットポンプから右走行操作レバー装置17への圧油、パイロットポンプから旋回・アーム操作レバー装置18への圧油、および、ブーム・バケット操作レバー装置19Dへの圧油をまとめて遮断するロックバルブが設けられ、このロックバルブ20は、運転室4内に設けられたゲートロックレバー21の姿勢に連動して、圧油を遮断する弁位置と、連通させる弁位置とに切り換わり、(【0030】)
ゲートロックレバー21にはロック検知スイッチ65が付設され、このロック検知スイッチ65は、ゲートロックレバー21がパイロットポンプから操作レバー装置16~19への圧油を遮断する姿勢になったこと、すなわち作動状態になったこと連動して、ロック検知信号(電気信号)を出力し、(【0039】)
排気管30の終端部30aは、上板部6aを上方向に貫通して延びていて、後方向に開口した排気口30bを有し、排気口30bの排気方向の後方に位置する旋回体3の部分を形成している板部5aには、物体の存在を感知する物体感知手段としての感知センサ80がネジ止めにより取り付けられており、感知センサ80の感知領域は排気口30bの後方で排気口30b近傍の所定領域を含み、(【0043】、【0044】)
自動再生モードに係る処理において、(【0048】)
コントローラ50は作業一時中断状態判定手段53として機能し、パイロット圧センサ61A,61B,62A,62B,63A~63D,64A~64Dのそれぞれから出力されたパイロット圧信号を全て入力し、それらのパイロット圧信号に示されたパイロット圧が全て最低値(タンク圧)であるか、すなわち、全ての操作レバー16a~19aの中立状態が検知された状態かを判定し、(【0049】)
油圧ショベル1の作業が一時中断された状態と判定した場合、コントローラ50は、作業一時中断状態判定手段53と並行して自動再生モードで再生制御手段56として機能する状態に移行し、その後、全ての操作レバー16a~19aの中立状態が継続している限り、すなわち、油圧ショベル1の作業が一時的に中断されている状態が継続している限り、コントローラ50は自動再生モードで再生制御手段56として機能する状態を継続し、(【0050】)
コントローラ50は自動再生モードで再生制御手段56として機能する状態に移行した後、操作レバー16a~19aの1つでも操作されると、すなわち、油圧ショベル1の作業が再開されると、自動再生モードで再生制御手段56として機能する状態を解除し、(【0051】)
自動再生モードでは、コントローラ50は物体感知判定手段51として機能し、感知センサ80,81のいずれからの感知信号も入力していないかどうか、すなわち感知センサ80,81が物体を感知していない非感知状態であるかどうかを判定し、(【0052】、【0054】)
手動再生モードに係る処理において、(【0060】)
コントローラ50は非作業状態判定手段54として機能し、このとき、コントローラ50は作業一時中断状態判定手段53と併行して非作業状態判定手段54として機能し、非作業状態判定手段54としてのコントローラ50は、ロック検知スイッチ65から出力されたロック検知信号を入力したかどうか、すなわちゲートロックレバー21が作動状態になっているかどうかを判定することによって 、エンジン14は動作しているものの、左走行操作レバー装置16、右走行操作レバー装置17、旋回・アーム操作レバー装置18およびブーム・バケット操作レバー装置19のいずれを操作しても油圧ショベル1が動作しない非作業状態かどうかが判定され、(【0061】)
油圧ショベル1が非作業状態にあると判定した場合、コントローラ50は非作業状態判定手段54と並行して手動再生モードで再生制御手段56として機能する状態に移行し、その後、油圧ショベル1の非作業状態が継続している限り、コントローラ50は手動再生モードで再生制御手段56として機能する状態を継続し、(【0062】)
コントローラ50は手動再生モードで再生制御手段56として機能する状態に移行した後、ロック検知スイッチ65からのロック検知信号が途絶える、すなわち油圧ショベル1が非作業状態でなくなると、手動再生モードで再生制御手段56として機能する状態を解除し、(【0063】)
手動再生モードでは、コントローラ50は物体感知判定手段51として機能し、感知センサ80,81のいずれからの感知信号も入力していないかどうか、すなわち感知センサ80,81が物体を感知していない非感知状態であるかどうかを判定する、(【0064】、【0066】)
油圧ショベル1。」
キ 引用文献1
(ア)記載事項
特開2008-8188号公報(当審において追加した文献、以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。
a 「【0020】
エンジン6は、一般的な内燃機関として構成された油圧ショベル50の駆動源であり、上部旋回体52における作業装置56の後方に配置されたエンジンルーム57の内部に搭載されている。一方、油圧ポンプ7は、上述の各アクチュエータや油圧走行装置を駆動するための油圧回路へと作動油を供給する油圧供給源であり、エンジン6に直結されている。
【0021】
〔2.エンジン吸排気系統〕
図1に、エンジン6の吸排気系統,油圧ポンプ7によって作動油が供給される油圧回路及びエンジン6の燃焼状態や油圧ポンプ7の作動状態を制御するための制御回路を模式的に示す。この図1に示すように、エンジン6には、吸気通路10a及び排気通路10bが接続されている。吸気通路10a上には、エンジン6の燃焼室へと供給される空気(すなわち吸気)を冷却するためのインタクーラ20が介装されている。また、吸気通路10a上におけるインタクーラ20とエンジン6との間には、吸気温度Tを検出する吸気温度センサ11と、吸気の圧力(吸気圧)Piを検出する吸気圧力センサ16とが設けられている。」
b 図5は以下のとおり。
【図5】
「
[図:0001429965000012.jpg]
」
(イ)図面から看取できる事項
上記(ア)aの記載及び技術常識を踏まえると、上記(ア)bの記載から、エンジン6に接続される排気通路10bの排出口が、ショベルの上部旋回体52における後方右側端部bに設けられることが看取できる。
(3)対比・判断
ア 甲A1発明を主引用発明とする場合
(ア) 本件発明1
a 対比・判断
(a)甲A1発明の「下部走行体61」、「下部走行体61の上に旋回自在に搭載される上部旋回体63」、「上部旋回体63の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントE」、及び「ショベル」は、それぞれ本件発明1の「下部走行体」、「該下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体」、「該上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメント」、及び「ショベル」に相当する。
(b)甲A1発明の「ショベル」に「含んで構成され」る「コントローラ5」の「人検知手段5a」であって、「ショベル60周辺の所定範囲CL、CR、CB内の人を検知」する「人検知手段5a」は、本件発明1の「前記ショベルに搭載され、前記ショベルの周辺の所定範囲内の障害物を検知する検知手段」に相当する。
(c)甲A1発明の「ショベル」に「含んで構成され」る「コントローラ5」の「判定手段5c」であって、「人検知手段5aが人を検知するか否かを判定」する「判定手段5c」は、本件発明1の「前記ショベルに搭載され、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する判定手段」に相当する。
(d)甲A1発明の「ショベル60内の油圧回路内に設けられたシャット弁が、キャビン64内の操作レバーと油圧アクチュエータとの間の油圧回路を遮断するので、操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない状態」である「油圧ロック状態」は、本件発明1の「油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合」に相当し、甲A1発明の「シャット弁はキャビン64内の操作レバーと油圧アクチュエータとの間の油圧回路を連通させるので、操作レバーをオペレーターが操作した場合に対応する油圧アクチュエータは動作される状態」である「油圧ロック解除状態」は、本件発明1の「前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合」に相当する。
(e)甲A1発明では、「判定手段5cにより所定範囲CL、CR、CBに人がいるか否かが判定され、判定手段5cにより否定と判定されると、その後、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」であるか否かが判定され」ることから、「判定手段5c」による「判定」は、「油圧ロック状態」と「油圧ロック解除状態」のいずれの場合であっても行われることが明らかであり、これは、上記(d)も踏まえれば、本件発明1の「油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合、及び、前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合の何れの場合であっても、前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」ことに相当する。
(f)よって、本件発明1と甲A1発明とは、相違点を有しない。
仮に相違点があったとしても、設計事項程度のことである。
b 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲A1に記載された発明である。
また、本件発明1は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)本件発明2
a 対比・判断
甲A1発明の「ショベル」が「切削用、旋回用、及び前後進用の油圧アクチュエータを含」むことは、本件発明2の「掘削用、旋回用、及び前後進用の油圧アクチュエータを更に有する」ことに相当する。
よって、本件発明2と甲A1発明に相違点はない。
仮に相違点があるとしても、設計事項程度のことである。
b 小括
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲A1に記載された発明である。
また、本件発明2は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ウ)本件発明3
a 対比
本件発明3と甲A1発明とは、以下の点で相違し、その他の点で一致する。
<相違点1>
本件発明3は「前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知していると判定した場合、掘削、旋回、及び前後進の動作を禁止する」のに対して、甲A1発明はそのような特定を有しない点。
b 判断
相違点1について検討する。
甲A2(上記(2)エ)及び甲B2(上記(2)オ)に記載されるように、油圧ショベルの分野において、人を検知した際に動作を停止することで安全を確保することは周知技術(以下「周知技術1」という。)であり、甲A1発明において、さらに安全性を高めるべく周知技術1を採用して、相違点1に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
c 小括
以上のとおりであるから、本件発明3は、甲A1発明、及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(エ)本件発明4
a 対比・判断
甲A1発明の「始動許可装置11が含むコントローラ5の制御」において「キースイッチ4の選択位置がスタートであるか否かの判定で肯定の判定がされた後において、判定手段5cにより所定範囲CL、CR、CBに人がいないと判定され」るものであるから、「キースイッチ4の選択位置がスタートであるか否かの判定で肯定の判定がされた後」は「電源がオンのとき」に相当するといえる。そうすると、甲A1発明の「キースイッチ4の選択位置がスタートであるか否かの判定で肯定の判定がされた後において、判定手段5cにより所定範囲CL、CR、CBに人がいないと判定され」ることは、本件発明4の「前記判定手段は、電源オンの後に、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」ことに相当する。
b 小括
以上のとおりであるから、本件発明4は、甲A1に記載された発明である。
また、本件発明4は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(オ)本件発明5
a 対比・判断
甲A1発明において「カメラ2(カメラ2L、カメラ2R、カメラ2B)」が「撮像する」「所定範囲(CL、CR、CB)」が、「上部旋回体63」「の左側面、右側面及び後面に中心角が180度未満である扇形状の所定範囲(CL、CR、CB)」であることは、本件発明5の「前記ショベルの周辺の所定範囲は、前記ショベルの左側の所定範囲、前記ショベルの右側の所定範囲、及び前記ショベルの後側の所定範囲を含む」ことに相当する。
b 小括
以上のとおりであるから、本件発明5は、甲A1に記載された発明である。
また、本件発明5は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(カ)本件発明6
a 対比・判断
甲A1発明において「カメラ2(カメラ2L、カメラ2R、カメラ2B)」が「撮像する」「扇形状の」「所定範囲(CL、CR、CB)」の「中心角が180度未満である」ことは、本件発明6の「前記検知手段の検知範囲の左側の境界と右側の境界との間の角度は、180度未満である」ことに相当する。
b 小括
以上のとおりであるから、本件発明6は、甲A1に記載された発明である。
また、本件発明6は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(キ)本件発明7
a 対比・判断
甲A1発明において「カメラ2L及びカメラ2Rが、上部旋回体63におけるエンジンフードの側方に配置され」ることは、本件発明7の「前記検知手段は、前記上部旋回体におけるエンジンフードの側方に配置されている」ことに相当する。
b 小括
以上のとおりであるから、本件発明7は、甲A1に記載された発明である。
また、本件発明7は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ク)本件発明8
a 対比・判断
甲A1発明において「人を検知する手法は、ステレオカメラを用いた立体物検出の手法、レーザレーダ、又は単眼タイプのカメラを用いることも可能である」ことは、本件発明8の「前記検知手段は、ステレオカメラ、レーザレーダ、単眼カメラの何れかである」ことに相当する。
b 小括
以上のとおりであるから、本件発明8は、甲A1に記載された発明である。
また、本件発明8は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 甲B9発明を主引用発明とする場合
(ア)本件発明1
a 対比
(a)甲B9発明の「下部走行体1」は、本件発明1の「下部走行体」に相当し、甲B9発明の「上部旋回体8」が「下部走行体1」に対して旋回することは明らかであるから、甲B9発明の「上部旋回体8」は、本件発明1の「該下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体」に相当する。
(b)甲B9発明の「上部旋回体8の前方中央部に備えられる掘削アタッチメント」、及び「油圧ショベル」は、それぞれ本件発明1の「該上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメント」、及び「ショベル」に相当する。
(c)甲B9発明の「油圧ショベル」に含まれ、「信号範囲イ,~,ニ内に人などの障害物が立入ると、」「その障害物を検知」する「障害物センサ9,~,12」は、本件発明1の「前記ショベルに搭載され、前記ショベルの周辺の所定範囲内の障害物を検知する検知手段」に相当する。
(d)甲B9発明は、「障害物センサからの検出信号が」「出力」され、「上記検出信号に基づき、コントローラ部21に接続されている警報器14,15,16はすべて警報を発生」することから、甲B9発明の「コントローラ部21」が、「出力」された「障害物センサからの検出信号」の有無を判定していることは明らかであり、これは、本件発明1の「前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」ことに相当する。
よって、甲B9発明の「油圧ショベル」に含まれ、「検知した障害物センサからの検出信号が」「出力」される「コントローラ部21」は、本件発明1の「前記ショベルに搭載され、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する判定手段」に相当する。
(e)以上より、本件発明1と甲B9発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「下部走行体と、該下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、該上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントを含んで構成されるショベルであって、
前記ショベルに搭載され、前記ショベルの周辺の所定範囲内の障害物を検知する検知手段と、
前記ショベルに搭載され、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する判定手段と、を有する、
ショベル。」
<相違点1>
本件発明1が「油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合、及び、前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合の何れの場合であっても、前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」のに対して、甲B9発明はそのような特定を有しない点。
b 判断
上記相違点1について検討する。
甲B4技術事項の「セーフティロックレバー18をロック位置としたとき、」「油圧用操作具を操作してパイロットバルブ22~27を開いても、パイロット圧油はセーフティロックバルブ17によって遮断されてコントロールバルブ28~33のパイロットポートに供給されず中立状態を維持」する「ロック状態」は、本件発明1の「油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合」に相当する。
甲B4技術事項の「セーフティロックレバー18を非ロック位置としたとき、」「パイロットポンプ20からのパイロット圧油がパイロットバルブ22~27側に流れて、前記油圧用操作具の操作に基づく油圧アクチュエータの油圧作動が行われ」る「非ロック状態」は、本件発明1の「前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合」に相当する。
甲B9発明と甲B4技術事項とは、いずれも油圧ショベルに関するものであり、技術分野が共通する。そして、甲B4技術事項は「作業部等の作動部が不意に動き出さないように、操作具操作に関係無くロックするためのセーフティロックレバーを設け」「安全性が計れる」ものであるところ、甲B9発明の油圧ショベルにおいてさらに安全性を向上するべく、甲B4技術事項を採用して、相違点1に係る本件発明1の構成のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ここで、甲B9発明は、「キースイッチ19を投入している間には警報装置18の作動が可能であり、エンジンのキースイッチを投入状態にしておくと、障害物が障害物センサの信号範囲内に立入ったときに、運転者は運転室内の警報器の警報により障害物立入を認知」できるものである。
また、甲B4技術事項は「エンジン始動するためのスタータスイッチ41が始動操作されていると判断される場合に」「セーフティロックレバー18が」「ロック位置であると判断された場合には、制御部40からエンジンEを始動せしめるよう制御指令が出力され」るものである。
そうすると、甲B9発明において甲B4技術事項を採用した場合には、セーフティロックレバーがロック位置であるときに、キースイッチを投入状態にしてエンジンを始動させることができ、キースイッチ投入状態では障害物センサが作動する構成となるから、セーフティロックレバーがロック位置であるときに障害物センサが作動することとなり、これは本件発明1の「油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合」「前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」ことに相当する。
また、甲B9発明において甲B4技術事項を採用した場合においても、エンジン投入後、作業を行うためにセーフティロックレバーをロック位置から非ロック位置に切換えることは当然であり、このときキースイッチは投入状態であって障害物センサが作動するから、これは本件発明1の「前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合」「前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」ことに相当する。
よって、甲B9発明の油圧ショベルにおいて、甲B4技術事項を採用した場合には、「油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合、及び、前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合の何れの場合であっても、前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」といえる。
c 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲B9発明及び甲B4技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)本件発明2
a 対比
本件発明2と甲B9発明とは、上記(ア)a(e)の相違点1に加えて、以下の点で相違し、その他の点で一致する。
<相違点2>
本件発明2が「掘削用、旋回用、及び前後進用の油圧アクチュエータを更に有する、」のに対して、甲B9発明の「油圧ショベル」が、そのような油圧アクチュエータを有することが特定されていない点。
b 判断
相違点1については、上記(ア)bにおいて説示したとおりである。
相違点2について検討する。
甲B4技術事項の「各油圧作動部を作動せしめる油圧アクチュエータ」である「ブームシリンダ9、アームシリンダ10、バケットシリンダ11」、「旋回モータ8」、「左右の走行モータ7L、7R」は、本件発明2の「掘削用、旋回用、及び前後進用の油圧アクチュエータ」に相当する。
c 小括
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲B9発明及び甲B4技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ウ)本件発明3
a 対比
本件発明3と甲B9発明とは、上記(ア)a(e)の相違点1に加えて、以下の点で相違し、その他の点で一致する。
<相違点3>
本件発明3が「前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知していると判定した場合、掘削、旋回、及び前後進の動作を禁止する」のに対して、甲B9発明がそのような特定を有しない点。
b 判断
相違点1については、上記(ア)bにおいて説示したとおりである。
相違点3について検討する。
甲A2(上記(2)エ)及び甲B2(上記(2)オ)に記載されるように、油圧ショベルの分野において、人を検知した際に動作を停止することで安全を確保することは周知技術(周知技術1)であり、甲B9発明において、さらに安全性を高めるべく周知技術1を採用して、相違点3に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
c 小括
以上のとおりであるから、本件発明3は、甲B9発明、甲B4技術事項、及び周知技術1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(エ)本件発明4
a 対比
甲B9発明では「キースイッチ19を投入した状態のときに、障害物センサ9,~,12の信号範囲イ,~,ニ内に人などの障害物が立入ると、障害物センサ9,~,12のうちいずれかがその障害物を検知し、検知した障害物センサからの検出信号がコントローラ部21に出力し、そこで上記検出信号に基づき、コントローラ部21に接続されている警報器14,15,16はすべて警報を発生」するところ、「キースイッチ19を投入した状態のとき」は、本件発明4の「電源がオンの後」に相当する。
そして、「キースイッチ19を投入した状態のときに、」「コントローラ部21」が、「出力」された「障害物センサからの検出信号」の有無を判定していることは明らかであり、これは、本件発明4の「前記判定手段は、電源オンの後に、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」ことに相当する。
よって、本件発明4と甲B9発明とは、上記(ア)a(e)の相違点1において相違し、その他の点で一致する。
b 判断
相違点1については、上記(ア)bにおいて説示したとおりである。
c 小括
以上のとおりであるから、本件発明4は、甲B9発明及び甲B4技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(オ)本件発明5
a 対比
甲B9発明において、「障害物センサ9,10の検出範囲イ,ロは油圧ショベルの左側の所定範囲であり、障害物センサ11,12の検出範囲ハ,ニは油圧ショベルの右側の所定範囲である」ことは、本件発明5の「前記ショベルの周辺の所定範囲は、前記ショベルの左側の所定範囲、前記ショベルの右側の所定範囲、」「を含む、」ことに相当する。
よって、本件発明5と甲B9発明とは、上記(ア)a(e)の相違点1に加えて以下の点で相違し、その他の点で一致する。
<相違点4>
本件発明5が「前記ショベルの周辺の所定範囲は、」「前記ショベルの後側の所定範囲を含む、」のに対して、甲B9発明がそのような特定を有しない点。
b 判断
相違点1については、上記(ア)bにおいて説示したとおりである。
上記相違点4について検討する。
甲A2(上記(2)エ)及び甲B2(上記(2)オ)に記載されるように、ショベル後方の障害物を検知する構成は周知技術(以下「周知技術2」という。)であるところ、甲B9発明において、さらに安全性を向上するべく周知技術2を採用し、左右の所定範囲に加えて、後方の所定範囲の障害物を検知する構成となすことで、相違点4に係る本件発明5の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
c 小括
以上のとおりであるから、本件発明5は、甲B9発明、甲B4技術事項、及び周知技術2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(カ)本件発明6
a 対比
甲B9発明において「障害物センサ9,~,12の信号範囲イ,~,ニのそれぞれの信号範囲の左側の境界と右側の境界との間の角度は、180度未満である」ことは、本件発明6の「前記検知手段の検知範囲の左側の境界と右側の境界との間の角度は、180度未満である」ことに相当する。
よって、本件発明6と甲B9発明とは、上記(ア)a(e)の相違点1において相違し、その他の点で一致する。
b 判断
相違点1については、上記(ア)bにおいて説示したとおりである。
c 小括
以上のとおりであるから、本件発明6は、甲B9発明、及び甲B4技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(キ)本件発明7
a 対比
甲B9発明の「エンジンフード」は、本件発明7の「エンジンフード」に相当する。
甲B9発明において、「エンジンフード」が「エンジン17」を覆う範囲に設けられることは明らかであるから、「エンジン17の側方に」「配置されている」「障害物センサ10,12」は、「エンジンフードの側方に」「配置されている」ということができ、これは本件発明7の「前記検知手段は、前記上部旋回体におけるエンジンフードの側方に配置されている、」ことに相当する。
よって、本件発明7と甲B9発明とは、上記(ア)a(e)の相違点1において相違し、その他の点で一致する。
b 判断
相違点1については、上記(ア)bにおいて説示したとおりである。
c 小括
以上のとおりであるから、本件発明7は、甲B9発明、及び甲B4技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ク)本件発明8
a 対比
本件発明8と甲B9発明とは、上記(ア)a(e)の相違点1に加えて、以下の点で相違し、その他の点で一致する。
<相違点5>
本件発明8の「前記検知手段は、ステレオカメラ、レーザレーダ、単眼カメラの何れかである」のに対して、甲B9発明がそのような特定を有しない点。
b 判断
相違点1については、上記(ア)bにおいて説示したとおりである。
相違点5について検討する。
甲B9には、障害物センサ9,~,12の具体的な構成は記載されていないが、ステレオカメラ、レーザレーダ、単眼カメラは、障害物センサとして例示するまでもなく広く用いられる検知手段であるから、甲B9発明の障害物センサとして、これらの検知手段を採用し、相違点5に係る本件発明8の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
c 小括
以上のとおりであるから、本件発明8は、甲B9発明、甲B4技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 甲B1発明を主引用例とする場合
(ア)本件発明1
a 対比・判断
(a)甲B1発明の「履帯を駆動して走行する走行体2」、「走行体2に旋回自在に結合している旋回体3」、「旋回体3の前部の略中央に設けられたフロント作業装置7」、及び「油圧ショベル1」は、それぞれ本件発明1の「下部走行体」、「該下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体」、「該上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメント」、及び「ショベル」に相当する。
(b)甲B1発明の「旋回体3の部分を形成している板部5aに」「取り付けられ」、「感知領域は排気口30bの後方で排気口30b近傍の所定領域を含み」、「物体の存在を感知する物体感知手段としての感知センサ80」は、「前記ショベルに搭載され、前記ショベルの周辺の所定範囲内の障害物を検知する検知手段」に相当する。
(c)甲B1発明の「感知センサ80」「が物体を感知していない非感知状態であるかどうかを判定」する「コントローラ50」は、本件発明1の「前記ショベルに搭載され、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する判定手段」に相当する。
(d)甲B1発明の「ゲートロックレバー21がパイロットポンプから操作レバー装置16~19への圧油を遮断する姿勢になった」状態、すなわち、「ゲートロックレバー21が作動状態になっている」状態であって、「エンジン14は動作しているものの、左走行操作レバー装置16、右走行操作レバー装置17、旋回・アーム操作レバー装置18およびブーム・バケット操作レバー装置19のいずれを操作しても油圧ショベル1が動作しない非作業状態」は、本件発明1の「油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合」に相当する。
(e)上記(d)を踏まえると、甲B1発明において、「油圧ショベル1が非作業状態にあると判定した場合、コントローラ50は」「手動再生モードで再生制御手段56として機能する状態に移行し、」「手動再生モードでは、コントローラ50は物体感知判定手段51として機能し、」「感知センサ80」「が物体を感知していない非感知状態であるかどうかを判定する」ことは、本件発明1の「油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合」に「前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」ことに相当する。
(f)甲B1発明では、「コントローラ50は自動再生モードで再生制御手段56として機能する状態に移行した後、操作レバー16a~19aの1つでも操作されると、すなわち、油圧ショベル1の作業が再開されると、自動再生モードで再生制御手段56として機能する状態を解除」するものであり、「自動再生モード」において「油圧ショベル1の作業が」可能であるから、甲B1発明の「自動再生モード」は、本件発明1の「前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合」に相当する。
(g)上記(f)を踏まえると、甲B1発明において、「自動再生モードでは、コントローラ50は物体感知判定手段51として機能し、感知センサ80,81のいずれからの感知信号も入力していないかどうか、すなわち感知センサ80,81が物体を感知していない非感知状態であるかどうかを判定」することは、本件発明1の「前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合」「であっても、前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」ことに相当する。
(h)したがって、上記a及びgより、本件発明1と甲B1発明とは、「油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合、及び、前記油圧回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合の何れの場合であっても、前記判定手段は、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する」点で一致する。
(i)よって、本件発明1と甲B1発明に相違点はない。仮に相違点があるとしても、設計事項程度のことである。
b 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲B1に記載された発明である。
また、本件発明1は、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)本件発明2
a 対比・判断
甲B1発明の「走行体2の駆動源である左走行モータ(油圧モータ)および右走行モータ(油圧モータ)と、旋回体3の駆動源である旋回モータ(油圧モータ)と、ブーム8を駆動するブームシリンダ11(油圧シリンダ)と、アーム9を駆動するアームシリンダ12(油圧シリンダ)と、バケット10を駆動するバケットシリンダ13(油圧シリンダ)」は、本件発明2の「掘削用、旋回用、及び前後進用の油圧アクチュエータ」に相当する。
よって、本件発明2と甲B1発明に相違点はない。仮に相違点があるとしても、設計事項程度のことである。
b 小括
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲B1に記載された発明である。
また、本件発明2は、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ウ)本件発明4
a 対比・判断
甲B1発明では、「エンジン14は動作している」「非作業状態」において、「手動再生モードで再生制御手段56として機能する状態に移行し、」「手動再生モードで」「手動再生モードでは、コントローラ50は物体感知判定手段51として機能し、感知センサ80,81のいずれからの感知信号も入力していないかどうか、すなわち感知センサ80,81が物体を感知していない非感知状態であるかどうかを判定する」ものであるところ、「エンジン14は動作している」ときに電源がオンであることは明らかであるから、これは本件発明4の「前記判定手段は、電源オンの後に、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する、」ことに相当する。
よって、本件発明4と甲B1発明に相違点はない。仮に相違点があるとしても、設計事項程度のことである。
b 小括
以上のとおりであるから、本件発明4は、甲B1に記載された発明である。
また、本件発明4は、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(エ)本件発明7
a 対比
甲B1発明は、「エンジン14」を有するものであるから、「旋回体3」の上面の一部分は「エンジン14」を覆うことが明らかであり、この部分は本件発明7の「エンジンフード」に相当する。
したがって、本件発明7と甲B1発明とは、以下の点で相違し、その他の点で一致する。
<相違点A>
本件発明7では、「前記検知手段は、前記上部旋回体におけるエンジンフードの側方に配置されている」のに対し、甲B1発明の「感知センサ80」は、「排気管30の終端部30a」の「後方向に開口した排気口30b」の「排気方向の後方に位置する旋回体3の部分」設けられるものであるが、甲B1発明では、「感知センサ80」が旋回体3上の左右方向のどの位置に設けられるのかは特定されていない点。
b 判断
上記相違点Aについて検討する。
引用文献1(上記(2)キ)に記載されるように、ショベルの排気口が旋回体の後方右側端部に設けられる構成は周知技術であり(以下「周知技術3」という。)、甲B1発明において当該周知技術3を採用し、排気管30を旋回体3の後方右側端部に配置し、その結果、エンジン14を覆う旋回体3の上面の一部分の右側方に排気管30及びその後方に位置する感知センサ80を設けることで、上記相違点Aに係る本件発明7の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
c 小括
以上のとおりであるから、本件発明7は、甲B1発明及び周知技術3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(オ)本件発明8
a 対比
本件発明8と甲B1発明とは、以下の点で相違し、その他の点で一致する。
<相違点B>
本件発明8の「前記検知手段は、ステレオカメラ、レーザレーダ、単眼カメラの何れかである」のに対して、甲B1発明がそのような特定を有しない点。
b 判断
相違点Bについて検討する。
甲B1には、感知センサ80の具体的な構成は記載されていないが、ステレオカメラ、レーザレーダ、単眼カメラは、障害物センサとして例示するまでもなく広く用いられる検知手段であるから、甲B1発明の感知センサ80として、これらの検知手段を採用し、相違点Bに係る本件発明8の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
c 小括
以上のとおりであるから、本件発明8は、甲B1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)新規性、進歩性についての小括
本件発明1、2、4~8は、甲A1発明であり、本件発明1、2、4、8は、甲B1発明であり、また、本件発明1、2、4~8は、甲A1発明、もしくは、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明3は、甲A1発明及び周知技術1(甲A2、甲B2)に基づいて、本件発明1~8は、甲B9発明、甲B4技術事項、周知技術1(甲A2、甲B2)及び周知技術2(甲A2、甲B2)に基づいて、本件発明7は、甲B1発明及び周知技術3(引用文献1)に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、本件発明1~8に係る特許は、特許法29条1項及び同条2項の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 その他
特許権者は、令和7年8月4日付け意見書において、
「なお、特許権者は、上述の見解を維持しながらも、早期の権利の安定化を図るため、請求項1の記載「エンジンが始動しているか否かにかかわらず、電源がオンであれば」を「キースイッチの選択位置がスタートであれば」に訂正する用意があります。
具体的には、請求項1の記載を、
「 下部走行体と、該下部走行体に旋回自在に搭載される上部旋回体と、該上部旋回体の前方中央部に備えられる掘削アタッチメントを含んで構成されるショベルであって、
前記ショベルに搭載され、前記ショベルの周辺の所定範囲内の障害物を検知する検知手段と、
前記ショベルに搭載され、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する判定手段と、を有し、
キースイッチの選択位置がスタートであれば、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定できるように構成されている前記判定手段は、油圧回路が弁で遮断されていて操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない場合、及び、前記油圧
回路が連通されていて操作レバーをオペレーターが操作すると対応する油圧アクチュエータが動作する場合の何れの場合であっても、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定する、ショベル。」
とする用意があります。」
と請求項1について訂正する用意がある旨を主張する。
しかし、訂正案における「キースイッチの選択位置がスタートであれば、前記検知手段が前記障害物を検知しているか否かを判定できるように構成されている」という事項において、「・・・選択位置がスタートであれば・・・」という記載が「判定」を行うための条件のみを示しておらず、その他の事項を含むと考えられるため、新たな技術的事項を導入することに該当すると考えられる。
また、仮に訂正が認められるとしても、訂正案により特定された事項により、少なくとも上述のサポート要件の取消理由を解消していないことは明らかであるから、訂正の機会を再度付与する事由があるとはいえず、主張は採用できない。
第7 むすび
以上のとおり、本件発明1~8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないものについてされたものである。
したがって、本件発明1~8に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
そして、本件発明1、2、4~8は甲A1発明であり、本件発明1、2、4、8は甲B1発明であるから、本件発明1、2、4~8に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1、2、4~8に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明1、2、4~8は、甲A1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1、2、4~8は、甲B1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明3は、甲A1発明及び周知技術1(甲A2、甲B2)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1~8は、甲B9発明、甲B4技術事項、周知技術1(甲A2、甲B2)及び周知技術2(甲A2、甲B2)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明7は、甲B1発明及び周知技術3(引用文献1)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1~8に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、特許法113条2号に該当するから、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701050