特許異議申立
2023-701043
制御された細孔径を有するアルカリ電池セパレーター
- 審判番号
- 2023-701043
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-537890
- 登録番号
- 7250801
- 請求日
- 2023年09月29日
- 審決日
- 2025年06月16日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エスヴェーエム ルクセンブルク
- 【権利者代理人】田中 伸一郎
- 【権利者代理人】▲吉▼田 和彦
- 【権利者代理人】須田 洋之
- 【権利者代理人】山崎 一夫
- 【権利者代理人】市川 さつき
- 【権利者代理人】服部 博信
- 【権利者代理人】松田 七重
- 【権利者代理人】秋澤 慈
- 【異議申立人】今吉 未穗子
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 須原 宏光
- 審判官 篠原 功一
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.356-YAA(H01M) / P1651.357-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7250801号発明「制御された細孔径を有するアルカリ電池セパレーター」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7250801号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
特許第7250801号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7250801号の請求項1ないし8に係る発明についての出願は、2018年9月26日(パリ条約による優先権主張2017年9月26日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和5年3月24日にその特許権が設定登録され令和5年4月3日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立での経緯は、次の通りである。
令和 5年 9月29日: 特許異議申立人 今吉美穂子により請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 5年12月 4日付け:取消理由通知
令和 6年 3月 6日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 6年 5月 2日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和 6年 6月 6日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 6年 9月 9日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和 6年12月12日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和 7年 2月 6日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 7年 5月12日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
なお、令和6年3月6日の訂正請求及び令和6年9月9日の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和7年5月12日付けの訂正請求の趣旨は、特許第7250801号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「4.0μm未満の平均細孔径を有する、ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体のブレンドを含み、55質量%~60質量%のポリビニルアルコールを含む、アルカリ電池セパレーター。」と記載されているのを、「4.0μm未満の平均細孔径を有し、4μm~25μmの最大細孔径を有する、ポリビニルアルコール繊維を含むポリビニルアルコールおよびテンセル繊維の繊維ブレンドを含み、55質量%~60質量%のポリビニルアルコールおよび40質量%~45質量%のテンセル繊維を含む、アルカリ電池セパレーター。」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2~8も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「少なくとも55質量%のポリビニルアルコールおよび少なくとも45質量%のセルロース誘導体を含む」と記載されているのを、「55質量%のポリビニルアルコールおよび45質量%のテンセル繊維を含む」に訂正する。(請求項3の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「16μm未満の最大細孔径を有する」と記載されているのを、「4μm以上、16μm未満の最大細孔径を有する」に訂正する。(請求項4の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0002】に記載された「制御され、前もって決定された細孔径を有する、すなわち、平均径、最大径および体積をあらかじめ選択することができるセパレーターが必要とされている。」を、「制御され、前もって決定された細孔径(すなわち、平均径および最大径)および体積をあらかじめ選択することができるセパレーターが必要とされている。」に訂正する。
(5)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2ないし8は、訂正の対象となる請求項1を引用しているものであるから、請求項1ないし8は一群の請求項を構成する。
本件訂正請求は、一群の請求項〔1-8〕に対して請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
a 訂正事項1のうち「4μm~25μmの最大細孔径を有する」を追加する訂正は、「アルカリ電池セパレーター」の細孔径について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
b 訂正事項1のうち「ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体のブレンド」を「ポリビニルアルコール繊維を含むポリビニルアルコールおよびテンセル繊維の繊維ブレンド」にする訂正は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図り、請求項1に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものになるようにした訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
c 訂正事項1のうち「および40質量%~45質量%のテンセル繊維」を追加する訂正は、「アルカリ電池セパレーター」の構成成分の比率を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
a 願書に添付した明細書の段落【0007】には「最大細孔径は、約16μm未満、例えば、約4μm~約25μm、約5μm~約20μmおよび約9μm~約16μmであってもよい。」と記載されているので、「4μm~25μmの最大細孔径を有する」を追加する訂正は、新規事項の追加に該当しない。また、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
b 願書に添付した明細書の段落【0008】には「フィブリル化工程を実施し制御したら、パルパー中での水溶性PVA繊維と主体PVA繊維の両方の添加に進む前に、冷水でフィブリル化したテンセル繊維を希釈して40℃未満の温度に冷却した。抄紙機箱へ移送する前に、繊維ブレンドをパルパー中で10分間完全に混合した。」と、水溶性PVA繊維、主体PVA繊維とテンセル繊維からなる繊維ブレンドが記載されので、「ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体のブレンド」を「ポリビニルアルコール繊維を含むポリビニルアルコールおよびテンセル繊維の繊維ブレンド」にする訂正は、新規事項の追加に該当しない。
そして、この訂正は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図り、訂正前の請求項1に記載された「ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体のブレンド」を、発明の詳細な説明に記載したものになるようにした訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
c 願書に添付した明細書の段落【0003】には「セパレーターは、約30%~約60%のPVAおよび約40%~約60%のテンセルなどのリヨセル繊維を含む。」と記載され、段落【0010】の【表1】には、テンセル繊維を45質量%含む繊維ブレンドが記載されていので、「および40質量%~45質量%のテンセル繊維」を追加する訂正は、新規事項の追加に該当しない。また、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
a 訂正事項2のうち「セルロース誘導体を含む」を「テンセル繊維を含む」にする訂正は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図り、請求項3に係る発明が、発明の詳細な説明に記載したものになるようにした訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
b 訂正事項2のうち「少なくとも55質量%」及び「少なくとも45質量%」から、「少なくとも」を削除し、「55質量%」及び「45質量%」にする訂正は、構成成分の比率を限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
a 願書に添付した明細書の段落【0008】には「フィブリル化工程を実施し制御したら、パルパー中での水溶性PVA繊維と主体PVA繊維の両方の添加に進む前に、冷水でフィブリル化したテンセル繊維を希釈して40℃未満の温度に冷却した。抄紙機箱へ移送する前に、繊維ブレンドをパルパー中で10分間完全に混合した。」と、PVAとテンセル繊維からなる繊維ブレンドが記載されので、「セルロース誘導体を含む」を「テンセル繊維を含む」にする訂正は、新規事項の追加に該当しない。
そして、この訂正は、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図り、訂正前の請求項3に記載された「セルロース誘導体を含む」を、発明の詳細な説明に記載したものになるようにした訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
b 願書に添付した明細書の段落【0010】の【表1】には、ポリビニルアルコールを55質量%、テンセル繊維を45質量%含む繊維ブレンドが記載されているので、「少なくとも55質量%」及び「少なくとも45質量%」を、「55質量%」及び「45質量%」にする訂正は、新規事項の追加に該当しない。また、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3の「16μm未満の最大細孔径を有する」を「4μm以上、16μm未満の最大細孔径を有する」にする訂正は、最大細孔径の下限ついて限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
願書に添付した明細書の段落【0007】には「最大細孔径は、約16μm未満、例えば、約4μm~約25μm、約5μm~約20μmおよび約9μm~約16μmであってもよい。一実施形態において、平均細孔径は約1.5μm~約3μmである。」と記載されているので、最大細孔径の下限を「4μm以上」にする訂正は、新規事項の追加に該当しない。また、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
国際出願日における国際出願の明細書の段落0004に「There is a need for a separator that has a controlled, predetermined pore size, i.e., mean and maximum size and volume can be preselected.」と記載されたところ、訂正前の明細書の段落【0002】では「制御され、前もって決定された細孔径を有する、すなわち、平均径、最大径および体積をあらかじめ選択することができるセパレーターが必要とされている。」と翻訳していたので、訂正事項4ではこれを正しく「制御され、前もって決定された細孔径(すなわち、平均径および最大径)および体積をあらかじめ選択することができるセパレーターが必要とされている。」と訳し、誤訳の訂正を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
訂正事項4は、誤訳訂正するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
そして、訂正事項4に関係する一群の請求項(請求項1ないし8)の全てが訂正請求の対象とされているから、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
3 小括
本件訂正による訂正事項1-4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
よって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
訂正後の請求項〔1-8〕について訂正を認めるから、請求項1-8に係る発明(以下「本件発明1」-「本件発明8」という。)は、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
4.0μm未満の平均細孔径を有し、4μm~25μmの最大細孔径を有する、ポリビニルアルコール繊維を含むポリビニルアルコールおよびテンセル繊維の繊維ブレンドを含み、55質量%~60質量%のポリビニルアルコールおよび40質量%~45質量%のテンセル繊維を含む、アルカリ電池セパレーター。
【請求項2】
前記平均細孔径が1.5μm~3μmである、請求項1に記載のアルカリ電池セパレーター。
【請求項3】
55質量%のポリビニルアルコールおよび45質量%のテンセル繊維を含む、請求項2に記載のアルカリ電池セパレーター。
【請求項4】
4μm以上、16μm未満の最大細孔径を有する、請求項1に記載のアルカリ電池セパレーター。
【請求項5】
請求項1に記載の電池セパレーターを含む電池。
【請求項6】
請求項2に記載の電池セパレーターを含む電池。
【請求項7】
請求項3に記載の電池セパレーターを含む電池。
【請求項8】
請求項4に記載の電池セパレーターを含む電池。」
第4 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が令和7年2月6日付けの取消理由通知(決定の予告)において特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(サポート要件)本件の下記の請求項に係る特許は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
・請求項1ないし8
請求項1には「ポリビニルアルコールおよびテンセル繊維の繊維ブレンドを含み、55質量%~60質量%のポリビニルアルコールおよび40質量%~45質量%のテンセル繊維を含む、アルカリ電池セパレーター。」と記載されている。
一方、発明の詳細な説明には、「セパレーター」として、ポリビニルアルコール繊維と、溶解して繊維状でないポリビニルアルコールを含むものが記載されている。
しかしながら、上記請求項1には「ポリビニルアルコール」が、ポリビニルアルコール繊維を含むことが特定されておらず、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載のない「ポリビニルアルコール繊維」を含まない「セパレータ」も含むことになり、このようなセパレータにあっても、発明の詳細な説明に記載(【0002】参照)された発明の課題を解決できるとは認識することができない。そうすると、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
よって、請求項1に係る発明、及び請求項1を引用する請求項2ないし8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
2 当審の判断
請求項1を「ポリビニルアルコール繊維を含むポリビニルアルコールおよびテンセル繊維の繊維ブレンドを含み、55質量%~60質量%のポリビニルアルコールおよび40質量%~45質量%のテンセル繊維を含む、アルカリ電池セパレーター。」に訂正することによって、請求項1に係る発明は「ポリビニルアルコール」が、「ポリビニルアルコール繊維を含む」ことが特定されたため、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものとなった。
よって、当該取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由により、本件発明1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 訂正前の請求項1-8に係る特許に対する特許異議申立理由のうち、取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった申立理由の概要は、以下のとおりである。
(1)申立理由1
請求項1-8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、
請求項1、5に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、
請求項1、2、4-6、8に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1-8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2
請求項1-8に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、甲第2号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1-8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3
請求項1-8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないため、請求項1-8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(4)申立理由4
請求項1-8に係る発明は明確でないため、請求項1-8係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(5)申立理由5
請求項1-8に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないめ、請求項1-8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
証拠方法
甲第1号証:国際公開第2017/150439号
甲第2号証:特開2014-123443号公報
甲第3号証:特開平6-163024号公報
甲第4号証:特開2012-54228号公報
甲第5号証:米国特許第4767687号明細書
2 各号証の記載
(1)甲第1号証
特許異議申立人が令和6年5月2日に提出した意見書で取り上げた実施例21及び実施例28に着目すると、次の発明が記載されている。
ア 甲1-I発明
実施例21([0184]、[0185])として記載された発明(以下、「甲1-I発明」という。)は、以下のとおりである。
「最大孔径22.0μm、平均孔径2.4μmを有し、
溶剤紡糸セルロース繊維15質量%と、
耐アルカリ性セルロース繊維としてビスコースレーヨン繊維15質量%および広葉樹溶解パルプ25質量%と
耐アルカリ性合成繊維としてビニロン繊維25質量%およびPVA繊維10質量%と、
バインダ成分としてPVAバインダ繊維(繊度1.1dtex.繊維長3mm)10質量%とを含む、
アルカリ電池セパレータ。」
イ 甲1-II発明
実施例28([0198]、[0199])として記載された発明(以下、「甲1-II発明」という。)は、以下のとおりである。
「最大孔径24.0μm、平均孔径5.5μmを有し、
溶剤紡糸セルロース繊維20質量%と、
耐アルカリ性セルロース繊維としてビスコースレーヨン繊維10質量%、およびコットンリンターパルプ10質量%と、
耐アルカリ性合成繊維としてビニロン繊維25質量%、およびPVA繊維25質量%と、
バインダ成分としてPVAバインダ繊維10質量%とを含む、
アルカリ電池セパレータ。」
(2)甲第2号証
特許異議申立書で取り上げられた実施例5及び実施例10に着目すると、次の発明が記載されている。
ア 甲2-I発明
実施例5(【0001】、【0068】、【0090】(【表2】))として記載された発明(以下、「甲2-I発明」という。)は、以下のとおりである。
「平均孔径3.5μmを有し、
溶剤紡糸セルロース繊維A(α-セルロース含有率:85.3%)20重量%と、
コットンリンターパルプ15重量%と、
耐アルカリ性合成繊維としてビニロン繊維50重量%、ポリエチレン繊維10%と、
易溶解性ポリビニルアルコール繊維5重量%とを含む、
アルカリ電池用セパレータ。」
イ 甲2-II発明
実施例10(【0001】、【0073】、【0090】(【表2】))として記載された発明(以下、「甲2-II発明」という。)は、以下のとおりである。
「平均孔径2.2μmを有し、
溶剤紡糸セルロース繊維C(α-セルロース含有率:94.6%)25重量%と、
リヨセル繊維(α-セルロース含有率:77%繊度:レンチング社製)25重量%と
ビスコースレーヨン10重量%と、
耐アルカリ性合成繊維としてビニロン繊維30重量%、易溶解性ポリビニルアルコール繊維10重量%とを含む、
アルカリ電池用セパレータ。」
(3)甲第3号証
特許異議申立書で取り上げられた実施例4及び実施例7に着目すると、次の発明が記載されている。
ア 甲3-I発明
【0053】によれば、溶剤紡糸セルロース繊維(コートールズ社製、テンセル)を全主体繊維に対して59重量%と、ポリビニルアルコール系繊維を全主体繊維に対して41重量%とを混合し、さらにこの混合物からなる主体繊維に、ポリビニルアルコール系繊維状バインダーを、全主体繊維:バインダーの重量比が85:15となるような量で添加したのであるから、全繊維量を100質量%になるように換算すると、
溶剤紡糸セルロース繊維(コートールズ社製、テンセル)50.15重量%、
ポリビニルアルコール系繊維34.85重量%、
ポリビニルアルコール系繊維状バインダー15質量%になる。
以上のことより、甲第3号証には、実施例4(【0001】、【0053】、【0057】、【0080】(【表1】))として、以下の発明(以下、「甲3-I発明」という。)が記載されている。
「溶剤紡糸セルロース繊維(コートールズ社製、テンセル)50.15重量%と、
ポリビニルアルコール系繊維34.85重量%と、
ポリビニルアルコール系繊維状バインダー15質量%とを含む、
アルカリ電池用セパレーター。」
イ 甲3-II発明
上記アを踏まえると、甲第3号証には、実施例7(【0001】、【0053】、【0060】、【0080】(【表1】))として、以下の発明(以下、「甲3-I発明」という。)が記載されている。
「溶剤紡糸セルロース繊維(コートールズ社製、テンセル)50.15重量%と、
ポリビニルアルコール系繊維34.85重量%と、
ポリビニルアルコール系繊維状バインダー15質量%とを含む、
アルカリ電池用セパレーター。」
(4)甲第4号証
特許異議申立人が令和6年5月2日に提出した意見書で取り上げた実施例10、実施例19及び実施例20に着目すると、次の発明が記載されている。
ア 甲4-I発明
実施例10(【0001】、【0077】])として記載された発明(以下、「甲4-I発明」という。)は、以下のとおりである。
「マーセル化針葉樹木材パルプ40重量%と、
ビニロン繊維60重量%とを含む、
アルカリ電池用セパレーター。」
イ 甲4-II発明
実施例19(【0001】、【0099】])として記載された発明(以下、「甲4-II発明」という。)は、以下のとおりである。
「リヨセル繊維(Lenzing Fibers Limited社製のTENCEL)60重量%と、
ビニロン繊維25重量%と、
難溶解性のポリビニルアルコール繊維15重量%とを含む、
アルカリ電池用セパレーター。」
ウ 甲4-III発明
実施例20(【0001】、【0100】])として記載された発明(以下、「甲4-III発明」という。)は、以下のとおりである。
「リヨセル繊維(Lenzing Fibers Limited社製のTENCEL)60重量%と、
ビニロン繊維35重量%と、
易溶解性のポリビニルアルコール繊維5重量%とを含む、
アルカリ電池用セパレーター。」
3 当審の判断
(1)申立理由1(特許法第29条第1項第3号)、申立理由2(特許法第29条第2項)について
ア 本件発明1
(ア)本件発明1と甲第1号証ないし甲第4号証にそれぞれ記載された発明(甲1-I発明、甲1-II発明、甲2-I発明、甲2-II発明、甲3-I発明、甲3-II発明、甲4-I発明、甲4-II発明、甲1-III発明)との対比
本件発明1と甲第1号証ないし甲第4号証にそれぞれ記載された発明を対比すると、本件発明1と甲各号証に記載された発明とは、次の共通の相違点を有する。
(共通の相違点)
繊維ブレンドが、本件発明1は「55質量%~60質量%のポリビニルアルコールおよび40質量%~45質量%のテンセル繊維を含む」のに対して、甲各号証に記載された発明の何れにもそのような特定がない点。
(イ)判断
a 第29条第1項第3号について
本件発明1と甲第1号証ないし甲第4号証にそれぞれ記載された発明とは相違点を有しているので、本件発明1は、甲第1号証ないし甲第4号証にそれぞれ記載された発明のいずれでもない。
b 第29条第2項について
上記相違点について検討する。
甲第1号証ないし甲第4号証には、何れも、繊維ブレンドを、55質量%~60質量%のポリビニルアルコールおよび40質量%~45質量%のテンセル繊維を含むようにすることの記載も示唆もない。
ここで、テンセル繊維は溶剤紡糸セルロース繊維の一種と解されるので(甲第1号証([0005])、甲第3号証(【0053】)等参照)、仮に55質量%~60質量%のポリビニルアルコールおよび40質量%~45質量%の溶剤紡糸セルロース繊維を含む繊維ブレンドを、甲第1号証ないし甲第4号証にそれぞれ記載された発明に基づいて導き出せるか検討しても、甲第1号証ないし甲第4号証は、何れも、55質量%~60質量%のポリビニルアルコールおよび40質量%~45質量%の溶剤紡糸セルロース繊維を含むようにすることの記載も示唆もないのであるから、導き出すことはできない。
そうすると、甲第1号証ないし甲第4号証にそれぞれ記載された発明において、上記相違点に係る構成を得ることはできない。
また、特許異議申立の証拠として提出された、甲第5号証には上記相違点に係る構成については記載されていない。
ここで、特許異議申立人は令和6年5月2日付けの意見書において、ポリビニルアルコール繊維と、セルロース繊維の質量比を60:40~40:60の間で調整して、セパレータが55質量%~60質董%のポリビニルアルコール繊維と、40質量%~45質量%のセルロース繊維を含むものとし、セルロース繊維としてテンセル繊維を用いるのは、当業者が適宜選択し得る事項でありますと主張している。(第17頁)
しかしながら、当業者が適宜選択し得ることを示す、具体的な証拠や合理的な理由が何ら示されておらず、上記主張を採用することができない。
よって、本件発明1は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第2号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2-8
本件発明1を引用する本件発明2-8は、本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明1と同様の理由により、甲第1号証ないし甲第4号証にそれぞれ記載された発明のいずれでもない。
また、本件発明1は、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第2号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第4号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)申立理由3(特許法第36条第6項第1号)について
ア 特許異議申立人の主張
(ア)本件発明1
a 本件発明が解決しようとする課題は、発明の詳細な説明の「負極はまた、短絡の原因となるデンドライトを生成する、より強い傾向があり、そのために電池メーカーは障壁特性の強化を探し求めている。制御され、前もって決定された細孔径を有する、すなわち、平均径、最大径および体積をあらかじめ選択することができるセパレーターが必要とされている。」(【0002】)の記載より、負極において短絡の原因となるデンドライトの生成に対する障壁特性を強化することができる、特定の、「平均径」、「最大径」および「体積」をあらかじめ選択することができるセパレーターを得ることと認められる。
一方、本件発明1は、単に「4.0μm未満の平均細孔径を有する」と記載するのみであって、本件発明1はありとあらゆる「最大径」および「体積」を有するセパレータが含まれている。
してみると、発明の詳細な説明では「平均径、最大径および体積をあらかじめ選択することができるセパレーターが必要とされている」ところ、本件発明1では「最大径」および「体積」のいずれも選択されていないため、本件発明1のアルカリ電池セパレーターは、上記課題を解決できない。
b 本件発明1は「ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体のブレンドを含み、55質量%~60質量%のポリビニルアルコールを含む、アルカリ電池セパレーター」を発明特定事項としているが、「ポリビニルアルコールおよびセルロース誘導体のブレンド」および「ポリビニルアルコール」は、単なる樹脂で形成されたフィルムも含まれる。
一方、本件明細書には「繊維ブレンド」を用いていないセパレータについて何ら記載されていない。
してみると、繊維ブレンドにより形成されない、例えばフィルム状のアルカリ電池セパレータは、上記課題を解決できない。
c 本件発明1では「4.0μm未満の平均細孔径」とのみ特定されており、その下限が特定されていないから、単なる樹脂で形成されたフィルムで形成された場合において、「制御され、前もって決定された細孔径を有する」セパレーターを含んでおらず、請求項1に係る発明と、発明の詳細な説明に記載されたものとが実質的に対応していない。
d 本件発明1では、ポリビニルアルコールとして、主体PVAおよび可溶性PVAの区別を特段行っていないため、全てのポリビニルアルコールが可溶性PVAである場合が含まれる。
一方で、本件発明1では、「4.0μm末満の平均細孔径」とのみ特定されており、その下限が特定されていないから、60質量%の可溶性PVA繊維がすべてフィルム化した場合において、「制御され、前もって決定された細孔径を有する」セパレーターを含んでおらず、請求項1に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが実質的に対応していない。
e 本件発明1は、「ポリビニルアルコール55質量%~60質量%」であることを規定しているところ、「ポリビニルアルコール40質量%」である本件明細書の実施例4では平均細孔径1.2μmであることが示されている。
一方、本件請求項1では、平均細孔径の下限を特定しない「4.0μm未満の平均細孔径を有する」セパレーターが依然として含まれており、ポリビニルアルコール55質量%~60質量%である場合に達成可能である平均細孔径と、本件発明1で規定されている平均細孔径とが実質的に対応していない。
以上のように、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであって、請求項1に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが実質的に対応しておらず、サポート要件を満たしていない。(特許異議申立書第99-102頁)
(イ)本件発明2
本件発明2は、「平均細孔径が1.5μm~3μmである」ことを規定している。上述したように、60質量%が可溶性PVA繊維で構成されるセパレーターはすべてフィルム化し、平均細孔径が0μmであると考えられるため、「平均細孔径が1.5μm~3μm」ではない範囲を含むものである。してみると、請求項2に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが実質的に対応しておらず、サポート要件を満たしていない。(特許異議申立書第102頁)
(ウ)本件発明4
a 本件発明4は「16μm末満の最大細孔径を有する」とのみ特定されており、その下限が特定されていない。上述したように、60質量%が可溶性PVA繊維で構成されるセパレーターはすべてフィルム化した場合において、「制御され、前もって決定された細孔径を有する」セパレーターを含んでおらず、請求項4に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが実質的に対応していない。
b 本件発明4が従属する本件発明1は、「ポリビニルアルコール55質量%~60質量%」であることを規定しているところ、「ポリビニルレアルコール40質量%」である本件明細書の実施例4では最大細孔径5.2μmであることが示されている。
一方、本件請求項4では、最大細孔径の下限を特定しない「16μm未満の最大細孔径を有する」セパレーターが依然として含まれており、ポリビニルアルコール55質量%~60質量%である場合に達成可能である最大細孔径と、本件発明4で規定されている最大細孔径とが実質的に対応していない。(特許異議申立書第102-103頁)
イ 当審の判断
(ア)本件発明1
aの主張について
本件発明が解決しようとする課題は、誤訳を訂正した発明の詳細な説明の「負極はまた、短絡の原因となるデンドライトを生成する、より強い傾向があり、そのために電池メーカーは障壁特性の強化を探し求めている。 制御され、前もって決定された細孔径(すなわち、平均径および最大径)および体積をあらかじめ選択することができるセパレーターが必要とされている。」(【0002】)及び「セパレーターは制御された細孔径を有する、すなわち、細孔径は予め決定または選択することができる。」(【0004】)の記載より、負極において短絡の原因となるデンドライトの生成に対する障壁特性を強化することができる、特定の、「平均径」及び「最大径」をあらかじめ選択することができるセパレーターを得ることと認められる。
訂正後の請求項1は「4.0μm未満の平均細孔径を有し、4μm~25μmの最大細孔径を有する」「アルカリ電池セパレーター」と、「セパレータ」の「平均細孔径」及び「最大細孔径」が特定されているので、本件発明1は上記の課題を解決するための手段が反映されているといえる。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲であるので、発明の詳細な説明に記載したものである。
よって、aの主張を採用できない。
bの主張について
訂正後の請求項1は「ポリビニルアルコール繊維を含むポリビニルアルコールおよびテンセル繊維の繊維ブレンドを含」む「アルカリ電池セパレーター」となったので、セパレータは繊維ブレンドにより形成されている。
よって、bの主張を採用できない。
cの主張について
訂正後の請求項1は「ポリビニルアルコール繊維を含むポリビニルアルコールおよびテンセル繊維の繊維ブレンドを含」む「アルカリ電池セパレーター」となったので、セパレータは単なる樹脂フィルムで形成されたものではない。
よって、cの主張を採用できない。
dの主張について
訂正後の請求項1は「ポリビニルアルコール繊維を含むポリビニルアルコールおよびテンセル繊維の繊維ブレンドを含」む「アルカリ電池セパレーター」となったので、全てのポリビニルアルコールが可溶性PVAである場合は含まれない。
よって、dの主張を採用できない。
eの主張について
本件発明1で特定する「55質量%~60質量%のポリビニルアルコール」である本件明細書の実施例1、実施例2、実施例3、実施例5の平均細孔径は、それぞれ、2.9μm、2.5μm、1,6μm、1.85μmで、何れも4μm未満であり、本件発明1で特定される平均細孔径の範囲と対応している。
よって、eの主張を採用できない。
(イ)本件発明2
訂正後の請求項1は「ポリビニルアルコール繊維を含むポリビニルアルコールおよびテンセル繊維の繊維ブレンドを含」む「アルカリ電池セパレーター」となったので、ポリビニルアルコールの含有量の上限値である60質量%のすべてが可溶性PVAで構成される場合は含まれない。
よって、上記主張を採用できない。
(ウ)本件発明4
aの主張について
訂正後の請求項1は「ポリビニルアルコール繊維を含むポリビニルアルコールおよびテンセル繊維の繊維ブレンドを含」む「アルカリ電池セパレーター」となったので、ポリビニルアルコールの含有量の上限値である60質量%のすべてが可溶性PVAで構成される場合は含まれない。
よって、aの主張を採用できない。
bの主張について
本件発明1で特定する「55質量%~60質量%のポリビニルアルコール」である本件明細書の実施例1、実施例2、実施例3、実施例5の最大細孔径は、それぞれ、19.7μm、14.0μm、9.2μm、14.0μmで、何れも4μm~25μmであり、本件発明1で特定される最大細孔径の範囲と対応している。
よって、bの主張を採用できない。
(3)申立理由4(特許法第36条第6項第2号)について
ア 特許異議申立人の主張
(ア)本件発明1
本件発明1では、「4.0μm未満の平均細孔径」と規定されており、その下限値が規定されていないため不明確である。
(イ)本件発明3
本件発明3では「少なくとも55質量%のポリビニルアルコールおよび少なくとも45質量%のセルロース誘導体を含む」ことが規定されている。この場合、ポリビニルアルコールの割合が55質量%を超える場合、両者の和が100質量%であるため、セルロース誘導体は45質量%を超えることができない。一方、セルロース誘導体の割合が45質量%を超える場合、両者の和が100質量%であるため、ポリビニルアルコールの割合は55質董%を超えることができない。したがって、発明特定事項の内容に技術的な欠陥があるため、本件発明3は不明瞭である。
(ウ)本件発明4
本件発明4では、「16μm未満の最大細孔径」と規定されており、その下限値が規定されていないため不明確である。
(エ)表1のR指数
本件明細書の表1に記載されているR指数について、表1以外に何らの説明もなく、技術的に不明確である。
(オ)表1の平均細孔径の単位
本件明細書の表1において平均細孔径の単位として「μm2」が記載されているが、技術的に不明確である。(特許異議申立書第103-104頁)
イ 当審の判断
(ア)本件発明1
本件発明1は「アルカリ電池セパレーター」なので、セパレータに細孔が開いていることは自明なことであり、平均細孔径の下限値の特定がなくても、本件発明1は明確である。
よって、上記主張を採用できない。
(イ)本件発明3
訂正後の請求項3は「55質量%のポリビニルアルコールおよび45質量%のテンセル繊維を含む」となったので、上記主張を採用できない。
(ウ)本件発明4
訂正後の請求項4は「4μm以上、16μm未満の最大細孔径を有する」なったので、上記主張を採用できない。
(エ)表1のR指数
特許請求の範囲において「R指数」について特定されていないので、表1の「R係数」の記載は、本件発明1-8を不明確にするものでない。
(オ)表1の平均細孔径の単位
本件明細書には「セパレーターの平均細孔径は、約5μm未満、約4μm未満、約3μm未満、約2.0μm未満であってもよい。」(【0007】)等と記載されているので、表1の「μm2」は明らかな誤記であり、本件発明1-8を不明確にするものでない。
(4)申立理由5(特許法第36条第4項第1号)について
ア 特許異議申立人の主張
(ア)本件発明1
a 本件発明1では「ポリビニルアルコール」とのみ記載されているが、ポリビニルアルコールにおいて、その全部が溶解性PVA繊維で構成される場合が含まれており、上述したように、60質量%が可溶性P VA繊維で構成されるセパレーターにおいて、当業者はどのようにすれば、細孔径を制御することができるのか、理解することができない。
b 本件明細書に記載されている「ASTM 316に従って平均および最大細孔径を測定した」(本件明細書、段落[0008])と記載されているが、「ASTM F316」は存在するものの、「ASTM 316」は存在しない。
(イ)本件発明4
本件明細書に記載されている「ASTM 316に従って平均および最大細孔径を測定した」(本件明細書、段落[0008])と記載されているが、「ASTM F316」は存在するものの、「ASTM 316」は存在しない。
イ 当審の判断
(ア)本件発明1
aの主張について
訂正後の請求項1は「ポリビニルアルコール繊維を含むポリビニルアルコールおよびテンセル繊維の繊維ブレンドを含」む「アルカリ電池セパレーター」となったので、ポリビニルアルコールの含有量の上限値である60質量%のすべてが可溶性PVAで構成される場合は含まれない。
よって、aの主張を採用できない。
bの主張について
本件明細書には「ASTM 316に従って平均および最大細孔径を測定した」と記載されているのであるから、「ASTM 316」は細孔径の測定に関する「ASTM F316」の誤りであることは明らかであり、本件発明1を実施できないほど、不明確な記載とはいえない。
よって、bの主張を採用できない。
(イ)本件発明4
本件明細書には「ASTM 316に従って平均および最大細孔径を測定した」と記載されているのであるから、「ASTM 316」は細孔径の測定に関する「ASTM F316」の誤りであることは明らかであり、本件発明4を実施できないほど、不明確な記載とはいえない。
よって、上記主張を採用できない。
(5)まとめ
したがって、特許異議申立人の申立理由1-5にかかる主張は、いずれも採用することができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-701043