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特許異議申立

2019-700225

液晶ポリエステルマルチフィラメント

審判番号
2019-700225
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-072903
登録番号
特許第6395054号(P6395054)
請求日
2019年03月22日
審決日
2020年06月30日
公報発行日
2020年10月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】東レ株式会社
  • 【権利者代理人】伴 俊光
  • 【権利者代理人】細田 浩一
  • 【異議申立人】今吉 未穗子
審判長/審判官
  • 審判長 門前 浩一
  • 審判官 久保 克彦
  • 審判官 佐々木 正章
分類
P1651.113-YAA(D01F) / P1651.121-YAA(D01F) / P1651.536-YAA(D01F) / P1651.537-YAA(D01F)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第113条第2号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第4号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項、特許法第120条の8
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6395054号発明「液晶ポリエステルマルチフィラメント」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6395054号の特許請求の範囲を令和2年2月6日に提出した訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6395054号の請求項1ないし4、6、7に係る特許を維持する。 特許第6395054号の請求項5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6395054号の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成27年3月31日を出願日とするもので、平成30年9月7日にその特許権の設定登録がされ、平成30年9月26日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。 平成31年3月22日  特許異議申立人今吉未穗子(以下「申立人」という。また、提出された本件の特許異議申立書を、以下「申立書」という。)による本件特許異議の申立て 令和元年6月11日付け 取消理由通知書 令和元年8月9日    特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和元年9月10日   申立人による意見書の提出 令和元年12月16日  取消理由通知書(決定の予告) 令和2年2月6日    特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和2年3月9日    申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否 1. 訂正の内容 特許権者は、上記令和2年2月6日提出の訂正請求書によって、本件特許請求の範囲の請求項1~7を、以下の事項により特定されるとおりに訂正することを請求する(下線は、訂正箇所である。)。上記令和2年2月6日提出の訂正請求書による訂正請求を、以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。なお、原文がローマ数字にて記載されている場合には、大文字アルファベットの「I」、「V」を組み合わせて、「IV」等と代用表記する。 なお、本件訂正請求がされたことにより、上記令和元年8月9日に提出された訂正請求書による訂正は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 (1) 訂正事項1 本件訂正前の請求項1を以下のとおりに訂正する。(請求項1を引用する請求項2~4、6、7も、同様に訂正する。) 「【請求項1】 p-ヒドロキシ安息香酸単位および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸単位から構成される液晶ポリエステル、または、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される液晶ポリエステルからなり、単繊維内の繊維径バラツキが2.3%以下であり、単繊維間の繊維径バラツキが1.4%以下である、液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸。 【化1】 」 (2) 訂正事項2 本件訂正前の請求項2~4を、以下の事項により特定されるとおりにそれぞれ訂正する。 (請求項2を引用する請求項3、4、6、7を、請求項2と同様に訂正する。 請求項3を引用する請求項4、6、7を、請求項3と同様に訂正する。 請求項4を引用する請求項6、7を、請求項4と同様に訂正する。) 「【請求項2】 単繊維繊度が1~20dtexである、請求項1に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸。 【請求項3】 単繊維数が10~500本である、請求項1または2に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸。 【請求項4】 総繊度が100~3000dtexである、請求項1~3のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸。」 (3) 訂正事項3 本件訂正前の請求項5を削除する。 (4) 訂正事項4 本件訂正前の請求項6を以下のとおり訂正する。 (請求項6を引用する請求項7を、同様に訂正する。) 「【請求項6】 前記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される液晶ポリエステルからなり、構造単位(I)の割合が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40~85mol%であり、構造単位(II)の割合が構造単位(II)および(III)の合計に対して60~90mol%であり、構造単位(IV)の割合が構造単位(IV)および(V)の合計に対して40~95mol%である、請求項1~4のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸。」 (5) 訂正事項5 本件訂正前の請求項7を、以下の事項により特定されるとおりに訂正する。 「【請求項7】 60℃以上~100℃未満の温度条件下かつ1.0Pa以下の減圧下で乾燥した液晶ポリエステル樹脂を溶融して紡糸して得られた請求項1~4および6のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸を熱処理することを特徴とする液晶ポリエステルマルチフィラメントの熱処理糸の製造方法。」 なお、本件訂正前の請求項1~7は、請求項2~7が、訂正の請求の対象である請求項1を直接あるいは間接に引用するものであるから、本件訂正請求は、特許法120条の5第4項に規定される一群の請求項〔1~7〕について請求されたものである。 2. 訂正の目的の適否、新規事項有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1) 訂正事項1 ア. 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載された「液晶ポリエステル」が、「p-ヒドロキシ安息香酸単位および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸単位から構成される液晶ポリエステル、または、上記1.(1)に摘記した【化1】の構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成されるものに限定するものである。 そして、本件訂正前の請求項1に記載された「単繊維内の繊維径バラツキ」が「5.0%以下」と数値範囲で特定され、そして、「単繊維間の繊維径バラツキ」が「5.0%以下」と数値範囲で特定されたものであるのを、それぞれ「2.3%以下」と「1.4%以下」に当該数値範囲を狭めるものである。 また、本件訂正前の「液晶ポリエステルマルチフィラメント」は「紡糸原糸」かあるいは「熱処理糸」のいずれかであるところ、訂正事項1は、「液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸」と「紡糸原糸」に限定するものである。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ. 新規事項有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は本件訂正前の【請求項5】の「下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される液晶ポリエステル」という記載、本件特許明細書の段落【0021】の「本発明に用いる前記モノマー等を重合した液晶ポリエステルの好ましい例としては、p-ヒドロキシ安息香酸成分と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸成分が共重合された液晶ポリエステル・・・が挙げられる。」という記載、同段落【0101】に記載された「実施例8」の「液晶ポリエステル樹脂として、p-ヒドロキシ安息香酸単位が全体の73mol%、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸単位が27mol%からなる液晶ポリエステル樹脂を用いたこと以外は実施例2と同様の方法で液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。・・・」という記載、そして、同段落【0106】の【表1】に記載された「紡糸原糸」の「実施例2」及び「実施例6」の、それぞれ「単繊維内の繊維径バラツキ」、「単繊維間の繊維径バラツキ」が、「2.3%」及び「1.4%」であるとの記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2) 訂正事項2 ア. 訂正の目的の適否 (ア)訂正事項2のうち、本件訂正前の請求項4に記載された「dex」を「dtex」とする訂正について検討する。 本件特許明細書の段落【0039】には「本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの総繊度は、100~3,000dtexが好ましく、150~2,500dtexであることがより好ましく、200~2000dtexであることがさらに好ましい。100~3,000dtexとすることで生産効率が高く、原糸使用量が極めて多い産業資材用途に好適である。また、紡糸で得られたサンプルを分繊あるいは合糸して総繊度が100~3,000dtexの液晶ポリエステルマルチフィラメントとすることも何等差し支えない。・・・」という記載があり、「総繊度」が「100~3,000」の数値範囲を示す際の単位として「dtex」を用いている。さらに、段落【0106】の【表1】においても、総繊度の単位として「dtex」を用いている。一方、「dex」は、本件訂正前の請求項4以外には記載されていない。そうすると、本件訂正前の請求項4に記載された「dex」は、正しくは「dtex」と記載すべきものの誤記であることは明らかである。よって、本件訂正前の請求項4に記載された「dex」を、「dtex」と訂正するのは、明らかな誤記である「dex」を本件の正しい記載である「dtex」に正すものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定される誤記の訂正に該当する。 (イ) 訂正事項2のうち、本件訂正前の請求項2~4の各々に記載された「液晶ポリエステルマルチフィラメント」を「液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸」と訂正することは、「液晶ポリエステルマルチフィラメント」が「紡糸原糸」あるいは「熱処理糸」のいずれであるか特定されていなかったものを、「液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ.新規事項有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項2は、本件特許明細書の段落【0035】の「本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの単繊維内の繊維径バラツキ(CV%)は5.0%以下であることが必須である。また、3.0%以下であることがより好ましい。単繊維内の繊維径バラツキを5.0%以下とすることで、熱処理後の単繊維長手方向の強度および伸度バラツキが小さくなり、物性安定性に優れるため、一般産業資材用途に好適に使用できる。なお、本発明でいう単繊維内の繊維径バラツキ(CV%)は実施例に記載した手法により求められる値を指す。」という記載、同【0071】の「かくして得られた本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、単繊維内繊維径バラツキと単繊維間繊維径バラツキが5.0%以下であるため、熱処理により高強度・高弾性化する際に、単繊維内ならびに単繊維間の物性の均一性を高めることができ、品位・品質に優れる。このように、高強度、高弾性、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、低吸湿特性を有する液晶ポリエステルマルチフィラメントは、一般産業用途で好適に用いることができる。」という記載、そして、段落【0106】の【表1】には、「紡糸原糸」に係る「単繊維繊度」、「単繊維数」及び「総繊度」の記載、以上から、訂正事項2のうち、請求項2~4にそれぞれ特定された「単繊維繊度」、「単繊維数」及び「総繊度」を、「紡糸原糸」のものに限定する訂正は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (3) 訂正事項3 訂正事項3は、本件訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 訂正事項3が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもないことは明らかである。 (4) 訂正事項4 ア. 訂正の目的の適否 (ア) 訂正事項4のうち、「前記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される液晶ポリエステルからなり、」との構成を付加する訂正、及び、「請求項1~4のいずれかに」との構成を付加する訂正は、本件訂正前の請求項6の記載を、訂正事項3の本件訂正前の請求項5を削除する訂正に伴い記載を整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定される明瞭でない記載の釈明に該当する。 (イ) 訂正事項4のうち、本件訂正前の「液晶ポリエステルマルチフィラメント」を、「液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸」とする訂正は、「液晶ポリエステルマルチフィラメント」が「紡糸原糸」あるいは「熱処理糸」のいずれであるか特定されていなかったものを、「液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 イ. 新規事項有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 そして、訂正事項4は、本件訂正前の請求項5、及び、上記2.(2)イ.に示したとおりであるから、訂正事項4は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもないことは明らかである。 (5) 訂正事項5 ア. 訂正の目的の適否 (ア) 訂正事項5のうち、本件訂正前の請求項7に記載された「溶融して紡糸する」「液晶ポリエステル樹脂」について、「100度未満の温度条件下で乾燥した」「液晶ポリエステル」とあったものを、「60℃以上~100℃未満の温度条件下かつ1.0Pa以下の減圧下で乾燥した」とする訂正は、「乾燥」する際の温度についての数値範囲を狭め、加えて、圧力についての条件を付加する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (イ) 訂正事項5のうち、本件訂正前の「液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法」を、「液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸を熱処理することを特徴とする液晶ポリエステルマルチフィラメントの熱処理糸の製造方法」とする訂正は、製造しようとする対象物が、「液晶ポリエステルマルチフィラメントの熱処理糸」であるこことを明らかにしようとするものであるから、 特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する明瞭でない記載の釈明に該当する。 (ウ) 訂正事項5のうち、本件訂正前の「請求項1~6」を、「請求項1~4及び6」とする訂正は、訂正事項3の本件訂正前の請求項5を削除する訂正に整合させるために、請求項5を引用しないものとする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定される明瞭でない記載の釈明に該当する。 イ. 新規事項有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項5は、本件特許明細書の段落【0041】の「各種液晶ポリエステルの乾燥における温度条件は、100℃未満であれば何ら限定されないが、60℃以上~100℃未満が好ましく、・・・」という記載、及び、段落【0042】の「・・・また、乾燥効率を上げて、乾燥時間を少しでも短くするためには、減圧下、例えば真空下で乾燥することも何ら問題ない。圧力としては、1.0Pa以下が好ましく、0.5Pa以下がより好ましく、・・・」という記載、そして、段落【0109】の「・・・溶融紡糸に使用する液晶ポリエステルの乾燥を100℃未満の低温で長時間行うことで、溶融紡糸において、単繊維内繊維径バラツキと単繊維間繊維径バラツキが5.0%以下に制御された液晶ポリエステルマルチフィラメントが曳糸性良く安定紡糸できることが分かる。このように、単繊維内および単繊維間の繊維径が均一であるため、熱処理により、格段に物性バラツキの小さい高強度・高弾性の液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られるのである。」という記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3. 訂正についての小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号~第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 第3 本件訂正後の本件発明 上記第2に示したとおり、本件訂正請求は認められたから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4、6、7に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、これらの発明を総称して、単に「本件発明」ということがある。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~4、6、7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 【請求項1】 p-ヒドロキシ安息香酸単位および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸単位から構成される液晶ポリエステル、または、下記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される液晶ポリエステルからなり、単繊維内の繊維径バラツキが2.3%以下であり、単繊維間の繊維径バラツキが1.4%以下である、液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸。 【化1】 【請求項2】 単繊維繊度が1~20dtexである、請求項1に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸。 【請求項3】 単繊維数が10~500本である、請求項1または2に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸。 【請求項4】 総繊度が100~3000dtexである、請求項1~3のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸。 【請求項6】 前記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される液晶ポリエステルからなり、構造単位(I)の割合が構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40~85mol%であり、構造単位(II)の割合が構造単位(II)および(III)の合計に対して60~90mol%であり、構造単位(IV)の割合が構造単位(IV)および(V)の合計に対して40~95mol%である、請求項1~4のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸。 【請求項7】 60℃以上~100℃未満の温度条件下かつ1.0Pa以下の減圧下で乾燥した液晶ポリエステル樹脂を溶融して紡糸して得られた請求項1~4および6のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸を熱処理することを特徴とする液晶ポリエステルマルチフィラメントの熱処理糸の製造方法。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 当審は、令和元年6月11日付け取消理由通知書で、以下の「理由1」~「理由5」の取消理由を通知した。 そして、令和元年12月16日付け取消理由通知書(決定の予告)において、下記【理由5】の5.(2)に示す理由を追加をした。 理由1.(新規性) 本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許に係る出願の出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 理由2.(進歩性) 本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許に係る出願の出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 理由3.(実施可能要件) 本件特許の発明の詳細な説明の記載は、下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 理由4.(サポート要件) 本件特許の特許請求の範囲の記載は、下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 理由5.(明確性) 本件特許の、特許請求の範囲の記載は、下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 また、申立人が特許異議申立書に添付して提出した、甲第1号証等を単に甲1等という。また、甲1等に記載された発明及び事項を、それぞれ「甲1発明」及び「甲1事項」という。 < 引 用 文 献 等 一 覧> 甲1:特開平5-331708号公報 甲2:特開2008-240229号公報 1. 【理由1】(新規性) 本件発明1~4について 本件発明1~4は、いずれも甲1発明である。 よって、本件発明1~4は、いずれも、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、それらに係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として取り消されるべきものである。 2. 【理由2】(進歩性) (1) 本件発明1について 本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それにかかる特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として、取り消されるべきものである。 (2) 本件発明2~4について 本件発明2~4の各々は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、それらに係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 (3) 本件発明6について 本件発明6は、甲1発明及び甲2事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件発明6に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 (4) 本件発明7について 甲1発明において、用いる液晶ポリエステル樹脂を、100℃未満の温度条件下で乾燥したものを用いることに、格別の困難性は認められない。 3. 【理由3】(実施可能要件) 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、後記する理由により、実施例1~8が記載されているものの、当該実施例1~8以外の液晶ポリエステル樹脂からなる本件発明1の液晶ポリエステルマルチフィラメントを、当業者はどのように得るのか理解できるとはいえない。 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 液晶ポリエステルに含まれるオリゴマーは、液晶ポリエステルを構成するモノマーの種類に応じて異なるため、あらゆる液晶ポリエステルに対して60℃以上~100℃未満の比較的低温で長時間乾燥を行えば、必ず本件発明1の液晶ポリエステルマルチフィラメントを得ることができる程度にオリゴマーを除去できるとは限らない。 4. 【理由4】(サポート要件) (1) 本件発明1~4について 本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明1の液晶ポリエステルマルチフィラメントについて、2種類の液晶ポリエステルについてしか、実施例を記載していない。 してみると、発明の詳細な説明において、「単繊維内の繊維径バラツキと単繊維間の繊維径バラツキが改善された液晶ポリエステルマルチフィラメントを提供する」との課題を解決できると理解できる範囲は、上記2種類の液晶ポリエステルについてのみであり、当該記載から、出願時の技術常識に照らして、本件発明1と、本件発明1を引用する本件発明2~4に特定される範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない。 (2) 本件発明7について 本件発明7は、「100℃未満の温度条件」のみを特定するものであるところ、発明の詳細な説明においては、いずれの実施例においても「真空度0.067Pa」の真空度で乾燥が行われている。本件特許明細書の発明の詳細な説明において、当業者が「単繊維内の繊維径バラツキと単繊維間の繊維径バラツキが改善された液晶ポリエステルマルチフィラメントを提供する」という課題を解決できるように記載された範囲は、出願時の技術常識に照らしても、本件発明7の「100℃未満の温度条件下」以外のあらゆる乾燥条件を含み得る範囲にまで、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない。 5. 【理由5】(明確性) 本件発明1~7は、次の点で明確ではないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないので、それらに係る特許は、特許法第113条第4号の規定に該当することを理由として取り消されるべきものである。 (1) 本件発明1に特定された「単繊維内の繊維径バラツキ」及び「単繊維間の繊維径バラツキ」の意味は不明確である。 本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものにおいては、単繊維内の繊維径バラツキは均等化にともない単繊維間の指標を加えており、単繊維間の繊維径バラツキは均等化に伴い単繊維内の指標を加えている。そうすると、単繊維内の繊維径バラツキ及び単繊維間の繊維径バラツキをそれぞれ別々に規定している意義が薄れてしまうと解される。 以上のとおりであるから、上記「単繊維内の繊維径バラツキ」及び「単繊維間の繊維径バラツキ」の意味は、とりわけ発明の詳細な説明の記載を参酌すると、不明確である。 (2) 本件発明1は、「単繊維内」の「繊維径のバラツキ」及び「単繊維間」の「繊維径のバラツキ」が特定されているが、当該「単繊維」が、紡糸原糸であるか、熱処理糸であるかが明確ではない。本件特許明細書の段落【0106】【表1】をみると、実施例1~8について、「単繊維」が「紡糸原糸」と「熱処理糸」の両方について記載されており、本件特許明細書の記載を参酌しても、判然としない。 よって、本件発明1と本件発明1を引用する本件発明2~4は明確であるとはいえない。 さらに、本件発明2の「単繊維繊度」、同3の「単繊維数」及び同4の「総繊度」についても、同様に明確であるとはいえない。 〔以下、令和元年12月16日付け取消理由通知で追加した取消理由の概要〕 令和元年8月9日にした訂正請求に係る訂正後の請求項1は、「紡糸原糸の単繊維内の繊維径バラツキ」及び「紡糸原糸の単繊維間の繊維径バラツキ」という記載を含むものであるところ、本件発明1の「液晶ポリエステルマルチフィラメント」自体が、紡糸原糸であるか、熱処理糸であるかが依然として明確ではない。 (3) 本件発明4に総繊度の単位として記載された「dex」の意味が明確ではない。「dex」が誤記であるにしても、繊度の単位としては、「dtex」や「tex」があり、そのどちらであるかが明確ではない。 (4) 本件発明7について 本件発明7には、「100℃未満の温度条件で乾燥した」という記載があるが、単に温度条件の上限値だけを特定する記載であり、20℃程度の室温だけに限らず、0℃以下の温度条件も含まれており、発明の範囲が明確であるとはいえない。 (5) 本件発明2~7について 上記のとおり、本件発明1~4及び7には不明確な記載があるから、これらの発明を直接あるいは間接に引用する本件発明2~7は、同様に明確ではない。 第5 当審の判断 【理由1】(新規性)について (1) 本件発明1について ア.甲1に記載された発明 甲1には、以下の甲1発明が記載されている。 「単繊維からなる液晶ポリエステル糸条であって、単繊維繊度が5.6dtex であり、単繊維数が150本であり、総繊度が833dtexである、繊維軸方向及び断面方向の単糸繊度変動率が、各々5.2%及び4.7%の液晶ポリエステル糸条」 本件特許発明1との対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、以下の点で少なくとも相違する。 <相違点1> 本件特許発明1の液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸は、「単繊維内の繊維径バラツキが2.3%以下であり、単繊維間の繊維径バラツキが1.4%以下である」のに対し、甲1発明「液晶ポリエステル糸条」の「単繊維内の繊維径」と「単繊維間の繊維径」のそれぞれの「バラツキ」について、特定がされていない点。 ウ. 検討 そこで検討する。 同じ繊維であるならば、繊度は、繊維の断面積に比例するであろうことは当業者にとって技術常識であるから、繊維径dが比率φだけ変動し、それに伴って断面積の変動が比率γであるとすると、令和元年6月11日付け取消理由通知の【理由1】に示したように φ=γ/2 であるといえる。そして、甲1発明は、「繊維軸方向及び断面方向の単糸繊度変動率が、各々5.2%及び4.7%」であるから、繊維径のバラツキは、各々の半分の2.6%、2.35%である蓋然性が高いものの、それぞれ2.3%、及び、1.4%を下回る蓋然性が高いとまではいえないから、上記<相違点1>は形式的な相違点ではなく、実質的な相違点である。 そうすると、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。 よって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するとはいえないので、本件発明1に係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として、取り消されるべきものであるとはいえない。 (2) 本件発明2~4について 本件発明2~4の各々と甲1発明とを対比すると、いずれも、少なくとも上記<相違点1>において相違する。 そして、上記(1)ウ.に示したとおり、<相違点1>は実質的な相違点であるから、本件発明2~4は、いずれも甲1発明であるとはいえない。 よって、本件発明2~4は、いずれも、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するとはいえないから、それらに係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として、取り消されるべきあるとはいえない。 【理由2】(進歩性)について (1) 本件発明1について ア. 上記1.(1)ウ.に示したように、上記<相違点1>は実質的な相違点であるところ、次に、進歩性の取消理由である【理由2】について検討する。 甲1の段落【0025】には「・・・本発明で特定する範囲内の実施例4及び5は紡糸性が良好で、得られた糸条の単糸繊度変動率も小さく、均一な糸条であったが、」という記載から、甲1には、糸条の単糸繊度変動率を小さくし、均一な糸条とすることの動機付けが、少なくとも示唆されているといえる。しかし、甲1には、単繊維内の繊維径のバラツキと、単繊維間の繊維径のバラツキを、それぞれ2.3%、1.4%以下にまで小さくすることの記載はないし、示唆する記載もない。また、他の甲号証にも記載はないし、示唆する記載はない。そうすると、甲1の記載に接した当業者が、糸状の「単繊維内の繊維径のバラツキと、単繊維間の繊維径のバラツキを、それぞれ2.3%、1.4%以下」とすることが、容易に想到し得た事項であるとはいえない。 イ. 本件発明1は、上記繊維径と、単繊維間の繊維径のバラツキが、それぞれ2.3%以下、及び、1.4%以下とすることで、より一層の「熱処理による高強度・高弾性化において、単繊維内ならびに単繊維間の物性の均一性を高めることができ、品質安定性に優れることから、高強度ロープやスリング等の産業資材洋とに公的な繊維材料を提供することができる。また、従来技術では困難であった均一な単繊維を有する単繊維細繊度糸も曳糸性よく得られるため、マルチフィラメントとしての柔軟性が向上し、高次加工でのハンドリングや工程通過性が良好となる。」(本件特許明細書 段落【0013】)との格別な作用効果を奏するものである。 ウ. 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、したがって、本件発明1に係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として、取り消されるべきであるとはいえない。 (2) 本件発明2~4、6、7 本件発明2~4、6、7は、直接あるいは間接に本件発明1を引用する発明である。上記(1)に示したように、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、それらに係る特許は、特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として、取り消されるべきものであるとはいえない。 3. 【理由3】(実施可能要件)について (1) 本件発明1について 本件特許明細書の段落【0106】【表1】に記載された「実施例2」、「実施例3」、「実施例5」及び「実施例6」に注目する。 これらの実施例の「液晶ポリエステル樹脂」は、【表1】では、「※1」と記載され、「表中の※1はp-ヒドロキシ安息香酸単位(54mol%)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル単位(16mol%)、イソフタル酸単位(8mol%)、テレフタル酸単位(15mol%)、ヒドロキノン単位(7mol%)からなる液晶ポリエステル樹脂を示」(段落【0108】)すところ、「p-ヒドロキシ安息香酸単位」、「4,4’-ジヒドロキシビフェニル単位」、「イソフタル酸単位」、「テレフタル酸単位」及び「ヒドロキノン単位」は、それぞれ本件発明の「構造単位(I)」、「構造単位(II)」、「構造単位(V)」、「構造単位(IV)」及び「構造単位(III)」である。 そうすると、「実施例2」、「実施例3」、「実施例5」及び「実施例6」の液晶ポリエステルは、それぞれ本件特許発明1の「構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)から構成される液晶ポリエステル」である。 そして、本件発明1は、「液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸」であるから、その「繊維径バラツキ」及び「単繊維間の繊維径バラツキ」は、当該【表1】の「紡糸原糸」の欄をみると、いずれの「実施例」も、「単繊維内の繊維径のバラツキ」は本件発明1で特定された「2.3%」以下であり、「単繊維間の繊維径バラツキ」は本件発明1で特定された「1.4%」以下である。 さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0088】~【0099】には、「実施例2」、「実施例3」、「実施例5」及び「実施例6」の製造方法が一応記載されている。 そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない、とはいえない。 (2) 本件発明2~4について 本件特許明細書の発明の詳細な説明の、特に上記段落【0106】の【表1】及び段落【0108】をみると、本件発明2~4において特定されている構成を備えた実施例が記載されていて、かつ、上記(1)に示したように、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0088】~【0096】、【0098】、【0099】には、「実施例2」、「実施例3」、「実施例5」及び「実施例6」の製造方法が一応記載されている。 そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、本件発明2~4のそれぞれを当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない、とはいえない。 (3) 本件発明6について 上記(1)に示したように、「p-ヒドロキシ安息香酸単位」、「4,4’-ジヒドロキシビフェニル単位」、「イソフタル酸単位」、「テレフタル酸単位」及び「ヒドロキノン単位」は、それぞれ本件発明の「構造単位(I)」、「構造単位(II)」、「構造単位(V)」、「構造単位(IV)」及び「構造単位(III)」であるから、本件特許明細書の段落【0108】の「表中の※1はp-ヒドロキシ安息香酸単位(54mol%)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル単位(16mol%)、イソフタル酸単位(8mol%)、テレフタル酸単位(15mol%)、ヒドロキノン単位(7mol%)からなる液晶ポリエステル樹脂を示」すという記載中のそれぞれの「単位」の「mol%」の値に基づいて計算すると、 ・構造単位(I)の割合:構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して、70.1% ・構造単位(II)の割合:構造単位(II)および(III)の合計に対して、69.7% ・構造単位(IV)の割合:構造単位(IV)および(V)の合計に対して、65.2% と、本件発明6で特定されたいずれの構造単位の割合の範囲内のものである。 そして、上記(1)に示したように、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0088】~【0096】、【0098】及び【0099】には、「実施例2」、「実施例3」、「実施例5」及び「実施例6」の製造方法が一応記載されている。 よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明6を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない、とはいえない。 (4) 本件発明7について 上記第2の2.(5)に示したイ.にように、訂正事項5に係る本件発明7の構成に、新規事項の追加はないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明7の「液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸を熱処理することを特徴とする液晶ポリエステルマルチフィラメント熱処理糸の製造方法」が記載されていて、特に本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0088】~【0096】、【0098】及び【0099】には、当該製造方法の実施例が一応記載されている。 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、本件発明7を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえない。 (4) 【理由3】の小括 以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しないとまではいうことはできないから、本件発明1~7に係る特許は、特許法第113条第4号の規定に適合しないことを理由として、取り消すことはできない。 4. 【理由4】(サポート要件)について (1) 本件発明の課題について 本件特許明細書には、本件発明が解決しようとする課題について、以下の記載がある。 「【0007】 ・・・液晶ポリエステルの溶融紡糸では、口金吐出時に分子鎖が高配向するとともに、吐出後の固化速度が極めて速いため、単繊維内および単繊維間で繊維径バラツキを生じやすく、均一な単繊維径を有する液晶ポリエステル繊維を安定紡糸することが難しいという課題があった。特に単繊維細繊度化時、例えば単繊維繊度5dtex以下を溶融紡糸する際には、糸切れが多発する等、曳糸性が悪化するおそれがある。」 「【0011】 そこで、本発明は、前記従来技術の有する問題を解決し、単繊維内の繊維径バラツキと単繊維間の繊維径バラツキが改善された液晶ポリエステルマルチフィラメントを提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0012】 上記課題を達成するために、本発明は次の構成を有する。すなわち、単繊維内の繊維径バラツキが5.0%以下であり、単繊維間の繊維径バラツキが5.0%以下であることを特徴とする液晶ポリエステルマルチフィラメントである。」 そうすると、本件発明は、従来の液晶ポリエステルの溶融紡糸が、口金吐出時に分子鎖が高配向するとともに、吐出後の固化速度が極めて速いため、単繊維内および単繊維間で繊維径バラツキを生じやすく、均一な単繊維径を有する液晶ポリエステル繊維を安定紡糸することが難しいということを、解決しようとする課題とするものであって、当該課題を解決するために、単繊維内の繊維径バラツキを5.0%以下であり、単繊維間の繊維径バラツキを5.0%以下とするものである。 (2) 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の【特許請求の範囲】の【請求項1】は、上記第3に示したとおりである。そして、【請求項1】は、「単繊維内の繊維径バラツキ」が、「2.3%以下」であり、単繊維間の繊維径バラツキが「1.4%以下」である液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸」である。そして、当該装置範囲に含まれる実施例である「実施例2」、「実施例3」、「実施例5」及び「実施例6」について、本件特許明細書の段落【0106】【表1】をみると、「曳糸性」及び「糸切れ」がいずれの実施例についても「◎」及び「0回/時間」であるから、「糸切れが多発」し、「曳糸性が悪化する」ことを妨げるものであるといえるから、本件発明1は、上記課題を解決することが理解できる。 そうすると、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2~4、6、7は、いずれも、上記(1)に示した本件発明の課題を解決するものであるといえるから、本件発明1~4、6、7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明でないとはいえず、本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1項の規定に違反するので、その特許は、特許法第113条第4号の規定に適合しないことを理由として取り消すことはできない。 5. 【理由5】(明確性)について (1) 上記第4の5.(1)の理由について ア. 本件訂正後の本件発明1の、「液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸」の「単繊維内の繊維径のバラツキ」とは、「単繊維内の繊維径」において「バラツキ」、すなわち複数の値を測定するためには、繊維径を測定する位置を単繊維の長手方向において複数箇所とらなければならないところ、「紡糸原糸」を構成する「単繊維内」において測定した複数の長手方向に異なる位置の「繊維径」の「バラツキ」を意味することが理解でき、その理解は、本件特許明細書の「マルチフィラメントを分繊して試長1000mmの単繊維とし、マイクロスコープを用いて分繊した単繊維を観察して、繊維軸と垂直方向の単繊維幅を単繊維径として測定した。この操作を1000mmとした単繊維の繊維長手方向にN=5回(200mm毎)測定した際の平均単繊維径および単繊維径標準偏差から、下記式に基づき、単繊維内の繊維径バラツキ(CV%)を求めた。」(段落【0085】)の記載と整合する。 イ. 本件訂正後の本件発明1の、「液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸」の「単繊維間の繊維径のバラツキ」とは、「紡糸原糸」が、複数の単繊維が紡糸されたものであることは、明らかであるから、紡糸により紡糸原糸とされた「単繊維」それぞれの間における「繊維径」の「バラツキ」であると理解できる。そして当該理解は、本件特許明細書の「マルチフィラメントをエポキシ樹脂で包埋し、Reichert社製FC・4E型クライオセクショニングシステムで凍結し、ダイヤモンドナイフを具備したReichert-Nisseiultracut N(ウルトラミクロトーム)で切削した後、その切削面を(株)キーエンス製VE-7800型走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影した。得られた全単繊維の写真について、画像処理ソフト(WINROOF)を用いて全ての外接円径(単繊維径)を測定し、平均単繊維径および単繊維径標準偏差から、下記式に基づき、単繊維間の繊維径バラツキ(CV%)を求めた。」(段落【0086】)という記載と整合する。 ウ. 以上のとおりであるから、上記第4の5.(1)の理由により、本件発明1と本件発明1を引用する本件発明2~4、6、7が明確ではないとはいえない。 (2) 上記第4の5.(2)の理由について 本件訂正の訂正事項1により、本件発明1の「液晶ポリエステルマルチフィラメント」は、「液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸」と訂正され、本件発明1の「単繊維」、本件発明2の「単繊維繊度」、本件発明3の「単繊維数」及び本件発明4の「総繊度」は、それぞれ「紡糸原糸」のものであることが明らかとなったから、上記第4の5.(2)の取消理由は解消した。 (3) 上記第4の5.(3)の理由について 本件訂正の訂正事項2により、本件発明4は、訂正前の「dex」が、「dtex」と訂正されたから、上記第4の5.(3)の取消理由は解消した。 (4) 上記第4の5.(4)の理由について 本件訂正の訂正事項5により、本件発明7は、「60℃以上~100℃未満の温度条件下・・・で乾燥した液晶ポリエステル樹脂」と温度条件の下限値も特定されたから、上記第4の5.(4)の取消理由は解消した。 (5) 上記第4の5.(5)の理由について 上記(1)~(4)に示したとおり、上記第4の5.(1)~(4)の取消理由は解消したから、上記第4の5.(5)の取消理由も消した。 (6) 【理由5】の小括 以上のとおりであるから、本件発明1~4、6、7は明確ではないとはいえないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないとはいえず、それらの特許は、特許法第113条第4号に規定に該当することを理由として取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本件発明1~4、6、7に係る特許は、令和元年6月11日付けで通知した取消理由、令和元年12月16日付けで通知した取消理由(決定の予告)、及び、申立書に記載した特許異議申立理由によって、本件発明1~4、6、7に係る特許を取り消すことはできない。 本件発明5に係る特許は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項5に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。よって、本件発明5に係る特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。

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2019-700225

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