特許異議申立
2020-700395
液晶ポリエステルマルチフィラメントおよびその製造方法
- 審判番号
- 2020-700395
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-055406
- 登録番号
- 特許第6617626号(P6617626)
- 請求日
- 2020年06月09日
- 審決日
- 2021年09月14日
- 公報発行日
- 2021年12月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東レ株式会社
- 【異議申立人】今吉 未穗子
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 佐々木 正章
- 審判官 藤原 直欣
- 分類
- P1651.113-YAA(D01F) / P1651.121-YAA(D01F) / P1651.536-YAA(D01F) / P1651.537-YAA(D01F)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6617626号発明「液晶ポリエステルマルチフィラメントおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6617626号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
特許第6617626号の請求項4、5に係る特許を維持する。
特許第6617626号の請求項1~3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6617626号の請求項1~5に係る特許についての出願は、平成28年3月18日に特許出願したものであって、令和元年11月22日にその特許権の設定登録がされ、令和元年12月11日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。
令和2年6月9日:特許異議申立人今吉未穗子(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和2年8月20日付け:取消理由通知書
令和2年10月19日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年11月25日:申立人による意見書の提出
令和3年1月5日付け:訂正拒絶理由通知書
令和3年2月1日:特許権者による意見書及び手続補正書の提出
令和3年3月30日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年5月28日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
特許法第120条の5第5項の規定により、令和3年6月11日付けで期間を指定して申立人に意見書を提出する機会を与えたが、意見書の提出はなかった。
また、令和2年10月19日の訂正請求書による訂正の請求は、令和3年5月28日に訂正請求書が提出されたことにより、特許法第120条の5第7項の規定に基づき、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
令和3年5月28日提出の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6617626号の明細書、特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。(下線は当審で付した。)
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項4に
「液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメントを固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造するに際し、固相重合前に油剤を付与し、供給気体流量30NL/分以上、220℃以上の温度で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。」とあるのを、
「液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメントを固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造するに際し、固相重合前に反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、供給気体流量30NL/分以上、220℃以上の温度で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させることを特徴とする、糸-糸動摩擦係数が0.40~0.90であり、かつ直線強度が20cN/dtex以上である液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。」 に訂正する。(請求項4を引用する請求項5についても同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「固相重合後に油剤を付与し、150℃以上の温度で処理すること」とあるのを、
「固相重合後に反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、150℃以上固相重合後融点-40℃以下の温度で処理すること」に訂正する。
(6)訂正事項6
本件訂正前の明細書の【0011】~【0013】を削除する。
(7)訂正事項7
本件訂正前の明細書の【0014】に
「(4)液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメントを固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造するに際し、固相重合前に油剤を付与し、供給気体流量30NL/分以上、220℃以上の温度で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれかに記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。」とあるのを、
「(4)液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメントを固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造するに際し、固相重合前に反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、供給気体流量30NL/分以上、220℃以上の温度で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させることを特徴とする、糸-糸動摩擦係数が0.40~0.90であり、かつ直線強度が20N/dtex以上であるポリエステルマルチフィラメントの製造方法。」に訂正する。
(8)訂正事項8
本件訂正前の明細書の【0015】に
「(5)固相重合後に油剤を付与し、150℃以上の温度で処理すること」とあ
るのを、
「(5)固相重合後に反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、150℃以上固相重合後融点-40℃以下の温度で処理すること」に訂正する。
(9)訂正事項9
本件訂正前の明細書の【0089】、【0097】、【0099】、【0101】、【0109】、【0110】、【0111】に
「実施例1」とあるのを、
「参考実施例1」に訂正する。
(10)訂正事項10
本件訂正前の明細書の【0097】に
「実施例2、3」とあるのを、
「参考実施例2、参考実施例3」に訂正する。
(11)訂正事項11
本件訂正前の明細書の【0099】に
「実施例4,5」とあるのを、
「実施例4,参考実施例5」に訂正する。
(12)訂正事項12
本件訂正前の明細書の【0101】に
「実施例6」とあるのを、
「参考実施例6」に訂正する。
(13)訂正事項13
本件訂正前の明細書の【0103】に
「実施例7」とあるのを、
「参考実施例7」に訂正する。
(14)訂正事項14
本件訂正前の明細書の【0103】、【0105】、【0107】に
「実施例4」とあるのを、
「参考実施例6」に訂正する。
(15)訂正事項15
本件訂正前の明細書の【0105】に
「実施例8、9」とあるのを、
「参考実施例8、9」に訂正する。
(16)訂正事項16
本件訂正前の明細書の【0107】に
「実施例10」とあるのを、
「参考実施例10」に訂正する。
(17)訂正事項17
本件訂正前の明細書の【0114】の表1に
「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」、「実施例5」、「実施例6」、「実施例7」、「実施例8」、「実施例9」及び「実施例10」とあるのを、
それぞれ「参考実施例1」、「参考実施例2」、「参考実施例3」、「参考実施例5」、「参考実施例6」、「参考実施例7」、「参考実施例8」、「参考実施例9」及び「参考実施例10」に訂正する。
(18)訂正事項18
本件訂正前の明細書の【0116】に
「表1の実施例1~10から明らかなように、」とあるのを、
「表1の実施例4から明らかなように、」に訂正する。
(19)訂正事項19
本件訂正前の明細書の【発明の名称】に
「液晶ポリエステルマルチフィラメントおよびその製造方法」とあるのを、
「液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法」に訂正する。
ここで、訂正前の請求項1~5は、請求項2~5が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を直接又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項〔1~5〕について請求されている。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1~3について
ア 訂正の目的
上記訂正事項1~3は、本件訂正前の請求項1~3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1~3は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1~3は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
(2)訂正事項4について
ア 訂正の目的
上記訂正事項4は、本件訂正前の請求項4が請求項1~3のいずれかを引用するものであったものを、請求項1を引用するものに限定するとともに、その記載を請求項1を引用しない記載とし、さらに固相重合前に付与する「油剤」について、「反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)」ものに限定し、固相重合前に、「無機粒子は添加」しないことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項4は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項4は、本件特許明細書の【0060】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
(3)訂正事項5について
ア 訂正の目的
上記訂正事項5は、本件訂正前の請求項5の固相重合後に付与する「油剤」について、「反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)」ものに限定し、固相重合後に、「無機粒子は添加」しないこと、固相重合後の処理温度の上限を「固相重合後融点-40℃以下」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項5は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項5は、本願特許明細書の【0068】及び【0072】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
(4)訂正事項6~8について
ア 訂正の目的
上記訂正事項6~8は、上記訂正事項1~5に係る訂正により訂正される特許請求の範囲の請求項1~5の記載に、明細書の記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項6~8は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項6~8は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
(5)訂正事項9~13、15~17について
ア 訂正の目的
上記訂正事項9~13、15~17は、上記訂正事項1~5に係る訂正により訂正される特許請求の範囲の請求項1~5の記載に、本件特許明細書中の実施例の記載を整合させ、実施例でなくなったものを参考実施例とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項9~13、15~17は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項9~13、15~17は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
(6)訂正事項14について
ア 訂正の目的
上記訂正事項14は、訂正前の【0103】、【0105】、【0107】の「実施例4」が、本願明細書の【0114】の表1との関係で「実施例6」の明らかな誤記であるものを訂正するものであるから、誤記の訂正を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項14は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項14は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
(7)訂正事項18について
ア 訂正の目的
上記訂正事項18は、上記訂正事項1~5に係る訂正により訂正される特許請求の範囲の請求項1~5の記載に、本件特許明細書の【0116】の実施例の記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項18は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項18は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
(8)訂正事項19について
ア 訂正の目的
上記訂正事項19は、上記訂正事項1~5に係る訂正により訂正される特許請求の範囲の請求項1~5の記載に、本件特許明細書の【発明の名称】の記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項19は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項19は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
(9)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号~第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第4項~第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1~5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメントを固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造するに際し、固相重合前に反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、供給気体流量30NL/分以上、220℃以上の温度で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させることを特徴とする、糸-糸動摩擦係数が0.40~0.90であり、かつ直線強度が20cN/dtex以上である液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
【請求項5】
固相重合後に反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、150℃以上固相重合後融点-40℃以下の温度で処理することを特徴とする請求項4に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。」
第4 令和3年3月30日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由の概要
令和2年10月19日の訂正請求により訂正した請求項1~5に対して、令和3年3月30日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由は、以下の理由を含むものである。
(進歩性)請求項1~5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証:特許第2674062号公報
甲第2号証:特開2012-214949号公報
(以下単に「甲1」等という。)
第5 当審の判断
1.令和3年3月30日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由について
(1)本件発明4について
ア 甲2記載事項と甲2発明
甲2には、以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は高強度、高弾性率であり、かつ工程通過性、後加工性に優れる液晶ポリエステル繊維およびその製造方法に関するものである。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、高強度、高弾性率であり、繊維間の融着が少なく、かつ後工程での工程通過性に優れ、さらに製品にする際の後加工性に優れる固相重合された液晶ポリエステル繊維およびその製造方法を提供することにある。」
(ウ)「【0070】
本発明の液晶ポリエステル繊維の強度は、高次加工工程での糸切れを防ぎ、工程通過性を高めるため15.0cN/dtex以上が好ましく、18.0cN/dtex以上がより好ましく、20.0cN/dtex以上がさらに好ましい。強度の上限は、本発明においては40cN/dtex程度である。なお、本発明においては溶融紡糸して得た繊維を固相重合することで強度が増加する。」
(エ)「【0089】
参考例1
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器にp-ヒドロキシ安息香酸870重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル327重量部、ハイドロキノン89重量部、テレフタル酸292重量部、イソフタル酸157重量部および無水酢酸1460重量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、335℃まで4時間で昇温した。
重合温度を335℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に40分間反応を続け、トルクが28kgcmに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
得られた液晶ポリエステルの組成、融点、分子量は表1に記載の通りである。
【0090】
参考例2
攪拌翼、留出管を備えた5Lの反応容器に p-ヒドロキシ安息香酸907重量部と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸457重量部および無水酢酸946重量部(フェノ-ル性水酸基合計の1.03モル当量)を攪拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら室温から145℃まで30分で昇温した後、145℃で2時間反応させた。その後、325℃まで4時間で昇温した。
重合温度を325℃に保持し、1.5時間で133Paに減圧し、更に20分間反応を続け、所定トルクに到達したところで重縮合を完了させた。次に反応容器内を0.1MPaに加圧し、直径10mmの円形吐出口を1ケ持つ口金を経由してポリマーをストランド状物に吐出し、カッターによりペレタイズした。
得られた液晶ポリエステルの組成、融点、分子量は表1に記載の通りである。
【0091】
【表1】
【0092】
実施例1
参考例1の液晶ポリエステルを用い、160℃、12時間の真空乾燥を行った後、株式会社テクノベル製φ15mm2軸エクストルーダーにて溶融押し出しし、ギアーポンプで計量しつつ紡糸パックにポリマーを供給した。紡糸パックでは金属不織布フィルターを用いてポリマーを濾過し、表2記載の条件にてポリマーを吐出した。なお口金孔の直上に位置する導入孔はストレート孔とし、導入孔と口金孔の接続部分はテーパーとしたものを用いた。吐出したポリマーは40mmの保温領域を通過させた後、25℃、空気流の環状冷却風により糸条の外側から冷却し固化させ、その後、脂肪酸エステル化合物を主成分とする紡糸油剤を付与し、全フィラメントを表2記載の紡糸速度で第1ゴデットロールに引き取った。これを同じ速度である第2ゴデットロールを介した後、全フィラメント中の1本以外はサクションガンにて吸引し、残りのフィラメント数1の繊維はダンサーアームを介しパーンワインダー(神津製作所社製EFT型テークアップワインダー、巻取パッケージに接触するコンタクトロール無し)にてパーンの形状に巻き取った。巻取中、糸切れは発生せず製糸性は良好であった。得られた紡糸繊維物性を表2に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
この紡糸繊維パッケージから神津製作所社製SSP-MV型リワインダー(接触長200mm、ワインド数8.7、テーパー角45°)を用いて巻き返しを行った。紡糸繊維の解舒は、縦方向(繊維周回方向に対し垂直方向)に行い、調速ローラーは用いず、オイリングローラー(梨地仕上げのステンレスロール)を用いてリン酸系化合物(B)として下記化学式(4)
【0095】
【化2】
【0096】
で示されるリン酸系化合物(B1)を6.0重量%含有する水溶液に、無機粒子(A)として表3に滑石1として示すタルク、SG-2000(日本タルク株式会社製)を1.0重量%分散させた固相重合用油剤の給油を行った。巻き返しの芯材にはステンレス製の穴あきボビンにケブラーフェルト(目付280g/m2、厚み1.5mm)を巻いたものを用い、面圧は100gfとした。巻き返し後の繊維への固相重合油剤の油分付着率、ならびに巻き返し条件を表3に示す。
【0097】
次に巻き返したパッケージからステンレスの穴あきボビンを外し、ケブラーフェルトに繊維を巻き取ったパッケージの状態として固相重合を行なった。固相重合は、密閉型オーブンを用い、室温から240℃までは約30分で昇温し、240℃にて3時間保持した後、4℃/時間で表3に示す最高到達温度まで昇温し、表3に示す保持時間の間保持し、固相重合を行った。なお、雰囲気は除湿窒素を流量20NL/分にて供給し、庫内が加圧にならないよう排気口より排気させた。
【0098】
固相重合後のパッケージをフリーロールクリール(軸およびベアリングを有し、外層部は自由に回転できる。ブレーキおよび駆動源なし。)にはめ、ここから糸を横方向(繊維周回方向)に引き出し、400m/分で回転するセパレートローラー付きの第1ローラーに6周回させた後、EFT型ボビントラバースワインダー(神津製作所社製)にて巻き取った。得られた固相重合後繊維物性を表3に示す。
【0099】
得られた繊維の特性評価結果も表3に示すが、融着抑制効果、工程通過性、後加工性ともに優れることが分かる。
【0100】
【表3】
【0101】
実施例2、3
ここでは固相重合用油剤の付着率の影響を評価した。
実施例1と同様の方法で溶融紡糸を行い、紡糸繊維を得て、巻き返し時のオイリングローラーの回転数を変え、固相重合油剤の付着率を表3の通り変えた以外は実施例1と同様にして巻き返し、固相重合を行い、液晶ポリエステル繊維を得た。得られた固相重合後繊維物性を表3に示す。
得られた繊維の特性評価結果も表3に示す。融着抑制効果、工程通過性、後加工性ともに優れるものの、実施例2では付着量が少ないため融着抑制効果、工程通過性、後加工性にやや劣り、実施例3では付着量が多いため、後加工性にやや劣ることが分かる。
【0102】
実施例4、5
ここでは無機粒子(A)の影響を評価した。
無機粒子(A)としてシリカであるサイリシア310P(富士シリシア化学株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして液晶ポリエステル繊維を得た(実施例4)。また無機粒子(A)として表3に滑石2として示すタルク、ミクロエースP-2(日本タルク株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして液晶ポリエステル繊維を得た。得られた固相重合後繊維物性を表3に示す。
得られた繊維の特性評価結果も表3に示す。融着抑制効果、工程通過性、後加工性ともに優れるものの、メディアン径が大きくなるに伴い、融着抑制効果、工程通過性、後加工性がやや悪化することが分かる。
【0103】
実施例6、7
ここでは無機粒子(A)とリン酸系化合物(B)の重量比の影響を評価した。固相重合油剤中の無機粒子(A)の分散量を変え、繊維への無機粒子の付着率(a)を表3の通り変えた以外は実施例1と同様にして液晶ポリエステル繊維を得た。得られた固相重合後繊維物性を表3に示す。
得られた繊維の特性評価結果も表3に示す。融着抑制効果、工程通過性、後加工性ともに優れるものの、(b/a)が小さい場合には後加工性が、(b/a)が小さい場合には工程通過性、後加工性がやや悪化することが分かる。
【0104】
実施例8、9
ここではリン酸系化合物(B)の影響を評価した。
リン酸系化合物(B)として、下記化学式(5)で示されるリン酸系化合物(B2)、下記化学式(6)で示されるリン酸系化合物(B3)に変更した以外は実施例1と同様にして液晶ポリエステル繊維を得た。得られた固相重合後繊維物性を表3に示す。分子量他の数値から分かるようにB2では固相重合がやや進んでおらず、B3では進んでいる傾向である。
【0105】
【化3】
【0106】
【化4】
【0107】
得られた繊維の特性評価結果も表3に示す。融着抑制効果、工程通過性、後加工性ともに優れるものの、B2では含酸素炭化水素基が多いためか後加工性にやや劣り、B3ではカリウムが多いため固重が進むことからか融着抑制効果、工程通過性にやや劣ることが分かる。」
(オ)甲2発明
甲2の実施例1、2、6、7及び9(【0089】~【0107】)に着目すると、甲2には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「リン酸系化合物(B1)を6.0重量%含有する水溶液に、タルク、SG-2000(日本タルク株式会社製)を1.0重量%分散させた固相重合用油剤を繊維への固相重合油剤の油分付着率で付着させ、密閉型オーブンを用い、室温から240℃までは約30分で昇温し、240℃にて3時間保持した後、4℃/時間で表3に示す最高到達温度まで昇温し、表3に示す保持時間の間保持し、固相重合を行う、短繊維繊度が5.7~6.0dtexであり、強度が20.1~21.7cN/dtexである液晶ポリエステル繊維の製造方法。」
イ 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「液晶ポリエステル繊維」は、【0100】の表3を参照すると、フィラメント数が300であるから、「液晶ポリエステルマルチフィラメント」と表現できるものである。
(イ)甲2発明の「リン酸系化合物(B1)を6.0重量%含有する水溶液に、タルク、SG-2000(日本タルク株式会社製)を1.0重量%分散させた固相重合用油剤を繊維への固相重合油剤の油分付着率で付着させ、240℃にて3時間保持した後、4℃/時間で表3に示す最高到達温度まで昇温し、表3に示す保持時間の間保持し、固相重合を行」うことと、本件発明4の「液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメントを固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造するに際し、固相重合前に反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、供給気体流量30NL/分以上、220℃以上の温度で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させる」こととは、液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメントを固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造するに際し、固相重合前に油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を除く)を付与し、供給気体、220℃以上の温度で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させることの限りで一致する。
(ウ)甲2発明の「強度が20.1~21.7cN/dtexである」ことは、本件発明4の「直線強度が20cN/dtex以上」であることに相当する。
本件発明4と甲2発明とは、以下の点で一致し、相違する。
<一致点>
「液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメントを固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造するに際し、固相重合前に油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を除く)を付与し、供給気体、220℃以上の温度で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させる、直線強度が20cN/dtex以上である液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。」
<相違点1>
液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメントを固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造するに際し、固相重合前に油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を除く)を付与し、供給気体、220℃以上の温度で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させることについて、本件発明4は、固相重合前に「反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず」、供給気体「流量30NL/分以上」で処理するのに対して、甲2発明は、リン酸系化合物(B1)を6.0重量%含有する水溶液に、タルク、SG-2000(日本タルク株式会社製)を1.0重量%分散させた固相重合用油剤を繊維への固相重合油剤の油分付着率で付着させ、処理する供給気体の流量が不明である点。
<相違点2>
本件発明4は、「糸―糸動摩擦係数が0.40~0.90であ」るのに対して、甲2発明は、糸―糸動摩擦係数が不明である点。
ウ 判断
<相違点1について>
甲1(特許請求の範囲、実施例3)には、繊維に有機リン化合物を付与し、無機粒子を付与せずに、固相重合することで十分な強度を得ることができることが記載されているが、反応性シリコーンを含む油剤を用いることについては記載されていない。
そして、他に、液晶ポリエステルのマルチフィラメントにおいて、反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、供給気体で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させることを示す証拠はない。
したがって、甲2発明のリン酸系化合物(B1)を6.0重量%含有する水溶液に、タルク、SG-2000(日本タルク株式会社製)を1.0重量%分散させた固相重合用油剤において、無機粒子は添加せず、反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与するという着想は得られないから、甲2発明において、上記相違点1に係る本件発明4の事項とすることを、当業者が容易になし得たとする理由はない。
エ 小括
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明4は、甲2発明及び甲1記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(2)本件発明5について
本件発明5は、本件発明4の発明特定事項を全て有し、さらに限定事項を加えた発明であるから、本件発明5と甲2発明とを対比すると、少なくとも上記<相違点1>、<相違点2>で相違する。
そして、<相違点1>については、上記(1)イの<相違点1について>と同じ理由により、本件発明5は、甲2発明及び甲1記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
2.令和3年3月30日付け取消理由通知書(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について
(1)本件発明1~3について
本件発明1~3は、本件訂正により削除されたから、当該取消理由は、その対象となる発明がなくなった。
(2)本件発明4についての甲1及び甲6(甲第6号証:特開平3-119110号公報)に基づく進歩性について
ア 甲1発明
甲1の実施例3(5頁右欄下から5行~6頁右欄38行)には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「ラウリルホスフェートカリを水に5wt%に溶解し、液晶ポリアクリレート樹脂を含む液晶樹脂繊維を該有機燐化合物の水溶液に浸漬し、付与量約3wt%で付与し、弛緩状態で、250℃で30分、290℃で30分、窒素気流中で固相重合した、強度=26.3g/dである液晶ポリアクリレート樹脂を含む液晶樹脂繊維の製造方法。」
イ 対比
本件発明4と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1の6頁10~22行を参照すると、甲1発明の「液晶ポリアクリレート樹脂を含む液晶樹脂繊維」は、本件発明4の「液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメント」に相当する。
(イ)甲1発明の「窒素気流中で固相重合し」て「液晶ポリアクリレート樹脂を含む液晶樹脂繊維」を「製造」することは、本件発明4の「固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造する」ことに相当する。
また、甲1発明の「液晶樹脂繊維の製造方法」は、本件発明4の「液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法」に相当する。
(ウ)甲1発明の「ラウリルホスフェートカリを水に5wt%に溶解し、液晶ポリアクリレート樹脂を含む液晶樹脂繊維を該有機燐化合物の水溶液に浸漬し、付与量約3wt%で付与し、弛緩状態で、250℃で30分、290℃で30分、窒素気流中で固相重合」することと、本件発明4の「液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメントを固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造するに際し、固相重合前に反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、供給気体流量30NL/分以上、220℃以上の温度で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させること」とは、「液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメントを固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造するに際し、固相重合前に油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、供給気体、220℃以上の温度で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させること」の限りで一致する。
(エ)甲1発明の「強度=26.3g/d」は、23.2cN/dtexであるから、本件発明4の「直線強度が20cN/dtex以上」に相当する。
そうすると、本件発明4と甲1発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点3>
液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメントを固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造するに際し、固相重合前に油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、供給気体、220℃以上の温度で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させることについて、本件発明4は、固相重合前に「反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず」、供給気体「流量30NL/分以上」で処理するのに対して、甲1発明は、ラウリルホスフェートカリを水に5wt%に溶解し、液晶ポリアクリレート樹脂を含む液晶樹脂繊維を該有機燐化合物の水溶液に浸漬し、付与量約3wt%で付与し、処理する供給気体の流量が不明である点。
<相違点4>
本件発明4は、「糸-糸動摩擦係数が0.40~0.90であ」るのに対して、甲1発明は、糸-糸動摩擦係数が不明な点。
ウ 判断
<相違点3について>
甲1発明は、無機粒子を付与せずに、固相重合することで十分な強度を得るものであるが、甲1には、反応性シリコーンを含む油剤を用いることについては記載されていない。
そして、甲6及び他に、液晶ポリエステルのマルチフィラメントにおいて、反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、供給気体で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させることを示す証拠はない。
したがって、甲1発明のラウリルホスフェートカリを水に5wt%に溶解し、液晶ポリアクリレート樹脂を含む液晶樹脂繊維を該有機燐化合物の水溶液において、反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を採用するという着想は得られないから、甲1発明において、上記相違点3に係る本件発明4の事項とすることを、当業者が容易になし得たとする理由はない。
エ 小括
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1発明及び甲6記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(3)本件発明4についての甲4(甲第4号証:特開2014-167174号公報及び甲6に基づく進歩性について
ア 甲4発明
甲4の実施例21~23(【0130】~【0142】、【0171】~【0172】)には、以下の発明(以下「甲4発明」という。)がある。
「液晶ポリエステルを、大阪精機工作株式会社製φ15mm単軸エクストルーダーにて溶融押し出しし、その後、脂肪酸エステル化合物を主成分とする紡糸油剤を付与した紡糸繊維パッケージを解舒し、オイリングローラー(梨地仕上げのステンレスロール)を用いてリン酸系化合物(B)として下記化学式(4)で示されるリン酸系化合物(B1)を12.0重量%含有する水溶液に無機粒子(A)として表2に滑石1として示すメディアン径1.0μmのタルク、SG-2000(日本タルク株式会社製)を1.0重量%分散させた固相重合油剤の給油を行い、密閉型オーブンを用い、室温から240℃までは約30分で昇温し、240℃にて3時間保持した後、4℃/時間で290℃まで昇温し、20時間保持する条件にて、除湿窒素を流量20NL/分にて供給し、固相重合を行う、強度21.2~22.3cN/dtexである液晶ポリエステル繊維の製造方法。」
イ 対比
本件発明4と甲4発明とを対比する。
(ア)甲4発明の「液晶ポリエステルを、大阪精機工作株式会社製φ15mm単軸エクストルーダーにて溶融押し出しし、その後、脂肪酸エステル化合物を主成分とする紡糸油剤を付与した紡糸繊維パッケージを解舒し」たものは、本件発明4の「液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメント」に相当する。
(イ)甲4発明の「固相重合を行う」「液晶ポリエステル繊維」を「製造」することは、本件発明4の「固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造する」ことに相当する。
また、甲4発明の「液晶ポリエステル繊維の製造方法」は、本件発明4の「液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法」に相当する。
(ウ)甲4発明の「液晶ポリエステルを、大阪精機工作株式会社製φ15mm単軸エクストルーダーにて溶融押し出しし、その後、脂肪酸エステル化合物を主成分とする紡糸油剤を付与した紡糸繊維パッケージを解舒し、オイリングローラー(梨地仕上げのステンレスロール)を用いてリン酸系化合物(B)として下記化学式(4)で示されるリン酸系化合物(B1)を12.0重量%含有する水溶液に無機粒子(A)として表2に滑石1として示すメディアン径1.0μmのタルク、SG-2000(日本タルク株式会社製)を1.0重量%分散させた固相重合油剤の給油を行い、密閉型オーブンを用い、室温から240℃までは約30分で昇温し、240℃にて3時間保持した後、4℃/時間で290℃まで昇温し、20時間保持する条件にて、除湿窒素を流量20NL/分にて供給し、固相重合を行う」ことと、本件発明4の「液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメントを固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造するに際し、固相重合前に反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、供給気体流量30NL/分以上、220℃以上の温度で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させること」とは、「液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメントを固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造するに際し、固相重合前に油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、供給気体、220℃以上の温度で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させること」の限りで一致する。
(エ)甲1発明の「強度21.2~22.3cN/dtex」は、本件発明4の「直線強度が20cN/dtex以上」に相当する。
そうすると、本件発明4と甲4発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
<相違点5>
液晶ポリエステルの紡糸繊維であるマルチフィラメントを固相重合して液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造するに際し、固相重合前に油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、供給気体、220℃以上の温度で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させることについて、本件発明4は、固相重合前に「反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず」、供給気体「流量30NL/分以上」で処理するのに対して、甲4発明は、リン酸系化合物(B)として下記化学式(4)で示されるリン酸系化合物(B1)を12.0重量%含有する水溶液に無機粒子(A)として表2に滑石1として示すメディアン径1.0μmのタルク、SG-2000(日本タルク株式会社製)を1.0重量%分散させた固相重合油剤を用いて、除湿窒素を流量20NL/分にて供給して処理する点。
<相違点6>
本件発明4は、「糸-糸動摩擦係数が0.40~0.90であ」るのに対して、甲4発明は、糸-糸動摩擦係数が不明な点。
ウ 判断
<相違点5について>
甲6には、液晶ポリエステルのマルチフィラメントにおいて、反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、供給気体で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させることを示唆する記載はない。
また、他に、液晶ポリエステルのマルチフィラメントにおいて、反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、供給気体で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させることを示す証拠はない。
したがって、甲4発明のリン酸系化合物(B)として下記化学式(4)で示されるリン酸系化合物(B1)を12.0重量%含有する水溶液に無機粒子(A)として表2に滑石1として示すメディアン径1.0μmのタルク、SG-2000(日本タルク株式会社製)を1.0重量%分散させた固相重合油剤において、反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を採用するという着想は得られないから、甲4発明において、上記相違点5に係る本件発明4の事項とすることを、当業者が容易になし得たとする理由はない。
エ 小括
したがって、相違点6について検討するまでもなく、本件発明4は、甲4発明及び甲6記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(4)本件発明5についての甲4、甲5(甲第5号証:「信越シリコーン 繊維処理剤」のカタログ、信越化学工業株式会社、2011年3月、p.8、13、14)及び甲6に基づく進歩性について
本件発明5は、本件発明4の発明特定事項を全て有し、さらに限定を加えたものであるから、本件発明5と甲4発明とを対比すると、少なくとも上記(3)の<相違点5>及び<相違点6>で相違する。
そして、甲5にも、液晶ポリエステルのマルチフィラメントにおいて、反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、供給気体で処理することにより、固相重合を進行させつつ、表面に付着した油剤を変性させることを示唆する記載はないから、上記(3)ウと同じ理由で、本件発明5は、甲4発明並びに甲5及び甲6記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(5)本件発明4、5についての実施可能要件について
ア 申立人は、本件発明4、5の「流量30NL/分以上」について、繊維1kg当たりの流量であるのか等、どの地点のどのような範囲の流量を特定しているのか、本件特許明細書に記載されておらず、当該発明が実施できる程度に記載されていない旨主張する。
しかし、本願特許明細書の【0093】には、「固相重合は、密閉型オーブンを用い、室温から240℃までは約30分で昇温し、240℃にて3時間保持した後、4℃/時間で290℃まで昇温し、10時間保持する条件にて固相重合を行った。なお、雰囲気は除湿窒素を流量60NL/分にて供給し、庫内が加圧にならないように排気口より排気させた。」と記載されており、【0114】の表1に固相重合したパッケージの巻量が記載されているから、本件発明4、5の「流量30NL/分以上」は、庫内が加圧にならないようにした際の流量であって、その対象となる繊維についても具体的な記載があるから、本件特許明細書は、当業者であれば実施できる程度に記載されている。
イ 申立人は、本件特許明細書の【0103】には、「高温乾燥時の温度を変更したこと以外は実施例4と同様にして液晶ポリエステルマルチフィラメントを得た。」と記載されているが、【0114】の表1の実施例7は、高温乾燥時の温度以外にも実施例4と相違する点が多々有り、当該記載が整合していない旨主張するが、本件訂正により訂正されたことにより、解消した。
(6)本件発明4、5についてのサポート要件について
ア 申立人の主張
申立人は、本件特許明細書の【0009】には、「本発明は、上述したかかる事情を背景として、鋭意検討したものであり、従来技術と比較して高強度であり、かつ結節強度が高い液晶ポリエステルマルチフィラメントを提供することを課題とする。」と記載されている。
また、【0016】には、「本発明によれば、糸-糸間の動摩擦係数を0.40~0.90とすることで、糸を結んで両端から引っ張った際、糸同士の抵抗により結び目が締まらず、同じ荷重を加えても結節部での巻き締まりが小さく、座屈しにくいため、高い結節強度が得られる。」、【0058】には、「筆者らが結節部での破断現象を詳細に観察した結果、摩擦係数を特定の範囲に制御することで、糸が引っ張られた際に結節部の一点に応力が集中するのを防ぎ、かつ糸同士の擦れによる損傷が少ないことを見出した。」と記載されている。
しかし、結節強度には、糸-糸間の摩擦のみでなく、繊維のしなやかさや、マルチフィラメントの太さや結節の仕方等、様々な条件の影響を受けることは、明らかである。
そうすると、本件特許明細書の記載からは、本件発明に含まれるあらゆる繊度、フィラメント数、油剤等のものが、本件発明の課題を解決しているとは理解できない。
したがって、本件発明1~5は、本件明細書に記載された範囲のものでない。
また、本件発明4及び5は、【0060】及び【0068】で適さないとされた、油剤や無機粒子を含んでおり、この点でも、本件明細書に記載された範囲のものでない旨主張する。
イ 判断
しかし、本件発明は、「液晶ポリエステル繊維」に係るものであるから、結節強度に関して、しなやかさに大きな差異はなく、本件特許明細書の【0016】等の記載から明らかなように、影響が最も大きい糸-糸摩擦に着目したものであって、本件訂正により「反応性シリコーンを含む油剤(フッ素系、シロキサン系化合物を含まない)を付与し、無機粒子は添加せず、」と特定された。
また、本件特許明細書の【0089】~【0114】には、実施例1~10について、具体的に液晶ポリエステルマルチフィラメントを製造し、その結節強度を測定し、上記課題を解決することが記載されている。
そして、その結節の仕方については、【0084】の「JIS L 1013(2010) 」に記載のとおり測定したものである。
そうすると、本件特許明細書の記載から、本件発明4及び5が、上記課題を解決すると理解できる。
したがって、本件発明4及び5は、本件特許明細書に記載されたものである。
(7)本件発明4、5についての明確性要件について
ア 申立人は、本件発明4の「220℃以上の温度で処理すること」及び本件発明5の「150℃以上の温度で処理すること」は、液晶ポリエステルの融点や分解温度以上の温度も含まれており、不明確である旨主張する。
しかし、本件発明は、「固相重合」するものであるから、ポリマーが溶融しては意味がないことは明らかであるから、ポリマーの融点が上限であることは自明であって、当該記載は明確である。
イ 申立人は、本件発明4の「流量30NL/分以上」は、繊維1kg当たりの流量であるのか等、どの地点のどのような範囲の流量を特定しているのかが明確でない旨主張する。
しかし、本願特許明細書の【0093】には、「固相重合は、密閉型オーブンを用い、室温から240℃までは約30分で昇温し、240℃にて3時間保持した後、4℃/時間で290℃まで昇温し、10時間保持する条件にて固相重合を行った。なお、雰囲気は除湿窒素を流量60NL/分にて供給し、庫内が加圧にならないように排気口より排気させた。」と記載されており、【0114】の表1に固相重合したパッケージの巻量が記載されているから、本件発明4、5の「流量30NL/分以上」は、庫内が加圧にならないようにした際の流量であって、その対象となる繊維についても具体的な記載があるから、本件特許明細書は、当業者であれば実施できる程度に記載されている。
第6 むすび
以上のとおり、本件発明4及び5については、取消理由(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項4及び5に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に、本件請求項4及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1~3に係る特許は、訂正により、削除されたため、本件特許の請求項1~3に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700395