特許異議申立
2021-700060
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体及び多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法
- 審判番号
- 2021-700060
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-561913
- 登録番号
- 6729387
- 請求日
- 2021年01月19日
- 審決日
- 2022年07月20日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人栄光特許事務所
- 【異議申立人】吉田 和隆
- 審判長/審判官
- 審判長 日比野 隆治
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1652.113-ZAB(B01D) / P1652.121-ZAB(B01D) / P1652.537-ZAB(B01D) / P1652.851-ZAB(B01D) / P1652.856-ZAB(B01D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項特許法29条2項特許法36条6項1号特許法36条6項2号特許法113条2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第3項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6729387号発明「多孔質支持体-ゼオライト膜複合体及び多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
令和3年8月10日付け訂正請求において、特許第6729387号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項14について訂正することを認める。
特許第6729387号の請求項1、2、12、14に係る特許を取り消す。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第6729387号の請求項1~14に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)11月25日(優先権主張 平成26年11月25日)を国際出願日とする出願であって、令和2年7月6日にその特許権の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1、2、12、14に係る特許に対して、令和3年1月19日に特許異議申立人吉田和隆により特許異議の申立てがされ、同年5月11日付けで取消理由が通知され、同年8月10日に特許権者により意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年11月5日に特許異議申立人により意見書の提出がされ、令和4年2月1日付けで訂正拒絶理由が通知され、この訂正拒絶理由に対する特許権者からの応答はなく、同年4月8日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、この取消理由(決定の予告)の通知に対する特許権者からの応答はなかった。
以上の手続の経緯にみられるように、当審は、取消理由(決定の予告)を通知し、期間を指定して意見書の提出の機会を与えたが、特許権者は応答しなかったこと、並びに、この取消理由(決定の予告)の結論及び理由は妥当なものと認められることにかんがみ、この異議の決定における以降の記載は、当該取消理由(決定の予告)の理由について記載した箇所をそのまま援用することとした。
第2 本件訂正の適否について
1 本件訂正の内容(訂正事項)
本件訂正請求は、特許法第120条の5第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~9〕、〔12、13〕、及び請求項14を、それぞれ訂正の単位として訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項)は、次のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下である
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
と記載されているのを、
「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下であり、
前記ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比が7.5以上である、
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「前記ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比が2000以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
と記載されているのを、
「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下であり、
前記ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比が2000以下である、
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「前記ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比が20以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
と記載されているのを、
「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下であり、
前記ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比が20以上である、
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に、
「前記多孔質支持体の平均細孔径が0.3μm以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
と記載されているのを、
「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下であり、
前記多孔質支持体の平均細孔径が0.3μm以上である、
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に、
「前記ゼオライト膜を構成するゼオライトの細孔構造がCHAまたはMFIである、請求項1~6のいずれか一項に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
と記載されているのを、
「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下であり、
前記ゼオライト膜を構成するゼオライトの細孔構造がCHAまたはMFIである、
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に、
「気体混合物の分離に用いられる請求項1~7のいずれか一項に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
と記載されているのを、
「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下であり、
気体混合物の分離に用いられる
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に、
「請求項1~7のいずれか一項に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に、複数の成分からなる気体または液体の混合物を接触させ、前記混合物から、透過性の高い成分を透過させて分離する、または、透過性の高い成分を透過させて分離することにより透過性の低い成分を濃縮する、気体または液体の混合物の分離または濃縮方法。」
と記載されているのを、
「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下である
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に、
複数の成分からなる気体または液体の混合物を接触させ、前記混合物から、透過性の高い成分を透過させて分離する、または、透過性の高い成分を透過させて分離することにより透過性の低い成分を濃縮する、
気体または液体の混合物の分離または濃縮方法。」
に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項12に
「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記多孔質支持体上に種結晶を付着させた後に前記ゼオライト膜を形成し、
(前記種結晶の平均粒子径)/(前記多孔質支持体の平均細孔径)で表される比が1~5である、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。」
と記載されているのを、
「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記多孔質支持体の平均細孔径0.02μm以上20μm以下であり、
前記多孔質支持体上に種結晶を付着させた後に前記ゼオライト膜を形成し、
(前記種結晶の平均粒子径)/(前記多孔質支持体の平均細孔径)で表される比が1~5である、
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。」
に訂正する(請求項12の記載を引用する請求項13も同様に訂正する。)。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項14に
「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に、複数の成分からなる気体混合物を接触させ、前記気体混合物から、透過性の高い成分を透過させて分離する、気体混合物の分離方法であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下である、
気体混合物の分離方法。」
と記載されているのを、
「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に、複数の成分からなる気体混合物を接触させ、前記気体混合物から、透過性の高い成分を透過させて分離する、気体混合物の分離方法であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下であり、
前記ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比が7.5以上である、
気体混合物の分離方法。」
に訂正する。
2 訂正要件の判断
(1)請求項1~9についての訂正(訂正事項1~9)
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(ア)訂正事項1について
訂正事項1は、願書に添付された明細書の段落【0029】の記載に基づき、訂正前の請求項1に記載された「ゼオライト膜」について、「SiO2/Al2O3モル比」を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(イ)訂正事項2、3について
訂正事項2、3は、訂正前の請求項2及び3をそれぞれ削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(ウ)訂正事項4~9について
訂正事項4~9は、訂正前の請求項4~9における選択的引用請求項との引用関係を解消して、独立形式請求項にするとともに、当該選択的引用請求項に記載された事項のうち、訂正前の請求項1に記載された事項のみに限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 独立特許要件について
請求項1~9についての訂正(訂正事項1~9)は、いずれも「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正を含むところ、訂正前の請求項3~9に対しては、特許異議の申立てがされていないことから、当該請求項3~9についての訂正(訂正事項3~9)に対しては、さらに、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)を満足するか否かを検討する。
以下、特に、訂正事項4、5、7~9によって訂正された後の請求項4、5、7~9に係る発明(以下、項番号ごとに「本件訂正発明4」などという。)が、特許法第29条第1項又は第2項の規定(新規性・進歩性)により、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて検討する。
(ア)本件訂正発明
本件訂正発明4、5、7~9は、訂正特許請求の範囲の請求項4、5、7~9に記載された次のとおりのものである。
「【請求項4】
多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下であり、
前記ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比が2000以下である、
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
「【請求項5】
多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下であり、
前記ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比が20以上である、
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
「【請求項7】
多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下であり、
前記ゼオライト膜を構成するゼオライトの細孔構造がCHAまたはMFIである、
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
「【請求項8】
多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下であり、
気体混合物の分離に用いられる
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
「【請求項9】
多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下である
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に、
複数の成分からなる気体または液体の混合物を接触させ、前記混合物から、透過性の高い成分を透過させて分離する、または、透過性の高い成分を透過させて分離することにより透過性の低い成分を濃縮する、
気体または液体の混合物の分離または濃縮方法。」
(イ)各甲号証について
a 甲号証一覧
甲第1号証:Y.Hasegawa et al., Preparation of novel chabazite (CHA)-type zeolite layer on porous α-Al2O3 tube using template-free solution, Journal of Membrane Science, 2010, Vol.347, p.193-196
甲第6号証:Halil Kalipcilar et al., Synthesis and Separation Performance of SSZ-13 Zeolite Membranes on Tubular Supports, Chemistry of Materials, 2002, Vol.14, p.3458-3464
b 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した(以下、同様である。)。
(a)「1. Introduction
Zeolites are inorganic microporous compounds with well-defined pore structures. The micropores have diameters in the range of 0.3-1 nm; these are similar to the molecular sizes of inorganic gases and light hydrocarbons. Therefore, a polycrystalline zeolite layer without large defects such as pinholes and cracks can separate gaseous and liquid mixtures [1]. In particular, a zeolite membrane is used to dehydrate organic-rich mixtures that polymeric membranes cannot be used. For example, a commercially available NaA-type zeolite membrane can selectively remove water from alcohol-rich mixtures [2]. However, both the hydrothermal and the acid stabilities of the NaA-type zeolite membrane are poor because of the highest aluminum content of its framework among all zeolites (Si/Al = 1 [3]).
The channel structure of chabazite (CHA) type zeolite is similar to that of NaA-type zeolite [4], with reduced aluminum content (Si/Al = 1-5 [3]). These features suggest that CHA-type zeolite is a potential material for a dehydration membrane with the hydrothermal and acid stabilities. However, it is difficult to synthesize cubic crystals of CHA-type zeolite without using organic templates [5]. In this study, we successfully formed a polycrystalline CHA-type zeolite layer using a template-free solution; the membrane showed extremely high dehydration performance.」(第193頁)
(当審仮訳:1.序文
ゼオライトは細微多孔質構造が明確に定義された無機微多孔質化合物である。細孔の直径は0.3~1nmで、無機ガスや軽炭化水素の分子サイズに似ている。したがって、ピンホールやひび割れなどの大きな欠陥のない多結晶ゼオライト層は、気体混合物や液体混合物を分離することができる[1]。特に、ゼオライト膜は、ポリマー膜を使用することができない有機物に富む混合物を脱水するために使用される。例えば、市販のNaA型ゼオライト膜はアルコールに富む混合物から選択的に水を除去できる[2]。しかし、NaA型ゼオライト膜は、すべてのゼオライトの中でその骨格のアルミニウム含有量が最も高い(Si/Al=1[3])ために、熱水や酸に対する安定性はいずれも不良である。
チャバサイト(CHA)型ゼオライトのチャネル構造はNaA型ゼオライト[4]と類似しており、アルミニウム含有量が低減されている(Si/Al=1~5[3])。これらの特徴は、CHA型ゼオライトが熱水安定性と酸安定性を有する脱水膜の潜在的物質であることを示唆する。しかし、有機鋳型を用いずにCHA型ゼオライトの立方晶を合成することは困難である[5]。本研究では、鋳型フリー溶液を用いて多結晶CHA型ゼオライト層の形成に成功した。膜は極めて高い脱水性能を示した。)
(b)「2. Experimental
2.1. Membrane preparation
A polycrystalline CHA-type zeolite layer was formed on a porous α-Al2O3 tube by the secondary growth of seed particles. The seed particles were prepared using the method described in Ref. [5]. 15.8 g of potassium hydroxide (Wako Pure Chemicals Industry) was dissolved into 217.4 g of distilled water, and 25.2 g of Y-type zeolite powder (Tosoh Corp., HSZ-330HUA, SiO2/Al2O3 = 6.3) was added to the solution. The mixture was poured into a Teflon-lined stainless steel autoclave after stirring for 1 h at room temperature and then heated at 368 K for 100 h, thus converting the Y-type zeolite into CHA-type zeolite. The CHA-type zeolite particles were washed with an excess amount of distilled water, and then, the particles were dried overnight in air at 333 K to obtain CHA-type zeolite seed particles (Si/Al = 2.4; crystal size = ca. 5-10μm). For the secondary growth, a synthesis solution was prepared using colloidal silica (Catalysts and Chemicals Industry Corp. Ltd., Cataloid SI-30), aluminum nitrate (Wako Pure Chemicals Industry), strontium nitrate (Wako Pure Chemicals Industry), potassium hydroxide, and distilled water. Potassium hydroxide and aluminum nitrate were dissolved into distilled water in a beaker. Additionally, strontium nitrate was dissolved into distilled water into the other beaker, and colloidal silica was added to the solution. The solution containing the aluminum source was added to that containing silicon source, and the mixture was stirred for 6 h at room temperature. The molar composition of the mixture was 12SiO2:1Al2O3:xK2O:(3-x)SrO:(12-2x)KNO3:780H2O. A porous α-Al2O3 tube with the following properties was used as the support in this study: outside diameter = 2.0mm; inside diameter = 1.6mm; length = 30mm; porosity = 39%; and mean pore diameter = 150 nm. The outer surface of the support tube was rubbed with the seed particles to implant the seeds for nucleation. 20 g of the synthesis solution was added to the autoclave, in which three support tubes were placed vertically. Thereafter, a hydrothermal reaction was carried out at 413 K for 18 h in order to grow the seeded crystallites. After cooling the autoclave in a water bath for 10 min, the support tube was recovered, washed with distilled water, and dried overnight in air at room temperature in order to obtain the CHA-type zeolite membrane.」(第193~194頁)
(当審仮訳:2.実験
2.1.膜調製
多結晶CHA型ゼオライト層が種粒子の二次成長により多孔性Al2O3管上に形成された。種粒子は、参考文献[5]に記載された方法を用いて調製した。水酸化カリウム(和光純薬工業)15.8gを蒸留水217.4gに溶解し、Y型ゼオライト粉末(東ソー、HSZ-330HUA、SiO2/Al2O3=6.3)25.2gを付加した。混合物を室温で1時間攪拌後、テフロンライニングステンレス鋼オートクレーブに注ぎ、その後368Kで100時間加熱し、Y型ゼオライトをCHA型ゼオライトに変換した。CHA型ゼオライト粒子を過剰量の蒸留水で洗浄した後、粒子を333Kの空気中で一夜乾燥し、CHA型ゼオライト種粒子(Si/Al=2.4;結晶サイズ=約5~100μm)を得た。二次成長には、コロイダルシリカ(触媒化学工業株式会社、カタロイドSI-30)、硝酸アルミニウム(和光純薬工業)、硝酸ストロンチウム(和光純薬工業)、水酸化カリウム、蒸留水を用いて合成液を調製した。水酸化カリウムと硝酸アルミニウムをビーカー中の蒸留水に溶解した。さらに、硝酸ストロンチウムを蒸留水に溶解し、もう一方のビーカーに加え、コロイダルシリカを溶液に加えた。アルミニウム源を含む溶液を、シリコン源を含むものに加え、混合物を室温で6時間攪拌した。混合物のモル組成は12SiO2:1Al2O3:xK2O:(3-x)SrO:(12-2x)KNO3:780H2Oであった。以下の性質を有する多孔質Al2O3管を本研究の支持体として用いた:外径=2.0mm、内径=1.6mm、長さ=30mm、空隙率=39%、及び平均細孔径=150nm。支持管の外表面に種粒子を擦り込み、核形成のための種結晶を移植した。20gの合成溶液を、3本の支持管を垂直に配置したオートクレーブに加えた。その後、種結晶を成長させるために、413Kで18時間水熱反応を行った。オートクレーブを水浴中で10分間冷却した後、支持管を回収し、蒸留水で洗浄し、室温空気中で一夜乾燥し、CHA型ゼオライト膜を得た。)
(c)「3. Results and discussion
3.1. Characterization
Fig. 1 shows SEM images of the seed particles and support tubes. Although the seed particles were disk-shaped crystals, the crystals were not visible on the outer surface of the support tube after the seeding treatment. The CHA-type zeolite crystals were galled and plugged into the macropores of the support tube because the zeolites exhibited comparatively less hardness than α-Al2O3 [3]. Following the secondary growth using the solution containing strontium (x = 2), a polycrystalline layer was observed. However, the implanted particles could not be grown by the synthesis solution without strontium (x = 3). A typical CHA-type zeolite crystal comprises two rhombohedral crystals exhibited intergrowth [7]. The crystal shape observed on the top surface of the membrane is in agreement with the shape of the CHA-type zeolite crystals. The composition of the polycrystalline layer was 6.4SiO2:1Al2O3:1.0K2O:0.05SrO on a dry basis. The composite layer was also formed in the macropores of the support tube; the thicknesses of the polycrystalline and composite layers were ca. 4μm and 2-3μm, respectively. Moreover, the XRD pattern of the membrane comprised both the support tube and seed particles, as shown in Fig. 2. These results suggest that CHA-type zeolite crystals can be grown using a synthesis solution containing strontium.」(第194~195頁)
(当審仮訳:3.結果と考察
3.1.特性
図1に種粒子と支持管のSEM像を示す。種粒子は円盤状結晶であったが、種粒子擦り込み処理後の支持管の外表面に結晶は見えなかった。ゼオライトはα-Al2O3より硬さが比較的低いため、CHA型ゼオライト結晶はけずられ、支持管のマクロ細孔に詰まった[3]。ストロンチウム(x=2)を含む溶液を用いた二次成長に続いて、多結晶層が観察された。しかし、ストロンチウムなし(x=3)では合成溶液によって粒子成長できなかった。典型的なCHA型ゼオライト結晶は、相互成長を示す2つの菱面体結晶からなる[7]。膜の上面で観察された結晶型はCHA型ゼオライト結晶の型と一致している。多結晶層の組成は乾燥基準で6.4SiO2:1Al2O3:1.0K2O:0.05SrOであった。複合層は支持管のマクロ細孔中にも形成された。多結晶層と複合層の厚さは、それぞれ約4μm及び2~3μmであった。さらに、膜のXRDパターンは、図2に示すように、支持管と種粒子の両方を含んでいた。結果は、CHA型ゼオライト結晶はストロンチウムを含む合成溶液を用いて成長できることを示唆した。)
c 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の前記b(a)~(c)の記載を「多結晶CHA型ゼオライト層及び多孔質Al2O3支持管」に注目して整理すると、甲第1号証には、次のとおりの発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。
「多結晶CHA型ゼオライト層がCHA型ゼオライト種粒子の二次成長により多孔質Al2O3支持管上に形成された、多結晶CHA型ゼオライト層及び多孔質Al2O3支持管であって、CHA型ゼオライト種粒子は、支持管のマクロ細孔に詰まっており、多結晶CHA型ゼオライト層は、支持管のマクロ細孔にも形成されて、複合層をなし、その複合層の厚さは2~3μmであり、多結晶CHA型ゼオライト層の組成は乾燥基準で6.4SiO2:1Al2O3:1.0K2O:0.05SrOである、気体混合物や液体混合物の分離に用いられる、多結晶CHA型ゼオライト層及び多孔質Al2O3支持管。」
また、甲第1号証の前記b(a)~(c)の記載を「気体混合物を分離する方法」に注目して整理すると、甲第1号証には、次のとおりの発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。
「多結晶CHA型ゼオライト層がCHA型ゼオライト種粒子の二次成長により多孔質Al2O3支持管上に形成された、多結晶CHA型ゼオライト層及び多孔質Al2O3支持管であって、CHA型ゼオライト種粒子は、支持管のマクロ細孔に詰まっており、多結晶CHA型ゼオライト層は、支持管のマクロ細孔にも形成されて、複合層をなし、その複合層の厚さは2~3μmであり、多結晶CHA型ゼオライト層の組成は乾燥基準で6.4SiO2:1Al2O3:1.0K2O:0.05SrOである、多結晶CHA型ゼオライト層及び多孔質Al2O3支持管を用いて、気体混合物を分離する方法。」
d 甲第6号証の記載事項
甲第6号証には次の事項が記載されている。
(a)「The present paper reports the synthesis and characterization of SSZ-13 zeolite membranes. The SSZ-13 zeolite has the chabazite (CHA) structure and a Si/Al ratio of 14.」(第3459頁左欄18~21行)
(当審仮訳:本論文はSSZ-13ゼオライト膜の合成及びキャラクタリゼーションを報告する。SSZ-13はCHA(チャバサイト)構造を有し、Si/Al比が14である。)
(b)「The Si/Al ratio in the membrane was 13.3 (EDX), which is close to the expected ratio of 14, and the XRD pattern was identical to that shown in Figure 1b, indicating that the SSZ-13 framework was not destroyed by the acid.」(第3463頁右欄第14~17行)
(当審仮訳:膜のSi/Al比は13.3(EDX)であり、予測された比14に近く、XRDパターンは図1bのそれと同じであり、SSZ-13骨格が酸で崩壊されないことが示される。)
(ウ)新規性・進歩性の検討
a 本件訂正発明4について
本件訂正発明4と甲1発明1とを対比すると、両者の対応関係は、次のとおりに解することができる。
・甲1発明1の「多結晶CHA型ゼオライト層」及び「多孔質Al2O3支持管」は、それぞれ、本件訂正発明4の「ゼオライト膜」及び「多孔質支持体」に相当するから、甲1発明1の「多結晶CHA型ゼオライト層がCHA型ゼオライト種粒子の二次成長により多孔質Al2O3支持管上に形成された、多結晶CHA型ゼオライト層及び多孔質Al2O3支持管」は、本件訂正発明4の「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体」に相当する。
・甲1発明1の「多結晶CHA型ゼオライト層は、支持管のマクロ細孔にも形成されて」いることは、本件訂正発明4の「前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んで」いることに相当する。
・甲1発明1の「複合層の厚さは2~3μmである」ことは、当該複合層は、多結晶CHA型ゼオライト層が支持体のマクロ細孔に形成された部分であることから、本件訂正発明4の「前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下」との規定を満足する。
・甲1発明1の「多結晶CHA型ゼオライト層」は、フレームワーク密度が14.5T/1000Å3のCHA型であるから、本件訂正発明4の「前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下である」との規定を満足する。
・甲1発明1の「多結晶CHA型ゼオライト層の組成は乾燥基準で6.4SiO2:1Al2O3:1.0K2O:0.05SrOである」ことは、SiO2/Al2O3モル比が6.4(=6.4/1)になるから、本件訂正発明4の「前記ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比が2000以下である」との規定を満足する。
そうしてみると、本件訂正発明4と甲1発明1とに実質的な相違点はないから、本件訂正発明4は、甲1発明1であるといえる。
b 本件訂正発明5について
本件訂正発明5と甲1発明1とを対比すると、両者の対応関係は、前記aで検討したのと同様である。
そうしてみると、本件訂正発明5と甲1発明1とは、前者の「ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比」が「20以上である」のに対して、後者のそれが「6.4」である点で相違し、その余の点で一致していると認められる。
そこで当該相違点について検討すると、甲第1号証には、前記(イ)b(a)によれば、CHA型ゼオライトは、アルミニウム含有量が低減され(Si/Al比で1~5)、熱水安定性と酸安定性を有していることが記載されているし、また、甲第6号証には、前記(イ)d(a)及び(b)によれば、Si/Al比が13.3のCHA型ゼオライトであるSSZ-13ゼオライトが耐酸性を有することが記載されていることからして、甲1発明1において、CHA型ゼオライトの熱水安定性と酸安定性を向上させるために、アルミニウム含有量を低減させ、SiO2/Al2O3モル比を20以上とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることといえる。
したがって、本件訂正発明5は、甲1発明1、及び、甲第1号証、甲第6号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
c 本件訂正発明7について
本件訂正発明7と甲1発明1とを対比すると、両者の対応関係は、前記aで検討したのと同様であるし、さらに、甲1発明1の「多結晶CHA型ゼオライト層」は、本件訂正発明7の「前記ゼオライト膜を構成するゼオライトの細孔構造がCHAまたはMFIである」との規定を満たすから、両者に実質的な相違点は存在しない。
よって、本件訂正発明7は、甲1発明1であるといえる。
d 本件訂正発明8について
本件訂正発明8と甲1発明1とを対比すると、両者の対応関係は、前記aで検討したのと同様であるし、さらに、甲1発明1の「気体混合物や液体混合物の分離に用いられる」ことは、本件訂正発明8の「気体混合物の分離に用いられる」ことに相当するから、両者に実質的な相違点は存在しない。
よって、本件訂正発明8は、甲1発明1であるといえる。
e 本件訂正発明9について
本件訂正発明9と甲1発明2とを対比すると、両者の対応関係は、前記aで検討したのと同様であるし、さらに、甲1発明2の「多結晶CHA型ゼオライト層及び多孔質Al2O3支持管を用いて、気体混合物を分離する方法」は、気体混合物を接触させて、気体混合物の複数の成分のうち透過性の高い成分を、多結晶CHA型ゼオライト層及び多孔質Al2O3支持管透過させて分離するものであるため、本件訂正発明9の「複数の成分からなる気体または液体の混合物を接触させ、前記混合物から、透過性の高い成分を透過させて分離する、または、透過性の高い成分を透過させて分離することにより透過性の低い成分を濃縮する、気体または液体の混合物の分離または濃縮方法」に相当するから、両者に実質的な相違点は存在しない。
よって、本件訂正発明9は、甲1発明2であるといえる。
(エ)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、訂正事項4、7~9によって訂正された後の本件訂正発明4、7~9は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するし、訂正事項5によって訂正された後の本件訂正発明5は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第1号証、甲第6号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法第29条第2項の規定に違反するものであるから、本件訂正発明4、5、7~9は、同法第29条第1項又は第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
ウ 小括
以上のとおりであるから、請求項4、5、7~9についての訂正の請求は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合していない。
そして、訂正事項1~9による一群の請求項を構成する請求項1~9についての訂正の請求は、一つの訂正単位として訂正することを求めたものであり、一体不可分のものであるから、請求項4、5、7~9についての訂正の請求が認容できないので、請求項1~9についての訂正の請求の全体を認めることはできない。
(2)請求項12、13についての訂正(訂正事項10)
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項10は、願書に添付された明細書の段落【0022】の記載に基づき、訂正前の請求項12及びこれを引用する請求項13に記載された「多孔質支持体の平均細孔径」を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 独立特許要件について
請求項12、13についての訂正(訂正事項10)は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるところ、訂正前の請求項13に対しては、特許異議の申立てがされていないことから、当該請求項13についての訂正(訂正事項10)に対しては、さらに、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)を満足するか否かを検討する。
以下、特に、訂正事項10によって訂正された後の請求項13に係る発明(以下、「本件訂正発明13」という。)が、特許法第36条第6項第1号の規定(サポート要件)により、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて検討する。
(ア)本件訂正発明
本件訂正発明13は、訂正事項10によって訂正された後の請求項12に係る発明(以下、「本件訂正発明12」という。)を引用する発明であって、本件訂正発明12、13は、訂正特許請求の範囲の請求項12、13に記載された次のとおりのものである。
「【請求項12】
多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記多孔質支持体の平均細孔径0.02μm以上20μm以下であり、
前記多孔質支持体上に種結晶を付着させた後に前記ゼオライト膜を形成し、
(前記種結晶の平均粒子径)/(前記多孔質支持体の平均細孔径)で表される比が1~5である、
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項13】
前記多孔質支持体の平均細孔径0.3μm以上である、
請求項12に記載された多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。」
(イ)サポート要件の検討
本件訂正発明13の課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】の記載によれば、ゼオライト膜による分離、濃縮において、実用上、十分な処理量と分離性能を両立する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法を提供することといえる。
これに対して、発明の詳細な説明の実施例には、平均細孔径が約0.9μmの多孔質支持体に、平均粒子径が1.2μm程度のCHA型ゼオライト種結晶を付着させた後にゼオライト膜を形成することによって、多孔質支持体表面から内部に向かって入り込むゼオライト膜の距離の加重平均値が0.7mmである多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造すること(実施例3)、及び、平均細孔径が約1.46μmの多孔質支持体に、フュームドシリカを付着させ、CHA型ゼオライト種結晶を付着させた後にゼオライト膜を形成することによって、多孔質支持体表面から内部に向かって入り込むゼオライト膜の距離の加重平均値が2.1mm又は4.6mmである多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造すること(実施例1、2)が具体的に記載され、当該多孔質支持体-ゼオライト膜複合体は、比較例1と比較して、二酸化炭素やメタン等のガスのパーミエンスが大きくなり、かつ、二酸化炭素とメタンの分離係数が同程度以上になっていることから、実施例1~3の製造方法であれば、上記課題を解決できることを当業者が認識できる。
加えて、発明の詳細な説明には、「多孔質支持体の孔中に入り込むゼオライトの量を特定範囲に制御することにより、ゼオライト膜の透過性能、分離性能向上することを見出した。」(段落【0011】)こと、「該支持体表面から該支持体内部までの距離が、平均で5.0μm以下であることを特徴とする。・・・この範囲であることにより、多孔質支持体内で透過する物質の拡散が向上することなどから、透過する物質のパーミエンスが大きくなる。また、多孔質支持体表面から内部に向かって入り込む前記ゼオライトの量を適当に調節することにより、より緻密なゼオライト膜になり分離係数が向上すると考えられる。」(段落【0040】~【0041】)こと、及び、「本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体は、この空隙の存在により、拡散が促進され、より高い透過性能が得られるものと考えられる。」(段落【0044】)ことも記載されているから、これらの記載を併せ考えると、実施例1~3の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体で奏する効果は、多孔質支持体表面から内部に向かって入り込むゼオライト膜の距離を平均で5.0μm以下に調整した「多孔質支持体-ゼオライト膜複合体」を製造することによって達成できるものであると当業者であれば認識できる。
他方、発明の詳細な説明には、「多孔質支持体上に種結晶を付着させた後にゼオライト膜を形成する方法であって、前記多孔質支持体の平均細孔径と、下記詳述するゼオライト膜の形成において使用する種結晶の大きさ(平均粒子径)との関係を調整する方法が挙げられる。・・・この方法により、水熱合成の条件が適正化され、多孔質支持体内へ入り込むゼオライトの量を調整することができる。」(段落【0052】)ことが記載されているものの、実施例3以外に、平均細孔径が0.3μm以上20μm以下の多結晶支持体に対して、(種結晶の平均粒子径)/(多孔質支持体の平均細孔径)で表される比を1~5に調整することによって、多孔質支持体表面から内部に向かって入り込むゼオライト膜の距離が平均で5.0mm以下の範囲となる多孔質支持体-ゼオライト膜複合体が製造できることが具体的に記載されていないし、また、種結晶の平均粒子径と多孔質支持体の平均細孔径との比によって、多孔質支持体内へ入り込むゼオライトの量を調整できる機序も説明されていない。加えて、このようなことが本件特許出願時の技術常識であるとの証拠もない。
そのため、発明の詳細な説明の記載や本件特許出願時の技術常識からは、平均細孔径が0.3μm以上20μm以下の多結晶支持体に対して、(種結晶の平均粒子径)/(多孔質支持体の平均細孔径)で表される比を1~5に調整することによって、上記課題を解決できることを当業者が認識できない。
そして、本件訂正発明13は、前記(ア)のとおり、「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法」において、「前記多孔質支持体の平均細孔径」が「0.3μm以上20μm以下」であり、「前記多孔質支持体上に種結晶を付着させた後に前記ゼオライト膜を形成し、(前記種結晶の平均粒子径)/(前記多孔質支持体の平均細孔径)で表される比が1~5である」ことを特定するものであるから、本件訂正発明13は、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許出願時の技術常識に照らし当該課題を解決できると認識できる範囲のものともいえない。
なお、特許権者は、令和3年8月10日提出の意見書において、「本件特許明細書の【0022】に記載されているように、多孔質支持体の平均細孔径を0.02μm以上とすることにより、透過量が大きくなる傾向があり、20μm以下とすることにより支持体自体の強度の問題が少なく、緻密なゼオライト膜が形成されやすくなる。これにより、多孔質支持体内へ入り込むゼオライト量を、5μm以下とでき、ゼオライト膜による分離、濃縮において、実用上、十分な処理量と分離性能を両立しうるものである。」(第2頁(4-2)項)と主張しているが、緻密なゼオライト膜が形成されやすくなる理由も、緻密なゼオライト膜が形成されると、多孔質支持体内へ入り込むゼオライト量が5μm以下となる理由も説明されていないため、当該主張を参照したとしても、本件訂正発明13がサポート要件を満たしていると判断できない。
(ウ)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、訂正事項10によって訂正された後の本件訂正発明13は、発明の詳細な説明に記載された発明といえないから、本件訂正発明13は、特許法第36条第6項第1号の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
ウ 小括
以上のとおりであるから、請求項13についての訂正の請求は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合していない。
そして、訂正事項10による一群の請求項を構成する請求項12、13についての訂正の請求は、一つの訂正単位として訂正することを求めたものであり、一体不可分のものであるから、請求項13についての訂正の請求が認容できないので、請求項12、13についてする訂正の請求の全体を認めることはできない。
(3)請求項14についての訂正(訂正事項11)
ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項11は、願書に添付された明細書の段落【0029】の記載に基づき、訂正前の請求項14に記載された「ゼオライト膜」について、「SiO2/Al2O3モル比」を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
イ 独立特許要件について
請求項14についての訂正(訂正事項11)は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるところ、訂正前の請求項14に対しては、特許異議の申立てがされていることから、当該請求項14についての訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)は課されない。
ウ 小括
したがって、請求項14についての訂正の請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
3 本件訂正の適否についてのまとめ
請求項〔1~9〕、〔12、13〕についての訂正の請求は、前記2(1)及び(2)のとおり、適法にされたものとはいえないから、訂正後の請求項〔1~9〕、〔11、12〕について訂正することは認められない。
他方、請求項14についての訂正の請求は、前記2(3)のとおり、適法にされたものであるから、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲請求項14のとおり、訂正後の請求項14について訂正することを認める。
第3 特許請求の範囲の記載(本件発明)
前記第2のとおり、本件訂正請求のうち、請求項14についての訂正の請求は適法にされたものであるから、本件特許請求の範囲請求項1、2、12及び14の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に併せて「本件発明1」などという。)。
「【請求項1】
多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下である
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
「【請求項2】
多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、
前記ゼオライト膜を断面から観察したSEM像において、前記ゼオライト膜に対する、前記ゼオライト膜中に存在する空隙の面積割合が0.3%以上である、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体。」
「【請求項12】
多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
前記多孔質支持体上に種結晶を付着させた後に前記ゼオライト膜を形成し、
(前記種結晶の平均粒子径)/(前記多孔質支持体の平均細孔径)で表される比が1~5である、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。」
「【請求項14】
多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に、複数の成分からなる気体混合物を接触させ、前記気体混合物から、透過性の高い成分を透過させて分離する、気体混合物の分離方法であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下であり、
前記ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比が7.5以上である、
気体混合物の分離方法。」
第4 取消理由
1 取消理由1(サポート要件違反)について
(1)本件発明2について
本件発明2の課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0010】の記載によれば、ゼオライト膜による分離、濃縮において、実用上、十分な処理量と分離性能を両立する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を提供することといえる。
これに対して、発明の詳細な説明の実施例には、CHA型ゼオライト膜が多孔質支持体上に形成された多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、多孔質支持体表面から内部に向かって入り込むゼオライト膜の距離の加重平均値が2.1mm(実施例1)、4.6mm(実施例2)、0.7mm(実施例3)である多孔質支持体-ゼオライト膜複合体が、同距離の加重平均値が5.9mmである多孔質支持体-ゼオライト膜複合体(比較例1)と比較して、二酸化炭素やメタン等のガスのパーミエンスが大きくなり、かつ、二酸化炭素とメタンの分離係数が同程度以上になることが具体的に記載されている。そして、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体のゼオライト膜に存在する空隙のゼオライト膜に対する面積割合については、実施例1の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の面積割合が3.2%であり、比較例1の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体では、空隙が確認できなかったことも具体的に記載されている。
加えて、発明の詳細な説明には、「多孔質支持体の孔中に入り込むゼオライトの量を特定範囲に制御することにより、ゼオライト膜の透過性能、分離性能向上することを見出した。」(段落【0011】)こと、及び、「本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体は、この空隙の存在により、拡散が促進され、より高い透過性能が得られるものと考えられる。」(段落【0044】)ことも記載されているから、これら記載を併せ考えると、実施例1~3の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体で奏する効果は、多孔質支持体表面から内部に向かって入り込むゼオライト膜の距離を特定範囲に調整することによって達成されたものであるといえるものの、ゼオライト膜に存在する空隙のゼオライト膜に対する面積割合を調整しただけで達成できたものであるとはいえない。
すなわち、発明の詳細な説明には、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体において、ゼオライト膜に存在する空隙のゼオライト膜に対する面積割合を調整することのみによって、上記課題を解決できることが記載されているといえないし、また、このようなことが本件特許出願時の技術常識であることを示す証拠もない。
他方、本件発明2は、前記第3のとおり、「多孔質支持体-ゼオライト膜複合体」において、「ゼオライト膜を断面から観察したSEM像において、前記ゼオライト膜に対する、前記ゼオライト膜中に存在する空隙の面積割合が0.3%以上である」ことのみを特定するものであるから、本件発明2は、発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許出願時の技術常識に照らし当該課題を解決できると認識できる範囲のものともいえない。
よって、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明といえない。
(2)本件発明12について
本件発明12は、前記第2の2(2)イにて、独立特許要件を検討した本件訂正発明13から、「多孔質支持体の平均細孔径0.3μm以上20μm以下である」という発明特定事項を省いたものである。
そして、本件発明12の課題は、ゼオライト膜による分離、濃縮において、実用上、十分な処理量と分離性能を両立する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法を提供すること(段落【0010】)であり、本件訂正発明13の課題と同じものである。
そうしてみると、本件発明12の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本件訂正発明13が、前記第2の2(2)イ(イ)で検討したとおり、発明の詳細な説明の記載等により当業者が本件訂正発明13の課題を解決できると認識できる範囲のものともいえないから、本件発明12についても、同様の理由により、発明の詳細な説明の記載等により当業者が本件発明12の課題を解決できると認識できる範囲のものともいえない。
よって、本件発明12は、発明の詳細な説明に記載された発明といえない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件請求項2、12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 取消理由2(明確性要件違反)について
(1)本件発明2について
本件発明2の「前記ゼオライト膜を断面から観察したSEM像において、前記ゼオライト膜に対する、前記ゼオライト膜中に存在する空隙の面積割合が0.3%以上である」との発明特定事項に関して、当該「ゼオライト膜中に存在する空隙の面積割合」の評価方法は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても明らかでないため、当該発明特定事項が明確であるといえない。
すなわち、発明の詳細な説明の段落【0045】には、「ゼオライト膜に対する空隙の割合は、断面のSEMにより面積比として測定することができ、・・・空隙の割合は最小視野面積:36μm×50μm以上のSEM像6枚以上を得て、得た像を2値化し、bit数で比較する方法によって算出する。」ことが記載されているが、当該SEM像の画像処理条件(特に2値化条件)は記載されておらず、本件発明2の「ゼオライト膜中に存在する空隙の面積割合」が一義的に定まらない。
また、発明の詳細な説明には、ゼオライト膜中に存在する空隙と支持体の孔による空隙との判別方法も記載されていないため、本件発明2の「ゼオライト膜中に存在する空隙」が、ゼオライト膜のみに存在する空隙を示しているのか、あるいは、ゼオライト膜の一部が多孔質支持体内部に入り込んだ部分のゼオライト膜及び多孔質支持体にそれぞれ存在する空隙を示しているのかも明らかでない。
よって、本件発明2は明確であるといえない。
(2)小括
以上のとおりであるから、本件請求項2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
3 取消理由3(新規性・進歩性欠如)について
(1)各甲号証について
ア 甲号証一覧
甲第1号証:Y.Hasegawa et al., Preparation of novel chabazite (CHA)-type zeolite layer on porous α-Al2O3 tube using template-free solution, Journal of Membrane Science, 2010, Vol.347, p.193-196
甲第3号証:Moises A.Carreon et al., Alumina-Supported SAPO-34 Membranes for CO2/CH4 Separation, Journal of the American Chemical Society, 2008, Vol.130, p.5412-5413
甲第6号証:Halil Kalipcilar et al., Synthesis and Separation Performance of SSZ-13 Zeolite Membranes on Tubular Supports, Chemistry of Materials, 2002, Vol.14, p.3458-3464
イ 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の記載事項は、前記第2の2(1)イ(イ)bに摘記したとおりである。また、甲第1号証に記載された発明(甲1発明1及び甲1発明2)は、前記第2の2(1)イ(イ)cで認定したとおりのものである。
ウ 甲第3号証の記載事項及び甲第3号証に記載された発明
(ア)甲第3号証の記載事項
a 「In this paper, we report SAPO-34 membranes prepared using different pivotal crystallization templates and secondary structure-directing agents on porous α-Al2O3 supports.」(第5412頁左欄第24~27行)
(当審仮訳:この論文では、多孔質α-Al2O3支持体上にさまざまなピボット結晶化テンプレートと二次構造指向剤を使用して作製されたSAPO-34膜を報告する。)
b 「The SAPO-34 membranes were prepared on α-Al2O3 supports by secondary seeded growth using two gel compositions and one or two synthesis steps.」(第5412頁左欄末行~右欄第2行)
(当審仮訳:SAPO-34膜は、2つのゲル組成と1つまたは2つの合成ステップを使用した二次シード成長によってα-Al2O3支持体上に作製した。)
c 「As shown in Table 1, the separation performance was highly dependent on the gel composition and the number of zeolite layers. ・・・ The second layer helped to decrease non-zeolite pores and thus increased the CO2/CH4 selectivity (Membrane A5).」(第5412頁右欄第5~12行)
(当審仮訳:表1に示すように、分離性能はゲル組成とゼオライト層の数に大きく依存した。・・・第2層は、非ゼオライトの細孔を減少させ、CO2/CH4の選択性を高めるのに役立った(膜A5)。)
d 「
[図:0001390537000001.jpg]
」(第5412頁)
e 「The α-Al2O3 support is composed of two well-defined regions, an outer ~40μm thick layer with 0.2μm average pore size, and a porous area with 0.8μm average pore size.」(第5413頁左欄第7行~右欄第2行)
(当審仮訳:α-Al2O3支持体は、約40μm厚で平均孔径が0.2μmの外層と、平均孔径が0.8μmの多孔質領域との、2つの明確な領域で構成されている。)
(イ)甲第3号証に記載された発明
甲第3号証の前記(ア)a~eの記載事項を、表1の膜A5のSAPO-34膜を作製する方法に注目して整理すると、甲第3号証には、次のとおりの発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「約40μm厚で平均孔径が0.2μmの外層と平均孔径が0.8μmの多孔質領域とで構成されている多孔質α-Al2O3支持体上に、サイズが0.7±0.1μmの種結晶を用いて、二次シード成長によって、SAPO-34膜を作製する方法。」
エ 甲第6号証の記載事項
甲第6号証の記載事項は、前記第2の2(1)イ(イ)dに摘記したとおりである。
(2)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、両者の対応関係は、前記第2の2(1)イ(ウ)aで検討したのと同様であるから、両者に実質的な相違点はない。
よって、本件発明1は、甲1発明1であるといえる。
イ 本件発明12について
本件発明12と甲3発明とを対比すると、両者の対応関係は、次のとおりに解することができる。
・甲3発明の「多孔質α-Al2O3支持体」上に作製された「SAPO-34膜」は、本件発明12の「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体」に相当するから、甲3発明の「多孔質α-Al2O3支持体上に」、「SAPO-34膜を作製する方法」は、本件発明12の「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法」に相当する。
・甲3発明の「二次シード成長」は、「多孔質α-Al2O3支持体」に「種結晶」を付着した後に「SAPO-34膜」を成長させることを示していることは明らかであるから、本件発明12の「前記多孔質支持体上に種結晶を付着させた後に前記ゼオライト膜を形成」に相当する。
・甲3発明の「平均孔径が0.2μmの外層」の「多孔質α-Al2O3支持体」に対して、「サイズが0.7±0.1μmの種結晶」を用いることは、種結晶サイズの幅(±0.1μm)を考慮して、「(前記種結晶の平均粒子径)/(前記多孔質支持体の平均細孔径)で表される比」を算出すると、3(=0.6μm/0.2μm)~4(=0.8μm/0.2μm)となるから、本件発明12の「(前記種結晶の平均粒子径)/(前記多孔質支持体の平均細孔径)で表される比が1~5である」との規定を満足する。
そうしてみると、本件発明12と甲3発明とに実質的な相違点はないから、本件発明12は、甲3発明であるといえる。
ウ 本件発明14について
本件発明14と甲1発明2とを対比すると、前記第2の2(1)イ(ウ)aで検討したのと同様の相当関係が認められる。
また、甲1発明2の「多結晶性CHA型ゼオライト層及び多孔質Al2O3管支持体によって、気体混合物を分離する方法」は、気体混合物の複数の成分のうち透過性の高い成分を、多結晶性CHA型ゼオライト層及び多孔質Al2O3管支持体透過させて分離するものであるから、本件発明14の「多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に、複数の成分からなる気体混合物を接触させ、前記気体混合物から、透過性の高い成分を透過させて分離する、気体混合物の分離方法」に相当する。
したがって、本件発明14と甲1発明2とは、
「多孔質支持体と前記多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜とを有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に、複数の成分からなる気体混合物を接触させ、前記気体混合物から、透過性の高い成分を透過させて分離する、気体混合物の分離方法であって、
前記ゼオライト膜の一部が前記多孔質支持体内部に入り込んでおり、
前記ゼオライト膜が入り込んでいる、前記多孔質支持体の表面から内部までの距離が平均で5.0μm以下であり、
前記ゼオライト膜のフレームワーク密度が17(T/1000Å3)以下である、気体混合物の分離方法。」の点で一致し、本件発明14では、「ゼオライト膜のSiO2/Al2O3モル比が7.5以上である」のに対して、甲1発明2では、「多結晶CHA型ゼオライト層の組成は乾燥基準で6.4SiO2:1Al2O3:1.0K2O:0.05SrO」であり、SiO2/Al2O3モル比は6.4(=6.4/1)になる点で相違している。
そこで当該相違点について検討すると、前記第2の2(1)イ(ウ)bで検討したのと同様の理由により、甲1発明2において、CHA型ゼオライトの熱水安定性と酸安定性を向上させるために、アルミニウム含有量を低減させ、SiO2/Al2O3モル比を7.5以上とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることといえる。
したがって、本件発明14は、甲1発明2、及び、甲第1号証、甲第6号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
(3)小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であり、本件発明12は、甲第3号証に記載された発明であって、いずれも、特許法第29条第1項第3号に該当するし、また、本件発明14は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第1号証、甲第6号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1、12、14に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
第5 むすび
以上のとおり、本件特許2及び12は、特許法第36条第6項第1号又は第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるものである。
また、本件請求項1、12及び14に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるものである。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700060