特許異議申立
2023-700933
CLTパネル
- 審判番号
- 2023-700933
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-022512
- 登録番号
- 7236283
- 請求日
- 2023年09月07日
- 審決日
- 2024年06月24日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大成建設株式会社
- 【権利者代理人】園田・小林弁理士法人
- 【異議申立人】谷口 美津子
- 審判長/審判官
- 審判長 居島 一仁
- 審判官 加藤 範久
- 審判官 土屋 真理子
- 分類
- P1651.113-YAA(E04C) / P1651.121-YAA(E04C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7236283号発明「CLTパネル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7236283号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第7236283号の請求項3に係る特許を維持する。
特許第7236283号の請求項1及び2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7236283号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成31年2月12日に出願され、令和5年3月1日にその特許権の設定登録がされ、同月9日に特許掲載公報が発行され、その後、令和5年9月7日に特許異議申立人谷口美津子(以下「申立人」という。)より、請求項1ないし3に係る特許に対して、特許異議の申立てがされ、同年10月16日に申立人より特許異議申立書の手続補正書が提出されたものである(特許異議申立書について、以下「申立書」という。)。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和5年11月13日付け:取消理由通知書
6年 1月15日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
同年 2月21日 :申立人による意見書の提出
同年 3月28日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年 5月 8日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
なお、令和6年5月8日に訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされたことにより、令和6年1月15日にされた訂正の請求は、取り下げられたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。
また、下記第2のとおり、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)については、訂正が一部の請求項の削除のみの場合であって、特許法第120条の5第5項ただし書に規定する「特許異議申立人に意見書を提出する機会を与える必要がないと認められる特別の事情があるとき」に該当すると認められるから、申立人に意見書を提出する機会を与えないこととした。
第2 本件訂正請求について
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「前記外周面と同一形状を成すように形成された鋼板と、
ボルトと、を備え、
前記外周面には、当該外周面に隣接する前記CLTの表裏面との間にかけて切り欠かれた、切り欠きが設けられ、
前記鋼板は、前記外周面に添えられて、前記切り欠きの前記外周面側の開口を閉鎖するように設けられて、前記外周面の、前記板目層または前記柾目層のみに対して固定され、
前記鋼板には、前記鋼製接合具に対応する位置と、前記切り欠きに対応する位置の各々に、孔が形成され、
前記ボルトは、頭部が前記切り欠きに収まるように、かつ、軸部が、前記切り欠きから前記鋼板を挟んだ外側へ向けて、前記切り欠きに対応する位置に設けられた前記孔を貫通し、前記鋼板の表面から突出するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のCLTパネル。」
と記載されているのを、
「CLTに鋼製接合具または鋼製接合具用孔が設けられ、鋼板とボルトとを備えたCLTパネルであって、
前記鋼製接合具または前記鋼製接合具用孔は、前記CLTの少なくとも1つの外周面の両端部に、前記外周面から前記CLTの内部側に向かって内蔵または開設され、
複数の前記鋼製接合具または複数の前記鋼製接合具用孔が、前記CLTのラミナの複数の板目層または柾目層のみに設けられ、
前記外周面には、当該外周面に隣接する前記CLTの表裏面との間にかけて切り欠かれた、切り欠きが設けられ、
前記鋼板は、前記外周面と同一形状を成すように形成され、
前記鋼板は、前記外周面に添えられて、前記切り欠きの前記外周面側の開口を閉鎖するように設けられて、前記外周面の、前記板目層または前記柾目層のみに対して固定され、
前記鋼板には、前記鋼製接合具に対応する位置と、前記切り欠きに対応する位置の各々に、孔が形成され、
前記ボルトは、頭部が前記切り欠きに収まるように、かつ、軸部が、前記切り欠きから前記鋼板を挟んだ外側へ向けて、前記切り欠きに対応する位置に設けられた前記孔を貫通し、前記鋼板の表面から突出するように設けられていることを特徴とするCLTパネル。」
に訂正する。
(4)訂正の単位について
訂正前の請求項1~3について、請求項2~3はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正される一群の請求項である。
したがって、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項1~3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の適否の判断
以下、各訂正事項について、訂正の適否を検討する。
(1)訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、請求項の削除を目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項2の訂正は、請求項の削除を目的とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3の記載が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてするものである。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件訂正後の請求項〔1-3〕についての訂正を認める。
第3 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1から3に係る発明(以下、項番号によりそれぞれ「本件訂正発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1から3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
CLTに鋼製接合具または鋼製接合具用孔が設けられ、鋼板とボルトとを備えたCLTパネルであって、
前記鋼製接合具または前記鋼製接合具用孔は、前記CLTの少なくとも1つの外周面の両端部に、前記外周面から前記CLTの内部側に向かって内蔵または開設され、
複数の前記鋼製接合具または複数の前記鋼製接合具用孔が、前記CLTのラミナの複数の板目層または柾目層のみに設けられ、
前記外周面には、当該外周面に隣接する前記CLTの表裏面との間にかけて切り欠かれた、切り欠きが設けられ、
前記鋼板は、前記外周面と同一形状を成すように形成され、
前記鋼板は、前記外周面に添えられて、前記切り欠きの前記外周面側の開口を閉鎖するように設けられて、前記外周面の、前記板目層または前記柾目層のみに対して固定され、
前記鋼板には、前記鋼製接合具に対応する位置と、前記切り欠きに対応する位置の各々に、孔が形成され、
前記ボルトは、頭部が前記切り欠きに収まるように、かつ、軸部が、前記切り欠きから前記鋼板を挟んだ外側へ向けて、前記切り欠きに対応する位置に設けられた前記孔を貫通し、前記鋼板の表面から突出するように設けられていることを特徴とするCLTパネル。」
第4 証拠一覧、特許異議申立理由の要旨、及び取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の要旨
1 証拠一覧
(1)申立書とともに提出された証拠
甲第1号証:特開2018-188845号公報
甲第2号証: 森本知宏,外5名,“LSB接合を用いたCLTによる耐力壁の開発研究 その1 実大実験”,日本建築学会大会学術講演梗概集(関東),2015年9月,p.143-144
甲第3号証:特開2004-92148号公報
甲第4号証: 特開2000-265553号公報
甲第5号証:特開2005-232711号公報
甲第6号証: 特開2008-128334号公報
甲第7号証:特開2017-203350号公報
甲第8号証: 特開2014-1497号公報
甲第9号証:特開2018-188902号公報
甲第10号証: 特開2018-21401号公報
甲第11号証:特開2008-255626号公報
甲第12号証: 松田健一,“木材の釘着性について”,[online],鹿児島大学教育学部研究紀要,第31巻,p.53-62,2015年6月15日掲載(鹿児島大学リポジトリ),インターネット
<URL:https://ir.kagoshima-u.ac.jp/records/4134>
甲第12-1号証及び甲第12-2号証:鹿児島大学リポジトリ,“木材の釘着性について”,[online],鹿児島大学,インターネット
<URL:https://ir.kagoshima-u.ac.jp/records/4134>
(甲第12-1号証及び甲第12-2号証は、甲第12号証の掲載場所及び掲載年月日を示す証拠として提出されたものである。)
2 特許異議申立理由の要旨(新規性、進歩性)
「(1)特許法第29条1項3号(同法第113条第2号)
請求項1記載の本件発明1、並びに請求項2中の第1の形態に係る本件発明2-1は、特許法第29条第1項第3号に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当する。
(2)特許法第29条2項(同法第113条第2号)
本請求項2中の第2の形態に係る本件発明2-2、並びに請求項3記載の本件発明3は、特許法第29条第2項に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当する。」(申立書5頁「3 申立ての理由の要約」)
として、以下のとおり主張している。
「(1)特許法第29条第1項違反
・請求項1
甲第1号証、甲第2号証に記載の発明と同一である。
・請求項2
<2-1の形態(本件発明2-1)>
甲1発明は同一である。
(2)特許法第29条第2項違反
・請求項2
<2-1の形態(本件発明2-1):仮定主張>
甲1発明、周知技術(甲3、甲4、甲5、甲6)に基づき当業者が容易に発明できたものである。
<2-2の形態(本件発明2-2)>
甲1発明、周知技術(甲7、甲8、甲9、甲10)に基づき当業者が容易に発明できたものである。
・請求項3
甲1発明、周知技術(甲11、甲8)に基づき当業者が容易に発明できたものである。」(申立書44頁15行~46頁8行「理由の要点」)
3 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の要旨(新規性、進歩性)
令和6年3月28日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の要旨は、次のとおりである。
令和6年1月15日付けの訂正の請求により訂正された請求項1に係る発明は、甲1発明及び周知技術に基づいて、又は、甲2発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、上記請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
本件訂正により、請求項1に係る発明は削除されたため、当審が取消理由通知(決定の予告)で通知した請求項1に対する取消理由は、対象とする請求項が存在しないものとなった。
そこで、以下では取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(請求項3に係る発明が、「甲1発明、周知技術(甲11、甲8)に基づき当業者が容易に発明できたものである」ので、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである)について検討する。
1 申立書とともに提出された証拠について
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載事項
本件特許の出願前に発行された甲第1号証には、以下の記載がある。
(当審で下線を付与した。以下同様。)
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
CLTからなる壁体を備え、この壁体の上端と下端が鉄骨または鉄筋コンクリートからなる上梁と下梁に梁接合部を介してそれぞれ接合された木質耐震壁であって、
梁接合部は、上梁または下梁に固定され、壁体に向けて突出する梁側の鋼板と、壁体の上端または下端から上梁または下梁に向けて突出するとともに壁体の内部に挿入配置される壁体内部側の鋼板と、これらの鋼板を接合するボルトと、壁の上端面または下端面に配置され、壁体内部側の鋼板に接合する端面側の鋼板とを含んで構成され、
壁体と壁体内部側の鋼板は、これらを貫通して配置される棒状の鋼製部材によって一体的に固定され、
壁体と端面側の鋼板は、端面側の鋼板の外側から壁体の内部に挿入配置される外周にねじが形成された棒状のねじ付き鋼製部材によって一体的に固定されることを特徴とする木質耐震壁。
【請求項2】
壁体と壁体内部側の鋼板を固定する棒状の鋼製部材と、壁体と端面側の鋼板を固定する棒状のねじ付き鋼製部材とは、交互に隣接して配置されることを特徴とする請求項1に記載の木質耐震壁。
【請求項3】
ねじ付き鋼製部材は、CLTの繊維方向と直交する方向に挿入配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の木質耐震壁。
【請求項4】
梁接合部は、壁体の上下左右の四隅に設置されることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の木質耐震壁。
【請求項5】
壁体と壁体内部側の鋼板を固定する棒状の鋼製部材は、降伏が生じる破壊モードで破壊する部材であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の木質耐震壁。」
(イ)「【0001】
本発明は、構造物に設置される木質耐震壁に関するものであり、特に、直交集成板(CLT:Cross Laminated Timber)を壁体に用いた木質耐震壁に関するものである。」
(ウ)「【0006】
しかしながら、木質中高層建物を合理的に計画するに当たっては、上記のようなCLT要素のみによる構造体の構築は耐震性能確保の観点から難しく、木質以外の構造体とのハイブリッド化が現実的であり、かつCLT耐震壁自体にも相応抵抗力(壁倍率)が求められる。一例として梁を鉄骨もしくはRC(鉄筋コンクリート)構造とし、そこにCLT耐震壁を接合することが考えられる。この場合、CLT耐震壁は上下の梁に直接接合する必要があるが、通常のドリフトピンもしくはLSB(ラグスクリューボルト)等による接合とした場合、初期剛性の不足やCLT接合部の脆性破壊等のためにその性能を十分に発揮できないおそれがある。このため、剛性、靱性、耐力のいずれにも優れた構造が求められていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、剛性、靱性、耐力に優れた木質耐震壁を提供することを目的とする。」
(エ)「【0013】
本発明に係る木質耐震壁によれば、CLTからなる壁体を備え、この壁体の上端と下端が鉄骨または鉄筋コンクリートからなる上梁と下梁に梁接合部を介してそれぞれ接合された木質耐震壁であって、梁接合部は、上梁または下梁に固定され、壁体に向けて突出する梁側の鋼板と、壁体の上端または下端から上梁または下梁に向けて突出するとともに壁体の内部に挿入配置される壁体内部側の鋼板と、これらの鋼板を接合するボルトと、壁体の上端面または下端面に配置され、壁体内部側の鋼板に接合する端面側の鋼板とを含んで構成され、壁体と壁体内部側の鋼板は、これらを貫通して配置される棒状の鋼製部材によって一体的に固定され、壁体と端面側の鋼板は、端面側の鋼板の外側から壁体の内部に挿入配置される外周にねじが形成された棒状のねじ付き鋼製部材によって一体的に固定されるので、剛性、靱性、耐力に優れた木質耐震壁を提供することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る他の木質耐震壁によれば、壁体と壁体内部側の鋼板を固定する棒状の鋼製部材と、壁体と端面側の鋼板を固定する棒状のねじ付き鋼製部材とは、交互に隣接して配置されるので、棒状の鋼製部材と棒状のねじ付き鋼製部のそれぞれの拘束効果により壁体の割裂破壊を遅らせて強度、靱性を高めることができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る他の木質耐震壁によれば、ねじ付き鋼製部材は、CLTの繊維方向と直交する方向に挿入配置されるので、繊維方向に挿入配置した場合と比較して最大耐力時の変形を大きくすることができ、棒状の鋼製部材(ドリフトピン)の耐力発揮との同時性を実現することが可能となる。このため、木質耐震壁の耐力をより高めることができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る他の木質耐震壁によれば、梁接合部は、壁体の上下左右の四隅に設置されるので、壁体が負担するせん断力、付加曲げモーメント偶力による軸方向力を処理可能な応力伝達機構を実現することができるという効果を奏する。」
(オ)「【0018】
【図1】図1は、本発明に係る木質耐震壁の実施の形態を示す正面図である。
【図2】図2は、図1のA部分の拡大図である。
【図3】図3は、図1のB-B線に沿った断面図である。」
(カ)「【0020】
図1~図3に示すように、本発明の実施の形態に係る木質耐震壁100は、CTからなる壁体10を備え、この壁体10の上端と下端が上梁12と下梁14に梁接合部16を介してそれぞれ接合された矩形の壁である。CLTの繊維方向は鉛直面内の方向としてある。なお、本実施の形態では、壁体10の高さ300cm程度、幅200cm程度、壁厚20cm程度(7層7プライ)を想定しているが、本発明はこれに限るものではない。また、本実施の形態の上梁12および下梁14はH形鋼(鉄骨)で構成されているが、本発明の上梁12および下梁14はこれに限るものではなく、別の形態の鉄骨や鉄筋コンクリートなどで構成されていてもよい。
【0021】
梁接合部16は、壁体10の上下左右の四隅に配置されている。上下左右の梁接合部16は同じ構造であるため、以下においては、壁体10の左上側(図1のA部分)の梁接合部16を例にとり説明する。
【0022】
図2および図3に示すように、梁接合部16は、上梁12に固定され、壁体10に向けて突出するプレート18(梁側の鋼板)と、壁体10の上端から上梁12に向けて突出するとともに壁体10の内部に挿入配置されるプレート20(壁体内部側の鋼板)とを備える。壁体内部側のプレート20は壁厚方向の中央に配置される。プレート18、20は上下に突き合わされており、その前後面にはプレート18、20を跨ぐ形でプレート22が配置される。各プレート18、20、22は貫通孔に通された複数の高力ボルト24によって接合されている。壁体10の外側においてプレート20の左右縁にプレート26が溶接しており、上梁12側のプレート18の左右縁にもプレート28が溶接している。これらプレート26、28同士もプレート30と複数の高力ボルト32によって接合されている。一方、壁体10の上端面にはプレート34(端面側の鋼板)が当接配置されており、このプレート34と壁体内部側のプレート20は溶接されている。
・・・
【0024】
また、端面側のプレート34には貫通孔が複数設けられており、各貫通孔から壁体10の内部に向けてLSB40(棒状のねじ付き鋼製部材)が挿入配置されている。このLSB40は外周に雄ねじが加工された鋼棒からなる。LSB40の上端部には図示しない開口が形成されており、この開口に連通する中空孔の内周面に雌ねじが加工されている。LSB40の開口が壁体10の端面側に露出するように、壁体10にねじ込んで固定しておき、端面側のプレート34の貫通孔からLSB40の雌ねじにボルト42を螺合することによって、壁体10と端面側のプレート34は一体的に固定される。このLSB40は、CLTの繊維方向Xと直交する方向(繊維直交層)に挿入することが好ましく、本実施の形態でもそのような配置となっている。これにより、LSB40を繊維方向Xに挿入配置した場合と比較して最大耐力時の変形を大きくすることができ、棒状の鋼製部材(ドリフトピン)の耐力発揮との同時性を実現することが可能となる。このため、木質耐震壁100の耐力をより高めることができる。
・・・
【0028】
また、梁接合部16を、壁体10の上下左右の四隅に設置することで、せん断力、および付加曲げモーメント偶力による軸方向力を処理することができる。この応力伝達機構は木質耐震壁100の厚さや幅によらず同じであり、プロポーションによらず常にこのディテールを用いた汎用的な設計、納まりを実現することが可能となる。」
(キ)「【0039】
また、本発明に係る他の木質耐震壁によれば、ねじ付き鋼製部材は、CLTの繊維方向と直交する方向に挿入配置されるので、繊維方向に挿入配置した場合と比較して最大耐力時の変形を大きくすることができ、棒状の鋼製部材(ドリフトピン)の耐力発揮との同時性を実現することが可能となる。このため、木質耐震壁の耐力をより高めることができる。
【0040】
また、本発明に係る他の木質耐震壁によれば、梁接合部は、壁体の上下左右の隅に設置されるので、壁体が負担するせん断力、付加曲げモーメント偶力による軸方向力を処理可能な応力伝達機構を実現することができる。」
(ク)図面
a 図1は以下のものである。
[図:0001414183000001.jpg]
b 図2は以下のものである。
[図:0001414183000002.jpg]
c 図3は以下のものである。
[図:0001414183000003.jpg]
イ 甲1発明
上記アより、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。(便宜のために関連する段落番号等を付した。以下同様。)
(甲1発明)
「CLTからなる壁体10を備え、この壁体10の上端と下端が上梁12と下梁14に梁接合部16を介してそれぞれ接合された矩形の壁である木質耐震壁100であって、(【0020】)
梁接合部16は、壁体10の上下左右の四隅に配置され、
上下左右の梁接合部16は同じ構造であるため、以下においては、壁体10の左上側の梁接合部16を例にとって、(【0021】)
梁接合部16は、上梁12に固定され、壁体10に向けて突出するプレート18(梁側の鋼板)と、壁体10の上端から上梁12に向けて突出するとともに壁体10の内部に挿入配置されるプレート20(壁体内部側の鋼板)とを備え、
プレート18、20は上下に突き合わされており、その前後面にはプレート18、20を跨ぐ形でプレート22が配置され、各プレート18、20、22は貫通孔に通された複数の高力ボルト24によって接合され、
壁体10の外側においてプレート20の左右縁にプレート26が溶接しており、上梁12側のプレート18の左右縁にもプレート28が溶接し、これらプレート26、28同士もプレート30と複数の高力ボルト32によって接合され、
一方、壁体10の上端面にはプレート34(端面側の鋼板)が当接配置されており、このプレート34と壁体内部側のプレート20は溶接され、(【0022】)
端面側のプレート34には貫通孔が複数設けられており、各貫通孔から壁体10の内部に向けてLSB40(棒状のねじ付き鋼製部材)が挿入配置され、
このLSB40は外周に雄ねじが加工された鋼棒からなり、LSB40の上端部には開口が形成されており、この開口に連通する中空孔の内周面に雌ねじが加工され、
LSB40の開口が壁体10の端面側に露出するように、壁体10にねじ込んで固定しておき、端面側のプレート34の貫通孔からLSB40の雌ねじにボルト42を螺合することによって、壁体10と端面側のプレート34は一体的に固定され、
このLSB40は、CLTの繊維方向Xと直交する方向(繊維直交層)に挿入する配置となっており、これにより、LSB40を繊維方向Xに挿入配置した場合と比較して最大耐力時の変形を大きくすることができる、(【0024】)
木質耐震壁100。」
(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載事項
本件特許の出願前に発行された甲第2号証には、以下の記載がある。
(ア)「LSB 接合を用いたCLT による耐力壁の開発研究」(143頁表題)
(イ)「1.はじめに
本報では、スギ直交集成板の端部接合にLSB を用いた耐力壁の破壊性状及びせん断性能を把握することを目的とする。試験体のせん断スパン長さは、階高を3m程度と仮定し、反曲点比を0.5 として設定する。
2.試験概要
(1) CLT 柱脚接合部試験体
試験体図を図1(a),(b)に、柱断面図を図2に示す。試験体は、柱に埋め込んだLSBと柱脚金物を接合し、柱脚金物と試験治具は高力ボルトにより直接緊結した。
柱は、厚さ210mmのスギ直交集成板Mx60-5-7を用いた。LSB は、端部にM18の雌ネジ加工が施してあり、全長591mm、雌ネジ部分の長さ61mm、LSB有効長さ500mm、山径19.4mm、谷径14.4mm、ネジピッチ8mmのものを12本用い、繊維直交方向ラミナに打ち込んだ。LSBによる木材の割裂を防止するため、パネリードX (Φ8 L200mm) を16本用いた。柱脚金物は、鋼材を用いて試験体破壊時にほぼ変形しない形状のものとした。せん断ダボは、柱脚金物に溶接したΦ50mmで長さ150mmの鋼材を柱木口に差し込み、図3の様に木口から70mm又は90mmの位置にΦ50mmの鋼材に直交して接するようにΦ20mmのドリフトピンを打ち込んだものとした。柱幅は、1000mmと1450mmの2種類とし、柱幅1000mmの試験体(柱脚接合部1)を3体、柱幅1450mmの試験体(柱脚接合部1.45)を1体製作した。」(143頁左欄1~24行)
(ウ)
[図:0001414183000004.jpg]
(143頁左欄下側の表)
(エ)「試験体図を図1(c)に示す。試験体は、柱脚接合部1を梁の上下に配置し、梁に差し込んだM18の両ネジボルト12本により緊結した仕様とした。梁は、断面360mm×650mmのベイマツ対称異等級構成集成材E120-F330を用いた。」(143頁右欄1~5行)
(オ)図面
a 図1(a)は以下のものである。(枠線は申立人による。以下同様。)
[図:0001414183000005.jpg]
b 図1(b)は以下のものである。
[図:0001414183000006.jpg]
c 図1(c)は以下のものである。
[図:0001414183000007.jpg]
d 図2は以下のものである。
[図:0001414183000008.jpg]
e 上記図面から、以下のことが看取できる。
(a)上記a、bの図1(a)、(b)から、
・スギ直交集成板のLSBが打ち込まれる端部は面状であること。
(b)上記a、b、c、dの図1(a)、(b)、(c)、図2、及び上記(a)から、
・12本のLSBは、スギ直交集成板の端面の両端側に6本ずつ、端面からスギ直交集成板の内部側に向かって打ち込まれること。
(c)上記a、b、cの図1(a)、(b)、(c)から、
・「スギ直交集成板」は、板状(あるいは壁状)の部材であること。
イ 甲2発明
上記アより、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
なお、上記アに摘記した甲第2号証の記載においては、「スギ直交集成板」の「耐力壁」である部材が、「柱」とも称されているが、同部材は、「断面:210mm×1000mm」もしくは「断面:210mm×1450mm」(上記(ウ))という寸法であり、また上記e(c)の看取事項からも、板状もしくは壁状の部材であることを踏まえ、以下では、「柱」ではなく、「板」(「スギ直交集成板」)もしくは「壁」(「耐力壁」)という記載に統一した。
(甲2発明)
「スギ直交集成板の端部接合にLSBを用いた耐力壁であって、
スギ直交集成板に埋め込んだLSBと壁脚金物を接合し、
壁脚金物と試験治具は高力ボルトにより直接緊結する、((イ))
または、
壁脚接合部を梁の上下に配置し、梁に差し込んだM18の両ネジボルト12本により緊結した仕様であり、((ウ))
LSBは、端部にM18の雌ネジ加工が施してあり、全長591mm、雌ネジ部分の長さ61mm、LSB有効長さ500mm、山径19.4mm、谷径14.4mm、ネジピッチ8mmのものであり
、12本用い、繊維直交方向ラミナに打ち込み、((イ))
12本のLSBが、スギ直交集成板の端部の面の両端側に6本ずつ、端部の面からスギ直交集成板の内部側に向かって打ち込まれる、((カ))
耐力壁。」
(3)甲第8号証
ア 甲第8号証の記載事項
本件特許の出願前に発行された甲第8号証には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】
柱材の下端面に対して金属製の柱脚用接合金具を固定し、前記柱脚用接合金具を基礎側のアンカー部材に連結するようにした柱材の連結構造において、
ラグスクリュー部が形成されるとともに基端側に雄ネジ部が形成されたラグスクリューボルトの前記ラグスクリュー部と前記雄ネジ部との間の軸方向に沿った一部領域をラグスクリュー部の外径よりも小径に形成した緩衝部とし、
前記ラグスクリューボルトを前記柱材の下端面に形成した案内孔に対して前記ラグスクリュー部が前記案内孔の内壁に食い込むようにその先端側から進入させて前記雄ネジ部が前記柱材の下端面に隣接する外側位置に配置されるように埋設する一方、
前記柱材の下端面の前記ラグスクリューボルトを包囲する位置にリング状に溝を形成するとともに、前記柱材の下端面に対向する前記柱脚用接合金具の面上には前記溝に嵌合されるリング部材を形成し、
前記溝に対して前記リング部材を嵌合させるとともに、前記柱脚用接合金具に形成した透孔に前記雄ネジ部を挿通させて、ナット部材を螺合させることで前記柱脚用接合金具を前記柱材に固定し、更に前記柱脚用接合金具を前記アンカー部材に連結するようにしたことを特徴とする柱材の連結構造。」
(イ)「【0001】
本発明は柱材に埋め込んだラグスクリューボルトと柱脚用接合金具とを連結し柱脚用接合金具を介して柱材を基礎上に設置させるようにした柱材の連結構造に関するものである。」
(ウ)「【0005】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明では、柱材の下端面に対して金属製の柱脚用接合金具を固定し、前記柱脚用接合金具を基礎側のアンカー部材に連結するようにした柱材の連結構造において、ラグスクリュー部が形成されるとともに基端側に雄ネジ部が形成されたラグスクリューボルトの前記ラグスクリュー部と前記雄ネジ部との間の軸方向に沿った一部領域をラグスクリュー部の外径よりも小径に形成した緩衝部とし、前記ラグスクリューボルトを前記柱材の下端面に形成した案内孔に対して前記ラグスクリュー部が前記案内孔の内壁に食い込むようにその先端側から進入させて前記雄ネジ部が前記柱材の下端面に隣接する外側位置に配置されるように埋設する一方、前記柱材の下端面の前記ラグスクューボルトを包囲する位置にリング状に溝を形成するとともに、前記柱材の下端面に対向する前記柱脚用接合金具の面上には前記溝に嵌合されるリング部材を形成し、前記溝に対して前記リング部材を嵌合させるとともに、前記柱脚用接合金具に形成した透孔に前記雄ネジ部を挿通させて、ナット部材を螺合させることで前記柱脚用接合金具を前記柱材に固定し、更に前記柱脚用接合金具を前記アンカー部材に連結するようにしたことをその要旨とする。」
(エ)「【0010】
以下本発明の一実施の形態である柱材の連結構造について図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、柱材1は柱脚用接合金具としてのベースプレート2に対して内部に埋設されたラグスクリューボルト3を介して連結され、ベースプレート2は基礎Bに対して4本のアンカーボルトAによって連結される。
本実施の形態では断面正方形の柱材1の下端面1aには4本のラグスクリューボルト3が埋設されている(図2では手前側のラグスクリューボルト3が図示されている)。図3に示すように、ラグスクリューボルト3は柱材1に埋設されるラグスクリュー部3aを外周に備えたネジ部材である。ラグスクリューボルト3は全長35(~60)cmとされ、本実施の形態では先端からラグスクリュー部3aが30(~50)cmにわたって形成されている(全長の80%程度)。ラグスクリュー部におけるねじのピッチは6.0mmで、内径(谷径)16.7mm、外径(山径)21.2mmとされている。ラグスクリュー部に隣接した位置には緩衝部3bが5(~8)cmにわたって形成されている(全長の15%程度)。緩衝部3bはねじ山が形成されていない部分であって径16.2mmの円柱形形状に構成されている。緩衝部3bに隣接した基端側領域には雄ネジ部3cが3(~10)cmにわたって形成されている(全長の5%程度)。雄ネジ部3cにおけるねじのピッチは1.0mmで、内径(谷径)14.91mm、外径(山径)16.0mmとされている。
図7に示すように、柱材1の下端面1aには4箇所にラグスクリューボルト3を埋設するための案内孔4が形成され、各案内孔4を中心にしてこれを包囲するように後述するジベル7を嵌合させるための円形の溝5が形成されている。本実施の形態では案内孔4はラグスクリュー部3aの内径と同径とされている。ラグスクリューボルト3は案内孔4に対して図示しないねじ込み装置によってあたかもタップをねじ込むように埋設させられる。図2及び図4(b)に示すように、埋設が完了した状態で緩衝部3bの雄ネジ部3c寄りの一部と雄ネジ部3cは柱1の下端面1aから下方に突出される。図2に示すように、ラグスクリューボルト3が柱材1に埋設された状態でラグスクリュー部は柱材1に食い込み、緩衝部3bは柱材1との間にわずかな隙間6を形成する。」
(オ)図面
a 図1は以下のものである。
[図:0001414183000009.jpg]
b 図2は以下のものである。
[図:0001414183000010.jpg]
c 図3は以下のものである。
[図:0001414183000011.jpg]
d 図4は以下のものである。
[図:0001414183000012.jpg]
e 図5は以下のものである。
[図:0001414183000013.jpg]
f 図7は以下のものである。
[図:0001414183000014.jpg]
g 図9は以下のものである。
[図:0001414183000015.jpg]
h 図10は以下のものである。
[図:0001414183000016.jpg]
(4)甲第11号証
ア 甲第11号証の記載事項
本件特許の出願前に発行された甲第11号証には、以下の記載がある。
(ア)「【0006】
ところで、特許文献1記載の接合構造を含む従来の柱―梁接合構造では、ボルトやドリフトピンを用いて梁と柱を接合する際にクレーンなどの重機を用いて梁を吊った状態で当該梁を所定の位置に保持し続ける必要があり、施工性が悪く、時間とコストが掛かっていた。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ラグスクリューを用いて柱と梁を接合する際の施工性を向上させることができる木質部材の接合方法を提供することを目的としている。」
(イ)「【0015】
接合金物1は、上部金物2と下部金物3とからなっており、各金物2、3は、柱Cの側面に当接する柱側プレート4と、梁木口に当接する梁側プレート5と、前記柱側プレート4と梁側プレート5との間に設けられる複数のリブプレート6とを有している。また、下部金物3は、梁端部の下面を載置させ得るリブプレート6a、及び当該下部金物3の柱側プレート4の上部において柱の側面に当接する背板7を有している。そして、この背板7の柱側表面には、柱Cの側面に穿設された凹部内に嵌入される突起8が形成されている。この突起8は、鋼製の丸棒、短円筒体、短各筒体などで形成することができ、溶接により背板7の柱側表面に固着されている。また、背板7の梁側表面には、当該背板7と直交する方向であって、柱Cの軸に平行な方向にリブプレート6bが配設されている。このリブプレート6bには、固定孔20が穿設されており、この固定孔20に挿通される固着手段である丸棒又はボルト13によって、当該リブプレート6bと梁Bとが接合される。
【0016】
梁Bの木口の上部及び下部には、それぞれ4本ずつラグスクリュー12bが埋め込まれており、このラグスクリュー12bに対向する箇所の柱側面にはラグスクリュー12cが埋め込まれている。前記ラグスクリュー12b、12cの頭部には、メネジ部が形成されており、ボルト14を螺入することで当該ラグスクリュー12b、12cを柱側プレート4又は梁側プレート5に固定している。各プレートに形成された、ボルト14用のボルト孔は、当該ボルト14の外径よりも5~10mm程度大きくされており、梁Bにせん断力が作用したときに、ラグスクリュー12b、12c及びボルト14に当該せん断力が伝達されるのを遮断するようになっている。
【0017】
前記上部金物2及び下部金物3を構成するプレートは、それぞれ鋼板で作製されており、溶接により互いに固着されている。前記背板7は、下部金物3の柱側プレート4と同じ一枚の鋼板から作製されている。」
(ウ)「【0021】
図2~4は、図1に示される接合金物1を用いて柱と梁を接合する手順を示している。まず、柱C及び梁Bの所定箇所に穿設した下穴内にラグスクリュー12b、12cをねじ込んで、当該ラグスクリュー12b、12cを梁B及び柱Cにそれぞれ埋設する。ついで、図2に示されるように、ラグスクリュー12cを埋設した柱Cの側面に下部金物3を取り付ける。この場合、予め柱Cの側面に穿設した凹部内に下部金物3の背板7に形成した突起8を嵌入することで、容易に下部金物3の位置決め及び取付け(仮固定)を行うことができる。ついで、柱Cの下側に配設されたラグスクリュー12c頭部のメネジ部にボルト14を螺入することで、下部金物3を柱側面に固定させる。
【0022】
そして、上部金物2を梁端部上面に載置して、当該上部金物2の梁側プレート5のボルト孔を貫通して、ボルト14を、梁B内に埋め込まれたラグスクリュー12bの頭部に形成されたメネジ部に螺入する。
ついで、ボルト14により上部金物2を固定した梁Bを、前記下部金物3のリブプレート上に載置する。このとき、梁Bの端部に形成されたスリットに、前記背板7に立設されたリブプレート6bが嵌入される。
【0023】
ついで、図3に示されるように、リブプレート6bに穿設された固定孔20に丸棒又はボルト13を挿通させ、最後に、図4に示されるように、下部金物3の梁側プレート5のボルト孔を貫通して、ボルト14を、梁B内に埋め込まれたラグスクリュー12bの頭部に形成されたメネジ部に螺入するとともに、上部金物2の柱側プレート4のボルト孔を貫通して、ボルト14を、柱C内に埋め込まれたラグスクリュー12cの頭部に形成されたメネジ部に螺入する。」
(エ)図面
a 図1は以下のものである。
[図:0001414183000017.jpg]
b 図2は以下のものである。
[図:0001414183000018.jpg]
c 図3は以下のものである。
[図:0001414183000019.jpg]
d 図4は以下のものである。
[図:0001414183000020.jpg]
(オ)図面から看取できる事項
上記(ウ)の記載を踏まえると、上記(エ)で示した図1~4から以下の事項が看取できる。
・柱Cとの接合する梁Bの端部において、下部に切り欠きが設けられている点
・ラグスクリュー12cに螺入するボルト14の頭部が前記切り欠きに収まっている点
・ボルトの軸部が前記切り欠きから背板7を挟んで柱C側へ向けて、ボルト孔を貫通し背板7の表面から柱側Cに向けて突出するように設けられている点
イ 甲第11号証記載の技術
上記アより、甲第11号証には、以下の技術(以下「甲11記載技術」という)が記載されている。
(甲11記載技術)
「ラグスクリューを用いて柱と梁を接合する際の施工性を向上させることができる木質部材の接合方法であって、(【0006】)
接合金物1は、上部金物2と下部金物3とからなっており、各金物2、3は、柱Cの側面に当接する柱側プレート4と、梁木口に当接する梁側プレート5と、前記柱側プレート4と梁側プレート5との間に設けられる複数のリブプレート6とを有しており、下部金物3は、梁端部の下面を載置させ得るリブプレート6a、及び当該下部金物3の柱側プレート4の上部において柱の側面に当接する背板7を有しており、(【0015】)
梁Bには、ラグスクリュー12bが埋め込まれており、柱側面にはラグスクリュー12cが埋め込まれており、ボルト14を螺入することで当該ラグスクリュー12b、12cを柱側プレート4又は梁側プレート5に固定しており、(【0016】)
上部金物2及び下部金物3を構成するプレートは、それぞれ鋼板で作製されており、背板7は、下部金物3の柱側プレート4と同じ一枚の鋼板から作製されており、(【0017】)
柱Cとの接合する梁Bの端部において、下部に切り欠きが設けられており、(上記(オ))
ラグスクリュー12cに螺入するボルト14の頭部が前記切り欠きに収まっており、(上記(オ))
ボルトの軸部が前記切り欠きから背板7を挟んで柱C側へ向けて、ボルト孔を貫通し背板7の表面から柱側Cに向けて突出するように設けられている(上記(オ))
技術」
2 対比
本件訂正発明3と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「CLTからなる壁体10」は、本件訂正発明3の「CLT」に相当する。
(イ)甲1発明においては、「LSB40の雌ねじにボルト42を螺合することによって、壁体10と端面側のプレート34は一体的に固定」されるものであることを踏まえると、甲1発明の「LSB40(棒状のねじ付き鋼製部材)」は、接合に係る部材であり、本件訂正発明3の「鋼製接合具」に相当する。
(ウ)甲1発明における、「CLTからなる壁体10」「を備え」、その「壁体10の内部に向けてLSB40(棒状のねじ付き鋼製部材)が挿入配置」されているものである「木質耐震壁100」は、
本件訂正発明3における、「CLTに鋼製接合具」「が設けられ」た「CLTパネル」に相当する。
(エ)甲1発明における、「プレート34(端面側の鋼板)が当接配置」される「壁体10の上端面」は、本件訂正発明3における、「CLTの少なくとも1つの外周面」に相当する。
このことを踏まえ、甲1発明において、「端面側のプレート34には貫通孔が複数設けられており、各貫通孔から壁体10の内部に向けてLSB40(棒状のねじ付き鋼製部材)が挿入配置され」、かつ、「LSB40」配置部分を含む「梁接合部16」は、「壁体10の上下左右の四隅に配置され」るものであることは、
本件訂正発明3において、「前記鋼製接合具」は、「前記CLTの少なくとも1つの外周面の両端部に、前記外周面から前記CLTの内部側に向かって内蔵」されることに相当する。
(オ)甲1発明において、「このLSB40は、CLTの繊維方向Xと直交する方向(繊維直交層)に挿入する配置となっており、これにより、LSB40を繊維方向Xに挿入配置した場合と比較して最大耐力時の変形を大きくすることができる」ことは、
本件訂正発明3において、「前記鋼製接合具が、前記CLTのラミナの複数の板目層または柾目層のみに設けられて」いることに相当する。
(カ)上記(ア)ないし(オ)より、本件訂正発明3と甲1発明とは、
[一致点]
「CLTに鋼製接合具が設けられたCLTパネルであって、
前記鋼製接合具は、前記CLTの少なくとも1つの外周面の両端部に、前記外周面から前記CLTの内部側に向かって内蔵され、
複数の前記鋼製接合具が、前記CLTのラミナの複数の板目層または柾目層のみに設けられている、
CLTパネル。」
の点で一致し、以下の相違点で相違する。
[相違点1]
「CLTパネル」が、本件訂正発明3では、「鋼板」と「ボルト」とを備えているのに対し、甲1発明では、そのような特定を有しない点。
[相違点2]
「CLTパネル」について、本件訂正発明3では、「前記外周面には、当該外周面に隣接する前記CLTの表裏面との間にかけて切り欠かれた、切り欠きが設けられ」ているのに対し、甲1発明では、そのような特定を有しない点。
[相違点3]
「CLTパネル」について、本件訂正発明3では、「前記鋼板は、前記外周面と同一形状を成すように形成され、前記鋼板は、前記外周面に添えられて、前記切り欠きの前記外周面側の開口を閉鎖するように設けられて、前記外周面の、前記板目層または前記柾目層のみに対して固定され、前記鋼板には、前記鋼製接合具に対応する位置と、前記切り欠きに対応する位置の各々に、孔が形成され」ているのに対し、甲1発明では、そのような特定を有しない点。
[相違点4]
「CLTパネル」について、本件訂正発明3では、「前記ボルトは、頭部が前記切り欠きに収まるように、かつ、軸部が、前記切り欠きから前記鋼板を挟んだ外側へ向けて、前記切り欠きに対応する位置に設けられた前記孔を貫通し、前記鋼板の表面から突出するように設けられている」のに対し、甲1発明では、そのような特定を有しない点。
3 判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲1発明と甲11記載技術とは、共に、木製の壁や柱と梁とを接合する構造に関するものではあるが、甲1発明は壁体10の上端と下端が上梁12と下梁14に接合する構造であるのに対し、甲11記載技術は柱Cが梁Bの端部に接合する構造であるから、接合する具体的な部位が異なっているので、甲1発明に甲11記載技術を適用する動機付けがない。
仮に、甲1発明に甲11記載技術を適用できるとしても、甲11記載技術は、下部金物3の柱側プレート4と同じ一枚の鋼板で作製された背板7とボルト14とを有するものであるものの、下部金物3の柱側プレート4及び背板7は、梁Bの「外周面と同一形状を成すように形成され」たものでも、梁Bの前記外周面に添えられて、「切り欠きの前記外周面側の開口を閉鎖するように設けられ」たものでもなく、相違点3に係る本件訂正発明3の「前記鋼板は、前記外周面と同一形状を成すように形成され、前記鋼板は、前記外周面に添えられて、前記切り欠きの前記外周面側の開口を閉鎖するように設けられ」たという構成を備えない。
また、甲11記載技術は、「木質部材」の接合方法であって、CLTパネルに係るものではないので、相違点3に係る本件訂正発明3の「前記外周面の、板目層または前記柾目層のみに対して固定され」るという構成を備えない。
さらに、甲1発明において、相違点3に係る本件訂正発明3の上記構成を有するように、甲11記載技術や技術常識から設計変更することが当業者が適宜なし得たものとはいえない。
また、上記の相違点3に係る本件訂正発明3の構成は、本件特許異議申立におけるその余の証拠にも、記載も示唆もされていない。
なお、本件訂正発明3は、上記相違点3に係る構成を有することで、CLTパネルを他の部材に強固に接合することができ、また、建設現場でのCLTパネルの加工作業や組み立て作業を低減することができるという有意な効果を奏する。
したがって、甲1発明において、上記相違点3に係る本件訂正発明3の構成とすることは、甲1発明、甲第11号証を含めた本件特許異議申立におけるその余の証拠を考慮しても、当業者にとって想到容易ではない。
上記のとおり、相違点3が想到容易ではないから、その余の相違点1、2、4について判断するまでもなく、本件訂正発明3は当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 申立人の異議申立書における主張について
(1)申立人の異議申立書における主張
申立人は令和5年9月7日付け特許異議申立書における「(7)本件発明3の取消理由2(甲1及び甲11発明もしくは周知技術に基づく進歩性違反)」において、
「上部金物2の柱側プレート4、下部金物3の柱側プレート4、並びにこれらの間に設けられた下部金物における柱側プレート4の上部の背板7は、全体で木質部材(梁B)外周面と同一形状を成すように形成され」、
「前記鋼板(上部金物2の柱側プレート4)は、梁Bの外周面に添えられて、切り欠きの外周面側の開口を閉鎖するように設けられている。
また、前記鋼板(下部金物3の柱側プレート4)は、梁Bの外周面に添えられて、切り欠きの外周面側の開口を閉鎖するように設けられている。」
等を主張している(38頁下から8行~39頁上から9行参照。)。
なお、令和6年2月21日付け意見書では、申立人は「少なくとも訂正発明1は、新規性又は進歩性を有するものではなく、取消決定を賜りたくお願い申し上げます。」(9頁下から5行~下から4行)と主張するのみで、令和6年1月15日付けの訂正の請求により訂正された請求項3に係る発明についての主張はない。
(2)当審の判断
上記主張について検討する。
甲11記載技術において、下部金物3における柱側プレート4とその上部の背板7とは「同じ一枚の」鋼板から作製されたものであるので、同一の部材と認定し得るが、上部金物2の柱側プレート4は、下部金物3とは別の部材であるから、上部金物2の柱側プレート4も含めて、本件訂正発明3の「鋼板」に相当する部材とすることはできない。仮に、そのように認定したとしても、「上部金物2の柱側プレート4」と「下部金物3の柱側プレート4」と「背板7」とを併せた部材が「外周面と同一形状を成すように形成」されているかは定かではない。
さらに、甲11記載技術は梁Bの端部において、下部に「切り欠き」が設けられているが、上記「切り欠き」は(梁の端面(外周面)だけでなく下面も切り欠かれたものであるので)梁の端面(外周面)側が窪んだものではあっても「開口」を有したものではないので、「下部金物3の柱側プレート4」が「切り欠きの外周面側の開口を閉鎖するように設けられている」とは認定できない。
よって、甲11記載技術は、少なくとも相違点3に係る本件訂正発明3の構成を有しているとはいえないので、上記構成は、甲第11号証に記載されているとはいえないし、また、示唆したものであるともいえない。
したがって、申立人の主張は、上記3の判断を左右するものではなく、採用できない。
5 その他
上記2及び3では、甲1発明を主引用発明として検討したが、特許異議申立書の趣旨に鑑み、甲2発明や甲11記載技術を主引用発明として検討しても、少なくとも、本件訂正発明3における「前記鋼板は、前記外周面と同一形状を成すように形成され、前記鋼板は、前記外周面に添えられて、前記切り欠きの前記外周面側の開口を閉鎖するように設けられて、前記外周面の、前記板目層または前記柾目層のみに対して固定され、前記鋼板には、前記鋼製接合具に対応する位置と、前記切り欠きに対応する位置の各々に、孔が形成され」ている点は、いずれの証拠にも記載も示唆もされておらず、甲11記載技術や技術常識から設計変更することが当業者が適宜なし得たものとはいえないから、当業者にとって想到容易ではない。
したがって、本件訂正発明3は当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件特許の請求項3に係る特許は、取消理由(決定の予告)で通知した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立ては、本件訂正により請求項1及び2が削除されたことにより、特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700933