特許異議申立
2023-700911
溶接方法および溶接装置
- 審判番号
- 2023-700911
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-514472
- 登録番号
- 7269226
- 請求日
- 2023年09月05日
- 審決日
- 2025年07月23日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】古河電気工業株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【異議申立人】田中 理紗
- 審判長/審判官
- 審判長 刈間 宏信
- 審判官 本庄 亮太郎
- 審判官 田々井 正吾
- 分類
- P1651.121-YAA(B23K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7269226号発明「溶接方法および溶接装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7269226号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、〔8~14〕について訂正することを認める。
特許第7269226号の請求項1、3~8、10~14に係る特許を維持する。
特許第7269226号の請求項2、9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7269226号の請求項1~14に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、2019年(平成31年)4月22日(優先権主張 平成30年4月20日)を国際出願日とする出願であって、令和5年4月25日にその特許権の設定登録がされ、同年5月8日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議申立ての主な経緯は次のとおりである。
1 令和5年 9月 5日 :
特許異議申立人田中理紗(以下「申立人」という。)による請求項1~14に係る特許に対する特許異議の申立て
2 令和6年 1月23日付け:
特許権者古河電気工業株式会社(以下「特許権者」という。)に対して取消しの理由(以下「取消理由」という)を通知(以下、この通知を「初回取消理由通知」という。)
3 令和6年 3月 7日 :
特許権者の申込み(令和6年2月27日)に応じ面接審理を実施
4 令和6年 3月25日 :
特許権者による訂正の請求(以下「先の訂正請求」という。)、及び意見書の提出
5 令和6年 5月14日 :
特許権者による上記4の第1回訂正請求に係る訂正請求書を補正対象とする手続補正書(方式)の提出
6 令和6年 6月21日 :
申立人による意見書の提出
7 令和6年 9月25日付け:
特許権者に対して取消理由を通知(以下、この通知を「取消理由通知(決定の予告)」という。)し、決定を予告
8 令和6年11月20日 :
特許権者の申込み(令和6年10月31日)に応じ面接審理を実施
9 令和6年12月 2日 :
特許権者による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)、及び意見書(以下「特許権者意見書」という。)の提出
10 令和7年 1月17日 :
特許権者による上記8の本件訂正請求に係る訂正請求書、及び意見書を補正対象とする手続補正書(方式)の提出
11 令和7年 4月11日 :
申立人による意見書(以下「申立人意見書」という。)の提出
第2 本件訂正請求による訂正の適否
本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の適否について検討する。
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、〔8~14〕について訂正することを求めるものである。
2 一群の請求項についての説明
(1)請求項1~7
訂正前の請求項1~7について、請求項2~7は、請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、本件訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~7に対応する訂正後の請求項1~7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)請求項8~14
訂正前の請求項8~14について、請求項9~14は、請求項8を直接的又は間接的に引用しているものであって、本件訂正によって記載が訂正される請求項8に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項8~14に対応する訂正後の請求項8~14は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 独立特許要件
本件特許異議申立ては、本件訂正前の全ての請求項1~14が対象とされているので、本件訂正に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
4 一群の請求項である請求項1~7に係る訂正
(1)訂正事項
ア 訂正事項1(下線は訂正箇所に付した。以下第2において同じ。)
特許請求の範囲の請求項1に
「銅を含む加工対象を、レーザ光が照射される領域に配置し、
前記レーザ光を前記加工対象に向かって照射しながら前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引し、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行い、
前記レーザ光は、主ビームと、複数の副ビームとによって構成され、前記複数の副ビームは、前記主ビームに対して掃引方向前方側に少なくともその一部が位置し、
前記主ビームのパワーと、前記複数の副ビームのパワーの合計との比が、72:1~3:7である、
溶接方法。」と記載したのを、
「銅を含む加工対象を、レーザ光が照射される領域に配置し、
前記レーザ光を前記加工対象に向かって照射しながら前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記レーザ光を前記加工対象上にて1m/min以上20m/min以下の掃引速度で掃引し、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行い、
前記レーザ光は、主ビームと、複数の副ビームとによって構成され、前記複数の副ビームは、前記主ビームの外周を囲むように位置し、
前記主ビームのパワーと、前記複数の副ビームのパワーの合計との比が、
8:2~5:5である、
溶接方法。」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項3~7も同様に訂正する。)
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「 請求項2に記載の溶接方法。」と記載したのを、
「 請求項1に記載の溶接方法。」に訂正する。(請求項3の記載を引用する請求項4~7も同様に訂正する。)
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に
「 請求項1~4のいずれか一つに記載の溶接方法。」と記載したのを、
「 請求項1、3~4のいずれか一つに記載の溶接方法。」に訂正する。(請求項5の記載を引用する請求項6~7も同様に訂正する。)
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に
「 請求項1~5のいずれか一つに記載の溶接方法。」と記載したのを、
「 請求項1、3~5のいずれか一つに記載の溶接方法。」に訂正する。(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)
(2)一群の請求項の訂正
訂正事項1~5は、上記2(1)の特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項1~7を訂正するものである。
(3)訂正要件の検討
ア 訂正事項1
(ア)訂正の目的
訂正事項1は、
a 訂正前の請求項1のレーザ光を加工対象上で掃引することに関し、加工対象上「にて1m/min以上20m/min以下の掃引速度」で掃引することを新たに記載して減縮し、
b 訂正前の請求項1の複数の副ビームが「主ビームに対して掃引方向前方側に少なくともその一部が位置し」ているものであったのを、訂正前の請求項2の「主ビームの外周を囲むように位置」しているものに減縮し、
c 訂正前の請求項1の主ビームのパワーと、複数の副ビームのパワーの合計との比が「72:1~3:7」の範囲であったものを、「8:2~5:5」の範囲に減縮するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記(ア)のaのとおり掃引速度の範囲を減縮し、bのとおり副ビームの位置を減縮し、cのとおり主ビームのパワーと複数の副ビームのパワーの合計との比の範囲を減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(ウ)本件の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件明細書等の段落【0033】には、「8本の副ビームB2は、主ビームB1の外周を囲むように位置している」ことが、段落【0045】には、加工対象に対するレーザ光の掃引速度を、「0.5m/min、1m/min、2m/min、5m/min、10m/min、または20m/min」としたことが、段落【0048】には、「パワー比が8:2~5:5の場合は掃引速度を1m/minに低下させても照射箇所状態が良好」であること(段落【0049】の表1の記号「○」も参照。)が記載されていることから、訂正事項1の上記(ア)a、cの内容については、当初明細書等に記載されているといえる。
そして、上記段落【0033】の記載からみて、複数の副ビームは、主ビームの外周を囲むように位置することが理解されるから、訂正事項1の上記(ア)bの内容については、当初明細書等に記載されているといえる。
したがって、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
イ 訂正事項2
(ア)訂正の目的
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、請求項を削除するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(ウ)本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、請求項を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることが明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 訂正事項3
(ア)訂正の目的
訂正事項3は、訂正事項1及び訂正事項2で、訂正前の請求項1に訂正前の請求項2の内容が繰り入れられて、請求項2が削除されたことに対応して、請求項3が引用する請求項を請求項2から請求項1に訂正して整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、上記(ア)のとおり、訂正事項1と訂正事項2の内容に対応して、請求項3が引用する請求項を整合させるものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(ウ)本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、訂正事項1及び訂正事項2に対応して、請求項3の引用する請求項を整合させるものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることが明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項4~5
(ア)訂正の目的
訂正事項4~5は、訂正事項2で請求項2が削除されたことに伴い、訂正前の請求項5~6が他の請求項を引用していたうち、請求項2を除くものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4~5は、上記(ア)のとおり、訂正前の請求項5~6が引用する請求項の一部を除くものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(ウ)本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4~5は、訂正前の請求項5~6が引用する請求項の一部を除くものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることが明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
5 一群の請求項である請求項8~14に係る訂正
(1)訂正事項
ア 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に
「レーザ装置と、
前記レーザ装置から出力されたレーザ光を、銅を含む加工対象に向かって照射し、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う光学ヘッドと、
を備え、
前記光学ヘッドは、前記レーザ光と前記加工対象とが相対的に移動可能なように構成され、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、前記溶融を行なって溶接を行い、
前記加工対象に照射されるレーザ光は、主ビームと、複数の副ビームとによって構成され、
前記複数の副ビームは、前記主ビームに対して掃引方向前方側に少なくともその一部が位置し、
前記主ビームのパワーと、前記複数の副ビームのパワーの合計との比が、72:1~3:7である、
溶接装置。」と記載したのを、
「レーザ装置と、
前記レーザ装置から出力されたレーザ光を、銅を含む加工対象に向かって照射し、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う光学ヘッドと、
を備え、
前記光学ヘッドは、前記レーザ光と前記加工対象とが相対的に移動可能なよう に構成され、前記レーザ光を前記加工対象上にて1m/min以上20m/min以下の掃引速度で掃引しつつ、前記溶融を行なって溶接を行い、
前記加工対象に照射されるレーザ光は、主ビームと、複数の副ビームとによって構成され、
前記複数の副ビームは、前記主ビームの外周を囲むように位置し、
前記主ビームのパワーと、前記複数の副ビームのパワーの合計との比が、
8:2~5:5である、
溶接装置。」に訂正する。(請求項8の記載を引用する請求項10~14も同様に訂正する。)
イ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9を削除する。
ウ 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10に
「 請求項9に記載の溶接装置。」と記載したのを、
「 請求項8に記載の溶接装置。」に訂正する。(請求項10の記載を引用する請求項11~14も同様に訂正する。)
エ 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項12に
「 請求項8~11のいずれか一つに記載の溶接装置。」と記載したのを、
「 請求項8、10~11のいずれか一つに記載の溶接装置。」に訂正する。(請求項12の記載を引用する請求項13~14も同様に訂正する。)
オ 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項13に
「 請求項8~12のいずれか一つに記載の溶接装置。」と記載したのを、
「 請求項8、10~12のいずれか一つに記載の溶接装置。」に訂正する。(請求項13の記載を引用する請求項14も同様に訂正する。)
(2)一群の請求項の訂正
訂正事項6~10は、上記2(2)の特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項8~14を訂正するものである。
(3)訂正要件の検討
ア 訂正事項6
(ア)訂正の目的
訂正事項6は、
a 訂正前の請求項8のレーザ光を加工対象上で掃引することに関し、加工対象上「にて1m/min以上20m/min以下の掃引速度」で掃引することを新たに記載して減縮し、
b 訂正前の請求項8の複数の副ビームが「主ビームに対して掃引方向前方側に少なくともその一部が位置し」ているものであったのを、訂正前の請求項9の「主ビームの外周を囲むように位置」しているものに減縮し、
c 訂正前の請求項8の主ビームのパワーと、複数の副ビームのパワーの合計との比が「72:1~3:7」の範囲であったものを、「8:2~5:5」の範囲に減縮するものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項6は、上記(ア)のとおり、訂正前の請求項8を減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(ウ)本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6は、請求項1に係る訂正事項1と同様の事項を訂正するものであるから、訂正事項1と同様に、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
イ 訂正事項7
(ア)訂正の目的
訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項9を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項7は、請求項を削除するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(ウ)本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項7は、請求項を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることが明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 訂正事項8
(ア)訂正の目的
訂正事項8は、訂正事項6及び訂正事項7で、訂正前の請求項8に訂正前の請求項9の内容が繰り入れられて請求項9が削除されたことに対応して、請求項10が引用する請求項を請求項9から請求項8に訂正して整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項8は、上記(ア)のとおり、訂正事項6と訂正事項7の内容に対応して、請求項10が引用する請求項を整合させるものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(ウ)本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項8は、訂正事項6及び訂正事項7に対応して、請求項10の引用する請求項を整合させるものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることが明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項9~10
(ア)訂正の目的
訂正事項9~10は、訂正事項7で請求項9が削除されたことに伴い、訂正前の請求項12~13が他の請求項を引用していたうち、請求項9を除くものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項9~10は、上記(ア)のとおり、訂正前の請求項12~13が引用する請求項の一部を除くものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(ウ)本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項9~10は、訂正前の請求項12~13が引用する請求項の一部を除くものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることが明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
6 小括
以上のとおりであるから、上記2(1)の一群の請求項である請求項1~7について、本件訂正の訂正事項1~2、4~5は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を、訂正事項3は、同第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とし、これら訂正事項1~5のいずれも、同法同条第9項で準用する同法第126条の第5項及び第6項の規定に適合するものである。
そして、上記2(2)の一群の請求項である請求項8~14について、本件訂正の訂正事項6~7、9~10は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を、訂正事項8は、同第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とし、これら訂正事項6~10のいずれも、同法同条第9項で準用する同法第126条の第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕、〔8~14〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり本件訂正を認めたから、本件特許の請求項1、3~8、10~14に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件特許発明1」などといい、「本件特許発明1」~「本件特許発明14」をまとめて「本件特許発明」ということがある。)は、本件訂正により訂正をした特許請求の範囲の請求項1、3~8、10~14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
銅を含む加工対象を、レーザ光が照射される領域に配置し、
前記レーザ光を前記加工対象に向かって照射しながら前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記レーザ光を前記加工対象上にて1m/min以上20m/min以下の掃引速度で掃引し、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行い、
前記レーザ光は、主ビームと、複数の副ビームとによって構成され、
前記複数の副ビームは、前記主ビームの外周を囲むように位置し、
前記主ビームのパワーと、前記複数の副ビームのパワーの合計との比が、8:2~5:5である、
溶接方法。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記複数の副ビームは、前記主ビームを中心として、略リング形状を成すように位置する、
請求項1に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記主ビームと最も隣接する副ビームの中心と前記主ビームの中心との距離が75μm~400μmである、
請求項3に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記加工対象は溶接されるべき少なくとも2つの部材であり、前記加工対象を前記レーザ光が照射される領域に配置する際は、前記少なくとも2つの部材を重ねる、または接触させる、または隣接させるように配置する、
請求項1、3~4のいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項6】
ビームシェイパによって、前記レーザ光を、前記主ビームと前記複数の副ビームとに分割し、前記加工対象に照射する、
請求項1、3~5のいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項7】
前記ビームシェイパは回折光学素子である、
請求項6に記載の溶接方法。
【請求項8】
レーザ装置と、
前記レーザ装置から出力されたレーザ光を、銅を含む加工対象に向かって照射し、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う光学ヘッドと、
を備え、
前記光学ヘッドは、前記レーザ光と前記加工対象とが相対的に移動可能なように構成され、前記レーザ光を前記加工対象上にて1m/min以上20m/min以下の掃引速度で掃引しつつ、前記溶融を行なって溶接を行い、
前記加工対象に照射されるレーザ光は、主ビームと、複数の副ビームとによって構成され、
前記複数の副ビームは、前記主ビームの外周を囲むように位置し、
前記主ビームのパワーと、前記複数の副ビームのパワーの合計との比が、8:2~5:5である、
溶接装置。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
前記複数の副ビームは、前記主ビームを中心として、略リング形状を成すように位置する、
請求項8に記載の溶接装置。
【請求項11】
前記主ビームと最も隣接する副ビームの中心と前記主ビームの中心との距離が75μm~400μmである、
請求項10に記載の溶接装置。
【請求項12】
前記加工対象は溶接されるべき少なくとも2つの部材を重ねる、または接触させる、または隣接させることにより構成される、
請求項8、10~11のいずれか一つに記載の溶接装置。
【請求項13】
前記レーザ光を、前記主ビームと前記複数の副ビームとに分割するビームシェイパを備える、
請求項8、10~12のいずれか一つに記載の溶接装置。
【請求項14】
前記ビームシェイパは回折光学素子である、
請求項13に記載の溶接装置。」
第4 申立人の証拠方法
1 特許異議申立書に添付した証拠方法
申立人が特許異議申立書に添付した証拠方法は、次の甲第1号証である。・甲第1号証:特開2018-51607号公報
(以下、甲第1号証を「甲1」という。)
2 令和6年6月21日提出の意見書に添付した証拠方法
申立人が令和6年6月21日提出の意見書に添付した証拠方法は、次の甲第2号証~甲第4号証である。
・甲第2号証:特開2015-205327号公報
・甲第3号証:特開2011-224618号公報
・甲第4号証:特開2009-195947号公報
(以下、甲第2号証~甲第4号証を、それぞれ「甲2」~「甲4」という。)
3 令和7年4月11日提出の意見書に添付した証拠方法
申立人が令和7年4月11日提出の意見書(以下「申立人意見書」という。)に添付した証拠方法は、次の甲第5号証~甲第10号証である。
・甲第5号証:特開2016-46132号公報
・甲第6号証:特開2017-123318号公報
・甲第7号証:特開2012-110905号公報
・甲第8号証:特開2015-217422号公報
・甲第9号証: “企業情報-パナソニックIPマネジメント株式会社-Panasonic”、[online]、パナソニックIPマネジメント株式会社、[令和7年4月11日検索]、インターネット、URL:https://www.panasonic.com/jp/company/pipm/company.html>
・甲第10号証:“経過情報照会 特許出願2014-103579 公開2015-217422”の「登録情報」の画面のハードコピー、[令和7年4月4日作成]
(以下、甲第5号証~甲第10号証を、それぞれ「甲5」~「甲10」という。)
第5 取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の判断
1 通知した取消理由の概要(進歩性)
本件特許の請求項1、3~8、10~14に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(引用文献:甲2)に基いて、上記優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3~8、10~14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 甲2について
(1)甲2の記載事項
ア 発明の詳細な説明
「【0001】
本発明は、レーザ光を用いた金属の突き合わせ溶接におけるポロシティなどの溶接欠陥の発生を抑制するレーザ溶接方法及び装置に関するものである。」
「【0009】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、溶接部表面への付着物を溶融池に取り込まないようにするためのクリーニングを溶接時と同時に行い、溶接欠陥の発生を抑制しようとしたレーザ溶接方法及び装置を提供することを目的とする。」
「【0015】(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態におけるレーザ溶接方法及び装置の光学系の構成図である。図1において、レーザ溶接装置30は、レーザ発振器31と、DOE2と、レンズ3とを備えて構成されている。
【0016】
図1において、レーザ発振器31から出射されたレーザ光1は、DOE2及びレンズ3を通して被溶接材6の上面に集光スポット4を形成している。前記集光スポット4は、集光スポット4の移動方向7に向かって移動しており、その後方に、溶接部5が被溶接材6の上面上に形成されている。
【0017】
図2は、本発明の第1実施形態におけるレーザ溶接方法の集光スポット4(図1参照)におけるビームプロファイルの模式図である。図2の上側の図(a)に示されるように、前記集光スポット4(図1)は、集光スポット4の移動方向7に対して前方に位置している線状の先行スポット42と、先行スポット42の後方に先行スポット42から離れて位置する円形状のメインスポット41とで構成される。このような形状の先行スポット42とメインスポット41とは、DOE2により形成することができる。」
「【0023】
まず、被溶接材6に対して、レンズ3と回折光学素子2とを用いて、被溶接材6の表面にレーザ光1を集光させ、集光したレーザ光1を移動させながら被溶接材6の表面に照射して溶接を開始する。このとき、まず、集光したレーザ光1である集光スポット4のうちの先行スポット42を、被溶接材6の表面の、溶接すべき溶接部を含む領域に照射する。図3Aに示すように、先行スポット42が照射された領域において、被溶接材6の表面に存在している付着物又は酸化物の表面汚れ(被溶接材以外の物質)8は、先行スポット42が照射されると、表面汚れ8を分解してガスを発生させる温度以上まで加熱する。すなわち、先行スポット42により表面汚れ8自体がガスとなり、発生ガス81が生じる。この発生ガス81が、溶融池51に取り込まれてそのまま凝固してしまうと、溶接欠陥となってしまう。しかしながら、第1実施形態では、先行スポット42とメインスポット41との間に所定間隔Lを維持しているため、先行スポット42の照射後には、メインスポット41がすぐに照射されず、先行スポット42で照射された領域の温度が一旦低下するとともに、その間(先行スポット42の照射後からメインスポット41の照射までの間の時間)に、発生ガス81が拡散する。この発生ガス81の拡散を促進するためには、吸排気装置(図示せず)を設けてもよい。その結果、メインスポット41が照射されてメインスポット41によって溶融池51が生じる際には、先行スポット42で生じる発生ガス81は既に拡散してしまって取り込まれることがなく、ポロシティなどの溶接欠陥が発生することがない。また、このように間隔Lが先行スポット42とメインスポット41との間に存在することにより、先行スポット42で加熱された部分の温度が、一旦、下がることになり、先行スポット42に続けてメインスポット41で加熱した場合に過加熱となるのを防止することができる。このとき、図3Bに示すように、溶接時に許容されるポロシティの直径91よりも、先行スポット42によって生じる被溶接材6の表面の溶融した溶接深さ52が浅くなるように、先行スポット42のエネルギ強度を設定している。本第1実施形態の場合、実施可能な一例として、以下の様なパラメータである。
【0024】
メインスポット41のエネルギ強度I1に対する先行スポット42のエネルギ強度I2は、I1×1%≦I2≦I1×20%とする。」
「【0032】
次に、図5B示すように、先行スポット42を、1つの直線上に配列された複数の分割先行スポット42a,42b,42c,42d,42eに分割することで、先行スポット42を、線状ではなく点状の集合体とすることを特徴とする。このとき、分割先行スポット42a~42eのスポット間に位置する被溶接材6の表面が、隣接する分割先行スポット42a~42eによって溶融するように分割先行スポット42a~42eにエネルギを配分している。これによって、DOE2の設計を、ビーム分割のみで済ませられるといった簡便化を図ることが可能となる。また、分割先行スポット42a~42eに振り分けるエネルギを相対的に少なくすることが可能となる。このときの分割先行スポット42a~42eのスポット径とスポット間隔との関係は、(スポット間隔=スポット径の2~10倍)となっている。」
「【0034】
図5Dは、メインスポット41を中心として点対称状に取り囲むように(言い換えれば、メインスポット41の周辺を取り囲むように)先行スポット42a~42lを配置したことを特徴としている。このことによって、集光スポット4の移動方向7とビームプロファイルの相対配置とに制約がなくなり、どの方向に集光スポット4を動かしても溶接欠陥抑制効果が発揮される。
【0035】
なお、第2実施形態において、先行スポット42として5個の分割先行スポット42a~42e及び10個の分割先行スポット42a~42lを設けたが、分割数はそれらにとらわれるものではなく、線状~多数個の先行スポット数としても良い。」
イ 図面
(ア)【図1】
[図:0001427904000001.jpg]
(イ)【図2】
[図:0001427904000002.jpg]
(ウ)【図3A】
[図:0001427904000003.jpg]
(エ)【図3B】
[図:0001427904000004.jpg]
(オ)【図5B】
[図:0001427904000005.jpg]
(カ)【図5D】
[図:0001427904000006.jpg]
(2)甲2の記載事項の整理
ア 段落【0001】、【0016】、図1の記載からみて、甲2にはレーザ溶接装置30が記載されており、このレーザ溶接装置30は、被溶接材6を、レーザ光1の集光スポット4が形成される位置に配置し、レーザ光1を被溶接材6に向かって照射しながら、レーザ光1を被溶接材6の上面で移動方向7に向かって移動させ、そして、レーザ光1を被溶接材6上で集光スポット4を移動しながら照射し、照射された部分の被溶接材6を溶融して溶接を行うものである。
イ 段落【0034】、及び図5Dの記載からみて、上記レーザ溶接装置30が行う溶接においては、レーザ光1の集光スポット4は、メインスポット41と、複数の分割先行スポット42a~42lとによって構成され、複数の分割先行スポット42a~42lは、メインスポット41の外周を囲むように位置する。
(3)甲2発明
甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。〔 〕内に甲2の根拠箇所を記載した。)が記載されている。
「被溶接材6を、レーザ光1の集光スポット4が形成される位置に配置し〔上記(2)ア〕、
前記レーザ光1を前記被溶接材6に向かって照射しながら前記レーザ光1を前記被溶接材6の上面で移動方向7に向かって移動させ、前記レーザ光1を前記被溶接材6上で前記集光スポット4を移動しながら照射し、照射された部分の前記被溶接材6を溶融して溶接を行い〔上記(2)ア〕、
前記レーザ光1は、メインスポット41と、複数の分割先行スポット42a~42lとによって構成され〔上記(2)イ〕、
前記複数の分割先行スポット42a~42lは、前記メインスポット41の外周を囲むように位置する〔上記(2)イ〕、
レーザ溶接方法。」
3 本件特許発明1の進歩性について
(1)本件特許発明1と甲2発明の対比
ア 甲2発明の「被溶接材6」は本件特許発明1の「加工対象」に相当し、以下同様に「レーザ光1」は「レーザ光」に、「集光スポット4が形成される位置」は「照射される領域」に、それぞれ相当する。
イ 甲2発明の「前記レーザ光1を前記被溶接材6の上面で移動方向7に向かって移動させ」は本件特許発明1の「前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ」に相当し、同様に「前記集光スポット4を移動しながら照射し」は「掃引し」に相当する。
ウ 甲2発明の「メインスポット41」は本件特許発明1の「主ビーム」に、同様に「分割先行スポット42a~42l」は「副ビーム」に相当する。
(2)本件特許発明1と甲2発明の一致点及び相違点
ア 一致点
加工対象を、レーザ光が照射される領域に配置し、
前記レーザ光を前記加工対象に向かって照射しながら前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引し、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行い、
前記レーザ光は、主ビームと、複数の副ビームとによって構成され、
前記複数の副ビームは、前記主ビームの外周を囲むように位置する、
溶接方法。
イ 相違点
(ア)相違点1
溶接を行う加工対象について、本件特許発明1では「銅を含む」のに対して、甲2発明は「金属」であり、銅を含むか否かは不明である点。
(イ)相違点2
本件特許発明1においては、レーザ光を加工対象上にて掃引する掃引速度が「1m/min以上20m/min以下」であるのに対して、甲2発明の掃引速度は不明である点。
(ウ)相違点3
主ビームのパワーと、複数の副ビームのパワーの合計との比について、本件特許発明1では「8:2~5:5」であるのに対して、甲2発明では不明な点。
(3)相違点の検討
事案に鑑み、相違点1、及び本件訂正で新たに生じた相違点2をまとめて検討する。
ア 本件特許発明が解決しようとする課題
本件明細書の段落【0005】~【0007】には、本件特許発明が解決しようとする課題に関し、次の記載がある。
「【0005】
ところで、銅を含む部材、たとえば高純度の銅からなる部材や銅合金からなる部材は、導電部品や放熱部品の構成部材として、車両用部品や、電気・電子デバイス用部品に多く使用されている。以下、銅を含む部材を銅部材と記載する場合がある。銅は熱伝導率が高いので、与えたエネルギーが熱として放散しやすい。そのため、銅部材同士は接合が難しい部材と考えられている。一方、銅部材を用いた部品の小型化や、加工速度の高速化を実現するために、レーザ溶接の適用が注目されている。なお、加工速度とは、レーザ光を加工対象上で掃引して溶接を行う場合には、掃引速度を意味する。
【0006】
本発明者らが、2つの銅部材を重ねて加工対象を構成し、レーザ溶接により接合する検討を行ったところ、スパッタが発生したり、ブローホールなどの溶接欠陥が生じる場合があった。特に、ブローホールは、たとえば溶融池の深さ(溶融深さ)を深くする等の目的で、加工速度を低下させた場合に発生しやすいことを発見した。なお、溶融深さは、銅部材の厚さ等に応じて、溶接に必要な深さだけ確保することが必要となる。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、銅を含む加工対象をレーザ溶接する際に、ブローホールなどの溶接欠陥の発生を抑制することができる溶接方法および溶接装置を提供することにある。」
上記段落【0005】~【0007】の記載からみて、本件特許発明は、熱伝導率が高く接合が難しい銅を含む加工対象をレーザ溶接する場合に、銅の熱伝導率が高いことに応じて、溶融池の深さ(溶融深さ)を溶接に必要な深さだけ深くするために加工速度(掃引速度)を低下させると、ブローホールなどの溶接欠陥が生じやすいという知見から、このブローホールを抑制しようとすることを課題とするものである。
したがって、少なくとも、相違点1(加工対象が銅を含むこと)及び相違点2(掃引速度が1m/min以上20m/min以下であること)は、技術的に関連しているといえる。
イ 本件特許発明1の課題を解決する手段
そして、本件特許発明1は、上記アの課題を解決するために、上記相違点1~3の「銅を含む」加工対象について、レーザ光を加工対象上にて掃引する掃引速度が「1m/min以上20m/min以下」とし、主ビームのパワーと、複数の副ビームのパワーの合計との比を「8:2~5:5」とするという技術的手段を講じることで、銅を含む加工対象のレーザ溶接を、掃引速度を低下させても、十分な溶融池の深さを確保しつつ、ブローホールなどの溶接欠陥を抑制するものである。
ウ 甲2発明に基づく本件特許発明1の容易想到性
甲2発明は、上記イの本件特許発明1とは、ブローホールを含む溶接欠陥(ポロシティ)を抑制することを共通の課題としており、本件特許発明1と同様に、レーザ光を主ビーム(メインスポット)と複数の副ビーム(分割先行スポット)によって構成して加工対象に照射するものである一方で、加工対象が銅を含む否かは不明であり、レーザ光を加工対象上にて掃引する掃引速度は不明である。
そして、甲2発明は、甲2の段落【0023】に記載されているように、先行する副ビーム(分割先行スポット)による溶接深さを浅くすることで、表面汚れが分解して発生する発生ガスが溶融池に取り込まれないようにするものであり、少なくとも副ビームにより生成される溶融池は浅いことが望ましいものであるから、甲2には、溶融池を全体として深くすることや、掃引速度を低下させることを示唆するところはなく、また、加工対象の材質に関する具体的な記載や示唆も一切ない。そうすると、甲2発明には、銅を含む加工対象のレーザ溶接において、掃引速度を低下させても、十分な溶融池の深さを確保しつつ、ブローホールなどの溶接欠陥を抑制するという着想をする動機が存在しない。
したがって、甲2発明において、相違点1及び相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることが当業者にとって容易であるとはいえない。
(4)申立人意見書における主張について
令和7年4月11日提出の申立人意見書における申立人の主張について検討する。
ア レーザの掃引速度について:申立人意見書3.2(1)
(ア)申立人の主張内容
申立人は、甲1、3~6を引用し、レーザ溶接において、レーザ光の掃引速度を1m/min以上20m/min以下(相違点2)とすることは技術常識であり、加工対象が銅を含むとしても変わりはない旨の主張をする。
(イ)甲3、甲4について
レーザ溶接において、レーザ光の掃引速度を本件特許発明1の1m/min以上20m/min以下の相違点2の範囲とすることについて、甲3には、直線状の走査区間で100~300mm/s(6~18m/min)の範囲とすることが、甲4には直線部分では40mm/秒(2.4m/min)、コーナ部分では15mm/秒(0.8m/min)とすることが開示されている。
(ウ)甲1について
甲1には、銅線をレーザ溶接する(段落【0034】、【0039】)にあたり、レーザ移動速度を、300mm/sec(18m/min)とすること(段落【0026】)が、記載されている。
(エ)甲5について
甲5には、黄銅製の筒状圧着部を軸方向に溶接する(段落【0013】)にあたり、レーザ光の掃引速度を100mm/sec(6m/min)~350mm/sec(21m/min)とすることが記載されている。
(オ)甲6について
甲6には、アルミニウム部材と銅部材を突き合わせてレーザ溶接する(段落【0001】)にあたり、ビームの移動速度を10m/min以上とすることが好ましいことが、記載されている。
(カ)相違点2の掃引速度が技術常識であることの主張について
申立人は、上記(イ)~(オ)の甲3~4、甲1、甲5~6の開示によれば、レーザ溶接において、レーザ光の掃引速度を、相違点2に係る本件特許発明1の1m/min以上20m/min以下とすることは技術常識であり、上記(ウ)~(オ)の甲1、甲5~6の開示によれば、加工対象が銅を含むとしても変わりはない旨の説明をする。
しかしながら、上記(3)ウで検討したとおり、甲2には、溶融池を全体として深くすることや、掃引速度を低下させることや、加工対象の材質に関する具体的な記載や示唆も一切なく、甲2発明には、銅を含む加工対象のレーザ溶接において、掃引速度を低下させても、十分な溶融池の深さを確保しつつ、ブローホールなどの溶接欠陥を抑制するという本件特許発明1につながる着想をする動機が存在しない。
したがって、上記相違点2におけるレーザ光の掃引速度の「1m/min以上20m/min以下」とすることを、加工対象が銅である場合を含めて技術常識として考慮したとしても、当業者が甲2発明において、上記の動機が存在しないところで、当該技術常識のみを単独で適用することにより、相違点1及び相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、いわゆる「後知恵」であって、容易であるとはいえない。
イ 本件特許発明1の「パワー」と甲2の「エネルギ強度」の用語について:申立人意見書3.3(1)
(ア)申立人の主張内容
申立人は、令和6年12月2日提出の特許権者意見書における甲2の「エネルギ強度」の用語が本件特許発明1の「パワー」の用語に相当しない旨の主張に、根拠がない旨の主張をする。
(イ)上記(ア)の主張が検討を要しないことについて
これに対して、上記(ア)における甲2と本件特許発明1の用語の相当関係は、上記相違点3に関するものであるが、上記(3)で検討したとおり、甲2発明において、相違点1及び相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることが当業者にとって容易であるとはいえないため、(5)で後述するとおり、相違点3については検討を省略するから、上記(ア)の主張については検討を要しない。
ウ 相違点3に係る甲2の主ビームのパワーと、複数の副ビームのパワーの合計との比の推定手法について:申立人意見書3.3(2)
(ア)申立人の主張
申立人は、取消理由通知(決定の予告)における甲2の主ビームのパワーと、複数の副ビームのパワーの合計との比の推定手法が正しいとはいえない旨の特許権者意見書の主張が、適切でない旨の主張をする。
(イ)上記(ア)の主張が検討を要しないことについて
これに対して、上記イ(ア)の主張と同じく、上記(ア)における推定手法は上記相違点3に関するものであるから、上記(ア)の主張についても、同様に検討を要しない。
エ 甲2による本件特許発明1の容易想到性について:申立人意見書3.3(3)
(ア)申立人の主張内容
申立人は、特許権者意見書における甲2発明と本件特許発明1の課題が異なることにより本件特許発明1の甲2発明による容易想到性が否定される旨の主張(以下の(イ)参照)について、本件特許発明1の請求項の記載の観点と、本件特許発明1の課題が甲2発明の課題の下位概念であることの観点から妥当でない旨の主張をする。
(イ)特許権者の主張する両発明の課題
上記(ア)の特許権者意見書における甲2発明の課題は「溶接表面部の付着物又は表面酸化物によってポロシティなどの欠陥が発生することを防止するため、溶接部表面への付着物を溶融池に取り込まないようにするためのクリーニングを溶接時と同時に行う」ことであり、本件特許発明1の課題は「銅を含む加工対象をレーザ溶接する際に、加工速度を低下させた場合に発生しやすいブローホールなどの溶接欠陥の発生を抑制することができる溶接方法及び溶接装置を提供する」ことであり、甲2よりも具体的な下位概念の課題であるが、そのような下位概念の課題は甲2には記載も示唆もない。
(ウ)本件特許発明1の請求項の記載の観点
申立人は、特許権者が主張する上記(イ)の課題の違いによる本件特許発明1と甲2発明の相違は、溶接欠陥の発生メカニズムが異なることに起因するものであるのに対して、本件特許発明1は、これらの課題や溶接欠陥のメカニズムが請求項には反映されておらず、特許権者の主張は請求項の記載に基づかない旨の説明をする(申立人意見書3.3(3)ア)。
しかしながら、少なくとも本件特許発明1は、甲2発明と掃引速度において相違するので、特許権者の主張が請求項の記載に基づかないものとはいえないから、申立人の主張は採用することができない。
(エ)本件特許発明1の課題が甲2発明の課題の下位概念であることの観点
申立人は、特許権者意見書における本件特許発明1の課題が甲2発明の課題の下位概念であって、甲2には記載も示唆もされていない旨の主張に対して、銅を含む加工対象に関する相違点(相違点1)及び主ビームのパワーと複数の副ビームのパワーの合計との比に関する相違点(相違点3)に対しては甲2発明から出発し本件特許発明1に想到することに動機付けがあることを、また、材質や加工速度に合わせてレーザ出力や密度など加工条件を調整することは設計的事項であって、本件特許発明1において加工対象の材質(相違点1)や掃引速度(相違点2)が限定されることは、新たな課題を解決するものではなく、適宜選択し得る旨の説明をする(申立人意見書3.3(3)イ)。
しかしながら、相違点1及び相違点2について、甲2発明には、銅を含む加工対象のレーザ溶接を、掃引速度を低下させても、十分な溶融池の深さを確保しつつ、ブローホールなどの溶接欠陥を抑制する本件特許発明1を着想する動機が存在しないことを上記(3)ウで示しているところ、申立人の相違点1及び相違点3に対して動機付けがある旨の前段の主張によって否定されることはなく、相違点1及び相違点2が適宜選択し得ることの根拠も存在しないから、やはり申立人の主張は採用できない。
オ 申立人意見書の主張のまとめ
上記ア~エのとおり、申立人意見書における申立人の主張はいずれも採用することはできない。
(5) 本件特許発明1の進歩性について
よって、相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由(進歩性)によって取り消すことはできない。
4 本件特許発明3~7の進歩性について
本件特許発明3~7は本件特許発明1を直接的又は間接的に引用する発明であり、本件特許発明1に対してさらに発明特定事項を追加したものであるから、本件特許発明3~7は、上記3における本件特許発明1と同様に、甲1~10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
5 本件特許発明8の進歩性について
溶接装置である本件特許発明8は、方法の発明として請求項1に記載した溶接方法である本件特許発明1の技術的思想を、物の発明として請求項8に記載したものであり、本件特許発明8は本件特許発明1とカテゴリーの相違による表現上の差異が存するに過ぎない。
したがって、本件特許発明8は、上記3における本件特許発明1に対するのと同様の理由により、甲1~甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6 本件特許発明10~14の進歩性について
本件特許発明10~14は本件特許発明8を直接的又は間接的に引用する発明であり、本件特許発明8に対してさらに発明特定事項を追加したものであるから、本件特許発明10~14は、上記5における本件特許発明8と同様に、甲1~10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
7 小括
上記1~6のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)で通知した理由(進歩性)によっては、請求項1、3~8、10~14に係る特許を取り消すことができない。
第6 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった取消理由
1 取消理由の概要
取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった取消理由の概要は、特許異議申立書に記載された次のとおりのものであり、このうち理由B(進歩性)は、初回取消理由通知において通知した。
(1)理由A(新規性)
本件特許の請求項1~14に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(引用文献:甲1)であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~14に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)理由B(進歩性)
本件特許の請求項1~14に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(引用文献:甲1)に基いて、上記優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
2 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった取消理由に対する当審の判断
(1)甲1発明
甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。〔 〕内に甲1の根拠箇所を記載した。)が記載されている。
「金属の部材10a、10bに、レーザ光200a~200iが照射されるようにし、〔段落【0011】、【0016】、【0018】、図1、4〕
前記レーザ光200a~200iを前記部材10a、10bの表面に照射しながら移動させ、前記レーザ光200a~200iを前記部材10a、10bの表面でX軸正方向から負方向に走査し、照射された前記部材10a、10bの溶接部10cを溶融して溶接を行い、〔段落【0016】、【0018】~【0020】、図1~5〕
前記レーザ光200a~200iは、中心のレーザ光200aの周辺に、複数の周辺のレーザ光200b~200iが配置され、〔段落【0016】、【0018】、図4〕
前記複数の周辺のレーザ光200b~200iは、前記中心のレーザ光200aの外周を囲むように位置し、〔段落【0016】、【0018】、図4〕
全体のレーザ光200a~200iの出力の1/3が中心のレーザ光200aに、2/3が周辺のレーザ光200b~200iに分配される、〔段落【0027】、図4〕
溶接方法。」
(2)本件特許発明1と甲1発明
ア 本件特許発明1と甲1発明の対比
(ア)甲1発明の「部材10a、10b」は本件特許発明1の「加工対象」に相当し、甲1発明の「金属の部材10a、10b」と本件特許発明1の「銅を含む加工対象」は、「金属の加工対象」という点に限り一致する。また、甲1発明の「レーザ光200a~200i」は本件特許発明1の「レーザ光」に相当する。そして、甲1発明の「照射されるようにし」は本件特許発明1の「照射される領域に配置し」に相当する。
(イ)甲1発明の「前記レーザ光200a~200iを前記部材10a、10bの表面に照射しながら移動させ」は本件特許発明1の「前記レーザ光を前記加工対象に向かって照射しながら前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ」に相当する。
(ウ)甲1発明の「前記部材10a、10bの表面でX軸正方向から負方向に走査し」は本件特許発明1の「加工対象上にて」「掃引し」に相当し、同様に「照射された前記部材10a、10bの溶接部10c」は「照射された部分の前記加工対象」に相当する。したがって、甲1発明の「前記レーザ光200a~200iを前記部材10a、10bの表面でX軸正方向から負方向に走査し、照射された前記部材10a、10bの溶接部10cを溶融して溶接を行い」は「前記レーザ光を前記加工対象上にて」「掃引し、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行い」に相当する。
(エ)甲1発明の「中心のレーザ光200a」は本件特許発明1の「主ビーム」に相当し、同様に「周辺のレーザ光200b~200i」は「副ビーム」に相当する。したがって、甲1発明の「前記レーザ光200a~200iは、中心のレーザ光200aの周辺に、複数の周辺のレーザ光200b~200iが配置され」は本件特許発明1の「前記レーザ光は、主ビームと、複数の副ビームとによって構成され」に相当する。
(オ)甲1発明の「前記複数の周辺のレーザ光200b~200iは、前記中心のレーザ光200aの外周を囲むように位置し」は本件特許発明1の「前記複数の副ビームは、前記主ビームの外周を囲むように位置し」に相当する。
(カ)甲1発明の「出力」は本件発明1の「パワー」に相当し、同様に「周辺のレーザ光200b~200iに分配される」「出力」は「複数の副ビームのパワーの合計」に相当する。したがって、甲1発明の「全体のレーザ光200a~200iの出力の1/3が中心のレーザ光200aに、2/3が周辺のレーザ光200b~200iに分配される」ことと、本件特許発明1の「前記主ビームのパワーと、前記複数の副ビームのパワーの合計との比が、8:2~5:5である」ことを対比すると、「前記主ビームのパワーと、前記複数の副ビームのパワーの合計との比が、所定の範囲である」ことという限りにおいて一致する。
したがって、本件特許発明1と甲1発明は、次のイの点で一致し、ウの点で相違する。
イ 一致点
金属の加工対象を、レーザ光が照射される領域に配置し、
前記レーザ光を前記加工対象に向かって照射しながら前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記レーザ光を前記加工対象上にて掃引し、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行い、
前記レーザ光は、主ビームと、複数の副ビームとによって構成され、
前記複数の副ビームは、前記主ビームの外周を囲むように位置し、
前記主ビームのパワーと、前記複数の副ビームのパワーの合計との比が、所定の範囲である、
溶接方法。
ウ 相違点
(ア)相違点1
溶接を行う加工対象について、本件特許発明1では「銅を含む」のに対して、甲1発明は「金属」であり、銅を含むか否かは不明である点。
(イ)相違点2
本件特許発明1においては、レーザ光を加工対象上にて掃引する掃引速度が「1m/min以上20m/min以下」であるのに対して、甲2発明の掃引速度は不明である点。
(ウ)相違点3
主ビームのパワーと、複数の副ビームのパワーの合計との比が、本件特許発明1では8:2~5:5であるのに対して、甲1発明では1:2(1/3:2/3)である点。
(3)理由A(新規性)についての結論
上記(1)のとおり、本件特許発明1は、甲1発明と相違点1~3で相違するから、甲1発明と同一ではなく、本件特許発明1は甲1発明ではない。
(4)相違点の検討
事案に鑑み、相違点3から検討する。
甲1において、主ビームのパワーと、複数の副ビームのパワーの合計との比について、1:2のもの、すなわち、主ビームのパワーよりも副ビームのパワーの合計の方が大きいもののみが記載されており、本件特許発明1の8:2~5:5の範囲内のもの、すなわち、主ビームのパワーと副ビームのパワーが同程度か、あるいは、主ビームのパワーが副ビームのパワーの合計よりも大きいものは開示されておらず、甲1には、甲1発明の当該比について、相違点3に係る本件特許発明1の範囲内のものとすることについて記載も示唆もされていない。
そして、甲1には、副ビームに相当する周辺のレーザ光200b~200iの中心が位置する同心円の半径R2が、主ビームに相当するレーザ光200aの半径R1の2倍以上4倍以下とすることで、断面が緩やかで面積の広い溶融池とすることができ(甲1の【0019】)、溶融部の対流が溶融池の端部まで流れることで、垂直方向の流速が小さくなり、スパッタが発生しにくくなること(甲1の【0022】)が記載されている。
甲1のこれらの記載に接した当業者は、主ビームのパワーと副ビームのパワーが同程度か、あるいは、主ビームのパワーを副ビームのパワーの合計よりも大きくすれば、溶融池が小さくなることで、溶融部の対流の垂直方向の流速が大きくなりスパッタが発生しやすくなると理解するから、甲1発明において、主ビームのパワーと副ビームのパワーが同程度か、あるいは、主ビームのパワーが副ビームのパワーの合計よりも大きくするように変更するとはいえない。
したがって、当業者が甲1発明の主ビームのパワーと、複数の副ビームのパワーの合計との比を、相違点3の数値範囲に困難を伴わずに変更できるとはいえないから、本件特許発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)小括
以上のとおりであるから、「溶接方法」の発明である本件特許発明1は甲1発明ではないし、相違点1~2について検討するまでもなく、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。
そして、本件特許発明3~7は、いずれも本件特許発明1を引用する発明であって、それぞれ、本件特許発明1に対してさらに発明特定事項を追加したものであるから、本件特許発明1と同様に甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、「溶接装置」の発明である本件特許発明8、10~14は、各請求項に記載した発明特定事項には、「溶接方法」の発明である本件特許発明1、3~7の各請求項に記載した発明特定事項に対して、カテゴリーの相違による表現上の差違が存在するだけであるから、本件特許発明8、10~14は、本件特許発明1、3~7と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
よって、本件特許発明1、3~8、10~14は、取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった理由A(新規性)及び理由B(進歩性)によっては、取り消すことができない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、3~8、10~14に係る特許を取り消すことができない。そして、他に本件請求項1、3~8、10~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項2、9に係る特許は、上記のとおり訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により、この特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700911