特許異議申立
2023-700904
タービンロータ、カートリッジ、及び、医療用切削器械
- 審判番号
- 2023-700904
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-190794
- 登録番号
- 7267495
- 請求日
- 2023年09月01日
- 審決日
- 2024年11月21日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ナカニシ
- 【権利者代理人】弁理士法人航栄事務所
- 【異議申立人】松本 征二
- 審判長/審判官
- 審判長 平瀬 知明
- 審判官 井上 哲男
- 審判官 村上 哲
- 分類
- P1651.121-YAA(A61C) / P1651.537-YAA(A61C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7267495号発明「タービンロータ、カートリッジ、及び、医療用切削器械」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7267495号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
特許第7267495号の請求項1~10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7267495号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、令和 5年 4月21日にその特許権の設定登録がされ、同年 5月 1日に掲載公報が発行された。そして、令和 5年 9月 1日に特許異議申立人松本征二(以下「申立人」という。)より請求項1~10に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和 6年 2月14日付け 取消理由通知
同 年 4月16日提出 意見書(特許権者)及び訂正請求書
同 年 5月16日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
同 年 6月12日提出 意見書(申立人)
第2 訂正の適否
1 本件訂正の内容
令和 6年 4月16日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「医療用切削器械のタービンロータであって、
タービンロータは、」とあるのを、
「医療用切削器械のタービンロータであって、
前記タービンロータは、」に訂正する。(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~10も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「略円筒形状の回転シャフト部と、」とあるのを、
「中空の略円筒形状を有し前記中空の内部に切削工具が挿入されるスピンドルの外周面に嵌合する略円筒形状の回転シャフト部と、」に訂正する。(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~10も同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記回転シャフト部と前記タービンブレード部とが別材料で形成されており、」とあるのを、
「前記回転シャフト部の内周面は、軸受によって回転可能に支持された前記スピンドルの外周面に篏合され、
前記回転シャフト部と前記タービンブレード部とが別材料で形成されており、」に訂正する。(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~10も同様に訂正する。)
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に、
「中空の略円筒形状を有し、外周面に前記タービンロータが固定され、中空内部に切削工具が挿入されるスピンドルと、」とあるのを、
「前記スピンドルと、」に訂正する。(請求項6を直接的に引用する請求項7も同様に訂正する。)
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9に、
「中空の略円筒形状を有し、外周面に前記タービンロータが固定され、中空内部に切削工具が挿入されるスピンドルと、」とあるのを、
「前記スピンドルと、」に訂正する。(請求項9を直接的に引用する請求項10も同様に訂正する。)
2 本件訂正の適否
(1)一群の請求項について
訂正事項1~5によって訂正される訂正前の請求項1~10について、請求項2~10は、訂正事項1~3によって記載が訂正される請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1~10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「タービンロータ」の記載を、それより前の記載と整合させるため、「前記タービンロータ」と改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正であって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において訂正されたものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1のタービンロータの構成要件の一部である「略円筒形状の回転シャフト部」の取付態様を、「中空の略円筒形状を有し前記中空の内部に切削工具が挿入されるスピンドルの外周面に嵌合する」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
そして、「略円筒形状の回転シャフト部」が「スピンドルの外周面に嵌合する」ことは、本件特許明細書の段落【0025】に「タービンロータ42は、スピンドル41の外周面に嵌合する略円筒形状の回転シャフト部421と、回転シャフト部421の軸方向に対して径方向外側に延出して翼形状を有する複数のタービンブレード部422と、を有する。」と、また、スピンドルが「中空の略円筒形状を有し前記中空の内部に切削工具が挿入される」ものであることは、訂正前の請求項6に「中空の略円筒形状を有し、外周面に前記タービンロータが固定され、中空内部に切削工具が挿入されるスピンドル」と、それぞれ記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において訂正されたものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1のタービンロータの構成要件の一部である回転シャフト部について、「前記回転シャフト部の内周面は、軸受によって回転可能に支持された前記スピンドルの外周面に篏合され、」と特定して、タービンロータの取付態様を特定することにより、特許請求の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
そして、「回転シャフト部の内周面は、」「前記スピンドルの外周面に篏合され」ることについては、本件特許明細書の段落【0025】の「タービンロータ42は、スピンドル41の外周面に嵌合する略円筒形状の回転シャフト部421と、回転シャフト部421の軸方向に対して径方向外側に延出して翼形状を有する複数のタービンブレード部422と、を有する。」の記載に、また、「スピンドル」が「軸受によって回転可能に支持され」ていることについては、本件特許明細書の段落【0087】の「第1軸受451の内輪451aの内側には、内輪開口451a1が開口している。この内輪開口451a1は、スピンドル41の外周面に固定される。したがって、内輪451aは、スピンドル41と共に回転する。」の記載、段落【0098】の「第2軸受452の内輪452aの内側には、内輪開口452a1が開口している。この内輪開口452a1は、スピンドル41の外周面に固定される。したがって、内輪452aは、スピンドル41と共に回転する。」の記載及び図3の記載に、それぞれ基づくものであるから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において訂正されたものであり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項4、5について
訂正事項4、5は、訂正事項2により引用する請求項1が限定されたことに伴い、重複記載を避けるため、従属項である請求項6及び9の「中空の略円筒形状を有し、外周面に前記タービンロータが固定され、中空内部に切削工具が挿入されるスピンドル」の記載を、引用形式の「前記スピンドル」に訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項4、5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において訂正されたものであって、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
よって、訂正事項4、5は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(5)小括
上記のとおり本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、特許請求の範囲の記載を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められたので、請求項1~10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明10」といい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
医療用切削器械のタービンロータであって、
前記タービンロータは、
中空の略円筒形状を有し前記中空の内部に切削工具が挿入されるスピンドルの外周面に嵌合する略円筒形状の回転シャフト部と、
前記回転シャフト部の軸方向に対して径方向外側に延出して翼形状を有する複数のタービンブレード部と、を有し、
前記回転シャフト部の内周面は、軸受によって回転可能に支持された前記スピンドルの外周面に篏合され、
前記回転シャフト部と前記タービンブレード部とが別材料で形成されており、
前記回転シャフト部は、密度4.0[g/cm3]以上の金属で形成されている、タービンロータ。
【請求項2】
請求項1に記載のタービンロータであって、
前記回転シャフト部は、ヤング率[GPa]/密度[g/cm3]の値が20以上である、タービンロータ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のタービンロータであって、
前記金属は、ステンレス鋼である、タービンロータ。
【請求項4】
請求項3に記載のタービンロータであって、
前記ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼である、タービンロータ。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のタービンロータと、
前記タービンロータを制動するクイックストップ機構と、を備え、
医療用切削器械に着脱可能に取り付けられるカートリッジ。
【請求項6】
請求項5に記載のカートリッジであって、
前記カートリッジは、
前記スピンドルと、
前記スピンドルの外周面を取り囲み、前記タービンロータが回転していないときに前記スピンドルの外周面に当接し、前記タービンロータが所定速度以上で回転すると前記スピンドルの外周面から離隔する、シール部材と、を備え、
前記シール部材が、前記クイックストップ機構である、カートリッジ。
【請求項7】
請求項6に記載のカートリッジであって、
前記シール部材と接触する前記スピンドルの外周面の周方向の線粗さRzは、12.5[μm]以下である、カートリッジ。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のタービンロータを備える医療用切削器械であって、
前記医療用切削器械は、前記タービンロータを制動するクイックストップ機構を備える、医療用切削器械。
【請求項9】
請求項8に記載の医療用切削器械であって、
前記医療用切削器械は、
前記スピンドルと、
前記スピンドルの外周面を取り囲み、前記タービンロータが回転していないときに前記スピンドルの外周面に当接し、前記タービンロータが所定速度以上で回転すると前記スピンドルの外周面から離隔する、シール部材と、を備え、
前記シール部材が、前記クイックストップ機構である、医療用切削器械。
【請求項10】
請求項9に記載の医療用切削器械であって、
前記シール部材と接触する前記スピンドルの外周面の周方向の線粗さRzは、12.5[μm]以下である、医療用切削器械。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審が、令和 6年 2月14日付けで通知した取消理由通知に記載した取消理由は、概略、次の内容を含むものである。
●理由1
(新規性)請求項1~3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物一覧の甲第1又は5号証に記載された発明であるから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。
●理由2
(進歩性)請求項4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物一覧の甲第1又は5号証に記載された発明に基いて、また、請求項5、8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物一覧の甲第1又は5号証に記載された発明と甲第3号証に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4、5、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
●理由3
(明確性)請求項1~10に係る発明は、「タービンロータ」、「回転シャフト部」及び「スピンドル」にそれぞれどのような構成が包含されるのか各用語の一般的な意味に照らして不明確であるから、請求項1~10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
刊行物一覧(証拠の標目は、証拠説明書の記載による。):
甲第1号証:特開平8-252266号公報
甲第3号証:特開2021-29836号公報
甲第5号証:平成8年2月26日付けで承認通知された歯科用ハンドピース(販売名:スーパーZB)の医療用具製造承認書(承認番号08B第0121号)
なお、特許異議申立書には上記以外に下記甲号証が添付されている。
甲第2号証:特開2019-198441号公報
甲第4号証:特願2022-190794号(特許第7267495号)において令和4年12月14日付け拒絶理由通知書
甲第6号証:1994年11月時点における歯科用ハンドピース(販売名:スーパーZB)のガイドブック(株式会社モリタ作成)
また、令和 6年 6月12日提出の意見書(申立人)には、新たな証拠として下記甲号証が添付されている。
甲第7号証:特開平10-234746号公報
以下、甲第1~7号証を、それぞれ「甲1」~「甲7」という。
第5 甲号証の記載
1 甲1の記載事項及び甲1発明
甲1には、次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。
ア「【0004】図2に示されるように、前記ハンドピース回転体(B´)は、前記ヘッド部(H)のヘッド(1)のチャンバー(11)内に配設されるものである。そして、前記ハンドピース回転体(B´)は、回転軸(2´)の外周部に羽根車(3´)を有するもので構成され、前記回転軸(2´)はヘッド(1)内部に軸受部(4)を介して回転自在に支承される。なお、図示されるように、ヘッド(1)はヘッド本体(12)とキャップ部(13)から構成され、前記ヘッド部本体(12)の内部にハンドピース回転体(B´)の羽根車(3´)を配置するためのチャンバー(11)が形成される。
【0005】図示されるように、ハンドピース回転体(B´)の回転軸(2´)の軸心部には、歯科用切削工具などの工具軸(5´)が固定保持され、各種の歯科治療が行なわれる。なお図示のものにおいて、回転軸(2´)は、その内部に前記工具軸(5´)を把持する摩擦式チャック機構のチャック(51´)を有している。いうまでもないことであるが、チャック機構として公知のワンタッチチャック機構のものであってもよい。」
イ「【0017】図4は、本発明のハンドピース回転体(B)の第一実施態様を説明する図である。図4は、前記図2の歯科用エアータービンハンドピース(A)のヘッド部(H)のヘッド(1)のチャンバー(11)内に配設されるハンドピース回転体(B´)に対応するものである。なお、図中の要素部材を示す記号(英文字や数字)は、従来のものが(´)ダッシュつきで示されており、本発明のものは(´)ダッシュなしの記号で示されている。従って、両者において同じ記号は同じ意味内容を有するものであり、説明を省略する。また、本発明のハンドピース回転体(B)は、前記した歯科用エアータービンハンドピース(A)にのみ適用されるものではなく、広く小型流体駆動タービンハンドピースに適用されるものである。更に、ハンドピースという用語にとらわれず、手に把持されて使用される形態のものだけでなく、機器の一構成要素として使用されている小型流体駆動タービンハンドピースの回転体としても使用されるものである。
【0018】図4に示されるように本発明の第一実施態様のハンドピース回転体(B)は、金属製回転軸(2)の外周面に合成樹脂製の羽根車(3)が一体成形されて構成されたものである。本発明において、前記金属製の回転軸(2)は、金属製のもので構成されておればよく、例えばステンレススチール製のSUS 420 J2などで構成される。本発明において、予め射出成形用金型(図示せず)内に配置される前記金属製の回転軸(2)は、その外周面(21)、特に羽根車(3)が一体成形される外周面(22)の部位に凹凸部(23)を有するものが好ましい。前記凹凸部(23)は、微細な凹凸であったり螺旋状溝であってもよく、その加工方法も特に限定されない。例えば、ローレット加工などの機械加工や塑性加工などの何れの方法によってもよい。要するに、前記凹凸部(23)は、金属製の回転体(2)の円筒状側面に溝や凹部のみを設けた構成、あるいは前記した態様とは反対の凸状部のみを形成したものも含むものであり、回転体(2)の側面に相対的に凹と凸が形成されていればよい。更に、前記回転軸(2)の外周面(21)は、図示されるように軸受機構部(4)と当接する部位(24)を有することが好ましい。
【0019】本発明において、前記回転軸(2)の外周部に一体成形される羽根車(3)は、射出成形可能な合成樹脂により構成される。前記射出成形可能な合成樹脂材料としては、ハンドピース回転体(B)の高速回転、減菌のためのオートクレーブでの耐熱変形性などを考慮して、引張り強度が1000kgf/cm2以上、熱変形温度が150℃以上のものが好ましい。なお、後者の熱変形温度特性としては、荷重下の特性で規定すると、ASTM D-648(荷重6.4kg/cm2)で135℃以上のものが好ましい。」
ウ「
[図:0001419320000001.jpg]
」
エ「
[図:0001419320000002.jpg]
」
オ「
[図:0001419320000003.jpg]
」
上記ア~イの特に下線部の記載及びウ~オの図面の記載からすれば、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「歯科用エアータービンハンドピース(A)の羽根車(3)であって、
前記羽根車(3)は、
金属製回転軸(2)の外周面に合成樹脂を射出成形して一体成形して構成されたものであり、
前記金属製回転軸(2)は、軸心部に歯科用切削工具などの工具軸(5)を固定保持するものであり、軸受部(4)を介して回転自在に支承される、羽根車(3)。」
2 甲2の記載事項
甲2には、次の記載がある。
ア「【0010】
(実施の形態)
実施の形態を図面を参照して説明する。
図1に示す歯科用ハンドピースH(以下、ハンドピースH)は、外部から供給される圧縮エア(以下、エア)により回転駆動するタービン100を有し、このタービン100の駆動力で、歯牙を切削する切削工具27を回転させて、歯科治療に用いる。この様なハンドピースHは、グリップ10と、グリップ10の先端に接続するヘッド20を有する。
ハンドピースHに供給するエアの流量(流速)は、供給されるエアの流路に設けられるフットペダル(図示せず)等のエア調整手段を操作することで行われる。」
イ「【0029】
ハブ110の中心部分には、円筒状に開口することで、取付開口111が形成されている。この取付開口111に回転筒24が入り込み、回転筒24の外周に取付開口111の内面112が固定される。このように構成することで、タービン100は、軸受25に支持された回転筒24と共に、タービン室200の内部で回転自在に位置する。このように、ハブ110は、円筒筒24にタービン100を固定する部位となる。」
ウ「【0031】
次に、ブレード120は、接続部130から径方向外側に向けて突出した部位である。本実施の形態のタービン100の場合、ハブ110を取り囲むように、7つのブレード120(第1ブレード120a~第7ブレード120g)が、タービン100の回転軸の周りに、それぞれ隣り合うブレードと均等な間隔となるように配置されている。また、7つのブレード120a~120gは、いずれも同じ形状である。
ブレード120は、タービン室200内において、給気エア吹出口23cから供給されるエアを受け、タービン100の回転トルクを生みだす。これにより、ロータ160が回転軸を中心に回転する。」
エ「【0038】
以上、ブレード120について、エア受部150、エア排出部151、接続部152の各機能部位に分けて説明したが、これらの部位を含めタービン100は、アルミニウムなどの金属材料を削り出して形成される。この様にタービン100は、金属により一体に形成されている。」
オ「
[図:0001419320000004.jpg]
」
カ「
[図:0001419320000005.jpg]
」
キ「
[図:0001419320000006.jpg]
」
ク「
[図:0001419320000007.jpg]
」
3 甲3の記載事項
甲3には、次の記載がある。
ア「【0015】
次に、スピンドル220は、回転筒221と上軸受222と下軸受300とチャック機構224とタービンブレード225を有する。また、下軸受300に対して、シール部材310が固定されて設けられる。
回転筒221は、下方向に向けて開口する円筒状の部材であり、内部に切削工具260を保持するチャック機構224を備える。回転筒221は、チャック機構224を備えることにより、切削工具を保持する切削工具保持部となる。また、回転筒221の下に向く開口は、切削工具260をチャック機構26に装着する為の装着開口221aとなる。」
イ「【0038】
また、シール部材310がスピンドルの回転を止める為のブレーキゴムとしての役割を果たす場合、常に一定の接触圧力でシール部材310と回転筒221は接触するので、安定してスピンドルの回転を止めることができる。」
ウ「
[図:0001419320000008.jpg]
」
4 甲4の記載事項
甲4(本件特許に係る特許出願に対する拒絶理由通知書)には、次の記載がある。
「タービンロータ、回転シャフト部において、密度4.0[g/cm3]以上の金属で,ヤング率[GPa]/密度[g/cm3]の値が20以上である「ステンレス鋼」を選択する技術は本願出願前において周知の技術である」(4頁5~8行)
5 甲5の記載事項及び甲5発明
甲5には、次の記載がある。
なお、以下では、甲5が本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物であると仮定して検討する。
ア「
[図:0001419320000009.jpg]
」
イ「
[図:0001419320000010.jpg]
」
ウ「3.構造
本歯科用ハンドピース スーパーZBは、歯及び補綴物を研削するための研削工具を保持するチャック及びタービン翼を有するローター(ローター軸と翼車からなるものを以下、ローターとよぶ)とボールベアリングを内蔵するカプセル部、給気・給水パイプ、ボディ等からなり、別途歯科用ユニット等の連結ホースを通じてエアーを供給することによってタービン翼を有するローターを回転させることができ、回転接手により、ワンタッチで連結ホースと接続できる構造である。」(別紙1-○に1)
エ「
[図:0001419320000011.jpg]
」
オ「
[図:0001419320000012.jpg]
」
カ「
[図:0001419320000013.jpg]
」
キ 上記ウ、エの記載からすれば、翼車14は、中空であり中空の内部に研削工具を保持するチャック12を内蔵するロータ軸11の外周面に設けられていることが看取できる。
ク 上記エの記載からすれば、翼車14は、ボールベアリング13によって支持されロータ軸11の外周面に結合されていることが看取できる。
ケ 上記オには、ロータ軸11は、ステンレス鋼棒JISG4303で形成されていることが記載されている。
上記ウ~ケの記載によれば、甲5には次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されている。
「歯科用ハンドピースの翼車14であって、
前記翼車14は、
アルミニウム及びアルミニウム合金の棒及び線JISH4040を原材料とし、中空であり中空の内部に研削工具を保持するチャック12を内蔵するボールベアリング13によって回転可能に支持された、ステンレス鋼棒JISG4303で形成されたロータ軸11の外周面に結合されている、翼車14。」
6 甲6の記載事項
ア「
[図:0001419320000014.jpg]
」
イ「
[図:0001419320000015.jpg]
」
7 甲7の記載事項
甲7には、次の記載がある。
ア「【0052】このようなロータ74は、ハブ部76と複数個のタービン翼78を一体的に形成するのが望ましく、合成樹脂成形、粉末焼結またはメタルインジェクションモールディングによって比較的簡単にかつ安価に製作することができる。また、合成樹脂成形によって形成する場合には、その樹脂材料として、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、フッ素樹脂、ポリエステルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマ、芳香族ポリオレフィン、ポリカーボネイト、フェノール樹脂等を好適に用いることができ、これらの樹脂材料から形成することによって、歯科用ハンドピースとして充分な剛性と耐熱性を有するものを製作することができる。またハブ部76とタービン翼78を合成樹脂によって一体成形する場合には、ハブ部76に円筒状の金属製インサート部品(図示せず)をインサートするようにすることもできる。この場合には、ロータ74のハブ部76と回転軸70とがインサート部品を介して結合されるため、ロータ74と回転軸70とを強固に結合することができる。なお、インサート部品をインサート成形するときには、インサート部品の表面に凹凸を設けるのが望ましく、かく凹凸を設けることによって、インサート部品とロータ74のハブ部76との結合を強固にすることができる。」
イ「
[図:0001419320000016.jpg]
」
ウ「
[図:0001419320000017.jpg]
」
第6 当審の判断
1 取消理由通知の取消理由1、2について
(1)甲1発明を主引用発明とする場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
i 甲1発明の「歯科用エアータービンハンドピース(A)」及び「翼車(3)」は、機能及び構造上、それぞれ本件発明1の「医療用切削器械」及び「タービンロータ」に相当する。
ii 甲1発明の「歯科用切削工具などの工具軸(5)」、「金属製回転軸(2)」及び「軸受部(4)」は、機能及び構造上、それぞれ本件発明1の「切削工具」、「スピンドル」及び「軸受」に相当する。
そして、甲1発明の金属製回転軸(2)は、軸心部に歯科用切削工具などの工具軸(5)を固定保持して回転させるものであることからすれば、当該軸心部は中空である。
また、甲1発明の羽根車(3)は、金属製回転軸(2)に結合した略円筒形状の部分と当該部分の外側に延出して翼形状を有する部分からなっており、当該翼形状を有する部分は、本件発明1の「タービンブレード部」に相当する。
してみれば、甲1発明の「前記羽根車(3)は、金属製回転軸(2)の外周面に合成樹脂を射出成形して一体成形して構成されたものであり、前記金属製回転軸(2)は、軸心部に歯科用切削工具などの工具軸(5)を固定保持するものであり、軸受部(4)を介して回転自在に支承される」点と、本件発明1の「前記タービンロータは、中空の略円筒形状を有し前記中空の内部に切削工具が挿入されるスピンドルの外周面に嵌合する略円筒形状の回転シャフト部と、前記回転シャフト部の軸方向に対して径方向外側に延出して翼形状を有する複数のタービンブレード部と、を有し、前記回転シャフト部の内周面は、軸受によって回転可能に支持された前記スピンドルの外周面に篏合され、前記回転シャフト部と前記タービンブレード部とが別材料で形成されており、前記回転シャフト部は、密度4.0[g/cm3]以上の金属で形成されている」点は、
「前記タービンロータは、中空の略円筒形状を有し前記中空の内部に切削工具が挿入されるスピンドルの外周面に結合した略円筒形状の部分と、前記略円筒形状の部分の軸方向に対して径方向外側に延出して翼形状を有する複数のタービンブレード部と、を有し、前記略円筒形状の部分の内周面は、軸受によって回転可能に支持された前記スピンドルの外周面に結合した、」ものである点で一致する。
してみると、本件発明1と甲1発明は,次の一致点及び相違点を有する。
【一致点】
医療用切削器械のタービンロータであって、
前記タービンロータは、
中空の略円筒形状を有し前記中空の内部に切削工具が挿入されるスピンドルの外周面に結合する略円筒形状の部分と、
前記略円筒形状の部分の軸方向に対して径方向外側に延出して翼形状を有する複数のタービンブレード部と、を有し、
前記略円筒形状の部分の内周面は、軸受によって回転可能に支持された前記スピンドルの外周面に結合した、タービンロータ。
【相違点1】
本件発明1では、タービンロータのスピンドルとの結合が嵌合であって、回転シャフト部とタービンブレード部とが別材料で形成されており、前記回転シャフト部は、密度4.0[g/cm3]以上の金属で形成されているのに対し、甲1発明では、金属製回転軸(2)の外周面に羽根車(3)が合成樹脂を射出成形して一体成形されている点。
(イ)判断
上記相違点1について検討する。
甲1発明の羽根車(3)は、金属製回転軸(2)(スピンドルに相当。)に一体成形されるものであり、嵌合させるものではない。そして、甲1発明は、羽根車(3)と金属製回転軸(2)(スピンドルに相当。)を一体成形する構成を採用することは、両者が嵌合するような構成を採用するにあたっての阻害要因にあたる。
また、本件発明1は、軸受によって回転可能に支持されたスピンドルの外周面に結合されているタービンロータを、回転シャフト部とタービンブレード部に分け、それぞれを別材料で形成するとともに、回転シャフト部は密度4.0[g/cm3]以上の金属という比較的重い材料で構成することにより、タービンブレードの回転時の慣性モーメントを大きくして、タービンロータの急上昇や失速を防止するという作用効果を奏するものである(本件特許明細書の段落【0006】~【0007】参照。)ところ、甲1発明の羽根車(3)(タービンロータに相当。)は合成樹脂で一体成形されており、当該羽根車(3)をスピンドルの外周面に結合する回転シャフト部とその径方向外側に延出するタービンブレード部に分け、それぞれを別材料で形成しようとする動機付けはない。
なお、甲1には段落【0018】(第5の1イ参照。)にあるように、軸受により支持される金属製回転軸(2)(スピンドルに相当。)をステンレス製のSUS420J2(密度4.0[g/cm3]以上の金属)にすることは記載されているが、当該回転軸(2)(スピンドルに相当。)に結合される羽根車(3)(タービンロータに相当。)の当該結合される部分のみを密度4.0[g/cm3]以上の金属という比較的重い材料で構成することについては記載がない。
したがって、上記相違点1は、タービンロータとスピンドルの結合及びタービンロータを構成する材料の点で実質的な相違点であり、本件発明1が甲1発明であるということはできない。
また、上記のとおり甲1発明に上記相違点1に係る本件発明1の構成を採用する動機付けがない以上、本件発明1は甲1発明から当業者が容易に発明できたともいえない。
よって、本件発明1は甲1発明ではないし、甲1発明から容易に発明できたともいえない。
イ 本件発明2、3について
上記アで検討したとおり、上記相違点1に係る構成は、タービンロータとスピンドルの結合及びタービンロータを構成する材料の点で実質的な相違点である。
そして、本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定を加える発明であるから、甲1発明と比較すると少なくとも上記相違点1で相違する。
よって、本件発明2、3に係る発明は、いずれも甲1発明であるということはできない。
ウ 本件発明4、5、8について
上記アで検討したとおり、上記相違点1に係る構成は、タービンロータとスピンドルの結合及びタービンロータを構成する材料の点で実質的な相違点である。
そして、本件発明4、5、8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定を加える発明であるから、甲1発明と比較すると少なくとも上記相違点1で相違する。
よって、本件発明4、5、8に係る発明は、いずれも甲1発明から容易に発明できたものではないし、上記甲3の記載事項を考慮しても上記相違点1に係る構成を容易に想到できたとすることはできない。
エ なお、本件発明6、7、9、10については、当審で通知した取消理由の対象となっていないが、念のため検討するに、上記アで検討したとおり、相違点1に係る構成は、タービンロータとスピンドルの結合及びタービンロータを構成する材料の点で実質的な相違点であり、本件発明6、7、9、10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定を加える発明であるから、甲1発明と比較すると少なくとも上記相違点1で相違する。
よって、本件発明6、7、9、10に係る発明についても、甲1発明と同一ではないし、また、甲1発明から容易に発明できたものでもない。
オ 小括
以上のとおり、本件発明は、甲1発明から容易に発明できたものではなく、甲3の記載事項を考慮しても、当業者が容易に発明できたものではない。
(2)甲5発明を主引用発明とする場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
i 甲5発明の「歯科用ハンドピース」及び「翼車14」は、機能及び構造上、それぞれ本件発明1の「医療用切削器械」及び「タービンロータ」に相当する。
ii 甲5発明の「研削工具」、「ロータ軸11」及び「ボールベアリング13」は、機能及び構造上、それぞれ本件発明1の「切削工具」、「スピンドル」及び「軸受」に相当する。
そして、甲5発明のロータ軸11は、内部に研削工具が装着されるチャック12を内蔵するものであるから、「中空の略円筒形状を有し前記中空の内部に」研削工具が「挿入される」ものであることは自明である。
また、甲5発明の翼車14は、上記第5の5エの図面の記載からすれば、ステンレス鋼棒JISG4303で形成されたロータ軸11の外周面に結合された部分と当該部分の外側に延出して翼形状を有する部分を有しており、ステンレス鋼棒JISG4303で形成されたロータ軸11の外周面に結合された部分は、本件発明1の「略円筒形状の部分」に、また、当該翼形状を有する部分は、本件発明1の「タービンブレード部」に相当する。
してみれば、甲5発明の「前記翼車14は、アルミニウム及びアルミニウム合金の棒及び線JISH4040を原材料とし、中空であり、内部に研削工具が装着されるチャック12を内蔵するボールベアリング13によって回転可能に支持されたステンレス鋼棒JISG4303で形成されたロータ軸11の外周面に結合されている」点と、
本件発明1の「前記タービンロータは、中空の略円筒形状を有し前記中空の内部に切削工具が挿入されるスピンドルの外周面に嵌合する略円筒形状の回転シャフト部と、前記回転シャフト部の軸方向に対して径方向外側に延出して翼形状を有する複数のタービンブレード部と、を有し、前記回転シャフト部の内周面は、軸受によって回転可能に支持された前記スピンドルの外周面に篏合され、前記回転シャフト部と前記タービンブレード部とが別材料で形成されており、前記回転シャフト部は、密度4.0[g/cm3]以上の金属で形成されている」点は、
前記タービンロータは、中空の略円筒形状を有し前記中空の内部に切削工具が挿入されるスピンドルの外周面に結合した略円筒形状の部分と、前記略円筒形状の部分の軸方向に対して径方向外側に延出して翼形状を有する複数のタービンブレード部と、を有し、前記略円筒形状の部分の内周面は、軸受によって回転可能に支持された前記スピンドルの外周面に結合した点で一致する。
してみると、本件発明1と甲5発明は,次の一致点及び相違点を有する。
【一致点】
医療用切削器械のタービンロータであって、
前記タービンロータは、
中空の略円筒形状を有し前記中空の内部に切削工具が挿入されるスピンドルの外周面に結合する略円筒形状の部分と、
前記略円筒形状の部分の軸方向に対して径方向外側に延出して翼形状を有する複数のタービンブレード部と、を有し、
前記略円筒形状の部分の内周面は、軸受によって回転可能に支持された前記スピンドルの外周面に結合した、タービンロータ。
【相違点2】
本件発明1では、タービンロータのスピンドルとの結合が嵌合であって、タービンロータのスピンドルに結合する部分に当たる回転シャフト部とタービンブレード部とは別材料で形成されており、前記回転シャフト部は、密度4.0[g/cm3]以上の金属で形成されているのに対し、甲5発明では、翼車14とロータ軸11の結合態様が不明であり、翼車14はアルミニウム及びアルミニウム合金の棒及び線JISH4040を原材料としている点。
(イ)判断
上記相違点2について検討する。
甲5には、翼車14(タービンロータに相当。)を、ローター軸11(スピンドルに相当。)に嵌合させる旨の明記はない。
また、本件発明1は、軸受によって回転可能に支持された前記スピンドルの外周面に結合されているスピンドルに結合されているタービンロータを、回転シャフト部とタービンブレード部に分け、それそれを別材料で形成するとともに、回転シャフト部は密度4.0[g/cm3]以上の金属という比較的重い材料で構成することにより、タービンブレードの回転時の慣性モーメントを大きくして、タービンロータの急上昇や失速を防止するという作用効果を奏するものである(本件特許明細書の段落【0006】~【0007】参照。)ところ、甲5発明の翼車14(タービンロータに相当。)は、一部を別材料で構成するものではなく、そのような構成を採用しようとする動機付けはない。
なお、甲5には上記第5の5オにあるように、翼車14がアルミニウム及びアルミニウム合金の棒及び線JISH4040を原材料としている一方、ローター軸11は、ステンレス鋼棒JISG4303(密度4.0[g/cm3]以上の金属)からなり、ローター軸11(スピンドルに相当。)に結合される翼車14(タービンロータに相当。)の当該結合される部分のみを密度4.0[g/cm3]以上の金属という比較的重い材料で構成することについては記載がない。
したがって、上記相違点2はタービンロータとスピンドルの結合及びタービンロータを構成する材料の点で実質的な相違点であり、本件発明1が甲5発明であるということはできない。
また、上記のとおり甲5発明に上記相違点2に係る本件発明1の構成を採用する動機付けがない以上、本件発明1は甲5発明から当業者が容易に発明できたともいえない。
よって、本件発明1は甲5発明ではないし、甲5発明から容易に発明できたともいえない。
イ 本件発明2、3について
上記アで検討したとおり、相違点2に係る構成は、タービンロータとスピンドルの結合及びタービンロータを構成する材料の点で実質的な相違点である。
そして、本件発明2、3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定を加える発明であるから、甲5発明と比較すると少なくとも上記相違点2の点で相違する。
よって、本件発明2、3に係る発明は、いずれも甲5発明であるということはできない。
ウ 本件発明4、5、8について
上記アで検討したとおり、相違点2に係る構成は、タービンロータとスピンドルの結合及びタービンロータを構成する材料の点で実質的な相違点である。
そして、本件発明4、5、8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定を加える発明であるから、甲5発明と比較すると少なくとも上記相違点2の点で相違する。
よって、本件発明4、5、8に係る発明は、いずれも甲5発明から容易に発明できたものではないし、上記甲3の記載事項を考慮しても上記相違点2に係る構成を容易に想到できたとすることはできない。
エ なお、本件発明6、7、9、10については、当審で通知した取消理由の態様となっていないが、念のため検討するに、上記アで検討したとおり、相違点2に係る構成は、タービンロータとスピンドルの結合及びタービンロータを構成する材料の点で実質的な相違点であり、本件発明6、7、9、10は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定を加える発明であるから、甲5発明と比較すると少なくとも上記相違点2で相違する。
よって、本件発明6、7、9、10に係る発明についても、甲5発明と同一ではなく、また、甲5発明から容易に発明できたものではない。
オ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲5発明から容易に発明できたものではなく、甲3の記載事項に照らしても、当業者が容易に発明できたものではない。
2 取消理由通知の取消理由3について
本件訂正により、「回転シャフト部」が「タービンロータ」の一部であるとともに、「回転シャフト部」が「スピンドル」の外周面に嵌合することで、「回転シャフト部」が「スピンドル」に包含されないことが明確になったので、請求項1の記載は明確になり、また、請求項1を引用する請求項2~10の記載も明確になった。
3 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知で指摘した取消理由1~3では本件発明を取り消すことはできない。
第7 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由1(特許異議申立書48ページ17~23行)
(1)甲1に基づく新規性欠如(同ページ18~20行)
申立人の取消理由は、次の内容を含むものである。
・本件特許の請求項4に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、当該発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。
上記取消理由について検討するに、本件発明4と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1と同じ点で相違することから(上記第6の1(1)ウ参照)、本件発明4は、甲1発明ではない。
(2)甲5に基づく新規性欠如(同ページ21~23行)
申立人の取消理由は、次の内容を含むものである。
・本件特許の請求項4に係る発明は、甲5に記載された発明であるから、当該発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。
上記取消理由について検討するに、本件発明4と甲5発明とを対比すると、少なくとも上記相違点2と同じ点で相違することから(上記第6の1(2)ウ参照)、本件発明4は、甲5発明ではない。
2 取消理由2(特許異議申立書48ページ24行~49ページ19行)
(1)甲1に基づく進歩性欠如
申立人の取消理由は、次の内容を含むものである。
ア 本件特許の請求項1~3に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである(同書48ページ最下行~49ページ3行)。
イ 本件特許の請求項6、7、9及び10に係る発明は、甲1及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである(同書49ページ12~15行)。
そして、上記取消理由ア及びイが成り立たないことについては、それぞれ、上記第6の1(1)ア及びエで説示したとおりである。
(2)甲2に基づく進歩性欠如
申立人の取消理由は、次の内容を含むものである。
・本件特許の請求項1~4に係る発明は、甲2及び甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである(同書49ページ8~11行)。
上記取消理由について検討するに、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる(上記第5の2ア~ク参照)。
「歯科用ハンドピースHのタービン100であって、その駆動力で歯牙を切削する切削工具27を回転させて歯科治療に用いるものであり、ハブ110は、回転筒24にタービン100を固定する部位となり、ブレード120は、接続部130から径方向外側に向けて突出した部位であり、これらの部位を含め、アルミニウムなどの金属材料を削り出して一体に形成される、タービン100。」
そして、本件発明1と甲2発明とを対比すると、少なくとも上記相違点1又は2と同じ点(タービンロータを構成する材料の点に限る。)で相違するところ、当該相違点については、甲1及び2に示唆もなく、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲2発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定を加える発明であるから、同様に、甲2発明及び甲1に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)甲5に基づく進歩性欠如
申立人の取消理由は、次の内容を含むものである。
ア 本件特許の請求項1~3に係る発明は、甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである(同書49ページ4~7行)。
イ 本件特許の請求項6、7、9及び10に係る発明は、甲5及び甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである(同書49ページ16~19行)。
そして、上記取消理由ア及びイが成り立たないことについては、それぞれ、上記第6の1(2)ア及びエで説示したとおりである。
3 取消理由3(特許異議申立書49ページ下から5行~最下行)
申立人の取消理由は、次のとおりである。
・本件特許の請求項1~4に係る発明は、甲5の歯科用ハンドピース「スーパーZB」として、本件特許出願前に公然実施をされた発明であるから、特許法第29条第1項第2号の規定に違反して特許されたものである。
上記取消理由について検討するに、当該「スーパーZB」に係る発明は、上記第6の1(2)アで検討した甲5発明と同一であるから、本件発明1は、同様の理由により、当該「スーパーZB」に係る発明ではない。
そうすると、甲6による公然実施性の存否の立証にかかわらず、本件発明1は、本件特許出願前に公然実施をされた発明ではない。
また、本件発明2~4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に限定を加える発明であるから、同様に、本件特許出願前に公然実施をされた発明ではない。
4 その他(甲7に基づく申立人の主張)
申立人は、意見書とともに甲7を提出し、甲7に基づく進歩性欠如の主張をしているが、上記主張は、特許異議申立書に記載がなく、特許異議の申立ての理由に実質的に新たな内容を付加するものであり、審理の対象にならない。
仮に、甲7に基づく主張を採用したとしても、甲7には、合成樹脂によって一体成形されたロータ74と回転軸70の間に金属製インサート部品をインサートすることが記載されている(上記第5の7アの特に下線部参照。)にすぎず、仮に、当該ロータ74、金属製インサート及び回転軸70を、それぞれ本件発明1のタービンブレード部、回転シャフト部及びスピンドルに相当するとしても、金属製インサート(すなわち、回転シャフト部)を密度4.0[g/cm3]以上の金属で形成するという構成が記載されていない。
そして、本件発明は、当該構成を採用することにより、タービンロータの結合される部分を密度4.0[g/cm3]以上の金属という比較的重い材料で構成することにより、軸受で支持されるスピンドルのみを比較的重い材料で構成した場合に比して、慣性モーメントを大きくするという特有の作用効果を奏するものである。
5 むすび
以上のとおりであるから、申立人の主張する特許異議申立理由では、本件特許を取り消すことはできない。
第8 まとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1~10に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700904