特許異議申立
2022-700121
応急用義歯セット、応急用義歯装着キット及び義歯の装着方法
- 審判番号
- 2022-700121
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-009299
- 登録番号
- 6928420
- 請求日
- 2022年02月14日
- 審決日
- 2022年11月01日
- 公報発行日
- 2023年02月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社松風
- 【権利者代理人】岡部 博史
- 【権利者代理人】中谷 剣一
- 【異議申立人】株式会社 トクヤマデンタル
- 【異議申立人代理人】IAT弁理士法人
- 審判長/審判官
- 審判長 内藤 真徳
- 審判官 井上 哲男
- 審判官 松田 長親
- 分類
- P1651.113-YAA(A61C) / P1651.121-YAA(A61C) / P1651.537-YAA(A61C) / P1651.536-YAA(A61C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6928420号発明「応急用義歯セット、応急用義歯装着キット及び義歯の装着方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6928420号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1,2〕について訂正することを認める。
特許第6928420号の請求項1,2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6928420号(以下、「本件特許」という。)の請求項1,2に係る特許についての出願は、令和3年8月11日にその特許権の設定登録(特許掲載公報の発行日 令和3年9月1日)がなされたところ、令和4年2月14日に株式会社トクヤマデンタル(以下、「申立人」という。)により、全請求項に係る特許について特許異議の申立てがなされた。
当審において、令和4年5月12日付けで取消理由を通知したところ、特許権者より令和4年7月11日に意見書と訂正請求書が提出され、申立人より令和4年8月19日に意見書が提出された。
以下、令和4年7月11日提出の訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。
第2 本件訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「仮想咬合平面をXY平面、前頭断面をYZ平面とする仮想XYZ直交座標系の空間中に上顎総義歯(UD)と下顎総義歯(LD)をそれぞれ表した場合、」と記載されているのを、
「仮想咬合平面をXY平面、前頭断面をYZ平面とする仮想XYZ直交座標系の空間中に、義歯床粘膜面に歯列弓の形状に沿った馬蹄形の線(UAC)(LAC)を底とする溝部が形成された上顎総義歯(UD)と下顎総義歯(LD)をそれぞれ表した場合、」に訂正する。(審決注:下線部は訂正箇所。以下、同じ。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に、
「歯槽頂の正中に相当する点(UI)はX=0mmのYZ平面上にあり、上顎の歯槽頂線(UAC)は粘膜面の歯槽頂の正中に相当する点(UI)を頂点とし、左右両側の末端において点(UL)と点(UR)を通過する放物線であり、」と記載されているのを、
「上顎の歯槽頂の正中に相当する上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)の頂点(UI)はX=0mmのYZ平面上にあり、上顎の歯槽頂線に相当する上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)は頂点(UI)から、左右両側の末端において点(UL)と点(UR)を通過する放物線であり、」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、
「歯槽頂線(UAC)をXY平面に投影した曲線(UAC´)は、4次関数曲線Y = 0.000365067225374771 X4 + 0.000000000000005027 X3 + 0.006602158806514050 X2 - 0.000000000000602185 X + 10.620079242036700000を内側とし、
4次関数曲線Y = 0.000084193624284273 X4 - 0.000000000000001435 X3 + 0.007364651824203370 X2 + 0.000000000006894041 X + 0.621654266293923000を外側とする、
2つの曲線で囲まれた領域内にあり、」と記載されているのを、
「上顎の歯槽頂線に相当する上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)をXY平面に投影した曲線(UAC´)は、
4次関数曲線Y = 0.000365067225374771 X4+ 0.000000000000005027 X3+ 0.006602158806514050 X2- 0.000000000000602185 X + 10.620079242036700000を内側とし、
4次関数曲線Y = 0.000084193624284273 X4- 0.000000000000001435 X3+ 0.007364651824203370 X2+ 0.000000000006894041 X + 0.621654266293923000を外側とする、
2つの曲線で囲まれた領域内にあり、」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に、
「下顎総義歯(LD)の唇側床縁の正中にあたる下唇小帯に相当する点(LF)を座標(X=0mm、Y=0mm、Z=-10mm)に配置し、」と記載されているのを、
「下顎総義歯(LD)の唇側床縁の正中にあたる下唇小帯に相当する点(LF)を座標(X=0mm、Y=0mm、Z=-10mm)に配置し、」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に、
「歯槽頂の正中に相当する点(LI)はX=0mmのYZ平面上にあり、
線分(LL)(LR)の長さは0.98~1.20であり、線分(O)(LM)の長さは1.00~1.22であり、
下顎の歯槽頂線(LAC)は歯槽頂の正中に相当する点(LI)を頂点とし、左右両側の末端において点(LL)と点(LR)を通過する放物線であり、」と記載されているのを、
「下顎の歯槽頂の正中に相当する下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)の頂点(LI)はX=0mmのYZ平面上にあり、
線分(LL)(LR)の長さは0.98~1.20であり、線分(O)(LM)の長さは1.00~1.22であり、
下顎の歯槽頂線に相当する下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)は頂点(LI)から、左右両側の末端において点(LL)と点(LR)を通過する放物線であり、」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1に、
「歯槽頂線(LAC)をXY平面に投影した曲線(LAC´)は、
4次関数曲線Y = 0.000182687181633390 X4 ‐ 0.000000000000003459 X3 + 0.015225452311138400 X2 ‐ 0.000000000007804424 X + 11.853157192668200000を内側とし、
4次関数曲線Y = 0.000054738982573847 X4 ‐ 0.000000000000000214 X3 + 0.009466764450595130 X2 + 0.000000000006493472 X + 1.899966273448990000を外側とする、
2つの放物線で囲まれた領域内にあることを特徴とする」と記載されているのを、
「下顎の歯槽頂線に相当する下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)をXY平面に投影した曲線(LAC´)は、
4次関数曲線Y = 0.000182687181633390 X4- 0.000000000000003459 X3+ 0.015225452311138400 X2- 0.000000000007804424 X + 11.853157192668200000を内側とし、
4次関数曲線Y = 0.000054738982573847 X4- 0.000000000000000214 X3+ 0.009466764450595130 X2+ 0.000000000006493472 X + 1.899966273448990000を外側とする、
2つの放物線で囲まれた領域内にあることを特徴とする」に訂正する。
(7)訂正事項7
本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0018】に、
「すなわち、本発明の第一の手段は、
不特定多数の無歯顎患者に提供される上顎総義歯(UD)と下顎総義歯(LD)の応急用義歯セットであって、
仮想咬合平面をXY平面、前頭断面をYZ平面とする仮想XYZ直交座標系の空間中に上顎総義歯(UD)と下顎総義歯(LD)をそれぞれ表した場合、
上顎総義歯(UD)の唇側床縁の正中にあたる上唇小帯に相当する点(UF)を座標(X=0mm、Y=0mm、Z=10mm)に配置し、
床後縁の左側翼突上顎切痕に相当する点(UL)と右側翼突上顎切痕に相当する点(UR)とを結ぶ線分(UL)(UR)はX軸に平行とし、且つ、Z=10mmとなるように上顎総義歯(UD)を配置したとき、
点(UF)と線分(UL)(UR)の中点(UM)とを結ぶ線分(UF)(UM)は線分(UL)(UR)と直交し、
線分(UL)(UR)の長さを1とした場合、
線分(UF)(UM)の長さは0.99~1.21であり、
歯槽頂の正中に相当する点(UI)はX=0mmのYZ平面上にあり、上顎の歯槽頂線(UAC)は粘膜面の歯槽頂の正中に相当する点(UI)を頂点とし、左右両側の末端において点(UL)と点(UR)を通過する放物線であり、
歯槽頂線(UAC)をXY平面に投影した曲線(UAC´)は、
4次関数曲線Y = 0.000365067225374771 X4 + 0.000000000000005027 X3 + 0.006602158806514050 X2 - 0.000000000000602185 X + 10.620079242036700000を内側とし、
4次関数曲線Y = 0.000084193624284273 X4 - 0.000000000000001435 X3 + 0.007364651824203370 X2 + 0.000000000006894041 X + 0.621654266293923000を外側とする、
2つの曲線で囲まれた領域内にあり、
下顎総義歯(LD)の唇側床縁の正中にあたる下唇小帯に相当する点(LF)を座標(X=0mm、Y=0mm、Z=-10mm)に配置し、
床後縁の左側臼後隆起に相当する点(LL)と床後縁の右側臼後隆起に相当する点(LR)とを結ぶ線分(LL)(LR)はX軸に平行とし、且つ、Z=0mmとなるように下顎総義歯(LD)を配置したとき、
座標(X=0mm、Y=0mm、Z=0mm)である原点(O)と線分(LL)(LR)の中点(LM)とを結ぶ線分(O)(LM)は線分(LL)(LR)と直交し、
歯槽頂の正中に相当する点(LI)はX=0mmのYZ平面上にあり、
線分(LL)(LR)の長さは0.98~1.20であり、線分(O)(LM)の長さは1.00~1.22であり、
下顎の歯槽頂線(LAC)は歯槽頂の正中に相当する点(LI)を頂点とし、左右両側の末端において点(LL)と点(LR)を通過する放物線であり、
歯槽頂線(LAC)をXY平面に投影した曲線(LAC´)は、
4次関数曲線Y = 0.000182687181633390 X4 ‐ 0.000000000000003459 X3 + 0.015225452311138400 X2 ‐ 0.000000000007804424 X + 11.853157192668200000を内側とし、
4次関数曲線Y = 0.000054738982573847 X4 ‐ 0.000000000000000214 X3 + 0.009466764450595130 X2 + 0.000000000006493472 X + 1.899966273448990000を外側とする、
2つの放物線で囲まれた領域内にあることを特徴とする。」と記載されているのを、
「すなわち、本発明の第一の手段は、
不特定多数の無歯顎患者に提供される上顎総義歯(UD)と下顎総義歯(LD)の応急用義歯セットであって、
仮想咬合平面をXY平面、前頭断面をYZ平面とする仮想XYZ直交座標系の空間中に、義歯床粘膜面に歯列弓の形状に沿った馬蹄形の線(UAC)(LAC)を底とする溝部が形成された上顎総義歯(UD)と下顎総義歯(LD)をそれぞれ表した場合、
上顎総義歯(UD)の唇側床縁の正中にあたる上唇小帯に相当する点(UF)を座標(X=0mm、Y=0mm、Z=10mm)に配置し、
床後縁の左側翼突上顎切痕に相当する点(UL)と右側翼突上顎切痕に相当する点(UR)とを結ぶ線分(UL)(UR)はX軸に平行とし、且つ、Z=10mmとなるように上顎総義歯(UD)を配置したとき、
点(UF)と線分(UL)(UR)の中点(UM)とを結ぶ線分(UF)(UM)は線分(UL)(UR)と直交し、
線分(UL)(UR)の長さを1とした場合、
線分(UF)(UM)の長さは0.99~1.21であり、
上顎の歯槽頂の正中に相当する上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)の頂点(UI)はX=0mmのYZ平面上にあり、上顎の歯槽頂線に相当する上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)は頂点(UI)から、左右両側の末端において点(UL)と点(UR)を通過する放物線であり、
上顎の歯槽頂線に相当する上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)をXY平面に投影した曲線(UAC´)は、
4次関数曲線Y = 0.000365067225374771 X4+ 0.000000000000005027 X3+ 0.006602158806514050 X2- 0.000000000000602185 X + 10.620079242036700000を内側とし、
4次関数曲線Y = 0.000084193624284273 X4- 0.000000000000001435 X3+ 0.007364651824203370 X2+ 0.000000000006894041 X + 0.621654266293923000を外側とする、
2つの曲線で囲まれた領域内にあり、
下顎総義歯(LD)の唇側床縁の正中にあたる下唇小帯に相当する点(LF)を座標(X=0mm、Y=0mm、Z=-10mm)に配置し、
床後縁の左側臼後隆起に相当する点(LL)と床後縁の右側臼後隆起に相当する点(LR)とを結ぶ線分(LL)(LR)はX軸に平行とし、且つ、Z=0mmとなるように下顎総義歯(LD)を配置したとき、
座標(X=0mm、Y=0mm、Z=0mm)である原点(O)と線分(LL)(LR)の中点(LM)とを結ぶ線分(O)(LM)は線分(LL)(LR)と直交し、
下顎の歯槽頂の正中に相当する下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)の頂点(LI)はX=0mmのYZ平面上にあり、
線分(LL)(LR)の長さは0.98~1.20であり、線分(O)(LM)の長さは1.00~1.22であり、
下顎の歯槽頂線に相当する下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)は頂点(LI)から、左右両側の末端において点(LL)と点(LR)を通過する放物線であり、
下顎の歯槽頂線に相当する下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)をXY平面に投影した曲線(LAC´)は、
4次関数曲線Y = 0.000182687181633390 X4- 0.000000000000003459 X3+ 0.015225452311138400 X2- 0.000000000007804424 X + 11.853157192668200000を内側とし、
4次関数曲線Y = 0.000054738982573847 X4- 0.000000000000000214 X3+ 0.009466764450595130 X2+ 0.000000000006493472 X + 1.899966273448990000を外側とする、
2つの放物線で囲まれた領域内にあることを特徴とする。」に訂正する。
(8)訂正事項8
本件特許明細書の段落【0025】に、
「歯槽頂線(UAC)をXY平面に投影した曲線(UAC´)は、
4次関数曲線
4次関数曲線Y = 0.000365067225374771 X4 + 0.000000000000005027 X3 + 0.006602158806514050 X2 - 0.000000000000602185 X + 10.620079242036700000を内側とし、
4次関数曲線Y = 0.000084193624284273 X4 - 0.000000000000001435 X3 + 0.007364651824203370 X2 + 0.000000000006894041 X + 0.621654266293923000を外側とする、2つの曲線で囲まれた領域内にあり、
好ましくは4次関数曲線
Y = 0.000256800114575489 X4 ‐ 0.000000000000001530 X3 + 0.007098935571168030 X2 + 0.000000000001095124 X + 8.619988640130100000を内側とし、4次関数曲線
Y = 0.000107480845712618 X4 ‐ 0.000000000000001648 X3 + 0.007450659330339000 X2 ‐ 0.000000000007983836 X + 2.620648547496890000
を外側とする、2つの曲線で囲まれた領域内である。」と記載されているのを、
「歯槽頂線(UAC)をXY平面に投影した曲線(UAC´)は、
4次関数曲線
4次関数曲線Y = 0.000365067225374771 X4+ 0.000000000000005027 X3+ 0.006602158806514050 X2- 0.000000000000602185 X + 10.620079242036700000を内側とし、
4次関数曲線Y = 0.000084193624284273 X4- 0.000000000000001435 X3+ 0.007364651824203370 X2+ 0.000000000006894041 X + 0.621654266293923000を外側とする、2つの曲線で囲まれた領域内にあり、
好ましくは4次関数曲線
Y = 0.000256800114575489 X4- 0.000000000000001530 X3+ 0.007098935571168030 X2+ 0.000000000001095124 X + 8.619988640130100000を内側とし、4次関数曲線
Y = 0.000107480845712618 X4- 0.000000000000001648 X3+ 0.007450659330339000 X2- 0.000000000007983836 X + 2.620648547496890000
を外側とする、2つの曲線で囲まれた領域内である。」に訂正する。
(9)訂正事項9
本件特許明細書の段落【0026】に、
「また、下顎の歯槽頂線LACは歯槽頂の正中に相当する点(LI)を頂点とし、左右両側の末端において点(LL)と点(LR)を通過する放物線であり、歯槽頂線(LAC)をXY平面に投影した曲線(LAC´)は、
4次関数曲線Y = 0.000182687181633390 X4 ‐ 0.000000000000003459 X3 + 0.015225452311138400 X2 ‐ 0.000000000007804424 X + 11.853157192668200000を内側とし、
4次関数曲線Y = 0.000054738982573847 X4 ‐ 0.000000000000000214 X3 + 0.009466764450595130 X2 + 0.000000000006493472 X + 1.899966273448990000を外側とする、2つの放物線で囲まれた領域内にあり、
好ましくは4次関数曲線
Y = 0.000138221294545049 X4 ‐ 0.000000000000000564 X3 + 0.013362940766698100 X2 ‐ 0.000000000006100898 X + 9.865894873892510000を内側とし、4次関数曲線
Y = 0.000067371575050011 X4 ‐ 0.000000000000002066 X3 + 0.010151667250553200 X2 + 0.000000000000073719 X + 3.892832686409730000を外側とする、2つの放物線で囲まれた領域内である。」と記載されているのを、
「また、下顎の歯槽頂線LACは歯槽頂の正中に相当する点(LI)を頂点とし、左右両側の末端において点(LL)と点(LR)を通過する放物線であり、歯槽頂線(LAC)をXY平面に投影した曲線(LAC´)は、
4次関数曲線Y = 0.000182687181633390 X4- 0.000000000000003459 X3+ 0.015225452311138400 X2- 0.000000000007804424 X + 11.853157192668200000を内側とし、
4次関数曲線Y = 0.000054738982573847 X4- 0.000000000000000214 X3+ 0.009466764450595130 X2+ 0.000000000006493472 X + 1.899966273448990000を外側とする、2つの放物線で囲まれた領域内にあり、
好ましくは4次関数曲線
Y = 0.000138221294545049 X4- 0.000000000000000564 X3+ 0.013362940766698100 X2- 0.000000000006100898 X + 9.865894873892510000を内側とし、4次関数曲線
Y = 0.000067371575050011 X4- 0.000000000000002066 X3+ 0.010151667250553200 X2+ 0.000000000000073719 X + 3.892832686409730000を外側とする、2つの放物線で囲まれた領域内である。」に訂正する。
2 本件訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1が、「仮想咬合平面をXY平面、前頭断面をYZ平面とする仮想XYZ直交座標系の空間中に上顎総義歯(UD)と下顎総義歯(LD)をそれぞれ表す」としていたのを、
「仮想咬合平面をXY平面、前頭断面をYZ平面とする仮想XYZ直交座標系の空間中に、義歯床粘膜面に歯列弓の形状に沿った馬蹄形の線(UAC)(LAC)を底とする溝部が形成された上顎総義歯(UD)と下顎総義歯(LD)をそれぞれ表す」として、
「仮想咬合平面をXY平面、前頭断面をYZ平面とする仮想XYZ直交座標系の空間中」に表される「上顎総義歯(UD)と下顎総義歯(LD)」の構造を具体的に特定したものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件特許明細書の段落【0012】には「上顎、下顎共に無歯顎患者の顎堤形状には歯槽頂線と呼ばれる馬蹄形の稜線を頂点とする起伏で構成されている。この歯槽頂線は、歯周疾患や抜歯処理など何らかの理由により歯牙を喪失し、その歯牙を支えていた歯槽骨が吸収し、元々萌出していた歯牙の歯列弓の形状に沿ってその内側または外側で稜線状に連なる起伏として残存したものである。義歯の粘膜面が歯槽頂の起伏に調和していない場合、疼痛を引き起こすこととなる。」と記載されている。
当該記載からすれば、上顎総義歯の義歯床粘膜面は、顎堤の歯槽頂線に調和するように取り付けられるものであるから、顎堤の起伏に凹凸嵌合する溝部を有することは明らかである。そして、当該起伏の稜線の頂点にあたる歯槽頂線と溝部の底に沿った馬蹄形の線は嵌合関係にあるから、当該溝部は、起伏の稜線の頂点にあたる歯槽頂線に対応する歯列弓の形状に沿った馬蹄形の線を底とすることとなる。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「上顎総義歯(UD)と下顎総義歯(LD)」という発明特定事項を「義歯床粘膜面に歯列弓の形状に沿った馬蹄形の線(UAC)(LAC)を底とする溝部が形成された上顎総義歯(UD)と下顎総義歯(LD)」と具体的に特定するものであり、訂正後の請求項1に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項1の「歯槽頂の正中に相当する点(UI)はX=0mmのYZ平面上にあり、上顎の歯槽頂線(UAC)は粘膜面の歯槽頂の正中に相当する点(UI)を頂点とし、左右両側の末端において点(UL)と点(UR)を通過する放物線であり、」の記載は、「歯槽頂線(UAC)」及び「歯槽頂の正中に相当する点(UI)」が、患者の顎堤の構成であり、患者の顎堤の構成で義歯の構成を特定しようとするものであったことから、義歯の構成として不明瞭であったのを、
「上顎の歯槽頂の正中に相当する上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)の頂点(UI)はX=0mmのYZ平面上にあり、上顎の歯槽頂線に相当する上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)は頂点(UI)から、左右両側の末端において点(UL)と点(UR)を通過する放物線であり、」とすることにより、訂正前の請求項1の「歯槽頂線(UAC)」及び「歯槽頂の正中に相当する点(UI)」について、それぞれ対応する義歯の構成である「上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)」及び「上顎の歯槽頂線に相当する上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)は頂点(UI)」と記載することにより明瞭にしたものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(1)イで検討したように、顎堤と上顎総義歯の粘膜面は相互に凹凸嵌合する起伏と溝部の関係にあることは段落【0012】の記載から明らかであるから、顎堤の起伏上の構成を、嵌合関係にある上顎総義歯の溝の構成に置き換えて記載したとしても、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲から逸脱することはない。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、訂正前の請求項1に係る発明における「上顎の歯槽頂線」及び「歯槽頂の正中に相当する点」に係る構成を義歯の構成として記載するものであり、訂正後の請求項1に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項1では、「歯槽頂線(UAC)」が、患者の顎堤の構成であり、患者の顎堤の構成で義歯の構成を特定しようとするものであったから不明瞭であったのを、「歯槽頂線(UAC)をXY平面に投影した曲線(UAC´)」を、「上顎の歯槽頂線に相当する上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)をXY平面に投影した曲線(UAC´)」と記載することにより、義歯の構成を明瞭にすると共に、4次関数中で「X4」、「X3」及び「X2」と誤って記載されていたのを、それぞれ「X4」、「X3」及び「X2」と訂正し、「Xのべき乗」であることを明瞭にしたものである。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号及び第3号に規定する誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(1)イで検討したように、顎堤と上顎総義歯の粘膜面は相互に凹凸嵌合する起伏と溝部の関係にあることは段落【0012】の記載から明らかであるから、顎堤の起伏上の構成を、嵌合関係にある上顎総義歯の溝の構成として記載したとしても、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲から逸脱するものではない。
また、「X4」、「X3」及び「X2」の記載についても、「X4」、「X3」及び「X2」の記載が「Xのべき乗」を表すものであることは、「4次関数曲線=」の記載に照らして明らかであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲から逸脱するものではない。
よって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、訂正前の請求項1に係る発明における「歯槽頂線」に係る構成を「上顎の歯槽頂線に相当する上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)」として、上顎総義歯(UD)の構成として記載すると共に、
訂正前の請求項1に係る発明における「X4」、「X3」及び「X2」の記載を、それぞれ「X4」、「X3」及び「X2」と訂正し、「Xのべき乗」であることを明らかにするものである。
よって、訂正事項3に係る訂正は、請求項1に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項1に「座標(X=0mm、Y=0mm、Z=-10mm)」と記載され、「-」の記載のみが半角で表記されていたのを、「座標(X=0mm、Y=0mm、Z=-10mm)」と「-」を全角表記に改めたものである。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、「-」が半角で表記されていたのを他の表記に合わせて全角表記したものであって、意味内容に実質的相違は生じないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲での訂正といえる。
よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記イで検討したように訂正事項4に係る訂正により、意味内容に実質的相違は生じないから、請求項1に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の請求項1が、「歯槽頂の正中に相当する点(LI)はX=0mmのYZ平面上にあり、
線分(LL)(LR)の長さは0.98~1.20であり、線分(O)(LM)の長さは1.00~1.22であり、
下顎の歯槽頂線(LAC)は歯槽頂の正中に相当する点(LI)を頂点とし、左右両側の末端において点(LL)と点(LR)を通過する放物線であり、」としていたのを、
「下顎の歯槽頂の正中に相当する下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)の頂点(LI)はX=0mmのYZ平面上にあり、
線分(LL)(LR)の長さは0.98~1.20であり、線分(O)(LM)の長さは1.00~1.22であり、
下顎の歯槽頂線に相当する下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)は頂点(LI)から、左右両側の末端において点(LL)と点(LR)を通過する放物線であり、」として、
訂正前の請求項1の「下顎の歯槽頂線(LAC)」及び「歯槽頂の正中に相当する点(LI)」について、それぞれ対応する義歯の構成である「下顎の歯槽頂線に相当する下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)」及び「下顎の歯槽頂の正中に相当する下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)の頂点(LI)」と記載することにより明瞭にしたものである。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
本件特許明細書の段落【0012】には「上顎、下顎共に無歯顎患者の顎堤形状には歯槽頂線と呼ばれる馬蹄形の稜線を頂点とする起伏で構成されている。この歯槽頂線は、歯周疾患や抜歯処理など何らかの理由により歯牙を喪失し、その歯牙を支えていた歯槽骨が吸収し、元々萌出していた歯牙の歯列弓の形状に沿ってその内側または外側で稜線状に連なる起伏として残存したものである。義歯の粘膜面が歯槽頂の起伏に調和していない場合、疼痛を引き起こすこととなる。」と記載されている。
当該記載からすれば、下顎総義歯の義歯床粘膜面は、顎堤の歯槽頂線と呼ばれる馬蹄形の稜線を頂点とする起伏に調和するように取り付けられるものであるから、顎堤の起伏に凹凸嵌合する溝部を有することは明らかである。そして、当該起伏と溝部は嵌合関係にあるから、当該溝部は、起伏の稜線の頂点にあたる歯槽頂線に対応する歯列弓の形状に沿った馬蹄形の線を底とすることもまた明らかである。
よって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5は、訂正前の請求項1に係る発明における「下顎の歯槽頂線(LAC)」及び「歯槽頂の正中に相当する点(LI)」に係る構成を義歯の構成として記載するものであり、訂正後の請求項1に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、訂正前の請求項1では、「歯槽頂線(LAC)」が、患者の顎堤の構成であり、患者の顎堤の構成で義歯の構成を特定したものとなっていたのを、「歯槽頂線(LAC)をXY平面に投影した曲線(LAC´)」の記載を、「下顎の歯槽頂線に相当する下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)をXY平面に投影した曲線(LAC´)」と記載することにより、義歯の構成であることを明瞭にすると共に、4次関数中で「X4」、「X3」及び「X2」と誤って記載されていたのを、それぞれ「X4」、「X3」及び「X2」と訂正し、「Xのべき乗」であることを明瞭にしたものである。
よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号及び第3号に規定する誤記の訂正及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(5)イで検討したように、顎堤と下顎総義歯の粘膜面は相互に凹凸嵌合する起伏と溝部の関係にあることは段落【0012】の記載から明らかであるから、顎堤の起伏上の構成を、嵌合関係にある下顎総義歯の溝部の構成に置き換えて記載し直したとしても、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲から逸脱するものではない。
また、「X4」、「X3」及び「X2」の記載についても、「X4」、「X3」及び「X2」の記載が「Xのべき乗」を表すものであることは、「4次関数曲線=」の記載に照らして明らかであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲から逸脱するものではない。
よって、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項6は、訂正前の請求項1に係る発明における「歯槽頂線」に係る構成を「下顎の歯槽頂線に相当する下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)」として、下顎総義歯(LD)の構成として記載すると共に、訂正前の請求項1に係る発明における「X4」、「X3」及び「X2」との記載を、それぞれ「X4」、「X3」及び「X2」と訂正し、「Xのべき乗」であることを明らかにするものである。
よって、訂正事項6に係る訂正は、請求項1に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的について
訂正事項7は、訂正事項1~6に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、本件特許明細書の段落【0018】の記載を訂正するものである。
よって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項7は、上記のとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アのとおりであるから、訂正事項7は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(8)訂正事項8について
ア 訂正の目的について
訂正事項8は、訂正事項1~6に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、本件特許明細書の段落【0025】の記載を訂正するものである。
よって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項8は、上記のとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アのとおりであるから、訂正事項8は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(9)訂正事項9について
ア 訂正の目的について
訂正事項9は、訂正事項1~6に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、願書に添付した明細書の段落【0026】の記載を訂正するものである。
よって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項9は、上記のとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アのとおりであるから、訂正事項9は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合する。
(10)本件訂正についての申立人の主張について、
ア 訂正事項1の新規事項追加の主張について
(ア)申立人は、令和4年8月19日提出の意見書(以下、「意見書」という。)において、「当初明細書には、図1-2に例示される曲線(UAC)は歯槽頂線である旨しか説明されておらず、曲線(UAC)が義歯床粘膜面における歯列弓の形状に沿った馬蹄形の線なのか否かについては明示的説明が全く無い。」旨主張(意見書2頁6~9行参照。)し、訂正事項1に係る訂正は新規事項の追加にあたる旨主張している(意見書1頁下から3行~2頁13行参照。)。
しかし、上顎総義歯は患者の顎堤に取り付けられるものであり、両者は嵌合関係にあるから、上顎の歯槽頂線と上顎総義歯の溝部の底に沿った馬蹄形の線は互いに対応するものであることは当業者であれば容易に想到できることである。
よって、訂正前の請求項1に記載された「歯槽頂線」と、訂正後の「義歯床粘膜面における歯列弓の形状に沿った馬蹄形の線」は、同じ形状の線を患者の顎堤の構成として表現したものか、義歯床粘膜面の構成として表現したものかの、表現上の違いにすぎず、両者が実質的に対応するものを指すことは明示的説明がなくとも当業者にとって自明である。
(イ)申立人は、図2が斜め下方から見た左側面図であることを指摘し、線UACが意味不明である旨主張している(意見書2頁14~17行参照。)。
しかし、側面図においても、一部透視図として内部を点線で表すことは通常行われる手法であり、当業者であれば、本願特許明細書の段落【0025】の記載を加味すれば、図2に点線で記載された線UACが義歯床粘膜面における歯列弓の形状に沿った馬蹄形の線を表すものと理解できる。
(ウ)申立人は、意見書に参考資料1を添付することにより、「明瞭な歯槽頂線が確認できない無歯顎患者においては、訂正事項1に特定されるような明瞭な馬蹄形状の溝部を有する上顎総義歯(UD)を用いても、当該無歯顎患者には、応急義歯装着キット等を提供することはできない。」(意見書3頁2~5行参照。)と主張し、また「歯列弓」についても、無歯顎患者の歯列弓に沿った形状について理解できない旨主張し、訂正事項1については、当初明細書等には開示のみならず、示唆すらされていない旨主張している(意見書2頁18行~3頁20行参照。)。
しかし、「歯槽頂線」とは、本願特許明細書の段落【0012】の記載からすれば、無歯顎患者の顎堤の馬蹄形の稜線の頂点からなる線であり、歯列弓は、当該段落【0012】の記載からすれば、当該歯槽頂線に沿った形状である。
してみれば、仮に歯槽頂線及び歯列弓が明瞭でなかったとしても、無歯顎患者の歯槽頂線を実測するにあたり。当該歯槽頂線を4次関数曲線に係る馬蹄形状に近似することにより、比較対象である歯槽頂線は当業者であれば容易に導き出せるものと考えられる。
イ 訂正事項1、3の特許請求の範囲の拡張又は変更及び新規事項追加の主張について
申立人は、訂正後の馬蹄形の線(UAC)は、訂正前の歯槽頂線(UAC)と同一ではなく、下位概念に相当するものでもないから、訂正事項1,3は実質上、特許請求の範囲を拡張又は変更するものであり、新規事項の追加にも該当する旨主張している(意見書3頁21行~4頁最終行参照。)。
しかし、上顎総義歯は患者の顎堤に取り付けられるものであり、両者は嵌合関係にあるものであるから、上顎の歯槽頂線と上顎総義歯の溝部の底に沿った馬蹄形の線が互いに対応する線であることは当業者であれば容易に理解でき、訂正前後の線(UAC)は対応するものと認められるから、訂正事項1,3は、実質的な特許請求の範囲を拡張又は変更や、新規事項の追加にはあたらない。
ウ 訂正事項1、6の特許請求の範囲の拡張又は変更及び新規事項追加の主張について
申立人は、下顎の線(LAC)についても上顎に対する主張と同様の主張をしている(意見書5頁1~8行参照。)が、上顎についての上記の指摘は下顎についてもあてはまるから、訂正事項1,6についても同様に、実質的な特許請求の範囲を拡張又は変更や、新規事項の追加にはあたらない。
エ 訂正事項2、5の特許請求の範囲の拡張又は変更及び新規事項追加の主張について
申立人は、点(UI)(LI)についても、これらの点は、線(UAC)(LAC)上に存在する点であるから、これら点(UI)(LI)についても線(UAC)(LAC)同様、訂正前後で同一ではなく、下位概念に相当するものでもないから、訂正事項2,5は実質上、特許請求の範囲を拡張又は変更するものであり、新規事項の追加にも該当する旨主張している(意見書5頁9~22行参照。)。
しかし、上記のとおり、線(UAC)(LAC)は訂正の前後で対応するものである以上、当該線(UAC)(LAC)の頂点(UI)(LI)についても同様に、訂正の前後で対応し、訂正事項2,5についても同様に、実質的な特許請求の範囲を拡張又は変更や、新規事項の追加にはあたらない。
(11)一群の請求項について
訂正事項1~6に係る訂正前の請求項1,2の訂正について、訂正前の請求項2は、訂正前の請求項1を直接引用するものであるから、訂正事項1~6によって訂正される請求項1と一群の請求項である。
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。
また、訂正事項7~9による明細書の訂正に係る請求項は、訂正前の請求項1,2であって、訂正事項1~6と関係する一群の請求項が請求の対象とされているから、訂正事項7~9による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項に適合するものである。
(12)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~2〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1,2に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」といい、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】
不特定多数の無歯顎患者に提供される上顎総義歯(UD)と下顎総義歯(LD)の応急用義歯セットであって、
仮想咬合平面をXY平面、前頭断面をYZ平面とする仮想XYZ直交座標系の空間中に、義歯床粘膜面に歯列弓の形状に沿った馬蹄形の線(UAC)(LAC)を底とする溝部が形成された上顎総義歯(UD)と下顎総義歯(LD)をそれぞれ表した場合、
上顎総義歯(UD)の唇側床縁の正中にあたる上唇小帯に相当する点(UF)を座標(X=0mm、Y=0mm、Z=10mm)に配置し、
床後縁の左側翼突上顎切痕に相当する点(UL)と右側翼突上顎切痕に相当する点(UR)とを結ぶ線分(UL)(UR)はX軸に平行とし、且つ、Z=10mmとなるように上顎総義歯(UD)を配置したとき、
点(UF)と線分(UL)(UR)の中点(UM)とを結ぶ線分(UF)(UM)は線分(UL)(UR)と直交し、
線分(UL)(UR)の長さを1とした場合、
線分(UF)(UM)の長さは0.99~1.21であり、
上顎の歯槽頂の正中に相当する上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)の頂点(UI)はX=0mmのYZ平面上にあり、上顎の歯槽頂線に相当する上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)は頂点(UI)から、左右両側の末端において点(UL)と点(UR)を通過する放物線であり、
上顎の歯槽頂線に相当する上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)をXY平面に投影した曲線(UAC´)は、
4次関数曲線Y = 0.000365067225374771 X4 + 0.000000000000005027 X3 + 0.006602158806514050 X2 - 0.000000000000602185 X + 10.620079242036700000を内側とし、
4次関数曲線Y = 0.000084193624284273 X4 - 0.000000000000001435 X3 + 0.007364651824203370 X2 + 0.000000000006894041 X + 0.621654266293923000を外側とする、
2つの曲線で囲まれた領域内にあり、
下顎総義歯(LD)の唇側床縁の正中にあたる下唇小帯に相当する点(LF)を座標(X=0mm、Y=0mm、Z=-10mm)に配置し、
床後縁の左側臼後隆起に相当する点(LL)と床後縁の右側臼後隆起に相当する点(LR)とを結ぶ線分(LL)(LR)はX軸に平行とし、且つ、Z=0mmとなるように下顎総義歯(LD)を配置したとき、
座標(X=0mm、Y=0mm、Z=0mm)である原点(O)と線分(LL)(LR)の中点(LM)とを結ぶ線分(O)(LM)は線分(LL)(LR)と直交し、
下顎の歯槽頂の正中に相当する下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)の頂点(LI)はX=0mmのYZ平面上にあり、
線分(LL)(LR)の長さは0.98~1.20であり、線分(O)(LM)の長さは1.00~1.22であり、
下顎の歯槽頂線に相当する下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)は頂点(LI)から、左右両側の末端において点(LL)と点(LR)を通過する放物線であり、
下顎の歯槽頂線に相当する下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)をXY平面に投影した曲線(LAC´)は、
4次関数曲線Y = 0.000182687181633390 X4 - 0.000000000000003459 X3 + 0.015225452311138400 X2 - 0.000000000007804424 X + 11.853157192668200000を内側とし、
4次関数曲線Y = 0.000054738982573847 X4 - 0.000000000000000214 X3 + 0.009466764450595130 X2 + 0.000000000006493472 X + 1.899966273448990000を外側とする、
2つの放物線で囲まれた領域内にあることを特徴とする、応急用義歯セット。
【請求項2】
咬合平面板(P)、上顎総義歯アダプター(A)、コネクター(C)、バイトアダプター(B)、歯科用エンジン(R)、歯科用研削材(M)、義歯床補填用材料(D)の7つの部材で構成され、このうち少なくとも
咬合平面板(P)は馬蹄形状の水平面(H)を備え、且つ、正中部に水平面(H)と前頭面に直交する面(V)を備え、水平面(H)の下面にコネクター(C)と接続するための凹凸形状の接続部を備え、
コネクター(C)は、前記上顎総義歯(UD)の仮想咬合平面と垂直な凹凸形状の接続部を両端に備え、前記上顎総義歯(UD)と咬合平面板(P)の水平面(H)が平行になるように、上顎総義歯アダプター(A)と接続し、
上顎総義歯アダプター(A)は、上面に前記上顎総義歯(UD)の人工歯部咬合面の陰型形状を備え、下面に前記上顎総義歯(UD)の仮想咬合平面を示す水平面(H)およびコネクター(C)と接続するための凹凸形状の接続部を正中に備え、仮想咬合平面を示す水平面(H)と、咬合平面板(P)の水平面(H)が平行になるように、前記上顎総義歯(UD)とコネクター(C)とを接続し、
バイトアダプター(B)は上面及び下面に凹形状を備え、凹形状は前記上顎総義歯(UD)と前記下顎総義歯(LD)の臼歯部を咬頭嵌合位で固定した状態の咬合面及び歯冠軸面の陰型が含まれることを特徴とする、
請求項1の応急用義歯セットを簡便に患者に提供するための応急用義歯装着キット。
第4 取消理由の概要
本件特許に対する令和4年5月12日付け取消理由通知(以下、「取消理由通知」という。)の概要は以下のとおりである。
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないため、同法第113条第4号に該当する。
記
1.請求項1記載の「歯槽頂」及び「歯槽頂線」がどのように定義されるのか不明確である。
すなわち、一般に「歯槽頂」及び「歯槽頂線」は患者の顎堤によって定められるものであるが、義歯が患者の顎堤に一義的に取り付けられるものとは認められない(すなわち、本願明細書の段落【0012】に記載されているように、義歯と顎堤の間には一般に干渉が生じ得るものである。)ことから、請求項1の「歯槽頂」及び「歯槽頂線」がどのように特定できるのか不明確である。
また、同様に「歯槽頂の正中に相当する点」は、義歯を顎堤に装着した場合に患者の顎堤の歯槽頂の正中に相当する点であり、義歯を顎堤に装着した後に事後的に決まる点と認められるところ、義歯の構成としてどのように特定されるのか不明確である。
2.請求項1及び発明の詳細な説明の「X4」、「X3」及び「X2」の記載が何を意味するのか不明である。
すなわち、「X4」、「X3」及び「X2」の記載では、Xと数字の積を示すのか、Xのべき乗を示すのか特定できない。
また、請求項1及び発明の詳細な説明の「-」の記載について、全角の「-」で表記された箇所と半角の「-」で表記された箇所が存在するが、両者が同じことを意味するのか、異なることを意味するのか不明である。
よって、本件特許の請求項1及びこれを引用する請求項2に係る発明は明確でない。
第5 当審の判断
1 取消理由(明確性)の1.について
本件訂正により、訂正前において「歯槽頂線(UAC)(LAC)」とされていた構成は、「上顎の歯槽頂線に相当する上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)」又は「下顎の歯槽頂線に相当する下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)」と訂正され、義歯の構成は明確になった。
また、「歯槽頂線の正中に相当する点」についても同様に、本件訂正により「上顎総義歯(UD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)の頂点(UI)」又は「下顎総義歯(LD)の溝部の底に沿った馬蹄形の線(LAC)の頂点(LI)」と訂正され、義歯の構成は明確になった。
2 取消理由(明確性)の2.について
本件訂正により、請求項1及び発明の詳細な説明中の「X4」,「X3」及び「X2」の記載は、すべて「X4」,「X3」及び「X2」と訂正され明確となった。
また、請求項1及び発明の詳細な説明中の「-」の記載は、すべて「-」と訂正され、すべてが同じ「-」を表すことが明確となった。
3 小括
以上のとおり、本件発明1及び2は明確であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 新規性・進歩性について
(1)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証(段落[0007]~[0018]、[0080]~[0084]及び図12,13等参照。)には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「上顎用基準義歯と下顎用基準義歯の基準義歯であって、
仮想咬合平面をXY平面、前頭断面をYZ平面とする仮想XYZ直交座標系の空間中に、上顎用基準義歯と下顎用基準義歯をそれぞれ表した場合、
上顎用基準義歯の唇側床縁の正中にあたる上唇小帯に相当する点(O)を座標(X=0mm、Y=0mm)に配置し、
床後縁の左側翼突上顎切痕に相当する点(P)と右側翼突上顎切痕に相当する点(Q)とを結ぶ線分(P)(Q)はX軸に平行となるように上顎用基準義歯を配置したとき、
点(O)と線分(P)(Q)の中点(M)とを結ぶ線分(O)(M)は線分(P)(Q)と直交し、
線分(P)(Q)の長さを1とした場合、
線分(O)(M)の長さは0.76~0.98であり、
下顎用基準義歯の唇側床縁の正中にあたる下唇小帯に相当する点(o)を座標(X=0mm、Y=0mm)に配置し、
床後縁の左側臼後隆起に相当する点(p)と床後縁の右側臼後隆起に相当する点(q)とを結ぶ線分(p)(q)はX軸に平行となるように下顎用基準義歯を配置したとき、
座標(X=0mm、Y=0mm)である原点(o)と線分(p)(q)の中点(m)とを結ぶ線分(o)(m)は線分(p)(q)と直交し、
下顎の歯槽頂の正中に相当する下顎用基準義歯の頂点(o)はX=0mmのYZ平面上にあり、
線分(p)(q)の長さは1であり、線分(o)(m)の長さは0.74~0.94である、基準義歯」
(2)対比・判断
甲1発明と本件発明1を対比すると、甲1発明の上顎用及び下顎用基準義歯も、「不特定多数の無歯顎患者に提供される」ことを予定されているものと認められる。
そして、甲1発明の「上顎用基準義歯」は、本件発明1の「上顎総義歯(UD)」に相当し、同様に、「下顎用基準義歯」は、「下顎総義歯(LD)」に、「上顎用基準義歯の唇側床縁の正中にあたる上唇小帯に相当する点(O)」は、「上顎用基準義歯の唇側床縁の正中にあたる上唇小帯に相当する点(UF)」に、「床後縁の左側翼突上顎切痕に相当する点(P)と右側翼突上顎切痕に相当する点(Q)とを結ぶ線分(P)(Q)」は、「床後縁の左側翼突上顎切痕に相当する点(UL)と右側翼突上顎切痕に相当する点(UR)とを結ぶ線分(UL)(UR)」に、「点(O)と線分(P)(Q)の中点(M)とを結ぶ線分(O)(M)」は、「点(UF)と線分(UL)(UR)の中点(UM)とを結ぶ線分(UF)(UM)」に、「下顎用基準義歯の唇側床縁の正中にあたる下唇小帯に相当する点(o)」は、「下顎用基準義歯の唇側床縁の正中にあたる下唇小帯に相当する点(LF)」に、「床後縁の左側臼後隆起に相当する点(p)と床後縁の右側臼後隆起に相当する点(q)とを結ぶ線分(p)(q)」は、「床後縁の左側臼後隆起に相当する点(LL)と床後縁の右側臼後隆起に相当する点(LR)とを結ぶ線分(LL)(LR)」に、「座標(X=0mm、Y=0mm)である原点(o)と線分(p)(q)の中点(m)とを結ぶ線分(o)(m)」は、「座標(X=0mm、Y=0mm)である原点(O)と線分(LL)(LR)の中点(LM)とを結ぶ線分(O)(LM)」に相当する。
してみれば、本件発明1と甲1発明は、少なくとも次の点で相違する。
【相違点】
本件発明1では、線分(UL)(UR)の長さを1とした場合、線分(UF)(UM)の長さは0.99~1.21であるのに対し、甲1発明では、線分(UF)(UM)の長さは0.76~0.98である点
そして、上記相違点は実質的な相違点であるから、本件発明1が甲1発明であるということはできない。
本件発明1は、計測で得た3次元形状データを仮想XYZ座標中に配置し、上顎と下顎それぞれの歯槽頂線の分布状態を統計的に分析した結果、各サイズ別の歯槽頂線は相似形であり、それぞれ2つの放物線に囲まれた一定の範囲に集約されている(段落【0014】参照。)との知見に基づいて、線分(UL)(UR)の長さに対する、線分(UF)(UM)の長さの関係(以下、「相違点に係る長さの関係」という。)を前提として、当該相違点に係る長さの関係を有する上顎総義歯(UD)の義歯床粘膜面に歯列弓の形状に沿った馬蹄形の線(UAC)(LAC)を特定し、当該馬蹄形の線(UAC)(LAC)をXY平面に投影した曲線(UAC’)(LAC’)が2つの4次関数曲線で囲まれた領域内にあることを特定したものであるから、当該相違点に係る長さの関係は単なる設計的事項ということはできない。
また、甲2~6には、上記相違点に係る長さの関係について記載も示唆もない。
よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2~6の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本件発明2は本件発明1に係る応急用義歯セットの発明特定事項のすべてを有する応急用義歯装着キットに係る発明であるから、上記のとおり本件発明1が甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲2~6の記載に基いて、容易に発明できたものでない以上同様に、甲1発明及び甲2~6の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
2 サポート要件について
申立人は、異議申立書において、「上記段落0014の記載によれば、「各サイズ別の歯槽頂線は相似形であり、それぞれ2つの放物線に囲まれた一定の範囲に集約されている」のであるから、歯槽頂線の実際の(絶対的)形状は、相似比に応じてサイズごとに異なっており、集約される放物線の形状の実際の(絶対的)形状は相似比に応じて異なっていると理解される。
ところが、本願請求項1に係る発明において、仮想XYZ直交座標系の各座標軸は長さ(単位はmmと思われる。)であり、UAC´及びLAC´の存在範囲は、全てのサイズに対して絶対的な長さを変数とする(夫々2つの)4次関数曲線で画定される範囲(以下、「規定範囲」ともいう。)の範囲内である必要があるとされている。そうすると、上記規定範囲は必然的に最大サイズの歯槽頂線が集約される放物線に基づいて決定されたことになり、最小サイズの歯槽頂線が集約される放物線に基づいて決定される範囲の外となる領域を含むことは自明である。したがって、本願請求項1に係る発明は効果を奏さない応急用義歯セットを含んでいる。」と主張している(異議申立書60頁14行~下から3行)。
しかし、本件発明1は、完成された応急用義歯セットについて実測された、UAC’及びLAC’が規定範囲内になることを特定したにすぎないから、当該完成された応急用義歯セットについて、UAC’及びLAC’について、最大サイズの歯槽頂線が集約される放物線や最小サイズの歯槽頂線が集約される放物線について検討する必要は認められず、申立人の主張は失当である。
また、申立人は、「さらに、本願明細書には、不特定多数の無歯顎患者の顎堤形状から決定されたとする「UAC´」及び「LAC´」が、請求項1で規定される範囲内にあること、及びそのことによる効果が何ら実証されていない。」と主張している(異議申立書60頁下から2行~61頁1行)。
しかし、本件発明は、従来の技工術式では必要な大掛かりな専用器材と、煩雑で熟練を要する技術を必要とせず、有床義歯を紛失または破損した不特定多数の無歯顎患者の顎堤形状に対し、僅かな形態修正のみで口腔内に調和し、即座に食物の経口摂取が可能な上下顎の応急的義歯のセットと、それを適切な位置に誘導することを可能とする応急用義歯装着キット及びその適切な使用方法を提供するものであり(段落【0009】参照。)、不特定多数の無歯顎患者の顎堤形状から決定されたとする「UAC´」及び「LAC´」が、請求項1で規定される範囲内にあれば、上記の効果を奏することは発明の詳細な説明及び図面の記載から窺い知ることができるから、申立人の主張を採用することはできない。
3 実施可能要件について
申立人は、「4つの4次関数曲線を規定する式は不明確なものであるが、仮にこれら式によってYの値を求めることができたとしても、(式においてY切片に相当するY座標となる定数の値から明らかなように)これら式により計算されるYの値は、10のマイナス18乗(mm):1×10-18(mm)=1×10-12(nm)=1×10-11(Å)のオーダーとなる。1×10-18(mm)は、原子(径)よりも遥かに短く、顕微鏡を用いても確認することができないオーダーであるので、曲線を確認することさえ不可能である。」と主張している(異議申立書61頁10~16行)。
しかし、訂正後の請求項1に記載された4次関数のXの値にmm単位の値を代入すれば、少なくとも4次成分については義歯のサイズとして現実的な値となるから、申立人の主張は失当である。
第7 令和4年8月19日提出の意見書において主張された明確性要件違反及びサポート要件違反の主張について
申立人は、令和4年8月19日提出の意見書において訂正事項1,3,6について明確性要件違反を、また、訂正事項1,2,3,5,6についてサポート要件違反を主張している(意見書5頁下から5行~8頁16行参照。)。
これらの主張は、新たな主張であるが、訂正により必要となったものであるから、以下に検討する。
(1)明確性要件違反の主張について
ア 訂正事項3,6に係る構成について
申立人は、馬蹄形の線(UAC)の傾きが特定されていなければ、曲線(UAC’)が一義的に特定されないから不明確である旨主張している(意見書5頁下から5行~6頁下から4行参照。)
しかし、馬蹄形の線(UAC)の傾きがいかなるものでも、当該線をXY平面上に投影した曲線(UAC’)が内外2本の4次関数曲線に囲まれた領域内にあれば本件特許発明の権利範囲内であり、当該領域外であれば本件特許発明の権利範囲外であることは明確といえるから、馬蹄形の線(UAC)の傾きが特定されていないことをもって、本件特許発明が不明確であるとはいえない。
イ 訂正事項1に係る構成について
申立人は、無歯顎患者に元々萌出していた歯牙の歯列弓は存在していないのであるから、歯列弓の形状に沿った馬蹄形の線(UAC)(LAC)が、どのような馬蹄形の線であるのかは一義的に特定できない旨主張している(意見書6頁下から3行~7頁20行参照。)。
しかし、歯列弓は、無歯顎患者に元々萌出していた歯牙の位置であり、これに沿った線(UAC)(LAC)を馬蹄形状に近似して描くことは可能であり、また、当該馬蹄形状の線が2つの4次関数曲線の間にあるか否かは検討可能であるから、当該線が一義的でなかったとしても、そのことからただちに発明が不明確あるということはできない。
(2)サポート要件違反の主張について
申立人は、発明の効果を奏するためには、歯槽頂線のみならず歯槽頂線が存在する無歯顎患者の顎堤を含めた義歯で被覆される患者口腔内粘膜の形状と調和していることが必要であり、仮に、溝部の底となる線をXY平面に投影した線が最適の位置にあったとしても、溝部の幅が狭かったり、溝部の深さが浅かったりした場合には、所期の効果を得ることができないから、サポート要件を満たしていない旨主張している(意見書7頁下から8行~8頁16行参照。)。
しかし、本件発明は、歯槽頂線に相当する義歯の溝部の底に沿った馬蹄形の線(UAC)(LAC)が特定の数値範囲にあるものが、不特定多数の無歯顎患者に提供できる応急用義歯セットとして使用できることを発見して本件特許を発明するに至ったものであり(段落【0012】~【0016】参照。)、溝部の幅や深さといった本件発明に属さない構成の特定により効果が生じない場合があるとしても、サポート要件は満たしている。
第8 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1,2に係る特許は、取消理由通知に記載した理由、異議申立書の申立て理由及び令和4年8月19日提出の意見書記載の理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1,2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-700121