特許異議申立
2023-700845
易開封性包装材及び包装袋
- 審判番号
- 2023-700845
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-575791
- 登録番号
- 7226679
- 請求日
- 2023年08月17日
- 審決日
- 2024年01月10日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】TOPPANホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】鈴木 洋平
- 【異議申立人】伊藤 弘美
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 茂夫
- 審判官 稲葉 大紀
- 審判官 八木 誠
- 分類
- P1651.113-Y (B32B) / P1651.121-Y (B32B) / P1651.536-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7226679号発明「易開封性包装材及び包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7226679号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7226679号(以下「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、令和4年9月12日(優先権主張令和3年9月16日)を国際出願日とする出願であって、令和5年2月13日にその特許権の設定登録がされ、令和5年2月21日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~9に係る特許に対し、令和5年8月17日に特許異議申立人伊藤弘美(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~9に係る発明(以下「本件発明1」等という。まとめて「本件発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
紙基材と、
アンカーコート層と、
金属又は金属酸化物の蒸着層と、
シーラント層と、
をこの順序で備える積層構造を有する包装材であって、
前記紙基材の重量が、包装材全体を基準として、50質量%以上であり、
前記シーラント層の厚さが、2~40μmであり、
前記シーラント層が、第1のポリオレフィン系樹脂を含み、
引張破断強度が、40~70N/15mmである、易開封性包装材。
【請求項2】
前記第1のポリオレフィン系樹脂が、カルボキシル基及びカルボキシル基の塩からなる群より選択される少なくとも1種を有する、請求項1に記載の易開封性包装材。
【請求項3】
前記シーラント層の厚さが、2~20μmである、請求項1に記載の易開封性包装材。
【請求項4】
前記蒸着層と、前記シーラント層との間に接着剤層を更に備える、請求項1に記載の易開封性包装材。
【請求項5】
前記蒸着層と、前記接着剤層との間にオーバーコート層を更に備え、
前記オーバーコート層が、カルボキシル基及びカルボキシル基の塩からなる群より選択される少なくとも1種を有する第2のポリオレフィン系樹脂を含む、請求項4に記載の易開封性包装材。
【請求項6】
前記アンカーコート層が、カルボキシル基及びカルボキシル基の塩からなる群より選択される少なくとも1種を有する第3のポリオレフィン系樹脂を含む、請求項1に記載の易開封性包装材。
【請求項7】
前記アンカーコート層が、ポリビニルアルコール系樹脂を含む、請求項1に記載の易開封性包装材。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の易開封性包装材を含む、包装袋。
【請求項9】
折り曲げ部を有する、請求項8に記載の包装袋。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証~甲第8号証(以下「甲1」等という。)を提出し、以下の理由1~4を申立てている。
1 申立理由1(新規性、進歩性)
本件特許の請求項1~9に係る発明は、甲1、甲2、甲4に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本件特許の請求項1~9に係る発明は、甲1~甲6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2 申立理由2(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が次の点で、当業者が請求項1~9に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
「引張破断強度が40~70N/15mmである」に調整する具体的な手段について記載も示唆もされていない。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許は、請求項1~9の記載が次の点で発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
「引張破断強度が40~70N/15mmである」ことについて、MD方向とCD方向の何れを規定しているのか、あるいは両方を規定しているのか不明である。また、下限値(40N/15mm)近傍の実施例及び該下限値を満たさない比較例の開示がないから、該下限値の臨界的意義が不明であるし、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
4 申立理由4(明確性要件)
本件特許は、請求項1の記載が次の点で明確でなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
請求項1の「易開封性」が、発明の詳細な説明にも定義が記載されておらず、評価に係る【0096】の記載も定量性に欠けるから、請求項1~9に係る発明の範囲が不明確である。
5 証拠方法
甲1:国際公開第2021/010040号
甲2:特開2021-35753号公報
甲3:特開2004-204366号公報
甲4:特開2021-70311号公報
甲5:ジェイフィルム株式会社,「全面手切れ性付与加工フィルム ジェイカット(J-Cut)」,2010年
甲6:特開昭58-18260号公報
甲7:第一理化株式会社,「バーコーター」,[online],第一理化株式会社のウェブサイト,インターネット
<URL:http://www.dai-ichi-rika.co.jp/barkor-1.htm>
甲8:住友精化株式会社,「自己乳化型ポリオレフィン ザイクセン〇R(当審注:〇の中にR)」,2001年8月31日
第4 各甲号証の記載事項、発明
1 甲1について
甲1の請求項1、2、4、5、8、[0047]、[0050]、[0056][表2]を参酌し、特に実施例3に着目して整理すると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「紙基材の少なくとも一面に、厚さ50nmのアルミニウム蒸着層を有し、当該蒸着層上に更に厚さ5μmの熱可塑性樹脂からなる樹脂層を有する、紙積層体であって、
前記紙基材の坪量が65g/m2であり、
前記樹脂層を構成する熱可塑性樹脂が、ヒートシール可能な樹脂であり、
前記熱可塑性樹脂が、エチレン・アクリル酸共重合体アンモニウム塩の水性分散液(有効分29.2質量%、ザイクセンAC、アクリル酸の共重合比率20モル%、住友精化株式会社製)を有効分が20質量%となるように水で希釈した塗料を塗工し、120℃で1分間乾燥したものであり、
前記紙基材と前記蒸着層との間に、クレーコート層(10g/m2)及びアンダーコート(2g/m2)層を有し、前記クレーコート層と前記蒸着層との間に、アンダーコート層を有している、紙積層体。」
2 甲2について
甲2の請求項1~3、8、10、【0057】、【0058】、図2を参酌し、特に実施例2に着目して整理すると、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
「紙基材の少なくとも一面に、樹脂層を有し、前記樹脂層上に厚さ20nmのアルミニウム蒸着層を有し、前記樹脂層が水懸濁性高分子およびアスペクト比80以上の板状無機化合物を含有する紙積層体であって、
前記紙基材の坪量が50g/m2であり、
前記蒸着層上にさらにシーラント層を有し、
前記シーラント層は、エチレン・アクリル酸共重合体(住友精化株式会社製の「ザイクセンAC(商品名)」、固形分:29.2%、アクリル酸の共重合比率:20mоl%、融点:80~95℃)を20%に水で希釈してシーラント層の塗料とし、蒸着層の上にシーラント層の塗料をメイヤーバー(No.16)で塗布し、熱風乾燥機内で120℃、1分間乾燥したものである、包装用材料である紙積層体。」
3 甲3について
甲3の請求項1~3、8、9、【0041】~【0043】、図2を参酌し、特に実施例1に着目して整理すると、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
「片面または両面にコートされた紙もしくは板紙のコート面に、蒸着アンカー層、蒸着薄膜層、オーバーコート層が順に設けられている防湿紙であって、
上記蒸着アンカー層は、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ポリフェノール樹脂、アクリル樹脂のいずれか、もしくはこれら樹脂の2種以上の混合でなり、
上記蒸着薄膜層は、アルミニウムの蒸着でなり、
上記オーバーコート層上面にシーラント層を設け、
前記シーラント層は、厚さ10~200μmの直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、低密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルムあるいは無延伸ポリプロピレンフィルムなどをドライラミネーション用接着剤を介してラミネートされて得られる、包装紙に用いる防湿紙。」
4 甲4について
甲4の請求項1~4、7、【0091】の記載を参酌し、特に実施例1に着目して整理すると、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。
「紙基材層と、
前記紙基材層の一方の面側に設けられ、金属又は無機酸化物の蒸着層を備えるシーラント層と、
前記紙基材層と前記蒸着層との間に設けられ、前記紙基材層及び前記蒸着層を接合するバリア性接着剤層とを備え、
JIS K 7126-2に準拠して23℃、90%RHで測定した酸素透過度が3.0cc/m2/day/atm以下であり、
前記紙基材層の1m2当たりの質量をt1とし、前記蒸着層を備える前記シーラント層の1m2当たりの質量をt2としたときに、
t1/t2=2.44である積層体であって、
前記紙基材層の坪量は、55g/m2であり、
前記シーラント層は、厚さが25μmの未延伸ポリオレフィン樹脂フィルムである、包装体に用いられる積層体。」
5 甲5について
甲5には以下の記載がある。
「
[図:0001406719000001.jpg]
」
上記記載から、甲5には以下の事項(以下「甲5記載事項」という。)が記載されているといえる。
「全面手切れ性付与加工フィルム「ジェイカット(J-Cut)」の引裂き強度がMD方向で6.5N、TD方向で6.3N、引張り強度がMD方向で39N/15mm、TD方向で39N/15mmであること。」
6 甲6について
甲6の特許請求の範囲、1ページ左下欄下から6行~4行、2ページ右下欄13行~末行、3ページ左上欄13~18行を参照すると、甲6には次の事項(以下「甲6記載事項」という。)が記載されている。
「ヒートシール性ポリオレフィン積層フィルムにおいて、積層体の任意の方向の手切れ性が不足しないように、各ポリオレフィン層の厚さの上限値を設定すること。」
7 甲7について
甲7には以下の事項が記載されている。
「
[図:0001406719000002.jpg]
」(1ページ)
「
[図:0001406719000003.jpg]
[図:0001406719000004.jpg]
」(2~3ページ)
上記記載から、甲7には以下の事項が記載されているといえる。
「バーコーターは番号を選択することにより目的の膜厚に塗布することができ、no.16による塗膜の膜厚は約36.64μmであること。」
8 甲8について
甲8には以下の記載がある。
「
[図:0001406719000005.jpg]
」(1ページ)
「
[図:0001406719000006.jpg]
」(3ページ)
上記記載から、甲8には以下の事項が記載されているといえる。
「住友精化株式会社製の自己乳化型ポリオレフィン「ザイクセン〇R」ACグレードのエマルジョン物性(比重)が0.95~1.05であること。」
第5 当審の判断
事案に鑑み、記載要件から判断する。
1 申立理由3(サポート要件)について
(1)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明の記載からみて、本件発明の解決しようとする課題は、「ノッチを有していない場合であっても引き裂く方向に関わらず引き裂き性に優れ、水蒸気バリア性に優れ、且つ環境に配慮した易開封性包装材及び包装袋を提供する」(段落【0007】)ことである。
この課題の解決のために、本件特許の発明の詳細な説明には「引張破断強度が40N/15mm以上であることで、包装材10は、得られる包装袋が十分な強度を有し、・・・引張破断強度が70N/15mm以下であることで、包装材10は、ノッチを有していない場合であっても、引き裂き性に優れる。」(【0057】)と記載され、【0057】の後段及び【0096】~【0097】には、請求項1で特定される引張破断強度が、互いに直交する2方向で満たされてもよいこと、及び、MD方向とCD方向で引き裂きやすさの評価と引張破断強度の測定を行ったことが記載されており、前記測定結果として、【0099】~【01010】の表1~表3には、MD方向とCD方向の何れにおいても引き裂きやすさの評価がA又はBとなっている。
(2)判断
本件発明1は、「引張破断強度が、40~70N/15mm」であることを発明特定事項とするものであり、上記(1)に示した発明の詳細な説明の記載から、引張判断強度が「40N/15mm」以上であれば、本件発明の易開封性包装材から得られる包装袋が十分な強度を得られると理解できる。
また、引張判断強度が「70N/15mm」以下であれば、ノッチを有していない場合であっても引き裂く方向に関わらず引き裂きやすいものと理解でき、実施例と比較例の比較において、「70N/15mm」を超えない実施例1~11では、MD及びCD方向のいずれも引き裂きやすさが良好であるのに対し、「70N/15mm」を超える比較例1~3では、MD及びCD方向のいずれも引き裂けないという結果から確認できる。
よって、本件発明1~9は、発明の詳細な説明に記載したものである。
2 申立理由2(実施可能要件)について
本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明が解決しようとする課題(【0005】~【0007】)、当該課題を解決するための手段(【0008】~【0016】)、本件発明の効果(【0017】)、本件発明を実施するための形態(【0019】~【0080】)、実施例(【0081】~【0101】)が記載され、本件発明1の発明特定事項(金属又は金属酸化物の蒸着層も含む)を有する実施例1~6、8~11は、引き裂きやすさの評価はA又はBとなっている。これらの記載を参照すると、紙の比率やシーラント層の厚さを調整することで、引張破断強度の値を「40~70N/15mm」に調整することができるものと理解される。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
3 申立理由4(明確性要件)について
請求項1の「易開封性」との記載は、「シーラント層の厚さが2~40μmであり、」「引張破断強度が40~70N/15mmである」ことにより奏される程度の易開封性を有するという意味であることは理解できる。
発明の詳細な説明には、「シーラント層4の厚さが40μm以下であることで、・・・引き裂く方向に関わらず引き裂き性に優れ、」(【0052】)、「引張破断強度が70N/15mm以下であることで、・・・引き裂き性に優れる。」(【0057】)と記載されており、上記理解とも整合する。
よって、本件発明1~9は、明確である。
4 申立理由1(新規性、進歩性)について
(1)甲1発明を主引例とする理由
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とをその機能、構造又は技術的意義を考慮し対比する。
甲1発明の「紙基材」は本件発明1の「紙基材」に相当する。
甲1発明の「アンダーコート(2g/m2)層」は本件発明1の「アンカーコート層」に相当する。
甲1発明の「厚さ50nmのアルミニウム蒸着層」は本件発明1の「金属又は金属酸化物の蒸着層」に相当する。
甲1発明の「前記樹脂層を構成する熱可塑性樹脂が、ヒートシール可能な樹脂であり、」「前記熱可塑性樹脂が、エチレン・アクリル酸共重合体アンモニウム塩の水性分散液(有効分29.2質量%、ザイクセンAC、アクリル酸の共重合比率20モル%、住友精化株式会社製)を有効分が20質量%となるように水で希釈した塗料を塗工し、120℃で1分間乾燥したものであ」る厚「さ5μmの熱可塑性樹脂からなる樹脂層」は本件発明1の「厚さが、2~40μmであり、」「第1のポリオレフィン系樹脂を含」む「シーラント層」に相当する。
甲1発明の「紙基材の少なくとも一面に、」「アルミニウム蒸着層を有し、当該蒸着層上に更に」「熱可塑性樹脂からなる樹脂層を有」し、「前記紙基材と前記蒸着層との間に、クレーコート層(10g/m2)及びアンダーコート(2g/m2)層を有し、前記クレーコート層と前記蒸着層との間に、アンダーコート層を有している」層構成は、紙基材、クレーコート層、アンダーコート層、アルミニウム蒸着層及び樹脂層がこの順に積層された積層構造であるから、本件発明1の「紙基材と、アンカーコート層と、金属又は金属酸化物の蒸着層と、シーラント層と、をこの順序で備える積層構造」に相当する。
甲1発明の「紙積層体」と本件発明1の「易開封性包装材」は、「積層体」である限りにおいて一致する。
以上から、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。
[一致点1]
「紙基材と、
アンカーコート層と、
金属又は金属酸化物の蒸着層と、
シーラント層と、
をこの順序で備える積層構造を有する積層体であって、
前記シーラント層の厚さが、2~40μmであり、
前記シーラント層が、第1のポリオレフィン系樹脂を含む、積層体。」
[相違点1-1]
本件発明1は「前記紙基材の重量が、包装材全体を基準として、50質量%以上」であるのに対し、甲1発明はかかる構成を備えるか不明である点。
[相違点1-2]
本件発明1は「引張破断強度が、40~70N/15mmである」のに対し、甲1発明はかかる構成を備えるか不明である点。
[相違点1-3]
積層体について、本件発明1は「易開封性包装材」であるのに対し、甲1発明は「紙積層体」である点。
(イ)判断
まず、相違点1-1~1-3は実質的なものであるから本件発明1は甲1発明ではない。
次に、事案に鑑み、相違点1-2について検討する。
甲1発明は、「加工への耐性に優れ、高いバリア性能を有する紙積層体を提供すること」(【0006】)を課題とするものであり、この「加工への耐性」とは、前記記載の前段にあるように、蒸着膜に生じる亀裂等の損傷に関連するものである。また、甲1には、熱可塑性樹脂(「シーラント層」に相当。)の引張強度に関する記載(【0030】)はあるものの、甲1全体をみても、引き裂き性や紙積層体全体の引張強度に関する記載はない。
そうすると、甲1発明に、手切れ性に関する甲5記載事項及び甲6記載事項を適用する動機付けはない。
仮に甲5記載事項の適用を考慮するとしても、甲5記載事項の、全面手切れ性付与加工フィルムの引張り強度「39N/15mm」は、本件発明1の「40~70N/15mm」の範囲外であり、甲1発明に適用した上で、40~70N/15mmという相違点1-2に係る本件発明1の構成とすることが当業者が容易に想到し得たことであったとはいえない。
そうしてみると、甲1発明において、相違点1-2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明及び甲4~6記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ)申立人の新規性についての主張について
申立人は申立書(68~71ページ)において、本件の実施例1及び3並びに甲1の実施例1の各層の諸元の対比から甲1の実施例1の紙積層体の引張破断強度が40~70N/15mmである蓋然性が極めて高い旨主張している。同様に、本件の実施例1及び実施例3並びに甲1の実施例3及び4の各層の諸元の対比から甲1の実施例3及び4の紙積層体の引張破断強度が40~70N/15mmである蓋然性が極めて高い旨主張している。
しかしながら、紙積層体の引張破断強度は、申立人が比較している諸元のほか、紙積層体を構成する各層の組成や形成・調整方法等も影響することは明らかであるから、甲1の実施例3及び4の紙積層体の引張破断強度が40~70N/15mmであるか不明である。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
イ 本件発明2~4、6~9について
本件発明2~4、6~9は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、本件発明2~4、6~9は、甲1発明ではなく、甲1発明及び甲2、4~6記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)甲2発明を主引例とする理由
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とをその機能、構造又は技術的意義を考慮し対比する。
甲2発明の「紙基材」は、本件発明1の「紙基材」に相当する。
甲2発明の「水懸濁性高分子およびアスペクト比80以上の板状無機化合物を含有する」「樹脂層」は、甲2の「この樹脂層の空隙のない稠密な膜構造が、優れた水蒸気バリア性を発揮している。また、均一な蒸着層の形成にも寄与して優れた酸素バリア性、水蒸気バリア性を発現している。」(【0020】)との記載及び本件明細書の「アンカーコート層2は、紙基材1の表面上に設けられ、紙基材1と後述する蒸着層3との間の密着性向上や、包装材のガスバリア性の向上のために設けられるものである。」(【0026】)の記載を踏まえると、その層配置関係や機能からみて、本件発明1の「アンカーコート層」に相当する。
甲2発明の「厚さ20nmのアルミニウム蒸着層」は、本件発明1の「金属又は金属酸化物の蒸着層」に相当する。
甲2発明の「エチレン・アクリル酸共重合体(住友精化株式会社製の「ザイクセンAC(商品名)」、固形分:29.2%、アクリル酸の共重合比率:20mоl%、融点:80~95℃)を20%に水で希釈してシーラント層の塗料とし、蒸着層の上にシーラント層の塗料をメイヤーバー(No.16)で塗布し、熱風乾燥機内で120℃、1分間乾燥したものである」「シーラント層」は、本件発明1の「第1のポリオレフィン系樹脂を含」む「シーラント層」に相当する。
甲2発明の「紙基材の少なくとも一面に、樹脂層を有し、前記樹脂層上に」「アルミニウム蒸着層を有し、」「前記蒸着層上にさらにシーラント層を有し」た層構造は、本件発明1の「紙基材と、アンカーコート層と、金属又は金属酸化物の蒸着層と、シーラント層と、をこの順序で備える積層構造」に相当する。
甲2発明の「包装用材料である紙積層体」と本件発明1の「易開封性包装材」は、「包装材」である限りにおいて一致する。
以上から、本件発明1と甲2発明とは、以下の点で一致し、相違する。
[一致点2]
紙基材と、
アンカーコート層と、
金属又は金属酸化物の蒸着層と、
シーラント層と、
をこの順序で備える積層構造を有する包装材であって、
前記シーラント層が、第1のポリオレフィン系樹脂を含む、包装材。
[相違点2-1]
本件発明1は「前記紙基材の重量が、包装材全体を基準として、50質量%以上」であるのに対し、甲2発明はかかる構成を備えるか不明である点。
[相違点2-2]
本件発明1は「引張破断強度が、40~70N/15mmである」のに対し、甲2発明はかかる構成を備えるか不明である点。
[相違点2-3]
包装材について、本件発明1は「易開封性包装材」であるのに対し、甲2発明は「包装用材料である紙積層体」である点。
[相違点2-4]
本件発明1は「シーラント層の厚さが、2~40μm」であるのに対し、甲2発明はかかる構成を備えるか不明な点。
(イ)判断
まず、相違点2-1~2-4は実質的なものであるから本件発明1は甲2発明ではない。
次に、事案に鑑み、相違点2-2について検討する。
甲2発明は、「加工への耐久性に優れ、高いバリア性能を有する紙積層体を提供すること」(【0006】)を課題とするものであり、前記加工への耐性とは、前記記載の前段にあるように、バリア層に生じる亀裂等の損傷に関連するものである。また、甲2には、引き裂き性や紙積層体全体の引張強度に関する記載はない。
そうすると、甲2発明に、手切れ性に関する甲5記載事項及び甲6記載事項を適用する動機付けはない。
仮に甲5記載事項の適用を考慮するとしても、上記(1)ア(イ)で述べたように、甲5記載事項の全面手切れ性付与加工フィルムの引張り強度は「39N/15mm」であり、40~70N/15mmという相違点2-2に係る本件発明1の構成とすることが当業者が容易に想到し得たことであったとはいえない。
そうしてみると、甲2発明において、相違点2-2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明ではなく、甲2発明及び甲4~6記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ)申立人の新規性についての主張について
申立人は申立書(75~76ページ)において、本件の実施例1及び3並びに甲2の実施例2の各層の諸元の対比から甲2の実施例2の紙積層体の引張破断強度が40~70N/15mmである蓋然性が極めて高い旨主張している。
しかしながら、紙積層体の引張破断強度は、申立人が比較している諸元のほか、紙積層体を構成する各層の組成や形成・調整方法等も影響することは明らかであるから、甲2の実施例2の紙積層体の引張判断強度が40~70N/15mmであるか不明である。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
イ 本件発明2~4、6~9について
本件発明2~4、6~9は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、本件発明2~4、6~9は、甲2発明ではなく、甲2発明及び甲4~6記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)甲3発明を主引例とする理由
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲3発明とをその機能、構造又は技術的意義を考慮し対比する。
甲3発明の「片面または両面にコートされた紙もしくは板紙」は、本件発明1の「紙基材」に相当する。
甲3発明の「蒸着アンカー層」は、本件発明1の「アンカーコート層」に相当する。
甲3発明の「アルミニウムの蒸着でな」る「蒸着薄膜層」は、本件発明1の「金属又は金属酸化物の蒸着層」に相当する。
甲3発明の「厚さ10~200μmの直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、低密度ポリエチレンフィルム、高密度ポリエチレンフィルムあるいは無延伸ポリプロピレンフィルムなどをドライラミネーション用接着剤を介してラミネートされて得られる、」「シーラント層」と、本件発明1の「厚さが、2~40μmであり、」「第1のポリオレフィン系樹脂を含」む「シーラント層」は、「第1のポリオレフィン系樹脂を含むシーラント層」である限りにおいて一致する。
甲3発明の「片面または両面にコートされた紙もしくは板紙のコート面に、蒸着アンカー層、蒸着薄膜層、オーバーコート層が順に設けられ」「上記オーバーコート層上面にシーラント層を設け」た層構造は、本件発明1の「紙基材と、アンカーコート層と、金属又は金属酸化物の蒸着層と、シーラント層と、をこの順序で備える積層構造」に相当する。
甲3発明の「包装紙に用いる防湿紙」と本件発明1の「易開封性包装材」は、「包装材」である限りにおいて一致する。
以上から、本件発明1と甲3発明とは、以下の点で一致し、相違する。
[一致点3]
「紙基材と、
アンカーコート層と、
金属又は金属酸化物の蒸着層と、
シーラント層と、
をこの順序で備える積層構造を有する包装材であって、
前記シーラント層が、第1のポリオレフィン系樹脂を含む、包装材。」
[相違点3-1]
本件発明1は「前記紙基材の重量が、包装材全体を基準として、50質量%以上」であるのに対し、甲3発明はかかる構成を備えるか不明である点。
[相違点3-2]
本件発明1は「引張破断強度が、40~70N/15mmである」のに対し、甲3発明はかかる構成を備えるか不明である点。
[相違点3-3]
包装材について、本件発明1は「易開封性包装材」であるのに対し、甲3発明は「包装紙に用いる防湿紙」である点。
[相違点3-4]
第1のポリオレフィン系樹脂を含むシーラント層について、本件発明1は「厚さが、2~40μm」であるのに対し、甲3発明は「厚さ10~200μm」である点。
(イ)判断
事案に鑑み、相違点3-2について検討する。
甲3発明は、「防湿効果が万全・・・で、かつ材料等コストの低減に加え、デザイン効果をも損なわない防湿紙およびそれを用いた包装紙・・・を提供すること」(【0006】)を課題とするものである。また、甲3には、引き裂き性や紙積層体全体の引張強度に関する記載はない。
そうすると、甲3発明に、手切れ性に関する甲5記載事項及び甲6記載事項を適用する動機付けはない。
仮に甲5記載事項の適用を考慮するとしても、上記(1)ア(イ)で述べたように、甲5記載事項の全面手切れ性付与加工フィルムの引張り強度は「39N/15mm」であり、40~70N/15mmという相違点3-2に係る本件発明1の構成とすることが当業者が容易に想到し得たことであったとはいえない。
そうしてみると、甲3発明において、相違点3-2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲4~6記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明3~5、8、9について
本件発明3~5、8、9は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、本件発明3~5、8、9は、甲3発明及び甲1、4~6記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)甲4発明を主引例とする理由
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲4発明とをその機能、構造又は技術的意義を考慮し対比する。
甲4発明の「紙基材層」は、本件発明1の「紙基材」に相当する。
甲4発明の「バリア性接着剤層」は、甲4の「バリア性接着剤層14は、・・・紙基材層11と蒸着層13とを接合する。バリア性接着剤層14は、・・・蒸着層13で抑制しきれない分を更に抑制するために設けられている。」(【0061】)との記載及び本件明細書の「アンカーコート層2は、紙基材1の表面上に設けられ、紙基材1と後述する蒸着層3との間の密着性向上や、包装材のガスバリア性の向上のために設けられるものである。」(【0026】)の記載を踏まえると、その層配置関係や機能からみて、本件発明1の「アンカーコート層」に相当する。
甲4発明の「厚さ20nmのアルミニウム蒸着層」は、本件発明1の「金属又は金属酸化物の蒸着層」に相当する。
甲4発明の「厚さが25μmの未延伸ポリオレフィン樹脂フィルムである、」「シーラント層」は、本件発明1の「厚さが、2~40μmであり、」「第1のポリオレフィン系樹脂を含」む「シーラント層」に相当する。
甲4発明の「紙基材層と、前記紙基材層の一方の面側に設けられ」た「蒸着層を備えるシーラント層と、前記紙基材層と前記蒸着層との間に設けられ」た「バリア性接着剤層」とを備えた層構造は、本件発明1の「紙基材と、アンカーコート層と、金属又は金属酸化物の蒸着層と、シーラント層と、をこの順序で備える積層構造」に相当する。
甲4発明の「包装体に用いられる積層体」と本件発明1の「易開封性包装材」は、「包装材」である限りにおいて一致する。
以上から、本件発明1と甲4発明とは、以下の点で一致し、相違する。
[一致点4]
紙基材と、
「アンカーコート層と、
金属又は金属酸化物の蒸着層と、
シーラント層と、
をこの順序で備える積層構造を有する包装材であって、
前記シーラント層の厚さが、2~40μmであり、
前記シーラント層が、第1のポリオレフィン系樹脂を含む、包装材。」
[相違点4-1]
本件発明1は「前記紙基材の重量が、包装材全体を基準として、50質量%以上」であるのに対し、甲4発明はかかる構成を備えるか不明である点。
[相違点4-2]
本件発明1は「引張破断強度が、40~70N/15mmである」のに対し、甲4発明はかかる構成を備えるか不明である点。
[相違点4-3]
包装材について、本件発明1は「易開封性包装材」であるのに対し、甲4発明は「包装体に用いられる積層体」である点。
(イ)判断
まず、相違点4-1~4-3は実質的なものであるから本件発明1は甲4発明ではない。
次に、事案に鑑み相違点4-2について検討する。
甲4発明は、「高いバリア性を有するとともに、手切れ性及びデッドホールド性に優れた積層体及びこれを用いた包装体を提供すること」(【0004】)を課題とするものであり、そして、【0080】~【0081】には、紙基材層の坪量をt1、蒸着層を備えるシーラント層の坪量をt2とした場合に、「1.0≦t1/t2≦5.0」を満たすことにより、甲4発明が、前記課題のうち手切れ性とデッドホールド性に関する課題を解決することが記載されている。そして、甲4には、甲4発明の積層体の手切れ性を改善するために積層体全体の引張強度に着目する記載はない。
そうすると、甲4発明に、手切れ性に関する甲5記載事項及び甲6記載事項を適用する動機付けはない。
仮に甲5記載事項の適用を考慮するとしても、上記(1)ア(イ)で述べたように、甲5記載事項の全面手切れ性付与加工フィルムの引張り強度は「39N/15mm」であり、40~70N/15mmという相違点4-2に係る本件発明1の構成とすることが当業者が容易に想到し得たことであったとはいえない。
そうしてみると、甲4発明において、相違点4-2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明ではなく、甲4発明及び甲5、6記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ)申立人の新規性についての主張について
申立人は申立書(81~83ページ)において、本件の実施例1、3、5及び6並びに甲4の実施例1の各層の諸元の対比から甲4の実施例1の紙積層体の引張破断強度が40~70N/15mmである蓋然性が極めて高い旨主張している。
しかしながら、紙積層体の引張破断強度は、申立人が比較している諸元のほか、紙積層体を構成する各層の組成や形成・調整方法等も影響することは明らかであるから、甲4の実施例1の紙積層体の引張判断強度が40~70N/15mmであるか不明である。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
イ 本件発明3、8、9について
本件発明3、8、9は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記アで検討したのと同じ理由により、本件発明3、8、9は、甲4発明ではなく、甲4発明及び甲5、6記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
第6 むすび
以上のとおり、請求項1~9に係る特許は、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、取り消すことができない。さらに、他に請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700845