特許異議申立
2025-700554
導電性インキおよびその製造方法、導電性印刷物、導電体およびその製造方法、ならびに電子デバイス
- 審判番号
- 2025-700554
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-126985
- 登録番号
- 7590618
- 請求日
- 2025年05月26日
- 審決日
- 2025年12月04日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】東京インキ株式会社
- 【権利者代理人】速水 進治
- 【異議申立人】村野 親
- 審判長/審判官
- 審判長 吉田 美彦
- 審判官 林 毅
- 審判官 福西 章人
- 分類
- P1651.113-YAA(C09D) / P1651.121-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7590618号発明「導電性インキおよびその製造方法、導電性印刷物、導電体およびその製造方法、ならびに電子デバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7590618号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13、16、17〕、〔14-15〕について訂正することを認める。
特許第7590618号の請求項1ないし17に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7590618号の請求項1ないし17に係る特許についての出願は、令和6月8月2日に出願され、令和6年11月18日にその特許権の設定登録がされ、令和6年11月26日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和7年5月26日に特許異議申立人 村野親(以下、単に「申立人」という。)は、特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)を提出し、特許異議の申立てを行った。これ以降の手続の経緯は以下のとおりである。
令和7年 6月20日付け:手続補正指令書(方式)
令和7年 7月 9日 :手続補正書(方式)の提出(申立人)
令和7年 7月29日付け:取消理由通知書
令和7年 9月24日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
なお、令和7年9月24に提出された訂正請求書に係る訂正の請求に関し、申立人からは意見書等の提出はなかった。
第2 特許異議申立ての理由の概要
申立書の全趣旨からして、申立人が主張する特許異議の申立ての概要は、以下のとおりのものと認められる。
1 特許異議申立ての理由
本件特許の請求項1、5、6、9~14、16及び17に係る発明は、甲第1号証に記載の発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違背し、また、本件特許の請求項1~17に係る発明は、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が、甲第1号証~甲第6号証に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違背するので、請求項1~17に係る本件特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
2 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2017-026420号
甲第2号証:粉末X線回折測定によるシルベストE-20(ロットA-B)の結晶子サイズの測定結果
甲第3号証:LA2330及びLA2250の製品情報<クラリティ>
甲第4号証:TECHNICAL DATA SHEET「シルベスト E-20」
甲第5号証:KURARITYTM 新規アクリル系ブロック共重合体<クラリティ(R)>のご紹介
甲第6号証:特開2020-132756号公報
上記甲第5号証に関する記載のうち「(R)」は、「○」の中に「R」の文字が入る記号に代替するものである。
また、甲第1号証~甲第6号証を、以下では単に「甲1」~「甲6」という場合がある。
第3 当審取消理由の概要
令和7年7月29日付けで当審が通知した取消理由(以下、「当審取消理由」という。)は、概略、以下のとおりのものである。
1 取消理由1(明確性要件違反)
本件特許の請求項1~17に係る発明は、以下の点において明確ではないため、請求項1~17に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものである。
(1)請求項1の記載は、「結晶子サイズ」がどの面指数に対応したものであるのか、及び、「粉末X線解析測定」の結果をどのように処理するのかについて具体的に特定していないため、「前記銀粒子は、…粉末X線回折測定から得られる結晶子サイズが25nm以上、37nm以下である」との構成により、「銀粒子」の結晶構造が明確であるとはいえない。
請求項1を引用する請求項2~17の記載においても明確とはいえないから、請求項1~17に係る発明は、明確ではない。
2 取消理由2(サポート要件違反)
本件特許の請求項1~17に係る発明は、以下の点において発明の詳細な説明に記載したものではないため、請求項1~17に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものである。
(1)請求項1~17に係る発明は、本件特許明細書の【0017】に記載した事項が反映されていない結果、本件特許出願時の技術常識に照らしても、請求項1~17に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(2)請求項7には、「前記銀粒子は、前記結晶子サイズが25nm以上、30nm以下の銀粒子(A1)と、前記結晶子サイズが30nm超、50nm以下の銀粒子(A2)と、を含む混合物である」と記載されている。
しかしながら、当該記載の数値範囲のすべての範囲において、本件特許明細書の【0008】に記載された課題を解決し得るものであることは、実質的に明細書及び図面に記載されているとはいえず、また、そのことが、上記【表1】及び【表2】に記載の比較例を参酌すれば自明に導き出せる事項であるとも、本件特許出願時における技術常識とも認められない。
よって、請求項7に係る発明は、当業者が本件特許出願時における技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
(3)請求項8には、「前記銀粒子は、比表面積(BET法)が4m2/g超、6m2/g以下の銀粒子(B1)と、比表面積(BET法)が2m2/g以上、4m2/g以下の銀粒子(B2)と、を含む混合物である」と記載されている。
しかしながら、当該記載の数値範囲のすべての範囲において、本件特許明細書の【0008】に記載された課題を解決し得るものであることは、実質的に明細書及び図面に記載されているとはいえず、また、そのことが、上記【表1】及び【表2】に記載の比較例を参酌すれば自明に導き出せる事項であるとも、本件特許出願時における技術常識とも認められない。
よって、請求項8に係る発明は、当業者が本件特許出願時における技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
(4)請求項9には、「前記銀粒子の含有量は、前記導電性インキ全量(固形分量)に対し、70質量%以上、90質量%以下である」と記載されている。
しかしながら、当該記載の数値範囲のすべての範囲において、本件特許明細書の【0008】に記載された課題を解決し得るものであることは、実質的に明細書及び図面に記載されているとはいえず、また、そのことが、上記【表1】及び【表2】に記載の比較例を参酌すれば自明に導き出せる事項であるとも、本件特許出願時における技術常識とも認められない。
よって、請求項9に係る発明は、当業者が本件特許出願時における技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。
第4 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
令和7年9月24日に提出された訂正請求書に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「前記銀粒子は、連鎖状であって、粉末X線回折測定から得られる結晶子サイズが25nm以上、37nm以下である、導電性インキ。」
とあるのを、
「前記銀粒子は、連鎖状であって、CuKα線を線源とした粉末X線回折測定から、面指数(1,1,1)面ピークの半値幅β(rad)を求め、以下のScherrerの式(1)を用いて算出される値である結晶子サイズが25nm以上、37nm以下である、導電性インキ。
D=Kλ/(βcosθ) (1)
D:結晶子サイズ
K:Scherrer定数=0.94
λ:CuKα線の波長=0.154nm
θ:ブラッグ角(rad)」
に訂正する(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2、3、16及び17も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項14に
「前記銀粒子は、連鎖状であって、粉末X線回折測定から得られる結晶子サイズが25nm以上、37nm以下である、導電性インキの製造方法。」
とあるのを、
「前記銀粒子は、連鎖状であって、CuKα線を線源とした粉末X線回折測定から、面指数(1,1,1)面ピークの半値幅β(rad)を求め、以下のScherrerの式(1)を用いて算出される値である結晶子サイズが25nm以上、37nm以下である、導電性インキの製造方法。
D=Kλ/(βcosθ) (1)
D:結晶子サイズ
K:Scherrer定数=0.94
λ:CuKα線の波長=0.154nm
θ:ブラッグ角(rad)」
に訂正する(請求項14の記載を引用する請求項15も同様に訂正する)。
(3)一群の請求項
訂正事項1に係る訂正前の請求項1~13、16および17について、請求項2~13、16および17は、それぞれ請求項1を直接または間接に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~13、16および17に対応する訂正後の請求項1~13、16および17は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項となる。
また、訂正事項2に係る訂正前の請求項14および15について、請求項15は、請求項14を引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項14に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項14および15に対応する訂正後の請求項14および15は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項となる。
2 訂正の適否
(1)訂正の目的
訂正事項1及び2は、訂正前の請求項1および14における「結晶子サイズ」がどのように得られるのかを具体的に特定するとともに、当該「結晶子サイズ」がどのようなものであるかを明確にする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び同第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
(2) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1及び2は、願書に添付した明細書の【0017】に記載した事項の範囲内でしたものである。
したがって、訂正事項1及び2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(1)及び(2)のとおり、訂正事項1及び2は、明細書等に記載した事項の範囲内で、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。
したがって、訂正事項1及び2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(4)小括
以上のとおり、本件訂正は適法であるから、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13、16、17〕、〔14-15〕について訂正することを認める。
第5 本件発明
本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1~17に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明17」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された次の事項により特定される次のとおりのものである。
1 本件発明1
銀粒子と、樹脂とを含み、可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材への印刷に用いられる導電性インキであって、
前記銀粒子は、連鎖状であって、CuKα線を線源とした粉末X線回折測定から、面指数(1,1,1)面ピークの半値幅β(rad)を求め、以下のScherrerの式(1)を用いて算出される値である結晶子サイズが25nm以上、37nm以下である、導電性インキ。
D=Kλ/(βcosθ) (1)
D:結晶子サイズ
K:Scherrer定数=0.94
λ:CuKα線の波長=0.154nm
θ:ブラッグ角(rad)
2 本件発明2
請求項1に記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子のタップ密度が1.3g/cm3以上、1.6g/cm3以下である、導電性インキ。
3 本件発明3
請求項1または2に記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子の比表面積(BET法)が3.5m2/g以上、5.5m2/g以下である、導電性インキ。
4 本件発明4
請求項1または2に記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子のレーザー回折法による体積基準の積算分率における累積50%に相当する粒径(平均粒径D50)が4.5μm以上、6.5μm以下である、導電性インキ。
5 本件発明5
請求項1または2に記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子の前記結晶子サイズ(nm)に対する前記銀粒子のレーザー回折法による体積基準の積算分率における累積50%に相当する粒径(平均粒径D50;μm)の比が0.12以上、0.30以下である、導電性インキ。
6 本件発明6
請求項1または2に記載の導電性インキにおいて、
前記樹脂は、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及び熱可塑エラストマーからなる群の中から選ばれる1種または2種以上を含む、導電性インキ。
7 本件発明7
請求項1または2に記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子は、前記結晶子サイズが25nm以上、30nm以下の銀粒子(A1)と、前記結晶子サイズが30nm超、50nm以下の銀粒子(A2)と、を含む混合物である、導電性インキ。
8 本件発明8
請求項1または2に記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子は、比表面積(BET法)が4m2/g超、6m2/g以下の銀粒子(B1)と、比表面積(BET法)が2m2/g以上、4m2/g以下の銀粒子(B2)と、を含む混合物である、導電性インキ。
9 本件発明9
請求項1または2に記載の導電性インキにおいて、
前記銀粒子の含有量は、前記導電性インキ全量(固形分量)に対し、70質量%以上、90質量%以下である、導電性インキ。
10 本件発明10
請求項1または2に記載の導電性インキにおいて、
スクリーン印刷に用いられる、導電性インキ。
11 本件発明11
請求項1または2に記載の導電性インキを用いた導電性印刷物。
12 本件発明12
可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材と、当該基材上に印刷された請求項1または2に記載の導電性インキとを備える、導電体。
13 本件発明13
請求項12に記載の導電体を備える、電子デバイス。
14 本件発明14
銀粒子と、樹脂とを含み、可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材への印刷に用いられる導電性インキの製造方法であって、
前記銀粒子と、前記樹脂とを混合する工程を含み、
前記銀粒子は、連鎖状であって、CuKα線を線源とした粉末X線回折測定から、面指数(1,1,1)面ピークの半値幅β(rad)を求め、以下のScherrerの式(1)を用いて算出される値である結晶子サイズが25nm以上、37nm以下である、導電性インキの製造方法。
D=Kλ/(βcosθ) (1)
D:結晶子サイズ
K:Scherrer定数=0.94
λ:CuKα線の波長=0.154nm
θ:ブラッグ角(rad)
15 本件発明15
請求項14に記載の導電性インキの製造方法であって、
前記混合する工程において、
前記結晶子サイズが25nm以上、30nm以下の銀粒子(A1)と、前記結晶子サイズが30nm超、50nm以下の銀粒子(A2)と、前記樹脂とを混合する、導電性インキの製造方法。
16 本件発明16
導電体の製造方法であって、
可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材上に、請求項1または2に記載の導電性インキを印刷する工程と、
前記印刷により得られた印刷膜を乾燥することで導電性膜を得る工程と、
を含む、導電体の製造方法。
17 本件発明17
請求項16に記載の導電体の製造方法であって、
前記導電性インキを印刷する工程においてスクリーン印刷法を用いる、導電体の製造方法。
第6 当審取消理由通知についての判断
1 取消理由1(明確性要件違反)について
訂正事項1及び2に係る訂正により、本件発明1~17における「結晶子サイズ」が、どのような測定によりどのような計算により算出されたものであることが明確となった。
よって、取消理由1(明確性要件違反)は、解消した。
2 取消理由2(サポート要件違反)について
(1)について
訂正事項1及び2に係る訂正により、本件発明1~17における「結晶子サイズ」が、明細書の【0017】に記載された事項の範囲内のものとなった。
よって、取消理由2(サポート要件違反)の(1)は、解消した。
(2)~(4)について
本件特許明細書の記載によると、本件特許が解決しようとする課題は、「導電性インキの伸長時の抵抗値と、収縮時の抵抗値の差分が繰り返し伸縮により大きくなるのを抑制して良好な導電安定性を得るという新たな課題」(【0008】)であり、その課題解決手段は、「特定結晶子サイズの連鎖状の銀粒子を用いること」(【0023】)であって、その「特定結晶子サイズ」は、「銀粒子の結晶子サイズは、CuKα線を線源とした粉末X線回折法による測定から、面指数(1,1,1)面ピークの半値幅β(rad)を求め、以下の、Scherrerの式(1)を用いて算出される値とする。
D=Kλ/(βcosθ) (1)
(但し、K;Scherrer定数、λ;使用X線の波長)
D:結晶子サイズ
K:Scherrer定数=0.94
λ:使用X線の波長、CuKα線 0.154nm
θ:ブラッグ角(rad)」であることを前提として、「25nm以上、37nm以下である」こと(【0022】)と認められる。
そうすると、明細書の他の記載を参酌しても、2種類の「銀粒子」の「混合物」を用いる場合における各「銀粒子」の結晶子サイズ(本件発明7)、「銀粒子」の「比表面積」(本件発明8)、及び、「導電性インキ全量(固形分量)に対し」に対する「銀粒子の含有量」(本件発明9)は、上記課題を解決する上で付随的な構成にすぎず、そのような付随的な構成によって規定される数値範囲のすべてについて実施例のサポートを要するとはいえない。また、本件発明7~9に係る数値範囲のすべてについて実施例のサポートがない以上、本件発明7~9に係る数値範囲には臨界的意義がないことは明らかであるが、臨界的意義がないから直ちに本件発明7~9が明確性要件又はサポート要件違反とはならない。
よって、取消理由2(サポート要件違反)の(2)~(4)によって、本件発明7~9に係る特許を取り消すことはできない。
第7 当審取消理由通知において採用しなかった特許異議申立の理由について
1 各甲号証について
(1)甲第1号証について
甲第1号証(特に、【0046】、【0070】、【0071】、【0076】、【0077】、【0080】~【0086】)には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「 銀粉であるシルベストE-20と、バインダーであるブロック共重合体LA2330、LA2250と、を含み、ウレタンフィルム(70μm厚)の基材へのスクリーン印刷に用いられる導電性組成物であって、
前記銀粉は、微小粒子が集合し集合粒子を形成している連鎖状銀粉である、
導電性組成物。」
(2)甲第2号証について
甲第2号証は、次のとおりのものである。
(1ページ目)
「
[図:0001433101000001.jpg]
」
(2ページ目)
「
[図:0001433101000002.jpg]
」
(3ページ目)
「
[図:0001433101000003.jpg]
」
(3)甲第3号証について
甲第3号証には、次のとおりの記載がある。
(1ページ目)
「
[図:0001433101000004.jpg]
」
(4)甲第4号証について
甲第4号証には、次のとおりの記載がある。
(1ページ目抜粋)
「
[図:0001433101000005.jpg]
」
(5)甲第5号証について
甲第5号証には、次のとおりの記載がある。
(3ページ目抜粋)
「
[図:0001433101000006.jpg]
」
(6)甲第6号証について
甲第6号証には、次のとおりの記載がある。
「【0007】
そこで、本発明の目的は、伸張前の初期電気抵抗値が低く、且つ伸張時にも電気抵抗値の安定性に優れた導電性を有する導電体を得ることができる導電性組成物を提供することにある。」
「【0010】
すなわち、本発明の導電性組成物は、エラストマーと銀粉とを含む導電性組成物であって、
前記銀粉が、平均一次粒子径が1μm以下であり、且つみかけ空隙率が70~95%である第1の銀粉と、平均一次粒子径が1μm超であり、且つみかけ空隙率が70%未満である第2の銀粉とを含み、
前記第1の銀粉と前記第2の銀粉とが、質量基準において10:90~90:10の割合で含まれていることを特徴とするものである。」
2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比するに、甲1発明の「銀粉であるシルベストE-20」、「バインダーであるブロック共重合体LA2330、LA2250」、「ウレタンフィルム(70μm厚)の基材」、「スクリーン印刷」はそれぞれ、本件発明1の「銀粒子」、「樹脂」、「可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材」、「印刷」に相当する。
また、甲1発明において、「銀粉」が「連鎖状銀粉」であることは、本件発明1の「前記銀粒子は、連鎖状であ」ることに相当する。
また、甲1発明の「導電性組成物」は、「基材へのスクリーン印刷に用いられる」ものであるところ、“インキ”といい得るものである。よって、甲1発明の「導電性組成物」は、後述する相違点を除いて本願発明1の「導電性インキ」に相当する。
(2)一致点、相違点
上記(1)より、本件発明1と甲1発明とは、以下の点において一致ないし相違する。
○一致点
「 銀粒子と、樹脂とを含み、可撓性または伸縮性の少なくとも一方を有する基材への印刷に用いられる導電性インキであって、
前記銀粒子は、連鎖状である、導電性インキ。」
○相違点
本件発明の「銀粒子」は、「CuKα線を線源とした粉末X線回折測定から、面指数(1,1,1)面ピークの半値幅β(rad)を求め、以下のScherrerの式(1)を用いて算出される値である結晶子サイズが25nm以上、37nm以下である」「 D=Kλ/(βcosθ) (1)
D:結晶子サイズ
K:Scherrer定数=0.94
λ:CuKα線の波長=0.154nm
θ:ブラッグ角(rad)」との構成を備えるのに対し、甲1発明は、「銀粉」の「結晶子サイズ」について具体的に特定していない点。
(3)相違点についての判断
上記相違点に係る本件発明1の構成が実質的に甲1に開示されたものであるか否か、及び、当業者が上記相違点に係る本件発明1の構成を甲2~甲6等に基づいて容易に想到し得たか否かについて検討する。
まず、甲2について、証拠説明書によれば、甲2の「作成者」は「不明」であるから、甲2は、いかなる責任又は監督の下で甲2が作成されたかが不明である。また、甲2には、各ページの右上に赤い文字で「シルベストE-20(lot.A)n1」、「シルベストE-20(lot.A)n2」、「シルベストE-20(lot.B)n1」と記載されているものの、これらを含めて赤い文字は、申立人が甲号証として提出するために後から加筆したものと解されるため、甲2に記載の測定結果が、真に「シルベストE-20」のものかどうかはそもそも疑わしい。
また、証拠説明書によれば、甲2の「作成年月日」は、「令和7年2月及び4月に測定」とあり、測定した月は、本件特許出願よりも後であることは明らかであるところ、仮に甲2において測定されたものが「シルベストE-20」であるとしても、そのロットと、甲1において使用された「シルベストE-20」とが同じロットのものかどうかは不明である。
また、甲4は、「シルベストE-20」を製造した徳力化学研究所社が作成したものであり、「シルベストE-20」の特性として、「平均粒子径(レーザー回折法)」、「タップ密度(充填嵩密度)」、「比表面積(BET法)」が記載されているものの、「結晶子サイズ」については記載されていない。そうすると、「シルベストE-20」において、「結晶子サイズ」は、販売時に保証されている特性とはいえないため、一定の数値範囲であることが保証されておらず、よって、変動可能な特性である可能性がある。そうすると、仮に甲2における測定対象が「シルベストE-20」であり、その「結晶子サイズ」が、本件発明1において規定されている数値の範囲にあるとしても、そのことから直ちに、甲1発明における「シルベストE-20」の「結晶子サイズ」が、本件発明1において規定されている数値の範囲にあるとはいえない。
甲3、甲5、甲6にも、上記相違点に係る本件発明1の構成は記載されておらず、当該構成は、本件特許出願時における技術常識とも認められない。
そうすると、上記相違点に係る本件発明1の構成は、実質的に甲1に開示されたものとはいえず、本件発明1は、甲1に記載の発明と同一ではないため、甲1により特許法第29条第1項第3号の規定に違背しているとはいえない。
また、本件発明1は、当業者といえども、甲1~甲6に基づいて容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定に違背しているともいえない。
3 本件発明2~13、16及び17について
本件発明2~13、16及び17は、本件発明1の構成をすべて含むものであるから、本件発明1と同様に、甲1に記載の発明と同一ではなく、特許法第29条第1項第3号の規定に違背しているとはいえず、また、当業者といえども、甲1~甲6に基づいて容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定に違背しているともいえない。
4 本件発明14及び15について
本件発明14は、上記相違点に係る本件発明1の構成に対応する構成を含み、また、本件発明15は、本件発明14の構成をすべて含むところ、本件発明14及び15は、本件発明1と同様に、甲1に記載の発明と同一ではなく、特許法第29条第1項第3号の規定に違背しているとはいえず、また、当業者といえども、甲1~甲6に基づいて容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定に違背しているともいえない。
第8 申立人の主張について
1 申立人の主張の概要
申立人は、甲2について、
「 そこで、本件特許明細書に記載された上記測定方法にしたがってシルベストE-20(銀粉)の結晶子サイズを測定した結果を甲第2号証及び下記表Aに示す。測定は、徳力化学研究所社製のシルベストE-20のロット違いの2種を測定n数1~2として行った。
[図:0001433101000007.jpg]
[表A]
表Aに示すとおり、甲1発明に用いられているシルベストE-20(銀粉)の結晶子サイズは、33.8nm~35.4nmであり、粉末X線回折測定から得られる本件特許の結晶子サイズの範囲(25nm以上37nm以下)を充足していることが明らかである。
」(申立書第21ページ)と主張する。
2 申立人の主張についての検討
前記1における申立人の主張について検討するに、上記第7の2(3)において述べたように、甲2は、真に「シルベストE-20」を測定対象としたものであることが疑わしく、仮に、「シルベストE-20」を測定対象としてものであるとしても、甲2から直ちに、甲1発明における「シルベストE-20」の結晶子サイズが、25nm以上37nm以下であることを特定することはできない。
したがって、申立人の上記主張は、採用することができない。
第9 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、請求項1~17に係る本件特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~17に係る本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700554