2023-700789
ナノセルロース含有樹脂組成物
- 審判番号
- 2023-700789
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-025875外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7215924
- 請求日
- 2023年07月31日
- 審決日
- 2024年06月06日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 23項目
第1 手続の経緯
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特許第7215924号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし12に係る特許についての出願は、平成31年2月15日を出願日とする特願2019-25875号であって、令和5年1月23日にその特許権の設定登録(請求項の数12)がされ、同年同月31日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、同年7月31日に特許異議申立人 吉川 雅也(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし12)がされたものである。
特許異議の申立てにおける手続の経緯は、次のとおりである。
同年 2月22日付け:通知書(申立人宛て)
本通知書に対して、申立人からの応答はなかった。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
本件訂正請求における請求の趣旨は、「特許第7215924号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「ナノセルロースおよび重合体を含む樹脂組成物であって、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く、さらに、有機溶剤を5質量%以上含有する樹脂組成物。」と記載されているのを、
「ナノセルロースおよび重合体を含む樹脂組成物であって、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対するガラス転移温度が110℃以上である(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く、さらに、有機溶剤を5質量%以上含有する樹脂組成物。」
に訂正する。
(請求項1を引用する請求項4~12も同様にこれらの訂正をする。)
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「前記重合体が主鎖に環構造を有する重合体を含む請求項1に記載の樹脂組成物。」と記載されているのを、
「ナノセルロースおよび重合体を含む樹脂組成物であって、前記重合体が主鎖に環構造を有する重合体を含み、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く、さらに、有機溶剤を5質量%以上含有する樹脂組成物。」
に訂正する。
(請求項2を引用する請求項4~12も同様にこれらの訂正をする。)
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記重合体が環構造を1質量%以上有する重合体である請求項1または2に記載の樹脂組成物。」と記載されているのを、
「ナノセルロースおよび重合体を含む樹脂組成物であって、前記重合体が環構造を1質量%以上有する重合体であり、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く、さらに、有機溶剤を5質量%以上含有する樹脂組成物。」
に訂正する。
(請求項3を引用する請求項4~12も同様にこれらの訂正をする。)
エ 一群の請求項について
訂正前の請求項1~12について、請求項2~12は、請求項1を直接又は間接的に引用することから、訂正前の請求項1~12に対応する訂正後の請求項1~12は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1による請求項1の訂正は、訂正前の請求項1に記載された「(メタ)アクリル系重合体」を「ガラス転移温度が110℃以上である」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、当該訂正は、願書に添付した明細書の段落【0044】及び【0131】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項4~12についても同様である。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、当該訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項4~12についても同様である。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2の記載を引用する記載であったものを、請求項2を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消し、独立形式請求項へ改めるための訂正であるから、当該訂正は、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、当該訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項4~12についても同様である。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1及び4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-12〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいい、総称して「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】ナノセルロースおよび重合体を含む樹脂組成物であって、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対するガラス転移温度が110℃以上である(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く、さらに、有機溶剤を5質量%以上含有する樹脂組成物。【請求項2】ナノセルロースおよび重合体を含む樹脂組成物であって、前記重合体が主鎖に環構造を有する重合体を含み、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く、さらに、有機溶剤を5質量%以上含有する樹脂組成物。続きを表示(全24行)【請求項3】ナノセルロースおよび重合体を含む樹脂組成物であって、前記重合体が環構造を1質量%以上有する重合体であり、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く、さらに、有機溶剤を5質量%以上含有する樹脂組成物。【請求項4】前記重合体の重量平均分子量が7万以上30万以下である請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。【請求項5】JIS Z 8729に準拠して、光路長10mmの石英セルを用いて測定したYIが1.7以下である請求項1~4のいずれかに記載の樹脂組成物。【請求項6】樹脂組成物の25℃における溶液粘度が0.05Pa・s以上50Pa・s以下である請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。【請求項7】請求項1~6のいずれかに記載の樹脂組成物を含むフィルム。【請求項8】100μm換算のb*値が1.0以下である請求項7に記載のフィルム。【請求項9】100μm換算の内部ヘイズが0.5以下である請求項7または8に記載のフィルム。【請求項10】弾性率が1GPa以上である請求項7~9のいずれかに記載のフィルム。【請求項11】請求項1~6のいずれかに記載の樹脂組成物を溶液流延法によって成形する成形体の製造方法。【請求項12】前記成形体がフィルムである請求項11記載の成形体の製造方法。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
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特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2及び5ないし12に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1ないし12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第3号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(甲第4号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・本件明細書全体及び出願時の技術常識から、本件発明の課題を、次のとおりに認定することが相当である。つまり、本件発明の課題は、弾性率や硬度を向上させるためにナノセルロースを含みつつ、(メタ)アクリル系重合体が備える透明性や耐熱性を損なうことがないことにある。
しかしながら、本件特許実施例では、ナノセルロースを組成物中にせいぜい1~3重量%という少量含有させることで、高透明、低着色、高弾性率な特徴を有する複合材料を得ることができた、との評価結果を示しているに過ぎない(【表1】、【0294】~【0296】)。
例えば、重合体とCNFのブレンド方法が「重合時共存」の場合(例えば実施例1)と、「プレンド」の場合(例えば実施例2)とを対比すると、黄変度(YI)が0.9から1.8に2倍程度変化しているものの、ナノセルロースを組成物中に3重量%含有させた例は、重合体とCNFのブレンド方法が「重合時共存」の実施例4のみである。また例えば、黄変したナノセルロースの含有量が多いほど黄変度(YI)は高くなることが当然であるところ、ナノセルロースを組成物中に3~10重量%含有させた場合に、黄変度(YI)を低く抑えられるかは、本件明細書からは当業者であっても到底理解することはできない。
また、樹脂組成物におけるナノセルロースの含有量が3~10重量%の間で、1~3重量%の場合と比べて、各種物性が大きく変化することも(甲第6号証の図4~図8など)、ナノセルロースを組成物中に3~10重量%含有させた場合に、黄変度(YI)を低く抑えられるかを、本件明細書から理解できないことを裏付けている。
よって、「重合体に対するナノセルロースの含有割合」が1質量%超であって、かつナノセルロースが重合体と重合後に混合された場合や、「重合体に対するナノセルロースの含有割合」が3質量%超10質量%以下である場合の実施の形態に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
6 申立理由6(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・上記5と同様の理由により、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし12を実施できる程度に明確かつ十分に説明されているとはいえない。
7 証拠方法
・甲第1号証:Sain, S. ; Ray, D. ; Mukhopadhyay, A. Improved Mechanical And Moisture Resistance Property of in Situ Polymerized Transparent PMMA/Cellulose Composites. Polym. Compos.、2015, 36, 1748-1758
・甲第3号証:Xiaohui et al., Electrospun cellulose nanocrystals/poly(methyl methacrylate) composite nanofibers: Morphology, thermal and mechanical properties, Carbohydrate Polymers, Volume 206, 15 February 2019, Pages 29-37
・甲第4号証:Littunen et al., Network formation of nanofibrillated cellulose in solution blended poly(methylmethacrylate) composites, Carbohydrate Polymers (2013), 91(1), 183-190
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、「甲第1号証」ないし「甲第6号証」を、「甲1」ないし「甲6」という。
第5 令和5年11月28日付けで特許権者に通知した取消理由の概要
本件特許に対して、当審が令和5年11月28日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次の1ないし3のとおりである。
取消理由1(甲1を主引例とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、5ないし12に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1、4ないし12に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、4ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由2(甲2を主引例とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、5ないし12に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の請求項1、4ないし12に係る発明は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、4ないし12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由3(甲3を主引例とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 当審の判断
1 取消理由1及び申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
申立理由1は、甲1に基づく新規性・進歩性をいうものであるから、取消理由1と併せて検討する。
(1)甲1に記載された発明
甲1には、1749ページのChemical Modification of CNF及びPreparation of PMMA/MACNF Compositesの記載に着目すると、以下の発明が記載されている。
「MMA(メチルメタクリレート)、3%BPO (ベンゾイルパーオキサイド、w/w 対モノマー)及び10%MACNF(マレイン酸無水物で化学修飾されたセルロースマイクロ/ナノファイバー、w/w 対MMAモノマー)の反応混合物を、懸濁重合して得られた、IPMC(PMMA/セルロース複合体)顆粒物をクロロホルム溶媒に分散して得られる、溶液。ここで、MACNFは、事前に凍結乾燥したCNF粉末をアセトン中の無水マレイン酸溶液(5%MA(マレイン酸) 対MACNF)に定量加え、触媒量の硫酸をこの反応混合物に加え、反応混合物を60℃で4時間還流して、得られたものである。」(以下、「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「CNF」及び「クロロホルム溶媒」は、本件発明1の「ナノセルロース」及び「有機溶剤」に相当する。
甲1発明は、「MACNF」における化学修飾されたMAにMMAが重合して重合体(以下、「MMA-MA重合体」という。)を形成しており、当該「MMA-MA重合体」は、本件発明1の「(メタ)アクリル系重合体」及び「重合体」に相当する。
甲1発明の「溶液」は、重合体を含むことから、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。
また、甲1発明において、「MMA-MA重合体」に対する「CNF」の含有割合は、約9.5質量%(=10%×95%÷(10%×5%+100%)×100)であるから、本件発明1の「重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下」との規定を満たす。
さらに、甲1発明は、「MMA-MA重合体」以外の重合体は含有していないことから、重合体に対する「MMA-MA重合体」の含有割合は100質量%であり、本件発明1の「重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く」との規定を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
「ナノセルロースおよび重合体を含む樹脂組成物であって、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く、さらに、有機溶剤を含有する樹脂組成物。」
そして、両者は次の点で相違する。
・相違点1-1
(メタ)アクリル系重合体に関して、本件発明1は「ガラス転移温度が110℃以上である」のに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
・相違点1-2
有機溶剤の含有量に関して、本件発明1は「5質量%以上」であるのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
上記相違点1-1について検討する。
甲1には、甲1発明における「MMA-MA重合体」のガラス転移温度については記載されていない。
また、本件明細書の実施例1,2,7及び比較例1,2には、メタクリル酸メチル(MMA)からなる(メタアクリル系重合体のみを重合体として含有する樹脂組成物のガラス転移温度が105℃と記載されていること(【0294】の【表1】)、及び、当該「MMA-MA重合体」における無水マレイン酸(MA)由来の単位はナノセルロースとポリメタクリル酸メチルを結合させる部分に過ぎないことを考慮すると、当該「MMA-MA重合体」の「ガラス転移温度が110℃以上である」蓋然性が高いともいえないし、「MMA-MA重合体」の「ガラス転移温度が110℃以上である」ことを示す技術常識もない。
そうすると、相違点1-1は、実質的な相違点である。
そして、甲1には、ガラス転移温度についての記載がないし、上記「MACNF」における化学修飾されたMAに対して、MMAに加えて、さらに他の単量体を重合させることについての記載もない。
そうすると、甲1には、甲1発明において、「MMA-MA重合体」のガラス転移温度を「110℃以上」とする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明1の奏する「用いて得られるフィルムの弾性率が向上すると共に、溶液製膜することで光学フィルムに用いるに好ましい高透明、低着色のフィルムを得る」(【0011】)という効果は、甲1発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではないし、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明2について
本件発明2と甲1発明を対比すると、上記(2)と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は次の点で一致する。
「ナノセルロースおよび重合体を含む樹脂組成物であって、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く、さらに、有機溶剤を含有する樹脂組成物。」
そして、両者は、上記(2)の相違点1-2及び下記の点で相違する。
・相違点1-3
重合体に関して、本件発明2は「主鎖に環構造を有する重合体を含む」のに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
事案に鑑み、上記相違点1-3について検討する。
甲1発明における「MMA-MA重合体」は、甲1のFIG.9(1754ページ)に示される「MACNF」における化学修飾されたMAにメタクリル酸メチル(MMA)が重合して「MMA-MA重合体」を形成する際の下記反応式からみて、無水マレイン酸は環構造を開環した状態でMMAと結合しており、当該結合により無水マレイン酸が有する環構造がなくなることは明らかである。
そうすると、甲1発明は、主鎖に環構造を有していないことは明らかであるから、相違点1-3は実質的な相違点である。
[図:0001414174000001.jpg]
ここで、申立人は特許異議申立書において、「ここで、無水マレイン酸単位が主鎖に環構造を有することは、本件特許明細書において、(メタ)アクリル系重合体が有する環構造として、環状無水物構造の無水マレイン酸構造を好適なものとして挙げ、その構造を含むために、無水マレイン酸をモノマーとして、(メタ)アクリル酸エステルなどとを共重合すると説明している(【0112】~【0113】、【0137】)ことから、明らかである。」(33ページ下から4行~34ページ3行)と主張しているが、上述のとおりであるから当該主張は採用できない。
そして、甲1には、「主鎖に環構造を有する重合体」についての記載がないし、上記「MACNF」における化学修飾されたMAに対して、MMAに加えて、さらに他の単量体を重合させることについての記載もない。
そうすると、甲1には、甲1発明において、「MMA-MA重合体」として「主鎖に環構造を有する重合体」とする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点1-3に係る本件発明2の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明2の奏する「用いて得られるフィルムの弾性率が向上すると共に、溶液製膜することで光学フィルムに用いるに好ましい高透明、低着色のフィルムを得る」(【0011】)及び「主鎖に環構造を有する重合体を含むことで、透明性を維持しつつ、耐熱性と弾性率がより高い組成物やフィルムとすることが出来る。」(【0035】)という効果は、甲1発明並びに甲1及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件発明2の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明2は甲1発明ではないし、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)本件発明3について
本件発明3と甲1発明を対比すると、上記(2)と同様の相当関係が成り立つ。
そうすると、両者は次の点で一致する。
「ナノセルロースおよび重合体を含む樹脂組成物であって、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く、さらに、有機溶剤を含有する樹脂組成物。」
そして、両者は、上記(2)の相違点1-2及び下記の点で相違する。
・相違点1-4
重合体に関して、本件発明3は「環構造を1質量%以上有する重合体」であるのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
事案に鑑み、上記相違点1-4について検討する。
上記(3)で述べたとおり、甲1発明は、主鎖に環構造を有していないことは明らかであるから、環構造を1質量%以上有する重合体でないことも明らかである。
さらに、甲1には、「環構造を1質量%以上有する重合体」についての記載がないし、上記「MACNF」における化学修飾されたMAに対して、MMAに加えて、さらに他の単量体を重合させることについての記載もない。
そうすると、甲1には、甲1発明において、「MMA-MA重合体」として「環構造を1質量%以上有する重合体」とする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点1-4に係る本件発明3の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえず、本件発明3の奏する効果についても、上記(3)で述べたとおりである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明4について
本件発明4は、請求項1ないし3を直接引用して特定するものであり、本件発明1ないし3の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(2)ないし(4)で検討したとおり、本件発明1ないし3は甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1ないし3の発明特定事項を全て含む発明である本件発明4は、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)本件発明5及び6について
本件発明5及び6は、請求項1ないし3を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件発明1ないし3の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(2)ないし(4)で検討したとおり、本件発明1及び2は甲1発明ではないし、本件発明1ないし3は甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1ないし3の発明特定事項を全て含む発明である本件発明5及び6は甲1発明ではないし、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(7)本件発明7ないし12について
本件発明7ないし10は「フィルム」に関するものであり、本件発明11は「成形体」に関するものであり、本件発明12は「成形体の製造方法」に関するものであるが、請求項1ないし3を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件発明1ないし3の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(2)ないし(4)で検討したとおり、本件発明1及び2は甲1発明ではないし、本件発明1ないし3は甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1ないし3の発明特定事項を全て含む発明である本件発明7ないし12は甲1発明ではないし、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(8)取消理由1及び申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由1及び申立理由1はその理由がない。
2 取消理由2及び申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)について
申立理由2は、甲2に基づく新規性・進歩性をいうものであるから、取消理由2と併せて検討する。
(1)甲2に記載された発明
甲2には、実施例4のドープ溶液、親水性樹脂組成物及びその製造方法(【0090】及び【0094】)に着目すると、以下の発明が記載されている。
「セルロース繊維A2(数平均繊維径23nm、アスペクト比209、カルボキシル基量1.6mmol/g、カルボニル基量0.23mmol/g)に、水と、セルロース繊維A2のカルボキシル基量の中和量に相当する24%NaOH水溶液とを加えて、2%に希釈し、高圧ホモジナイザーを用いて圧力100MPaで1回処理し、セルロースナノファイバーゲルを得、上記セルロースナノファイバーゲルに、水を加えて、0.2%に希釈し、さらに1N-HCl水溶液を加えて、水溶液のpHを2.0にしたセルロースナノファイバー分散液を作製し、上記分散液にDMFを加えて、ろ過し、水分を完全に除去するために、DMF洗浄を繰り返した後、セルロース繊維A2のカルボキシル基量の中和量に相当するトリエチルアミン(TEA)とDMFを加えて、0.5%セルロースナノファイバーが分散したDMF溶液を調製し、その後、上記DMF溶液50gにポリメタクリル酸メチル(PMMA)4.75gを添加し、30分間振とうすることで作製した、ドープ溶液。」(以下、「甲2発明」という。)
(2)本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「セルロースナノファイバー」及び「DMF」は、本件発明1の「ナノセルロース」及び「有機溶剤」に相当する。
甲2発明の「ポリメタクリル酸メチル(PMMA)」は、本件発明1の「(メタ)アクリル系重合体」及び「重合体」に相当する。
甲2発明の「ドープ溶液」は、重合体を含むことから、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。
また、甲2発明において、「ポリメタクリル酸メチル(PMMA)」に対する「セルロースナノファイバー」の含有割合は、約5.26質量%(=0.5%×50g÷4.75g×100)であるから、本件発明1の「重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下」との規定を満たす。
さらに、甲2発明は、「ポリメタクリル酸メチル(PMMA)」以外の重合体は含有していないことから、重合体に対する「ポリメタクリル酸メチル(PMMA)」の含有割合は100質量%であり、本件発明1の「重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く」との規定を満たす。
そして、甲2発明は、「DMF」の含有割合が約90.9質量%(=50g×99.5%÷(50g+4.75g))であるから、本件発明1の「有機溶剤を5質量%以上含有する」との規定を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
「ナノセルロースおよび重合体を含む樹脂組成物であって、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く、さらに、有機溶剤を5質量%以上含有する樹脂組成物。」
そして、両者は次の点で相違する。
・相違点2-1
(メタ)アクリル系重合体に関して、本件発明1は「ガラス転移温度が110℃以上である」のに対し、甲2発明はそのような特定がない点。
上記相違点2-1について検討する。
甲2には、甲2発明における「ポリメタクリル酸メチル(PMMA)」のガラス転移温度については記載されていない。
また、本件明細書の実施例1,2,7及び比較例1,2には、メタクリル酸メチル(MMA)からなる(メタアクリル系重合体のみを重合体として含有する樹脂組成物のガラス転移温度が105℃と記載されているから(【0294】の【表1】)、当該「ポリメタクリル酸メチル(PMMA)」の「ガラス転移温度が110℃以上である」蓋然性が高いともいえないし、「ポリメタクリル酸メチル(PMMA)」の「ガラス転移温度が110℃以上である」ことを示す技術常識もない。
そうすると、相違点2-1は、実質的な相違点である。
そして、甲2には、ガラス転移温度についての記載がないし、上記「ポリメタクリル酸メチル(PMMA)」について、他の単量体を重合させることについての記載もない。
そうすると、甲2には、甲2発明において、「ポリメタクリル酸メチル(PMMA)」のガラス転移温度を「110℃以上」とする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲2発明において、相違点2-1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明1の奏する「用いて得られるフィルムの弾性率が向上すると共に、溶液製膜することで光学フィルムに用いるに好ましい高透明、低着色のフィルムを得る」(【0011】)という効果は、甲2発明並びに甲2及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲2発明ではないし、甲2発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明4について
本件発明4は、請求項1を直接引用して特定するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(2)で検討したとおり、本件発明1は甲2発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件発明4は、甲2発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明5及び6について
本件発明5及び6は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(2)で検討したとおり、本件発明1は甲2発明ではないし、甲2発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件発明5及び6は甲2発明ではないし、甲2発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(5)本件発明7ないし12について
本件発明7ないし10は「フィルム」に関するものであり、本件発明11は「成形体」に関するものであり、本件発明12は「成形体の製造方法」に関するものであるが、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(2)で検討したとおり、本件発明1は甲2発明ではないし、甲2発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明である本件発明7ないし12は甲2発明ではないし、甲2発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(8)取消理由2及び申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由2及び申立理由2はその理由がない。
3 取消理由3及び申立理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)について
申立理由3は、甲3に基づく新規性・進歩性をいうものであるから、取消理由3と併せて検討する。
(1)甲3に記載された発明
甲3には、30ページのPreparation of as-spun solutions及びTable1の記載におけるSamples NC5の場合に着目すると、以下の発明が記載されている。
「DMF(N,N-Dimethylformamide)中のCNC(cellulose nanocrystals :セルロースナノクリスタル)の精製溶液を希釈し、DMF中のCNCの4.0質量%懸濁液を得、このマスター溶液でPMMA(poly(methyl methacrylate):ポリメタクリル酸メチル)を溶解し、溶液の粘度をDMF溶媒の添加によって調整し、エレクトロスピニング中にビーズのない均一な繊維が得られるようにし、DMF溶媒中のPMMAとCNCの総含有量が20質量%であり、PMMAの乾燥質量に対して5質量%のCNCを含有する、エレクトロスピニング溶液。」(以下、「甲3発明」という。)
(2)本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「CNC(cellulose nanocrystals :セルロースナノクリスタル)」及び「DMF」は、本件発明1の「ナノセルロース」及び「有機溶剤」に相当する。
甲3発明の「PMMA(poly(methyl methacrylate):ポリメタクリル酸メチル)」は、本件発明1の「(メタ)アクリル系重合体」及び「重合体」に相当する。
甲3発明の「エレクトロスピニング溶液」は、重合体を含むことから、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。
また、甲3発明において、「PMMA」に対する「CNC」の含有割合は5質量%であるから、本件発明1の「重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下」との規定を満たす。
さらに、甲3発明は、「PMMA」以外の重合体は含有していないことから、重合体に対する「PMMA」の含有割合は100質量%であり、本件発明1の「重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く」との規定を満たす。
そして、甲3発明は、「DMF」の含有割合が80質量%(=100-20)であるから、本件発明1の「有機溶剤を5質量%以上含有する」との規定を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
「ナノセルロースおよび重合体を含む樹脂組成物であって、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く、さらに、有機溶剤を5質量%以上含有する樹脂組成物。」
そして、両者は次の点で相違する。
・相違点3-1
(メタ)アクリル系重合体に関して、本件発明1は「ガラス転移温度が110℃以上である」のに対し、甲3発明はそのような特定がない点。
上記相違点3-1について検討する。
甲3には、甲3発明における「PMMA」のガラス転移温度については記載されていない。
また、本件明細書の実施例1,2,7及び比較例1,2には、メタクリル酸メチル(MMA)からなる(メタアクリル系重合体のみを重合体として含有する樹脂組成物のガラス転移温度が105℃と記載されているから(【0294】の【表1】)、当該「PMMA」の「ガラス転移温度が110℃以上である」蓋然性が高いともいえないし、「PMMA」の「ガラス転移温度が110℃以上である」ことを示す技術常識もない。
そうすると、相違点3-1は、実質的な相違点である。
そして、甲3には、ガラス転移温度についての記載がないし、上記「PMMA」について、他の単量体を重合させることについての記載もない。
そうすると、甲3には、甲3発明において、「PMMA」のガラス転移温度を「110℃以上」とする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲3発明において、相違点3-1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明1の奏する「用いて得られるフィルムの弾性率が向上すると共に、溶液製膜することで光学フィルムに用いるに好ましい高透明、低着色のフィルムを得る」(【0011】)という効果は、甲3発明並びに甲3及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲3発明ではないし、甲3発明及び甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)取消理由3及び申立理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、取消理由3及び申立理由3はその理由がない。
4 申立理由4(甲4に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲4に記載された発明
甲4には、184ページの2.3.Solution blendingにおける乾燥セルロースの濃度が5.0質量%の場合に着目すると、以下の発明が記載されている。
「市販のPMMA(poly(methyl methacrylate):ポリメタクリル酸メチル)(10g)をTHF(tetrahydrofuran :テトラヒドロフラン)に15質量%溶液として溶解し、未乾燥のNFC(nanofibrillated cellulose:ナノフィブリル化セルロース)(ニートまたはグラフト)を遠心分離し、アセトンに2回、THFに3回再分散し、NFC懸濁液をPMMA溶液に注ぎ、乾燥セルロースの濃度を5.0質量%とし、混合物をマグネチックスターラーで凝集物が見えなくなるまで撹拌し、周囲温度で乾燥させて得られる、溶液ブレンド。」(以下、「甲4発明」という。)
(2)本件発明1について
本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「NFC(nanofibrillated cellulose:ナノフィブリル化セルロース)」及び「THF(tetrahydrofuran :テトラヒドロフラン)」は、本件発明1の「ナノセルロース」及び「有機溶剤」に相当する。
甲4発明の「PMMA(poly(methyl methacrylate):ポリメタクリル酸メチル)」は、本件発明1の「(メタ)アクリル系重合体」及び「重合体」に相当する。
甲4発明の「溶液ブレンド」は、重合体を含むことから、本件発明1の「樹脂組成物」に相当する。
また、甲4発明は、「PMMA」以外の重合体は含有していないことから、重合体に対する「PMMA」の含有割合は100質量%であり、本件発明1の「重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く」との規定を満たす。
そうすると、両者は次の点で一致する。
「ナノセルロースおよび重合体を含む樹脂組成物であって、重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合が90質量%より多く、さらに、有機溶剤を含有する樹脂組成物。」
そして、両者は次の点で相違する。
・相違点4-1
(メタ)アクリル系重合体に関して、本件発明1は「ガラス転移温度が110℃以上である」のに対し、甲4発明はそのような特定がない点。
・相違点4-2
本件発明1は「重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下」であるのに対し、甲4発明は不明である点。
・相違点4-3
有機溶剤の含有量に関して、本件発明1は「5質量%以上」であるのに対し、甲4発明はそのような特定がない点。
上記相違点4-1について検討する。
甲4には、甲4発明における「PMMA(poly(methyl methacrylate):ポリメタクリル酸メチル)」について、「純粋なPMMAの測定値は107℃だったが、複合材料の値は85~100℃だった。(The measured value for pure PMMA was 107℃ while the values for the composites were between 85 and 100℃.)」(186ページ左欄の3.3. Thermal propertiesの3~5行)と記載されているが、ガラス転移温度が「110℃以上」であることについては記載されていないし、当該「PMMA(poly(methyl methacrylate):ポリメタクリル酸メチル)」の「ガラス転移温度が110℃以上である」蓋然性が高いともいえないし、「PMMA(poly(methyl methacrylate):ポリメタクリル酸メチル)」の「ガラス転移温度が110℃以上である」ことを示す技術常識もない。
そうすると、相違点4-1は、実質的な相違点である。
そして、甲4には、上記「PMMA(poly(methyl methacrylate):ポリメタクリル酸メチル)」について、他の単量体を重合させることについての記載もない。
そうすると、甲4には、甲4発明において、「PMMA(poly(methyl methacrylate):ポリメタクリル酸メチル)」のガラス転移温度を「110℃以上」とする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲4発明において、相違点4-1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明1の奏する「用いて得られるフィルムの弾性率が向上すると共に、溶液製膜することで光学フィルムに用いるに好ましい高透明、低着色のフィルムを得る」(【0011】)という効果は、甲4発明並びに甲4及びその他の提出された証拠に記載された事項からみて、本件発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲4発明ではないし、甲4発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)申立理由4についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由4はその理由がない。
5 申立理由5(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
本件明細書の【0007】及び【0011】によると、本件発明の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「重合体とナノセルロースを含む樹脂組成物において、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合を90質量%より多くすることで、用いて得られるフィルムの弾性率が向上すると共に、溶液製膜することで光学フィルムに用いるに好ましい高透明、低着色のフィルムを得ること」である。
そして、本件明細書の【0034】には、「重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合は、90質量%より多いことが好ましい。」こと、及び「このような組成物とすることで、用いて得られるフィルムの弾性率が向上すると共に、溶液製膜することで光学フィルムに用いるに好ましい高透明、低着色のフィルムを得ることが可能となる。」ことが記載され、同【0178】には、「(メタ)アクリル系重合体が多い方が、環構造を有するアクリルの特性(耐熱性、硬度(強度)、耐溶剤性、表面硬度、光学特性、寸法安定性、形状安定性など)が発現しやすい点で好ましい。」こと、が記載されている。
また、本件明細書の【0180】には、「組成物において、重合体に対するナノセルロースの含有割合は0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。」こと、及び「このような組成物とすることで、用いて得られるフィルムの弾性率が向上すると共に、溶液製膜することで光学フィルムに用いるに好ましい高透明、低着色のフィルムを得ることが可能となる。」が記載されている。
さらに、本件明細書の【0260】ないし【0296】には、重合体が(メタ)アクリル系重合体からなり、ナノセルロースを1~3重量%含有する「重合体とナノセルロースを含む樹脂組成物において、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合を90質量%より多」い実施例1ないし7の樹脂組成物が、ナノセルロースを含まない樹脂組成物である比較例1,3,4の樹脂組成物と比べて、弾性率及びマルテンス硬さが高く、ヘイズ及びYI値が同じぐらい優れていること、並びに、ナノセルロースを20重量%配合した樹脂組成物である比較例2と比べて、ヘイズ及びYI値が優れることを確認した記載もある。
そうすると、当業者は、「重合体とナノセルロースを含む樹脂組成物において、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合を90質量%より多くすること」により、発明の課題を解決できると認識でき、本件発明1ないし12は、当該樹脂組成物、フィルム、成形体、及び成形体の製造方法についてさらに限定したものである。
よって、本件発明1ないし12は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件発明1ないし12に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)申立人の主張について
上記第4 5の主張について検討すると、ナノセルロースが重合体と重合後に混合された場合に関する主張については、比較例1に対して、重合体とCNFのブレンド方法が「重合時共存」である実施例1及び「ブレンド」である実施例2のいずれも弾性率及びマルテンス硬さが向上しており、また、比較例3に対して当該ブレンド方法が「重合時共存」である実施例3及び「ブレンド」である実施例5のいずれも弾性率及びマルテンス硬さが向上していることから、重合体とCNFのブレンド方法が「重合時共存」及び「ブレンド」のいずれの場合においても、「重合体とナノセルロースを含む樹脂組成物において、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合を90質量%より多くすること」により、発明の課題を解決できると当業者は認識できる。
よって、重合体とCNFのブレンド方法が、ナノセルロースが重合体と重合後に混合された場合かどうかが、サポート要件の判断に影響を与えるものではなく、申立人は、この点について当該判断に影響を与える具体的な技術的証拠は何ら示していない。
また、「重合体に対するナノセルロースの含有割合」が3質量%超10質量%以下である場合に関する主張については、甲6は、微粉末BCと汎用ポリスチレン(GPPS)を混合した場合において、微粉末BCの添加量により、5重量%重量減温度、混練りトルクの誘導時間、混練時のトルク、曲げ強度、弾性率、比磨耗量及び動摩擦係数の値が変化することが示されているに過ぎず、「重合体とナノセルロースを含む樹脂組成物において、重合体に対するナノセルロースの含有割合が0.1質量%以上10質量%以下であり、重合体に対する(メタ)アクリル系重合体の含有割合を90質量%より多くする」場合において、発明の課題を解決しないことを示す技術的証拠であるとはいえないことから、甲6を根拠とする当該主張は採用できない。
よって、上記第4 5の主張はその理由がない。
(4)申立理由5についてのまとめ
上記(1)ないし(3)のとおりであるから、申立理由5はその理由がない。
6 申立理由6(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件発明1ないし11は物の発明であるところ、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が明細書の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があることを要する。また、本件発明12は物を生産する方法であるところ、物を生産する方法の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産した物の使用等をできる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)判断
本件明細書には、本件発明1ないし11の物について、樹脂組成物を構成する各成分について具体的に記載され(【0014】ないし【0191】、【0210】ないし【0227】)、樹脂組成物を含むフィルム及び樹脂組成物から成形された成形体について具体的に記載されている(【0227】ないし【0235】)。
また、本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明12の物を生産する方法について、成形体の製造方法について具体的に記載されている(【0235】ないし【0249】)。
そして、本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明の実施例である実施例3ないし6についても、その製造方法を含め具体的に記載されている(【0260】ないし【0296】)。
したがって、本件発明1ないし11について、発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の記載及び本件出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があるといえるし、本件発明12について、発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の記載及び本件出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産した物の使用等をできる程度の記載があるといえる。
よって、本件発明1ないし12に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合する。
(3)申立人の主張について
上記第4 6の主張について検討すると、上記(2)で述べたとおり、当業者であれば、本件明細書の記載から、本件発明1ないし12を実施できるものと理解できるから、上記主張は上記実施可能要件の判断に影響しない。
よって、上記第4 6の主張はその理由がない。
(4)申立理由6についてのまとめ
上記(1)ないし(3)のとおりであるから、申立理由3はその理由がない。
第7 結語
上記第6のとおり、本件特許の請求項1ないし12に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700789