特許異議申立
2023-700723
固体電解質の表面を処理するためのシステム及び方法
- 審判番号
- 2023-700723
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-553355
- 登録番号
- 7209636
- 請求日
- 2023年07月12日
- 審決日
- 2024年02月15日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン
- 【権利者代理人】瀧野 文雄
- 【権利者代理人】福田 康弘
- 【権利者代理人】渡辺 篤司
- 【異議申立人】安井 総一
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 須原 宏光
- 審判官 岩田 淳
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7209636号発明「固体電解質の表面を処理するためのシステム及び方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7209636号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求のとおり、訂正後の請求項〔1-17〕について訂正することを認める。
特許第7209636号の請求項1ないし5、8ないし17に係る特許を維持する。
特許第7209636号の請求項6及び7に係る特許についての特許異議申立を却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7209636号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし17に係る特許についての出願は、2018年4月2日(パリ条約による優先権主張2017年3月31日、米国)を国際出願日とする出願であって、令和5年1月12日に特許権の設定登録がされ、令和5年1月20日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立での経緯は、次のとおりである。
令和5年 7月12日 :特許異議申立人安井総一による請求項1ないし17に係る特許に対する特許異議の申立て
令和5年 9月14日付け:取消理由通知書
令和5年12月22日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和6年 2月 1日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年12月22日の訂正請求の趣旨は、特許第7209636号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「(c)前記固体状電解質を電極と接触するように配置する工程と、を含む、方法」とあるのを「(c)前記固体状電解質を電極と接触するように配置する工程と、を含み、前記(b)の工程は、180℃~1000℃の間の温度で加熱する工程をさらに含み、結果として得られる前記電極と前記固体状電解質の間の界面抵抗は、500ohm cm2未満である、方法」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2ないし17も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(4)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2ないし17は、訂正の対象となる請求項1を引用しているものであるから、請求項1ないし17は一群の請求項を構成する。
本件訂正請求は、一群の請求項〔1-17〕に対して請求されたものである。
2 訂正の適否についての判断(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否)
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「(b)」の工程について、「前記(b)の工程は、180℃~1000℃の間の温度で加熱する工程をさらに含み、結果として得られる前記電極と前記固体状電解質の間の界面抵抗は、500ohm cm2未満である」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正前の請求項6には「前記(b)の工程は、180℃~1000℃の間の温度で加熱する工程をさらに含む」、同請求項7には「結果として得られる前記電極と前記固体状電解質の間の界面抵抗は、500ohm cm2未満である」とそれぞれ記載されているので、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2、3
訂正事項2、3は、それぞれ請求項6、請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項および第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-17〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし17に係る発明(以下「本件発明1ないし17」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
電気化学デバイスを形成するための方法であって、
(a)抵抗性表面領域を有する前駆電解質を提供する工程と、
(b)前記抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために前記前駆電解質を加熱する工程であって、これにより固体状電解質を形成する工程と、
(c)前記固体状電解質を電極と接触するように配置する工程と、を含み、
前記(b)の工程は、180℃~1000℃の間の温度で加熱する工程をさらに含み、
結果として得られる前記電極と前記固体状電解質の間の界面抵抗は、500ohm cm2未満である、方法。
【請求項2】
前記前駆電解質は、LiwAxM2Re3-yOzの化学式を有するセラミック材料を備え、
式中、
wは、5~7.5であり、
Aは、B、Al、Ga、In、Zn、Cd、Y、Sc、Mg、Ca、Sr、Ba及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、
xは、0~2であり、
Mは、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Sn、Ge、Si、Sb、Se、Te及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、
Reは、ランタニド元素、アクチニド元素及びこれらのあらゆる組み合わせから選択され、
yは、0.01~0.75であり、
zは、10.875~13.125であり、
前記材料は、ガーネット型又はガーネット状の結晶構造を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記前駆電解質は、ガーネット、ペロブスカイト、NaSICON又はLiSICON相を有するあらゆる組み合わせの酸化物又はリン酸塩材料を有する材料を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抵抗性表面領域はLiOHを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抵抗性表面領域はLi2CO3を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
前記(b)の工程は、350℃~650℃の間の温度で加熱する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
結果として得られる前記電極と前記固体状電解質の間の界面抵抗は、30ohm cm2未満である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記(b)の工程は、不活性ガス雰囲気下で加熱する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記(b)の工程は、無水溶媒の存在下で加熱する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記(c)の工程は、前記(b)の工程後、1秒~90分以内に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記電極はアノードを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記アノードは本質的にリチウム、マグネシウム、ナトリウム又は亜鉛金属の1つから構成される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記(c)の工程は、前記固体状電解質上に界面層を堆積させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記界面層は、ブロッキング金属、半ブロッキング金属、非ブロッキング金属又はこれらからなる混合物を備える、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記(b)の工程は、前記抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために、薬剤処理、電解研磨、湿式研磨、アルゴンプラズマエッチング、酸素プラズマ洗浄、アニーリング又は高真空への暴露をさらに含み、これにより固体状電解質を形成する、請求項1に記載の方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし6、8,10、12ないし15、17に係る特許に対して、当審が令和5年9月14日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1.(新規性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じ公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
2.(進歩性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
●理由1(新規性)について
・請求項1、3、6、8、10、13、14、17
・引用文献等 甲第1号証
・請求項4、5
・引用文献等 甲第1号証、甲第3号証
●理由2(進歩性)について
・請求項2
・引用文献等 甲第1号証、甲第2号証
・請求項12
・引用文献等 甲第1号証
・請求項15
・引用文献等 甲第1号証、甲第4号証
<引用文献一覧>
甲第1号証:特開2013-219017号公報
甲第2号証:米国特許出願公開第2014/0287305号明細書
甲第3号証:米国特許出願公開第2016/0149260号明細書
甲第4号証:国際公開第2016/069749号
2 当審の判断
令和5年12月22日の訂正請求により、請求項1に「前記(b)の工程は、180℃~1000℃の間の温度で加熱する工程をさらに含み、結果として得られる前記電極と前記固体状電解質の間の界面抵抗は、500ohm cm2未満である」の構成を付加することにより、請求項1に係る発明は、訂正前の請求項1及び6を引用する請求項7に係る発明と同一の発明になった。
ここで、訂正前の請求項7は上記取消理由の対象となっていないので、訂正後の請求項1は上記取消理由の対象でなくなった。
また、請求項1を引用する請求項2ないし5、8,10、12ないし15、17についても、訂正前の請求項7に係る発明の構成を全て含むものであるから、同様に上記取消理由の対象でなくなった。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 訂正前の請求項1ないし17に係る特許に対する特許異議申立理由の概要は、以下のとおりである。
(1)申立理由1(第36条第6項第1号)
請求項1ないし17に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないため、請求項1ないし17に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)申立理由2(第29条第1項第3号)
請求項1ないし6、8、10、12、13、17に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1ないし6、8、10、12、13、17に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし6、8、10、12、13、17に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(第29条第2項)
請求項1ないし17に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし17に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
<証拠方法>
甲第1号証:特開2013-219017号公報
甲第2号証:米国特許出願公開第2014/287305号明細書
甲第3号証:米国特許出願公開第2016/149260号明細書
甲第4号証:国際公開第2016/69749号
甲第5号証:米国特許第4041215号明細書
2 各号証の記載
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付したものである。以下同様。)
「【0012】
本発明の一態様によれば、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質セラミックス材料のイオン伝導率を回復させる方法であって、該セラミックス材料が、少なくともLi、La、Zr及びOで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する酸化物合成粉末又は酸化物焼結体であって、
前記酸化物合成粉末の合成直後又は前記酸化物焼結体の焼結直後におけるイオン伝導率よりもイオン伝導率が低下した前記セラミックス材料を、不活性ガス雰囲気、酸素雰囲気及び減圧雰囲気から選択される少なくとも一種の雰囲気下において、650℃以上の温度域で熱処理し、それによりイオン伝導率を回復させることを含む、イオン伝導率回復方法が提供される。」
「【0016】
本発明によれば、このような合成直後又は焼結直後よりもイオン伝導率が低下したセラミックス材料を、不活性ガス雰囲気下、650℃以上の温度域で熱処理することで、イオン伝導率を回復させることができる。その結果、リチウムイオン伝導性を有する固体電解質セラミックス材料の本来有する優れた特性を、所望のタイミングで十分に発揮させることが可能となる。これは、大気放置によってセラミックス材料内に生じた何らかの高抵抗要因が本発明の熱処理によって除去されるためではないかと考えられる。そのような高抵抗要因の主なものとしては、大気中の水分や炭酸ガス等に起因して形成される異相等が考えられる。
【0017】
したがって、本発明の方法が適用されるセラミックス材料は、リチウムイオン二次電池用の固体電解質として用いられるものであるのが好ましい。この場合、本発明によるイオン伝導率回復方法は、セラミックス材料がリチウムイオン二次電池用の固体電解質として出荷される直前若しくはその際、又はリチウムイオン二次電池に固体電解質として組み込まれる直前若しくはその際に行われるのがリチウムイオン二次電池の品質を向上する上で特に好ましい。」
「【0040】
また、72時間大気放置されたペレットについて例1と同様にX線回折測定を行ったところ、図1及び2に示されるスペクトルが得られた(図中の「大気放置後」を参照)。図1及び2において、大気放置後のペレットには、焼結体焼成直後には観察されなかった異相としての炭酸リチウムの存在が確認された。」
「【0042】
また、熱処理温度800℃で15分間保持した試料について例1と同様にX線回折測定を行ったところ、図1及び2に示されるスペクトルが得られた(図中の「熱処理後」を参照)。図1及び2において、熱処理を行うことで、大気放置により形成された炭酸リチウムの異相が無くなることが確認された。」
イ 上記記載によれば、甲第1号証には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「リチウムイオン二次電池用の固体電解質として用いられるリチウムイオン伝導性を有する固体電解質セラミックス材料のイオン伝導率を回復させる方法であって、
該セラミックス材料が、少なくともLi、La、Zr及びOで構成されるガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する酸化物焼結体であって、
高抵抗要因の炭酸リチウムが存在し、前記酸化物焼結体の焼結直後におけるイオン伝導率よりもイオン伝導率が低下した前記セラミックス材料を、不活性ガス雰囲気、酸素雰囲気及び減圧雰囲気から選択される少なくとも一種の雰囲気下において、650℃以上の温度域で熱処理し、
それにより炭酸リチウムを無くして、イオン伝導率を回復させることを含む、
イオン伝導率回復方法。」
(2)甲第2号証
甲第2号証に記載された事項の翻訳文を以下に示す。
「[0106] レート性能を算出するために、電解質インピーダンス(ZSSE)および電極-電解質-界面インピーダンス(Zinterface)を含めて、図3に示すSSLiBの電圧降下を見積もった。」
「[0107] 多孔質SSEは、以下のようにしてより小さな界面インピーダンスを実現する:1/Zinterface=S*Gs、ここでSは多孔質SSEに近い界面面積であり、Gsは特定面積あたりの界面コンダクタンスである。多孔質SSEは電極と電解質の界面面積が大きいので、界面インピーダンスは小さいと予想される。」
「[0114] 図4は、Li6.75BaLa2Ta1.75Zn0.25O12を含む、Liガーネットの伝導率を示す。」
(3)甲第4号証
甲第4号証に記載された事項の翻訳文を以下に示す。
「[0059] リチウム金属アノードとガーネット電解質との間の大きな界面インピーダンスは、原子層蒸着法(ALD)によって超薄膜アルミニウムオキシド(Al2O3)を使用して解決された。Li7La2.75Ca0.25Zr1.75Nb0.25O12(LLCZN)は、増加したリチウムイオン伝導性によってガーネット材料として使用されている。室温でDC界面インピーダンスの300倍減少(606Ωcm2から2Ωcm2)が観察され、リチウム金属/ガーネット界面インピーダンスを効果的に防止する。」
「[0063]・・・ALD処理は、界面ASRをEISによって490Ωcm2から16Ωcm2に減少させることが分かる。このような減少は、場合によって次のような理由に起因する可能性がある。(1)Li金属及びSSE接触によるコンフォーマルコーティングは、効果的なイオン性伝達領域を増加させる;(2)250℃でLi金属と接触して形成された自発的にリチウム化されたAl2O3は、Liイオン伝導性でガーネットとLi金属との間でイオンを効果的に輸送し;(3)ALD層は、ガーネットの表面上にLi2CO3形成を防止する。」
3 当審の判断
(1)申立理由1(第36条第6項第1号)
ア 特許異議申立人の主張の概要
請求項1には前駆電解質を加熱して固体状電解質を形成する方法が記載されている。固体電解質には、粉末、圧粉体、粉末をバインダーで結着したフレキシブルなシート、焼結体などが含まれる。
しかし、発明の詳細な説明に具体例として記載されているのは焼結体のみである(【0107】)。また、発明の詳細な説明に固体状電解質の定義はない。
すなわち焼結体だけでなく、粉末、圧粉体およびシートを含むような請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないため、請求項1及び請求項1を引用する請求項2-17の記載は、特許法36条6項1号に規定されたサポート要件を満たさない。(特許異議申立書9頁下から2行-10頁12行)
イ 当審の判断
発明の詳細な説明に記載された発明が解決しようとする課題は、電気化学デバイスの固体状電解質材料とアノードとの間の界面インピーダンスの面積固有抵抗(ASR)が低くなるよう電気化学デバイスを形成及び処理する方法を提供することである(【0011】)。
そして、発明の詳細な説明には、抵抗種を除去することによって固体状電解質とアノードとの間の界面でASRを減少させる方法に関すると記載されており(【0062】)、具体的には、抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために前駆電解質を加熱する工程であって(【0012】)、加熱する工程は180℃~1000℃の間の温度で加熱すると記載されている(【0016】)。
そうすると、発明の詳細な説明に記載された課題を解決する手段(固体状電解質材料とアノードとの間の界面インピーダンスの面積固有抵抗を低くする手段)は、前駆電解質を180℃~1000℃の間の温度で加熱することであるといえる。
一方、本件発明1は「(b)前記抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去するために前記前駆電解質を加熱する工程であって、これにより固体状電解質を形成する工程と」「前記(b)の工程は、180℃~1000℃の間の温度で加熱する工程」と特定されているので、本件発明1には発明の詳細な説明に記載された課題を解決する手段が反映されている。
したがって、本件発明1は、前駆電解質を180℃~1000℃の間の温度で加熱することにより、抵抗性表面領域の少なくとも一部を除去し面積固有抵抗を低くできるのであれば、固体状電解質の種類によらないことは明らかであり、特許異議申立人の上記主張を採用することができない。
(2)申立理由2(第29条第1項第3号)、申立理由3(第29条第2項)
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と引用発明を対比すると、次のことがいえる。
a 引用発明は「リチウムイオン二次電池用の固体電解質として用いられる」「固体電解質セラミックス材料のイオン伝導率を回復させる方法」であるから、電気化学デバイスの一種であるリチウムイオン二次電池を形成するための方法といえる。
したがって、引用発明の「イオン伝導率回復方法」は、本件発明1の「電気化学デバイスを形成するための方法」に相当する。
b 引用発明の「高抵抗要因の炭酸リチウムが存在」する「前記セラミックス材料」(固体電解質セラミック材料)を提供することと本件発明1とは、「抵抗性」「領域を有する前駆電解質を提供する工程」である点で共通する。
但し、抵抗性領域が、本件発明1は「抵抗性表面領域」であるのに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
c 引用発明の「高抵抗要因の炭酸リチウムが存在」する「前記セラミックス材料を、」「熱処理し、それにより炭酸リチウムを無く」することと本件発明1とは、「前記抵抗性」「領域の少なくとも一部を除去するために前記前駆電解質を加熱する工程」である点で共通する。
また、引用発明は「熱処理」することにより、リチウムイオン二次電池用の「固体電解質」を形成しているといえる。そして、この工程は、本件発明1の「これにより固体状電解質を形成する工程」に相当する。
但し、抵抗性領域が、本件発明1は「抵抗性表面領域」であるのに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違することは上述のとおりである。
また、加熱する工程が、本件発明1は「180℃~1000℃の間の温度で加熱する工程をさらに含」むのに対して、引用発明は「650℃以上の温度域で熱処理」する点で相違する。
d 本件発明1は「前記固体状電解質を電極と接触するように配置する工程」を含むが、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
e 本件発明1は「結果として得られる前記電極と前記固体状電解質の間の界面抵抗は、500ohm cm2未満である」のに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
上記aないしeによれば、本件発明1と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「電気化学デバイスを形成するための方法であって、
抵抗性領域を有する前駆電解質を提供する工程と、
前記抵抗性領域の少なくとも一部を除去するために前記前駆電解質を加熱する工程であって、これにより固体状電解質を形成する工程と、を含む、方法。」
(相違点1)
抵抗性領域が、本件発明1は「抵抗性表面領域」であるのに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点2)
本件発明1は「前記固体状電解質を電極と接触するように配置する工程」を含むが、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点3)
加熱する工程が、本件発明1は「180℃~1000℃の間の温度で加熱する工程をさらに含」むのに対して、引用発明は「650℃以上の温度域で熱処理」する点。
(相違点4)
本件発明1は「結果として得られる前記電極と前記固体状電解質の間の界面抵抗は、500ohm cm2未満である」のに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(イ)判断
a 第29条第1項第3号について
本件発明1と引用発明とは相違点1ないし4を有しているので、本件発明1は甲第1号証に記載された発明でない。
b 第29条第2項について
事案に鑑み、まず上記相違点4について検討する。
甲第1号証には、大気放置後のペレット(酸化物焼結体)の熱処理による伝導率回復について、焼成直後の伝導率を100とした場合の相対値(%)が示されているが(【0040】、【0041】)、固体状電解質(ペレット)を電極と接触するように配置すること、及び、その際の電極と固体状電解質の間の界面抵抗について記載されていない。また、界面抵抗に着目することも示されていない。
ここで、訂正前の請求項7に対して特許異議申立人が引用した甲第2号証には、電極と電解質の界面インピーダンスは小さいと予想されることが記載されているが([0107])、引用発明は、上記甲第1号証記載のように、そもそも、電極と固体状電解質の間の界面抵抗に着目していないのであるから、引用発明に甲第2号証に記載の界面インピーダンスの値(小さいと予想される値)を適用する動機がない。
さらに、甲第2号証に具体的に記載された実施例は、Li6.75BaLa2Ta1.75Zn0.25O12([0114])であり引用発明と組成が違い界面の特性が相違するので、そのまま甲第2号証記載の界面インピーダンスの値を適用できない。例え適用したとしても、甲第2号証には、界面インピーダンスの具体的な値は記載されていないので、上記相違点4に係る構成を得ることはできない。
同様に特許異議申立人が引用した甲第4号証には、リチウム金属アノードとガーネット電解質との間の大きな界面インピーダンスを、原子層蒸着法(ALD)によって超薄膜アルミニウムオキシド(Al2O3)を使用して解決し([0059])、界面インピーダンス(ASR)を490Ωcm2から16Ωcm2に減少させることが記載されているが([0063])、引用発明は、そもそも、電極と固体状電解質の間の界面抵抗に着目していないのであるから、引用発明に甲第4号証に記載の界面インピーダンスの値を適用する動機がない。
また、甲第4号証の界面抵抗の減少は、原子層蒸着法(ALD)によって超薄膜アルミニウムオキシド(Al2O3)をガーネット電解質に堆積させたことによるものであり、界面抵抗16Ωcm2の値を、引用発明に適用することはできない。
そして、甲第3号証及び甲第5号証には、電極と固体状電解質の間の界面抵抗について記載されていない。
したがって、上記相違点4に係る構成は、引用発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2ないし5、8、10、12、13、17について
本件発明2ないし5、8、10、12、13、17は、本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明でない。また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明9、11、14ないし16について
本件発明9、11、14ないし16は、本件発明1の構成を全て含み、更に他の構成を付加したものであるから本件発明1と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明6,7について
訂正請求により請求項6及び7は削除されたので、特許異議申立ての対象でなくなった。
(4)まとめ
したがって、特許異議申立人の申立理由1ないし3にかかる主張は、採用することができない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した異議申立理由によっては、請求項1ないし5、8ないし17に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1ないし5、8ないし17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項6及び7に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項6及び7に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-700723