特許異議申立
2020-700562
電解質シート及び二次電池
- 審判番号
- 2020-700562
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-554004
- 登録番号
- 6642781
- 請求日
- 2020年08月06日
- 審決日
- 2022年06月17日
- 公報発行日
- 2022年09月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日立化成株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】清水 義憲
- 【権利者代理人】平野 裕之
- 【権利者代理人】吉住 和之
- 【権利者代理人】中塚 岳
- 【権利者代理人】福島 直樹
- 【異議申立人】安井 総一
- 審判長/審判官
- 審判長 池渕 立
- 審判官 土屋 知久
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M) / P1651.537-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6642781号発明「電解質シート及び二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6642781号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。
特許第6642781号の請求項1、3ないし8に係る特許を維持する。
特許第6642781号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6642781号の請求項1~8に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2019年(平成31年)3月20日(優先権主張 平成30年3月27日)を国際出願日とする出願であって、令和2年1月8日にその特許権の設定登録がなされ、同年2月12日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、同年8月6日付けで特許異議申立人安井総一(以下、「申立人」という。)より請求項1~8(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがなされた特許異議申立事件であり、その後の手続きについては以下のとおりである。
令和2年11月16日付け 取消理由の通知
令和3年1月18日付け 特許権者より意見書の提出及び訂正請求
同年2月15日付け 訂正拒絶理由の通知
同年3月26日付け 特許権者より意見書の提出
同年5月17日付け 申立人より意見書の提出
同年8月23日付け 取消理由(決定の予告)の通知
同年10月26日付け 特許権者より意見書の提出及び訂正請求
同年12月9日付け 申立人より意見書の提出
令和4年1月21日付け 取消理由(決定の予告)の通知
同年3月24日付け 特許権者より意見書の提出及び訂正請求
なお、令和4年3月24日になされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)について、申立人に期間を指定して意見を求めたが、申立人から意見書の提出はなかった。
第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6642781号の特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~8について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、令和3年1月18日及び同年10月26日になされた訂正請求は、本件訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。
また、訂正箇所には、当審で下線を付した。
(1)訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「電解質シート。」を「電解質シート(但し、積層体を除く)。」と訂正する。
請求項1を引用する請求項3~8も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
請求項1について、本件訂正前の「である」を「であり、
前記無機酸化物粒子の総表面積Siが、下記式(5)
Si=6×104×fi/Di50 (5)
[式中、fiは、前記電解質シートの表面を走査型電子顕微鏡により観察し、当該表面の単位面積に占める前記無機酸化物粒子の面積(占有面積;面積%)として、画像処理により測定される、前記無機酸化物粒子の充填率(体積%)を示し、Di50は、前記無機酸化物粒子全体の体積に対する比率が50%のときの粒径である、前記無機酸化物粒子の平均粒径(μm)を示す。]
により定義される」と訂正する。
請求項1を引用する請求項3~8も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
請求項1について、本件訂正前の「1種又は2種以上のポリマと、」を「フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマと、」と訂正する。
請求項1を引用する請求項3~8も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
請求項1について、本件訂正前の「電解質シートであって、」を「電解質シートであって、
前記電解質塩を溶解可能な溶媒を更に含有し、
前記電解質塩と前記溶媒との合計の含有量が、前記電解質シート全量を基準として、43質量%以上55質量%以下であり、
前記無機酸化物粒子が、SiO2、Al2O3、AlOOH、MgO、CaO、ZrO2、TiO2、Li7La3Zr2O12、及びBaTiO3からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子であり、」と訂正する。
請求項1を引用する請求項3~8も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
請求項2を削除する。
(6)訂正事項6
請求項3について、本件訂正前の「ポリマの含有量」を「コポリマの含有量」と訂正する。
請求項3を引用する請求項4~8も同様に訂正する。
(7)訂正事項7
請求項4について、本件訂正前の「SiO2、Al2O3、AlOOH、MgO、CaO、ZrO2、TiO2、Li7La3Zr2O12、及びBaTiO3からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子である」を「SiO2及びAl2O3からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子である」と訂正する。
請求項4を引用する請求項5~8も同様に訂正する。
(8)訂正事項8
請求項3について、本件訂正前の「請求項1又は2」を「請求項1」と訂正する。
(9)訂正事項9
請求項4について、本件訂正前の「請求項1~3のいずれか一項」を「請求項1又は3」と訂正する。
(10)訂正事項10
請求項5について、本件訂正前の「請求項1~4のいずれか一項」を「請求項1、3及び4のいずれか1項」と訂正する。
2 当審の判断
2-1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「電解質シート」について、「電解質シート(但し、積層体を除く)」として、本件訂正前の請求項1に係る発明から、「積層体」を除いたものである。
イ そして、上記アの「積層体を除く」とは、電解質シートそれ自体が積層体でないことを意味すると解されるところ、訂正前の請求項1に記載した事項の記載表現を残したままで、請求項1に係る発明に包含される一部の事項のみをその請求項に記載した事項から除外することを明示するものであるから、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ さらに、上記アの「但し、積層体を除く」とは、先行技術との重複を避けるためのものであるから、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正である。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)【0063】、【0065】、及び、【0067】を根拠として、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「無機酸化物粒子の総表面積」について、当該「総表面積」が「Si」で表されるとともに、「下記式(5)
Si=6×104×fi/Di50 (5)
[式中、fiは、前記電解質シートの表面を走査型電子顕微鏡により観察し、当該表面の単位面積に占める前記無機酸化物粒子の面積(占有面積;面積%)として、画像処理により測定される、前記無機酸化物粒子の充填率(体積%)を示し、Di50は、前記無機酸化物粒子全体の体積に対する比率が50%のときの粒径である、前記無機酸化物粒子の平均粒径(μm)を示す。]
により定義される」ことを特定するものであって、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「1種又は2種以上のポリマ」を、本件明細書【0054】の記載を根拠として、「フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマ」と訂正するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(4)訂正事項4
訂正事項4は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「電解質シート」について、本件明細書【0078】、【0084】、【0129】の表1を根拠として、「電解質塩を溶解可能な溶媒を更に含有し、前記電解質塩と前記溶媒との合計の含有量が、前記電解質シート全量を基準として、43質量%以上55質量%以下であ」ることを特定するとともに、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「無機酸化物粒子」について、本件訂正前の請求項4に記載された「SiO2、Al2O3、AlOOH、MgO、CaO、ZrO2、TiO2、Li7La3Zr2O12、及びBaTiO3からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子」であることを特定するものである。
そうすると、訂正事項4は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(5)訂正事項5
訂正事項5は、請求項2を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(6)訂正事項6
訂正事項6は、訂正事項3において、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「1種又は2種以上のポリマ」を、「フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマ」と訂正することに伴い、本件訂正前の請求項3の発明特定事項である「ポリマの含有量」を、「コポリマの含有量」と訂正するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(7)訂正事項7
訂正事項7は、本件訂正前の請求項4の発明特定事項である「SiO2、Al2O3、AlOOH、MgO、CaO、ZrO2、TiO2、Li7La3Zr2O12、及びBaTiO3からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子」を、「SiO2及びAl2O3からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子」と訂正するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
(8)訂正事項8~10
訂正事項8~10は、訂正事項5において請求項2を削除することに伴い、本件訂正前の請求項3~5について、請求項2を引用しないようにするものであるから、「特許請求の範囲の減縮」、及び、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。
2-2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2~8は、請求項1を引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~8は一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1~8〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。
2-3 独立特許要件について
訂正事項1~10は、上記2-1の(1)~(8)で検討したとおり、「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであるが、本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
2-4 訂正請求についてのむすび
以上のとおり、令和4年3月24日に特許権者が行った本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3項に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~8〕についての訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
令和4年3月24日に特許権者が行った請求項1~8についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明8」という。また、これらの発明をまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~8に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマと、無機酸化物粒子と、電解質塩とを含有する電解質シートであって、
前記電解質塩を溶解可能な溶媒を更に含有し、
前記電解質塩と前記溶媒との合計の含有量が、前記電解質シート全量を基準として、43質量%以上55質量%以下であり、
前記無機酸化物粒子が、SiO2、Al2O3、AlOOH、MgO、CaO、ZrO2、TiO2、Li7La3Zr2O12、及びBaTiO3からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子であり、
前記電解質シート1cm3に占める前記無機酸化物粒子の総表面積が1000~12000cm-1であり、
前記無機酸化物粒子の総表面積Siが、下記式(5)
Si=6×104×fi/Di50 (5)
[式中、fiは、前記電解質シートの表面を走査型電子顕微鏡により観察し、当該表面の単位面積に占める前記無機酸化物粒子の面積(占有面積;面積%)として、画像処理により測定される、前記無機酸化物粒子の充填率(体積%)を示し、Di50は、前記無機酸化物粒子全体の体積に対する比率が50%のときの粒径である、前記無機酸化物粒子の平均粒径(μm)を示す。]
により定義される、電解質シート(但し、積層体を除く)。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記コポリマの含有量が、電解質シート全量を基準として10~40質量%である、請求項1に記載の電解質シート。
【請求項4】
前記無機酸化物粒子が、SiO2及びAl2O3からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子である、請求項1又は3に記載の電解質シート。
【請求項5】
一対の電極と、
前記一対の電極間に設けられた、請求項1、3及び4のいずれか一項に記載の電解質シートと、
を備える二次電池。
【請求項6】
前記一対の電極のそれぞれが、集電体と、前記集電体上に設けられた、電極活物質を含有する電極合剤層とを備え、
前記電解質シート1cm3に占める前記無機酸化物粒子の総表面積と、前記各電極合剤層1cm3に占める前記各電極活物質の総表面積との和が、8000cm-1以上である、請求項5に記載の二次電池。
【請求項7】
前記電解質シート1cm3に占める前記無機酸化物粒子の総表面積が5000cm-1以上であり、かつ前記各電極合剤層1cm3に占める前記各電極活物質の総表面積が3000cm-1以上である、請求項6に記載の二次電池。
【請求項8】
前記電極合剤層がバインダを更に含有する、請求項6又は7に記載の二次電池。」
2 令和4年1月21日付けで通知された取消理由(決定の予告)の概要
令和4年1月21日付けで通知された取消理由(決定の予告)の概要は、以下のとおりである。
請求項1には、電解質塩と溶媒との合計の含有量が、電解質シート全量を基準として、43質量%以上55質量%以下であることが特定されていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
3 令和3年8月23日付けで通知された取消理由(決定の予告)の概要
令和3年8月23日付けで通知された取消理由(決定の予告)の概要は、以下のとおりである。
請求項1には、無機酸化物粒子とポリマーの種類、及び、電解質塩と溶媒との合計の含有量が特定されていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
4 令和2年11月16日付けで通知された取消理由の概要
令和2年11月16日付けで通知された取消理由の概要は、次の(1)~(4)のとおりである。
(1)請求項1の「電解質シート1cm3に占める前記無機酸化物粒子の総表面積が1000~12000cm-1である」との記載は明確でないため、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)請求項1には、無機酸化物粒子とポリマーの種類、及び、電解質塩と溶媒との合計の含有量が特定されていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)本件特許の請求項1、3~6、8に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された特開2011-108499号公報(申立人が提出した甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
(4)本件特許の請求項1~6、8に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された特開2011-108499号公報(申立人が提出した甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
5 上記2~4以外の特許異議申立理由
申立人は、上記2~4以外に次の(1)及び(2)の特許異議申立理由を主張し、証拠方法として後述する下記の甲第1~5号証を提示した。
(1)請求項7には、活物質がLiNi0.6Co0.2Mn0.2O2及び天然黒鉛であることが特定されていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)本件特許の請求項2に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内または外国において頒布された特開2011-108499号公報(申立人が提出した甲第1号証)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。
(証拠方法)
甲第1号証:特開2011-108499号公報
甲第2号証:“EMI-FSI 安全データシート”、2020年6月9日改訂、キシダ化学株式会社
http://www.kishida.co.jp/product/catalog/msds/id/20637/code/ILD-30291j.pdf
甲第3号証:“ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム 製品カタログ”、Chemicalbook、
https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB6311504.htm
甲第4号証:“セラミックス 二酸化ケイ素”、新興出版社啓林館、
http://www.keirinkan.com/kori/kori_chemistry/kori_chemistry_2/contents/ch-2/3-bu/3-3-4.htm(当審注:リンク切れ)
甲第5号証:“クレハKFポリマー フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)”、株式会社クレハ 2019年3月1日改訂
以下、甲第1号証~甲第5号証をそれぞれ「甲1」~「甲5」という。
6 当審の判断
(1)特許法第36条第6項第1号について
(1)-1 電解質塩と溶媒との合計量について(上記2、上記3の一部、上記4の(2)の一部)
ア 本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の記載によれば、「導電率及び引張強度に優れる電解質シート及びそれを用いた二次電池を提供すること」(【0006】)であると認められる。
イ そして、本件明細書には、本件発明1が、上記アの課題を解決し得る機序について記載されていないものの、本件明細書の実施例の記載(【0123】~【0136】)において、電解質溶液の配合量を43~55質量%とした実施例1~8の電解質シートが、0.11~0.50mS/cmと高い導電率であり、0.29~0.37N/cmと高い引張強度であること、すなわち、上記アの課題を解決し得ることが示されている。
ウ さらに、本件訂正により、本件発明1は、「電解質塩と前記溶媒との合計の含有量が、前記電解質シート全量を基準として、43質量%以上55質量%以下であ」るとの発明特定事項が付加されることにより、上記アの課題を解決し得るものとなった。
エ よって、請求項1及びそれを引用する請求項3~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(1)-2 無機酸化物粒子とポリマーの種類について(上記3の一部、上記4の(2)の一部)
ア 本件発明の解決しようとする課題は、上記(1)-1のアのとおりである。
イ そして、本件明細書には、本件発明1が、上記アの課題を解決し得る機序について記載されていないものの、本件明細書の実施例の記載(【0123】~【0136】)において、ポリマとしてフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとのコポリマを用い、かつ、無機酸化物粒子としてSiO2粒子を用いた実施例1~8の電解質シートが、0.11~0.50mS/cmと高い導電率であり、0.29~0.37N/cmと高い引張強度であること、すなわち、上記アの課題を解決し得ることが示されている。
ウ ここで、本件訂正により、本件発明1には、「フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマ」「を含有」するとの発明特定事項が付加された。
すなわち、上記イにおいて上記アの課題を解決する「ポリマ」として記載される「フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとのコポリマ」であることが特定された。
エ また、本件訂正により、本件発明1には、「無機酸化物粒子が、SiO2、Al2O3、AlOOH、MgO、CaO、ZrO2、TiO2、Li7La3Zr2O12、及びBaTiO3からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子であ」るとの発明特定事項が付加された。
オ そして、特許権者は下記カに摘記する乙第1号証を提出し、令和3年10月26日付けの意見書において、下記キのとおり、当業者であれば、実施例1~8で使用されたSiO2以外の請求項1に特定された無機酸化物粒子でも、本件発明の課題を解決できると認識するはずであると主張している。
カ 特許権者が提出した乙第1号証(伊藤征司郎,「粉体の表面化学」, 近畿アルミニウム表面処理研究会会誌,近畿アルミニウム表面処理研究会出版,1982,97号,p.8-14)には、次の記載がある。
「
[図:0001388324000001.jpg]
[図:0001388324000002.jpg]
」(第8~9頁)
キ 令和3年10月26日付けの意見書において、特許権者は次の主張をしている。
「本件訂正発明において、「無機酸化物粒子」は、表面官能基としてOH基を有する金属酸化物に該当する「SiO2、Al2O3、AlOOH、MgO、CaO、ZrO2、TiO2、Li7La3Zr2O12、及びBaTiO3からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子」に具体的に特定された。乙第1号証に記載されるように、表面官能基は表面物性に大きな影響を及ぼすとされているので、当業者であれば、無機酸化物粒子を、実施例1~8で使用された「SiO2」から、「SiO2」と共通する表面官能基を有する無機酸化物粒子に変更した場合でも、本件訂正発明の課題を解決できると認識するはずである。実際に、後述する参考試験例Aでは、「SiO2」と共通する表面官能基を有する「Al2O3」を用い、かつ、本件請求項1の要件を充足する場合に、本件訂正発明の課題が解決されている。
<参考試験例>
電解質シートにおける各成分の種類及び配合量を下記表Aに示すように変更した以外は、本件明細書の実施例1と同様にして電解質シートの作製及び測定を実施した。結果を表Aに示す。
表A中、「PVDF-HFP」は、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとのコポリマ(フッ化ビニリデン:ヘキサフルオロピレン=95質量%:5質量% )を示す。
[図:0001388324000003.jpg]
表Aのとおり、無機酸化物粒子として、SiO2以外を用いた場合でも、本件請求項1の要件を充足する電解質シートが、導電率及び引張強度に優れることが確認されている。」(第6頁第10行~第7頁第7行)
ク 上記キの主張及び参考試験例によれば、無機酸化物粒子として、SiO2以外の「Al2O3、AlOOH、MgO、CaO、ZrO2、TiO2、Li7La3Zr2O12、及びBaTiO3からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子」を用いた場合でも、本件発明1の「電解質シート」が、上記アの課題を解決し得ると認識できる。
ケ したがって、本件発明1に、「フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマ」「を含有」するとの発明特定事項、及び、「無機酸化物粒子が、SiO2、Al2O3、AlOOH、MgO、CaO、ZrO2、TiO2、Li7La3Zr2O12、及びBaTiO3からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子であ」るとの発明特定事項が付加されたことにより、本件発明1は、上記(1)-1のアの課題を解決し得るものとなった。
コ よって、請求項1及びそれを引用する請求項3~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(1)-3 活物質について(上記5の(1))
ア 本特許異議申立理由は、本件発明7について、活物質がLiNi0.6Co0.2Mn0.2O2及び天然黒鉛であることが特定されていないため、本件明細書に記載された実施例と同程度の放電容量となるとはいえないから、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないというものである。
イ しかしながら、本件発明の解決しようとする課題は、上記(1)-1のアのとおり、「導電率及び引張強度に優れる電解質シート及びそれを用いた二次電池を提供すること」であり、上記アの放電容量の向上ではない。
ウ また、上記(1)-1及び(1)-2で検討したとおり、本件発明1は、上記(1)-1のアの課題を解決し得るものであって、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、本件発明1の発明特定事項を全て備えた請求項7及びそれを引用する請求項8に係る発明もまた同様に、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(2)特許法第36条第6項第2号について(上記4の(1))
ア 請求項1には、「電解質シート1cm3に占める前記無機酸化物粒子の総表面積が1000~12000cm-1である」と記載されている。
イ そして、上記アの「無機酸化物粒子の総表面積」について、本件明細書には、次の記載がある。
「【0067】
無機酸化物粒子の総表面積Siは、下記式(5)により定義される。
Si=6×104×fi/Di50 (5)
式中、fiは上述した無機酸化物粒子の充填率(体積%)を示し、Di50は上述した無機酸化物粒子の平均粒径(μm)を示す。」
ウ 上記イによれば、上記アの「無機酸化物粒子の総表面積Si」は、「無機酸化物粒子の充填率fi」及び「無機酸化物粒子の平均粒径Di50」から、式(5)により算出される値である。
エ また、「無機酸化物粒子の充填率fi」及び「無機酸化物粒子の平均粒径Di50」について、本件明細書には、次の記載がある。
「【0063】
・・・(略)・・・無機酸化物粒子の平均粒径(Di50)は、レーザー散乱型粒径測定装置(例えば、マイクロトラック)を用いて、水中に無機酸化物粒子を懸濁させた懸濁液をレーザー散乱法により測定することで得られる。」
「【0065】
・・・(略)・・・無機酸化物粒子の充填率fiは、電解質シート7の任意の表面又は断面を走査型電子顕微鏡により観察し、当該表面又は断面の単位面積に占める無機酸化物粒子の面積(占有面積;面積%)として、画像処理(二値化処理)により測定される。なお、電解質シート7の任意の表面又は断面における無機酸化物粒子の占有面積はほぼ一定と考えられるため、当該占有面積を充填率fiとみなすことができる。」
「【0125】
[充填率fi及び総表面積Siの測定]
得られた電解質シートの表面を走査型電子顕微鏡により観察して、当該表面の単位面積に占めるSiO2粒子の面積(占有面積;面積%)を算出し、当該占有面積をSiO2粒子の充填率fiとした。また、SiO2粒子の平均粒径Di50及び充填率fiから、上記式(1)に従って、SiO2粒子の総表面積Siを算出した。」
(当審注:この記載の「上記式(1)」とは、本件明細書【0031】の記載によれば、正極活物質の総表面積Spを算出する式であり、無機酸化物粒子の総表面積Siを算出する式は、本件明細書【0067】の式(5)であるから、「上記式(1)」は「上記式(5)」の誤記であると考えられる。)
オ 上記エより、上記イの式(5)の「無機酸化物粒子の充填率」は、「電解質シート7の任意の表面又は断面を走査型電子顕微鏡により観察し、当該表面又は断面の単位面積に占める無機酸化物粒子の面積(占有面積;面積%)として、画像処理(二値化処理)により測定される」(【0065】)とされ、その上で、実施例の記載において、「得られた電解質シートの表面を走査型電子顕微鏡により観察して、当該表面の単位面積に占めるSiO2粒子の面積(占有面積;面積%)を算出し、当該占有面積をSiO2粒子の充填率fiとした」(【0125】)としている。
カ ここで、上記オの「無機酸化物粒子の充填率」の測定方法は、「走査型電子顕微鏡により観察」する「任意の表面又は断面」の大きさや位置が記載されていない。
キ しかしながら、令和3年1月18日付けの意見書において、特許権者は、「技術常識を有する当業者が、視野として不適切であることが明らかな視野(ほぼ全面が無機酸化物粒子で占められている視野や、ほぼ全面に無機粒子が存在しない視野といった極端な視野)を採用することはあり得ない。当業者であれば、出願時の技術常識を参照して、およそ均一な電解質シートの表面の視野の大きさを適宜設定でき、測定した無機酸化物粒子の充填率(体積%)fiの値もおよそ一に定まるから、「無機酸化物粒子の総表面積」との記載の意味は、本件明細書等及び技術常識を参照した当業者が明確に把握することができる」と主張しており、当該主張は合理性があり、「走査型電子顕微鏡により観察」する「任意の表面又は断面」の大きさや位置が特定されていなくても、全体として平均値となるように視野の大きさや位置を選択することにより、上記オの「無機酸化物粒子の充填率」はおおよそ一に定まる。
ク 一方、上記エには、「電解質シート7の任意の表面又は断面を走査型電子顕微鏡により観察」(【0065】)する、すなわち、観察対象が電解質シートの表面でもよいと記載されているところ、請求項1の「電解質シート」は「ポリマと、無機酸化物粒子と」「を含有する」ものであって、特に、当該「電解質シート」の表面は、ポリマに無機酸化物粒子が埋もれていると考えられるから、表面を観察する場合と断面を観察する場合とでは、表面の方がより無機酸化物粒子が少なく観察されると考えられる。
ケ しかしながら、本件訂正後の請求項1には、「式中、fiは、前記電解質シートの表面を走査型電子顕微鏡により観察し、当該表面の単位面積に占める前記無機酸化物粒子の面積(占有面積;面積%)として、画像処理により測定される、前記無機酸化物粒子の充填率(体積%)を示し、」と観察対象が「表面」に特定された。
コ さらに、例えば、甲1記載の固体電解質のように、三層以上の積層体からなり、各層に含まれる無機酸化物粒子の平均粒子径が異なる(甲1の【0016】参照。)場合、各層によって「無機酸化物粒子の充填率」も異なることとなるから、断面のどの位置を観察するかによっても、「無機酸化物粒子の充填率」が異なることとなるところ、本件訂正後の請求項1は、「(但し、積層体を除く)」とされたので、各層によって「無機酸化物粒子の充填率」が異なる態様は省かれた。
サ また、「走査型電子顕微鏡により観察」する「任意の表面又は断面」について、1つの実視野のみを観察して「無機酸化物粒子の充填率」を算出するのか、複数の実視野を観察して「無機酸化物粒子の充填率」を算出するのか一見不明ではあるが、複数のデータを測定してその平均をとることが通常よく行われているから、複数の実視野を観察して「無機酸化物粒子の充填率」を算出すると考えられる。
シ よって、請求項1及びそれを引用する請求項3~8に係る発明は、明確である。
(3)特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項について(上記4の(3)及び(4)、上記5の(2))
(3)-1 甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。ただし、下線は当審で付した。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質およびそれを用いたリチウムイオン二次電池に関し、さらに詳しくは、セパレーター強度に優れるにもかかわらず、電極層との界面抵抗の低減にも優れた固体電解質、および該固体電解質を用いた出力特性(保持率)、耐久性(充放電サイクル数)に優れた、難燃性のリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
・・・(略)・・・微粒子で固体電解質化した電解質のセパレーター強度を出すために1μm以上の球状無機微粒子を含有させた固体電解質が特許文献2に提案されている。この手法によって、セパレーター性が付与される。しかしながら、1μm以上の無機微粒子が直接電極に接すると電極と電解質との界面抵抗が大きくなる問題が新たに発生する。」
「【0021】
また、本発明において用いられる無機酸化物微粒子として希土類酸化物微粒子を用いることもでき、具体的には酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ユウロピウム、酸化ガドリニウム、酸化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化イッテルビウム、酸化ルテチウム等も挙げられる。なかでも、中性、もしくは、酸性の金属無機酸化物微粒子がイオン伝導性の向上の点で効果的である。酸化鉄、酸化ジルコニウム、クレー、酸化スズ、酸化タングステン、酸化チタン、燐酸アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化アルミニウムがなどこれにあたる。」
「【0032】
電解質組成物中のイオン液体の配合量は、30~95質量%とすることが好ましく、特に、60~90質量%とすることが好ましい。
【0033】
イオン液体と有機高分子材料との組み合わせ材料、に溶解させて用いられる上記アルカリ金属塩(電解質塩)としては、任意のリチウム塩を用いることができるが、金属イオンの塩のアニオンとしては、ハロゲン化物イオン(I-、Cl-、Br-等)、SCN-、BF4-、PF6-、ClO4-、SbF6-、(CF3SO2)2N-、(CF3CF2SO2)2N-、Ph4B-、(C2H4O2)2B-、(CF3SO2)3C-、CF3COO-、CF3SO3-、C6F5SO3-等が好ましく挙げられる。アニオンとしては、SCN-、BF4-、PF6-、ClO4-、SbF6-、(CF3SO2)2N-、(CF3CF2SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、CF3SO3-がより好ましい。
【0034】
代表的なアルカリ金属塩(電解質塩)としては、LiCF3SO3、LiPF6、LiClO4、LiI、LiBF4、LiCF3CO2、LiSCN、LiN(SO2CF3)2などが挙げられる。これらは一種または二種以上を混合してもよい。固体電解質中のアルカリ金属塩(電解質塩)の配合量は、5~40質量%とすることが好ましく、特に、10~30質量%とすることが好ましい。
(有機高分子材料)
発明において、イオン液体と組み合わせ用いても良い有機高分子材料としての有機高分子としては、中でも、例えば、でんぷん、カルボキシメチルセルロース、セルロース、ジアセチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルフェノール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシ(メタ)アクリレート、スチレン-マレイン酸共重合体等の水溶性ポリマー;、ポリビニルクロリド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフロロエチレン-ヘキサフロロプロピレン共重合体、ビニリデンフロライド-テトラフロロエチレン-ヘキサフロロプロピレン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、ポリビニルアセタール樹脂、メチルメタアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルを含有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体;、(メタ)アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、ビニルアセテート等のビニルエステルを含有するポリビニルエステル共重合体;、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ネオプレンゴム、フッ素ゴム、ポリエチレンオキシド、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリカーボネートポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等のエマルジョン(ラテックス)あるいはサスペンジョン;が好ましく、ポリアクリル酸エステル系のラテックス、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフロロエチレン、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。」
「【0044】
本発明では電極合剤を保持するための結着剤を用いる。」
「【0055】
実施例1
《二次電池1の作製》
[スラリーの作製]
イオン液体1-エチル-3-メチルイミダゾリウムフルオロスルフォニルイミド(EMIFSI)3.2g、LiN(CF3SO2)20.29g、をアルゴングローブボックス中において、乳鉢で混合した。さらに、表1記載の二次電池1の第2層に含有させる無機酸化物微粒子(使用した無機酸化物微粒子はあらかじめ乾燥機に入れ、減圧ポンプで0.1torrまで減圧し、160℃48時間の乾燥を行った。)を0.6g加え、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)の6%NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液を20gを加えて混合しスラリー1を得た。
【0056】
さらにイオン液体1-エチル-3-メチルイミダゾリウムフルオロスルフォニルイミド(EMIFSI)3.2g、LiN(CF3SO2)20.29g、をアルゴングローブボックス中で、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)の6%NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液を20g、ジアリルジメチルアンモニウム・ビス〔(トリフルオロメチル)スルホニウム〕アミド(DAA-TFSI)0.4g、AIBN(アゾビスイソブチルニトリル)0.1gを加えて混合しスラリー2とした。
〔塗布工程〕
負極シート(パイオトレック社製)上に押出しコーターを用いて、スラリー2を10μm、スラリー1を20μm、さらにスラリー2を10μmの順で逐次重層塗布を行い、乾燥した後に正極シート(パイオトレック社製)を張り合わせ、電池を作製した。前記、両面シート電池をA5サイズに裁断し、正極集電体と負極集電体のそれぞれにタブをつけ、全体を厚さ40μmのアルミニウム箔とアルミニウム箔の両面に形成されたポリプロピレン層から構成された厚さが0.1mmのラミネートフィルムからなるバッグに収納し、80℃で24時間真空乾燥を施した。その後、80℃に保ったまま、ヒートシールを行い完全密封し二次電池1を作製した。
《二次電池2~14、16、17の作製》
二次電池1の作製におけるスラリー1の作製において、表1記載の二次電池1の第2層に含有させる無機酸化物微粒子、の代わりに、表1記載の二次電池2~14、16、17の第2層に含有させる無機酸化物微粒子、を用いた他は同様にして二次電池2~14、16、17を作製した。」
「【0066】
【表1】
[図:0001388324000004.jpg]
」
「【0068】
表1、表2中、無機酸化物微粒子については、無機酸化物微粒子(平均粒子径(μm)、比表面積(m2/g)、含有量(質量%))について記載した。」
(3)-2 甲1記載の発明
ア 上記(3)-1の【0068】を参酌すると、上記(3)-1の表1には、甲1のNo.1の二次電池の第2層の固体電解質に含まれる酸化ケイ素微粒子は、比表面積6m2/gであることが示されている。
イ 上記(3)-1及び上記アより、甲1のNo.1の二次電池の固体電解質に注目すると、甲1(【0001】、【0055】、【0056】、【0066】、【0068】)には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「イオン液体1-エチル-3-メチルイミダゾリウムフルオロスルフォニルイミド(EMIFSI)3.2g、LiN(CF3SO2)20.29g、を混合し、さらに、比表面積6m2/gの酸化ケイ素微粒子を0.6g加え、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)の6%NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液を20g加えて混合しスラリー1とし、
イオン液体1-エチル-3-メチルイミダゾリウムフルオロスルフォニルイミド(EMIFSI)3.2g、LiN(CF3SO2)20.29g、に、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)の6%NMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液20g、ジアリルジメチルアンモニウム・ビス〔(トリフルオロメチル)スルホニウム〕アミド(DAA-TFSI)0.4g、AIBN(アゾビスイソブチルニトリル)0.1gを加えて混合しスラリー2とし、
負極シート(パイオトレック社製)上に、スラリー2を10μm、スラリー1を20μm、さらにスラリー2を10μmの順で逐次重層塗布を行い、乾燥した後に正極シート(パイオトレック社製)を張り合わせて作製した電池において、積層したスラリー2とスラリー1とスラリー2が乾燥することで得られた固体電解質。」
(3)-3 対比及び判断
ア ここで、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも次の相違点で相違する。
(相違点)
本件発明1は、「積層体を除く」のに対し、甲1発明は、「積層したスラリー2とスラリー1とスラリー2が乾燥することで得られた」ものであって、積層体を除くものとはなっていない点。
イ 以下、上記相違点について検討する。
ウ 従来技術として、「微粒子で固体電解質化した電解質のセパレーター強度を出すために1μm以上の球状無機微粒子を含有させた固体電解質が」「提案されている」が、「1μm以上の無機微粒子が直接電極に接すると電極と電解質との界面抵抗が大きくなる問題が新たに発生する」(甲1の【0002】)ところ、甲1発明は、「三層以上の積層体のうちの電極層に接する層以外の少なくとも一層が1μm以上の平均粒子径の無機酸化物微粒子を含有し且つイオン液体を保持することで、」1μm以上の無機微粒子が直接電極と接しないようにし、「セパレーター強度と界面抵抗の低減を両立して、セパレーター強度に優れるにもかかわらず界面抵抗の低減にも優れた固体電解質を得られる」(同【0014】)というものである。
エ そうすると、上記相違点は実質的な相違点であるし、甲1発明は、三層以上の積層体とすることが必須となっているから、甲1発明において、「積層体を除く」構成とする、すなわち、単層体とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
オ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明において、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を得ることも、当業者が容易になし得たこととはいえない。
カ また、本件発明3~6、8は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであって、甲1発明とは少なくとも上記相違点で相違するから、これまで検討した理由と同様の理由により、本件発明3~6、8は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明において、上記相違点に係る本件発明3~6、8の発明特定事項を得ることも、当業者が容易になし得たこととはいえない。
5 むすび
以上のとおり、本件の請求項1、3~8に係る特許は、令和4年1月21日付けで通知された取消理由に記載した取消理由(決定の予告)、令和3年8月23日付けで通知された取消理由に記載した取消理由(決定の予告)、令和2年11月16日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1、3~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件の請求項2は、本件訂正により削除されたから、本件の請求項2に係る特許に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2020-700562