特許異議申立
2023-700667
飛行体
- 審判番号
- 2023-700667
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-024285
- 登録番号
- 7196668
- 請求日
- 2023年06月26日
- 審決日
- 2024年03月19日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社IHI
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】和田 雄二
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】小松 秀輝
- 【権利者代理人】小松 龍
- 【異議申立人】佐藤 奈緒美
- 審判長/審判官
- 審判長 中村 則夫
- 審判官 筑波 茂樹
- 審判官 久島 弘太郎
- 分類
- P1651.113-YAA(B64C) / P1651.121-YAA(B64C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7196668号発明「飛行体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7196668号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7196668号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続きの経緯
特許第7196668号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成31年2月14日に出願され、令和4年12月19日にその特許権の設定登録がなされ、同年12月27日に特許掲載公報が発行された。その特許についての異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 6月26日 :特許異議申立人 佐藤 奈緒美(以下「申立人」という。)による請求項1~6に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 9月25日付け:取消理由通知
同年11月17日 :特許権者による訂正請求書・意見書の提出
同年12月22日差出:申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」といい、本件訂正の請求を「本件訂正請求」という。)の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示す。)。
・訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「…前記制御装置は、前記着陸動作の実行中に、前記第1動作と前記第2動作とを交互に2回以上繰り返し実行する、飛行体」と記載されているのを、
「…前記制御装置は、前記着陸動作の実行中に、前記第1動作と前記第2動作とを交互に2回以上繰り返し実行し、
前記制御装置は、前記第2動作において、前記着陸面に応じて前記本体の姿勢を傾けた場合に生じる前記推力発生部の推力の水平方向成分を打ち消すように、前記推力発生部を制御することにより、前記本体の前記水平方向の位置を維持した状態で前記本体の姿勢のみを調整する、飛行体。」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~6も同様に訂正する)。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正の目的
訂正事項1は、第2動作について、「前記制御装置は、前記第2動作において、前記着陸面に応じて前記本体の姿勢を傾けた場合に生じる前記推力発生部の推力の水平方向成分を打ち消すように、前記推力発生部を制御することにより、前記本体の前記水平方向の位置を維持した状態で前記本体の姿勢のみを調整する」との事項により、その内容をより具体的に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)新規事項の有無
願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「特許明細書等」という。)には、段落【0025】に「推力発生部5は、鉛直方向に推力を発生するロータ11のみならず、水平方向に推力を発生するロータ10を有している。このため、本体2の姿勢を傾けた場合に生じる各ロータ11の推力の水平方向成分を、各ロータ10の推力の水平方向成分によって打ち消すことができる。これにより、本体2の水平位置を維持した状態で本体2の姿勢のみを調整することができる。逆に、本体2の姿勢を維持した状態で本体2の水平位置を調整することもできる。」と、段落【0055】に「よって、着陸地点の着陸面LPへの着陸の際に、本体2の位置及び姿勢を目標位置及び目標姿勢にそれぞれ維持できる。その結果、着陸の際に着睦面LPに応じた目標姿勢となるように本体2の姿勢を調整した(例えば水平姿勢から傾けた)場合であっても、本体2の位置が意図せずに変動するような事態を抑制できる」と記載されており(下線は当審が付与)、訂正事項1は、特許明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
(3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記(1)のとおり、訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明における「第2動作」の内容をより具体的に特定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について、訂正することを認める。
第3 本件発明
上記「第2」で説示したように本件訂正請求は認められるから、本件訂正により訂正された訂正後の請求項1~6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
空中を飛行して着陸地点の着陸面に着陸する飛行体であって、
本体と、
前記本体に設けられており、前記本体の位置を調整するための推力及び前記本体の姿勢を調整するための推力を発生する推力発生部と、
前記本体に設けられており、前記着陸面への着陸時に前記本体を支持する着陸脚と、
前記本体の現在の姿勢を示す本体姿勢情報を取得する第1情報取得部と、
前記着陸面の状態を示す着陸地点情報を取得する第2情報取得部と、
前記本体姿勢情報及び前記着陸地点情報に基づいて前記着陸面への着陸のための前記本体の目標姿勢を算出し、前記本体の姿勢が前記目標姿勢となるように前記推力発生部を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記着陸地点へ近づくように前記推力発生部を制御する着陸動作と、
前記本体の姿勢が前記目標姿勢となるように前記推力発生部を制御する姿勢制御動作とを、行い、
前記姿勢制御動作は、
前記本体姿勢情報及び前記着陸地点情報を取得する第1動作と、
前記本体姿勢情報及び前記着陸地点情報を利用して、前記本体の姿勢が前記目標姿勢となるように前記推力発生部を制御する第2動作と、を含み、
前記制御装置は、前記着陸動作の実行中に、前記第1動作と前記第2動作とを交互に2回以上繰り返し実行し、
前記制御装置は、前記第2動作において、前記着陸面に応じて前記本体の姿勢を傾けた場合に生じる前記推力発生部の推力の水平方向成分を打ち消すように、前記推力発生部を制御することにより、前記本体の前記水平方向の位置を維持した状態で前記本体の姿勢のみを調整する、飛行体。
【請求項2】
前記着陸脚は、着陸時に前記着陸面に接地する接地部を含み、
前記制御装置は、前記接地部により規定される仮想平面が前記着陸面に沿うように、前記本体の前記目標姿勢を算出する、請求項1に記載の飛行体。
【請求項3】
前記本体に設けられており、前記着陸地点情報を検出する検出部を更に備え、
前記第2情報取得部は、前記検出部から前記着陸地点情報を取得する、請求項1又は2に記載の飛行体。
【請求項4】
前記第2情報取得部は、前記着陸面に設けられると共に前記着陸地点情報を検出する外部検出部から、前記着陸地点情報を取得する、請求項1又は2に記載の飛行体。
【請求項5】
前記推力発生部は、前記本体を通る鉛直線の周囲に配置された6個のロータを含み、
前記制御装置は、前記6個のロータの回転数をそれぞれ独立して制御可能であり、
前記6個のロータは、前記鉛直線に対して鋭角に傾斜する回転軸線をそれぞれ有しており、
前記6個のロータの回転面は、同一平面上には配置されていない、請求項1~4のいずれか一項に記載の飛行体。
【請求項6】
前記推力発生部は、複数のロータを含み、
前記複数のロータの回転軸線である第1軸線、第2軸線及び第3軸線は、前記本体に対して定まった位置に配置されており、
前記複数のロータは、
前記第1軸線上に回転中心が配置されて逆のピッチを有し、前記第1軸線に直交する回転面をそれぞれ有する第1の一対のロータと、
前記第2軸線上に回転中心が配置されて逆のピッチを有し、前記第2軸線に直交する回転面をそれぞれ有する第2の一対のロータと、
前記第3軸線上に回転中心が配置されて逆のピッチを有し、前記第3軸線に直交する回転面をそれぞれ有する第3の一対のロータと、を含み、
前記制御装置は、前記第1の一対のロータ、前記第2の一対のロータ及び前記第3の一対のロータの回転数をそれぞれ独立して制御可能であり、
前記第1軸線、前記第2軸線及び前記第3軸線は、同一平面上に存在せず、互いに非平行である、請求項1~4のいずれか一項に記載の飛行体。」
第4 取消理由通知の概要
取消理由通知で通知した取消理由の概要は次のとおりである。
理由1:(新規性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し、取り消されるべきものである。
理由2:(進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
<引用文献等一覧>
甲第1号証:特開2019-16030号公報
甲第2号証:中国特許出願公開第108536167号明細書
甲第3号証:中国特許出願公開第107678442号明細書
甲第4号証:特開2015-6874号公報
甲第5号証:中国特許出願公開第107957728号明細書
甲第6号証:特開2016-135659号公報
甲第7号証:特開2016-135660号公報
甲第8号証:特開2000-85694号公報
以下、甲第1号証~甲第8号証は、申立人が提出したものであり、以下、それぞれ「甲1」~「甲8」という。
<理由1、2について>
・請求項 1~4
・引用文献等 甲8
<理由2について>
・請求項 5
・引用文献等 甲8、甲6
・請求項 6
・引用文献等 甲8、甲7
・請求項 1、2
・引用文献等 甲1、甲2、甲5
・請求項 3
・引用文献等 甲1、甲2
・請求項 4
・引用文献等 甲1、甲5
・請求項 5
・引用文献等 甲1、甲2、甲5、甲6
・請求項 6
・引用文献等 甲1、甲2、甲5、甲7
第5 各甲号証の記載等
1 甲1
(1)甲1の認定事項
ア 図3Cから、ドローン2の脚部25が着陸している箇所は平面であることが看取でき、段落【0046】の「ドローン2が離発着するための離発着基地ST」との記載も踏まえると、ドローン2は、離発着基地STの着陸面に着陸するものと認められる。
イ 図3Bから、複数のロータ22及び脚部25が、本体21に設けられていることが看取できる。
(2)甲1発明
上記(1)を踏まえると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。(なお、括弧内には主な参照箇所を示した。以下、同様。)
「拠点間を飛行して移動し(段落【0018】)、離発着基地STの着陸面に着陸するドローン2(上記(1)ア)であって、
ドローン2は、本体21と、本体21に設けられた複数のロータ22と、本体21に設けられ拠点等に着陸した状態にあるときに本体21を支持する脚部25とを備え(上記(1)イ、段落【0027】、【0032】)、
本体21には、モータ211と、姿勢検出部213と、制御部218と、が設けられ(段落【0033】)、
モータ211は、制御部218からの制御量に従い回転量を調整し、対応させて設けられているロータ22を駆動して、飛行用の動力を発生させ(段落【0034】)、制御部218は、各モータ211の回転量を調整することにより、所望の飛行高度、進行方向、本体21の向きになるように調整することができ(段落【0042】)、
制御部218は、姿勢検出部213によりドローン2の姿勢を検出し、検出結果に基づいてその姿勢の安定化を図りつつ飛行させ(段落【0043】)、
ドローン2は、着陸地点を含む領域の範囲を示す表示を検出して、表示パターンの表示による誘導に従い降下を開始する(段落【0101】、【0102】)、
ドローン2。」
2 甲2
甲2には、次の技術事項(以下「甲2記載の技術事項」という。)が記載されている。
「海水のうねりに伴う揺れが続き、着水面の傾斜角度もリアルタイムで変化する(段落[0004])洋上浮体プラットフォームなどの傾斜非平坦発着場に着陸する無人機であって(段落[0010])、
無人機が着陸場の上方に到着した後に、飛行高度を下げ始め、飛行高度が予め設定された取得高度になった後、無人機に鉛直下向きに取り付けられる画像取得装置は、着陸面にスプレー塗装したパターンマーカーを撮像し続けて、撮像した画像をプロセッサに送信し、プロセッサは、パターンの遠近効果に基づき、着陸面に対する無人機の仰俯角を計算し、無人機は仰俯角情報に基づいて飛行姿勢を調整し、機体の平面と着陸面との平行を保証しながら、引き続き飛行高度を下げ、無人機の飛行高度が予め設定された着陸高度に達するまでこのプロセスを絶え間なく繰り返し、無人機が着陸を開始し、無人機の自律的な着陸を完成する(段落[0030])、
無人機。」
3 甲5
甲5には、次の技術事項(以下「甲5記載の技術事項」という。)が記載されている。
「波によって絶えず傾斜したり揺れたりする(段落[0002])海上フロートに設けられた姿勢センサにより、海上フロートのピッチ角及びピッチ方向の検出を開始し、それを海上フロート1に配置された第2通信装置に送信し、第2通信装置はUAV2上の第1通信装置と通信し、第1所定間隔ごとに、海上フロート1の姿勢情報を第1通信装置に送信し、UAV2は、飛行高度の絶えない低下において、海上フロート1の姿勢情報に応じて飛行姿勢を絶えず自律調整し(段落[0036])、最終的には着陸面と平行な飛行姿勢で着陸面に着陸する(段落[0031])、
UAV2。」
4 甲6
甲6には、次の技術事項(以下「甲6記載の技術事項」という。)が記載されている。
「本体を通る鉛直線の周囲に配置された6枚のロータと、
前記6枚のロータの回転数をそれぞれ独立して制御可能な制御部と、を備え、
前記6枚のロータは、前記鉛直線に対して鋭角に傾斜する回転軸線をそれぞれ有しており、
前記6枚のロータの回転面は、同一平面上には配置されておらず、並進及び回転の運動が独立に制御可能である、飛行体。(【請求項1】、段落【0011】)」
5 甲7
甲7には、次の技術事項(以下「甲7記載の技術事項」という。)が記載されている。
「複数のロータの回転軸線である第1軸線、第2軸線および第3軸線が、本体に対して定まった位置に配置された飛行体であって、
前記第1軸線上に回転中心が配置されて逆のピッチを有し、前記第1軸線に直交する回転面をそれぞれ有する第1の一対のロータと、
前記第2軸線上に回転中心が配置されて逆のピッチを有し、前記第2軸線に直交する回転面をそれぞれ有する第2の一対のロータと、
前記第3軸線上に回転中心が配置されて逆のピッチを有し、前記第3軸線に直交する回転面をそれぞれ有する第3の一対のロータと、
前記第1の一対のロータ、前記第2の一対のロータおよび前記第3の一対のロータの回転数をそれぞれ独立して制御可能な制御部と、を備え、
前記第1軸線、前記第2軸線および前記第3軸線は、同一平面上に存在せず、互いに非平行であり、並進及び回転の運動が独立に制御可能である、飛行体。(【請求項1】、段落【0011】)」
6 甲8
(1)甲8の認定事項
ヘリコプタ2が、空中を飛行することは明らかである。また、ヘリコプタ2が、本体を有すること、段落【0024】、【0038】等に記載されたメインロータ24、テールロータ25が、本体に設けられること、段落【0019】等に記載された甲板上のヘリポート10への着陸について、ヘリポート10が着陸面を有すること、ヘリポート10への着陸時に(ヘリコプタ2の)本体を支持する着陸脚を本体に備えることは、明らかである。
(2)甲8発明
上記(1)を踏まえると、甲8には、次の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されていると認められる。
「空中を飛行して船舶1の甲板上のヘリポート10の着陸面に着陸するヘリコプタ2であって(段落【0019】)、船舶1は、海上の状態に応じてその姿勢角が常に変化し、これにより、ヘリポート10の着陸面も常に変化しており(段落【0004】)、
本体と(上記(1))、
本体に設けられており、推力/方向制御装置223により求められた推力及び方向となるように制御されるメインロータ24及びテールロータ25と(上記(1)、段落【0038】)、
本体に設けられており、前記へリポート10への着陸時に前記本体を支持する着陸脚と(上記(1))、
ヘリコプタ2の姿勢角を検知する姿勢角センサ23と(段落【0020】)、船舶1に設けられた船の姿勢角を検知する姿勢角センサ11により検知された船の姿勢角データを受信するデータ受信装置20及び船舶1の甲板上のヘリポート10を撮像する可視カメラ21と(段落【0019】~【0021】)、
制御装置22であって、その出力により、メインロータ24及びテールロータ25の回転及び角度が制御されて、ヘリコプタ2が船舶1の甲板上のヘリポート10に着陸される制御装置22と(段落【0022】)を備え、
制御装置22は、
船舶1の姿勢角とヘリコプタ2の姿勢角を同期させ、船舶1の姿勢と、ヘリコプタ2の姿勢が平行になるように制御する同期制御回路220であって、船舶1のピッチ角及びロール角のそれぞれを基準とし、ヘリコプタ2の現在のピッチ角及びロール角との差分を、推進/方向制御装置223に出力する同期制御回路220と(段落【0024】)、
船舶1が動揺する場合に、ヘリコプタ2の姿勢をヘリポート10の角度に合わせて姿勢制御するものであって(段落【0040】)、撮像されたヘリポート10の画像の2軸上の直径AとBの比B/Aを求め、姿勢角センサ23からのヘリコプタ2の姿勢角データを入力し、上記直径AとBの比B/Aが”1”になる方向にヘリコプタ2の姿勢角の補正値を計算するパターンマッチング回路221と(段落【0045】)、
同期制御回路220から出力される上記差分に対応して、メインロータ24及びテールロータ25を制御して、船舶1の姿勢と、ヘリコプタ2の姿勢が平行になるように制御すると共に(段落【0024】)、パターンマッチング回路221で計算された姿勢角の補正値が送られ、ヘリコプタ2の姿勢角が補正制御され、これにより、ヘリコプタ2の姿勢とヘリポート10の着陸面が平行にされる推力/方向制御装置223と(段落【0046】)を含む、
ヘリコプタ2。」
第6 当審の判断
1 甲8を主引例とした新規性・進歩性
(1)本件発明1と甲8発明との相違点
本件発明1と甲8発明とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。
[相違点1]
第2動作に関して、
本件発明1は、「前記制御装置は、前記第2動作において、前記着陸面に応じて前記本体の姿勢を傾けた場合に生じる前記推力発生部の推力の水平方向成分を打ち消すように、前記推力発生部を制御することにより、前記本体の前記水平方向の位置を維持した状態で前記本体の姿勢のみを調整する」のに対し、
甲8発明は、「船舶1の姿勢角とヘリコプタ2の姿勢角を同期させ、船舶1の姿勢と、ヘリコプタ2の姿勢が平行になるように制御する同期制御回路220であって、船舶1のピッチ角及びロール角のそれぞれを基準とし、ヘリコプタ2の現在のピッチ角及びロール角との差分を、推進/方向制御装置223に出力する同期制御回路220と」「同期制御回路220から出力される上記差分に対応して、メインロータ24及びテールロータ25を制御して、船舶1の姿勢と、ヘリコプタ2の姿勢が平行になるように制御する」、又は、
「船舶1が動揺する場合に、ヘリコプタ2の姿勢をヘリポート10の角度に合わせて姿勢制御するものであって、撮像されたヘリポート10の画像の2軸上の直径AとBの比B/Aを求め、姿勢角センサ23からのヘリコプタ2の姿勢角データを入力し、上記直径AとBの比B/Aが”1”になる方向にヘリコプタ2の姿勢角の補正値を計算するパターンマッチング回路221と」「パターンマッチング回路221で計算された姿勢角の補正値が送られ、ヘリコプタ2の姿勢角が補正制御され、これにより、ヘリコプタ2の姿勢とヘリポート10の着陸面が平行にされる」
ものである点。
(2)相違点1についての判断
まず、新規性について判断すると、相違点1は実質的な相違点であるところ、本件発明1は、甲8発明ではない。
次に、進歩性について判断すると、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、提出されたいずれの証拠にも記載されていない。
すなわち、甲2記載の技術事項及び甲5記載の技術事項は、海上のうねりによって、着陸地点が揺動する洋上浮体プラットフォームなどに着陸する際に、機体の平面と着陸面との平行な飛行姿勢として着陸するものであるが、甲2及び甲5には、着陸面に応じて本体の姿勢を傾けた場合に生じる推力発生部の推力の水平方向成分を打ち消すように、推力発生部を制御することにより、本体の水平方向の位置を維持した状態で本体の姿勢のみを調整することは記載されていないし、この点は、甲1、甲3、甲4にも記載されていない。
また、甲6記載の技術事項、甲7記載の技術事項は、並進及び回転の運動が独立に制御可能である飛行体に関するものであるが、甲6、甲7には、着陸面に応じて本体の姿勢を傾けた場合に生じる推力の水平方向成分を打ち消すように推力を制御することは記載されていない。
なお、甲6記載の技術事項、甲7記載の技術事項では、飛行体の並進及び回転の運動を独立に制御可能であるとしても、甲8発明のメインロータ24及びテールロータ25を備えるヘリコプタ2と、甲6記載の技術事項又は甲7記載の技術事項の飛行体とは、その前提となる構造が大きく異なるものであり、また、甲8発明はヘリコプタ2の着陸時の制御に関するものである一方、甲6及び甲7は着陸時に着目したものではない。そうすると、甲8発明のヘリコプタ2の着陸時の制御において、甲6記載の技術事項又は甲7記載の技術事項を適用して、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
よって、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲8発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立人の主張について
申立人は、令和5年12月22日差出の意見書(以下、単に「意見書」という。)において、以下のように主張する(意見書第3ページ)。
ア 甲7には、「本体(飛行体1)の姿勢を傾けた場合に生じる推力発生部(ロータ)の推力の水平方向成分を、打ち消すように推力発生部(ロータ)を制御することにより、本体(飛行体1)の水平方向の位置を維持した状態で本体(飛行体1)の姿勢のみを調整する」ことが記載されている。また、甲7にはホバリング時のみの制御が記載され、着陸時であることは記載されていないが、段落【0042】に6自由度の運動を独立に制御可能であると記載されていること、ホバリングと着陸では推力の鉛直成分の大きさが異なるだけであること、着陸時の姿勢制御が当然行われること等を考慮すると、着陸時においても同様の制御を行うことが実質的に甲7号証に記載されている。
イ 甲8発明は着陸を主目的とした技術であるため、甲8発明に甲7発明を適用することにより上記相違点1に係る構成が実現されることは明らかである。
しかしながら、上記アの主張について、甲7から、「本体(飛行体1)の姿勢を傾けた場合に生じる推力発生部(ロータ)の推力の水平方向成分を、打ち消すように推力発生部(ロータ)を制御することにより、本体(飛行体1)の水平方向の位置を維持した状態で本体(飛行体1)の姿勢のみを調整する」ことが読み取れるとしても、これをもって、甲7には、着陸動作時に着陸面に応じて本体の姿勢を傾けた場合に生じる推力の水平方向成分を打ち消すことが実質的に記載されているとはいえない。この点、申立人は、ホバリングと着陸では推力の鉛直成分の大きさが異なるだけである等、縷々主張するものの、着陸動作時に着陸面に応じて本体の姿勢を傾けた場合に生じる推力の水平方向成分を打ち消すように推力を調整することが技術常識等であるとはいえない(少なくとも証拠は提示されていない)から、甲7には、着陸動作時に着陸面に応じて本体の姿勢を傾けた場合に生じる推力の水平方向成分を打ち消すことが実質的に記載されているということはできない。
また、上記イの主張について、甲8発明は着陸に関するものであるものの、甲8には、着陸面に応じて本体の姿勢を傾けた場合に生じる推力の水平方向成分を打ち消すという課題を示唆する記載は見いだせない。また、甲7記載の技術事項は、着陸時の制御に関するものではない。そうすると、甲8発明における着陸の制御に、甲7記載の技術事項の並進及び回転を独立に制御することを適用して、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることが、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
(4)本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに構成を付加したものであるから、本件発明1と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 甲1を主引例とした進歩性
(1)本件発明1と甲1発明との相違点
本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。
[相違点2]
本件発明1は、「前記姿勢制御動作は、
前記本体姿勢情報及び前記着陸地点情報を取得する第1動作と、
前記本体姿勢情報及び前記着陸地点情報を利用して、前記本体の姿勢が前記目標姿勢となるように前記推力発生部を制御する第2動作と、を含み、
前記制御装置は、前記着陸動作の実行中に、前記第1動作と前記第2動作とを交互に2回以上繰り返し実行し、
前記制御装置は、前記第2動作において、前記着陸面に応じて前記本体の姿勢を傾けた場合に生じる前記推力発生部の推力の水平方向成分を打ち消すように、前記推力発生部を制御することにより、前記本体の前記水平方向の位置を維持した状態で前記本体の姿勢のみを調整する」のに対し、甲1発明は、当該構成を備えない点。
(2)相違点2についての検討
相違点2に係る発明特定事項は、提出されたいずれの証拠にも記載されていない。
すなわち、甲2記載の技術事項及び甲5記載の技術事項は、海上のうねりによって、着陸地点が揺動する洋上浮体プラットフォームなどに着陸する際に、機体の平面と着陸面との平行な飛行姿勢として着陸するものであるが、甲2及び甲5には、着陸面に応じて本体の姿勢を傾けた場合に生じる推力発生部の推力の水平方向成分を打ち消すように、推力発生部を制御することにより、本体の水平方向の位置を維持した状態で本体の姿勢のみを調整することは記載されていない。甲3、甲4にも記載されていないし、甲8発明についても、同様である。
また、甲6記載の技術事項、甲7記載の技術事項は、並進及び回転の運動が独立に制御すること可能な飛行体に関するものであるが、着陸面に応じて本体の姿勢を傾ける着陸動作を行うものではない。
そうすると、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~6について
本件発明2~6は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに構成を付加したものであるから、本件発明1と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 その他
申立人は、意見書3(6)において、本件特許の発明の詳細な説明には、「前記制御装置は、前記第2動作において、前記着陸面に応じて前記本体の姿勢を傾けた場合に生じる前記推力発生部の推力の水平方向成分を打ち消すように、前記推力発生部を制御することにより、前記本体の前記水平方向の位置を維持した状態で前記本体の姿勢のみを調整する」処理を行うための構成として、鉛直方向に推力を発生するロータ11と、水平方向に推力を発生するロータ10と、が記載されているのみであり、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、サポート要件を満たさない旨を主張する。
しかしながら、「前記着陸面に応じて前記本体の姿勢を傾けた場合に生じる前記推力発生部の推力の水平方向成分を打ち消すように、前記推力発生部を制御する」構成として、鉛直方向に推力を発生するロータ11と、水平方向に推力を発生するロータ10のほか、本件特許の段落【0064】~【0069】、図9、10には、Z方向に対して鋭角に傾斜したロータ11A、11B、11Cを備えることや、X方向、Y方向、Z方向に各一対のローラ11D、11E、11Fを備えるものが記載されているところ、段落【0070】には、「また、推力発生部は、本体の位置及び姿勢をそれぞれ調整するための推力を発生できれば、ロータ以外の構成を有していてもよい。」と記載されており、当業者であれば、こうしたロータに限られるものでないことは自明である。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
第7 まとめ
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700667