特許異議申立
2023-700635
重合体組成物及びその製造方法、並びにタイヤ
- 審判番号
- 2023-700635
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-095870
- 登録番号
- 7194641
- 請求日
- 2023年06月16日
- 審決日
- 2024年10月24日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】株式会社ENEOSマテリアル
- 【権利者代理人】大渕 美千栄
- 【権利者代理人】布施 行夫
- 【権利者代理人】松本 充史
- 【異議申立人】藤央 弁理士法人
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 藤井 勲
- 審判官 松本 直子
- 分類
- P1651.113-ZDA(C08L) / P1651.121-ZDA(C08L) / P1651.537-ZDA(C08L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項特許法113条2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7194641号発明「重合体組成物及びその製造方法、並びにタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7194641号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕、12について訂正することを認める。
特許第7194641号の請求項12に係る特許を取り消す。
特許第7194641号の請求項1-11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7194641号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、令和1年5月22日(優先日 平成30年5月29日)を出願日とする出願(特願2019-95870号)であって、令和4年12月14日に特許権の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和5年6月16日に、特許異議申立人である藤央弁理士法人(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~12)がされた。
その後の経緯は、以下のとおりである。
令和5年10月 5日付け 取消理由通知書
同年12月 5日提出 意見書(特許権者)
令和6年 1月18日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年 3月21日提出 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 4月 4日付け 訂正請求があった旨の通知書(申立人宛て)
同年 5月 9日提出 意見書(申立人)
同年 6月27日付け 取消理由通知書(決定の予告)
当審において、令和6年6月27日付けで、本件特許の請求項12に係る特許に対して取消理由通知書(決定の予告)を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨
令和6年3月21日提出の訂正請求書の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、該訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。また、本件特許の願書に添付した明細書を、「本件明細書」といい、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を「本件明細書等」という。
(1)訂正事項1
訂正事項1は、以下の訂正事項1-1、同1-2よりなる。
ア 訂正事項1-1
特許請求の範囲の請求項1において、「前記重合体(C)が、前記共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と前記芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位とのランダム共重合部分を有」することを特定する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~11も同様に訂正する。
イ 訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1に、「前記シリカと相互作用し得る官能基が、含窒素官能基、含ケイ素官能基、及び含酸素官能基よりなる群から選択される少なくとも1種の官能基であり」と記載されているのを、「前記シリカと相互作用し得る官能基が、含窒素官能基であり」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~11も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、以下の訂正事項2-1、同2-2よりなる。
ア 訂正事項2-1
特許請求の範囲の請求項12において、前記重合体(C)が、「前記共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と前記芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位とのランダム共重合部分を有」することを特定する。
イ 訂正事項2-2
特許請求の範囲の請求項12に、「前記シリカと相互作用し得る官能基が、含窒素官能基、含ケイ素官能基、及び含酸素官能基よりなる群から選択される少なくとも1種の官能基であり」と記載されているのを、「前記シリカと相互作用し得る官能基が、含窒素官能基であり」に訂正する。
(3)一群の請求項
訂正前の請求項1~11において、請求項2~11は請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1により記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~11は特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(4)別の訂正単位とする求め
請求人は、訂正後の請求項1~11について、当該請求項の訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1の「共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位及び芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位」を有する「重合体(C)」について、訂正後の請求項1では、「前記重合体(C)が、前記共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と前記芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位とのランダム共重合部分を有」することに限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件明細書の段落【0052】には、「<重合体(B)の製造方法>」として、「重合体(B)が共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位及び芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位を有する共重合体である場合、アニオン重合におけるリビング性が高い点で、1,3-ブタジエンとスチレンとをモノマー組成に含む共重合体であることが好ましい。上記共重合体は、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との分布が不規則なランダム共重合部分を有することが好ましく、・・・」との記載、及び同【0076】には、「なお、重合体(C)の合成方法は、上記重合体(B)の合成方法と同様である。」との記載からみて、重合体(C)が共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位とのランダム共重合部分を有することが実質的に記載されているといえる。
したがって、訂正事項1-1は、本件明細書等に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものである。
イ 訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、訂正前の請求項1では、「前記シリカと相互作用し得る官能基が、含窒素官能基、含ケイ素官能基、及び含酸素官能基、よりなる群から選択される少なくとも1種の官能基であり、」であったものを、訂正後の請求項1では、「前記シリカと相互作用し得る官能基が、含窒素官能基であり、」とするものであり、シリカと相互作用し得る官能基としての選択肢を限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上の特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
そして、訂正事項1-2は、訂正前の請求項1の「シリカと相互作用し得る官能基」としてあげられた3つの官能基のうち、当該訂正事項に係る特定の官能基とするものであって、新たな技術的事項を導入するものでないから、本件明細書等に記載された事項の範囲内のものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2-1及び2-2は、上記(1)の訂正事項1-1及び1-2と同じであるから、上記(1)と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とし、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、本件明細書等に記載された範囲内でしたものである。
(3)独立特許要件
訂正前の全ての請求項1~12について、特許異議申立てがなされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
4 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~11〕、12について訂正することを認める。
第3 訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正請求により訂正された請求項1~12に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定されるとおりの以下のものである。
「【請求項1】
シリカと、
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を有し、tanδ温度分散曲線のピーク温度が-110℃以上-30℃未満であり、前記シリカと相互作用し得る官能基を有する重合体(B)と、
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位及び芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位を有し、tanδ温度分散曲線のピーク温度が-30℃以上10℃以下であり、前記シリカと相互作用し得る官能基を有する重合体(C)と、
を含有し、
前記重合体(C)が、前記共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と前記芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位とのランダム共重合部分を有し、
前記シリカと相互作用し得る官能基が、含窒素官能基であり、
前記重合体(B)と前記重合体(C)とが非相溶であり、
前記重合体(B)の単位質量当たりの官能基濃度が前記重合体(C)の単位質量当たりの官能基濃度よりも高い、重合体組成物。
【請求項2】
前記重合体(C)の数平均分子量(Mn)が前記重合体(B)の数平均分子量(Mn)よりも高い、請求項1に記載の重合体組成物。
【請求項3】
前記重合体(B)の数平均分子量(Mn)が80,000~400,000であり、
前記重合体(C)の数平均分子量(Mn)が200,000~1,500,000である、請求項1又は請求項2に記載の重合体組成物。
【請求項4】
前記重合体(C)が分岐構造を有する、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項5】
前記シリカが、tanδピーク温度が高い相よりもtanδピーク温度が低い相により多く存在する、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項6】
前記重合体(B)が、全繰り返し単位を100質量%としたときに、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位70~100質量%と、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位0~30質量%と、を有する、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項7】
前記重合体(C)が、全繰り返し単位を100質量%としたときに、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位50~80質量%と、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位20~50質量%と、を有する、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項8】
前記共役ジエン化合物が1,3-ブタジエンである、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項9】
前記芳香族ビニル化合物がスチレンである、請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項10】
前記重合体(C)の分子量分布(Mw/Mn)が1.5~2.5である、請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の重合体組成物をトレッド部材に用いたことを特徴とする、タイヤ。
【請求項12】
シリカと、
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を有し、tanδ温度分散曲線のピーク温度が-110℃以上-30℃未満であり、前記シリカと相互作用し得る官能基を有する重合体(B)と、
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位及び芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位を有し、tanδ温度分散曲線のピーク温度が-30℃以上10℃以下であり、前記シリカと相互作用し得る官能基を有する重合体(C)と、
を混練する第1の工程と、
前記第1の工程の混練物に、架橋剤を添加して混練する第2の工程を有し、
前記シリカと相互作用し得る官能基が、含窒素官能基であり、
前記重合体(B)は、数平均分子量(Mn)が80,000~400,000であり、全繰り返し単位を100質量%としたときに、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位70~100質量%と、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位0~30質量%を有する重合体であり、
前記重合体(C)は、前記共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と前記芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位とのランダム共重合部分を有し、数平均分子量(Mn)が200,000~1,500,000であり、全繰り返し単位を100質量%としたときに、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位50~80質量%と、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位20~50質量%とを有する重合体である、
重合体組成物の製造方法。」
以下では、本件特許の請求項1~12に係る発明を、「本件発明1」~「本件発明12」といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。
第4 特許異議申立書の申立理由及び当審が通知した取消理由
1 特許異議申立書(以下「申立書」ということがある。)の申立理由
(1)申立理由1(甲第1号証に基づく新規性欠如)
本件の請求項1~12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1~12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性欠如)
本件の請求項1~12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1~12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(サポート要件違反)
本件特許の請求項1~12に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由の概要は以下のとおり。
本件特許の請求項1に係る発明において、「前記シリカと相互作用し得る官能基が、含窒素官能基、含ケイ素官能基、及び含酸素官能基よりなる群から選択される少なくとも1種の官能基であ」ること、「前記重合体(B)の単位質量当たりの官能基濃度が前記重合体(C)の単位質量当たりの官能基濃度よりも高い」ことが特定されている。
まず、「前記シリカと相互作用し得る官能基」として挙げられた3つのうち、いずれか一つを含有すれば良い規定であるところ、実施例で本件特許の課題を解決していることを確認しているのは、シリカと相互作用し得る官能基として、含窒素官能基、含ケイ素官能基、および含酸素官能基の全てを含有するものを用いた場合のみである。
ついで、本件特許の課題を解決するためには、シリカが重合体(B)相により多く存在することが必要であると認められるところ、技術常識を考慮すれば、官能基濃度だけでなく、官能基自体が有するフィラー(A)としてのシリカに対する親和性の強さも、考慮すべきであって、重合体(B)に導入されている官能基の、シリカに対する親和性が比較的弱い場合には、シリカが重合体(B)相よりも、重合体(C)相により多く存在する場合も想定しうる。
そうすると、「前記シリカと相互作用し得る官能基」として、含窒素官能基の一種のみを有する場合、含ケイ素官能基の一種のみを有する場合、含酸素官能基の一種のみを有する場合、さらには、これらの二種の組み合わせのみを有する場合であっても、本件特許の課題を解決しうるとは言い難い。
2 証拠方法
(1)申立書に添付した証拠方法
・甲第1号証:特開2012-149239号公報
・甲第2号証:Pongdhorn Sae-oui, et al., “Effects of Blend Ratio and SBR Type on Properties of Carbon Black-Filled and Silica-Filled SBR/BR Tire Tread Compounds”, Hindawi, Advances in Materials Science and Engineering (2017), Article ID 2476101
https://doi.org/10.1155/2017/2476101
・甲第3号証:特開2018-2780号公報
・甲第4号証:特開2013-139504公報
・甲第5号証:国際公開第2011/105362号
(2)令和6年3月21日提出の意見書に添付された証拠方法
・乙第1号証:藤本邦彦ら、「スチレン含量の異なるSBRとBRの相溶性」、日本ゴム協会誌、1966年、第39巻、第11号、919-924
(3)令和6年5月9日提出の意見書に添付された証拠方法
・甲第6号証:化学辞典、森北出版株式会社、1981年10月30日第1版第3刷発行、第1324頁~第1325頁
・甲第7号証:モリソン・ボイド、中西香爾ら訳、有機化学(下)、東京化学同人、1992年6月10日、第5版第4刷発行、第1536頁~第1539頁
以下、「甲第1号証」等を番号にあわせて「甲1」のようにいう。
3 当審が通知した令和6年6月27日付け取消理由通知(決定の予告)
当審で通知した取消理由通知(決定の予告)の概要は以下のとおりである。
理由2(進歩性)
本件発明12は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第5 当審の判断
当審が通知した上記第4 3の取消理由通知(決定の予告) 理由2(進歩性)により、本件発明12に係る特許は取り消すべきものである。
また、当審が通知した令和6年1月18日付け取消理由通知(決定の予告)の取消理由、及び、特許異議申立書の申立理由によっては、本件発明1~11に係る特許を取り消すことはできない。
1 取消理由通知(決定の予告)の理由2(進歩性)について
(1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1に記載された事項
甲1には、以下の記載がある。
「【請求項1】
エポキシ基及びアルコキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を1分子中に3以上有している変性剤にて、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の少なくとも一部を変性させて得られるものであり、ガラス転移温度が-60℃以上、-10℃以下である変性共役ジエン系ゴム(A)と、
上記変性剤にて、活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖の少なくとも一部を変性させて得られるものであり、ガラス転移温度が-120℃以上、-50℃以下であり、上記変性共役ジエン系ゴム(A)よりガラス転移温度が20℃以上100℃以下低い変性共役ジエン系ゴム(B)と、
の混合物を含み、
変性共役ジエン系ゴム(A)と変性共役ジエン系ゴム(B)との重量混合比が、変性共役ジエン系ゴム(A):変性共役ジエン系ゴム(B)にて、(50:50)~(95:5)である、変性共役ジエン系ゴム組成物。
【請求項2】
上記変性共役ジエン系ゴム(A)は、共役ジエン単量体単位40重量%以上、95重量%以下と、芳香族ビニル単量体単位5重量%以上、60重量%以下と、を含み、かつ、上記変性共役ジエン系ゴム(A)の共役ジエン単量体単位中のビニル結合含有量が90重量%以下であり、
上記変性共役ジエン系ゴム(B)は、共役ジエン単量体単位70重量%以上と、芳香族ビニル単量体単位30重量%以下と、を含み、かつ、上記変性共役ジエン系ゴム(B)の共役ジエン単量体単位中のビニル結合含有量が55重量%以下である、請求項1に記載の変性共役ジエン系ゴム組成物。
【請求項3】
上記変性剤が下記一般式(I)で示されるポリオルガノシロキサンである、請求項1又は2に記載の変性共役ジエン系ゴム組成物。
【化1】
[図:0001420294000001.jpg]
(上記一般式(I)中、R1~R8は、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基であり、これらは互いに同一であっても相違していてもよい。X1及びX4は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~5のアルコキシ基、及び、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基、からなる群より選ばれるいずれかの基であり、X1及びX4は同一であっても相違していてもよい。X2は、炭素数1~5のアルコキシ基、又は、エポキシ基を含有する炭素数4~12の基、であり、複数あるX2は同一であっても相違していてもよい。X3は、アルキレングリコールの2~20の繰返し単位を含有する基であり、X3が複数あるときは、それらは同一であっても相違していてもよい。mは3~200の整数、nは0~200の整数、kは0~200の整数である。)
【請求項4】
上記変性共役ジエン系ゴム(A)及び上記変性共役ジエン系ゴム(B)は、それぞれ、共役ジエン系重合体鎖の活性末端に、上記変性剤に含まれるエポキシ基及び/又はアルコキシ基を、当該エポキシ基及びアルコキシ基の総量/当該活性末端の比が0.03当量以上、0.6当量以下にて、反応させたものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の変性共役ジエン系ゴム組成物。
・・・
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の変性共役ジエン系ゴム組成物と、当該変性共役ジエン系ゴム組成物中のゴム成分100重量部に対して、10重量部以上、200重量部以下のシリカと、を含む、ゴム組成物。
【請求項7】
架橋剤をさらに含む、請求項6に記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項7に記載のゴム組成物を架橋してなる、ゴム架橋物。
【請求項9】
請求項8に記載のゴム架橋物を含む、タイヤ。
【請求項10】
エポキシ基及びアルコキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を1分子中に3以上有する変性剤にて、共役ジエン系重合体鎖の活性末端の少なくとも一部に、上記変性剤に含まれるエポキシ基及び/又はアルコキシ基を、当該エポキシ基及びアルコキシ基の総量/当該活性末端の比が0.03当量以上、0.6当量以下にて反応させることにより、当該共役ジエン系重合体鎖を変性させ、ガラス転移温度が-60℃以上、-10℃以下である変性共役ジエン系ゴム(A)を得る変性共役ジエン系ゴム(A)の製造工程と、
上記変性剤にて、共役ジエン系重合体鎖の活性末端の少なくとも一部に、上記変性剤に含まれるエポキシ基及び/又はアルコキシ基を、当該エポキシ基及びアルコキシ基の総量/当該活性末端の比が0.03当量以上、0.6当量以下にて反応させることにより、当該共役ジエン系重合体鎖を変性させ、ガラス転移温度が-120℃以上、-50℃以下であり、上記変性共役ジエン系ゴム(A)よりガラス転移温度が20℃以上100℃以下低い変性共役ジエン系ゴム(B)を得る変性共役ジエン系ゴム(B)の製造工程と、
上記変性共役ジエン系ゴム(A)及び上記変性共役ジエン系ゴム(B)を、重量比(変性共役ジエン系ゴム(A):変性共役ジエン系ゴム(B))にて、(50:50)~(95:5)の比で混合する混合工程と、を含む、変性共役ジエン系ゴム組成物の製造方法。」
「【0002】
近年、自動車用のタイヤには、環境問題及び資源問題から低発熱性が強く求められており、安全性の面から優れたウェットグリップ性が求められており、耐久性の面から優れた耐摩耗性が求められている。」
「【0014】
そこで、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、低発熱性、耐摩耗性及びウェットグリップ性の性能バランスに優れるゴム架橋物を得るための変性共役ジエン系ゴム組成物を提供することにある。」
「【0031】
本明細書において「変性剤」とは、1分子中に、共役ジエン系重合体鎖の活性末端と反応する官能基を有するものであり、本発明においては、この官能基はエポキシ基及びアルコキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基であり、その数は、1分子中に3以上である(以下、このような変性剤を「変性剤(C)」という。)。そして、異なる共役ジエン系重合体鎖の活性末端とそれぞれ反応して、変性共役ジエン系ゴム(A)及び変性共役ジエン系ゴム(B)をそれぞれ与える。エポキシ基及びアルコキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を1分子中に3以上有する変性剤(C)を用いることにより、変性剤(C)と共役ジエン系重合体鎖とを高効率に結合させることができるため、変性共役ジエン系ゴム(A)及び変性共役ジエン系ゴム(B)とシリカとの親和性が高まる。また、変性剤(C)を介して、高分岐の構造体が形成されるため、分子量が大きい変性共役ジエン系ゴム(A)及び変性共役ジエン系ゴム(B)を得ることができる。」
「【0056】
活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖を、共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体鎖とする場合、各単量体の結合様式は、例えば、ブロック状、テーパー状、ランダム状等種々の結合様式とすることができ、その中でもランダム状が好ましい。共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との結合様式をランダム状にする場合、重合系内において、共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との合計量に対する芳香族ビニル単量体の比率が高くなりすぎないように、共役ジエン単量体又は共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体とを、連続的又は断続的に重合系内に供給して重合することが好ましい。」
「【0070】
変性共役ジエン系ゴム(B)は、変性共役ジエン系ゴム(A)よりガラス転移温度が20℃以上100℃以下低く、30℃以上80℃以下低いのが好ましい。変性共役ジエン系ゴム(B)と変性共役ジエン系ゴム(A)とのガラス転移温度の関係がこの範囲内であると、得られるタイヤは、低発熱性、耐摩耗性及びウェットグリップ性の性能バランスに優れる。また、変性共役ジエン系ゴム(B)と変性共役ジエン系ゴム(A)との相溶性がよく、変性共役ジエン系ゴム組成物の加工性が増し、得られるタイヤの耐摩耗性に優れる。」
「【0085】
変性共役ジエン系ゴム(A)及び変性共役ジエン系ゴム(B)の重量平均分子量は、特に限定されないが、ポリスチレン換算のゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定される値として、例えば、10,000以上、3,000,000以下、より好ましくは100,000以上、2,000,000以下、さらに好ましくは300,000以上、1,500,000以下の範囲である。重量平均分子量が3,000,000以下であると、変性共役ジエン系ゴム(A)及び変性共役ジエン系ゴム(B)へのシリカの配合が容易となり、本発明に係る変性共役ジエン系ゴム組成物から得られるゴム組成物の加工性が優れたものとなる。
また、重量平均分子量が10,000以上であると、得られるタイヤの低発熱性が優れたものとなる。
【0086】
変性共役ジエン系ゴム(A)及び変性共役ジエン系ゴム(B)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、特に限定されないが、より好ましくは1.1以上、3.0以下、さらに好ましくは1.2以上、2.5以下、特に好ましくは1.3以上、2.2以下である。この分子量分布の値(Mw/Mn)が3.0以下であると、得られるタイヤの低発熱性が優れたものとなる。」
「【0091】
本発明に係る変性共役ジエン系ゴム組成物は、架橋剤及び充填剤等の配合剤を添加した上で、種々の用途に好適に用いることができる。中でも、充填剤としてシリカを配合した場合に、耐摩耗性、低発熱性、及びウェットグリップ性に優れるタイヤを得るために好適に用いられるゴム組成物を与える。」
「【0111】
本発明に係るゴム架橋物は、例えば、タイヤ、ホース、窓枠、ベルト、靴底、防振ゴム、自動車部品、免震ゴム等のゴム製品に用いられる。中でも、本発明に係るゴム架橋物は、特に耐摩耗性、低発熱性、及びウェットグリップ性に優れるので、タイヤ用途に好適に用いられる。本発明に係るゴム架橋物は、例えば、オールシーズンタイヤ、高性能タイヤ、スタッドレスタイヤ等の各種タイヤにおいて、トレッド、カーカス、サイドウォール、ビード部等のタイヤ各部位への利用が可能であるが、特に低発熱性に優れるので、低燃費タイヤのトレッド用として、特に好適に用いられる。」
「【0112】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0113】
なお、各例中の部及び%は、特に断りのない限り、重量基準である。
【実施例】
【0114】
各特性については、以下の方法に従って評価した。
【0115】
〔重量平均分子量及びカップリング率〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフィによりポリスチレン換算分子量として求めた。具体的には、以下の条件で測定した。
【0116】
測定器:HLC-8020(東ソー社製)
カラム:GMH-HR-H(東ソー社製);二本を直列に連結した
検出器:示差屈折計RI-8020(東ソー社製)
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム温度:40℃
カップリング率は、全溶出面積に対する、分子量の最も小さいピークが示すピークトップ分子量の2倍以上のピークトップ分子量を有するピーク部分の面積比を、共役ジエン系重合体鎖のカップリング率として示す。
【0117】
〔重合体のミクロ構造〕
1H-NMRと13C-NMRにより測定した。
【0118】
〔重合体のガラス転移温度〕
示差走査熱量測定(DSC)にて、以下の条件で測定した。
【0119】
測定器 : Pyris1 DSC(パーキンエルマー社製)
昇温速度 : 10℃/分。
【0120】
〔ムーニー粘度〕
JIS K6300に従い、ムーニー粘度計(島津製作所社製)を用いて測定した。なお、油展ゴムにしなかったゴムは、油展しない状態でムーニー粘度を測定した。
【0121】
〔耐摩耗性〕
上島製作所社製FPS摩耗試験機を用い、荷重1kgf、スリップ率15%で測定した。この特性については、基準サンプル(後述の比較例1又は比較例6)を100とする指数で示した。この指数が大きいものほど、耐摩耗性に優れる。
【0122】
〔低発熱性〕
レオメトリックス社製ARESを用い、動的歪み0.5%、10Hzの条件で60℃におけるtanδを測定した。この特性については、基準サンプル(後述の比較例1又は比較例6)を100とする指数で示した。この指数が小さいものほど、低発熱性に優れる。
【0123】
〔ウェットグリップ性〕
レオメトリックス社製ARESを用い、動的歪み0.5%、10Hzの条件で0℃におけるtanδを測定した。この特性については、基準サンプルを100(後述の比較例1又は比較例6)とする指数で示した。この指数が大きいものほど、ウェットグリップ性に優れる。
【0124】
〔製造例1:油展変性共役ジエン系ゴムA〕 攪拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン4000g、スチレン370g、1,3-ブタジエン205g、イソプレン25g及びテトラメチルエチレンジアミン2.7mmolを仕込んだ後、n-ブチルリチウムを、シクロヘキサン、スチレン、1,3-ブタジエン及びイソプレンに含まれる重合を阻害する不純物の中和に必要な量を添加した。その後、n-ブチルリチウムを重合反応に用いる分として3.3mmolを加え、40℃で重合を開始した。
【0125】
重合を開始してから30分経過後、スチレン50g、1,3-ブタジエン335gを90分間かけて連続的に添加した。重合反応中の最高温度は75℃であった。連続添加終了後、さらに10分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、イソプレン15gを添加し10分間反応させた後、少量の重合溶液をサンプリングした。サンプリングした少量の重合溶液は、過剰のメタノールを添加して反応停止した後、風乾して、重合体を取得し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析の試料とした。サンプリングした重合体の重量平均分子量は56.7万であった。
【0126】
少量の重合溶液をサンプリングした直後に、カップリング剤として1,6-ビス(トリクロロシリル)ヘキサン0.083mmolを20重量%シクロへキサン溶液の状態で加え、65℃で10分間反応させた。
【0127】
次に、変性剤として下記構造式(IV)で表されるポリオルガノシロキサンA0.017mmolを40重量%キシレン溶液の状態で添加し、65℃で20分間反応させた。
【0128】
その後、重合停止剤として、重合反応に使用したn-ブチルリチウムの2倍モルに相当する量のメタノールを添加して、変性共役ジエン系ゴムAを含有する溶液を得た。
【0129】
この変性共役ジエン系ゴムAを含有する溶液の一部を取り出し、ゴム成分100部あたり、老化防止剤として、2,4-ビス(n-オクチルチオメチル)-6-メチルフェノール0.2部を添加した。次に、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、固形状ゴムの回収を行ない、ロールにかけて脱水し、さらに熱風乾燥機にて乾燥し、変性共役ジエン系ゴムAを得た。この変性共役ジエン系ゴムAのスチレン単位含有量、共役ジエン単量体単位中のビニル結合含有量及びシス-1,4結合含有量、重量平均分子量、カップリング率、並びにガラス転移温度を測定した。この結果を表1に示す(以下、後述の製造例2~8において、製造例1と同様に、変性共役ジエン系ゴムを含有する溶液から固形状ゴムの回収を行なったものであって、製造例2、5、6、8については伸展油を加えないものについて、スチレン単位含有量、共役ジエン単量体単位中のビニル結合含有量及びシス-1,4結合含有量、重量平均分子量、カップリング率、並びにガラス転移温度を測定した。この結果を表1に示す。)。
【0130】
この変性共役ジエン系ゴムAを含有する溶液の残部に、ゴム成分100部あたり、老化防止剤として、2,4-ビス(n-オクチルチオメチル)-6-メチルフェノール0.2部、及び伸展油として、T-DAE(JX 日鉱日石エネルギー社製)25.0部を添加した。次に、スチームストリッピングにより溶媒を除去し、固形状ゴムの回収を行ない、ロールにかけて脱水し、さらに熱風乾燥機にて乾燥し、油展変性共役ジエン系ゴムAを得た。油展変性共役ジエン系ゴムAについて、ムーニー粘度を測定した。その値を表1に示す。
【0131】
【化3】
[図:0001420294000002.jpg]
・・・
【0142】
〔製造例4:変性共役ジエン系ゴムD〕
攪拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン4000g、1,3-ブタジエン600g及びテトラメチルエチレンジアミン0.1mmolを仕込んだ後、n-ブチルリチウムを、シクロヘキサン、及び1,3-ブタジエンに含まれる重合を阻害する不純物の中和に必要な量を添加した。その後、n-ブチルリチウムを重合反応に用いる分として8.5mmolを加え、40℃で重合を開始した。
【0143】
重合を開始してから30分経過後、1,3-ブタジエン400gを90分間かけて連続的に添加した。重合反応中の最高温度は75℃であった。連続添加終了後、さらに10分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、少量の重合溶液をサンプリングした。サンプリングした少量の重合溶液は、過剰のメタノールを添加して反応停止した後、風乾して、重合体を取得し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析の試料とした。サンプリングした重合体の重量平均分子量は24.3万であった。
【0144】
少量の重合溶液をサンプリングした直後に、カップリング剤として1,6-ビス(トリクロロシリル)ヘキサン0.298mmolを20重量%シクロへキサン溶液の状態で加え、65℃で10分間反応させた。
【0145】
次に、変性剤としてポリオルガノシロキサンA0.043mmolを40重量%キシレン溶液の状態で添加し、65℃で20分間反応させた。
【0146】
その後は、伸展油を添加せずに、油展ゴムとしなかった以外は、製造例1と同様の操作を行ない、変性共役ジエン系ゴムDを得た。また、変性共役ジエン系ゴムDのムーニー粘度を測定した。その値を表1に示す。
【0147】
〔製造例5:油展変性共役ジエン系ゴムE〕
攪拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン4000g、スチレン420g、1,3-ブタジエン155g、イソプレン25g及びテトラメチルエチレンジアミン3.2mmolを仕込んだ後、n-ブチルリチウムを、シクロヘキサン、スチレン、1,3-ブタジエン及びイソプレンに含まれる重合を阻害する不純物の中和に必要な量を添加した。その後、n-ブチルリチウムを重合反応に用いる分として2.8mmolを加え、40℃で重合を開始した。
【0148】
重合を開始してから30分経過後、スチレン40g、1,3-ブタジエン345gを90分間かけて連続的に添加した。重合反応中の最高温度は75℃であった。連続添加終了後、さらに10分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、イソプレン15gを添加し10分間反応させた後、少量の重合溶液をサンプリングした。サンプリングした少量の重合溶液は、過剰のメタノールを添加して反応停止した後、風乾して、重合体を取得し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析の試料とした。サンプリングした重合体の重量平均分子量は58.6万であった。
【0149】
少量の重合溶液をサンプリングした直後に、カップリング剤として1,6-ビス(トリクロロシリル)ヘキサン0.070mmolを20重量%シクロへキサン溶液の状態で加え、65℃で10分間反応させた。
【0150】
次に、変性剤としてポリオルガノシロキサンA0.014mmolを40重量%キシレン溶液の状態で添加し、65℃で20分間反応させた。
【0151】
その後は製造例1と同様の操作を行ない、油展変性共役ジエン系ゴムEを得た。また、油展変性共役ジエン系ゴムEのムーニー粘度を測定した。その値を表1に示す。
【0152】
〔製造例6:油展変性共役ジエン系ゴムF〕
攪拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン4000g、スチレン370g、1,3-ブタジエン205g、イソプレン25g及びテトラメチルエチレンジアミン2.7mmolを仕込んだ後、n-ブチルリチウムを、シクロヘキサン、スチレン、1,3-ブタジエン及びイソプレンに含まれる重合を阻害する不純物の中和に必要な量を添加した。その後、n-ブチルリチウムを重合反応に用いる分として3.5mmolを加え、40℃で重合を開始した。
【0153】
重合を開始してから30分経過後、スチレン50g、1,3-ブタジエン335gを90分間かけて連続的に添加した。重合反応中の最高温度は75℃であった。連続添加終了後、さらに10分間重合反応を継続し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、イソプレン15gを添加し10分間反応させた後、少量の重合溶液をサンプリングした。サンプリングした少量の重合溶液は、過剰のメタノールを添加して反応停止した後、風乾して、重合体を取得し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析の試料とした。サンプリングした重合体の重量平均分子量は50.5万であった。
【0154】
少量の重合溶液をサンプリングした直後に、カップリング剤として1,6-ビス(トリクロロシリル)ヘキサン0.165mmolを20重量%シクロへキサン溶液の状態で加え、65℃で10分間反応させた。
【0155】
次に、変性剤としてポリオルガノシロキサンA0.003mmolを40重量%キシレン溶液の状態で添加し、65℃で20分間反応させた。
【0156】
その後は製造例1と同様の操作を行ない、油展変性共役ジエン系ゴムFを得た。また、油展変性共役ジエン系ゴムFのムーニー粘度を測定した。その値を表1に示す。
・・・
【0162】
【表1】
[図:0001420294000003.jpg]
・・・
【0168】
〔実施例1〕
容量250mlのブラベンダータイプミキサー中で、変性共役ジエン系ゴムD20部及び油展変性共役ジエン系ゴムF80部を30秒素練りした。(各ゴムの部数は、油展ゴムにおいては伸展油分を除いたゴム成分としての値であり、「部」は、各々の実施例及び比較例にて使用した、各ゴムの伸展油分を除いたゴム成分の合計量を100部としたときの値であり、以下の説明においても同様である。)次いで、シリカ(Zeosil 1165MP、ローディア社製)50部及びシランカップリング剤(Si69、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、デグッサ社製)4.8部を添加して、80℃を開始温度として1.5分間混練した。次に、プロセスオイルとしてT-DAE(JX 日鉱日石エネルギー社製)5部、シリカ(Zeosil 1165MP)10部、カーボンブラック(シースト7HM、東海カーボン社製)5部、酸化亜鉛3部、ステアリン酸2部、及び老化防止剤(ノクラック6C、大内新興化学社製)2部
を添加した。その後、2.5分間混練し、ミキサーからゴム混練物を排出させた。
【0169】
混練終了時のゴム混練物の温度は150℃であった。ゴム混練物を、室温まで冷却した後、再度ブラベンダータイプミキサー中で、3分間混練した。次に、ブラベンダータイプミキサーからゴム混練物を排出させた。
【0170】
次いで、50℃のオープンロールで、ゴム混練物、硫黄1.5部及び架橋促進剤(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド1.8部とジフェニルグアニジン1.5部の混合物)を混練した。そして、シート状のゴム組成物を取り出した。
【0171】
このゴム組成物を、160℃で20分間プレス架橋して試験片を作製した。この試験片について、耐摩耗性、低発熱性及びウェットグリップ性の評価を行なった。表2にその結果を示す。なお、これらの評価の結果は、後述する比較例1の試験片を基準サンプル(指数100)とする指数で示す。
【0172】
〔実施例2~4、比較例1~5〕
ゴムの配合量を表2に示した量にした以外は、実施例1と同じ操作を行ない、試験片を作製して、耐摩耗性、低発熱性及びウェットグリップ性の評価を行なった。表2にその結果を示す。なお、実施例2~4及び比較例1~5のそれぞれのゴム組成物は、オイル量が油展ゴムに含まれる伸展油分を含めて25部になるように、プロセスオイルにより調製した。
【0173】
【表2】
[図:0001420294000004.jpg]
・・・
【0180】
比較例1~3と実施例1~4、及び比較例6、7と実施例5との比較から分かるように、変性共役ジエン系ゴム(A)、変性共役ジエン系ゴム(B)の、両方が共に変性されている共役ジエン系ゴム同士を用いている、本発明に係る変性共役ジエン系ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物は、耐摩耗性、低発熱性、及びウェットグリップ性のバランスに優れた結果となった。
【0181】
比較例4と実施例1~4との比較から分かるように、ガラス転移温度が本発明の規定の範囲を外れて高い変性共役ジエン系ゴムを混合すると、それを用いたゴム架橋物は耐摩耗性及び低発熱性が悪化することが分かった。
【0182】
比較例5と実施例1~4との比較から分かるように、本発明に係る変性共役ジエン系ゴム(A)及び変性共役ジエン系ゴム(B)に相当するものを混合しても、それぞれの含有量が本発明の範疇から外れる場合にはそれらを用いたゴム架橋物はウェットグリップ性が極めて悪化することが分かった。
【0183】
以上のように本発明によれば、耐摩耗性、低発熱性及びウェットグリップ性のバランスに優れるタイヤを与えることができる変役ジエン系ゴム組成物が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明は、ゴム及び樹脂等を利用するあらゆる工業分野において利用可能であり、とりわけ、タイヤ等のゴム製品に好適に利用可能である。」
イ 甲1に記載された発明
甲1の実施例において、製造例4の変性共役ジエン系ゴムD、製造例6の油展変性共役ジエン系ゴムFを用いた実施例1に着目すると、表1、表2の物性も併せて、次の発明が記載されている。
「容量250mlのブラベンダータイプミキサー中で、変性共役ジエン系ゴムD20部及び油展変性共役ジエン系ゴムF80部を30秒素練りし(各ゴムの部数は、油展ゴムにおいては伸展油分を除いたゴム成分としての値であり、「部」は、各ゴムの伸展油分を除いたゴム成分の合計量を100部としたときの値であり、以下の説明においても同様である。)、次いで、シリカ(Zeosil 1165MP、ローディア社製)50部及びシランカップリング剤(Si69、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、デグッサ社製)4.8部を添加して、80℃を開始温度として1.5分間混練し、次に、プロセスオイルとしてT-DAE(JX 日鉱日石エネルギー社製)5部、シリカ(Zeosil 1165MP)10部、カーボンブラック(シースト7HM、東海カーボン社製)5部、酸化亜鉛3部、ステアリン酸2部、及び老化防止剤(ノクラック6C、大内新興化学社製)2部を添加し、その後、2.5分間混練し、ミキサーからゴム混練物を排出させ、混練終了時のゴム混練物の温度は150℃であり、ゴム混練物を、室温まで冷却した後、再度ブラベンダータイプミキサー中で、3分間混練し、次に、ブラベンダータイプミキサーからゴム混練物を排出させ、次いで、50℃のオープンロールで、ゴム混練物、硫黄1.5部及び架橋促進剤(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド1.8部とジフェニルグアニジン1.5部の混合物)を混練して、取り出したシート状のゴム組成物(低発熱性(60℃tanδ、指数)88、ウェットグリップ性(0℃tanδ、指数)105)。
ここで、上記変性共役ジエン系ゴムD、上記油展変性共役ジエン系ゴムF、及び上記変性共役ジエン系ゴムD、上記油展変性共役ジエン系ゴムFを製造するにあたって用いた変性剤であるポリオルガノシロキサンAは以下のとおりである。
・変性共役ジエン系ゴムDは、攪拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン4000g、1,3-ブタジエン600g及びテトラメチルエチレンジアミン0.1mmolを仕込んだ後、n-ブチルリチウムを、シクロヘキサン、及び1,3-ブタジエンに含まれる重合を阻害する不純物の中和に必要な量を添加し、その後、n-ブチルリチウムを重合反応に用いる分として8.5mmolを加え、40℃で重合を開始し、重合を開始してから30分経過後、1,3-ブタジエン400gを90分間かけて連続的に添加して、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、カップリング剤として1,6-ビス(トリクロロシリル)ヘキサン0.298mmolを20重量%シクロへキサン溶液の状態で加え、65℃で10分間反応させ、次に、変性剤としてポリオルガノシロキサンA0.043mmolを40重量%キシレン溶液の状態で添加して反応させ、その後は、伸展油を添加せず、重合停止剤として、メタノールを添加して得られた変性共役ジエン系ゴムD(スチレン単量体単位含有量0%、ビニル結合量11%、シス-1,4結合含有量34%、カップリング率57%、カップリング反応及び変性反応後の重合体の重量平均分子量539,000、ガラス転移温度-93℃)。
・油展変性共役ジエン系ゴムFは、攪拌機付きオートクレーブに、窒素雰囲気下、シクロヘキサン4000g、スチレン370g、1,3-ブタジエン205g、イソプレン25g及びテトラメチルエチレンジアミン2.7mmolを仕込んだ後、n-ブチルリチウムを、シクロヘキサン、スチレン、1,3-ブタジエン及びイソプレンに含まれる重合を阻害する不純物の中和に必要な量を添加し、その後、n-ブチルリチウムを重合反応に用いる分として3.5mmolを加え、40℃で重合を開始し、重合を開始してから30分経過後、スチレン50g、1,3-ブタジエン335gを90分間かけて連続的に添加して、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、イソプレン15gを添加し10分間反応させた後、カップリング剤として1,6-ビス(トリクロロシリル)ヘキサン0.165mmolを20重量%シクロへキサン溶液の状態で加え、65℃で10分間反応させ、次に、変性剤としてポリオルガノシロキサンA0.003mmolを40重量%キシレン溶液の状態で添加し、65℃で20分間反応させ、その後は、重合停止剤として、メタノールを添加して、油展変性共役ジエン系ゴムFを得、ゴム成分100部あたり、老化防止剤として、2,4-ビス(n-オクチルチオメチル)-6-メチルフェノール0.2部、及び伸展油として、T-DAE(JX 日鉱日赤エネルギー社製)25.0部を添加し、次にスチームストリッピングにより溶媒を除去し、固形状ゴムの回収を行ない、ロールにかけて脱水し、さらに熱風乾燥機にて乾燥して得られた、油展変性共役ジエン系ゴムF(スチレン単量体単位含有量42%、ビニル結合量30%、シス-1,4結合含有量24%、カップリング率35.6%、カップリング反応及び変性反応後の重合体の重量平均分子量788,000、ガラス転移温度-23℃)。
・ポリオルガノシロキサンAは、
[図:0001420294000005.jpg]
」(以下、「甲1発明1」という。)
甲1発明1において、ゴム組成物を製造する方法として捉えて整理すると、次の発明が記載されている。
「甲1発明1の製造方法。」(以下、「甲1発明2」という。)
(2)本件発明12について
ア 対比
本件発明12と甲1発明2を対比する。
(ア)甲1発明2の「シリカ(Zeosil 1165MP)」は、本件発明12の「シリカ」に相当する。
(イ)甲1発明2の「変性共役ジエン系ゴムD」は、1,3-ブタジエンをn-ブチルリチウムにより重合させてえられる重合体を変性剤であるポリオルガノシロキサンAにより変性した重合体であり、そのガラス転移温度が-93℃である。
そして、該ポリオルガノシロキサンAは変性後に「含ケイ素官能基」又は「含酸素官能基」となるところ、甲1には、一般式(I)で示されるポリオルガノシロキサン(実施例の「一般式(IV)」で表される「ポリオルガノシロキサンA)に相当。)のような変性剤と共役ジエン系重合体鎖とが結合することで、変性共役ジエン系ゴムとシリカとの親和性が高まることが記載されている(【0031】、【0032】)ことから、該ポリオルガノシロキサンAに由来する基は、本件発明12の「シリカと相互作用し得る官能基」に相当する。
ここで、本件発明12の「tanδ温度分散曲線のピーク温度」が「ガラス転移温度」を意味することは技術常識である。
そうすると、甲1発明2の「変性共役ジエン系ゴムD」は、本件発明12の「共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を有し、tanδ温度分散曲線のピーク温度が-110℃以上-30℃未満であり、前記シリカと相互作用し得る官能基を有する重合体(B)」に相当する。
(ウ)甲1発明2の「伸展油変性共役ジエン系ゴムF」は、スチレン、1,3-ブタジエン、イソプレンをn-ブチルリチウムにより重合させてえられる重合体を変性剤であるポリオルガノシロキサンAにより変性した重合体であり、そのガラス転移温度が-23℃である。
そして、該ポリオルガノシロキサンAは変性後に「含ケイ素官能基」又は「含酸素官能基」となるから、上記(イ)と同様に、該ポリオルガノシロキサンAに由来する基は、本件発明12の「シリカと相互作用し得る官能基」に相当する。
ここで、本件発明12の「tanδ温度分散曲線のピーク温度」が「ガラス転移温度」を意味することは技術常識である。
そうすると、甲1発明2の「伸展油変性共役ジエン系ゴムF」は、本件発明12の「共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位及び芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位を有し、tanδ温度分散曲線のピーク温度が-30℃以上10℃未満であり、前記シリカと相互作用し得る官能基を有する重合体(C)」に相当する。
(エ)甲1発明2における、「シリカ(Zeosil 1165MP)」、「変性共役ジエン系ゴムD」、「伸展油変性共役ジエン系ゴムF」を含む混合物を混練してゴム混練物を得ること、及び、該ゴム混練物に硫黄を添加し、混練することは、本件発明12における、「シリカ」と、「重合体(B)」と、「重合体(C)」と「を混練する第1の工程」、及び、「前記第1の工程の混練物に、架橋剤を添加して混練する第2の工程」に、それぞれ相当する。
(オ)甲1発明2の「変性共役ジエン系ゴムD」は、ホモポリブタジエンが変性されたものであるから、全繰り返し単位が1,3-ブタジエンに由来するものであって、本件発明12の「前記重合体(B)」が「全繰り返し単位を100質量%としたときに、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位70~100質量%と、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位0~30質量%を有する重合体」に相当する。
(カ)甲1発明2の「伸展油変性共役ジエン系ゴムF」は、原料としてスチレン420g、1,3-ブタジエン540g、イソプレン40gを用い、最終的にスチレン単量体単位含有量が42%であることから、ほぼ原料の仕込み量どおりに重合したものと解することができ、そうすると、1,3-ブタジエン単量体単位含有量は54%と認められ、本件発明12の「前記重合体(C)」が「全繰り返し単位を100質量%としたときに、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位50~80質量%と、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位20~50質量%と、を有する」ことに相当する。
(キ)甲1発明2の「ゴム組成物の製造方法」は、本件発明12の「重合体組成物の製造方法」に相当する。
そうすると、本件発明12と甲1発明2とは、
「シリカと、
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を有し、tanδ温度分散曲線のピーク温度が-110℃以上-30℃未満であり、前記シリカと相互作用し得る官能基を有する重合体(B)と、
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位及び芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位を有し、tanδ温度分散曲線のピーク温度が-30℃以上10℃以下であり、前記シリカと相互作用し得る官能基を有する重合体(C)と、
を混練する第1の工程と、
前記第1の工程の混練物に、架橋剤を添加して混練する第2の工程を有し、
前記重合体(B)は、全繰り返し単位を100質量%としたときに、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位70~100質量%と、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位0~30質量%を有する重合体であり、
前記重合体(C)は、全繰り返し単位を100質量%としたときに、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位50~80質量%と、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位20~50質量%とを有する重合体である、
重合体組成物の製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点3>
重合体(B)、重合体(C)の数平均分子量(Mn)に関し、本件発明12では、順に80,000~400,000、200,000~1,500,000と特定されているのに対し、甲1発明2では不明である点
<相違点4>
本件発明12では、重合体(C)が共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位とのランダム共重合部分を有するのに対し、甲1発明2では、重合体(C)に相当する「伸展油変性共役ジエン系ゴムF」が、芳香族ビニル化合物含有量が異なる複数のブロックを有する共重合体である点
<相違点5>
重合体(B)と重合体(C)におけるシリカと相互作用し得る官能基が、本件発明12では含窒素官能基であるのに対し、甲1発明2ではシロキサン結合(変性剤がポリオルガノシロキサンA)に由来する含ケイ素官能基又は含酸素官能基である点
イ 判断
(ア)相違点3について
甲1には、「変性共役ジエン系ゴム(A)(当審注:甲1発明2の「伸展油変性共役ジエン系ゴムF」、本件発明1の「共重合体(C)」に該当)及び変性共役ジエン系ゴム(B)(当審注:甲1発明2の「変性共役ジエン系ゴムD」、本件発明1の「共重合体(B)」に該当)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表される分子量分布は、特に限定されないが、より好ましくは1.1以上、3.0以下、さらに好ましくは1.2以上、2.5以下、特に好ましくは1.3以上、2.2以下である。この分子量分布の値(Mw/Mn)が3.0以下であると、得られるタイヤの低発熱性が優れたものとなる。」こと(【0086】)が記載されている。
ここで、甲1発明2の「伸展油変性共役ジエン系ゴムF」及び「変性共役ジエン系ゴムD」は、n-ブチルリチウムを用いたアニオン重合により未変性共役ジエン系ゴムF、同Dが製造されることから、この時点では単分散性が高いといえるところ、その後にカップリング剤と、さらに変性剤と順に反応させて変性共役ジエン系ゴムF、同Dを製造することから、通常のアニオン重合よりは単分散性が劣り、そのため分子量分布は大きめな値になると解される。
このことを考慮すると、甲1の上記摘記事項には、分子量分布として、1.1以上、3.0以下が好ましいと記載されているところ、該分子量分布の下限は1.1よりも大きな値であるといえ、例えば、上記分子量分布を1.5と仮定すれば、甲1発明2において、「変性共役ジエン系ゴムD」の重量平均分子量(Mw)が539,000、「油展変性共役ジエン系ゴムF」の重量平均分子量(Mw)が788,000であるから、これらから算出すると、「変性共役ジエン系ゴムD」の数平均分子量(Mn)が約359,000、「油展変性共役ジエン系ゴムF」の数平均分子量(Mn)が約525,000となる。
さらに、上記分子量分布が3.0と仮定して、同様に算出すると、「変性共役ジエン系ゴムD」の数平均分子量(Mn)が約186,000、「油展変性共役ジエン系ゴムF」の数平均分子量(Mn)が約262,000となる。
そうすると、甲1において、好ましいとされた分子量分布の大部分において、「変性共役ジエン系ゴムD」、「油展変性共役ジエン系ゴムF」の各々の数平均分子量(Mn)は、本件発明12に関する数平均分子量(Mn)をとりえるものといえる。
また、上記摘記事項をもとにして、タイヤの低発熱性を改良すべく、分子量分布を記載された数値範囲内で最適化することは当業者には適宜なしうることであり、その結果として、本件発明12に関する数平均分子量となりうるものといえる。
してみると、相違点3に係る構成は、実質的な相違点でないか、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)相違点4について
甲1には、「活性末端を有する共役ジエン系重合体鎖を共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体鎖とする場合、各単量体の結合様式は、例えば、ブロック状、テーパー状、ランダム状等種々の結合様式とすることができ、その中でもランダム状が好ましい。共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との結合様式をランダム状にする場合、重合系内において、共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体との合計量に対する芳香族ビニル単量体の比率が高くなりすぎないように、共役ジエン単量体又は共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体とを、連続的又は断続的に重合系内に供給して重合することが好ましい。」こと(【0056】)が記載されている。
そして、実施例では、油展変性共役ジエン系ゴムFを、スチレン、1,3-ブタジエン、イソプレンを仕込み、n-ブチルリチウムにより重合を開始した後、スチレン、1,3-ブタジエンを添加し、重合転化率が95%から100%の範囲になったことを確認してから、イソプレンを添加して反応停止後、重合体を得たことが記載されている。
これらの記載によると、共役ジエン系重合体としてランダム状の結合様式が好ましいこと、実施例においてスチレンと1,3-ブタジエンとの共存下で重合を開始していることから、分子鎖に沿ってスチレンと1,3-ブタジエンがランダム(無秩序)に分布している共重合体が生成することが通常であり(必要であれば、甲7参照。)、油展変性共役ジエン系ゴムFは、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位とのランダム共重合部分を有することは明らかであるといえる。
してみると、相違点4に係る構成は、甲1発明2の油展変性共役ジエン系ゴムFが有しているものであり、実質的な相違点でないか、仮に相違していたとしても、当業者が甲1に基づいて、適宜なし得たことである。
(ウ)相違点5について
甲1には、「エポキシ基及びアルコキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を1分子中に3以上有する変性剤(C)を用いることにより、変性剤(C)と共役ジエン系重合体鎖とを高効率に結合させることができるため、変性共役ジエン系ゴム(A)及び変性共役ジエン系ゴム(B)とシリカとの親和性が高まる。また、変性剤(C)を介して、高分岐の構造体が形成されるため、分子量が大きい変性共役ジエン系ゴム(A)及び変性共役ジエン系ゴム(B)を得ることができる。」こと(【0031】)、「変性剤(C)としては、エポキシ基及びアルコキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を1分子中に3以上有するものであれば特に限定されないが、例えば、上記一般式(I)で示されるポリオルガノシロキサン;N,N-ビス(トリメチルシリル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノエチルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン;等を挙げることができ、中でも上記一般式(I)で示されるポリオルガノシロキサンがより好ましい。上記一般式(I)で示されるポリオルガノシロキサンを用いることにより、耐摩耗性、低発熱性、及びウェットグリップ性のバランスに優れるゴム架橋物を得ることができる。」こと(【0032】)が記載されている。
これらの記載によると、変性剤は共役ジエン系ゴムと結合して変性共役ジエン系ゴムとなり、変性剤由来の官能基がシリカとの親和性を高めること、例示された変性剤由来の官能基を、該変性剤が含有する原子、例えばケイ素、窒素、酸素で大分けした場合、含ケイ素官能基、含窒素官能基、含酸素官能基となることが理解できる。
そうすると、甲1には、シリカとの親和性に関与する官能基となりうる変性剤として、甲1発明2の「ポリオルガノシロキサン」に代えて、同じく例示された、アミノ基を有するアルコキシシラン(含窒素官能基を有するもの)を採用して、シリカとの相互作用し得る官能基を含窒素官能基とすることは、当業者にとって格別の困難性を有しない。
また、本件明細書には、シリカと相互作用する官能基が含窒素官能基であることで、より優れたものとなることは記載も示唆もされていない。そして、実施例では、変性剤としてN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルエトキシシラン、ビス(ジエトキシメチルシリルプロピル)-N-メチルアミンを用いており、これらは甲1発明2の変性剤であるポリオルガノシロキサンAと同様に、変性後の含ケイ素官能基又は含酸素官能基に該当するものの、上記実施例の変性剤は、さらに変性後の含窒素官能基にも該当し、そのような含窒素官能基であることによる効果が、含ケイ素官能基又は含酸素官能基であることによる効果よりも優れているとは、実施例から確認することができないものである。
してみると、相違点5に係る構成は、甲1発明2及び甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たことである。
(エ)小括
以上から、本件発明12は、甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2 令和6年6月27日付け取消理由通知書(決定の予告)の対象としなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び同2(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明については、上記1(1)ア及びイに記載したとおりである。
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明1(上記1(1)イ参照。)を対比すると、上記1(2)アと同様の相当関係を有することに加えて、甲1発明1の「ゴム組成物」は、本件発明1の「重合体組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「シリカと、
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位を有し、tanδ温度分散曲線のピーク温度が-110℃以上-30℃未満であり、前記シリカと相互作用し得る官能基を有する重合体(B)と、
共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位及び芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位を有し、tanδ温度分散曲線のピーク温度が-30℃以上10℃以下であり、前記シリカと相互作用し得る官能基を有する重合体(C)と、
を含有する、
重合体組成物。」
である点で一致し、以下の点で一違する。
<相違点1>
重合体(B)と重合体(C)に関し、本件発明1では両者が非相溶であるのに対し、甲1発明1では非相溶か否か不明である点
<相違点2>
重合体(B)の単位質量当たりの官能基濃度と重合体(C)の単位質量当たりの官能基濃度に関し、本件発明1では重合体(B)の方が高いのに対し、甲1発明1ではいずれが高いのか不明である点
<相違点4’>
本件発明1では、重合体(C)が共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位とのランダム共重合部分を有するのに対し、甲1発明1では、重合体(C)に相当する「伸展油変性共役ジエン系ゴムF」が、芳香族ビニル化合物含有量が異なる複数のブロックを有する共重合体である点
<相違点5’>
重合体(B)と重合体(C)に関し、シリカと相互作用し得る官能基が、本件発明1では含窒素官能基であるのに対し、甲1発明1ではシロキサン結合(変性剤がポリオルガノシロキサンA)である点
(イ)判断
相違点1から判断する。
甲1発明1には、相違点1における「非相溶」に係る発明特定事項はなく、甲1にも記載されていない。
してみると、相違点1は実質的な相違点である。
ついで、進歩性について検討する。
本件明細書の段落【0028】には、「非相溶」とは、加硫ゴムをTEM、SEM、AFM等で断面を観察したときに、相分離構造が観測され、非連続層の場合は平均円相当半径が50nm以上、連続相の場合は平均幅が50nm以上あることを意味することが記載されている。
そこで、甲1発明1のゴム組成物中の変性共役ジエン系ゴムDと油展変性共役ジエン系ゴムFとが、上記「非相溶」の定義に合致するか否か検討する。
甲1には、上記「非相溶」の定義に関連する記載はない一方で、変性共役ジエン系ゴム(B)は、変性共役ジエン系ゴム(A)よりガラス転移温度が20℃以上100℃以下低いと、得られるタイヤは低発熱性、耐摩耗性及びウェットグリップ性の性能バランスに優れ、両者の相溶性が良く、変性共役ジエン系ゴム組成物の加工性が増し、得られるタイヤの耐摩耗性に優れることが記載されている(【0070】)。
ここで、変性共役ジエン系ゴムDのガラス転移温度が-93℃、油展変性共役ジエン系ゴムFのそれが-23℃であり、変性共役ジエン系ゴムDが油展変性共役ジエン系ゴムFよりガラス転移温度が70℃低いことになるから、上述の記載によれば、両者の相溶性が良いものと解される。
そして、甲1発明1の変性共役ジエン系ゴムD及び油展変性共役ジエン系ゴムFは、シリカと相互作用し得る官能基としてポリオルガノシロキサンAに由来するポリマー構造を有するものであり、該ポリオルガノシロキサンAはシロキサン部分の繰り返し単位がm=80、k=120と定義されている。
このとき、ポリオルガノシロキサンAに由来する官能基はポリマーであって、ケイ素原子及び酸素原子を有することから、シリカとの親和性が高いことはもちろんのこと、ポリオルガノシロキサンAに由来する官能基同士も同様に親和性が高いものと認められる。
そうすると、ポリオルガノシロキサンAに由来する官能基を有するポリマー同士、すなわち変性共役ジエン系ゴムDと油展変性共役ジエン系ゴムFとが非相溶であるとまでは言えず、ポリオルガノシロキサンAに由来する官能基の観点から見ても、上記「非相溶」の定義を満たすとは解されない。
してみると、甲1には、上記「非相溶」の定義に関連する記載がないことに加えて、ガラス転移温度の関係において、甲1発明1の変性共役ジエン系ゴムD及び展変性共役ジエン系ゴムFが相溶しうることが記載されている一方で、シリカと相互作用し得る官能基であるポリオルガノシロキサンAに由来する官能基同士の親和性の観点から、上記「非相溶」の定義を満たすものとは解されない。
さらに、甲1には、上述に示したとおり、組成物を構成する2種の変性共役ジエン系ゴムが、非相溶となるように組み合わせることについては記載されていないから、そのような組み合わせを選択することが当業者にとって容易であるとはいえない。
また、本件発明1は、シリカと、前記シリカと相互作用する官能基を有する重合体(B)、同(C)において、重合体(B)と重合体(C)とが非相溶で、重合体(B)の単位質量当たりの官能基濃度が重合体(C)のそれよりも高い重合体組成物とすることで、低ロス性及び耐摩耗性に優れるだけでなく、ウエットグリップ性能及び機械的特性においても高度にバランスに優れたタイヤを製造できるというものであり、そのような本件発明1の効果を、甲1の全記載から当業者は予測しえないものである。
よって、その余の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(ウ)申立人の主張について
申立人は、令和6年5月9日提出の意見書において、上記「非相溶」の定義によると、一部でも非相溶であれば、相分離構造が観測されるものと理解できることから、甲1発明1において、SBRに相当する「油展変性共役ジエン系ゴムF」は、BRに相当する「変性共役ジエン系ゴムD」に対し、少なくとも一部は非相溶であり、相分離構造が観測されるものといえるから、本件発明1の「前記重合体(B)と前記重合体(C)とが非相溶であり」との要件を充足すると主張をしている。
そこで検討する。
上記「非相溶」の定義を確認すると、本件明細書には、加硫ゴムをTEM、SEM、AFM等で断面を観察したときに、相分離構造が観測され、非連続相の場合は平均円相当半径が50nm以上、連続相の場合は平均幅が50nm以上あることが記載されている(【0028】)。また、「非相溶」について、本件明細書には、重合体(B)と重合体(C)の芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位の含有割合を異ならせることにより、重合体(B)と重合体(C)とは互いに非相溶となり、重合体組成物中で相分離を起こすことが記載されている(【0065】)。
まず、甲1発明1の「油展変性共役ジエン系ゴムF」がスチレン割合の低いブロックとスチレン割合の高いブロックを有するものであるところ、スチレンを繰り返し単位としていない「変性共役ジエン系ゴムD」と「油展変性共役ジエン系ゴムF」のスチレン割合の高いブロックとは、少なくとも一部は非相溶であり、相分離構造が観測される可能性があることに異論はない。
しかしながら、上記(イ)に示したように、甲1には、上記「非相溶」の定義に関連する記載がないことに加えて、ガラス転移温度の関係において、甲1発明1の変性共役ジエン系ゴムD及び油展変性共役ジエン系ゴムFが相溶しうることが記載されている一方で、シリカと相互作用し得る官能基であるポリオルガノシロキサンAに由来する官能基同士の親和性の観点から、上記「非相溶」の定義を満たすものとは解されない。
つまり、甲1発明1のゴム組成物をTEM、SEM、AFM等で断面を観察したときに、相分離構造が観測されたとしても、非連続相の場合は平均円相当半径が50nm以上、連続相の場合は平均幅が50nm以上あることを満たしていることまでは認められない。
したがって、申立人の当該主張は採用できない。
イ 本件発明2~11について
本件発明2~11は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記アと同様の理由により、甲1に記載された発明でないし、甲1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ まとめ
本件特許の請求項1~11に係る発明は、甲1に記載された発明でないし、甲1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、甲1の実施例1のほか、甲1の実施例3、4、比較例4に基づいて甲1発明1を認定した場合であっても、上記アと同様の理由により、本件発明1~11は、甲1に記載された発明でないし、甲1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)申立理由3(サポート要件違反)
ア 特許法第36条第6項第1号の判断手法について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。
同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ 本件発明の課題について
本件明細書の段落【0007】に記載されているように、「低ロス性及び耐摩耗性に優れるだけでなく、ウエットグリップ性能及び機械的特性においても高度にバランスに優れたタイヤの製造に適した重合体組成物を提供すること、低ロス性及び耐摩耗性に優れるだけでなく、ウエットグリップ性能及び機械的特性においても高度にバランスに優れたタイヤを提供すること」が本件発明の課題であると認められる。
ウ 判断
本件発明1が、上記イに示した本件発明の課題を解決するか検討する。
本件明細書には以下の記載がある。
「【0028】
本実施形態に係る重合体組成物において、重合体(B)と重合体(C)とは非相溶であり相分離を起こしている。なお、「非相溶」とは、加硫ゴムをTEM、SEM、AFM等で断面を観察したときに、相分離構造が観測され、非連続相の場合は平均円相当半径が50nm以上、連続相の場合は平均幅が50nm以上あることを意味する。重合体(B)及び重合体(C)のいずれもフィラー(A)と相互作用し得る官能基を有しているので、フィラー(A)は重合体(B)相又は重合体(C)相に偏在しやすい。そして、重合体(B)の単位質量当たりの官能基濃度が重合体(C)の単位質量当たりの官能基濃度よりも高いので、重合体(B)相により多くのフィラー(A)が偏在するようになる。このように本実施形態に係る重合体組成物は、重合体(B)及び重合体(C)のいずれもフィラー(A)と相互作用し得る官能基により変性されていながら、重合体(B)相により多くのフィラー(A)を偏在させることができる点に特徴がある。このようにすることで、低ロス性及び耐摩耗性に優れるだけでなく、ウエットグリップ性能及び機械的特性においても高度にバランスに優れたタイヤを製造することができる。」
「【0045】
重合体(B)は、前記フィラー(A)と相互作用し得る官能基を有する。なお、「相互作用」とは、分子間で共有結合を形成するか、又は共有結合よりも弱い分子間力(例えば、イオン-双極子相互作用、双極子-双極子相互作用、水素結合、ファンデルワールス力等といった分子間に働く電磁気学的な力)を形成することを意味する。また、「フィラー(A)と相互作用し得る官能基」とは、フィラー(A)と相互作用し得る元素を有する官能基であれば特に制限されないが、例えば窒素、硫黄、リン、ケイ素、酸素などのフィラー(A)と相互作用し得る元素を有する官能基を意味する。このような官能基の中でも、含窒素官能基、含ケイ素官能基、及び含酸素官能基よりなる群から選択される少なくとも1種の官能基であることが好ましい。
・・・
【0047】
また、重合体(B)の単位質量当たりの官能基濃度は、後述する重合体(C)の単位質量当たりの官能基濃度よりも高い。本実施形態に係る重合体組成物において、重合体(B)と重合体(C)とは相分離を起こしているが、重合体(B)及び重合体(C)のいずれもフィラー(A)と相互作用し得る官能基を有しているので、フィラー(A)は重合体(B)相又は重合体(C)相に偏在する。ところが、重合体(B)の単位質量当たりの官能基濃度が重合体(C)の単位質量当たりの官能基濃度よりも高いので、重合体(B)相により多くのフィラー(A)が偏在するようになる。このように重合体(B)相により多くのフィラー(A)を偏在させると、低ロス性、耐摩擦性、ウエットグリップ性能及び機械的特性のバランスに特に優れた重合体組成物が得られることが明らかとなった。
【0048】
重合体(B)の数平均分子量(Mn)は、重合体(C)の数平均分子量(Mn)よりも小さいことが好ましい。例えば重合体(B)及び重合体(C)のフィラー(A)と相互作用し得る官能基の変性率が同程度の場合、このような関係とすることで、重合体(B)の単位質量当たりの官能基濃度を重合体(C)の単位質量当たりの官能基濃度よりも高くすることができる。これにより、重合体(B)相により多くのフィラー(A)が偏在するようになり、より優れた低ロス性、耐摩耗性、ウエットグリップ性能及び機械的特性が得られやすい。」
「【0065】
重合体(C)中の全繰り返し単位を100質量%としたときに、50~80質量%の共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と20~50質量%の芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位とを有する共重合体であることが好ましく、50~70質量%の共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位と30~50質量%の芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位とを有する共重合体であることがより好ましい。このように重合体(B)と重合体(C)の芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位の含有割合を異ならせることにより、重合体(B)と重合体(C)とは互いに非相溶となり、重合体組成物中で相分離を起こす。前記範囲の重合体(C)であると、より優れた低ロス性、耐摩擦性、ウエットグリップ性能及び機械的特性を得ることができる。
・・・
【0068】
重合体(C)のtanδ温度分散曲線のピーク温度は、-30℃以上10℃以下であり、-25℃以上5℃以下が好ましく、-25℃以上0℃以下がより好ましい。重合体(C)のtanδ温度分散曲線のピーク温度が-30℃未満であると、ウエットグリップ性能が著しく悪化する場合があり、10℃超であると、低ロス性が著しく悪化する場合がある。
【0069】
重合体(C)は、前記フィラー(A)と相互作用し得る官能基を有する。フィラー(A)と相互作用し得る官能基としては、例えば窒素、硫黄、リン、ケイ素、酸素などのフィラー(A)と相互作用し得る元素を有する官能基が挙げられる。これらの官能基の中でも、含窒素官能基、含ケイ素官能基、及び含酸素官能基よりなる群から選択される少なくとも1種の官能基であることが好ましい。
・・・
【0071】
また、重合体(C)の単位質量当たりの官能基濃度は、前述の重合体(B)の単位質量当たりの官能基濃度よりも低い。本実施形態に係る重合体組成物において、重合体(B)と重合体(C)とは相分離を起こしているが、重合体(B)及び重合体(C)のいずれもフィラー(A)と相互作用し得る官能基を有しているので、フィラー(A)は重合体(B)相又は重合体(C)相に偏在する。ところが、重合体(C)の単位質量当たりの官能基濃度が重合体(B)の単位質量当たりの官能基濃度よりも低いので、重合体(B)相により多くのフィラー(A)が偏在するようになる。このように重合体(B)相により多くのフィラー(A)を偏在させると、低ロス性、耐摩擦性、ウエットグリップ性能及び機械的特性のバランスに特に優れた重合体組成物が得られることが明らかとなった。
【0072】
重合体(C)の数平均分子量(Mn)は、重合体(B)の数平均分子量(Mn)よりも大きいことが好ましい。例えば重合体(B)及び重合体(C)の変性率が同程度の場合、このような関係とすることで、重合体(B)の単位質量当たりの官能基濃度を重合体(C)の単位質量当たりの官能基濃度よりも高くすることができる。これにより、重合体(B)相により多くのフィラー(A)が偏在するようになり、より優れた低ロス性、耐摩耗性、ウエットグリップ性能及び機械的特性が得られやすい。」
そして、実施例1~4では、本件発明1の特定事項を有することにより、特に、シリカと相互作用する官能基を有する重合体(B)と重合体(C)とを用い、重合体(B)よりも重合体(C)の方が単位質量当たりの官能基濃度が低い関係を有する重合体組成物であると、シリカと相互作用する官能基を有しない重合体(B)及び重合体(C)を用いる重合体組成物である比較例1よりも、低ヒステリシスロス性、耐摩耗性、ウエットグリップ性、及び引張強度に優れることが示されている。
他方、比較例2の、シリカと相互作用する官能基を有しない重合体(C)を用いた重合体組成物では、耐摩耗性、ウエットグリップ性、引張強度があまり向上せず、比較例3の、シリカと相互作用する官能基を有しない重合体(B)を用いた重合体組成物では、低ヒステリシスロス性が向上せず、比較例4の、シリカと相互作用する官能基を有する重合体(B)を用いず、シリカと相互作用する官能基を有する重合体(C)のみを用いた重合体組成物では、耐摩耗性が向上しない。
以上から、本件発明1の特定事項を有することにより、本件発明の課題を解決することが理解できる。
よって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。
また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~11についても同様である。
エ 申立人の主張について
本件発明1の特定事項を有することで本件発明の課題を解決することは上記ウに示したとおりであって、シリカと相互作用する官能基の親和性の強さが明らかにならなければ、本件発明の課題が解決できないものとはいえず、当業者であれば、本件発明の特定事項を有することで本件発明の課題を解決できることを理解できるものといえる。
また、申立人は、本件発明の課題を解決できない可能性があることを主張するだけであって、具体的な根拠を提示して、本件発明の課題を解決できないことを立証しているわけではない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、本件特許に対する訂正は適法であるから、これを認める。
本件特許の請求項12に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるものである。
そして、令和6年1月18日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700635