特許異議申立
2022-700732
HVAC&Rシステムにおける使用のための、高強度及び耐腐食性合金
- 審判番号
- 2022-700732
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-519752
- 登録番号
- 6998865
- 請求日
- 2022年07月29日
- 審決日
- 2023年07月21日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ノベリス・インコーポレイテッド
- 【権利者代理人】松谷 道子
- 【権利者代理人】山本 宗雄
- 【異議申立人】黒野 美穂
- 審判長/審判官
- 審判長 粟野 正明
- 審判官 山口 大志
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1652.113-YAA(C22C) / P1652.121-YAA(C22C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第2号、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6998865号発明「HVAC&Rシステムにおける使用のための、高強度及び耐腐食性合金」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6998865号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~17〕について訂正することを認める。
特許第6998865号の請求項2ないし17に係る特許を維持する。
特許第6998865号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6998865号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~17に係る特許についての出願は、2017年(平成29年) 3月 3日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2016年 5月27日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、令和 3年12月23日にその特許権の設定登録(請求項の数17)がされ、令和 4年 2月 4日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1~15に係る特許に対し、同年 7月29日付けで特許異議申立人 黒野 美穂(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~15)がされ、同年11月21日付けで取消理由が通知され、令和 5年 2月22日付けで訂正請求書及び意見書が提出され、同年 3月17日付けで訂正請求があった旨の通知がされ、これに対して特許異議申立人から応答がなかったものである。
第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
令和 5年 2月22日付け訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~17について訂正することを求めるものであり、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、削除する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2において、「請求項1に記載の」を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4において、「請求項1から3のいずれか一項に」とあるのを「請求項2または3に」に訂正する。(当審注:訂正請求書には「特許請求の範囲の請求項3において」と記載されているが、「特許請求の範囲の請求項4において」の明らかな誤記である。)
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5~8において、「請求項1」とあるのを「請求項2」に訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9において、「請求項1に記載のアルミニウム合金」とあるのを「請求項2に記載のアルミニウム合金」に訂正する。
(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10において、「請求項1に記載のアルミニウム合金」とあるのを「請求項2に記載のアルミニウム合金」に訂正する。
2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正の目的、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
ア 訂正事項1に係る訂正について
(ア) 訂正の目的について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
訂正事項1に係る訂正は、請求項1を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(ウ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
上記(ア)のとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
イ 訂正事項2に係る訂正について
(ア) 訂正の目的について
訂正事項2に係る請求項2の訂正は、本件訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用するものであるところ、訂正事項1で請求項1が削除されて請求項1を引用できなくなったことに伴い、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
訂正事項2に係る訂正は、請求項間の引用関係を解消して独立形式請求項へ改めるものである。また、請求項2は、請求項1の発明特定事項を全て含み、Cu、Fe、Mg、Mn、Si、Ti、Zn及びCrの数値範囲をさらに限定するものであり、請求項1を引用するか否かによって、請求項2に係る発明の技術的範囲は変わらないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(ウ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
上記(ア)のとおり、訂正事項2に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、請求項2は、請求項1の発明特定事項を全て含み、Cu、Fe、Mg、Mn、Si、Ti、Zn及びCrの数値範囲をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
請求項3の訂正についても、請求項2の訂正と同様である。
ウ 訂正事項3に係る訂正について
(ア) 訂正の目的について
訂正事項3に係る請求項4の訂正は、訂正事項1で請求項1が削除されて請求項1を引用できなくなったことに伴い、請求項間の引用関係を解消する訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
訂正事項3は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(ウ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
上記(ア)のとおり、訂正事項3に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。
エ 訂正事項4に係る訂正について
(ア) 訂正の目的について
訂正事項4に係る請求項5~8の訂正は、本件訂正前の請求項5、6、7及び8が、それぞれ請求項1から4、請求項1から5、請求項1~6及び請求項1~6のいずれか一項の記載を引用するものであるところ、訂正事項1で請求項1が削除されて請求項1を引用できなくなったことに伴い、請求項2から4、請求項2から5、請求項2~6及び請求項2~6のいずれか一項を引用するものへ改めるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(ウ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
上記(ア)のとおり、訂正事項4に係る訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
オ 訂正事項5に係る訂正について
(ア) 訂正の目的について
訂正事項5に係る請求項9の訂正は、本件訂正前の請求項9が請求項1の記載を引用するものであるところ、訂正事項1で請求項1が削除されて請求項1を引用できなくなったことに伴い、請求項2を引用するものへ改めるものであり、上記イ(ウ)に示したように、新たな引用元となる請求項2は、請求項1の発明特定事項を全て含み、Cu、Fe、Mg、Mn、Si、Ti、Zn及びCrの数値範囲をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
(イ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
訂正事項5は、引用する請求項を本件訂正前の請求項1を減縮した請求項2へ改める訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(ウ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
上記(ア)のとおり、訂正事項5に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
カ 訂正事項6に係る訂正について
(ア) 訂正の目的について
訂正事項6に係る訂正は、本件訂正前の請求項10が請求項1の記載を引用するものであり、請求項11~17が請求項10を直接又は間接的に引用するものであるところ、訂正事項1で請求項1が削除されて請求項1を引用できなくなったことに伴い、請求項10が請求項2を引用する記載へ改めるものであり、上記イ(ウ)に示したように、新たな引用元となる請求項2は、請求項1の発明特定事項を全て含み、Cu、Fe、Mg、Mn、Si、Ti、Zn及びCrの数値範囲をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。
(イ) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
訂正事項6は、引用する請求項を本件訂正前の請求項1を減縮した請求項2へ改める訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(ウ) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
上記(ア)のとおり、訂正事項6に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2) 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~17について、訂正前の請求項2~17はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1~17は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、本件訂正請求は、請求項間の引用関係の解消を目的とする訂正に係るものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、訂正後の請求項〔1~17〕を訂正単位とする訂正を請求するものである。
(3)独立特許要件について
本件は、訂正前の請求項1~15について特許異議の申立てがされているので、訂正事項1~5に係る訂正、及び訂正事項6に係る請求項10~15の訂正について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
一方、本件訂正後の請求項16~17に記載された発明は、訂正事項6によって請求項10が減縮されることに伴い、それを引用する請求項16、17も減縮されるため、独立特許要件が課されるところ、以下の第5の3に示すように、独立特許要件を満たすものである。
3 本件訂正請求についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項、及び同条第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~17〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正請求は認められるので、本件特許の請求項1~17に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明17」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~17に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。
「 【請求項1】(削除)
【請求項2】
以下の組成:Cu:0.05重量%~0.10重量%、Fe:0.27重量%~0.33重量%、Mg:0.46重量%~0.52重量%、Mn:1.67重量%~1.8重量%、Si:0.17重量%~0.23重量%、Ti:0.12重量%~0.17重量%、Zn:0.12重量%~0.17重量%、Cr:0重量%~0.01重量%、Pb:0重量%~0.005重量%、Ca:0重量%~0.03重量%、Cd:0重量%~0.004重量%、Li:0重量%~0.0001重量%、Na:0重量%~0.0005重量%、個々に0.03重量%まで、及び合計で0.10重量%までの不純物、ならびに残りはAlである、アルミニウム合金。
【請求項3】
Cuが、0.07%の量で存在し、Feが、0.3%の量で存在し、Mgが、0.5%の量で存在し、Mnが、1.73%の量で存在し、Siが、0.2%の量で存在し、Tiが、0.15%の量で存在し、Znが、0.15%の量で存在する、請求項2に記載のアルミニウム合金。
【請求項4】
前記アルミニウム合金の電気伝導性は、国際軟銅規格(IACS)に基づいて40%超である、請求項2または3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項5】
前記アルミニウム合金の電気伝導性は、IACSに基づいて41%である、請求項2から4のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項6】
前記アルミニウム合金の腐食電位は、-735mVである、請求項2から5のいずれか一項に記載のアルミニウム合金。
【請求項7】
H調質度にある、請求項2~6のいずれか一項に記載の合金。
【請求項8】
O調質度にある、請求項2~6のいずれか一項に記載の合金。
【請求項9】
アルミニウム合金を生成する方法であって、
請求項2に記載のアルミニウム合金を鋳造して、鋳造アルミニウム合金を形成することと;
前記鋳造アルミニウム合金を均質化することと;
前記鋳造アルミニウム合金を熱間圧延して、中間ゲージシートを生成することと;
前記中間ゲージシートを冷間圧延して、最終ゲージシートを生成することと;
前記最終ゲージシートを焼鈍することと、
を含む、方法。
【請求項10】
請求項2に記載のアルミニウム合金を含むアルミニウム物品。
【請求項11】
熱交換器部品を含む、請求項10に記載のアルミニウム物品。
【請求項12】
前記熱交換器部品は、放熱器、凝縮器、蒸発器、油冷却器、中間冷却器、給気冷却器、およびヒーターコアの少なくとも1つを含む、請求項11に記載のアルミニウム物品。
【請求項13】
前記熱交換器部品は、管を含む、請求項11に記載のアルミニウム物品。
【請求項14】
室内暖房、換気、空調及び冷凍(HVAC&R)ユニットを含む、請求項10に記載のアルミニウム物品。
【請求項15】
室外HVAC&Rユニットを含む、請求項10に記載のアルミニウム物品。
【請求項16】
排水溝ストックまたはかんがいパイプを含む、請求項10に記載のアルミニウム物品。
【請求項17】
海上船舶を含む、請求項10に記載のアルミニウム物品。」
第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1~7号証を提出し、以下の理由により、本件訂正前の請求項1~15に係る発明に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1) 申立理由1(新規性欠如)(取消理由に不採用)
本件訂正前の請求項1、7、9、10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、その発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当する。
本件訂正前の請求項4に係る発明は、甲4~6号証に記載された事項を踏まえると、甲第1号証に記載された発明であるといえ、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、その発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当する。
(2) 申立理由2(新規性欠如)(取消理由に不採用)
本件訂正前の請求項1~3、10~15に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、その発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当する。
本件訂正前の請求項4に係る発明は、甲4~6号証に記載された事項を踏まえると、甲第2号証に記載された発明であるといえ、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、その発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当する。
(3) 申立理由3(新規性欠如)(取消理由に不採用)
本件訂正前の請求項1~3、9~10に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、その発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当する。
本件訂正前の請求項4に係る発明は、甲4~6号証に記載された事項を踏まえると、甲第3号証に記載された発明であるといえ、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、その発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当する。
(4) 申立理由4(進歩性欠如)(取消理由に不採用)
本件訂正前の請求項1、4、7~10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当する。
さらに、本件訂正前の請求項4~10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当する。
(5) 申立理由5(進歩性欠如)(取消理由に不採用)
本件訂正前の請求項1~4、7~15に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当する。
さらに、本件訂正前の請求項4~15に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当する。
(6) 申立理由6(進歩性欠如)(取消理由に一部採用)
本件訂正前の請求項1~4、7~10に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当する。
さらに、本件訂正前の請求項4~10に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と、甲第7号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当する。
[証拠方法]
甲第1号証:特許第4242225号公報
甲第2号証:特開2015-58466号公報
甲第3号証:特開平8-35045号公報
甲第4号証:JISハンドブック 3 非鉄、2002年1月31日、財団法人日本規格協会、p.512-513
甲第5号証:Aluminum standards and data 2000,2000年6月、The Aluminum Association、p.2-10
甲第6号証:アルミニウム材料の基礎と工業技術、平成22年10月25日、社団法人日本アルミニウム協会、p.342-343
甲第7号証:特開2011-132570号公報
(以下、甲第1号証~甲第7号証を、それぞれ「甲1」等ということがある。)
2 取消理由の概要
当審は、上記1の申立理由1~6のうち申立理由6を一部採用して、令和 4年11月21日付けで取消理由を通知した。その概要は以下のとおりである。
(1) 取消理由1(進歩性:申立理由6に対応)について
本件訂正前の請求項1、7、10に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と、本願出願時に周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
1 取消理由1について
上記第2及び第3で述べたとおり、本件訂正により請求項1が削除されたため、本件訂正前の請求項1に係る特許に対する取消理由は、その対象となる請求項が存在しないものとなった。
また、本件訂正により、請求項7、10も取消理由1の対象となっていない請求項である請求項2を引用するよう訂正されたため、取消理由1は全て解消した。
2 採用されなかった申立理由について
(1)申立理由1、4について
ア 本件訂正により請求項1が削除されたため、本件訂正前の請求項1に係る特許に対する申立理由1、4は、それらの対象となる請求項が存在しないものとなった。
イ 申立理由1又は4の対象請求項である請求項4~10は、本件訂正により請求項2を引用するよう訂正されたため、まず請求項2に係る発明(本件発明2)が、甲1に記載された発明に対して新規性、進歩性を有するか否かについて、以下検討する。
ウ 甲1には、「電池ケース用アルミニウム合金板およびその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【請求項1】
Mn:1.0%(質量%、以下同じ)を越え1.5%未満、Mg:0.3%を越え0.8%未満、Cu:0.3%を越え0.6%未満、Si:0.05~0.25%、Fe:0.2~0.5%を含有し、残部Alおよび不純物からなり、3Cu(%)<Mn(%)+Mg(%)を満足する組成をそなえていることを特徴とする電池ケース用アルミニウム合金板。」
「【0013】
本発明の電池ケース用アルミニウム合金板における合金成分の意義および限定理由について説明すると、Mnはクリープ特性の向上に有効に機能するもので、固溶状態であることが重要である。固溶Mn原子は40~90℃の温度においても転位の移動を抑制する効果があり、クリープ変形し難くするため、クリープ特性を向上させるためにば固溶Mnを多くすることが重要である。
【0014】
また、Mnは、合金の鋳造時、均質化処理時にAl-Mn-Fe系化合物を形成する。Al-Mn-Fe系化合物の形成によりMn固溶量は減少するが、Al-Mn-Fe系化合物は、しごき加工時の板表面性状を良好にするために必須のものであり、Al-Mn-Fe系化合物の存在により素材の工具(ダイス)への焼き付きが防止され金属光沢を有するしごき加工面を得ることができる。Mnの好ましい含有量は1.0%を越え、1.5%未満の範囲であり、1.0%以下では電池ケースの膨れ防止するに十分なクリープ特性が得られず、1.5%以上では、鋳造時に粗大なAl-Mn-Fe系化合物が生成され易く、絞り成形、しごき加工において割れが生じ易くなる。」
「【0016】
Cuは、Mn、Mgと同様、固溶状態において転位の移動を抑制するよう作用し、クリープ変形を生じ難くする。レーザー溶接において、溶融したマトリックスが凝固する際、Cuは一部固溶するが、Al-Cu系、Al-Mg-Cu系およびAl-Mn-Cu系化合物が形成し、このうちAl-Cu系共晶化合物は融点が低く、凝固時の亀裂発生の原因となる。Al-Cu系共晶化合物の形成を防ぐためには、CuをMgやMnと結合させて、Al-Mg-Cu系化合物やAl-Mn-Cu系化合物を形成させる必要があり、そのためにCu含有量は厳密に管理することが重要である。Cuの好ましい含有量は0.3%を越え0.6%未満の範囲であり、0.3%以下ではクリープ特性の向上効果が小さく、0.6%以上ではAl-Cu系共晶化合物が生成され易くレーザー溶接時に亀裂が生じ易くなる。」
「【0019】
Feは、合金の鋳造時、均質化処理時にAl-Mn-Fe系化合物を形成する。Al-Mn-Fe系化合物の形成によりMn固溶量は減少するが、Al-Mn-Fe系化合物は、しごき加工時の板表面性状を良好にするために必須のものである。Feの好ましい含有量は0.2~0.5%の範囲であり、0.5%を越えると、鋳造時に粗大なAl-Mn-Fe系化合物が形成され易くなり、しごき加工において破胴の原因となる。また固溶Mnによるクリープ特性の向上効果を低下させる。Fe含有量を0.2%未満とすると、高純度の地金を使用しなければならず製造コストが上昇する。Feのさらに好ましい含有範囲は0.3~0.45%である。なお、本発明のアルミニウム合金においては、0.5%以下のTi、0.1%以下のB、0.3%以下のCr、0.3%以下のZnが含有されていても本発明の性能に影響を与えることはない。
【0020】
本発明によるアルミニウム合金板の製造について説明すると、上記の組成を有するアルミニウム合金を、例えば半連続鋳造により造塊し、得られた鋳塊を、常法に従って均質化処理、熱間圧延を行い、熱間圧延後直ちに中間焼鈍を行い、あるいは熱間圧延後に冷間圧延してから中間焼鈍を行い、中間焼鈍後に加工度20~60%の最終冷間圧延を行う。」
エ 上記ウに摘記した記載に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「Mn:1.0%(質量%、以下同じ)を越え1.5%未満、Mg:0.3%を越え0.8%未満、Cu:0.3%を越え0.6%未満、Si:0.05~0.25%、Fe:0.2~0.5%、0.5%以下のTi、0.1%以下のB、0.3%以下のCr、0.3%以下のZnを含有し、残部Alおよび不純物からなり、3Cu(%)<Mn(%)+Mg(%)を満足する組成をそなえている電池ケース用アルミニウム合金板を構成するアルミニウム合金。」(以下「甲1発明」という。)
オ 本件発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明も本件発明2も、Mn、Mg、Cu、Si、Fe、Ti、Cr及びZnを含有する。
カ 本件発明2のPb、Ca、Cd、Li及びNaの含有量は、各々その下限値が「0重量%」と規定されたものであり、本願の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0038】~【0042】の記載からみて、Pb、Ca、Cd、Li及びNaが「存在しない」ことを包含すると解される。
そうすると、甲1発明の上記成分組成において、Pb、Ca、Cd、Li及びNaの各含有量が明示されていないことは、甲1発明に、これらの元素が含有しないか、含有するとしても不純物量で含有するものと解されるから、これらの元素の含有量は、本件発明2で規定されているPb、Ca、Cd、Li及びNaの各含有量と、下限値が0%である点で共通する。
キ 甲1発明において「残部Alおよび不純物からな」ることは、本件発明2の「不純物」を含み、「、ならびに残りはAlである」ことに相当し、甲1発明における「電池ケース用アルミニウム合金板を構成するアルミニウム合金」は、明らかに本件発明2の「アルミニウム合金」に相当する。
ク そうすると、本件発明2と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「Cu、Fe、Mg、Mn、Si、Ti、Zn、Cr、Pb:0重量%以上、Ca:0重量%以上、Cd:0重量%以上、Li:0重量%以上、Na:0重量%以上、及び不純物、ならびに残りはAlである、アルミニウム合金。」
<相違点1>
Cu、Fe、Mg、Mn、Si、Ti、Zn及びCrの各含有量について、本件発明2は、Cu:0.05重量%~0.10重量%、Fe:0.27重量%~0.33重量%、Mg:0.46重量%~0.52重量%、Mn:1.67重量%~1.8重量%、Si:0.17重量%~0.23重量%、Ti:0.12重量%~0.17重量%、Zn:0.12重量%~0.17重量%、Cr:0重量%~0.01重量%であるのに対し、甲1発明は、質量%でCu:0.3%を越え0.6%未満、Fe:0.2~0.5%、Mg:0.3%を越え0.8%未満、Mn:1.0%を越え1.5%未満、Si:0.05~0.25%、0.5%以下のTi、0.3%以下のZn、0.3%以下のCrである点。
<相違点2>
Pb、Ca、Cd、Li及びNaの各含有量について、本件発明2は、Pb:0重量%~0.005重量%、Ca:0重量%~0.03重量%、Cd:0重量%~0.004重量%、Li:0重量%~0.0001重量%、Na:0重量%~0.0005重量%であるのに対し、甲1発明は、これらの元素の含有量が不明である点。
<相違点3>
不純物の含有量が、本件発明2では「個々に0.03重量%まで、及び合計で0.10%まで」と特定されているのに対し、甲1発明では、そのように特定されていない点。
ケ そこで、まず、相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲1発明におけるCu及びMnの各含有量は、それぞれ、「0.3%を越え0.6%未満」及び「1.0%を越え1.5%未満」であり、本件発明2における「0.05重量%~0.10重量%」及び「1.67重量%~1.8重量%」とは明らかに異なる。
以上によれば、相違点1におけるCu及びMnの各含有量は、実質的な相違点である。
したがって、相違点1におけるCu及びMn以外の元素の含有量、相違点2及び相違点3について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
コ 次に、相違点1の容易想到性について検討する。甲1には、次の記載がある。
「【0003】
電池ケースをアルミニウム合金板で製作する場合、電池ケースは角形であるため、複数の工程の絞りおよびしごき加工の組み合わせにより成形しなければならず成形性が問題となり、成形性が良く、成形加工後の光沢のある表面状態が得られるA3003合金板の適用が試みられた。」
「【0014】
また、Mnは、合金の鋳造時、均質化処理時にAl-Mn-Fe系化合物を形成する。Al-Mn-Fe系化合物の形成によりMn固溶量は減少するが、Al-Mn-Fe系化合物は、しごき加工時の板表面性状を良好にするために必須のものであり、Al-Mn-Fe系化合物の存在により素材の工具(ダイス)への焼き付きが防止され金属光沢を有するしごき加工面を得ることができる。Mnの好ましい含有量は1.0%を越え、1.5%未満の範囲であり、1.0%以下では電池ケースの膨れ防止するに十分なクリープ特性が得られず、1.5%以上では、鋳造時に粗大なAl-Mn-Fe系化合物が生成され易く、絞り成形、しごき加工において割れが生じ易くなる。」
「【0016】
Cuは、Mn、Mgと同様、固溶状態において転位の移動を抑制するよう作用し、クリープ変形を生じ難くする。・・・Cuの好ましい含有量は0.3%を越え0.6%未満の範囲であり、0.3%以下ではクリープ特性の向上効果が小さく、0.6%以上ではAl-Cu系共晶化合物が生成され易くレーザー溶接時に亀裂が生じ易くなる。」(なお、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)
サ 甲1の【0016】及び【0014】にそれぞれ記載されているように、甲1発明において、Cuの含有量を0.3%以下としたり、Mnの含有量を1.5%以上としたりすることに阻害要因がある。
また、甲1発明において、Cuは合金のクリープ変形を抑制するために添加するものであるのに対し、本件発明2においては、本件明細書の【0030】に記載のとおり、「アルミニウム合金の強度を増加」するために添加されるものである。さらに、甲1発明においては、Mnは電池ケースをアルミニウム合金板で製作するときのしごき加工のために添加するものであるのに対し、本件発明2においては、本件明細書の【0033】に記載のとおり、「固溶強化によりアルミニウムの強度を増加させ」るために添加されるものであり、いずれも技術的意義が異なる。
そして、甲1には、本件発明2のようにアルミニウム合金の強度を増加させるために必要なCuやMnの各含有量については記載も示唆もされておらず、本件発明2のように、それぞれの含有量を0.05重量%~0.10重量%、1.67重量%~1.8重量%とする動機付けは、甲1の記載を参照しても見いだせない。
なお、甲7の【0013】には、Mnの組成を質量%で1.0~1.8とする記載があるが、甲7に記載の発明は熱交換器用Al合金フィン材に関するものであり、電池ケース用アルミニウム合金板に係る甲1発明に適用する動機付けが存在しない。
シ 以上によれば、甲1発明において、Cuの含有量を0.3%を超え0.6%未満に代えて「0.05重量%~0.10重量%」、Mnの含有量を1.0%を超え1.5%未満に代えて「1.67重量%~1.8重量%」とすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって、相違点1におけるCu及びMn以外の元素の含有量、相違点2及び相違点3について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ス そして、本件発明4、7、9~10は、本件発明2の発明特定事項を全て備えたものであるから、本件発明2と同様に、甲1に記載された発明とはいえない。
また、本件発明2が、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明4~10についても同様に、甲1に記載された発明又は甲1及び甲7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
セ したがって、申立理由1、4によっては、本件発明4~10に係る特許を取り消すことはできない。
(2)申立理由2、5について
ア 甲2には、「フラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートおよびその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
「【請求項1】
不活性ガス雰囲気中でフラックスを用いずにアルミニウムをろう付けするために用いるアルミニウム合金ブレージングシートであって、アルミニウム合金の心材の片面または両面に、6~13%(質量%、以下同じ)のSiを含有し、Li:0.004~0.2%、Be:0.004~0.2%、Ca:0.001~0.1%、Ba:0.001~0.1%のうちの1種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるろう材をクラッドし、ろう材の表面にSi含有量を2%以下、Cu含有量を0.3%以下、Mg含有量を0.15%以下に制限し、残部Alおよび不可避的不純物からなる表層材を0.2~1.0%のクラッド率で設けてなり、表層材はろう付け時に溶融したろう中に溶解して消滅するものであることを特徴とするフラックスレスろう付け用アルミニウ合金ブレージングシート。」
「【請求項6】
前記心材がMg:0.2~1.3%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシート。
【請求項7】
前記心材が:Fe:1.0%以下、Mn:0.5~1.8%、Si:1.0%以下、Cu:0.5%以下、Zn:0.5%以下、Ti:0.2%以下、Zr:0.5%以下のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシート。」
「【0051】
実施例1、比較例1
表1に示す組成を有する心材、ろう材および表層材を連続鋳造により造塊し、心材については、鋳塊を所定の厚さまで面削し、ろう材と表層材については、鋳塊を所定厚さまで熱間圧延し、心材の片面にろう材と表層材を積層して熱間クラッド圧延し、冷間圧延を経て厚さ0.4mmのアルミニウム合金ブレージングシート(3層材)を作製した。表層材の平均結晶粒径は、S1が300μm、S2が400μm、S3が250μm、S4が180μm、S5が220μm、S6が120μm、S7が110μmであった。なお、表1において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。」
「【0053】
【表1】
[図:0001402741000001.jpg]
」
イ 上記アに摘記した記載の、特に表1の心材C3に着目すると、甲2には、次の発明が記載されていると認められる。
「Fe0.18%(質量%、以下同じ)、Cu0.15%、Mn1.2%、Mg1.3%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるフラックスレスろう付け用アルミニウム合金ブレージングシートの心材を構成する合金。」(以下「甲2発明」という。)
ウ 本件発明2と甲2発明とを対比すると、甲2発明も本件発明2も、Cu、Fe、Mg及びMnを含有する。また、甲2発明の上記成分組成において、Cr、Pb、Ca、Cd、Li及びNaの各含有量が明示されていないことは、甲2発明に、これらの元素が含有しないか、含有するとしても不可避的不純物量で含有するものと解されるから、これらの元素の含有量は、本件発明2で規定されているCr、Pb、Ca、Cd、Li及びNaの各含有量と、下限値が0%である点で共通する。
エ 甲2発明において「残部Alおよび不可避的不純物からなる」ことは、本件発明2の「不純物」を含み、「、ならびに残りはAlである」ことに相当し、甲2発明における「フラックスレスろう付け用アルミニウ合金ブレージングシートの心材を構成する合金」は、本件発明2の「アルミニウム合金」に相当する。
オ 本件発明2と甲2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「Cu、Fe、Mg、Mn、Cr:0重量%以上%、Pb:0重量%以上%、Ca:0重量%以上%、Cd:0重量%以上、Li:0重量%以上%、Na:0重量%以上%、及び不純物、ならびに残りはAlである、アルミニウム合金。」
<相違点4>
Cu、Fe、Mg及びMnの各含有量について、本件発明2は、Cu:0.05重量%~0.10重量%、Fe:0.27重量%~0.33重量%、Mg:0.46重量%~0.52重量%及びMn:1.67重量%~1.8重量%の組成であるのに対し、甲2発明は、質量%でCu0.15%、Fe0.18%、Mg1.3%及びMn1.2%を含有する点。
<相違点5>
Si、Ti、Zn、Cr、Pb、Ca、Cd、Li及びNaの各含有量について、本件発明2は、Si:0.17重量%~0.23重量%、Ti:0.12重量%~0.17重量%、Zn:0.12重量%~0.17重量%、Cr:0重量%~0.01重量%、Pb:0重量%~0.005重量%、Ca:0重量%~0.03重量%、Cd:0重量%~0.004重量%、Li:0重量%~0.0001重量%及びNa:0重量%~0.0005重量%を有するのに対して、甲2発明は、これらの元素の含有量が不明である点。
<相違点6>
本件発明2は、不純物の含有量が、「個々に0.03重量%まで、及び合計で0.10%まで」と特定されているのに対し、甲2発明では、そのように特定されていない点。
カ まず、相違点4及び相違点5が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲2発明は、甲2における心材C3に着目して認定したものであるところ、Cu、Fe、Mg及びMnの各含有量は、本件発明2とは異なるものである。
また、甲2発明のSi、Ti、Zn、Cr、Pb、Ca、Cd、Li及びNaの各含有量については明確な記載は認められないが、表1において、甲2の心材C3は、Si、Ti、Znについて「-」としか記載されておらず、この記載から本件発明2のような組成範囲のSi、Ti、Znを含有しているとは認められない。そうすると、Si、Ti及びZnの各含有量は、本件発明2とは異なるものである。
以上によれば、相違点4及び相違点5におけるSi、Ti及びZnの各含有量は、実質的な相違点である。
したがって、相違点5におけるSi、Ti及びZn以外の元素の含有量及び相違点6について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2に記載された発明であるとはいえない。
キ 次に、相違点4の容易想到性について検討する。甲2には、次の記載がある。
「【0005】
このニーズに応えるため、先に発明者は、不活性ガス雰囲気中でフラックスを使用しないでろう付け接合する手法として、Mgを含有する心材にLiを添加したAl-Siろう材をクラッドしたブレージングシートを用いる方法を提案した。ろう材に添加したLiと心材から拡散するMgは、ろう材表面のアルミニウム酸化皮膜中に独自の酸化物を形成し、アルミニウム酸化皮膜の破壊を促進する効果を有し、窒素ガス雰囲気中で、フラックスを用いることなくろう付け接合することが可能になる。」
「【0032】
心材については、Mg:0.2~1.3%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を適用することができる。心材のMg含有量が0.2%未満では、ろう材酸化皮膜の脆弱化効果が乏しくなり、1.3%を超えると心材の融点が下がってろう付け接合が困難になる。」
「【0034】
・・・Feは強度向上に有効であるが、1.0%を超えると、耐食性に悪影響が生じるとともに巨大析出物も発生し易くなる。」
ク 上記キで示したように、甲2発明においては、ろう材酸化皮膜の脆弱化効果を目的としてMgを、強度向上を目的としてFeを添加する。これに対して、本件発明2においては、本件明細書の【0031】~【0032】に記載のとおり、Feは、粗金属間構成物質の形成の制御、Mgは、アルミニウム合金の耐腐食性を減少させることなく、及び融点を低下させることなく強度を増加することを目的として添加するものであり、技術的意義が異なる。
そして、甲2には、粗金属間構成物質の形成の制御や、アルミニウム合金の耐腐食性を減少させることなく、及び融点を低下させることなく強度を増加するために必要なFe、Mgの各含有量については記載も示唆もされておらず、本件発明2のように、Fe:0.27重量%~0.33重量%、Mg:0.46重量%~0.52重量%とする動機付けは、甲2の記載を参照しても、見いだせない。
また、甲7の【0018】には、ブレージングシートチューブの芯材として、Fe:0.1~0.4%、Mg:0.05~0.5%を含有することが記載されているが、含有することの技術的意義は記載されておらず、甲2発明に適用する動機付けが存在しない。
ケ 以上によれば、甲2発明において、Feの含有量を0.18質量%に代えて「0.27重量%~0.33重量%」、Mgの含有量を1.3質量%に代えて「0.46重量%~0.52重量%」とすることは、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって、相違点4におけるFe及びMg以外の元素の含有量、相違点5及び相違点6について検討するまでもなく、本件発明2は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
コ 本件発明3~4、10~15は、本件発明2の発明特定事項を全て備えたものであるから、本件発明2と同様に、甲2に記載された発明とはいえない。
また、本件発明2が、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3~15についても同様に、甲2に記載された発明又は甲2及び甲7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
サ したがって、申立理由2、5によっては、本件発明2~15に係る特許を取り消すことはできない。
(3)申立理由3、6について
ア 甲3の【0039】、表1、表2の「合金番号2」から製造された「製造番号2」に着目すると、甲3には、次の発明が記載されていると認められる。
「Mg0.21%(重量%、以下同じ)、Mn1.10%、Fe0.39%、Si0.23%、Cu0.25%、Cr0.02%、Zn0.02%、Ti0.03%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物との成分組成からなる冷延板であって、常法に従ってDC鋳造し、得られた鋳塊に均熱処理を施してから熱間圧延を行ない、熱延上り板厚2mmの熱延板とし、得られた熱延板に、350℃、2時間の再結晶焼鈍を施した後、冷間圧延を施して最終的に板厚0.3mmとした冷延板を構成する合金。」(以下「甲3発明」という。)
イ 本件発明2と甲3発明とを対比すると、甲3発明の成分組成におけるSiの含有量の値は、本件発明2のSiの含有量の数値範囲に包含される。また、甲3発明も本件発明2も、Mg、Mn、Fe、Cu、Cr、Zn、Tiを含有する。
ウ 甲3発明の成分組成において、Pb、Ca、Cd、Li及びNaの各含有量が明示されていないことは、甲3発明に、これらの元素が含有しないか、含有するとしても不可避的不純物量で含有するものと解されるから、これらの元素の含有量は、本件発明2で規定されているPb、Ca、Cd、Li及びNaの各含有量と、下限値が0%である点で共通する。
エ 甲3発明において「残部がAlおよび不可避的不純物」からなることは、本件発明2の「不純物」を含み、「、ならびに残りはAlである」ことに相当する。
オ 甲3発明の「冷延板を構成する合金」は、DI加工と塗装焼付処理を含む加熱処理とが行なわれることにより、アルミニウム合金製DI缶胴を製造するものであるから、アルミニウム合金製DI缶胴の原料となる甲3発明の「冷延板を構成する合金」が「アルミニウム合金」であることは明らかである。
よって、甲3発明の「冷延板を構成する合金」は、本件発明2の「アルミニウム合金」に相当する。
カ 本件発明2と甲3発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
「Cu、Fe、Mg、Mn、Si:0.17重量%~0.23重量%、Ti、Zn、Cr、Pb:0重量%以上、Ca:0重量%以上、Cd:0重量%以上、Li:0重量%以上、Na:0重量%以上、及び不純物、ならびに残りはAlである、アルミニウム合金。」
<相違点7>
Cu、Fe、Mg、Mn、Ti、Zn及びCrの各含有量について、本件発明2は、Cu:0.05重量%~0.10重量%、Fe:0.27重量%~0.33重量%、Mg:0.46重量%~0.52重量%、Mn:1.67重量%~1.8重量%、Ti:0.12重量%~0.17重量%、Zn:0.12重量%~0.17重量%、Cr:0重量%~0.01重量%の組成であるのに対し、甲3発明は、重量%でCu0.25%、Fe0.39%、Mg0.21%、Mn1.10%、Ti0.03%、Zn0.02%、Cr0.02%を含有する点。
<相違点8>
Pb、Ca、Cd、Li及びNaの各含有量について、本件発明2は、Pb:0重量%~0.005重量%、Ca:0重量%~0.03重量%、Cd:0重量%~0.004重量%、Li:0重量%~0.0001重量%及びNa:0重量%~0.0005重量%を有するのに対し、甲3発明は、これらの元素の含有量が不明である点。
<相違点9>
本件発明2は、不純物の含有量が、「個々に0.03重量%まで、及び合計で0.10重量%まで」と特定されているのに対し、甲3発明では、そのように特定されていない点。
キ そこで、まず、相違点7が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲3発明は、甲3における「合金番号2」から製造された「製造番号2」に着目して認定したものであるところ、Cu、Fe、Mg、Mn、Ti、Zn及びCrの各含有量は、本件発明2のものとは明らかに異なるものである。
以上によれば、相違点7は実質的な相違点である。
したがって、相違点8及び相違点9について検討するまでもなく、本件発明2は、甲3に記載された発明であるとはいえない。
ク 次に、相違点7の容易想到性について検討する。甲3には、次の記載がある。
「【0012】Mn:Mnは強度、成形性の向上に寄与するに有効な元素である。特にこの発明で対象としている缶胴の製造過程では、DI成形時に苛酷なしごき加工が施されるため、Mnは重要となる。アルミニウム板のしごき加工においては通常エマルジョンタイプの潤滑剤が用いられているが、Mn系晶出物が少ない場合には同程度の強度を有していてもエマルジョンタイプ潤滑剤だけでは潤滑能が不足し、ゴーリングと呼ばれる擦り疵や焼付きなどの外観不良が発生するおそれがある。この現象は晶出物の大きさ、量、種類に影響されることが知られており、適切なMn系晶出物を形成して、しごき加工における潤滑能を向上させるためにMnは不可欠な元素である。Mn量が1.8%を越えればMnAl6の初晶巨大金属間化合物が発生して、逆に著しく成形性を損ってしまう。またMn量が0.5%未満ではMn系化合物による固体潤滑的な効果が得られない。そこでMnの範囲は0.5~1.8%とした。」
ケ 上記クで示したように、甲3発明においては、しごき加工における潤滑能を向上させるために0.5~1.8%の範囲でMnを添加するものである。これに対し、本件発明2においては、本件明細書の【0033】に記載のとおり、「固溶強化によりアルミニウムの強度を増加させ」るため、1.67重量%~1.8重量%のMnを添加するものであり、技術的意義が異なる。
また、甲3の【0046】~【0047】に記載のとおり、甲3発明は、Mnを1.10%含有することで、DI成形性を向上させるという課題が解決されているものであるから、Mnの含有量を増加させる動機付けがあるとはいえない。
なお、甲第7号証の【0013】には、Mnの組成を質量%で1.0~1.8とする記載があるが、甲第7号証に記載の発明は熱交換器用Al合金フィン材に関するものであり、2ピースアルミニウム缶の缶胴に係る甲3発明に適用する動機付けが存在しない 。
コ 以上によれば、甲3発明において、Mnの含有量を1.10%に代えて「1.67重量%~1.8重量%」とすることは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。
したがって、相違点7におけるMn以外の元素の含有量、相違点8及び相違点9について検討するまでもなく、本件発明2は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
サ そして、本件発明3~4、9~10は、本件発明2の発明特定事項を全て備えたものであるから、本件発明2と同様に、甲3に記載された発明とはいえない。
また、本件発明2が、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件発明3~10についても同様に、甲3に記載された発明又は甲3及び甲7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
シ したがって、申立理由3、6によっては、本件発明2~10に係る特許を取り消すことはできない。
3 本件発明16、17について
上記2(1)~(3)に示したとおり、本件特許の請求項2に係る発明は、甲1~甲3に記載された発明であるとはいえないし、甲1~甲3、甲7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。したがって、請求項2を間接的に引用する請求項16、17に係る発明も同様に、甲1~甲3に記載された発明であるとはいえないし、甲1~甲3、甲7に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
また、本件特許の請求項16、17に係る発明については、他に特許を受けることができない理由を発見しないため、これらの発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
第6 むすび
上記第4、第5のとおり、本件特許の請求項2~15に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項2~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項1に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項1に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2022-700732