特許異議申立
2023-700597
蓄電装置用外装材の製造方法及び蓄電装置の製造方法
- 審判番号
- 2023-700597
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-205960
- 登録番号
- 7185995
- 請求日
- 2023年06月07日
- 審決日
- 2023年08月17日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】凸版印刷株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】鈴木 洋平
- 【権利者代理人】阿部 寛
- 【権利者代理人】吉住 和之
- 【異議申立人】田中 俊子
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 須原 宏光
- 審判官 小池 秀介
- 分類
- P1651.121-Y (H01M) / P1651.536-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7185995号発明「蓄電装置用外装材の製造方法及び蓄電装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7185995号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7185995号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成28年10月20日の出願であって、令和4年11月30日に特許権の設定登録がされ、令和4年12月8日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、令和5年6月7日に特許異議申立人 田中俊子 により請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも、コロナ処理が施された表面を有する基材層、前記表面に直接接している接着層、金属箔層、シーラント接着層及びシーラント層がこの順になるように積層し且つ温度条件80~140℃のドライラミネートを実施する工程を備え、
前記基材層の厚さが6~40μmであり、前記金属箔層の厚さが9~200μmであり、前記シーラント層の厚さが10~100μmであり、
前記金属箔層が軟質アルミニウム箔であり、
前記基材層は、下記式(1)で示されるΔAが10%以上であり且つ160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルムからなる層である、蓄電装置用外装材の製造方法。
ΔA=(160℃での熱処理後の破断伸度)-(160℃での熱処理前の破断伸度) ・・・(1)
[破断伸度及び50%伸長時応力値は、それぞれ基材層の4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)に対し引張試験(試験片形状:JIS K7127に規定される5号型ダンベル状、チャック間距離:75mm、標点間距離:25mm、試験速度:50mm/min)を行ったときの23℃における平均値である。]
【請求項2】
前記基材層は、200℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルムからなる層である、請求項1に記載の蓄電装置用外装材の製造方法。
【請求項3】
少なくとも基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層及びシーラント層がこの順になるように積層し且つ温度条件80~140℃のドライラミネートを実施する工程を備え、
前記工程において、前記基材層と前記接着層との間に、水溶性ポリエステルと自己乳化型ポリイソシアネートとを含む易接着処理層を更に積層し、
前記基材層の厚さが6~40μmであり、前記金属箔層の厚さが9~200μmであり、前記シーラント層の厚さが10~100μmであり、
前記金属箔層が軟質アルミニウム箔であり、
前記基材層は、下記式(1)で示されるΔAが10%以上であり且つ160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルムからなる層である、蓄電装置用外装材の製造方法。
ΔA=(160℃での熱処理後の破断伸度)-(160℃での熱処理前の破断伸度)・・・(1)
[破断伸度及び50%伸長時応力値は、それぞれ基材層の4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)に対し引張試験(試験片形状:JIS K7127に規定される5号型ダンベル状、チャック間距離:75mm、標点間距離:25mm、試験速度:50mm/min)を行ったときの23℃における平均値である。]
【請求項4】
前記工程において、前記金属箔層の両面に腐食防止処理層を更に積層する、請求項1~3のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材の製造方法。
【請求項5】
前記腐食防止処理層が、希土類元素酸化物、及び、リン酸又はリン酸塩を含む、請求項4に記載の蓄電装置用外装材の製造方法。
【請求項6】
前記希土類元素酸化物が酸化セリウムである、請求項5に記載の蓄電装置用外装材の製造方法。
【請求項7】
前記シーラント層は、静摩擦係数が0.10~0.30である表面を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材の製造方法。
【請求項8】
電極を含む電池要素と、前記電極から延在するリードと、前記リードを挟持し且つ前記電池要素を収容する容器とを備える蓄電装置の製造方法であって、
請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法で製造された蓄電装置用外装材を用いて、前記シーラント層が内側となるように前記容器を形成する工程を備える、蓄電装置の製造方法。」
第3 申立理由の概要
申立理由1
請求項1ないし6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された技術に基づいて、請求項7、8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
申立理由2
請求項1ないし8に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないため、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
申立理由3
請求項1ないし8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないため、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
<証拠方法>
甲第1号証:特開2001-30407号公報
甲第2号証:特開2016-162622号公報
甲第3号証:特開2014-22080号公報
甲第4号証:特開2012-59379号公報
甲第5号証:特開2012-104248号公報
甲第6号証:国際公開第2015/163371号
甲第7号証:特開2016-131104号公報
甲第8号証:国際公開第2015/156327号
甲第9号証:東レ株式会社のウエブページ(https://www.films.toray/products/lumirror/)のプリントアウト
甲第10号証:東レ株式会社のウエブページ(https://www.films.toray/products/lumirror/Ium_002.html)のプリントアウト
甲第11号証:東洋紡株式会社のウェブページ(https://www.toyobo.co.jp/products/ind_film/industrial_film/ester/index.html)のプリントアウト
第4 甲各号証の記載事項、引用発明
1 甲第1号証
(1)甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐酸性、耐有機溶剤性を有する接着剤を用いた、特にポリマー電池用包装材料等に利用される積層体に関する。」
「【0030】
【実施例】本発明の積層体の層構成を、パウチタイプ、エンボスタイプとしてそれぞれ具体的に説明する。説明に用いた略号等はつぎの通りである。
〔略号 DL: ドライラミネート、TL: 熱ラミネート、AL: アルミニウム、Ny: ナイロン、RAM-PP: ランダム重合されたポリプロピレン、HOMO-PP:ホモタイプポリプロピレン、//: 共押出し、 Tr-Ac:リン酸塩処理、Tr-Co-PAc-cr: 炭酸カルシウム添加リン酸クロム酸処理、略号の後の( ) 内の数字は層の厚みμm〕
なお、ドライラミネートに用いた接着剤はそれぞれつぎの組成のものである。
DL-1:ポリエーテルを主成分とした接着剤、タケラックA-969V/A-5( 武田薬品工業株式会社製 商品名)
DL-2:成分構成は、主剤としては、ポリエステルポリウレタン樹脂がセバシン酸、イソフタル酸、テレフタル酸からなるカルボン酸とエチレングリコール、ヘキサンジオールからなるグリコール、イソシアネート(IPDI)およびビスフェノールA からなるエポキシ樹脂からなり、また、硬化剤としては、トリメチロールプロパン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、1,3-ブタンジオールからなるグリコール、イソシアネート(TDI) 、他(TDA) からなるものを用いた。パウチタイプ仕様としては、例えば次の3例を挙げることができる。
(実施例1) 二軸延伸ポリエステルフィルム(12 μm) とアルミニウム(20μm) とを接着剤DL-1を用いたドライラミネーション法により積層し、前記アルミニウム面に二軸延伸ポリエステルフィルム(12μm) 、さらに、不飽和カルボン酸グラフトポリプロピレンフィルム(50 μm) を接着剤DL-2を用いたドライラミネーション法により積層体(1) を得た。
(1) PET(12)/DL-1/AL(20)/DL-2/PET(12)/DL-2/PPa(50)
(実施例2)二軸延伸ポリエステルフィルム(12 μm) とアルミニウム(20μm) とを接着剤DL-1を用いたドライラミネーション法により積層しラミネートAとし、不飽和カルボン酸グラフトポリプロピレン(20μm) と二軸延伸ポリエステルフィルム(12 μm) と不飽和カルボン酸グラフトポリプロピレンフィルム(50μm) とを接着剤DL-2を用いドライラミネーション法により貼り合わせラミネートBとし、前記ラミネートAのアルミニウム面とラミネートBの不飽和カルボン酸グラフトポリプロピレン(20μm) 面とを、温度 220℃、圧力0.5Mpa、ライン速度30メートル/ 分の条件により熱ラミネーション法により貼り合わせて積層体(2) を得た。
(2) PET(12)/DL-1/AL(20)/TL/PPa(20)/DL-2/ PET(12)/DL-2/PPa(50)
(実施例3)アルミニウム(20 μm) をリン酸塩処理により耐酸性改質皮膜を形成した後、二軸延伸ポリエステルフィルム(12 μm) と接着剤DL-1を用いてドライラミネートしてラミネートAとし、ランダムタイプポリプロピレンとホモタイプポリプロピレンとを共押出し法により製膜し、前記ラミネートAのアルミニウム面と前記共押出し法により製膜されたランダムポリプロピレン面とを接着剤DL-2を用いてドライラミネーション法により貼り合わせて積層体(3) を得た。(3) PET(12)/DL-1/AL(20)Tr-Ac/DL-2/RAM-PP(5)//HOMO-PP(25)
また、エンボスタイプ仕様としては、次の3例を挙げることができる。・・・」
ここで、特許異議申立人が引用する実施例3の積層体(3)の製造方法に着目すると、甲第1号証には、積層体(3)の製造方法に関して、次の事項が記載されている。
a 甲第1号証は、ポリマー電池用包装材料に利用される積層体に関するものであるから(【0001】)、実施例3の積層体(3)の製造方法は、ポリマー電池用包装材料に利用される積層体の製造方法である。
b 実施例3の積層体(3)は、パウチタイプ仕様である。(【0030】)
c 【0030】によれば、アルミニウム(20μm) を二軸延伸ポリエステルフィルム(12μm) と接着剤DL-1を用いてドライラミネートしてラミネートAとし、ランダムタイプポリプロピレン(5μm)とホモタイプポリプロピレン(25μm)とを共押出し法により製膜し、前記ラミネートAのアルミニウム面と前記共押出し法により製膜されたランダムポリプロピレン面とを接着剤DL-2を用いてドライラミネーション法により貼り合わせる積層体(3)を得た。
(2)引用発明
上記記載事項より、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ポリマー電池用包装材料に利用される積層体の製造方法であって、
積層体はパウチタイプ仕様であり、
アルミニウム(20μm) を二軸延伸ポリエステルフィルム(12μm) と接着剤DL-1を用いてドライラミネートしてラミネートAとし、ランダムタイプポリプロピレン(5μm)とホモタイプポリプロピレン(25μm)とを共押出し法により製膜し、前記ラミネートAのアルミニウム面と前記共押出し法により製膜されたランダムポリプロピレン面とを接着剤DL-2を用いてドライラミネーション法により貼り合わせる積層体(3)の製造方法。」
2 甲第2号証
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
「【0033】
(易接着処理層12)
易接着処理層12は、基材層11の一方の面側に設けられ、基材層11と接着層13との間に配置されている。易接着処理層12は、基材層11と接着層13との間の密着性を向上させ、ひいては基材層11と金属箔層14との間の密着性を向上させるための層である。蓄電装置用外装材10において、易接着処理層12は設けられていなくてもよい。その場合、基材層11と接着層13との間の密着性を向上させ、ひいては基材層11と金属箔層14との間の密着性を向上させるために、基材層11の接着層13側の面をコロナ処理してもよい。」
「【0056】
また、アルミニウム箔としては、所望の成型時の延展性を付与できる点から、焼鈍処理を施した軟質アルミニウム箔(例えば、JIS規格でいう8021材、8079材よりなるアルミニウム箔)がさらに好ましい。」
「【0126】
(工程S13)
工程S13では、腐食防止処理層15aの金属箔層14とは反対側の面と、上記積層体の易接着処理層12側の面とが、接着層13を形成する接着剤を用いてドライラミネーション等の手法で貼り合わせられる。工程S13では、接着性の促進のため、室温~100℃の範囲でエージング(養生)処理を行ってもよい。エージング時間は、例えば、1~10日である。」
3 甲第3号証
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
「【0050】
本発明において、「熱溶融型接着樹脂」とは、加熱することで溶融して接着性能を発揮できる樹脂であり、サーマルラミネーションやサンドラミネーション等によって接着機能を発現できる樹脂である。即ち、熱溶融型接着樹脂は、一般的なドライラミネート用接着剤のように、温度40~120℃の環境下で1日~14日間程度のエージングによる硬化を経て接着機能を発現するものとは区別される。」
「【0062】
[金属層4]
本発明の電池用包装材料において、金属層4は、包装材料の強度向上の他、電池内部に水蒸気、酸素、光等が侵入するのを防止するためのバリア層として機能する層である。金属層4を形成する金属としては、具体的には、アルミニウム、ステンレス、チタン等の金属箔が挙げられる。これらの中でも、アルミニウムが好適に使用される。包装材料の製造時にしわやピンホールを防止するために、本発明において金属層4として、軟質アルミニウム、例えば、焼きなまし処理済みのアルミニウム(JIS A8021P-O)又は(JIS A8079P-O)等を用いることが好ましい。」
4 甲第4号証
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
「【0064】
[実施例5]
実施例1において二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(A)として、厚さ12μm、破断強度が240MPa、破断伸度が118%の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製「ルミラー」(登録商標)P60)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、A/B/C/D積層材を作成した。特性は表1に示す。」
5 甲第5号証
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
「【0049】
[実施例1]
厚さ12μm、破断強度が240MPa、破断伸度が118%の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(A)(東レ株式会社製「ルミラー」(登録商標)P60)と、厚さ15μm、破断強度が103MPa、破断伸度が398%の無延伸ナイロン6フィルム(B)(東レフィルム加工株式会社製「レイファン」(登録商標)NO 1401)をドライラミネート法によって、三井化学ポリウレタン株式会社製の“タケラック A-910(ポリオール系主剤)”/“タケネート A-3(イソシアネート系硬化剤)”二液タイプ(100重量部/10重量部)接着剤を用いてA/B積層材を作成した。ここで、接着剤塗布量は固形分としてA側に5g/m2とし、A/B貼り合わせ後、40℃、72時間のエージング処理を行った。」
6 甲第6号証
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
「[0089]
表1中、ポリエステルエラストマーとして「ハイトレル」(商品名、東レ・デュポン社製)を、非晶質ポリエステルとして「SKYGREEN」(商品名、SKケミカル社製)をそれぞれ使用した。また、基材A-21及び基材A-34としては、ポリエステルエラストマー及び非晶質ポリエステルを含有しない二軸延伸PETフィルム(商品名「ルミラー」、東レフィルム加工社製)を用いた。」
7 甲第7号証
甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
「【0069】
<比較例3>
比較例2にて用いた二軸延伸Nyフィルムの代わりに、二軸延伸PETフィルム(ルミラー、厚み9μm、東レ社製)を貼り合わせ、その他の条件は、実施例1と同じとし、比較例3の蓄電デバイス用外装体を得た。」
8 甲第8号証
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
「[0082]
・・・基材層側表面とシーラント層側表面の静摩擦係数はそれぞれ、0.20及び0.20であった。」
9 甲第9号証
甲第9号証には、以下の事項が記載されている。
「ルミラー(登録商標)は、きわめて優れた強靱性、電気絶縁性、耐熱・耐寒性、耐化学薬品性を持つPETフィルムです。ルミラー(登録商標)は東レが日本で初めて工業化した、二軸延伸ポリエステル(PET)フィルムです。強靭性・電気特性・耐薬品性等に優れ、工業材料として幅広い用途に使用されております。」
「ルミラー(登録商標)相関図
[図:0001401720000001.jpg]
」
10 甲第10号証
甲第10号証には、以下の事項が記載されている。
「13. 耐熱劣化安定性
ルミラー(登録商標)は非常にすぐれた耐熱劣化安定性を有しています。
ルミラー(登録商標)の最高使用可能温度は、一般的にいえば150℃です。かなりの長期にわたるときは130℃以下で使用されることが好ましい。
ルミラー(登録商標)の代表的な温度における加熱処理後の引張強さおよび伸びは、加熱処理時間とともに、図7および図8のごとく変化をします。
測定に用いたサンプルの厚さはいずれも♯38(38μ)です。」
「
[図:0001401720000002.jpg]
図8 ルミラー(登録商標)の引張り伸びの加熱処理時間にによる変化
」
11 甲第11号証
甲第11号証には、以下の事項が記載されている。
「
[図:0001401720000003.jpg]
」
第5 当審の判断
1 申立理由1(第29条2項)について
(1)本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と引用発明を対比すると、次のことがいえる。
(ア)引用発明の「二軸延伸ポリエステルフィルム(12m)」、「接着剤DL-1」、「アルミニウム(20μm)」、「接着剤DL-2」、「ランダムタイプポリプロピレン(5μm)とホモタイプポリプロピレン(25μm)」は、それぞれ、本件特許発明1の「基材層」、「接着層」、「金属箔層」、「シーラント接着層」、「シーラント層」に相当する。
そして、甲第1号証には「(3) PET(12)/DL-1/AL(20)Tr-Ac/DL-2/RAM-PP(5)//HOMO-PP(25)」(【0030】(実施例3))と記載されていることからも明らかなように、引用発明の「積層体(3)」は「二軸延伸ポリエステルフィルム(12m)」、「接着剤DL-1」、「アルミニウム(20μm)」、「接着剤DL-2」、「ランダムタイプポリプロピレン(5μm)とホモタイプポリプロピレン(25μm)」がこの順になるように積層されてなるものである。
そうすると、引用発明の「前記ラミネートAのアルミニウム面と前記共押出し法により製膜されたランダムポリプロピレン面とを接着剤DL-2を用いてドライラミネーション法により貼り合わせる積層体(3)の製造方法」と本件特許発明1とは、「少なくとも、表面を有する基材層、前記表面に直接接している接着層、金属箔層、シーラント接着層及びシーラント層がこの順になるように積層し且つドライラミネートを実施する工程を備え」る点で共通する。
但し、基材層について、本件特許発明1は「コロナ処理が施された」表面を有するのに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
また、ドライラミネートを実施する工程が、本件特許発明1は「温度条件80~140℃」であるのに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
(イ)引用発明の「二軸延伸ポリエステルフィルム(12m)」、「アルミニウム(20μm)」、「ランダムタイプポリプロピレン(5μm)とホモタイプポリプロピレン(25μm)」は、本件特許発明1の「前記基材層の厚さが6~40μmであり、前記金属箔層の厚さが9~200μmであり、前記シーラント層の厚さが10~100μmであ」ることに相当する。
(ウ)引用発明の「アルミニウム(20μm)」と本件特許発明1の「金属箔層」とは、「アルミニウム箔」である点で共通する。
但し、アルミニウム箔について、本件特許発明1は「軟質」アルミニウム箔であるのに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
(エ)基材層について、本件特許発明1は「下記式(1)で示されるΔAが10%以上であり且つ160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルムからなる層である」「ΔA=(160℃での熱処理後の破断伸度)-(160℃での熱処理前の破断伸度) ・・・(1)[破断伸度及び50%伸長時応力値は、それぞれ基材層の4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)に対し引張試験(試験片形状:JIS K7127に規定される5号型ダンベル状、チャック間距離:75mm、標点間距離:25mm、試験速度:50mm/min)を行ったときの23℃における平均値である。]」のに対して、引用発明はそのような特定がない点で相違する。
(オ)引用発明の「ポリマー電池用包装材料に利用される積層体の製造方法」は、本件特許発明1の「蓄電装置用外装材の製造方法」に相当する。
以上によれば、本件特許発明1と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「少なくとも、表面を有する基材層、前記表面に直接接している接着層、金属箔層、シーラント接着層及びシーラント層がこの順になるように積層し且つドライラミネートを実施する工程を備え、
前記基材層の厚さが6~40μmであり、前記金属箔層の厚さが9~200μmであり、前記シーラント層の厚さが10~100μmであり、
前記金属箔層がアルミニウム箔である、
蓄電装置用外装材の製造方法。」
(相違点1)
基材層について、本件特許発明1は「コロナ処理が施された」表面を有するのに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点2)
ドライラミネートを実施する工程が、本件特許発明1は「温度条件80~140℃」であるのに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点3)
アルミニウム箔について、本件特許発明1は「軟質」アルミニウム箔であるのに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点4)
基材層について、本件特許発明1は「下記式(1)で示されるΔAが10%以上であり且つ160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルムからなる層である」「ΔA=(160℃での熱処理後の破断伸度)-(160℃での熱処理前の破断伸度) ・・・(1)[破断伸度及び50%伸長時応力値は、それぞれ基材層の4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)に対し引張試験(試験片形状:JIS K7127に規定される5号型ダンベル状、チャック間距離:75mm、標点間距離:25mm、試験速度:50mm/min)を行ったときの23℃における平均値である。]」のに対して、引用発明はそのような特定がない点。
イ 判断
事案に鑑み、まず、上記相違点4について検討する。
そもそも、引用発明の「積層体」はパウチタイプ仕様であるから、「二軸延伸ポリエステルフィルム」の特性として深絞り成形性を考慮する必要性はなく、「積層体」に使用する「二軸延伸ポリエステルフィルム」を選択する際の基準として、上記相違点4に係る「ポリエステルフィルム」の特性に着目すべき理由がない。
また、特許異議申立人は、東レ株式会社製のルミラー(登録商標)及び東洋紡エステルフィルム(登録商標)は、それぞれ、蓄電装置用外装材の基材層として汎用されている二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムである(甲第4号証ないし甲第7号証を参照)から、甲第1号証の実施例3の蓄電装置用外装材の製造方法において、二軸延伸ポリエステルフィルム(12μm) として、例えば東レ株式会社製のルミラーを用いることは、当業者にとって極めて容易である旨を主張するので検討する。(特許異議申立書49頁8ないし14行)
たしかに、甲第4号証ないし甲第7号証に記載されているように、蓄電装置用外装材に東レ株式会社製のルミラーを用いることは、よく知られたことであり何ら困難性はないと認められる。
しかしながら、甲第4号証ないし甲第7号証には、ルミラーが上記相違点4に係る特性を示すことは記載されていない。また、申立理由2及び3に係る証拠として提出した甲第9号証及び甲第10号証にはルミラーの種々の特性が示されているが、上記相違点4に係る特性は記載されていない。
以上のことから、当業者が、引用発明の「二軸延伸ポリエステルフィルム」としてルミラーを用いることを着想したとしても、使用するルミラーを選択する際に、上記相違点4に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
したがって、特許異議申立人の主張を採用することができず、上記相違点4に係る構成は、引用発明1及び甲第4号証ないし甲第7号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
さらに、甲第2号証及び甲第3号証の記載事項を検討しても、上記相違点4に係る構成は記載されていなのであるから、上記相違点4に係る構成は、引用発明及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(2)本件特許発明2について
請求項2は請求項1を引用するものであり、本件特許発明2は、本件特許発明1に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同様な理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(3)本件特許発明3について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明との対比を踏まえると(上記「(1)ア」)、本件特許発明3と引用発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「少なくとも基材層、接着層、金属箔層、シーラント接着層及びシーラント層がこの順になるように積層し且つドライラミネートを実施する工程を備え、
前記基材層の厚さが6~40μmであり、前記金属箔層の厚さが9~200μmであり、前記シーラント層の厚さが10~100μmであり、
前記金属箔層がアルミニウム箔である、
蓄電装置用外装材の製造方法。」
(相違点5)
ドライラミネートを実施する工程が、本件特許発明3は「温度条件80~140℃」であるのに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点6)
本件特許発明3は「前記基材層と前記接着層との間に、水溶性ポリエステルと自己乳化型ポリイソシアネートとを含む易接着処理層を更に積層し」ているのに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点7)
アルミニウム箔について、本件特許発明3は「軟質」アルミニウム箔であるのに対して、引用発明はそのような特定がない点。
(相違点8)
基材層について、本件特許発明3は「下記式(1)で示されるΔAが10%以上であり且つ160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルムからなる層である」「ΔA=(160℃での熱処理後の破断伸度)-(160℃での熱処理前の破断伸度) ・・・(1)[破断伸度及び50%伸長時応力値は、それぞれ基材層の4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)に対し引張試験(試験片形状:JIS K7127に規定される5号型ダンベル状、チャック間距離:75mm、標点間距離:25mm、試験速度:50mm/min)を行ったときの23℃における平均値である。]」のに対して、引用発明はそのような特定がない点。
イ 判断
事案に鑑み、まず、上記相違点8について検討する。
上記相違点8は、上記相違点4と同じであるから、上記「(1)イ」を踏まえると、引用発明において上記相違点8に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(4)本件特許発明4ないし6について
請求項4ないし6は請求項1又は3を引用するものであり、本件特許発明4ないし6は、本件特許発明1又は3に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件特許発明1又は3と同様な理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第7号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(5)本件特許発明7、8について
特許異議申立人が、本件特許発明7、8に対して引用した甲第8号証には「基材層側表面とシーラント層側表面の静摩擦係数はそれぞれ、0.20及び0.20であった。」(【0082】)ことが記載されているが、上記相違点4、8に係る構成は記載されていない。
そして、請求項7、8は請求項1又は3を引用するものであり、本件特許発明7、8は、本件特許発明1又は3に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件特許発明1又は3と同様な理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
2 申立理由2(第36条第4項第1号)について
(1)特許異議申立人の主張
a 本件特許発明1、3の構成要件D、J(「前記基材層は、下記式(1)で示されるΔAが10%以上であり且つ160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルムからなる層である、蓄電装置用外装材の製造方法。 ΔA=(160℃での熱処理後の破断伸度)-(160℃での熱処理前の破断伸度) ・・・(1) [破断伸度及び50%伸長時応力値は、それぞれ基材層の4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)に対し引張試験(試験片形状:JIS K7127に規定される5号型ダンベル状、チャック間距離:75mm、標点間距離:25mm、試験速度:50mm/min)を行ったときの23℃における平均値である。]」)に関し、令和4年7月11日付けで意見書が提出されており、実施可能要件違反の拒絶理由に対して、以下の主張がなされている。
「本願の請求項1,3に係る発明は、あくまでも「蓄電装置用外装材の製造方法」に関するものであり、物の発明(蓄電装置用外装材)に関するものではありません。そうしますと、例えば、市販されている種々のポリエステルフィルムから、特定事項1,2に係る要件を満たすポリエステルフィルムを過度な試行錯誤を要することなく当業者が選択して使用することができれば、本願の請求項1,3に係る製造方法について実施可能であると言えると思料致します。そして、当業者であれば、本件明細書の段落[0030]~[0032]の記載を参照しつつ、日本及び海外の素材産業から提供されている種々のポリエステルフィルムのうち、特定事項1,2を満たすポリエステルフィルムを選択して使用することは可能であると思料致します。例えば、日本の素材産業に属する東レ株式会社及び東洋紡株式会社のサイトには種々のポリエステルフィルムが掲載されています。これらのポリエステルフィルムから、当業者であれば過度な試行錯誤を要することなく、特定事項1,2に係る要件を満たすポリエステルフィルムを選択することができます。
・TORAY FILMS ポリエステルフィルム ルミラー(登録商標)、[令和4年7月6日検索]、インターネット<https://www.films.toray/products/lumirror/>
・TOYOBO 工業フィルム事業統括部 二軸延伸ポリエステルフィルム 東洋紡エステル(登録商標)フィルム、[令和4年7月6日検索]、インターネット<https://www.toyobo.co.jp/products/ind_film/industrial_film/ester/index.html>
上述のとおり、本願発明に係る製造方法において使用されるポリエステルフィルムは、世間に流通するポリエステルフィルムから、特定事項1,2に係る要件を満たすポリエステルフィルムを選択すればよく、この選択は当業者であれば過度な試行錯誤を要することなく実施することができます。」(なお、「特定事項1,2」は、「構成要件D、J」に対応する。)
しかしながら、甲第9号証ないし甲第11号証の記載からは、特許権者が構成要件D,Jを満たすと主張する「TORAY FILMS ポリエステルフィルム ルミラー(登録商標)」及び「東洋紡エステル(登録商標)」が、構成要件D,Jを満たすことについて、当業者は想定することはできない。
そうすると、深絞り成形性に優れる蓄電装置用外装材を得るためには、本件明細書に接した当業者であっても、請求項1に特定されたポリエステルフィルムを選定するに当たり、非常の多くの実験を行う必要があり、過度の試行錯誤を要するといえる。
それにも関わらず、特許権者は、構成要件D,Jを満たすと主張する「TORAY FILMS ポリエステルフィルム ルミラー(登録商標)」及び「東洋紡エステル(登録商標)」が、構成要件D,Jを満たすことを実験的に示すこともなく、単に市販されていることを示しているに過ぎなく、実施例ではポリエステルフィルムの種類すら開示されていない。
このような本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項1~8に係る発明を当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されたものとはいえず、実施可能要件を充足していない。(特許異議申立書57頁6行-60頁17行)
b 本件特許発明1、3においてポリエステルフィルムの特殊パラメータ「ΔAが10%以上」、160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が「75MPa以上」という、いずれも上限なしの規定において、本件発明の効果が発揮されるとも考えられないし、「160℃での熱処理後の破断伸度」及び「160℃での熱処理前の破断伸度」がいかなる値であっても、ΔAが10%以上且つ160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上でありさえすれば、本件発明の効果が発揮されるとも考えられないし、そのようなポリエステルフィルムが存在するとも考えられない。
そうすると、この観点からも、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件請求項1~8に係る発明を当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されたものとはいえず、実施可能要件を充足していない。(特許異議申立書60頁18行-61頁2行)
(2)当審の判断
ア 上記主張aについて
本件特許発明1、3の構成要件D、Jは、「ΔA=(160℃での熱処理後の破断伸度)-(160℃での熱処理前の破断伸度)」及び「破断伸度及び50%伸長時応力値は、それぞれ基材層の4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)に対し引張試験(試験片形状:JIS K7127に規定される5号型ダンベル状、チャック間距離:75mm、標点間距離:25mm、試験速度:50mm/min)を行ったときの23℃における平均値」とした場合、「基材層」が、「ΔAが10%以上であり且つ160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルムからなる層である」ことである。
一方、発明の詳細な説明には「ΔA=(160℃での熱処理後の破断伸度)-(160℃での熱処理前の破断伸度)」(【0143】)及び「破断伸度及び50%伸長時応力値は次のようにして測定した。すなわち、A4サイズにカットしたポリエステルフィルムを、任意の熱処理温度(160℃又は200℃)に保たれたオーブン中で30分間加熱した後、当該基材層の4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)に対し、23℃にて引張試験(試験片形状:JIS K7127に規定される5号型ダンベル状、チャック間距離:75mm、標点間距離:25mm、試験速度:50mm/min)を行った。そして、4方向に対する測定結果の平均を取ることで、本実施形態における破断伸度及び50%伸長時応力値を算出した。ただし、破断伸度は以下のとおり算出される値である。 破断伸度(%)={(破断時の標点間距離-測定前の標点間距離)/測定前の標点間距離}×100」(【0144】)と記載されている。
そうすると、「ポリエステルフィルム」の「ΔA」及び「160℃での熱処理後の50%伸長時応力値」は、上記【0143】及び【0144】の記載に基づいて実験的に求めれば良いことである。
したがって、構成要件D、Jを満たす「基材層」である「ΔAが10%以上であり且つ160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルム」を選択することは、市販されていポリエステルフィルムを購入して実験を行うことによって、「ΔA」及び「160℃での熱処理後の50%伸長時応力値」を求めれば良いことであり、過度の試行錯誤が必要とは認められない。そして、発明の詳細な説明の表1(【0145】)に、構成要件D、Jを満たすポリエステルフィルムが、「ポリエステルフィルムA-1」ないし「ポリエステルフィルムA-8」として多数例示されていることから、市販のポリエステルフィルムにおいて、構成要件D、Jを満たすものは普通に存在していると認められる。
したがって、上記主張aを採用することができない。
イ 上記主張bについて
本件特許の課題は、十分な深絞り成型性を有する蓄電装置用外装材を得ることである(【0007】)。
そして、発明の詳細な説明には「外装材10において、上記のΔAが10%以上であることにより、比較的低い温度の熱処理により基材層11がより小さい力で大きく伸ばされ易くなった場合でも破断しにくいため、熱処理後(例えば熱ラミネート処理後)においても深絞り成型を可能とすることができる。」(【0026】)及び「外装材10において、基材層11の160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であることにより、外装材10に局所的な力が加わったときの力を分散することができ、深絞り成型をしたときの金属箔層14の破断を抑制することができる。」(【0028】)と記載されており、また、表2において「ΔAが10%以上」及び「160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上」を共に満たす実施例1ないし12の成形限界が、5.5mm以上であることが示されている。
そうすると、「基材層」として「ΔAが10%以上であり且つ160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルム」を用いたものは、深絞り成型性に優れており、上記課題を解決できる効果が発揮されているといえる。
したがって、上記主張bを採用することができない。
ウ よって、本件特許発明1ないし8について、発明の詳細な説明の記載は当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
3 申立理由3(第36条第6項第1号)について
(1)特許異議申立人の主張
a 本件明細書の【0030】~【0032】を参酌しても、本件明細書の実施例1~12及び比較例1~5において「ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル等」のうち、いずれのポリエステルが使用されたのかについて、当業者が理解することは不可能であり、実施例に記載された前記ΔAが10%以上のものを準備することができない。
また、令和4年7月11日付けで意見書で特許権者が特殊パラメータΔAが10%以上であると主張する「TORAY FILMS ポリエステルフィルム ルミラー(登録商標)」及び「東洋紡エステル(登録商標)」について、特許権者は、これらのフィルムが市販されていることを示しているにすぎず、これらのフィルムが特殊パラメータΔAが10%以上を満たすことを実証しているわけではない。
したがって、本件明細書には特殊パラメータΔAが10%以上を満たす具体的なポリエステルフィルムを用いた実験結果が示されているとはいえない。
そうすると、本件特許発明1-8は、発明の詳細な説明においてサポートされておらず、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。(特許異議申立書61頁19頁-65頁4行)
b 本件特許発明1、3においてポリエステルフィルムの特殊パラメータ「ΔAが10%以上」、160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が「75MPa以上」という、いずれも上限なしの規定において、本件発明の課題が解決できるとも考えられないし、「160℃での熱処理後の破断伸度」及び「160℃での熱処理前の破断伸度」がいかなる値であっても、ΔAが10%以上且つ160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上でありさえすれば、本件発明の課題が解決できるとも考えられない。
そうすると、この観点からも、本件特許発明1-8は、発明の詳細な説明においてサポートされておらず、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。(特許異議申立書65頁5-14行)
(2)当審の判断
ア 上記主張aについて
発明の詳細な説明には「ΔA=(160℃での熱処理後の破断伸度)-(160℃での熱処理前の破断伸度)」(【0143】)及び「破断伸度及び50%伸長時応力値は次のようにして測定した。すなわち、A4サイズにカットしたポリエステルフィルムを、任意の熱処理温度(160℃又は200℃)に保たれたオーブン中で30分間加熱した後、当該基材層の4方向(0°(MD)、45°、90°(TD)、135°)に対し、23℃にて引張試験(試験片形状:JIS K7127に規定される5号型ダンベル状、チャック間距離:75mm、標点間距離:25mm、試験速度:50mm/min)を行った。そして、4方向に対する測定結果の平均を取ることで、本実施形態における破断伸度及び50%伸長時応力値を算出した。ただし、破断伸度は以下のとおり算出される値である。 破断伸度(%)={(破断時の標点間距離-測定前の標点間距離)/測定前の標点間距離}×100」(【0144】)と記載されている。
そうすると、特殊パラメータΔAが10%以上のポリエステルフィルムは、市販されているポリエステルフィルムを購入して、上記【0143】及び【0144】の記載に基づき実験を行うことによって準備することができる。
そして、表1及び表2には特殊パラメータΔAが10%以上を満たすポリエステルフィルムを用いた実験結果が、実施例1-12として示されている。
したがって、上記主張aを採用することができない。
イ 上記主張bについて
本件特許の課題は、十分な深絞り成型性を有する蓄電装置用外装材を得ることである(【0007】)。
そして、発明の詳細な説明には「外装材10において、上記のΔAが10%以上であることにより、比較的低い温度の熱処理により基材層11がより小さい力で大きく伸ばされ易くなった場合でも破断しにくいため、熱処理後(例えば熱ラミネート処理後)においても深絞り成型を可能とすることができる。」(【0026】)及び「外装材10において、基材層11の160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であることにより、外装材10に局所的な力が加わったときの力を分散することができ、深絞り成型をしたときの金属箔層14の破断を抑制することができる。」(【0028】)と記載されており、また、表2において「ΔAが10%以上」及び「160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上」を共に満たす実施例1ないし12の成形限界が、5.5mm以上であることが示されている。
そうすると、「基材層」として「ΔAが10%以上であり且つ160℃での熱処理後の50%伸長時応力値が75MPa以上であるポリエステルフィルム」を用いたものは、深絞り成型性に優れており、上記課題を解決できることが示されている。
そして、「ΔA」及び「160℃での熱処理後の50%伸長時応力値」の上限については、発明の詳細な説明に「なお、ΔAの上限は特に限定されるものではないが、基材層11が伸ばされ易くなり50%伸長時応力値が小さくなりすぎると、金属箔層14を成型応力から保護する役割を果たしにくくなるという観点から、100%程度とすることができる。」(【0026】)及び「なお、160℃での50%伸長時応力値の上限は特に限定されるものではないが、成型して使用されるという観点から、250MPa程度とすることができる。」(【0028】)と記載されているので、上記課題の深絞り成型性とは直接関係ない観点での規定である。そうすると、上記課題を解決するためには下限の規定があれば十分であるといえる。
したがって、上記主張bを採用することができない。
ウ よって、本件特許発明1ないし8は、発明の詳細な説明に記載したものである。
6 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし8に係る特許は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。
また、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということができず、同法第113条第4号により取り消すことができない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700597