特許異議申立
2023-700075
蓄電装置用外装材
- 審判番号
- 2023-700075
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-224803
- 登録番号
- 7106844
- 請求日
- 2023年01月24日
- 審決日
- 2023年05月25日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】凸版印刷株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】鈴木 洋平
- 【異議申立人】田中 俊子
- 審判長/審判官
- 審判長 篠原 功一
- 審判官 須原 宏光
- 審判官 畑中 博幸
- 分類
- P1651.121-Y (H01M) / P1651.536-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7106844号発明「蓄電装置用外装材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7106844号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7106844号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成29年11月22日の出願であって、令和4年7月19日に特許権の設定登録がされ、令和4年7月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、令和5年1月24日に特許異議申立人 田中俊子により特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし8の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって、
前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂(A)及び前記ポリプロピレン系樹脂と非相溶である非相溶系成分(B)を含有し、前記ポリプロピレン系樹脂(A)の存在領域と前記ポリプロピレン系樹脂(A)に囲まれた複数の前記非相溶系成分(B)の存在領域とを有し、
前記非相溶系成分(B)が、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有し、
前記シーラント層が、その厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAMDに対する、前記蓄電装置用外装材を190℃で30秒間加熱した後の前記厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAhMDの比(LAhMD/LAMD)が0.20以上である低収縮性シーラント層を含む、蓄電装置用外装材。
【請求項2】
前記蓄電装置用外装材を190℃で30秒間加熱した後の前記シーラント層の厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の、前記厚さ方向の平均長さLAhVDに対する、前記MD方向の平均長さLAhMDの比(LAhMD/LAhVD)が2.50以上である、請求項1に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項3】
前記シーラント層が複数の層からなり、そのうちの少なくとも一層が前記低収縮性シーラント層である、請求項1又は2に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項4】
前記シーラント層が複数の層からなり、そのうちの前記金属箔層に最も近い層が前記低収縮性シーラント層である、請求項1~3のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項5】
前記シーラント層は、前記ポリプロピレン系樹脂(A)と相溶する相溶系エラストマー(C)をさらに含有し、
前記相溶系エラストマー(C)はプロピレン-αオレフィン共重合体を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項6】
前記シーラント層は、前記ポリプロピレン系樹脂(A)と相溶する相溶系エラストマー(C)をさらに含有し、
前記シーラント層が複数の層からなり、そのうちの前記金属箔層に最も近い層において、
前記ポリプロピレン系樹脂(A)が酸変性ポリプロピレンを含み、
前記相溶系エラストマー(C)がアタクチック構造のポリプロピレン又はアタクチック構造のプロピレン-αオレフィン共重合体を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項7】
前記金属箔層と前記シーラント層との間に接着剤層をさらに備え、
前記接着剤層が、酸変性ポリオレフィンと、多官能イソシアネート化合物、グリシジル化合物、カルボキシ基を有する化合物、オキサゾリン基を有する化合物、及びカルボジイミド化合物からなる群より選択される少なくとも1種の硬化剤と、を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。
【請求項8】
前記化合物(B1)が、グラフト共重合体又はブロック共重合体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の蓄電装置用外装材。」
第3 申立理由の概要
申立理由1
請求項1ないし8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
申立理由2
請求項1ないし8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
申立理由3
請求項1ないし8に係る発明は、甲第3号証に記載された発明、及び甲第4号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
申立理由4
請求項1ないし8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないため、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
申立理由5
請求項1ないし8に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないため、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
<証拠方法>
甲第1号証:特開2016-81705号公報
甲第2号証:特開2015-50075号公報
甲第3号証:特開2016-207564号公報
甲第4号証:特開2013-258162号公報
甲第5号証:特開2013-87152号公報
甲第6号証:タフテック、S.O.E.(水添スチレン系熱可塑性エラストマー)のカタログ、旭化成株式会社、2022年3月改訂
甲第7号証:ユニオン合成株式会社のウェブページ(https://www.union-gosei.co.jp/tpe/feature/index.html)のプリントアウト
甲第8号証:特開2010-214900号公報
第4 甲各号証の記載事項、引用発明
1 甲第1号証
(1)甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。
「【請求項1】
少なくとも基材層、第1の接着層、バリア層、第2の接着層、シーラント層がこの順で積層されてなる電池外装用ラミネートフィルムであって、該シーラント層は、下記成分(A)と下記成分(B)を含む配合物で形成された(I)層を少なくとも1層有することを特徴とする電池外装用ラミネートフィルム。
成分(A):メタロセン系触媒を用いて製造された密度0.930g/cm3以上0.950g/cm3以下のポリエチレン
成分(B):ポリプロピレンマトリックスにゴムが分散されたポリプロピレン系エラストマー
【請求項2】
前記(I)層を構成する配合物が、更に成分(C):エチレン-1-オクテンブロック共重合体を含有することを特徴とする請求項1に記載の電池外装用ラミネートフィルム。」
「【請求項4】
前記バリア層が、少なくとも電解液接液面側の表面にベーマイト皮膜が形成されたアルミニウム箔よりなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電池外装用ラミネートフィルム。」
「【0048】
<アルミニウム箔の表面処理>
本発明におけるバリア層として好適なアルミニウム箔の表面処理は必ずしも必要とされないが、耐腐食性を付与するための表面処理を施したものであってもよい。
【0049】
バリア層としてのアルミニウム箔に表面処理を行う場合、表面処理としては公知の処理が用いられ、例えば、クロム酸クロメート処理、リン酸クロメート処理、リン酸-クロム酸塩処理、クロム酸塩処理、アルカリクロム酸塩処理、塗布型クロメート処理等のクロム系化成処理、あるいは、ジルコニウム、チタン、リン酸亜鉛等の塗布型ノンクロム系処理や、ベーマイト処理、陽極酸化処理等が挙げられる。これらの処理以外にも、コロナ処理、プラズマ処理又は火炎処理等のアルミニウム箔表面に極性基を付与する処理を行って、第2の接着層との接着性を高めることにより耐腐食性を付与してもよい。また、これらの処理を2つ以上組み合わせて行ってもよい。」
「【0066】
上記(I)層を形成する配合物は、上記成分(A)及び成分(B)以外の成分、例えば、メタロセン系ポリエチレン以外のポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂を含んでいてもよい。具体的には、高密度ポリエチレン(HDPE)や中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(LDPE)、ランダムポリプロピレン(R-PP)、ブロックポリプロピレン(B-PP)、ホモポリプロピレン(H-PP)等を配合することができる。
また、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-ブテン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体等のオレフィン系エラストマー等を更に配合しても良い。
特に、成分(A)及び成分(B)に加え更にポリエチレン系のエラストマーを配合することが好ましく、ポリエチレン系エラストマーとしては、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ブテン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体等が好ましものとして挙げられ、特に成分(C):エチレン-1-オクテンブロック共重合体を配合すると、成分(A)のメタロセン系ポリエチレンと、成分(B)のゴム分散ポリプロピレン系エラストマーのゴム成分であるエチレン系エラストマーとの結着効果が発現し、分子鎖とのからみあいが多くなり、更に強いシール強度が得られるようになり、これにより、ポリエチレン成分とポリプロピレン成分が層状に分散し、且つ、層間が強固に接合し、互いの良物性を打ち消しあうことなく、即ち、ゴム分散ポリプロピレン系エラストマーのポリプロピレン成分による耐熱性と、メタロセン系ポリエチレンの耐電解液性、エチレン-1-オクテンブロック共重合体による高強度シール性が得られるため、特に好ましい。また、溶融時の張力が増し、これにより、インフレーション成形時の製膜性が安定し、得られるフィルムの機械強度、特にシール強度が向上する効果もあり好ましい。」
「【0133】
<耐熱性>
シーラント層の融点から、下記基準で評価した。
○:シーラント層の融点が140℃以上
×:シーラント層の融点が140℃未満
なお、シーラント層が1成分のみで構成される場合、当該成分の融点をシーラント層の融点とした。また、シーラント層が2成分以上で構成される場合、構成成分中最も融点の高い成分の融点をシーラント層の融点とした。即ち、この場合、シーラント層の構成成分は非相溶系材料であるため、そのうち最も融点の高い成分の融点をシーラント層の融点とすることができる。」
ここで、電池外装用ラミネートフィルムに関して、甲第1号証には次の事項が記載されている。
・請求項1によれば、電池外装用ラミネートフィルムは、少なくとも基材層、バリア層、シーラント層がこの順で積層されている。
・請求項4によれば、バリア層はベーマイト皮膜が形成されたアルミニウム箔である。
・【0133】によれば、シーラント層の構成成分は非相溶系材料である。
・請求項1によれば、シーラント層は、ポリエチレンとポリプロピレンマトリックスにゴムが分散されたポリプロピレン系エラストマーを含む配合物で形成された層である。
・請求項2によれば、層を構成する配合物が、更にエチレン-1-オクテンブロック共重合体を含有する。
(2)引用発明1
上記記載事項より、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「少なくとも基材層、バリア層、シーラント層がこの順で積層されてなる電池外装用ラミネートフィルムであって、
バリア層が、ベーマイト皮膜が形成されたアルミニウム箔よりなり、
シーラント層は構成成分が非相溶系材料であって、ポリエチレン、ポリプロピレンマトリックスにゴムが分散されたポリプロピレン系エラストマー及びエチレン-1-オクテンブロック共重合体を含む配合物で形成された層を有する、
電池外装用ラミネートフィルム。」
2 甲第2号証
(1)甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
「【0033】
2.電池用包装材料
電池用包装材料は、少なくとも、基材層1、金属層3、及びシーラント層4をこの順に有する積層体からなる。図1に示すように、電池用包装材料は、基材層1と金属層3との間に接着層2を有していてもよい。本発明の電池用包装材料が電池に使用される際には、基材層1が最外層になり、シーラント層4が最内層(電池素子側)になる。電池の組み立て時に、電池素子の周縁に位置するシーラント層4同士を接面させて熱溶着することにより電池素子が密封され、電池素子が封止される。また、電池用包装材料は、図2に示すように、金属層3とシーラント層4との間に接着層5を有していてもよい。」
「【0051】
また、金属層3は、接着の安定化、溶解や腐食の防止等のために、少なくとも一方の面、好ましくは少なくともシーラント層4側の面、更に好ましくは両面が化成処理されていることが好ましい。ここで、化成処理とは、金属層3の表面に耐酸性皮膜を形成する処理である。化成処理は、例えば、硝酸クロム、フッ化クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、蓚酸クロム、重リン酸クロム、クロム酸アセチルアセテート、塩化クロム、硫酸カリウムクロム等のクロム酸化合物を用いたクロム酸クロメート処理;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、ポリリン酸等のリン酸化合物を用いたリン酸クロメート処理;下記一般式(1)~(4)で表される繰り返し単位からなるアミノ化フェノール重合体を用いたクロメート処理等が挙げられる。」
「【0112】
融点が158℃以上でエチレン含有量が7質量%以下のプロピレン-エチレンのブロック共重合体、及び融点が135℃以上のポリプロピレン系エラストマーをシーラント層に用いた実施例6~9の電池用包装材料においても、引張降伏点強度が低く、25℃下、125℃下、及び電解液に晒した場合のシール強度も高かった。さらに、実施例6~9の電池用包装材料では、延伸によるクラックも見られず、シール部を屈曲した後の絶縁性も高かった。また、低立体規則性オレフィンをシーラント層にさらに配合した実施例10の電池用包装材料においては、引張降伏点強度がさらに低くなり、シール強度も非常に高くなった。」
(2)引用発明2
上記記載事項より、甲第2号証には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「少なくとも、基材層1、金属層3、及びシーラント層4をこの順に有する電池用包装材料であって、
金属層3は腐食の防止のために、表面に耐酸性皮膜を形成されており、
融点が158℃以上でエチレン含有量が7質量%以下のプロピレン-エチレンのブロック共重合体、及び融点が135℃以上のポリプロピレン系エラストマーをシーラント層4に用いた電池用包装材料。」
3 甲第3号証
(1)甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
少なくとも基材層、第一の接着剤層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、第二の接着剤層又は接着性樹脂層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有する蓄電装置用外装材であって、
前記シーラント層が、(A)プロピレン-エチレンランダム共重合体を60~95質量%と、前記(A)プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有する(B)相溶系エラストマー及び/又は前記(A)プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有さない(C)非相溶系エラストマーを合計で5~40質量%と、を含有する樹脂組成物により形成された層を含み、
前記樹脂組成物において、前記(B)相溶系エラストマーの含有量に対する前記(C)非相溶系エラストマーの含有量の質量比が0~1であり、
前記(B)相溶系エラストマーと前記(C)非相溶系エラストマーとが共通のコモノマー成分を有する、蓄電装置用外装材。」
「【0011】
かかる蓄電装置用外装材は、上記構成のシーラント層を備えることにより、成型後の絶縁性及びデガッシングヒートシール強度を含む電解液が関与するシール特性に優れる。シーラント層は電池の安全性の面からポリプロピレンであることが好ましく、中でも上記(A)プロピレン-エチレンランダム共重合体(以下、「(A)成分」とも言う)は結晶性が低いため、衝撃強度が高く成型延伸によるクラックが抑制されるとともに、ヒートシール性が良好である。更に(B)相溶系エラストマー(以下、「(B)成分」とも言う)を配合することにより、シーラント層の結晶性がより低下し、熱収縮による体積変化が抑制され、冷間成型時のクラックの発生が抑制される。その結果、成型後の絶縁性に優れる。また、更に(C)非相溶系エラストマー「(C)成分」とも言う)を配合する場合は、デガッシングヒートシールを始めとする電解液が関与するシール特性を更に向上させることができる。このとき、(A)成分の含有量が60質量%未満であると、(B)成分及び(C)成分であるエラストマー成分が過多となり、電解液によるエラストマー成分の膨潤の影響が大きくなり過ぎることで、成型後の絶縁性が低下する。また、(A)成分の含有量が95質量%を超えると、電解液が関与するシール特性の改善が不十分となる。そのため、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の含有量を上記範囲とすることにより、成型後の絶縁性及びデガッシングヒートシール強度を含む電解液が関与するシール特性に優れる。加えて、(C)成分は、(A)成分と海島構造を形成するため、海島構造の界面にてクラック(ボイド-クレーズ)を発生させる要因となり得るが、(B)成分の含有量に対する(C)成分の含有量の質量比が0~1であることで、クラックの発生が十分に抑制される。また、(B)成分と(C)成分とが共通のコモノマー成分を有することにより、(A)成分との良好な親和性が得られ、(A)成分と海島構造の界面との密着性を高めることができ、クラックの発生が十分に抑制される。」
「【0197】
<シーラント層>
下記表1に示す各成分を同表に示す配合量(単位:質量部)で混合した樹脂組成物(SL-1~SL-12)を用いた。なお、各成分の詳細を以下に示す。
・(A)成分
(ランダムPP):融点140℃のプロピレン-エチレンランダム共重合体(プライムポリマー社製、「プライムポリプロ」)。
・(B)成分
(プロピレン-1-ブテン):(A)成分に対して相溶性を有する、融点75℃のプロピレン-1-ブテンランダム共重合体エラストマー(三井化学社製、「タフマーXM」)。
(水添スチレン系エラストマー):(A)成分に対して相溶性を有する、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(旭化成社製、「タフテック」)。
・(C)成分
(エチレン-1-ブテン):(A)成分に対して相溶性を有さない、融点70℃のエチレン-1-ブテンランダム共重合体エラストマー(住友化学社製、「エクセレン」)。
(スチレン系エラストマー):(A)成分に対して相溶性を有さない、スチレン-ブタジエン共重合体エラストマー(旭化成社製、「アサフレックス」)。」
「【0198】
【表1】
[図:0001398302000001.jpg]
」
「【0200】
次に、第一及び第二の腐食防止処理層を設けた金属箔層の第一の腐食防止処理層側をドライラミネート手法により、ポリウレタン系接着剤(第一の接着剤層)を用いて基材層に貼りつけた。これを押出ラミネート機の巻出部にセットし、第二の腐食防止処理層上に290℃、100m/分の加工条件で共押出しすることで接着性樹脂層(厚さ12μm)、シーラント層(厚さ23μm)の順で積層した。」
ここで、(B)成分として、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(旭化成社製、「タフテック」)、(C)成分として、スチレン-ブタジエン共重合体エラストマー(旭化成社製、「アサフレックス」)を用いた樹脂組成物SL-7に着目すると、甲第3号証には蓄電装置用外装材に関して次の事項が記載されている。
・【0197】及び【0198】の記載によれば樹脂組成物SL-7は、プロピレン-エチレンランダム共重合体を70質量%と、プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有する水添スチレン系熱可塑性エラストマー(旭化成社製、「タフテック」)20質量%、及び、プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有さないスチレン-ブタジエン共重合体エラストマー(旭化成社製、「アサフレックス」)10質量%と、を含有する。
・請求項1によれば、甲第3号証に記載された蓄電装置用外装材は次のとおりである。
少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有する蓄電装置用外装材であって、
シーラント層は、(A)プロピレン-エチレンランダム共重合体と、前記(A)プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有する(B)相溶系エラストマー、及び、前記(A)プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有さない(C)非相溶系エラストマーをと、を含有する樹脂組成物により形成された層を含んでいる。
ここで、蓄電装置用外装材において、上記の樹脂組成物SL-7を用いたシーラント層は、プロピレン-エチレンランダム共重合体を70質量%と、プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有する水添スチレン系熱可塑性エラストマー(旭化成社製、「タフテック」)20質量%、及び、プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有さないスチレン-ブタジエン共重合体エラストマー(旭化成社製、「アサフレックス」)10質量%と、を含有する樹脂組成物により形成された層を含んでいる。
・【0011】によれば、(C)成分は、(A)成分と海島構造を形成するのであるから、樹脂組成物SL-7により形成された層は、スチレン-ブタジエン共重合体エラストマーがプロピレン-エチレンランダム共重合体と海島構造を形成する。
(2)引用発明3
上記記載事項より、甲第3号証には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
「少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有する蓄電装置用外装材であって、
シーラント層が、プロピレン-エチレンランダム共重合体を70質量%と、プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有する水添スチレン系熱可塑性エラストマー(旭化成社製、「タフテック」)20質量%、及び、プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有さないスチレン-ブタジエン共重合体エラストマー(旭化成社製、「アサフレックス」)10質量%と、を含有する樹脂組成物により形成された層を含み、
スチレン-ブタジエン共重合体エラストマーはプロピレン-エチレンランダム共重合体と海島構造を形成する、蓄電装置用外装材。」
4 甲第4号証
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
「【0143】
工程(III-1):
工程(II)で得た積層体を、アンカーコート塗工ユニット付き押出ラミネート機の巻出部に設置し、サンド基材部からフィルムFを、さらに押出機から接着性樹脂E-1~E-2を290℃で押出し、80m/分の加工速度のサンドラミネート法により、基材層11/接着剤層12/アルミニウム箔層13/腐食防止処理層14/接着性樹脂層15/シーラント層16からなる積層体を得て、熱ラミネーション法によって熱処理(190℃)を施して外装材1を得た。」
5 甲第5号証
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
「【0094】
サンドイッチラミネート成形時の押出温度は250~300℃が好ましく、加工速度(ラミネート速度)は50~150m/minが好ましい。」
6 甲第6号証
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
「タフテックTMは、スチレンとブタジエンからなるブロック共重合体(SBS)を水素添加することで得られる水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)です。」(第1頁)
7 甲第7号証
甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
「SEBS(スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体)
・・・
代表銘柄
タフテック(旭化成ケミカルズ)」(第1ないし2頁)
8 甲第8号証
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
「【0082】
上記スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体としては、アサフレックスシリーズ(旭化成ケミカルズ社製)、クリアレンシリーズ(電気化学工業社製)、Kレジン(シェブロンフィリップス社製)、スタイロラックス(BASF社製)、フィナクリア(アトフィナ社製)が挙げられる。」
第5 当審の判断
1 申立理由1(甲第1号証を主引例とする第29条第2項)について
(1)本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と引用発明1を対比すると、次のことがいえる。
(ア)引用発明1の「ベーマイト皮膜」は、甲第1号証の【0048】及び【0049】の記載によれば腐食防止層である。
したがって、引用発明1の「バリア層が、ベーマイト皮膜が形成されたアルミニウム箔よりなり」「少なくとも基材層、バリア層、シーラント層がこの順で積層されてなる電池外装用ラミネートフィルム」は、本件特許発明1の「少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材」に相当する。
(イ)引用発明1の「ポリプロピレンマトリックスにゴムが分散されたポリプロピレン系エラストマー」は、ポリプロピレン系樹脂である。
そして、引用発明1は「構成成分が非相溶系材料であ」るため、「ポリエチレン」及び「エチレン-1-オクテンブロック共重合体」は、「ポリプロピレンマトリックスにゴムが分散されたポリプロピレン系エラストマー」と非相溶である。
そうすると、引用発明1の「シーラント層は構成成分が非相溶系材料であって、ポリエチレン、ポリプロピレンマトリックスにゴムが分散されたポリプロピレン系エラストマー及びエチレン-1-オクテンブロック共重合体を含む配合物で形成された層を有する」ことと本件特許発明1とは、「前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂(A)及び前記ポリプロピレン系樹脂と非相溶である非相溶系成分(B)を含有」する点で共通する。
(ウ)甲第1号証には、ポリエチレン成分とポリプロピレン成分が層状に分散することが記載されているが(【0066】)、「ポリエチレン」又は「エチレン-1-オクテンブロック共重合体」が、「ポリプロピレン系エラストマー」に囲まれることは記載されていない。
そうすると、本件特許発明1は「前記ポリプロピレン系樹脂(A)の存在領域と前記ポリプロピレン系樹脂(A)に囲まれた複数の前記非相溶系成分(B)の存在領域とを有」するのに対して、引用発明1はそのような特定がない点で相違する。
(エ)甲第1号証には、「ポリエチレン」又は「エチレン-1-オクテンブロック共重合体」が「ポリプロピレンマトリックスにゴムが分散されたポリプロピレン系エラストマー」との相溶部を有することは記載されていない。
そうすると、本件特許発明1は「前記非相溶系成分(B)が、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有」するのに対して、引用発明1はそのような特定がない点で相違する。
また、本件特許発明1は「前記シーラント層が、その厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAMDに対する、前記蓄電装置用外装材を190℃で30秒間加熱した後の前記厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAhMDの比(LAhMD/LAMD)が0.20以上である低収縮性シーラント層を含む」のに対して、引用発明1はそのような特定がない点で相違する。
以上によれば、本件特許発明1と引用発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって、
前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂(A)及び前記ポリプロピレン系樹脂と非相溶である非相溶系成分(B)を含有する、蓄電装置用外装材。」
(相違点1)
本件特許発明1は「前記ポリプロピレン系樹脂(A)の存在領域と前記ポリプロピレン系樹脂(A)に囲まれた複数の前記非相溶系成分(B)の存在領域とを有」するのに対して、引用発明1はそのような特定がない点。
(相違点2)
本件特許発明1は「前記非相溶系成分(B)が、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有」するのに対して、引用発明1はそのような特定がない点。
(相違点3)
本件特許発明1は「前記シーラント層が、その厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAMDに対する、前記蓄電装置用外装材を190℃で30秒間加熱した後の前記厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAhMDの比(LAhMD/LAMD)が0.20以上である低収縮性シーラント層を含む」のに対して、引用発明1はそのような特定がない点。
イ 判断
事案に鑑み、まず、上記相違点3について検討する。
特許異議申立人は、甲第1号証の電池外装用ラミネートフィルムのシーラント層に、甲第3号証ないし甲第5号証に記載されているような周知の加工条件を適用すると、上記相違点3に係る構成が得られる旨を主張するので検討する。(特許異議申立書56頁20行ないし59頁17行)
本件特許明細書には、実施例1ないし実施例14に示す成分を有するシーラント層形成用ベース樹脂組成物を、第2の腐食防止処理層上に270℃、100m/分の加工条件でシーラント層の材料を共押出しすることで、シーラント層として金属箔側の層及び最内層を積層することにより、上記相違点3に係る構成が得られることが示されている(【0190】~【0207】、表1、表2)。
ここで、引用発明1のシーラント層を構成する樹脂の組合せ及び組成比が、本件特許の実施例1ないし14と共通するのであれば、甲第3号証(【0200】)、甲第4号証(【0143】)及び甲第5号証(【0094】)に記載されているような、周知のシーラント層の加工条件を適用した場合に、当該シーラント層が上記相違点3の構成を満たす蓋然性が高いといえる。
そこで、本件特許において、シーラント層が上記相違点3の構成を満たす実施例1ないし14における樹脂の組合せを【0190】、表1及び表2に基づいて次に示す。
a 酸変性ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体エラストマー、プロピレンユニットとエチレンユニットから構成されるブロック共重合体、アタクチック構造のプロピレン-αオレフィン共重合体(実施例2ないし5、7、8のAL側層)
b 酸変性ポリプロピレン、プロピレンユニットとエチレンユニットから構成されるブロック共重合体、アタクチック構造のプロピレン-αオレフィン共重合体(実施例6のAL側層)
c 酸変性ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体エラストマー、プロピレンユニットとエチレンユニットから構成されるブロック共重合体(実施例11のAL側層)
d 酸変性ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体エラストマー、結晶性エチレンユニットとエチレン-ブチレンユニットから構成されるブロック共重合体、アタクチック構造のプロピレン-αオレフィン共重合体(実施例12、13のAL側層)
e 酸変性ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体エラストマー、ポリオレフィンの主鎖とポリスチレンの側鎖からなるグラフト共重合体。、アタクチック構造のプロピレン-αオレフィン共重合体(実施例14のAL側層)
f プロピレン-エチレンランダム共重合体、エチレン-ブテン-1ランダム共重合体エラストマー、プロピレンユニットとエチレンユニットから構成されるブロック共重合体、プロピレン-ブテン-1ランダム共重合体エラストマー(実施例1、3ないし5の最内層)
g プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレンユニットとエチレンユニットから構成されるブロック共重合体、プロピレン-ブテン-1ランダム共重合体エラストマー(実施例6ないし10の最内層)
h プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレンユニットとエチレンユニットから構成されるブロック共重合体(実施例11の最内層)
i プロピレン-エチレンランダム共重合体、エチレン-ブテン-1ランダム共重合体エラストマー、結晶性エチレンユニットとエチレン-ブチレンユニットから構成されるブロック共重合体、プロピレン-ブテン-1ランダム共重合体エラストマー(実施例12の最内層)
j プロピレン-エチレンランダム共重合体、結晶性エチレンユニットとエチレン-ブチレンユニットから構成されるブロック共重合体、プロピレン-ブテン-1ランダム共重合体エラストマー(実施例13の最内層)
k プロピレン-エチレンランダム共重合体、ポリオレフィンの主鎖とポリスチレンの側鎖からなるグラフト共重合体、プロピレン-ブテン-1ランダム共重合体エラストマー(実施例14の最内層)
一方、引用発明1の「ポリプロピレンマトリックスにゴムが分散されたポリプロピレン系エラストマー」、「ポリエチレン」及び「エチレン-1-オクテンブロック共重合体」の樹脂の組合せは、上記aないしkのどれにも相当しない。
ここで、上述したように、引用発明1のシーラント層を構成する樹脂の組合せ及び組成比が、本件特許の実施例1ないし14と共通するのであれば、周知のシーラント層の加工条件を適用した場合に、当該シーラント層が上記相違点3の構成を満たす蓋然性が高いといえるが、組成比を検討するまでもなく樹脂の組合せが相違するので、引用発明1のシーラント層に上記周知の加工条件を適用したところで、上記相違点3の構成を満たすシ-ラント層になるとはいえない。
したがって、上記相違点3に係る構成は、引用発明1及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(2)本件特許発明2ないし8について
本件特許発明2ないし8は、本件特許発明1に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同様な理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
2 申立理由2(甲第2号証を主引例とする第29条第2項)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明2を対比すると、次のことがいえる。
(ア)引用発明2の「少なくとも、基材層1、」「腐食の防止のために、表面に耐酸性皮膜を形成され」た「金属層3、及びシーラント層4をこの順に有する電池用包装材料」は、本件特許発明1の「少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材」に相当する。
(イ)引用発明2の「融点が135℃以上のポリプロピレン系エラストマー」は、ポリプロピレン系樹脂である。
ここで、甲第2号証には、融点が158℃以上でエチレン含有量が7質量%以下のプロピレン-エチレンのブロック共重合体と、融点が135℃以上のポリプロピレン系エラストマーが非相溶であることの記載はないので、引用発明2の「プロピレン-エチレンのブロック共重合体」が「ポリプロピレン系エラストマー」と非相溶であることの特定はない。
そうすると、本件特許発明1は「前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂(A)及び前記ポリプロピレン系樹脂と非相溶である非相溶系成分(B)を含有」するのに対して、引用発明2の「シーラント層4」は「ポリプロピレン系エラストマー」を含有するが非相溶系成分を含有することの特定がない点で相違する。
さらに、本件特許発明1は「前記ポリプロピレン系樹脂(A)の存在領域と前記ポリプロピレン系樹脂(A)に囲まれた複数の前記非相溶系成分(B)の存在領域とを有」するのに対して、引用発明2にはそのような特定がない点で相違する。
(ウ)上述のように、引用発明2の「プロピレン-エチレンのブロック共重合体」が「ポリプロピレン系エラストマー」と非相溶であることの特定はない。
そうすると、本件特許発明1は「前記非相溶系成分(B)が、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有」するのに対して、引用発明2はそのような特定がない点で相違する。
また、本件特許発明1は「前記シーラント層が、その厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAMDに対する、前記蓄電装置用外装材を190℃で30秒間加熱した後の前記厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAhMDの比(LAhMD/LAMD)が0.20以上である低収縮性シーラント層を含む」のに対して、引用発明2はそのような特定がない点で相違する。
以上によれば、本件特許発明1と引用発明2とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材。」
(相違点4)
本件特許発明1は「前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂(A)及び前記ポリプロピレン系樹脂と非相溶である非相溶系成分(B)を含有」するのに対して、引用発明2の「シーラント層4」は「ポリプロピレン系エラストマー」を含有するが非相溶系成分を含有することの特定がない点。
(相違点5)
本件特許発明1は「前記ポリプロピレン系樹脂(A)の存在領域と前記ポリプロピレン系樹脂(A)に囲まれた複数の前記非相溶系成分(B)の存在領域とを有」するのに対して、引用発明2にはそのような特定がない点。
(相違点6)
本件特許発明1は「前記非相溶系成分(B)が、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有」するのに対して、引用発明2はそのような特定がない点。
(相違点7)
本件特許発明1は「前記シーラント層が、その厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAMDに対する、前記蓄電装置用外装材を190℃で30秒間加熱した後の前記厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAhMDの比(LAhMD/LAMD)が0.20以上である低収縮性シーラント層を含む」のに対して、引用発明2はそのような特定がない点。
イ 判断
事案に鑑み、まず、上記相違点7について検討する。
特許異議申立人は、甲第2号証の電池用包装材料のシーラント層に、甲第3号証ないし甲第5号証に記載されているような周知の加工条件を適用すると、上記相違点7に係る構成が得られる旨を主張するので検討する。(特許異議申立書66頁3ないし18行)
本件特許明細書には、実施例1ないし実施例14に示す成分を有するシーラント層形成用ベース樹脂組成物を、第2の腐食防止処理層上に270℃、100m/分の加工条件でシーラント層の材料を共押出しすることで、シーラント層として金属箔側の層及び最内層を積層することにより、上記相違点7に係る構成が得られることが示されている(【0190】~【0207】、表1、表2)。
ここで、引用発明2のシーラント層を構成する樹脂の組合せ及び組成比が、本件特許の実施例1ないし14と共通するのであれば、甲第3号証(【0200】)、甲第4号証(【0143】)及び甲第5号証(【0094】)に記載されているような、周知のシーラント層の加工条件を適用した場合に、当該シーラント層が上記相違点7の構成を満たす蓋然性が高いといえる。
そして、本件特許において、シーラント層が上記相違点7の構成を満たす実施例1ないし14における樹脂の組合せは、上記「1(1)イ」で示したaないしkである。
一方、引用発明2の「融点が158℃以上でエチレン含有量が7質量%以下のプロピレン-エチレンのブロック共重合体」及び「融点が135℃以上のポリプロピレン系エラストマー」の樹脂の組合せは、上記aないしkのどれにも相当しない。
ここで、上述したように、引用発明2のシーラント層を構成する樹脂の組合せ及び組成比が、本件特許の実施例1ないし14と共通するのであれば、周知のシーラント層の加工条件を適用した場合に、当該シーラント層が上記相違点7の構成を満たす蓋然性が高いといえるが、組成比を検討するまでもなく樹脂の組合せが相違するので、引用発明2のシーラント層に上記周知の加工条件を適用したところで、上記相違点7の構成を満たすシ-ラント層になるとはいえない。
したがって、上記相違点7に係る構成は、引用発明2及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(2)本件特許発明2ないし8について
本件特許発明2ないし8は、本件特許発明1に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同様な理由により、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
3 申立理由3(甲第3号証を主引例とする第29条第2項)について
(1)本件特許発明1
ア 対比
本件特許発明1と引用発明3を対比すると、次のことがいえる。
(ア)引用発明3の「少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及び、シーラント層がこの順で積層された構造を有する蓄電装置用外装材」は、本件特許発明1の「少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材」に相当する。
(イ)引用発明3の「プロピレン-エチレンランダム共重合体」は、本件特許発明1の「ポリプロピレン系樹脂(A)」に相当する。
引用発明3の「プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有さないスチレン-ブタジエン共重合体エラストマー」は、本件特許発明1の「前記ポリプロピレン系樹脂と非相溶である非相溶系成分(B)」に相当する。
そうすると、引用発明3の「シーラント層が、プロピレン-エチレンランダム共重合体」及び「プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有さないスチレン-ブタジエン共重合体エラストマー」「を含有する」ことは、本件特許発明1の「前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂(A)及び前記ポリプロピレン系樹脂と非相溶である非相溶系成分(B)を含有」することに相当する。
(ウ)引用発明3は「スチレン-ブタジエン共重合体エラストマーはプロピレン-エチレンランダム共重合体と海島構造を形成する」が、どちらが海で、どちらが島であるか特定されていない。
そうすると、本件特許発明1は「前記ポリプロピレン系樹脂(A)の存在領域と前記ポリプロピレン系樹脂(A)に囲まれた複数の前記非相溶系成分(B)の存在領域とを有」するのに対して、引用発明3はそのような特定がない点で相違する。
(エ)甲第3号証には、プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有さないスチレン-ブタジエン共重合体エラストマーが、プロピレン-エチレンランダム共重合体との相溶部を有する化合物を含有することは記載されていない。
そうすると、本件特許発明1は「前記非相溶系成分(B)が、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有」するのに対して、引用発明3はそのような特定がない点で相違する。
また、本件特許発明1は「前記シーラント層が、その厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAMDに対する、前記蓄電装置用外装材を190℃で30秒間加熱した後の前記厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAhMDの比(LAhMD/LAMD)が0.20以上である低収縮性シーラント層を含む」のに対して、引用発明3はそのような特定がない点で相違する。
以上によれば、本件特許発明1と引用発明3とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「少なくとも基材層、一方又は両方の面に腐食防止処理層が設けられた金属箔層、及び、シーラント層をこの順で備える蓄電装置用外装材であって、
前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂(A)及び前記ポリプロピレン系樹脂と非相溶である非相溶系成分(B)を含有する、蓄電装置用外装材。」
(相違点8)
本件特許発明1は「前記ポリプロピレン系樹脂(A)の存在領域と前記ポリプロピレン系樹脂(A)に囲まれた複数の前記非相溶系成分(B)の存在領域とを有」するのに対して、引用発明3はそのような特定がない点。
(相違点9)
本件特許発明1は「前記非相溶系成分(B)が、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有」するのに対して、引用発明3はそのような特定がない点。
(相違点10)
本件特許発明1は「前記シーラント層が、その厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAMDに対する、前記蓄電装置用外装材を190℃で30秒間加熱した後の前記厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAhMDの比(LAhMD/LAMD)が0.20以上である低収縮性シーラント層を含む」のに対して、引用発明3はそのような特定がない点。
イ 判断
(ア)事案に鑑み、まず、上記相違点9について検討する。
a 甲第3号証には、プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有さない「スチレン-ブタジエン共重合体エラストマー」に、プロピレン-エチレンランダム共重合体と相溶する化合物を分子内に結合させることの示唆はない。
一方、特許異議申立人が証拠として提出した甲第6号証ないし甲第8号証には、プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して非相溶性であって、プロピレン-エチレンランダム共重合体と海島構造を形成し、プロピレン-エチレンランダム共重合体と相溶する化合物が分子内に結合した樹脂は記載されていない。
したがって、上記相違点9に係る構成は、引用発明3及び甲第6号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
b 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲第6号証乃至甲第8号証の記載から、旭化成社製「タフテック」は、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体であり、又、後述する甲第8号証の記載から、旭化成社製「アサフレックス」はスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体であるから、いずれも本件請求項1の構成要件B、Cの「前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)」に相当する旨を主張するので検討する。(特許異議申立書74頁1ないし6行)
(a)水添スチレン系熱可塑性エラストマー(旭化成社製、「タフテック」)について
まず、上記相違点9の前提となる本件特許発明1の「前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂(A)及び前記ポリプロピレン系樹脂と非相溶である非相溶系成分(B)を含有し、前記ポリプロピレン系樹脂(A)の存在領域と前記ポリプロピレン系樹脂(A)に囲まれた複数の前記非相溶系成分(B)の存在領域とを有」する構成に関して、本件特許の明細書には「ポリプロピレン系樹脂(A)」及び「非相溶系成分(B)」が海島構造を形成すると記載されている(【0014】)。
一方、引用発明3において「プロピレン-エチレンランダム共重合体」及び「プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有さないスチレン-ブタジエン共重合体エラストマー」が海島構造を形成するが、「プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有する水添スチレン系熱可塑性エラストマー」は「プロピレン-エチレンランダム共重合体」と海島構造を形成しない。そうすると、引用発明3の「水添スチレン系熱可塑性エラストマー」は海島構造を形成しないのであるから、本件特許発明1の「非相溶系成分(B)」に該当しない。
したがって、引用発明3の「水添スチレン系熱可塑性エラストマー」はプロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有しているが、本件特許発明1の「前記非相溶系成分(B)が、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有」することに該当しない。
(b)スチレン-ブタジエン共重合体エラストマー(旭化成社製、「アサフレックス」)について
引用発明3の「スチレン-ブタジエン共重合体エラストマー」は、プロピレン-エチレンランダム共重合体に対して相溶性を有さないものである。そして、甲第3号証には「スチレン-ブタジエン共重合体エラストマー」が、プロピレン-エチレンランダム共重合体との相溶部を有する化合物を含有することの記載はない。そうすると、引用発明3の「スチレン-ブタジエン共重合体エラストマー」は、本件特許発明1の「前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有」する「非相溶系成分(B)」に該当しない。
(c)まとめ
以上のとおり、「水添スチレン系熱可塑性エラストマー(旭化成社製、「タフテック」)」及び「スチレン-ブタジエン共重合体エラストマー(旭化成社製、「アサフレックス」)」は、いずれも、「前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有」する「非相溶系成分(B)」ではないのであるから、特許異議申立人の主張を採用することができない。
(イ)次に、上記相違点10について検討する。
特許異議申立人は、甲第3号証の電池用包装材料のシーラント層に、甲第3号証ないし甲第5号証に記載されているような周知の加工条件を適用すると、上記相違点10に係る構成が得られる旨を主張するので検討する。(特許異議申立書74頁12ないし最終行)
本件特許明細書には、実施例1ないし実施例14に示す成分を有するシーラント層形成用ベース樹脂組成物を、第2の腐食防止処理層上に270℃、100m/分の加工条件でシーラント層の材料を共押出しすることで、シーラント層として金属箔側の層及び最内層を積層することにより、上記相違点10に係る構成が得られることが示されている(【0190】~【0207】、表1、表2)。
ここで、引用発明3のシーラント層を構成する樹脂の組合せ及び組成比が、本件特許の実施例1ないし14と共通するのであれば、甲第3号証(【0200】)、甲第4号証(【0143】)及び甲第5号証(【0094】)に記載されているような、周知のシーラント層の加工条件を適用した場合に、当該シーラント層が上記相違点10の構成を満たす蓋然性が高いといえる。
そして、本件特許において、シーラント層が上記相違点10の構成を満たす実施例1ないし14における樹脂の組合せは、上記「1(1)イ」で示したaないしkである。
一方、引用発明3の「プロピレン-エチレンランダム共重合体」、「水添スチレン系熱可塑性エラストマー(旭化成社製、「タフテック」)」及び「スチレン-ブタジエン共重合体エラストマー(旭化成社製、「アサフレックス」)」の樹脂の組合せは、上記aないしkのどれにも相当しない。
ここで、上述したように、引用発明3のシーラント層を構成する樹脂の組合せ及び組成比が、本件特許の実施例1ないし14と共通するのであれば、周知のシーラント層の加工条件を適用した場合に、当該シーラント層が上記相違点10の構成を満たす蓋然性が高いといえるが、組成比を検討するまでもなく樹脂の組合せが相違するので、引用発明3のシーラント層に上記周知の加工条件を適用したところで、上記相違点10の構成を満たすシ-ラント層になるとはいえない。
したがって、上記相違点10に係る構成は、引用発明3及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。
(ウ)よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(2)本件特許発明2ないし8について
本件特許発明2ないし8は、本件特許発明1に係る全ての構成を備え、さらに構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同様な理由により、甲第3号証に記載された発明及び甲第4号証ないし甲第8号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
4 申立理由3(第36条第6項第1号)について
(1)特許異議申立人の主張
a 各成分の含有率について
本件特許発明1には、「前記シーラント層が、その厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAMDに対する、前記蓄電装置用外装材を190℃で30秒間加熱した後の前記厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAhMDの比(LAhMD/LAMD)が0.20以上である低収縮性シーラント層を含む」なるパラメータに関する規定が存在する。
一方、本件特許発明1には、ポリプロピレン系樹脂(A)及び非相溶系成分(B)(又は化合物(B1))それぞれについて、低収縮性シーラント層における含有量は特定されていない。
発明の詳細な説明の実施例において、ポリプロピレン系樹脂(A)、非相溶系成分(B)及び化合物(B1)を含むシーラント層の組成として、発明の課題が解決されることが実証されているのは、表1に記載された具体的な組成のみである。
したがって、「低収縮性シーラント層」における、ポリプロピレン系樹脂(A)及び非相溶系成分(B)(又は化合物(B1))の含有率がどのような割合であっても、特殊パラメータ(比(LAhMD/LAMD))が0.20以上を満たしさえすれば、発明の課題(デガッシングヒートシール後の絶縁性を十分維持する)が解決されると認識することはできない。(特許異議申立書79頁24行ないし80頁24行)
b 各成分の種類について
本件特許発明1には、「前記ポリプロピレン系樹脂と非相溶である非相溶系成分(B)」、及び「前記非相溶系成分(B)が、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有し、」なる記載が存在する。
一方、本件特許発明1には、非相溶系成分(B)の「非相溶」及び化合物(B1)の「相溶」の具体的な定義が規定されておらず、非相溶系成分(B)及び化合物(B1)として、広範な成分及び化合物が包含され得る。
発明の詳細な説明の実施例において、非相溶系成分(B)及び化合物(B1)として発明の課題が解決されることが実証されているものは、僅か数種類の例のみである。
したがって、本件特許発明1に包含されるあらゆる非相溶系成分(B)、化合物(B1)、さらには成分(C)について、発明の課題(デガッシングヒートシール後の絶縁性を十分維持する)が解決されると認識することはできない。(特許異議申立書80頁25行ないし82頁3行)
(2)当審の判断
本件特許明細書の記載によれば本件特許の課題は、デガッシングヒートシールで電解液が発泡し、発泡によりシーラント層の破壊された部分から電解液が入り込み、金属層に接触することで、絶縁性が低下することである(【0010】)。
そして、本件特許は上記課題を、厚さ方向及びMD方向に沿った断面における非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAMDに対する、蓄電装置用外装材を190℃で30秒間加熱した後の前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAhMDの比(LAhMD/LAMD)が0.20以上である低収縮性シーラント層を設けることにより(【0013】)、ポリプロピレン系樹脂(A)と非相溶系成分(B)との密着性を高くして、電解液の発泡によって、ポリプロピレン系樹脂(A)及び非相溶系成分(B)により形成される海島構造の界面に空隙が形成されないようにして上記課題を解決していると認められる(【0014】)。
したがって、本件特許発明1は「蓄電装置用外装材」が、「前記シーラント層がポリプロピレン系樹脂(A)及び前記ポリプロピレン系樹脂と非相溶である非相溶系成分(B)を含有し、前記ポリプロピレン系樹脂(A)の存在領域と前記ポリプロピレン系樹脂(A)に囲まれた複数の前記非相溶系成分(B)の存在領域とを有し、」「前記シーラント層が、その厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAMDに対する、前記蓄電装置用外装材を190℃で30秒間加熱した後の前記厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAhMDの比(LAhMD/LAMD)が0.20以上である低収縮性シーラント層を含む」ことにより、上記課題を解決していると認められる。
よって、特許異議申立人の上記主張を採用することができない。
5 取消理由5(第36条第4項第1号)について
(1)特許異議申立人の主張
a 各成分の含有率について
本件特許発明1には、前述の特殊パラメータに関する規定が存在する。
一方、本件特許発明1には、ポリプロピレン系樹脂(A)及び非相溶系成分(B)(又は化合物(B1))それぞれについて、低収縮性シーラント層における含有量は特定されていない。
発明の詳細な説明の実施例において、ポリプロピレン系樹脂(A)、非相溶系成分(B)、化合物(B1)、さらには成分(C)を含むシーラント層の組成としては、表1に記載された含有率とした例が存在するのみである。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明は、「低収縮性シーラント層」における、ポリプロピレン系樹脂(A)及び非相溶系成分(B)(又は化合物(B1))、さらには成分(C)の含有率がどのような割合であっても、本件特許発明1-8を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。(特許異議申立書82頁5ないし24行)
b 各成分の種類について
本件特許発明1には、「前記ポリプロピレン系樹脂と非相溶である非相溶系成分(B)」、及び「前記非相溶系成分(B)が、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有し、」なる記載が存在する。
一方、本件特許発明1には、非相溶系成分(B)の「非相溶」及び化合物(B1)の「相溶」の具体的な定義が規定されておらず、広範な成分及び化合物が包含され得る。
発明の詳細な説明において、非相溶系成分(B)及び化合物(B1)として発明の効果が奏されることが実証されているものは、僅か数種類の例のみである。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明は、あらゆる非相溶系成分(B)、化合物(B1)、さらには成分(C)について、本件特許発明1-8を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。(特許異議申立書82頁25行ないし83頁10行)
(2)当審の判断
本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1の「前記ポリプロピレン系樹脂と非相溶である非相溶系成分(B)」、及び「前記非相溶系成分(B)が、前記ポリプロピレン系樹脂(A)との相溶部を有する化合物(B1)を含有し、」、かつ「前記シーラント層が、その厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAMDに対する、前記蓄電装置用外装材を190℃で30秒間加熱した後の前記厚さ方向及びMD方向に沿った断面における前記非相溶系成分(B)の存在領域の前記MD方向の平均長さLAhMDの比(LAhMD/LAMD)が0.20以上である低収縮性シーラント層を含む」の要件を満たすシーラント層が、実施例1ないし14として記載されている。
そして、発明の詳細な説明には、実施例1ないし14における樹脂の種類及び含有率、並びにその製造方法が具体的に記載されているので、実施例の記載を参照することことによって、本件特許発明1の要件を満たすシーラント層を作成することは、過度の試行錯誤等を行う必要がなく、当業者が容易になし得ることである。
したがって、本件特許発明1ないし8について、発明の詳細な説明の記載は当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
よって、特許異議申立人の上記主張を採用することができない。
6 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1ないし8に係る特許は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。
また、請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということができず、同法第113条第4号により取り消すことができない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700075