特許異議申立
2023-700596
鋼板及びその製造方法
- 審判番号
- 2023-700596
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-513661
- 登録番号
- 7173303
- 請求日
- 2023年06月07日
- 審決日
- 2024年02月29日
- 公報発行日
- 2024年03月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本製鉄株式会社
- 【権利者代理人】棚井 澄雄
- 【権利者代理人】寺本 光生
- 【権利者代理人】勝俣 智夫
- 【権利者代理人】山口 洋
- 【異議申立人】安枝 哲男
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 佐藤 陽一
- 審判官 山口 大志
- 分類
- P1651.536-Y (C22C) / P1651.537-Y (C22C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7173303号発明「鋼板及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7173303号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7173303号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、2020年(令和 2年) 4月 8日(優先権主張 平成31年 4月11日)を国際出願日とする出願(特願2021-513661号。以下、「本願」という。)であって、令和 4年11月 8日にその特許権の設定登録がなされ、同年12月 8日にその特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和 5年 6月 7日付けで、特許異議申立人 安枝 哲男(以下、「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~7(全請求項)に係る特許に対して特許異議の申立てがなされたものである。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。
令和 5年 6月 7日 :特許異議の申立て
9月12日付け:取消理由通知
11月 7日 :特許権者による意見書の提出
6年 2月 5日 :申立人による上申書の提出
第2 本件発明
本件特許の請求項1~7に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項1~7に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明7」という。また、これらを総称して「本件発明」という。)。
「【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C :0.040%以上、0.400%以下、
Si:0.01%以上、2.50%以下、
Mn:0.10%以上、4.00%以下、
Al:0.010%以上、1.500%以下、
P :0.001%以上、0.100%以下、
S :0.0005%以上、0.0100%以下、
N :0.0005%以上、0.0100%以下、
Ti:0%以上、0.200%以下、
Mo:0%以上、0.300%以下、
Nb:0%以上、0.200%以下、
Cr:0%以上、4.00%以下、
B :0%以上、0.0050%以下、
V :0%以上、0.300%以下、
Ni:0%以上、4.00%以下、
Cu:0%以上、4.00%以下、
W :0%以上、2.00%以下、
Ca:0%以上、0.0100%以下、
Ce:0%以上、0.0100%以下、
Mg:0%以上、0.0100%以下、
Zr:0%以上、0.0100%以下、
La:0%以上、0.0100%以下、
Ce、La以外のREM:0%以上、0.0100%以下、
Sn:0%以上、1.000%以下、
Sb:0%以上、0.200%以下、
残部:Fe及び不純物からなり、
表面から板厚方向に板厚の1/8の位置から前記表面から前記板厚方向に前記板厚の3/8の位置までの範囲におけるミクロ組織が、面積率で、
フェライト:10%以上、97%以下、
残留オーステナイト及びマルテンサイト:3%以上、28%以下、
ベイナイト:0%以上、87%以下、
パーライト:0%以上、10%以下、
からなり、
前記表面から前記板厚方向に前記板厚の1/4の位置の圧延方向に平行な面において、測定範囲におけるMn含有量の最大値をMnmax、前記Mn含有量の平均値をMnaveとし、前記Mn含有量が(Mnave+Mnmax)/2以上の領域を高Mn領域、それ以外の領域を低Mn領域としたとき、
隣合う前記高Mn領域の中心同士の平均距離が1.00mm以下であり、
板幅の中央部における前記高Mn領域の密度DAと、板幅端部から板幅の1/4の位置における高Mn領域の密度DBとが下記式(1)を満たし、
前記高Mn領域における硬さの平均の、前記低Mn領域における硬さの平均に対する比が、1.1~2.0であり、
低Mn領域の各測定点におけるMn含有量の、上位5%の平均と下位5%の平均との差が、0.3質量%以上である、
ことを特徴とする鋼板。
0.77≦DA/DB≦1.30 式(1)
【請求項2】
前記表面に、溶融亜鉛めっき層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
前記溶融亜鉛めっき層が合金化溶融亜鉛めっき層であることを特徴とする請求項2に記載の鋼板。
【請求項4】
請求項1に記載の鋼板の製造方法であって、
請求項1に記載の化学組成を有する鋼を溶製し、溶製された前記鋼を鋳造しスラブを製造し、前記スラブを、950~550℃の温度に亘って、前記スラブに10N/cm2以上の圧力を厚さ方向に付与しながら平均冷却速度が100℃/h以上となるように冷却することによりスラブを製造する鋳造工程と;
前記スラブを、室温まで冷却した後又は室温まで冷却する前に、650℃以上850℃以下の温度域における平均加熱速度が50℃/min以下となるように、1100℃以上1280℃以下の温度域に加熱する加熱工程と;
前記加熱工程後のスラブを、1050℃以上の温度域で35%以上の累積圧下率で熱間圧延して熱延鋼板を得る熱間圧延工程と;
前記熱延鋼板を、前記熱間圧延工程完了後、3秒以内に冷却を開始し、かつ700℃までの平均冷却速度が20℃/s以上となるように650℃以下に冷却する冷却工程と;
前記冷却工程後の前記熱延鋼板を300℃以上、650℃以下の温度域で巻取る巻取り工程と:
前記巻取り工程後の前記熱延鋼板に酸洗処理を施して酸洗鋼板とする酸洗工程と:
前記酸洗鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程と;
前記冷延鋼板を、10.0℃/s以下の平均加熱速度でAc1℃以上1000℃以下の焼鈍温度に加熱し、前記焼鈍温度で5秒以上600秒以下保持する焼鈍工程と;
前記焼鈍工程後の前記冷延鋼板を、1℃/s以上200℃/s以下の平均冷却速度で、150℃以上550℃以下の滞留温度に冷却する焼鈍後冷却工程と;
前記滞留温度で15秒~1000秒滞留させる滞留工程と;
前記滞留工程後の前記冷延鋼板を、室温に冷却する最終冷却工程と;
を備えることを特徴とする鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記滞留工程と、前記最終冷却工程との間に、前記冷延鋼板を溶融亜鉛浴に浸漬する溶融亜鉛めっき工程を備える
ことを特徴とする請求項4に記載の鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記溶融亜鉛めっき工程と、前記最終冷却工程との間に、前記冷延鋼板を470℃以上550℃以下に再加熱し、60秒以下保持する合金化工程を備える
ことを特徴とする請求項5に記載の鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記冷間圧延工程と前記焼鈍工程の間に、前記冷延鋼板にレベラーを用いて加工を行うレベラー加工工程を備える
ことを特徴とする請求項4~6のいずれか一項に記載の鋼板の製造方法。」
第3 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1号証、甲第2号証を提出し、以下の申立理由1、2により、本件特許の請求項1~7に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
(1)申立理由1(実施可能要件)
ア 申立理由1-1(取消理由として採用)
本願の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)では、鋳造工程において「スラブに10N/cm2以上の圧力を厚さ方向に付与しながら冷却する」ことが本件発明1の鋼板の製造に不可欠の条件であるとしているが、どのような手段・手法および態様で圧力を付与するかについての具体的な説明が一切なく、実施例の記載を含めて具体例も全く示されていない。このため、技術常識を考慮しても当業者が本件発明1の鋼板をどのように作るか理解できず、本件発明1を実施することができない。よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでない。請求項1の記載を引用する本件発明2、3についても同様である。
よって、本件発明1~3については、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 申立理由1-2(取消理由として採用)
請求項1には「高Mn領域における硬さの平均の、低Mn領域における硬さの平均に対する比が、1.1~2.0であり」と記載されているが、本件明細書に記載された硬さの測定方法では、「高Mn領域における硬さの平均」と「低Mn領域における硬さの平均」を測定することができない。このため、当業者は本件発明1をいかにして実施するかを理解することができない。よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでない。請求項1の記載を引用する本件発明2、3についても同様である。
よって、本件発明1~3については、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 申立理由1-3(取消理由として不採用)
本件明細書には、鋼板の幅方向で高Mn領域の存在形態に相違があると記載されているにも拘わらず、請求項1に記載された「隣合う高Mn領域の中心同士の平均距離」(要件A)と、「高Mn領域における硬さの平均の、低Mn領域における硬さの平均に対する比」(要件B)は、鋼板幅方向での測定位置について何ら特定されておらず、本件明細書には試料の採取位置についても何も記載されていない。そうすると、本件明細書は上記要件A、Bを求めるための測定方法の記載が不十分であり、本件明細書に記載された測定方法では、上記要件A、Bを測定することができない。このため、当業者は本件発明1をいかにして実施するかを理解することができない。よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでない。請求項1の記載を引用する本件発明2、3についても同様である。
よって、本件発明1~3については、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
エ 申立理由1-4(取消理由として採用)
本件発明4は、鋳造工程において「(スラブを)950~550℃の温度に亘って、スラブに10N/cm2以上の圧力を厚さ方向に付与しながら平均冷却速度が100℃/h以上となるように冷却する」ものであるが、本件明細書には、どのような手段・手法および態様で圧力を付与するかについての具体的な説明が一切なく、実施例の記載を含めて具体例も全く示されていない。このため、技術常識を考慮しても当業者が「スラブに10N/cm2以上の圧力を厚さ方向に付与しながら冷却する」をどのように実施するのか理解できず、本件発明4を実施することができない。よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明4について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでない。請求項4の記載を引用する本件発明5~7についても同様である。
よって、本件発明4~7については、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号の規定に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(明確性要件)
ア 申立理由2-1(取消理由として不採用)
請求項1に記載されたミクロ組織は、「焼戻しマルテンサイト」を含むのか否か、「マルテンサイト」とは「焼戻しマルテンサイト」を含む意味であるのか否かが明確でなく、焼戻しマルテンサイトを含むミクロ組織を有する鋼板が本件発明1の範囲に入るか否かを当業者が理解することができない。よって、本件発明1について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確でない。請求項1の記載を引用する本件発明2、3についても同様である。
よって、本件発明1~3については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 申立理由2-2(取消理由として不採用)
請求項1に記載されたミクロ組織について、本件明細書には「ラスやブロックの間に炭化物や残留オーステナイトが存在している組織をベイナイトとする。」、「上記の特徴によって、フェライト、パーライト、ベイナイトを同定し、その面積率を測定した後、フェライト、パーライト、ベイナイト以外の領域をマルテンサイトと残留オーステナイ卜と判断し、その面積率を得る。SEMで観察すると、マルテンサイトと残留オーステナイトとはいずれも平な組織であるため、区別することが難しい。」と記載されているが、この記載では、ベイナイトを構成するラスやブロックの間に存在する残留オーステナイトについては「残留オーステナイト」と同定されるとする一方において、フェライト、ベイナイト、パーライト以外の残部領域を「マルテンサイト+残留オーステナイト」と定義しており、ラスやブロックの間に存在する残留オーステナイトが、フェライト、ベイナイト、パーライト以外の残部領域である「マルテンサイト+残留オーステナイト」に含まれるか否かが不明確である。よって、本件発明1について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確でない。請求項1の記載を引用する本件発明2、3についても同様である。
よって、本件発明1~3については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 申立理由2-3(取消理由として採用)
請求項4には、鋳造工程について「(スラブを)950~550℃の温度に亘って、スラブに10N/cm2以上の圧力を厚さ方向に付与しながら平均冷却速度が100℃/h以上となるように冷却する」と記載されているが、「圧力を厚さ方向に付与する」がどのような態様を含むのか不明確であり、また、「950~550℃」がスラブのどの部位の温度であるのかが不明確である。このため、ある製造方法が本件発明4の範囲に入るか否かを当業者が理解することができないので、本件発明4について、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確でない。請求項4の記載を引用する本件発明5~7についても同様である。
よって、本件発明4~7については、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)証拠方法
・甲第1号証:JISハンドブック1鉄鋼I「JIS Z2244:2009 ビッカース硬さ試験-試験方法」の一部、H31.1.31,(財)日本規格協会
(当審注:証拠説明書の記載のとおり)
・甲第2号証: 特許第5764549号公報
2 令和 5年 9月12日付けで通知した取消理由の概要
(1)取消理由1(1)(実施可能要件)
上記1(1)アの申立理由1-1と同旨
(2)取消理由1(2)(実施可能要件)
上記1(1)エの申立理由1-4と同旨
(3)取消理由2(1)(実施可能要件)
上記1(1)イの申立理由1-2と同旨
(4)取消理由3(1)(明確性要件)
上記1(2)ウの申立理由2-3と同旨
第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書の申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
1 申立理由1-1、取消理由1(1)(実施可能要件)
(1)ア 取消理由通知において、「本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の鋼板の製造方法における鋳造工程について、「鋳造工程では、本実施形態に係る鋼板と同様の組成を有する鋼を溶製し、溶製された鋼を鋳造してスラブを製造し、前記スラブを、950~550℃の温度に亘って、前記スラブに10N/cm2以上の圧力を厚さ方向付与しながら平均冷却速度が100℃/h以上となるように冷却することによりスラブを製造する。凝固するまでの冷却過程における冷却の仕方は、冷却速度が幅方向で一定になるように、中央部の水を増やすなどの調整を行いながら、冷却することが好ましい。なお、ここで言う厚さ方向とは、後工程の熱間圧延工程後の鋼板の板厚方向に対応する方向である。」(段落【0068】)と記載されているものの、「スラブに10N/cm2以上の圧力を厚さ方向付与しながら平均冷却速度が100℃/h以上となるように冷却する」ことについて、どのような手段、手法及び態様で圧力を付与するかについての具体的な説明が一切なく、実施例の記載を含めて具体例も全く示されていない。
また、連続鋳造(段落【0091】)後のスラブは、サポートロールで搬送されつつ、放冷作用とロール間での冷却水スプレーによって、一定の温度まで冷却された後、切断機で一定の長さに切断され、その後さらに冷却(放冷)される。技術常識として、この「鋳造後の搬送・冷却、切断、切断後の冷却」という一連のスラブ冷却過程において、スラブの厚さ方向に圧力を付与することは一般的なことではなく、仮に、それを行うとしたら何らかの特別な手段・手法及び態様を採る必要があることが明らかである。
したがって、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識を考慮しても、スラブに対していかなる手段、手法及び態様で圧力を付与すればよいのか、当業者は理解することができず、そのため鋼板をどのように作るか理解することができない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」旨指摘した。
イ 以下、検討する。
連続鋳造後のスラブ等の鋳片をロールによって圧下することは、例えば、特許権者が、令和 5年11月 7日に提出した意見書に添付した乙第1号証(川本正幸,外1名,“我が国における鋼の連続鋳造プロセスの開花と未来へのシーズ”,鉄と鋼,2014年,第100巻,第4号,p.472~484)の「3・5 圧下技術とストランド電磁撹拌技術」及びFig.9にも記載されているように、周知の事項であり、その際、水冷等により冷却も行われていることは、周知の事項であるから、上記周知の事項を考慮すれば、当業者であれば、スラブに対してどのように圧力を付与しながら冷却すればよいのかを理解することができるし、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~3の鋼板を実施できることが理解できるものといえる。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
ウ 以上のとおりであるから、上記の点に関する実施可能要件の取消理由は解消した。
(2)ア 取消理由通知において、「スラブに圧力を付与する温度域は、「950~550℃」であるが、スラブは内外温度差が非常に大きく、しかもスラブ幅方向でも大きな温度差があり、「950~550℃」がスラブのどの部位の温度であるのか(表面温度、特定厚さ位置での温度、厚さ方向平均温度、スラブ幅方向の位置等)が不明であるので、どのタイミングで圧力を付与すればよいのかも当業者は理解することができない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」旨指摘した。
イ 以下、検討する。
スラブの温度測定部位に関しては、スラブの温度を測定する際には、測定困難な内側ではなく表面の温度を測定することが通常であり、また、幅方向位置についても、過冷が生じやすい端部ではなく幅中央付近の温度を測定することが通常であり、あえて端部を測定することは特定の目的がある場合を除いて通常は行われていないといえるから、当業者であれば、通常の温度測定に基づき、スラブに対してどのタイミングで圧力を付与すればよいのかを理解することができるし、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1~3の鋼板を実施できることが理解できるものといえる。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
ウ 以上のとおりであるから、上記の点に関する実施可能要件の取消理由は解消した。
(3)ア 申立人は、上申書において、「スラブを圧下する」と「スラブの厚さ方向に圧力を付与する」とは技術的な概念が異なる旨主張する。
しかしながら、例えば、乙第1号証のFig.9のように、スラブをロールで圧下すれば、スラブの厚さ方向に圧力を付与することになるから、「スラブを圧下する」と「スラブの厚さ方向に圧力を付与する」とは技術的な概念が異なるとはいえない。
イ 申立人は、上申書において、乙第1号証には、「中心偏析を低減するための未凝固軽圧下」、「同じく未凝固大圧下」、「キャビティー、ポロシティ-を低減するための凝固後大圧下」、「厚みを減じるための未凝固大圧下」などが記載されており、どれが周知の事項であるのか判然とせず、いかなる周知の事項を適用すれば、連続鋳造後の冷却過程において「950~550℃の温度に亘ってスラブに100N/cm2以上の圧力を厚さ方向に付与する」ことになるのか、当業者は理解することができない旨主張する。
しかしながら、これらの圧下技術は、いずれも周知技術であるといえ、当該周知技術のうち、本件発明1の条件に沿うものを採用すればよいことも明らかである。
ウ 申立人は、上申書において、どこの箇所やどの程度の数の箇所をロール圧下すれば「950~550℃の温度に亘ってスラブに圧力付与する」ことになるのか、当業者は理解することができない旨主張する。
しかしながら、スラブをロールで圧下する以上、圧力の付与が断続的になることは自明である。また、本件発明1の鋼板は、ミクロ組織、鋼板中のMn分布及び硬さが特定されているため、当業者であれば、これらのミクロ組織等が得られるように、ロールの配置を適宜調整し、圧力を付与しながら冷却することは、過度の試行錯誤を要することなく実施でき、それにより、「950~550℃の温度に亘ってスラブに圧力付与する」ことになることが理解できる。
エ 申立人は、上申書において、仮にスラブが800℃で切断されたとすると、その温度以降550℃までの温度域をいかなる手段、手法及び態様でスラブに圧力を付与すればよいのか、当業者は理解することができない旨主張する。
しかしながら、上記のとおり、連続鋳造後のスラブ等の鋳片をロールによって圧下することは周知の事項であるから、当業者であれば、切断後のスラブに対しても、同様にロール圧下できることが理解できる。
オ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(4)したがって、申立理由1-1、取消理由1(1)(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
2 申立理由1-2、取消理由2(1)(実施可能要件)
(1)ア 取消理由通知において、「本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1の鋼板における、「高Mn領域における硬さ」及び「低Mn領域における硬さ」の測定方法について、「硬さの測定は、ビッカース硬さ試験 JISZ2244:2009に準拠し行う。」(段落【0058】)と記載されている。また、具体的な測定条件として、「荷重は、圧痕が、数μmになる程度、例えば、10gfに設定し、400μm×400μmの領域を0.2μmピッチで測定する。そして、高Mn領域の硬さの平均と、低Mn領域の硬さの平均を算出する。」(段落【0058】)とも記載されている。ここで、段落【0100】には、「高Mn領域における硬さの平均の、低Mn領域における硬さの平均に対する比・・(略)・・を前述の方法により求めた。」と記載されているので、実施例においては、上記の具体的な測定条件で硬さの測定が行われたものと認められる。
そして、上記の測定条件は、圧痕サイズが数μm、0.2μmピッチで測定するというものであるが、このような圧痕サイズと測定ピッチでは、隣り合う複数の圧痕が重なり合ってしまうので、硬さの測定は不可能であると考えられる。すなわち、隣り合う圧痕が殆ど重なり合うようなピッチで硬さを測定すると、加工硬化した圧痕の中に、さらに圧子を打ち込んで隣の圧痕を形成することになり、そのため、領域内の複数点の硬さを正確に測定することは不可能であると考えられる。
したがって、上記の測定条件では、「高Mn領域の硬さ」及び「低Mn領域の硬さ」を測定することができないから、「高Mn領域の硬さの平均」及び「低Mn領域の硬さの平均」も算出することはできない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」旨指摘した。
イ 以下、検討する。
本件明細書には、「硬さの測定は、ビッカース硬さ試験 JISZ2244:2009に準拠し行う。」(段落【0058】)と記載されており、また、甲第1号証(乙第2号証)の「ビッカース硬さ試験-試験方法」には、ビッカース硬さ試験を行う際のくぼみの中心間距離について、鋼の場合、3d(d:くぼみの平均対角線長さ)以上とすることが記載されている。
そして、申立人が述べるとおり、「圧痕サイズが数μm、0.2μmピッチで測定すると」、「隣り合う複数の圧痕が重なり合ってしまうので、硬さの測定は不可能であると考えられる」ことを考慮すると、段落【0058】の「圧痕サイズが数μm」及び「0.2μmピッチ」との記載の一方又は両方に、誤記が含まれていると解するのが合理的である。
また、本件明細書に上記のような誤記が含まれているとしても、「ビッカース硬さ試験 JISZ2244:2009」に準拠して測定すれば、「高Mn領域の硬さ」及び「低Mn領域の硬さ」を測定することができるのは明らかであるから、これらの測定結果に基づき、「高Mn領域の硬さの平均」及び「低Mn領域の硬さの平均」も算出することができる。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
ウ 以上のとおりであるから、上記の点に関する実施可能要件の取消理由は解消した。
(2)ア 取消理由通知において、「本件発明1の鋼板の、「高Mn領域における硬さ」及び「低Mn領域における硬さ」の測定における、「400μm×400μm」という測定領域についても、高Mn領域や低Mn領域との関係が不明であり、その測定領域におけるMnの濃度分布が既知でなければ、測定位置が、高Mn領域なのか、低Mn領域なのかが不明となる。しかし、発明の詳細な説明には、硬さ試験の試験片をどのように準備したのかが記載されていないから、単に、「400μm×400μm」という測定領域を0.2μmピッチで測定したからといって、「高Mn領域の硬さの平均」及び「低Mn領域の硬さの平均」が算出できるとはいえない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」旨指摘した。
イ 以下、検討する。
本件明細書の段落【0054】に記載されているように、高Mn領域は0.2~0.3mm(200~300μm)の大きさであり、また、高Mn領域と低Mn領域の位置も特定可能であるから、任意の400μm×400μmの測定領域を選択すれば、通常、高Mn領域と低Mn領域の両方の領域が含まれると解されるし、少なくとも、400μm×400μmの測定領域として、高Mn領域と低Mn領域の両方の領域が含まれている領域を選択することは可能であるといえる。
そして、上記高Mn領域と低Mn領域の両方の領域が含まれている領域の硬さを、「ビッカース硬さ試験 JISZ2244:2009」に準拠して測定すれば、「高Mn領域の硬さの平均」及び「低Mn領域の硬さの平均」を算出することができる。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
ウ 以上のとおりであるから、上記の点に関する実施可能要件の取消理由は解消した。
(3)したがって、申立理由1-2、取消理由2(1)(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由1-3(実施可能要件)
(1)ア 申立人は、「本件明細書には、鋼板の幅方向で高Mn領域の存在形態に相違があると記載されているにも拘わらず、本件発明1における、「隣合う高Mn領域の中心同士の平均距離」と、「高Mn領域における硬さの平均の、低Mn領域における硬さの平均に対する比」は、鋼板の幅方向での測定位置について何ら特定されておらず、本件明細書には試料の採取位置についても何も記載されていない。
そうすると、本件明細書は「隣合う高Mn領域の中心同士の平均距離」と、「高Mn領域における硬さの平均の、低Mn領域における硬さの平均に対する比」を求めるための測定方法の記載が不十分であり、本件明細書に記載された測定方法では、「隣合う高Mn領域の中心同士の平均距離」と、「高Mn領域における硬さの平均の、低Mn領域における硬さの平均に対する比」を測定することができない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない」旨主張する。
イ しかしながら、本件発明1において、鋼板の幅方向での測定位置について何ら特定されておらず、本件明細書に、試料の採取位置についても何も記載されていないと、なぜ、「隣合う高Mn領域の中心同士の平均距離」と、「高Mn領域における硬さの平均の、低Mn領域における硬さの平均に対する比」を測定することができないのか、具体的な根拠が示されていない。
本件発明1は、鋼板の板幅方向で高Mn領域の存在形態に相違がある(高Mn領域の密度が異なっている)としても、そのような相違が、「0.77≦DA/DB≦1.30 式(1)」を満たす程度に小さいことを前提とするものである(段落【0055】)。そして、本件明細書に鋼板の幅方向での測定位置について特に記載されていないことも踏まえると、本件発明1は、鋼板の幅方向のいずれの位置で測定しても、「隣合う高Mn領域の中心同士の平均距離」が「1.00mm以下」を満たし、「高Mn領域における硬さの平均の、低Mn領域における硬さの平均に対する比」が「1.1~2.0」を満たすことを特定したものと解される。また、本件明細書の段落【0053】、【0054】には、「隣合う高Mn領域の中心同士の平均距離」の測定方法が記載され、段落【0057】、【0058】には、「高Mn領域における硬さの平均の、低Mn領域における硬さの平均に対する比」を求める方法が記載されている。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(2)したがって、申立理由1-3(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
4 申立理由1-4、取消理由1(2)(実施可能要件)
(1)ア 取消理由通知において、「本件発明4は、「請求項1に記載の化学組成を有する鋼を溶製し、溶製された前記鋼を鋳造しスラブを製造し、前記スラブを、950~550℃の温度に亘って、前記スラブに10N/cm2以上の圧力を厚さ方向に付与しながら平均冷却速度が100℃/h以上となるように冷却することによりスラブを製造する鋳造工程と;」との発明特定事項を有するものであるが、上記1(1)ア、1(2)アにおける主張と同様に、スラブに対していかなる手段、手法及び態様で圧力を付与すればよいのか、当業者は理解することができず、また、上記「950~550℃」がスラブのどの部位の温度であるのかが不明であるので、どのタイミングで圧力を付与すればよいのかも当業者は理解することができない。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明4~7について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」旨指摘した。
イ 以下、検討する。
上記1(1)イ、1(2)イで述べたのと同様の理由により、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明4~7について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
ウ 以上のとおりであるから、上記の点に関する実施可能要件の取消理由は解消した。
(2)ア 申立人は、上申書において、取消理由1(1)に対する主張と同様に主張するが、これらの主張については、上記1(3)で検討したとおりである。
イ 申立人は、上申書において、「スラブの厚さ方向に圧力を付与する」は「スラブを圧下する」以外の場合を含むものであり、この「スラブを圧下する」以外の圧力付与について、いかなる手段、手法及び態様で実施すればよいのか、当業者は理解することができない旨主張する。
しかしながら、上記1(3)アで述べたとおり、「スラブを圧下する」と「スラブの厚さ方向に圧力を付与する」とは技術的な概念が異なるとはいえない。また、申立人は、「スラブを圧下する」以外の圧力付与について、何ら具体例を示していないので、「スラブを圧下する」以外の圧力付与によって、本件発明4~7が実施可能でないとはいえない。さらに、そもそも、本件発明4~7について実施可能要件を満たすというために、「スラブを圧下する」以外のあらゆる圧力付与のための手段、手法及び態様が、発明の詳細な説明に記載されていなければならないともいえない。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(3)したがって、申立理由1-4、取消理由1(2)(実施可能要件)によっては、本件特許の請求項4~7に係る特許を取り消すことはできない。
5 申立理由2-1(明確性要件)
(1)ア 申立人は、「本件発明1における、「ミクロ組織が、面積率で、フェライト:10%以上、97%以下、残留オーステナイト及びマルテンサイト:3%以上、28%以下、ベイナイト:0%以上、87%以下、パーライト:0%以上、10%以下、からなり」との記載について、当該ミクロ組織が、「焼戻しマルテンサイト」を含むのか否か、前記「マルテンサイト」とは「焼戻しマルテンサイト」を含む意味であるのか否かが明確でない。
よって、特許請求の範囲の記載は、本件発明1~3について、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない」旨主張する。
イ(ア)しかしながら、本件明細書の段落【0051】には、「本実施形態に係る鋼板では、上記の特徴によって、フェライト、パーライト、ベイナイトを同定し、その面積率を測定した後、フェライト、ベイナイト、パーライト以外の領域をマルテンサイトと残留オーステナイトと判断し、その面積率を得る。
SEMで観察すると、マルテンサイトと残留オーステナイトとはいずれも平な組織であるため、区別することが難しい。しかしながら、オーステナイトは、加工後にマルテンサイトに変態することから、残留オーステナイトとマルテンサイトのそれぞれの面積率を規定する必要はなく、合計の面積率を規定する。」と記載されている。
(イ)本件発明1の「マルテンサイト」が、フレッシュマルテンサイトを意味するのか、それに加えて、焼戻しマルテンサイトをも含む意味であるのかは不明であるが、上記(ア)のとおり、本件発明1におけるミクロ組織は、「フェライト、ベイナイト、パーライト以外の領域をマルテンサイトと残留オーステナイトと判断し、その面積率を得る」わけであるから、仮に、「フェライト、ベイナイト、パーライト」以外の組織である「焼戻しマルテンサイト」が存在する場合には、「焼戻しマルテンサイト」が、(フレッシュ)「マルテンサイト」と異なる組織であるか、「マルテンサイト」に包含される組織であるかにかかわらず、「マルテンサイトと残留オーステナイト」に包含されることは明らかである。
よって、ミクロ組織が、「焼戻しマルテンサイト」を含むのか否か、「マルテンサイト」とは「焼戻しマルテンサイト」を含む意味であるのか否かが不明であっても、本件発明1におけるミクロ組織の面積率は明確である。
(ウ)そうすると、特許請求の範囲の記載は、本件発明1~3について、特許を受けようとする発明が明確である。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(2)したがって、申立理由2-1(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
6 申立理由2-2(明確性要件)
(1)ア 申立人は、「本件発明1における、「ミクロ組織が、面積率で、フェライト:10%以上、97%以下、残留オーステナイト及びマルテンサイト:3%以上、28%以下、ベイナイト:0%以上、87%以下、パーライト:0%以上、10%以下、からなり」との記載について、本件明細書の段落【0049】~【0050】に記載のミクロ組織の同定の仕方によれば、ベイナイトを構成するラスやブロックの間に存在する残留オーステナイトについては「残留オーステナイト」と同定されるとする一方において、フェライト、ベイナイト、パーライト以外の残部領域を「マルテンサイト+残留オーステナイト」と定義しており、ラスやブロックの間に存在する残留オーステナイトが、フェライト、ベイナイト、パーライト以外の残部領域である「マルテンサイト+残留オーステナイト」に含まれるか否かが明確でない。
よって、特許請求の範囲の記載は、本件発明1~3について、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない」旨主張する。
イ しかしながら、「ベイナイトを構成するラスやブロックの間に存在する残留オーステナイト」はベイナイトを構成する以上、ベイナイトに含まれるものである。そして、当該ベイナイトを構成する残留オーステナイトを除外した上で、残部領域である「マルテンサイト+残留オーステナイト」の面積率を得る以上、「ベイナイトを構成するラスやブロックの間に存在する残留オーステナイト」が、「マルテンサイト+残留オーステナイト」に含まれないことは明らかである。
そうすると、特許請求の範囲の記載は、本件発明1~3について、特許を受けようとする発明が明確である。
ウ 以上のとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
(2)したがって、申立理由2-2(明確性要件)によっては、本件特許の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
7 申立理由2-3、取消理由3(明確性要件)
(1)ア 取消理由通知において、「本件発明4は、「請求項1に記載の化学組成を有する鋼を溶製し、溶製された前記鋼を鋳造しスラブを製造し、前記スラブを、950~550℃の温度に亘って、前記スラブに10N/cm2以上の圧力を厚さ方向に付与しながら平均冷却速度が100℃/h以上となるように冷却することによりスラブを製造する鋳造工程と;」との発明特定事項を有するものであるが、スラブに対して、どのような手段、手法及び態様で圧力を付与するのかが不明であり、また、上記「950~550℃」がスラブのどの部位の温度であるのかも不明である。
よって、特許請求の範囲の記載は、本件発明4~7について、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。」旨指摘した。
イ 以下、検討する。
上記1(1)イ、1(2)イで述べたのと同様に、連続鋳造後の鋳片を圧下する技術や、鋳造後に圧下と同時に水冷等により冷却も行われているという周知の事項を考慮すれば、本件発明4においても、スラブに対してどのように圧力を付与しながら冷却するのかは明確であり、また、スラブの温度を測定する際には、測定困難な内側ではなく表面の温度を測定することが通常であり、幅方向位置についても、過冷が生じやすい端部ではなく幅中央付近の温度を測定することが通常であるから、本件発明4においても、「950~550℃」がスラブの幅中央付近の表面温度であると解される。
そうすると、特許請求の範囲の記載は、本件発明4~7について、特許を受けようとする発明が明確である。
ウ 以上のとおりであるから、上記の点に関する明確性要件の取消理由は解消した。
(2)申立人は、上申書において、取消理由1(1)に対する主張と同様に主張するが、これらの主張については、上記1(3)で検討したとおりである。
(3)したがって、申立理由2-3、取消理由3(明確性要件)によっては、本件特許の請求項4~7に係る特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審から通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700596