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特許異議申立

2026-700106

プレス成形部品の製造方法、プレス成形部品、プレス成形用ブランクの製造方法、およびプレス成形用ブランク

審判番号
2026-700106
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2025-506050
登録番号
7719422
請求日
2026年02月05日
審決日
2026年05月20日
公報発行日
2026年06月26日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】日本製鉄株式会社
  • 【権利者代理人】青木 篤
  • 【権利者代理人】三橋 真二
  • 【権利者代理人】福地 律生
  • 【権利者代理人】齋藤 学
  • 【権利者代理人】木村 健治
  • 【異議申立人】田中 理紗
審判長/審判官
  • 審判長 本庄 亮太郎
  • 審判官 藤江 大望
  • 審判官 鈴木 貴雄
分類
P1651.121-Y (B21D) / P1651.537-Y (B21D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7719422号発明「プレス成形部品の製造方法、プレス成形部品、プレス成形用ブランクの製造方法、およびプレス成形用ブランク」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7719422号の請求項1~10に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7719422号(以下「本件特許」という。)の請求項1~10に係る特許についての出願は、2024年(令和6年)4月24日(優先権主張(2件) 令和5年7月28日、同年12月14日)を国際出願日とする国際特許出願であって、令和7年2月3日に国内書面が提出され、同年7月29日に特許権の設定の登録がされ、同年8月6日に特許掲載公報が発行された。 その後、令和8年2月5日に、特許異議申立人 田中 理紗(以下「申立人」という。)は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)を提出して、本件特許の全請求項に対する本件特許異議の申立てをした。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~10に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1~10(すなわち、特許掲載公報の特許請求の範囲の請求項1~10)に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 鋼板からなる複数の部分ブランクを接合して一体化したプレス成形用ブランクであり、少なくとも2つの前記部分ブランクが部分的に重ね合わせられて構成された重ね合わせ部を有する前記プレス成形用ブランクを得るプレス成形用ブランク加工工程と、 前記プレス成形用ブランクを熱間プレス成形によりプレス成形品を得る熱間プレス成形工程と、 前記プレス成形品の一部を接合するプレス後部品接合工程を有し、 前記プレス成形用ブランク加工工程が、予めプレス成形による前記重ね合わせ部を構成する前記部分ブランクそれぞれの材料流入量を求め、前記部分ブランクの材料流入量の差が、予め定めた限界値より小さい部分のみで、前記重ね合わせ部を構成する前記部分ブランクを接合する工程を含み、 前記プレス後部品接合工程が、前記重ね合わせ部のうち、前記プレス成形用ブランク加工工程で接合していない部分を接合する工程を含む、 ことを特徴とするプレス成形部品の製造方法。 【請求項2】 前記接合がスポット溶接である請求項1に記載のプレス成形部品の製造方法。 【請求項3】 前記予め定めた限界値が、プレス成形による前記部分ブランクの材料流入量の差の絶対値で1mmである請求項1または2に記載のプレス成形部品の製造方法。 【請求項4】 前記プレス成形部品の前記重ね合わせ部が、L字状またはT字状の部分を含む請求項1または2に記載のプレス成形部品の製造方法。 【請求項5】 前記プレス成形部品の前記重ね合わせ部が、L字状またはT字状の部分を含む請求項3に記載のプレス成形部品の製造方法。 【請求項6】 鋼板からなる複数の部分ブランクを接合して一体化したプレス成形用ブランクにおいて、少なくとも2つの前記部分ブランクが部分的に重ね合わせられて構成された重ね合わせ部を有する前記プレス成形用ブランクの製造方法であって、 予め前記重ね合わせ部におけるプレス成形による前記部分ブランクそれぞれの材料流入量を求め、前記部分ブランクの材料流入量の差が、予め定めた限界値より小さい部分のみで、前記重ね合わせ部を構成する前記部分ブランクを接合する工程を含むことを特徴とするプレス成形用ブランクの製造方法。 【請求項7】 前記接合がスポット溶接である請求項6に記載のプレス成形用ブランクの製造方法。 【請求項8】 前記予め定めた限界値が、プレス成形による前記部分ブランクの材料流入量の差の絶対値で1mmである請求項6または7に記載のプレス成形用ブランクの製造方法。 【請求項9】 前記プレス成形用ブランクの前記重ね合わせ部が、L字状またはT字状の部分を含む請求項6または7に記載のプレス成形用ブランクの製造方法。 【請求項10】 前記プレス成形用ブランクの前記重ね合わせ部が、L字状またはT字状の部分を含む請求項8に記載のプレス成形用ブランクの製造方法。」 第3 申立ての理由 1 申立ての理由の概要 申立書に記載された申立ての理由は、概略、次のとおりである。 (1)理由1:特許法第29条第2項(進歩性欠如) 本件発明1~10は、本件特許の特許出願前(優先権の主張の基礎とされた先の出願の特許出願前)に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された、又は、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記2の甲第1号証に記載された発明又は甲第2号証に記載された発明、並びに、甲第3号証~甲第4号証に記載された技術的事項、及び、甲第5号証に記載された技術的事項に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(同法第113条第2号)。 (2)理由2:特許法第36条第6項第2号(明確性要件) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記第5の1(1)及び3(1)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(同法第113条第4号)。 2 証拠方法 甲第1号証:特開2007-29966号公報 甲第2号証:特開2013-128955号公報 甲第3号証:特開2020-121336号公報 甲第4号証:特開2020-131226号公報 甲第5号証:中山英介、「超小型試験片による局所材料強度特性評価-スポット溶接継手の強度予測への応用-」、溶接学会誌、一般社団法人溶接学会、2006年、第75巻第6号、461~465ページ (以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。) 第4 理由1(進歩性欠如、上記第3の1(1))についての当審の判断 1 甲号証に記載された事項、並びに、発明及び技術的事項 (1)甲1 ア 甲1に記載された事項 甲1には次の事項が記載される。(下線は当審にて付した。以下同様。) (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、例えば自動車の車体に組み付けられる板金部品を成形するための部分オーバーラップ成形法に関するものである。」 (イ)「【0009】 本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、シワや亀裂を生ずることなくブランク材を一体的に成形することができ、成形型の構造単純化と型数及び成形工数の削減を図ることができる部分オーバーラップ成形法を提供することにある。」 (ウ)「【0013】 <実施の形態1> 図1(a)~(e)は本発明の実施の形態1に係る部分オーバーラップ成形法をその工程順に示す斜視図である。 【0014】 本実施の形態においては、図1(e)に示すような鞍型の車体部品の成形に本発明方法を適用したものであって、本発明方法は、1)分割工程、2)ブランク加工工程、3)仮止め工程、4)成形工程及び5)固着工程を経て図1(e)に示す最終製品(対象部品)としての車体部品を成形するものである。」 (エ)「【図1】 [図:0001436222000001.jpg] 」 (オ)「【0015】 以下、本発明方法を上記各工程に従って順に説明する。 【0016】 1)分割工程: 分割工程においては、図1(e)に示すような最終製品(対象部品)W1を想定し、これを例えば図面上でイメージ的に所定の分割ラインL1に沿って複数の部材に分割する。尚、このとき分割された部材は、実際に分割されたものではなく、これらが個々に所定の最終形状にプレス加工等された後に溶接等によって一体化される訳でもなく、本発明方法は、この点において従来の成形方法とは異なる。 【0017】 ここで、この分割工程における分割ラインL1は、後述の一体化されたブランク材3(図1(b)参照)のプレス成形時において材料に伸び方向の力が及ぶ部分(本実施の形態では、最終製品である車体部品W1の曲面部分)に設けられており、これらが設けられる位置は経験則や成形シミュレーシュン(当審注:「シュン」は「ション」の誤記)によって決定される。 【0018】 2)ブランク加工工程: ブランク加工工程においては、前工程である前記分割工程にてイメージ的に分割された各部材の展開形状に基づいて平面的なブランク形状を決定し、そのブランク形状に沿って金属板素材をブランク加工して図1(a)に示すような3つのブランク材1,2を得る。尚、図1(e)に示す最終製品である車体部品W1は左右対称形状を有しているため、左右両端の部材の展開形状を有する2つのブランク材2は同一形状を成している。 【0019】 3)仮止め工程: 仮止め工程においては、前工程であるブランク加工工程においてブランク加工された3つのブランク材1,2を図1(b)に示すように一部がオーバーラップするよう重ね合わせ、その重ね合わせされた左右2箇所のオーバーラップ部の各2点P1’(図の×印箇所)を部分的にスポット溶接することによって、一体化されたブランク材3を得る工程である。 【0020】 而して、図1(b)に示す一体化されたブランク材3の各オーバーラップ部には、幅方向中央に位置する固定部分3aとその両側に位置する可動部分(図において斜線を付した部分)3bが形成されている。ここで、固定部分3aは、互いにオーバーラップする2つのブランク材1,2同士がスポット溶接によって溶着されているために相対変位することができない部分であり、可動部分3bは、溶着されていないために2つのブランク材1,2が相対変位することができる部分であって、次工程である後述の成形工程における材料の移動によって面積が減少する部分である。 【0021】 尚、本実施の形態では、ブランク材1,2のオーバーラップ部の仮止めをスポット溶接によって行ったが、これに代えてレーザー溶接、カシメ、接着等の他の手段を用いて行っても良い。又、仮止めされるブランク材1,2は、その板厚及び/又は材質が互いに異なるものであっても良い。 【0022】 4)成形工程: この成形工程は、前工程である仮止め工程によって一体化された図1(b)に示すブランク材3を図2に示すプレス装置によって対象部品形状にプレス成形する工程である。 【0023】 ここで、このプレス成形に使用されるプレス装置の基本構成とプレス成形の様子を図2~図4に基づいて説明する。 【0024】 図2はプレス装置の型構成を示す部分斜視図、図3はプレス成形中のブランク材の様子を示す図2のA-A線断面斜視図、図4(a)はプレス成形の途中工程での製品の様子を示す図2のB-B線断面斜視図、図4(b)はプレス成形完了時での製品の様子を示す図2のB-B線断面斜視図である。」 (カ)「【図2】 [図:0001436222000002.jpg] 【図3】 [図:0001436222000003.jpg] 【図4】 [図:0001436222000004.jpg] 」 (キ)「【0025】 図2に示すように、プレス装置は、図1(e)に示す最終製品としての車体部品W1の外形形状に沿った形状を有する凸状のダイ51を備える下型50と、該下型50の上方に上下動可能に配置されたパンチ61を備える上型60を有している。ここで、下型50の前記ダイ51の幅方向両側には正面視台形状の凸部51aが一体に立設されており、これらの凸部51aの間には、不図示の付勢手段によって上方に付勢された下型パッド52が上下動可能に配置されている。又、上型60には、下型50の前記ダイ51の凸部51aに嵌合する凹部61aと、前記下型パッド52に嵌合する凸部62が形成されている。 【0026】 而して、図1(b)に示すブランク材3をプレス装置を用いてプレス成形するに際しては、図3に示すように、一体化されたブランク材3を下型50上にセットした後、上型60を不図示の油圧シリンダによって下降せしめる。そして、上型60のパンチ61の端部61bでブランク材3が曲げられ始め、更に上型60が下降すると、下型パッド52の頂点部52aと上型パンチ61の凸部62の平面部62aでブランク材1の部分を挟持したまま下型パッド52が下降し始める。これにより、車体部品W1の鞍型の中央部が成形され始める。この工程の途中の様子を図4(a)に示す。 【0027】 そして、上型60が更に下降すると、下型パッド52の傾斜部52bと上型パンチ61の凸部62の傾斜部62bが嵌合しながら下降するため、車体部品W1の鞍型の中央部の傾斜が形成され、これと同時に、下型ダイ51の凸部51aと上型パンチ61の凹部61aも嵌合しながら下降するため、車体部品W1の鞍型のフランジ部分が形成される。プレス成形完了時のプレス成形品W1’の様子を図4(b)に示す。 【0028】 以上のプレス成形によって、図1(d)に示すような鞍型のプレス成形品W1’が得られるが、図1(b)に示すブランク材3を得る過程においては、前述のように分割工程における分割ラインL1は、一体化されたブランク材3のプレス成形時に材料に伸び方向の力が及ぶ部分(本実施の形態では、車体部品W1の曲面部分)に設けられており、又、ブランク材3のオーバーラップ部には相対変位可能な可動部分3bが設けられているため、プレス成形時には伸びが最も大きな部分であるオーバーラップ部の可動部分3bにおいてブランク材1,2との間に相対滑りが生ずる。ここで、プレス成形工程途中の工程時、図4(a)のオーバーラップ面積の一部を図1(c)に斜線部3b’にて示す。又、プレス成形完了時、図4(b)のオーバーラップ面積の一部を図1(d)に斜線部3b”にて示す。 【0029】 このように、プレス成形時の材料の伸びが大きく、シワや亀裂が発生し易い部位であるオーバーラップ部の可動部分3bにおいてブランク材1,2との間に相対滑りが生ずるため、この相対滑りによってシワや亀裂の発生が防がれ、シワや亀裂の無いプレス成形品W1’が得られる(図1(d)参照)。 【0030】 ここで、一体化されたブランク材3のオーバーラップ部の可動部分3bにおいては、前述のようにプレス成形時にブランク材1,2同士の相対滑りが生ずるため、該可動部分3bはプレス成形後には面積が減少するが、この可動部分3bは固定部分3aと共にオーバーラップ部に残留(図1(d)の3b”参照)し、オーバーラップ部は所定幅の重なりを形成する。 【0031】 5)固着工程: 前工程での前記成形工程におけるプレス成形によって得られた前記プレス成形品W1’(図1(d)参照)においては、オーバーラップ部の可動部分3b”は固着されていないため、この固着工程においては、図1(e)に示すように、そのオーバーラップ部の可動部分3b”の複数箇所P1(図の×印個所)をスポット溶接して該可動部分3b”を固着する。これによって、図1(e)に示すような最終製品としての車体部品W1が得られ、該車体部品W1には必要十分な強度と剛性が確保される。 【0032】 尚、本実施の形態では、プレス成形品W1’のオーバーラップ部の最終固着をスポット溶接によって行ったが、これに代えてレーザー溶接、カシメ等の他の手段を用いて行っても良い。 【0033】 以上が本発明に係る部分オーバーラップ成形法において図1(e)に示す鞍型の車体部品W1を得るための一連の工程であるが、本発明方法によれば、仮止めによって一体化されたブランク材3のプレス成形時の伸びが大きい部分にオーバーラップ部を設け、このオーバーラップ部に可動部分3bを設けたため、ブランク材3のプレス成形時にシワや亀裂が発生することがなく、図1(d)に示すようなプレス成形品W1’を一度にプレス成形することができる。このため、金型の数が多くなって型費が嵩むことがなく、プレス工数や組立工数を削減してコストダウンを図ることができる。」 イ 甲1に記載された発明 上記アに示した甲1に記載された事項を、本件発明1の発明特定事項に合わせて整理すると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている、といえる。(括弧内に、甲1の上記アの参照箇所を示す。) 「金属板素材からなる複数のブランク材1,2をスポット溶接して一体化されたブランク材3であり、少なくとも2つの前記ブランク材1,2が、一部がオーバーラップするように重ね合わせされたオーバーラップ部を有する前記一体化されたブランク材3を得る仮止め工程(段落【0019】~【0021】、図1(b))と、 前記一体化されたブランク材3をプレス成形によりプレス成形品W1’を得る成形工程(段落【0022】~【0030】、図1(c)~(d)、図2~4)と、 前記プレス成形品W1’の一部をスポット溶接する固着工程(段落【0031】~【0032】、図1(e))を有し、 前記仮止め工程が、プレス成形による前記オーバーラップ部を構成する前記ブランク材1,2それぞれに伸び方向の力が及んで相対滑りが生ずることで相対変位する可動部分3bとは異なる、スポット溶接により相対変位することができない固定部分3aのみで、前記オーバーラップ部を構成する前記ブランク材1,2をスポット溶接する工程を含み(段落【0020】、【0028】~【0030】)、 前記固着工程が、前記オーバーラップ部のうち、前記仮止め工程で接合していない可動部分3b”をスポット溶接する工程を含む(段落【0031】~【0032】)、 車体部品W1の製造方法。」 (2)甲2 ア 甲2に記載された事項 甲2には次の事項が記載される。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、複数のブランク材を組み合わせてプレス成形を行うプレス成形方法、及びプレス部品の製造方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 例えば自動車分野において、適用材料最適化による部品の軽量化あるいは高強度化、プレス部品の製造工程簡素化、金型数の削減などを目的として、2種類以上の板材を重ね合わせたテーラードブランク材をプレス成形する技術がある。テーラードブランク材は、プレス成形の前に、レーザー溶接などによる突合せ溶接や、スポット溶接などが行われる(例えば、特許文献1~3参照)。」 (イ)「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 レーザー溶接では、連続的に溶接されるため接合部の強度が高く、破断などの成形不良が発生しにくいが、設備費用が高く、且つブランク材を得るためのサイクルタイムが長いため、コスト及び生産性の面で問題がある。また、良好な溶接品質を得るには、接合部における高い突合せ精度も要求される。 一方、スポット溶接では、コスト及び生産性の面で有利ではあるが、接合部の強度が充分ではなく、プレス成形時の応力集中によって接合部の近傍に破断が生じてしまう可能性がある。 本発明の課題は、複数のブランク材を組み合わせたブランク材のプレス成形に関し、成形不良を生じさせることなく、コストの増大や生産性の低下を抑制することである。」 (ウ)「【0006】 また、前記プレス成形を行ってから、前記複数のブランク材を重ね合わせたオーバーラップ代に接合を行うことを特徴とすることもできる。 また、前記プレス成形後の前記オーバーラップ代が、接合を行うための必要最小幅以上となるように、前記プレス成形前の前記オーバーラップ代を設定することを特徴とすることもできる。 また、上記のプレス成形方法を用いて、プレス成形することにより部品を製造することを特徴とするプレス部品の製造方法とすることもできる。」 (エ)「【発明を実施するための形態】 【0009】 以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。 《プレス成形方法》 図1は、プレス成形方法を示す図である。図中の(a)は従来の工法を示し、(b)は本実施形態の工法を示す。 従来技術では、板厚や材質の異なる複数のブランク材を、レーザー溶接(連続溶接)やスポット溶接によって予め接合しておき、それからプレス加工している。 【0010】 一方、本実施形態では、板厚や材質の異なる複数のブランク材を、部分的に重ね合わせて配置し(オーバーラップ)、これらを非接合の状態のままプレス加工する。なお、非接合の状態のままとするのは、オーバーラップ代のうち、少なくともプレス成形に伴って変形(圧縮、引張)が生じる変形領域についてである。したがって、変形領域以外、つまりダイとしわ押さえ板によって拘束される領域や、その外方で後にトリム加工などによって除去する切捨て部などには、予め接合(仮止め)しておいてもよい。 そして、プレス加工した後に、ブランク材を重ね合わせたオーバーラップ代に接合を行う。この接合は、例えば生産性やコストの観点からスポット溶接によって行うことが好ましいが、アーク溶接、ろう付け、かしめ、リベット接合、ねじ接合、接着剤などを適用することもできる。なお、この接合工程は、プレス工程内、例えばストローク最下点(下死点)で実施してもよい。」 (オ)「【図1】 [図:0001436222000005.jpg] 」 (カ)「【0012】 これに対して、本実施形態では、複数のブランク材を接合しない非接合の状態のままプレス成形を行う。つまり、ブランク材同士のオーバーラップ代を非拘束状態にしておくので、プレス成形の前にスポット溶接を行ったときのような破断などの成形不良が生じることを防止できる。これは、プレス成形による外力を受けたときに、ブランク材同士の相対変位が許容されるからである。 【0013】 そして、プレス成形の後に、ブランク材同士のオーバーラップ代にスポット溶接などで接合を行う。このように、スポット溶接を適用した場合、レーザー溶接のための設備を必要としないので、既存設備を活用することができ、設備導入コストの増大を抑制することができる。また、プレス成形の前に接合を行うか、プレス成形の後に接合を行うかが異なるだけで、新たな工程を追加している訳ではなく、しかもサイクルタイムの短いスポット溶接を採用した場合は、生産性の低下を抑制することもできる。 【0014】 プレス成形後は、プレス成形前よりもオーバーラップ代が縮小するので、その縮小分を見越してプレス成形前のオーバーラップ代を設定する必要がある。すなわち、スポット溶接を行うために、最低限必要となる必要最小幅があるので、プレス成形後のオーバーラップ代が、その必要最小幅以上となるように、プレス成形前のオーバーラップ代を設定する。 【0015】 《実施例1》 実施例1-1は、軟鋼同士の組み合わせとなる二つのブランク材で円筒形状をプレス成形するものである。成形シミュレーションには、汎用の動的陽解法ソフトLS-DYNAver.971(Livermore Software Technology Corporation製)を用いた。 図2は、実施例1-1の解析結果を示す図である。図2の(a)はプレス成形前に二つのブランク材を連続溶接(レーザー溶接)した場合の割れ判定結果と板厚減少率であり、図2の(b)はプレス成形前に二つのブランク材をスポット溶接した場合の割れ判定結果と板厚減少率であり、図2の(c)はプレス成形前に接合をしない場合の割れ判定結果と板厚減少率である。」 (キ)「【図2】 [図:0001436222000006.jpg] 」 (ク)「【0016】 ここでは、板厚が異なり、材質が同一の軟鋼A及びBを使用している。ブランク材Aは、板厚0.7mm、引張強度270MPaであり、ブランク材Bは、板厚1.2mm、引張強度270MPaである。双方を重ね合わせたブランク材のサイズは、200mm×200mmである。プレス成形条件は、150mmφの円筒成形であり、ブランク材の外周を全周に亘って拘束している。 【0017】 図2の(a)に示すように、予め連続溶接を行ったブランク材に対してプレス加工を行うと、円筒高さが15.7mmに到達した時点で、円筒上面における周縁の一部に割れが発生した。割れが発生したのは、板厚の薄い軟鋼Aであり、軟鋼Bと比べて全体的に板厚減少率が高くなっている。 図2の(b)に示すように、予めスポット溶接を行ったブランク材に対してプレス加工を行うと、円筒高さが8.9mmに到達した時点で、円筒上面の中心に位置するスポット溶接部に割れが発生した。スポット溶接のナゲット径は4√tであり(t:板厚)、オーバーラップ代は12mmであり、スポット溶接部の間隔は40mmであり、計5箇所をスポット溶接している。割れが発生したのは、板厚の薄い軟鋼Aであり、板厚減少率が高いのは、スポット溶接部に集中している。 【0018】 図2の(c)に示すように、ブランク材を非接合のままプレス加工を行うと、円筒高さが18.7mmに到達してもまだ割れは発生せず、(a)や(b)のような成形不良を防止することができた。プレス成形前のオーバーラップ代は40mmである。なお、オーバーラップ代には、プレス成形の後にスポット溶接を行うので、プレス成形後のオーバーラップ代に、スポット溶接を行えるだけの幅が残るように、プレス成形前のオーバーラップ代を設定する。」 (ケ)「【0030】 上記のように、複数のブランク材を接合しないままプレス成形を行うことで、プレス成形の前にスポット溶接を行ったときのような破断などの成形不良が生じることを防止できることが確認できた。 また、図2~図5に示した板厚減少率の図からも明らかなように、板厚減少の分布に斑がつきにくいので、剛性(強度)を保つ面でも有利である。」 イ 甲2に記載された発明 上記アに示した甲2に記載された事項を、本件発明1の発明特定事項に合わせて整理すると、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている、といえる。(括弧内に、甲2の上記アの参照箇所を示す。) 「所定の板厚の軟鋼からなる複数のブランク材A、Bを予め接合して仮止めしたブランク材(段落【0010】)であり、少なくとも2つの前記ブランク材A、Bが部分的に重ね合わせられて構成されたオーバーラップ代を有する前記ブランク材を得る仮止めする工程(段落【0010】)と、 前記ブランク材をプレス成形により円筒形状又はハット形状を得るプレス成形する工程(段落【0015】、【0018】、図2(c)、段落【0019】、【0021】、図3(c))と、 前記円筒形状又はハット形状のオーバーラップ代をスポット溶接する、プレス成形の後にスポット溶接をする工程(段落【0010】、【0018】、【0021】)を有し、 前記仮止めする工程が、オーバーラップ代のうち、プレス成形に伴って変形(圧縮、引張)が生じる変形領域以外、つまりダイとしわ押さえ板によって拘束される領域や、その外方で後にトリム加工などによって除去する切捨て部などの部分のみで、前記オーバーラップ代を構成する前記ブランク材A、Bを予め接合して仮止めする工程を含み(段落【0010】)、 前記プレス成形の後にスポット溶接をする工程が、前記オーバーラップ代のうち、前記仮止めする工程で接合していないプレス成形に伴って変形(圧縮、引張)が生じる変形領域を接合する工程を含む、 プレス部品の製造方法。」 (3)甲3 ア 甲3に記載された事項 甲3には次の事項が記載される。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は車両構造部材を製造する方法に関するものであり、より詳しくは、天板部と二つの縦壁部とを有しコの字状断面あるいはハット形断面を有する長尺形状でその天板部と各縦壁部との間に曲がりを有する車両構造部材を製造する方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 車両には熱間プレスや冷間プレスにより様々な形状に成形された構造部材が用いられる。このような構造部材は、軽量化のため、全体の板厚を増すのではなく必要な部分だけ局所的に補強することがある。例えば、自動車のピラー(特にセンターピラー)は側突に対する強度が要求される部材であり、自動車の外形に沿って湾曲する上部が補強されることが多い。詳しく言うと、ピラーは通常アウター部材とインナー部材が閉断面を成すように溶接されて構成されており、このアウター部材が局所的に補強される。」 (イ)「【0017】 図3は、一つの実施形態としてのセンターピラー10の製造方法を示している。ただし、この図ではアウター部材12のフランジ部22を省略して描いている。まず、図3(A)(B)に示すように、アウター部材12とパッチ部材16の平板状のブランク材を重ね合わせ、複数の治具40を用いて最終的なプレス成形工程での縦壁部20の曲げと同じ方向に弾性的に湾曲させる。なお、ここで言う同じ方向への湾曲とは、湾曲の凸方向が曲げの凸方向と同じ側に向くようにするという意味である。このときの曲率半径は例えば2000mmとすることができる。次に、図3(C)に示すように、治具40で湾曲状態に保持したまま、二つのブランク材を複数の溶接打点Wで溶接し、重ね合わせブランク材(パッチワークブランク材)24を形成する。各図ではスポット溶接による各溶接打点の位置を×印で表している。なお、スポット溶接に代えて、レーザー溶接など任意の適切な溶接方法を用いることもできる。ブランク材を湾曲させるための治具40は、溶接で一般に行われるクランプに用いるものを利用し、空気圧あるいは油圧で作動させることができる。溶接が完了すると、アウター部材12とパッチ部材16のブランク材は複数の溶接打点により互いに拘束されるため、治具40による荷重を取り除いても湾曲形状はある程度維持されることもあるが、ほとんど平板上に戻ることもある。溶接工程で通常行うクランプと同等の簡便さで二つの鋼板部材を湾曲させることができる。最後に、この湾曲した重ね合わせブランク材24を図3(D)に示すように所望の形状にプレス成形する。プレス成形は熱間(プレスクエンチ)で行っても、冷間で行ってもよい。具体的には、重ね合わせブランク材24を下型50の上にセットし、その天板部18を先行して接触する中央の上型52で押さえ付け、続いて縦壁部20を両側の上型54で下に押し曲げる。なお、中央の上型52と両側の上型54を分割する代わりに、一体化した上型を用いて天板部18の押さえ付けと縦壁部20の押し曲げを順次行ってもよい。その後、図2に示すようにインナー部材14をアウター部材12のフランジ部22に溶接して閉断面を有するセンターピラー10を形成する。なお、別個にプレス成形したアウター部材と補強部材を重ね合わせる場合、成形精度のばらつきがあるため、それらを密着させることは特に高強度材料を用いた場合には困難である。したがって、補強部材に溶接座面を打点ごとに複数設定するなど、余分な構造が必要となる。しかし、上記のようにパッチワーク法を用いた場合、プレスによりアウター部材12とパッチ部材16とをよく密着させることができる。」 (ウ)「【図3】 [図:0001436222000007.jpg] 」 イ 甲3に記載された技術的事項 上記アに示した甲3に記載された事項から、甲3には、次の技術的事項(以下「甲3記載の技術的事項」という。)が記載されている、といえる。(括弧内に、甲3の上記アの参照箇所を示す。) 「自動車のピラーの成形において、 スポット溶接により形成された重ね合わせブランク材24を所望の形状にプレス成形するにあたり、プレス成形を熱間で行うこと。」 (4)甲4 ア 甲4に記載された事項 甲4には次の事項が記載される。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、長尺形状のプレス成形部材、及びその製造法に関する。特に、自動車等車両の車体の一部を構成するセンタピラー部材に適用される長尺形状のプレス成形部材、及びその製造法に関する。 【背景技術】 【0002】 自動車等車両には、強度構成部材として長尺形状のプレス成形部材が数多く用いられる。この種プレス成形部材は、強度を確保する構成上の観点から、長手方向に直交する断面形状がコの字形状として構成される(下記特許文献1,2参照)。例えば、自動車の車体の一部を構成するセンタピラー部材がかかる構成とされる。そして、強度構成部材としての長尺形状のプレス成形部材は、主構成部材と副構成部材の複数の鋼板が重ね合わされて、強度を一層強化された構成とされることが多い。この種構成における副構成部材は、主構成部材における特に強度が必要とされる個所に当てがわれて配設される形態をとることから、業界では「補強部材」或いは「パッチワーク」と称されることがある。 【0003】 この種、長尺形状のプレス成形部材において、主構成部材と副構成部材の複数の鋼板が重ね合わされて構成される場合、主構成部材と副構成部材の一体化接合は、スポット溶接などの点溶接により行われる。この一体化接合する溶接は、長尺形状の平板部材(ブランク)をコの字形状にプレス成形する前に行う方法と、プレス成形後に行う方法がある。プレス成形後に溶接する方法にあっては、主構成部材と副構成部材とを個別にコの字断面形状にプレス成形してから、その後、2枚の部材の溶接位置合わせをして溶接することになる。このため、それぞれの部材の溶接位置を精度良くプレス成形する必要があり、プレス成形が結構面倒となる。このため、プレス成形を容易とする場合には、プレス成形前に一体化のための溶接を行う方法がとられる。 【0004】 プレス成形前に溶接を行う場合には、主構成部材と副構成部材の2枚の鋼板の重ね合わされた端縁が、プレス成形時にめくれて剥がれないように、溶接は当該重ね合わされた端縁に沿って一連状態に施される。そして、この溶接位置はプレス成形後のプレス成形部材状態では、断面コの字形状の開口側部位となる。これにより主構成部材と副構成部材の2枚の部材はプレス成形時にも剥がれることなく、断面コの字形状に成形される。 【0005】 なお、溶接はスポット溶接等の点溶接にて行われる。本明細書において、点溶接とは、スポット溶接のように、重ね合わされた2枚の鋼板の接触面が点状に溶解凝固して接合される形態の溶接を意味する。なお、この点溶接における点状に溶解凝固された部分はナゲットと称される。 【0006】 自動車車体をはじめとして、強度の必要な個所の部材のプレス成形は、高張力鋼板が使用される。近年、車両衝突性能の要求を満足しつつ車体の軽量化を図るために、センタピラーやバンパーリインフォースメント等の車体部材には熱間プレス成形(ホットプレス成形)により、更に引張強度を高めた高張力鋼板が用いられている。」 イ 甲4に記載された技術的事項 上記アに示した甲4に記載された事項から、甲4には、次の技術的事項(以下「甲4記載の技術的事項」という。)が記載されている、といえる。 「自動車のセンタピラー部材に適用される長尺形状のプレス成形部材の製造法において、 主構成部材と副構成部材の複数の高張力鋼板が重ね合わされて構成される場合に、プレス成形前にスポット溶接により一体化接合し、 プレス成形は、熱間プレス成形により行うこと。」 (5)甲5 ア 甲5に記載された事項 甲5には次の事項が記載される。なお、半角は全角で表記し、読点「,」は「、」で表記し、参考文献の参照番号(「1)」等)は省略する。 (ア)461ページ左欄1~25行 「1.はじめに 自動車車体においては、薄鋼板部材の組立にスポット溶接が広く用いられている。その高い生産性から、スポット溶接は主力の溶接工法であり、自動車1台あたりの打点数は3000以上にも及ぶ。 一方、近年、車体軽量化および衝突安全性向上を目的として、高張力鋼板(ハイテン)の適用が拡大しつつある。しかしながら、鋼板を高強度化しても、そのスポット溶接部の強度特性は、従来の低強度材料(軟鋼)のそれと比べて大きく向上しない場合のあることが知られている。したがって、高張力鋼板スポット溶接部の強度信頼性向上のためには、その破壊機構や強度支配因子(材料、溶接条件など)を明らかにすることが重要である。 溶接部は、母材、熱影響部、溶接金属などからなる複雑な構造を有しており、かつ、それらの強度特性は互いに大きく異なる。したがって、溶接部の破壊機構を明らかにするためには、各部位の強度特性を把握することが不可欠であり、それぞれの強度評価試験を個別に実施しなければならない。しかしながら、自動車用鋼板は板厚が1~2mm程度であることから、そのスポット溶接部の寸法は非常に小さいため、標準寸法試験片(例えば、直径数mmの丸棒試験片など)を採取することは不可能である。それゆえ、従来は、硬度測定結果から強度レベルを推測するなどに留まっており、変形挙動や延性に関する情報を明らかにした例はほとんどなかった。」 (イ)464ページ右欄7~19行 「溶接継手の荷重-伸び関係(実験結果)と、伸びの増加に伴う母材、HAZの最大相当塑性ひずみ変化(解析結果)を図13に示す。ここで、図13(a)の横軸の伸びは、溶接部をまたいで押当てた伸び計の間隔増加量であり、図13(b)では、この値と対応させるため、同じ標点位置に配置した2節点間の負荷方向相対変位を横軸にプロットしている。 図13(b)において、ナゲット径大モデル(太線)では母材が、ナゲット径小モデル(細線)ではHAZが先に破断ひずみに達している。また、その時の伸びは、図13(a)に示す実験値とよく一致していることがわかる。したがって、図10の手法により、溶接継手の破断位置および破断強度(伸び)を高精度で予測できることがわかった。」 (ウ)464ページ 図13(a) 図13 継ぎ手破断位置、伸びの実験結果と予測結果の比較 (a)荷重-伸び関係(実験結果) 「 [図:0001436222000008.jpg] 」 図13(a)から、ナゲット径小の場合、荷重15kNのとき伸び1.0mmで破断することが看取される。 イ 甲5に記載された技術的事項 上記アに示した甲5に記載された事項から、甲5には、次の技術的事項(以下「甲5記載の技術的事項」という。)が記載されている、といえる。(括弧内に、甲5の上記アの参照箇所を示す。) 「スポット溶接した溶接継手では、ナゲット径小(界面破断)の場合、伸び1.0mmで破断すること。」 2 甲1発明を主引用発明とした、本件発明1の進歩性について (1)本件発明1と甲1発明との対比 ア 本件発明1と甲1発明との相当関係 本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は次の相当関係がある。 (ア)甲1発明における「金属板素材」は、本件発明1における「鋼板」に相当し、以下同様に、「ブランク材1,2」は「部分ブランク」に、「スポット溶接」は「接合」に、「一体化されたブランク材3」は「一体化したプレス成形用ブランク」に、「一部がオーバーラップするように重ね合わせされたオーバーラップ部」は「部分的に重ね合わせられて構成された重ね合わせ部」に、「仮止め工程」は「プレス成形用ブランク加工工程」に、「プレス成形品W1’」は「プレス成形品」に、「固着工程」は「プレス後部品接合工程」に、「前記仮止め工程で接合していない可動部分3b”」は「前記プレス成形用ブランク加工工程で接合していない部分」に、「車体部品W1」は「プレス成形部品」に、それぞれ相当する。 (イ)甲1発明における「プレス成形によりプレス成形品W1’を得る成形工程」と本件発明1における「熱間プレス成形によりプレス成形品を得る熱間プレス成形工程」とは、「プレス成形によりプレス成形品を得るプレス成形工程」の限りで一致する。 (ウ)甲1発明における「ブランク材1,2それぞれに伸び方向の力が及んで相対滑りが生ずることで相対変位する」際の相対変位の量は、本件特許の明細書の段落【0016】の「材料流入量差(例えば溶接部分に対応する箇所において、溶接がなかったとしたときに生じる材料間(部分ブランク間)のズレ量)」との記載、段落【0035】の「材料流入とはプレス成形により材料が変形(移動)することであり、材料流入挙動とは、特定位置の材料がプレス成形前後でどの方向へどれだけの距離を変形(移動)するかという変形挙動のことをいう。」との記載、段落【0039】の「各部分ブランクの材料流入量差とは、重ね合わせ部を構成する部分ブランクにおいて、成形前の重ね合わせ部の任意の点(位置)に対応するそれぞれの点(位置)が、プレス成形により移動した結果得られる移動ベクトルの差の絶対値である。」との記載からみて、本件発明1における「材料流入量の差」に相当するといえる。 してみると、甲1発明における「プレス成形による前記オーバーラップ部を構成する前記ブランク材1,2それぞれに伸び方向の力が及んで相対滑りが生ずることで相対変位する可動部分3bとは異なる、スポット溶接により相対変位することができない固定部分3a」と本件発明1における「予めプレス成形による前記重ね合わせ部を構成する前記部分ブランクそれぞれの材料流入量を求め、前記部分ブランクの材料流入量の差が、予め定めた限界値より小さい部分」とは、「プレス成形による前記重ね合わせ部を構成する前記部分ブランクそれぞれの材料流入量の差が小さい部分」の限りで一致する。 イ 一致点 上記アから、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致する。 <一致点> 「鋼板からなる複数の部分ブランクを接合して一体化したプレス成形用ブランクであり、少なくとも2つの前記部分ブランクが部分的に重ね合わせられて構成された重ね合わせ部を有する前記プレス成形用ブランクを得るプレス成形用ブランク加工工程と、 前記プレス成形用ブランクをプレス成形によりプレス成形品を得るプレス成形工程と、 前記プレス成形品の一部を接合するプレス後部品接合工程を有し、 前記プレス成形用ブランク加工工程が、プレス成形による前記重ね合わせ部を構成する前記部分ブランクそれぞれの材料流入量の差が小さい部分のみで、前記重ね合わせ部を構成する前記部分ブランクを接合する工程を含み、 前記プレス後部品接合工程が、前記重ね合わせ部のうち、前記プレス成形用ブランク加工工程で接合していない部分を接合する工程を含む、 プレス成形部品の製造方法。」 ウ 相違点 他方、本件発明1と甲1発明とは、次の相違点1~2で相違する。 (ア)相違点1 プレス成形工程に関し、 本件発明1においては、「熱間プレス成形」による「熱間プレス成形工程」であるのに対し、 甲1発明においては、プレス成形による成形工程が「熱間プレス」であるか不明である点。 (イ)相違点2 プレス成形用ブランク加工工程に含まれる部分ブランクを接合する工程に関し、 本件発明1においては、「予めプレス成形による前記重ね合わせ部を構成する前記部分ブランクそれぞれの材料流入量を求め、前記部分ブランクの材料流入量の差が、予め定めた限界値より小さい部分」のみで接合するのに対し、 甲1発明においては、スポット溶接により相対変位することができない固定部分3aのみで接合するものの、当該固定部分3aは、ブランク材1,2それぞれに伸び方向の力が及んで相対滑りが生ずることで相対変位する量(材料流入量)を「予め求め」たうえで当該「相対変位する量(材料流入量)の差」が「予め定めた限界値より小さい部分」として設定される部分ではない点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑みて、上記相違点2について検討する。 ア 甲1発明におけるプレス成形用ブランク加工工程(仮止め工程)では、重ね合わせ部(オーバーラップ部)の固定部分3aのみで、部分ブランク(ブランク材1,2)を接合(スポット溶接)するものの、甲1には、当該固定部分3aがどのように設定されるか具体的な記載がない。すなわち、段落【0020】には、固定部分3aは、オーバーラップ部の幅方向中央に位置する部分であって、互いにオーバーラップする2つのブランク材1,2同士がスポット溶接によって溶着されているために相対変位することができない部分である旨は記載されるものの、スポット溶接によって溶着される前に「予め」相対変位しない部分として定められる部分であるとまでの明記はない。 イ 他方、同段落には、オーバーラップ部に、固定部分3aと可動部分3bが形成されること、当該可動部分3bは、溶着されていないために2つのブランク材1,2が相対変位することができる部分であること、また段落【0028】には、ブランク材3のオーバーラップ部には相対変位可能な可動部分3bが設けられているため、プレス成形時には伸びが最も大きな部分であるオーバーラップ部の可動部分3bにおいてブランク材1,2との間に相対滑りが生ずること、さらに段落【0029】には、プレス成形時の材料の伸びが大きく、シワや亀裂が発生し易い部位であるオーバーラップ部の可動部分3bにおいてブランク材1,2との間に相対滑りが生ずるため、この相対滑りによってシワや亀裂の発生が防がれ、シワや亀裂の無いプレス成形品W1’が得られることが説明される。 以上の記載からみて、可動部分3bに対して、固定部分3aは、オーバーラップ部のうち、プレス成形時の材料の伸びが小さい領域でシワや亀裂が発生し難い部分であるから、仮止め工程においてスポット溶接がされる部分として定められたと理解することができる。 ウ しかしながら、甲1には、オーバーラップ部におけるプレス成形時の相対変位の量を、予めシミュレーション等によって求めること、さらに、その予め求めた相対変位の量と予め設定した限界値とを比較して、その限界値よりも小さい部分のみを固定部分3aとして設定すること、との手順については、開示も示唆もない。 これに対し、本件発明1に係る手順によれば、部分ブランク間の材料流入量の差を予め求め、当該差と予め定めた限界値とを比較することで接合箇所を選定するものであるから、接合箇所の選定が客観化され、設計の再現性が向上するという技術的意義を有すると解される。すなわち、甲1発明においては接合箇所の選定が経験則等に依拠してなされるにとどまり得るのに対して、本件発明1は、材料流入量の差に基づく定量的評価により接合箇所を決定するものであり、接合位置の選定手法に技術的差異を有する。 エ また、甲3及び甲4には、相違点1に係る本件発明1と同様の、熱間プレス成形に関する甲3及び甲4記載の技術的事項(上記1(3)イ及び(4)イ)については開示されるものの、相違点2に係る本件発明1を想到し得る事項については開示も示唆もない。 オ 甲5には、甲5記載の技術的事項として、スポット溶接した溶接継手では、ナゲット径小(界面破断)の場合、伸び1.0mmで破断すること(上記1(5)イ)について開示され、本件発明1における限界値を予め定める際の参考にはなり得るものの、限界値を予め定めることの前提となる、相違点2に係る本件発明1の構成については、開示も示唆もない。 カ さらに、甲2には、甲2発明(上記1(2)イ)が開示され、仮止めする工程として、「オーバーラップ代のうち、プレス成形に伴って変形(圧縮、引張)が生じる変形領域以外、つまりダイとしわ押さえ板によって拘束される領域や、その外方で後にトリム加工などによって除去する切捨て部などの部分のみで接合すること。」(以下「甲2記載の技術的事項」という。甲2の段落【0010】)については開示されるものの、プレス成形に伴って変形する際の変形量を予めシミュレーション等によって求めること、変形量の差を求めること、変形量の差と予め設定した限界値とを比較すること、変形量の差が限界値よりも小さい部分のみを予め接合(仮止め)することについては、開示も示唆もない。 キ 以上のとおり、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲1発明から出発して、甲2~甲5記載の技術的事項を参考としても、当業者が容易に想到し得たものであるということはできない。 (3)申立書における申立人の主張について ア 申立人の主張 申立人は、相違点2の判断に関し、概略、上記(2)ア及びイに示した甲1に記載された事項を踏まえて、次の点を主張する(申立書25~26ページのウ欄)。 甲1に記載された発明においても結果として、本件発明1と同様に少なくとも、部分ブランクの材料流入量の差が予め定めた限界値より小さい部分のみでスポット溶接を行っているものと解される。したがって、相違点2は、本件発明1と甲1に記載された発明との実質的な相違点ではないが、また、仮に相違点であったとしても、甲1に記載された発明において相違点2からなる構成とすることは、甲1に記載された発明及び技術常識から当業者であれば容易に想到し得たことである。 イ 当審の判断 上記主張について検討する。 甲1発明は、上記(2)イのとおり、部分ブランク(ブランク材1,2)の材料流入量の差(相対変位の量)が小さい部分(固定部分3a)のみで接合(スポット溶接)しているとはいえるものの、上記(2)ウのとおり、オーバーラップ部におけるプレス成形時の相対変位の量を、予めシミュレーション等によって求めること、さらに、その予め求めた相対変位の量と予め設定した限界値とを比較して、その限界値よりも小さい部分のみを固定部分3aとして設定すること、との手順については、開示も示唆もない。 本件発明1は、製造方法の発明であって、その工程・手順を特定するものであるところ、結果として、プレス成形による成形工程の前に、材料流入量の差(相対変位の量)が小さい固定部分3aのみで部分ブランク(ブランク材1,2)を接合(スポット溶接)していたとしても、その固定部分3aをどのように定めるかについての手順、すなわち、材料流入量の差を予め求めること、限界値を予め定めること、予め求めた材料流入量の差と予め定めた限界値とを比較すること、予め求めた材料流入量の差が予め定めた限界値よりも小さい部分を固定部分3aとして定めること、という手順が甲1には開示も示唆もない以上、相違点2は実質的な相違点であり、また、甲1に記載された事項や、証拠として他に提示された甲2~甲5から導出される技術常識を踏まえても、上記手順自体が技術常識であったということはできず、当業者であれば容易に想到し得たことであるということはできない。 (4)小括 以上のとおり、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲1発明から出発して、甲2~甲5記載の技術的事項を参考としても、当業者が容易に想到し得たものであるということはできないから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲5記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであるということはできない。 3 甲1発明を主引用発明とした、本件発明2~5の進歩性について 本件発明2~5は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであるから、上記2と同様の理由により、甲1発明及び甲2~甲5記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであるということはできない。 4 甲1発明を主引用発明とした、本件発明6の進歩性について 本件発明6と甲1発明とを対比すると、少なくとも、上記相違点2と同様の点(以下「相違点3」という。)で相違する。 そして、上記2と同様の理由により、相違点3に係る本件発明6の構成は、甲1発明から出発して、甲2~甲5記載の技術的事項を参考としても、当業者が容易に想到し得たものであるということはできないから、本件発明6は、甲1発明及び甲2~甲5記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであるということはできない。 5 甲1発明を主引用発明とした、本件発明7~10の進歩性について 本件発明7~10は、請求項6の記載を直接的又は間接的に引用するものであるから、上記4と同様の理由により、甲1発明及び甲2~甲5記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであるということはできない。 6 甲2発明を主引用発明とした、本件発明1の進歩性について 本件発明1と甲2発明(上記1(2)イ)とを対比すると、上記相違点2(上記2(1)ウ(イ))と同様の点(以下「相違点4」という。)で少なくとも相違する(上記2(2)カ参照)。 そして、上記2と同様の理由により、相違点4に係る本件発明1の構成は、甲2発明から出発して、甲1発明及び甲3~甲5記載の技術的事項を参考としても、当業者が容易に想到し得たものであるということはできないから、本件発明1は、甲2発明、甲1発明及び甲3~甲5記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであるということはできない。 7 甲2発明を主引用発明とした、本件発明2~5の進歩性について 本件発明2~5は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであるから、上記6と同様の理由により、甲2発明、甲1発明及び甲3~甲5記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであるということはできない。 8 甲2発明を主引用発明とした、本件発明6の進歩性について 本件発明6と甲2発明とを対比すると、少なくとも、上記相違点4と同様の点(以下「相違点5」という。)で相違する。 そして、上記6と同様の理由により、相違点5に係る本件発明6の構成は、甲2発明から出発して、甲1発明及び甲3~甲5記載の技術的事項を参考としても、当業者が容易に想到し得たものであるということはできないから、本件発明6は、甲2発明、甲1発明及び甲3~甲5記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであるということはできない。 9 甲2発明を主引用発明とした、本件発明7~10の進歩性について 本件発明7~10は、請求項6の記載を直接的又は間接的に引用するものであるから、上記8と同様の理由により、甲2発明、甲1発明及び甲3~甲5記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易になし得たものであるということはできない。 10 小括 したがって、本件発明1~10は、甲1発明及び甲2~甲5記載の技術的事項に基づいて、又は、甲2発明、甲1発明及び甲3~甲5記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第5 理由2(明確性要件、上記第3の1(2))についての当審の判断 1 請求項2について (1)申立人が主張する申立ての理由の概要 請求項2に記載の「前記接合」が、請求項2が記載を引用する請求項1における次のア~エのいずれの「接合」を指すのか、不明確である。 ア 「プレス成形用ブランク加工工程」の「接合」 イ 「プレス後部品接合工程」の「接合」 ウ 「プレス成形用ブランク加工工程」の「部分ブランクを接合する工程」の「接合」 エ 「プレス後部品接合工程」の「プレス成形用ブランク加工工程で接合していない部分を接合する工程」の「接合」 (申立書36ページ、3.4.5欄) (2)当審の判断 請求項2には、「前記接合」と記載されることから、当該接合は、請求項1に記載されるア~エの全ての接合を指すと解するのが相当であるから、本件発明2は明確である。 (なお、上記(1)ア及びウの「接合」のみ、又は上記(1)イ及びエの「接合」のみが、「スポット溶接」である発明については、本件発明1の権利範囲に含まれることが明らかである。) 2 請求項3~5について 請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する本件発明3~5についても、上記1(2)と同様に、明確である。 3 請求項7について (1)申立人が主張する申立ての理由の概要 請求項7に記載の「前記接合」についても、請求項7が記載を引用する請求項6におけるいずれの「接合」を指すのか、不明確である。 (2)当審の判断 請求項6には、上記1(1)ア及びウに対応する「接合」が記載されるのみであるから、請求項6の記載を引用する本件発明7は明確である。 4 請求項8~10について 請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する本件発明8~10についても、上記3(2)と同様に、明確である。 5 小括 したがって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 第6 むすび 上記第4のとおり、本件発明1~10は、甲1発明及び甲2~甲5記載の技術的事項に基づいて、又は、甲2発明、甲1発明及び甲3~甲5記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 また、上記第5のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載に不備があるとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。 したがって、本件特許の請求項1~10に係る特許は、申立書に記載された申立ての理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2026-700106

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