特許異議申立
2023-700590
導電性高分子溶液の製造方法
- 審判番号
- 2023-700590
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-169874
- 登録番号
- 7184274
- 請求日
- 2023年06月06日
- 審決日
- 2024年01月11日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】国立大学法人山梨大学
- 【権利者代理人】水野 勝文
- 【権利者代理人】井出 真
- 【権利者代理人】須澤 洋
- 【権利者代理人】久松 洋輔
- 【権利者代理人】網盛 俊
- 【権利者】東ソー株式会社
- 【権利者代理人】水野 勝文
- 【権利者代理人】井出 真
- 【権利者代理人】須澤 洋
- 【権利者代理人】久松 洋輔
- 【権利者代理人】網盛 俊
- 【異議申立人】目黒 茂
- 審判長/審判官
- 審判長 磯貝 香苗
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 中村 和正
- 分類
- P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7184274号発明「導電性高分子溶液の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7184274号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。
特許第7184274号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7184274号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成30年9月11日の出願であって、令和4年11月28日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年12月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和5年6月6日に特許異議申立人 目黒 茂(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし4)がされ、同年8月25日付けで取消理由が通知され、同年10月24日に特許権者 国立大学法人山梨大学及び東ソー株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年11月2日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年12月7日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和5年10月24日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。また、下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「加熱処理することを特徴とする、導電性高分子溶液の製造方法。」と記載されているのを、「加熱処理することを特徴とし、
前記加熱処理が、温度50℃~250℃での加熱処理である、導電性高分子溶液の製造方法。」に訂正する。
併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「前記加熱処理が、温度50℃~250℃での加熱処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。」と記載されているのを、「前記加熱処理が、温度50℃~250℃、且つ、前記溶媒を蒸発させない密閉系での加熱処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。」に訂正する。
併せて、請求項3を引用する請求項4も同様に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「加熱処理」の温度条件を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2についての訂正について
訂正事項1による請求項2についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項3についての訂正について
訂正事項1による請求項3についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2による請求項3についての訂正は、「加熱処理」が行われる系を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び2による請求項3についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)請求項4についての訂正について
訂正事項1による請求項4についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2による請求項4についての訂正は、請求項3についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び2による請求項4についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1及び2による請求項1ないし4についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項1及び2による請求項1ないし4についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし4は一群の請求項に該当するものであり、訂正事項1及び2による請求項1ないし4についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし4に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し構造及び下記一般式(2)で表される繰り返し構造からなるポリチオフェンと、溶媒からなる溶液を加熱処理することを特徴とし、
前記加熱処理が、温度50℃~250℃での加熱処理である、導電性高分子溶液の製造方法。
【化1】
[図:0001409121000001.jpg]
[一般式(1)において、Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。一般式(1)及び(2)において、R2は、水素原子、炭素数1~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
【請求項2】
前記ポリチオフェンの溶液が水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理が、温度50℃~250℃、且つ、前記溶媒を蒸発させない密閉系での加熱処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される繰り返し構造及び前記一般式(2)で表される繰り返し構造からなるポリチオフェンが、下記一般式(3)
【化2】
[図:0001409121000002.jpg]
(上記一般式(3)において、R2、m及びnは、上記一般式(1)及び(2)のR2、m及びnと同じ定義であり、Mは、アルカリ金属イオンを表わす。)
で表されるチオフェンモノマーを、少なくとも水を含む溶媒中、酸化剤の存在下で重合させ、次いで、得られたポリマーを少なくともイオン交換により精製して得られるポリチオフェンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載の製造方法。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和5年6月6日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許の請求項1ないし3は、一般式(1)で表される繰り返し構造及び一般式(2)で表される繰り返し構造からなるポリチオフェンを特定し、本件特許の請求項4は、当該ポリチオフェンの製造における原料となる一般式(3)で表されるチオフェンモノマーを特定しているが、本件特許の実施例を参照すると、実際に上記課題を解決し得ることが実証されているのは、特定の構造式を有する一般式(4)及び一般式(5)で表される繰り返し構造を含むポリチオフェンのみである。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、一般式(4)及び一般式(5)で表される繰り返し構造を含むポリチオフェン以外の構造を有するポリチオフェン、並びにその原料となるチオフェンモノマーを包含する請求項1ないし4に係る発明の範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない(当審注:「一般式(1)」及び「一般式(2)」については上記第3の【請求項1】参照。「一般式(4)」及び「一般式(5)」については本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0103】参照。以下、同様。)。
3 証拠方法
甲第1号証:特表2018-507268号公報
甲第2号証:ADVANCED MATERIALS,Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA,Weinheim,2005年2月10日,Vol.17, No.3, p.330-335
甲第3号証:箭野裕一、外4名、“新規自己ドープ型水溶性導電性高分子の合成と特性評価”、高分子論文集、公益社団法人高分子学会、 2018年11月、第75巻、第6号、p.607-612
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 取消理由の概要
令和5年8月25日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。なお、該取消理由は、申立理由1とおおむね同旨である。
・取消理由(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 当審の判断
1 取消理由(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「官能化ポリチオフェンを生成するプロセス」に関して、おおむね次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。
・「【請求項1】
官能化π共役ポリチオフェンを含む液体組成物を生成するプロセスであって、
i)
a)一般式(I)のチオフェンモノマー
【化1】
[図:0001409121000003.jpg]
(式中、
X、Yは、同一であるか、または異なり、O、S、もしくはNR1であり、ここでR1は、水素または1~18個の炭素原子を有する脂肪族もしくは芳香族残基であり、
Aは、アニオン性官能基を保持している有機残基である)、
b)酸化剤、および
c)溶媒
を含む液相を準備するステップと、
ii)前記一般式(I)のチオフェンモノマーを酸化重合して、官能化π共役ポリチオフェンを含む液体組成物を得るステップと
を含み、ここで、
(α1)プロセスステップi)において準備された前記液相のpHは7.0未満の値に調整され、前記pHは20℃の温度で決定され、
(α2)プロセスステップi)において準備された前記液相の塩化物含有量は、前記液相の全重量に基づいて、10000ppm未満である、
プロセス。」
・「【請求項4】
前記一般式(I)において、
X、Yは、Oであり、
Aは、-(CH2)-CR2R3-(CH2)n-であり、ここで、
R2は、水素であり、
R3は、-(CH2)s-O-(CH2)p-SO3-M+であり、
M+は、Na+またはK+であり、
nは、0または1であり、
sは、0または1であり、
pは、4または5である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。」
・「【0005】
しかしながら、PEDOT/PSS-分散物は、それらが、非導電性不活性材料として顕著な量のPSSを含むという不都合な点によって特徴付けられる。さらに、PSSの存在に起因して、分散物におけるPEDOT/PSS-粒子のサイズは、時々、粒子がまた、多孔質金属電極のより小さな孔の中に入り込むことを確実にするには大き過ぎる。最後に、PEDOT/PSS-分散物の最大固体含有量は、多くの場合、約3wt%の値に制限される。これらの不都合な点を克服するために、公知のPEDOT/PSS-分散物の不都合な点によって特徴付けられていないPEDOTの誘導体を含む液体組成物が調製されている。スルホン酸基で官能化されたポリチオフェンが最初に開発された。スルホン酸基に起因して、これらのポリチオフェンは自己ドープし、PSSなどの対イオンを必要としない。特許文献3は、例えば、対応するモノマー4-(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イルメトキシ)-1-ブタンスルホン酸(EDOT-S)の酸化重合によるポリ(4-(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イルメトキシ)-1-ブタンスルホン酸)(PEDOT-S)などの官能化π共役ポリマーの調製を開示している。しかしながら、特許文献3において得られるポリマー溶液によって調製される導電層の導電率は、通常、例えば、固体電解コンデンサにおける固体電解質層を調製するためにこれらのポリマー溶液を使用するには低すぎる。」
・「【0007】
したがって、本発明の目的は、水溶性π共役ポリマーの分野における従来技術の不都合な点を克服することであった。
【0008】
特に、本発明の目的は、従来技術から公知の対応する組成物と比較して、本発明の組成物から調製される導電層の導電率が増加することを特徴とする、水溶性または水分散性π共役ポリマーを含む組成物を提供することであった。」
・「【0052】
本発明によるプロセスの第1の実施形態に関連する最も好ましい官能化π共役ポリチオフェンは、ポリ(4-(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イルメトキシ)-1-ブタンスルホン酸)(PEDOT-S)であり、したがって最も好ましいチオフェンモノマーa)は、4-(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イルメトキシ)-1-ブタンスルホン酸(EDOT-S)である。」
・「【0055】
化学的酸化剤として使用される適切な酸化剤b)は、重金属の塩、好ましくは鉄塩、より好ましくはFeCl3ならびに芳香族および脂肪族スルホン酸の鉄(III)塩、H2O2、K2Cr2O7、ペルオキソ二硫酸の塩、例えば、K2S2O8、Na2S2O8、KMnO4、アルカリ金属過ホウ酸塩、ならびにアルカル金属もしくはペルオキソ二硫酸アンモニウム、またはそれらの酸化剤の混合物である。重金属の塩、ペルオキソ二硫酸の塩またはそれらの混合物が特に好ましい。さらなる適切な酸化剤は、例えば、Hand book of Conducting Polymers(Ed.Skotheim,T.A.),Marcel Dekker:New York、1986、Vol.1、46-57ページに記載されている。特に好ましい酸化剤b)は、ペルオキソ二硫酸の塩、特にK2S2O8、Na2S2O8、鉄塩、特に塩化鉄(III)、またはペルオキソ二硫酸の塩と鉄塩との混合物のような、ペルオキソ二硫酸の塩とペルオキソ二硫酸の開裂を触媒する少なくとも1つのさらなる化合物との混合物である。しかしながら、要件(α2)を考慮して、プロセスステップi)において提供される液相の塩化物含有量は10000ppm未満であり、これらの酸化剤b)は塩素を全く含まないか、または要件(α2)がそれでも満たされるような低い含有量で塩素を含むことが好ましい。本発明によるプロセスの特に好ましい実施形態によれば、酸化剤はFe2(SO4)3とNa2S2O8との混合物である。
【0056】
本発明による第1のプロセスにおいて使用され得る適切な溶媒c)は、水、水混和性溶媒、特に、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびブタノールなどの脂肪族アルコール、ジアセトンアルコール、エチレングリコールおよびグリセロール、アセトンおよびメチルエチルケトンなどの脂肪族ケトン、アセトニトリルなどの脂肪族ニトリル、またはこれらの溶媒の少なくとも2つの混合物からなる群から選択されるもの、特に水と水混和性溶媒との混合物である。しかしながら、最も好ましい溶媒は水である。したがって、チオフェンモノマーa)として4-(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イルメトキシ)-1-ブタンスルホン酸(EDOT-S)の場合、本発明による第1のプロセスは、PEDOT-S水溶液の生成を可能にする。」
・「【0062】
重合反応が完了した後、官能化π共役ポリマー、好ましくはPEDOT-Sの水溶液を含む液体組成物は、例えば、さらなる精製の目的のために、濾過によって、特に限外濾過によって、および/またはさらなるプロセスステップiii)におけるイオン交換体での処理によって、特にアニオン交換体およびカチオン交換体による処理によってさらに精製され得る。コンデンサの製造のためのプロセスに関連して下記のようにさらなる添加物を加えることも可能である。
【0063】
さらに、プロセスステップii)における重合後に得られる官能化π共役ポリチオフェンは、通常、粒子の形態で存在するので、プロセスステップii)において得られる液体組成物中の官能化π共役ポリチオフェンの粒径分布またはプロセスステップiii)において得られる、さらなる精製後の粒径分布は、超音波による液体組成物の処理によって調整され得、ここでエネルギー入力は、好ましくは10~1000ワット/リットル(W/l)、より好ましくは20~500W/lであり、超音波振動数は、高圧ホモジナイゼーションでの液体組成物の処理によって好ましくは20~200kHzであり、100bar超、好ましくは500bar超、より好ましくは1500bar超、より好ましくは2500bar超、より好ましくは3500bar超、最も好ましくは4500bar超の圧力が、好ましくは複数回印加されるか、または熱での液体組成物の処理によって調整され得、ここで熱処理は、好ましくは40~100℃の範囲、好ましくは50~95℃の範囲の温度で、5分~100時間、好ましくは1~10時間、より好ましくは2~8時間の液体組成物の処理を含む。」
・「【実施例】
【0122】
以下に記載されるようにPEDOT-S溶液の調製に関して、4-(2,3-ジヒドロチエノ-[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イルメトキシ)-1-ブタンスルホン酸(EDOT-S)のナトリウム塩を、Chevrotら(J.Electroanal.Chem.1998、443、217-226)に記載されるように調製し、モノマーとして利用した。」
・「【0133】
合成実施例3(本発明による)
ステンレス鋼製の3Lのジャケット型タンクは、機械的撹拌器、上側蓋における換気バルブ、閉じることができる材料入口および温度計を備える。
成分A
このタンク内に、2000gの純水、16.0gの10wt%硫酸鉄(III)水溶液、5.7gの硫酸(95wt%)および100gのEDOT-Sナトリウム塩(0.29mol)を導入した。撹拌器を50rpmで操作し、温度を20℃に調節し、内圧を100hPaに低下させた。続いてタンク内の圧力を気圧に上昇させ、その後さらに酸素を排気するために25hPaに圧力を低下させた。
【0134】
成分B
別のガラスビーカーにおいて、78.5gのペルオキソ二硫酸ナトリウムを200mlの水に溶解し、酸素含有量が0.25mg/l未満になるまで撹拌しながら、30分間、溶液に窒素を吹き込んだ。
【0135】
次いで成分Bをタンク内に吸い込んだ。次いで材料入口を閉じ、タンクの内圧を真空ポンプによって25hPaに調節した。反応溶液の初期pHは1.9であり、反応をこの減圧下で19時間継続した。反応が完了した後、反応混合物を、純水を加えることによって10Lの体積にし、続いて限外濾過(10000g/molのカットオフを有するPall Microza SLP 1053)によって処理し、それにより8Lの水を除去した。この手順を、無機塩を除去するために6回繰り返した。
【0136】
このように得られた組成物を、27S/cmの導電率および1.22wt%の固体含有量として特徴付けた。組成物を、2.4wt%の固体含有量に到達するまで限外濾過によってさらに濃縮した。」
・「【0148】
合成実施例8(タンタル電解コンデンサのための電極本体の製造)
18000CV/gの比静電容量を有するタンタル粉末を、タンタルワイヤを封入してペレットに押圧し、1.5mm×2.9mm×4.0mmの寸法を有する多孔質陽極本体を形成させるために焼結した。これらの多孔質陽極本体のうちの5つを、コンデンサ本体を得るために、100Vにてリン酸電解質中で陽極酸化して誘電体を形成する。」
・「【0150】
合成実施例10
合成実施例3からの組成物を、純水の添加によって2.0%の濃度に希釈した。
【0151】
比較例2
合成実施例8からのコンデンサ本体を、合成実施例9からの組成物中に1分間、含浸した。その後、乾燥を120℃にて10分間実施した。含浸および乾燥をさらに9回実施した。」
・「【0157】
実施例2
コンデンサ本体の処理を比較例2に記載されるように実施したが、合成実施例10からの組成物を、合成実施例9からの組成物の代わりに使用した。」
・「【0166】
合成実施例13(本発明による)
ステンレス鋼製の3Lのジャケット型タンクは、機械的撹拌器、上側蓋における換気バルブ、閉じることができる材料入口および温度計を備える。
【0167】
成分A
このタンク内に、2000gの純水、16.0gの10wt%硫酸鉄(III)水溶液、5.7gの硫酸(95wt%)および100gのEDOT-Sナトリウム塩(0.29mol)を導入した。撹拌器を50rpmで操作し、温度を20℃に調節し、内圧を100hPaに低下させた。続いてタンク内の圧力を気圧に上昇させ、その後さらに酸素を排気するために25hPaに圧力を低下させた。
【0168】
成分B
別のガラスビーカーにおいて、78.5gのペルオキソ二硫酸ナトリウムを200mlの水に溶解し、酸素含有量が0.25mg/l未満になるまで撹拌しながら、30分間、溶液に窒素を吹き込んだ。
【0169】
次いで成分Bをタンク内に吸い込んだ。次いで材料入口を閉じ、タンクの内圧を真空ポンプによって25hPaに調節した。反応溶液の初期pHは1.9であり、反応をこの減圧下で19時間継続した。反応が完了した後、1100gのLewatit Monoplus S 108Hおよび1000gのLewatit MP62(Lanxess AG、Cologne)を加え、機械的撹拌器で撹拌した。6時間後、Lewatitを濾過によって除去した。
【0170】
このように得られた組成物を1.19wt%の固体含有量として特徴付けた。固体含有量が2wt%超に到達するまでロータリーエバポレーターによって組成物をさらに濃縮した。このように得られた組成物を2.15%の固体含有量および41S/cmの導電率と特徴付けた。」
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に合成実施例13に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「機械的撹拌器、上側蓋における換気バルブ、閉じることができる材料入口および温度計を備えた、ステンレス鋼製の3Lのジャケット型タンク内に、2000gの純水、16.0gの10wt%硫酸鉄(III)水溶液、5.7gの硫酸(95wt%)および100gの4-(2,3-ジヒドロチエノ-[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イルメトキシ)-1-ブタンスルホン酸(EDOT-S)ナトリウム塩(0.29mol)を導入し、撹拌器を50rpmで操作し、温度を20℃に調節し、内圧を100hPaに低下させ、続いてタンク内の圧力を気圧に上昇させ、その後さらに酸素を排気するために25hPaに圧力を低下させ、別のガラスビーカーにおいて、78.5gのペルオキソ二硫酸ナトリウムを200mlの水に溶解し、酸素含有量が0.25mg/l未満になるまで撹拌しながら、30分間、溶液に窒素を吹き込み、次いでタンク内に吸い込み、次いで材料入口を閉じ、タンクの内圧を真空ポンプによって25hPaに調節し、反応溶液の初期pHは1.9であり、反応をこの減圧下で19時間継続し、反応が完了した後、1100gのLewatit Monoplus S 108Hおよび1000gのLewatit MP62(Lanxess AG、Cologne)を加え、機械的撹拌器で撹拌し、6時間後、Lewatitを濾過によって除去し、固体含有量が2.15wt%に到達するまでロータリーエバポレーターによって組成物をさらに濃縮して、組成物を得る方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「組成物」は、「4-(2,3-ジヒドロチエノ-[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イルメトキシ)-1-ブタンスルホン酸(EDOT-S)ナトリウム塩」、「純水」、「硫酸鉄(III)水溶液」、「硫酸」及び「ペルオキソ二硫酸ナトリウム」を撹拌しながら、反応させ、「Lewatit」によりイオン交換して得た組成物であるから、「ポリ(4-(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イルメトキシ)-1-ブタンスルホン酸)(PEDOT-S)」であるといえるところ、「ポリ(4-(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イルメトキシ)-1-ブタンスルホン酸)(PEDOT-S)」は、本件特許発明1における「下記一般式(1)で表される繰り返し構造を含むポリチオフェン」のn=1、m=3、R2は水素原子、Mは水素イオンである「ポリチオフェン」に相当する。
甲1発明における「純水」は本件特許発明1における「溶媒」に相当する。
甲1発明における「組成物」が「ポリ(4-(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イルメトキシ)-1-ブタンスルホン酸)(PEDOT-S)」と「純水」「からなる」ものであることは当業者に明らかである。
甲1発明における「組成物」は「固体含有量が2.15wt%」のものであり、「液体」を「97.85wt%」(100-2.15=97.85)含有するものであるから、本件特許発明1における「導電性高分子溶液」に相当する。
甲1発明の「組成物を得る方法」は本件特許発明1における「導電性高分子溶液の製造方法」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「下記一般式(1)で表される繰り返し構造を含むポリチオフェンと、溶媒からなる溶液である、導電性高分子溶液の製造方法。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1>
「下記一般式(1)で表される繰り返し構造を含むポリチオフェン」に関して、本件特許発明1においては「下記一般式(1)で表される繰り返し構造及び下記一般式(2)で表される繰り返し構造からなるポリチオフェン」と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点2>
本件特許発明1においては「溶液を加熱処理する」と特定された上に、「加熱処理」が、「温度50~250℃での加熱処理である」と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲1発明は「固体含有量が2.15wt%に到達するまでロータリーエバポレーターによって組成物をさらに濃縮」するものであるところ、令和5年10月24日に特許権者から提出された意見書に添付された下記の乙第1ないし7号証によると、「ロータリーエバポレーター」は、必ずしも「加熱処理」を伴うものではなく、また、「加熱処理」を伴うにしてもその温度が「50~250℃」であるとは限らないことは当業者の技術常識である。
また、甲1及び他の証拠には、甲1発明における「ロータリーエバポレーター」が「加熱処理」を伴うものであること及びその「加熱処理」が「温度50~250℃での加熱処理である」ことは記載も示唆もされていない。
そうすると、甲1発明が、「溶液を加熱処理する」という発明特定事項を有した上で、その「加熱処理」が「温度50~250℃での加熱処理である」とはいえず、相違点2は実質的な相違点である。
そして、甲1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は、甲1にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
乙第1号証:ロータリーエバポレーター、斎藤保、ファルマシア、日本薬学会、1968年、4巻、8号、表紙、目次、及び606-608頁
乙第2号証:株式会社 旭製作所 ロータリーエバポレーター カタログ、株式会社 旭製作所、2018年7月、表紙、8頁、及び裏表紙
乙第3号証:ヤマト科学株式会社 ロータリーエバポレーター RE601の製品紹介、ヤマト科学株式会社 HP(https://www.yamato-net.co.jp/product/show/re601/)
乙第4号証:山梨県産業技術センター 甲府技術支援センター 試験機器(ロータリーエバポレーター)の詳細説明、山梨県 HP(https://www.pref.yamanashi.jp/yitc/kit/instruments/h25_evapo.html)
乙第5号証:地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 設備機器(中型ロータリーエバポレーター)の詳細説明、北海道立総合研究機構 設備機器データベース(http://www2.hro.or.jp/equipment/database/detail/?setsubi_id=545)
乙第6号証:シスプラスチン粉末製剤の調整、鈴木 薫、薬剤学、公益社団法人日本薬剤学会、72巻、1号、2012年、26-29頁
乙第7号証:特表2012-521408号公報
ウ 効果について
本件特許発明1の「従来の自己ドープ型ポリチオフェンよりも顕著に高い導電性を示す」(発明の詳細な説明の【0014】)という効果並びに「加熱処理」を行わない場合及び「温度40℃」での「加熱処理」を行った場合よりも高い導電性を示す(同【0104】ないし【0112】)という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
エ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和5年12月7日に提出された意見書において、おおむね次のとおり主張する。
「しかしながら、乙第1号証乃至5号証には、単にロータリーエバポレーターの原理や市販のロータリーエバポレーターが有する各真空度が開示されているだけであり、また、乙第6号証乃至7号証には、PEDOT-Sと水を含む組成物を50℃未満でエバポレートすることは開示されていない。
そのため、特許権者による意見書中の主張は、甲第1号証に記載されているPEDOT-Sと水を含む組成物のロータリーエバポレーターによる濃縮が50℃未満で行われていることを明白に裏付けるものではなく、ただの憶測による主張に過ぎない。
また、甲第1号証にPEDOT-Sと水を含む組成物のエバポレータによる濃縮の温度が50~250℃であることは明確に開示されていないものの、当業者であれば、ロータリーエバポレーターによる濃縮の温度は適宜設定できるものであり、甲第1号証において当該濃縮が50℃未満で行われなければならない特段の事情も見出せない。
さらに、本件特許の明細書中に記載されている実施例の試験結果を考慮しても、加熱温度を高くするほど、PEDOT-S以外の物質もわずかながら除去され、PEDOT-Sの濃度自体が向上するとことは容易に予測できるものであり、本件特許の明細書においても、PEDOT-Sが比較的高い電気伝導度を示すことが背景技術として記載されている([0002])。
してみれば、PEDOT-Sと溶媒(水)からなる溶液を50~250℃の温度範囲内で加熱し、当該溶液におけるPEDOT-Sの濃度の向上に基づく導電性の向上は格別顕著に優れたものとはいえない。」(上記意見書第4及び5ページ)
そこで、上記主張について検討する。
仮に、乙第1ないし5号証には、単にロータリーエバポレーターの原理や市販のロータリーエバポレーターが有する各真空度が開示されているだけであり、また、乙第6及び7号証には、PEDOT-Sと水を含む組成物を50℃未満でエバポレートすることは開示されていないとしても、さらに、当業者であれば、ロータリーエバポレーターによる濃縮の温度は適宜設定できるものであり、甲1発明において当該濃縮が50℃未満で行われなければならない特段の事情も見出せないとしても、上記(2)イのとおり、甲1及び他の証拠には、甲1発明における「ロータリーエバポレーターによる濃縮」が「加熱処理」を伴うものであること及びその「加熱処理」が「温度50~250℃での加熱処理である」ことは記載されていないし、甲1発明において、「温度50~250℃」という温度条件での「加熱処理」を伴うようにする動機付けとなる記載も、甲1及び他の証拠にはない。
また、ロータリーエバポレーターによる濃縮につき、水を溶媒とする場合に、50℃より低温で行う例があるから(乙第6及び7号証)、必ず50℃以上で行われるものともいえないし、通常は50℃以上で行われるものだといえる具体的な証拠もない(要するに、一般にロータリーエバポレーターで水を引く場合、50℃以上で行われるのが当たり前といえる証拠は示されていない。)。
そして、本件特許発明1の効果が、当業者が容易に予測できるものであり、格別顕著に優れたものであるとはいえないことを裏付ける証拠もない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(5)取消理由についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし4は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由によっては取り消すことはできない。
2 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由2(サポート要件)である。
以下、検討する。
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
発明の詳細な説明の【0006】によると、本件特許発明1ないし4の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「従来に無い高導電性を示す自己ドープ型導電性高分子の製造方法を提供すること」である。
発明の詳細な説明の【0009】ないし【0013】には、本件特許発明1ないし4に対応する記載がある。
発明の詳細な説明の【0007】の「後述する一般式(1)で表される繰り返し構造及び下記一般式(2)で表される繰り返し構造を含むポリチオフェンの溶液を加熱処理することで、従来の自己ドープ型導電性高分子では成し得なかった極めて高い導電性を発現することを見出し、本発明を完成させるに至った。」という記載から、「後述する一般式(1)で表される繰り返し構造及び下記一般式(2)で表される繰り返し構造を含むポリチオフェンの溶液を加熱処理する」(以下、単に「加熱処理する」という。)ことが発明の課題の解決手段であると理解されるところ、同【0111】の【表1】で、「加熱処理する」ことで、「加熱処理する」ことをしないで「後述する一般式(1)で表される繰り返し構造及び下記一般式(2)で表される繰り返し構造からなるポリチオフェンの溶液」で得た塗膜よりも、電気伝導度が高くなることを確認している。
そうすると、当業者は、「後述する一般式(1)で表される繰り返し構造及び下記一般式(2)で表される繰り返し構造からなるポリチオフェンの溶液」を「加熱処理する」製造方法は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし4は、上記発明の課題を解決できると認識できる「後述する一般式(1)で表される繰り返し構造及び下記一般式(2)で表される繰り返し構造からなるポリチオフェンの溶液」を「加熱処理する」製造方法をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし4は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし4に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第4 2における主張について検討する。
仮に、実際に発明の課題を解決し得ることが実証されているのが、特定の構造式を有する「一般式(4)」及び「一般式(5)」で表される繰り返し構造からなるポリチオフェンの溶液のみであるとしても、「一般式(4)」及び「一般式(5)」は、「後述する一般式(1)で表される繰り返し構造及び下記一般式(2)で表される繰り返し構造」に包含されるものであり、主要な構造が一致していることから、当業者は「一般式(4)」及び「一般式(5)」で表される繰り返し構造からなるポリチオフェンの溶液で効果を奏する以上、「一般式(4)」及び「一般式(5)」以外の「後述する一般式(1)で表される繰り返し構造及び下記一般式(2)で表される繰り返し構造」からなるポリチオフェンの溶液でも同様の効果を奏すると理解する。
また、「一般式(4)」及び「一般式(5)」以外の「後述する一般式(1)で表される繰り返し構造及び下記一般式(2)で表される繰り返し構造」からなるポリチオフェンの溶液では、発明の課題を解決できないことを示す理論的な説明がされている訳ではないし、具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、特許異議申立人の上記第4 2における主張は採用できない。
(4)取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
3 特許異議申立人の主張する新たな取消理由について
特許異議申立人は、令和5年12月7日に提出された意見書において、新たな取消理由として、おおむね次のとおり主張する。
「また、訂正請求後の本件特許発明3について、訂正請求後の本件特許発明1における加熱処理が、溶媒を蒸発させない密閉系での加熱処理であることがさらに特定されている。
しかしながら、本件特許の明細書中の実施例には、当該加熱処理が密閉系であることは何ら記載されていない。
さらに、本件特許の明細書を参照しても、どのような加熱処理が溶媒を蒸発させない密閉系に相当するのかを明確に把握することができない。
したがって、このような特定がされている訂正請求後の本件特許発明3は、明確性要件違反、サポート要件違反、実施可能要件違反の少なくとも1つに相当すると考えられ、当該訂正請求後の本件特許発明3により上記取消理由が解消される場合には、特許法第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たさない(同法第113条第4号)とする新たな取消理由が必然的に存在する。」(上記意見書第5ページ)
そこで、上記主張について検討する。
まず、本件特許の請求項3の記載は、それ自体明確であり、発明の詳細な説明の記載とも整合することから、本件特許発明3に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
また、本件特許発明3に関して、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するといえるのは、上記2(2)のとおりであり、本件特許発明3は発明の詳細な説明に記載されたものである。
さらに、本件特許発明3の各発明特定事項について、発明の詳細な説明に具体的な記載がある(特に【0083】には「高温で加熱処理する場合には、溶媒の蒸発等が考えられるため、密閉系で行うことが好ましく、必要に応じて耐圧容器を使用してもよい。」との記載がある。)ことから、仮に、発明の詳細な説明に本件特許発明3に対応する実施例がなかったとしても、発明の詳細な説明に、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明3を実施し、本件特許発明3により生産した物の使用等をすることができる程度の記載があるといえる。
したがって、本件特許発明3に関する特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載は、明確性要件違反、サポート要件違反及び実施可能要件違反のいずれにも該当しない。
よって、本件特許の請求項3に係る特許及び請求項3を引用する請求項4に係る特許に、特許法第36条第4項第1号又は第6項に規定する要件を満たさないという新たな取消理由が必然的に存在するとはいえず、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
第7 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700590