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特許異議申立

2023-700553

アルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法

審判番号
2023-700553
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-041293外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7180459
請求日
2023年05月29日
審決日
2023年08月31日
公報発行日
2023年10月27日
結論
維持
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-Y (C08G) / P1651.121-Y (C08G) / P1651.536-Y (C08G) / P1651.537-Y (C08G)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7180459号発明「アルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7180459号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7180459号(請求項の数7。以下、「本件特許」という。)は、平成31年3月7日(優先権主張 平成30年3月26日)を国際出願日とする特願2019-41293号に係る特許であって、令和4年11月21日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は同年同月30日である。)。 その後、令和5年5月29日に、本件特許の請求項1~7に係る特許に対して、特許異議申立人である金山 愼一(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~7に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項1~7に係る発明を「本件発明1」~「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」ということもある。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。) 「【請求項1】 β―アルコキシプロピオンアミド(b)およびアミド基含有3級アミン化合物(c)を少なくとも含有する溶剤中で酸成分とアミン成分とを反応させる工程を含む、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリアミドイミド、それらいずれかの前駆体および/またはそれらの2種以上から選択される共重合体を含むアルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法であり、 該β―アルコキシプロピオンアミド(b)およびアミド基含有3級アミン化合物(c)を少なくとも含有する溶剤中、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対してアミド基含有3級アミン化合物(c)を10~1800ppm含み、 前記アミド基含有3級アミン化合物(c)が、一般式(1)で表される構造を有するアルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法。 【化1】 [図:0001402805000001.jpg] (一般式(1)中、R1~R4はメチル基を表す。) 【請求項2】 前記β―アルコキシプロピオンアミド(b)が、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミドまたは3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミドである請求項1に記載のアルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法。 【請求項3】 前記アルカリ可溶性樹脂が、一般式(2)で表される繰り返し単位を有する請求項1または2に記載のアルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法。 【化2】 [図:0001402805000002.jpg] (一般式(2)中、Xは2~8価の有機基、Yは2~11価の有機基を表す。R5およびR7はフェノール性水酸基またはスルホン酸基を表し、それぞれ単一のものであっても異なるものが混在していてもよい。R6およびR8は水素原子または炭素数1~20の1価の炭化水素基を示す。r、sおよびuは0~3の整数を表し、tは0~6の整数を表す。ただしr+s+t+u>0である。) 【請求項4】 β―アルコキシプロピオンアミド(b)およびアミド基含有3級アミン化合物(c)を少なくとも含有する溶剤中で酸成分とアミン成分とを反応させる工程の後に、前記一般式(2)で表される繰り返し単位を有するアルカリ可溶性樹脂のエステル化工程を含む請求項3に記載のアルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法。 【請求項5】 前記エステル化工程におけるエステル化剤がN,N-ジアルキルホルムアミドジアルキルアセタールである請求項4に記載のアルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法。 【請求項6】 さらに溶解度パラメーターが10.4以上13.0以下である有機溶剤(d)を含む、請求項1~5のいずれかに記載のアルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法。 【請求項7】 請求項1~6のいずれかに記載のアルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法により得られた樹脂溶液を水または水溶液と混合し、樹脂を析出させる工程を含む樹脂の製造方法。」 第3 特許異議申立書に記載された申立理由の概要及び証拠方法 1 特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載された申立理由の概要 申立書に記載された申立理由の概要は、以下のとおりである。 申立理由1(甲第1号証による新規性) 本件発明1~7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件発明1~7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 申立理由2(甲第1号証を主引用文献とする進歩性) 本件発明1~7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明と、下記の甲第2号証~甲第11号証に記載された周知技術に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 申立理由3(甲第2号証による新規性) 本件発明1~7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件発明1~7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 申立理由4(甲第2号証を主引用文献とする進歩性) 本件発明1~7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明と、下記の甲第3号証~甲第11号証に記載された周知技術に基いて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 申立理由5(実施可能要件) 本件特許の請求項1~7に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 申立理由6(サポート要件) 本件特許の請求項1~7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 申立理由5,6の具体的理由の概略は以下のとおり(両者共通)。 (1)本件発明1では、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)を使用しないという要件が規定されておらず、NMPを多量に使用する態様も含まれるため、NMPを使用しないという課題について、必要十分な条件がクレームされているとはいえない。(申立書101頁の(ア)) (2)本件明細書の実施例、比較例をみても、本件発明1に規定された条件が不十分であるため、本件発明1の構成要件を満たすだけで「分子量が高いアルカリ可溶性樹脂を得ることができる」という課題を解決できるとは認められない。(申立書101~102頁の項目(イ)) (3)比較例2,3,5~7の現像密着性評価は3μmであり、この値は実施例1,5~10、13~16の値より高いから、本件発明1の条件をすべて満たしても、課題の一つである現像密着性を解決できない蓋然性が高い。また、(c)成分の数値範囲の下限値10ppmについて、課題が解決できると評価できる程度の結果が得られているのか疑義がある。(申立書103~105頁の項目(ウ)の前半) (4)比較例1,2,4,5の保存安定日数は実施例11,12の値よりも良好な結果であるから、本件発明1の条件をすべて満たしても、課題の一つである保存安定性を解決できていない蓋然性が高い。また、製造工程中の(c)の濃度と、目的物の(c)の濃度の関係をみると数値が大きく相違しているにもかかわらず、何ら相関性や予測可能な程度の合理的な説明も示されておらず、本件発明の課題がすべて解決できるメカニズムや手段を推認することもできない。(申立書105~106頁の項目(ウ)の後半) (5)本件発明1の樹脂について、目的とする樹脂の構造及び特性等が具体的に規定されていない点で、課題を解決できるだけの必要十分な条件がクレームされていない。(申立書106頁の項目イ) (6)本件発明1の溶剤について、(b)成分のアルコキシ基の構造や含有量について規定がされていないことや、(b)以外に併用可能な溶媒の種類や溶媒の総量が組成物中に占める含有量について規定されていないことから、課題が解決できる程度に十分に記載がされていない。(申立書107頁の項目ウ) (7)請求項1及び本件明細書には、(c)成分の濃度が10~1800ppmとなるように(b)成分の純度を高める精製方法が記載されておらず、実施可能要件、サポート要件を満たさない。(申立書107~109頁の項目エ) 2 証拠方法 甲第1号証:国際公開第2017/217293号 甲第2号証:国際公開第2017/018290号 甲第3号証:特開2017-037129号公報 甲第4号証:特開2015-232688号公報 甲第5号証:特開2016-069498号公報 甲第6号証:特開2010-138094号公報 甲第7号証:特開2013-189411号公報 甲第8号証:特開2011-168514号公報 甲第9号証:特開2018-165819号公報 甲第10号証:国際公開第2014/115233号 甲第11号証:国際公開第2016/167038号 (以下、これらを「甲1」~「甲11」という。) 第4 当審の判断 当審は、以下に述べるとおり、申立書に記載した理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 1 申立理由1(甲第1号証による新規性),申立理由2(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)について (1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明 甲1には、 「[請求項1](A)脂肪族ジアミンに由来する有機基を有するアルカリ可溶性樹脂、(B)感光剤、(C)1013hPa、25℃の条件下で液体でありかつ沸点が210℃以上の化合物を含有する感光性樹脂組成物であって、 前記(C)1013hPa、25℃の条件下で液体でありかつ沸点が210℃以上の化合物を、(A)脂肪族ジアミンに由来する有機基を有するアルカリ可溶性樹脂100質量部に対し、0.1~15質量部含むことを特徴とする感光性樹脂組成物。」が記載されており、その成分(A)(脂肪族ジアミンに由来する有機基を有するアルカリ可溶性樹脂)の具体例として、[0132]の[合成例4]に「ポリイミド樹脂(A-13)」が記載されている。 合成例4は、合成例2の重合溶媒をエクアミドM100に変更した以外は合成例2と同様にポリイミド樹脂を得たものであるから、上記合成例4のうち、160℃で6時間反応させて溶液を得る部分までの工程に着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「乾燥窒素気流下、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物(ODPA)62.04gを3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(エクアミドM100)1000gに溶解させ、ここに2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(BAHF)58.60g、ED-600(商品名、HUNTSMAN(株)製)12.00g、末端封止材として3-アミノフェノール4.37gをエクアミドM100 250gとともに加えて、60℃で1時間反応させ、次いで160℃で6時間反応させ、ポリイミド樹脂溶液を製造する方法。」 (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲1発明との対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物」、「3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド」、「3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド」、「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン」、「ポリイミド樹脂」は、それぞれ、本件発明1の「酸成分」、「β-アルコキシプロピオンアミド」、「β-アルコキシプロピオンアミド」、「アミン成分」、「ポリイミド」に相当し、甲1発明の「ED-600」は、甲1の[0029]に「ED-600」が「脂肪族ジアミン」の例として挙げられていることから、本件発明1の「アミン成分」に相当する。 また、甲1発明のポリイミド樹脂は、甲1の請求項1に記載された「(A)脂肪族ジアミンに由来する有機基を有するアルカリ可溶性樹脂」の具体例であるから、甲1発明の「ポリイミド樹脂溶液」は本件発明1の「アルカリ可溶性樹脂溶液」に相当する。 そして、甲1発明の「3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(エクアミドM100)」は、本件明細書の実施例1で溶媒として用いられている「(b-1):3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(出光興産製“エクアミド”M-100(登録商標)」と同じものと認められるところ、本件明細書の【0128】に「(b-1)中に(c-1)が2000ppm含まれた。」と記載され、(b-1)をそのまま用いたものが比較例となっていることや、本件明細書の【0028】に「市販のβ-アルコキシプロピオンアミドは、アミド基含有3級アミン化合物(c)が不純物として0.2%程度含まれる。」と記載されていることを考慮すると、甲1発明の「3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(エクアミドM100)」は、本件発明1の「一般式(1)で表される構造を有する」「アミド基含有3級アミン化合物(c)」に相当する「3-ジメチルアミノ-N,N-ジメチルプロピオンアミド」を含んでいるものの、その含有量は本件発明1の「β-アルコキシプロピオンアミド」に相当する「3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド」に対して少なくとも1800ppmを超えるものと認められる。 そうすると、両者は 「β―アルコキシプロピオンアミド(b)およびアミド基含有3級アミン化合物(c)を少なくとも含有する溶剤中で酸成分とアミン成分とを反応させる工程を含む、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリアミドイミド、それらいずれかの前駆体および/またはそれらの2種以上から選択される共重合体を含むアルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法であり、 前記アミド基含有3級アミン化合物(c)が、一般式(1)で表される構造を有するアルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法。 【化1】 [図:0001402805000003.jpg] (一般式(1)中、R1~R4はメチル基を表す。)」 である点において一致し、以下の点において相違する。 <相違点1> β―アルコキシプロピオンアミド(b)およびアミド基含有3級アミン化合物(c)を少なくとも含有する溶剤中、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対してアミド基含有3級アミン化合物(c)を、本件発明1では「10~1800ppm含」むのに対し、甲1発明では少なくとも1800ppmを超えて含む点 イ 相違点1についての判断 (ア)新規性について 上記アで述べたように、甲1発明では、「β―アルコキシプロピオンアミド(b)およびアミド基含有3級アミン化合物(c)を少なくとも含有する溶剤中、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対してアミド基含有3級アミン化合物(c)を少なくとも1800ppmを超えて含むから、この点は実質的な相違点である。 よって、本件発明1は甲1に記載された発明であるとはいえない。 (イ)進歩性について 甲6の【0035】には、「β-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド」を製造する際に、下記構造のAPAが副生することが記載されている。 [図:0001402805000004.jpg] また、甲7には、高純度のN-置換-β-アルコキシプロピオン酸アミドを高純度、高収率、簡便且つ安価に工業的に製造する方法が記載されており(【0006】)、【0003】には、従来技術である特許文献7では、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオン酸アミドを得たが、約2%の不純物としてβ-ジメチルアミノ-N,N-ジメチルプロピオン酸アミドなどが発生し、これらの不純物の沸点や溶媒に対する溶解特性などが目的化合物と近いため、通常の蒸留、抽出などの分離方法による精製は極めて難しく、98%以上の高純度品を取得することが困難であったことが記載されている。 しかし、甲6,甲7の記載は、β-アルコキシプロピオンアミド中に不純物として本件発明1の一般式(1)で表されるアミド基含有3級アミン化合物が含まれることを開示しているにすぎず、酸とアミンを反応させてアルカリ可溶性樹脂を製造する際の溶剤として用いられるβ-アルコキシプロピオンアミドにおいて、その中に含まれる式(1)のアミド基含有3級アミン化合物の濃度を10~1800ppmにすることは記載されていない。 したがって、甲6,7の記載を考慮しても、甲1発明において、相違点1に係る構成を採用することは当業者が容易に想到することではない。 そして、本件発明1は、上記反応に用いられるβ-アルコキシプロピオンアミドに対する式(1)のアミド基含有3級アミン化合物の濃度を10~1800ppmとすることによって、「NMPを使用することなく、分子量が高く、感光性樹脂組成物とした時の現像安定性および保存安定性の高いアルカリ可溶性樹脂溶液」が得られるという効果が得られるものであり(本件明細書の【0007】)、この効果は甲6,7の記載を考慮しても当業者が予測できるものではない。 また、甲8には、「一般に、N(N,N)-モノ(ジ)アルキルアクリルアミドは、他のモノマーやオリゴマーと共重合を行うため、重合によって得られる製品の品質に悪影響を及ぼす不純物が少ない高純度のものが要求される。その中でもアミン系不純物は重合時に影響を与えることが多く、重合促進剤として働き重合挙動を変化させることがある。・・・また、アミン自体が酸化することにより着色が促進されることもあり、製品の品質保持からの面からいってもアミン系不純物が含有することが好ましいことではない。従って、上述のような影響を極力無くすためN(N,N)-モノ(ジ)アルキルアクリルアミド系モノマー中のアミン系不純物を削減する必要があった。」(【0003】)と記載されており、「ここで発生するアミン系不純物とは、N(N,N)-モノ(ジ)アルキルアクリルアミド系モノマーを合成するに当たり、アクリル酸エステルとアミンを出発物質として製造する際の中間体である、β位を保護したアミドエステルを合成する際に反応不純物として発生する。即ち、・・・発生する、β-アルキルアミノ-N(N,N)-モノ(ジ)アルキルプロピオンアミドやβ-アルキルアミノプロピオン酸アルキルエステル等のアミン系の不純物である。」(【0005】)こと、「例えば、・・・N,N-ジメチル-β-メトキシプロピオンアミドを合成する際には、β-ジメチルアミノ-N(N,N)-ジメチルプロピオンアミドやβ-ジメチルアミノプロピオン酸メチル等のアミン系の不純物が発生する。これらの不純物はN,N-ジメチル-β-メトキシプロピオンアミドを熱分解させてN,N-ジメチルアクリルアミドを得る際にも不純物として製品中へ僅かに残存する。これらのアミン系不純物は臭気物質であるため、工業的な用途で取り扱う際、作業環境的に不向きである事は勿論、更には上述の通り重合性の変化や、長期保存下での色相変化等の様々な影響が予測されるため、使用範囲が限定される。特に重合時に於いてはこれらのアミン系不純物が、ごく僅かな量混入していても顕著に影響が出るため、製品中から完全に排除することが課題であった。」(【0006】)こと、「本発明は、N(N,N)-モノ(ジ)アルキルアクリルアミドを合成するに当たり、・・・β-アルコキシ-N(N,N)-モノ(ジ)アルキルプロピオンアミドやN(N,N)-モノ(ジ)アルキルノルボルナ-5-エン-2-カルボキサミドの中間体を合成する際に、中間体中のアミン不純物を簡便に除去する事で、β-アルコキシ-N(N,N)-モノ(ジ)アルキルプロピオンアミドやN(N,N)-モノ(ジ)アルキルノルボルナ-5-エン-2-カルボキサミドを熱分解した際に、高品位なN(N,N)-モノ(ジ)アルキルアクリルアミドを得る事ができる方法である。」(【0011】)ことが記載されている。 すなわち、甲8には、N(N,N)-モノ(ジ)アルキルアクリルアミドは重合時に影響を与えることが多いためアミン系不純物を削減する必要があり、そのアミン系不純物は、N(N,N)-モノ(ジ)アルキルアクリルアミド系モノマーの合成原料であるN,N-ジメチル-β-メトキシプロピオンアミドに含まれるβ-アルキルアミノ-N(N,N)-モノ(ジ)アルキルプロピオンアミド等であること、上記アミン系不純物は臭気物質であるため、作業環境的に不向きであり、重合性の変化や、長期保存下での色相変化等の様々な影響が予測され、特に重合時に於いてはこれらのアミン系不純物が、ごく僅かな量混入していても顕著に影響が出るため、製品中から完全に排除することが課題であること、甲8に記載された発明は、N(N,N)-モノ(ジ)アルキルアクリルアミドの合成中間体中に含まれるアミン不純物を簡便に除去する方法であることが記載されている。 しかし、甲8の記載は、N(N,N)-モノ(ジ)アルキルアクリルアミドの重合時に、β-アルキルアミノ-N(N,N)-モノ(ジ)アルキルプロピオンアミド等が含まれていると微量でも顕著に影響が出ることを開示するものにすぎず、酸とアミンを反応させてアルカリ可溶性樹脂を製造する際の溶剤として用いられるβ-アルコキシプロピオンアミドにおいて、その中に含まれるβ-アルキルアミノ-N(N,N)-モノ(ジ)アルキルプロピオンアミドの濃度を10~1800ppmにすることは記載されていない。 そして、甲8に記載されたN(N,N)-モノ(ジ)アルキルアクリルアミドの重合は付加重合反応である一方、甲1発明の酸とアミンを反応させてアルカリ可溶性樹脂を製造する反応はアミド化による縮合重合反応であり、両者の反応機構は全く異なるから、前者の重合反応においてβ-アルコキシプロピオンアミドが影響を与えるからといって、後者の重合反応においても同じことがいえるとはいえない。 また、たとえ甲8の記載から、N,N-ジメチル-β-メトキシプロピオンアミドに含まれるβ-アルキルアミノ-N(N,N)-モノ(ジ)アルキルプロピオンアミドの濃度を可能な限り除去すること、すなわち甲8の実施例のように「検出されない」(【0028】,【0031】)レベルまで除くことが動機づけられたとしても、本件発明1で特定される「10ppm以上」含有させることは当業者が容易に想到することであるとはいえないし、本件発明1は、濃度の下限値を「10ppm以上」としたことによって、現像時の密着性に優れる(本件明細書の【0029】,実施例1と比較例1の比較結果)という効果が得られるものであり、この効果は甲8の記載を考慮しても当業者が予測できるものではない。 そして、甲2~甲5,甲9~甲11には、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対するアミド基含有3級アミン化合物(c)の濃度を「10~1800ppm」とすることについて、記載も示唆もない。 よって、甲1発明において、相違点1の構成を採用することは、甲2~甲11の記載を考慮しても、当業者が容易に想到することではない。 ウ 申立人の主張について 申立人は、申立理由1,2に関して、主に以下の点を主張する。 (ア)申立理由1に関して 甲1の合成例4,6で得られた目的物(樹脂)の「アミド基含有3級アミン化合物」の含有量は、本件明細書に開示されている実施例と同程度である蓋然性が高い。 また、両者は溶剤についても、製造工程についても大きな差異はなく、目的物(樹脂)中に含まれる成分の「アミド基含有3級アミン化合物」の含有量も同程度であるから、製造工程における「アミド基含有3級アミン化合物」の含有量も同程度であることが強く推認される。(申立書71~74頁) (イ)申立理由2に関して 仮に甲1の製造工程の「アミド基含有3級アミン化合物」の含有量が10~1800ppmの範囲からわずかに外れていたとしても、甲1の合成例4及び6でも、本件明細書の実施例と同程度に「アミド基含有3級アミン化合物」の濃度が低減されたポリイミド樹脂を得ることができている以上、10~1800ppmという数値範囲には格別な技術的意義はなく、当業者が容易になしえる程度の事項である。 また、市販のβ-アルコキシプロピオンアミド中に、分離困難な副生成物として「アミド基含有3級アミン化合物」が微量に存在することや、それが不純物として重合に影響を与えることも甲6~甲8に記載されるように公知であり、β-アルコキシプロピオンアミドの市販品には「アミド基含有3級アミン化合物」が2000ppm程度であるものも存在しているのだから、その濃度を少し低減させて10~1800ppmとすることは当業者が容易になしえることである。(申立書74頁、77~78頁) 主張(ア)について検討すると、上記イ(ア)で述べたように、甲1発明では、「β―アルコキシプロピオンアミド(b)およびアミド基含有3級アミン化合物(c)を少なくとも含有する溶剤中、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対してアミド基含有3級アミン化合物(c)を「2000ppm」含むから、この点は実質的な相違点である。 なお、申立人は合成例4(甲1発明)に加えて合成例6についても言及しているが、合成例6も溶媒としてエクアミドB100という、本件明細書の【0126】の溶媒b-2と同じものを用いており、この溶媒についても本件明細書の【0028】の記載を考慮するとアミド基含有3級アミン化合物の濃度は少なくとも1800ppmを超えて含むものと認められるから、甲1発明と同様のことがいえる。 そして、申立人が主張するように、仮に甲1の合成例4,6で得られた目的物(樹脂)の「アミド基含有3級アミン化合物」の含有量が本件明細書に開示されている実施例と同程度であるとしても、本件発明1で特定されているのは、「アルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法」という方法の発明において、「β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対してアミド基含有3級アミン化合物(c)を10~1800ppm」とすることであって、最終的に得られた樹脂に対するアミド基含有3級アミン化合物の濃度を特定するものではない。 また、主張(イ)について検討すると、上記イ(イ)で述べたように、甲6,甲7の記載は、β-アルコキシプロピオンアミド中に不純物として本件発明1の一般式(1)で表されるアミド基含有3級アミン化合物が含まれることを開示しているにすぎず、甲8の記載は、N(N,N)-モノ(ジ)アルキルアクリルアミドの重合時に、β-アルキルアミノ-N(N,N)-モノ(ジ)アルキルプロピオンアミド等が含まれていると微量でも顕著に影響が出ることを開示するものにすぎず、いずれも、酸とアミンを反応させてアルカリ可溶性樹脂を製造する際の溶剤として用いられるβ-アルコキシプロピオンアミドにおいて、その中に含まれるβ-アルキルアミノ-N(N,N)-モノ(ジ)アルキルプロピオンアミドの濃度を10~1800ppmにすることは記載されていない。 そして、本件発明1は、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対してアミド基含有3級アミン化合物(c)を「10~1800ppm」としたことによって、「2000ppm」である場合と比較して、現像密着性や保存安定性が向上するという有利な効果を発揮するものであり(本件明細書の比較例2と実施例1~5の比較結果より)、そのような効果は甲1から予測できるものではない。 したがって、申立人の主張は採用することができない。 エ 本件発明1についてのまとめ よって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)本件発明2~7について 本件発明2~7は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲1に記載された発明でなく、また甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2~7についても、甲1に記載された発明であるとも、また甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 2 申立理由3(甲2による新規性),申立理由4(甲2を主引用文献とする進歩性)について (1)甲2に記載された事項及び甲2に記載された発明 甲2には、 「[請求項1]永久膜を形成するために用いられる感光性樹脂組成物であって、 (A)ポリベンゾオキサゾール構造、ポリベンゾオキサゾール前駆体構造、ポリイミド構造、ポリイミド前駆体構造からなる群から選ばれる構造を備えるポリアミド樹脂 (B)光酸発生剤 (C)密着助剤 (D)有機溶剤 を含み、前記(D)有機溶剤は、分子内にエーテル結合とアミド結合とを有する化合物を含む、感光性樹脂組成物。 [請求項2]前記分子内にエーテル結合とアミド結合とを有する化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である、請求項1に記載の感光性樹脂組成物。 [図:0001402805000005.jpg] (式(1)中、R1、R2、R3はそれぞれ炭素数1から10のアルキル基である。)」 が記載されており、その組成物を構成する(A)成分の製造例が[0073]及び[0076]に2例記載されている。そのうち[0073]に着目すると、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている(なお、[0073]の「ジカルボン酸誘導」は「ジカルボン酸誘導体」の誤記と認める。)。 「ジフェニルエーテル-4、4'-ジカルボン酸1モルと1-ヒドロキシベンゾトリアゾール2モルとを反応させて得られたジカルボン酸誘導体40.87gと2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン25.82gとを温度計、攪拌機、原料投入口、乾燥窒素ガス導入管を備えた4つ口のセパラブルフラスコに入れ、N-メチル-2-ピロリドン3000gを加えて溶解させ、その後オイルバスを用いて75℃にて12時間反応させ、次に、N-メチル-2-ピロリドン34.88gに溶解させた3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸無水物6.98gを加え、さらに3時間攪拌する、下記繰り返し単位を有するアミド樹脂(300~400℃で加熱すると脱水閉環し、ポリベンゾオキサゾールとなる樹脂)の製造方法。 [図:0001402805000006.jpg] 」 (2)本件発明1について ア 本件発明1と甲2発明との対比 甲2発明の「ジフェニルエーテル-4、4'-ジカルボン酸1モルと1-ヒドロキシベンゾトリアゾール2モルとを反応させて得られたジカルボン酸誘導体」、「2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン」、「N-メチル-2-ピロリドン」、「下記繰り返し単位を有するアミド樹脂(300~400℃で加熱すると脱水閉環し、ポリベンゾオキサゾールとなる樹脂)」は、それぞれ、本件発明1の「酸成分」、「アミン成分」、「溶剤」、「ポリベンゾオキサゾール・・・の前駆体」に相当する。 そして、甲2発明の「下記繰り返し単位を有するアミド樹脂」は、フェノール性水酸基を有しており、フェノール性水酸基は酸性基であってアルカリと反応して水溶性の塩を形成する基であることや、甲2の[0028]に「R2及びR3としては、ポリアミド樹脂のアルカリ水溶液に対する溶解性を調節する上で、水酸基及びカルボキシル基を保護基R4で保護された基を用いることができ」との記載も考慮すると、本件発明1の「アルカリ可溶性樹脂」に相当し、甲2発明の(溶媒中で)「3時間攪拌」して得られる「下記繰り返し単位を有するアミド樹脂」は溶液状であると認められるから、本件発明1の「アルカリ可溶性樹脂溶液」に相当する。 そうすると、両者は 「溶剤中で酸成分とアミン成分とを反応させる工程を含む、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリアミドイミド、それらいずれかの前駆体および/またはそれらの2種以上から選択される共重合体を含むアルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法」 である点において一致し、以下の点で相違する。 <相違点2> 「溶剤」が、本件発明1では「β―アルコキシプロピオンアミド(b)およびアミド基含有3級アミン化合物(c)を少なくとも含有する」ものであり、かつ、「該β―アルコキシプロピオンアミド(b)およびアミド基含有3級アミン化合物(c)を少なくとも含有する溶剤中、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対してアミド基含有3級アミン化合物(c)を10~1800ppm含み、 前記アミド基含有3級アミン化合物(c)が、一般式(1)で表される構造を有する 【化1】 [図:0001402805000007.jpg] (一般式(1)中、R1~R4はメチル基を表す。)」ものであるのに対し、甲2発明では「N-メチル-2-ピロリドン」である点 イ 相違点2についての判断 甲2には、甲2発明における溶剤、すなわち甲2の請求項1の成分(A)を製造する際の溶剤として「β―アルコキシプロピオンアミド」を用いることは記載されていない。 そして、甲2の請求項2には「感光性樹脂組成物」を製造する際に用いる溶剤として「β―アルコキシプロピオンアミド」に相当する化合物を用いることが記載され、実施例1~6においても「出光興産製 エクアミド(登録商標)B-100」を用いた例が記載されているが、これは感光性樹脂組成物を製造する際に用いる溶剤であるから、その組成物を構成する成分(A)を製造する方法にすぎない甲2発明において、溶剤として「β―アルコキシプロピオンアミド」を用いることが甲2に記載されているとも、そのことが示唆されているともいえない。 また、たとえ甲2発明において、溶剤として「出光興産製 エクアミド(登録商標)B-100」を用いることを当業者が試みたとしても、その溶剤は本件明細書の実施例で用いられている「b―2:3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド(出光興産製“エクアミド”B-100(登録商標))」(【0126】)と同じものであり、本件明細書の【0028】に記載されるように、「アミド基含有3級アミン化合物(c)が不純物として0.2%程度含まれる」ものであって、「β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対してアミド基含有3級アミン化合物(c)を10~1800ppm含」むという条件を満たすものではないから、甲2発明の溶剤をエクアミドB-100に置き換えたとしても、本件発明1に想到することはできない。 そして、本件発明1は、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対してアミド基含有3級アミン化合物(c)を「10~1800ppm」としたことによって、「2000ppm」(0.2%)である場合と比較して、現像密着性や保存安定性が向上するという有利な効果を発揮するものであり(本件明細書の比較例2と実施例1~5の比較結果より)、そのような効果は甲2から予測できるものではない。 よって、甲2発明において、相違点2の構成を採用することは当業者が容易に想到することではない。 また、1(2)イで述べたのと同様の理由により、甲2に加えて、甲3~甲11の記載を考慮しても、甲2発明において相違点2の構成を採用することは当業者が容易に想到することではない。 ウ 申立人の主張について 申立人は、申立理由3,4に関して、主に以下の点を主張する。 (ア)申立理由3について 甲2の実施例1,2,4~6では、「エクアミドB-100」以外の溶剤も併用しているのだから、これらの実施例では溶剤の総量中に占める(c)成分(アミド基含有3級アミン化合物)の含有量は2000ppmを下回り、10~1800ppmの数値範囲内である蓋然性が高い(申立書92~93頁)。 (イ)申立理由4について 申立理由2の項目で説明したように、本件発明1の(b)中にppmレベルで微量に存在する(c)等の不純物が、重合等に悪影響を及ぼすことは既に公知であり、かかる悪影響を排除するために(c)の濃度を低減すべきことも既に公知である。これらのことから、「エクアミド」等の市販品中に存在する(c)成分の不純物濃度を低減して、その濃度を10~1800ppm程度にすることは当業者にとって通常なし得る程度の工夫にすぎず、特段困難なものではない。(申立書93頁) 主張(ア)について検討すると、甲2の実施例1,2,4~6は甲2の請求項1に記載された「感光性樹脂組成物」の製造例が記載されているにすぎず、本件発明1の、酸成分とアミン成分とを反応させてアルカリ可溶性樹脂溶液(甲2の請求項1の成分(A)の溶液)を製造する方法が記載されているわけではないから、その主張は採用することができない。 また、仮にアルカリ可溶性樹脂溶液の製造において、実施例1,2,4~6と同様の溶剤を用いることを検討したとしても、本件発明1で特定されているのは、「該β―アルコキシプロピオンアミド(b)およびアミド基含有3級アミン化合物(c)を少なくとも含有する溶剤中、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対してアミド基含有3級アミン化合物(c)を10~1800ppm含み」というものであり、溶剤中の「β―アルコキシプロピオンアミド(b)」に対する「アミド基含有3級アミン化合物(c)」の濃度が10~1800ppmということであるから、上記実施例においてその濃度が少なくとも1800ppmを超えると認められるエクアミドB-100を用いている以上、他に溶媒を用いたとしても、溶剤中の「β―アルコキシプロピオンアミド(b)」に対する「アミド基含有3級アミン化合物(c)」の濃度は少なくとも1800ppmを超える点で変わることはないから、この点においても申立人の主張は採用することができない。 主張(イ)について検討すると、この主張は上記1(2)ウの主張(イ)と同様のものであるから、上記1(2)ウで述べたのと同様の理由により、申立人の主張は採用することができない。 エ 本件発明1についてのまとめ よって、本件発明1は、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)本件発明2~7について 本件発明2~7は、いずれも本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1が甲2に記載された発明でなく、また甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上、本件発明2~7についても、甲2に記載された発明であるとも、また甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 3 申立理由5(実施可能要件),申立理由6(サポート要件)について (1)申立理由5(実施可能要件)について ア 実施可能要件の考え方 実施可能要件を定めた特許法第36条第4項は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ、方法の発明について実施可能要件を満たすためには、その方法を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その方法を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。 以下、この観点から検討する。 イ 実施可能要件の判断 本件発明1は上記第2で示したとおりのものであるところ、「β―アルコキシプロピオンアミド(b)」および「アミド基含有3級アミン化合物(c)」については、本件明細書の【0019】及び【0023】~【0026】にその具体的な構造や好ましい例についての説明があり、「ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリアミドイミド、それらいずれかの前駆体および/またはそれらの2種以上から選択される共重合体を含むアルカリ可溶性樹脂溶液」を製造するために必要な「酸成分」及び「アミン成分」についても【0011】~【0018】に具体的な説明がされている。 また、「β―アルコキシプロピオンアミド(b)およびアミド基含有3級アミン化合物(c)を少なくとも含有する溶剤中、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対してアミド基含有3級アミン化合物(c)を10~1800ppm含」むようにすることに関して、【0028】に市販のβ-アルコキシプロピオンアミド中にアミド基含有3級アミン化合物(c)が不純物として0.2%程度含まれており、蒸留法、イオン交換樹脂による吸着法など公知の方法で(c)の濃度を低減させることが記載されており、具体的に実施例1では、市販のβ-アルコキシプロピオンアミドである「エクアミドM-100」中にアミド基含有3級アミン化合物に相当する化合物(c-1)が2000ppm(0.2%)含まれていたこと、それをイオン交換樹脂塔に充填したイオン交換樹脂に連続的に接触させて100ppmになるまで精製を行ったことが記載され、さらに、同様の方法で20~1800ppmになるように精製を行った実施例2~5と、検出限界未満(<1ppm)になるまで精製を行った比較例1が記載されている。 これらの記載によれば、当業者が本件発明1を具体的に実施するにあたり、各構成成分の具体例を理解できることに加えて、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対するアミド基含有3級アミン化合物(c)の濃度を10~1800ppmの範囲に調節する手段を理解することができるといえるから、本件明細書には、本件発明1及びそれを直接又は間接的に引用する本件発明2~7について、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がされていると認められる。 (2)申立理由6(サポート要件)について ア サポート要件の考え方 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁、平成17年(行ケ)10042号判決参照)。 以下、この観点から検討する。 イ 本件発明が解決しようとする課題 本件発明が解決しようとする課題は、本件明細書の【0005】の記載からみて、「NMP代替溶剤を用いた場合でも、分子量が高く、感光性樹脂組成物とした時の現像密着性および保存安定性の高いアルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法を提供すること」であると認められる。 ウ サポート要件の判断 本件明細書の【0002】~【0003】には、感光性樹脂組成物に含まれるポリイミド等の耐熱性樹脂は、溶剤としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を重合溶剤として使用することが多いが、NMPは生体への影響が懸念されることから、β-アルコキシプロピオンアミドを用いた製造方法が知られていることが記載されている。また、【0005】には、「市販のβ―アルコキシプロピオンアミド中に含まれる不純物であるアミド基含有3級アミン化合物の影響であることを見出し、β―アルコキシプロピオンアミド中に含まれるアミド基含有3級アミン化合物を特定量とすることにより、上記課題(当審注:イの本件発明が解決しようとする課題)が解決できることを見出した。」と記載されており、【0027】には「β―アルコキシプロピオンアミド(b)中に、アミド基含有3級アミン化合物(c)を10~1800ppm含有することにより、本発明によって製造されるアルカリ可溶性樹脂の分子量を高くすることができる。本発明により製造されたアルカリ可溶性樹脂溶液またはそれから得られるアルカリ可溶性樹脂を後述の感光性樹脂組成物とした時、現像時の密着性および保存安定性を向上させることができる。」と記載されている。 そして、本件明細書には、実施例1~11,13~16として、 「β―アルコキシプロピオンアミド(b)」として「3-メトキシN,N-ジメチルプロピオンアミド」を用い、「アミド基含有3級アミン化合物(c)」として「3-ジメチルアミノ-N,N-ジメチルプロピオンアミド」(一般式(1)で表される化合物)を用い、それらを少なくとも含有する溶剤中で酸成分とアミン成分とを反応させて、ポリアミド酸エステル(ポリイミド前駆体)、ポリイミド又はポリヒドロキシアミド(ポリベンゾオキサゾール前駆体)を含むアルカリ可溶性樹脂溶液を製造する方法であって、該β―アルコキシプロピオンアミド(b)およびアミド基含有3級アミン化合物(c)を少なくとも含有する溶剤中、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対してアミド基含有3級アミン化合物(c)が20~1800ppmの濃度となるように調整した製造方法が記載され、それによって「現像密着性」及び「保存安定性」に優れる樹脂組成物が得られたことが記載されている。 一方、実施例1におけるβ―アルコキシプロピオンアミド(b)に対するアミド基含有3級アミン化合物(c)の濃度を「<1ppm」に変更した比較例1が、現像密着性の評価が劣り(実施例1が5μmであるのに対し20μm)、上記濃度を2000ppm、10000ppmとした比較例2,3が、保存安定性の評価が劣り(実施例1では30日超であるのに対し、21日及び11日)、また樹脂の重量平均分子量が小さくなり(実施例1では30000であるのに対し、27000及び23000)、実施例1の溶媒をβ-アルコキシプロピオンアミドからNMPに変更した比較例4が現像密着性の評価に劣り(実施例1が5μmであるのに対し20μm)、実施例9,10におけるβ―アルコキシプロピオンアミド(b)に対するアミド基含有3級アミン化合物(c)の濃度を2000ppmに変更した比較例5,6が保存安定性に劣ること(実施例9,10では30日超であるのに対し22日、19日)が記載されている。 これらの記載をみた当業者であれば、本件発明1の構成をすべて満たすことで本件発明の課題を解決できること、特に溶媒としてNMPではないβ-アルコキシプロピオンアミドを用い、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対するアミド基含有3級アミン化合物(c)の濃度を10ppm以上とすることで現像密着性が向上し、1800ppm以下とすることで保存安定性が向上し、分子量の低下を抑制できることが理解できるから、本件発明1及びそれを直接又は間接的に引用する本件発明1~7が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。 (3)申立理由5,6についての申立人の主張について 申立人は、申立理由5,6に関して、上記第3の1の(1)~(7)で示した点を主張しているので、それらについて検討する。 主張(1)について検討すると、本件明細書には、溶剤としてβ-アルコキシプロピオンアミドのみを用いた実施例1~11と、β-アルコキシプロピオンアミドに加えて、NMP以外の溶媒を併用した実施例13~16が記載されており、それらの方法によって、樹脂の重量平均分子量が高く、現像密着性及び保存安定性評価に優れた樹脂組成物が得られ、本件発明の課題を解決できることが具体的に示されている。そして、本件発明は、NMPを溶剤として使用する態様も含まれるが、溶剤のすべてをNMPとするのではなく、その一部をβ―アルコキシプロピオンアミドにすることが必須であり(請求項1)、溶剤のすべてをNMPとする場合と比較して、生体への影響が懸念されるNMPの使用量を減らすことができることは明らかであるから、その限りにおいて本件発明の課題を解決することができるといえるし、溶剤の一部としてNMPを用いるだけであるから本件発明について実施をすることもできるといえる。 主張(2)について検討すると、本件明細書の実施例1~5と比較例1,2の結果を考慮すると、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対するアミド基含有3級アミン化合物(c)の濃度を高くしていくと重量平均分子量が小さくなっていくことが理解できる。そして、上記濃度が<1ppmである比較例1は、重量平均分子量は大きいが、現像密着性の評価が劣っている。 これらのことからみて、本件発明1に規定された条件を満たすことで、分子量が高く、現像密着性にも優れた樹脂組成物が得られることが理解できるといえるから、本件発明が本件発明の課題を解決することを当業者が認識することができるといえるし、発明の詳細な説明の記載は、本件発明について当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。 主張(3)について検討すると、比較例2,3,5,6は、対応する実施例(比較例2,3は実施例1,比較例5は実施例9,比較例6は実施例10)と比較して保存安定性の評価が劣っているから、これらは現像密着性には優れていても、保存安定性に劣るものである。また、比較例7は対応する実施例がないものの、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対するアミド基含有3級アミン化合物(c)の濃度を2000ppmとした結果、保存安定性に劣るものであり、本件発明の構成要件を満たすことで本件発明の課題が解決できることとの関係において何ら矛盾するものではない。また、実施例1~5と比較例1の結果を考慮すると、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対するアミド基含有3級アミン化合物(c)の濃度が低すぎる(<1ppm)と現像密着性に劣り、20ppm以上であれば現像密着性が良好になっているから、本件発明1の下限値である10ppmであっても、比較例1よりは現像密着性が良好になることが当業者であれば十分に予測することができる。 よって、本件発明が本件発明の課題を解決できることを当業者が認識することができるといえるし、発明の詳細な説明の記載は、本件発明について当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 主張(4)について検討すると、比較例2,4,5の保存安定日数は、対応する実施例1又は9と比較して劣っており、比較例1は保存安定性は良好であるが、対応する実施例1と比較して現像密着性が劣っているから、これらの結果は本件発明の構成を満たすことで本件発明の課題を解決できることとの関係で何ら矛盾するものではない。また、本件発明1は、「アルカリ可溶性樹脂溶液の製造方法」における、β―アルコキシプロピオンアミド(b)に対するアミド基含有3級アミン化合物(c)の濃度を10~1800ppmとするものであって、実施例1~5と比較例1,2の結果からみて、濃度がその範囲を外れると本件発明の課題を解決できないことが理解できるから、本件発明の構成を満たすことで本件発明の課題を解決できることを十分に理解することができる。また、発明の詳細な説明の記載は、本件発明について当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 主張(5)について検討すると、本件明細書の【0005】,【0027】の記載からみて、本件発明の課題の解決に主要な役割を果たすのはβ―アルコキシプロピオンアミド(b)に対するアミド基含有3級アミン化合物(c)の濃度、すなわち溶媒が大きく影響すると理解でき、樹脂については酸成分とアミン成分が反応してアミド又はイミド結合を形成する周知の樹脂が規定されているにすぎず、本件発明1で規定される樹脂であれば、本件発明の課題を解決することが理解できるといえるし、周知の酸成分、アミン成分を用いて周知の樹脂を製造すればよいのであるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 主張(6)について検討すると、β-アルコキシプロピオンアミドは、プロピオンアミドのβ位にアルコキシ基が置換したものであり、アルコキシ基は水酸基が炭化水素基で置換されたものという点で類似の化学的特性を有することが知られているものであるから、「β-アルコキシプロピオンアミド」であれば、具体的に実施例で用いられている3-メトキシ基や3-ブトキシ基を有するものと同様の働きが期待できるといえる。また、(b)以外に使用可能な溶媒の種類や、溶媒の総量が組成物中に占める割合が特定されていない旨の主張は、上記主張(1)で述べたのと同様の理由により採用することができない。 よって、本件発明が本件発明の課題を解決できることを当業者が認識することができるといえるし、発明の詳細な説明の記載は、本件発明について当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 主張(7)について検討すると、上記(1)イで述べたように、実施例1~5,比較例1の記載から、イオン交換樹脂への溶媒の接触度合いを調節することにより、(c)成分の濃度を10~1800ppmの範囲で任意に調節することができるものと認められる。 よって、本件発明が本件発明の課題を解決できることを当業者が認識することができるといえるし、発明の詳細な説明の記載は、本件発明について当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 したがって、申立人の主張は採用することができず、これらの主張は申立理由5及び6を肯定する根拠となり得ない。 (4)申立理由5,6についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1~7についての特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるともいえないから、申立理由5,6によっては本件発明1~7についての特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した理由によっては、本件発明1~7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700553

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