特許異議申立
2023-700542
浸透流体精製及びその駆動化合物
- 審判番号
- 2023-700542
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-510610
- 登録番号
- 7178987
- 請求日
- 2023年05月25日
- 審決日
- 2024年02月02日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】トレヴィ システムズ インコーポレイテッド
- 【権利者代理人】弁理士法人大塚国際特許事務所
- 【異議申立人】竹口 美穂
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 金 公彦
- 審判官 松井 裕典
- 分類
- P1651.113-YAA(B01D) / P1651.536-YAA(B01D) / P1651.537-YAA(B01D) / P1651.851-YAA(B01D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第3項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7178987号発明「浸透流体精製及びその駆動化合物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7178987号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項13について訂正することを認める。
特許第7178987号の請求項1~15に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7178987号の請求項1~15に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2017年(平成29年)10月19日を国際出願日とする出願であって、令和4年11月17日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行され、その後、令和5年5月25日に、請求項1~15に係る特許について、特許異議申立人 竹口 美穂(以下、「申立人」という。)により、甲第1~2号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年8月10日付けで当審より取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月24日に訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)及び意見書の提出がされたので、特許法第120条の5第5項所定の規定に従い、申立人に相当の期間を指定して意見を求めたが、指定期間内に申立人からは何らの応答もなかったものである。
第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、請求の趣旨を、「特許第7178987号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項13について訂正することを求める。」とするものであって、その訂正の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
・訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項13に
「各分枝が、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される1つ以上のエポキシドモノマーを含む」
と記載されているのを、
「各分枝が、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される1つ以上のエポキシドモノマーからなる」
に訂正する。
なお、本件訂正前の前記請求項13を引用する請求項は存在しないから、訂正事項1に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第3項の規定に従い、前記請求項13のみを訂正するものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、独立特許要件
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項13に記載されたエポキシドモノマーのうち「エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン」を削除すると共に、「エポキシドモノマー」を、本件訂正後の請求項13に記載された「エポキシドモノマーからなる」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1に係る訂正は、本件訂正前の請求項13の発明特定事項が、下記第4の2(4)及び第5に記載した理由により本件訂正前の請求項12の発明特定事項と整合しておらず、前記請求項13に係る発明が不明確であったのを、前記請求項12の発明特定事項と整合させて明確にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものでもある。
そして、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2) 独立特許要件について
本件特許異議の申立てにおいては、本件訂正前の請求項1~15に係る発明の特許に対して特許異議の申立がされているので、本件訂正後の請求項13に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定(独立特許要件)は適用されない。
3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項13について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件訂正が認められることは前記第2に記載したとおりであるから、本件特許の請求項1~15に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明15」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~15に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
浸透流体精製のための駆動化合物であって、
スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される、少なくとも1つのオキシドモノマーを含む線状のランダム、連続またはブロック分子鎖を含み、前記少なくとも1つのオキシドモノマーが、温度感受性であり、また、対象溶媒と温度依存性親和性を有し、
前記駆動化合物が、第1末端基及び第2末端基をさらに含み、前記第1末端基及び前記第2末端基のうち少なくとも1つが、ヒドロキシル基、アミン基、カルボン酸基、アリル基、及びC1~C14の置換または非置換アルキル基からなる群から選択される、前記駆動化合物。
【請求項2】
100~25,000の分子量を有する、請求項1に記載の駆動化合物。
【請求項3】
20℃~175℃の曇点温度を有する、請求項1に記載の駆動化合物。
【請求項4】
35℃~125℃の曇点温度を有する、請求項1に記載の駆動化合物。
【請求項5】
水を精製するためのシステムであって、
対象溶媒源と;
駆動化合物を含む駆動溶液と;
前記対象溶媒源から第1浸透圧を有する対象溶媒流を受け入れるための対象側、及び第2浸透圧を有する前記駆動溶液を受け入れるための駆動側を含む半透過性膜であって、希釈された駆動溶液流が、溶媒が前記半透過性膜を介して前記対象溶媒流から前記駆動側に通るときに生成される、前記半透過性膜とを含み;
前記駆動化合物が、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される、少なくとも1つのオキシドモノマーからなる線状のランダム、連続またはブロック分子鎖を含み、少なくとも1つのオキシドモノマーを含む前記分子鎖が、温度感受性であり、また、対象溶媒と温度依存性親和性を有し、
前記駆動化合物が、第1末端基及び第2末端基をさらに含み、前記第1末端基及び前記第2末端基のうち少なくとも1つが、ヒドロキシル基、アミン基、カルボン酸基、アリル基、及びC1~C14の置換または非置換アルキル基からなる群から選択される、前記システム。
【請求項6】
前記希釈された駆動溶液流を加熱する第1熱交換器と;
前記希釈された駆動溶液流において前記駆動化合物を凝集させて凝集された駆動化合物の液相及び溶媒の液相を含む凝集された二相流出物流を生成するように構成されているコアレッサーと;
2つ以上の非混和性液体または溶液を分離することができ、前記凝集された駆動化合物を前記凝集された二相流出物流から分離して、溶媒及び残存駆動化合物を含む溶媒リッチ流、ならびに前記凝集された駆動化合物及び溶媒を含む駆動化合物リッチ流を生成するように構成されている液相分離器と;
前記溶媒リッチ流を冷却して、冷却された単相溶媒リッチ流を生成するための第2熱交換器と;
前記残存駆動化合物を前記冷却された単相溶媒リッチ流から分離して残存駆動化合物流及び精製された溶媒生成物流を精製するための濾過モジュールとをさらに含む、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記濾過モジュールが、ナノフィルタ、限外ろ過装置、及び逆浸透モジュールからなる群から選択される、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記残存駆動化合物流が、濾過モジュールからの分離後に0.5%の残存駆動化合物を含有する、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
水を精製するためのシステムであって、
対象溶媒源と;
駆動化合物を含む駆動溶液と;
前記対象溶媒源から第1浸透圧を有する対象溶媒流を受け入れるための対象側、及び第2浸透圧を有する前記駆動溶液を受け入れるための駆動側を含む半透過性膜であって、希釈された駆動溶液流が、溶媒が前記半透過性膜を介して前記対象溶媒流から前記駆動側に通るときに生成される、前記半透過性膜とを含み;
前記駆動化合物が、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される、少なくとも1つのオキシドモノマーからなる線状のランダム、連続またはブロック分子鎖を含み、少なくとも1つのオキシドモノマーを含む前記分子鎖が、温度感受性であり、また、対象溶媒と温度依存性親和性を有し、
前記駆動化合物が、第1末端基及び第2末端基をさらに含み、前記第1末端基及び前記第2末端基のうち少なくとも1つが、ヒドロキシル基、アミン基、カルボン酸基、アリル基、及びC1~C14の置換または非置換アルキル基からなる群から選択され、
前記半透過性膜が正浸透膜であって、前記駆動化合物は、約0.02GMH~約0.035GMHの、前記正浸透膜を通した逆溶質拡散を示す、前記システム。
【請求項10】
前記駆動化合物が、20℃~175℃の曇点温度を有する、請求項5に記載のシステム。
【請求項11】
前記駆動化合物が、35℃~125℃の曇点温度を有する、請求項5に記載のシステム。
【請求項12】
対象溶液を精製または処理するための方法であって、
対象側及び駆動側を有する半透過性膜を提供することと;
溶媒を含み第1浸透圧を有する対象溶液を提供することと;
駆動化合物を含み第2浸透圧を有する駆動溶液を提供することであって、前記駆動化合物が、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される、少なくとも1つのオキシドモノマーからなる分枝状のランダム、連続、またはブロック分子鎖を含み、少なくとも1つのオキシドモノマーを含む前記分子鎖が、温度感受性であり、また、対象溶媒と温度依存性親和性を有し、
前記駆動化合物が、第1末端基及び第2末端基をさらに含み、前記第1末端基及び前記第2末端基のうち少なくとも1つが、ヒドロキシル基、アミン基、カルボン酸基、アリル基、及びC1~C14の置換または非置換アルキル基からなる群から選択される、提供することと;
前記溶媒を前記対象側から前記半透過性膜を通して輸送させて、前記半透過性膜の前記駆動側において希釈駆動溶液を生成することと;
前記希釈駆動溶液を加熱して相分離を開始し、駆動化合物の液相及び溶媒の液相を含む二相流出物流を生成することと;
前記駆動化合物を前記希釈駆動溶液において凝集させて、凝集された駆動化合物の液相及び溶媒の液相を含む凝集された二相流出物流を生成することと;
前記凝集された駆動化合物を前記希釈駆動溶液から分離して、残存駆動化合物及び溶媒を含む溶媒リッチ流、ならびに凝集された駆動化合物及び溶媒を含む溶質リッチ流を生成することと;
前記溶媒リッチ流を冷却して、前記残存駆動化合物を含む冷却された単相溶媒リッチ流を生成することと;
前記残存駆動化合物を前記冷却された単相溶媒リッチ流から分離して、残存駆動化合物流及び精製された溶媒生成物流を生成することとを含む、前記方法。
【請求項13】
前記駆動化合物が3つ以上の分枝を有し、各分枝が、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される1つ以上のエポキシドモノマーからなる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記駆動化合物が、20℃~175℃の曇点温度を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記駆動化合物が、35℃~125℃の曇点温度を有する、請求項12に記載の方法。」
第4 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項所定の規定違反(新規性欠如)について
(1) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、前記請求項9に係る発明の特許は、特許法第29条第1項所定の規定に違反してされたものである(特許異議申立書21ページ3行~22ページ下から2行)。
(2) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項13に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるから、前記請求項13に係る発明の特許は、特許法第29条第1項所定の規定に違反してされたものである(特許異議申立書22ページ最終行~24ページ20行)。
2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)、同法同条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)、同法同条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項9に係る発明においては、「駆動化合物は、約0.02GMH~約0.035GMHの、前記正浸透膜を通した逆溶質拡散を示す」ことが特定されている。
これについて、本件特許明細書の段落【0041】、【0053】、【0060】、【0069】、【0070】の記載から、駆動化合物が分枝状構造を有すると「逆溶質拡散」が低くなり、駆動化合物の分子量が小さいと「逆溶質拡散」が大きくなる傾向があること、及び、エチレンオキシドープロピレンオキシド(EO-PO)コポリマーのEO/PO比も「逆溶質拡散」に影響することが記載されているが、本件特許明細書には、「駆動化合物」を「約0.02GMH~約0.035GMHの、前記正浸透膜を通した逆溶質拡散を示す」ものとするための具体的な指針は何ら記載されていない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例において、「約0.02GMH~約0.035GMHの、前記正浸透膜を通した逆溶質拡散を示す」ものは、実施例10及び11のみであるが、前記実施例10及び11に記載された鎖状EO-POコポリマーは、前記請求項9に係る発明において特定された「駆動化合物」に該当しない。
このため、前記発明の詳細な説明には、前記請求項9に係る発明の「水を生成するためのシステム」が記載されているとはいえないし、当業者は、前記発明の詳細な説明の記載に基づいて、前記請求項9に係る発明において特定された「逆溶質拡散」の要件を満たす「駆動化合物」を製造することができないので、前記請求項9に係る発明を実施することができない。
更に、「逆溶質拡散」は「駆動化合物」だけで決まるものではなく、半透膜の緻密性にも影響されると推認されるのに、前記発明の詳細な説明には、「逆溶質拡散」の値がどのような膜を使用した場合の値であるかについて記載されていないから、当業者は、前記発明の詳細な説明の記載に基づいて、前記請求項9に係る発明を実施することができない。
したがって、前記発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合しないし、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない(特許異議申立書24ページ21行~26ページ最終行)。
(2) 本件特許明細書の段落【0039】の記載から、ポリマーの組成、構造及び構成は、溶媒との温度依存性親和性に影響することが理解できるが、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明においては、「駆動化合物」が前記請求項1に係る発明において特定されたいずれかのオキシドモノマー由来の分子鎖を有すること及び「駆動化合物」の末端基が特定されているだけであり、分子鎖中のオキシドモノマー由来の構造の割合や駆動化合物の分子量等は特定されていない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例に「駆動化合物」として具体的に記載されているエチレンオキシド-プロピレンオキシドコポリマーは、前記請求項1に係る発明で特定されたオキシドモノマー由来の分子鎖を有するものではないため、前記発明の詳細な説明には、前記請求項1に係る発明で特定された「駆動化合物」に該当するポリマーは具体的に記載されていない。
そうすると、当業者は、前記発明の詳細な説明の記載に基づいて、前記請求項1に係る発明において特定された「駆動化合物」を製造することができないし、前記発明の詳細な説明の記載に、前記請求項1に係る発明において特定された「駆動化合物」が記載されているともいえないので、前記発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合しないし、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない。
更に、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~8、10~12、14及び15に係る発明について検討しても事情は同じである(特許異議申立書27ページ1行~28ページ7行)。
(3) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項13に係る発明において、分子鎖中のオキシドモノマー由来の構造の割合や「駆動化合物」の分子量等は特定されていない。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例に記載された「駆動化合物」のうち、前記請求項13に係る発明において特定された要件に該当するのは、実施例12~19のものであり、前記請求項13に係る発明において特定されたエポキシドモノマーのうち、エチレンオキシド、プロピレンオキシド以外を含むポリマーは記載されていない。
すると、当業者は、前記発明の詳細な説明の記載に基づいて、エチレンオキシド、プロピレンオキシド以外のエポキシドモノマーを用いて、前記請求項13に係る発明において特定された「駆動化合物」を製造することができないし、前記請求項13に係る発明において特定された「駆動化合物」が、発明の詳細な説明に記載されているともいえないので、前記発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合しないし、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない(特許異議申立書28ページ8行~最終行)。
(4) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項13に係る発明において特定された「駆動化合物」には、3つ以上の分枝を有し、各分枝がエチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタンのいずれかのエポキシドモノマーを含む「駆動化合物」が含まれるが、この「駆動化合物」は、訂正前の特許請求の範囲の請求項12に係る発明において特定された「駆動化合物」のいずれにも該当しないから、前記請求項13に係る発明において特定された「駆動化合物」には前記請求項12に係る発明において特定された「駆動化合物」の範囲に含まれないものがあるので、前記請求項12及び13に係る発明の発明特定事項が整合していない。
そうすると、前記請求項12及び13に係る発明「駆動化合物」の範囲が不明確であるから、前記請求項12及び13に係る発明は明確でないので、特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合しない(特許異議申立書29ページ1行~下から3行)。
(5) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、5、9及び12に係る発明おける「温度感受性」とは、具体的に温度に対して何が変化するのかが特定されておらず、またどの程度の変化があれば「温度感受性」を有するといえるのかが明らかでないから、意味が不明確である。
また、「温度依存性親和性」についても、どの程度の溶媒との親和性があれば「温度依存性親和性」を有するといえるのかが明らかでないし、前記請求項1、5、9及び12に係る発明おいては、溶媒の種類も特定されていないから、「温度依存性親和性」を有する「駆動化合物」の範囲が不明確であるので、前記請求項1、5、9及び12に係る発明は明確でない。
更に、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2~4、6~8、10、11及び13~15に係る発明について検討しても事情は同じであるから、特許請求の範囲の記載は明確性要件に適合しない(特許異議申立書29ページ下から2行~30ページ12行)。
3 証拠方法
甲第1号証:特開2017-148734号公報
甲第2号証:国際公開第2015/156404号
第5 取消理由の概要
本件訂正前の本件特許請求の範囲の請求項12に係る発明においては、「前記駆動化合物が、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される、少なくとも1つのオキシドモノマーからなる分枝状のランダム、連続、またはブロック分子鎖を含み」と特定されているから、前記請求項12に係る発明における「駆動化合物」の分子鎖は、「スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される、少なくとも1つのオキシドモノマーからなる」ものであって、これ以外の「オキシドモノマー」を含まないものと解するのが妥当である。
これに対して、前記請求項12を引用する本件訂正前の本件特許請求の範囲の請求項13に係る発明においては、「前記駆動化合物が3つ以上の分枝を有し、各分枝が、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される1つ以上のエポキシドモノマーを含む」、と特定されているから、「駆動化合物」の分子鎖が、前記請求項12における分子鎖には含まれない「エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタンを含」み、更に、請求項13の「・・・を含む」との記載に起因し、前記請求項13において特定された「エポキシドモノマー」以外の、前記請求項12における分子鎖には含まれない「エポキシドモノマー」をも含み得るものである。
そうすると、前記請求項12を引用する前記請求項13における「駆動化合物」の分子鎖が、前記請求項12における分子鎖には含まれない「エポキシドモノマー」を含むものとなるから、前記請求項13の発明特定事項は、前記請求項12の発明特定事項に整合しておらず、前記請求項13に係る発明は明確でないので、前記請求項13の記載は特許法第36条第6項第2号所定の規定を満たさない。
第6 取消理由及び特許異議申立理由についての当審の判断
事案に鑑み、前記第5の取消理由及び前記第4の特許異議の申立て理由についてまとめて検討する。
1 特許法第29条第1項所定の規定違反(新規性欠如)について
(1) 甲各号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(ア) 甲第1号証には、以下のa~cの記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
a 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒を含有する供給流を、熱相分離物質を含有する熱相分離物質流と、半透膜を介して向流又は並流させることによって前記溶媒を熱相分離物質流に移動させる工程1と、
前記溶媒が移動した熱相分離物質流を前記熱相分離物質の曇点以上に加熱して、溶媒リッチ流と熱相分離物質リッチ流とに分離する工程2と、
を有する溶媒分離方法であって、
前記熱相分離物質が、アルキレンオキシドホモポリマーの両末端に疎水基を有する重合体、2種類以上のアルキレンオキシドのコポリマーの片末端に疎水基を有する重合体、及び2種類以上のアルキレンオキシドのコポリマーの両末端に疎水基を有する重合体から選択される疎水基修飾アルキレンオキシドポリマーであり、そして前記疎水基の有する炭素数が1~3個であることを特徴とする、前記溶媒分離方法。
・・・
【請求項5】
前記疎水基修飾アルキレンオキシドポリマーが、エチレンオキシドと、プロピレンオキシド及びブチレンオキシドから選択される少なくとも1種とのランダムコポリマーの片末端又は両末端に前記疎水基を有する重合体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶媒分離方法。」
b 「【0023】
親水部及び疎水部の双方を持つ熱相分離ポリマーを熱相分離する際、一般に、分子量が低すぎると、熱相分離しないか、或いは熱相分離したとしてもポリマーの濃度が高くならない傾向にある。一方、分子量が大きすぎると、粘度が過度に高くなり、循環プロセスにおける取り扱い性が悪くなる他、送液ポンプの必要エネルギーも高くなる。以上の理由から、本発明における熱相分離物質としての疎水基修飾アルキレンオキシドポリマーの分子量は、好ましくは500以上5,000以下、より好ましくは500以上2,500以下、更に好ましくは800以上2,500以下である。この分子量の単位はDa(ダルトン)である。
・・・
【0026】
[第1の溶媒分離方法]
本発明における第1の溶媒分離方法の典型的な例を図1に示した。
図1の溶媒分離方法は、
溶媒1を含有する供給流2を、熱相分離物質を含有する熱相分離物質流3と、正浸透ユニット12中で半透膜4を介して向流させて溶媒1を熱相分離物質流3に移動させて流れ5を得る工程1と、
流れ5と膜回収流11とを合流させて流れ9を得て、該流れ9を熱交換器6で加熱し、分離装置7において溶媒リッチ流8と熱相分離物質流3とに分離し、ろ過ユニット14中で溶媒リッチ流8をろ過膜15によって精製して精製溶媒流10と膜回収流11とを得る工程2と、
を有する溶媒分離方法である。
【0027】
正浸透プロセスにおける供給流の濃縮及び溶媒の精製において、供給流の濃縮限界(溶媒の回収率)は、浸透物質溶液の浸透圧の高さで決まる。従って熱相分離物質溶液を浸透物質溶液として用いる図1の溶媒分離方法においては、熱相分離物質流3の浸透圧の高さが供給流の濃縮限界を決定する。従って、熱相分離物質流3の浸透圧は、高ければ高いほど、溶媒の分離効率が高くなる。しかしながら、浸透圧を過度に高くしようとすると、熱相分離物質流3の粘度が過度に高くなる等の不都合が生じるおそれがある。
【0028】
供給流の濃縮及び溶媒の精製に必要な浸透圧としては、本発明の方法を適用する具体的な場面によって少し異なる。例えば、供給流としての海水から水(精製水)を製造する場面では、供給流からの水の回収率を70%とすると、100atm以上の浸透圧が望ましい。油田又はガス田の随伴水のような、高い塩濃度(例えば8質量%)の供給流を処理する場面では、供給流からの水の回収率を50%とすると、145atm以上の浸透圧が望ましい。
これらを総合的に考慮すると、熱相分離物質流3の浸透圧は、100atm以上200atm以下に調整されることが好ましく、145atm以上175atm以下に調整されることがより好ましい。この範囲の浸透圧を与える熱相分離物質の濃度は、概ね50質量%以上95質量%以下であり、好ましくは65質量%以上85質量%以下である。」
c 「【図1】
[図:0001410210000001.jpg]
」
(イ) 前記(ア)aの記載によれば、甲第1号証には、溶媒を含有する供給流を、熱相分離物質を含有する熱相分離物質流と、半透膜を介して向流又は並流させることによって前記溶媒を熱相分離物質流に移動させる工程1と、前記溶媒が移動した熱相分離物質流を前記熱相分離物質の曇点以上に加熱して、溶媒リッチ流と熱相分離物質リッチ流とに分離する工程2と、を有する溶媒分離方法であって、前記熱相分離物質が、アルキレンオキシドホモポリマーの両末端に疎水基を有する重合体、2種類以上のアルキレンオキシドのコポリマーの片末端に疎水基を有する重合体、及び2種類以上のアルキレンオキシドのコポリマーの両末端に疎水基を有する重合体から選択される疎水基修飾アルキレンオキシドポリマーであり、そして前記疎水基の有する炭素数が1~3個であり、前記疎水基修飾アルキレンオキシドポリマーが、エチレンオキシドと、プロピレンオキシド及びブチレンオキシドから選択される少なくとも1種とのランダムコポリマーの片末端又は両末端に前記疎水基を有する重合体である、溶媒分離方法が記載されている(請求項1、5)。
すなわち、前記(ア)b及びcの記載によれば、前記溶媒分離方法における熱相分離物質としての疎水基修飾アルキレンオキシドポリマーの分子量は、好ましくは500以上5,000以下、より好ましくは500以上2,500以下、更に好ましくは800以上2,500以下であり、この分子量の単位はDa(ダルトン)であり(段落【0023】)、前記溶媒分離方法は、溶媒1を含有する供給流2を、熱相分離物質を含有する熱相分離物質流3と、正浸透ユニット12中で半透膜4を介して向流させて溶媒1を熱相分離物質流3に移動させて流れ5を得る工程1と、流れ5と膜回収流11とを合流させて流れ9を得て、該流れ9を熱交換器6で加熱し、分離装置7において溶媒リッチ流8と熱相分離物質流3とに分離し、ろ過ユニット14中で溶媒リッチ流8をろ過膜15によって精製して精製溶媒流10と膜回収流11とを得る工程2と、を有するものであり(段落【0026】)、前記溶媒分離方法は、供給流としての海水から水(精製水)を製造するためのものである(段落【0028】)。
そして、前記半透膜4、熱交換器6及び分離装置7等を備えた装置は、前記溶媒分離方法のための装置といえるものである。
(ウ) 前記(イ)によれば、甲第1号証には、
「溶媒を含有する供給流を、熱相分離物質を含有する熱相分離物質流と、半透膜を介して向流又は並流させることによって前記溶媒を熱相分離物質流に移動させる工程1と、
前記溶媒が移動した熱相分離物質流を前記熱相分離物質の曇点以上に加熱して、溶媒リッチ流と熱相分離物質リッチ流とに分離する工程2と、
を有する溶媒分離方法のための装置であって、
前記熱相分離物質が、アルキレンオキシドホモポリマーの両末端に疎水基を有する重合体、2種類以上のアルキレンオキシドのコポリマーの片末端に疎水基を有する重合体、及び2種類以上のアルキレンオキシドのコポリマーの両末端に疎水基を有する重合体から選択される疎水基修飾アルキレンオキシドポリマーであり、そして前記疎水基の有する炭素数が1~3個であり、
前記疎水基修飾アルキレンオキシドポリマーが、エチレンオキシドと、プロピレンオキシド及びブチレンオキシドから選択される少なくとも1種とのランダムコポリマーの片末端又は両末端に前記疎水基を有する重合体であり、
前記溶媒分離方法における熱相分離物質としての疎水基修飾アルキレンオキシドポリマーの分子量は、好ましくは500以上5,000以下、より好ましくは500以上2,500以下、更に好ましくは800以上2,500以下であり、この分子量の単位はDa(ダルトン)であり、
前記溶媒分離方法は、溶媒を含有する供給流を、熱相分離物質を含有する熱相分離物質流と、正浸透ユニット中で半透膜を介して向流させて溶媒を熱相分離物質流に移動させて流れを得る工程1と、
流れと膜回収流とを合流させて流れを得て、該流れを熱交換器で加熱し、分離装置において溶媒リッチ流と熱相分離物質流とに分離し、ろ過ユニット中で溶媒リッチ流をろ過膜によって精製して精製溶媒流と膜回収流とを得る工程2と、を有し、
前記溶媒分離方法は、供給流としての海水から水(精製水)を製造するためのものである、溶媒分離方法のための装置。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
イ 甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
(ア) 甲第2号証には、以下のa~eの記載がある。
a 「請求の範囲
[請求項1] 正浸透法による淡水の製造において誘引物質として用いられ、曇点を有し加温すると凝集する温度感応性吸水剤であって、当該温度感応性吸水剤には、少なくとも疎水部と親水部が含まれており、基本骨格をグリセリン骨格とし、エチレンオキシド群と、プロピレンオキシドおよび/またはブチレンオキシドからなる群とを含むブロック共重合体であることを特徴とする温度感応性吸水剤。
・・・
[請求項8] 前記正浸透法による淡水の製造において請求項1乃至7の何れか一項に記載の前記温度感応性吸水剤を前記誘引物質として用いる水処理方法であって、
被処理水と、前記温度感応性吸水剤の水溶液である吸水溶液を半透膜を介して接触させ、前記被処理水中の水を前記半透膜を通して前記吸水溶液に移動させ、前記水で希釈された希釈吸水溶液と膜濃縮水を得る正浸透工程と、
前記希釈吸水溶液を前記吸水溶液の前記曇点以上の温度まで加温する加温工程と、
前記加温工程で凝集した前記温度感応性吸水剤を含む前記希釈吸水溶液を、前記温度感応性吸水剤の凝集液を含有する濃厚溶液と、前記水を主体とする希薄溶液と、に相分離する分離工程と、
前記分離工程で分離された前記濃厚溶液を前記吸水溶液の前記曇点以下の温度まで冷却した後、前記正浸透工程へ循環し、前記吸水溶液として再使用する冷却工程と、
を含む水処理方法。」
b 「[0033] 図3を参照して、本実施形態に係る水処理装置100の詳細について説明する。図3は、本発明の一実施形態を模式的に示すブロック図である。
[0034] 図3に示すように、本実施形態に係る水処理装置100は、概略的に、半透膜3を有する正浸透膜装置10と、重力分離槽11と、膜ろ過装置12と、後処理装置13と、加熱器14と、冷却器15と、熱交換器16と、を少なくとも備えて構成される。
[0035] 図3に示す水処理装置100において、海水等の被処理水1は、正浸透膜装置10に挿入され、半透膜3を通して水が反対側の室に透過されて残った膜濃縮水2が排出される。正浸透膜装置10の反対側の室には、吸水溶液4が流入しており、そこで半透膜3を介して被処理水1と接触して被処理水1から移行して水で希釈されて正浸透膜装置10を出る。正浸透膜装置10を出た希釈吸水溶液5は、熱交換器16を通って、重力分離された濃厚溶液7と熱交換して加温され、加熱器14でさらに加温されて重力分離槽11に入る。
[0036] また、重力分離槽11で分離された希薄溶液6は、膜ろ過装置12でろ過され、得られた膜ろ過水8は、活性炭等の後処理装置13で更に精製されて処理水を得る。なお、この後処理装置13は、膜ろ過水8に含有される温度感応性吸水剤の濃度が充分使用目的に合致するほど低い場合には不要である。一方、膜ろ過装置12でろ過されなかった膜濃縮水9は、加熱器14の前段に返送されて希釈吸水溶液5とともに相分離される。
[0037] 一方、重力分離槽11で分離された濃厚溶液7は、熱交換器16を経て冷却器15で冷却されて、吸水溶液4として正浸透膜装置10に返送される。
・・・
[0041] 再度図3を参照して、上述の水処理装置100を用いて実施される本実施形態に係る水処理方法の詳細について説明する。以下に示すように、本実施形態に係る水処理方法は、概略的に、ろ過工程、正浸透工程、加温工程、分離工程、冷却・循環工程、膜処理工程を、少なくとも含む。以下、各工程について順に説明する。
・・・
[0044]<正浸透工程>
正浸透工程は、ろ過処理した被処理水1と、温度感応性吸水剤を水に溶解した高浸透圧の吸水溶液4を半透膜3を介して接触させ、被処理水1中の水を半透膜3を通して吸水溶液4に移動させ、水で希釈された希釈吸水溶液5と膜濃縮水2を得る工程である。
[0045] 温度感応性吸水剤は、低温では親水性で水によく溶けるが、ある温度以上になると疎水性化し溶解度が低下する物質であり、水溶性~水不溶性に変化する温度が曇点と呼ばれる。この温度に達すると疎水性化した温度感応性吸水剤が凝集して白濁が起こる。この温度感応性吸水剤は、各種界面活性剤、分散剤、乳化剤などとして利用されており、本実施形態では、正浸透法による淡水の製造において誘引物質として用いられる。
[0046] 正浸透工程において用いられる温度感応性吸水剤は、上述の(1)高浸透圧、(2)低曇点、(3)低粘度、(4)投影面積の大きな立体構造の要件を満たすものである。
[0047] ここで、図4A及び図4Bを参照して、本実施形態に係る温度感応性吸水剤の薬剤特性データについて詳細を説明する。図4Aは、実施形態に係る温度感応性吸水剤の構造及び特性データを示す表である。図4Bは、図4Aの実施形態に係る温度感応性吸水剤の構造及び特性データを示す表の続きを示す表である。
・・・
[0062]<加温工程>
正浸透工程で被処理水1から水が移動して希釈された希釈吸水溶液5を曇点以上の温度まで加温して、温度感応性吸水剤の少なくとも一部を凝集させる。この凝集は、希釈吸水溶液5に含まれる温度感応性吸水剤および水が相分離して生成した微細な液滴が合一する現象である。加温工程における加温温度は、例えば熱交換器16を導入する熱媒体の流量の調整で制御できる。この加温工程の熱源には、次の分離工程で分離された濃厚溶液7の顕熱を使用することが好ましい。
[0063]<分離工程>
加温工程で相分離した温度感応性吸水剤を主体とする濃厚溶液層(下層)と、水を主体とし少量の温度感応性吸水剤を含有する希薄溶液層(上層)に相分離する。この相分離は曇点以上の液温で、重力分離槽11内で静置することによって行うことができる。その際、曇点以上の液温に加温された希釈吸水溶液が重力分離槽11に投入されると、加温の際に生成した温度感応性薬剤の微細液滴が速やかに沈降し、液滴同士が合一して下に濃厚溶液層が形成される。この分相に要する時間は、2~30分程度である。
・・・
[0065]<冷却・循環工程>
分離工程で分離された濃厚溶液7を吸水溶液4の曇点より低い温度に冷却することで水に溶解させて吸水溶液4に再生する。この温度は広い範囲で採用可能であるが、経済性を考慮すると常温かそれより高い温度が好ましい。この冷熱源としては、被処理水1あるいは正浸透工程において得られた希釈吸水溶液5を用いることがエネルギーの効率利用の点で好ましい。この冷却が不充分な場合には、正浸透工程で被処理水1から移動してくる水によって濃度が下がる際に曇点も低下するため場合によっては相分離し、浸透圧が失われてしまう。なお、再生した吸水溶液4は、そのまま循環して再利用できる。
[0066]<膜処理工程>
一方、分離工程で分離された希薄溶液6(上層液)は、必要に応じてナノろ過膜(NF膜)や逆浸透膜(RO膜)などで膜ろ過して、残存している温度感応性吸水剤を除去する。膜ろ過水は淡水であり、飲料水や工業用水などに利用できる。膜ろ過されないで残った膜濃縮水9は、温度感応性吸水剤が含まれているので、加温工程の前段に循環するのがよい。あるいは、濃縮して吸水溶液4として正浸透工程に直接返送することもできる。なお、正浸透工程で得られた膜濃縮水2は、塩分を高濃度で含んでいるので、これを濃縮して塩分を析出させて分離し、有効利用することもできる。」
c 「[図3]
[図:0001410210000002.jpg]
」
d 「[図4A]
[図:0001410210000003.jpg]
」
e 「[図4B]
[図:0001410210000004.jpg]
」
(イ) 前記(ア)aの記載によれば、甲第2号証には、正浸透法による淡水の製造において誘引物質として用いられ、曇点を有し加温すると凝集する温度感応性吸水剤であり、当該温度感応性吸水剤には、少なくとも疎水部と親水部が含まれており、基本骨格をグリセリン骨格とし、エチレンオキシド群と、プロピレンオキシドおよび/またはブチレンオキシドからなる群とを含むブロック共重合体である、温度感応性吸水剤が記載されている([請求項1])。
また、甲第2号証には、正浸透法による淡水の製造において、前記温度感応性吸水剤を誘引物質として用いる水処理方法であって、被処理水と、前記温度感応性吸水剤の水溶液である吸水溶液を半透膜を介して接触させ、前記被処理水中の水を前記半透膜を通して前記吸水溶液に移動させ、前記水で希釈された希釈吸水溶液と膜濃縮水を得る正浸透工程と、前記希釈吸水溶液を前記吸水溶液の曇点以上の温度まで加温する加温工程と、前記加温工程で凝集した前記温度感応性吸水剤を含む前記希釈吸水溶液を、前記温度感応性吸水剤の凝集液を含有する濃厚溶液と、前記水を主体とする希薄溶液と、に相分離する分離工程と、前記分離工程で分離された前記濃厚溶液を前記吸水溶液の前記曇点以下の温度まで冷却した後、前記正浸透工程へ循環し、前記吸水溶液として再使用する冷却工程と、を含む水処理方法が記載されている([請求項8])。
そして、前記(ア)b、cの記載によれば、前記水処理方法における正浸透工程は、ろ過処理した被処理水1と、温度感応性吸水剤を水に溶解した高浸透圧の吸水溶液4を半透膜3を介して接触させ、被処理水1中の水を半透膜3を通して吸水溶液4に移動させ、水で希釈された希釈吸水溶液5と膜濃縮水2を得る工程であり(段落[0044])、加温工程は、正浸透工程で被処理水1から水が移動して希釈された希釈吸水溶液5を曇点以上の温度まで加温して、温度感応性吸水剤の少なくとも一部を凝集させるものであり、この凝集は、希釈吸水溶液5に含まれる温度感応性吸水剤および水が相分離して生成した微細な液滴が合一する現象であり(段落[0062])、分離工程は、加温工程で相分離した温度感応性吸水剤を主体とする濃厚溶液層(下層)と、水を主体とし少量の温度感応性吸水剤を含有する希薄溶液層(上層)に相分離するものであり(段落[0063])、冷却・循環工程は、分離工程で分離された濃厚溶液7を吸水溶液4の曇点より低い温度に冷却することで水に溶解させて吸水溶液4に再生するものであり(段落[0065])、膜処理工程は、分離工程で分離された希薄溶液6(上層液)を、必要に応じてナノろ過膜(NF膜)や逆浸透膜(RO膜)などで膜ろ過して、残存している温度感応性吸水剤を除去するものであり、膜ろ過されないで残った膜濃縮水9は、温度感応性吸水剤が含まれているので、加温工程の前段に循環するのがよく、あるいは、濃縮して吸水溶液4として正浸透工程に直接返送することもできるものである(段落[0066])。
更に、前記(ア)b(段落[0047])、eに記載された、GE1000-BBB末端封鎖(A2SP)に注目すれば、前記水処理方法における温度感応性吸水剤は、グリセリン骨格にエチレンオキシドが6個、ブチレンオキシドが3個付加し、末端にエチレンオキシドが付加した重合鎖1つと、エチレンオキシドが7個、ブチレンオキシドが3個付加し、末端にエチル基が結合した重合鎖2つとが結合した共重合体であり、分子量が1616であり、40%溶液での曇点が33℃であり、50%溶液での曇点が38℃であり、95%溶液での浸透圧が200atmであり、40℃、95%溶液での粘度が186cPであるものである。
(ウ) 前記(イ)によれば、甲第2号証には、
「正浸透法による淡水の製造において、温度感応性吸水剤を誘引物質として用いる水処理方法であって、
前記温度感応性吸水剤は、曇点を有し加温すると凝集する温度感応性吸水剤であり、当該温度感応性吸水剤には、少なくとも疎水部と親水部が含まれており、基本骨格をグリセリン骨格とし、エチレンオキシド群と、プロピレンオキシドおよび/またはブチレンオキシドからなる群とを含むブロック共重合体であり、
被処理水と、前記温度感応性吸水剤の水溶液である吸水溶液を半透膜を介して接触させ、前記被処理水中の水を前記半透膜を通して前記吸水溶液に移動させ、前記水で希釈された希釈吸水溶液と膜濃縮水を得る正浸透工程と、
前記希釈吸水溶液を前記吸水溶液の曇点以上の温度まで加温する加温工程と、
前記加温工程で凝集した前記温度感応性吸水剤を含む前記希釈吸水溶液を、前記温度感応性吸水剤の凝集液を含有する濃厚溶液と、前記水を主体とする希薄溶液と、に相分離する分離工程と、
前記分離工程で分離された前記濃厚溶液を前記吸水溶液の前記曇点以下の温度まで冷却した後、前記正浸透工程へ循環し、前記吸水溶液として再使用する冷却工程と、
を含む水処理方法であり、
前記水処理方法における正浸透工程は、ろ過処理した被処理水と、温度感応性吸水剤を水に溶解した高浸透圧の吸水溶液を半透膜を介して接触させ、被処理水中の水を半透膜を通して吸水溶液に移動させ、水で希釈された希釈吸水溶液と膜濃縮水を得る工程であり、
加温工程は、正浸透工程で被処理水から水が移動して希釈された希釈吸水溶液を曇点以上の温度まで加温して、温度感応性吸水剤の少なくとも一部を凝集させるものであり、この凝集は、希釈吸水溶液に含まれる温度感応性吸水剤および水が相分離して生成した微細な液滴が合一する現象であり、
分離工程は、加温工程で相分離した温度感応性吸水剤を主体とする濃厚溶液層(下層)と、水を主体とし少量の温度感応性吸水剤を含有する希薄溶液層(上層)に相分離するものであり、
冷却・循環工程は、分離工程で分離された濃厚溶液を吸水溶液の曇点より低い温度に冷却することで水に溶解させて吸水溶液に再生するものであり、
膜処理工程は、分離工程で分離された希薄溶液(上層液)を、必要に応じてナノろ過膜(NF膜)や逆浸透膜(RO膜)などで膜ろ過して、残存している温度感応性吸水剤を除去するものであり、膜ろ過されないで残った膜濃縮水は、温度感応性吸水剤が含まれているので、加温工程の前段に循環するのがよく、あるいは、濃縮して吸水溶液として正浸透工程に直接返送することもできるものであり、
前記温度感応性吸水剤は、グリセリン骨格にエチレンオキシドが6個、ブチレンオキシドが3個付加し、末端にエチレンオキシドが付加した重合鎖1つと、エチレンオキシドが7個、ブチレンオキシドが3個付加し、末端にエチル基が結合した重合鎖2つとが結合した共重合体であり、分子量が1616であり、40%溶液での曇点が33℃であり、50%溶液での曇点が38℃であり、95%溶液での浸透圧が200atmであり、40℃、95%溶液での粘度が186cPである、水処理方法。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
(2) 本件発明9について
ア 対比
(ア) 本件発明9と甲1発明とを対比すると、甲1発明は、「供給流としての海水から水(精製水)を製造するためのものである」から、甲1発明における「溶媒分離方法のための装置」は、本件発明9における「水を精製するためのシステム」に相当するものである。
また、甲1発明における「供給流」、「熱相分離物質」、「熱相分離物質流」及び「半透膜」は、それぞれ、本件発明9における「対象溶媒源」、「駆動化合物」、「駆動化合物を含む駆動溶液」及び「前記対象溶媒源から第1浸透圧を有する対象溶媒流を受け入れるための対象側、及び第2浸透圧を有する前記駆動溶液を受け入れるための駆動側を含む半透過性膜」に相当し、甲1発明の「工程1」において、「溶媒を含有する供給流を、熱相分離物質を含有する熱相分離物質流と、正浸透ユニット中で半透膜を介して向流させて溶媒を熱相分離物質流に移動させて流れを得る」ことは、本件発明9において、「希釈された駆動溶液流が、溶媒が前記半透過性膜を介して前記対象溶媒流から前記駆動側に通るときに生成される」ことに相当する。
更に、甲1発明は、「溶媒を含有する供給流を、熱相分離物質を含有する熱相分離物質流と、正浸透ユニット中で半透膜を介して向流させて溶媒を熱相分離物質流に移動させて流れを得る」ものであるから、甲1発明における「半透膜」は、本件発明9と同様に、「正浸透膜」といえるものである。
(イ) 前記(ア)によれば、本件発明9と甲1発明とは、
「水を精製するためのシステムであって、
対象溶媒源と;
駆動化合物を含む駆動溶液と;
前記対象溶媒源から第1浸透圧を有する対象溶媒流を受け入れるための対象側、及び第2浸透圧を有する前記駆動溶液を受け入れるための駆動側を含む半透過性膜であって、希釈された駆動溶液流が、溶媒が前記半透過性膜を介して前記対象溶媒流から前記駆動側に通るときに生成される、前記半透過性膜とを含み;
前記半透過性膜が正浸透膜である、前記システム。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明9は、「前記駆動化合物が、1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される、少なくとも1つのオキシドモノマーからなる線状のランダム、連続またはブロック分子鎖を含み、少なくとも1つのオキシドモノマーを含む前記分子鎖が、温度感受性であり、また、対象溶媒と温度依存性親和性を有し、前記駆動化合物が、第1末端基及び第2末端基をさらに含み、前記第1末端基及び前記第2末端基のうち少なくとも1つが、ヒドロキシル基、アミン基、カルボン酸基、アリル基、及びC1~C14の置換または非置換アルキル基からなる群から選択され」るものであのに対して、甲1発明は、「前記熱相分離物質が、アルキレンオキシドホモポリマーの両末端に疎水基を有する重合体、2種類以上のアルキレンオキシドのコポリマーの片末端に疎水基を有する重合体、及び2種類以上のアルキレンオキシドのコポリマーの両末端に疎水基を有する重合体から選択される疎水基修飾アルキレンオキシドポリマーであり、そして前記疎水基の有する炭素数が1~3個であり、前記疎水基修飾アルキレンオキシドポリマーが、エチレンオキシドと、プロピレンオキシド及びブチレンオキシドから選択される少なくとも1種とのランダムコポリマーの片末端又は両末端に前記疎水基を有する重合体」である点。
・相違点2:本件発明9は、「前記駆動化合物」が、「約0.02GMH~約0.035GMHの、前記正浸透膜を通した逆溶質拡散を示す」ものであるのに対して、甲1発明は、「駆動化合物」の「正浸透膜を通した逆溶質拡散」が明らかでない点。
イ 判断
(ア) 事案に鑑み、まず、前記ア(イ)の相違点2が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、甲第1号証には、甲1発明における「駆動化合物」の「逆溶質拡散」が「約0.02GMH~約0.035GMH」となることは記載も示唆もされていない。
そこで、甲第1号証に記載がなくても、本件特許の出願日当時の周知技術や技術常識から、甲1発明における「駆動化合物」の「逆溶質拡散」が「約0.02GMH~約0.035GMH」であるといえるか否かについて検討すると、本件発明9の「駆動化合物」は、「1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される、少なくとも1つのオキシドモノマーからなる線状のランダム、連続またはブロック分子鎖を含み、少なくとも1つのオキシドモノマーを含む前記分子鎖が、温度感受性であり、また、対象溶媒と温度依存性親和性を有し、前記駆動化合物が、第1末端基及び第2末端基をさらに含み、前記第1末端基及び前記第2末端基のうち少なくとも1つが、ヒドロキシル基、アミン基、カルボン酸基、アリル基、及びC1~C14の置換または非置換アルキル基からなる群から選択され」るものであって、下記2(2)イの本件特許明細書の記載からみれば、「駆動化合物」の分子量は、正浸透プロセスにおいて約100~約25,000であり得るものである(段落【0070】)。
(イ) これに対して、甲1発明は、「駆動化合物」が、「アルキレンオキシドホモポリマーの両末端に疎水基を有する重合体、2種類以上のアルキレンオキシドのコポリマーの片末端に疎水基を有する重合体、及び2種類以上のアルキレンオキシドのコポリマーの両末端に疎水基を有する重合体から選択される疎水基修飾アルキレンオキシドポリマーであり、そして前記疎水基の有する炭素数が1~3個であり、前記疎水基修飾アルキレンオキシドポリマーが、エチレンオキシドと、プロピレンオキシド及びブチレンオキシドから選択される少なくとも1種とのランダムコポリマーの片末端又は両末端に前記疎水基を有する重合体」であって、「前記溶媒分離方法における熱相分離物質としての疎水基修飾アルキレンオキシドポリマーの分子量は、好ましくは500以上5,000以下、より好ましくは500以上2,500以下、更に好ましくは800以上2,500以下であり、この分子量の単位はDa(ダルトン)」であるものである。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば、本件発明9及び甲1発明は、「駆動化合物」の構造や分子量が重複しうるものといえる。
ここで、下記2(2)イの本件特許明細書の記載からみれば、本件発明の「駆動化合物」は、線状、連続、ブロック、分枝状、グラフト、勾配、星形、樹状オリゴマーもしくはコポリマー、又はこれらの任意の組み合わせであってよく、その組成、構造、及び構成は、その浸透圧及び流束を最適化し、逆拡散、ならびに分離された対象溶媒流中の駆動化合物の残存量を最小にするように設計されるものであり(段落【0039】)、分枝状構造及び構成は、線状ポリマーと比較して、正浸透膜を通しての、ならびにナノ濾過及び逆浸透(RO)膜を通しての「逆溶質拡散」の低減の有意な改良を示すものであり(段落【0041】)、分枝状駆動化合物の出発化合物自体は、線状構造又は環構造を有していてよく、疎水性又は親水性であってよく、可撓性又は剛性であり、流束を最適化し、かつ、逆溶質拡散を最小にし得るものであり(段落【0053】)、分枝状温度感受性駆動ポリマーは、3つ以上の分枝、または3つ以上のアームを有するべきであり、これにより、半透過性正浸透膜、逆浸透膜、及びナノ濾過膜の開口孔によって有効に捕捉または保持されることが可能になり、結果として、低い「逆溶質拡散」を生じさせるものであり(段落【0060】)、モノマー比(EO/PO比)は、より小さい程度で「逆溶質拡散」にも影響するものであり(段落【0069】)、「逆溶質拡散」は、分子量に関係するものであり、低分子量の無機及び有機化合物は、高い「逆溶質拡散」を示し得、多くの場合、有効に再生され得ないため、分子量は注意深く選択されなければならないものである(段落【0070】)。
前記記載によれば、本件発明の「駆動化合物」においては、その構造、モノマー比及び分子量といった組成や物性を、「逆溶質拡散」を最小にするように設計するものであって、これらを適切に選択して組み合わせることで、「逆溶質拡散」を低減できるものといえるから、約100~約25,000の分子量を有し、「1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される、少なくとも1つのオキシドモノマーからなる線状のランダム、連続またはブロック分子鎖を含み、少なくとも1つのオキシドモノマーを含む前記分子鎖が、温度感受性であり、また、対象溶媒と温度依存性親和性を有し、前記駆動化合物が、第1末端基及び第2末端基をさらに含み、前記第1末端基及び前記第2末端基のうち少なくとも1つが、ヒドロキシル基、アミン基、カルボン酸基、アリル基、及びC1~C14の置換または非置換アルキル基からなる群から選択され」る全ての「駆動化合物」の「逆溶質拡散」が、「約0.02GMH~約0.035GMH」であるといえるものではなく、このことを裏付ける証拠もなく、そのような技術常識も存在しない。
してみれば、甲1発明における「駆動化合物」の構造や分子量が本件発明9と重複しうるとしても、本件特許の出願日当時の周知技術や技術常識から、甲1発明における「駆動化合物」の「逆溶質拡散」が「約0.02GMH~約0.035GMH」であるとはいえないから、前記相違点2は実質的な相違点であるので、前記(ア)イの相違点1について検討するまでもなく、本件発明9が甲1発明であるとはいえない。
ウ 申立人の主張について
(ア) 本件発明9の新規性欠如についての特許異議申立書における申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
甲第1号証には、「駆動化合物」の「正浸透膜を通した逆溶質拡散」の値について記載されていないが、甲第1号証で使用される「駆動化合物」は、本件発明9における「駆動化合物」の「1,2-エポキシブタン、2,3-エポキシブタン、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される、少なくとも1つのオキシドモノマーからなる線状のランダム、連続またはブロック分子鎖を含み、少なくとも1つのオキシドモノマーを含む前記分子鎖が、温度感受性であり、また、対象溶媒と温度依存性親和性を有し、前記駆動化合物が、第1末端基及び第2末端基をさらに含み、前記第1末端基及び前記第2末端基のうち少なくとも1つが、ヒドロキシル基、アミン基、カルボン酸基、アリル基、及びC1~C14の置換または非置換アルキル基からなる群から選択され」る、という構造を満たす。
そして、本件特許明細書の段落【0041】、【0053】、【0060】及び【0069】には、いずれも「駆動化合物」の構造が「逆溶質拡散」に影響することが記載されているから、本件発明9の「駆動化合物」の構造を満たす甲1発明の「熱相分離物質」は、「逆溶質拡散」が「約0.02GMH~約0.035GMH」となっているといえる。
また、本件特許明細書の段落【0070】には「逆溶質拡散」は分子量に関係することが記載され、前記分子量は約100~約25,000であることが記載されている一方、甲第1号証の段落【0023】に記載された「熱相分離物質」の分子量は500以上5,000以下であるから、分子量においても本件発明9における「駆動化合物」と甲1発明における「駆動化合物」に差異はないので、甲1発明における「駆動化合物」は「逆溶質拡散」が「約0.02GMH~約0.035GMH」となっているといえる。
したがって、本件発明9は甲1発明である(特許異議申立書22ページ11行~下から2行)。
(イ) 以下、前記(ア)の主張について検討すると、甲1発明における「駆動化合物」の構造や分子量が本件発明9と重複しうるとしても、甲1発明における「駆動化合物」の「逆溶質拡散」が「約0.02GMH~約0.035GMH」であるということはできないことは、前記イ(ウ)に記載したとおりであるから、申立人の前記(ア)の主張は採用できない。
エ 小括
したがって、本件発明9は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないから、前記第4の1(1)の特許異議の申立て理由は理由がない。
(3) 本件発明13について
ア 対比
(ア) 本件発明13と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「正浸透法による淡水の製造において、温度感応性吸水剤を誘引物質として用いる水処理方法」は、本件発明13における「対象溶液を精製または処理するための方法」に相当し、甲2発明における「半透膜」、「被処理水」、「温度感応性吸水剤」及び「温度感応性吸水剤の水溶液である吸水溶液」は、それぞれ、本件発明13における「対象側及び駆動側を有する半透過性膜」、「溶媒を含み第1浸透圧を有する対象溶液」、「駆動化合物」及び「駆動化合物を含み第2浸透圧を有する駆動溶液」に相当する。
また、甲2発明における「被処理水と、前記温度感応性吸水剤の水溶液である吸水溶液を半透膜を介して接触させ、前記被処理水中の水を前記半透膜を通して前記吸水溶液に移動させ、前記水で希釈された希釈吸水溶液と膜濃縮水を得る正浸透工程」は、本件発明13において、「前記溶媒を前記対象側から前記半透過性膜を通して輸送させて、前記半透過性膜の前記駆動側において希釈駆動溶液を生成すること」に相当する。
更に、甲2発明における「濃厚溶液」及び「希薄溶液」は、それぞれ、本件発明13における「溶質リッチ流」及び「溶媒リッチ流」に相当し、甲2発明における、「前記希釈吸水溶液を前記吸水溶液の曇点以上の温度まで加温する加温工程と、前記加温工程で凝集した前記温度感応性吸水剤を含む前記希釈吸水溶液を、前記温度感応性吸水剤の凝集液を含有する濃厚溶液と、前記水を主体とする希薄溶液と、に相分離する分離工程」は、本件発明13において「前記希釈駆動溶液を加熱して相分離を開始し、駆動化合物の液相及び溶媒の液相を含む二相流出物流を生成することと;前記駆動化合物を前記希釈駆動溶液において凝集させて、凝集された駆動化合物の液相及び溶媒の液相を含む凝集された二相流出物流を生成することと;前記凝集された駆動化合物を前記希釈駆動溶液から分離して、残存駆動化合物及び溶媒を含む溶媒リッチ流、ならびに凝集された駆動化合物及び溶媒を含む溶質リッチ流を生成すること」に相当し、甲2発明における「分離工程で分離された希薄溶液(上層液)を、必要に応じてナノ濾過膜(NF膜)や逆浸透膜(RO膜)などで膜ろ過して、残存している温度感応性吸水剤を除去する」「膜処理工程」は、本件発明13において、「残存駆動化合物を」「溶媒リッチ流から分離して、残存駆動化合物流及び精製された溶媒生成物流を生成すること」に相当する。
(イ) 前記(ア)によれば、本件発明13と甲2発明とは、
「対象溶液を精製または処理するための方法であって、
対象側及び駆動側を有する半透過性膜を提供することと;
溶媒を含み第1浸透圧を有する対象溶液を提供することと;
駆動化合物を含み第2浸透圧を有する駆動溶液を提供することと;
前記溶媒を前記対象側から前記半透過性膜を通して輸送させて、前記半透過性膜の前記駆動側において希釈駆動溶液を生成することと;
前記希釈駆動溶液を加熱して相分離を開始し、駆動化合物の液相及び溶媒の液相を含む二相流出物流を生成することと;
前記駆動化合物を前記希釈駆動溶液において凝集させて、凝集された駆動化合物の液相及び溶媒の液相を含む凝集された二相流出物流を生成することと;
前記凝集された駆動化合物を前記希釈駆動溶液から分離して、残存駆動化合物及び溶媒を含む溶媒リッチ流、ならびに凝集された駆動化合物及び溶媒を含む溶質リッチ流を生成することと;
前記残存駆動化合物を前記溶媒リッチ流から分離して、残存駆動化合物流及び精製された溶媒生成物流を生成することと
を含む、前記方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点3:本件発明13は、「前記駆動化合物が3つ以上の分枝を有し、各分枝が、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される1つ以上のエポキシドモノマーからなる」ものであるのに対して、甲2発明は、「温度感応性吸水剤」が、「曇点を有し加温すると凝集する温度感応性吸水剤であり、当該温度感応性吸水剤には、少なくとも疎水部と親水部が含まれており、基本骨格をグリセリン骨格とし、エチレンオキシド群と、プロピレンオキシドおよび/またはブチレンオキシドからなる群とを含むブロック共重合体であり」、「グリセリン骨格にエチレンオキシドが6個、ブチレンオキシドが3個付加し、末端にエチレンオキシドが付加した重合鎖1つと、エチレンオキシドが7個、ブチレンオキシドが3個付加し、末端にエチル基が結合した重合鎖2つとが結合した共重合体であり、分子量が1616であり、40%溶液での曇点が33℃であり、50%溶液での曇点が38℃であり、95%溶液での浸透圧が200atmであり、40℃、95%溶液での粘度が186cPである」ものである点。
・相違点4:本件発明13は、「前記溶媒リッチ流を冷却して、前記残存駆動化合物を含む冷却された単相溶媒リッチ流を生成すること」を含み、「前記残存駆動化合物を前記冷却された単相溶媒リッチ流から分離して、残存駆動化合物流及び精製された溶媒生成物流を生成する」ものであるのに対して、甲2発明は、「前記溶媒リッチ流を冷却して、前記残存駆動化合物を含む冷却された単相溶媒リッチ流を生成すること」を含まない点。
イ 判断
始めに、前記ア(イ)の相違点3が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、甲2発明における「グリセリン骨格にエチレンオキシドが6個、ブチレンオキシドが3個付加し、末端にエチレンオキシドが付加した重合鎖1つと、エチレンオキシドが7個、ブチレンオキシドが3個付加し、末端にエチル基が結合した重合鎖2つとが結合した共重合体」は、本件発明13における「3つ以上の分枝を有し、各分枝が、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される1つ以上のエポキシドモノマーからなる」ものと合致するとはいえないから、前記相違点3は実質的な相違点である。
したがって、前記ア(イ)の相違点4について検討するまでもなく、本件発明13が甲1発明であるとはいえない。
ウ 申立人の主張について
(ア) 本件発明13の新規性欠如についての特許異議申立書における申立人の主張は、概略、以下のとおりである。
甲第2号証の段落[0047]の記載によれば、甲第2号証には、本件発明13の「駆動化合物」の要件を満たす共重合体が記載されており、段落[0033]~[0037]、[図3]に記載された水処理装置による一連の処理は、本件発明12の発明特定事項を満たすから、本件発明13は甲第2号証に記載された発明である(特許異議申立書23ページ下から6行~24ページ20行)。
(イ) ところが、前記相違点3が実質的な相違点であることは、前記イに記載したとおりであるから、甲第2号証に、本件発明13の「駆動化合物」の要件を満たす共重合体が記載されているとはいえないので、前記(ア)の主張は採用できない。
エ 小括
したがって、本件発明13は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないから、前記第4の1(2)の特許異議の申立て理由は理由がない。
2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)、同法同条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)、同法同条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
(1) 実施可能要件違反、サポート要件違反及び明確性要件違反の判断手法
ア 実施可能要件違反の判断手法
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、例えば、明細書等に当業者がその方法を使用することができる程度の記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件に適合するということができる。
イ サポート要件違反の判断手法
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
ウ 明確性要件違反の判断手法
請求項に係る発明が明確性要件に適合するか否かは、当該請求項の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、当該請求項の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきものである。
以下、前記ア~ウの判断手法にのっとって、申立人の主張について検討する。
(2) 本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、以下のア~ウの記載がある。
ア 「【0002】
[技術分野]
本開示は、浸透流体精製のための熱感受性駆動化合物を使用した、海水、半塩水、廃水、工業用水、製造水及び/または汚染水の精製、汚染除去、または脱塩を対象とする。本開示は、溶質が浸透プロセスによって溶媒から分離、濃縮または回収される無機、有機、イオン性、及び/またはポリマー性流体または溶液の正浸透用の駆動化合物をさらに対象とする。
【背景技術】
【0003】
流体精製及び処理は、産業用途において広く使用されている。流体精製に好適な流体は、溶解固形物(溶質)及び液体成分(溶媒)の両方を有し、また、懸濁された固体粒子を含有することがある溶液を含み得る。・・・
【0004】
1つの有効な流体精製/処理プロセスは、浸透プロセスであり、そこでは溶質及び/または溶媒の分離、濃縮及び回収が浸透プロセスによって実施される。流体精製のための浸透プロセスには、正浸透プロセスがある。正浸透プロセスにおいて、溶媒は、半透過性膜を通って当該膜の対象溶液側から駆動溶液側に輸送される。・・・
【0005】
少なくともいくつかの場合において、理想的な駆動溶質は、高い流束、低い逆溶質拡散、及び容易な再生を特徴とする。さらに、理想的な駆動溶質は、少なくともいくつかの場合において、標準の操作温度及び圧力で安定であり、化学的に不活性であり、生物学的に安全でありかつ環境に優しくあるべきである。少なくともいくつかの場合において、理想的な駆動溶質は、熱感受性オリゴマーまたはポリマーであり得、これは、廃熱を使用して溶媒成分から当該オリゴマーまたはポリマーを分離することができると同時に、駆動溶液は再使用され得る。駆動溶液はまた、水精製用途に固有の健康及び安全性を考慮した、天然化合物、「環境に優しい素材」、ならびに/または環境に優しい化学によって生成される化合物であり得る。
・・・
【発明の概要】
【0015】
改良された流体精製/処理システム及びプロセス、特に、正浸透システム及びプロセスにおいて使用され得る改良された駆動化合物及び溶液が必要とされている。改良された駆動化合物の望ましい特性として、高い流束、低い逆溶質拡散、容易な再生、物理的及び化学的安定性を示すこと、ならびに安全かつ環境に優しいことを挙げることができる。」
イ 「【0038】
駆動化合物は、無機、有機、イオン性、ポリマー性化合物、またはそれらの任意の組み合わせであってよい。より詳細には、駆動化合物は、温度感受性の無機、有機、イオン性、ポリマー性化合物、またはそれらの任意の組み合わせであってよい。・・・
【0039】
本開示の少なくとも1つの態様によると、駆動溶質は、温度感受性オリゴマーまたはポリマーであってよい。かかる場合において、温度感受性ポリマーは、線状、連続、ブロック、分枝状、グラフト、勾配、星形、樹状オリゴマーもしくはコポリマー、またはこれらの任意の組み合わせであってよい。少なくともいくつかの場合において、温度感受性ポリマーは、ホモポリマー、線状ランダムもしくはブロックコポリマー、分枝状ランダムもしくはブロックコポリマー、またはこれらの任意の組み合わせであってよい。温度感受性ポリマーの組成、構造、及び構成は、その浸透圧及び流束を最適化し、逆拡散、ならびに分離された対象溶媒流中の駆動化合物の残存量を最小にするように設計され得る。好ましくは、温度感受性駆動溶質の出発化合物及び繰り返し単位は、駆動溶質が、確実に、ヒト、動物、及び海洋生物に毒性でないように、環境に優しい化合物及び天然化合物から選択され得る。
・・・
【0041】
本開示の少なくとも1つの態様によると、温度感受性駆動化合物は、分枝状のランダム及び/またはブロックポリエチレンオキシド-プロピレンオキシドオリゴマーまたはポリマーであってよい。少なくともいくつかの場合において、温度感受性駆動化合物は、分枝状のランダム及び/またはブロックポリエチレンオキシド-プロピレンオキシド-ブチレンオキシドオリゴマーまたはコポリマーであってよい。分枝状構造及び構成は、線状ポリマーと比較して、正浸透膜を通しての、ならびにナノ濾過及び逆浸透(RO)膜を通しての逆溶質拡散の低減の有意な改良を示している。同様に、分枝状ポリマーの末端基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、フェニル、及び他のアリール基によってキャッピングされていてよい。
【0042】
本開示の少なくとも1つの態様によると、温度感受性化合物を含む駆動溶液は、対象流体の浸透圧よりも高い浸透圧を示し、これにより、半透過性膜を通しての対象流体からの溶媒の移動または駆動溶液及び対象溶液の混合物中での溶媒の再分配が可能になる。温度感受性駆動化合物と溶媒との間の親和性は、駆動化合物及び溶媒を含む溶液が加熱または冷却されるにつれて弱くなり、結果として相分離または沈殿が生じ、これにより、有効な流体精製及び処理のための手段を付与する。
・・・
【0044】
少なくともいくつかの場合において、温度感受性駆動化合物は、以下の一般式
R1-A-R2 (式1-1)
によって表される線状のランダム、連続、及び/またはブロックオリゴマーまたはポリマーであってよい。
【0045】
式中、Aは、統計的にランダム、連続、及び/またはブロック構造を有するオリゴマーまたはポリマーセグメントであり、R1及びR2は、水素、ヒドロキシル、カルボン酸、アミン、アリル、フェニル、及び置換または非置換のC1~C14アルキル基の末端基である。
【0046】
構造要素Aは、エポキシド、及び、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-エポキシ-ブタン、2,3-エポキシ-ブタン、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキソラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどを含めた環状エーテルのオリゴマー、ホモポリマー、ならびにコポリマーであってよい。同様に、構造要素Aは、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、置換ジオール、例えば、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール及びネオペンチルグリコール、芳香族ジオール、例えば、レゾルシノール及び4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノールなどを含むジオールのオリゴマー、ホモポリマー、及びコポリマーであってもよい。
・・・
【0051】
少なくともいくつかの場合において、温度感受性駆動化合物は、一般式
【化4】
[図:0001410210000005.jpg]
によって表され得る分枝状のランダム、連続、及び/またはブロックコポリマーであってよい。
【0052】
式中、Sは、モノマー、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどと反応する出発化合物であり;A1、A2、A3、及びAnは、分枝状要素であり、それぞれ、ランダム、連続、及び/またはブロック構造自体であってよく;R1、R2、R3、及びRnは、水素原子、ヒドロキシル、カルボン酸、アミン、アリル、フェニル、及び置換または非置換のC1~C14アルキル基の末端基である。
【0053】
分枝状温度感受性駆動化合物の調製に好適な出発化合物Sは、分子構造において3以上の官能価を有しており、限定されないが、ポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸などを挙げることができる。出発化合物自体は、線状構造または環構造を有していてよく、疎水性または親水性であってよく、可撓性または剛性であり、流束を最適化し、かつ、逆溶質拡散を最小にし得る。いくつかの場合において、出発化合物は、ポリオール、例えば、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、ジトリメチロールプロパン、フロログルシノール、ソルビトール、ソルビタン、グルコース、フルクトース、及びメチルグルコシドであってよい。携帯用水、海水脱塩、及び環境に優しい流体処理システムのために、好ましい出発化合物は、環境に優しい物質または天然化合物であり、より好ましくは、食品グレードの化合物であり、限定されないが、ビタミン、例えば、アスコルビン酸及び糖アルコールが挙げられる。好適な糖アルコールとして、限定されないが、3アーム分枝状駆動化合物の調製のためのグリセロール;4アーム分枝状駆動化合物の調製のためのエリスリトール及びトレイトール;5アーム分枝状駆動化合物の調製のためのアラビトール、リビトール、及びキシリトール;6アーム分枝状駆動化合物の調製のためのフクチトール、ガラクチトール、イジトール、イノシトール、マンニトール、及びソルビトール;ならびに7アーム以上の分枝状の駆動化合物の調製のためのボレミトール、イソマルト、マルチトール、ラクチトールを挙げることができる。
【0054】
式2-1における構造要素A1、A2、A3、及びAnは、エポキシド、及び、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-エポキシ-ブタン、2,3-エポキシ-ブタン、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン(oextane)、ジオキソラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどを含めた環状エーテルのオリゴマー、ホモポリマー、ならびにコポリマーからなる群から選択され得る。同様に、式2-1における構造要素A1、A2、A3、及びAnは、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、置換ジオール、例えば、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール及びネオペンチルグリコール、芳香族ジオール、例えば、レゾルシノール及び4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノールなどを含むジオールのオリゴマー、ホモポリマー、ならびにコポリマーであってもよい。構造要素は、それぞれ、同じまたは異なる組成、分子量、鎖長、及び分子構成を有し得る。
【0055】
最も簡単な分枝状温度感受性駆動化合物は、3アームオリゴマーまたはポリマーである。以下の化学式2-2及び化学式2-3は、出発化合物としてグリセロール及びトリメチロールプロパンを用いた3アーム分枝状オリゴマー及びポリマーを示す。
【化5】
[図:0001410210000006.jpg]
・・・
【0058】
本開示のオリゴマーまたはポリマー駆動化合物は、実験室用及び/または工業用バッチ反応器において合成されてよい。少なくともいくつかの場合において、線状/分枝状ランダムまたは連続エチレンオキシド-プロピレンオキシドオリゴマーまたはポリマーは、加圧されたエチレンオキシド及びプロピレンオキシドをステンレス鋼反応器内に供給することによって調製され得る。水酸化ナトリウムなどの強塩基が、開環重合を誘発する触媒として使用され得、反応温度は、120~175℃の間に維持され得る。反応の終了の際、得られたオリゴマーまたはポリマーが冷却、中和、または濾過されて、不純物を除去し得る。代替的には、線状/分枝状ブロックエチレンオキシド-プロピレンオキシドオリゴマーまたはポリマーは、エチレンオキシドまたはプロピレンオキシドのいずれかであってよい第1反応体をバッチ反応器内に供給することによって調製され得る。第1反応体の開環反応の終了の際、第2反応体が次いで反応器内に注入され、連鎖成長プロセスを継続させることができる。得られたエチレンオキシド-プロピレンオキシドブロックコポリマーは、冷却、中和、及び濾過されて、不純物を除去し得る。
・・・
【0060】
分枝状温度感受性駆動ポリマーは、3つ以上の分枝、または3つ以上のアームを有するべきであり、これにより、半透過性正浸透膜、逆浸透膜、及びナノ濾過膜の開口孔によって有効に捕捉または保持されることが可能になり、結果として、低い逆溶質拡散を生じさせる。アームの長さ及び構造に応じて、分枝状ポリマーは、同等の分子量の線状ポリマーと比較して低い粘度を示して、さらに、分子拡散性を向上させ、かつ、流束を増加させ得る。
【0061】
本開示の駆動溶質は、温度感受性の性質を有し得る。温度変化への暴露、例えば加熱または冷却の際、溶液は、相分離を経て、溶質リッチ相及び溶媒リッチ相を形成することができる。・・・
・・・
【0069】
本開示の少なくとも1つの態様によると、エチレンオキシド-プロピレンオキシド(EO-PO)コポリマーが、携帯用飲用水の生成及び海水脱塩のための駆動化合物として使用され得る。モノマー比(EO/PO比)は、材料の特性に重要な役割を果たし、当該比としての膜の性質は、浸透圧、曇点、生成物である水における残存駆動化合物レベル、及び、より小さい程度で、逆溶質拡散にも影響する。本開示の駆動化合物は、約0.01~約10のEO/PO比を有し得る。他の場合において、駆動化合物は、約0.05~約5のEO/PO比を有し得る。さらに他の場合において、駆動化合物は、約0.1~約1の範囲のEO/PO比を有し得る。少なくともいくつかの場合において、駆動化合物は、曇点及び相分離温度の要件を満たすように低いEO/PO比を有するオリゴマーまたは低分子量ポリマーであってよい。
【0070】
駆動化合物の分子量は、駆動溶液の粘度に影響する。加えて、溶媒の流束、残存駆動溶質レベル、及び逆溶質拡散は、全て、分子量に関係する。粘度点の観点から、低分子量の無機及び有機化合物が、かかる溶液は、より高分子量のオリゴマー及びポリマーと比較して最も粘度低下を引き起こすため、高度に望ましいことが認識されるべきである。しかしながら、かかる低分子量の無機及び有機化合物は、高い逆溶質拡散を示し得、多くの場合、有効に再生され得ない。そのため、分子量は注意深く選択されなければならず、また、対応する駆動化合物が、良好なバランス性能を有する必要がある。少なくともいくつかの場合において、駆動化合物の分子量は、正浸透プロセスにおいて約100~約25,000であり得る。他の場合において、駆動溶質の分子量は、約200~15,000であり得る。さらに他の場合において、駆動溶質の分子量は、約300~約5,000であり得る。さらに他の場合において、駆動化合物の分子量は、正浸透において、約500~約3,500であり得る。低分子量が概して好ましいが、駆動化合物の分子量はまた、後処理工程におけるナノフィルタ及び/または逆浸透膜を使用した溶解オリゴマー及びポリマーの有効な研磨濾過を可能にするのに十分に高い必要もある。
・・・
【0076】
本開示の少なくとも1つの態様によると、駆動化合物は、約0.004~約0.01GMH、約0.01~約0.02GMH、約0.02~約0.035GMH、約0.004GMH~約0.035GMH、または約0.004GMH~約0.1GMHの、正浸透膜を通しての逆溶質拡散を示し得る。」
ウ 「【0093】
[膜性能の評価]
正浸透モードにおける膜の流束及び逆溶質拡散の評価を、以下の試験手順に従って、それぞれ、実施例10~15のコポリマーを含む駆動溶液に関して行う。膜の流束を、Trevi Systemsによって設計及び製造されたMembrane Testing Fixture(モデルII)によって決定し、Toyobo三酢酸セルロース(CTA)中空糸FOモジュールを半透膜として利用した。脱イオン水を対象溶液として供給し、50重量%の駆動化合物溶液を駆動溶液として使用した。対象溶液及び駆動溶液の体積流量を市販の5インチ及び10インチの中空糸膜エレメントにおける流量と近くなるように選択した。対象溶液を中空糸の活性層の方に向けた。対象溶液及び駆動溶液の両方を閉ループにおいて少なくとも4時間循環させた。水の流束及び逆溶質拡散を4時間の稼働時間で決定した。駆動溶液から対象溶液への膜を通した逆溶質拡散を全有機体炭素(TOC)によって測定した。結果を表4にまとめる。」
(3) 第4の2(1)の特許異議申立理由について
ア 始めに、本件発明9について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かについて検討する。
前記1(2)イ(ウ)の記載からみれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明の「駆動化合物」においては、その構造、モノマー比及び分子量といった組成や物性を、「逆溶質拡散」を最小にするように設計するものであって、これらを適切に選択して組み合わせることで、「逆溶質拡散」を低減できること、例えば、分枝状構造及び構成は、線状ポリマーと比較して、正浸透膜を通しての、ならびにナノ濾過及び逆浸透(RO)膜を通しての逆溶質拡散の低減の有意な改良を示し(段落【0041】)、分枝状駆動化合物の出発化合物自体は、線状構造又は環構造を有していてよく、疎水性又は親水性であってよく、可撓性又は剛性であり、流束を最適化し、かつ、逆溶質拡散を最小にし得るものであり(段落【0053】)、分枝状温度感受性駆動ポリマーが3つ以上の分枝、または3つ以上のアームを有すると、低い逆溶質拡散を生じ(段落【0060】)、モノマー比(EO/PO比)は、より小さい程度で「逆溶質拡散」にも影響するものであり(段落【0069】)、低分子量の無機及び有機化合物が、高い逆溶質拡散を示す(段落【0070】)ことを理解することができるから、本件特許明細書に、「駆動化合物」を「約0.02GMH~約0.035GMHの、前記正浸透膜を通した逆溶質拡散を示す」ものとするための具体的な指針が何ら記載されていないとはいえない。
そして、本件特許明細書の段落【0084】~【0102】に記載された実施例(摘記は省略する。以下、「本件実施例」という。)に、本件発明9の発明特定事項を満たした上で、「約0.02GMH~約0.035GMHの、前記正浸透膜を通した逆溶質拡散を示す」「駆動化合物」が記載されていないとしても、前記の「駆動化合物」を「約0.02GMH~約0.035GMHの、前記正浸透膜を通した逆溶質拡散を示す」ものとする具体的な指針といえる記載に従い、当業者は、本件発明9の発明特定事項を満たす「駆動化合物」においても、例えば分子構造や分子量を適切に選択することで、過度の試行錯誤を要することなく、「約0.02GMH~約0.035GMHの、前記正浸透膜を通した逆溶質拡散を示す」「駆動化合物」を製造することができるといえる。
更に、前記(2)ウの本件特許明細書の記載によれば、本件発明9における「逆溶質拡散」が、Toyobo三酢酸セルロース(CTA)中空糸FOモジュールを半透膜として利用して測定されたものであることを理解できるから、当業者は、前記発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明9を実施できるといえる。
これらのことからみれば、本件発明9について、発明の詳細な説明には、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載がされているといえ、このことを前記(1)アの判断手法に当てはめれば、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するといえる。
イ 次に、本件発明9がサポート要件に適合するか否かについて検討すると、本件特許明細書の前記(2)イ(段落【0044】~【0046】)の記載によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、温度感受性駆動化合物として、以下の一般式
R1-A-R2 (式1-1)
によって表される線状のランダム、連続、及び/またはブロックオリゴマーまたはポリマーが記載されており、ここで、式中、Aは、統計的にランダム、連続、及び/またはブロック構造を有するオリゴマーまたはポリマーセグメントであり、R1及びR2は、水素、ヒドロキシル、カルボン酸、アミン、アリル、フェニル、及び置換または非置換のC1~C14アルキル基の末端基であり、構造要素Aは、エポキシド、及び、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-エポキシ-ブタン、2,3-エポキシ-ブタン、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキソラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどを含めた環状エーテルのオリゴマー、ホモポリマー、ならびにコポリマーであってよいものである。
そして、そのような温度感受性駆動化合物は、本件発明9において特定された「駆動化合物」といえるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明9において特定された「駆動化合物」が記載されているといえるので、本件発明9は、発明の詳細な説明に記載された発明といえる。
また、本件発明9が、発明の課題を解決できる範囲ものであるか否かについて検討すると、前記(2)ア(段落【0015】)の記載からみれば、本件発明は、高い流束、低い「逆溶質拡散」、容易な再生、物理的及び化学的安定性を示すこと、ならびに安全かつ環境に優しいことといった、望ましい特性を有する「駆動化合物」による、改良された流体精製/処理システム及びプロセス、特に、正浸透システム及びプロセスにおいて使用され得る改良された「駆動化合物」及び溶液が必要とされている、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものである。
そして、「約0.02GMH~約0.035GMHの、前記正浸透膜を通した逆溶質拡散を示す」、との発明特定事項を有する本件発明9は、少なくとも、低い「逆溶質拡散」を有することにより、本件課題を解決できるものといえる。
これらのことからみれば、本件発明9は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の課題を解決できる範囲のものといえるのであり、このことを前記(1)イの判断手法に当てはめれば、本件発明9はサポート要件に適合するといえる。
ウ したがって、本件発明9について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するといえるし、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するといえるので、前記第4の2(1)の特許異議の申立て理由は理由がない。
(4) 第4の2(2)の特許異議申立理由について
ア 始めに、本件発明1について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かについて検討すると、前記(3)イに記載したのと同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1において特定された「駆動化合物」が記載されているといえる。
また、前記(2)イ(段落【0058】)の記載からみれば、本件特許明細書には、本件発明における「駆動化合物」は、実験室用及び/または工業用バッチ反応器において合成されるものであり、少なくともいくつかの場合において、線状/分枝状ランダムまたは連続エチレンオキシド-プロピレンオキシドオリゴマーまたはポリマーは、加圧されたエチレンオキシド及びプロピレンオキシドをステンレス鋼反応器内に供給することによって調製されるものであり、水酸化ナトリウムなどの強塩基が、開環重合を誘発する触媒として使用され、反応温度は、120~175℃の間に維持され、反応の終了の際、得られたオリゴマーまたはポリマーが冷却、中和、または濾過されて、不純物を除去することで製造されることが記載されている。
そして、本件特許明細書の前記記載に接した当業者は、オキシドモノマーとして、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドと共通する本件発明1において特定された「駆動化合物」についても、同様の製造方法により、過度の試行錯誤を要することなく製造できることを理解することができる。
これらのことからみれば、本件発明1において、分子鎖中のオキシドモノマー由来の構造の割合や「駆動化合物」の分子量が記載されておらず、本件実施例に、本件発明1で特定された「駆動化合物」に該当するポリマーが具体的に記載されていないとしても、発明の詳細な説明には、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があるといえがされているといえ、このことを前記(1)アの判断手法に当てはめれば、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するといえる。
更に、本件発明2~8、10~12、14及び15について検討しても事情は同じである。
イ 次に、本件発明1がサポート要件に適合するか否かについて検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1において特定された「駆動化合物」が記載されているといえることは、前記アに記載したとおりであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明といえる。
また、本件発明1が、発明の課題を解決できる範囲ものであるか否かについて検討すると、前記(2)イ(段落【0042】、【0061】)の記載からみれば、本件発明における温度感受性化合物を含む駆動溶液は、対象流体の浸透圧よりも高い浸透圧を示し、これにより、半透過性膜を通しての対象流体からの溶媒の移動または駆動溶液及び対象溶液の混合物中での溶媒の再分配が可能になるものであり、温度感受性駆動化合物と溶媒との間の親和性は、駆動化合物及び溶媒を含む溶液が加熱または冷却されるにつれて弱くなり、結果として相分離または沈殿が生じ、これにより、有効な流体精製及び処理のための手段を付与するものであり、駆動溶質が温度感受性の性質を有することで、温度変化への暴露、例えば加熱または冷却の際、溶液は、相分離を経て、溶質リッチ相及び溶媒リッチ相を形成することができるものである。
そして、本件特許明細書の前記記載に接した当業者は、本件発明における「駆動化合物」は、「温度感受性であり、また、対象溶媒と温度依存性親和性を有」することで、「駆動化合物」及び溶媒を含む溶液が加熱または冷却された結果として相分離または沈殿が生じ、溶質リッチ相及び溶媒リッチ相に相分離して、容易に再生できることを理解することができるから、「前記少なくとも1つのオキシドモノマーが、温度感受性であり、また、対象溶媒と温度依存性親和性を有」する、との発明特定事項を有する本件発明1は、「駆動化合物」を容易に再生できることにより、本件課題を解決できるものといえる。
これらのことからみれば、本件発明1において、分子鎖中のオキシドモノマー由来の構造の割合や「駆動化合物」の分子量が記載されておらず、本件実施例に、本件発明1で特定された「駆動化合物」に該当するポリマーが具体的に記載されていないとしても、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の課題を解決できる範囲のものといえるのであり、このことを前記(1)イの判断手法に当てはめれば、本件発明1はサポート要件に適合するといえる。
更に、本件発明本件発明2~8、10~12、14及び15について検討しても事情は同じである。
ウ したがって、本件発明1~8、10~12、14及び15について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するといえるし、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するといえるので、前記第4の2(2)の特許異議の申立て理由も理由がない。
(5) 第4の2(3)の特許異議申立理由について
ア 始めに、本件発明13について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かについて検討すると、前記(2)イ(段落【0051】~【0054】)の記載によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、温度感受性駆動化合物として、以下の一般式【化4】
[図:0001410210000007.jpg]
によって表され得る分枝状のランダム、連続、及び/またはブロックコポリマーが記載されており、ここで、式中、Sは、モノマー、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどと反応する出発化合物であり;A1、A2、A3、及びAnは、分枝状要素であり、それぞれ、ランダム、連続、及び/またはブロック構造自体であってよく;R1、R2、R3、及びRnは、水素原子、ヒドロキシル、カルボン酸、アミン、アリル、フェニル、及び置換または非置換のC1~C14アルキル基の末端基であり、式2-1における構造要素A1、A2、A3、及びAnは、エポキシド、及び、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-エポキシ-ブタン、2,3-エポキシ-ブタン、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン(oextane)、ジオキソラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどを含めた環状エーテルのオリゴマー、ホモポリマー、ならびにコポリマーからなる群から選択され得るものである。
そして、そのような温度感受性駆動化合物は、本件発明13において特定された「駆動化合物」といえるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明13において特定された「駆動化合物」が記載されているといえる。
また、前記(4)アに記載したのと同様の理由により、本件特許明細書の前記記載に接した当業者は、本件発明13において特定された「駆動化合物」についても、過度の試行錯誤を要することなく製造できることを理解することができる。
これらのことからみれば、本件発明13において、分子鎖中のオキシドモノマー由来の構造の割合や「駆動化合物」の分子量等が特定されておらず、本件実施例に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド以外を含むポリマーが記載されていないとしても、発明の詳細な説明には、本件発明13に係る発明について、明細書等に当業者がその方法を使用することができる程度の記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができる程度の記載があるといえ、このことを前記(1)アの判断手法に当てはめれば、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するといえる。
イ 次に、本件発明13がサポート要件に適合するか否かについて検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明13において特定された「駆動化合物」が記載されているといえることは、前記アに記載したとおりであるから、本件発明13は、発明の詳細な説明に記載された発明といえる。
また、前記(4)イに記載したのと同様の理由により、本件発明13は、少なくとも「駆動化合物」を容易に再生できることにより、本件課題を解決できるものといえる。
これらのことからみれば、本件発明13において、分子鎖中のオキシドモノマー由来の構造の割合や「駆動化合物」の分子量等が特定されておらず、本件実施例に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド以外を含むポリマーが記載されていないとしても、本件発明13は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の課題を解決できる範囲のものといえるのであり、このことを前記(1)イの判断手法に当てはめれば、本件発明13はサポート要件に適合するといえる。
ウ したがって、本件発明13について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するといえるし、本件特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するといえるので、前記第4の2(3)の特許異議の申立て理由も理由がない。
(6) 第5の取消理由及び第4の2(4)の特許異議申立理由について
前記第5の取消理由及び前記第4の2(4)の特許異議の申立て理由は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項12及び13の発明特定事項が整合しないことをいう点で同じものであるから、まとめて検討すると、本件発明13は、「前記駆動化合物が3つ以上の分枝を有し、各分枝が、スチレンオキシド、エピフルオロヒドリン、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、オキセタン、ジオキシラン、トリオキサン、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びアリルグリシジルエーテルからなる群から選択される1つ以上のエポキシドモノマーからなる」、との発明特定事項を有するから、本件発明12における分子鎖には含まれない「エポキシドモノマー」を含むものではなく、本件発明12と本件発明13の発明特定事項は整合しているので、前記第5の取消理由及び前記第4の2(4)の特許異議の申立て理由も理由がない。
(7) 第4の2(5)の特許異議申立理由について
前記(4)イに記載したのと同様の理由により、本件発明1における「温度感受性」及び「温度依存性親和性」は、駆動化合物及び溶媒を含む溶液が加熱または冷却された結果として相分離または沈殿が生じ、溶質リッチ相及び溶媒リッチ相を形成する性質をいうことを理解することができるから、本件発明1において、「温度感受性」とは、具体的に温度に対して何が変化するのかが特定されておらず、溶媒の種類が特定されていないとしても、本件発明1の発明特定事項が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできないのであり、このことを前記(1)ウの判断手法に当てはめれば、本件発明1は明確性要件に適合するといえる。
更に、本件発明2~15について検討しても事情は同じであるから、本件発明1~15は明確性要件に適合するといえるので、前記第4の2(5)の特許異議の申立て理由も理由がない。
(8) 小括
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第4項第1号、同法同条第6項第1号及び第2号所定の規定に適合するから、前記第5の取消理由及び第4の2の特許異議の申立て理由はいずれも理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由及び申立人の特許異議申立書に記載した特許異議の申立て理由によっては、本件発明1~15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700542