特許異議申立
2023-700539
化粧シート及び化粧材
- 審判番号
- 2023-700539
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-038561
- 登録番号
- 7178006
- 請求日
- 2023年05月25日
- 審決日
- 2023年09月13日
- 公報発行日
- 2023年10月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】堀田 幸裕
- 【権利者代理人】高田 泰彦
- 【権利者代理人】柏 延之
- 【権利者代理人】石川 大策
- 【権利者代理人】中村 行孝
- 【異議申立人】飯田 進
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 西本 浩司
- 審判官 久保 克彦
- 分類
- P1651.537-Y (B32B) / P1651.538-Y (B32B) / P1651.121-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7178006号発明「化粧シート及び化粧材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7178006号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7178006号の請求項1~8に係る特許についての出願は、令和4年3月11日の出願であって、令和4年11月16日にその特許権の設定登録がされ、令和4年11月25日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1~8に係る特許に対し、令和5年5月25日に特許異議申立人飯田進(以下「申立人」という。)により、本件特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~8に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、まとめて「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
保護層を備えた化粧シートであって、
前記保護層は、前記化粧シートの表面を構成する凹凸面を有し、
前記凹凸面は、シワ構造を有し、
前記凹凸面における、JIS B0601:2013に規定される最大高さRzは、2.5μm以上であり、
前記保護層のマルテンス硬さHMは、180N/mm2以下であり、
前記凹凸面における、JIS B0601:2013に規定される最大高さRzは、12.5μm以下である、化粧シート。
【請求項2】
前記保護層のマルテンス硬さHMは、20N/mm2以上である、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記凹凸面における、JIS A1454:2016に規定される滑り抵抗係数C.S.Rは、0.3以上である、請求項1または2に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記凹凸面における、JIS A1454:2016に規定される滑り抵抗係数C.S.Rは、0.55以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記保護層は、樹脂層と複数の粒子とを含む、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の化粧シート。
【請求項6】
意匠層をさらに備える、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の化粧シート。
【請求項7】
床用化粧シートである、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の化粧シート。
【請求項8】
被着体と、前記被着体上に設けられた請求項1乃至7のいずれか一項に記載の化粧シートと、を有する化粧材。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、以下の甲第1号証~甲第9号証(以下「甲1」等という。)を提出し、以下の理由1~4を申立てている。なお、本件特許の願書に添付した明細書を、「本件明細書」という。
1 申立理由1(進歩性)
本件発明1~8は、以下の甲1に記載された発明及び甲2~5に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明1~8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
2 申立理由2(サポート要件違反)
本件明細書には、(1)本件発明1に規定された「最大高さRz」及び「マルテンス硬さ」の2つの特殊なパラメータに関し、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、3つの値が例示されているにすぎず、当業者といえども化粧シートの構造との関係をただちに理解することができないことから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されておらず、また、本件発明が解決しようとする課題(段落【0007】)を解決するための手段が反映されているとはいえない(特許異議申立書(以下、単に「申立書」という)、(2)床材の硬さに関して、本件特許明細書の発明の詳細な説明で説明されているJIS Z 2255(なお、発明の詳細な説明には「JIS Z 2555」(段落【0047】、【0097】)と記載されているが、JIS Z 2255の誤記であると当審は認めた。以下“2255”と記載する。なお、下線は当審で参考のために付した。以下同じ。)は、「マルテンス硬さ」とは異なる「超微小負荷硬さ試験方法」(甲9)について定めたものであり、その定義や試験に用いる圧子は、「マルテンス硬さ」について定義されたISO 14577-1(甲8)における圧子の形状が異なり、また、硬さ算出のための計算式も異なっていることから、本件発明1、2に記載された数値範囲については、発明の詳細な説明に記載したものではない。
したがって、本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1~8の記載は、これら請求項に係る発明が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明1~8に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件違反)
本件明細書には、「マルテンス硬さ」については、「2 申立理由2(サポート要件)(2)」で述べたとおり、JIS Z 2255ではなくISO 14577-1(甲8)で定義されているところ、これに準拠した測定条件について一切記載されていない(申立書第18~20頁)ことから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1~8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明1~8に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
4 申立理由4(明確性違反)
「3 申立理由3(実施可能要件)」で述べたとおり、本件明細書の発明の詳細な説明では、「マルテンス硬さ」とは異なる「超微小負荷硬さ試験方法」により測定された硬さの値を「マルテンス硬さと称して特許請求の範囲の請求項1、2において数値範囲により特定しているから、そのような数値範囲により特定された構成は、およそ明確ではないというべきである。
よって、本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1の記載、また当該請求項を直接的又は間接的に引用する請求項2~8は明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであるから、本件発明1~8に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
5 証拠方法
甲第1号証:韓国公開特許第10-2020-0025050号公報
甲第2号証:「JIS B0601:2013 (ISO 4287:1997,Amd.1:2009) 製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ」、一般財団法人 日本規格協会、平成25年3月21日 第1刷発行、p.1,8,10,23
甲第3号証:特開2012-213923号公報
甲第4号証:特開2017-43106号公報
甲第5号証:「東京都福祉のまちづくり条例 施設整備マニュアル」、東京都、平成31年(2019年)3月改訂版、p.186
甲第8号証:「ISO 14577-1 英和対訳版:Metallic materials - Instrumented indentation test for hardness and materials parameters - Part1: Test method 金属材料-計装化押込み硬さ試験及び材料パラメーター 第1部 : 試験方法」、国際標準化組織、一般財団法人日本規格協会による邦訳付き、平成27年7月15日 第2版
甲第9号証:「JIS Z 2255:2003 超微小負荷硬さ試験方法」、財団法人 日本規格協会、平成15年3月20日 第1刷発行、p.1~3
(以下、甲第1号証を「甲1」という。以下、他の甲各号証についても同様とする。)
第4 各甲号証
1 甲1に記載された発明(なお、日本語訳は甲1添付の翻訳文による。)
甲1の[0001]の記載から、甲1の発明が解決しようとする課題は、「ノンスリップ性に優れた床材およびその製造方法」の提供であるといえる。
また、甲1の[0060]及び[0073]の記載から、床材は基材層及び硬化層を備えており、基材層上に塗布されたアクリル樹脂組成物に光を照射し、照射された光によって発生したエキシマ(excimer)が塗布されたアクリル樹脂組成物及び/またはこれの硬化物表面を収縮させることによって、「しわ」が形成されている。
甲1に記載されている事項(特に、[0001]、[0011]~[0012]、[0032]、[0047]~[0048]、[0052]、[0060]、[0073]、[0133]、[請求項1][請求項11])の記載を総合すれば、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「発泡層、基材層、アクリル樹脂組成物の硬化層を備えた床材であって、
前記硬化層は、前記床材の表面を構成する凹凸を有し、前記凹凸は、しわを有し、
前記凹凸における、ISO 4287:1997に規定される表面粗さRzの平均値が8~14μmである、床材。」(以下、「甲1発明」という。)
2 甲2に記載された事項
甲2の第1、8、10及び23頁には、それぞれ以下の事項(以下「甲2記載事項」という。)が記載されている。
「
[図:0001402801000001.jpg]
」
「
[図:0001402801000002.jpg]
」
「
[図:0001402801000003.jpg]
」
「
[図:0001402801000004.jpg]
」
3 甲3に記載された事項
甲3の段落【0042】、【0103】の記載事項を総合すると、甲3には以下の事項(以下「甲3記載事項」という。)が記載されている。
「表面保護層のマルテンス硬さが60~150N/mm2である床用化粧材。」
4 甲4に記載された事項
甲4の段落【0042】、【0103】の記載事項を総合すると、甲4には以下の事項(以下「甲4記載事項」という。)が記載されている。
「表面保護層のマルテンス硬さを60~150N/mm2とである床用化粧材。」
5 甲5に記載された事項
甲5の186頁「【基本的考え方】」、「■必要な設備において」、「■表-1」、「■表-2」の記載事項を総合すると、甲5には以下の事項(以下「甲5記載事項」という。)が記載されている。
「JIS A1454に規定される滑り抵抗係数C.S.Rの下限値を0.3以上とすること。」
第5 当審の判断
以下、まず、記載要件についての申立理由である明確性、サポート要件、実施可能要件から検討し、その後、進歩性を検討する。
1 申立理由4(明確性)について
本件特許の請求項1、2で特定された「マルテンス硬さHM」に関する数値範囲は、発明の詳細な説明の段落【0097】「保護層30のマルテンス硬さHMは、硬度計(エフアイテック(株)製、FISCHERSCOPE H100VS)を用いて、JIS Z 2255に準拠して測定した。」(当審注:エフアイテック(株)のウエブサイト<https://www.fitech.jp/>から、本件特許明細書の「FSISCHERSCOPE」は「FISCHERSCOPE」の誤記と認める。)という記載を参酌すれば、当業者は本件特許の請求項1、2で特定された「マルテンス硬さ」が「JIS Z 2255」に準拠して測定されるものであることが分かる。
ここで、本件特許明細書には硬度計に係る測定機器が例示されており、また、JIS規格に準拠した範囲内であれば、実際に用いる測定機器に応じて測定条件及び細部設定を適宜調整して測定することが技術常識であるといえることから、当業者はそれにより測定された硬さに係る値を「マルテンス硬さ」として理解できる。
よって、本件特許の請求項1、2に係る発明、及び請求項1、2を直接的又は間接的に引用する請求項3~8は明確である。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)
ア 本件発明の課題
本件明細書の段落【0005】~【0007】から、本件発明が解決しようとする課題は「摩擦が小さく感じられるような触感に優れ、且つ防滑性が確保された化粧シート及び化粧材を提供すること」と認める。
イ 課題を解決するための手段
本件明細書には、「最大高さRz」について、以下の記載がある。
「【0040】
凹凸面32における、JIS B0601:2013に規定される最大高さRzは、2.5μm以上である。凹凸面32における最大高さRzは、凹凸面32における任意の20箇所の最大高さRzの値の相加平均の値とする。最大高さRzは、形状解析レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製、VK-X150(制御部)/VK-X160(測定部))を用いて測定できる。最大高さRzは、輪郭曲線の山及び高さパラメータの一つであり、基準長さにおける輪郭曲線の中で、最も高い山の高さと最も深い谷の深さとの和である。最大高さRzの数値が大きいことは、谷の底から見て大きな高さを有する山が存在することを意味する。最大高さRzの数値が大きいほど、谷の底から見て大きな高さを有する山が多く存在する傾向がある。
【0041】
最大高さRzが2.5μm以上であることによって、凹凸面32における最大高さRzが確保される。これにより、凹凸面32が艶消効果を適切に発揮できる。最大高さRzは、好ましくは3.25μm以上、より好ましくは3.5μm以上、更に好ましくは4μm以上である。なお、本明細書における最大高さRzの測定におけるカットオフ値は0.8mmである。
【0042】
本開示の実施形態においては、化粧シート10の表面10aがシワ構造を有する凹凸面32によって構成されている。凹凸面32における最大高さRzは2.5μm以上である。これによって、使用者が化粧シート10の表面10aに接触するときに、使用者が表面10aに接触する面積が小さくなる。一例として、使用者は、シワ構造の凹部の底には接触できない。そして、表面10aの使用者が接触する部分は、シワ構造の凸部の頂点の付近に限定される。これによって、化粧シート10の表面10aが平坦な面によって構成されている場合と比較して、使用者が表面10aに接触する面積が小さくなる。使用者が表面10aに接触する面積が小さくなることで、使用者が表面10aとの間に感じる摩擦を小さくできる。
【0043】
また、本開示の実施形態において、凹凸面32における最大高さRzは、例えば12.5μm以下である。凹凸面32における最大高さRzが12.5μm以下であることによって、最大高さRzが12.5μmより大きい凹凸面32よりも、凹凸面32のシワ構造に含まれる凸部の高さが小さくなる。また、シワ構造に含まれる凸部の高さが小さくなることによって、シワ構造に含まれる複数の凸部同士の高さの差が、小さくなる。このため、凹凸面32のシワ構造に含まれる複数の凸部は、より高さが小さく且つ均一なものになる。これによって、化粧シート10の表面10aに接触する使用者が、シワ構造の複数の凸部に接触するときにざらつきを感じることを抑制できる。使用者がざらつきを感じることを抑制する観点からは、最大高さRzは、11.5μm以下であることがより好ましく、10.5μm以下であることがさらに好ましい。
【0044】
本開示の実施形態においては、化粧シート10の表面10aがシワ構造を有する凹凸面32によって構成され、凹凸面32における最大高さRzが2.5μm以上であることによって、使用者が化粧シート10の表面10aに接触する面積を小さくできる。また、凹凸面32における最大高さRzが12.5μm以下であることによって、使用者がシワ構造の複数の凸部に接触するときに感じるざらつきを低減できる。このために、化粧シート10の表面10aに接触する使用者に、摩擦が小さくさらさらとした触感を与え得る。「さらさら」した触感は官能的な表現であるが、本明細書における「さらさら」は一般的に「さらさら」と感じる触感であるもの全てが包含される。具体的には、指の腹で湿り気のない滑らかな面を触れた際に感じる触感を意味する。」
また、本件明細書には「マルテンス硬さHM」について、以下の記載がある。
「【0047】
本開示の実施形態において、保護層30のマルテンス硬さHMは、180N/mm2以下である。本開示の実施形態において、保護層30のマルテンス硬さHMは、JIS Z 2255に準拠して、硬度計(エフアイテック(株)製、FSISCHERSCOPE H100VS)を用いて測定される。本開示の実施形態において、保護層30のマルテンス硬さHMは、保護層30の凹凸面32に圧子を押し込んで測定される。
【0048】
保護層30のマルテンス硬さHMが180N/mm2以下であることの効果について、図3及び図4を参照して説明する。図3は、化粧シート10の保護層30を示す断面図である。図4は、使用者が図3に示す保護層30を備える化粧シート10上に立っているときの保護層30を、使用者の足Fとともに示す断面図である。図4における使用者の足Fと、凹凸面32の凸部32a及び凹部32bとの寸法比は、図示と理解のしやすさの便宜上、実物の寸法比から変更されている。図3及び図4においては、保護層30に含まれる樹脂層36及び複数の粒子38については図示を省略して、保護層30の外形を図示している。図3及び図4において、保護層30の凹凸面32は、複数の凸部32aと複数の凹部32bとを有するシワ構造を有している。
【0049】
図4に示すように使用者が化粧シート10上に立つ場合、又は使用者が化粧シート10上を歩く場合には、保護層30に、使用者が手などで化粧シート10の表面10aに接触する場合よりも大きな荷重がかかる。図4においては、使用者が化粧シート10上に立っていることによって、使用者の足Fが保護層30の凹凸面32に接触し、荷重として使用者の体重が保護層30にかかっている。このような場合に、保護層30のマルテンス硬さHMが180N/mm2以下であることによって、保護層30は、使用者の足Fに踏まれる部分において、凸部32aが潰れるように変形する。凸部32aが潰れることによって、使用者の足Fが化粧シート10の表面10aを構成する凹凸面32に接触する面積が大きくなり、使用者の足Fと表面10aとの間の摩擦が大きくなる。これによって、化粧シート10の防滑性が確保されて、化粧シート10上に立ち、化粧シート10上を歩く使用者が足Fを滑らせることを抑制できる。」
「【0051】
一方で、使用者が手などで化粧シート10の表面10aに接触する場合には、保護層30には大きな荷重がかからないため、凸部32aが潰れるような保護層30の変形は抑制され得る。このため、凸部32aと凹部32bとを有するシワ構造によって使用者が表面10aに接触する面積を小さくして、使用者に摩擦が小さく感じられるような触感、特にさらさらとした触感を与え得る。
【0052】
一例として、保護層30のマルテンス硬さHMは20N/mm2以上である。保護層30のマルテンス硬さHMが20N/mm2以上であることによって、使用者が手などで化粧シート10の表面10aに接触する場合に、凸部32aが潰れるような保護層30の変形を、安定的に抑制できる。これによって、使用者が表面10aに接触する面積を小さくするシワ構造の効果を安定的に生じさせ得る。上述した効果をより安定的に生じさせる観点からは、保護層30のマルテンス硬さHMは、30N/mm2以上であることが、より好ましい。」
更に、本件明細書には「最大高さRz」及び「マルテンス硬さHM」について、以下の記載がある。
「【0087】
本開示の実施形態の化粧シート10は、保護層30を備え、保護層30は、化粧シート10の表面10aを構成する凹凸面32を有し、凹凸面32は、シワ構造を有し、凹凸面32における、JIS B0601:2013に規定される最大高さRzは、2.5μm以上であり、保護層30のマルテンス硬さHMは、180N/mm2以下である。
【0088】
このような化粧シート10によれば、凹凸面32がシワ構造を有し、凹凸面32における最大高さRzが2.5μm以上であることによって、使用者が化粧シート10の表面10aを構成する凹凸面32との間に感じる摩擦を小さくできる。これにより、化粧シート10の表面10aに接触する使用者に、摩擦が小さく感じられるような触感、特にさらさらとした触感を与え得る。また、保護層30のマルテンス硬さHMが180N/mm2以下であることによって、使用者が化粧シート10上に立ち、化粧シート10上を歩く場合には、保護層30が、使用者の足に踏まれる部分において、凸部32aが潰れるように変形する。凸部32aが潰れることによって、使用者の足が凹凸面32に接触する面積が大きくなり、使用者の足と化粧シート10の表面10aを構成する凹凸面32との間の摩擦が大きくなる。これによって、化粧シート10の防滑性が確保されて、化粧シート10上に立ち、化粧シート10上を歩く使用者が足を滑らせることを抑制できる。また、化粧シート10上に物品を配置する場合にも、物品の重量によって保護層30が変形し得る。この場合には、物品と凹凸面32との間の摩擦を大きくして防滑性を確保し得る。」
加えて、本件明細書の段落【0089】~【0099】、【表1】には、実験の一例が記載されており、「最大高さRz」及び「マルテンス硬さHM」についてのサンプルの値が例示されている。
「【0099】【表1】
[図:0001402801000005.jpg]
」
ウ 当審の判断
上記「ア 本件発明の課題」で認定した課題を解決するための手段について、まず、「摩擦が小さく感じられるような触感に優れ」た「化粧シート及び化粧材」を提供する手段については、上記イに摘記した本件明細書の段落【0051】に「凸部32aと凹部32bとを有するシワ構造によって使用者が表面10aに接触する面積を小さくして、使用者に摩擦が小さく感じられるような触感、特にさらさらとした触感を与え得る。」と記載されており、また、「防滑性が確保された」「化粧シート及び化粧材」を提供する手段については、段落【0088】に「保護層30のマルテンス硬さHMが180N/mm2以下であることによって、使用者が化粧シート10上に立ち、化粧シート10上を歩く場合には、保護層30が、使用者の足に踏まれる部分において、凸部32aが潰れるように変形する。凸部32aが潰れることによって、使用者の足が凹凸面32に接触する面積が大きくなり、使用者の足と化粧シート10の表面10aを構成する凹凸面32との間の摩擦が大きくなる。これによって、化粧シート10の防滑性が確保されて、化粧シート10上に立ち、化粧シート10上を歩く使用者が足を滑らせることを抑制できる。更に、化粧シート10上に物品を配置する場合にも、物品の重量によって保護層30が変形し得る。この場合には、物品と凹凸面32との間の摩擦を大きくして防滑性を確保し得る。」と記載されている。
加えて、本件明細書の段落【0089】~【0099】、【表1】には、「最大高さRz」及び「マルテンス硬さHM」に係る上記数値範囲内であるものは、上記本件明細書の【表1】におけるサンプル番号1の検証結果によれば、サンプル番号1、2に比して、さらさらとした触感が良好であるといえるから、当業者であれば、「最大高さRz」及び「マルテンス硬さHM」を上記本件発明1に特定された数値範囲とすることにより本件発明の課題を解決できると認識するものである。
本件発明1にはこれらの事項が特定されていることから、本件発明1は発明の詳細な説明において本件発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものといえる。
(2)申立人の主張
申立人は、ア)本件発明1に規定された「最大高さRz」及び「マルテンス硬さHM」の2つの特殊なパラメータに関し、本件特許明細書の発明の詳細な説明ではいずれの3つの値が例示されているにすぎず、当業者といえども化粧シートの構造との関係をただちに理解することができないことから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されておらず、また、本件発明が解決しようとする課題(段落【0007】)を解決するための手段が反映されているとはいえない(特許異議申立書(以下、単に「申立書」という)第16~18頁)、イ)床材の硬さに関して、本件特許明細書の発明の詳細な説明で説明されているJIS Z 2255は、「マルテンス硬さHM」とは異なる「超微小負荷硬さ試験方法」(甲9)について定めたものであり、その定義や試験に用いる圧子は、「マルテンス硬さHM」について定義されたISO 14577-1(甲8)における圧子と形状が異なり、また、硬さ算出のための計算式も異なっていることから、本件発明1、2に記載された数値範囲については、発明の詳細な説明に記載したものではない旨、主張している。
しかしながら、まず、ア)について検討すると、「最大高さRz」及び「マルテンス硬さHM」に係る数値範囲については、上記(1)イのとおり、本件特許明細書において説明がなされており、また、上記数値範囲内にすることで本件発明の課題が解決できることは、上記(1)ウで述べたとおりである。
次に、イ)についてみても、上記(1)で述べたように「マルテンス硬さHM」については、「JIS Z 2255」に準拠して測定したものであることが、本件特許明細書の発明の詳細な説明における段落【0097】に明確に記載されており、上記技術常識から当業者は「マルテンス硬さ」を測定できるといえる。なお、甲9に示されているように「JIS Z 2255」が「超極小負荷硬さ試験方法」について定めたものであったとしても、本件発明1~8の「マルテンス硬さHM」は「ISO 14577-1」に基づくものではなく「JIS Z 2255」に準拠していることは、本件特許明細書の記載から明らかである。
(3)まとめ
よって、本件発明1~8は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであり、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえることから、申立人の主張は採用できない。
3 申立理由3(実施可能要件)について
上記申立理由4に記載したとおり、本件請求項1、2で特定されている「マルテンス硬さHM」は、本件明細書の段落【0097】に、「保護層30のマルテンス硬さHMは、硬度計(エフアイテック(株)製、FISCHERSCOPE H100VS)を用いて、JIS Z 2255に準拠して測定した。」と記載されており、また、その測定手段が示されている。
そうしてみると、上記明確性の検討で述べた技術常識を考慮すれば、本件請求項1、2の「マルテンス硬さは、HM180N/mm2以下」、「マルテンス硬さHMは、20N/mm2以上」の測定をどのように行うのかは当業者にとって明らかであることから、この測定を実施するにあたり当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を要するものではない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~8に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
4 申立理由1(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比すると、甲1発明の「硬化層」、「床材」及び「凹凸」は、本件発明1の「保護層」、「化粧シート」及び「凹凸面」に相当する。
また、甲1発明の「しわ」は、アクリル樹脂組成物に光を照射し、収縮させて形成されたものであり(甲1[0073])、本件発明1の「シワ構造」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、かつ、相違点1及び2で相違する。
<一致点>
「保護層を備えた化粧シートであって、
前記保護層は、前記化粧シートの表面を構成する凹凸面を有し、前記凹凸面は、シワ構造を有する、化粧シート。」
<相違点1>
本件発明1は、「凹凸面における、JIS B0601:2013に規定される最大高さRzは、2.5μm以上であり」「12.5μm以下である」のに対して、甲1発明は、ISO 4287:1997に規定される表面粗さRzの平均値が8~14μmである点。
<相違点2>
「保護層」について、本件発明1は、「マルテンス硬さHMは、180N/mm2以下であ」るのに対して、甲1発明の硬化層のマルテンス硬さHMが不明な点。
イ 判断
<相違点1>について検討する。
甲1の[0032]には「本発明において、"表面粗(surface profile)"は表面に存在する微細な凹凸の度合いを示すものであり、"Rz"で表現されることができる。ここで、"Rz"は表面の断面曲線から基準長さLをとって屈曲構造の高い方から5番目までの山と深さが深い側から5番目までの谷との間の間隔を測定し、その偏差を示したもので、"10点平均粗さ(ten point average roughness)"ともいう。」と記載されている。
ここで、甲1発明に用いられている「ISO 4287:1997」については、甲2の第23頁「附属書JA(参考)十点平均粗さ」において、「十点平均粗さは,対応国際規格(ISO 4287:1997)から削除された粗さパラメータであるが,我が国においては広く普及しているパラメータであるため,附属書に参考として記載する。」との記載、また、甲2の第8頁「4.1.3 輪郭曲線の最大粗さ」の説明において「注記」として「我が国を含む幾つかの国では,JISB 0601:1994のRzを測定する表面粗さ測定器が使用されている。JIS B 0601:2013とJIS B 0601:1994による測定値の差が,無視できるほど小さいとは限らないので,既に発行されている文書情報及び埋図面を用いる場合には,注意しなければならない(附属書JA(参照))」との記載があり、上記「第4」、「2」で述べた甲2記載事項を参酌したとしても、本件発明1の「JIS B0601:2013に規定される最大高さRz」と甲1発明の「ISO 4287:1997に規定される表面粗さRz」とは、それぞれRzの定義及び測定値が異なるものである。
したがって、甲1発明が、相違点1に係る本件発明1の構成を備えているとはいえず、甲1には、相違点1に係る本件発明1の構成について記載も示唆もされていない。
また、甲2~甲5にも、相違点1に係る本件発明1の構成について記載も示唆もされていない。
申立人は、「本件発明1でRzを規定する」JIS B0601:2013は、2013年に制定されたものであるが、これは、1997年に制定されたISO4287:1997に対応する日本工業規格であり、甲 1発明の「ISO4287に規定される表面粗さRz」は、本件発明1の「JIS B0601:2013に規定される最大高さRz」に相当する。このことは、JIS B0601である甲第2号証の「序文 この規格は,1997年に第1版として発行されたISO 4287,・・・を基に,技術的内容を変更することなく作成した日本工業規格である。」 (第1頁)との記載からも明らかである。」(申立書11頁)なる旨を主張しているが、上記で述べたとおり、本件発明1の「JIS B0601:2013に規定される最大高さRz」と甲1発明の「ISO 4287:1997に規定される表面粗さRz」とは、そのパラメータの定義が異なり、両測定値の差が無視できるほど小さいとは限らないものであるから(甲2第8頁)、上記主張は採用できるものではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~5記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件発明2~8について
本件発明2~8は、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)で検討したのと同じ理由により、本件発明2~8は、甲1発明及び甲2~5記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700539