特許異議申立
2023-700399
浴槽
- 審判番号
- 2023-700399
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-162349外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7158213
- 請求日
- 2023年04月19日
- 審決日
- 2023年10月30日
- 公報発行日
- 2024年02月22日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社LIXIL
- 【権利者代理人】弁理士法人グランダム特許事務所
- 【異議申立人】茂木 早苗
- 分類
- P1651.113-YAA(A47K) / P1651.121-YAA(A47K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7158213号発明「浴槽」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7158213号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。。
特許第7158213号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7158213号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成30年8月31日に出願され、令和4年10月13日にその特許権の設定登録がされ、同月21日に特許掲載公報がされたものであり、その後の特許異議の申立ての経緯は次のとおりである。
令和5年 4月19日 :特許異議申立人茂木 早苗(以下「申立人」と
いう。)による特許異議の申立て
同年 6月16日付け:取消理由通知
同年 8月 8日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
同年 9月13日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
特許権者により令和5年8月8日に提出された訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の内容(以下「本件訂正」という。)は以下のとおりである。(下線は、訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面の幅は、前記背もたれ部側から前記浴槽中央に向かって徐々に広くなっている、浴槽。」と記載されているのを「前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面は、幅が前記背もたれ部側から前記浴槽中央に向かって徐々に広くなっており、幅方向の全体において、前記背もたれ部側から前記浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる、浴槽。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正の目的
訂正事項1に係る訂正は、「前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面」に関し、訂正前の請求項1において幅について「前記背もたれ部側から前記浴槽中央に向かって徐々に広くなっている」ことを規定していたところ、幅に加え、高さについて「幅方向の全体において、前記背もたれ部側から前記浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる」との発明特定事項を付加して限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(2)新規事項の追加
ア 特許第7158213号の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、特許請求の範囲及び図面とあわせて「本件明細書等」という。)の段落【0020】に「奥の側部81の内壁部には段部が設けられ、該段部からなるアームレスト84が形成されている・・・。アームレスト84は、一方の背もたれ部、たとえば左背もたれ部80側から中央部84cに向かって・・・徐々に変化しながら高くなり、中央部84cで最も高く、そこから右背もたれ部82に向かって徐々に低くなるように形成されている。」と記載され、段落【0024】に「本実施形態アームレスト84は、その上面が、浴槽1の内側に向けて僅かに傾斜する形状とされており」と記載されている。
イ また、図面に関し、段落【0014】に「・・・【図4】浴槽の平面図である。・・・【図6】図4のVI-VI線における浴槽の断面図である。」と記載され、【図4】及び【図6】には以下の図面が示されている。
【図4】
[図:0001406705000001.jpg]
【図6】
[図:0001406705000002.jpg]
ウ 上記アの記載を踏まえると、上記イの図6からは、84との図番号が矢印にて付された曲線のうち下側の実曲線は、段部からなる、浴槽1の内側に向けて僅かに傾斜する形状とされたアームレストの上面のうち浴槽の最も内側かつ下方の部分であることが理解できる。また、アームレストの上面は「浴槽1の内側に向けて僅かに傾斜する形状とされ」た(上記ア段落【0024】)ものであることから、図6の84との図番号が矢印にて付された曲線のうち上側の薄い線は、アームレストの上面の見え掛かりであって、幅方向の全体において、アームレスト84は、左背もたれ部80側から中央部84cに向かって徐々に高くなり、中央部84cで最も高く、そこから右背もたれ部82に向かって徐々に低くなるように形成されていることが理解できる。
エ したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
(3)特許請求の範囲の拡張・変更
訂正事項1に係る訂正は、上記(1)において検討したとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、請求項1に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
2 一群の請求項について
訂正前の請求項2ないし4は、請求項1を引用しており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
そうすると、訂正前の請求項1ないし4に対応する訂正後の請求項1ないし4は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項であって、訂正事項1に係る訂正は、一群の請求項〔1-4〕についてするものである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で示したとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、訂正後の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ、請求項番号により「本件発明1」等といい、これらを併せて「本件発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
【請求項1】
背もたれ部側から浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から他方の背もたれ部に向かって低くなる形状のアームレストを備え、
前記アームレストは、前記浴槽の長手方向中央を中心にして対称の形状であり、且つ前記背もたれ部側から前記浴槽中央に向かって幅広になる形状であり、
前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面は、幅が前記背もたれ部側から前記浴槽中央に向かって徐々に広くなっており、幅方向の全体において、前記背もたれ部側から前記浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる、浴槽。
【請求項2】
前記アームレストは、前記浴槽の対向する内壁の両方に設けられている、請求項1に記載の浴槽。
【請求項3】
前記アームレストは、その上面の少なくとも一部が当該浴槽の内壁から浴槽内側に向けて下方に傾斜した形状である、請求項1から請求項2までのいずれか一項に記載の浴槽。
【請求項4】
前記アームレストは、緩やかに湾曲し、前記浴槽の長手方向幅に沿って山なりの上面を有する形状である、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の浴槽。
第4 特許異議申立理由及び取消理由通知で通知した取消理由について
1 特許異議申立理由について
(1)特許異議申立理由の概要
申立人は、本件訂正前の請求項1ないし4に係る発明に対して、下記(2)の証拠を提出し、概略以下の特許異議申立理由を申し立てている。
ア 甲第1号証を主引用例として
(ア)請求項1、3、4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。
(イ)請求項2に係る発明は、甲第1号証および甲第2~5号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 甲第2号証を主引用例として
(ア)請求項1~4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明である。
(イ)請求項1、4に係る発明は、甲第2号証および甲第3号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ウ)請求項2に係る発明は、甲第2号証および甲第3~5号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(エ)請求項3に係る発明は、甲第2号証および甲第3、5号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1ないし4に係る特許は、特許法29条1項3号または2項に違反してされたものであり、同法113条2号の規定により取り消されるべきである。
(2)申立人が申立書に添付して提出した証拠は、甲第1号証ないし甲第5号証(以下、各証拠を「甲1」等ということがある。)であり、以下のとおりである。
甲1 意匠登録第1259749号
甲2 意匠登録第1167215号
甲3 特開2010-75423号公報
甲4 特開平9-271452号公報
甲5 特開平5-171669号公報
2 取消理由通知で通知した取消理由について
(1)取消理由の概要
本件訂正前の請求項1ないし4に係る発明に対して、当審において令和5年6月16日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
請求項1ないし4に係る発明は、甲2に記載された発明であるか、甲2に記載された発明に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4に係る特許は、特許法29条1項3号ないし同条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号の規定により取り消されるべきものである。
(2)証拠
取消理由で引用した証拠は以下のとおり。
甲2 意匠登録第1167215号
第5 証拠の記載
1 甲1
(1)甲1の記載
甲1には、以下の事項が記載されている。
ア 「(54)【意匠に係る物品】浴槽」
イ 【正面図】
「
[図:0001406705000003.jpg]
」
ウ 【平面図】
「
[図:0001406705000004.jpg]
」
エ 【右側面図】
「
[図:0001406705000005.jpg]
」
オ 【A-A断面図】
「
[図:0001406705000006.jpg]
」
カ 【参考斜視図】
「
[図:0001406705000007.jpg]
」
2 甲2
(1)甲2の記載
甲2には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付した。)
ア 「(54)【意匠に係る物品】浴槽
・・・
(55)【意匠の説明】背面図は正面図と対称につき省略。右側面図は左側面と同一につき省略。」
イ 【A-A断面図】
「
[図:0001406705000008.jpg]
」
ウ 【B-B断面図】
「
[図:0001406705000009.jpg]
」
エ 【平面図】
「
[図:0001406705000010.jpg]
」
オ 【正面図】
「
[図:0001406705000011.jpg]
」
カ 上記アの記載を踏まえると、上記エの平面図から、浴槽は、平面から見て長方形状を有していることが看取される。
キ 上記アの記載を踏まえて、上記イないしエの図面を総合すると、以下の事項が看取される。
浴槽は、槽状部と、その周りに位置する、平面から見て長方形状の外周部を備え、
槽状部は、上記イのA-A断面図に示される浴槽の長手方向に延びる一の壁部と、それに対向する浴槽の長手方向に延びる他の壁部と、上記ウのB-B断面図に示される浴槽の幅方向に延びる一の壁部と、それに対向する浴槽の幅方向に延びる他の壁部を備える周壁部を有し、周壁部は、浴槽の長手方向の中心を通る幅方向の中心線に対し左右対称であること。
ク 上記ウのB-B断面図において、浴槽の長手方向に延びる一の壁部と、それに対向する浴槽の長手方向に延びる他の壁部の断面が示されていることに鑑みると、浴槽の長手方向に延びる一の壁部及び他の壁部は、高さ方向の略中央に段部を有することが看取される。
ケ 上記クを踏まえ、上記ウのB-B断面図と上記エの平面図をあわせてみると、平面図の中央の楕円様に描かれた部分と直線とに囲まれた部分が段部であり、
段部は、浴槽の幅方向に延びる一の壁部の側から浴槽中央に向かって幅広になる形状であり、
段部の上面の幅は、浴槽の幅方向に延びる壁部の側から浴槽中央に向かって徐々に広くなっていることが看取される。
コ 上記キを踏まえると、上記イのA-A断面図からは、浴槽の長手方向に延びる壁部の高さ方向の略中央に、浴槽の長手方向に沿って2本の線が描かれていることが看取される。
上記ク、ケを踏まえ、上記ウのB-B断面図、上記エの平面図と上記イのA-A断面図とあわせてみると、上記イのA-A断面図の、浴槽の長手方向に延びる壁部の高さ方向の略中央に、浴槽の長手方向に沿って描かれた2本の線は浴槽の長手方向に延びる一の壁部の段部であり、そのうち下の線は、平面図において直線として描かれた段部の最も内側の部分であり、上の線は、平面図の中央の楕円様に描かれた部分であり、段部は、浴槽の幅方向に延びる一の壁部の側から浴槽中央に向かって高くなり、浴槽中央から浴槽の幅方向に延びる他の壁部に向かって低くなる形状であることが理解できる。
また、上記アの記載、上記ウのB-B断面図及び上記エの平面図における浴槽の長手方向の中心を通る幅方向の中心線に対する対称性に鑑みると、浴槽の長手方向に延びる一の壁部及び他の壁部の段部は、いずれも、浴槽の幅方向に延びる一の壁部の側から浴槽中央に向かって高くなり、浴槽中央から浴槽の幅方向に延びる他の壁部に向かって低くなる形状であることが理解できる。
サ さらに、上記イのA-A断面図の、浴槽の長手方向に延びる壁部の高さ方向の略中央に、浴槽の長手方向に沿って2本の線が看取できることを踏まえて上記ウのB-B断面図をみると、段部の上面は、浴槽の長手方向に延びる壁部の長手方向の中央部において、壁部から浴槽内側に向けて下方に傾斜した形状であり、段部の上面の最も内側の部分は浴槽の長手方向全体で略同じ高さであることが看取される。
(2)甲2発明
上記(1)より、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
(甲2発明)
平面から見て長方形状を有しており、
槽状部と、その周りに位置する、平面から見て長方形状の外周部を備える浴槽であって、
槽状部は、浴槽の長手方向に延びる一の壁部と、それに対向する浴槽の長手方向に延びる他の壁部と、浴槽の幅方向に延びる一の壁部と、それに対向する浴槽の幅方向に延びる他の壁部を備える周壁部を有し、周壁部は、浴槽の長手方向の中心を通る幅方向の中心線に対し左右対称であり、
浴槽の長手方向に延びる一の壁部及び他の壁部は、高さ方向の略中央に段部を有し、
段部は、浴槽の幅方向に延びる一の壁部の側から浴槽中央に向かって幅広になる形状であり、
段部の上面の幅は、浴槽の幅方向に延びる一の壁部の側から浴槽中央に向かって徐々に広くなっており、
段部は、浴槽の幅方向に延びる一の壁部の側から浴槽中央に向かって高くなり、浴槽中央から浴槽の幅方向に延びる他の壁部に向かって低くなる形状であり、
段部の上面は、浴槽の長手方向に延びる壁部の長手方向の中央部において、壁部から浴槽内側に向けて下方に傾斜した形状であり、段部の上面の最も内側の部分は浴槽の長手方向全体で略同じ高さである、浴槽。
3 甲3
(1)甲3の記載
甲3には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0020】
浴槽1は、図4に示すように、FRP等の合成樹脂で形成されるもので、床パンP、壁パネルW、天井パネルからなる浴室ユニットUに主に設置されるが、限定されない。浴槽1は内部が入浴空間1aとなり、その底面11には、排水穴が形成されるのであるが、本発明においては、図1、図2に示すように、浴槽1の底面11の一部分を他の部分よりも下げることで、内部に浴槽1内の入浴空間1aと連通する下げ底空間1bを有する下げ底部3に排水穴が形成されるもので、下げ底部3については後述する。」
イ 「【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態の要部断面図である。
【図2】同上の浴槽の断面図である。
【図3】同上の浴槽の平面図である。
【図4】同上の浴槽の透過した斜視図である。
・・・」
ウ 【図2】
「
[図:0001406705000012.jpg]
」
エ 【図3】
「
[図:0001406705000013.jpg]
」
オ 【図4】
「
[図:0001406705000014.jpg]
」
第6 取消理由通知において通知した取消理由についての当審の判断
1 本件発明1
(1)対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
ア 甲2発明の「浴槽」は、本件発明1の「浴槽」に相当する。
イ 甲2発明は「浴槽」であって、「浴槽の幅方向に延びる」「壁部」に背をもたせかけられることは明らかであるから、甲2発明の「浴槽の幅方向に延びる一の壁部」及び「浴槽の幅方向に延びる他の壁部」は、本件発明1の「背もたれ部」及び「他方の背もたれ部」に相当する。
ウ 甲2発明は「浴槽」であって、甲2発明の「浴槽の長手方向に延びる一の壁部及び他の壁部」の「高さ方向の略中央」の「段部」に腕や肘を置くことができることは明らかであり、当該「段部」は、本件発明1の「アームレスト」に相当する。
エ 上記ウの対比を踏まえると、甲2発明の「浴槽の幅方向に延びる一の壁部の側から浴槽中央に向かって高くなり、浴槽中央から浴槽の幅方向に延びる他壁部に向かって低くなる形状であ」る「段部」は、本件発明1の「背もたれ部側から浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から他方の背もたれ部に向かって低くなる形状のアームレスト」に相当する。
オ 甲2発明の「周壁部は、浴槽の長手方向の中心を通る幅方向の中心線に対し左右対称」であって、「段部」も「周壁部」に設けられたものであるから、上記ウの対比を踏まえると、甲2発明は、本件発明1の「前記アームレストは、前記浴槽の長手方向中央を中心にして対称の形状であり」との構成を備える。
カ 上記ウの対比を踏まえると、甲2発明の「段部は、浴槽の幅方向に延びる一の壁部の側から浴槽中央に向かって幅広になる形状であり、
段部の上面の幅は、浴槽の幅方向に延びる一の壁部の側から浴槽中央に向かって徐々に広くなって」いることは、本件発明1の「前記アームレストは、前記背もたれ部側から前記浴槽中央に向かって幅広になる形状であり、前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面は、幅が、前記背もたれ部側から前記浴槽中央に向かって徐々に広くなって」いることに相当する。
キ 上記アないしカより、本件発明1と甲2発明とは、
「背もたれ部側から浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から他方の背もたれ部に向かって低くなる形状のアームレストを備え、
前記アームレストは、前記浴槽の長手方向中央を中心にして対称の形状であり、且つ前記背もたれ部側から前記浴槽中央に向かって幅広になる形状であり、前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面の幅は、前記背もたれ部側から前記浴槽中央に向かって徐々に広くなっている、浴槽。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面について、本件発明1は、「幅方向の全体において、前記背もたれ部側から前記浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる」と特定されるのに対し、甲2発明は、段部の上面の最も内側の部分は浴槽の長手方向全体で略同じ高さであって、幅方向の全体において、前記背もたれ部側から前記浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなるものではない点。
(2)判断
ア 新規性について
上記相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2に記載された発明ではない。
イ 進歩性について
上記相違点1について検討する。
(ア)甲1には、第5の1(1)に摘記した事項が記載されており、浴槽の壁部に段部が設けられていることが図示されているとはいえるが、当該段部は、その形状及び壁部内における高さ方向の位置からみて「座面」である蓋然性が高いとはいえるものの「アームレスト」であるとはいえず、甲1に「前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面」が「幅方向の全体において、前記背もたれ部側から前記浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる」ことが記載ないし示唆されているとはいえない。
(イ)甲3には、第5の3(1)に摘記した事項が記載されており、浴槽1が設けられているとはいえるが、図2ないし図4に示された線が「アームレスト」を表すものであるかは不明であり、甲3に「前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面」が「幅方向の全体において、前記背もたれ部側から前記浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる」ことが記載ないし示唆されているとはいえない。
(ウ)摘記は省略したが、甲4、甲5にも、「前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面」が「幅方向の全体において、前記背もたれ部側から前記浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる」ことは記載も示唆もされていない。
(エ)以上検討したように、「前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面」が「幅方向の全体において、前記背もたれ部側から前記浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる」ことは、申立人が提示した甲1、甲3ないし甲5のいずれの文献にも記載も示唆もされておらず、甲2発明において、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者といえども容易になし得たことではない。
(3)申立人の主張について
ア 申立人の主張の概要
申立人は、令和5年9月13日提出の意見書(以下、単に「意見書」という。)において、概略以下の主張をする。
(ア)浴槽の正面図となっている本件明細書等の図3には、上側に凸状の湾曲するアームレスト84、85が線状で示されているだけであり、図3には、アームレスト84、85の奥行方向が明確に示されておらず、アームレストの上面がどのような形状となっているかを特定することはできない。また、浴槽の平面図となっている同図4からもアームレストの上面が、幅方向の全体において、背もたれ部側から浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から他方の背もたれ部に向かって低くなっている、ということは特定できない。
よって、明細書には、「前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面は、幅が前記背もたれ部側から前記浴槽中央に向かって徐々に広くなっており、幅方向の全体において、前記背もたれ部側から前記浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる、浴槽。」ということは、記載されていない。
また、明細書には、「幅方向の全体」がどのように高さが変化しているのかが記載されておらず、図面からも特定できないため、訂正後の請求項1に記載された発明およびこれを引用する請求項2~4は、特許法36条6項1号および特許法36条6項2号の規定を満たしていない。(意見書2頁5行~3頁最下行)
(イ)特許権者は、図3、図4を根拠として、「前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面は、幅が前記背もたれ部側から前記浴槽中央に向かって徐々に広くなっており、幅方向の全体において、前記背もたれ部側から前記浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる、浴槽。」を請求項1に追記している。
そうすると、甲第3号証の図2、図3(枠に囲まれた部分は、申立人が説明のために付与したもの)に示されたアームレストは、上面が幅方向の全体において、背もたれ部側から浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から他方の背もたれ部に向かって低くなるものであることが看取できる。
したがって、訂正後の請求項1に記載された発明は、甲第2号証と甲第3号証とに記載された発明から、当業者であれば容易に想到可能である。(意見書7頁1~11行)
[図:0001406705000015.jpg]
[図:0001406705000016.jpg]
イ 主張の検討
申立人の主張について検討する。
(ア)上記ア(ア)について
本件明細書等に記載された事項については、第2の2(2)において、新規事項の追加に関して検討しているのと同様であり、本件明細書の段落【0020】とともに同【0024】の、アームレストの上面は「浴槽1の内側に向けて僅かに傾斜する形状とされ」るとの記載を参酌して本件の図面(図6)をみると、幅方向の全体において、アームレスト84は、左背もたれ部80側から中央部84cに向かって徐々に高くなり、中央部84cで最も高く、そこから右背もたれ部82に向かって徐々に低くなるように形成されていることが理解できる。
明確性に関し、申立人は「明細書には、「幅方向の全体」がどのように高さが変化しているのかが記載されて」いない旨主張するが、上記本件明細書段落【0024】には、アームレストの上面が「浴槽1の内側に向けて僅かに傾斜する形状とされ」る旨の記載がある。また、請求項1の「前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面」が「幅方向の全体において、前記背もたれ部側から前記浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる」ことについて、その意はその記載のとおりであって明確であり、第三者に不測の不利益を与えるものとも認められない。
よって、訂正後の請求項1に記載された発明およびこれを引用する請求項2ないし4は、特許法36条6項1号および特許法36条6項2号の規定を満たしており、申立人の主張は認められない。
(イ)上記ア(イ)について
申立人は、甲3の図2及び図3に参考として「アームレスト」等の説明を付しているが、甲3の明細書等には「アームレスト」等について何ら記載がなく、図2及び図3の図面に示されているものが「アームレスト」であるとはいえず、当然、「アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面」が、「幅方向の全体において、背もたれ部側から浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる」ことが示されているということもできない。
なお、仮に、甲3に相違点に係る事項が記載されていると認められたとしても、甲3に記載された当該構成を甲2発明に採用して本件発明1の構成とすることに動機があるとはいえず、訂正後の請求項1に記載された発明は、当業者といえども甲第2号証と甲第3号証とに記載された発明から容易に想到し得たものとはいえない。
2 本件発明2ないし4
本件発明2ないし4は、本件発明1の構成をすべて含み、さらに限定を加えた発明である。
そうすると、本件発明2ないし4は、上記1において本件発明1について検討したのと同様の理由により、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断
1 甲1を主引用例とする新規性について(上記第4の1(1)ア(ア))
(1)本件発明1
ア 対比
上記第6の1(2)イにおいて検討したとおり、甲1には、「前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面」が「幅方向の全体において、前記背もたれ部側から前記浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる」ことが記載ないし示唆されているとはいえない。
よって、本件発明1と甲1に記載された発明とを対比すると、両者は、少なくとも、以下の相違点で相違する。
(相違点2)
前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面について、本件発明1は、「幅方向の全体において、前記背もたれ部側から前記浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる」のに対し、甲1に記載された発明は、そのような構成を備えない点。
イ 判断
上記相違点2は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。
ウ 申立人の主張
(ア)主張の概要
甲第1号証に添付された浴槽の平面図、および浴槽のA-A断面図(説明中に枠に囲まれた部分は、異議申立人が説明のために付与したもの)には、背もたれ部側のロ点が、アームレストの長手方向の中央部のハ点およびニ点よりも低い位置にあることが示されており、ロ点からハ点およびロ点からニ点に向けて、アームレストの上面が幅方向の全体において高くなっていることが、看取できる。
したがって、甲第1号証には、訂正後に請求項1に追記された「前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面は、幅が前記背もたれ部側から前記浴槽中央に向かって徐々に広くなっており、幅方向の全体において、前記背もたれ部側から前記浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる、浴槽。」に相当する構成が示されている。(意見書4頁13行~6頁14行)
[図:0001406705000017.jpg]
(イ)主張の検討
申立人は、甲1の平面図及びA-A断面図に参考として「アームレスト」等の説明を付しているが、甲1には「アームレスト」等について何ら記載がなく、平面図及びA-A断面図の申立人によって「アームレスト」と示された部分が、その形状等からみて「アームレスト」であることが技術常識であるということもできない。そうすると、甲1には「アームレスト」について記載も示唆もされておらず、当然、「アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面」が、「幅方向の全体において、背もたれ部側から浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる」ことが甲1に記載ないし示唆されているということもできない。
よって、申立人の主張は認められない。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。
(2)本件発明3、4
ア 対比
本件発明3、4は、いずれも、本件発明1の構成をすべて含み、さらに限定を加えた発明である。
よって、本件発明3、4と甲1に記載された発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記(1)アの相違点2で相違する。
イ 判断
上記相違点2は実質的な相違点であるから、本件発明3、4は、いずれも、甲1に記載された発明ではない。
ウ 小括
以上のとおりであるから、本件発明3、4は、甲1に記載された発明ではない。
2 甲1を主引用例とする進歩性について(上記第4の1(1)ア(イ))
(1)対比
本件発明2と甲1に記載された発明とを対比すると、両者は、少なくとも、上記相違点2(上記1(1)ア)において相違する。
(2)判断
上記相違点2は、上記相違点1と同様の点であり、上記第6の1(1)及び(2)において検討したとおり、「前記アームレストにおけるひじ掛けの面となる上面」が「幅方向の全体において、前記背もたれ部側から前記浴槽の長手方向の中央に向かって高くなり、途中から前記他方の背もたれ部に向かって低くなる」点は、申立人が提示した甲1ないし甲5のいずれの文献にも記載も示唆もされておらず、甲1に記載された発明において、本件発明2に係る上記相違点2の構成とすることは、当業者といえども容易になし得たことではない。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲1に記載された発明及び甲2~5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第8 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び申立人が申し立てた特許異議申立理由及び証拠によっては、本件発明1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700399